特許第6858052号(P6858052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858052
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/70 20160101AFI20210405BHJP
   H02J 50/05 20160101ALI20210405BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20210405BHJP
【FI】
   H02J50/70
   H02J50/05
   H02J50/12
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-64013(P2017-64013)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166390(P2018-166390A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100130247
【弁理士】
【氏名又は名称】江村 美彦
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】増田 満
(72)【発明者】
【氏名】楠 正弘
【審査官】 坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−043229(JP,A)
【文献】 特開2010−098807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力を無線伝送する電力伝送システムにおいて、
前記交流電力を無線伝送する送電用カプラと、
前記送電用カプラと所定の距離を隔てて対向配置され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を受電する受電用カプラと、
前記送電用カプラと前記受電用カプラとのうち少なくとも一方の近傍に配され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する変換部材と、
を有し、
前記送電用カプラは前記交流電力を交番電界によって前記受電用カプラに伝送し、
前記変換部材は、前記交番電界を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する、
ことを特徴とする電力伝送システム。
【請求項2】
前記変換部材は、前記送電用カプラと前記受電用カプラとの間に形成される空隙間に配される、ことを特徴とする請求項1に記載の電力伝送システム。
【請求項3】
前記送電用カプラを収容するとともに、前記送電用カプラが前記受電用カプラに対向するよう開口部を有する第1の筐体と、
前記受電用カプラを収容するとともに、前記受電用カプラが前記送電用カプラに対向するよう開口部を有する第2の筐体と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の電力伝送システム。
【請求項4】
前記変換部材は、前記送電用カプラと前記受電用カプラのうち少なくとも一方の外縁部の少なくとも一部に配される、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力伝送システム。
【請求項5】
前記変換部材は、電界によって発光する電界発光部材により構成され、前記交番電界を前記光エネルギに変換することを特徴とする請求項に記載の電力伝送システム。
【請求項6】
前記変換部材は、誘電損失を有する誘電体によって構成され、前記交番電界を前記熱エネルギに変換することを特徴とする請求項に記載の電力伝送システム。
【請求項7】
交流電力を無線伝送する電力伝送システムにおいて、
前記交流電力を無線伝送する送電用カプラと、
前記送電用カプラと所定の距離を隔てて対向配置され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を受電する受電用カプラと、
前記送電用カプラと前記受電用カプラとのうち少なくとも一方の近傍に配され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する変換部材と、
を有し、
前記送電用カプラは前記交流電力を交番磁界によって前記受電用カプラに伝送し、
前記変換部材は、磁界によって発光する磁界発光部材により構成され、前記交番磁界を前記光エネルギに変換する、
ことを特徴とする電力伝送システム。
【請求項8】
前記変換部材は、誘導損失を有する導電体によって構成され、前記交番磁界を前記熱エネルギに変換することを特徴とする請求項に記載の電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電磁誘導を用いて、非接触の二つの電気回路間で電力の伝送を行う無線電力伝送装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、電界結合を用いて送電と受電間を離して無線電力伝送を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−340285号公報
