特許第6857482号(P6857482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6857482リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許6857482-リチウム二次電池用正極活物質の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6857482
(24)【登録日】2021年3月24日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20210405BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210405BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G53/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-201566(P2016-201566)
(22)【出願日】2016年10月13日
(65)【公開番号】特開2018-63853(P2018-63853A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雄大
(72)【発明者】
【氏名】山内 真吾
(72)【発明者】
【氏名】中尾 公保
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−260655(JP,A)
【文献】 特開2011−058785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物と、正極活物質前駆体とを混合し、混合物を得る混合工程と、
前記混合物をロータリーキルンを用いて焼成する本焼成工程と、
を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記混合物に含まれるリチウム化合物の含有量が0を超え50質量%以下であり、
前記ロータリーキルンの炉内壁が、非金属材質であり、
前記本焼成工程を、酸素含有ガスを150.1Nm/h/m未満の流量で通気することにより行う、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記本焼成工程を750℃以上1000℃以下で行う、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム二次電池用正極活物質が、以下の一般式(I)で表される、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Li(Ni(1−y−z−w)CoMnw1−x]O ・・・(I)
(一般式(I)中、−0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0<z≦0.8、0≦w≦0.1、y+z+w<1、Mは、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【請求項4】
前記混合工程の後であって、前記本焼成工程の前に、前記本焼成の加熱温度よりも低温で焼成する、予備焼成工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記本焼成工程及び前記予備焼成工程のいずれか一方または両方を、酸素含有ガスを15Nm/h/m以上の流量で通気することにより行う請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記酸素含有ガス中の酸素濃度が、21体積%以上である、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム二次電池用正極活物質中に含まれるクロムの含有量が50ppm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム二次電池用正極活物質中に含まれる炭酸リチウムの含有量が1.0質量%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用正極活物質には、リチウム複合酸化物が用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途などの小型電源だけでなく、自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型電源においても、実用化が進んでいる。
【0003】
リチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、一般的に、リチウム化合物と、金属複合酸化物である前駆体とを焼成する工程を含む。
サイクル特性等のリチウム二次電池の性能を向上させるために、リチウム二次電池用正極活物質の組成を均一化する試みや、未反応物の残存量を低下させる試みがされている。
例えば、特許文献1には、焼成工程をローラーハースキルンを用いて実施したことにより、酸化のばらつきが少ない正極材料を生産性よく製造できたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−4724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池の応用分野の拡大が進む中、リチウム二次電池用正極活物質には種々の電池特性を向上させるため、高い結晶性が求められる。
しかしながら、前記特許文献1に記載のように、ローラーハースキルンを用いると、焼成に長時間を要し、さらに結晶性も十分なものではなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、結晶性に優れるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[8]の発明を包含する。
[1]リチウム化合物と、正極活物質前駆体とを混合し、混合物を得る混合工程と、前記混合物をロータリーキルンを用いて焼成する本焼成工程と、を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記混合物に含まれるリチウム化合物の含有量が0を超え50質量%以下であり、前記ロータリーキルンの炉内壁が、非金属材質であることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[2]前記本焼成工程を750℃以上1000℃以下で行う、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[3]前記リチウム二次電池用正極活物質が、以下の一般式(I)で表される、[1]又は[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
Li[Li(Ni(1−y−z−w)CoMnw1−x]O ・・・(I)
(一般式(I)中、−0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0<z≦0.8、0≦w≦0.1、y+z+w<1、Mは、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
[4]前記混合工程の後であって、前記本焼成工程の前に、前記本焼成の加熱温度よりも低温で焼成する、予備焼成工程を含む、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[5]前記本焼成工程及び前記仮焼成工程のいずれか一方または両方を、酸素含有ガスを15Nm/h/m以上の流量で通気することにより行う[1]〜[4]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[6]前記酸素ガス中の酸素濃度が、21体積%以上である、[5]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[7]前記リチウム二次電池用正極活物質中に含まれるクロムの含有量が50ppm以下である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[8]前記リチウム二次電池用正極活物質中に含まれる炭酸リチウムの含有量が1.0質量%以下である、[1]〜[7]のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶性に優れるリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウムイオン二次電池の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」と記載する。)の製造方法は、リチウム化合物と、正極活物質前駆体(以下、「前駆体」と記載する。)とを混合し、混合物を得る混合工程と、前記混合物をロータリーキルンを用いて焼成する本焼成工程と、を含むリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、前記混合物に含まれるリチウム化合物の含有量が0を超え50質量%以下であり、前記ロータリーキルンの炉内壁が、非金属材質であることを特徴とする。
【0010】
リチウム化合物と前駆体との焼成工程には、従来、トンネル炉、ローラーハースキルン、ロータリーキルンなどの設備が使用されている。
