(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象物を透過する第1の中性子の少なくとも一部を透過する複数のスペーサと、前記対象物により散乱された第2の中性子の少なくとも一部を吸収する複数の吸収体と、を有し、前記スペーサおよび前記吸収体が第1の方向に沿って交互に配列され且つ前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って延在するグリッド部と、
前記第1の方向および前記第2の方向と交差する第3の方向に沿って前記グリッド部を挟持し且つ前記第1の中性子の少なくとも一部および前記第2の中性子の少なくとも一部を透過する一対のカバー材と、
を具備し、
前記スペーサは、Si、Al2O3、AlN、SiC、およびY2O3からなる群より選ばれる少なくとも1つと、Wと、を含み、
前記吸収体は、Taを含み、または、B、Gd、Sm、Li、Cd、Gd2O3、および10B4Cからなる群より選ばれる少なくとも1つと、Taと、を含み、
カバー材は、Alを含み、または、W、Pb、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1つと、Alと、を含み、
前記スペーサと前記吸収体との間の熱膨張係数差は±9×10−6/℃以内である、または前記スペーサのヤング率は100GPa以上である、中性子グリッド。
【背景技術】
【0002】
X線やガンマ線等の放射線が物質を透過する際、当該物質の種類や形状によって吸収や散乱が異なってくる。この吸収や散乱の違いを、例えば写真やビデオ、デジタルファイル等として記録すれば、物質の破損状態、変化、充填状態等を把握することができる。X線の吸収や散乱を測定することは、一般にX線ではレントゲン写真として人体の内部の状態を診察する方法として用いられている。測定したい物体あるいは試料を破壊せずに内部の状態を測定するこの方法はラジオグラフィまたは非破壊放射線撮影法と呼ばれている。
【0003】
X線を用いた医療撮影では、X線発生源の焦点から一次X線が放射状に放射され、被検体に照射される。一次X線の一部は被検体で吸収され、残部は角度を変えずにそのまま減衰して被検体を透過し、受像体で記録される。一方、上記一次X線は、上記被検体に照射されるとその物質に依存して吸収の他に散乱し、散乱線である二次X線、三次X線等が一次X線と角度を変えて受像体に向かう。
【0004】
この状態で上記被検体の透過画像を得ようとする場合、上記一次X線に加えて、二次X線および三次X線等も上記受像体で記録される。従って、上記一次X線により得られる透過画像に対して、上記二次X線および三次X線等の散乱X線により得られる透過画像が重なってしまうために、鮮明な透過画像を得ることができない。
【0005】
このような観点から、通常は上記被検体と上記受像体との間にグリッド(格子)を配置し、上記二次X線および三次X線等の散乱X線を除去して鮮明な透過画像を得るようにしている。
【0006】
上記グリッド部は、上記一次X線の照射方向と略平行な方向において、X線吸収率が低いスペーサ部とX線吸収率が高い吸収箔とが配列され、上記照射方向と略垂直な方向において積層されてなる。上記スペーサには、例えば繊維や樹脂、木片、アルミニウム(Al)が用いられ、上記箔には鉛箔など重い元素を含む箔が用いられている。結果として、上記一次X線と角度の異なる二次X線および三次X線等の散乱X線はグリッドの鉛箔にて吸収されて除去される。
【0007】
上記グリッドは、X線源の焦点からの受像体までの距離に合わせてグリッドの角度を一次X線の角度と合わせた集束グリッド、上記一次X線が平行に照射されることを想定した平行グリッド、および中心の鉛箔と外側の鉛箔の高さが異なるテーパ付きグリッドなどがある。このようなグリッドは、JIS Z 4910:2015ガイドとして規格の説明がある。
【0008】
X線と同様に中性子を用いて被検体の透過画像を得る方法も知られている。このような方法は、中性子ラジオグラフィあるいは中性子イメージングなどと呼ばれ、従来のX線またはガンマ線によるラジオグラフィでは撮影がほとんど不可能であった金属中に水素や水素原子を含む水、樹脂、油、アルコールなどを含む燃料電池およびエンジン、水素貯蔵の分野において盛んに用いられるようになってきている。これは、中性子が、質量がほぼ等しい水素等との散乱反応が顕著であり、水素を含む水、プラスチックなどに感度が高いことに起因している。また、ガドリニウム(Gd)、カドミウム(Cd)、あるいはボロン(B)など特定の中性子吸収材料の画像化にも適している。
