(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒト又はカニクイザルCD47に特異的に結合し、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を有する、単離抗体であって、前記VH鎖領域が、配列番号4もしくは配列番号5を有し、配列番号7を有するVL鎖領域と組み合わされるか、または前記VH鎖領域が、配列番号6を有し、配列番号8を有するVL鎖領域と組み合わされたものであり;前記抗体がIgG1アイソタイプのものである、単離抗体。
前記抗体の前記VH鎖が結合するエピトープは、CD47発現細胞の膜の近くに位置し、前記抗体の前記VL鎖がCD47上のSIRPα結合部位を塞ぐ、請求項1又は2に記載の抗体。
癌又は他の腫瘍状態の症状を緩和するための医薬組成物であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体を含み、該抗体の投与を必要とする対象に、前記対象の前記癌又は他の腫瘍状態の症状を緩和するのに充分な量で投与される、医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で述べる抗体のいくつかの特性としては、
・ヒトCD47及びカニクイザルCD47に特異的に結合すること、
・CD47とSIRPαとの相互作用を遮断すること、
・顕著なヒト血小板凝集活性を有さないこと、
・顕著な赤血球凝集活性を有さないこと、
・マクロファージによる腫瘍細胞の貪食作用を促進することが可能であること、
・ヒトの癌のマウスモデルにおいて強い抗腫瘍活性を示すこと、が挙げられる。
【0017】
したがって、本明細書に述べられる抗体は、様々な癌の治療において極めて重要なものとなるであろう。
【0018】
多くの既存のCD47抗体がSIRPαを遮断する。しかしながら、本明細書に述べられる発明の主題以前には、SIRPαを遮断する既存の完全なIgG CD47抗体は、血小板凝集及び/又は赤血球凝集の副作用を引き起こし、これは、上記に述べたように望ましくない特性である。2D3などの他の既存の抗体は赤血球凝集は引き起こさないものの、これらの抗体はSIRPαも遮断しない。したがって、血小板及び赤血球の凝集を引き起こさずにSIRPαを遮断する完全なIgGの形のCD47抗体はこれまでに知られていなかった。
【0019】
一部の実施形態では、本明細書に述べられるIgG CD47は、顕著な血小板凝集及び赤血球凝集を示さないことから、CD47を治療標的とする効果が高められ、CD47とSIRPαとの相互作用を遮断する能力が維持され、これによりCD47発現細胞の貪食作用が促進される。詳細には、本開示の完全なIgG CD47抗体(例えばC47B157、C47B161及びC47B222)は、顕著な細胞凝集活性を示さない。例えば、本明細書に述べられるCD47抗体は、顕著な血小板凝集及び赤血球凝集活性を有さない。したがって、これらを総合すると、本明細書に述べられる抗体(例えばC47B157、C47B161及びC47B222並びにこれらの誘導体)は、顕著な血小板凝集及び赤血球凝集活性をともなわずにSIRPαを遮断する能力において既存のCD47抗体の中でも固有のものである。
【0020】
概論
当業者であれば、本明細書における開示には具体的に記載されるもの以外の変更及び改変を行うことが可能である点は認識されるであろう。本開示は、すべてのそのような変更及び改変を包含するものとして理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において言及されるか又は示される工程、要素、組成物、及び化合物のすべてを個別に又は包括的に含み、また、前記工程又は要素のすべての組み合わせ又は任意の2つ以上も含むものである。
【0021】
本開示は、本明細書に述べられる特定の実施形態によってその範囲が限定されるものではなく、これらの実施形態はあくまで例示を目的としたものにすぎない。機能的に同等な製品、組成物、及び方法は、明らかに本開示の範囲内に含まれる。
【0022】
本明細書に述べられる組成物及び方法は、特に断らないかぎり、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成、薬化学、医薬品化学、及び免疫学の従来の方法を用い、必要以上の実験を行うことなく製造又は実施される。医薬製剤、配合物、及び送達、並びに患者の治療には標準的技術が用いられる。
【0023】
用語の定義
別途定義されないかぎり、本開示に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者により一般的に理解される意味を有するものとする。
【0024】
本開示に基づいて用いられる場合、以下の用語は特に断らないかぎりは、以下の意味を有するものとして理解される。
【0025】
「及び/又は」なる用語、例えば「X及び/又はY」とは、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものとして理解され、両方の意味又はいずれかの意味に明確な支持を与えるものとして解釈される。
【0026】
本明細書の全体を通じて、そうでない旨が具体的に明記されないかぎり、又は文脈上そうでない必然性がないかぎり、単一の工程、組成物、一群の工程又は一群の組成物への言及は、これらの工程、組成物、工程群、又は組成物群の1つ及び複数(すなわち1つ以上)を包含するものとして解釈されるものとする。したがって、文脈上そうでない旨が明らかに示されないかぎり、単数形「a」、「an」及び「the」には、複数の態様が含まれる。例えば、「a」と言う場合には、1つ、及び2つ以上が含まれ、「an」と言う場合には、1つ、及び2つ以上が含まれ、「the」と言う場合には、1つ、及び2つ以上が含まれる、といった具合である。
【0027】
本明細書で使用するところの「CD47」、「インテグリン関連タンパク質(IAP)」、「卵巣癌抗原OA3」、及び「Rh関連抗原」なる用語は互いに同義語であり、互換可能に用いられうる。
【0028】
「赤血球(red blood cell)」及び「赤血球(erythrocyte)」なる用語は互いに同義語であり、互換可能に用いられる。
【0029】
本明細書で使用するところの「血小板凝集」なる用語は、活性化された血小板の凝集体又は凝塊の形成をもたらす、活性化された血小板の互いに対する接着のことを指す。血小板凝集は、実施例で述べるように、血小板凝集が起こる際の光の透過率の増大を測定する血小板凝集計を使用して測定される。「顕著な血小板凝集活性」は、本明細書に述べられる抗体の添加の6分後までに抗体添加前の光透過率に対して少なくとも25%の光透過率の増大が認められる場合に生じる。
【0030】
「凝集」なる用語が細胞の凝集を指すのに対して、「赤血球凝集」なる用語は、細胞の特定のサブセット、すなわち赤血球の凝集を指す。したがって、赤血球凝集は凝集の一種である。
【0031】
本明細書に述べられる赤血球凝集アッセイでは、特定のウェル内で赤血球によって「ボタン」、「ハロー」、又はこれら2つの中間でありうるパターンが形成される。「顕著な赤血球凝集活性」なる用語は、本明細書に述べられる抗体を添加した際にウェル内に任意のハローパターンが存在することを指す。
【0032】
本明細書で使用するところの「抗体」なる用語は、免疫グロブリン分子(すなわち、抗原に特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を有する分子)及び免疫グロブリン(Ig)分子の免疫学的活性部分のことを指す。「〜に特異的に結合する」又は「〜と免疫反応する」又は「〜を標的とする」とは、抗体が所望の抗原の1つ以上の抗原決定基と反応し、他のポリペプチドとは反応しないか又は大幅に低いアフィニティー(K
d>10
-6)で結合することを意味する。抗体としては、これらに限定されるものではないが、モノクローナル、キメラ、dAb(ドメイン抗体)、一本鎖、Fab、Fabフラグメント及びF(ab’)
2フラグメント、F
v、scFvs、並びにFab発現ライブラリーが挙げられる。
【0033】
基本的な抗体構造単位は四量体からなることが知られている。各四量体はポリペプチド鎖の2組の同じペアからなり、各ペアは1本の「軽鎖」(約25kDa)と1本の「重鎖」(約50〜70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識の役割を担うアミノ酸約100〜110個以上からなる可変領域を含んでいる。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能の役割を担う定常領域を画定している。一般的に、ヒトから得られる抗体分子は、分子内に存在する重鎖の性質によって互いに異なるIgG、IgM、IgA、IgE及びIgDのクラスのいずれかに分けられる。特定のクラスは、IgG1、IgG2、及び他のサブクラスのようなサブクラスを更に有する。更に、ヒトでは、軽鎖はκ鎖又はλ鎖でありうる。
【0034】
本明細書で使用するところの「モノクローナル抗体」(mAb)又は「モノクローナル抗体組成物」なる用語は、固有の軽鎖遺伝子産物と固有の重鎖遺伝子産物とから構成された1種類の抗体分子の分子種のみを含む抗体分子の集団のことを指す。詳細には、モノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)は集団の分子のすべてで同じである。MAbは、抗原の特定のエピトープと免疫反応することが可能な抗原結合部位を有している。
【0035】
一般的に、ヒトから得られる抗体分子は、分子内に存在する重鎖の性質によって互いに異なるIgG、IgM、IgA、IgE及びIgDのクラスのいずれかに分けられる。特定のクラスは、IgG
1、IgG
2、及び他のサブクラスのようなサブクラスを更に有する。更に、ヒトでは、軽鎖はκ鎖又はλ鎖でありうる。
【0036】
「抗原結合部位」又は「結合部分」なる用語は、抗原結合に関与する免疫グロブリン分子の部分を指す。抗原結合部位は、重鎖(「H」鎖)及び軽鎖(「L」鎖)のN末端の可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成される。「超可変領域」と呼ばれる、重鎖及び軽鎖のV領域内の3つの特に変化の大きい領域が、「フレームワーク領域」又は「FR」として知られる、より保存された隣接領域の間に挟まれるように位置している。したがって、「FR」なる用語は、免疫グロブリンの超可変領域の間にかつそれらに隣接して天然に見出されるアミノ酸配列のことを指す。抗体分子では、軽鎖の3つの超可変領域と重鎖の3つの超可変領域とは、互いに対して3次元空間で配置されて抗原結合表面を形成している。抗原結合表面は結合する抗原の3次元表面に相補的であり、重鎖及び軽鎖のそれぞれの3つの超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」と呼ばれる。各ドメインに対するアミノ酸の指定は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)、メリーランド州ベセスダ(1987及び1991))、又はChothia & Lesk,J.Mol.Biol.196:901〜917(1987),Chothia et al.Nature 342:878〜883(1989))の定義に従っている。
【0037】
本明細書で使用するところの「エピトープ」なる用語には、免疫グロブリン若しくはそのフラグメント、又はT細胞受容体に特異的に結合することが可能な任意のタンパク質決定因子が含まれる。「エピトープ」なる用語には、免疫グロブリン又はT細胞受容体に特異的に結合することが可能な任意のタンパク質決定因子が含まれる。エピトープ決定因子は、通常、アミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面基からなり、通常、特定の三次元構造特性及び特定の電荷特性を有する。抗体は、解離定数が≦1μMである場合に抗原と特異的に結合すると言われる。
【0038】
本明細書で使用するところの「特異的に結合する」なる用語は、免疫グロブリン分子と、その免疫グロブリンが特異的である抗原との間で生じる種類の非共有結合的な相互作用のことを指す。免疫学的結合相互作用の強さ、すなわちアフィニティーは、相互作用の解離定数(K
d)で表すことができ、K
dが小さいほど強いアフィニティーを表す。選択されたポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該技術分野では周知の方法を用いて定量化することができる。そのような方法の1つでは、抗原結合部位/抗原複合体の形成及び解離の速度を測定することを行うが、これらの速度は、複合体パートナーの濃度、相互作用のアフィニティー、及び両方向で速度に同等の影響を及ぼす幾何学的パラメータに依存する。したがって、「結合速度定数」(k
on)及び「解離速度定数」(k
off)の両方を、濃度、並びに会合及び解離の実際の速度を計算することによって求めることができる(Nature 361:186〜87(1993)を参照)。k
off/k
onの比は、アフィニティーと関係しないすべてのパラメータを消すことを可能とするものであり、解離定数K
dに等しい(一般論についてはDavies et al.(1990)Annual Rev Biochem 59:439〜473を参照)。本開示の抗体は、放射性リガンド結合アッセイ、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、フローサイトメトリー結合アッセイ、又は当業者には周知の同様のアッセイのようなアッセイによって測定される、平衡結合定数(K
d)がK
d≦1μMである場合にCD47に特異的に結合すると言われる。
【0039】
「単離」抗体とは、同定されたものであり、その天然の環境の成分から分離及び/又は回収されたものである。その天然の環境の夾雑成分とは、抗体の診断的又は治療的使用の妨げとなる物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク性又は非タンパク性溶質を含みうる。好ましい実施形態では、抗体は、ローリー法により測定した場合に95重量%超、最も好ましくは99重量%超の抗体にまで精製されるか、(2)スピニングカップシークエネーターの使用によりN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るのに充分な程度にまで精製されるか、又は(3)クマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いた還元若しくは非還元条件下でSDS−PAGEにより均質状態にまで精製される。単離抗体には、抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないことから組換え細胞内のインサイチュの抗体が含まれる。しかしながら、通常は単離抗体は少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0040】
本明細書で使用するところの「ポリペプチド」なる用語は、天然タンパク質、フラグメント、又はポリペプチド配列のアナログを指す一般的用語として用いられる。したがって、天然タンパク質のフラグメント及びアナログはそのポリペプチド属の種である。
【0041】
ある対象物に適用されて本明細書で使用するところの「天然に存在する」なる用語は、その対象物が天然に見出されることを指す。例えば、自然界の存在源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、実験室において人為的に、又は他の形で改変されていないポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は、「天然に存在する」ものである。
【0042】
本明細書で言うところの「オリゴヌクレオチド」なる用語には、天然に存在するオリゴヌクレオチド連結部分及び天然に存在しないオリゴヌクレオチド連結部分によって互いに連結された、天然に存在するヌクレオチド及び改変ヌクレオチドが含まれる。オリゴヌクレオチドとは、塩基200個又はこれよりも少ない数の塩基の長さを一般的に有するポリヌクレオチドのサブセットである。好ましくは、オリゴヌクレオチドは10〜60塩基の長さであり、最も好ましくは、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20〜40塩基の長さである。オリゴヌクレオチドは、通常は例えばプローブ用では一本鎖であるが、例えば遺伝子突然変異体の構築に使用する目的では二本鎖の場合もある。本明細書に述べられるオリゴヌクレオチドは、センス又はアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかである。
【0043】
「配列同一性」なる用語は、2個のポリヌクレオチド又はアミノ酸配列同士が比較ウインドウにわたって同一である(すなわちヌクレオチド単位又は残基単位で)ことを意味する。「配列同一性の割合(%)」なる用語は、2個の最適に整列された配列同士を比較ウインドウにわたって比較し、同じ核酸塩基(例えばA、T、C、G、U又はI)又は残基が両方の配列に生じる位置の数を求めることにより、一致した位置の数を得て、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数(すなわちウインドウサイズ)で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の割合(%)を得ることによって計算される。本明細書で使用するところの「実質的な同一性」なる用語は、ポリヌクレオチド又はアミノ酸配列の特性を示すものであり、そのポリヌクレオチド又はアミノ酸が参照配列と比較した場合に少なくとも18個のヌクレオチド(6個のアミノ酸)位置の比較ウインドウにわたって、多くの場合、少なくとも24〜48個のヌクレオチド(8〜16個のアミノ酸)位置のウインドウにわたって少なくとも85%の配列同一性、好ましくは少なくとも90〜95%の配列同一性、より一般的には少なくとも99%の配列同一性を有する配列を有することを示し、ここで、配列同一性の割合(%)は、参照配列を、比較ウインドウにわたって全体で参照配列の20%以下の欠失又は付加を含んでよい配列と比較することによって計算される。参照配列は、より大きな配列のサブセットであってよい。
【0044】
本明細書で使用するところの20種類の標準アミノ酸及びそれらの略号は、従来の使用に従う(Immunology−A Synthesis(2nd Edition,E.S.Golub and D.R.Gren,Eds.,Sinauer Associates,Sunderland7 Mass.(1991)を参照))。20種類の標準アミノ酸の立体異性体(例えばDアミノ酸)、α−,α−二置換アミノ酸のような非天然アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、及び他の非標準アミノ酸も本開示のポリペプチドの適当な構成成分となりうる。非標準アミノ酸の例としては、4ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、σ−N−メチルアルギニン、並びに他の類似のアミノ酸及びイミノ酸(例えば4−ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で使用するポリペプチドの表記法では、標準的な使用及び慣例に従い、左方向がアミノ末端の方向であり、右方向がカルボキシ末端の方向である。
