(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウム金属複合酸化物>
本実施形態は、層状構造を有するリチウム金属複合酸化物である。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、少なくともリチウムとニッケルと元素Xとを含有する。
元素Xは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素である。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、単粒子を含む。
【0011】
本実施形態における粒子の名称と定義について、説明する。
[一次粒子]
本実施形態において、一次粒子は以下のように定義される。
一次粒子は、外観上に粒界が存在しない粒子である。一次粒子は、二次粒子を構成する粒子と、二次粒子を構成せず、独立して存在する粒子とに分けられる。
【0012】
二次粒子を構成する一次粒子は、粒子径が大きく成長したものでは無く、その粒子径は、0.1μm以上0.5μ未満程度である。
【0013】
二次粒子を構成せず、独立して存在する一次粒子は、単粒子を含むことが好ましい。「単粒子」とは、二次粒子を構成せず、独立して存在する一次粒子であって、粒子径が0.5μm以上である粒子をいう。
【0014】
[二次粒子]
本実施形態において、二次粒子は一次粒子の凝集体である。
本明細書において、「凝集」とは、一次粒子同士が多数の接触箇所を持ちながら互いに三次元的に一体化して、より大きな粒子が形成されることを意味する。
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物に含まれる二次粒子数、一次粒子数及び単粒子の総和に対する単粒子数の割合は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。上限は特に限定されないが、100%以下であり、90%以下が好ましい。
【0015】
本明細書において、「被着微粒子」とは、単粒子の表面に付着している微粒子である。被着微粒子は、一次粒子、二次粒子、又は単粒子が割れることによって生じ、単粒子の表面に付着した結晶片である。被着微粒子の最大粒子径は、単粒子の粒子径の0.067倍以上0.5倍以下であることが好ましい。
【0016】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、下記の要件(1)〜(5)をすべて満たす。以下、各要件について説明する。
【0017】
≪要件(1)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、粒度分布測定値から求めた50%累積体積粒度であるD
50が、2μm以上10μm以下である。
D
50の下限値の例としては、2.1μm以上、2.5μm以上、3.0μm以上が挙げられる。
D
50の上限値の例としては、9.0μm以下、8.0μm以下、7.0μm以下が挙げられる。
D
50の上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例としては、2.1μm以上9.0μm以下、2.5μm以上8.0μm以下、3.0μm以上7.0μm以下が挙げられる。
【0018】
本実施形態において、D
50は下記の方法により測定できる。
まず、測定するリチウム金属複合酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、リチウム金属複合酸化物の粉末を分散させた分散液を得る。
次に得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。
得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度をリチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度をD
50とする。
レーザー回折散乱粒度分布測定装置としては、例えばマルバーン社製マスターサイザー2000が使用できる。
【0019】
要件(1)を満たす本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、導電材料や電解液との接触面積が向上する。このため、リチウム金属複合酸化物の表面でのリチウムイオンの脱離、移動及び挿入が起こりやすいため、電子の移動に伴う抵抗が減少する。このため、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面での電荷移動抵抗を低減できる。
【0020】
≪要件(2)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、単粒子は表面の一部に被着微粒子を備える。ただし、前記被着微粒子の最大粒子径は、前記単粒子の粒子径よりも小さいものとする。
本実施形態においては、被着微粒子は非焼結状態で単粒子の表面の一部に付着していることが好ましい。つまり、単粒子と被着微粒子とが互いに焼結していない状態で接触した状態の複合体であることが好ましい。
【0021】
本実施形態において、単粒子と被着微粒子とが互いに非焼結状態で一体化していることの確認は、例えば、リチウム金属複合酸化物の水洗によって、被着微粒子が除去されることを確認することによって実施できる。リチウム金属複合酸化物の水洗によって、被着微粒子が除去された場合には、単粒子と被着微粒子とが互いに非焼結状態で一体化していると判断できる。
【0022】
単粒子の表面は、被着微粒子が存在せず、単粒子の表面が露出している部分を有する。単粒子の表面において被着微粒子は、互いに隣接せずに独立して存在することが好ましい。つまり、被着微粒子は、互いに離間した状態で単粒子の表面に被着していることが好ましい。つまり、被着微粒子は凝集した状態で存在せず、又は塊状ではないことが好ましい。
【0023】
要件(2)を満たす単粒子は表面積が増大する。これにより、リチウム金属複合酸化物が、導電材料や電解液と接触する接触面積を増大させることができる。このため、リチウムイオンの脱離、移動及び挿入がリチウム金属複合酸化物の粒子の表面で起こりやすい。このため、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面での電子の移動に伴う抵抗が減少する。このためリチウム金属複合酸化物の粒子の表面での電荷移動抵抗を低減できる。
【0024】
被着微粒子が単粒子の表面の一部に被着していることは、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察にすることで確認できる。
【0025】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物に含まれる単粒子の一例について、
図2にSEM像を示す。
図2に示すSEM像の拡大倍率は20000倍である。
図2に示す通り、本実施形態にリチウム金属複合酸化物の含まれる単粒子は、単粒子の表面の一部に被着微粒子を備えている。
図2に示す単粒子の表面では、被着微粒子は、凝集することなく、互いに隣接せずに独立して存在している。
【0026】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物に含まれる単粒子の全量のうち、単粒子の表面に被着微粒子を備える単粒子の割合は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましく、100%であってもよい。
【0027】
≪要件(3)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、単粒子の粒子径がリチウム金属複合酸化物のD
50の0.2倍以上1.5倍以下である。単粒子の粒子径はリチウム金属複合酸化物のD
50の0.3倍以上が好ましく、0.4倍以上がより好ましく、0.5倍以上が特に好ましい。単粒子の粒子径はリチウム金属複合酸化物のD
50の1.4倍以下が好ましく、1.3倍以下がより好ましく、1.2倍以下が特に好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、リチウム金属複合酸化物のD
50の0.3倍以上1.4倍以下、0.4倍以上1.3倍以下、0.5倍以上1.2倍以下が挙げられる。
【0028】
要件(3)を満たす単粒子は、単粒子の表面に複数個以上の被着微粒子が被着することが可能である。このため単粒子の表面積が増大する。これにより、チウム金属複合酸化物が、導電材料や電解液と接触する接触面積を増大させることができる。このため、リチウムイオンの脱離、移動及び挿入がリチウム金属複合酸化物の粒子の表面で起こりやすい。このため、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面での電子の移動に伴う抵抗が減少する。このため、リチウム金属複合酸化物の粒子の表面での電荷移動抵抗を低減できる。
【0029】
本実施形態において、単粒子の粒子径は下記の方法により測定できる。
まず、本実施形態のリチウム金属複合酸化物を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せる。次いで、走査型電子顕微鏡を用い、リチウム金属複合酸化物に加速電圧が20kVの電子線を照射して、観察を行う。
走査型電子顕微鏡としては、例えば日本電子株式会社製JSM−5510が使用できる。
【0030】
次いで、得られた電子顕微鏡画像(SEM写真)から下記方法で50個以上98個以下の単粒子を抽出する。
【0031】
(単粒子の抽出方法)
単粒子の粒子径を測定する場合、一視野に含まれる単粒子を測定対象とする。一視野に含まれる単粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の単粒子を測定対象とする。
【0032】
測定する単粒子の選択基準は、粒子径が0.5μm以上であって独立して存在する粒子を測定対象とする。
【0033】
観察視野において、単粒子が単に重なって見え、かつ単粒子が凝集して二次粒子を形成していないと判断できる場合には、最前面に存在する単粒子を測定対象としてもよい。
【0034】
また、観察視野において、2つ以上の単粒子が連なっており、単粒子の間の境界が明確な場合には、2つ以上の単粒子が接触していると判断し、それぞれの単粒子を測定対象としてもよい。
