特許第6856824号(P6856824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6856824複合凝集体粒子、並びに、それを用いた吸着材、成形体および浄水器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856824
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】複合凝集体粒子、並びに、それを用いた吸着材、成形体および浄水器
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20210405BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20210405BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20210405BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B01J20/18 C
   B01J20/28 Z
   B01J20/20 B
   C02F1/28 B
   C02F1/28 E
   C02F1/28 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-542020(P2020-542020)
(86)(22)【出願日】2020年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2020013482
(87)【国際公開番号】WO2020203587
(87)【国際公開日】20201008
【審査請求日】2020年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2019-65652(P2019-65652)
(32)【優先日】2019年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】川崎 修治
(72)【発明者】
【氏名】松永 修始
(72)【発明者】
【氏名】花本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉延 寛枝
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/039494(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/082898(WO,A1)
【文献】 特開2003−334544(JP,A)
【文献】 特開2005−125199(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/030041(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
C02F 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質チタノシリケート化合物又はアルミノシリケート化合物のうち、少なくとも1種類からなる微粒子化合物(a1)と、プラスチック粉末(a2)とを含む、複合凝集体粒子であって、
前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着していること
前記複合凝集体粒子の細孔体積と平均粒子径D50が次式を満たしていること、並びに、
前記平均粒子径D50が50μm〜1mmであることを特徴とする、複合凝集体粒子。
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
【請求項2】
前記プラスチック粉末(a2)の含有量が3質量%以上、40質量%以下である、請求項1に記載の複合凝集体粒子。
【請求項3】
前記微粒子化合物(a1)の平均粒子径D50が200μm以下である、請求項1または2に記載の複合凝集体粒子。
【請求項4】
前記プラスチック粉末(a2)が熱可塑性樹脂である、請求項1〜のいずれかに記載の複合凝集体粒子。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートが0.02g/10分以上で40g/10分以下である、請求項記載の複合凝集体粒子。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリエチレンである、請求項又は記載の複合凝集体粒子。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の複合凝集体粒子と、活性炭とを含む、吸着材。
【請求項8】
請求項に記載の吸着材を含有する、成形体。
【請求項9】
請求項に記載の吸着材を備える、浄水器。
【請求項10】