【0045】
同様に、特に断らないかぎりは、一本鎖ポリヌクレオチド配列の左端が5’末端であり、二本鎖ポリヌクレオチド配列の左方向を5’方向と呼ぶ。新生RNA転写産物の5’→3’方向の付加の方向は転写方向と呼ばれ、RNAと同じ配列を有するDNA鎖の、RNA転写産物の5’末端の5’側にある配列領域は「上流配列」と呼ばれ、RNAと同じ配列を有するDNA鎖の、RNA転写産物の3’末端の3’側にある配列領域は「下流配列」と呼ばれる。
【0046】
ポリペプチドについて用いられる場合、「実質的同一性」なる用語は、例えばデフォルトのギャップ重みを用いてGAP又はBESTFITプログラムなどにより最適に整列させた場合に、2個のポリペプチド配列同士が、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を共有することを意味する。
【0047】
好ましくは、同じでない残基位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。
【0048】
「保存的」アミノ酸置換とは、類似した側鎖を有する残基の互換性のことを指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸群は、セリン及びトレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸群は、アスパラギン及びグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸群は、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸群は、リシン、アルギニン、及びヒスチジンであり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸群は、システイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基としては、バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リシン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、及びアスパラギン−グルタミンがある。
【0049】
本明細書で述べるように、抗体又は免疫グロブリン分子のアミノ酸配列のわずかな変異は、アミノ酸配列の変異が、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、最も好ましくは99%を維持するものとして、本開示に包含されるものとみなされる。詳細には、保存的アミノ酸置換が考えられる。保存的置換とは、それらの側鎖において関連したアミノ酸ファミリー内で起こる置換である。遺伝子にコードされるアミノ酸は、大きく以下のファミリーに分けられる。すなわち、(1)酸性アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸であり、(2)塩基性アミノ酸は、リシン、アルギニン、ヒスチジンであり、(3)非極性アミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンであり、(4)非荷電極性アミノ酸は、グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシンである。親水性アミノ酸としては、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン、セリン、及びトレオニンが挙げられる。疎水性アミノ酸としては、アラニン、システイン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、チロシン、及びバリンが挙げられる。アミノ酸の他のファミリーとしては、(i)脂肪族ヒドロキシファミリーであるセリン及びトレオニン、(ii)アミド含有ファミリーであるアスパラギン及びグルタミン、(iii)脂肪族ファミリーであるアラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン、(iv)芳香族ファミリーであるフェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンが挙げられる。例えば、イソロイシン若しくはバリンによるロイシンの、グルタミン酸によるアスパラギン酸の、セリンによるトレオニンの単独の置換、又は構造的に関連したアミノ酸によるあるアミノ酸の同様の置換は、特にこうした置換がフレームワーク部位内のアミノ酸をともなわない場合には、得られる分子の結合又は性質に大きな影響を及ぼさないであろうと予想することは妥当である。あるアミノ酸の変化が機能的ペプチドを生じるか否かは、ポリペプチド誘導体の比活性をアッセイすることによって容易に判定することができる。これらのアッセイは本明細書に詳細に述べる。抗体又は免疫グロブリン分子のフラグメント若しくはアナログは、当業者によって容易に調製することができる。フラグメント又はアナログのアミノ及びカルボキシ末端は、機能ドメインの境界の近くにあることが好ましい。構造ドメイン及び機能ドメインは、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列データを、公的又は専用の配列データベースと比較することによって同定することができる。既知の構造及び/又は機能の他のタンパク質に見られる配列モチーフ又は予想されるタンパク質コンフォメーションのドメインを同定するために、コンピュータ化された比較方法を用いることが好ましい。既知の3次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を同定するための方法は周知のものである(Bowie et al.Science 253:164(1991))。したがって、上記の例は、当業者であれば、本開示に従って構造及び機能ドメインを定義するために用いることができる配列モチーフ及び構造的コンフォメーションを認識しうることを示すものである。
【0050】
好ましいアミノ酸置換は、(1)タンパク質分解を受けにくくし、(2)酸化を受けにくくし、(3)タンパク質複合体を形成するための結合アフィニティーを変化させ、(4)結合アフィニティーを変化させ、(5)そのようなアナログの他の物理化学的又は機能的特性を付与若しくは改変するものである。アナログは、天然に存在するペプチド配列以外の配列の各種のムテインを含みうる。例えば、1個又は複数のアミノ酸置換(好ましくは保存的アミノ酸置換)を天然に存在する配列に(好ましくは分子間接触を形成するドメインの外側のポリペプチドの部分に)行うことができる。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特性を大きく変えるものであってはならない(例えば、置換アミノ酸は親配列中に存在する螺旋を壊したり、親配列を特徴付ける他の種類の二次構造を壊す傾向を有してはならない)。当該技術分野において認識されているポリペプチドの二次構造及び三次構造の例については、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al.Nature 354:105(1991)に述べられている。
【0051】
「剤」なる用語は、本明細書では、化合物、化合物の混合物、生体高分子、又は生物学的材料から調製される抽出物を指して用いられる。
【0052】
本明細書で使用するところの「標識」又は「標識された」なる用語は、例えば放射性標識されたアミノ酸の取り込み、又は標識されたアビジン(例えば蛍光マーカー、又は光学的若しくは熱量計による方法により検出することが可能な酵素活性を含むストレプトアビジン)により検出することが可能なビオチニル部分のポリペプチドへの結合による検出可能なマーカーの取り込みのことを指す。特定の状況では、標識又はマーカーは治療的なものであってもよい。ポリペプチド及び糖タンパク質を標識する様々な方法が当該技術分野では知られており、使用することができる。ポリペプチドの標識の例としては、これらに限定されるものではないが、以下のもの、すなわち、放射性同位体又は放射性核種(例えば、
3H、
14C、
15N、
35S、
90Y、
99Tc、
111In、
125I、
131I)、蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、p−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光、ビオチニル基、二次レポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパーペア配列、二次抗体に対する結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)が挙げられる。一部の実施形態では、標識は、潜在的な立体障害を低減するために様々な長さのスペーサーアームによって結合される。本明細書で使用するところの「医薬品又は薬剤」なる用語は、患者に適正に投与された場合に所望の治療効果を誘発することが可能な化合物又は組成物のことを指す。
【0053】
本明細書では「抗腫瘍薬」なる用語は、ヒトの腫瘍、特に癌、肉腫、リンパ腫、又は白血病などの悪性(癌性)病変などの発生又は進行を阻害する機能特性を有する薬剤のことを指して用いられる。転移の阻害はしばしば抗腫瘍薬の特性である。
【0054】
本明細書における他の化学用語は、The McGraw−Hill Dictionary of Chemical Terms(Parker,S.,Ed.,McGraw−Hill,San Francisco(1985))により例示される、当該技術分野における従来の用法に従って用いられる。
【0055】
CD47抗体
本明細書に述べられるモノクローナル抗体は、CD47に結合し、SIRPαとCD47との結合を阻害し、CD47−SIRPαにより媒介されるシグナル伝達を低減させ、貪食作用を促進し、腫瘍の増殖及び/又は移動を阻害する能力を有するものである。阻害作用は、例えば本明細書の実施例で述べる細胞アッセイを用いて判定される。
【0056】
本明細書に述べられる代表的な抗体には、配列番号4〜6から選択される重鎖可変領域(VH)と、配列番号7及び8から選択される軽鎖可変領域(VL)とを有する抗体が含まれる。具体的には、代表的な抗体として表1に示されるものが挙げられる。
【0058】
CD47抗体のVH鎖の相補的決定領域(CDR)を具体的に示す。一部の実施形態では、VH CDR1のアミノ酸配列は、DYNMH(配列番号9)又はDYWIG(配列番号10)である。一部の実施形態では、VH CDR2のアミノ酸配列は、DIYPYNGGTGYNQKFKG(配列番号11)又はIIYPGDSDTRYSPSFQG(配列番号12)である。一部の実施形態では、VH CDR3のアミノ酸配列は、GGWHAMDS(配列番号13)又はVGRFASHQLDY(配列番号14)である。
【0059】
一部の実施形態では、VL CDR1のアミノ酸配列は、RSRQSIVHTNRYTYLA(配列番号15)又はRASQSVNNRLA(配列番号16)である。一部の実施形態では、VL CDR2のアミノ酸配列は、KVSNRFS(配列番号17)又はWASTRAI(配列番号18)である。一部の実施形態では、VL CDR3のアミノ酸配列は、FQGSHVPYT(配列番号19)又はQQGASWPFT(配列番号20)である。
【0060】
本開示には、本明細書に述べられるCD47抗体と同じエピトープに結合する抗体も含まれる。例えば、本出願に述べられる抗体は、下記に示される代表的なヒトCD47(GenBankアクセッション番号Q08722.1(GI:1171879)、本明細書に参照により援用する)の1個以上のアミノ酸残基を含むエピトープに特異的に結合する。シグナル配列(アミノ酸1〜18)は下線で示してある。
【化1】
【0061】
一部の実施形態では、抗体は、配列番号21のQ1、L3、N27、E29、E97、L101、T102、R103、及びE104と相互作用する。一部の実施形態では、抗体は、配列番号21のY37、K39、R45、D46、T49、A53、L54、N55、K56、S57、T58、V59、P60、T61、S64、A66、及びK67と相互作用する。一部の実施形態では、抗体は、配列番号21のE35、K39、Y37、D46、49、D51、A53、L54、K56、T58、V59、T99、L101、及びT102と相互作用する。一部の実施形態では、抗体は、配列番号21のE29、Q31、N32、T34、E35、V36、Y37、K39、N41、D46、D51、A53、E97、T99、E100、L101、T102、R103、及びE104と相互作用する。
【0062】
当業者であれば、ある抗体が本明細書に述べられる抗体(例えばC47B157、C47B161及びC47B222、又は配列番号4〜6から選択される重鎖可変領域、並びに配列番号7及び8から選択される軽鎖可変領域)のいずれかと同じ特異性を有するか否かを、前者が後者のCD47との結合を防止するか否かを確認することによって、不要な実験を行うことなく判定することが可能である点は認識されよう。試験される抗体が、本明細書に述べられる抗体の結合の低下によって示されるように本開示の抗体と競合する場合、2つの抗体は、同じか又は近いエピトープに結合する可能性が高い。
【0063】
ある抗体が本明細書に述べられる抗体の特異性を有するか否かを判定するための別の方法としては、本明細書に述べられる抗体を可溶性のCD47タンパク質(これと抗体は通常は反応性を有する)と予めインキュベートし、次いで試験される抗体を加えることで、試験される抗体のCD47に結合する能力が阻害されるか否かを判定することがある。試験される抗体の結合が阻害された場合には、ほぼ確実に、その抗体は本開示の抗体と同じ、又は機能的に同等のエピトープ特異性を有する。
【0064】
本開示の抗体
本明細書に述べられる抗体は、CD47によって、かつ/又はCD47/SIRPαによって媒介されるシグナル伝達を、調節、遮断、阻害、低下、拮抗、中和するか、又は他の形でこれを妨げる能力について評価を行うことができる。例えば、かかる評価法は、1つ以上の本明細書に述べられる抗体の存在下で、CD47によって、かつ/又はCD47/SIRPαによって媒介されるシグナル伝達を測定することを含みうる。これらのアッセイは、競合的結合アッセイを含むものでもよく、又は例えば、実施例7に述べられるように、マクロファージによるCD47発現細胞の貪食作用を促進する能力などの生物学的測定値を測定するものでもよい。
【0065】
当該技術分野の範囲内で知られる様々な方法を、CD47を標的とした、又はその誘導体、フラグメント、アナログ、ホモログ、若しくはオーソログを標的としたモノクローナル抗体の作製に使用することができる。(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow E,and Lane D,1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照。これを本明細書に参照により援用する。)完全なヒト抗体とは、CDRを含む軽鎖及び重鎖の両方の配列全体がヒト遺伝子に由来する抗体分子である。そのような抗体は、本明細書では「ヒト抗体」又は「完全なヒト抗体」と称される。ヒトモノクローナル抗体は、例えば、下記に示す実施例で述べられる手順を用いて調製される。ヒトモノクローナル抗体は、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,et al.,1983 Immunol Today 4:72を参照)、及びヒトモノクローナル抗体を作製するためのEBVハイブリドーマ法(Cole,et al.,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss,Inc.,pp.77〜96を参照)を用いることによって調製することもできる。ヒトモノクローナル抗体は、ヒトハイブリドーマを使用することにより(Cote,et al.,1983.Proc Natl Acad Sci USA 80:2026〜2030を参照)、又はインビトロでヒトB細胞をエプスタイン・バール・ウイルスによって形質転換することにより(Cole,et al.,1985 In:MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY,Alan R.Liss Inc.,pp.77〜96を参照)、利用及び作製することができる。
【0066】
抗体は、タンパク質A又はタンパク質Gを使用したアフィニティークロマトグラフィーなどの周知の方法によって精製され、主として免疫血清のIgG画分が与えられる。これに続いて、又はこれに代えて、得ようとする免疫グロブリンの標的である特異的抗原、又はそのエピトープをカラム上に固定化することによって、免疫アフィニティークロマトグラフィーにより免疫特異的抗体を精製することができる。免疫グロブリンの精製については、例えばD.Wilkinsonにより考察されている(The Scientist,The Scientist,Inc.社により発行、Philadelphia Pa.,Vol.14,No.8(Apr.17,2000),pp.25〜28)。
【0067】
本開示のCD47抗体はモノクローナル抗体である。CD47によって、かつ/又はCD47/SIRPαによって媒介される細胞シグナル伝達を、調節、遮断、阻害、低下、拮抗、中和するか、又は他の形でこれを妨げるモノクローナル抗体は、例えばヒトCD47又はその免疫原性フラグメント、誘導体若しくは変異体のような膜結合及び/又は可溶性CD47で動物を免疫することによって作製される。あるいは、CD47をコードした核酸分子を含むベクターをトランスフェクトした細胞で動物を免疫することによって、トランスフェクトされた細胞の表面にCD47が発現され、細胞の表面と会合するようにしてもよい。あるいは、抗体は、CD47に結合するための抗体又は抗原結合ドメイン配列を含むライブラリーをスクリーニングすることによっても得られる。このライブラリーは、例えばバクテリオファージにおいて、アセンブルされたファージ粒子の表面上に発現されたバクテリオファージコートタンパク質とのタンパク質又はペプチド融合体として調製され、タンパク質をコードしたDNA配列はファージ粒子内に含まれる(すなわち、「ファージディスプレイライブラリー」)。次に、ミエローマ/B細胞の融合により得られたハイブリドーマを、CD47に対する反応性についてスクリーニングする。
【0068】
モノクローナル抗体は、例えばKohler and Milstein,Nature,256:495(1975)に述べられるようなハイブリドーマ法を用いて調製される。ハイブリドーマ法では、一般的にはマウス、ハムスター、又は他の適当な宿主動物を免疫化物質で免疫することによって、この免疫化物質に特異的に結合する抗体を産生するか又は産生する能力を有するリンパ球を誘導する。あるいは、リンパ球はインビトロで免疫することもできる。
