特許第6857466号(P6857466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6857466シート、その製造方法およびシート作製用鋳型
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857466
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】シート、その製造方法およびシート作製用鋳型
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20210405BHJP
   C12M 1/14 20060101ALI20210405BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C07K14/78
   C12M1/14
   C12M3/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-172861(P2016-172861)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-39738(P2018-39738A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】塚本 啓司
(72)【発明者】
【氏名】伊田 寛之
【審査官】 小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−202574(JP,A)
【文献】 特開2013−028006(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150521(WO,A1)
【文献】 塚本啓志 ほか,三次元培養を支えるCellmatrix, beMatrix,月刊メディカル・サイエンス・ダイジェスト,2016年 2月25日,Vol. 42(2),pp. 36(86)-39(89)
【文献】 加我公行 ほか,ナノインプリント法を利用したマイクロ・ナノパターン化ゼラチンシートへの細胞付着性,日本歯科理工学会誌,2014年,Vol. 33(5),pp. 464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12M 1/00− 3/00
B29C 53/00−59/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンまたはコラーゲンのシートであって、
前記シートは、いずれか一方の表面または両面に凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含み、
前記シートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示し、
前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが100nm以上500nm以下であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が200nm以上800nm以下である、シート。
【請求項2】
前記凸状物および前記凹状物は、等間隔に配置されている、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記凸状物および前記凹状物は、四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置される、請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記シートは、いずれか一方の前記表面または前記両面に第1領域と第2領域とを有し、
前記第1領域は、前記凸状物および前記凹状物のいずれか一方または両方を有し、
前記第2領域は、前記凸状物および前記凹状物を有さない、請求項1〜3のいずれかに記載のシート。
【請求項5】
前記シートは、細胞培養用シートである、請求項1〜のいずれかに記載のシート。
【請求項6】
ゼラチンのシートの製造方法であって、
40〜80℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaで前記シートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、前記シートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含み、
前記シートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示し、
前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが100nm以上500nm以下未満であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が200nm以上800nm以下未満である、シートの製造方法。
【請求項7】
コラーゲンのシートの製造方法であって、
60〜100℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaで前記シートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、前記シートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含み、
前記シートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示し、
前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが100nm以上500nm以下未満であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が200nm以上800nm以下未満である、シートの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載のシートの製造方法に用いるシート作製用鋳型であって、
前記シート作製用鋳型は、刻印面を備え、
前記刻印面は、前記凸状物および前記凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含み、
前記シートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示し、
