特許第6856724号(P6856724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856724
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】生体電極及びウエアラブル電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/256 20210101AFI20210329BHJP
   A61B 5/263 20210101ALI20210329BHJP
【FI】
   A61B5/04 300M
   A61B5/04 300W
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-181672(P2019-181672)
(22)【出願日】2019年10月1日
(62)【分割の表示】特願2017-527512(P2017-527512)の分割
【原出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2020-62393(P2020-62393A)
(43)【公開日】2020年4月23日
【審査請求日】2019年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-137286(P2015-137286)
(32)【優先日】2015年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 信吾
(72)【発明者】
【氏名】河西 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】住友 弘二
(72)【発明者】
【氏名】中島 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅伸
(72)【発明者】
【氏名】荒金 徹
(72)【発明者】
【氏名】浜野 祐里
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵司
(72)【発明者】
【氏名】長井 典子
(72)【発明者】
【氏名】勅使川原 崇
【審査官】 福田 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−500077(JP,A)
【文献】 特開2015−77414(JP,A)
【文献】 特開2014−108134(JP,A)
【文献】 特開2015−61603(JP,A)
【文献】 特開平3−234871(JP,A)
【文献】 特開2014−210986(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24−5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服に対して着脱可能な生体電極であって、
複数の単繊維から構成される繊維構造物に導電性高分子含浸させた導電性繊維構造物で形成された電極と、
導電性を有して前記電極と電気的に接続される被係合部であって、導電性を有して前記衣服に設けられた係合部に着脱可能に係合し、前記係合部に係合したときに前記係合部と電気的に接続される被係合部と、を備え、
前記被係合部と前記係合部が金属製の雄ボタンと雌ボタンの係合により着脱可能とされ、前記衣服の裏地裏面側に前記電極が配置され、前記衣服の裏地表面側に前記係合部を備える支持プレートが配置され、前記衣服の裏地にその厚さ方向に貫通して上下方向に伸びるように設けられたスリットを前記雄ボタンの一部が挿通し、前記スリットに沿って前記電極と前記支持プレートが上下に移動自在に前記衣服の裏地に装着されたことを特徴とする生体電極。
【請求項2】
前記裏地の表面側に前記スリットと前記支持プレートを覆うように配置されて前記裏地とともに前記支持プレートを囲んで上下方向に伸びる筒状構造を構成する補強布を設けた衣服に適用されることを特徴とする請求項1に記載の生体電極。
【請求項3】
測定装置に接続される接続配線が前記支持プレートを介し前記係合部に接続されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体電極。
【請求項4】
前記単繊維の繊維径が10nm以上5μm以下であること、を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項5】
前記被係合部の少なくとも一部は、前記電極に埋め込まれていること、を特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項6】
前記導電性高分子は、チオフェン系導電性高分子を含むこと、を特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項7】
