特許第6856529号(P6856529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856529
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】菜種皮及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/30 20160101AFI20210329BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20210329BHJP
【FI】
   A23K10/30
   A23K50/10
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-526265(P2017-526265)
(86)(22)【出願日】2016年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2016067511
(87)【国際公開番号】WO2017002594
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-133574(P2015-133574)
(32)【優先日】2015年7月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 三四郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 久
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 陽平
(72)【発明者】
【氏名】椹木 庸介
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3970917(JP,B2)
【文献】 特開平05−001296(JP,A)
【文献】 特開2012−116877(JP,A)
【文献】 特開2008−173828(JP,A)
【文献】 THAKOR, N. J., et.al,JAOCS,1995年,72(5),597-602
【文献】 KOZLOWSKA, Halina, et.al,Fat Sci. Technol.,1988年,90. No.6,216-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 − 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種を脱皮して得られる菜種皮であって、250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上であり、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む、前記菜種皮。
【請求項2】
請求項1に記載の菜種皮を含有する飼料。
【請求項3】
前記菜種皮を0.9〜22.5重量%含有する、請求項に記載の飼料。
【請求項4】
反芻動物向けである、請求項2又は3に記載の飼料。
【請求項5】
菜種を脱皮する工程、及び前記菜種を脱皮して得られ、粗蛋白を12〜16重量%、粗繊維を23〜36重量%、そして油分を0.1〜14重量%含む菜種皮を、250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する工程を含む菜種皮の製造方法。
【請求項6】
前記粒度の調整工程が、前記菜種を脱皮して得られる菜種皮を粉砕する工程を含む、請求項に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項7】
前記粒度の調整工程の後に、粒度調整された前記菜種皮を圧縮加工することを含む、請求項5又は6に記載の菜種皮の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法。
【請求項9】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の消化管内発酵調整方法。
【請求項10】