【0069】
免疫化物質は一般的に、タンパク質抗原、そのフラグメント又はその融合タンパク質を含む。一般的に、ヒト由来の細胞が望ましい場合には末梢血リンパ球が用いられ、非ヒト哺乳動物源が望ましい場合には脾臓細胞又はリンパ節細胞が用いられる。次に、ポリエチレングリコールなどの適当な細胞融合剤を使用してリンパ球を不死化細胞株と融合して、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,(1986)pp.59〜103)。不死化細胞株は通常は、形質転換された哺乳動物細胞、特に齧歯類、ウシ、及びヒト由来のミエローマ細胞である。通常は、ラット又はマウスのミエローマ細胞株が用いられる。ハイブリドーマ細胞は、融合されなかった不死化細胞の増殖又は生存を阻害する1つ以上の物質を好ましくは含む適当な培地で培養することができる。例えば、親細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠損している場合、ハイブリドーマ用の培地は、HGPRT欠損細胞の増殖を防止する物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを一般的に含む(「HAT培地」)。
【0070】
好ましい不死化細胞株は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの発現を支持し、HAT培地などの培地に感受性を有するものである。より好ましい不死化細胞株はマウスミエローマ株であり、例えばカリフォルニア州サンディエゴ所在のソーク研究所細胞譲渡センター(Cell Distribution Center)、及びバージニア州マナッサス所在のアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)より入手することができる。モノクローナル抗体を産生させるためのヒトミエローマ及びマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株についてもこれまでに述べられている(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker,Inc.,New York,(1987)pp.51〜63)を参照)。
【0071】
次に、ハイブリドーマ細胞が培養された培地を、抗原を標的としたモノクローナル抗体の存在についてアッセイすることができる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されたモノクローナル抗体の結合特異性を、免疫沈降法によって、又はラジオイムノアッセイ(RIA)若しくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって測定する。かかる方法及びアッセイは、当該技術分野では周知のものである。モノクローナル抗体の結合アフィニティーは、例えばScatchard analysis of Munson and Pollard,Anal.Biochem.,107:220(1980)によって測定することができる。更に、モノクローナル抗体の治療的用途では、標的抗原に対する高い特異性及び高い結合アフィニティーを有する抗体を同定することが重要である。
【0072】
所望のハイブリドーマ細胞が同定された後、このクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法で増殖させることができる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,(1986)pp.59〜103を参照)。この目的に適した培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地及びRPMI−1640培地が挙げられる。あるいは、ハイブリドーマ細胞は哺乳動物体内の腹水としてインビボで増殖させることもできる。
【0073】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばタンパク質Aセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製法によって培地又は腹水液から単離又は精製することができる。
【0074】
モノクローナル抗体は、米国特許第4,816,567号に述べられるような組換えDNA法により作製することもできる。本明細書に述べられるモノクローナル抗体をコードしたDNAは、従来の方法を用いて容易に単離及び配列決定することができる(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)。本明細書に述べられるハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源である。このDNAを単離した後、発現ベクターに組み入れ、次いでこれを、発現ベクターをトランスフェクトしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胚性腎(HEK)293細胞、サルCOD細胞、PER.C6(登録商標)、NS0細胞、SP2/0、YB2/0、又はミエローマ細胞などの宿主細胞にトランスフェクトして、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成させることができる。このDNAは、ヒト重鎖及び軽鎖の定常領域のコード配列を相同なマウス配列に置き換えることによって(米国特許第4,816,567号、Morrison,Nature 368,812〜13(1994)を参照)、又は免疫グロブリンのコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全体又は一部を共有結合によって連結することによって改変することもできる。このような非免疫グロブリンポリペプチドで本明細書に述べられる抗体の定常ドメインを置換するか、本明細書に述べられる抗体の1個の抗原結合部位の可変ドメインを置換することによって、キメラ二価抗体を作製することができる。
【0075】
ヒト抗体及び抗体のヒト化
本明細書に述べられる抗体は、完全なヒト抗体又はヒト化抗体を含む。これらの抗体は、投与された免疫グロブリンに対するヒトによる免疫反応を生じることなくヒトに投与するのに適している。
【0076】
CD47抗体は、例えば、ヒト配列のみを含む抗体を用いたファージディスプレイ法によって作製される。このような手法は、例えば参照によって本明細書に援用するところの国際公開第92/01047号及び米国特許第6,521,404号に示されるように、当該技術分野では周知のものである。この手法では、軽鎖と重鎖のランダムなペアを有するファージのコンビナトリアルライブラリーを、天然又は組換えのCD47若しくはそのフラグメントの供給源を用いてスクリーニングする。別の手法では、CD47抗体は、その少なくとも1つの工程が、トランスジェニック非ヒト動物をヒトCD47タンパク質で免疫することを含むプロセスによって作製することができる。この手法では、このゼノジェニック非ヒト動物の内因性の重鎖及び/又はκ軽鎖遺伝子座の一部の機能が欠損させられており、抗体に応答して免疫グロブリンをコードした遺伝子を生成するために必要とされる再構成ができなくなっている。更に、少なくとも1つのヒト重鎖遺伝子座及び少なくとも1つのヒト軽鎖遺伝子座が動物に安定的にトランスフェクトされている。このため、投与された抗原に応答してヒト遺伝子座が再構成されることで、その抗原に対して免疫特異的なヒト可変領域をコードした遺伝子が与えられる。したがって、免疫されると、このゼノマウスは完全なヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。
【0077】
ゼノジェニック非ヒト動物を作製するための様々な方法が当該技術分野で知られている。例えば、本明細書にその全容を参照により援用するところの米国特許第6,075,181号及び同第6,150,584号を参照されたい。この一般的な手法は、1994年に刊行されているように最初のXenoMouse(商標)系統の作製に関連して示されている。本明細書にその全容を参照により援用するところのGreen et al.Nature Genetics 7:13〜21(1994)を参照されたい。また、米国特許第6,162,963号、同第6,150,584号、同第6,114,598号、同第6,075,181号、及び同第5,939,598号、並びに日本国特許第3 068 180 B2号、同第3 068 506 B2号、及び同第3 068 507 B2号、並びに欧州特許第0 463 151 B1号、並びに国際公開第94/02602号、同第96/34096号、同第98/24893号、同第00/76310号、並びに関連するファミリーメンバーも参照されたい。
【0078】
ヒト化、キメラ化、及び適当なライブラリーを用いたディスプレイ法によって免疫原性が低下させられた抗体の作製も実現されている。マウス抗体又は他の種からの抗体を、当該技術分野では周知の方法を用いてヒト化又は霊長類化できることも認識されるであろう。例えば、Winter and Harris Immunol Today 14:43 46(1993)及びWright et al.Crit.Reviews in Immunol.12125〜168(1992)を参照されたい。組換えDNA法によって対象とする抗体を操作することによってCH1、CH2、CH3、ヒンジドメイン、及び/又はフレームワークドメインを、対応するヒト配列で置換することもできる(国際公開92/102190号、並びに米国特許第5,530,101号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,792号、同第5,714,350号、及び同第5,777,085を参照)。また、キメラ免疫グロブリン遺伝子を構築するためのIg cDNAの使用も当該技術分野では周知のものである(Liu et al.P.N.A.S.84:3439(1987)及びJ.Immunol.139:3521(1987))。抗体を産生するハイブリドーマ又は他の細胞からmRNAを単離し、これを用いてcDNAを作製する。この対象とするcDNAを、特定のプライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応により増幅することができる(米国特許第4,683,195号、及び同第4,683,202号)。あるいは、ライブラリーを作製してスクリーニングすることで、対象とする配列を単離してもよい。次に、抗体の可変領域をコードしたDNA配列をヒト定常領域の配列と融合する。ヒト定常領域遺伝子の配列は、Kabat et al.(1991)Sequences of Proteins of immunological Interest,N.I.H.publication no.91〜3242に見ることができる。ヒトC領域遺伝子は、既知のクローンから容易に得ることができる。アイソタイプの選択は、補体結合又は抗体依存性細胞傷害作用の活性などのエフェクター機能によって導かれる。好ましいアイソタイプは、IgG1及びIgG2である。ヒト軽鎖の定常領域であるκ又はλのいずれを使用することもできる。次に、このキメラヒト化抗体を従来の方法によって発現させる。
【0079】
Fv、F(ab’)
2及びFabのような抗体のフラグメントは、例えばプロテアーゼ又は化学的切断によって完全なタンパク質を切断することで調製することができる。あるいは、切断遺伝子を設計してもよい。例えば、F(ab’)
2フラグメントの一部をコードしたキメラ遺伝子は、CH1ドメイン及びH鎖のヒンジ領域をコードしたDNA配列と、これに続く翻訳終止コドンとを含むことで、切断分子を生じる。
【0080】
H及びL鎖のJ領域のコンセンサス配列を利用して、後でヒトC領域セグメントにV領域セグメントを連結するためにJ領域に有用な制限部位を導入するためのプライマーとして使用するためのオリゴヌクレオチドを設計することができる。C領域のcDNAを部位誘導突然変異誘発によって改変して、ヒト配列の類似位置に制限部位を導入することができる。
【0081】
発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。便宜のよいベクターは、機能的に完全なヒトCH又はCL免疫グロブリン配列をコードし、任意のVH又はVL配列を簡単に挿入して発現させることができるように適当な制限部位を操作により導入したものである。そのようなベクターでは、スプライシングは、通常、挿入されたJ領域内のスプライスドナー部位とヒトC領域の前のスプライスアクセプター部位との間で起き、更にヒトCHのエクソン内に存在するスプライス領域で起きる。ポリアデニル化及び転写終止は、コード領域の下流の天然の染色体部位で起きる。得られたキメラ抗体は、例えばSV40初期プロモーター(Okayama et al.Mol.Cell.Bio.3:280(1983))、ラウス肉腫ウイルスLTR(Gorman et al.P.N.A.S.79:6777(1982))、及びモロニーマウス白血病ウイルスLTR(Grosschedl et al.Cell 41:885(1985))などのレトロウイルスLTRを含む、任意の強力なプロモーターに連結することができる。また、天然のIgプロモーター及びこれに類するプロモーターを使用できることも認識されよう。
【0082】
更に、ヒト抗体又は他の種に由来する抗体を、当該技術分野では周知の方法を用い、ファージディスプレイ、レトロウイルスディスプレイ、リボソームディスプレイ、及び他の方法を含むがこれらに限定されない、ディスプレイ方式の技術により作製することができ、得られた分子に、アフィニティー成熟化などの更なる成熟化を行うことができる(こうした方法は当該技術分野では周知のものである)(Wright et al.Crit,Reviews in Immunol.12125〜168(1992),Hanes and Pluckthun PNAS USA 94:4937〜4942(1997)(リボソームディスプレイ),Parmley and Smith Gene 73:305〜318(1988)(ファージディスプレイ),Scott,TIBS,vol.17:241〜245(1992),Cwirla et al.PNAS USA 87:6378〜6382(1990),Russel et al.Nucl.Acids Research 21:1081〜1085(1993),Hoganboom et al.Immunol.Reviews 130:43〜68(1992),Chiswell and McCafferty TIBTECH;10:80〜8A(1992),、及び米国特許第5,733,743号)。ディスプレイ技術を用いてヒト以外の抗体が作製される場合、そのような抗体は上記に述べたようにヒト化することができる。
【0083】
これらの方法を用いて、CD47発現細胞、CD47の可溶性形態、CD47のエピトープ又はペプチド、及びCD47に対する発現ライブラリーに対する抗体を作製し(例えば米国特許第5,703,057号を参照)、この後、これを上記に述べたようにして所望の特性について評価することができる。
【0084】
本明細書に述べられるCD47抗体は、上記に述べた一本鎖抗体をコードしたDNAセグメントを含むベクターによって発現させることができる。これらには、ベクター、リポソーム、裸DNA、アジュバント補助DNA、遺伝子銃、カテーテルなどが含まれる。ベクターとしては、ターゲティング部分(例えば細胞表面受容体に対するリガンド)及び核酸結合部分(例えばポリリシン)を有する、国際公開第93/64701号に記載されるような化学接合体、ウイルスベクター(例えばDNA又はRNAウイルスベクター)、標的部分(例えば標的細胞に対して特異的な抗体)及び核酸結合部分(例えばプロタミン)を有する融合タンパク質である、国際出願第PCT/US95/02140号(国際公開第95/22618号)に記載されるような融合タンパク質、プラスミド、ファージなどが挙げられる。ベクターは、染色体ベクター、非染色体ベクター、又は合成ベクターであってよい。
【0085】
好ましいベクターとしては、ウイルスベクター、融合タンパク質、及び化学接合体が挙げられる。レトロウイルスベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルスが挙げられる。DNAウイルスベクターが好ましい。これらのベクターには、オルソポックス又はアビポックスベクターなどのポックスベクター、単純ヘルペス1型ウイルス(HSV)ベクターなどのヘルペスウイルスベクター(Geller,A.I.et al.,J.Neurochem,64:487(1995);Lim,F.,et al.,in DNA Cloning:Mammalian Systems,D.Glover,Ed.(Oxford Univ.Press,Oxford England)(1995);Geller,A.I.et al.,Proc Natl.Acad.Sci.:U.S.A.90:7603(1993);Geller,A.I.,et al.,Proc Natl.Acad.Sci.USA 87:1149(1990)を参照)、アデノウイルスベクター(LeGal LaSalle et al.,Science,259:988(1993);Davidson,et al.,Nat.Genet.3:219(1993);Yang,et al.,J.Virol.69:2004(1995)を参照)、及びアデノ随伴ウイルスベクター(Kaplitt,M.G.,et al.,Nat.Genet.8:148(1994)を参照)が含まれる。
【0086】
ポックスウイルスベクターは、細胞の細胞質中に遺伝子を導入する。アビポックスウイルスベクターは、核酸を短期間のみ発現させる。アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及び単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターは、神経細胞に核酸を導入するうえで好ましい。アデノウイルスベクターによる発現は、HSVベクターよりも短期間であるアデノ随伴ウイルス(約4ヶ月)よりも短期間である(約2ヶ月)。選択される特定のベクターは、標的細胞及び治療される状態によって決まる。導入は、例えば感染、トランスフェクション、トランスダクション、又は形質転換などの標準的方法によって行うことができる。遺伝子移入の形態の例としては、例えば裸のDNA、CaPO
4沈殿、DEAEデキストラン、電気穿孔法、プロトプラスト融合、リポフェクション、細胞マイクロインジェクション、及びウイルスベクターが挙げられる。
【0087】
ベクターを用いて、基本的にあらゆる所望の標的細胞を標的とすることができる。例えば、定位注入を用いて、ベクター(例えばアデノウイルス、HSV)を所望の位置に導入することができる。更に、粒子を、SynchroMed Infusion Systemなどのミニポンプ注入システムを使用して脳室内(icy)注入によって送達することができる。対流と呼ばれるバルク流に基づいた方法が、脳の広い範囲に大きな分子を送達させるうえで効果的であることも示されており、ベクターを標的細胞に送達させるうえで有用となりうる(Bobo et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:2076〜2080(1994);Morrison et al.,Am.J.Physiol.266:292〜305(1994)を参照)。使用することができる他の方法としては、カテーテル、静脈内、非経口、腹腔内、及び皮下注入、並びに経口又は他の周知の投与経路が挙げられうる。