前記被係合部を覆う被覆部材を備える請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の生体電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の生体電極と、前記衣服と、を備えることを特徴とするウエアラブル電極。
【請求項9】
前記繊維構造物の目付は、50g/m以上300g/m以下である請求項8に記載のウエアラブル電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電極及びウエアラブル電極に関する。
本願は、2015年7月8日に出願された特願2015−137286号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
使用者(生体)が着る下着型の衣服に生体電極を取付け、使用者が発する生体信号を取得するシステムは、超高齢化社会における医療介護健康システムの効率的なツールとして近年活発に研究開発が進められている。以下では、生体電極及び衣服で構成されるものを、ウエアラブル電極と称する。
ウエアラブル電極は、下着に求められる各種要件、性別、体型、季節への対応、サイズ展開、年齢層に合わせたバリエ−ション等が必要である。しかし、多様なバリエーションは、薬事認証番号が増え手続きが煩雑になる等、医療機器としての許認可・製造・管理が難しくなる。このため、できる限り少ないウエアラブル電極のバリエーションで、各種要件等に対応することが求められる。
【0003】
また、医療用の生体電極においては、電極及び配線は、それぞれ医療規格(例えば非特許文献1参照)が定められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ANSI/AAMI EC12:2000 (R2010)、 ”Disposable ECG electrodes”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単回使用(使い捨て)の生体電極とする場合、衣服を洗濯する際に生体電極を交換できる構造が必要となる。この場合、衣服と生体電極とは容易に着脱できなければいけないという問題があった。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、生体信号を伝達するとともに衣服に容易に着脱できる生体電極、及びこの生体電極を備えるウエアラブル電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、衣服に対して着脱可能な生体電極であって、複数の単繊維から構成される繊維構造物に導電性高分子含浸させた導電性繊維構造物で形成された電極と、導電性を有して前記電極と電気的に接続される被係合部であって、導電性を有して前記衣服に設けられた係合部に着脱可能に係合し、前記係合部に係合したときに前記係合部と電気的に接続される被係合部と、を備え、前記被係合部と前記係合部が金属製の雄ボタンと雌ボタンの係合により着脱可能とされ、前記衣服の裏地裏面側に前記電極が配置され、前記衣服の裏地表面側に前記係合部を備える支持プレートが配置され、前記衣服裏地にその厚さ方向に貫通して上下方向に伸びるように設けられたスリットを前記雄ボタンの一部が挿通し、前記スリットに沿って前記電極と前記支持プレートが上下に移動自在に前記裏地に装着された生体電極である。
本発明の一形態において、前記裏地の表面側に前記スリットと前記支持プレートを覆うように配置されて前記裏地とともに前記支持プレートを囲んで上下方向に伸びる筒状構造を構成する補強布を設けた衣服に適用されることが好ましい。
本発明の一形態において、測定装置に接続される接続配線が前記支持プレートを介し前記係合部に接続されたことが好ましい。
【0008】
また、前記単繊維の繊維径が10nm以上5μm以下であっても良い。
また、前記被係合部の少なくとも一部は、前記電極に埋め込まれていても良い。
【0009】
また、前記導電性高分子は、チオフェン系導電性高分子を含んでも良い。
本発明の一形態において、前記被係合部を覆う被覆部材を備えることができる。
本発明の一態様は、前記生体電極と、前記衣服と、を備えるウエアラブル電極である。
前記繊維構造鵜物の目付は、例えば50g/m以上300g/m以下にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生体信号を伝達するとともに衣服に容易に着脱できる生体電極及びウエアラブル電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態のウエアラブル電極の正面に対する縦断面図である。
図2図1におけるA1方向矢視図である。
図3】同ウエアラブル電極の生体電極における断面図である。
図4】同生体電極の要部の平面図である。
図5】同生体電極の要部の底面図である。