請求項1に記載の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の疾病予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の物性を有する菜種皮とその用途に関し、より詳細には消化機能を調節可能な前記菜種皮とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の消化管の機能を調節することは、病気を予防し、消化を改善し、その結果、畜産産物を効率的に生産するのに有効である。消化機能には、消化管内での摂食物の消化として発酵が大きく影響する。そのため、例えば微生物製剤の投与によって発酵を制御することがよく行われる。
【0003】
牛等の反芻動物は、通常の動物で利用できないような繊維質をエネルギー源とするためにルーメン(第一胃)のような反芻胃を発達させている。ルーメン内は、摂取した飼料、唾液、発酵産物等によって恒常性が保たれ、微生物が棲息するのに適した環境となっている。図1にルーメン発酵の経路を示す。飼料にはセルロース、ヘミセルロース、デンプン等の炭水化物が大量に含まれる。炭水化物は、ルーメン内の微生物の酵素によって、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸(揮発性脂肪酸ともいう)、乳酸、メタン、CO2、水素等に変換される。短鎖脂肪酸は、ルーメン壁より大部分が吸収されて動物の主要なエネルギー源となる。特に、プロピオン酸の生成を促すことが好ましい。
【0004】
ルーメン発酵経路の途中で生成する乳酸がプロピオン酸へ変換されないまま、ルーメン内に蓄積すると、反芻動物の生育に影響を及ぼす。非特許文献1によれば、ルーメンアシドーシスは、ルーメン内でLactobacillus、Streptococcus bovis等の乳酸産生菌が増殖して、乳酸がルーメン内に蓄積し、ルーメン液のpH(以下、「ルーメンpH」という)が5以下となる状態であり、食欲喪失、乳量激減、横臥、起立不能等の臨床症状を示す。ルーメンpHが5.8以下の状態を亜急性ルーメンアシドーシスといい、摂餌量の低下、下痢、ルーメン粘液の損傷、蹄葉炎、肝膿瘍等の疾病を招く。したがって、反芻動物のルーメン内の乳酸の蓄積を抑え、プロピオン酸の生成を促進する手法が望まれる。
【0005】
動物の飼育においては、限られた穀物資源をより有効に利用することも重要な課題である。例えば、反芻動物用飼料が反芻胃で発酵して得られる有機酸が、乳腺で乳脂肪が合成されるための原料となる。したがって、乳の生産量を高めるためには、飼料を特定の有機酸へ効率的に変換できることが望ましい。
【0006】
飼料の原料として菜種の副産物である菜種ミールが利用されている。菜種ミールを飼料原料として利用する場合、動物の成長に必要な蛋白源として配合するのが一般的である。消化管内での発酵の観点からの利用法は、考えられてこなかった。
【0007】
菜種の成分を有効に利用するために成分を分離する方法がいくつか提案されている。特許文献1では、菜種種子を粉砕し、胚芽を主成分とする区分を得る方法が開示されている。特許文献2では、油糧種子の特定組織を粉砕して分級した優れた食品素材が得られることが示されている。特許文献3では、エントレーター型の衝撃式粉砕機を使用した菜種の脱皮方法において、油の浸出しがない脱皮処理法が示されている。この方法によれば、得られた実の部分は流動性の良い飼料となると報告されている。特許文献4では、廻転する研削体によって菜種種子を研削して外皮と核実とに分離し外皮と核実とを別個に搾油することを特徴とする菜種種子の搾油方法が記載されている。この方法で研削された外皮は、粉状を呈し、水分13%及び油分15%を有する。特許文献5には、菜種種子を予め脱皮処理して、脱皮菜種種子及び菜種種皮に分離し、得られた菜種種皮を搾油処理にかけて種皮より油分を採取して脱脂菜種種皮を調製し、この脱脂菜種種皮を脱皮菜種種子に配合した後、圧搾することを特徴とする植物油の製造方法が記載されている。この方法によれば、高タンパク質の菜種粕や嗜好性の改善された菜種粕の製造が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−316472(菜種胚芽の分離方法及び菜種胚芽油脂)
【特許文献2】WO00/27222(油糧種子又は穀類の特定組織の分級法、及び微細粉化物)
【特許文献3】特開平5−1296(菜種の脱皮方法)
【特許文献4】特公昭33−6767(菜種子の搾油方法)
