(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前駆体が、積分強度比I003/I104<1を有し、式中、I003及びI104は、前記結晶性前駆体化合物のXRDパターンのブラッグピーク(003)及び(104)のピーク強度である、請求項1に記載の結晶性前駆体化合物。
前記前駆体が、組み合わされたブラッグピーク(102、006)とブラッグピーク(101)との強度の比Rを有し、R=((I006+I102)/I101)及び0.5<R<1.16である、請求項1に記載の結晶性前駆体化合物。
前記工程A1)及び工程B1)のいずれか1つにおいてM”を含む化合物が、酸化物、硫酸塩、水酸化物及び炭酸塩のうちの1つ以上であり、M”は、元素Al、Ca、Ti、Mg、W、Zr、B、及びSiのうちの1つ以上である、請求項9に記載の方法。
前記工程B1)におけるフッ素含有ポリマーが、PVDFホモポリマー、PVDFコポリマー、PVDF−HFPポリマー(ヘキサフルオロプロピレン)及びPTFEポリマーのいずれか1つであり、前記第4の混合物中のフッ素含有ポリマーの量が0.1〜2重量%である、請求項9に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
「NMC」により、我々は、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト−酸化物を指す。Ni過剰NMC粉末は、Liイオン充電式電池におけるカソード活物質として使用され得る。本発明のカソード物質を含有する電池は、より高いサイクル安定性及び低含有量の可溶性塩基をもたらすなどそれらの性能を向上させる。
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)のグローバル市場は、大型電池に集中している。用語「大型電池」は、電気自動車(EV)、並びに据置型発電装置における用途を指す。これらのEV又は大型据置装置は、ラップトップ、スマートフォン、タブレットなどのポータブルデバイス用の以前に優勢であった電池よりもはるかに大きい電源を必要とする。したがって、性能ごとだけでなく、資源不足の観点からも、「大型電池」カソード材料については基本的に異なる要件が存在する。これまで、LiCoO
2(LCO)が、ほとんどの充電式リチウム電池用のカソード材料として使用されていた。しかしながら、LCOは、コバルト資源が限られており、コバルト開発研究所によると、世界中のコバルト生産量の約30%は、現在、電池に既に使用されているので、大型電池にとっては持続可能ではない。したがって、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン系酸化物は、ほぼ化学量論的LiM’O
2を有し、ここで、M’=Ni
x’Mn
y’Co
z’(ドープされていない場合)であり、その資源状況がそれほど危機的でないために有望な代替カソード材料となってきている。この材料は、優れたサイクル特性、長寿命安定性、高エネルギー密度、良好な構造安定性、及び低コストを有する。前述の利点を失うことなく、Niの量を比較的増加させることにより、NMCのエネルギー密度を改善するために、NMCの様々な組成物が開発されてきた。典型的なNMC系材料は、M’=Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3、を有する「111」、M’=Ni
0.4Mn
0.4Co0.2を有する「442」、M’=Ni
0.5Mn
0.3Co0.2を有する「532」、M’=Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2を有する「622」である。NMCカソード材料は、ニッケル及びマンガンで置き換えられるため、コバルト含有量が少ない。ニッケル及びマンガンは、コバルトよりも安価であり、比較的より豊富であるために、NMCは、大型電池においてLiCoO
2に取って代わる可能性がある。
【0004】
NMCカソード材料は、一般式Li
1+a[Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCox]
1−aO
2に相当するLiCoO
2、LiNi
0.5Mn
0.5O
2及びLiNiO
2の固体溶液として大まかに理解することができ、ここで、「z」は、LiNi
0.5Mn
0.5O
2Niにおいて二価であり、LiNiO
2Niにおいて三価であるように、Ni(3+)過剰を表す。4.3Vにおいて、LiCoO
2及びLiNi
0.5Mn
0.5O
2についての公称容量は、約160mAh/gであり、対して、LiNiO
2については220mAh/gである。任意のNMC化合物の可逆容量は、これらの所定の容量から概算することができる。例えば、NMC622は、0.2LiCoO
2+0.4LiNi
0.5Mn
0.5O
2+0.4LiNiO
2として理解することができる。したがって、予想される容量は、0.2×160+0.4×160+0.4×220=184mAh/gに等しい。容量は、「Ni過剰」と共に増加し、ここで「Ni過剰」は、3価のNiの分画であり、例えば、NMC622では、Ni過剰は0.4である(リチウム化学量論をLi:(Ni+Mn+Co)=1.0と仮定する場合)。明らかに、容量はNi過剰と共に増加し、これにより、同じ電圧において、Ni過剰のNMCは、LCOよりも高いエネルギー密度を有し、これは、LCOの代わりにNi過剰のNMCを使用するとき、ある特定のエネルギー需要には、必要とされるカソード材料の重量又は体積がより少ないことを意味する。更に、ニッケル及びマンガンが、コバルトと比べてより安価であるために、供給されるエネルギーの単位当たりのカソードのコストが非常に削減される。このように、LCOと比べると、Ni過剰のNMCのより高いエネルギー密度及びより低いコストは、「大型電池」市場においてより好ましいものである。
【0005】
高いエネルギー密度を得る、2つの主要な傾向が存在する。1つの傾向は、Ni過剰を非常に高い値まで増加させることである。NCA(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)では、例えば、Ni過剰は非常に高く、全てのNiが3価である場合、0.8である。NC91(LiNi
0.9Co
0.1O
2)では、Ni過剰は0.9にまでなる。これらのカソード材料は、たとえ比較的低い電荷容量であっても非常に高い容量を有する。例として、NC91は、4.3Vで220mAh/gの高い容量を有する。これらのカソードは、電池が完全に充電され、カソードが脱リチウム化された状態にある場合、結果として得られるLi
1−xMO
2における「x」の値が高いという、大きな欠点を有する。これらの高度に脱リチウム化したカソードは、電解質と接触した場合に非常に危険である。一度、電池にて特定の温度に達していると、カソードが分解して電解質を燃焼させる酸素を送達する。基本的に電解質はカソードを還元する。反応後(高いNi過剰が存在するので)ほとんどの遷移金属は2価である。概略的に−カソードの各モルは1モルの酸素を送達して電解質を燃焼させることができる:NiO
2+電解質→NiO+{H
2O、CO
2}。電池の安全性の問題は、大部分が電解質燃焼熱によって引き起こされる。
【0006】
高いエネルギー密度を達成する他の傾向は、中間値に向かってNi過剰を増加させることである。Ni過剰に関する典型的な値は、約0.25〜約0.6の範囲で変動する。この領域を、「高Ni過剰」と称する。本発明は、高いNi過剰でNMCを調製するためのプロセスを指す。4.2又は4.3Vの高Ni過剰NMCにおける容量は、「非常に高い」Ni過剰化合物(Ni過剰>0.6を伴う)の容量未満である。しかしながら、充電電圧を増加させることによって、容量を増加させることもできる。得られた脱リチウム化されたカソードは、上記の脱リチウム化された非常に高いNi過剰カソードよりも安全である。NiがNiOを形成する傾向があるのに対し、Ni−M’は安定したM’
3O
4化合物を形成する傾向がある。これらの化合物はより高い最終酸素化学量論を有し、このように、より少ない酸素にて電解質を燃焼させることが可能である。結果として、高Ni過剰カソードの安全性は、より高い充電電圧が印加されても改善される。
【0007】
従来技術は、高電圧でのNMCのサイクル安定性が不十分であり得ることを教示しているが、例えば国際公開第2016−116862号に開示されているように、表面コーティングを適用することによって改善され得る。表面コーティングは、基本的に、サイクル中に電解質とカソードとの間の望ましくない副反応に対して表面を安定化させる。
【0008】
NMC材料の容量はNi過剰と共に増加するために、NMC532及びNMC622のような「Ni過剰」のNMCカソード材料は、Niが少ない電池、例えば、NMC111(Ni過剰=0)よりも、高い電池容量を有する。しかしながら、この生産は、Ni含有量の増加と共により一層困難になる。一例として、NCAのような非常に高いNi過剰カソード材料は、空気中で調製したり、Li
2CO
3をリチウム源として使用して調製したりすることができない。Ni過剰材料におけるLiの熱力学的安定性が低いため、「可溶性塩基」は最終生成物の表面上で容易に生じ、「可溶性塩基」の概念は、例えば、国際公開第2012−107313号において、可溶性塩基は、炭酸リチウム(Li
2CO
3)及び水酸化リチウム(LiOH)のような表面不純物を指すことが明示的に議論されている。これらの可溶性塩基は、特に残留Li
2CO
3がリチウムイオン電池における乏しいサイクル安定性をもたらすため、懸念事項である。したがって、増大する温度にて、CO
2を有しない酸化ガス(典型的には酸素)中で非常に高いNi過剰カソード材料の調製を実施して、可溶性塩基含有量を減少させ、LOHをLi
2CO
3の代わりにリチウム源として使用する。これに対して、低NiのNMC111は、通常の空気中で、低コストのLi