トンネル炉やローラーハースキルンは、鞘に混合物を充填して焼成するため、焼成効率が低く、さらに焼成に長時間を要するという問題がある。
またロータリーキルンは、炉内壁が金属製であり、高温で焼成すると部材から金属が溶出し、溶出した金属成分により正極活物質が汚染されてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、リチウム化合物と前駆体との混合物の焼成工程を、混合物が接触する部位である炉内壁が、非金属材質であるロータリーキルンを用いて実施する。このため、高温で焼成した場合であっても、炉内壁から金属が溶出せず、正極活物質が汚染されることが無い。また、本発明はリチウム化合物の含有量が50質量%以下の混合物を焼成するため、高温で焼成してもロータリーキルンに混合物及び焼成物が過度に付着することなく、焼成することができる。
以下、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
【0012】
[混合工程]
本工程は、リチウム化合物と、前駆体とを混合し、混合物を得る工程である。
本工程においては、リチウム化合物と、前駆体との混合物中の、リチウム化合物の含有量が0を超え50質量%以下となるように混合する。
リチウム化合物の含有量の下限値は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。
リチウム化合物の含有量の上限値は、49質量%以下が好ましく、48質量%以下がより好ましく、47質量%以下が特に好ましい。
上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0013】
本発明においては、混合物中のリチウム化合物の含有量を上記特定の含有量としたことにより、混合物および焼成物のロータリーキルンの炉内壁への付着を低減できる。このため、後述する焼成工程において、高温で焼成することができ、結晶性の高い正極活物質を得ることができる。
【0014】
・リチウム化合物
本発明に用いるリチウム化合物について説明する。
本発明に用いるリチウム化合物は、特に限定されず、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
【0015】
・前駆体
前駆体は、遷移金属化合物であることが好ましい。前駆体は、リチウム以外の金属、すなわち、必須金属であるNiと、Co、Mn、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群から選ばれる1種以上の任意金属とを含む遷移金属化合物であることが好ましい。遷移金属化合物は、遷移金属水酸化物又は遷移金属酸化物であることが、好ましく、具体的には、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物又はニッケルコバルトマンガン複合酸化物が好ましい。
前駆体は、通常公知のバッチ法又は共沈殿法により製造することが可能である。
【0016】
[本焼成工程]
本発明においては、上記特定の混合条件としたことにより、焼成工程において高温で焼成することができ、結晶の発達を良好に進行させることができる。
本焼成工程は、前記混合物との接触部位である炉内壁が、非金属材質であるロータリーキルンにより行う。
非金属材質としては、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al;アルミナともいう)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化マグネシウム(MgO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミック材料が好ましく、酸化アルミニウムを50重量%以上含むことが特に好ましい。
【0017】
本焼成工程は、750℃以上1000℃以下で行うことが好ましい。
焼成温度を750℃以上1000℃以下の高温の範囲とすることによって、結晶性の高い正極活物質を作製できる。
【0018】
[予備焼成工程]
本発明においては、前記混合工程の後であって、前記本焼成工程の前に、前記本焼成の加熱温度よりも低温で焼成する、予備焼成工程を含むことが好ましい。予備焼成は、前記本焼成よりも低温であればよく、本焼成の焼成温度よりも80℃〜200℃低い温度が好ましく、100℃〜150℃低い温度であることが好ましい。
予備焼成を行うことにより、高い結晶性を有する正極活物質を得ることができ、また、未反応物質を少なくすることができる。
予備焼成工程の焼成炉は特に限定されないが、ロータリーキルンを使用することが好ましい。本焼成工程と予備焼成工程とは、同一のロータリーキルンであってもよく、異なるロータリーキルンであってもよいが、連続的に焼成工程を行える観点から、同一のロータリーキルンを用いて実施することが好ましい。
予備焼成工程に用いる焼成炉の前記混合物との接触部位は、インコネル等の金属材質であってもよく、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al;アルミナともいう)等の非金属材質であってもよい。
【0019】
前記本焼成工程及び前記仮焼成工程のいずれか一方または両方は、酸素含有ガスを15Nm/h/m以上の流量で通気することにより行うことが好ましく、16Nm/h/m以上がより好ましい。上限値は特に限定されないが、例えば、150Nm/h/m以下、130Nm/h/m以下、120Nm/h/m以下が挙げられる。
上記上限値と下限値は任意組み合わせることができる。
前記本焼成工程及び前記仮焼成工程のいずれか一方または両方は、酸素ガス中の酸素濃度が、21体積%以上で実施することが好ましい。
本発明においては、本焼成工程を上記の通気条件で実施することが好ましい。
【0020】
焼成時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上10時間以下とすることが好ましく、1時間以上8時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下が特に好ましい。
より具体的には、予備焼成工程を30分間以上3時間以下とすることが好ましく、1時間以上2.5時間以下とすることがより好ましい。
また、本焼成工程を30分間以上3時間以下とすることが好ましく、1時間以上2.5時間以下とすることがより好ましい。
本発明においては、本焼成工程を非金属製のロータリーキルンを用いて実施する。
金属製のロータリーキルンは、金属の溶出が生じない温度での焼成する必要があるが、非金属製のロータリーキルンを用いる場合には、金属の溶出を考慮することなく、焼成温度を高温に設定できる。従って、金属製のロータリーキルンを用いる場合よりも、非金属製のロータリーキルンを用いる場合のほうが、より高温で焼成工程を実施することができる。このため、短時間の焼成工程で結晶性の高い正極活物質を得ることができる。
本発明において、予備焼成を実施する場合には、予備焼成工程の昇温開始から、本焼成工程が終了するまでの時間を上記の時間以内で実施する。
【0021】
焼成によって得たリチウムニッケル複合酸化物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能なリチウム二次電池用正極活物質とされる。
【0022】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法により製造される、リチウム二次電池用正極活物質について説明する。
【0023】
リチウム二次電池のエネルギー密度を高める意味で、リチウム二次電池用正極活物質は、以下組成式(I)で表されることが好ましい。
Li[Li(Ni(1−y−z−w)CoMn1−x]O ・・・(I)
(一般式(I)中、−0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0<z≦0.8、0≦w≦0.1、y+z+w<1、Mは、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【0024】
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるxは0以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるxは0.18以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本明細書において、「サイクル特性が高い」とは、放電容量維持率が高いことを意味する。
【0025】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるyは、0.13以上が好ましく、0.14以上がより好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるyは0.35以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0026】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるzは0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることがより好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるzは0.35以下であることが好ましく、0.32以下であることがより好ましく、0.30以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0027】