【0035】
抽出した単粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を測定し、一つの単粒子における最大値を単粒子の粒子径として測定する。
【0036】
得られた単粒子の粒子径の算術平均値が、リチウム金属複合酸化物に含まれる単粒子の平均粒子径である。
【0037】
≪要件(4)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物において、被着微粒子の粒子径は、リチウム金属複合酸化物のD
50の0.01倍以上0.1倍以下である。被着微粒子の粒子径は、リチウム金属複合酸化物のD
50の0.02倍以上が好ましく、0.03倍以上がより好ましく、0,04倍以上が特に好ましい。被着微粒子の粒子径は、リチウム金属複合酸化物のD
50の0.09倍以下が好ましく、0.08倍以下がより好ましく、0.07倍以下が特に好ましい。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、リチウム金属複合酸化物のD
50の0.02倍以上0.09倍以下、0.03倍以上0.08倍以下、0.04倍以上0.07倍以下が挙げられる。
【0038】
被着微粒子は単粒子の表面に付着している微粒子である。被着微粒子には、独立して存在する一次粒子型被着微粒子と、微粒子の凝集体である二次粒子型被着微粒子とが含まれる。
【0039】
測定対象が二次粒子型被着微粒子である場合、凝集体の粒子径を測定し、被着微粒子の粒子径とする。
【0040】
また、観察視野において、2つ以上の一次粒子型被着微粒子が連なっており、一次粒子の間の境界は明確な場合には、2つ以上の一次粒子型被着微粒子が接触していると判断し、それぞれの一次粒子型被着微粒子を測定対象とする。
【0041】
被着微粒子の粒子径が要件(4)の下限値未満の微粒子は、微粒子一つ当たりが被着することによって増大する表面積が小さい。このため、リチウム金属複合酸化物が導電材料や電解液と接触する接触面積を増大させる効果が小さくなると考えられる。
被着微粒子の粒子径が要件(4)の上限値を超える微粒子は、微粒子の体積に対し単粒子との接触面積が小さく。このため、微粒子が単粒子の表面に被着しにくく、また、被着した微粒子が衝撃などによって脱離しやすいと考えられる。
【0042】
≪要件(5)≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数は、走査型電子顕微鏡観察により得られる画像で観察できる範囲において、1個以上30個以下であり、2個以上25個以下が好ましく、3個以上20個以下がより好ましく、4個以上15個以下が特に好ましい。
【0043】
1つの単粒子に被着している被着微粒子の平均個数は下記の方法により算出する。
まず、本実施形態のリチウム金属複合酸化物を、サンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せる。
次いで、走査型電子顕微鏡により観察する。このとき、電子線を照射して、10000倍の視野にて観察を行う。
【0044】
測定対象とする単粒子は上記単粒子の抽出において抽出された単粒子のうち粒子径がリチウム金属複合酸化物のD
50の0.2倍以上1.5倍以下となる粒子とする。
測定対象となる単粒子の表面に存在する被着微粒子を数える。これにより、一つの単粒子の表面に被着する被着微粒子の個数が得られる。
【0045】
測定対象となる被着微粒子は、微粒子が被着している単粒子よりも粒子径が小さく、上記観察視野において粒子径がリチウム金属複合酸化物のD
50の0.01倍以上0.1倍以下となる微粒子である。
【0046】
ここで被着微粒子の粒子径は、被着微粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を、被着微粒子の粒子径とする。
【0047】
単粒子の表面とは、観察視野において視認できる単粒子の表面部のことを指す。本実施形態において、SEM観察時に視認できない領域は考慮しないものとする。SEM観察時に視認できない領域としては、例えば単粒子の裏側や単粒子の影になっている部分をいう。
【0048】
同様の測定を30個の単粒子について行い、単粒子の表面に存在する被着微粒子の平均個数を1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数とする。
【0049】
1つの単粒子に被着している被着微粒子の平均個数が上記要件(5)を満たす範囲内であれば、リチウム金属複合酸化物と導電材料や電解液との接触面積が増加すると考えられる。このため、リチウム金属複合酸化物の表面でのリチウムイオンの脱離、移動及び挿入が起こりやすくなり、電荷移動抵抗を低減できる。
【0050】
1つの単粒子に被着している被着微粒子の平均個数が上記要件(5)の下限値未満であると、単粒子の表面積が小さくなり、導電材料や電解液との接触面積が減少する。このため、電子の移動に伴う抵抗が増大しやすくなる。
【0051】
1つの単粒子に被着している被着微粒子の平均個数が上記要件(5)の上限値を超える場合には、単粒子の表面において被着微粒子が一部隣接して存在する被着微粒子層が形成されると考えられる。被着微粒子層が形成されると、被着微粒子層に含まれる被着微粒子の間での抵抗が増加する。このため、リチウム金属複合酸化物の表面でのリチウムイオンの脱離、移動及び挿入が起こりにくくなる。このため、電子の移動に伴う抵抗が増大するため、電荷移動抵抗が増大する。
【0052】
≪被覆物≫
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は被覆物を備えることが好ましい。
より具体的には、リチウム金属複合酸化物の粒子をコア粒子とし、前記コア粒子を被覆する被覆物を備えることが好ましい。
本実施形態において、被覆物は、被覆層又は被覆粒子であることが好ましい。
【0053】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物において、前記Xで表される元素は、コア粒子を構成していてもよく、被覆物を構成していてもよい。
【0054】
前記Xで表される元素のうち、被覆物を構成する元素を元素Mと記載する。元素MはP、B、Al、Ti、Zr、La、Nb及びWから選ばれる1種以上であることが好ましく、P、B、Al、Zr、Nb及びWから選ばれる1種以上であることがより好ましい。被覆物は、Liと元素Mとのリチウム含有複合酸化物を含むことが好ましい。
【0055】
前記元素Mと元素Xとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。効率的に製造する観点から、前記元素Mと前記元素Xとは同一であることが好ましい。
【0056】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、ニッケルと元素Xのモル比の和に対する、前記被覆物が含有する元素Mのモル比の割合(M/(Ni+X))が、0.05モル%以上5モル%以下が好ましい。
【0057】
(M/Ni+X)は、4モル%以下であることがより好ましく、3モル%以下であることが特に好ましい。(M/Ni+X)は、0.1モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.1モル%以上4モル%以下、1モル%以上3モル%以下が挙げられる。
【0058】
本実施形態において、被覆物の組成の確認は、被覆物を備えるリチウム金属複合酸化物の粒子の断面のSTEM-EDX元素ライン分析、誘導結合プラズマ発光分析、電子線マイクロアナライザ分析することで確認できる。
【0059】
被覆物の結晶構造の確認は、被覆物を備えるリチウム金属複合酸化物の粒子を粉末X線回折や、電子線回折することにより確認できる。
【0060】
本実施形態のリチウム金属複合酸化物は、下記組成式(A)で表されることが好ましい。
Li[Li
m(Ni
(1−m)X
n)
1−m]O
2 ・・・(A)
(ただし、Xは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.1≦m≦0.2、0<n≦0.6、及び0<m+n<0.6を満たす。)
【0061】
サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるmは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)におけるmは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
mの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本実施形態においては、0<m≦0.2であることが好ましく、0<m≦0.1であることがより好ましい。
【0062】
放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(A)において、nの上限は、0.7以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.45以下であることがさらに好ましく、0.2以下が特に好ましい。またnの下限は、0以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、0.12以上が特に好ましい。
nの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0以上0.7以下、0.05以上0.5以下、0.10以上0.45以下、0.12以上0.2以下が挙げられる。
【0063】
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物中の、ニッケルと元素Xの合計量に対するニッケルの含有量(Ni/(Ni+X))の比は、モル比で0.4以上であることが好ましく、0.45以上がより好ましく、0.50以上が特に好ましく、0.55以上がさらに好ましい。(Ni/(Ni+X))の上限値は特に限定されないが、例えば、0.95、0.90、又は0.8が挙げられる。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.45以上0.95以下、0.50以上0.90以下、又は0.55以上0.8以下が挙げられる。
【0064】
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物はBET比表面積が、2m