2CO
3前駆体を用いて、容易に調製することができる。
【0009】
NMC532(Ni過剰=0.2を有する)の調製は、NMC111よりも難しいが、NMC532は、空気下での低コストかつ簡単な固体状態反応を通して大規模に処理され得る。このプロセス(「直接焼結」と呼ばれる)は、混合金属前駆体(例えば、M’(OH)
2前駆体)とリチウム源とのブレンドの焼成である。リチウム源は、好ましくは、NMC111の生産の場合のように、その低価格のためにLi
2CO
3である。
【0010】
別の有望なNi過剰化合物は、Ni過剰が0.4であり、その容量がNMC532の容量よりも高いNMC622である。しかしながら、NMC532及びNMC111と比較して、直接焼結などの大規模かつ低コストのプロセスを使用して、低可溶性塩基でNMC622を調製することは非常に困難である。米国特許第7,648,693号で議論されるように、これらの塩基は、リチウム源の試薬中に存在する未反応Li
2CO
3、通常、Li
2CO
3又はLiOH・H
2Oに由来する可能性があり、LiOH・H
2Oは、通常、1重量%のLi
2CO
3不純物を含む。これらの塩基はまた、生産において遷移金属源として使用される混合遷移金属水酸化物にも由来し得る。混合遷移金属水酸化物は、通常、遷移金属硫酸塩とNaOHなどの工業グレードの塩基との共沈によって得られる。したがって、水酸化物はCO
32−不純物を含有する可能性がある。リチウム源を用いて焼結する間、残留物CO
32−はリチウムと反応してLi
2CO
3を生じさせる。焼結の間にLiM’O
2結晶子が成長するにつれ、Li
2CO
3塩基がこれらの結晶子の表面上に蓄積される。したがって、NMC622のような高いNi過剰NMCにおける高温での焼結後に、カーボネート化合物が最終生成物の表面上に残る。この塩基は水に溶解し、またしたがって、可溶性塩基は、米国特許第7,648,693号に記載されているように、pH滴定と呼ばれる技術によって測定することができる。
【0011】
最終NMC材料中の可溶性塩基含有量の存在は、通常「バルジング」と呼ばれる、フル電池内の深刻なガス発生を引き起こし得る。これにより、安全性の懸念と共に電池のサイクル寿命が不十分になる場合がある。したがって、高Ni過剰のNMC材料を大型電池用途に使用するために、このような高可溶性塩基含有量の形成を回避する、効果的かつ安価な処理法が必要である。
【0012】
前述の直接焼結方法は、連続的な方法でトレイ内で実施される。「トレイ」は、焼結中にブレンド又は製品を含有するセラミック容器であり、「サガー」とも呼ばれることもある。トレイは、炉に連続的に送り込まれ、コンベヤー炉を通る移動中に、最終焼結LiM’O
2に向かう反応が進行する。焼結コストは、焼結プロセスのスループットに大きく依存する。トレイが炉を横切ってより速く移動するほど(「焼結時間」と称される)またより多くのブレンドをトレイが搬送するほど(「トレイロード」と称される)、炉のスループットは高くなる。更に、炉は、高い投資コストを有する。したがって、スループットが小さい場合、炉の減価償却及び操作コストは、総プロセスコストに著しく寄与する。製造コストを低減するために、したがって、高いスループットが望まれる。
【0013】
Ni過剰NMCのための多くの大規模な直接焼結製造方法が試みられてきた。しかしながら、Ni過剰が増加するにつれ、直接焼結はより難しくなる。高Ni過剰NMCは、長い焼結時間を必要とし、低いトレイロードが成功することが観察される。高Ni過剰NMCは、低すぎる「トレイスループット」を有するため、直接焼結生産は、許容可能な低コストで高品質材料を製造するために利用可能ではない。例えば、Li
2CO
3前駆体を使用する場合、スループット制限は、Li
2CO
3の比較的高い熱力学的安定性に遡ることができ、反応が進行すると反応速度が遅くなる。低CO
2平衡分圧に起因してCO
2の除去が反応を阻害するため、反応速度を減速させる機構は気相制限である。したがって、より低い熱力学的安定性を有する他のリチウム源の適用は、この問題を解決することができる。LiOH・H
2Oはこのような前駆体であり、対応するH
2O平衡分圧はCO
2のものよりも高い。したがって、LiOH・H
2Oは、より高いNi含有カソード材料を直接焼結するための前駆体として広く適用されている。高Ni過剰NMCを調製するためのこの典型的なプロセスは、例えば米国特許第2015/0010824号にて適用されている。低いLi
2CO
3不純物を伴う、リチウム源としてのLiOH・H
2Oを、目的とする組成物にて混合遷移金属水酸化物とブレンドし、かつ大気雰囲気下にて高温で焼結する。本プロセスでは、高Ni過剰NMC最終生成物(NMC622と同様)の塩基含有量が、更に減少する。
【0014】
しかしながら、LiOH・H
2Oは、加熱及び焼結工程中に過剰な蒸気を形成し、様々な問題をもたらす。例えば、LiOH・H
2Oは、約400℃の低融点を有する。その温度では、LiOH・H
2Oとの金属前駆体(M’OOHなど)の反応性は高くない。結果として、溶融したLiOH・H
2Oは、大量のH
2O蒸気が生成されるのと同時に存在する。これらの蒸気流は、ブレンドの脱混合を物理的に引き起こし、不均質な化学組成を有する最終生成物が生じ、特にLi:M化学量論比は、トレイ内で変化する。トレイロードが大きいほど、この問題がより深刻になる。また、熱制限問題もある。トレイロードが高い場合、トレイの中心のブレンドは焼結されない。したがって、高トレイスループットで不均質な焼結生成物が達成される。トレイロードが大きいほど、これらの問題がより深刻になる。
【0015】
均質な組成物を有する高品質の最終カソードの場合、粉末内の粒子のLi:M組成及び焼結度は、限定される必要がある。したがって、高品質製品を達成するためには、低いトレイロードが必要とされる。Li
2CO
3前駆体及びLiOH・H
2O前駆体を使用して直接焼成を比較する場合、LiOH・H
2Oは、より高いトレイスループットを可能にするが、経済的な大量生産プロセスでは、トレイスループットは更に高くなければならない。トレイベースのコンベヤー炉は、モータ駆動ローラー方式の連続焼成窯からなり、これは、NMCの一貫した大量生産に良好である。しかしながら、概して、トレイ及び製品の両方が良好な熱絶縁体であるため、トレイ内のブレンドの熱伝達制限が存在し、最終製品において不均質な焼結状態がもたらされる。更に、この熱伝達問題は、スループットを増加させるために焼成時間が短縮される場合により深刻になる。したがって、高品質NMCの大規模調製には、ブレンド内の熱の輸送を強化するための改善された焼結方法が必要である。
【0016】
回転炉技術は、ブレンド内の熱のより迅速な輸送を提供する。これはまた、ブレンドの脱混合を防止する。典型的に使用される、間接焼成焼結回転炉(indirect−fired sintering rotary furnace)は、基本的に、米国特許第7,939,202.号に開示されているように、外側から加熱される金属回転管である。冷ブレンド又は製品は、チューブの高温ゾーンに向かって輸送され、チューブ内でブレンド又は製品が連続的に移動し、連続的に加熱され、それによって、不均質なLi:M化学量論比を防止する脱混合を防止する。したがって、回転炉は、はるかに少ない熱伝達限界を有し、はるかに高いスループットを提供し、本質的により低い投資コストのために、生産容量当たりの低動作コストを有する。回転炉はまた、非常にコンパクトであり、より多くの土地を使用する必要なく生産能力を増加させることができる。しかしながら、前述のように、直接焼結は、高品質の生成物を得るために、比較的長い焼結時間及び比較的高い温度(例えば、NMC622については800℃を超える)を必要とする。回転炉において長い焼結時間を得ることは困難である。また、高い焼結温度では、リチウム化遷移金属酸化物中のリチウムは、管材料と反応し、管の腐食を引き起こす。したがって、直接焼成焼結回転炉(indirect−fired sintering rotary furnace)は直接焼結に適していない。
【0017】
直接焼結に加えて、分割焼成も提案されている。米国特許第7,648,693号は、「分割」法を提案しており、ここでは、直接焼結は、2つの工程:700℃のような比較的低い温度での第1のリチウム化、及びより高温での焼結の第2の工程で行われる。本特許では、LiMO
2(式中、M=Ni
4/15(Mn
1/2Ni
1/2)
8/15CO
0.2である)の大規模調製が、可溶性塩基をほとんど含まない最終製品で達成され、その結果、サイクル安定性が改善される。したがって、この「分割」法は、可溶性塩基を含まないNMC622を低コストで調製するための可能性のある方法である。分割方法では、全てのリチウムが、第1の焼結前にブレンドに添加される。このような条件下では、金属前駆体をLi
2CO
3と適切なハイスループットで完全に反応させることは事実上不可能である。したがって、過剰な量の予熱した空気が反応器を通って送り込まれる必要があるため、分割方法は、Li
2CO
3をリチウム源として用いるNMC622の大規模生産に使用できない。実際に、この処理法は、NMC532などのより低いNi過剰のNMCに対して限定されている。
【0018】
分割方法の更なる変形は、米国特許第9,327,996(B2)号に提案されている。NMCを製造する方法は、米国特許第9,327,996(B2)号に開示されているように、リチウム含有炭酸塩ブレンドを回転炉内で焼成して、リチウム化中間生成物を製造する工程を提供する。回転焼成は、第1の焼結のために大きな利益を与える。これにより、コストが低く、生産効率に優れる生産が可能になる。しかしながら、高Ni過剰のNMCの場合、リチウム源としてLi
2CO
3を使用するとき、リチウム化反応を終了させることが不可能であるため、完全にリチウム化された中間生成物の調製は不可能である。したがって、第1の焼結後の残留Li
2CO
3含有量は、高すぎる。高いスループットでの第2の焼結中、十分なLi