【特許文献5】特開2012−116877(植物油および植物粕の製造方法)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】三森真琴、「亜急性ルーメンアシドーシスにおけるルーメン微生物の動態」、日獣会誌、65、503−510、(2012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来技術は、技術的には不可能ではないものの、産業としては成り立たち難い。これは、脱皮によって得られる皮の部分が有効に利用できず、価値を持たないためである。すなわち、皮の部分を有効に利用することが課題となっていた。
【0011】
動物を飼育する際に、一般的に、エネルギーの高い飼料をより効率的に給与することが求められる。反芻動物のルーメンでは、飼料に含まれる繊維質が微生物によって代謝されて有機酸ができる。ルーメン微生物に脂質が付着すると、ある種の脂肪酸の毒性作用や、微生物の膜細胞の変化によって、微生物の代謝が阻害される、生育が抑制される等の問題が生じる。したがって、反芻動物への脂質投与は、反芻胃における有機酸の生成に良い影響を与えない。菜種ミールの場合でも同様であり、油分をほとんど含まない通常の菜種ミールに対して、油分を約13%含む圧搾菜種ミールをルーメン微生物に作用させた場合には発酵が抑制される。
【0012】
そこで、本発明の課題は、菜種皮を飼料原料として有効利用する技術を提供することにある。特に、本発明は、家畜動物の消化管内での発酵の観点から最適な利用を可能とする技術を提供することを目的とする。本発明は、さらに、高エネルギーかつルーメン内の微生物発酵を阻害しない飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、特定範囲の粒度分布を有する菜種皮によれば、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、菜種を脱皮して得られる菜種皮であって、粒度250〜1400μmが80重量%以上であることを特徴とする、前記菜種皮を提供する。本発明における粒度は、特に指定しない限り、篩の目開きを通過するか否かにて判断される。特許文献4は、菜種種子を研削することによって粉状を呈した外皮、すなわち、菜種皮を得ているものの、本発明で規定する粒度分布を記載していない。しかも、特許文献4に記載するような金剛砂製研削体で菜種種子を研削する方法は、後述するように、皮と実の分離が十分でなく、また菜種皮の油分が高くなり易いという欠点を有する。特許文献5は、脱脂菜種種皮を、脱皮菜種種子への配合に先立ち、粉砕処理してもよいと記載されていても、その粒度分布は記載されていない。脱脂菜種種皮は、脱皮菜種種子と混合されて圧搾処理にかけられるので、本発明のような飼料原料に添加して家畜に摂取させると、発酵物中で乳酸が減少し、そしてプロピオン酸が増加するという効果が得られない。また、特許文献5の脱皮菜種種子は脱脂が必須であり、本発明で脱脂しない場合の菜種皮が、脱脂菜種皮と比較しても発酵を抑制せず、有用な有機酸を生成するという効果が得られない。
【0014】
上記菜種皮は、油分を0.1〜14重量%含む菜種皮である。
【0015】
本発明は、また、上記菜種皮を含有する飼料を提供する。
【0016】
上記飼料は、前記菜種皮を通常、0.1〜100重量%でよく、好ましくは0.9〜22.5重量%含有する。
【0017】
上記飼料は、特に反芻動物用に好適である。
【0018】
本発明は、また、菜種を脱皮する工程、及び前記菜種を脱皮して得られる菜種皮を、250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合を80重量%以上に調整する工程を含む菜種皮の製造方法を提供する。
【0019】
上記粒度の調整工程は、例えば菜種を脱皮して得られる菜種皮を粉砕する工程である。
【0020】
本発明は、また、上記菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法を提供する。
【0021】
本発明は、また、上記菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の消化管内発酵調整方法を提供する。
【0022】
本発明は、また、上記菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の疾病予防方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