図6】同生体電極の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るウエアラブル電極の一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。
図1及び2に示すように、本実施形態のウエアラブル電極1は、雄ボタン(被係合部、ボタン)11を有する生体電極10と、雄ボタン11に着脱可能に係合する雌ボタン(係合部)31が設けられた下着(衣服)30と、を備えている。なお、雄ボタン11及び雌ボタン31で、ドットボタン(スナップボタン)21を構成する。
図1は、立っている使用者(生体)Pがウエアラブル電極1を着た状態を示す。図2においては、後述する表地33は示していなく、補強布36の一部を破断線Mで破断して示している。
以下では、まず生体電極10について説明する。
【0013】
図3から5に示すように、本実施形態の生体電極10は、平板状に形成された電極13と、電極13に積層された防水層14と、電極13及び防水層14に固定された前述の雄ボタン11とを有している。なお、図5においては、後述するカバー19を二点鎖線で示している。
電極13は、そのベースとなる生地である基布としての繊維構造物に導電性高分子を含浸させた導電性繊維構造物で形成されている。
電極13に使用する繊維構造物の形態としては、織物、編物および不織布が挙げられる。繊維構造物に含浸させる導電性樹脂(導電性高分子)の量が不足すると、繰り返し使用での洗濯耐久性が得られなくなるため、繊維構造物の目付け(上記基布としての単位重量)は、50g/m以上300g/m以下であることが好ましい。50g/mより小さいと、導電性樹脂の含浸量が少なくなり、洗濯耐久性が得られない。300g/mより大きいと、着用感が劣る原因となる。より好ましくは、60g/m以上250g/m以下である。
繊維構造物の厚みは、0.2mm以上2.0mm以下であることが好ましい。厚みが0.2mm未満では、生地が薄過ぎるため実質目付けが小さくなり、導電性樹脂の含浸量が少なくなる。厚みが2.0mmを超えると、厚過ぎて着用感が劣る原因となる。より好ましくは0.3mm以上1.5mm以下である。
【0014】
また、良好な心電波形を継続的に得るためには、電極13が皮膚に接触し、貼り付いた状態を保持する必要がある。電極13を皮膚に継続して貼り付けておくためには、繊維構造物を構成する生地の柔軟性が必要となるため、繊維構造物は、織物、編物、不織布が好ましく、より好ましくは、より柔軟性の高い編物である。ただし、電極13自体の柔軟性が高すぎるために、着用時に電極13が折れたり、動いたりする場合は、電極13の裏側に補強のための部材を配置しても良い。
さらに、編物に代表される繊維構造物の組織、製造方法は特に限定される物では無いが、電極13として汗等の水分を保持する形状が好ましく、編物ではダブルニットが好ましく使用出来る。その例として、ダブルラッセル組織、ダンボール組織、リバーシブル組織、スムース組織、フライス組織、裏毛組織等が上げられるが、これに限定される物ではない。
【0015】
本発明の電極13に用いる織編物は、導電性樹脂の繊維構造物への担持ならびに高導電性の観点から、複数の単繊維から構成されるマルチフィラメント糸を含んでいることが好ましい。マルチフィラメント糸の繊度は特に限定はされないが、繊維構造物としての特性を活かす観点から、30dtexから400dtexであることが好ましい。織編物中のマルチフィラメント糸の混率は、性能に影響がない範囲であれば、特に限定されないが、混率は高い方が導電性、耐久性の観点から好ましく、より好ましくは50%以上100%以下である。
【0016】
織編物に使用されるマルチフィラメント糸の素材は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系合成繊維、ナイロン等のポリアミド系合成繊維などを使用することができるがこれに限定されるものではない。また、酸化チタン等の添加物を配合したものを使用してもよいし、吸湿性向上等の機能性付与のためにポリマー改質した繊維も使用してもよい。
また、マルチフィラメントを構成する単繊維単位の断面形状も規定されるものではなく、丸形、三角形、八葉形、扁平形、Y形に代表される様々な異形断面糸も使用することができる。さらに、非弾性糸として、粘度が異なるポリマーからなる芯鞘またはサイドバイサイド型の複合糸を使用することもできる。さらにまた、これらの原糸に仮撚加工を施した仮撚加工糸を用いても良い。さらには、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、シルクに代表される天然繊維を使用することができる。
【0017】