【0009】
しかしながら、上述のように中性子を用いて被検体の透過画像を得る場合にも、X線の場合と同様に中性子の散乱が生じ、散乱した中性子による画像が上記透過画像に重なり、鮮明な透過画像を得ることができないという問題がある。ただし、X線と異なり中性子の場合には、中性子のエネルギーによって被検体の構成元素との反応が異なり、二次的に生成される中性子(散乱中性子)も異なるようになる。
【0010】
中性子発生源として原子炉を用いる中性子ラジオグラフィでは、使用される中性子は熱中性子(サーマルニュートロン)が主成分となり、そのエネルギー分布は0.025eV以下が主成分となる。しかしながら、上記原子炉の場合でも、上記熱中性子(TN)よりもエネルギーの高い熱外中性子(EN)や高速中性子(FN)の成分が微量に含まれる場合がある。また、中性子発生源として加速器を用いた場合は、より高いエネルギーにまで幅広く中性子が分布している。
【0011】
上述した高速中性子は、水素と反応して熱中性子に変換される。従って、中性子を用いて被検体の透過画像を得ようとする場合には、X線を用いる場合と異なり、上記被検体から新たに熱中性子が生成され、この熱中性子によって形成される画像が本来の熱中性子によって得ようとする透過画像に重なって鮮明な透過画像が得られない原因となっている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(中性子グリッド)
<中性子グリッドの構成>
図1は、中性子ラジオグラフィ測定系の構成例を示す模式図である。
図1は、中性子イメージインテンシファイア(中性子I.I.)を用いた受像体と、原子炉を用いた中性子発生源と、を用いる例を図示する。
図2は、測定系を用いて被検体等の対象物の透過画像を得る方法を説明するための模式図である。
図3および
図4は、測定系に用いられる中性子グリッドの構造例を示す断面模式図である。
【0017】
図1に示す測定系10は、原子炉からなる中性子発生源11と、中性子発生源11の中性子出射側に配置されたモデレータ12と、コリメータ13と、を具備する。また、
図1は、コリメータ13の中性子出射側に配置された被検体14と、被検体14を挟んでコリメータ13等に対向する中性子グリッド15および受像体(中性子I.I.)16と、をさらに図示する。
図1では、モデレータ12からの中性子出射幅がDとして定義され、コリメータ13の長さがLとして定義されている。
【0018】
中性子グリッド15は、
図3に示すように、複数のスペーサ151と複数の中性子吸収体152とを有するグリッド部と、カバー材153と、カバー材154と、を具備する。
【0019】
スペーサ151は、被検体14等の対象物を透過する第1の中性子の少なくとも一部を透過することができる。中性子吸収体152は、上記対象物により散乱された第2の中性子の少なくとも一部を吸収することができる。
【0020】
スペーサ151および中性子吸収体152は、例えば第1の方向に沿って交互に配列されている。
図1および
図2から明らかなように、複数のスペーサ151および複数の中性子吸収体152の配列方向(第1の方向)は、中性子発生源11等の線源からの中性子(第1の中性子)の少なくとも一部の照射方向(入射方向)と略垂直である。また、スペーサ151および中性子吸収体152は、例えば第1の方向と交差する第2の方向に沿って延在する。第2の方向は第1の方向と垂直に交差してもよい。さらに、スペーサ151および中性子吸収体152の少なくとも一つは、カバー材153からカバー材154に向かって互いの間隔が広がるように延在する(集束型)。これに限定されず、スペーサ151および中性子吸収体152の少なくとも一つは、
図4に示すように、カバー材153からカバー材154に向かって上記照射方向と略平行に延在してもよい(平行型)。
図3において、第1の方向におけるスペーサ151の幅はdとして定義され、第1の方向における中性子吸収体152の幅はDとして定義され、カバー材153とカバー材154との間隔(グリッド部の厚さ)はhとして定義され、中性子グリッド15の中心軸はI−Iとして定義されている。
【0021】
実施形態の中性子グリッドは、中性子、特に熱中性子を用いて被検体の透過画像を得る際、上記被検体と受像体との間に、その構成要素であるスペーサおよび中性子吸収体が上記中性子の照射方向と略平行に延在するように配置される。この場合、上記スペーサと上記中性子吸収体との配列方向は、上記中性子の照射方向と略垂直である。