従来の菜種皮は、表5に示すように、約1500μm以上の粒度が大部分を占める。本発明の粒度250〜1400μmの粒子の割合が80重量%以上である菜種皮を飼料原料に添加して家畜に摂取させると、発酵物中で乳酸が減少し、そしてプロピオン酸が増加する。よって、本発明で規定する粒度分布を有する菜種皮は、乳酸の合成の抑制及びルーメンアシドーシスの抑制に有効である。
【0024】
本発明の菜種皮は、乳酸及びルーメンアシドーシスを抑制することから、本発明の菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することで、家畜の育成速度の改善、家畜の消化管内発酵の調整、及び家畜の疾病予防が可能となる。特に、高い油分を有する菜種皮の使用は、家畜の育成速度をより改善する。
【0025】
反芻動物に高い油分の飼料を給与すると微生物の代謝が阻害されることから、従来は、油分の高い菜種皮を飼料原料として使用できなかった。本発明者等は、菜種皮が約13重量%の油分を含有しても、脱脂した菜種皮と比較して発酵が抑制されず、有用な有機酸が生成されることを見出した。本発明の高油分の菜種皮を利用すれば、高エネルギーにもかかわらず反芻胃内の微生物発酵を阻害しない飼料用原料を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】反芻動物のルーメン発酵の経路図を示す。
図2】菜種皮の粒度分布と発酵との関係を、試料の添加率を0.1〜2.5重量%まで変動させた培養液の全有機酸発生量を比較した図である。
図3図2の培養液の乳酸発生量を比較した図である。実施例1の菜種皮は0.5重量%の添加率で乳酸減少に寄与する。実施例1の菜種皮発明品と、比較例1の菜種皮従来品との比較では、菜種皮発明品(実施例1)の方が、全有機酸発生量が同等ないしは上昇傾向にある中、乳酸が減少した。すなわち、所定粒度分布を有する本発明の菜種皮は、乳脂の合成及びルーメンアシドーシスの抑制に有効である。
図4図2の培養液のプロピオン酸発生量を比較した図である。実施例1の菜種皮発明品は0.5重量%の添加率でプロピオン酸増大に寄与した。実施例1と比較例1との比較では、実施例1の方が、プロピオン酸が増大した。すなわち、所定粒度分布を有する本発明の菜種皮は、プロピオン酸の合成及びそのエネルギー源としての利用促進に有効である。
図5図2の培養液の酢酸発生量を比較した図である。実施例1の菜種皮発明品は、0.5重量%の添加率で酢酸増大に寄与した。所定粒度分布を有する本発明の菜種皮は、酢酸の合成及びそのエネルギー源としての利用促進に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施態様を具体的に説明する。本発明の菜種皮は、菜種種子を剥皮した際に得られる皮部分を意味する。従来、菜種皮を含む工業製品として、菜種ミールが知られている。菜種ミールとは、菜種種子を圧搾及び/又は溶剤抽出により搾油した後に残る菜種粕をいう。菜種皮と菜種ミールとは、製法が異なる。その製法の相違は、組成にも現れる。菜種種子を剥皮して得られる菜種皮、及びそれを脱脂した菜種皮、並びに、菜種種子を圧搾した後に残る圧搾菜種ミール、及び菜種種子を圧搾及び溶媒抽出した後に残る菜種ミールの組成(含水基準)の一例を、表1に示す。
【0028】
【表1】

菜種皮:菜種種子を圧扁機により剥皮し、風選機で皮部分を分離したもの
脱脂済の菜種皮:上記菜種皮をソックスレー抽出器内でジエチルエーテルを用いて脱脂したもの
圧搾菜種ミール:菜種種子を圧搾機により搾油した後の菜種粕
菜種ミール:株式会社J-オイルミルズ製菜種ミール
CP:粗蛋白
NSI:水溶性窒素指数(Nitorogen solubility index)
NDICP:中性デタージェント不溶蛋白質
ADFom:酸性デタージェント繊維
NDFom:中性デタージェント繊維
【0029】
表1から、菜種ミールは、菜種皮に比べて、粗蛋白含量が高く、粗繊維、ADFom、及びNDFom含量が低いことがわかる。
【0030】
菜種皮又は菜種ミールを飼料原料として動物に供与したときに、製法及びそれに基づく組成の違いが、動物による資化にどのような影響を与えるかを調べた。具体的には、表1に示す4種類の試料をウシルーメン液内で培養する実験を行った。培養試験では、まず、ルーメンフィステルを装着したF1ウシからルーメン液を採取した。このルーメン液500mLを濾過した濾液をMcDougall’s Bufferで2倍希釈した。前記希釈液25mLを予め試験試料が入れてある50mL容バイアル瓶に投入した。各試料はルーメン液に対して添加量が1.0重量%になるように添加された。1.0重量%という添加量は、牛の体重及び摂食量から換算し、配合飼料中に9重量%を含有する量に相当する。