【特許文献2】WO2013/108893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された技術では、2つの回路間で漏洩磁界が生じ、また、特許文献2に開示された技術では、送電と受電間に漏洩電界が生じる。このため、漏洩する磁界または電界によって、近くに存在する電子機器等に対して影響を与えるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、漏洩磁界または漏洩電界の影響を少なくすることが可能な電力伝送システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、交流電力を無線伝送する電力伝送システムにおいて、前記交流電力を無線伝送する送電用カプラと、前記送電用カプラと所定の距離を隔てて対向配置され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を受電する受電用カプラと、前記送電用カプラと前記受電用カプラとのうち少なくとも一方の近傍に配され、前記送電用カプラから無線伝送される前記交流電力を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する特性を有する変換部材と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、漏洩磁界または漏洩電界の影響を少なくすることが可能となる。
【0008】
また、本発明は、前記変換部材は、前記送電用カプラと前記受電用カプラとの間に形成される空隙間に配される、ことを特徴とする。
このような構成によれば、空隙から漏洩する電界または磁界を低減することができる。
【0009】
また、本発明は、前記送電用カプラを収容するとともに、前記送電用カプラが前記受電用カプラに対向するよう開口部を有する第1の筐体と、前記受電用カプラを収容するとともに、前記受電用カプラが前記送電用カプラに対向するよう開口部を有する第2の筐体と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、筐体により漏洩磁界または漏洩電界の影響をより少なくすることが可能となる。
【0010】
また、本発明は、前記変換部材は、前記送電用カプラと前記受電用カプラのうち少なくとも一方の外縁部の少なくとも一部に配される、ことを特徴とする。
このような構成によれば、漏洩磁界または漏洩電界の影響をより少なくすることが可能となる。
【0011】
また、本発明は、前記送電用カプラは前記交流電力を交番電界によって前記受電用カプラに伝送し、前記変換部材は、前記交番電界を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、交番電界の漏洩を少なくすることができる。
【0012】
また、本発明は、前記変換部材は、電界によって発光する電界発光部材により構成され、前記交番電界を前記光エネルギに変換することを特徴とする。
このような構成によれば、交番電界を光エネルギに変換することで、漏洩する交番電界を低減することができるとともに、電力伝送を行っていることをユーザに視認可能とすることができる。
【0013】
また、本発明は、前記変換部材は、誘電損失を有する誘電体によって構成され、前記交番電界を前記熱エネルギに変換することを特徴とする。
このような構成によれば、交番電界を熱エネルギに変換することで、漏洩する交番電界を低減することができるとともに、送電用カプラからみた場合の負荷を純粋な抵抗成分とすることで、設計を容易にすることができる。
【0014】
また、本発明は、前記送電用カプラは前記交流電力を交番磁界によって前記受電用カプラに伝送し、前記変換部材は、前記交番磁界を熱エネルギ、光エネルギ、または、音エネルギに変換する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、交番磁界の漏洩を少なくすることができる。
【0015】
また、本発明は、前記変換部材は、磁界によって発光する磁界発光部材により構成され、前記交番磁界を前記光エネルギに変換することを特徴とする。
このような構成によれば、交番磁界を光エネルギに変換することで、漏洩する交番磁界を低減することができるとともに、電力伝送を行っていることをユーザに視認可能とすることができる。
【0016】
また、本発明は、前記変換部材は、誘導損失を有する導電体によって構成され、前記交番磁界を前記熱エネルギに変換することを特徴とする。
このような構成によれば、交番磁界を熱エネルギに変換することで、漏洩する交番磁界を低減することができるとともに、送電用カプラからみた場合の負荷を純粋な抵抗成分とすることで、設計を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、漏洩磁界または漏洩電界の影響を少なくすることが可能な電力伝送システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態の構成例を示す斜視図である。