本発明に係る繊維構造物は、繊維表面および繊維間の空隙へ導電性樹脂を担持させる観点から、単繊維の繊維径が0.2dtex以下のマルチフィラメントを含むことが好ましい。0.2dtex以下の単繊維マルチフィラメントの繊維構造物に占める混率は、性能に影響がない範囲であれば特に限定されないが、混率は高い方が導電性、耐久性の観点から好ましく、より好ましくは50%以上100%以下である。
さらに、単繊維の本数が多いほど複数の単繊維から構成される空隙、すなわち導電性樹脂が担持される部位が細分化されることで導電性樹脂の繊維構造物への担持性が高くなり、かつ、繊維径が細くなることで細分化されても導電性樹脂の連続性が保持されるため、優れた高導電性および洗濯耐久性が得られるようになる。
【0018】
好ましくは、人工皮革やアウター素材などに用いられる繊維径が5μm以下のマイクロファイバーを用いることが好ましく、より好ましくは、近年、スポーツ衣料、ブラジャー、ゴルフグローブ等の内張りに、滑り止めを目的に使用されている繊維径10nm以上1000nm以下のナノファイバーを用いることがより好ましい。
ナノファイバーとしては、“ナノアロイ(登録商標)”繊維から作製されるナノファイバーステープル糸集合体、エレクトロスピニング方式等により作製されるモノフィラメント糸の集合体等、既知の方法で作製されたナノファイバーを含む繊維構造物が好適に利用できるが、ナノファイバーのマルチフィラメント糸を含む繊維構造物がより好ましい。
ナノファイバーのマルチフィラメント糸は、既知の複合紡糸方式等により作製できる。
一例としては、特開2013−185283号公報に例示された複合口金を用いた複合繊維を脱海した、繊維径のバラツキが小さいナノファイバーマルチフィラメント糸が有効に利用できるが、これらに限定されるものではない。ここで、脱海とは、繊維の海成分を溶かして島成分を残す加工のことを言う。
【0019】
導電性高分子としては、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物(PEDOT−PSS)を含むものを好適に用いることができる。
これ以外には、導電性高分子として、例えばピロール系、チオフェン系、イソチアナフテン系、フェニレン系、アセチレン系、アニリン系の各導電性高分子や、これらの共重合体等を用いることができる。また、これらの導電性高分子のドーパントに、例えばハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、六フッ化ヒ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、燐酸系イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トシレートイオン、アルキルスルホン酸イオン、ポリアクリル酸イオン等の高分子イオンのうち、少なくとも一種のイオンが用いられてもよい。
【0020】
本発明に係る繊維構造物からなる電極13は、皮膚への接触時の刺激性が少なく、安全性が高い。皮膚の乾燥等により信号が良好に得られない場合は、繊維構造物に、生理食塩水や保湿剤を少量塗布することが好ましい。保湿剤としては、例えば、グリセロール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールコポリマー、エチレングリコール、スフィンゴシン、ホスファチジルコリン等を用いることができ、これらのうち1種類を単独で用いても良く、2種以上を組合せて用いても良い。
このように電極13を保湿することで、電極13が使用者Pの皮膚に接触すると、保湿剤の濡れ性による接着力が生じる。
【0021】
電極13は、より詳しく説明すると、溶媒中に前述の導電性高分子とバインダとを分散させた分散液を前述の繊維構造物に塗布することにより、繊維構造物に導電性高分子を含浸させてなるものである。
溶媒の種類は特に限定されず、導電性高分子やバインダの種類と目的に合わせて適宜選択される。
【0022】
導電性高分子は、バインダとともに使用することにより、導電性高分子を含む塗膜の耐傷性や表面硬度が高くなり、基材との密着性が向上する。また、バインダを用いることにより、繊維構造物への導電性高分子の担持が容易となるとともに、電極部材を繰り返し洗濯後の表面抵抗の上昇も抑制できる。
バインダとしては、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0023】
これらバインダは、有機溶剤に溶解されていてもよいし、スルホン酸基やカルボン酸基等の官能基が付与されて水溶液化されていてもよいし、乳化等水に分散されていてもよい。
バインダ樹脂の中でも、容易に混合できることから、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリイミドシリコーンのいずれか1種以上が好ましい。使用する溶媒は、導電性高分子、およびバインダが安定して分散するものであれば制限されるものではないが、水、または水とアルコールの混合溶液が好適に使用できる。PEDOT−PSS等のポリチオフェン系導電性高分子を使用する場合、水とエタノールの混合溶媒とすることが好ましい。