前記凸状物および前記凹状物は、前記刻印面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが100nm以上500nm以下未満であり、かつ前記刻印面に対して平行方向の長さで表される幅が200nm以上800nm以下未満である、シート作製用鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート、その製造方法およびシート作製用鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、特殊な構造体を形成し、この構造体の作用に基づいて細胞などを接着させたり、細胞培養したり、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現させたりする技術の開発が進められている。たとえば、特許第4159103号公報(特許文献1)では、ポリスチレン、ポリイミド、ガラスなどの材料に凹凸構造からなる細胞接着面を形成した細胞培養構造体が提案されている。特開2015−128818号公報(特許文献2)では、絹フィブロインを材料とし、この材料に電子ビームリソグラフィを用いてナノパターンを形成することにより、フォトニック構造を作製する方法が提案されている。
【0003】
赤坂らの論文(非特許文献1)および加我らの論文(非特許文献2)では、ゼラチン溶液を鋳型に流し込むことにより、マイクロ・ナノ構造を有するシートを調製する方法が提案されている。K C. Hribarらの論文(非特許文献3)では、フェムト秒レーザーなどを用いて立体的なコラーゲンハイドロゲルの内部へ向けてレーザー発振することにより、該内部に3次元的な空間を形成し、該空間に細胞を吸着させたり、伸長させたり、整列させたりする手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4159103号公報
【特許文献2】特開2015−128818号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】赤坂ら、マイクロ・ナノ構造を持つパターン化バイオマテリアルの調製、日本歯科理工学会誌、Vol.32、No.2(2013)
【非特許文献2】加我ら、ナノインプリント法を利用したマイクロ・ナノパターン化ゼラチンシートへの細胞付着性、日本歯科理工学会誌、Vol.33、No.5(2014)
【非特許文献3】K C. Hribar et al, Three-dimensional direct cell patterning in collagen hydrogels with near-infrared femtosecond laser, Scientific Reports, Article number[5:17203](2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の細胞培養構造体は非生体由来材料を用いているため、生体適合性に懸念がある。凹凸構造のパターンもサブミクロンオーダーであるので、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現させることが困難である。特許文献2のフォトニック構造は、絹フィブロインが材料であるので細胞接着性を有していない。非特許文献1および非特許文献2のマイクロ・ナノ構造を有するシートは、ゼラチン溶液の高い粘度のために鋳型に流し込む手法によって作製することは困難である。さらに、鋳型に流し込むためにゼラチン溶液を希釈した場合、シートは非常に破損しやすいものとなる。非特許文献3の技術は、フェムト秒レーザーを用い、かつ非常に複雑な操作が必要とされるため、実用的ではない。したがって、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現する構造体を備えたシートは、未だ開発されていない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされ、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるゼラチンまたはコラーゲンのシート、その製造方法およびシート作製用鋳型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゼラチンまたはコラーゲンのシートに関し、前記シートは、いずれか一方の表面または両面に凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含み、前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。
【0009】
上記凸状物および上記凹状物は、等間隔に配置されていることが好ましい。さらに上記凸状物および上記凹状物は、四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置されることがより好ましい。
【0010】
上記シートは、いずれか一方の上記表面または上記両面に第1領域と第2領域とを有し、上記第1領域は、上記凸状物および上記凹状物のいずれか一方または両方を有し、上記第2領域は、上記凸状物および上記凹状物を有さないことが好ましい。
【0011】
上記シートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示すことが好ましい。さらに上記シートは、細胞培養用シートであることがより好ましい。
【0012】
本発明は、ゼラチンのシートの製造方法に関し、40〜80℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaで前記シートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、前記シートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含み、前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。
【0013】
本発明は、コラーゲンのシートの製造方法に関し、60〜100℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaで前記シートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、前記シートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含み、前記凸状物および前記凹状物は、前記表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつ前記表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。
【0014】
本発明は、上記のシートの製造方法に用いるシート作製用鋳型に関し、上記シート作製用鋳型は、刻印面を備え、上記刻印面は、上記凸状物および上記凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含み、上記凸状物および上記凹状物は、上記刻印面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつ上記刻印面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるゼラチンまたはコラーゲンのシート、その製造方法およびシート作製用鋳型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係るコラーゲンシートの表面を撮影した電子顕微鏡(SEM)像の一例を示す図面代用写真である。