【0022】
“略平行”および“略垂直”の用語は、中性子が点線源Oから照射される場合を考慮して定義される。すなわち、点線源Oから照射される中性子は被検体14に放射状に照射され、中性子グリッド15に放射状に入射する。この場合、被検体14の中心部を透過する中性子は中性子グリッド15に対してほぼ垂直に入射するが、被検体14の端部を透過する中性子は中性子グリッド15に対して所定の角度で入射する。
【0023】
中性子グリッド15に対して所定の角度で入射する中性子を考慮する場合、複数のスペーサ151および複数の中性子吸収体152の配列方向は、上記中性子の照射方向と必ずしも垂直とはならず、各スペーサおよび各中性子吸収体も、上記中性子の照射方向と必ずしも平行には延在しないので、このような場合も“略平行”および“略垂直”に含まれる。
【0024】
中性子吸収体152の熱中性子質量減衰係数は、スペーサ151の熱中性子質量減衰係数の100倍以上に大きい。これにより、中性子は、スペーサ151を透過するが、中性子吸収体152を透過せずに中性子吸収体152に吸収されやすくなる。
【0025】
スペーサ151および中性子吸収体152の配置条件と物理条件とを満足することによって、中性子グリッド15は上記中性子に対して散乱する中性子(第2の中性子)を除去するためのグリッドとしての機能を奏することができる。
【0026】
一対のカバー材であるカバー材153およびカバー材154は、例えば第1の方向および第2の方向と垂直に交差する第3の方向に沿って複数のスペーサ151および複数の中性子吸収体152を挟持する。第3の方向は、第1の方向および第2の方向に垂直に交差してもよい。すなわち、カバー材153およびカバー材154は、中性子の照射方向に重畳する。
【0027】
中性子発生源(原子炉)11で発生した高速中性子はモデレータ12によって熱中性子に変換され、コリメータ13によって一部が引き出されて被検体14に照射され、被検体14を透過した後、中性子グリッド15を通して受像体(中性子イメージインテンシファイア(I.I.))16にてイメージ画像として記録される。結果として、被検体14の透過画像を受像体(中性子I.I.)16で得ることができる。
【0028】
中性子発生源11がコリメータ13の存在等によって点線源Oを構成する場合、
図2に示すように、点線源Oから照射された熱中性子n1(第1の中性子)は、放射状に広がって被検体14に至る。その後、熱中性子n1の大部分は被検体14を透過し、中性子グリッド15を経て受像体16に至る。これは、上述のように、中性子グリッド15を構成するスペーサ151および中性子吸収体152は、熱中性子n1の照射方向と略平行となるように延在する一方、その配列方向は上記照射方向と略垂直となっており、熱中性子n1の一部は中性子吸収体152で吸収されるものの、残部の多くはスペーサ151を透過することに起因する。
【0029】
熱中性子n1の一部は、被検体14の表面および内部で散乱し、第2の中性子である散乱熱中性子nsとなる。この散乱熱中性子nsは、
図2からも明らかなように、本来の熱中性子n1の照射方向と異なる方向にランダムに散乱する。従って、散乱熱中性子nsの、中性子グリッド15への入射角度は、中性子グリッド15を構成するスペーサ151および中性子吸収体152の延在方向とは略平行とはならず、また、その配列方向に対しても略垂直とはならない。よって、散乱熱中性子nsは、スペーサ151を透過することなく、中性子吸収体152に斜めに入射し、吸収されることになる。結果として、受像体16では、本来の熱中性子n1による透過画像のみを得ることができ、散乱熱中性子nsによる画像が上記透過画像に重なることを防止することができる。結果として、受像体16において被検体14の鮮明な透過画像を得ることができる。
【0030】
散乱熱中性子nsは、熱中性子n1が被検体14に照射された場合のみならず、コリメータ13等の対象物中で熱中性子n1が散乱して形成される場合もある。しかしながら、このようにして形成された散乱熱中性子nsも上述した原理に基づいて、中性子グリッド15によって吸収除去され、目的とする透過画像に対してノイズとなるような画像を形成することはない。
【0031】
中性子発生源11で発生した中性子は、モデレータ12によって全て熱中性子に変換されるわけではなく、一部は熱外中性子や高速中性子となる。しかしながら、このような中性子も、上述した原理に基づいて、中性子グリッド15によって吸収除去され、目的とする透過画像に対してノイズとなるような画像を形成することはない。