リチウム二次電池用正極活物質のハンドリング性を高める意味で、前記組成式(I)におけるwは0を超えることが好ましく、0.001以上であることがより好ましく、0.005以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートでの放電容量が高いリチウム二次電池を得る意味で、前記組成式(I)におけるwは0.04以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.02以下であることがさらに好ましい。
sの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0028】
前記組成式(I)におけるMは、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属である。
【0029】
本発明においては、製造されるリチウム二次電池用正極活物質が上記組成式(I)で表される所望の組成となるように、リチウム化合物と正極活物質前駆体とを混合すればよい。
【0030】
(層状構造)
正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0031】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P−3、R−3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P−6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcm、P6/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0032】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0033】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得る意味で、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0034】
本発明は、本焼成工程を非金属製のロータリーキルンを用いて実施するため、焼成炉の材質からの金属の溶出を低減できる。このため、金属不純物の一種であるクロムに着目した場合、クロムの含有量が低減された正極活物質を製造することができる。
本発明により製造されるリチウム二次電池用正極活物質中に含まれるクロムの含有量は、50ppm以下であることが好ましく、45ppm以下であることがより好ましく、40ppm以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、非金属製のロータリーキルンを用いて実施するため、高温で焼成することができる。このため、原料中の炭酸リチウムの分解が促進され、製造される正極活物質中の炭酸リチウムの残存量が低減される。
本発明により製造されるリチウム二次電池用正極活物質中に含まれる炭酸リチウムの含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.99質量%以下がより好ましく、0.95質量%以下が特に好ましい。炭酸リチウムの含有量の下限値は特に限定されないが、例えば、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.2質量%以上が挙げられる。
上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0036】
本発明とは対照的に、本焼成をローラーハースキルン等の鞘に混合物を充填して焼成する場合には、炭酸リチウムの分解が均一に進行しないため、製造される正極活物質中に炭酸リチウムが多く残存する傾向にある。
【0037】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法により製造されたリチウム二次電池用正極活物質を用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0038】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0039】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0040】
まず、図1(a)に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0041】
次いで、図1(b)に示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0042】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0043】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0044】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0045】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0046】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0047】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0048】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0049】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0050】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0051】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0052】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0053】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0054】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0055】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0056】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0057】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO、SiOなど式SiO(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO、TiOなど式TiO(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V、VOなど式VO(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe、Fe、FeOなど式FeO(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO、SnOなど式SnO(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO、WOなど一般式WO(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;LiTi12、LiVOなどのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0058】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti、TiS、TiSなど式TiS(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V、VS2、VSなど式VS(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe、FeS、FeSなど式FeS(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo、MoSなど式MoS(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnS(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WSなど式WS(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sbなど式SbS(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se、SeS、SeSなど式SeS(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0059】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、LiN、Li3−xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0060】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0061】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0062】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;CuSb、LaNiSnなどの合金;を挙げることもできる。