2/g以下であることが好ましく、1.5m
2/g以下がより好ましく、1m
2/g以下が特に好ましい。
BET比表面積の下限値は、例えば0.1m
2/g以上、0.2m
2/g以上、0.3m
2/g以上が挙げられる。
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.1m
2/g以上2m
2/g以下、0.2m
2/g以上1.5m
2/g以下、0.3m
2/g以上1m
2/g以下が挙げられる。
【0065】
BET比表面積は、リチウム金属複合酸化物1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積測定装置により測定できる(単位:m
2/g)。
BET比表面積測定装置としては、例えばマウンテック社製Macsorb(登録商標)が使用できる。
【0066】
(層状構造)
本実施形態において、リチウム金属複合酸化物の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0067】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3
1、P3
2、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3
112、P3
121、P3
212、P3
221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P6
1、P6
5、P6
2、P6
4、P6
3、P−6、P6/m、P6
3/m、P622、P6
122、P6
522、P6
222、P6
422、P6
322、P6mm、P6cc、P6
3cm、P6
3mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P6
3/mcm、P6
3/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0068】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P2
1、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2
1/m、C2/m、P2/c、P2
1/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0069】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0070】
<リチウム金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態のリチウム金属複合酸化物の製造方法について説明する。
本実施形態のリチウム金属複合酸化物の製造方法は、下記工程(A)及び工程(B)をこの順で備え、さらに工程(A)の前に[リチウム金属複合酸化物の前駆体の製造工程]を備えることが好ましい。
工程(A):少なくともニッケルを含む複合化合物とリチウム元素を含むリチウム化合物とを混合した混合物を焼成し、焼成物を得る工程。
工程(B):得られた焼成物を解砕し、リチウム金属複合酸化物を得る工程。
【0071】
[リチウム金属複合酸化物の前駆体粉末の製造工程]
まず、リチウム金属複合酸化物の前駆体を製造することが好ましい。リチウム金属複合酸化物の前駆体は、目的物であるリチウム金属複合酸化物を構成する金属のうち、リチウム以外の金属、すなわち、ニッケルと、元素Xとを含むニッケル含有金属複合化合物である。
前駆体であるニッケル含有金属複合化合物は、ニッケル含有金属複合水酸化物又はニッケル含有金属複合酸化物を用いることができる。
【0072】
前駆体は、通常公知の共沈殿法により製造することが可能である。共沈殿法としては、バッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法を用いることができる。
以下、金属として、ニッケル、コバルト、マンガンを含むニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物(以下、「金属複合水酸化物」と記載することがある。)を例に、前駆体の製造方法を詳述する。
【0073】
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を反応させ、Ni
sCo
tMn
u(OH)
2(式中、s+t+u=1)で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0074】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種を使用することができる。
【0075】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び酢酸コバルトのうちの何れかを使用することができる。
【0076】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン及び酢酸マンガンのうちの何れかを使用することができる。
【0077】
以上の金属塩は上記Ni
sCo
tMn
u(OH)
2の組成比に対応する割合で用いられる。すなわち、すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるニッケル、コバルト塩溶液の溶質におけるコバルト、マンガン塩溶液の溶質におけるマンガンのモル比が、Ni
sCo
tMn
u(OH)
2の組成比に対応してs:t:uとなる量を用いる。
【0078】
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水である。すなわち、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の溶媒は、水である。
【0079】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。
錯化剤としては、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸及びグリシンが挙げられる。
【0080】
前駆体の製造工程において、錯化剤は用いられてもよく、用いられなくてもよい。
錯化剤が用いられる場合、ニッケル塩溶液、元素Xの金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
本実施形態においては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0081】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、任意金属塩溶液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムである。
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
【0082】
反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
また、反応槽内のpH値は例えば水溶液の温度が40℃の時にpH9以上pH13以下、好ましくはpH10以上pH12.5以下の範囲内で設定し、pHは±0.5以内で制御する。
【0083】
反応槽内の物質は、適宜撹拌して混合する。
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0084】
反応槽内は不活性雰囲気であってもよい。不活性雰囲気であると、
混合液に含まれる金属のうち、ニッケルよりも酸化されやすい金属が、ニッケルよりも先に凝集してしまうことが抑制される。そのため、均一な金属複合水酸化物が得られる。
【0085】
また、反応槽内は、適度な酸化性雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気は、不活性ガスに、酸化性ガスを混合した酸素含有雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させてもよい反応槽内が適度な酸化性雰囲気であることにより、混合液に含まれる遷移金属が適度に酸化され、金属複合酸化物の形態を制御しやすくなる。
【0086】
酸化性雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
【0087】
酸化性雰囲気が酸素含有雰囲気である場合、反応槽内の雰囲気の制御は、反応槽内に酸化性ガスを通気させる、混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
【0088】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を洗浄した後、乾燥させ、前駆体としてのニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物が得られる。
また、反応沈殿物に水で洗浄するだけでは混合液に由来する夾雑物が残存してしまう場合には、必要に応じて、反応沈殿物を、弱酸水や、アルカリ溶液で洗浄してもよい。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含む水溶液を挙げることができる。
【0089】
乾燥時間は、昇温開始から達温して温度保持が終了するまでの合計時間を1時間以上30時間以下とすることが好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
【0090】
本明細書における最高保持温度とは、焼成工程における焼成炉内雰囲気の保持温度の最高温度であり、焼成工程における焼成温度を意味する。複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、最高保持温度とは、各加熱工程のうちの最高温度を意味する。
【0091】
本明細書における昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から最高保持温度に到達するまでの時間と、焼成装置の焼成炉内の昇温開始時の温度から最高保持温度までの温度差と、から算出される。
【0092】
