(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連動する第1および第2の筋肉部位の表面に設置された各電極から、それぞれ前記第1および第2の筋肉部位による表面筋電図を示す第1および第2の計測信号を取得する取得部と、
前記第1および第2の計測信号に基づいてそれぞれ前記表面筋電図の特徴量を算出する特徴量算出部と、
前記算出された各特徴量間の相関の度合いを示す相関値を算出する相関値算出部と、
前記算出された相関値に基づいて前記各特徴量を補正する補正部と
を具備し、
前記補正部は、
前記各特徴量を補正するための補正情報を記憶する記憶媒体と、
前記算出された相関値が予め設定したしきい値以下の場合に、前記算出された各特徴量を前記記憶された補正情報に基づいて補正する補正処理部と、
前記相関値が最大値をとるときの前記各特徴量を求め、当該各特徴量を前記補正情報として前記記憶媒体に記憶させる補正情報生成部とを
を備える筋電計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[一実施形態]
(構成)
図1は、この発明の一実施形態に係る筋電計測装置を備えたシステムの全体構成図である。
図1に示すように、ユーザの左側頭筋上および右側頭筋上の各皮膚面にはそれぞれ電極2L,2Rが貼付される。左側頭筋および右側頭筋は、例えば咀嚼運動を行うための筋肉の1つであり、こめかみ付近に位置している。
【0012】
電極2L,2Rは、例えば電極サイズが30mm×30mmの布電極からなり、それぞれ左側頭筋および右側頭筋の筋活動を表す表面筋電図(sEMG)を、計測信号IS
L ,IS
Rとして出力する。これらの計測信号IS
L ,IS
R は、例えば信号ケーブルを介して筋電計測装置1に送られる。
【0013】
なお、電極2L,2Rに、例えばBluetooth(登録商標)等の小電力無線データ通信規格を採用した無線ユニットを付設し、これにより計測信号IS
L ,IS
R を筋電計測装置1に対し無線送信するように構成してもよい。また、電極2L,2Rの貼付位置は、左右の側頭筋上であれば任意に選択することができ、さらに電極2L,2Rのサイズや形状、材質、貼付手段等についても、表面筋電図を計測可能なものであれば如何なるものであってもよい。
【0014】
筋電計測装置1は、例えばパーソナルコンピュータを用いたもので、以下のように構成される。
図2はそのハードウェアおよびソフトウェアの機能構成を示すブロック図である。筋電計測装置1は、制御ユニット10と、記憶ユニット20と、入出力インタフェースユニット30とを備える。
【0015】
入出力インタフェースユニット30は、上記電極2L,2Rから出力された表面筋電図(sEMG)を表す計測信号IS
L ,IS
R を、制御ユニット10で取り扱うことが可能なディジタルデータに変換する機能を備える。また入出力インタフェースユニット30は、制御ユニット10から出力された補正後の計測データを外部デバイスへ出力する機能も備える。外部デバイスとしては、例えば表示器を備えたユーザ端末や、計測データをもとにユーザの咀嚼運動等を判定するパーソナルコンピュータやサーバ等の情報処理装置が想定される。
【0016】
記憶ユニット20は、例えば、記憶媒体としてHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込および読出しが可能な不揮発性メモリとRAM等の揮発メモリを使用したもので、その記憶領域には、プログラム記憶部に加え、計測データ記憶部21およびベースライン値記憶部22が設けられている。
【0017】
計測データ記憶部21は、電極2L,2Rにより検出された左右の各側頭筋の表面筋電図を表す計測データを記憶するために使用される。ベースライン値記憶部22は、上記表面筋電図(sEMG)を表す計測データにノイズ成分が含まれている場合に、当該計測データを補正するために使用するベースライン値を記憶するために使用される。
【0018】