2CO
3を除去することは事実上不可能であり、したがって最終製品の可溶性塩基含有量は高すぎる。最終製品は、高い膨潤性及び乏しいサイクル安定性に起因して、劣悪な性能を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、本発明の中間体生成物を利用する低コストで効率的な製造プロセスを提供し、Ni過剰を有し、特に、充電電圧が少なくとも4.3Vである高電圧電池用途に好適なリチウム遷移金属酸化物カソード材料を供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の態様から鑑みると、本発明は、リチウムイオン電池における正極活物質として使用できるリチウム遷移金属系酸化物粉末を製造するための結晶性前駆体化合物であって、一般式Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2(式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.52であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.03≦a≦0.35である)を有する前駆体であって、nmで表される結晶子サイズLを有し、15≦L≦36である前駆体である、結晶性前駆体化合物を提供することができる。結晶性前駆体化合物は、<0.4重量%のLi
2CO
3含有量を有する。一実施形態では、0.35≦z≦0.50であり、0.05≦a≦0.30である。別の実施形態では、0.15≦x≦0.25である。前述の実施形態の結晶性前駆体化合物は、積分強度比I003/I104<1を有してもよく、式中、I003及びI104は、結晶性前駆体化合物のXRDパターンのブラッグピーク(003)及び(104)のピーク強度である。また、前駆体化合物は、積分強度比I003/I104<0.9を有してもよい。別の実施形態においてこの前駆体は、組み合わされたブラッグピーク(006、102)とブラッグピーク(101)との強度の比Rを有し、R=((I006+I102)/I101)及び0.5<R<1.16である。これらの実施形態の全てにおいて、前駆体はまた、25≦L≦36で、nmで表される結晶子サイズLを有してもよい。別の実施形態では、AはAl、Ti、Mg、W、Zr、Cr、及びVからなる群から選択される1種以上の元素である。ドーピング剤とも呼ばれるドーパントは、この場合、物質の電気的性質を変化させるために、物質に(非常に低い濃度で)挿入される微量不純物元素である。ドーパントを有することの利点は、構造的及び熱安定性の改善、又はリチウムイオン伝導度の向上のいずれかであり得る。一般式中の酸素は、S、F、又はNによって部分的に置換されることもあり得る。
【0021】
第2態様から見ると、本発明は、一般式Li
1+a’M’
1−a’O
2を有し、ここでM’=(Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
kであり、式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.52であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10である、正極物質を調製するための方法であって、
金属塩と塩基との共沈から調製されるM’系前駆体を用意する工程と、
M’系前駆体を、LiOH、Li
2O及びLiOH.H
2Oのいずれか1つと混合し、これにより第1の混合物を得る工程であって、これにより、第1の混合物におけるLi対遷移金属の比が0.65〜0.97である、工程と、
第1の混合物を、ロータリーキルン中、650〜850℃の温度で、1/3〜3時間焼結し、これにより本発明の第1の態様のリチウム欠乏前駆体粉末(又は中間生成物)を得る工程と、
リチウム欠乏前駆体粉末を、LiOH及びLiOH・H
2O及びLiOH.H
2Oのうちのいずれか1つと混合し、これにより第2の混合物を得る工程と、
第2の混合物を、800〜1000℃の温度で、6〜36時間、酸化雰囲気中で焼結する工程であって、上記で定義した一般式Li
1+a’M’
1−a’O
2を有する正極材料が得られる。特定の方法の実施形態では、一般式Li
1+a’M’
1−a’O
2を有するコア材料を含む正極材料を調製するための方法が提供され、M’=(Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCO
x)
1−kA
kであり、式中、x+y+z=1、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.52であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.01≦a’≦0.10であるコア材料と、金属M”−酸化物を含むコーティングとを含む正極材料を調製するための方法が提供され、この方法は、コア材料を提供するための前に言及した方法の工程と、更に、
A1)前述の方法によって得られるコア材料と、M”を含む化合物とを含む第3の混合物を用意する工程と、
A2)第3の混合物を600〜800℃の焼結温度に加熱する工程と、又は
B1)前述の方法によって得られるコア材料と、フッ素含有ポリマーと、M”を含む化合物とを含む第4の混合物を用意する工程と、
B2)第4の混合物を250〜500℃の焼結温度まで加熱する工程と、又は
C1)前述の方法によって得られたコア材料と、無機酸化性化合物、及びLi受容体化学物質を含む第5の混合物を用意する工程と、
C2)第5の混合物を、酸素を含む雰囲気中で300〜800℃の温度で加熱する工程と、を含む、方法。この工程では、加熱温度は350〜450℃に制限され得る。
【0022】
この特定の方法では、工程A1)及び工程B1)のいずれか1つにおいてM”を含む化合物は、酸化物、硫酸塩、水酸化物及び炭酸塩のうちの1つ以上であってもよく、M”は、元素Al、Ca、Ti、Mg、W、Zr、B、Nb及びSiのうちのいずれか1つ以上であってもよい。具体的には、Al
2(SO
4)
3であってもよい。また、この方法では、工程A1)及びB1)のいずれか1つにM”を含む化合物は、D50<100nm及びBET≧50m
2/gを有するナノメートルアルミナ粉末であってもよい。また、工程B1)で提供されるフッ素含有ポリマーは、PVDFホモポリマー、PVDFコポリマー、PVDF−HFPポリマー(ヘキサフルオロプロピレン)及びPTFEポリマーのいずれか1つであってもよく、第4の混合物中のフッ素含有ポリマーの量は、0.1〜2重量%である。この方法ではまた、工程C1)において、無機酸化性化合物は、NaHSO
5、又はカリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム及びカルシウムのいずれか1つの塩化物、塩素酸塩、過塩素酸塩及び次亜塩素酸塩のいずれか1つであってもよく、Li受容体化学物質は、
AlPO
4、Li
3AlF
6及びAlF
3のいずれか1つであってもよい。より好ましくは、無機酸化性化合物及びLi受容体化学物質の両方は、Li
2S
2O
8、H
2S
2O
8、及びNa
2S
2O
8のいずれか1つである同じ化合物であってもよい。また、この方法では、工程C1)において、ナノサイズのAl
2O
3粉末が、更なるLi受容体化学物質として提供されてもよい。
【0023】
異なる方法の一実施形態では、ロータリーキルンでは、0.5〜3.5m
3/kg、好ましくは1.0〜2.5m
3/kgの空気流が適用される。異なる方法の別の実施形態では、第2の混合物を焼結する工程は、トレイコンベヤー炉内で実施されてもよく、各トレイは、少なくとも5kgの混合物を担持する。また、M’系前駆体を用意する工程と、LiOH、Li
2O及びLiOH.H
2Oのうちのいずれか1つとM’系前駆体を混合する工程との間で、M’系前駆体が、N
2下などの保護雰囲気中で200℃を超える温度で焙煎工程に供されることが好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、この焙煎工程の後、M’系前駆体中の遷移金属は、平均酸化状態>2.5及びH
2O<15重量%の含有量を有する。また、この焙煎工程の後、M’系前駆体中の遷移金属は、平均酸化状態>2.7及びH
2O<5重量%の含有量を有し得る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本特許は、第1の焼結が回転炉を使用して行われ、第2の焼結で焼結されたリチウム欠乏中間NMCをもたらす、改善された分割焼成方法を開示している。リチウム欠乏中間体の使用は、混合金属前駆体とリチウム源との間の反応速度を増加させる。したがって、温度を低下させることができる。リチウム欠乏生成物は、反応性が低いため、金属管の腐食は、低減される。良好な品質及び高スループットを有するNMCを生成するために、二重焼結法が行われる。まず、混合遷移金属源をLi源とブレンドし、次いで焼結する。この工程では、Li源はLi欠乏化学量論を提供し、LiMO
2中の遷移金属に対するLiの比(Li:M)は1未満である。次に、第2の焼結において、リチウム欠乏焼結前駆体をLiOH・H
2Oと混合して、Li:Mは、最終的な標的組成物に対してLi:M比を修正する。結果として、低可溶性塩基含有量を有する高Ni過剰NMCは、リチウム欠乏焼結前駆体を使用する二重焼結法を介して大規模製造で得られる。
【0026】
製造例1(先行技術の比較例)
以下の説明は、再焼結プロセスを通しての高Ni過剰NMC粉末の製造手順の実施例を提供し、これは前述のように、通常はLi
2CO
3又はLiOH・H
2Oであるリチウム源と、通常は混合遷移金属水酸化物M’(OH)
2又はオキシ水酸化物M’OOH(M’=Ni、Mn及びCOを伴う)であるがこれらの水酸化物に限定されない混合遷移金属源との間の、固体状態反応である従来型直接焼結プロセスを適用する場合のNMCの標準的製造手順の一例を示す。典型的な構成では、直接焼結法は、以下の工程を含む:
1)前駆体の混合物:リチウム源と混合遷移金属源との混合物を、乾燥粉末混合プロセスによって、Henschel Mixer(登録商標)中で30分間均質にブレンドする。
2)ブレンドをトレイ内で焼結する工程であって、粉末混合物がトレイに充填され、チャンバ炉内で乾燥空気雰囲気下で、900℃で10時間焼結される。乾燥空気は、20L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。
3)後処理工程であって、焼結後に、焼結されたケークが粉砕され、非凝集NMC粉末を得るために分類及びふるい分けされる。
【0027】
直接焼結は、トレイベースの炉内で一般的に行われる。Li成分の不均質な分布及び低い電気化学的性能をもたらす熱伝達制限を低減するためには、低いトレイロードが必要である本発明は、直接焼結法が、可溶性塩基があまりに多く存在することなく、低Ni過剰又は非Ni過剰のNMC材料(>0.25のNi過剰を有する)の大規模製造のために適用可能であることを観察している。
【0028】
製造例2(比較例)
この実施例は、リチウム欠乏焼結前駆体を提供して、大規模で二重焼結によって高Ni過剰のNMCを調製する。プロセスは、とりわけ2つの焼結工程を含む。
1)第1ブレンド:リチウムが欠損した焼結前駆体、Li
2CO
3及び混合遷移金属源を、ヘンシェルミキサー(Henschel Mixer)(登録商標)にて30分間、均質にブレンドする。
2)第1の焼結:第1の配合工程からの混合物を、試験規模の装置において、乾燥空気下で、900℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。第1の焼結後に焼結ケークを粉砕し、第2のブレンド工程のために準備ができた状態となるように分類してふるいにかける。この工程から得られた生成物は、リチウム欠乏焼結前駆体であり、LiM’O
2におけるLi:M’化学量論比は、1未満であることを意味する。この中間体生成物の組成は、標準ICP試験によって確認される。
3)第2のブレンド:リチウム欠乏焼結前駆体をLiOH・H
2Oとブレンドして、中間生成物中のLi化学量論をLi
1.017(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)
0.983O
2(NMC622)ブレンドを、ヘンシェルミキサー(登録商標)にて30分間実施する。
4)第2の焼結:工程3)からの混合物を、トレイベースの炉において、乾燥空気下で、850℃で10時間焼結する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。
5)後処理工程:第2焼結後に、焼結ケークを粉砕し、非アグロメレート化NMC粉末を得るために、分類してふるいにかける。
【0029】
製造例3(本発明の実施例)
本発明は、二重焼成法によって低可溶性塩基含有量を有する高Ni過剰のNMCを得るプロセスを開示し、
図1に示される。二重焼成は、リチウム欠乏中間NMC生成物(P1)を送達する第1の焼結(F1)と、最終リチウム金属酸化物(P2)を送達する第2の焼結と、を含む。まず、遷移金属前駆体(M1)をリチウム源(L1)と混合する。遷移金属前駆体は、水酸化物、オキシヒドロキシド、カーボネート、混合酸化物などから選択される。好ましいNi、Mn及びCoが存在し、原子スケールで十分に混合される。リチウム源は、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物又は酸化リチウムから選択される。リチウム源は、本質的にLI
2CO
3を含まない。更に、ドープされた最終材料を得るために、Al
2O
3、MgOのような添加剤(A1)を添加してもよい。添加剤は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などであり得る。予備焼成である第1の焼結工程(F1)が適用され、リチウム欠乏中間NMC生成物(P1)を提供する。その後、中間NMC生成物の予備焼成生成物を、追加のリチウム源(L2)とブレンドする。リチウム源は、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物又は酸化リチウムから選択される。リチウム源は、本質的にLi
2CO
3を含まない。加えて添加剤又はドーパント(A2)を添加してもよい。焼成である第2の焼結工程(F2)が適用され、最終リチウム遷移金属酸化物(P2)を提供する。
【0030】
大規模で高品質の高スループットでNMCを生成するために、第1の焼結は、回転炉又は窯内で実施される。これにより、不均一なLi:M組成効果が改善され、熱伝達問題が回転炉内で解決されるため、非常に高いスループットを可能にする。回転炉内の製品は、短い滞留時間を有する。回転炉の加熱ゾーンにおける典型的な滞留時間は、少なくとも20分、典型的には3時間未満である。滞留時間が短すぎる場合、反応は完了しない。滞留時間が長すぎる場合、スループットは不十分である。第1の焼結の典型的な温度範囲は、650℃〜850℃である。温度が低すぎる場合、反応は完了しない。温度が高すぎる場合、チューブの金属は、リチウム化NMCと反応する傾向がある。
【0031】
第1の焼結後の中間NMCは、リチウム欠乏である。最終リチウム遷移金属酸化物はLi:M’化学量論比が1に近い場合、中間NMCは、0.65〜0.94の標的Li:M’化学量論的範囲を有する。リチウム欠乏は、回転炉の加熱ゾーン内での短い滞留時間内でリチウム化反応を終了させることができる。リチウム欠乏はまた、リチウムと金属管との反応性を低下させるため、金属腐食を低減する。したがって、中間NMCのリチウム欠乏は、第1の焼結中に高いスループットを達成するために重要である。回転炉内の第1の焼結は、酸化ガス、好ましくは空気を使用する。しかしながら、高Ni過剰カソードが標的である場合、酸素は好ましい選択であり得る。一般的に、リチウム欠乏は、中間NMC中の炭酸塩不純物を低減することを可能にする。完全にリチウム化されたNMCは、空気からCO
2を取り込み、Li
2CO
3を形成するのに対し、リチウム欠乏NMCは、空気中のCO
2と反応しない、又は更には第1の焼結中にLi
2CO
3不純物を分解する傾向が強い。したがって、リチウム欠乏は、第1の焼結中に空気の使用に臨界的に連結される。
【0032】
第2の焼結中、リチウム欠乏NMCは焼結されて、最終リチウム遷移金属酸化物を得る。最初に、リチウム欠乏NMCをリチウム源とブレンドして、最終Li:M化学量論的目標値を得る。次いで、混合物を焼成して、良好な焼結生成物を得る。第2の焼結は、典型的には、セラミックトレイ及び好適な炉を使用して行われる。炉は、トレイの積み重ねが焼成される大型チャンバ炉であり得る。より好適なのは、製品を備えたトレイが炉を横切って搬送される、ローラーハースキルンである。あるいは、トレイの積み重ね体を有するカートが炉にわたって輸送される場合、プッシャキルンを適用することができる他の炉設計も同様に適用することができる。回転炉は、あまり望ましくない。回転炉は、良好に焼結された高品質製品を達成することができない短い滞留時間を有する。回転炉に連結された別の問題は、焼結温度である。第2の焼結中に必要とされる焼結温度は比較的高く、滞留時間が短い場合には、依然としてより高い温度が必要となる。そのような条件下では、金属管は、リチウム化された生成物と反応する傾向があり、金属腐食が観察される。第2の焼結NMC粉末が、低可溶性塩基を有する、大規模で達成される。
【0033】
本発明は、リチウム欠乏焼結生成物の特性が、最終製品の性能に強く影響を及ぼすことを観察している。特に、最終製品の可溶性塩基含有量は、第1の焼結中の条件に強く関連する。第1の加熱処理焼結温度、焼結時間、トレイロード、及びリチウム対混合遷移金属の比は、高品質の最終製品を高スループットで得るように適切に選択され得る。例えば、リチウムと金属源との比が高すぎる場合、混合遷移金属源とリチウム源との間の反応は終了せず、反応していないリチウム源及び溶融していないリチウム源が炉の内壁を攻撃する可能性がある。同時に、NMC材料の凝集及び空気からのCO
2の取り込みを引き起こし、これは電池における乏しいサイクル性能を誘導する。逆に、リチウムと金属との比が低すぎる場合、第2の焼結中に中間生成物中のLi化学量論を最終目標組成に調整するために大量のリチウムが必要とされる。リチウム源は、加熱中に過剰な蒸気発生を引き起こすため、最終生成物は不均質な化学組成を有する。したがって、第1の焼成中のリチウムと金属との比は、高品質NMC生成物を製造するために最適化されなければならない。リチウム欠乏焼結前駆体を使用するNMC生成物の特性は、様々なパラメータ:第1の焼結工程後の生成物の結晶サイズ、Li
2CO
3含有量及び最終製品のサイクル性能によってチェックされる。
【0034】
更に、最終NMC材料中のLi
2CO
3含有量を低減するために、リチウム源としてのLiOH・H
2Oを、第1及び第2の焼結工程の両方において使用することができる。回転式及びトレイ式炉の組み合わせを使用する二重焼結は、低コストで低可溶性塩基含有量を有するNMC生成物の大規模生産を提供する。したがって、スループットは、製造例1に記載の直接焼結方法と比較してはるかに高く、コンベヤー炉のみに基づいて実施例2を製造する二重焼結方法と比較してはるかに高い。したがって、本発明のリチウム欠乏焼結前駆体の使用及び二重焼成法の適用は、Ni過剰NMCに対して効率的な製造方法である。
【0035】
本発明では、最終製品中の可溶性塩基を低減するために、第1の混合中に使用される混合遷移金属源は、焙煎されてもよい。第1焼成中に発生する蒸気の量を低減することが有用であり得る。混合水酸化物M’(OH)
2前駆体が、例えば250℃で焙煎される場合、M’OOH型前駆体が得られ、これにより発生するH
2Oは少ない
。別の実施例では、前駆体は、375