【0031】
これらの培養液に対して1重量%のデンプンを発酵基質として全てのバイアル瓶に添加し、バイアル瓶中の気相を窒素ガスで置換し、ブチルゴム栓とアルミシールで密栓した。得られた混合液を、37℃で24時間、静置培養した。培養24時間後、前記バイアル瓶に6mol/L塩酸をlmL加えて、発酵を停止させた。
【0032】
上記バイアル瓶に注射針付きガラスシリンジを刺し、常圧になるまでガスを吸入した。このシリンジの目盛りを読むことにより、発酵により生成するガスの量を測定した。また、発酵ガスの組成(水素、メタン及び二酸化炭素)を、TCDガスクロマトグラフィーで測定した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2から、全試料でガスの発生が見られたことは、いずれの飼料原料もウシルーメン液内で発酵が進み、ルーメン内で資化されていることがわかる。
【0035】
培養24時間後の前記培養液中の細菌構成をtRFLPで解析したところ、圧搾菜種ミールと菜種ミールとの間には、類似した細菌叢の構成が見られた。菜種皮と脱脂済の菜種皮との間にも、類似した細菌叢の構成が見られた。しかし、圧搾菜種ミール/菜種ミール群と、菜種皮/脱脂済の菜種皮群との間では、細菌叢の構成が異なった。これから、菜種皮と菜種ミールとは、製法及び組成の違いに基づいて、ウシルーメン液内の発酵プロファイルを変更することがわかる。
【0036】
前記培養液を蒸留水で3倍希釈後、1/10量の過塩素酸(14%)を加え、フィルター(孔径0.45μm)で濾過した。濾液をイオン排除液体クロマトグラフィーで、有機酸(乳酸、プロピオン酸、酢酸及びn−酪酸、コハク酸、ギ酸、iso−酪酸、n−吉草酸、iso−吉草酸)の濃度を測定した。全有機酸、乳酸、プロピオン酸、及び酢酸の測定値を、それぞれ、Blank(試料未添加)の値を100としたときの相対値に換算した結果を、表3に示す。
【0037】
前記培養液中の残存試料をフィルターバッグ(ANKOM社、F57)に回収し、繊維分析装置(ANKOM社製、製品名:A−200 ファイバーアナライザー)を用いて培養後の粗繊維含量を測定した。粗繊維消化率を、以下の式:
【数1】
にて算出した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

脱脂の有無による全発生量の増減:脱脂済の菜種皮又は菜種ミールを100%としたときの菜種皮又は圧搾菜種ミールの相対値
脱脂の有無による乳酸の増減:脱脂済の菜種皮又は菜種ミールを100%としたときの菜種皮又は圧搾菜種ミールの相対値
脱脂の有無によるプロピオン酸の増減:脱脂済の菜種皮又は菜種ミールを100%としたときの菜種皮又は圧搾菜種ミールの相対値
【0039】
表3から、菜種皮又は菜種ミールをウシルーメン液内で培養すると、培養液中の全有機酸が増加することがわかる。全有機酸発生量を圧搾菜種ミールと菜種ミールとの間で比較すると、圧搾菜種ミールは、菜種ミールの発生量よりも11%減少する。すなわち、菜種ミールは、油分が高いと、有機酸の発生を抑制する。一方、全有機酸発生量を菜種皮と脱脂済の菜種皮との間で比較すると、発生量は同じであった。すなわち、菜種皮は、油分が高くても、有機酸の産生を阻害しない。
【0040】
各有機酸の動向を見ると、圧搾菜種ミールは、菜種ミールと比べて、全有機酸の減少に基づいて、乳酸、プロピオン酸、及び酢酸の発生量も一様に減少させる。一方、脱脂済の菜種皮は、菜種皮と比べて、乳酸の割合が高い。
【0041】
ルーメンでの粗繊維の消化率を圧搾菜種ミールと菜種ミールとの間で比較すると、圧搾菜種ミールは、菜種ミールの消化率よりも41%低下する。すなわち、菜種ミールは、油分が高いと、粗繊維の消化を抑制する。一方、粗繊維の消化率を菜種皮と脱脂済の菜種皮との間で比較すると、菜種皮は、脱脂済の菜種皮よりも18%上昇する。すなわち、菜種皮は、油分が高くても、粗繊維の消化を阻害しないだけではなく、消化の促進に役立つ。
【0042】