図2図1の分解斜視図である。
図3図1の電気的な構成例を示す図である。
図4図3の等価回路を示す図である。
図5図1に示す送電装置と受電装置の間のSパラメータの周波数特性を示す図である。
図6】送電用カプラの構成例を示す図である。
図7】送電用カプラと受電用カプラとを配置した状態を示す斜視図である。
図8】送電用カプラのインピーダンスS11のスミスチャートを示す図である。
図9】送電用カプラと受電用カプラの間のSパラメータの周波数特性を示す図である。
図10】蛍光管の有無による漏洩電界の低減量を示す図である。
図11】蛍光管の有無による漏洩電界の強度を示す図である。
図12】蛍光管の変形実施形態を示す図である。
図13】本発明の第2実施形態の構成例を示す斜視図である。
図14図13の分解斜視図である。
図15図13の電気的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
(A)第1実施形態の構成の説明
図1は、本発明の第1実施形態の構成例を示す斜視図である。また、図2は、図1の分解斜視図である。図1および図2に示すように、本発明の第1実施形態は、送電用カプラ31、受電用カプラ35、および、蛍光管41,42を有している。
【0021】
ここで、送電用カプラ31は、図2に示すように、電極11,12、および、筐体32を有している。電極11,12は、例えば、矩形形状を有する導電性板材(例えば、銅板またはアルミニウム板)によってそれぞれ構成される。筐体32は、開口部を有する箱形形状の導電性部材(例えば、銅またはアルミニウム)によって構成される。電極11,12は、筐体32の開口部に付近に配置される。なお、電極11,12は、幅がWで長さがLの矩形形状を有する導電性板材によってそれぞれ構成され、図1および図2の例では同一平面上に間隔d1を隔てて並置され、間隔d1を含む幅(Z方向の幅)は、Dとされる。
【0022】
受電用カプラ35は、送電用カプラ31と同様の構造を有する電極21,22、および、筐体36を有している。電極21,22は、例えば、矩形形状を有する導電性板材(例えば、銅板またはアルミニウム板)によってそれぞれ構成される。筐体36は、開口部を有する箱形形状の導電性部材(例えば、銅またはアルミニウム)によって構成される。電極21,22は、筐体36の開口部付近に配置される。なお、電極21,22は、幅がWで長さがLの矩形形状を有する導電性板材によってそれぞれ構成され、図1および図2の例では同一平面上に間隔d1を隔てて並置され、間隔d1を含む幅(Z方向の幅)は、Dとされる。なお、筐体32,36は必須の構成要件ではなく、これらの少なくとも一方を除外した構成としてもよい。また、蛍光管41,42は、電極11,12と電極21,22との間に配置しているが、筐体32,36が存在しない場合には、図1における筐体32,36の位置またはその近傍に、蛍光管(蛍光管41,42またはこれら以外の蛍光管)を配置するようにしてもよい。そのような構成によれば、筐体32,36が存在しない場合でも、電界漏れを軽減することができる。
【0023】
送電用カプラ31と受電用カプラ35は、図1に示すように、空隙d2を隔てて、電極11,12と電極21,22が対向するように配置される。
【0024】
図1に示すように、空隙d2間であって、電極11,12および電極21,22のX軸方向の両端には蛍光管41,42が配置されている。蛍光管41,42は、例えば、ガラス等の透明の筒状部材の内側に蛍光塗料を塗布するとともに、筒状部材の内部を減圧してアルゴンガスと水銀とを封入して構成される。なお、図1の例では、蛍光管41,42として、端部に交流電圧を印加するための電極を設けた通常の蛍光灯を使用しているが、本実施形態では交流電圧を両端に印加する必要がないので、電極については除外するようにしてもよい。
【0025】
(B)第1実施形態の動作の説明
つぎに、本発明の第1実施形態の動作について説明する。以下では、第1実施形態の動作原理について説明した後に、第1実施形態の詳細な動作について説明する。図3は、本発明の動作原理を説明するための図である。この図の例では、電力伝送システム1は、送電装置10、および、受電装置20を有している。
【0026】
ここで、送電装置10は、電極11,12、インダクタ13,14、接続線15,16、および、交流電力発生部17を有している。また、受電装置20は、電極21,22、インダクタ23,24、接続線25,26、および、負荷27を有している。電極11,12およびインダクタ13,14は送電用カプラ31を構成する。電極21,22およびインダクタ23,24は受電用カプラ35を構成する。
【0027】