鉛イオン除去性能が、空間速度(SV)1000hr−1において、カートリッジ1mlあたり80リットル以上である請求項記載の浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合凝集体粒子、並びに、それを用いた吸着材、成形体および浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は各種汚染物質の吸着能に優れており、従来から家庭用、工業用を問わず種々の分野で吸着材として使用されている。近年、塩素臭、カビ臭の無いおいしい水が要望されており、この要望に対してこれまで種々の浄水器が提案されている。しかしながら、最近では、トリハロメタン(以下、THMと略称する)、環境ホルモン、重金属など、水質に関する安全衛生上の関心がさらに高まっており、これらの要望に応えるには、活性炭のみでは不十分であり、特異な吸着能を有する無機化合物など他の吸着材を併用する必要がある。
【0003】
本出願人は、これまでにも、チタノシリケート系無機化合物、アルミノシリケート系無機化合物にプラスチック粉末を付着させた複合粉末体、複合粉末体と吸着性物質からなる複合吸着材を研究開発している(特許文献1)。当該複合吸着材は、通液抵抗が低く、遊離塩素、THM、重金属などの除去性能をバランスよく維持するという優れた効果を奏する。
【0004】
一方、とくに浄水の分野において、重金属のうちでも鉛イオンは、内分泌撹乱作用を疑われる物質として環境庁により規定値が定められており、この鉛イオンに対する、より有効な吸着材の開発が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、上述したような複合吸着材の優れた性能を維持しつつ、さらに効率よく鉛イオンを除去できる吸着材用の材料を提供することを課題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4361489号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討の結果、下記構成の複合凝集体粒子によって上記課題が解消されることを見出し、当該知見に基づきさらに研究を重ねて本発明を完成した。
【0008】
本発明の一局面に係る複合凝集体粒子は、非晶質チタノシリケート化合物又はアルミノシリケート化合物のうち、少なくとも1種類からなる微粒子化合物(a1)と、プラスチック粉末(a2)とを含む、複合凝集体粒子であって、前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着していること、並びに、前記複合凝集体粒子の細孔体積と平均粒子径D50が次式を満たしていることを特徴とする。
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について具体例などを参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
<複合凝集体粒子>
本実施形態の複合凝集体粒子は、非晶質チタノシリケート化合物又はアルミノシリケート化合物からなる微粒子化合物(a1)と、プラスチック粉末(a2)とを含む、複合凝集体粒子であって、前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着していること、並びに、前記複合凝集体粒子の細孔体積と平均粒子径D50が次式を満たしていることを特徴とする。
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
【0011】
このような構成を有する複合凝集体粒子を吸着材とすることによって、通液抵抗が低く、遊離塩素、THM、重金属などの除去性能を十分に発揮することができつつ、さらに鉛イオンの除去性能に非常に優れた浄水器等を提供することが可能となる。
【0012】
なお、本実施形態において、平均粒子径D50とは、体積基準の累積分布の50%粒子径を意味し、この平均粒子径D50の数値はレーザー回折・散乱法により測定した値であり、例えば、後述するマイクロトラック・ベル社製の湿式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX II)などにより測定できる。
【0013】
本実施形態において、複合凝集体粒子は、前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着しているような複合体であれば特に限定はされないが、例えば、前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着して、前記微粒子化合物(a1)同士を接着させているような形態であってもよい。
【0014】
本実施形態の微粒子化合物(a1)としては、イオン交換容量が大きく、重金属に対して選択性が高い非晶質チタノシリケート化合物又はアルミノシリケート化合物が使用される。これらは単独で使用してもよいし、併用して使用することもできる。
【0015】
非晶質チタノシリケート化合物としては、例えば、BASF社から市販されている商品名ATSを使用することができる。また、アルミノシリケート化合物としては、イオン交換容量が大きい点でA型又はX型アルミノシリケート化合物が好適である。株式会社シナネンゼオミック社から市販されている商品名ゼオミック等が知られている。
【0016】