一般的に、飼料中に油分が多く含まれると、ルーメン微生物に悪影響を与え、繊維消化率を低下させることが知られている。そのため、油分を多く給与する場合は、脂肪酸カルシウムや水素添加脂肪酸の様にルーメンで不溶性の脂肪酸に加工して供与する。菜種皮は、油分が高くても、有機酸の発生に障害とならず、粗繊維の消化については好影響をもたらす。菜種皮は、高油分、すなわち、高エネルギー状態での投与が可能である点でも、菜種ミールより優れるといえる。
【0043】
以上のとおり、菜種皮及び菜種ミールを飼料原料として動物に与えると、いずれも資化に寄与する。菜種皮は、油分が高くても、飼料原料に使用可能であるという特徴を有する。本発明者等は、菜種皮の飼料原料としての価値を発見した。本発明者等は、以下に示す粒度の調整によって菜種皮の利用価値を向上できることも発見した。すなわち、本発明の菜種皮は、従来の菜種皮と相違して、粒度250〜1400μmの割合が80重量%以上であることを必須とする。このように調整された菜種皮は、動物のルーメン発酵において、乳酸の低減とプロピオン酸の増大という顕著な効果を奏する。粒度250〜1400μmが80重量%未満の場合、十分な効果は得られない。
【0044】
菜種皮を粉砕することによって粒度調整して得た本発明の菜種皮の組成は、粒度調整されていない菜種皮と変わらない。本発明の菜種皮の組成(含水基準)を、表4に示す。本発明の菜種皮の粗蛋白は、通常、12〜16重量%であり、好ましくは12.4〜15.3重量%である。未脱脂の菜種皮の粗蛋白は、通常、12〜14重量%であり、好ましくは12.4〜13.6重量%である。脱脂した菜種皮の粗蛋白は、通常、13〜16重量%であり、好ましくは13.8〜15.3重量%である。本発明の菜種皮の粗繊維は、通常、23〜36重量%であり、好ましくは23.6〜36.0重量%である。未脱脂の菜種皮の粗繊維は、通常、23〜33重量%であり、好ましくは23.6〜32.4重量%である。脱脂した菜種皮の粗繊維は、通常、25〜36重量%であり、好ましくは26.2〜36.0重量%である。
【0045】
【表4】

CP:粗蛋白
【0046】
本発明に従う菜種皮は、例えば以下の工程:
(1)菜種を脱皮する、及び
(2)工程(1)で得られた剥皮品を、粒度分布を粒度250〜1400μmが80重量%以上になるように調整する
を含む製法により得ることができる。
【0047】
菜種は、通常、1〜3mmの粒径を有し、油糧種子の周りが皮で覆われている。工程(1)で菜種を剥皮する方法は、油分が実の方にできるだけ移行し、かつ、微細に粉砕し過ぎないようにする以外は、特に制限されない。微粉砕すると、本発明の範囲に入る菜種皮の収量が減る、実と皮との分離が困難になる等の問題を有する。そのような脱皮方法に適した装置には、エントレーター型粉砕機、フレーキングローラー(圧扁機)、遠心粉砕機、ローターミル、カッティングミル、ハンマーミル、ボールミル、ピンミル等が挙げられる。ロータリーカーンのような挽臼装置は、実と皮が磨り潰されて細かくなり過ぎ、本発明が要求する粒度分布を得ることができない。また、特公昭33−6767に記載するような金剛砂製竪型又は横型の研削体(例えば製穀機の研削体)は、菜種種子を研削することになるため、皮と実の分離が十分でなく、また菜種皮の油分が高くなり易い。
【0048】
剥離した菜種皮は、実と皮との混合物の状態にある。実と皮との分離は、通常、風選、比重分離、篩分け等の方法で行なうことができる。
【0049】
剥離した菜種皮は、通常、約9〜14重量%の油分を含有する。剥離した菜種皮を、適宜、脱脂してもよい。脱脂方法は、常法に基づく。脱脂後の油分は、通常、0.1〜4.0重量%である。
【0050】
菜種から剥離された菜種皮は、通常、1500μm以上の粒度が大部分を占める。工程(2)では、剥皮品の粒度分布を、粒度250〜1400μmの割合が80重量%以上、好ましくは90%以上となるように調整する。
【0051】
粒度分布の調整方法は、特に制限されないが、通常、粉砕する。粉砕に適した粉砕装置の例には、遠心粉砕機、ローターミル、カッティングミル、ハンマーミル、ボールミル、ピンミル等が挙げられる。ここでいう粉砕品とは、例えば篩目開き850μm上で50重量%以下、及び/又は篩目開き710μm上で60重量%以下であるものをいう。
【0052】
菜種皮を粉砕する際に、適宜、スクリーンを使用してもよい。例えば遠心粉砕機の後段に開口径1mmのスクリーンを装着した場合、スクリーンを通った菜種皮の粒度は、スクリーン無しの場合よりも細かくなる。