【0032】
中性子発生源から発生した熱中性子よりもエネルギーの高いエピサーマルニュートロンやファーストニュートロン(高速中性子)の成分が水素等と反応して熱中性子に変換された場合においても、この副次的に発生した熱中性子は、上記中性子の照射方向とは異なる方向にランダムに散乱し、上記中性子グリッドの上記中性子吸収体に所定の角度で入射して吸収されるようになる。従って、このように副次的に生成された熱中性子による画像が上記透過画像に重なることがない。
【0033】
以上のように中性子発生源から照射された本来的な中性子、すなわち熱中性子は、上記中性子グリッドの上記スペーサおよび中性子吸収体が上記中性子の照射方向と略平行に延在するようにして配置していることから、上記中性子グリッドの上記中性子吸収体で一部吸収されるものの、完全に吸収されることなく、目的とする上記被検体の透過画像を得ることができる。
【0034】
<中性子グリッドの構成材料>
次に、中性子グリッド15を構成する材料について述べる。
図5は、横軸を元素の原子番号、縦軸に熱中性子質量減衰係数を示している。参考のために100kVのX線での吸収係数を実線にて図中に示している。
【0035】
図5を参照すると、Li、B、Cd、In、Sm、Gdにおいて、高い熱中性子質量減衰係数を示すことが分かる。一方、Al、Si、Sn、W、Au、Pb、Biにおいて、低い熱中性子質量減衰係数を示すことが分かる。
【0036】
スペーサ151の第1の熱中性子質量減衰係数に対して100倍以上の大きさの第2の熱中性子質量減衰係数を有する中性子吸収体152を有する場合であっても、スペーサ151は、1枚当たりの厚さが1.0mm以下と薄いため反りや変形が生じ易く、複数配列されたとしても、この反りや変形により熱中性子の透過方向のバラツキが生じてしまい、一定の透過を得ることが難しく、鮮明な透過画像が得られにくい。よって、実施形態の中性子グリッドでは、構成要素のスペーサおよび中性子吸収体は反りや変形が生じにくいことが好ましい。
【0037】
そこで、中性子グリッドを構成する材料は、熱中性子質量減衰係数だけを考慮するだけでなく、スペーサ151の熱膨張係数と中性子吸収体152の熱膨張係数の差を±9×10
−6/℃以内、またはスペーサ151のヤング率を100GPa以上にするために選択されることが好ましい。これにより、スペーサ151と中性子吸収体152の反り、変形を抑制することができる。なお、スペーサ151の熱膨張係数と中性子吸収体152の熱膨張係数の差が±9×10
−6/℃以内であり、且つスペーサ151のヤング率を100GPa以上であることがより好ましい。スペーサ151と中性子吸収体152の熱膨張係数の差が±9×10
−6/℃より大きい場合は、熱の影響による反り、変形が発生し易く、スペーサ151のヤング率が100GPa未満では、熱の影響および外部応力により反り、変形が発生し易く、いずれも中性子の透過画像に対してノイズとなるような画像を形成し易い。
【0038】
表1は、熱中性子質量減衰係数が高い材料の熱膨張係数およびヤング率を示す。表2は、熱中性子質量減衰係数が低い材料の熱膨張係数およびヤング率を示す。
図5および表1、表2から、スペーサ151は、Si、W、およびセラミックス(Al
2O
3、AlN、SiC、およびY
2O
3から選ばれる少なくとも一つ)の少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含むことが好ましく、中性子吸収体152は、B、Gd、Sm、Li、およびCdの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含むことが好ましい。また、中性子吸収体152として、高速中性子吸収体として用いられるTaあるいはTaを含む材料でも差し支えない。
【0041】
スペーサ151および中性子吸収体152は、上記に含まれる金属元素単体から構成することもできるし、上述した元素を含む限りにおいて、合金やその他の化合物とすることもできる。
【0042】
中性子吸収体152は、化学的に安定であって、形成時の原料の入手のし易さ、形成の容易さ等の観点から酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)、濃縮ボロンを含む炭化ボロン(
10B
4C)、B、およびGdの少なくとも1つを含む膜体から構成されることが好ましい。
【0043】
図6は、ボロン(B)とガドリニウム(Gd)について中性子エネルギーに対する相対的な吸収特性を示す図である。