本実施形態で用いられるプラスチック粉末(a2)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどのポリエステル、ナイロンなどのポリアミドなどの各種熱可塑性樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の粉末を挙げることができる。なかでも、加熱により凝集体粒子を作ることができるという観点から、熱可塑性樹脂の粉末が好ましく使用できる。また、これらの熱可塑性樹脂のなかでもポリエチレンが最も好ましい。
【0017】
熱可塑性樹脂粉末のメルトフローレート(MFR)は、あまり小さいものを使用した場合、微粒子化合物が熱可塑性樹脂の表面に付着しにくいことがあり、一方、あまり大きいものを使用した場合、融点以上に加熱すると、熱可塑性樹脂が、粒子の形状を保持出来ずに流れてしまうことがある。よって、MFRとして、0.02g/10分以上で40g/10分以下のものを使用するのが好ましい。なお、MFRとは、一定の温度及び圧力で規定の直径及び長さのオリフィスから押出される熱可塑性樹脂の流出速度であり、具体的にはJIS K 7210(2014年)に従って測定される。
【0018】
本実施形態の複合凝集体粒子は、まず微粒子化合物(a1)にプラスチック粉末(a2)を付着させる必要がある。微粒子化合物(a1)は粉末状であっても顆粒状であってもよいが、あまり粒子径が大きいと複合吸着材としたときの吸着速度が遅くなる傾向にあるので、微粒子化合物(a1)の平均粒子径D50として200μm以下、好ましくは100μm以下のものが好ましい。特に、担持保持性の観点から、前記平均粒子径D50は3μm〜80μmとすることが望ましい。
【0019】
本実施形態で使用するプラスチック粉末(a2)の粒子径は、微粒子化合物(a1)の粒子の大きさと関係し、大きめの微粒子化合物(a1)を使用する場合には、大きめのプラスチック粉末を、小さめの微粒子化合物(a1)を作る場合には、小さめのプラスチック粉末を選定すればよい。かかる観点から、プラスチック粉末の平均粒子径D50は0.1μm〜200μm、好ましくは1μm〜100μmとすることが望ましい。
【0020】
微粒子化合物(a1)にプラスチック粉末(a2)を付着させるには、例えば、遠赤外線加熱、加熱乾燥炉などの手段によることができる。なお、本実施形態における付着とは、接着剤などによる接着の他、溶融加熱などによる熱融着など、微粒子化合物とプラスチック粉末とが強固に固着した状態全てを意味するが、確実に固着できる点で熱融着による付着が好ましい。
【0021】
より具体的には、例えば、微粒子化合物(a1)にプラスチック粉末(a2)を3〜40質量%となるように均一に混合して混合物とし、該混合物をプラスチック粉末の融点以上に加熱して、熱が冷めないうちに粉砕し、篩い分けすることによって、複合凝集体粒子の細孔体積と平均粒子径(D50)が次式:
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
を満たす複合凝集体粒子を得ることができる。
【0022】
なお、複合凝集体粒子中のプラスチック粉末(a2)含有量は、揮発分を測定することでも推定することができる。揮発分の測定は、まず、110℃で3時間乾燥したサンプルを室温で秤量し、その後、サンプルを磁性のルツボに入れて蓋をした状態で、930℃の炉内に7分間放置し、冷却後に残存サンプルの質量を測定するという方法で行う。プラスチック粉末(a2)、この温度では分解、揮発するので、質量減少分をプラスチック粉末(a2)含有量とする。
【0023】
篩い分けした結果、所定の篩い分け基準より小さい粒子は再使用することができる。複合凝集体粒子の平均粒子径D50としては、圧力損失と取扱性の点から、50μm以上、1mm以下が好ましいく、75μm以上、500μm以下がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態の複合凝集体粒子においては、細孔体積とD50を:
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
の式を満たすようにすることで、複合凝集体粒子の単位体積当たりの水と接触頻度が高くなり、微粒子化合物が本来有している吸着性能がより有効に活用できるようになると推定される。そのため、本実施形態の複合凝集体粒子は非常に高い鉛イオン除去性能を有する。
【0025】
本実施形態における粒度分布および細孔体積の測定方法は以下の通りである。
【0026】
(粒度分布)
微粒子化合物(a1)、プラスチック粉末(a2)、複合凝集体粒子の粒径はレーザー回折測定法により測定した。方法としては、測定物、界面活性剤、およびイオン交換水とを混合した分散液を、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル(株)社製「MT3300 II」)を用いて透過法にて測定した。なお分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。また、分散液調製時の界面活性剤には、和光純薬工業(株)社製「ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル」を用い、測定に影響する気泡などが発生しない適当量添加した。分析条件を以下に示す。