℃で焙煎される場合、混合酸化物は主に達成され、これは相当量の蒸気を発生させない。焙煎は、空気、酸素、窒素、又は動的真空で実行することができる。焙煎混合遷移金属源をLiOH・H
2Oとブレンドし、次いで、リチウム欠乏焼結前駆体の形成のために焼結される。ロースト混合遷移金属酸化物を使用するとき、可溶性塩基含有量が低い最終NMC材料は、大規模生産において得られる。
【0036】
第1の焼結中に、焼成時間はまた、最大の限度に向かって反応処理を保証するように最適化されてもよい。実施形態において、加熱及び冷却を含める総焼結時間は、NMCの大規模生産には、12〜20時間の範囲に設定される。第1の焼結後に、リチウム欠乏焼結前駆体が得られる。この前駆体は、Li
2CO
3不純物の低含有量を有する。実施形態では、pH滴定により、Li
2CO
3含有量が<0.40重量%、好ましくは<0.20重量%であると決定される。中間体生成物は、規則的又は不規則な岩塩結晶構造を有する単相のリチウム遷移金属酸化物である。この組成はLi
1−xM
1+xO
2であると考えられる。一実施形態では、Li:M化学量論比は、0.48〜0.94、好ましくは0.7〜0.9である。金属組成は、Li
1−a((Ni
z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2であり、式中、x+y+z=1であり、0.1≦x≦0.4であり、0.25≦z≦0.52であり、Aはドーパントであり、0≦k≦0.1であり、0.03≦a≦0.35である。この前駆体は、Ni過剰含有量zに依存する、nmで表される結晶子サイズLを有し、15≦L≦36である。ドーパントは、Ti、Mg、W、Zr、Cr、V及びAlのうちの1つ以上であってもよい。これらのドーパントは、前駆体から作製された最終カソード材料を含有する電池の性能及び安全性の改善に寄与し得る。
【0037】
本発明では、第1の焼結のための回転炉を使用する二重焼結方法は、NMCのスループットを増大させ、コンベヤー炉よりもはるかに少ない空間を使用する。投資コストが必要な空間とほぼ相関するため、回転炉の投資は、コンベヤー炉の投資よりもはるかに小さい。更に、前駆体及びリチウム源は、容易に充填され、回転炉内に充填され得、一方、コンベヤー炉は通常、複雑なトレイ充填設備を必要とする。したがって、第1の焼結のための回転炉に基づく二重焼結方法の使用は、最終NMC生成物のスループットを強化し、投資コストを劇的に削減する。
【0038】
表面コーティング実施例1
再び
図1を参照すると、アルミニウムコーティングされたNMCは、最終リチウム遷移金属酸化物粉末(F3)、及び例えばアルミニウム源(A3)を混合及び焼結することによって得られる。この工程におけるアルミニウム源は、TiO
2、MgO、WO
3、ZrO
2、Cr
2O
3、V
2O
5及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物と組み合わせることができる金属酸化物(Al
2O
3)であり得る。アルミニウムの好ましい源は、ナノスケールのアルミナ粉末、例えばヒュームドアルミナである。加熱工程では、混合物を約750℃で加熱する。焼結時間は、好ましくは少なくとも3時間、より好ましくは少なくとも5時間である。最終生成物は、0.3モル%を超えるが3.0モル%未満のAl含有量を有し得る。
【0039】
表面コーティング実施例2
再び
図1を参照すると、アルミニウム及びフッ素コーティングされたNMCは、アルミニウム源(前述のように)及びフッ素含有ポリマー(A3)を使用して、混合及びその後の焼結(F3)によって得られる。このようなポリマーの典型的な例は、PVDFホモポリマー又はPVDFコポリマー(HYLAR(登録商標)又はSOLEF(登録商標)PVDFなど、共にSolvay SA,Belgium製)である。別の既知の、PVDFベースのコポリマーは例えば、PVDF−HFP(ヘキサフルオロプロピレン)である。このようなポリマーは多くの場合、名称「Kynar(登録商標)」で知られている。テフロン(登録商標)(即ちPTFE)もまた、ポリマーとして使用することができる。焼結工程の場合、混合物の焼結温度は、少なくとも250℃、好ましくは少なくとも350℃である。焼結時間は、好ましくは少なくとも3時間、より好ましくは少なくとも5時間である。焼結工程において、ヒュームドアルミナの結晶構造は、コーティングプロセス中に維持され、リチウム金属酸化物コアを取り囲むコーティング層中に見出される。また、含フッ素ポリマーは完全に分解してフッ化リチウムが形成し、これは粒子の表面層で発見される。得られた表面層は以下の機能を有する:LiFを含む薄層は、反応性表面塩基層を置き換えることにより、コアの表面の塩基含量を実用的にゼロまで低下させ、全体の安全性を改善する。
【0040】
表面コーティング実施例3
再び
図1を参照すると、アルミニウム及び硫酸塩でコーティングされたNMCは、アルミニウム源(前述のように)及び硫黄含有源(A3)を使用して、混合及びその後の焼結(F3)によって得られる。この工程における硫黄含有源は、Li
2S
2O
8、H
2S
2O
8及びNa
2S
2O
8のいずれか1つであり得る。焼結工程において、ブレンドは、空気下で300〜500℃、好ましくは375℃の間で加熱される。焼結時間は、好ましくは少なくとも3時間、より好ましくは少なくとも5時間である。最終生成物は、サルフェート及びアルミニウムのコーティングを含有し、これは、可溶性表面ベース化合物の分解による電池性能を改善する。
【0041】
分析方法の説明
A)pH滴定試験
可溶性塩基含有量は、WO2012−107313で説明されるように、表面と水の間の反応生成物の分析によって定量的に測定され得る材料表面特性である。粉末が水に浸されると、表面反応が起こる。反応中、水のpHは(塩基性化合物が溶出するにつれて)増加し、塩基はpH滴定によって定量される。滴定の結果は、「可溶性塩基含有量」(SBC)である。可溶性塩基の含有量は以下の通りに測定される:2.5gの粉末を、100mLの脱イオン水中に浸し、密閉ガラスフラスコ内で10分間撹拌する。撹拌して塩基を溶解した後に、水中の粉末の懸濁液を濾過して、透明な溶液を得る。次いで、90mLの透明溶液は、撹拌しながらpHが3に達するまで、0.5mL/分の速度で0.1MのHCIの添加中にpHプロファイルを記録することによって滴定される。参照電圧プロファイルは、DI水中に低濃度で溶出したLiOH及びLi
2CO
3の適切な混合物を滴定することによって得られる。ほとんど全ての場合において、2つの異なるプラトーが観察される。pH8〜9の間の終点y1(mL)を有する上部プラトーはOH
−/H
2O、続いてCO
32−/HCO
3−であり、pH4〜6の間の終点y2(mL)を有する下部プラトーはHCO
3−/H
2CO
3−である。第1プラトーと第2プラトーの間の変曲点γ1並びに第2プラトーの後の変曲点γ2は、pHプロファイルの微分係数d
pH/d
Volの対応する最小値から得られる。第2の変曲点は一般にpH4.7に近い。次いで、結果は、以下のように、LiOH及びLi
2CO
3の重量パーセントで表される。
【0043】
B)原子価状態滴定試験
本発明では、製品の平均価数状態は、Mettler Toledo Autotitrator DL70ESを用いた自動滴定によって決定される。滴定物は、0.01493mol/Lの濃度のクロム酸カリウム水溶液で新たに作製される。滴定調製の前に、K
2Cr
2O
7を104℃で2時間乾燥させる。還元剤は、新鮮に調製された硫酸鉄水溶液である。まず、156.85gのFe(NH
4)
2(SO
4)
2をビーカー内で秤量する。約250mlのナノ純水及び約5mlの1:1硫酸が添加される。溶解プロセスを加速させるために、熱を適用することができる。その後、溶液を1lのメスフラスコに移し、使用前に20℃でマークされた体積に希釈する。0.5g〜3.0gのNMC前駆体試料を、消化管に計量する。20mlの新たに作製されたFe(NH
4)
2(SO
4)
2溶液及び10mlの濃縮HCLを消化管に添加する。本明細書では、試料の完全な消化のために熱を適用することができる。溶液を100mlのメスフラスコに完全に移し、20℃の体積マークに希釈する。その後、この溶液10mlを、5mlの1:1HCl及び40mlのナノ純水と共に、滴定カップ内にピペットで入れる。NMC前駆体試料溶液は、ここで価数滴定の準備が整っている。同じ手順を繰り返して、同様の条件下で、正確に同じ量のFe(NH
4)
2(SO
4)
2溶液、濃縮HCL、1:1HCl、同様の条件下でナノ純水を使用して、参照試料溶液(NMC前駆体を含まない)を調製する。上記の調製されたK
2Cr
2O
7溶液を使用して、METTLER Toledo Autotitrator DL70ESを使用することによって、NMC前駆体試料溶液及び参照試料溶液の両方を滴定する。消費された滴定量を各滴定のために記録する。体積の差は、価数状態の計算に使用される。
【0044】
C)カールフィッシャー滴定試験
乾燥後の前駆体試料の典型的な水分含量は、1重量%未満であり、250℃でKarl Fischerによって決定される。KF 34739−Coulomat AG Ovenを試薬として使用し、試料中の水が除去されるまで添加する。
【0045】
D)X線回折試験
本発明では、NMC材料の結晶化度は、X線回折パターンから結晶子サイズ及び格子歪みを決定することによって評価される。回折パターンは、Rigaku X−Ray Diffractometer(D/MAX−2200/PC)で収集される。走査速度は、1度毎分の連続走査で設定される。ステップサイズは、15〜85度の間で0.02度のスキャンが行われる。
【0046】
完全結晶化度から誘導される結晶子サイズは、回折ピークのブロード化をもたらす。これは歪みの場合も同じであり、歪みは、Δd/dによって表される、単位セル10の、その長さによって割られた変形として定義される。不均一な格子歪みは、原子の全体的なシフトを引き起こし、ピークのブロード化をもたらし得る。したがって、個々の回折ピークの幅の分析を通して、結晶子サイズ及び格子歪みを得ることができる。