図6は、熱中性子のエネルギー0.025eVのときが1であると規格化したときの、冷中性子(CN)、熱中性子(TN)、熱外中性子(EN)、および高速中性子(FN)に対応する中性子エネルギーと吸収係数の相対値との関係を示している。ボロン(B)の場合、中性子による吸収は主に同位体のB−10であり、B−11はほとんど吸収しない。ガドリニウム(Gd)の場合も吸収の大きいのは同位体のGd−157である。
図6中に記載している熱中性子の吸収係数は、[b](バーン)という単位で表され、この数値が大きいほど多く吸収される。天然に存在するガドリニウム(Gd)は、B−10と比べて約10倍以上吸収係数が大きい。
【0044】
熱中性子よりもエネルギーの高い熱外中性子の領域よりも高いエネルギー領域では、ガドリニウム(Gd)の吸収係数はボロン(B)と比べて極端に小さくなることがわかる。従って、中性子グリッド15として熱中性子よりも高い中性子エネルギーで使用する場合には、中性子吸収体をB−10を含む材料から構成することが好ましい。逆に熱中性子以下のエネルギーの場合には、かかるエネルギー領域で吸収係数が大きいガドリニウム(Gd)が望ましい。
【0045】
カバー材153およびカバー材154は、中性子を透過し、X線およびガンマ線を透過しないような原子番号の大きい材料を含むことが好ましい。中性子が照射される空間は、一般的に中性子の他にもX線やガンマ線を多く含む。従って、カバー材153およびカバー材154は、X線やガンマ線によるノイズを除去することが好ましい。かかる観点より、カバー材153およびカバー材154は、例えばタングステン(W)や鉛(Pb)、ビスマス(Bi)などの材料またはこれらを主成分とした合金から構成することが好ましい。
【0046】
カバー材153およびカバー材154は、アルミニウム(Al)を支持材として、この支持材上にタングステン(W)や鉛(Pb)、ビスマス(Bi)などの材料またはこれらを主成分とした合金を膜状に形成する、または板状部材として貼り合わせるようにして形成することができる。軽量化のため、アルミニウム(Al)のままでも良い。
【0047】
<中性子グリッドの変形例>
上述した中性子グリッド15は単独で用いることもできるが、少なくとも2以上組み合わせ、各中性子グリッド15を構成するスペーサ151および中性子吸収体152が交差するようにして積層してグリッド積層体を構成してもよい。この場合、一方向における散乱熱中性子nsの吸収除去のみならず、他方向における散乱熱中性子nsの吸収除去も行うことができる。例えば、2つの中性子グリッド15を各中性子グリッド15を構成するスペーサ151および中性子吸収体152が互いに直交するようにすれば、X方向およびY方向の2方向において二次元的な散乱熱中性子nsの吸収除去を行うことができる。
【0048】
(中性子グリッドの製造方法)
次に、上述した中性子グリッド15の製造方法について説明する。
【0049】
<第1の製造方法>
中性子グリッド15の第1の製造方法は、スペーサ151の表面に蒸着法を用いて中性子吸収体152に適用可能な材料を含む中性子吸収体152の膜体を形成する工程をスペーサ151毎に繰り返す工程と、スペーサ151および中性子吸収体152を第1の方向に沿って配列してグリッド部を形成する工程と、第3の方向に沿ってカバー材153およびカバー材154によりグリッド部を挟持する工程と、を具備する。
【0050】
第1の製造方法によれば、中性子吸収体152は膜体として形成されることになり、さらにこの膜体は上記蒸着法を用いていることに起因して構成原子が密に充填された状態となる。従って、中性子吸収体152中の中性子吸収に寄与する原子の数密度が大きくなり、上記膜体の厚さを小さくしても十分に散乱熱中性子等を吸収することができる。実際、上記膜体の厚さ(第1の方向における膜体の幅)を0.01μm〜30μmの範囲に設定することによって、散乱熱中性子nsを少なくとも約30%〜80%の範囲で吸収し、除去することができる。
【0051】
上記膜体の厚さが30μmを超えても、散乱熱中性子nsの吸収および除去の割合は80%を大きく超えて上昇することはない。従って、原料の使用効率等の観点からも、膜体として構成された中性子吸収体152の厚さの上限は30μm程度とすることが好ましい。一方、膜体としての中性子吸収体152の厚さが0.01μmよりも小さいと、散乱熱中性子nsの吸収除去の割合が減少し、中性子グリッド15自体がその本来的な機能を発揮しない場合がある。
【0052】