図2】実施例1に係るコラーゲンシートがフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することを示す図面代用写真である。
図3】実施例1に係るコラーゲンシートにおいて凸状物または凹状物を有する領域と有さない領域との境界部を撮影した電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
図4】実施例1に係るコラーゲンシートにおいて凸状物または凹状物を有する領域と有さない領域とに、それぞれ細胞を接着させた様子を撮影した光学顕微鏡像を示す図面代用写真である。
図5】比較例1に係るコラーゲンシートにおいて細胞を接着させた様子を撮影した光学顕微鏡像を示す図面代用写真である。
図6】実施例1に係るコラーゲンシートにおいて凸状物または凹状物を有する領域での細胞培養の様子を撮影した光学顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るゼラチンまたはコラーゲンのシート、その製造方法およびシート作製用鋳型について、それぞれ詳細に説明する。
【0018】
本明細書において「ゼラチン」、「コラーゲン」の用語は、それぞれゲル状態にあるとき、およびそれらが溶解している水溶液の状態にあるときを含めて用いる場合がある。さらに本明細書において、「X〜Y」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちX以上Y以下)を意味しており、Xにおいて単位の記載がなく、Yにおいてのみ単位が記載されている場合、Xの単位とYの単位とは同じである。
【0019】
≪シート≫
本発明は、ゼラチンまたはコラーゲンのシートに係る。以下、本明細書においてコラーゲンのシートを「コラーゲンシート」とも記す。ゼラチンのシートを「ゼラチンシート」とも記す。
【0020】
「コラーゲン」とは、脊椎動物の真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などにおける細胞外基質を由来とするタンパク質をいう。コラーゲンは、3本のペプチド鎖からなる右巻きのらせん構造を有し、そのペプチド鎖を構成するアミノ酸残基は、グリシン残基が3残基ごとに繰り返される一次構造(所謂コラーゲン様配列)を有している。本発明に係るコラーゲンシートは、3本のペプチド鎖(α鎖)からなる分子量30万以上であるコラーゲンの所定の濃度の水溶液を乾燥させることによりシート状化したものであることが好ましい。
【0021】
「ゼラチン」とは、上記コラーゲンのらせん構造を、熱を加えることにより解くとともに、各ペプチド鎖を抽出したもののうち、JIS K 6503:2001(にかわ及びゼラチン)に基づき水分率を15質量%以下にした乾燥体をいう。本発明に係るゼラチンシートは、このようなゼラチンの所定の濃度の水溶液を乾燥させることによりシート状化したものであることが好ましい。
【0022】
ここで本発明に係るシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示す。本明細書において、フォトニック結晶に起因する光学現象とは、可視光域の波長を有する光と、後述する大きさ(高さまたは深さ、および幅)ならびに密度を有する凸状物および凹状物(以下、「ナノ構造体」とも記す)とが、相互作用することで発現する光学的な現象をいい、代表的には、屈折率が周期的に変化することによりオパール調の特有の構造色を呈する現象をいう。さらに、このフォトニック結晶に起因する光学現象が発現するために必要な構造を、フォトニック構造ともいう。
【0023】
シートは、細胞培養用シートであることが好ましい。本発明では、後述する大きさ(高さまたは深さ、および幅)を有する凸状物および凹状物が、後述する密度でシート上に存在することにより、通常の細胞培養において見られない挙動(たとえば、スフェロイドの形成)を細胞が呈することとなる。これにより本発明に係るシートは、たとえば細胞接着、増殖などを制御することができる基材として、医療機器などへの応用が見込める。
【0024】
シートは、いずれか一方の表面または両面に第1領域と第2領域とを有していてもよい。この場合、第1領域は、後述する凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を有することが好ましい。第2領域は、後述する凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を有さないことが好ましい。このような構成のシートにより、シート上の一部(第1領域)のみでフォトニック結晶に起因する光学現象を発現させることができる。細胞培養用シートとして適用した場合、シート上の一部(第1領域)のみでスフェロイドを形成し、その他の部分(第2領域)において通常の細胞培養を進めることができる。したがって本発明に係るシートは、バリエーションに富んだシートの活用が見込めるものとなる。
【0025】
<凸状物および凹状物>
シートは、いずれか一方の表面または両面に凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含む。凸状物および凹状物は、シート表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつシートの表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。本発明に係るゼラチンシートおよびコラーゲンシートは、凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を、上述の大きさ(高さまたは深さ、および幅)ならびに密度で有することにより、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができる。さらに、細胞培養用シートとして適用した場合、細胞接着性を変化させることができ、細胞をスフェロイド状に集合させることができる。
【0026】
ここで、凸状物および凹状物のシート表面に対する垂直方向の長さで表される高さまたは深さとは、その形状における最大高さまたは最大深さをいい、本発明において凸状物および凹状物は、この最大高さまたは最大深さが1μm未満となる。さらに凸状物および凹状物のシート表面に対する平行方向の長さで表される幅とは、その形状の平断面の外周上に存在する最も離れた2点を直線で結んだ距離(最大幅)をいう。本発明において凸状物および凹状物は、この最大幅が1μm未満となる。
【0027】
凸状物および凹状物は、上述の高さまたは深さ、および上述の幅を満たす限り、任意の形状を有することができる。凸状物は、たとえば円柱状、楕円柱状、三角柱状、四角柱状、その他の多角形の柱状形状、円錐状、三角錐状、四角錐状およびその他の多角形の錘状形状を有することができる。凸状物は、上述の高さおよび上述の幅を満たす不定形であってもよい。凹状物は、たとえば円柱状、楕円柱状、三角柱状、四角柱状、およびその他の多角形の柱形状に凹んだ形状、ならびに円錐状、楕円錐状、三角錐状、四角錐状およびその他の多角形の錐形状に凹んだ形状を有することができる。凹状物は、上述の深さおよび上述の幅を満たす不定形に凹んだ形状であってもよい。