【0047】
「Acta Metallurgica,1,22〜31(1953)」において、ウィリアムソン及びホールは、回折ピークの積分幅から結晶子サイズ及び歪みの情報を抽出する方法を提案した。この方法は、ブラッグ角(θ)と結晶子サイズ及び格子歪みから生じるピークのブロード化との間の近似的関係に基づくものであり、以下の式を伴い、
【0049】
式中βは、ピークの積分幅を表し、εは格子歪みであり、Lは、結晶子サイズであり、λは放射波長であり、C及びKは、多くの場合それぞれ4及び0.9となる定数である。積分幅(β)とcosθとの積をsinθの関数として見ることによって、格子歪み及び結晶子サイズは、それぞれ、この式に適合する線の勾配及び切片から推定することができる。積分幅(β)は、選択された回折ピークの同じ高さ(最大強度)及び面積(積分強度)を有する長方形の幅である。この面積は、台形法則によって近似的に積分されることができ、高さは、回折パターンの生データから容易に得ることができるために、このウィリアムソン−ホール(W−H)法によって、各回折ピークの積分幅を推定し、結晶子サイズ及び格子歪みを更に決定することは実行可能である。
【0050】
本発明においては、それぞれ17°〜20°及び43°〜45.5°での(003)及び(104)ピークが、結晶子サイズ及び歪みを算出するために選択される。回折ピーク(003)の積分幅及びブラッグ角は、β
1及びθ
1で表され、一方回折ピーク(104)の積分幅及びブラッグ角は、β
2及びθ
2で表される。結晶子サイズL及び格子歪みεは、以下の式により、切片及び勾配から得ることができる:
【0052】
式中、y
2は、β
2とcosθ
2との積として定義され、y
1は、β
1とcosθ
1との積として定義される。x
2及びx
1は、それぞれ、sinθ
2及びsinθ
1の値である。
【0053】
Li
1−a((Ni
Z(Ni
1/2Mn
1/2)
yCo
x)
1−kA
k)
1+aO
2の構造モデルが、3a部位のLi、3b部位にランダムに配置されたNi、Co、及びMn、並びに6c部位上の酸素原子を有する、α−NaFeO
2構造(空間群R−3m、no.166)であることが知られている(一般的には、NMC化合物は、[Li]3a[Ni
xCo
yMn
z]
3b[O
2]
6cとして表すことができる)。しかしながら、本発明は、リチウム欠乏焼結前駆体が、Liの3a部位(大部分はLi原子によって埋められた層内の部位)上に大量のNiが存在することを意味するカチオン混合の現象を有することを観察している。これが、我々のリチウム欠乏焼結前駆体を、充電/放電中に得られる通常のリチウム欠乏物質と差別化する。後者は、基本的に、カチオン混合をほとんど有さない。一般的に、Li/M不規則性の程度は、「J.Electrochem.Soc.140(1993)1862」に示されるように、ピーク(003)強度(1003と称される)対1104(=ピーク(104)の強度)の比によっておおよそ推定することができる。1003対1104の大きな比は、低いLi/M不規則性の程度を意味する。カチオン混合の系統的な研究は、Solid State Ionics44(1990)87〜97においてJeff Dahnによって記載されている。米国特許第6,660,432(B2)号は、Li過剰の遷移金属酸化物物質上のLi/M不規則性の程度を評価するために、この方法の拡大適用を提供している。この方法の着想は、35°〜37.2°においてピーク(101)の強度I101が、急速に減衰するのに対し、37.2°〜39.2°においてピーク(006)及びピーク(102)の組み合わせ強度(I006&I102)は、Ni原子が「Li部位」を占有するときに強くなるという事実に由来する。したがって、I006&I102対I101の比を表す因子Rが導入される。Dahnの論文では、Li
xNi
2−xO
2物質中のxが減少すると、R因子が急激に増加することが立証されている(ここでは、1−xは、カチオン混合の程度を指す)。Rとxとの間の関係を表すために、式が以下の通りに推論される。
【0055】
カチオン混合の程度(1−x)は、Rに相当し、この式によるR値から決定することができる。
【0056】
本発明では、上記のこの2つの方法が、リチウム欠乏焼結前駆体及びこれらの前駆体に基づく最終製品のカチオン混合の程度を評価するために用いられる。比I003/I104及びRの値は、以下に論じられる。カチオン混合の程度は、最終製品に比べると、リチウム欠乏焼結前駆体においてより高いことが観察されている。比I003/I104及びRの値を計算するために、積分XRDピークを使用する。
【0057】
E)コイン電池試験
コイン電池は、不活性ガス(アルゴン)で満たしたグローブボックス内で組み立てる。セパレータ(SK Innovation)を、正極と、負極としてのリチウム箔との間に配置する。EC/DMC(1:2)中の1MLiPF6を電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。各セルを、Toscat−3100コンピュータ制御ガルバノスタティックサイクリングステーション(東洋製)を用いて25℃でサイクルする。NMC試料を評価するために使用したコイン電池試験スケジュールを表1に詳述する。このスケジュールでは、160mA/gの1C電流定義を使用し、以下のように3つの部分で構成される。
パートIは、4.3〜3.0V/Liの金属窓範囲での0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C及び3Cにおけるレート性能評価である。初期電荷容量CQ1及び放電容量DQ1が定電流モード(CC)で測定される第1のサイクルを除いて、全て後続サイクルは、0.05Cの終止電流基準を有する充電の間、定電流−定電圧の特徴を示す。第1のサイクルに関する30分間、及び全ての後続サイクルに関する10分間の静止時間(rest time)が、各充電と放電との間で許容される。不可逆容量Q
irrは、%単位で表される。
【0059】
0.2C、0.5C、1C、2C及び3Cにおけるレート性能は、次のように、nC=0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cに対してそれぞれn=2、3、4、5及び6を有する保持放電容量DQn間の比として表される:
【0063】
パートIIは、1Cにおけるサイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧は、4.5V/L金属として設定される。
4.5V/Lの金属における放電容量は、サイクル7及び34において0.1Cであり、またサイクル8及び35において1Cで測定される。0.1C及び1Cにおける容量低下は次のように計算され、100サイクルあたりの%で表される:
【0065】
0.1C及び1Cにおける容量低下は次のように計算され、100サイクルあたりの%で表される。
【0069】
パートIIIは、4.5〜3.0V/Li金属間の、充電に関する1Cレート及び放電に対する1Cレートを用いた、加速サイクル寿命の実験である。容量及びエネルギーの減衰は以下のように計算される。
【0072】
以下の実施例は、本発明をより詳細に例示する。
【0073】
説明実施例1:直接及び二重焼結を用いて調製されたNMC試料
上記の「製造例1」に従って、Li
2CO
3をLi源として用いて、NMC粉末を調製する。この試料を、NMC P1.1とラベルを付けた。また、NMC粉末は、第1及び第2の焼結のためのコンベヤー炉に基づいて、「製造実施例2」と同様に調製され、NMC P1.2とラベル付けされる。最後に、NMC粉末は、「製造実施例2」によって調製されるが、第1の焼結中に回転炉を使用し、NMC P1.3とラベル付けされる。本発明の全ての実施例、混合ニッケル−マンガン−コバルト水酸化物(M’−水酸化物、特に言及しない限りM’=Ni0.6Mn0.2Co0.2)を前駆体として使用し、M’−水酸化物は、混合ニッケル−マンガンコバルト硫酸塩、水酸化ナトリウム、及びアンモニアを含む大規模連続撹拌槽反応器(CSTR)中の共沈によって調製される。この場合、M’−水酸化物の一般式は、(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)(O)
v(OH)
wであり、0≦v≦1であり、v+w=2である。
【0074】
図2は、これらのNMC材料のpH滴定結果を提示しており、最終NMC試料中の炭酸リチウムの重量割合がプロットされている。しかしながら、調製された粉末は、塩基含有量において大きな差異を有する。NMC PL.2試料は、使用される二重焼結法がLi欠乏前駆体と組み合わされるので、NMC P1.1よりも低い炭酸リチウムを有する。上述のように、二重焼結方法中の第1の焼結工程のための回転炉は、NMCの大規模生産に好適であるが、NMC P1.3試料は、他の2つの試料よりも高い残留炭酸リチウム含有量を有する。したがって、第1の焼結のためのリチウム源としてLi
2CO
3の代わりにLiOH・H
2Oが、NMCの調製中のそのより低い熱力学的安定性によって可溶性塩基含有量を低減し、良好な電気化学的性能をもたらすかどうかを調査することが有用である。以下の実施例は、これを詳細に説明する。
【0075】
説明実施例2:前処理された遷移金属源を使用して調製したNMC試料及び直接焼結
NMC粉末は、プリスチン混合遷移金属水酸化物タイプ源及びLiOH・H