前駆体としてのニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を単離する際には、反応沈殿物を含むスラリー(共沈物スラリー)を遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が好ましく用いられる。
【0093】
なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン金属複合酸化物を調製してもよい。ニッケルコバルトマンガン金属複合酸化物を調製する場合には、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を熱処理する方法が挙げられる。
【0094】
・前駆体の粉砕工程
本実施形態においては、製造した前駆体を粉砕してもよい。これにより粉末状の前駆体を得ることができる。
前駆体の粉砕工程は、ロールミル、ディスクミル、ピンミル、ボールミル、ジェットミル、分級ローター付カウンタージェットミルなどを用いて実施することが好ましい。
【0095】
[工程(A)]
本工程は、少なくともニッケルを含む複合化合物とリチウム元素を含むリチウム化合物とを混合した混合物を焼成し、焼成物を得る工程である。
【0096】
・リチウム元素を含むリチウム化合物
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
また、水酸化リチウムが不純物として炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウム中の炭酸リチウムの含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0097】
前記前駆体と、前記リチウム化合物との混合方法について説明する。
前記前駆体を乾燥させた後、リチウム化合物と混合する。乾燥条件は、特に制限されないが、例えば、下記の乾燥条件1)〜3)のいずれかが挙げられる。
1)前駆体が酸化・還元されない条件。具体的には、酸化物が酸化物のまま維持される乾燥条件、又は水酸化物が水酸化物のまま維持される乾燥条件である。
2)前駆体が酸化される条件。具体的には、水酸化物から酸化物へ酸化する乾燥条件である。
3)前駆体が還元される条件。具体的には、酸化物から水酸化物へ還元する乾燥条件である。
【0098】
乾燥条件1)〜3)は、製造するニッケル含有金属複合化合物が、ニッケル含有金属複合水酸化物であるか、ニッケル含有金属複合酸化物のいずれかであるかによって、適宜選択すればよい。
酸化・還元がされない条件のためには、窒素、ヘリウム及びアルゴン等の不活性ガスを使用すればよい。水酸化物が酸化される条件では、酸素又は空気を使用して行えばよい。
また、前駆体が還元される条件としては、不活性ガス雰囲気下、ヒドラジン、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を使用すればよい。
【0099】
前駆体の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0100】
以上のリチウム化合物と前駆体とを、最終目的物の組成比を勘案して混合する。例えば、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物と当該金属複合水酸化物は、Li[Li
r(Ni
sCo
tMn
u)
1−r]O
2(式中、s+t+u=1)の組成比に対応する割合で混合する。ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物及びリチウム化合物の混合物を後の焼成工程において焼成することによって、リチウム−ニッケルコバルトマンガン金属複合酸化物が得られる。
【0101】
均一なリチウム−ニッケルコバルトマンガン金属複合酸化物を得る観点から、rは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、純度の高いリチウム−ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る観点から、rは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
上記のrの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0102】
・混合物を焼成し、焼成物を得る工程
本工程は、リチウム化合物と、前駆体との混合物を焼成し、原料化合物を得る工程である。
【0103】
焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0104】
焼成における保持温度を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物を上記要件(1)の範囲に制御できる。
通常、保持温度が高くなればなるほど、単粒子径は大きくなる傾向にある。焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、後述の不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0105】
本実施形態においては、焼成温度の設定は、具体的には、200℃以上1150℃以下の範囲を挙げることができ、300℃以上1050℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましい。後述する不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行う場合は、不活性溶融材の融点を考慮すればよく、不活性溶融剤の融点マイナス200℃以上不活性溶融剤の融点プラス200℃以下の範囲で行うことが好ましい。
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の温度を意味し、かつ本焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0106】
焼成における保持時間を調整することにより、得られるリチウム金属複合酸化物を要件(1)の範囲に制御できる。焼成における保持時間は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
焼成温度が上記下限値以上であると、強固な結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物を得ることができる。また、焼成温度が上記上限値以下であると、一次粒子表面又は二次粒子表面のリチウムの揮発を低減できる。
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の温度を意味し、かつ本焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0107】
焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有することが好ましい。例えば、第1の焼成段階と、第1の焼成段階よりも高温で焼成する第2の焼成段階を有することが好ましい。さらに焼成温度及び焼成時間が異なる焼成段階を有していてもよい。
【0108】
リチウム金属複合酸化物が下記組成式(A1)で表される場合には、工程(A)は、900℃以上で焼成して焼成物を得る工程(A1)であることが好ましい。
Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2 ・・・(A1)
(ただし、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、及び0.4<y+z+w≦1を満たす。)
【0109】
リチウム金属複合酸化物が下記組成式(A2)で表される場合には、工程(A)が、720℃以上で焼成して焼成物を得る工程(A2)であることが好ましい。
Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2 ・・・(A2)
(ただし、Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、−0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、0≦w≦0.1、及び0<y+z+w≦0.4を満たす。)
【0110】
具体的には、前記焼成温度で保持する時間は、0.1時間以上20時間以下が挙げられ、0.5時間以上10時間以下が好ましい。前記焼成温度までの昇温速度は、通常50℃/時間以上400℃/時間以下であり、前記焼成温度から室温までの降温速度は、通常10℃/時間以上400℃/時間以下である。
【0111】
本実施形態において、最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は180℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましく、250℃/時間以上が特に好ましい。
最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から後述の保持温度に到達するまでの時間から算出される。
【0112】
また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはこれらの混合ガスを用いることができる。
【0113】
本実施形態において、工程(A)は酸素雰囲気下で焼成する工程であることが好ましい。前記混合物が焼成炉内に連続的に供給される場合、前記混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)は、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが特に好ましい。
【0114】
一定量の前記混合粉を焼成する場合は、前記混合粉の供給量(kg)に対する、焼成中に炉内に供給される酸素ガスの総量(Nm
3)の比(酸素ガスの総量/混合粉の供給速度)が、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、以下であることが特に好ましい。
【0115】
工程(A)における酸素粉体比を前記の範囲に調整することで要件(2)〜要件(5)の範囲に制御できる。
【0116】
本実施形態においては、上記リチウム化合物と、前駆体との混合物に不活性溶融剤を添加し、不活性溶融剤の存在下で焼成してもよい。
【0117】