【0088】
これらのベクターを用いることで、様々な形で使用することができる大量の抗体を発現させることができる。例えば、試料中のCD47の存在を検出するために使用することができる。抗体は、CD47に結合させ、CD47及び/又はCD47/SIRPαの相互作用、及びCD47/SIRPαにより媒介されるシグナル伝達を阻害させるために使用することもできる。
【0089】
これらの方法は、本明細書に述べられる抗原性タンパク質に対して特異的な一本鎖抗体を作製するために適合することができる(例えば米国特許第4,946,778号を参照)。更に、方法は、タンパク質又はその誘導体、フラグメント、アナログ若しくはホモログに対する所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの速やかかつ効果的な同定を可能とするFab発現ライブラリー(例えば、Huse,et al.,1989 Science 246:1275〜1281を参照)を構築するために適合することができる。タンパク質抗原に対するイディオタイプを有する抗体フラグメントを、(i)抗体分子のペプシン消化によって生成されるF(ab’)
2フラグメント、(ii)F(ab’)
2フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより生成されるFabフラグメント、(iii)抗体分子をパパイン及び還元剤で処理することによって生成されるFabフラグメント、及び(iv)F
vフラグメントを含むがこれらに限定されない、当該技術分野では周知の方法によって作製することができる。したがって、F
v、Fab、Fab’、及びF(ab’)
2CD47フラグメント、一本鎖CD47抗体、単一ドメイン抗体(例えばナノボディ又はVHH)、二重特異性CD47抗体、及びヘテロ接合体CD47抗体を含む、記載される実施形態の変形例が考えられる。
【0090】
Fc改変
例えば異常なCD47シグナル伝達にともなう疾患及び障害の治療における抗体の有効性を高めるために、本明細書に述べられる抗体をエフェクター機能に関して改変することが望ましい場合がある。例えば、CD47は遍在的に発現されるため、突然変異を抗体のFc領域に導入することによってエフェクター機能を喪失させ、これにより正常な細胞傷害の確率を低下させることができる。
【0091】
一部の実施形態では、本明細書に述べられる抗体は、IgGアイソタイプである。一部の実施形態では、抗体の定常領域は、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIgG1アイソタイプのものである。
【0092】
一部の実施形態では、抗体の定常領域は、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトIgG2アイソタイプのものである。
【0093】
一部の実施形態では、ヒトIgG2の定常領域は、Fc受容体相互作用を改変するためにアミノ酸Val234、Gly237、Pro238、His268、Val309、Ala329、及びPro330(Kabat番号付与)において改変される(国際公開第11/066501A1号を参照)。例えば、Val234Ala、Gly237Ala(G237A)、Pro238Ser(P238S)、His268Ala(H268A)、Val309Leu(V309L)、Ala329Ser(A329S)、及びPro330Ser(P330S))である(EU index of Kabat et al 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest)。一部の実施形態では、改変されたヒトIgG2の抗体の定常領域は配列番号3のアミノ酸配列を有する。
【0094】
CD47に対する抗体の使用
記載される実施形態に基づく治療薬は、適当な担体、賦形剤、及び改善された移動性、送達性、忍容性などを与えるために製剤に添加される他の物質とともに投与される点は認識されよう。すべての製薬化学者にとって周知の処方集である「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」(15th ed,Mack Publishing Company,Easton,Pa.(1975)(特にその中のBlaug、SeymourによるChapter 87))に多くの適当な製剤を見出すことができる。これらの製剤としては例えば、散剤、ペースト、軟膏、ゼリー剤、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有小胞(Lipofectin(商標)など)、DNA接合体、無水吸収性ペースト、水中油型及び油中水型エマルション、エマルションカーボワックス(異なる分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、及びカーボワックスを含む半固体混合物が挙げられる。製剤中の有効成分が製剤によって不活性化されず、製剤が投与経路において生理学的に適合性及び忍容性を示すものであるかぎり、上記の混合物のいずれも本開示に基づく治療及び療法における使用に適切となりうる。
【0095】
一実施形態では、記載される抗体は、治療薬として使用することができる。かかる薬剤は、対象における異常なCD47の発現、活性及び/又はシグナル伝達にともなう疾患又は病態を治療、緩和及び/又は予防するために一般的に用いられる。治療レジメンは、標準的な方法を用いて、例えば異常なCD47の発現、活性及び/又はシグナル伝達にともなう疾患又は障害(例えば癌又は他の腫瘍性疾患)を罹患した(又はこれを発症するリスクを有する)ヒト患者などの対象を特定することによって行われる。抗体製剤、好ましくはその標的抗原に対して高い特異性及び高いアフィニティーを有するものが対象に投与されると、標的との結合による作用を一般的に示す。抗体の投与によって、標的(例えばCD47)の発現、活性及び/又はシグナル伝達機能を阻止若しくは阻害するか、又は妨げることができる。抗体の投与によって、標的(例えばCD47)が本来結合する内因性リガンド(例えばSIRPα)との標的の結合を阻止若しくは阻害するか、又は妨げることができる。例えば、抗体は標的と結合して、CD47の発現、活性及び/又はシグナル伝達を調節、遮断、阻害、低下、拮抗、中和するか、又は他の形で妨げる。一部の実施形態では、表2に記載される重鎖及び軽鎖のCDRを有する抗体を対象に投与することによって、異常なCD47の発現にともなう疾患又は障害を治療することができる。一実施形態では、異常なCD47の発現にともなう疾患又は障害は、癌でありうる。
【0097】
異常なCD47の発現、活性及び/又はシグナル伝達に関連した疾患又は障害としては、非限定的な例として、血液癌及び/又は固形腫瘍が挙げられる。血液癌としては、例えば白血病、リンパ腫、及び骨髄腫(ミエローマ)が挙げられる。白血病の特定の形態としては、非限定的な例として、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、骨髄増殖性疾患/腫瘍(MPDS)、及び骨髄異形成症候群が挙げられる。リンパ腫の特定の形態としては、非限定的な例として、ホジキンリンパ腫、緩慢性及び侵攻性非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、及び濾胞性リンパ腫(小細胞型及び大細胞型)が挙げられる。骨髄腫(ミエローマ)の特定の形態としては、非限定的な例として、多発性骨髄腫(MM)、巨細胞骨髄腫、重鎖骨髄腫、及び軽鎖又はベンスジョーンズ骨髄腫が挙げられる。固形腫瘍としては、例えば乳房腫瘍、卵巣腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、前立腺腫瘍、メラノーマ腫瘍、結腸直腸腫瘍、肺腫瘍、頭頸部腫瘍、膀胱腫瘍、食道腫瘍、肝臓腫瘍、及び腎臓腫瘍が挙げられる。
【0098】
癌及び他の腫瘍性疾患にともなう症状としては、例えば炎症、熱、全身倦怠感、熱、疼痛(しばしば炎症領域に限局する)、食欲減退、体重減少、浮腫、頭痛、疲労、発疹、貧血、筋力低下、筋疲労、及び例えば腹痛、下痢、又は便秘などの腹部症状が挙げられる。
【0099】
本明細書に述べられる抗体の治療有効量は、治療目的を達成するために必要とされる量に一般的に関連する。上記に述べたように、これは、特定の場合には標的の機能を妨げる抗体とその標的抗原との結合相互作用でありうる。投与に必要とされる量は、特異的抗原に対する抗体の結合アフィニティーに更に依存し、投与された抗体が身体から除去される速度にも依存する。本明細書に述べられる抗体又は抗体フラグメントの治療有効用量の一般的な範囲は、非限定的な例として、約0.1mg/kg体重〜約100mg/kg体重であってよい。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約0.1mg/kg体重〜約0.3mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約0.4mg/kg体重〜約0.6mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約0.7mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約1.0mg/kg体重〜約2.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約2.0mg/kg体重〜約3.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約3.0mg/kg体重〜約4.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約4.0mg/kg体重〜約5.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約5.0mg/kg体重〜約6.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約6.0mg/kg体重〜約7.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約7.0mg/kg体重〜約8.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約8.0mg/kg体重〜約9.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約9.0mg/kg体重〜約10.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約10.0mg/kg体重〜約15.0mg/kg体重である。一実施形態では、本明細書に述べられる抗体の治療有効用量は、約15.0mg/kg体重〜約20.0mg/kg体重である。一般的な投与頻度は、例えば1日1回〜1日2回〜1日おきに1回〜1週間に1回の範囲とすることができる。
【0100】
治療の有効性は、特定の炎症関連疾患を診断又は治療するための任意の公知の方法との関連で判定される。炎症関連疾患の1つ以上の症状の緩和は、抗体が臨床効果を与えることを示す。
【0101】
別の実施形態では、CD47を標的とする抗体を、CD47の局在化及び/又は定量に関連した、当該技術分野では周知の方法で使用することができる(例えば、適当な生理学的試料中のCD47及び/又はCD47とSIRPαの両方のレベルを測定するための使用、診断方法における使用、タンパク質のイメージングにおける使用など)。特定の実施形態では、抗体由来の抗原結合ドメインを含む、CD47に対して特異的な抗体、又はその誘導体、フラグメント、アナログ若しくはホモログを、薬理学的に活性な化合物(以下、「治療薬」と呼ぶ)として使用する。
【0102】
別の実施形態では、CD47に対して特異的な抗体を使用して、免疫アフィニティー、クロマトグラフィー又は免疫沈降法などの標準的な方法によってCD47ポリペプチドを単離することができる。CD47タンパク質を標的とする抗体(又はそのフラグメント)を使用して、生物学的試料中のタンパク質を検出することもできる。一部の実施形態では、例えば特定の治療レジメンの有効性を判定する目的で、臨床試験手順の一環として生物学的試料中のCD47を検出することができる。検出は、抗体を検出可能な物質と結合する(すなわち物理的に連結する)ことによって促進することができる。検出可能な物質の例としては、各種の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質が挙げられる。適当な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシターゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、適当な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、適当な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、又はフィコエリトリンが挙げられ、発光物質の例としては、ルミノールが挙げられ、生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられ、適当な放射性物質の例としては、
125I、
131I、
35S又は
3Hが挙げられる。
【0103】
更に別の実施形態では、本開示に基づく抗体を、試料中のCD47及び/又はCD47とSIRPαタンパク質(又はそれらのタンパク質フラグメント)の両方を検出するための薬剤として使用することができる。一部の実施形態では、抗体は検出可能な標識を含む。抗体はポリクローナル抗体であるか、又はより好ましくはモノクローナル抗体である。完全な抗体又はそのフラグメント(例えば、Fab、scFv、又はF(ab’)
2)が使用される。抗体に関して「標識された」なる用語は、検出可能な物質を抗体と結合する(すなわち物理的に連結する)ことによる抗体の直接的標識、及び、直接標識された別の試薬との反応性による抗体の間接的標識を包含することを意図している。間接的標識の例としては、蛍光標識された二次抗体を用いた一次抗体の検出、及び、蛍光標識されたストレプトアビジンによって検出されるようにビオチンで抗体を末端標識することが挙げられる。「生物学的試料」なる用語は、対象から単離された組織、細胞及び生物学的液体、並びに対象の体内に存在する組織、細胞及び液体を含むことを意図している。したがって、「生物学的試料」なる用語の使用には、血液、及び血清、血漿、又はリンパ液を含む血液の画分又は成分が含まれる。すなわち、記載される実施形態の検出方法を用いて生物学的試料中の被検質であるmRNA、タンパク質、又はゲノムDNAをインビトロ及びインビボで検出することができる。例えば、被検質mRNAを検出するためのインビトロの方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション及びインサイチューハイブリダイゼーションが挙げられる。被検質タンパク質を検出するためのインビトロの方法としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、免疫沈降法、及び免疫蛍光法が挙げられる。被検質ゲノムDNAを検出するためのインビトロの方法としては、サザンハイブリダイゼーションが挙げられる。イムノアッセイを行うための手順は、例えば「ELISA:Theory and Practice:Methods in Molecular Biology」,Vol.42,J.R.Crowther(Ed.)Human Press,Totowa,N.J.,1995;「Immunoassay」,E.Diamandis and T.Christopoulus,Academic Press,Inc.,San Diego,Calif.,1996;及び「Practice and Theory of Enzyme Immunoassays」,P.Tijssen,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,1985に述べられている。更に、被検質タンパク質を検出するためのインビボの方法としては、標識した抗被検質タンパク質抗体を対象の体内に導入することが挙げられる。例えば、標準的なイメージング法によって対象の体内におけるその存在又は位置を検出することができる放射性マーカーで抗体を標識することができる。
【0104】
CD47抗体の治療投与及び製剤
本明細書に述べられる抗体、並びにその誘導体、フラグメント、アナログ及びホモログは、投与に適した医薬組成物中に含有させることができる。かかる組成物を調製するうえで関係する原理及び考慮事項、並びに成分の選択におけるガイダンスは当該技術分野では周知のものであり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences:The Science And Practice Of Pharmacy 19th ed.(Alfonso R.Gennaro,et al.,editors)Mack Pub.Co.,Easton,Pa.:1995;Drug Absorption Enhancement:Concepts,Possibilities,Limitations,And Trends,Harwood Academic Publishers,Langhorne,Pa.,1994;及びPeptide And Protein Drug Delivery(Advances In Parenteral Sciences,Vol.4),1991,M.Dekker,New Yorkを参照されたい。
【0105】
かかる組成物は、抗体及び薬学的に許容される担体を一般的に含む。抗体フラグメントが使用される場合、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合する最も小さい阻害性フラグメントが好ましい場合がある。例えば、抗体の可変領域配列に基づいて、標的タンパク質配列に結合する能力を維持したペプチド分子を設計することができる。そのようなペプチドは、化学的に合成するか、かつ/又は組換えDNA技術によって作製することができる(例えば、Marasco et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:7889〜7893(1993)を参照)。
【0106】