2Oを使用した直接焼結方法に基づいて調製される。この試料は小規模に調製され、NMC P2.1とラベル付けされる。別のNMC粉末は、直接焼結を使用して大規模で前処理された混合遷移金属源を使用して調製され、NMC P2.2とラベル付けされる。金属源の前処理のために、混合遷移金属酸化物をオーブン内でN2雰囲気下で150℃で加熱する。最後に、NMC粉末は、前処理された金属源の加熱温度が250℃であることを除いて、NMC P2.2と同じ工程を使用して製造される。これをP2.3とラベル付けする。前処理された遷移金属源自体の特性も調査するために、遷移金属源を、それぞれNMC P2.1a(加熱されていない)、NMC P2.2a(150℃で加熱)、及びNMC P2.3a(250℃で加熱)とラベル付けした。
図3は、前処理された遷移金属試料のXRDパターンを示す。加熱後、供給源のXRDピークがシフトし、これは酸化状態が変化したことを意味する。表2では、前処理された遷移金属試料の特性を詳細に示す。酸化状態の値は、「価数状態階層」法を使用して計算される。
【0077】
NMC P2.1aは、式(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)(O)
0.17(OH)
1.83に対応する2.17の酸化状態を有する。150℃で加熱した後、NMC P2.2aの酸化状態は2.53であり、式は(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2)(O)
0.53(OH)
1.47となる。NMC P2.3aの酸化状態は2.71であり、式は(Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2(O)
0.71(OH)
1.29になる。
【0078】
前処理温度を上昇させることにより、遷移金属源は、プリスチン源よりも高い酸化状態を有する。また、前処理された前駆体の含水量を調査するために、300℃で加熱した後、それらのH
2O%含量を分析する。NMC P2.3aは、最低含水量を有する。加熱温度を上昇させることにより、前駆体の質量損失は、初期重量と比較して増加する。表3は、NMC P2.1、P2.2、P2.3のpH滴定及びコイン電池の結果をまとめている。
【0080】
最終NMC P2.2試料中の炭酸リチウムの重量パーセントを0.3061重量%と決定し、これは、NMC P2.1と比較して非常高い量である。NMC生成物は、大規模での直接焼結によって調製されるため、大量の炭酸リチウムを含有する。したがって、低H
2O含有量を有する焙煎遷移金属源を使用することにより、NMC P2.3試料に関して示されるように、可溶性塩基の量を低減することができる。
【0081】
一般的に、最終NMC材料中の高可溶性塩基の存在及びLi
2CO
3の含有量は、サイクル性能を悪化させる。コイン電池試験は、0.1C及び1Cにおける容量フェードに基づいて、NMC P2.1、NMC P2.2、及びNMC P2.3試料のサイクル安定性を評価する。これは、NMC P2.1が、25サイクル後に、0.1Cにおいて1サイクル当たり放電容量の0.015%の損失を有し、1Cについては0.059%の損失を有することを示しているNMC P2.2は、25サイクル後に、0.1Cにおいて1サイクル当たり放電容量の0.044%の損失を有し、1Cについては0.102%の損失を有する。150℃で加熱された混合遷移金属酸化物が、大規模生産のための金属源として使用される場合、その高い炭酸リチウム含有量によりサイクル性能が悪化することを示している。更に、前処理された金属源を250℃で使用して調製されたNMC P2.3の場合、NMC P2.2よりも優れたサイクル安定性を有する。したがって、大規模生産のために、高温前処理遷移金属源を使用することにより、電池性能を向上させたNMCを製造することができる。
【0082】
実施例1:二重焼結を用いて調製されたNMC試料
M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co0.2を有する式Li
1.017M’
0.983O
2を有するNMC粉末は、L:M=0.921の比を有するリチウム欠乏焼結前駆体から、上記の「製造実施例3」:工程F1及びF2)によって製造される。
【0083】
第1の焼結工程では、LiOH・H
2Oをリチウム前駆体として使用して、回転炉内にLi欠乏前駆体を製造する。遷移金属源とリチウム前駆体との混合物を、820℃で2時間の滞留時間、及び2m
3/kgの
割合を有する乾燥空気下で1.316rpmの回転速度で焼結する。チャンバ炉内の乾燥空気環境下にて、860℃にて10時間第2ブレンドを焼結する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。第1焼結後の上記の調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E1pとラベル付けし、第2焼結後の最終NMC試料をNMC E1とラベル付けする。
【0084】
図4は、NMC E1p及びNMC E1のXRDパターンを示す。ブラッグピーク(003)、(101)、(104)、及びダブレットピーク(006、102)は、その順序でパターン中で最も高い。これらのピークの強度に基づいて、表4は、NMC E1p及びNMC E1試料のI003/I104の比及びR因子をまとめている。
【0086】
上述したように、I003/I104の比は、Liの遷移金属に対する不規則性の程度を反映している。I003/I104の大きな値は、歪みの小さい程度を示す。前駆体試料のNMC E1pは、小さいI003/I104比を有し、このことは、NMC E1p中のより多くのカチオン混合及びLi部位上により多くのNiが存在することを意味する。R因子を比較するときに、同じ観測を行うことができる。リチウム欠乏焼結前駆体は、最終製品と比べると、より高いR因子を有する。上述したDahnの論文で論じられたように、高いR因子は、Li及び遷移金属の高い不規則性を意味する。このように、NMC E1pにおけるRのより高い値は、リチウム欠乏焼結前駆体において、Li部位上により高い割合のNiが存在することを確証している。表5は、NMC E1.の電気化学的性能及び可溶性塩基含量を要約する。
【0088】
NMC E1試料は、NMC P1.1、P1.2、及びP1.3.よりもはるかに少ない重量パーセントの炭酸リチウムを含有する。これは、25サイクル後に、0.1Cにおいて1サイクル当たり放電容量の0.008%の損失があり、1Cについては0.054%の損失があることを示している。
【0089】
実施例2:焙煎遷移金属源及び二重焼結を使用して調製されたNMC試料
Li
1.017M’
0.983O
2の式を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2であるNMC粉末が、リチウム欠乏焼結前駆体が比Li:M=0.885であり、混合遷移金属源は、オーブン内でN2雰囲気下で250℃で24時間焙煎した後に使用される以外は実施例1の工程を使用して調製される。第1の焼結工程では、遷移金属源とLiOH・H
2Oとの混合物を、820℃で2時間の滞留時間及び0.628rpmの回転速度で、回転炉内で1.67m
3/kgの
流量で焼結される。チャンバ炉内の乾燥空気環境下にて、865℃にて10時間第2ブレンドを焼結する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。第1の焼結工程後の上記の調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E2pとラベル付けし、第2の焼結工程後の最終NMC試料をNMC E2とラベル付けする。
図5は、NMC E2p及びNMC E2のXRDパターンを示す。ブラッグピーク(003)、(101)、(104)及び二重項ピーク(006、102)が明らかに示されている。これらのピークの強度に基づいて、表6は、NMC E2p及びNMC E2試料のI003/I104の比及びR因子をまとめている。
【0091】
比I003/I104に目を向けると、NMC E2pにおいてより多くのカチオン混合があり、より多くのNiがLi部位にあることを結論付けることができる。R因子を比較するときに、同じ観測を行うことができる。このように、NMC E2pにおけるRのより高い値は、リチウム欠乏焼結前駆体において、Li部位上により高い割合のNiが存在することを確証している。表7は、NMC E2の電気化学的性能及び可溶性塩基含量を要約する。
【0093】
NMC E2試料は、NMC P1.1、P1.2、及びP1.3よりも少ない重量パーセントの炭酸リチウムを示す。これは、25サイクル後に、0.1Cにおいて1サイクル当たり放電容量の0.002%の損失があり、1Cについては0.054%の損失があることを示している。したがって、焙煎遷移金属源を使用する二重焼結方法は、NMC生成物のサイクル特性を強化する。
【0094】
実施例3:低比のLiを有する中間生成物を使用して調製されたNMC試料:M
式Li
1.017M’
0.983O
2を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2であるNMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体が比Li:M=0.718を有する以外は、実施例2(予備焙煎を含む)における工程に従って得る。第1の焼結工程では、遷移金属源とLiOH・H
2Oとの混合物を、820℃で2時間の滞留時間及び0.628rpmの回転速度で、回転炉内で1.67m
3/kgの
流量で焼結される。チャンバ炉内の乾燥空気環境下にて、855℃にて10時間第2ブレンドを焼結する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。上記の調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E3pとラベル付けし、最終NMC試料をNMC E3とラベル付けした。
【0095】
実施例4:低比のLi:Mを有する中間生成物を使用して低温で調製されたNMC試料
式Li
1.017M’
0.983O