【0053】
粒度250〜1400μmの割合が80重量%以上となるように調整された本発明の菜種皮は、圧力を掛けて押し潰す、ペレタイザー、ペレッター、ペレットミル、エクストルーダー、エキスパンダー、エキスペラー等によって押し出す等により圧縮加工することができる。圧縮品の大きさは、通常、押し出す方向に対して垂直方向の直径又は幅が2〜6mmでよい。一旦、粉砕された菜種皮を再圧縮したものは、それを含む飼料を動物に供与するときに、容易に咀嚼されるため、本発明の菜種皮と同様に利用可能である。圧縮後の形態は、例えばペレット状、ブリケット状や粉状である。ペレット状や粉状が、飼料への混入し易さ、ハンドリング、貯蔵等の点で好ましい。
【0054】
本発明は、また、本発明の菜種皮を含有する飼料、及び、菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法を提供する。本発明の菜種皮の含有量は、適用動物、日齢等に応じて適宜変更される。その配合量は、通常、0.1〜100重量%でよく、好ましくは0.9〜22.5重量%、さらに好ましくは4.5〜22.5重量%、特に好ましくは7.0〜16.0重量%である。本発明の菜種皮の飼料への配合量が4.5重量%以上であると、乳酸発生量を抑えながらプロピオン酸発生量を高める点で総合的に優れた飼料が得られる。
【0055】
本発明の飼料に含有される飼料原料は、本発明の菜種皮以外に、米、玄米、ライ麦、小麦、大麦、トウモロコシ、マイロ、大豆等の穀類;大豆粕、脱皮大豆粕、大豆蛋白濃縮物、分離大豆蛋白、大豆蛋白分離副産物、菜種粕、綿実粕、ルピナス種粕、コーン蒸留粕、コーングルテンミール、コーングルテンフィード、アルファルファ粉、ポテトプロテイン、ヒヨコマメ、エンドウマメ、インゲンマメ、レンズマメ、ブラックビーン、等の植物性蛋白源;肉骨粉、血粉、フェザーミール、ポークミール、チキンミール、脱脂粉乳等の動物性蛋白源;植物性油脂、動物性油脂、粉末精製牛脂、肝油等の油脂類;リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、イソロイシン等のアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、葉酸、ビタミンC、ビオチン、コリン等のビタミン類又はビタミン用作用物質;亜鉛、カルシウム、セレン、鉄、リン等のミネラル類;硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム、硫酸コバルト、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化コリン等の無機塩類;並びに色素が挙げられる。
【0056】
飼料には、飼料の品質の低下防止、栄養成分の有効利用の促進等に用いられる汎用の飼料添加物を本発明の効果を阻害しない範囲で使用してもよい。そのような例には、抗酸化剤、防カビ剤、粘結剤、乳化剤、pH調整剤、抗菌剤、呈味料、着香料、酵素、生菌剤、有機酸等が挙げられる。
【0057】
本発明の飼料の適用対象は、特に制限されず、家畜や愛玩動物を含む。家畜の例には、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウサギ、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、アイガモ、キジ、魚類等が挙げられる。
【0058】
本発明の飼料は、ルーメン発酵において乳酸を抑え、プロピオン酸を増大させる点で、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物に特に有用である。
【0059】
本発明の菜種皮は、乳酸の合成及びルーメンアシドーシスを抑制することから、本発明の菜種皮を飼料に混ぜて家畜に投与することで、家畜の育成速度の改善、家畜の消化管内発酵の調整、及び家畜の疾病予防が可能となる。本発明は、また、本発明の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の育成方法、本発明の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の消化管内発酵調整方法、及び本発明の菜種皮を飼料原料に混ぜて家畜に投与することを含む、家畜の疾病予防方法もまた、提供可能である。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。菜種皮のウシ飼料への応用を検討するために、ウシルーメン液を用いたインビトロ培養試験を実施した。