ここで、電極11,12は、前述したように、導電性を有する部材によって構成され、所定の距離d1を隔てて配置されている。図3の例では、電極11,12,21,22として、略同一のサイズを有する矩形形状を有する平板状の電極が例示されている。また、電極11と電極21は空隙d2を隔てて対向するように配置され、電極12と電極22も同じ空隙d2を隔てて対向するように平行に配置されている。なお、電極11,12,21,22としては、図3に示す以外の形状の電極であってもよい。例えば、円形または楕円形状の平板電極であったり、球形等の立体形状であったり、平板ではなく湾曲した形状または屈曲した形状の電極であったりしてもよい。
【0028】
電極11および電極12の距離d1を含む合計幅Dは、これらの電極から放射される電界の波長をλとした場合に、λ/2πで示される近傍界よりも狭くなるように設定されている。同様に、電極21および電極22の距離d1を含む合計幅Dは、λ/2πで示される近傍界よりも狭くなるように設定されている。また、電極11と電極21および電極12と電極22の間の空隙d2についても、λ/2πで示される近傍界よりも短くなるように設定されている。
【0029】
インダクタ13,14は、例えば、導電性の線材(例えば、銅線)を巻回して構成され、図3の例では、電極11,12の端部にそれぞれの一端が電気的に接続されている。接続線15はインダクタ13の他端と交流電力発生部17の出力端子の一端とを接続する導電性の線材(例えば、銅線)によって構成される。接続線16はインダクタ14の他端と交流電力発生部17の出力端子の他端とを接続する導電性の線材によって構成される。なお、接続線15,16は、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルによって構成される。
【0030】
交流電力発生部17は、所定の周波数の交流電力を発生し、接続線15,16を介してインダクタ13,14に供給する。
【0031】
電極21,22は、電極11,12と同様に、導電性を有する部材によって構成され、所定の距離d1を隔てて配置されている。
【0032】
インダクタ23,24は、例えば、導電性の線材を巻回して構成され、図3の例では、電極21,22の端部にそれぞれの一端が電気的に接続されている。接続線25はインダクタ23の他端と負荷27の入力端子の一端とを接続する導電性の線材(例えば、銅線)によって構成される。接続線26はインダクタ24の他端と負荷27の入力端子の他端とを接続する導電性の線材によって構成される。なお、接続線25,26は、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルによって構成される。
【0033】
負荷27は、交流電力発生部17から出力され、送電用カプラおよび受電用カプラを介して伝送された電力が供給される。なお、負荷27は、例えば、整流装置および二次電池等によって構成されている。もちろん、これ以外の負荷であってもよい。
【0034】
図4は、図3に示す電力伝送システム1の等価回路を示す図である。この図4において、インピーダンス2は交流電力発生部17の出力インピーダンスを示し、インピーダンス27は負荷27の入力インピーダンスを示す。ここでは、ともにZ0の値を有するとして説明する。なお、等価回路に明示されない接続線15,16および接続線25,26の特性インピーダンスもZ0とする。インダクタ3はインダクタ13,14に対応し、Lの素子値を有している。キャパシタ4は、電極11,12の間に生じる素子値Cのキャパシタから、電極11,12と電極21,22の間に生じる素子値Cmのキャパシタを減じた素子値(C−Cm)を有する。キャパシタ5は、電極11,12と電極21,22の間に生じるキャパシタを示し、Cmの素子値を有している。キャパシタ6は、電極21,22の間に生じる素子値Cのキャパシタから、電極11,12と電極21,22の間に生じる素子値Cmのキャパシタを減じた素子値(C−Cm)を有する。インダクタ7はインダクタ23,24に対応し、Lの素子値を有している。抵抗8は、送電用カプラの抵抗を示し、インダクタ13,14に付随する抵抗値である。抵抗9は、受電用カプラの抵抗を示し、インダクタ24,24に付随する抵抗値である。
【0035】
図5は、送電装置10と受電装置20の間のSパラメータの周波数特性を示している。具体的には、図5の横軸は周波数を示し、縦軸は送電装置10から受電装置20への挿入損失(S21)を示している。ここでは簡易的に、送電用カプラ31および受電用カプラ35の抵抗値を0としている。この図5に示すように、送電装置10から受電装置20への挿入損失は、周波数fでインピーダンス極大値を有し、周波数fおよびfでインピーダンス整合点、すなわち、共振点を有している。ここで、周波数fは、図4に示すインダクタ3,7のインダクタンス値Lと、電極11,12または電極21,22によって形成されるキャパシタのキャパシタンス値Cによって定まる。また、周波数fおよびfは、図4に示すインダクタ3,7のインダクタンス値Lと、電極11,12および電極21,22によって形成されるキャパシタのキャパシタンス値Cmと、ならびに、電極11,12の間および電極21,22の間にそれぞれ生じるキャパシタのキャパシタンス値Cによって近似値として定まる。