図7は、アルミニウム基板上に酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)を蒸着させて得た積層体における熱中性子の捕捉効率をHe−3中性子検出器で測定した結果である。酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)の理論的な密度は7.4g/cm
3であるが、実験結果から実効的な密度は4g/cm
3で一致している。この結果を参照すると、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)の厚さが5μmで約30%の捕捉(吸収)が確認され、30μmで80%の捕捉(吸収)が確認される。
【0053】
図7では、上記積層体の膜面に垂直に(上記積層体の厚さ方向に対して平行に)熱中性子が入射した場合を示している。しかしながら、実際の散乱熱中性子nsは、中性子グリッド15、すなわち中性子吸収体152に対して斜めに入射することになるので、散乱熱中性子nsに対する中性子吸収体152の実効的な厚さは、
図7に示すような垂直入射の場合に比較して増大する。
【0054】
図7において、上記積層体における酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)の厚さ5μmで約30%の捕捉(吸収)が確認され、30μmで80%の捕捉(吸収)が確認される場合において、実際の中性子グリッド15における中性子吸収体152では、特に下限値である0.01μmの場合でも、散乱熱中性子nsに対する実効的な厚さは5μm以上となるので、かかる下限値0.01μmにおける実際の散乱熱中性子nsの吸収除去効率は30%以上となる。
【0055】
中性子吸収体152の膜体の厚さを0.01μm〜30μmの範囲に設定することによって、散乱熱中性子nsを少なくとも約30%〜80%の範囲で吸収し、除去することができるとしたのは、
図7から得られる上述のような考察に基づくものである。
【0056】
蒸着法を用いて中性子吸収体152を膜体として形成するこの方法では、例えば、上述した酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)および濃縮ボロンを含む炭化ボロン(
10B
4C)、B、Gdの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含む原料に対して蒸着を施す。蒸着法としては、真空蒸着法やスパッタリング法、CVD法などの汎用の方法を用いることができる。
【0057】
<第2の製造方法>
上述した中性子グリッド15の第2の製造方法は、粒径が10μm以下の酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)および酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)、Gdの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含む粉末、または粒径が10μm以下の濃縮ボロンを含む炭化ボロン(
10B
4C)および窒化ボロン(
10BN)、Bの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含む粉末とバインダとを混合し、混合物を用いてスペーサ151上に沈降法によって中性子吸収体152の膜体を形成する工程をスペーサ151毎に繰り返す工程と、スペーサ151および中性子吸収体152を第1の方向に沿って配列してグリッド部を形成する工程と、第3の方向に沿ってカバー材153およびカバー材154によりグリッド部を挟持する工程と、を具備する。なお、中性子吸収体152に適用可能な材料であれば他の材料を用いて沈降法により中性子吸収体152の膜体を形成してもよい。
【0058】
沈降法は、公知の膜体形成方法であり、溶液内の下にスペーサ151を設置し、上述した酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)等の粉末を上記溶液内に分散させ、その後時間を置いて上記粉末を沈降させ、上澄み液を流してスペーサ151に沈降付着させる方法である。
【0059】
本方法は、スペーサ151をスズや鉛の合金等の低融点の物質から構成した場合に有効である。上述した蒸着法を用いるような場合は、特に真空蒸着法等の場合、基板であるスペーサ151を高温に加熱する必要があるが、スペーサ151を上述のような低融点物質から構成した場合、上記加熱によってスペーサ151が湾曲したり、部分的に溶けてしまったりする場合があり、目的とする中性子グリッド15を形成することができない場合がある。