【0028】
さらに、凸状物および凹状物は、上述の形状のうち1種のみがシートのいずれか一方の表面または両面に存在することに限定すべきではない。すなわち、これらの形状のうち複数種がシートのいずれか一方の表面または両面に混在していてもよい。
【0029】
凸状物および凹状物は、100〜500nmの上述した高さまたは深さを有することが好ましい。さらに、200〜800nmの上述した幅を有することが好ましい。凸状物および凹状物は、好ましくはシートのいずれか一方の表面または両面に1平方マイクロメートル当たり5〜30個、さらに好ましくは5〜25個有する領域を含む。凸状物および凹状物の上述した高さまたは深さの下限は100nmであり、上述した幅の下限は200nmである。凸状物および凹状物の密度が1平方マイクロメートル当たり1個未満となり、または1平方マイクロメートル当たり30個を超えるようなコラーゲンまたはゼラチンのシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を可視領域中において発現させることが困難であり、さらに細胞培養用シートとして適用すると、細胞が通常のシャーレを用いて培養される場合と同様な経過をたどる傾向がある。コラーゲンまたはゼラチンのシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を可視領域中において発現させる観点から、2.5μm2を超える大きさ(面積)を有することが好ましい。コラーゲンまたはゼラチンのシートは、その大きさ(面積)に上限があるものではないが、細胞培養用シートなどとして使用される場面を考慮する限りにおいて、500cm2を上限とすることができる。
【0030】
凸状物および凹状物は、上述した高さまたは深さが1μm以上となり、もしくは上述した幅が1μm以上となる場合、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現させることが困難となる。さらに、上述した高さまたは深さが1μmを超え、もしくは上述した幅が1μmを超える場合、細胞培養用シートとして適用すると、細胞は通常のシャーレを用いて培養される場合と同様な経過をたどることとなる。
【0031】
凸状物および凹状物は、等間隔に配置されていることが好ましい。すなわち、凸状物および凹状物は、ゼラチンシートおよびコラーゲンシートにおいて、いずれか一方の表面または両面に等間隔に配置されることが好ましい。これにより、これらのシートにおいてフォトニック結晶に起因する光学現象を強く発現させることができるとともに、細胞培養用シートとして適用した場合、細胞接着性を確実に変化させることができ、細胞を効率よくスフェロイド状に集合させることができる。
【0032】
凸状物および凹状物は、四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置されることがさらに好ましい。すなわち、凸状物および凹状物は、ゼラチンシートおよびコラーゲンシートにおいて、いずれか一方の表面または両面に四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置されることがさらに好ましい。特に、凸状物および凹状物は、ゼラチンシートおよびコラーゲンシートのいずれか一方の表面または両面に等間隔、かつ四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置されることが最も好ましい。これにより、これらのシートにフォトニック結晶に起因する光学現象を最も強く発現させることができるとともに、細胞培養用シートとして適用した場合、細胞接着性を劇的に変化させることができ、細胞を最も効率よくスフェロイド状に集合させることができる。
【0033】
ここで、三角配置とは、1の凸状物または凹状物を中心に据えたとき、その周りに6の凸状物または凹状物が、上記1の凸状物または凹状物から等距離に配置され、かつ隣り合う凸状物または凹状物同士も等距離に配置される配置状態をいう。四角配置とは、平面視において交点を有する2本の対角線を形成可能な相互に隣り合う4つの凸状物または凹状物を選択したとき、この対角線の交点から等距離に上記4つの凸状物または凹状物が配置される配置状態をいう。
【0034】
さらに、同心円状配置とは、1の凸状物または凹状物を中心に据えたとき、その周りに任意の数の凸状物または凹状物が、上記1の凸状物または凹状物から等距離かつ同心円状に配置される配置状態をいう。
【0035】
本発明に係るコラーゲンシートの一例を図1に示す。図1は、本実施形態に係るコラーゲンシートの表面を撮影した電子顕微鏡(SEM)像の一例である。図1において、コラーゲンシートの表面には、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱形状である凸状物が、230nmピッチの三角配置で、1平方マイクロメートル当たり5個存在している。このようなコラーゲンシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象を示し(たとえば、図2参照)、細胞培養用シートとして適用した場合、細胞接着性を変化させることができ、細胞をスフェロイド状に集合させることができる(たとえば、図6参照)。
【0036】
シートが有している凸状物または凹状物の形状、その大きさ(高さまたは深さ、および幅)ならびに密度は、いずれも電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。具体的には、シート上の凸状物または凹状物が形成されている任意の領域を1箇所(1視野)選択し、1000〜5000倍の倍率で観察することにより、凸状物または凹状物の形状、その大きさならびに密度を求めることができる。凸状物または凹状物の形状については、1視野に現れた凸状物または凹状物の中から複数を選んでその形状を確認する。凸状物または凹状物の大きさについては、1視野に現れた凸状物または凹状物のすべてを観察し、その平均値を算出して凸状物または凹状物の大きさとする。凸状物または凹状物の密度については、1視野に現れた凸状物または凹状物の数を確認し、これを1平方マイクロメートル当たりの個数に換算することにより、求めることができる。
【0037】
本実施形態において、凸状物または凹状物の形状、その大きさならびに密度は、シート上の任意の1箇所を観察し、その結果を求めることにより特定することができる。なぜならシート上の複数の箇所において凸状物または凹状物の形状、その大きさならびに密度を測定しても、個々の測定値と平均値とで有意な差を確認することができなかったためである。ここで、上記観察で明らかに異常値であると認識されたときは、その結果は除外されるべきである。
【0038】
≪シートの製造方法≫