不活性溶融剤の存在下で混合物の焼成を行うことで、混合物の反応を促進させることができる。不活性溶融剤は、焼成後の焼成物に残留していてもよいし、焼成後に洗浄液で洗浄すること等により除去されていてもよい。本実施形態においては、焼成後のリチウム金属複合酸化物粉末は純水やアルカリ性洗浄液などの洗浄液を用いて洗浄することが好ましい。
【0118】
本実施形態に使用することができる不活性溶融剤は、焼成の際に混合物と反応し難いものであれば特に限定されない。本実施形態においては、Na、K、Rb、Cs、Ca、Mg、SrおよびBaからなる群より選ばれる1種以上の元素(以下、「A」と称する。)のフッ化物、Aの塩化物、Aの炭酸塩、Aの硫酸塩、Aの硝酸塩、Aのリン酸塩、Aの水酸化物、Aのモリブデン酸塩およびAのタングステン酸塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0119】
Aのフッ化物としては、NaF(融点:993℃)、KF(融点:858℃)、RbF(融点:795℃)、CsF(融点:682℃)、CaF
2(融点:1402℃)、MgF
2(融点:1263℃)、SrF
2(融点:1473℃)およびBaF
2(融点:1355℃)を挙げることができる。
【0120】
Aの塩化物としては、NaCl(融点:801℃)、KCl(融点:770℃)、RbCl(融点:718℃)、CsCl(融点:645℃)、CaCl
2(融点:782℃)、MgCl
2(融点:714℃)、SrCl
2(融点:857℃)およびBaCl
2(融点:963℃)を挙げることができる。
【0121】
Aの炭酸塩としては、Na
2CO
3(融点:854℃)、K
2CO
3(融点:899℃)、Rb
2CO
3(融点:837℃)、Cs
2CO
3(融点:793℃)、CaCO
3(融点:825℃)、MgCO
3(融点:990℃)、SrCO
3(融点:1497℃)およびBaCO
3(融点:1380℃)を挙げることができる。
【0122】
Aの硫酸塩としては、Na
2SO
4(融点:884℃)、K
2SO
4(融点:1069℃)、Rb
2SO
4(融点:1066℃)、Cs
2SO
4(融点:1005℃)、CaSO
4(融点:1460℃)、MgSO
4(融点:1137℃)、SrSO
4(融点:1605℃)およびBaSO
4(融点:1580℃)を挙げることができる。
【0123】
Aの硝酸塩としては、NaNO
3(融点:310℃)、KNO
3(融点:337℃)、RbNO
3(融点:316℃)、CsNO
3(融点:417℃)、Ca(NO
3)
2(融点:561℃)、Mg(NO
3)
2、Sr(NO
3)
2(融点:645℃)およびBa(NO
3)
2(融点:596℃)を挙げることができる。
【0124】
Aのリン酸塩としては、Na
3PO
4、K
3PO
4(融点:1340℃)、Rb
3PO
4、Cs
3PO
4、Ca
3(PO
4)
2、Mg
3(PO
4)
2(融点:1184℃)、Sr
3(PO
4)
2(融点:1727℃)およびBa
3(PO
4)
2(融点:1767℃)を挙げることができる。
【0125】
Aの水酸化物としては、NaOH(融点:318℃)、KOH(融点:360℃)、RbOH(融点:301℃)、CsOH(融点:272℃)、Ca(OH)
2(融点:408℃)、Mg(OH)
2(融点:350℃)、Sr(OH)
2(融点:375℃)およびBa(OH)
2(融点:853℃)を挙げることができる。
【0126】
Aのモリブデン酸塩としては、Na
2MoO
4(融点:698℃)、K
2MoO
4(融点:919℃)、Rb
2MoO
4(融点:958℃)、Cs
2MoO
4(融点:956℃)、CaMoO
4(融点:1520℃)、MgMoO
4(融点:1060℃)、SrMoO
4(融点:1040℃)およびBaMoO
4(融点:1460℃)を挙げることができる。
【0127】
Aのタングステン酸塩としては、Na
2WO
4(融点:687℃)、K
2WO
4、Rb
2WO
4、Cs
2WO
4、CaWO
4、MgWO
4、SrWO
4およびBaWO
4を挙げることができる。
【0128】
本実施形態においては、これらの不活性溶融剤を2種以上用いることもできる。2種以上用いる場合は、融点が下がることもある。また、これらの不活性溶融剤の中でも、より結晶性が高いリチウム金属複合酸化物を得るための不活性溶融剤としては、Aの炭酸塩および硫酸塩、Aの塩化物のいずれか又はその組み合わせであることが好ましい。また、Aとしては、ナトリウム(Na)およびカリウム(K)のいずれか一方又は両方であることが好ましい。すなわち、上記の中で、とりわけ好ましい不活性溶融剤は、NaOH、KOH、NaCl、KCl、Na
2CO
3、K
2CO
3、Na
2SO
4、およびK
2SO
4からなる群より選ばれる1種以上である。
【0129】
本実施形態において、不活性溶融剤として、硫酸カリウム又は硫酸ナトリウムが好ましい。
【0130】
[工程(B)]
焼成後に、得られた焼成物を解砕し、リチウム金属複合酸化物を得る。解砕工程により、要件(2)〜要件(5)の範囲に制御できる。
解砕工程は、ロールミル、ディスクミル、ピンミル、ボールミル、ジェットミル、分級ローター付カウンタージェットミルなどを用いて実施することが好ましい。
【0131】
工程(B)は、上記焼成工程で得られた焼成物のD
50が100μm以下になるまで解砕し解砕粉1を得る解砕工程1と、その後に解砕粉1をD
50が2μm以上、10μm以下になるまで解砕しリチウム金属複合酸化物を得る解砕工程2とを備えることが好ましい。
解砕工程1、及び解砕工程2はそれぞれ異なる装置による複数回の解砕処理を含んでもよい。
【0132】
焼成後のリチウム金属複合酸化物に残留する不活性溶融剤の洗浄には、純水やアルカリ性洗浄液を用いることができる。
アルカリ性洗浄液としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li
2CO
3(炭酸リチウム)、Na
2CO
3(炭酸ナトリウム)、K
2CO
3(炭酸カリウム)および(NH
4)
2CO
3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0133】
洗浄に用いる洗浄液の温度は、15℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましく、8℃以下がさらに好ましい。洗浄液の温度を凍結しない範囲で上記範囲に制御することで、洗浄時にリチウム金属複合酸化物の結晶構造中から洗浄液中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できる。
【0134】
洗浄工程において、洗浄液とリチウム金属複合酸化物とを接触させる方法としては下記の方法が挙げられる。
1)各洗浄液の水溶液中に、リチウム金属複合酸化物を投入して撹拌する方法。
2)各洗浄液の水溶液をシャワー水として、リチウム金属複合酸化物にかける方法。
3)各洗浄液の水溶液中に、リチウム金属複合酸化物を投入して撹拌した後、各洗浄液の水溶液からリチウム金属複合酸化物を分離し、次いで、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、分離後のリチウム金属複合酸化物にかける方法。
【0135】
・被覆物を有するリチウム金属複合酸化物の製造方法
被覆物を有するリチウム金属複合酸化物を製造する場合にはまず、被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物を混合する。次に必要に応じて熱処理することによりリチウム金属複合酸化物の単粒子、一次粒子又は二次粒子の表面に被覆原料から構成された被覆物を形成できる。
【0136】
被覆材原料は特に限定されず、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩またはアルコキシドを用いることができ、酸化物であることが好ましい。
【0137】
被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物の混合は、リチウム金属複合酸化物製造時における混合と同様にして行えばよい。攪拌翼を内部に備えた粉体混合機を用いて混合する方法など、ボールなどの混合メディアを備えず、強い粉砕を伴わない混合装置を用いて混合する方法が好ましい。また、混合後に水を含有する雰囲気中において、保持させることによって被覆物をリチウム金属複合酸化物の表面により強固に付着させることができる。
【0138】
被覆材原料及びリチウム金属複合酸化物の混合後に必要に応じて行う熱処理における熱処理条件(温度、保持時間)は、被覆材原料の種類に応じて、異なる場合がある。熱処理温度は、200℃以上850℃以下の範囲に設定することが好ましく、前記リチウム金属複合酸化物の焼成温度以下の温度であることが好ましい。リチウム金属複合酸化物の焼成温度よりも高い温度であると、被覆材原料がリチウム金属複合酸化物と固溶し、被覆物が形成されない場合がある。熱処理における雰囲気としては、前記焼成と同様の雰囲気ガスが挙げられる。
【0139】
スパッタリング、CVD、蒸着などの手法を用いることにより、リチウム金属複合酸化物の表面に、被覆物を形成させて、被覆層又は被覆粒子を有するリチウム金属複合酸化物を得ることもできる。
【0140】
また、前記金属複合酸化物又は水酸化物と、リチウム化合物と被覆材原料を混合・焼成することにより被覆物を有するリチウム金属複合酸化物を得られる場合もある。
【0141】
リチウム金属複合酸化物の単粒子、一次粒子又は二次粒子の表面に、被覆物を備えたリチウム金属複合酸化物は、適宜分級され、リチウム金属複合酸化物とされる。
【0142】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本実施形態のリチウム金属複合酸化物を用いたリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0143】
本実施形態のリチウム二次電池量正極活物質は、前記本実施形態のリチウム金属複合酸化物からなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していてもよい。
【0144】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0145】
図1A、