制御ユニット10は、少なくとも1個のプロセッサと作業用メモリを有し、本実施形態を実施するために必要な処理機能として、sEMG計測データ取得制御部11と、BPF処理部12と、RMS算出部13と、ベースライン値算出部14と、相関係数算出部15と、補正処理部16とを備えている。これらの処理機能は、いずれも上記記憶ユニット20に格納されたプログラムを上記プロセッサに実行させることにより実現される。
【0019】
sEMG計測データ取得制御部11は、上記入出力インタフェースユニット30から、上記左右の各側頭筋の動きを表す表面筋電図(sEMG)に対応する計測データを所定時間分取り込み、これらの計測データを時系列に従い計測データ記憶部21に格納するための制御を行う。
【0020】
BPF処理部12は、体動等によるノイズ成分を除去するために周波数通過帯域が予め設定されたバンドパスフィルタ処理機能を有する。そして、上記計測データ記憶部21から読み出された計測データに対し上記バンドパスフィルタ処理を行うことで、上記計測データから体動等によるノイズ成分を除去する。
【0021】
RMS算出部13は、上記BPF処理部12によりフィルタリング処理された計測データに対し所定の時間幅を有する窓を設定し、この窓ごとに計測データの特徴量を算出する処理を行う。特徴量としては、例えば二乗平均平方根(RMS)が用いられる。
【0022】
ベースライン値算出部14は、キャリブレーションフェーズにおいて、上記RMS算出部13により窓ごとに算出された計測データの特徴量(RMS)の所定時間分の平均値を算出する。そして、この算出したRMSの平均値をベースライン値としてベースライン値記憶部22に記憶させる処理を行う。
【0023】
相関係数算出部15は、上記ベースライン値設定後の通常計測モードにおいて、上記RMS算出部13により窓ごとに算出された、左右の各側頭筋の表面筋電図(sEMG)のRMS間の相関係数(R)を算出する処理を行う。
【0024】
補正処理部16は、上記相関係数算出部15により算出された相関係数(R)を予め設定されたしきい値と比較し、この比較の結果相関係数(R)がしきい値以下の場合に、このときのRMSにはノイズ成分がまだ多く残留していると判断する。そして、当該RMSの値を上記ベースライン値記憶部22に記憶されているベースライン値に基づいて補正する処理を行う。
【0025】
(動作)
次に、以上のように構成された筋電計測装置1による表面筋電図の計測動作を説明する。
(1)ベースライン値の設定
実際の表面筋電図の計測に先立ち、筋電計測装置1は、RMSの補正に使用するベースライン値を定めるキャリブレーション処理を以下のように実行する。
【0026】
先ず
図1に例示したように、電極2L,2Rをユーザの左右の側頭筋上の皮膚に貼付する。例えば、電極サイズが30mm×30mmの布電極2L,2Rを、ユーザの左右の側頭筋上の皮膚に、電極間中心距離が40mmとなるように位置決めして貼付する。
【0027】
そして、安静状態において、制御ユニット10がsEMG計測データ取得制御部11の制御の下、上記各電極2L,2Rにより計測された表面筋電図を表す計測データを、5秒間にわたり入出力インタフェースユニット30から取り込み、計測データ記憶部21に記憶させる。なお、このとき入出力インタフェースユニット30では、サンプリングレート1000Hz、ゲイン倍率1000倍で、計測信号IS
L ,IS
R のサンプリングが行われ、ディジタル信号からなる計測データに変換される。
【0028】
次に筋電計測装置1は、BPF処理部12により、上記計測データ記憶部21から各計測データを読み出して、当該計測データに対しバンドパスフィルタ処理を行う。このときバンドパスフィルタ処理の通過帯域は20−450Hzに設定される。この結果、BPF処理部12により、上記通過帯域は20−450Hz以外の帯域に含まれるノイズ成分が除去された計測データが得られる。
【0029】
続いて、RMS算出部13の制御の下、上記BPF処理部12によりノイズ成分が除去された各計測データに対し100msecごとに窓を設定し、これらの窓ごとに上記各計測データの二乗平均平方根(RMS)を算出する。そして、上記各計測データについて、上記窓ごとに算出されたRMSの上記5秒間分の平均値をそれぞれ算出し、この算出されたRMSの平均値を、各計測データのベースライン値としてベースライン値記憶部22に保存する。かくして、左右の各側頭筋に対応するベースライン値が得られる。