本発明は、ゼラチンまたはコラーゲンのシートの製造方法に係る。このシートの製造方法において、凸状物および凹状物は、シートの表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつシートの表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。すなわち、シートの製造方法によりシートに形成される凸状物および凹状物は、上述の「<凸状物および凹状物>」の項で説明したとおりの形状、大きさおよび密度を有している。これにより、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるゼラチンまたはコラーゲンのシートを製造することができる。さらにシートの製造方法によりシートに形成される凸状物および凹状物は、四角配置、三角配置および同心円状配置から選ばれるいずれか1つの配置状態で配置されていることがさらに好ましい。
【0039】
<ゼラチンシートの製造方法>
本発明におけるゼラチンシートの製造方法は、40〜80℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaでゼラチンシートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、ゼラチンシートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含む。
【0040】
ここでゼラチンシートの製造方法において、鋳型を40〜80℃に加熱する理由は、シートの製造に用いるゼラチンの融点に基づく。本明細書において、融点(以下、単に「Tm」と記すこともある)とは、ゼラチンまたはコラーゲンのペプチド鎖が溶融する温度をいう。
【0041】
シートの製造に用いるゼラチンおよび後述するコラーゲンの融点は、示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning calorimetry)を利用した以下の測定方法により決定することができる。すなわち、熱分析測定用パン(材質:アルミニウム)に13mgのコラーゲンシートまたはゼラチンシートの粉砕物を充填し、この熱分析測定用パンを10℃/minで昇温することにより、熱量に対する温度の変化をDSC曲線(縦軸が熱流(Heat-Flow/mW)であり、横軸が温度である)として記録する。このとき標準物質は大気とする。その結果、得られるDSC曲線は、谷のピークを有する吸熱反応として現れ、そのピーク(最底点)の前後においてベースラインから変化のない温度領域が生じるため、この最底点が示す温度を融点と定める。これによりシートの製造に用いるゼラチンおよびコラーゲンの融点を決定することができる。
【0042】
ゼラチンシートの製造方法は、具体的には、まず鋳型がシートの製造に用いるゼラチンの融点に基づき、40〜80℃に加熱される。シートの製造に用いるゼラチンの融点は、その水溶液の濃度に依存するものの、標準的には90℃前後である。したがって、ゼラチンシートを製造するときには、シートの製造に用いるゼラチンの融点よりわずかに低温の40〜80℃に鋳型を加熱する。鋳型の加熱温度が40℃未満となれば、鋳型に形成されている凸状物および凹状物の刻印をシート上へ十分に転写することができない恐れがある。鋳型の加熱温度が80℃を超えると、鋳型が接触することによりゼラチンシートそのものが溶出する恐れがある。鋳型の加熱温度は好ましくは、50〜70℃である。
【0043】
さらに、上記鋳型によりゼラチンシートのいずれか一方の表面または両面は、10〜20MPaで刻印される。具体的には、シートの製造に用いるゼラチンが個別に有する強度(一般に「ゼリー強度」などと称される)に基づいて、刻印する圧力を10〜20MPaの範囲内で適宜選択する。刻印する圧力が10MPa未満となれば、鋳型に形成されている凸状物および凹状物の刻印をシート上へ十分に転写することができない恐れがある。刻印する圧力が20MPaを超えると、その圧力によってゼラチンシートそのものが破損する恐れがある。刻印する圧力は好ましくは15〜20MPaである。
【0044】
鋳型の温度は、従来公知のホットプレス機またはナノインプリント装置を用い、これらの機器に搭載された温度計により測定することができる。刻印を転写する際の圧力は、これらの機器に搭載された圧力計により測定することができる。
【0045】
<コラーゲンシートの製造方法>
本発明におけるコラーゲンシートの製造方法は、60〜100℃に加熱された鋳型を用い、10〜20MPaでコラーゲンシートのいずれか一方の表面または両面へ刻印することにより、コラーゲンシートに凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成する工程を含む。コラーゲンシートの製造方法において、鋳型を60〜100℃に加熱するのは、シートの製造に用いるコラーゲンの融点に基づく。
【0046】
コラーゲンシートの製造方法は、具体的には、まず鋳型がシートの製造に用いるコラーゲンの融点に基づき、60〜100℃に加熱される。シートの製造に用いるコラーゲンの融点は、その水溶液の濃度に依存するものの、標準的には110℃前後である。したがって、コラーゲンシートを製造するときには、シートの製造に用いるコラーゲンの融点よりわずかに低温の60〜100℃に鋳型を加熱する。鋳型の加熱温度が60℃未満となれば、鋳型に形成されている凸状物および凹状物の刻印をシート上へ十分に転写することができない恐れがある。鋳型の加熱温度が100℃を超えると、鋳型が接触することによりコラーゲンシートそのものが溶出する恐れがある。鋳型の加熱温度は好ましくは、70〜90℃である。
【0047】
さらに、上記鋳型によりコラーゲンシートのいずれか一方の表面または両面は、10〜20MPaで刻印される。具体的には、シートの製造に用いるコラーゲンが個別に有する強度に基づいて、刻印する圧力を10〜20MPaの範囲内で適宜選択する。刻印する圧力が10MPa未満となれば、鋳型に形成されている凸状物および凹状物の刻印をシート上へ十分に転写することができない恐れがある。刻印する圧力が20MPaを超えると、その圧力によってコラーゲンシートそのものが破損する恐れがある。刻印する圧力は好ましくは15〜20MPaである。
【0048】
コラーゲンシートを製造する際の鋳型の温度、および刻印を転写する際の圧力の測定は、それぞれゼラチンシートを製造する際の鋳型の温度、および刻印を転写する際の圧力の測定と同じ方法により測定することができる。
【0049】
以上により、本発明に係るシートの製造方法は、ゼラチンまたはコラーゲンのシートのいずれか一方の表面または両面に、シートの表面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつシートの表面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を、1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を形成することができる。これにより、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるゼラチンまたはコラーゲンのシートを製造することができる。