図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0146】
まず、
図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0147】
次いで、
図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0148】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0149】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0150】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0151】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0152】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0153】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0154】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0155】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0156】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0157】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0158】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0159】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0160】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0161】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0162】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0163】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2、SiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2、TiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5、VO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3、FeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2、SnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3、WO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li
4Ti
5O
12、LiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0164】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2、TiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2、VSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2、FeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3、MoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2、SnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se
5S
3、SeS
2、SeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0165】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N、Li
3−xA
xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0166】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0167】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0168】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu
2Sb、La
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0169】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0170】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0171】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0172】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0173】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0174】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0175】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0176】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0177】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0178】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(COCF
3)、Li(C
4F
9SO
3)、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2およびLiC(SO
2CF
3)
3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0179】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0180】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0181】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF
6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0182】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4、Li
2S−GeS
2−P
2S
5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0183】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0184】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態により製造されるリチウム金属複合酸化物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池の抵抗を低減させることができる。
【0185】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池の抵抗を低減させることができる。
【0186】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、抵抗の低い二次電池となる。
【実施例】
【0187】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0188】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム金属複合酸化物の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0189】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定>
まず、測定するリチウム金属複合酸化物の粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、測定するリチウム金属複合酸化物の粉末を分散させた分散液を得た。
得られた分散液についてマルバーン社製マスターサイザー2000(レーザー回折散乱粒度分布測定装置)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の体積粒度をリチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度D
50とした。
【0190】
<単粒子の表面の観察と、単粒子の粒子径の測定>
まず、リチウム金属複合酸化物をサンプルステージ上に貼った導電性シート上に載せた。次いで、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM−5510)を用い、リチウム金属複合酸化物に加速電圧が20kVの電子線を照射して、観察を行った。
【0191】
次いで、得られた電子顕微鏡画像(SEM写真)から下記方法で50個以上98個以下の単粒子を抽出した。
【0192】
(単粒子の抽出方法)
単粒子の平均粒子径を測定する場合、一視野に含まれる単粒子の全てを測定対象とした。一視野に含まれる単粒子が50個未満である場合には、測定数が50個以上となるまで複数視野の単粒子を測定対象とした。また、SEM観察において単粒子同士が重なっている、または接触している場合SEM視野中で最前面にある単粒子を測定対象とした。