【0060】
これに対して、本方法ではスペーサ151に対して加熱操作を施すことがないので、スペーサ151を低融点物質から構成した場合においても、中性子吸収体152の形成時に溶解等することがない。従って、スペーサ151に使用可能な材料の選択性が増大する。
【0061】
ただし、本方法では、上述した蒸着法を用いて中性子吸収体152の膜体を形成する第1の製造方法に比較し、中性子吸収体152の構成原子の数密度が減少してしまう。従って、本方法では、第1の製造方法と同様の中性子吸収効率を得るべく、その厚さ(第1の方向における膜体の幅)を100μm〜500μmとする。
【0062】
<第3の製造方法>
上述した中性子グリッド15を製造する第3の製造方法としては、粒径が10μm以下の酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)および酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)、Gdの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含む粉末、または粒径が10μm以下の濃縮ボロンを含む炭化ボロン(
10B
4C)および窒化ボロン(
10BN)、Bの少なくとも1種の材料あるいはこの内の元素を含む粉末とバインダとを混合し、混合物を用いてスペーサ151上に印刷法によって中性子吸収体152の膜体を形成する工程をスペーサ151毎に繰り返す工程と、スペーサ151および中性子吸収体152を第1の方向に沿って配列してグリッド部を形成する工程と、第3の方向に沿ってカバー材153およびカバー材154によりグリッド部を挟持する工程と、を具備する。なお、中性子吸収体152に適用可能な材料であれば他の材料を用いて印刷法により中性子吸収体152の膜体を形成してもよい。
【0063】
本方法も、上記第2の製造方法と同様に、スペーサ151に対して加熱操作を施すことがないので、スペーサ151を低融点物質から構成した場合においても、中性子吸収体152の形成時に溶解等することがない。従って、スペーサ151に使用可能な材料の選択性が増大する。
【0064】
ただし、本方法でも、上述した蒸着法を用いて中性子吸収体152の膜体を形成する第1の製造方法と比較し、中性子吸収体152の構成原子の数密度が減少してしまう。従って、本方法では、第1の製造方法と同様の中性子吸収効率を得るべく、その厚さ(第1の方向における膜体の幅)を100μm〜500μmとする。印刷法としては、スクリーン印刷法等、公知の方法を用いることができる。
【0065】
(中性子グリッド装置)
図8は、測定系を用いて被検体等の対象物の透過画像を得る他の方法を説明するための模式図である。
図8に示すように、中性子発生源11(本例では点線源Oとしている)から照射された熱中性子n1の照射方向と中性子グリッド15の集束方向とがずれているような場合、熱中性子n1は、スペーサ151および中性子吸収体152の延在方向と略平行に入射せずに、所定の角度で延在方法と交差して入射する。この状態では、熱中性子n1が中性子グリッド15を透過することができず、受像体16において被検体14(
図8では図示せず)の透過画像を得ることができない。
【0066】
従って、このような場合は、中性子グリッドの15角度並びに前後の距離を遠隔で調整できるように中性子グリッド15を回転並びに直線駆動装置等の制御装置に取り付けて使用するようにする。これによって、当初、熱中性子n1の照射方向と中性子グリッド15の集束方向とが
図8のような関係にあるような場合でも、制御装置により中性子グリッド15の位置を調整することによって、例えば、
図2に示すように中性子グリッドの中心軸I−Iの軸方向を熱中性子n1の入射方向と一致するような位置関係に調整し、中性子グリッド15の機能を十分に発揮させて受像体16上に被検体14の鮮明な透過画像を得ることができるようになる。
【0067】
以上説明したように、本発明の実施形態である中性子グリッドを用いることにより、中性子、特に熱中性子を用いて被検体の透過画像を得る際に、上記透過画像のノイズの原因となる中性子散乱線を中性子グリッドの構成要素の反り、変形による散乱もなく除去することができる。
【0068】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。