【0024】
電極13の大きさや形状については、生体信号が検出できれば特に規定されるものではなく、タテ、ヨコの長さは各2cm以上、20cm以下であることが好ましい。電極13のタテ、ヨコの長さが各2cm未満であると、電極13の面積が小さ過ぎるため、運動時などに衣服が動く際に電極13もずれ易く、ノイズを拾い易くなる。20cmを越えると実質信号検出に必要のない大きさであると共に、電極13の面積が大き過ぎるため、隣接する電極との間隔が小さく、ショートなどトラブルの原因になり易い。
より好ましくは、タテ、ヨコの長さが各2.5cm以上、18cm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、図6に示すように、例えば4cm×4cm前後の正方形で、角を丸くカットした形状のものが用いられる。
【0025】
防水層14は、液状の水分を透過しない層である。
ここでいう防水層14は、必ず必要では無いが、導電性物質を含む繊維構造物の片面に、樹脂層として積層されてなることが好ましい。生体電極への適応を考えると、電極13に用いる繊維構造物の肌側と接する面の裏面側に樹脂層が積層されることが好ましい。生体信号を検出する際、電極13が乾燥してしまうと、安定して生体信号を検出することが困難になる。
したがって、ある程度電極13を湿潤状態に保つ必要があり、電極13の片面を樹脂層で覆うことで、乾燥を防ぎ、導電性を安定して得ることができる。さらに、電極13の片面を樹脂層で覆うことで、洗濯時に脱落する導電性樹脂を軽減することができ、洗濯耐久性を大幅に抑制できるようになる。
【0026】
樹脂層を構成するポリマーの種類、形状は、液体を透過しない物であれば特に限定される物では無いが、例えば、アクリル、塩化ビニル等の高分子フィルムをラミネーションする方法、アクリル樹脂、ウレタン樹脂をコーティングする方法等が挙げられる。肌側の蒸れ感等を適度にコントロールする必要がある場合は、特に限定されるものではないが、防水透湿層であることが好ましい。
防水透湿層としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔膜、親水性のポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等、親水性エラストマーからなる無孔膜、ポリウレタン樹脂微多孔膜等、既知の膜、フィルム、積層物、樹脂等をコーティング、ラミネート方式で積層した形態が挙げられるがこれらに限定されるものではない。基材である繊維構造物への追随性の観点から、防水層14は、伸縮性を有するポリウレタン樹脂微多孔膜をラミネートにより積層接着したものが好ましい。更に、透湿性を向上させるために、片面に樹脂層を積層した繊維構造物に、パンチング機やミシンを用いて微多孔を形成しても良い。
【0027】
雄ボタン11は公知の構成のものであり、図1中の拡大図に示すようにホソ16とゲンコ17とを有している。ホソ16及びゲンコ17は、ステンレス鋼等の導電性を有する金属でそれぞれ形成されている。ホソ16は電極13側に配置され、ゲンコ17は防水層14側に配置されている。ホソ16の一部は電極13に埋め込まれ、ゲンコ17の一部は防水層14に埋め込まれている。このため、電極13とホソ16とにより形成される段差、及び防水層14とゲンコ17とにより形成される段差がそれぞれ小さくなる。
ホソ16の頭部16aは、ゲンコ17を通して外部に突出している。ホソ16とゲンコ17とは、電気的に接続されている。雄ボタン11は、電極13及び防水層14の中央部に設けられているが、雄ボタン11の設置位置は特に限定されるものではない。雄ボタン11は、電極13と電気的に接続されている。
雄ボタン11は、下着30と生体電極10とを機械的に接続して生体電極10の中央部を一点で支持することと、生体電極10を、雌ボタン31を介して測定装置(処理装置)Dに電気的に接続することを兼ねる。
【0028】
雄ボタン11のホソ16は、カバー(被覆部材)19で覆われていることが好ましい。
カバー19としては、ホソ16が使用者Pに直接接しなければ特に限定される物では無いが、衣料に通常用いられるシームテープ等を用いることができる。なお、被覆部材はカバー19であるとしたが、被覆部材はホソ16における使用者Pに接触する外面を覆うコーティング(塗装)等であってもよい。
【0029】
図1及び2に示すように、下着30は、表地33と、表地33に接続された裏地34と、裏地34に設けられた配線部35とを有している。表地33及び裏地34は、所望の布地等で形成することができる。裏地34には、上下方向に延びるスリット34aが形成されている。スリット34aは、裏地34を厚さ方向に貫通している。スリット34aの上下方向の長さLは、生体電極10の短辺の長さよりも短い事が好ましく、例えば4cm角の場合4cm未満である(図2参照)。スリット34aの幅は、ホソ16の頭部16aがスリット34aに沿って可動であれば特に限定される物ではないが、頭部16aの外径程度が好ましい。