【0193】
抽出した単粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を、単粒子の粒子径として測定した。
【0194】
得られた単粒子の粒子径の算術平均値が、リチウム金属複合酸化物に含まれる単粒子の平均粒子径とした。
【0195】
抽出した単粒子について20000倍の拡大視野で観察し、単粒子表面に微粒子が被着しているかについて確認し、後述の方法で被着微粒子数を測定した。
【0196】
<被着微粒子の粒子径と、被着微粒子の平均個数の測定>
上記で抽出した単粒子の中から上記観察視野において粒子径がリチウム金属複合酸化物のD
50の0.2倍以上1.5倍以下となる単粒子を抽出した。
【0197】
抽出した単粒子において表面に存在する被着微粒子を数え、一つの単粒子表面に被着する被着微粒子数とした。対象となる被着微粒子は被着している単粒子よりも小さく、上記観察視野において粒子径がリチウム金属複合酸化物のD
50の0.01倍以上0.1倍以下となる粒子を数えた。
【0198】
ここで被着微粒子の粒子径は、被着微粒子の像について、一定方向から引いた平行線ではさんだときの平行線間の距離(定方向径)を、被着微粒子の粒子径として測定した。また、単粒子表面とは、観察視野において視認できる単粒子の表面部のことを指す。
同様の測定を30個の単粒子について行い、単粒子表面に存在する被着粒子の平均を1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数とした。
【0199】
<BET比表面積の測定>
BET比表面積は、リチウム金属複合酸化物1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定した(単位:m
2/g)。
【0200】
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるリチウム金属複合酸化物と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム金属複合酸化物:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0201】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して60℃で1時間乾燥し、150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は34.96cm
2とした。
【0202】
<リチウム二次電池用負極の作製>
人造黒鉛とスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、人造黒鉛:SBR:CMC=98:1:1(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、純水を溶媒として用いた。
【0203】
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して、60℃で1時間乾燥し、120℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用負極を得た。このリチウム二次電池用負極の電極面積は37.44cm
2とした。
【0204】
・電荷移動抵抗の測定
上記の方法で作製したハーフセルを用いて電池のEIS測定を行い、得られた結果から、正極活物質の電荷移動抵抗を算出した。
EIS測定は25℃SOC100%で実施し、得られた測定データから作成したCole−Coleプロットにおいて、Solartron社製解析ソフトウエアZView2のInstant Fit機能を使用して求めたCole−Coleプロットの円弧の大きさから電荷移動抵抗を求めた。
【0205】
≪実施例1≫
・リチウム金属複合酸化物1の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0206】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.60:0.20:0.20となる割合で混合して、混合原料液1を調製した。
【0207】
次に、反応槽内に、攪拌下、得られた混合原料液1と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.1(水溶液の液温が40℃での測定値)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0208】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となる割合で秤量して混合した後、混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)が5となる様に酸素を流しながら、酸素雰囲気下1000℃で5時間焼成して、焼成粉1を得た。
【0209】
得られた焼成粉1にロールミルで粗解砕し、ディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD
50を100μm以下になるように粉砕した。
その後、さらに16000rpmの回転数で運転したピンミル(インパクトミル AVIS-100 ミルシステム株式会社製)に投入し解砕することによりリチウム金属複合酸化物1を得た。
【0210】
・リチウム金属複合酸化物1の評価
<組成分析結果>
リチウム金属複合酸化物1の組成分析を行い、組成式:Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2(MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素)に対応させたところ、x=0.02、y=0.200、z=0.200、w=0.000であった。
【0211】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定結果>
リチウム金属複合酸化物1の50%累積体積粒度であるD
50は5.8μmであった。
【0212】
<単粒子の表面の観察と、単粒子の粒子径の測定結果>
リチウム金属複合酸化物1について電子顕微鏡画像(SEM写真)を取得した。
5000倍視野のSEM写真を
図3(a)に、2500倍視野のSEM写真を
図3(b)に示す。
図3(a)に示すとおり、リチウム金属複合酸化物1は単粒子を含んでいた。単粒子は表面の一部に被着微粒子を備えていた。被着微粒子の最大粒子径は、単粒子の粒子径よりも小さいことが確認できた。
図3(a)の実線で囲んだ単粒子の拡大写真(20000倍)を
図4に示す。
図4中の符号T1及びT2に示す単粒子の粒子径は、4.6μmであった。
【0213】
<被着微粒子の粒子径と、被着微粒子の平均個数の測定結果>
図4中、要件(4)の粒子径を満たす被着微粒子を実線で、要件(4)の粒子径を満たさない被着微粒子を破線で示す。
実線で囲んだ被着微粒子の粒子径は、0.06μm〜0.6μmであった。
また、1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数は、13個であった。
【0214】
・リチウム金属複合酸化物1の電荷移動抵抗評価
リチウム金属複合酸化物1を用いてハーフセルを作製し、電荷移動抵抗を測定したところ、7.70Ωであった。
【0215】
≪実施例2≫
・リチウム金属複合酸化物2の製造
攪拌器およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0216】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.91:0.05:0.04となる割合で混合して、混合原料液2を調製した。
【0217】
次に、反応槽内に、攪拌下、得られた混合原料液2と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが10.6(水溶液の液温が40℃での測定値)となるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。
その後、洗浄し、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2を得た。
【0218】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子2と水酸化リチウムの粉末と硫酸カリウムの粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.20、K
2SO
4/(LiOH+K
2SO
4)=0.10(mol/mol)となる割合で秤量して混合した。
その後、混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)が5となる様に酸素を流しながら、酸素雰囲気下820℃で5時間焼成して、焼成粉2を得た。
【0219】
得られた焼成粉2をロールミルで粗解砕し、解砕粉1を得た。
前記解砕粉1と純水とを全体量に対して前記粉解砕粉1の重量割合が0.3となるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水、単離し、150℃で乾燥することにより乾燥粉1を得た。
【0220】
前記乾燥粉1にディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD
50を100μm以下となるように粉砕した。
【0221】
その後、さらに16000rpmの回転数で運転したピンミル(インパクトミル AVIS-100 ミルシステム株式会社製)に投入し解砕することによりリチウム金属複合酸化物2を得た。
【0222】
・リチウム金属複合酸化物2の評価
<組成分析結果>
リチウム金属複合酸化物2の組成分析を行い、組成式:Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2(MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素)に対応させたところ、x=0.02、y=0.050、z=0.040、w=0.000であった。
【0223】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定結果>
リチウム金属複合酸化物1の50%累積体積粒度(D