【0027】
(分析条件)
測定回数;1回
測定時間;30秒
分布表示;体積
粒径区分;標準
計算モード;MT3000 II
溶媒名;WATER
測定上限;2000μm、測定下限;0.021μm
残分比;0.00
通過分比;0.00
残分比設定;無効
粒子透過性;透過
粒子屈折率;1.81
粒子形状;非球形
溶媒屈折率;1.333
DV値;0.0150〜0.0700
透過率(TR);0.700〜0.950。
【0028】
(平均粒子径D50)
微粒子化合物(a1)、プラスチック粉末(a2)、及び、複合凝集体粒子それぞれを上記測定にかけ、粒度分布測定で得られた体積基準の累積分布が50%となる粒子径を、それぞれの平均粒子径D50とした。
【0029】
(40μm以下の粒子の割合)
複合凝集体粒子の40μm以下の粒子の割合は、前記粒度分布測定で得られた体積基準の累積分布から求めた。本実施形態の複合凝集体粒子は、40μm以下の粒子が前記体積粒度分布において15体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましい。上記範囲を満たすと、微粒子化合物由来の成分の溶出を低減しやすい。特に、微粒子化合物(a1)として、アルミノシリケート化合物を用いる場合、前記効果を発揮する。上記範囲は、微粒子化合物(a1)の10μm以下の粒子をサイクロン等で低減する(例えば10体積%以下)、あるいは、複合凝集体粒子を適切なサイズの篩い分け器で篩い分けることによって調整することができる。
【0030】
(細孔体積)
質量あたりの細孔体積を、水銀圧入法細孔容積測定装置(マイクロメリティックス社製「MicroActive AutoPore V 9600」)を用い、測定した。水銀圧は0.10psiaから61000.00psiaとした。
【0031】
以上に説明したような本発明の複合凝集体粒子は、重金属除去剤として好適に使用できる。
【0032】
本実施形態の複合凝集体粒子はそのまま顆粒状で吸着材として使用することも可能であるが、好ましくは、後述のように、活性炭と混合し吸着材として使用する。
【0033】
<吸着材、成形体および浄水器>
本実施形態の吸着材は、上述の複合凝集体粒子と活性炭とを含むことを特徴とする。
【0034】
活性炭としては、炭素質材料を炭化、賦活することによって活性炭となるものであればよく、数100m/g以上の比表面積を有するものが好ましい。
【0035】
前記炭素質材料としては、例えば、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、果実種子、パルプ製造副生物、リグニン、廃糖蜜などの植物系、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残渣、石油ピッチなどの鉱物系、フェノール、サラン、アクリル樹脂などの合成素材、再生繊維(レーヨン)などの天然素材を例示することができる。なかでも、植物系のヤシ殻活性炭を使用することが好ましい。
【0036】
粉状および粒状の活性炭を使用する場合、そのサイズは、作業性、水との接触効率、通水抵抗などの点から、75μm〜2.8mm(200メッシュ〜7メッシュ)が好ましく、100μm〜1.4mm(150メッシュ〜12メッシュ)がさらに好ましい。繊維状の活性炭を使用する場合、成形性の点から1〜5mm程度に切断して使用するのがよく、さらに、遊離塩素の除去性の点からヨウ素吸着量が1200〜3000mg/gのものを使用するのが好ましい。
【0037】
本実施形態における吸着材は、吸着材中、複合凝集体粒子の割合が1質量%以上であることが好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。上述の複合凝集体粒子と活性炭を混合することによって得られる。混合方法はとくに限定されず、公知の方法を採用することができる。この混合物(吸着材)は浄水材としてそのまま充填して使用することができるが、さらに加圧して成形し、カートリッジ形態の成形体として使用することも可能である。成形体とする際には、適宜成形のためのバインダや成形体の形状維持のための不織布を用いてもよい。また、複合凝集体粒子と活性炭との混合物に、抗菌性を与えるために、銀添着活性炭あるいは銀ゼオライトを添加することもできる。
【0038】
また、本実施形態の吸着材は、吸着材中複合凝集体粒子の量を2質量%とし、空間速度(SV)2300hr−1でろ過したときの1分後のアルミニウム溶出量が100ppb未満となる、複合凝集体粒子を含有するものであることが好ましい。
【0039】
吸着材を容器(カラム)に充填して浄水器として使用する場合の通水条件はとくに限定されないが、圧力損失があまり大きくならないように、例えば50〜4000hr−1の空間速度(SV)で実施される。本実施形態の吸着材は、吸着速度が速いので、SVを100hr−1以上、さらに1000hr−1以上の流速でも性能を発揮するので、浄水器カラムを大幅に小型化することができる。
【0040】