本明細書で使用するところの「薬学的に許容される担体」なる用語は、薬務行政に適合するあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含むことを意図している。適当な担体については、当該分野では標準的な参考書である「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」の最新版に述べられており、当該書籍を本明細書に参照によって援用するものである。かかる担体又は希釈剤の好ましい例としては、これらに限定されるものではないが、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。リポソーム、及び固定油などの非水性溶媒を使用することもできる。薬学的活性物質におけるこうした媒質及び物質の使用は、当該技術分野では周知のものである。従来の媒質又は物質が抗体と不適合でないかぎり、組成物におけるその使用が考えられる。
【0107】
インビボ投与に使用するための製剤は無菌状態でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に実現される。
【0108】
記載される実施形態の医薬組成物は、その意図される投与経路に適合するように配合される。投与経路の例としては、非経口投与、例えば静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば吸入)、経皮投与(例えば局所投与)、経粘膜投与、及び直腸内投与が挙げられる。非経口投与、皮内投与、又は皮下投与に使用される溶液又は懸濁液は以下の成分を含むことができる。すなわち、注射用蒸留水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗細菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤;並びに塩化ナトリウム又はデキストロースなどの張度を調整するための物質。pHは、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調整することができる。非経口製剤は、ガラス又はプラスチックで作製されたアンプル、使い捨て注射器、又は多数回投与バイアルに封入することができる。
【0109】
注射による使用に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び滅菌注射溶液又は分散液の即時調製用の滅菌粉末が含まれる。静脈内投与用では、適当な担体として、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF社、ニュージャージー州パーシッパニー)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合も、組成物は無菌状態でなければならず、容易な注射性が得られる程度の流動性を有さなければならない。組成物は製造及び保存条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌類などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの適当な混合物を含んだ溶媒又は分散媒であってよい。例えばレシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、また、界面活性剤の使用により、適正な流動性を保つことができる。微生物の作用の防止は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの各種の抗細菌剤及び抗真菌剤によって実現することができる。多くの場合、組成物中に、例えば糖類、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが好ましい。組成物中に、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅らせる物質を含有させることによって、注射用組成物の長期的な吸収をもたらすことができる。
【0110】
滅菌注入用溶液は、必要量の抗体を、必要に応じて上記に列挙した成分の1つ又は組み合わせとともに適切な溶媒に添加した後、濾過による滅菌を行うことにより調製することができる。一般的に、分散液は、ベースとなる分散媒と上記に列挙したものから選ばれた他の必要な成分とを含む滅菌溶媒に抗体を添加することによって調製される。滅菌注射溶液の調製用の滅菌粉末の場合、調製の方法は、予め滅菌濾過されたその溶液から有効成分及び任意の更なる所望の成分の粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥である。
【0111】
吸入による投与では、化合物は、例えば二酸化炭素などの気体などの適当な推進剤が入った加圧された容器又はディスペンサ、又はネブライザーからのエアロゾルスプレーの形で投与される。
【0112】
全身投与は、経粘膜的又は経皮的手段によって行うこともできる。経粘膜又は経皮投与では、浸透させようとする障壁に対する適当な浸透剤を製剤中に使用する。そのような浸透剤は当該技術分野で周知のものであり、例えば経粘膜投与では洗剤、胆汁酸、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレー又は坐剤の使用によって行うことができる。経皮投与では、記載される抗体の1つ以上のものを、当該技術分野では周知であるように、軟膏、膏薬、ゲル、又はクリームに配合することができる。
【0113】
化合物は、直腸投与用に坐剤(例えばカカオバター及び他のグリセリドなどの従来の坐剤ベースとともに)又は停留かん腸の形態で製剤化することもできる。
【0114】
一実施形態では、記載される抗体は、インプラント及びマイクロカプセル化送達システムを含む持続/制御放出製剤などの、身体からの速やかな排出を防ぐ担体とともに製剤化することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤の調製方法は当業者には明らかであろう。
【0115】
例えば、有効成分は、それぞれ、例えばコアセルベーション法によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えばヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル内に、コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルション、ナノ粒子、及びナノカプセルなど)中、又はマクロエマルション中でカプセル化することができる。
【0116】
持続放出製剤を調製することができる。持続放出製剤の適当な例としては、抗体を含有した、例えばフィルムなどの成形物品の形態の固体疎水性ポリマーの半透性マトリクス、又はマイクロカプセルが挙げられる。持続放出マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸/グリコール酸コポリマーと酢酸ロイプロリドとからなる注射用マイクロスフェア)などの分解性乳酸/グリコール酸コポリマー、及びポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン酢酸ビニル及び乳酸/グリコール酸のようなポリマーは、100日間以上にわたって分子の放出が可能であり、特定のヒドロゲルはより短い期間でタンパク質を放出する。
【0117】
リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体により感染細胞に標的化されたリポソームを含む)を、薬学的に許容される担体として使用することもできる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるような当業者には周知の方法に従って調製することができる。
【0118】
非経口組成物は投与を容易とし、用量を均一とするために単位剤形として製剤化することが特に有利である。本明細書で使用するところの単位剤形とは、治療される対象に適した単位投与量として物理的に別個の単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の1つ以上の記載される抗体を、必要な医薬担体とともに含むものである。記載される実施形態の単位剤形の仕様は、抗体の固有の特性及び実現しようとする特定の治療効果と、個人を治療するためのそのような抗体を配合する技術分野に固有の制限とによって規定され、またこれらに直接依存する。
【0119】
記載される医薬組成物は、容器、パック又はディスペンサに投与の説明書とともに入れることができる。
【0120】
本明細書に述べられる製剤は、治療される特定の適応症で必要とされる複数の記載される抗体、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない補体活性を有するものを含んでもよい。これに代えるか、又はこれに加えて、組成物は、例えば細胞毒性剤、サイトカイン、化学療法剤、又は増殖阻害剤などのその機能を高める物質を含むことができる。かかる分子は、組み合わせで、意図される目的において有効な量で適当に存在する。
【0121】
一実施形態では、記載される抗体の1つ以上のものを、併用療法として、すなわち様々な形態の癌、自己免疫疾患、及び炎症性疾患などの病理学的状態又は疾患を治療するうえで有用な例えば治療薬などの他の薬剤と併用して投与することができる。これに関して「併用」なる用語は、複数の薬剤がほぼ同じ時点で、同時又は順次に投与されることを意味する。順次に投与される場合、第2の化合物の投与の開始時点で、2つの化合物の第1のものが治療部位において有効濃度でまだ検出可能であることが好ましい。
【0122】
例えば、併用療法は、下記により詳細に述べるように、1つ以上のサイトカイン及び増殖因子阻害剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、代謝阻害剤、酵素阻害剤、及び/又は細胞毒性剤若しくは細胞増殖抑制剤などの1つ以上の更なる治療薬と同時配合かつ/又は同時投与される、本明細書に述べられる1つ以上の抗体を含むことができる。かかる併用療法では、投与される治療薬をより低用量で使用することができるために有利であり、これにより各種の単独療法にともなう潜在的な毒性又は合併症を回避することができる。
【0123】
本明細書に述べられる抗体と併用される好ましい治療薬は、炎症反応の異なる段階を妨げる薬剤である。一実施形態では、本明細書に述べられる1つ以上の抗体を、他のサイトカイン若しくは増殖因子アンタゴニストなどの1つ以上の更なる薬剤(例えば可溶性受容体、ペプチド阻害剤、小分子、リガンド融合体)、又は他の標的に結合する抗体若しくは抗原結合フラグメント(例えば他のサイトカイン若しくは増殖因子、それらの受容体、又は他の細胞表面分子に結合する抗体)、及び抗炎症性サイトカイン又はそのアゴニストと同時配合及び/又は同時投与することができる。
【0124】
他の実施形態では、本明細書に述べられる抗体は、自己免疫疾患、炎症性疾患などに対するワクチンアジュバントとして使用される。これらの種類の疾患を治療するうえでのアジュバントの併用は、標的とする自己抗原、すなわち、自己免疫に関与する自己抗原(例えばミエリン塩基性タンパク質)、炎症性自己抗原(例えばアミロイドペプチドタンパク質)、又は移植抗原(例えばアロ抗原など)からの様々な抗原との併用に適している。抗原は、タンパク質から誘導されるペプチド又はポリペプチド、及び以下のもの、すなわち、糖類、タンパク質、ポリヌクレオチド若しくはオリゴヌクレオチド、自己抗原、アミロイドペプチドタンパク質、移植抗原、アレルゲン、又は他の巨大分子成分のいずれかのフラグメントを含みうる。場合によっては、複数の抗原が抗原性組成物に含まれる。
【0125】
更なるスクリーニング法
本開示は、調節物質、すなわちSIRPαに対するCD47の結合を調節するか又は他の形で妨げる候補又は試験化合物若しくは物質(例えばペプチド、ペプチド模倣体、小分子、又は他の薬剤)、又はCD47及び/若しくはCD47−SIRPαのシグナル伝達機能を調節するか又は他の形で妨げる候補又は試験化合物若しくは物質を同定するための方法(本明細書では「スクリーニングアッセイ」とも呼ばれる)を提供する。異常なCD47及び/又はCD47−SIRPαの発現、活性及び/又はシグナル伝達にともなう疾患を治療するうえで有用な化合物を同定する方法も提供される。スクリーニング方法には、当該技術分野で知られているか若しくは用いられているもの、又は本明細書に述べられるものが含まれる。例えば、CD47をマイクロタイタープレート上に固定化し、候補又は試験化合物(例えばCD47抗体)とSIRPαの存在下でインキュベートすることができる。この後、結合したSIRPαを二次抗体を使用して検出し、吸光度をプレートリーダーで検出することができる。
【0126】
マクロファージによる腫瘍細胞の貪食作用を促進することが可能な化合物を同定する方法も提供される。これらの方法には、当該技術分野で知られているか若しくは用いられているもの、又は本明細書に述べられるものが含まれる。例えば、マクロファージを、候補化合物(例えばCD47抗体)の存在下で、標識した腫瘍細胞とインキュベートする。所定時間の後、マクロファージを腫瘍標識の内在化について観察することで貪食作用を確認することができる。これらの方法(例えばSIRPα遮断アッセイ及び貪食作用アッセイ)に関する更なる詳細を、実施例で示す。本開示には、本明細書に述べられるスクリーニングアッセイで同定される化合物も含まれる。
【0127】
一実施形態では、CD47のシグナル伝達機能を調節する候補又は試験化合物をスクリーニングするためのアッセイが提供される。試験化合物は、生物学的ライブラリー、空間的にアドレス指定可能なパラレル固体相又は溶液相ライブラリー、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリー法を含む、当該技術分野では周知のコンビナトリアルライブラリー法における様々なアプローチのいずれを用いて得ることもできる。生物学的ライブラリー法がペプチドライブラリーに限定されるのに対して、他の4種類の方法は、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の小分子ライブラリーに適用可能である(例えばLam,1997.Anticancer Drug Design 12:145を参照)。
【0128】
本明細書で使用するところの「小分子」とは、約5kD未満、最も好ましくは約4kD未満の分子量を有する組成物のことを指すものとする。小分子は、例えば、核酸、ペプチド、ポリペプチド、ペプチド模倣体、炭水化物、脂質、又は他の有機若しくは無機分子であってよい。化学的、及び/又は真菌、細菌、若しくは藻類抽出物などの生物学的混合物のライブラリーは当該技術分野では周知のものであり、本開示に述べられるアッセイのいずれによってスクリーニングすることもできる。分子ライブラリーを合成するための方法の例は、例えば、DeWitt,et al.,1993.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909;Erb,et al.,1994.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:11422;Zuckermann,et al.,1994.J.Med.Chem.37:2678;Cho,et al.,1993.Science 261:1303;Carrell,et al.,1994.Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carell,et al.,1994.Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;及びGallop,et al.,1994.J.Med.Chem.37:1233のように当該技術分野に見ることができる。
【0129】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten,1992.Biotechniques 13:412〜421を参照)、又はビーズ上(Lam,1991.Nature 354:82〜84を参照)、チップ上(Fodor,1993.Nature 364:555〜556を参照)、細菌(米国特許第5,223,409号を参照)、胞子(米国特許第5,233,409号を参照)、プラスミド(Cull,et al.,1992.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865〜1869を参照)、又はファージ上(Scott and Smith,1990.Science 249:386〜390;Devlin,1990.Science 249:404〜406;Cwirla,et al.,1990.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:6378〜6382;Felici,1991.J.Mol.Biol.222:301〜310;及び米国特許第5,233,409号を参照)に提示させることができる。
【0130】
一実施形態では、候補化合物を抗体/抗原複合体に導入し、候補化合物が抗体/抗原複合体を阻害するか否かを判定し、ここで、この複合体の阻害は、候補化合物がCD47のシグナル伝達機能及び/又はCD47とSIRPαとの間の相互作用を調節することを示す。別の実施形態では、本明細書に述べられる可溶性CD47及び/又はCD47とSIRPαの両方を提供し、少なくとも1種類の中和モノクローナル抗体に曝露する。抗体/抗原複合体の形成を検出し、1つ以上の候補化合物を複合体に導入する。抗体/抗原複合体が1つ以上の候補化合物の導入後に阻害された場合、その候補化合物は異常なCD47及び/又はCD47−SIRPαシグナル伝達にともなう疾患の治療に有用である。
【0131】
抗体/抗原複合体を妨げるか又は阻害する試験化合物の能力の測定は、例えば、試験化合物を放射性同位体又は酵素標識と結合することによって行うことができ、これにより、複合体中の標識された化合物を検出することによって抗原又はその生物学的活性部分に対する試験化合物の結合を測定することができる。例えば、試験化合物を、
125I、
35S、
14C、又は
3Hで直接的又は間接的に標識し、この放射性同位体を、放射線放射を直接カウントするか又はシンチレーションカウンティングによって検出することができる。あるいは、試験化合物を例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、又はルシフェラーゼで酵素的に標識し、適当な基質の生成物への変換を測定することによってこの酵素標識を検出することもできる。
【0132】
一実施形態では、アッセイは、抗体/抗原複合体を試験化合物と接触させることと、抗原と相互作用するか、又は存在する抗体/抗原複合体を他の形で阻害する試験化合物の能力を測定することとを含む。この実施形態では、抗原と相互作用するかかつ/又は抗体/抗原複合体を阻害する試験化合物の能力を測定することは、抗体と比較して抗原又はその生物学的活性部分に優先的に結合する試験化合物の能力を測定することを含む。
【0133】
別の実施形態では、アッセイは、抗体/抗原複合体を試験化合物と接触させることと、抗体/抗原複合体を調節する試験化合物の能力を測定することとを含む。抗体/抗原複合体を調節する試験化合物の能力を測定することは、例えば、試験化合物の存在下で抗体に結合するか又は抗体と相互作用する抗原の能力を測定することによって行うことができる。
【0134】