【0036】
交流電力発生部17が発生する交流電力の周波数は、図5に示すfからfの近傍、望ましくはfに設定する。交流電力の周波数がfもしくはfと一致していない場合でも、それらに近接していれば交流電力の周波数でのインピーダンスはZ0に近い値を有するので、整合回路を適用することで容易に整合を取り送電装置10から受電装置20への挿入損失を略0dBとすることが出来る。素子値Cmは送受電極の相対位置関係により変動し、その結果として図5に示すS21パラメータの周波数特性のグラフもCmの変化に応じて周波数シフトするが、交流電力の周波数が極値を取るfに設定されていれば、Cm変動の影響を緩和することができる。
【0037】
図3に示す実施形態では、送電装置10の電極11,12と受電装置20の電極21,22は、電界共振結合されており、送電装置10の電極11,12から受電装置20の電極21,22に対して電界によって交流電力が伝送される。
【0038】
つまり、図3に示す実施形態では、送電装置10の電極11,12と受電装置20の電極21,22は、近傍界であるλ/2πよりも短い空隙d2だけ隔てて配置されているので、電極11,12から放射される電界成分が支配的である領域に電極21,22が配置される。また、電極11,12の間に形成されるキャパシタおよびインダクタ13,14による共振周波数と、電極21,22の間に形成されるキャパシタおよびインダクタ23,24による共振周波数とは略等しくなるように設定されている。このように、送電装置10の電極11,12と受電装置20の電極21,22は、電界共振結合されていることから、送電装置10の電極11,12から受電装置20の電極21,22に対して電界によって交流電力が効率よく伝送される。
【0039】
図6および図7は、図1および図2に示す送電用カプラ31および受電用カプラ35の電極部分のより具体的な構成例を示す斜視図である。ここで、図6は、送電用カプラ31の構成例を示している。また、図7は送電用カプラ31と受電用カプラ35とを配置した状態を示す斜視図である。
【0040】
図6に示すように、送電用カプラ31は、矩形の板状形状を有する絶縁部材によって構成される回路基板18の表(おもて)面18A上に、矩形形状を有する導電性部材によって構成される電極11,12が配置されて構成される。回路基板18の裏面18Bには、この図6の例では、電極等は配置されていない。具体的な構成例としては、例えば、ガラスエポキシ基板やガラスコンポジット基板等によって構成される回路基板18上に、銅等の導電性の薄膜によって電極11,12が形成される。電極11,12は、所定の距離d1だけ離れた位置に平行に配置されている。また、距離d1を含む電極11,12の幅Dは、これらの電極から放射される電界の波長をλとした場合に、λ/2πで示される近傍界よりも狭くなるように設定されている。なお、具体的なDの長さとしては、例えば、使用周波数が13.56MHzの場合には、50cm程度とし、また、これと直交する方向の長さLについても50cm程度とすることができる。
【0041】
回路基板18の電極11,12の短手方向の端部には、インダクタ13,14の一端がそれぞれ接続されている。また、インダクタ13,14の他端は、接続線15,16の一端にそれぞれ接続されている。接続線15,16は、電極11,12の領域およびこれらに挟まれる領域を回避するように配置されるとともに、これらの領域から遠ざかる方向(図6の左下方向)に伸延するように配置されている。より詳細には、電極11,12のそれぞれの矩形領域と、これら2つの電極11,12によって挟まれた領域を回避して配置されるとともに、これらの領域から遠ざかる方向に伸延するように配置されている。このように配置することで、電極11,12と接続線15,16の間の干渉を少なくすることができるので、伝送効率の低下を防止できる。接続線15,16は、例えば、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルによって構成されている。なお、接続線15,16の他端は、図示しない交流電力発生部の出力端子にそれぞれ接続されている。接続線15,16によって送電用カプラ31に交流電力発生部が接続されることにより、送電装置が構成される。
【0042】
送電用カプラ31は、電極11,12が所定の距離d1を隔てて配置されることによって形成されるキャパシタのキャパシタンスCと、インダクタ13,14のインダクタンスLによる直列共振回路を構成するので、これらによる固有の共振周波数fを有している。
【0043】
受電用カプラ35は、送電用カプラ31と同様の構成とされ、回路基板28の表面28A上に、矩形形状を有する導電性部材によって構成される電極21,22およびインダクタ23,24が配置され、インダクタ23,24の他端に接続線25,26が接続されて構成される。電極21,22によって形成されるキャパシタのキャパシタンスCと、インダクタ23,24のインダクタンスLによる直列共振回路の共振周波数fは送電用カプラ31と略同じに設定される。接続線25,26は、例えば、同軸ケーブルまたは平衡ケーブルによって構成されている。受電用カプラ35の接続線25,26の他端には、図示しない負荷が接続される。接続線25,26によって受電用カプラ35に負荷が接続されることにより、受電装置が構成される。