【0063】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0064】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0065】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0066】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0067】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0068】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0069】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0070】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0071】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0072】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCFおよびLiC(SOCFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0073】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0074】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0075】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPFなどのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0076】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLiS−SiS、LiS−GeS、LiS−P、LiS−B、LiS−SiS−LiPO、LiS−SiS−LiSO、LiS−GeS−Pなどの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0077】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0078】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態のリチウム含有複合金属酸化物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池を、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0079】
また、以上のような構成の正極は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池を、電池内部で生じる副反応を抑制することができる。
【0080】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、従来よりも電池内部で生じる副反応を抑制したリチウム二次電池となる。
【実施例】
【0081】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
本実施例においては焼成原料及びリチウム含有複合金属酸化物(正極活物質)の評価を次のようにして行った。以下において、実施例2は参考例とする。
【0082】
(1)リチウム含有複合金属酸化物中のクロム定量(ICP発光分析)
金属酸化物の組成分析は金属酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発行分析装置(パーキンエルマー製、Optima 7300DV)を用いて行った。
【0083】
(2)リチウム含有複合金属酸化物中の残存炭酸リチウム定量(中和滴定)
リチウム含有複合金属酸化物20gと純水100gを100mLビーカーに入れ、5分間撹拌した。撹拌後、リチウム含有複合金属酸化物を濾過し、残った濾液の60gに0.1mol/L塩酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。pH=8.3±0.1時の塩酸の滴定量をAmL、pH=4.5±0.1時の塩酸の滴定量をBmLとして、下記の計算式より、リチウム含有複合金属酸化物中に残存する炭酸リチウム濃度を算出した。下記の式中、炭酸リチウムの分子量は、各原子量を、Li;6.941、C;12、O;16、として算出した。
炭酸リチウム濃度(%)=0.1×(B−A)/1000×73.882/(20×60/100)×100
【0084】
(3)リチウム複合金属酸化物の粉末X線回折測定
リチウム複合金属酸化物の粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、Ultima IV、試料水平型)を用いて行った。得られたリチウム複合金属酸化物を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。該粉末X線回折図形から2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(以下、ピークAと呼ぶこともある)、2θ=44.6±1°の範囲内のピーク(以下、ピークBと呼ぶこともある)の半値幅を算出した。
【0085】
(実施例1)
[混合工程]
炭酸リチウム(LiCO)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH))とを、Li:Ni:Co:Mnのモル比が1.05:0.55:0.21:0.24となるよう秤量し、これらを乾式混合して混合物を得た。尚、該混合物中に含まれる炭酸リチウム含有量は混合比から29.7質量%である。
[予備焼成工程]
次いで、該混合物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、790℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、予備焼成工程で得られた焼成物を該ロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり108.7Nm/h通気しながら、900℃で2時間焼成を行った。
その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物(リチウム二次電池用正極活物質)を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が2ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.25質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.129、0.152であった。
【0086】
(実施例2)
[混合工程]
炭酸リチウム(LiCO)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH))とを、Li:Ni:Co:Mnのモル比が2.20:0.55:0.21:0.24となるよう秤量し、これらを乾式混合して混合物を得た。尚、該混合物中に含まれる炭酸リチウム含有量は混合比から46.6質量%である。
[予備焼成工程]
次いで、該混合物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、790℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を該ロータリーキルンに入れ、酸素を100体積%含むガスを炉内容積1mあたり150.1Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が4ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.92質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.160、0.208であった。
【0087】
(実施例3)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり107.2Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が10ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.16質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.152、0.185であった。
【0088】