【0061】
1.試料の調製
菜種種子を、以下に示す工程(1)、又は工程(1)及び(2)にかけて、2種類の菜種皮を調製した。
【0062】
工程(1):剥皮工程
菜種1,500kgを圧扁機により剥皮し、風選機(製品名:風力選別機 MMODEL3300、株式会社安西製作所製)を用いて、実と皮とに分離した。得られた菜種皮を、ジエチルエーテルを溶剤としてソックスレー法にて5時間、処理することにより脱脂した。工程(1)で得た菜種皮を、「菜種皮従来品」という。菜種皮従来品の組成は、表1に脱脂済の菜種皮として示されている。
【0063】
工程(2):粒度調整
工程(1)で得られた菜種皮従来品10gを、超遠心粉砕機(製品名:ZM1、Retsch製)を用いて、10,000rpm×10秒間の運転条件にて粉砕した。粉砕された菜種皮9.84gを得た。工程(2)を経た菜種皮を、「菜種皮発明品」という。なお、菜種皮発明品の組成は、表1の脱脂済の菜種皮と同様である。
【0064】
菜種皮従来品及び菜種皮発明品の粒度分布を、表5に示す。
【表5】
【0065】
2.培養実験
菜種皮の粒度分布の違いによって、発酵時の発生有機酸及びその量が異なるか否かを調査した。具体的には、菜種皮従来品(比較例1)及び菜種皮発明品(実施例1)のウシルーメン液内培養実験を行なった。
【0066】
培養実験には、体重約400kgのF1ウシのルーメン液を用いた。コンクリート敷き牛房に収容したウシに、市販飼料(製品名:そよ風の薫り、日本配合飼料株式会社製)とイタリアンライグラスとを粗濃比1:1にて混合した飼料を、1日当たり2kg/頭、給餌した。なお、ウシには、試験前3週間及び試験中、抗菌剤等の投与を行わなかった。朝の給餌時に、ルーメンフィステルを装着したウシから、ルーメン液を約500mL採取した。
【0067】
上記ルーメン液に菜種皮従来品又は菜種皮発明品を0%、0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、又は2.5重量%になるように20mL容バイアル瓶に入れた。バイアル瓶に先の試験同様の2倍希釈ルーメン液5mLを加え、ルーメン液に対して1重量%のデンプンを発酵基質として全てのバイアル瓶に添加した。気相を窒素ガスで置換し、ブチルゴム栓とアルミシールを用いて密栓した。得られた混合液を、37℃で24時間、静置培養した。1実験区につき、培養を2反復で行った。なお、上記ルーメン液に対して0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、又は2.5重量%の添加量は、牛の体重及び摂食量から換算し、配合飼料中にはそれぞれ0.9重量%、4.5重量%、9.0重量%、又は22.5重量%を含有する量に相当する。
【0068】
乳酸、プロピオン酸、酢酸、n−酪酸、iso−酪酸、コハク酸、ギ酸、n−吉草酸、及びiso−吉草酸の濃度を測定し、その合計量を全有機酸とした。Blank(添加率0%)の値を100としたときの相対値を求めた。試験試料1重量%時の全有機酸、並びにルーメンにおける有機酸発酵産物として重要な乳酸、プロピオン酸、酢酸、及び、n-酪酸等のその他有機酸の測定結果を、表6に示す。
【0069】
【表6】
【0070】
表6で、菜種皮従来品(比較例1)及び菜種皮発明品(実施例1)の全有機酸発生量はほとんど同じである。しかし、乳酸とプロピオン酸の発生量が逆転していることから、両者の発酵パターンは明らかに異なる。菜種皮発明品では、家畜にとって好ましくない乳酸の発生が抑えられ、好ましいプロピオン酸の発生が増大する。また、家畜にとって好ましい酢酸の発生量も、菜種皮発明品の方が菜種皮従来品よりも高い。また、菜種皮発明品は、n-酪酸等のその他の有機酸の増大にも寄与する。したがって、本発明の菜種皮は、飼料原料として優れるといえる。
【0071】
試料添加率を変えた試験結果を、図2〜5に示す。実施例1の菜種皮発明品は、0.5重量%以上の添加率で乳酸減少と、プロピオン酸及び酢酸の増大に寄与する。
【0072】
以上のことから、本発明の250〜1400μmの粒度を有する粒子の割合が80重量%以上に調整された菜種皮は、乳酸の発生を抑え、プロピオン酸、酢酸の発生量を増大させる点で、飼料の有効利用に優れるといえる。
図1
図2
図3
図4
図5