本明細書に開示されるスクリーニング法のいずれにおいても、抗体は、CD47の活性及び/又はシグナル伝達を調節するか又は他の形で妨げる中和抗体とすることができる点は当業者であれば認識されるところであろう。
【0135】
本明細書に開示されるスクリーニング法は、細胞を用いたアッセイとして、又は無細胞アッセイとして行うことができる。記載される実施形態の無細胞アッセイは、CD47及びそのフラグメントの可溶性形態又は膜結合形態の使用に適している。CD47の膜結合形態を含む無細胞アッセイの場合、タンパク質の膜結合形態が溶液中で維持されるように、可溶化剤を用いることが望ましい場合もある。かかる可溶化剤の例としては、n−オクチルグルコシド、n−ドデシルグルコシド、n−ドデシルマルトシド、オクタノイル−N−メチルグルカミド、デカノイル−N−メチルグルカミド、Triton(登録商標)X−100、Triton(登録商標)X−114、Thesit(登録商標)、イソトトリデシポリ(エチレングリコールエーテル)n、N−ドデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオール−1−プロパンスルホナート(CHAPS)、又は3−(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオール−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート(CHAPSO)が挙げられる。
【0136】
複数の実施形態において、候補化合物の導入後に抗体又は抗原の一方又は両方の複合体化された形態の複合体化されていない形態からの分離を促進するため、また、アッセイの自動化を可能とするために、抗体又は抗原を固定化することが望ましい場合もある。候補化合物の存在下及び非存在下での抗体/抗原複合体の観察は、反応物質を入れるのに適した任意の容器中で行うことができる。かかる容器の例としては、マイクロタイタープレート、試験管、及び微量遠心チューブが挙げられる。一実施形態では、これらのタンパク質の一方又は両方をマトリクスに結合させるドメインを付加した融合タンパク質を提供することができる。例えば、GST−抗体融合タンパク質、又はGST−抗原融合タンパク質をグルタチオンセファロースビーズ(Sigma Chemical社、ミズーリ州セントルイス)又はグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレート上に吸着させ、これを次に試験化合物と合わせ、混合物を複合体形成を促す条件下(例えば塩及びpHについて生理学的条件)でインキュベートすることができる。インキュベーション後、ビーズ又はマイクロタイタープレートのウェルを洗って結合していない成分を除去し、ビーズの場合にはマトリクスを固定化して、複合体を直接的又は間接的に測定する。あるいは、複合体をマトリクスから解離させてもよく、標準的な方法を用いて、抗体/抗原複合体の形成のレベルを測定することができる。
【0137】
タンパク質をマトリクス上に固定化するための他の方法を、記載される実施形態のスクリーニングアッセイで使用することもできる。例えば、抗体(例えばC47B157、C47B161及びC47B222、又は配列番号4〜6から選択される重鎖可変領域並びに配列番号7及び8から選択される軽鎖可変領域を有する抗体)又は抗原(例えばCD47タンパク質)のいずれかを、ビオチンとストレプトアビジンとの結合を利用して固定化することができる。ビオチン化された抗体又は抗原分子は、ビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−スクシンイミド)から当該技術分野で周知の方法(例えばbiotinylation kit、Pierce Chemicals社、イリノイ州ロックフォード)を用いて調製することができ、これを、ストレプトアビジンコーティングされた96ウェルプレート(Pierce Chemical社)のウェル内に固定化することができる。あるいは、対象とする抗体又は抗原と反応性を有するが、対象とする抗体/抗原複合体の形成を妨げない他の抗体をプレートのウェルに対して誘導体化し、結合しなかった抗体又は抗原を抗体結合によってウェル内に捕捉することもできる。かかる複合体を検出するための方法には、GST固定化複合体について上記に述べたもの以外に、抗体又は抗原と反応性を有するそのような他の抗体を用いた複合体の免疫検出が含まれる。
【0138】
本開示は更に、上記に述べたスクリーニングアッセイのいずれかによって同定された新規物質、及び本明細書に述べられるような治療におけるその使用に関する。
【0139】
診断用及び予防用製剤
本明細書に述べられる抗体は、診断用及び予防用製剤に使用することができる。一実施形態では、記載される抗体の1つ以上のものを、例えばこれらに限定されないが癌又は他の腫瘍状態のような上記に述べた疾患の1つ以上を発症するリスクを有する対象に投与することができる。上記に述べた癌又は他の腫瘍状態の1つ以上のものに対する対象の臓器の疾病素質を、遺伝子型的、血清学的、又は生化学的マーカーを用いて判定することができる。
【0140】
本明細書に述べられる抗体は、患者試料中のCD47及び/又はSIRPαの検出にも有用であり、したがって診断法として有用である。例えば、本明細書に述べられるCD47抗体は、患者試料中のCD47及び/又はSIRPαレベルを検出するために例えばELISAなどのインビトロアッセイで使用される。
【0141】
一実施形態では、本明細書に述べられる抗体は、固体支持体(例えばマイクロタイタープレートのウェル)上に固定化される。固定化された抗体は、試験試料中に存在しうる任意のCD47及び/又はSIRPαに対する捕捉抗体として機能する。固定化された抗体を患者試料と接触させるのに先立って、固体支持体を洗い流し、ミルクタンパク質又はアルブミンなどのブロッキング剤で処理して被検質の非特異的吸着を防止する。
【0142】
この後、抗原を含むことが疑われる試験試料又は基準量の抗原を含む溶液で、ウェルを処理する。かかる試料は例えば、病変に特徴的と考えられるレベルの循環抗原を有することが疑われる対象からの血清試料である。試験試料又は標準試料を洗い流した後、検出可能に標識された二次抗体で固体支持体を処理する。標識された二次抗体は検出抗体として機能する。検出可能な標識のレベルを測定し、試験試料中のCD47及び/又はSIRPαの濃度を、標準試料から作成した標準曲線との比較により求める。
【0143】
インビトロ診断アッセイにおいて記載される抗体を使用して得られた結果に基づけば、CD47及び/又はSIRPαの発現レベルに基づいて対象の疾患のステージ(例えば虚血、自己免疫疾患又は炎症性疾患にともなう臨床的指標)を判定することが可能であることが認識されよう。特定の疾患に対し、疾患の進行の異なるステージ及び/又は疾患の治療の異なる時点にあると診断された対象から血液の試料を採取する。疾患の進行又は治療の各ステージについて統計学的に有意な結果を与える試料の集団を使用して、各ステージに特徴的と考えられうる抗原の濃度の範囲が指定される。
【0144】
本明細書に含まれた文書、行為、材料、装置、物品などについてのいずれの考察も、これらの事物のいずれか又はすべてが、本出願の各請求項の優先日以前にそれが存在していたからといって、従来技術の基礎の一部をなすかあるいは本発明が関連する分野における一般的な知識であったことを容認するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0145】
実施例1 ハイブリドーマ技術を用いたCD47抗体の生成
Balb/c系マウスを、ヒトCD47−Fc Chimera組換え体(R&D systems社)により免疫し、フロイントアジュバント(Sigma社)、InterFAD(マウスインターフェロンα、PBL InterferonSource社)、又は2−dose adjuvant(Creative Diagnostics社)を用い、標準的な免疫化のプロトコールを用いて抗CD47抗体の産生を開始した。CD47抗体を発現するハイブリドーマを作製するため、免疫したマウスから脾臓を収穫し、SP20−Bcl2ミエローマ細胞と融合させるためにB細胞を単離した。4つの融合体(C47Y1、C47Y2、C47Y3、及びC47Y4)からのハイブリドーマクローンを、CD47に対する抗体結合についてELISAによりアッセイした(Fc−Tagに対しては行わなかった)。CD47に対して特異的結合を示したハイブリドーマ上清を、meso scale discovery(MSD)に基づいたアッセイによって、CD47を発現したJurkat細胞(TIB−152、ATCC)に対する結合について、また、Jurkat細胞に対するSIRPαの結合の遮断について更にスクリーニングした。
【0146】
簡単に述べると、Jurkat細胞を洗い、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁した後、37℃で1.5時間インキュベートすることによってMSD96ウェル高結合プレート上に30,000細胞/ウェルとなるように捕捉した。各プレートを、静かに揺動しながら15%ウシ胎児血清(FBS)(又は熱不活化FBS)により室温で30分間ブロッキングを行った。細胞結合活性については、ハイブリドーマ上清をMSD高結合プレート上に捕捉された細胞と4℃で1時間インキュベートし、結合した抗体をMSD Sulfo−Tagで標識したヤギ抗マウス抗体で検出した。
【0147】
SIRPαブロッキング活性については、2μg/mLの組換えSIRPα−Fc(R&D systems社)を、ハイブリドーマ上清の存在下でJurkat細胞と1〜1.5時間インキュベートし、結合したSIRPαをMSD Sulfo−Tagで標識したマウス抗SIRPα抗体(R&D systems社)で検出した。各プレートをSector 6000イメージャーで読み取り、電気化学発光(ECL)シグナルを記録した。阻害率(%)を、アッセイに含まれた、抗体を含まずSIRPαも含まないコントロールに対して正規化した。SIRPα結合の中和を示したハイブリドーマのヒットを、抗体V領域の分子クローニング用に選択した。簡単に述べると、対象とするハイブリドーマヒットからのcDNAをInvitrogen社のSuperScript III Cells Direct cDNAシステムを用いて逆転写酵素反応によって単離し、次いでV領域を予め混合したフォワードプライマーとリバースプライマーを用いたPCRによって増幅した後、マウスIgG1/K定常領域上にInfusionクローニングした。HEK293細胞(Life Technologies)での組換え発現の後、mIgG1 mAbを含む一過性トランスフェクション上清をJurkat細胞結合アッセイ及びSIRPα遮断アッセイで再度スクリーニングした。全体で20種類の、確認されたSIRPα遮断活性(阻害率>40%、表3)を有する、固有の配列を有するmIgG1 mAbを、ヒトIgG2 Fc−サイレント/ヒトκキメラmAbに変換するために選択した。
【0148】
【表3】
【0149】
実施例2:ファージディスプレイ技術を用いたCD47抗体の生成
CD47試薬及び方法:C末端に6×HISタグ(配列番号55)を付加した組換えヒトCD47細胞外ドメイン(ECD)タンパク質(配列番号22)を、ファージパンニング用に自社で作製した。ヒトCD47のcDNAクローンをOrigene社より入手し、ECD領域をPCRにより増幅して哺乳動物発現ベクターにサブクローニングした。HEK293F細胞の一過性トランスフェクションの後、分泌されたHisタグを付加したヒトCD47−ECDタンパク質を、HisTrapカラム(GE Healthcare社)を用いた固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。ピーク画分をプールし、濃縮した後、26/60 Superdex 200カラム(GE Healthcare)上でクロマトグラフにかけて最終的な磨き工程を行って、CD47−ECDタンパク質のモノマー型及びダイマー型を得た。CD47−ECDタンパク質を、ファージパンニング実験用に10倍のモル過剰量のsulfo−NHS−LC−ビオチン(Pierce社)でビオチン化した。
【0150】
ファージディスプレイ:自社のデノボファージライブラリーについては詳細に記載されている(Shi et al(2010)J.Mol.Biol.397:385〜396;国際特許公開第09/085462号)。これらのライブラリーは、CDR−H3に高い多様性を有するように設計された3個のヒトVH生殖系列遺伝子(IGHV1−69、3−23、5−51)及び4個のヒトVL生殖系列遺伝子(A27、B3、L6、O12)上で構築されたものである。ファージコートタンパク質pIX上にFab変異体をディスプレイした3つのデノボファージライブラリー(DNP00004−169HC/LCミックス、DNP00005−323HC/LCミックス、及びDNP00006−551HC/LCミックス)を、標準的なプロトコールに従ってダイマー型のビオチン化ヒトCD47−ECDに対してパンニングした。使用したパンニング条件としては、ビオチン化ヒトCD47 ECDダイマーと室温で1時間パンニングし、ラウンド1の抗原濃度は100nMとし、ファージの捕捉にストレプトアビジンビーズを使用する。ラウンド2の抗原濃度は100nMとし、ファージの捕捉にニュートラアビジンビーズを使用する。ラウンド3の抗原濃度は10nMとし、ファージの捕捉にストレプトアビジンビーズを使用する。Fabタンパク質を作製し、ポリクローナル抗Fd(CH1)抗体によってELISAプレート上に捕捉した。ビオチン化CD47 ECDを所望のnM濃度で加え、結合したビオチン化CD47をHRP結合ストレプトアビジンにより検出し、化学発光をプレートリーダーで読み取った。Fabクローンは、それらのVH及びVL同一性についても配列決定した。選択したFabからのVHを、PCRを用いて、対象とするFabを発現しているE.coliクローンからのフレームワーク特異的プライマーにより増幅し、哺乳動物での発現用のシグナルペプチド及びヒトIgG2エフェクター機能サイレント(IgG2 Fcサイレント)重鎖定常領域を含む哺乳動物発現用ベクターにサブクローニングした。同様にVLを増幅し、κ軽鎖の定常領域を含む哺乳動物発現用ベクターにサブクローニングした。サブクローニングは、表4に示すプライマーを用いてInfusionクローニング(Clontech社)により行った。Infusionクローニングは、ライゲーション独立型クローニング(LIC)としても知られ、DNAフラグメント同士が、制限エンドヌクレアーゼ又はDNAリガーゼを使用することなく、配列ホモロジーに基づいて互いに連結された。
【0151】
【表4】
【0152】
これらの新たに作製されたVH及びVL哺乳動物発現用DNAコンストラクトを組み合わせて10種類のmAbを作製し、更なる特性評価を行った。これらのmAbをHEK293F細胞に一過性にトランスフェクトし、得られたmAbを含む上清を、上記に述べたようにしてFACSによりJurkat細胞上のCD47に結合する能力及びSIRPαのJurkat細胞への結合を遮断する能力について特性評価を行った。市販の抗CD47 B6H12.2をヒトIgG2σの定常領域にサブクローニングし、アッセイのポジティブコントロールとして用いた。
図1は、10種類のファージ由来のmAbの活性を示しており、このうち4つは強いSIRPα遮断活性を示した。そのうちの3つ、C47B91(=C47M91)、C47B96(=C47M96)及びC47B98(=C47M98)は、CD47特異的に細胞に結合するものであることが確認されたため、更なる特性評価を行うために選択した。
【0153】
実施例3:CD47抗体の生物活性
全体で23種類の作製されたCD47抗体(ハイブリドーマ法による20種類、及びファージディスプレイ法による3種類)の、CD47に結合する能力及びCD47の特定の生物活性を阻害する能力を、下記に述べるような異なるインビトロアッセイを用いて分析した。
【0154】
CD47結合アッセイ:ヒトCD47及びカニクイザルCD47 ECDタンパク質を、実施例2で述べたようにしてHisタグを付加したタンパク質として自社で作製した。ヒトCD47及びカニクイザルCD47 ECDタンパク質に対する反応速度論的結合アフィニティーを、タンパク質相互作用アレイシステム(ProteOn社)により測定した。簡単に述べると、各mAbを、200〜350RUの表面密度に達するまで抗IgG−Fcを介してセンサーチップ上に捕捉した。CD47 ECDモノマータンパク質を、300nM〜3.7nMにまで連続滴定し、5分間注入した。解離を30分間観測した。データを1:1結合モデルにフィッティングした。23種類のmAbのK
D値、及びヒトCD47タンパク質に対するアフィニティーとカニクイザルCD47タンパク質に対するアフィニティーとの比を表3に示す。C47B121、C47B120、及びC47B131を除く大部分のmAbは、カニクイザルCD47に交差反応性を示した(ヒトCD47のアフィニティーの5倍以内)。
【0155】
ビニングアッセイ:このアッセイは、抗体のパネルを捕捉試薬及び検出試薬として個別にそのパネルの残りの抗体と評価することを可能とするものである。互いに有効な捕捉/検出試薬を形成する抗体は、理論上はモノマータンパク質上の空間的に離れたエピトープを認識することで、両方の抗体が標的タンパク質に同時に結合することを可能とする。パネル全体にわたって似通った活性のパターンを示すクローン群は、似通ったエピトープに結合すると仮定される。したがって、異なる群からクローンを選択することによって、異なるエピトープを認識する抗体が与えられるはずである。各CD47抗体をGLCセンサー(BioRad社)上に直接固定化した。競合する試料を、200nMのCD47−ECDと4時間、予めインキュベートした後、チップ表面全体に4分間注入して会合させた。次いで、解離を4分間観測した。これらの結果は、4つの異なるエピトープ群が存在し、群1と群2とが互いに重複して競合するのに対して、群3は群1のみと重複し、群2とは重複していないことを示唆している。
【0156】
SIRPα遮断活性:これら23種類のCD47抗体によるSIRPα遮断能力を、各抗体を連続滴定し、MSD高結合プレート上に捕捉されたJurkat細胞と1時間インキュベートしてから除去した後、組換えSIRPα−FcをJurkat細胞に対して更に1.5時間インキュベートすることによって測定した。結合したSIRPαを、MSD Sulfo−Tagで、標識したマウス抗SIRPα抗体により検出した。ECLシグナルを抗体濃度の関数としてプロットし、GraphPad Prismの非線形回帰モデルを用いて用量反応曲線を当てはめることによりEC
50値を得た。すべての抗体が、CD47発現細胞に対するSIRPαの結合の用量依存的阻害を示した。
図2は、このアッセイにおける抗CD47mAbのサブセットの用量反応曲線を示している。
【0157】