(実施例4)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を60体積%含むガスを炉内容積1mあたり107.2Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が31ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.19質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.153、0.194であった。
【0089】
(実施例5)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を100体積%含むガスを炉内容積1mあたり46.5Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が49ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.15質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.152、0.178であった。
【0090】
(実施例6)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり46.5Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が20ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.51質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.149、0.182であった。
【0091】
(実施例7)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり17.9Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が19ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.90質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.161、0.200であった。
【0092】
(実施例8)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を100体積%含むガスを炉内容積1mあたり17.9Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が45ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.53質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.151、0.184であった。
【0093】
(比較例1)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり22.6Nm/h通気しながら、730℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が55ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が5.31質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.458、0.639であった。
【0094】
(比較例2)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり22.6Nm/h通気しながら、730℃で4時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が60ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が3.43質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.415、0.578であった。
【0095】
(比較例3)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がSUS310であるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり22.6Nm/h通気しながら、730℃で5時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が320ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が1.13質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.214、0.261であった。
【0096】
(比較例4)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナである鞘に充填し、ローラーハースキルンで、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり29.7Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が10ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が1.01質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.225、0.278であった。
【0097】
(比較例5)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナである鞘に充填し、ローラーハースキルンで、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり29.7Nm/h通気しながら、850℃で10時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対して中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.67質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.129、0.150であった。
【0098】
(比較例6)
[混合工程]
炭酸リチウム(LiCO)とニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物(Ni0.55Co0.21Mn0.24(OH))とを、Li:Ni:Co:Mnのモル比が3.00:0.55:0.21:0.24となるよう秤量し、これらを乾式混合して混合物を得た。尚、該混合物中に含まれる炭酸リチウム含有量は混合比から54.3質量%である。該混合物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンで酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり17.9Nm/h通気しながら、850℃で2時間焼成を行った。但し、炉心管の壁に混合物および焼成物が付着し、排出不可能であった。
【0099】
(参考例)
[混合工程]
前記実施例1と同様の方法により、混合物を得た。
[予備焼成工程]
実施例1に記載の混合物を炉内壁がインコネルであるロータリーキルンに入れ730℃で2時間焼成を行った。
[本焼成工程]
続いて、焼成物を炉内壁がアルミナであるロータリーキルンに入れ、酸素を21体積%含むガスを炉内容積1mあたり17.9Nm/h通気しながら、850℃で4時間焼成を行った。その後、室温まで冷却し、これを解砕して、リチウム複合金属酸化物を得た。リチウム複合金属酸化物に対してICP発光分析を行った結果、クロム含有量が13ppmであった。また、中和滴定を行った結果、炭酸リチウム含有量が0.10質量%であった。また、粉末X線回折を行った結果、ピークAとピークBの半値幅がそれぞれ0.149、0.183であった。
【0100】
以下、表1〜3に実施例及び比較例、参考例の条件、結果等をまとめて記載する。表中、RKはロータリーキルン、RHKはローラーハースキルンを指す。
【0101】
下記表1〜3に記載の結果のとおり、本発明を適用した実施例1〜8は、短時間の焼成時間で、ピーク半値幅が小さい、即ち結晶性の高い正極活物質を製造することができた。さらに、本発明を適用した実施例1〜8は、クロムの含有量が低かった。
これに対し、本焼成工程を金属製のロータリーキルンで実施した比較例1〜3は、クロムの含有量が多く、ピーク半値幅も大きかった。また、本焼成工程にローラーハースキルンを用い、2時間の焼成時間とした比較例4はピーク半値幅が大きく、比較例5はピーク半値幅が小さいものの、本焼成時間に10時間も要した。
参考例1は、本焼成を非金属材質のロータリーキルンを用いて4時間実施した。参考例1と実施例1とを比較すると、ピーク半値幅は同程度であった。つまり、短時間(2時間)の焼成時間で結晶性の高い正極活物質を製造することができた。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【符号の説明】
【0105】
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード
図1