本実施形態によれば、鉛イオン除去性能が、空間速度1000hr−1において、カートリッジ1mlあたり80リットル以上である、浄水器を提供することができる。
【0041】
本実施形態の吸着材、成形体および浄水器は、通液抵抗が低く、遊離塩素、THM、重金属などの除去性能をバランスよく維持しつつ、さらに非常に優れた鉛イオン除去性能を備えるため、産業利用上、極めて有用である。
【0042】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0043】
本発明の一局面に係る複合凝集体粒子は、非晶質チタノシリケート化合物又はアルミノシリケート化合物のうち、少なくとも1種類からなる微粒子化合物(a1)と、プラスチック粉末(a2)とを含む、複合凝集体粒子であって、前記プラスチック粉末(a2)が前記微粒子化合物(a1)の表面の少なくとも一部に付着していること、並びに、前記複合凝集体粒子の細孔体積と平均粒子径D50が次式を満たしていることを特徴とする。
細孔体積(ml/g)≧0.0010×D50(μm)+1.60
【0044】
このような構成により、通液抵抗が低く、遊離塩素、THM、重金属などの除去性能をバランスよく維持しつつ、さらに効率よく鉛イオンを除去できる複合凝集体粒子を提供できる。
【0045】
また、前記複合凝集体粒子の平均粒子径D50が50μm〜1mmであることが好ましい。それにより、圧力損失と取扱い性においてより優れると考えられる。
【0046】
さらに、前記複合凝集体粒子において、前記プラスチック粉末(a2)の含有量が3質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。それにより、除去性能を維持したまま、凝集体粒子の形状が安定するという利点が得られる。
【0047】
また、前記複合凝集体粒子において、前記微粒子化合物(a1)の平均粒子径D50が200μm以下であることが好ましい。それにより、吸着材として使用する際の吸着速度をより速めることができる。
【0048】
さらに、前記複合凝集体粒子において、前記プラスチック粉末(a2)が熱可塑性樹脂であることが好ましい。それにより、加熱により凝集体粒子を得られるという利点が得られる。
【0049】
その場合、前記複合凝集体粒子において、前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートが0.02g/10分以上で40g/10分以下であることが好ましい。この範囲であれば、微粒子化合物が熱可塑性樹脂の表面に付着しやすく、熱可塑性樹脂も粒子の形状を保持しやすくなると考えられる。
【0050】
さらに、前記熱可塑性樹脂がポリエチレンであることが好ましい。それにより、上記した効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0051】
本発明の他の局面に係る吸着材は、上述の複合凝集体粒子と、活性炭とを含むことを特徴とする。
【0052】
さらに、本発明には、上記吸着材を含有する成形体、並びに、前記吸着材を備える浄水器も包含される。
【0053】
また、本発明に係る浄水器は、鉛イオン除去性能が、空間速度SV1000hr−1において、カートリッジ1mlあたり80リットル以上であることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0055】
なお、以下の試験における平均粒子径D50と細孔体積は、上述した方法および分析条件で測定した値である。
【0056】
(実施例1〜5)
微粒子化合物として、非晶質チタノシリケート化合物(BASF社製「ATS」、平均粒子径20μm)1kgと、プラスチック粉末として、ポリエチレン(PE)粉末(住友精化株式会社製「フローセン」UF−1.5N、MFR1.4g/10分間、融点110℃、平均粒子径20μm)75gとを均一に混合した。この混合物を160℃の温度で、加熱乾燥機を使用して1時間加熱した後、温度を60℃以上に維持したまま、解砕機で解砕した。その後、室温まで冷却し、篩い分け機で篩い分けを行った。メッシュサイズを変更することによって、表1に示すような平均粒子径D50と細孔体積を有する、実施例1〜5の複合凝集体粒子を得た。揮発分(PE含有量)は、いずれも19%であった。
【0057】
(実施例6〜8)
微粒子化合物として、アルミノシリケート化合物(株式会社シナネンゼオミック製「ゼオミック」LH210N、平均粒子径32μm)1kgと、プラスチック粉末として、ポリエチレン(PE)粉末(住友精化株式会社製「フローセン」UF−1.5N、MFR1.4g/10分間、融点110℃、平均粒子径20μm)75gとを均一に混合した。この混合物を160℃の温度で、加熱乾燥機を使用して1時間加熱した後、温度を60℃以上に維持したまま、解砕機で解砕した。その後、室温まで冷却し、篩い分け機で篩い分けを行った。メッシュサイズを変更することによって、表1に示すような平均粒子径D50と細孔体積を有する、実施例6〜8の複合凝集体粒子を得た。揮発分(PE含有量)は、いずれも19%であった。
【0058】
(比較例1〜3)