赤血球凝集活性:23種類のmAbの赤血球凝集アッセイにおける活性も評価した。簡単に述べると、健康なドナー志願者から血液をバキュテナー血液採取管(BD Biosciences社)に採取し、クエン酸ナトリウムで緩衝した。血液をPBSで3回洗い、2%赤血球懸濁液をPBS中で調製した。50μlの連続希釈したmAb(2倍)を50μlの2%赤血球懸濁液と透明な96ウェル丸底プレート中、室温で2時間インキュベートした後、RBCがウェル中で堅いペレットとして現れなかった場合に赤血球凝集についてスコア評価した。2倍の連続希釈液を調製した出発濃度は、試験した大部分のmAbについて200μg/mlとした。抗体のストック濃度があまり濃縮されていない場合(C47B118及びC47B119)には、抗体について調製した出発濃度を85μg/mLとした。試験したmAbの大部分が赤血球凝集を誘発した(代表的な結果を
図3及び
図4に示す)が、赤血球凝集とこれらのmAbの他のいずれの特性との関連も見られなかった。
【0158】
これらのアッセイにおける23種類のmAbの特性を表5にまとめた。これらのうち、C47B116及びC47B91は、赤血球凝集を誘発せず、強いSIRPα遮断活性、並びにヒトCD47及びカニクイザルCD47の両方に対して高いアフィニティーを示したことから、更なる最適化を行うために選択した。
【0159】
【表5】
【0160】
実施例4:C47B116のヒトフレームワーク適合
C47B116のVHドメインのアミノ酸配列(配列番号30)の初期の分析は、最も近いマウス生殖系列遺伝子はHVではIGHV1S29
*02であり、HJではIGHJ4
*01であることを示唆している。C47B116のVLドメインのアミノ酸配列(配列番号54)の初期の分析は、最も近いマウス生殖系列遺伝子はIGKV117
*01及びIGKJ2
*01であることを示唆している。ヒトにおける免疫原性を低下させるためのC47B116のヒトフレームワーク適合(HFA)を行うため、C47B116のVL及びVH配列のマウスフレームワークを、CDRはそのままに維持しつつヒトのフレームワークで置換するために、自社のデノボライブラリーを用いた配列相同性分析及び将来的なアフィニティー成熟の考慮に基づいて4つのヒトVH(IGHV1−3、IGHV1−46、IGHV1−69、及びIGHV5−51)及び3つのヒトVL(IGKV2−28、IGKV3−1、及びIGKV4−1)の変異体鎖を設計した。各VH(配列番号4、5、31、及び32)及びVL(配列番号7、33、及び34)鎖のコンストラクトは遺伝子アセンブリーにより作製し、ヒトIgG2σ発現用のベクターにクローニングした。VH及びVL変異体の組み合わせをHEK 293Expi発現システムに同時トランスフェクトし、得られた12HFA変異体をプロテインAクロマトグラフィーによって培養上清から精製した。精製したC47B116 HFA変異体は、上記に述べたようにしてSIRPα遮断、ヒト及びカニクイザルCD47に対する結合アフィニティー、並びに赤血球凝集について再び特性評価を行った。赤血球凝集アッセイでは、2倍の連続希釈液を調製した出発濃度は、試験した大部分のmAbについて200μg/mlとした。抗体のストック濃度があまり濃縮されていない場合には、連続希釈の出発濃度を125μg/ml(C47B160)、170μg/ml487B156)、及び195μg/ml(C47B159)で調製した。すべての変異体が、強いSIRPα遮断活性を示した(
図5)。C47B148、C47B151、C47B152、C47B156、及びC47B160は赤血球凝集を誘発し、フレームワークがこの活性に寄与している可能性を示唆している。反応速度論的結合実験で調べるために選択したC47B116HFA変異体は、ヒトCD47とカニクイザルCD47に同様のアフィニティーを示した。いくつかのHFA変異体(C47B155、C47B157、C47B159及びC47B161)は、CD47に対する高い結合アフィニティー(親mAbであるC47B116の5倍以内)を維持したのに対して、他のもの(C47B147、C47B149、C47B151及びC47B153)は、より顕著なアフィニティーの喪失を示した(C47B116と比較して6倍以上の低下)。これらのデータを表6にまとめる。C47B157及びC47B161は、強いSIRPα遮断活性、ヒト及びカニクイザルCD47の両方に対する高い結合アフィニティーを維持したが、赤血球凝集活性も生物物理学的特性上の懸念材料も示さなかったことから、更なる特性評価を行うために選択した。
【0161】
【表6】
【0162】
実施例5:C47B91のアフィニティー成熟
C47B91の重鎖(配列番号35)は5−51生殖系列に由来し、軽鎖(配列番号36)はL6生殖系列に由来するものである。C47B91のアフィニティー成熟を行うために2つのFabライブラリーを設計した。Fabライブラリーの一方は重鎖ライブラリー(C47F8L1)であり、デノボのV5.0からC47B91のVHのCDR1及びCDR2に多様性を付加したものであり(表7)、他方のFabライブラリーは軽鎖ライブラリー(C47F18L1)であり、デノボのV5.0からC47B91のVL生殖系列(L6)に基づいてVLの多様性を付加したものである(表8)。これらのFabライブラリーは、米国特許第6,472,147号及び国際公開第09/085462号に記載されるようにして、クローニングの目的で制限酵素部位に若干の変更を行って、pIXファージディスプレイシステムで構築した。
【0163】
【表7】
【0164】
【表8】
【0165】
ファージコートタンパク質IX上にディスプレイされたアフィニティー成熟用Fabライブラリーを、完全長のヒトCD47を発現するCHO−S哺乳動物細胞に対してパンニングした。ファージライブラリーは、10% FBS/DMEM中、4℃で一晩、1×10
8個のCHO−S親細胞とインキュベートすることによってCHO−S親細胞でプレクリア処理を行った。プレクリアしたライブラリーを遠心分離により回収してCHO−S親細胞を除去し、PEG/NaCl沈降により濃縮した。約1×10
7個のCHO−S CD47発現細胞をパンニングの各ラウンドで使用し、パンニングは4℃で約2時間行った。ファージが結合した細胞を、40% Ficoll/2%BSAを含むPBS溶液で1回、更に氷冷したPBS/0.2%FBSで3回洗浄した。ラウンド1及び2では、CHO−SのCD47高発現クローンを使用したのに対して、ラウンド3ではより強く結合するファージを濃縮するためにCHO−SのCD47高発現クローン又はCHO−SのCD47低発現クローンを使用した。同じライブラリーを、ビオチン化CD47ヒトCD47ECDモノマーとパンニングするためにも使用した。パンニングは25℃で1時間行い、抗原濃度をラウンド1では1nMとし、ラウンド2では0.1nMとし、又はラウンド3では0.01nMとした。結合したファージはストレプトアビジンビーズを加えることによりビーズ/抗原/ファージ複合体を形成させ、これをTBST中で洗浄することによって回収した。あるいは、解離速度がより遅い結合ファージを濃縮するために一晩洗浄を用いた。
【0166】
パンニング後に濃縮されたファージプラスミドDNAからFab産生を誘導した。分泌されたFabを含む上清を直接使用して、上記に述べたようにJurkat細胞上のヒトCD47に対する組換えヒトSIRPαの結合の阻害について試験を行い、ヒトCD47 ECDモノマー及びダイマーに対するそれらの結合をELISAによって確認した。Fabクローンは配列決定も行ってそれらのVH及びVLの同一性を確認した。固有の配列、ECDタンパク質に対する結合活性、及びSIRPα遮断活性に基づいてFabのヒットを選択した。
【0167】
選択されたFabからのV
Hを、PCRを用い、対象とするFabを発現するE.coliクローンからのフレームワーク特異的プライマーによって増幅した。増幅されたフラグメントは、哺乳動物で発現させるためのシグナルペプチド及びヒトIgG2σ重鎖定常領域を含む哺乳動物発現用ベクターにサブクローニングした。同様にV
Lフラグメントを増幅し、κ軽鎖の定常領域を含む哺乳動物発現用ベクターにサブクローニングした。サブクローニングは以下のプライマーを用いてInfusionクローニング(Clontech社)により行った。すなわち、HuG1_DNVH_F551、HuG1_DNVH_R、HuK_DNVL_FA27L6muSP、及びHuK_DNVL_R(表3に配列を示す)。これらの新たに作製されたV
H及びV
L哺乳動物発現用DNAコンストラクトを組み合わせてmAbを作製し、更なる特性評価を行った。
【0168】
全体で32種類のC47B91のアフィニティー成熟させたmAbを、10種類のアフィニティー成熟させたVH鎖(配列番号6及び配列番号37〜45)を親VL鎖と、4種類のアフィニティー成熟させたVL鎖(配列番号8及び配列番号46〜48)を親VH鎖と組み合わせるか、又は最良の鎖交差によって作製した。これらのmAbを、HEK293 Expi細胞で発現させ、タンパク質Aクロマトグラフィーで精製し、SIRPα遮断活性、ヒト及びカニクイザルCD47に対する結合アフィニティー、並びに赤血球凝集活性について特性評価を行った。生化学アッセイを行って、各変異体がCD47に対するSIRPαの結合を遮断する能力を調べた。この場合、Hisタグを付加したCD47−ECDダイマータンパク質を各mAbと予めインキュベートした後、MSD標準プレート上に捕捉させたSIRPα−Fcに加え、次いで結合したCD47の量を、ヒツジポリクローナル抗CD47抗体(R&D systems社)とMSD SulfoTag標識した抗ヒツジ抗体(Meso Scale Discovery社)との組み合わせによって検出した。各抗体のSIRPα遮断活性を、抗体の非存在下(最大の結合)及びCD47の非存在下(バックグラウンド)のシグナルに対する阻害率(%)に対して正規化した。これらのmAbの10μg/mlにおける阻害活性を表9に示したが、32種類のmAbのうち、25種類が10μg/mlで親C47B91よりも高いSIRPα結合の阻害を示した。ヒト及びカニクイザルCD47に対する結合アフィニティーを、上記に述べたようにしてProteOnにより測定した。変異体の大部分のものが、親C47B91 mAbと比較して高いアフィニティーを示し、C47B222、C47B223、C27B226及びC47B227がC47B91と比較して最も高い、5〜7倍のより強いアフィニティーを示した。重要な点として、これらの変異体の一部のもので解離速度が顕著に高かった。一部の変異体は赤血球凝集を誘発し、CDR配列の変異も赤血球凝集活性に寄与しうることが示唆された。SIRPα遮断、ヒト及びカニクイザルCD47に対する結合アフィニティー、並びに赤血球凝集のデータを表8に示す。
【0169】
【表9】
【0170】
実施例6:X線結晶解析によるエピトープ及びパラトープの同定
抗体C47B161、C47B167、C47B222、C47B227及びB6H12.2の詳細なエピトープ及びパラトープを、それらの対応するFabとCD47 ECD−C15G突然変異体[(配列番号49)、以下、単にCD47と呼ぶ]との共結晶化及びX線結晶解析による構造決定によって決定した。C47B167は、実施例4でC47B116について述べたのと同様のアプローチを用いてエピトープビン3のC47B131のヒトフレームワーク適合から誘導した。この抗体は、SIRPα結合を遮断し(EC
50=0.79μg/ml)、中度のアフィニティー(kD=5.2nM)でヒトCD47に結合し、赤血球凝集を誘発しない。
【0171】
Hisタグを付加したC47B161、C47B167、C47B222、C47B227 FabをHEK293細胞で発現させ、アフィニティー及びサイズ排除クロマトグラフィーを用いて精製した。Hisタグを付加したCD47を脱グリコシル化し、アフィニティークロマトグラフィーにより更に精製した。各Fabを過剰量のCD47と1.2:1.0〜1.5:1.0の範囲のモル比で混合することによって、CD47:Fab複合体を調製した。この複合体を4℃で一晩インキュベートし、複合体を形成しなかった化学種からサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分離し、20mM HEPES(pH 7.4)、100mM NaCl、5%グリセロール中で7.5〜20mg/mLにまで濃縮した。次いで濃縮された複合体を用い、20℃でシッティングドロップ法を用いて結晶化試験を計画し、タンパク質:リザーバの比を変えることによって結晶を最適化した。Fab−CD47複合体のそれぞれについて最適化された結晶化条件を表10に示す。
【0172】
【表10】
【0173】
X線データを収集するため、1個の結晶を、20%グリセロールを添加した結晶化溶液を含む凍結保護溶液中に数秒間浸漬し、100Kの窒素流中で瞬間凍結した。回折データは、アルゴンヌ国立研究所のAdvanced Photon Source(APS)のビームライン17−IDでDectris Pilatus 6M Pixel Array検出器で240°の結晶回転角度にわたり、0.25°の画像当たり2分の露光で収集し、HKL2000プログラムで処理した。X線データ統計を表11及び12に示す。
【0174】
【表11-1】
【0175】
【表11-2】
*最外郭の値は()内に示す。
【0176】
【表12-1】
【0177】
【表12-2】
*最外郭の値は()内に示す。
【0178】
全体の構造
各CD47分子の構造モデルは、IgVドメインに相当する1〜少なくとも114番目までの残基を有し、位置5、16、32、55、及び93にグリカンを有している(確認できるグリカンのないC47B161/Fab複合体のCD47を除く)。CD47のC末端6xHis(配列番号55)は無秩序となっている。各Fabの構造モデルは、軽鎖の1〜少なくとも211番目までの残基と重鎖の1〜少なくとも217番目までの残基を含んでいる。FabのC末端6xHisタグ(配列番号55)及び鎖間ジスルフィド結合は無秩序となっている。C47B222/C47B227の重鎖の場合、残基135〜140も無秩序となっている。抗体/抗原結合部位は5つの複合体すべてにおいて電子密度により明確に示されており、これにより結合残基の位置を高い信頼性で決定することができる。各Fabはすべての図で順番に番号付けされており、CD47の番号付けは成熟タンパク質のN末端から始まっている。
【0179】
各Fab複合体内のCD47分子はそれらの間で重なり合い、0.45〜0.98ÅのRMSDでCD47がSIRPαに結合しており(Hatherley,2008)、異なる複合体のCD47の高い構造的類似性、及びFab又は受容体の結合により誘発される大きなコンフォメーション変化がないことを示している。
【0180】
エピトープ、パラトープ、及び抗体/抗原相互作用
C47B161、C47B167、及びC47B222/C47B227/B6H12.2は、抗体競合ビンニングアッセイにより明らかとされたように3つの異なるエピトープビンに結合する。C47B222及びC47B227が同じ全体的位置に結合するのに対して、C47B167は細胞膜のより近くに結合し、C47B161及びB6H12.2は、CD47のより先端に近い領域に結合する。膜により近いエピトープへの結合によって、抗体の第2のFabアームに伝播しうるFabへの更なる束縛が生じ、別のCD47分子に対するこのアームの結合をより困難としうる。本発明者らは、エピトープの位置による第2のFabアームへの束縛によって、CD47/抗体/CD47の架橋による細胞凝集が少なくなるものと考える。C47B222のFabの場合、HCはLCよりも広い範囲でCD47と接触しており、膜により近い鎖である。
【0181】
これらのエピトープ及びパラトープの配列を
図6に示す。CD47とFabのそれぞれとの間で生じる相互作用の詳細を下記に詳しく検討する。
【0182】
CD47/C47B161複合体
図7に見られるように、C47B161は、CD47のN末端(Q1及びL3)、BC(N27及びE29)及びFG(残基101−103)のループ領域、並びにF(残基E97)及びG(E104)のβ鎖の残基で構成される構造エピトープを認識する。M259は、エピトープビン2領域に結合してCD47の約690Å
2の範囲を覆っている。
【0183】
パラトープは、CDR−L3を除く5つのCDRからの残基で構成される。LCは大部分がCD47のβシート上に位置するのに対して、HCは抗原の先端ループ領域を覆っている。評価を行う他の抗CD47Fabと比較して、C47B161は位置30に6個の残基が挿入された長いCDR−L1を有している。CDR−L1ループの先端部に近いY35及びY37残基は、CD47のβシートと水素結合することにより、その抗原に対する抗体のアフィニティーを高める(
図7C)。L1ループ先端部の他の残基(H31及びN33残基)はCD47との直接的接触に関与していないが、これらは、CD47との効果的な相互作用を与えるためにY35及び特にY37を方向付けるうえで重要な役割を担っている。VH側では、すべてのCDRが抗原との、特に、ピログルタミン酸として環化しているN末端のQ1残基並びに27〜29及び102〜103ループセグメントとの相互作用に関与している(
図7B及び7D)。
【0184】
CD47/C47B167複合体
C47B167は、
図8に示されるようなC(Y37及びK39)、C’(R45、D46及びT49)及びC”(N55〜T58)のβ鎖、並びにC‘C”(A53、L54)及びC”E(V59〜T61、S64、A66、K67)のループ領域の残基からなる構造エピトープを認識する。C47B167は、エピトープビン3領域に結合してCD47の約930Å
2の範囲を覆っている。
【0185】
C47B167のパラトープは、6つのCDRすべてからの残基で構成されている。C及びC’β鎖(Y37、K39、R45、D46及びT49)がLCの各CDRのみと相互作用するのに対して、ループ領域64〜67には、長いCDR−H3(9残基の挿入)のみが接触する。
【0186】
C47B167は、エピトープ領域V59〜T61における配列の相違のためにカニクイザルCD47との交差反応性は低くなっている(
図8Aの配列アラインメントの範囲を参照)。T61AのヒトからカニクイザルCD47への変化によって、カニクイザルの残基61とLC残基D49及びR52との間の水素結合がなくなっている(
図8C)。更に、カニクイザルCD47の位置62の潜在的なN結合グリコシル化部位は、V59〜T61領域への抗体結合に対する立体障害を形成しうる(ヒトでは形成しない)。V59Aの変化による影響は小さいはずである(
図8D)。
【0187】
エピトープビン2と3との間に共通の残基は存在しない。C47B161(ビン2)とC47B167(ビン3)は、
図9に示されるように衝突領域がないので同時にCD47に結合できる。この結果は、抗体競合ビンニングアッセイによっても示されている(実施例3を参照)。C47B167は、C47B161よりも大きなCD47βシートの範囲を認識し、大幅に細胞膜の近くに結合する。
【0188】
CD47/C47B222及びCD47/C47B227複合体
C47B222は、
図10に示されるように、C(Y37及びK39)、C’(D46、T49、D51)、C”(K56、T58)及びF(T99)のβ鎖、並びにBC(E35)、C’C”(A53及びL54)、C”E(V59)及びFG(L101、T102)ループ領域の残基からなる構造エピトープを認識する。C47B222のエピトープはビン1領域に位置し、約730Å
2のCD47の範囲を覆っている。C47B222は、C47B161、C47B167、C47B227及びB6H12.2とCD47への結合について競合する。他のエピトープと重複するC47B222エピトープの領域が
図6に示されている。
【0189】