スリット34aは、使用者Pがウエアラブル電極1を着たときに、使用者Pの胸部P1に対向する位置に形成されることが好ましい。
【0030】
裏地34と表地33との間には、補強布36が設けられていても良い。補強布36は、例えば所望の布地等で矩形状に形成されている。補強布36は、裏地34のスリット34aを覆うように配置されている。裏地34と補強布36とは、例えば裏地34と補強布36とを糸で縫うことにより形成された一対の縫い目37により接続されている。各縫い目37は、上下方向に延びている。このように構成された裏地34、スリット34a、補強布36、及び一対の縫い目37は、筒状構造38を構成している。
表地33と裏地34とは、補強布36よりも上方に設けられた縫い目等の接続部40で接続されている。後述するように、生体電極10はスリット34aを通して裏地34に取付けられる。裏地34と表地33とが接続されている部分のうちスリット34aから最も近い部分が、接続部40であるとする。接続部40は、裏地34のスリット34aから離間しており、離間している距離は1cm以上であることが好ましい。後述するように、表地33の動きが接続部40を介して生体電極10に伝わりにくくなるためである。
裏地34における補強布36よりも上方の部分には、環状のループ部41が取付けられていても良い。
【0031】
配線部35は、筒状構造38内に配置された支持プレート44と、支持プレート44の中央部に固定された前述の雌ボタン31と、雌ボタン31に第一の端部が接続された接続配線45とを有している。
支持プレート44は、所望の樹脂製の板材や布地等で矩形状に形成されている。支持プレート44は、筒状構造38内で容易に移動できるように一定の剛性を持つことが好ましい。支持プレート44の幅は、一対の縫い目37の間の距離よりも短い。支持プレート44は、一対の縫い目37をガイドにして、筒状構造38内で上下方向に移動可能である。
支持プレート44は、自身と裏地34及び補強布36との間に生じる摩擦力により、上下方向の位置が保持される。
【0032】
雌ボタン31は下着30に設けられた公知の構成のものであり、アタマ47とバネ48とを有している。アタマ47及びバネ48は、ステンレス鋼等の導電性を有する金属でそれぞれ形成されている。アタマ47は補強布36側に配置され、バネ48は裏地34側に配置されている。アタマ47とバネ48とは、電気的に接続されている。
雌ボタン31には、裏地34のスリット34aを通した雄ボタン11の頭部16aが係合可能である。スリット34aを挟むように配置された雌ボタン31、及び生体電極10の雄ボタン11は、係合して一体となって、スリット34aに沿って上下方向に移動する。これにより、胸部P1に対する生体電極10の上下方向の位置を最適にして、生体信号を測定することができる。
雄ボタン11と雌ボタン31とが係合したときに、雄ボタン11と雌ボタン31とが電気的に接続される。
【0033】
接続配線45としては、配線が柔らかい、いわゆるフレキシブル配線等の公知のものを適宜選択して用いることができる。フレキシブル配線を用いることで、胸部P1に局所的に荷重が加わって使用者Pが違和感を感じるのを抑えることができる。
接続配線45の図示しない芯線は、雌ボタン31に電気的に接続されている。接続配線45は、雌ボタン31から上方に引き出され、ループ部41内を通った後で下方に引き回されている。接続配線45の第二の端部は、測定装置Dに接続されている。
【0034】
測定装置Dは、使用者Pが発する電気的な生体信号の処理が可能な公知の構成のものである。
測定装置Dは、例えば表地33に設けられたポケット等の収納部33a内に保持されている。測定装置Dは、裏地34に設けられた収納部内や、使用者Pに取付けられるウエストバッグ内等に保持されてもよい。
【0035】
次に、以上のように構成されたウエアラブル電極1の作用について説明する。
使用者Pは、生体電極10を取外した下着30を洗濯等しておく。下着30の雌ボタン31に新しい生体電極10の雄ボタン11を係合させ、ウエアラブル電極1を構成する。
このとき、雌ボタン31と雄ボタン11とが電気的に接続される。
使用者Pがウエアラブル電極1の下着30を着ると、生体電極10の電極13は使用者Pの胸部P1の皮膚に接触する。電極13が変形しやすいため、電極13が胸部P1の形状に合わせて容易に変形し、電極13により使用者Pが発する生体信号を取得しやすい。
生体電極10にカバー19が設けられているため、雄ボタン11が直接胸部P1に接触しなく、生体電極10が胸部P1に接触したことに対して使用者Pが不快感を受けにくい。
防水層14を防水透湿層とした場合湿気を通すため、胸部P1が蒸れにくい。
【0036】