【0050】
≪シート作製用鋳型≫
本発明は、上述したシートの製造方法に用いるシート作製用鋳型に係る。シート作製用鋳型は、刻印面を備える。刻印面は、上記凸状物および凹状物のいずれか一方または両方を1平方マイクロメートル当たり1〜30個有する領域を少なくとも含む。上記凸状物および凹状物は、刻印面に対して垂直方向の長さで表される高さまたは深さが1μm未満であり、かつ刻印面に対して平行方向の長さで表される幅が1μm未満である。このようなシート作製用鋳型により、その刻印面をゼラチンまたはコラーゲンのシートのいずれか一方の表面または両面へ容易に転写することができる。もって生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるゼラチンまたはコラーゲンのシートを提供することが可能となる。
【0051】
シート作製用鋳型の基材としては特に制限されるべきではなく、樹脂材料または金属材料を用いることができる。ただし、シート作製用鋳型は、ゼラチンまたはコラーゲンの融点まで加熱される可能性があるので、この温度に耐えられる程度の耐熱性を備えた材料である必要がある。さらに、従来公知の方法により、シート作製用鋳型に対し、凸状物および凹状物が上述の大きさおよび密度で存在する刻印面を形成することができる。すなわち、シート作製用鋳型の刻印面に形成される凸状物および凹状物は、上述の「<凸状物および凹状物>」の項で説明した凸状物および凹状物と同じ形状、大きさおよび密度を有している。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
まず豚皮由来アテロコラーゲンの凍結乾燥物(商品名:「beMatrixコラーゲンFD」、新田ゼラチン株式会社製)を滅菌蒸留水に溶解させ、0.6質量%濃度、pH3.0の水溶液を調製し、この水溶液300mLをポリテトラフルオロエチレンでコートされたステンレス製トレー(縦207mm×横248mm×高さ38mm)に流し込んだ。次に、このステンレス製トレー中の豚皮由来アテロコラーゲンへ向けて20℃の風を送りながら、これを乾燥させることにより、縦207mm×横248mm×厚み100μmのコラーゲンシートを作製した。さらに、このコラーゲンシートの表面の一部(第1領域)にシクロオレフィンポリマーを基材とする鋳型を載置し、加えて市販のポリテトラフルオロエチレン製のシート(厚み0.2mm)で鋳型およびステンレストレーを挟み込んだ。この状態で、鋳型を90℃に加熱し、かつ20MPaの圧力を与えて5分間維持することにより、鋳型の刻印面をコラーゲンシート上の第1領域に転写した。鋳型の刻印面には、深さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状に凹んだ凹状物が、230nmピッチで三角配置されている。
【0054】
その結果、本実施例のコラーゲンシートは、鋳型の刻印面が転写された第1領域において、図2に示すようなフォトニック結晶に起因する光学現象が確認された。さらに図3に示すように、鋳型の刻印面が転写されたコラーゲンシートの表面の第1領域(図3の右上側)のみにおいて、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0055】
<実施例2>
本実施例では、鋳型の刻印面のコラーゲンシートへの転写に、加熱状態の酸が影響するか否かを検討した。このため本実施例では、実施例1と同じ方法により得たコラーゲンシートをpH7.4のPBS(リン酸緩衝液)により十分に洗浄し、そのpHを中和した。さらに、この中和されたコラーゲンシートへ、実施例1と同じ方法により鋳型の刻印面を転写した。
【0056】
その結果、本実施例のコラーゲンシートは、実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0057】
<実施例3>
まず酸処理豚皮由来ゼラチン(重量平均分子量100000、等電点9、ゼリー強度280)を5質量%濃度の水溶液となるように調製し、この水溶液300mLから実施例1と同じ方法によりゼラチンシート(縦207mm×横248mm×厚み100μm)を作製した。さらに、このゼラチンシートの片面全面に実施例1で用いたのと同じ鋳型を載置し、実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレン製のシートと同じもので鋳型およびステンレストレーを挟み込んだ。この状態で、鋳型を60℃に加熱し、かつ20MPaの圧力を与えて1分間維持することにより、鋳型の刻印面をゼラチンシートに転写した。
【0058】
その結果、本実施例のゼラチンシートは、実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0059】
<実施例4>
まずアルカリ処理牛骨由来ゼラチン(重量平均分子量170000、等電点5、ゼリー強度250)を5質量%濃度の水溶液となるように調製し、それ以外については実施例3と同じ方法によりゼラチンシートを作製し、かつ実施例3と同じ方法により鋳型の刻印面をゼラチンシートに転写した。
【0060】
その結果、本実施例のゼラチンシートは、実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0061】
<実施例5>
まず酸処理豚皮由来ゼラチン(重量平均分子量100000、等電点9、ゼリー強度280)に10質量%濃度のグリセリンを添加し、15質量%濃度の水溶液となるように調製し、それ以外については実施例3と同じ方法によりゼラチンシートを作製し、かつ実施例3と同じ方法により鋳型の刻印面をゼラチンシートに転写した。
【0062】
その結果、本実施例のゼラチンシートは、実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。本実施例のゼラチンシートは、グリセリンを含むことにより、実施例1〜4のシートよりも柔軟であった。
【0063】
<比較例1>
実施例1と同じ方法によりコラーゲンシートを作製した。しかし本比較例では、実施例1で用いたのと同じ鋳型を25℃に加熱し、20MPaの圧力を与えて5分間維持する条件により鋳型の刻印面をコラーゲンシートに転写した。
【0064】
その結果、本比較例のコラーゲンシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象が確認されず、かつ凸状物も確認することができなかった。
【0065】
<比較例2>
実施例1と同じ方法によりコラーゲンシートを作製した。しかし本比較例では、実施例1で用いたのと同じ鋳型を90℃に加熱し、5MPaの圧力を与えて5分間維持する条件により鋳型の刻印面をコラーゲンシートに転写した。
【0066】
その結果、本比較例のコラーゲンシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象が確認されず、かつ凸状物も確認することができなかった。