2を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2であるNMC粉末を、720℃の低い第一焼結温度で調製されるので、リチウム欠乏焼結前駆体がLi:M=0.723を有する以外は実施例2における工程(予備焙煎工程を含む)に従って調製する。第1の焼結工程では、遷移金属源とLiOH・H
2Oとの混合物を、720℃で2時間の滞留時間及び0.628rpmの回転速度で、回転炉内で1.67m
3/kgの
流量で焼結される。トレイ系炉内の乾燥空気環境下にて、845℃にて10時間第2焼結を実施する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。第1の焼結後の上記の調製されたリチウム欠乏焼結前駆体をNMC E4pとラベル付けし、第2焼結後の最終NMC試料をNMC E4とラベル付けした。
【0096】
図6は、NMC E3p及びNMC E4pのX線回折パターンを示し、ここで中間体とは、第1の焼結後に得られたLi欠乏NMC粉末を意味する。XRDパターンは、明白な不純物を含まない単相NMC粉末を開示している。図では、(003)及び(104)回折ピークを使用して、W−H法による結晶子サイズL及び格子ひずみを計算する。
図7は、NMC E3及びNMC E4試料のコイン電池の結果を示し、ここで四角形記号はNMC E3について、円形記号はNMC E4についてである。NMC E4は、NMC E3と同様であるがわずかに良好なサイクル安定性を有することが観察され、表8は、NMC E3及びE4の電気化学的性能及び可溶性塩基含量を要約する。
【0099】
これらの試料は、同じ二重焼結方法を使用して作製され、唯一の差は、第1の焼結において異なる焼結温度条件であり、その結果、リチウム欠乏焼結前駆体の異なる結晶サイズ及び格子ひずみをもたらす。820℃の低い第1の焼結温度で製造される場合、NMC E3は、33.8nmの結晶子サイズを有する。焼結温度を100℃低下させると、NMC E4の結晶子サイズは31.1nmになる。
【0100】
実施例5:第2の焼結中に高いトレイロードを使用して調製されたNMC試料
式Li
1.017M’
0.983O
2を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2であるNMC粉末を、リチウム欠乏焼結前駆体がL:M=0.93の比を有し、第2の焼結中に7kgの高トレイロードで調製される以外は実施例1の工程を使用して調製する。トレイ上のブレンドの量は、3.5kgであった実施例1の2倍である。表9は、NMC E5の電気化学的性能及び可溶性塩基含量を要約する。
【0102】
NMC E5試料は、NMC材料が高いトレイロードで調製されるため、他のNMC試料よりも高い重量パーセントの炭酸リチウムを示す。それにもかかわらず、25サイクル後の0.1Cでのサイクル当たりの放電容量の損失、及び1Cに対する0.041%損失を示さないため、良好な電気化学的性能を呈する。したがって、本発明による二重焼結方法を用いることにより、大規模製造においても良好なサイクル安定性を有するニッケル過剰のNMC粉末を得ることができる。
【0103】
実施例6:AlコーティングしたNMC試料
AlコーティングされたNMC試料NMC E6は、実施例1及び「表面コーティング実施例1」の工程を使用して得られる。ナノメートルアルミナ粉末(1kgのNMC当たり2gのアルミナ)と混合した後、ヘンシェル型ミキサー中での均質ブレンド、及び750℃での焼結(滞留時間が約5時間である)の後、NMC粉末は、表面上のAl層によって包囲される。
【0104】
実施例7:Al/FコーティングしたNMC試料
Al/FコーティングされたNMC試料NMC E7は、実施例1の工程及び「表面コーティング実施例2」を使用して得られる:1kgのNMC粉末を、ミキサー(この実施例では、2Lヘンシェル型ミキサー)に充填し、2gのヒュームドアルミナ(Al
2O
3)ナノ粉末及び3gのポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉末も加えられる。均一に混合(通常、1000rpmで30分間)した後、この混合物を箱形炉中の酸化雰囲気中で焼結する。焼結温度は、375℃であり、滞留時間は、約5時間である。結果として、NMC粉末は、表面上にAl/F層を有する。
【0105】
図8は、NMC E6、及びNMC E7試料のコイン電池の結果を示し、ここで四角形記号はNMC E6について、四角形記号はNMC E7についてである。NMC E6のサイクル安定性は優れており、図から、NMC E7は、NMC E6よりも良好な放電容量及びサイクル安定性を有することが観察され得る。更に、NMC E7は、0.104重量%の低炭酸リチウム含有量を有し、NMC E2中の含有量は0.196重量%である。したがって、Al/F層は、最終生成物中の可溶性塩基の量を低減し、NMC表面と電解質との間の望ましくない副反応に対して表面を安定化させ、その結果、サイクル性能が向上する。
【0106】
実施例8:焙煎遷移金属源を用いて調製されたAlコーティングされたNMC試料
AlコーティングされたNMC試料NMC E8は、実施例2及び「表面コーティング実施例1」(実施例6のような)を使用して得られる。アルミニウム源と焼結との混合後、NMC粉末は、表面上のAl層によって包囲される。
【0107】
実施例9:焙煎遷移金属源を用いて調製されたAl/FコーティングされたNMC試料
AlコーティングされたNMC試料NMC E9は、実施例2及び「表面コーティング実施例2」(実施例7のような)から得られる。アルミニウム源及びフッ素含有ポリマーとの混合後、及びその後の焼結後、NMC粉末は、表面上にAl/F層を有する。
【0108】
図9は、NMC E8及びNMC E9試料のコイン電池の結果を示し、ここで四角形記号はNMC E8について、円形記号はNMC E9についてである。NMC E8のサイクル安定性は優れており、図から、NMC E9は、NMC E8よりも優れたサイクル安定性を有することが観察され得る。予備焙煎遷移金属源によって調製されたNMC生成物は、Al/F層によって最終NMC生成物中の可溶性塩基の含有量が低減され、NMC表面と電解質との間の安定性が改善されている。したがって、これは、改善されたサイクル性能を示す。
【0109】
実施例10:第1の焼結中に様々な空気流条件を使用して調製されたNMC試料
式Li
1.017M’
0.983O
2を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2である、NMC粉末を、実施例2の手順に従って調製する。この例では、第1焼結のための回転炉では、空気流条件が0.5〜2m
3/kgの範囲に設定される。0.5m
3/kgの空気流の場合、試料はNMC E10.1とラベル付けされる。空気流が1.0及び2.0m
3/kgであるとき、試料は、それぞれNMC E10.2&10.3として標識される。
図10は、最終NMC生成物中の総塩基含有量を示す。図に示されるように、第1の焼結中の空気流が0.5m
3/kgである場合、生成されたCO
2ガスを完全に排出するのに十分ではないように思われる低い空気流に起因する可能性があり、最終生成物中の炭酸リチウムの量が大きくなる。空気流が1.0m
3/kg及び2.0m
3/kgである場合、全塩基のより良好な変動を有する。したがって、可溶性塩基の形成を最小限に抑えるために、1.0m
3/kg以上の空気流を使用することが好ましい。
【0110】
図11は、第1の焼結後の、生成物の様々な試料におけるLi:M化学量論比を示す。0.5m
3/kgなどの
遅い空気流の場合、調製中にCO
2ガスが不完全に除去されると、不均質な組成物が生じる。空気流が1.0m
3/kg以上である場合、より良好なLi:M比が達成される。NMC E10.3は、第1の焼結後に最良のLi:M比変動を示すしたがって、高品質のNMCを生成するために、2.0m
3/kgの空気流は更により良好である。
【0111】
実施例11:Al/硫酸塩コーティングされたNMC試料
式Li
1.017M’
0.983O
2を有し、M’=Ni
0.4(Ni
1/2Mn
1/2)
0.4Co
0.2であるNMC粉末を、混合ニッケル−マンガン−オキシ水酸化物(M’O
0.39(OH)
1.61(式中、M’=Ni
0.625Mn
0.175Co
0.2)を前駆体(M1)として使用し、リチウム欠乏焼結前駆体が比Li:M=0.883を有する以外は実施例1の工程を使用して調製する。第1の焼結工程では、遷移金属源とLiOH−H
2Oとの混合物を、1.67m
3/kgの
流量で乾燥空気下で、回転炉内で2時間(滞留時間)及び0.628rpmの回転速度で、820℃で焼結する。第1の焼結後のリチウム欠乏焼結前駆体の結晶サイズは、26.2nmである。トレイ系炉内の乾燥空気環境下にて、845℃にて10時間第2焼結を実施する。乾燥空気は、40L/時の流速で、装置に連続的に送り込まれる。焼結NMC生成物は、NMC E11.1とラベル付けされる。
【0112】
第2の焼結後のNMC生成物は、「表面コーティング実施例3」の工程を用いて、コーティング源とブレンドされる。最初に、NMC粉末を、Henschel Mixer(登録商標)中の1.2重量%の過硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
8)及び0.2重量%の酸化アルミニウム(Al
2O
3)とブレンドする。空気下で375℃にて5時間ブレンドを加熱する。最終製品は、LiNaSO
4及びAl
2O
3含むコーティングを担持し、NMC E11.2と呼ばれる。表10は、NMC E11.1及びNMC E11.2の電気化学的性能及び可溶性塩基含有量をまとめている。
【0114】
これらの実施例は、0.45の高いNi過剰のために高い放電容量を有する。NMC試料上のAl/硫黄コーティングは、可溶性塩基含有量を減少させ、より高い放電容量及びサイクル安定性などの改善された電池特性を示す。