この濡れ性と粘性による生体電極10の皮膚への張り付き効果は、以下の4つの条件が満たされる場合に安定する。1つ目は、生体電極10を皮膚に平行(フラット)に接触させることである。2つ目は、生体電極10の中央部を支持し、皮膚側に押し付けることである。3つ目は、皮膚上で生体電極10をずらさない(シフトしない)ことである。4つ目は、保湿剤を(乾燥拡散等で)喪失させないことである。
上記の4つの条件が失われ測定の失敗や中断をする原因としては、生体電極10を皮膚表面から引きはがす力(水平及び垂直方向の力)、体動による皮膚の変形、保湿剤の喪失(乾燥等による)が挙げられる。生体電極10を引きはがす力、及び体動による皮膚の変形は、皮膚と生体電極10との接触不良につながる。保湿剤の喪失は、接触抵抗の増大につながる。特に身体の大きな動き、生体電極10の接続配線45、従来の下着による牽引が原因で計測が障害される場合が多い。
【0037】
使用者Pは、必要に応じて生体電極10を適宜上下方向に移動させて生体電極10の位置を調節する。
生体電極10の電極13により取得された生体信号は、互いに電気的に接続された雄ボタン11、雌ボタン31、及び接続配線45を介して測定装置Dに伝達される。
【0038】
測定装置Dを起動すると、心電波形等の生体信号の測定が開始される。使用者Pは、心電図を測定しながら歩く等の動作をする。
使用者Pの動作にともなって、下着30の表地33が動く場合がある。接続部40は裏地34のスリット34aから離間しているため、表地33の動きが接続部40を介して裏地34のスリット34aまでほとんど伝わらない。このため、使用者Pの胸部P1に生体電極10の電極13が接触した状態が維持される。
また、測定装置Dに近い部分の接続配線45が引っ張られると、接続配線45に作用する力はループ部41で受けられた後で雌ボタン31に伝達される。これにより、接続配線45が引っ張られる力が雌ボタン31に直接伝達されるのが抑制される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の生体電極10及びウエアラブル電極1によれば、雄ボタン11及び雌ボタン31により、生体電極10を下着30に容易に着脱させることができる。また、使用者Pに接触する電極13が取得した生体信号を、雄ボタン11を介して雌ボタン31に伝達させることができる。
生体電極10はその中央部を下着30側の雌ボタン31により支えられる。ドットボタン21は、生体電極10との電気的な接触を保ちつつ生体電極10を皮膚側に押しつけ、生体電極10の電極13が皮膚と貼り付いた状態を維持することができる。
また、電極13と胸部P1との接着力が失われない限り、皮膚との安定した接触状態を維持できるため、生体信号の長期計測が可能となる。
【0040】
生体電極10がカバー19を備えることで、生体電極10が胸部P1に接触したことに対して使用者Pが不快感及び違和感を受けにくくすることができる。生体電極10が使用者Pの身体に局所的に荷重が付加されることを低減することで、生体電極10を装着中の不快感がほとんどなく、長期間の測定が可能となる。
雄ボタン11の一部が電極13に埋め込まれていることで、電極13と雄ボタン11とにより形成される段差が小さくなる。したがって、電極13に接触する使用者Pが不快感を受けにくくなる。
電極13は、導電性高分子を含浸させた繊維構造物である導電性繊維構造物で形成されている。このため、電極13が胸部P1の形状に合わせて容易に変形して、胸部P1からの生体信号を確実に電極13が取得することができる。
【0041】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、被係合部が雄ボタン11で係合部が雌ボタン31であるとした。しかし、被係合部が雌ボタンで係合部が雄ボタンであるとしてもよい。
係合部及び被係合部がドットボタン21であるとした。しかし、係合部及び被係合部は、導電性を有するとともに着脱が容易であれば、スナップフィット等の他の接続構造やボタン等でもよい。
本実施形態では、雌ボタン31に接続配線45を介して心電図を表示する測定装置Dが電気的に接続されるとした。しかし、雌ボタン31に接続される装置はこの限りではなく、例えば生体信号の検出、表示等の処理が可能な装置でもよいし、生体信号を無線通信等により外部の装置に伝達させる装置でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、生体信号を伝達するとともに衣服に容易に着脱できる生体電極及びウエアラブル電極を提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…ウエアラブル電極
10…生体電極
11…雄ボタン(被係合部)
13…電極
19…カバー(被覆部材)
21…ドットボタン
30…下着(衣服)
31…雌ボタン(係合部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6