【0067】
<比較例3>
実施例3と同じ方法によりゼラチンシートを作製した。しかし本比較例では、実施例1で用いたのと同じ鋳型を90℃に加熱し、20MPaの圧力を与えて1分間維持する条件により鋳型の刻印面をコラーゲンシートに転写した。
【0068】
その結果、本比較例のゼラチンシートは、フォトニック結晶に起因する光学現象が確認されず、かつ凸状物も確認することができなかった。
【0069】
上記実施例1〜5および比較例1〜3のシートに関し、これらの作製に用いたコラーゲンまたはゼラチンの組成、その濃度とともに、鋳型の刻印面を転写するための加熱温度、時間および圧力、ならびにフォトニック結晶に起因する光学現象が発現されたか否かについての一覧を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
<考察>
表1から、コラーゲンシートは、そのpHが酸性、中性であることを問わず、加熱温度、圧力および時間を適切に制御することにより、鋳型の刻印面を転写することができることが分かる。ゼラチンシートは、その等電点、原料種、ゼリー強度を問わず、加熱温度、圧力および時間を適切に制御することにより、鋳型の刻印面を転写することができることが分かる。コラーゲンシートは、鋳型の加熱温度が25℃であると低温すぎ、さらに5MPaの圧力でも低圧すぎることにより、鋳型の刻印面を転写することができなかった。ゼラチンシートは、鋳型の加熱温度が90℃であると高温すぎることにより、鋳型の刻印面を転写することができなかった。
【0072】
<比較例4>
実施例1で用いたのと同じシクロオレフィンポリマーを基材とする鋳型上に、実施例1で用いたのと同じ豚皮由来アテロコラーゲンの水溶液を滴下し、室温の風を送りながら、これを乾燥させた。その結果、豚皮由来アテロコラーゲンの水溶液の粘度が高く、鋳型の刻印面へ該水溶液が浸透しなかったことから、刻印面のナノ構造が転写されたコラーゲンシートを調製することができなかった。
【0073】
<実施例6>
本実施例では、実施例1と同じ方法で作製したコラーゲンシートを5層積層し(以下、「多層コラーゲンシート」と記す)、この多層コラーゲンシートの最上層の全面に対し、実施例1と同じ条件により鋳型の刻印面を転写した。
【0074】
その結果、本実施例の多層コラーゲンシートは、実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。したがって、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるコラーゲンシートを厚みのあるものとして提供可能となることが分かった。
【0075】
<実施例7>
本実施例では、実施例1と同じ方法で作製したコラーゲンシートに、実施例1で用いたコラーゲン凍結乾燥物と同じものを重ねたもの(以下、「シート面含有コラーゲンスポンジ」と記す)を作製し、このシート面含有コラーゲンスポンジのシート面全面に実施例1と同じ条件により鋳型の刻印面を転写した。
【0076】
その結果、本実施例のシート面含有コラーゲンスポンジは、そのシート面において実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。したがって、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができるシート面を有するスポンジ状のコラーゲンを提供可能となる。これにより、コラーゲンシートに物理的強度を付与することができるため、細胞培養に用いた際には、細胞接着能の増強によってシートが収縮することなどを防ぐことができる。さらに細胞、組織の移植用基材として用いた際には、生体内のボリュームが必要な箇所への移植などに用いることができる。
【0077】
<実施例8>
本実施例では、実施例1と同じ方法で作製したコラーゲンシートの両面に、実施例1で用いたのと同じ鋳型を載置し、これらの鋳型およびステンレス製トレーを実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレン製のシートと同じもので挟み込んだ。この状態で、鋳型を90℃に加熱し、かつ20MPaの圧力を与えて5分間維持することにより、鋳型の刻印面をコラーゲンシートに転写した。
【0078】
その結果、本実施例のコラーゲンシートは、その両面において実施例1のコラーゲンシートと同様のフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、かつ高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されている様子が確認された。
【0079】
<実施例9>
本実施例では、実施例1で用いたのと同じ豚皮由来アテロコラーゲンの水溶液130mLをアクリル板上に滴下し、室温で風を送りながら、これを乾燥させることにより、縦15cm×横15cm×厚み100μmのコラーゲンでコーティングされたアクリル板(以下、「複合シート」と記す)を作製した。次に、この複合シートのコラーゲンコーティングされた面の全面に、実施例1で用いたのと同じ鋳型を用い、実施例1と同じ条件で鋳型の刻印面を転写した。
【0080】
その結果、本実施例の複合シートは、そのコラーゲンコーティングされた面においてフォトニック結晶に起因する光学現象が確認され、かつ高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0081】
本実施例の複合シートは、アクリル板を含むことにより実施例1のコラーゲンシートよりも強度が付与されている。長期間の細胞培養では、細胞同士の引っ張る力が強くなることが知られるため、細胞が接着するシートに強度が不足していると、細胞によって該シートが収縮する傾向があった。このような場面に本実施例の複合シートを適用することにより、長期間の細胞培養に耐えるコラーゲンシートを提供することが可能となる。
【0082】
<実施例10>
本実施例では、複数のゼラチン顆粒をゼリー強度の大きいものから順に、実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレン製のシートと同じものの上に密に並べた(以下、「グラジエントゼラチンシート状物」という)。このグラジエントゼラチンシート状物に対し、実施例1で用いたのと同じ鋳型を載置し、加えて上記ポリテトラフルオロエチレン製のシートで鋳型およびグラジエントゼラチンシート状物を挟み込んだ。この状態で、実施例3の条件により鋳型の刻印面をグラジエントゼラチンシート状物に転写した。
【0083】
その結果、鋳型の温度でゼラチン顆粒が溶け出すとともに鋳型の刻印面が転写されることにより、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現するグラジエントゼラチンシートを得ることができた。このグラジエントゼラチンシートにおいて、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が、230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。