複合凝集体粒子を製造する際に、微粒子化合物とポリエチレン粉末の混合物を160℃の温度で、加熱乾燥機を使用して1時間加熱した後、室温まで冷却してから篩い分けを実施した以外は、実施例1〜3と同様にして、比較例1〜3の複合凝集体粒子を得た。
【0059】
<評価試験>
以上のようにして得た、実施例および比較例それぞれの複合凝集体粒子1.4gと、粒状活性炭(株式会社クラレ製「クラレコール」GW60/150(粒子径0.25mm〜0.1mm、比表面積800m/g)又はGW48/100(粒子径0.3mm〜0.15mm、比表面積800m/g))26.6gとを均一に混合し、それぞれの実施例および比較例の吸着材とした。
【0060】
鉛イオンの除去率は、上記で得られたそれぞれの吸着材を60mlのカラムに充填し、50ppbの溶解性鉛(硝酸鉛を加えて鉛イオン濃度が50ppbになるように調整した)を含む原水を1.0リットル(L)/分(SV1000hr−1)の流速で通水し、鉛イオン濃度から除去率を計算した。
【0061】
鉛イオン除去性能については、鉛イオン除去率80%となる通液量(L)を求め、吸着材体積あたりの通液量(L/ml)で評価した。
【0062】
結果を、それぞれ表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
(考察)
表1の結果より、実施例の複合凝集体粒子を用いた吸着材では、非常に優れた鉛除去性能を示すことが確認できた。
【0065】
一方、本発明の規定を満たさない比較例の複合凝集体粒子を用いた吸着材では、鉛除去性能が、実施例の結果よりも劣るものとなった。
【0066】
以上の結果から、本発明の複合凝集体粒子を用いることで非常に優れた鉛除去性能を長期間維持できる吸着材や浄水材等が提供できることが示された。
【0067】
(実施例9)
微粒子化合物として、アルミノシリケート化合物(株式会社シナネンゼオミック製「ゼオミック」LH210N、平均粒子径32μm)(アルミノシリケート1)1kgと、プラスチック粉末として、ポリエチレン(PE)粉末(住友精化株式会社製「フローセン」UF−1.5N、MFR1.4g/10分間、融点110℃、平均粒子径20μm)110gとを均一に混合した。この混合物を160℃の温度で、加熱乾燥機を使用して1時間加熱した後、温度を60℃以上に維持したまま、解砕機で解砕した。その後、室温まで冷却し、篩い分け機で篩い分けを行った。揮発分(PE含有量)は、23%であった。
【0068】
以上のようにして得られた複合凝集体微粒子を用い、複合凝集体粒子0.64gと、粒状活性炭(株式会社クラレ製「クラレコール」GW60/150(粒子径0.25mm〜0.1mm、比表面積800m/g)32.3gとを均一に混合し、吸着材を得た。
【0069】
複合凝集体粒子中の40μm以下の粒子の割合については、上述した(粒度分布)の測定結果から算出した。
【0070】
鉛イオンの除去率は、実施例1と同様に、それぞれの吸着材を60mlのカラムに充填し、50ppbの溶解性鉛(硝酸鉛を加えて鉛イオン濃度が50ppbになるように調整した)を含む原水を2.3リットル(L)/分(SV2300hr−1)の流速で通水し、鉛イオン濃度から除去率を計算した。
【0071】
鉛イオン除去性能についても、実施例1と同様に、鉛イオン除去率80%となる通液量で評価した。
【0072】
また、アルミニウム溶出量については、上記条件で通水し、通液1分後のアルミニウム濃度と原水のアルミニウム濃度の差分から求めた。
【0073】
結果を表2に示す。
【0074】
(実施例10〜12)
微粒子化合物として、アルミノシリケート化合物(株式会社シナネンゼオミック製「ゼオミック」LH210N、平均粒子径30μm)をボールミルにより粉砕し、平均粒子径を30μm、10μm以下の体積粒度分布による割合を6体積%としたもの(アルミノシリケート2)、平均粒子径を27μm、10μm以下の体積粒度分布による割合を13体積%としたもの(アルミノシリケート3)、平均粒子径を24μm、10μm以下の体積粒度分布による割合を21体積%としたもの(アルミノシリケート4)をそれぞれ用いた以外は、実施例9と同様にして複合凝集体粒子を得た。揮発分(PE含有量)は、23%であった。得られた複合凝集体微粒子を用い、実施例9と同様にしておよび吸着材を得た。実施例9と同様に鉛イオン除去性能及びアルミニウム溶出量を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
(考察)
表2の結果より、本発明の複合凝集体粒子は、40μm以下の粒子の割合が前記体積粒度分布において一定以下であれば、鉛除去性能に加えて、さらに微粒子化合物由来の成分の溶出を抑制できることが示された。
【0077】
この出願は、2019年3月29日に出願された日本国特許出願特願2019−65652を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0078】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、吸着材、浄水やフィルター等の技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。