50)は3.3μmであった。
【0224】
<単粒子の表面の観察と、単粒子の粒子径の測定結果>
リチウム金属複合酸化物2について5000倍視野で観察したところ、リチウム金属複合酸化物2は単粒子を含んでいた。
単粒子は表面の一部に被着微粒子を備えていた。被着微粒子の最大粒子径は、単粒子の粒子径よりも小さいことが確認できた。
実施例2において単粒子の粒子径は、2.1μmであった。
【0225】
<被着微粒子の粒子径と、被着微粒子の平均個数の測定結果>
実施例2において、被着微粒子の粒子径は、0.03μm〜0.3μmであった。
また、1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数は、4個であった。
【0226】
・リチウム金属複合酸化物2の電荷移動抵抗評価
リチウム金属複合酸化物2を用いてハーフセルを作製し、電荷移動抵抗を測定したところ、9.90Ωであった。
【0227】
≪実施例3≫
・リチウム金属複合酸化物3の製造
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液と硫酸ジルコニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とジルコニウム原子との原子比が0.597:0.198:0.198:0.005となる割合で混合して、混合原料液3を調製した。
【0228】
次に、反応槽内に、攪拌下、得られた混合原料液3と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.1(水溶液の液温が40℃での測定値)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物粒子を得て、洗浄した後、遠心分離機で脱水し、単離して105℃で乾燥し、ニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物1を得た。
【0229】
ニッケルコバルトマンガンジルコニウム複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.05となる割合で秤量して混合した。
【0230】
その後、混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)が10となる様に酸素を流しながら酸素雰囲気下1000℃で5時間焼成して、焼成粉3を得た。
【0231】
得られた焼成粉3をロールミルで粗解砕し、ディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD
50を100μm以下になるように粉砕した。
【0232】
その後、さらに16000rpmの回転数で運転したピンミル(インパクトミル AVIS-100 ミルシステム株式会社製)に投入し解砕することにより解砕焼成粉1を得た。
ついで、解砕焼成粉1とホウ酸をB/(Ni+Co+Mn)=0.010となる割合で秤量して混合した後、酸素雰囲気下400℃で5時間熱処理して、リチウム金属複合酸化物粉末3を得た。
【0233】
・リチウム金属複合酸化物3の評価
<組成分析結果>
リチウム金属複合酸化物3の組成分析を行い、組成式:Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2(MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素)に対応させたところ、x=0.02、y=0.200、z=0.200、w=0.005であった。
【0234】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定結果>
リチウム金属複合酸化物3の50%累積体積粒度(D
50)は5.5μmであった。
【0235】
<単粒子の表面の観察と、単粒子の粒子径の測定結果>
リチウム金属複合酸化物3について5000倍視野で観察したところ、リチウム金属複合酸化物3は単粒子を含んでいた。単粒子は表面の一部に被着微粒子を備えていた。被着微粒子の最大粒子径は、単粒子の粒子径よりも小さいことが確認できた。
実施例3において単粒子の粒子径は、3.2μmであった。
【0236】
<被着微粒子の粒子径と、被着微粒子の平均個数の測定結果>
実施例3において、被着微粒子の粒子径は、0.06μm〜0.6μmであった。
また、1つの単粒子に被着した被着微粒子の平均個数は、11個であった。
【0237】
・リチウム金属複合酸化物3の電荷移動抵抗評価
リチウム金属複合酸化物3を用いてハーフセルを作製し、電荷移動抵抗を測定したところ、6.50Ωであった。
【0238】
≪比較例1≫
・リチウム金属複合酸化物4の製造
実施例1に記載の方法と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0239】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となる割合で秤量して混合した後、混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)が50となる様に酸素を流しながら、酸素雰囲気下1015℃で5時間焼成して、焼成粉3を得た。
【0240】
得られた焼成粉3をロールミルで粗解砕し、ディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD
50が100μm以下になるように粉砕した後、さらに16000rpmの回転数で運転したピンミル(インパクトミル AVIS-100 ミルシステム株式会社製)に投入し解砕することによりリチウム金属複合酸化物4を得た。
【0241】
・リチウム金属複合酸化物4の評価
<組成分析結果>
リチウム金属複合酸化物4の組成分析を行い、組成式:Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2(MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素)に対応させたところ、x=0.02、y=0.200、z=0.200、w=0.000であった。
【0242】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定結果>
リチウム金属複合酸化物4の50%累積体積粒度(D
50)は9.5μmであった。
【0243】
<単粒子の表面の観察と、単粒子の粒子径の測定結果>
リチウム金属複合酸化物4について電子顕微鏡画像(SEM写真)を取得した。
2000倍視野のSEM写真を
図5(a)に、5000倍視野のSEM写真を
図5(b)に示す。
図5(b)に示すとおり、リチウム金属複合酸化物4は単粒子を含んでいた。単粒子は表面の一部に被着微粒子を備えていた。被着微粒子の最大粒子径は、単粒子の粒子径よりも小さいことが確認できた。
図5(b)の中心に存在する単粒子の拡大写真(20000倍)を
図6に示す。
図6に示す単粒子の粒子径は、9.9μmであった。
【0244】
<被着微粒子の粒子径と、被着微粒子の平均個数の測定結果>
比較例1において、被着微粒子の粒子径は、0.0095μm〜0.95μmであった。
図6から、被着微粒子の数は53個であった。さらに、30個の単粒子の表面に存在する被着微粒子の平均個数は41個であった。
【0245】
・リチウム金属複合酸化物4の電荷移動抵抗評価
リチウム金属複合酸化物4を用いてハーフセルを作製し、電荷移動抵抗を測定したところ、30.6Ωであった。
【0246】
≪比較例2≫
・リチウム金属複合酸化物5の製造
実施例1に記載の方法と同様にして、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物1を得た。
【0247】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子1と水酸化リチウム粉末を、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となる割合で秤量して混合した後、混合粉の供給速度(kg/min)と、酸素ガスの供給速度(Nm
3/min)との比(酸素ガスの供給速度/混合粉の供給速度)が5となる様に酸素を流しながら、酸素雰囲気下790℃で5時間焼成して、焼成粉4を得た。
【0248】
得られた焼成粉4をロールミルで粗解砕し、ディスクミル(スーパーマスコロイダー MKCA6―2J 増幸産業株式会社製)を間隙100μm、1200rpmで施すことでD
50が100μm以下になるように粉砕した後、篩別で粗粒を除去することによりリチウム金属複合酸化物5を得た。
【0249】
・リチウム金属複合酸化物5の評価
リチウム金属複合酸化物5の組成分析を行い、組成式:Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2(MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素)に対応させたところ、x=0.02、y=0.200、z=0.200、w=0.000であった。
【0250】
<リチウム金属複合酸化物の50%累積体積粒度であるD
50の測定結果>
リチウム金属複合酸化物5の50%累積体積粒度(D
50)は4.9μmであった。
【0251】
<単粒子の観察結果>
リチウム金属複合酸化物5をSEMで観察したところ単粒子は存在しなかった。
【0252】
・リチウム金属複合酸化物5の電荷移動抵抗評価
リチウム金属複合酸化物5を用いてハーフセルを作製し、電荷移動抵抗を測定したところ、23.6Ωであった。
【0253】
実施例1〜3、比較例1〜2の組成等の結果を表1〜3にまとめて記載する。
【0254】
【表1】
【0255】
【表2】
【0256】
【表3】
【課題】二次電池の電荷移動抵抗を低減できるリチウム金属複合酸化物、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びリチウム金属複合酸化物の製造方法の提供。
【解決手段】層状構造を有するリチウム金属複合酸化物であって、少なくともリチウムとニッケルと元素Xを含有し、前記元素Xは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、S及びPからなる群より選択される1種以上の元素であり、前記リチウム金属複合酸化物は、単粒子を含み、要件(1)〜(5)をすべて満たす、リチウム金属複合酸化物。