C47B222パラトープは、CDR−L3を除くすべてのCDRからの残基で構成される。C47B222のCD47との相互作用の大半は、水素結合とファンデルワールス接触との組み合わせを用いて重鎖によって生じる(
図10)。HCパラトープとLCパラトープとによって認識されるエピトープ領域の間には明確な隔離がある。重鎖は、C’C”ループ、及びF鎖以外のすべてのβ鎖エピトープ領域とだけ相互作用する。軽鎖は、BC及びFGループ並びにF鎖と、やはりそれらだけで結合し、CD47のより先端に近い位置を占有し、これによりCD47に対するSIRPαの結合を極めて効果的に遮断する役割を果たす。C’C”ループのロイシン54は結合部位の中心位置にあり、3つの重鎖CDRのすべてと接触する(
図10B)。C”鎖はCDR−H2と水素結合し、C及びC’β鎖はCDR−H3と接触する。
【0190】
C47B227の構造エピトープもビン1に位置している。このエピトープは、
図11に示されるように、すべてのβシートの鎖(C鎖:Y37、C’鎖:T49及びD51、C”鎖:N55、K56及びT58、F鎖:T99、G鎖:E104)と、BC(E35)、C’C”(残基範囲53〜55)及びFG(L101、T102)ループ領域のセグメントの残基で構成された約800Å
2のCD47の範囲を覆っている。
【0191】
C47B227のパラトープは、すべてのCDRからの残基で構成されている。C47B222と同様、C47B227の重鎖は、C,C’及びC”のβ鎖、並びにC’C”ループ領域の大部分とだけ相互作用する(C’C”ループ内にあり、CDR−L3とファンデルワールス接触を有するA53は例外である。)。M263の軽鎖はF及びG鎖、並びにBC及びFGループに結合する。C47B222とC47B227とは同様の向きでCD47に結合し、多くのエピトープ及びパラトープ残基を共有している(
図6)。
【0192】
C47B222はC47B227と97%の配列同一性を有し、CDRに近い領域又はCDRの領域に6個のアミノ酸変化を有している(C47B222からC47B227に、HC:T30D、並びにLC:N30G、N31S、H49Y、I56T及びS93Yの変化。
図6を参照)。それにも関わらず、C47B222とC47B227とは、同じ全体の向きでCD47に結合し、同様のアフィニティー(約1nM)で概ね同じエピトープ領域を認識する。異なる軽鎖に対するこのようなエピトープの寛容性は、C47B222/C47B227によるCD47の認識が、HC接触及びHCパラトープとLCパラトープによって認識されるエピトープ領域間の間隔(エピトープ分離)に大きく依存していることの直接的な結果である。更に、C47B222とC47B227との間の残基変化の有効数は、重鎖のT30D並びに軽鎖のH49Y及びI56Tの変化が結合部位から遠すぎて(6Å以上)CD47の認識に影響しないことから、わずかに3個である(N30G、N31S及びS93Y)。C47B222のG30のAsnによる置換は、わずかに異なる位置へのCD47 FGループの収容を誘導しただけで、
図11に示されるようにL101とN30との立体衝突が回避されている。N31S及びS93Yの変化によって、M263のT102の骨格及びE35との新たな水素結合が形成され、これにより、C47B227 LCとCD47との相互作用が強化され、異なるコンフォメーションを取り、CD47の残基Y37、K39、D46及びD51と固有に水素結合するC47B222と比較して、C47B227のCDR−H3によって形成されるより少ない水素結合の数に拮抗するようにバランスが取られている(
図10〜12)。
【0193】
CD47/B6H12.2複合体
B6H12.2は、エピトープビン1領域に結合し、コントロール抗体として使用された。B6H12.2は、
図10に示されるように、C(V36、Y37、K39及びK41)、C’(D46、D51)、F(E97、T99)及びG(E104)のβ鎖、並びにBC(E29、Q31、N32、T34及びE35)、C’C”(A53)及びFG(E100〜R103)ループ領域の残基からなる構造エピトープを認識する。やはりビン1にクラスター化しているC47B222及びC47B227と異なり、B6H12.2は、C”β鎖及びC”Dループ領域のいずれの残基も認識しない。それにも関わらず、B6H12.2は、C47B161、C47B167、C47B222及びC47B227よりも大きなエピトープ範囲を有している(C47B161の690Å
2、C47B167の930Å
2、C47B222の730Å
2、及びC47B227の800Å
2に対して約1055Å
2)。
【0194】
B6H12.2のパラトープは、すべてのCDRからの残基で構成されている(
図13)。抗体/抗原認識は、主に水素結合によって引き起こされると思われる。軽鎖は、6個の水素結合をCD47の側鎖と、3個の水素結合を骨格の原子と形成している。一方、重鎖は、CD47と13個の水素結合を形成し、そのほとんどは骨格の原子とのものである。B6H12.2は、結合部位深くに入り混み、FGループを安定させ、更にCDR−H2がBCループの上に広がるためのスペースを与える短いCDR−H3を有している。重鎖が、BC(大部分はCDR−H2)、C’C”(CDR−H3)、及びFG(CDR−H2及びH3)ループ領域の大部分とだけ接触するのに対して、LCは、C’鎖及びC鎖の隣接するC末端領域とだけ接触する。しかしながら、B6H12.2では、エピトープ分離はC47B222及びC47B227よりも小さくなっている。F鎖及びFGループにはHC及びLCの両方と相互作用する複数のエピトープ残基が存在している。
【0195】
エピトープの概要
C47B161と異なり、B6H12.2はCD47のN末端領域を認識しない。C47B167、C47B222、及びC47B227と異なり、B6H12.2は、CD47のC”β鎖又はC”Dループ領域のいずれの残基も認識しない(
図6を参照)。詳細には、B6H12.2で同定されたエピトープと一致しない各Fabのエピトープ残基は、
C47B161:N末端(Q1及びL3)及びBCループ(N27)領域内の残基、
C47B167:β鎖C’(R45及びT49)、C’C’’ループ(L54)、β鎖C’’(K56、S57、及びT58)及びC’’Dループ(V59、P60、T61、S64及びK67)領域内の残基、
C47B222:β鎖C’(T49)、C’C’’ループ(L54)、β鎖C’’(K56及びT58)及びC’’Dループ(V59)領域内の残基、
C47B227:C’C’’ループ(L54)及びβ鎖C’’(K56及びT58)領域内の残基である。
【0196】
実施例7:CD47抗体の特性評価
バイオアッセイで更なる評価を行うため、所望の特性を有するいくつかのヒトCD47 IgG2σ抗体をIgG1 Fcフォーマットに変換した。それらのIgG1変異体は、ヒトCD47に結合してSIRPα結合を遮断することが確認された。赤血球凝集を誘発しなかったIgG1/IgG2σ Fc変異体(C47B222、C47B157、及びC47B161)を、貪食作用の促進、アポトーシス、補体媒介性細胞傷害性(CDC)、及び血小板凝集活性について更にインビトロで評価した。更に、これら3つのmAbの抗腫瘍活性をインビボで試験した。
【0197】
貪食作用:
C47B157、C47B161、及びC47B222がヒトマクロファージによるCD47発現標的細胞の貪食作用を促進するか否かを評価するためにインビトロ貪食作用アッセイを行った。簡単に述べると、CD14陽性単球を、Stemcell EasySephuman monocyte enrichment kit without CD16 depletionを使用して、ネガティブディプリーションによりleukopakから精製したPBMCから単離した。精製した単球を、10%FBS(Invitrogen社)及び25ng/ml M−CSF(R&D Systems社)を添加したX−VIVO−10培地(Lonza社)に0.1x10
6細胞/cm
2で播種し、7日間マクロファージに分化させた。IFN−γ (R&D Systems社)を分化の最後の24時間中に50ng/mlで加えた。この後、付着したマクロファージをAccutase(Sigma社)処理により組織培養皿から剥離させ、このマクロファージ(1×10
5)を、96ウェルU字底プレートに異なる濃度の抗CD47mAbの存在下でGFP発現Jurkat細胞(1×10
5)と1:1の比で播種した。細胞を37℃で90分間インキュベートした。インキュベーションの完了後、細胞をPBSで1回洗い、Accutase処理により剥離した(20分間のインキュベーション)。細胞をペレット化して洗い、APC結合抗ヒトCD11b抗体(eBiosciences社)でマクロファージを30分間染色した後、Stain Buffer(BD Biosciences社)で2回洗った。細胞をMacsQuantフローサイトメーター上に取った。FloJoソフトウェアによりデータを分析した。貪食作用率(%)を以下の式によって求めた。すなわち、[((GFP陽性,Cd11b陽性細胞)/(GFP陽性,CD11b陽性+GFP陽性細胞))×100%]。
【0198】
これらの実験により、IgG1 B157、B161、B222及びB6H12.2が安定した貪食作用促進能を示したのに対して、IgG2σB157、B161、B222、及びB6H12.2(
図14)による貪食作用の促進はわずかであることが示された。
【0199】
アポトーシス:
いくつかの抗CD47mAb(例えばAD−22、1F7及びMABL−1)が、CD47がライゲーションされる際に可溶形態の標的細胞のアポトーシスを媒介することが述べられている。C47B157、C47B161及びC47B222が、CD47がライゲーションされる際にアポトーシスを媒介するか否かを試験するため、Jurkat細胞又はHL60細胞(100 μl中、1×10
6細胞/ml)を、10%FBSを添加したRPMT1640培地中、抗体(0.05、0.5、及び5μg/ml)の存在下又は非存在下で、37℃で24時間インキュベートした。アポトーシスは、FITC Annexin−V Apoptosis Detection Kit(BD Pharmingen社)により検出した。アポトーシスは、初期アポトーシス(アネキシンV陽性/PI陰性)と後期アポトーシス(アネキシンV陽性/ PI陰性)との合計として表した。
【0200】
これらの実験により、コントロールのmAbであるB6H12.2は、IgG2σとしてJurkat細胞及びHL60細胞に安定したアポトーシスを誘発するが、IgG1としては誘発しないことが示された(
図15を参照)。同様に、C47B157及びC47B161は、IgG2σとしてJurkat細胞に低度のアポトーシスを誘発したが、IgG1としては誘発しなかった。IgG1/IgG2σとしてのC47B157及びC47B161は、HL60細胞に対してアポトーシス促進作用を示さなかった。Jurkat細胞及びHL60細胞をIgG1又はIgG2σのC47B222で24時間処理した場合、アポトーシスの誘発は生じなかった。
【0201】
補体媒介性細胞傷害性:
補体媒介性細胞傷害性(CDC)についてC47B157、C47B161、及びC47B222を試験した。Wil2−S標的細胞を用いてCDCアッセイを行った。50,000個のWil2−S細胞を、不透明な白色96ウェルプレート中、10%熱不活化FBS及び0.1mM NEAAを添加した25μlのRPMI−1640培地に播種した(試薬はすべてInvitrogen社より入手)。抗体を添加した、又は添加しない25μlの培地を加えた後、細胞を37℃で30分間インキュベートした。この後、50μlのヒト血清(Bioreclamation社、補体が保存されたもの)を加え、細胞を37℃で2時間インキュベートした。最大溶解度を評価するため、20μlの2%Triton−X−100をコントロールウェルに加え、細胞を37℃で2時間インキュベートした。インキュベーションが完了した後、100μlのCellTiter−Glo Reagent(Promega社、バッファーと基質のプレミクスチャ)を各ウェルに加え、内容物を静かに混合して細胞溶解を誘発し、発光を2104 EnVision Multilabelリーダー(Perkin Elmer社)で記録した。比溶解度を以下の式により計算した。すなわち、[比溶解度=((実験放出量−自然放出量)/(最大放出量−自然放出量))*100]。
【0202】
図16に示されるように、IgG1/IgG2σのC47B157、C47B161、及びC47B222は、IgG1又はIgG2σとしてCDCを促進しなかった。これに対して、ツール(tool)mAb B6H12.2 IgG1は、ポジティブコントロールのリツキシマブと同様の安定したCDCを媒介したが、エフェクター機能を喪失させたIgG2σ骨格ではCDCを促進しなかった。
【0203】
血小板凝集:
市販の抗CD47mAb B6H12(mIgG1)が、血小板凝集を誘発したという観察(Fujimoto TT,Katsutani S,Shimomura T,Fujimura K.(2003)J Biol Chem 278:26655〜26665)に基づき、C47B157、C47B161、及びC47B222の血小板凝集活性を測定するためのアッセイを確立した。簡単に述べると、健康なドナー志願者から血液をバキュテナー血液採取管(BD Biosciences社)に採取し、クエン酸ナトリウムで緩衝した。多血小板血漿(PRP)及び乏血小板血漿(PPP)を、製造者のプロトコールに従ってPDQ血小板機能遠心分離機(Biodata Corporation社)を使用して調製した。血小板凝集を、製造者により推奨されるようにPAP−8E血小板凝集計(Biodata Corporation社)を使用して測定した。詳細には、25μlのADP (ポジティブコントロール、Biodata Corporation社)又は抗体を、225μlのPRPに最終濃度10μMのADP、又は100、140、150、若しくは200μg/mlの試験抗体となるように(試験した抗体の入手しやすさに応じて)加えた。継続的な攪拌下、37℃で250μlの試料を透過する光の透過率を測定することによって凝集度を測定した。PPPの透過率を100%とした。凝集度を全体で6分間にわたって記録した。
【0204】
本明細書に述べられる各mAbの血小板凝集活性を評価するため、独立したドナーを用いた8つのアッセイで評価を行った。すなわち、1)IgG1/IgG2σ B6H12.2の活性をポジティブコントロールである10μM ADP及びネガティブコントロールのPBSと比較した5つの実験、及び、2)IgG1/IgG2σ C47B157、C47B161、及びC47B222の活性をIgG1 B6H12.2及びネガティブコントロールのPBSと比較した3つの実験を行った。この血小板凝集アッセイによって、C47B157、C47B161、及びC47B222は、3人の独立したドナーにおいて100〜200μg/mlの範囲の濃度で試験した場合、IgG1又はIgG2σ骨格のいずれでも血小板凝集を誘発しないことが示された(200μg/mlでの実験の実施の結果を示した
図17b〜dを参照)。IgG1/IgG2σとしてのC47B157、C47B161、及びC47B222で観察された最大凝集度は0〜7%の範囲であり、PBSコントロール(8人の独立したドナー、最大凝集度は2〜11%の範囲)で観察された結果と同様であった。これに対して、100及び200μg/mlで試験した場合にB6H12.2はIgG1として、ポジティブコントロールの10μM ADP(5人のドナー、55〜120%の範囲の凝集度)と同様の40〜93%(8人のドナー)の範囲の凝集を誘発したが、IgG2σとしては同様の凝集は誘発せず、凝集度は1〜6%の範囲であった(5人の独立したドナー)。
【0205】
CD47抗体のFc変異体のインビボ抗腫瘍作用:
C47B157、C47B161、及びC47B222のインビボ抗腫瘍活性を3つのヒト腫瘍細胞モデルで試験した。簡単に述べると、最初の2つのモデルでは、10×10
6個のHL−60細胞又は5×10
6個のMV4−11細胞をNSGマウスに静脈内移植した。これらのモデルの両方で、腫瘍細胞の移植後6日目に抗体による治療を開始し、0.2及び10mg/kgを腹腔内注射によって週2回、動物に投与した。合計で6回の用量を投与し(最終投与は23日目)、各用量群は5匹のマウスで構成した。HL−60/NSGマウスモデルでは、14日目から始めて末梢血をマウスから週1回採取し、FACSにより分析して腫瘍細胞のアウトグロース(outgrowth)及び治療効果を評価した(最終の採取は42日目)。MV4−11/NSGモデルでは、34日目に末梢血をマウスから採取し、FACSにより分析して末梢血中の腫瘍細胞のアウトグロースに対する治療の効果を評価した。第3のインビボモデルでは、10×10
6個のKasumi−3細胞をNSGマウスに静脈内移植し、腫瘍細胞の移植後6日目に治療を開始した。腹腔内注射により0.2及び10mg/kgで週2回、合計で12回の用量を動物に投与した。最終の用量は44日目に投与し、各用量群は5匹のマウスで構成した。14日目から始めて末梢血をマウスから週1回採取し、FACSにより分析して末梢血中の腫瘍細胞のアウトグロースを評価した。
【0206】
試験した3つのモデルのすべてで、C47B157、C47B161、C47B222、及びB6H12.2は抗腫瘍活性を示した。HL60モデルで試験した場合(
図18を参照)、それぞれのmAbの効果は、試験した用量及び各mAbのFcのエフェクター機能に依存していた。すべてのmAbのエフェクター機能を有するIgG1及びエフェクター機能を喪失させたIgG2σ変異体は、用量依存型の活性を示した。IgG1は10mg/kgで腫瘍細胞のアウトグロースを安定的に抑制し、0.2mg/kgで腫瘍細胞のアウトグロースを遅らせた。IgG2σは10mg/kgで腫瘍細胞のアウトグロースを遅らせたが、0.2mg/kgでは目立った抗腫瘍作用は認められなかった。HL60モデルと同様、MV4ー11モデル内で試験した場合には(
図19)、mAbはIgG1として0.2及び10mg/kgで腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制した。腫瘍細胞のアウトグロースの抑制効果は、各mAbをIgG2σ骨格で試験した場合には低かった。エフェクター機能はHL60及びMV4ー11モデルで効果を高めたが、IgG1及びIgG2σ C47B157、C47B161、C47B222、及びB6H12.2は、IgG1又はIgG2σ骨格で試験した場合に0.2及び10mg/kgの両方で安定した抗腫瘍活性を示した(
図20)。
【0207】
実施例8:抗体中和の形態
上記の実施例で述べたように、恐らくはマクロファージのSIRPα受容体に対する標的細胞のCD47の結合を遮断し、その結果として、結合が遮断されなければ標的細胞がマクロファージに送るであろう「私を食べないで(eat-me-not)」シグナルを遮断することにより、細胞貪食作用を促進することができる抗体が作製された。
図21のCD47/Fab構造とCD47/SIRPα構造との重ね合わせは、すべてのFvドメインとSIRPαのD1ドメインとがぶつかる領域を示しており、抗体とSIRPαが両方とも同時にCD47に結合することを不可能としている。
【0208】
【表13-1】
【0209】
【表13-2】
【0210】
【表13-3】
【0211】
【表13-4】