【0030】
(2)表面筋電図の計測
上記ベースライン値の決定が終了すると、筋電計測装置1はユーザの例えば咀嚼運動の計測処理を以下のように実行する。
図3はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。
【0031】
筋電計測装置1は、上記ベースライン値の設定処理と同様に、先ずsEMG計測データ取得制御部11の制御の下、ステップS11において、電極2L,2Rにより検出された左右の各側頭筋の表面筋電図を表す計測データを、入出力インタフェースユニット30から時系列に従い順次取り込み、計測データ記憶部21に記憶させる。
【0032】
筋電計測装置1は、次にBPF処理部12の制御の下、ステップS12において、上記計測データ記憶部21から左右の各側頭筋に対応する計測データを読み出し、これらの計測データに対し20−450Hzの帯域のみを通過させて他の帯域を減衰させるフィルタリング処理を行う。このフィルタリング処理により、咀嚼運動とは無関係のノイズ成分の大部分が除去される。
【0033】
筋電計測装置1は、続いてRMS算出部13の制御の下、ステップS13により、上記フィルタリング処理後の左右の各側頭筋に対応する計測データに対し、それぞれ100msecの時間幅の窓を設定し、これらの窓ごとに上記各計測データの特徴量を表す二乗平均平方根(RMS)を算出する。
【0034】
筋電計測装置1は、次に相関係数算出部15の制御の下、ステップS14において、上記左右の各側頭筋に対応する計測データのRMSに対し、5秒間の窓を設定して、この窓の期間における上記各計測データのRMS間の相関係数(R)を算出する。
【0035】
筋電計測装置1は、続いて補正処理部16の制御の下、先ずステップS15において、上記算出された相関係数(R)をしきい値と比較し、相関係数(R)がしきい値以下であるか否かを判定する。しきい値は、例えば0.9に設定される。
【0036】
上記比較の結果、相関係数(R)がしきい値より大きければ、上記左右の各側頭筋の計測データから算出したRMSの相似性は高く、左右のRMS値を不均衡にするノイズ成分は含まれていないと判断する。そして、ステップS16ではRMS値の補正を行わずに、ステップS18に移行し、上記計測されたRMS値をそのまま計測結果を表すデータOSとして、入出力インタフェースユニット30から図示しないユーザ端末または管理用サーバ等へ出力させる。
【0037】
これに対し、上記比較の結果相関係数(R)がしきい値以下だったとする。この場合補正処理部16は、RMSにノイズ成分が多く含まれており補正が必要と判断する。そして、ステップS17において、ベースライン値記憶部22からベースライン値を読み出し、上記RMS値を上記ベースライン値に置換する。そして、ステップS18に移行して、上記補正後のRMS値を計測結果を表すデータOSとして、入出力インタフェースユニット30から図示しないユーザ端末または管理用サーバ等へ出力させる。
【0038】
(3)計測結果の具体例
(3−1)咀嚼運動
咀嚼運動を行った場合、その閉口運動では左右の側頭筋がほぼ同時に同程度の収縮力で動くため、RMSの値は左右で同程度の値となり、結果的に相関係数(R)は高い値、つまり“1”に近い値になる。
図4は、咀嚼運動を5秒間行ったときの左右のRMSの値の変化と、相関係数(R)の一例を示すものである。同図に示すように、RMSの値は左右で同程度の値となり、その結果相関係数(R)は“0.97”と高い値となる。
【0039】
(3−2)歯を食いしばった場合
歯を食いしばった場合、左右の側頭筋は連動するため、上記咀嚼運動の場合と同様に、RMSの値は左右で同程度の値となり、相関係数(R)も高い値となる。
図5は、歯を食いしばった状態を5秒間保持したときの左右のRMSの値の変化と、相関係数(R)の一例を示すものである。同図に示すように、RMSの値は左右で類似した値となり、その結果相関係数(R)は“0.95”と高い値となる。
【0040】
(3−3)瞬きを行った場合
これに対し瞬きを行った場合には、側頭筋は活動していないにも拘わらず、側頭筋表面部の皮膚が変形する。このため、RMSにはバンドパスフィルタ処理では除去できないノイズ成分が混入してしまう。この場合、瞬きによる計測値へのノイズ成分の混入の度合いは左右で異なり、一定の関係にならないため、相関係数は低くなる。