【0084】
さらに、このナノ構造が確認されたグラジエントゼラチンシート状物に対し、グルタルアルデヒドの雰囲気下にて化学架橋を導入した。このようなシートは、同一シート上に物性値の異なる領域が複数存在するモザイク状シートとなるため、たとえば同一シート上で硬さおよび等電点のいずれか一方または両方が異なる足場材料として細胞培養用途で提供することができる。近年、細胞の足場材料の硬さ、柔らかさが細胞の分化を決定する重要な要素の一つであるなどとして注目されている。さらに、同一シート上に分解性の異なる領域が複数存在するシートでもあるため、細胞培養用途において、シートの上面と下面との物質(情報伝達物質など)の移動を容易にするゼラチンシートを提供することも可能となる。
【0085】
<実施例11>
本実施例では、ゼラチン顆粒を実施例1で用いたポリテトラフルオロエチレン製のシートと同じものの上に疎に並べた(以下、「疎グラジエントゼラチンシート状物」という)。この疎グラジエントゼラチンシート状物に対し、実施例10と同じ方法により鋳型の刻印面を転写した。
【0086】
その結果、鋳型の温度でゼラチン顆粒が溶け出すとともに鋳型の刻印面が転写されることにより、シートに複数の穴が認められるゼラチンシート(以下、「穴開きゼラチンシート」と記す)を得ることができた。この穴開きゼラチンシートはフォトニック結晶に起因する光学現象を発現する領域において、高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物が230nmピッチで三角配置されたナノ構造が確認された。この穴開きゼラチンシートに、複数の穴が認められた理由は、ゼラチン顆粒を疎に並べたためである。さらに、このナノ構造が確認された疎グラジエントゼラチンシート状物に対し、グルタルアルデヒドの雰囲気下にて化学架橋を導入することにより、通常の細胞培養に耐えうる強度を得た。
【0087】
本シートは、たとえば、上述のナノ構造に抗体をアンカーリングさせるといった操作をさらに施すことにより、以下のような用途のゼラチンシートの提供が可能となる。すなわち、ゼラチンシートのナノ構造の無い領域(表面)で細胞培養を行ない、細胞から生じる液性因子を、シートの穴を通じて裏面にあるナノ構造にアンカーリングさせた抗体で感知させることにより、ナノ構造内で抗原抗体反応を起こす。その結果、この反応に基づいて光の屈折率が変化することを利用することにより、液性因子に含まれる物質(情報伝達物質など)のバイオインジケーターとしての用途を期待することができる。
【0088】
さらに、マトリックスメタロプロテアーゼを含む各種の酵素は、基質特異的にコラーゲンまたはゼラチンを分解することが知られている。その一方で、ゼラチンシートおよびコラーゲンシートに使用する材料は、それぞれI型コラーゲン、III型コラーゲンあるいはIV型コラーゲン、またはゼラチンを単独または複数混合して調製することができる。このため、酵素の基質特異性を利用することにより、シート上の局所的なナノ構造の分解を目視でまたはレーザーなどで分析することを通じ、酵素活性の定性または定量評価を行なうツールとしてゼラチンシートまたはコラーゲンシートを利用することが可能となる。ナノ構造の分解消失を目視確認できることにより、簡易的なインジケーターとしても使用することができる。
【0089】
<実施例12>
本実施例では、実施例1のコラーゲンシートを用い、以下の方法を用いて細胞培養を行なった。すなわち、ウエルの数が6つのプレート(商品名:「組織培養用マイクロプレート 6well」、AGCテクノグラス株式会社製)の各ウエルに、正常ヒト新生児包皮線維芽細胞(NB)(商品名:「凍結NHDF(NB)」、倉敷紡績株式会社製)を、1ウエルあたり20万個/2.5mLの割合で播種し、さらにPBSにより中和洗浄後の実施例1のコラーゲンシート(pH7.4)を各ウエルに浸漬し、37℃、5体積%CO2の雰囲気で2日間、細胞培養を行なった。
【0090】
その結果、図4に示すように、実施例1のコラーゲンシートの鋳型の刻印面が転写された第1領域(図4中、矢印よりも右側)において細胞は接着せず、シートに対して忌避していた。一方、鋳型の刻印面が転写されていない第2領域(図4中、矢印よりも左側)で細胞は接着し、進展していた。比較例1のコラーゲンシートを用いて上述した細胞培養を行なったところ、図5に示すように細胞はその全面に接着し、進展していた。したがって、230nmピッチで三角配置されている高さが200nm、幅(径)が230nmの円柱状の凸状物(ナノ構造)が、細胞の接着性を制限していることが分かった。
【0091】
ここで図5中の矢印は、上述のとおり比較例1のコラーゲンシートには刻印面が転写されなかったものの、その転写を試みた領域(第1領域)とそれ以外の領域(第2領域)との境界を示すために付したものである。
【0092】
<実施例13>
本実施例では、実施例1のコラーゲンシートの第1領域を用い、以下の方法を用いて細胞培養を行なった。すなわち、ウエルの数が6つのプレート(商品名:「組織培養用マイクロプレート 6well」、AGCテクノグラス株式会社製)の各ウエルの底面をPBSで洗浄した後、実施例1のコラーゲンシートの第1領域の部分を各ウエルに載置した。さらに正常ヒト新生児包皮線維芽細胞(NB)(商品名:「凍結NHDF(NB)」、倉敷紡績株式会社製)が3000個/mLの濃度に調製された細胞懸濁液を準備した。この細胞懸濁液を各ウエルのコラーゲンシートへ向けて20μLずつ滴下し、37℃、5体積%CO2の雰囲気で2日間、細胞培養を行なった。
【0093】
その結果、図6に示すように、実施例1のコラーゲンシートの第1領域において細胞は接着することなく、通常の細胞培養でみられる進展、増殖などが認められなかった。特に、細胞が集合し、凝集することにより複数の小さな細胞塊(スフェロイド:図6において白色の塊状)となっていることが認められた。このような細胞忌避効果は通常のコラーゲンシートおよびゼラチンシートでは認められない効果である。したがって、本発明に係るコラーゲンシートまたはゼラチンシートは絆創膏の用途として、たとえば裂傷した皮膚組織において皮膚浸出液ならびに細胞を、シート上に吸着させることなく、目的の皮膚組織に届けることにより、治療を促進および進展させることが期待できる。
【0094】
以上より、本発明に係るゼラチンまたはコラーゲンのシートは、生体適合性を有し、フォトニック結晶に起因する光学現象を発現することができ、かつ細胞接着能を制御することができるシートとして提供可能であることが理解される。ゼラチンまたはコラーゲンのシートは、細胞接着を忌避する基材としてたとえば、手術後の細胞および組織の癒着を防止する医療機器としての活用を見込める。ゼラチンまたはコラーゲンのシートは、通常の細胞培養では実現されない立体的な細胞塊(組織)を形成するための基材となる可能性もある。さらに、生体適合性を有し、かつフォトニック結晶に起因する光学現象を利用した新たな光センサ、光デバイスへの展開を図ることも可能である。
【0095】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6