図6は、瞬きを5秒間行ったときの左右のRMSの値の変化と、相関係数(R)の算出結果の一例を示すものである。同図に示すように、RMSの値は左右で関連性が少なくなり、その結果相関係数(R)は“0.83”と、咀嚼運動等を行った場合に比べて低くなる。
【0041】
(3−4)帽子の鍔を左右に動かした場合
ユーザが帽子の鍔を持って左右に動かすと、この場合も側頭筋は活動していないにも拘わらず、電極がずれることによりノイズ成分が混入してしまう。この場合、ノイズ成分の混入の度合いは左右で異なり一定とはならないため、相関係数は低くなる。
図7は、帽子を左右に5秒間動かしたときの左右のRMSの値の変化と、相関係数(R)の算出結果の一例を示すものである。同図に示すように、RMSの値は左右で関連性が少なくなり、その結果相関係数(R)は“0.8”と、咀嚼運動を行った場合等に比べて低くなる。
【0042】
本実施形態では、以上の計測結果に基づいて、しきい値を“0.9”に設定し、補正の要否を判定している。従って、ユーザの咀嚼運動をノイズの発生要因となる他の動きと区別して、精度良く判定することが可能となる。
【0043】
(効果)
以上詳述したように一実施形態では、左右の各側頭筋の表面筋電図(sEMG)の計測データを取得し、これらの計測データに対し20−450Hzのみを通過させ他の周波数成分を除去するバンドパスフィルタ処理を行った後、特徴量を示すRMSを算出する。そして、上記左右の側頭筋に対応するRMS間の相関係数(R)を算出し、この相関係数(R)がしきい値以下の場合に、上記RMSには側頭筋の運動に寄らないノイズ成分が多く残留していると見做して、上記RMSの値を事前に設定しておいたベースライン値に置換するようにしている。
【0044】
従って、フィルタ処理技術のみでは除去できないノイズ成分を除去することが可能となり、これにより解析精度のさらなる向上を図ることができる。また、バンドパスフィルタによるノイズ除去処理を併用しているため、例えば咀嚼運動以外の体動成分の影響を事前に排除することができ、これによりRMSの算出および補正の要否判定をより正確に行うことが可能となる。さらに、補正用のベースライン値を事前にベースライン値記憶部22に記憶しているため、ベースライン値を読み出すだけで簡単な処理により補正処理を行うことができる。しかも、補正用の要否判定に使用するしきい値は、ユーザごとに事前に計測したデータをもとに設定するようにしているため、ユーザごとに適切なしきい値を設定することができる。
【0045】
[他の実施形態]
前記一実施形態では、補正処理方法として、算出された相関係数がしきい値以下の場合に、算出されたRMSをベースライン値に置換するようにした。しかし、それに限らず、相関係数としきい値との差に応じてベースライン値に対する補正量を算出し、この補正量に基づいて、算出されたRMSの値を補正するようにしてもよい。
【0046】
前記一実施形態では、ベースライン値を実際の計測結果に基づいて設定するようにしたが、キャリブレーション処理を省略し、事前に用意された標準的なベースライン値を記憶するようにしてもよい。また、しきい値についても、予め固定的な設定した値を使用する以外に、咀嚼運動等の解析精度に基づいて定期的または随時更新するようにしてもよい。
【0047】
さらに、前記一実施形態では、咀嚼運動を解析するために左右の各側頭筋の動きを計測する場合を例にとって説明した。しかし、それに限るものではなく、側頭筋の他にも奥歯付近に位置する咬筋も咀嚼運動時に左右で連動するため、同様の処理手順でノイズ成分を除去して表面筋電図(sEMG)を測定することができる。
【0048】
また、咀嚼運動以外にも、屈伸運動等のように左右対称と筋肉が連動して動作する他の運動にも、この発明は適用可能である。その他、筋電計測装置の構成、表面筋電図の計測処理の手順と処理内容、しきい値や等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0049】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。