【0044】
図7は、送電用カプラ31と受電用カプラ35を対向配置した状態を示す図である。この図に示すように、送電用カプラ31と受電用カプラ35は、回路基板18,28の表面18A,28Aが対向するように空隙d2を隔て、回路基板18,28が平行になるように配置される。送電用カプラ31と受電用カプラ35は、送電用カプラ31の2枚の電極11と12の間に生じる電界と受電用カプラ35の2枚の電極21と電極22の間に生じる電界を略平行とし、送電用カプラ31の2枚の電極11と電極12のギャップのZ方向の位置と受電用カプラ35の2枚の電極21と電極22のギャップのZ方向の位置が略同じ場合に、最も効率良く電力伝送ができる。
【0045】
つぎに、図7に示す実施形態の動作について説明する。図8は、送電用カプラ31と受電用カプラ35を20cm隔てて対向配置した場合(d2=20cmの場合)における送電用カプラ31のインピーダンスS11のスミスチャートを示している。この場合、測定器のポートインピーダンスは接続線路の特性インピーダンスZ0(実数値)と等しい値に設定している。この図に示すように、第1実施形態では、送電用カプラ31および受電用カプラ35のインピーダンスの軌跡は、スミスチャートの円の中心付近を通過することから、この付近において伝送を行うように設定することにより反射を抑えて効率良く電力を伝送することができる。
【0046】
図9は、送電用カプラ31と受電用カプラ35を20cm隔てて対向配置した場合(d2=20cmの場合)における送電用カプラ31と受電用カプラ35の間のSパラメータの周波数特性を示す図である。この図において、実線は伝送効率η21(=|S21|)の周波数特性を示している。破線は反射損η11(=|S11|)の周波数特性を示している。ここで、パラメータS11は送電用カプラ110から入力した信号の反射を示し、パラメータS21は送電用カプラ110から受電用カプラ120への信号の通過を示し、伝送効率η21は送電用カプラ110から受電用カプラ120への信号の伝送効率を示す。この図9に示すように、周波数27.12MHzにおいて、送電用カプラ110に入力した信号の反射が最小になるとともに、送電用カプラ110から受電用カプラ120への通過が最大になる。これにより、送電用カプラ110から受電用カプラ120への信号の伝送効率η21が約95%で最大となる。つまり、20cmにおいて、この電力伝送システム1はインピーダンスが整合すると言える。
【0047】
つぎに、蛍光管41,42の動作について説明する。例えば、送電用カプラ31を固定して配置し、受電用カプラ35を移動体としての車両やロボット等に配置する場合、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間には図1に示すように、空隙d2が生じることがある。送電用カプラ31と受電用カプラ35の間に空隙d2が生じると、この空隙d2から電界が漏洩する。高い電界強度を持つエリアに人体等が立ち入る事については、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインによりその指標が示されているが、漏洩する電界は少なくなるように配慮する必要がある。
【0048】
本発明の第1実施形態では、空隙d2間であって、送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部の少なくとも一部に蛍光管41,42を配置し、これらの蛍光管41,42によって電界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩する電界の強度を低下させる。
【0049】
すなわち、第1実施形態では、図1に示すように、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間に生じる空隙d2間であって、送電用カプラ31と受電用カプラ35のX方向の両端の外縁部に蛍光管41,42を配置している。これにより、電極11,12から電極21,22に向けて生じる交番電界であって、空隙d2から外部に漏洩する電界エネルギは、蛍光管41,42の内部に存在する水銀の原子を励起状態にする。励起状態にされた水銀原子が基底状態に復元する際に、紫外線が放出される。このようにして放出された紫外線は、蛍光管41,42の内部に塗布された蛍光塗料によって可視光に変換されて出力される。すなわち、蛍光管41,42は、漏洩する電界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩する電界の強度を低減することができる。また、蛍光管41,42が発光するので、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間で電力が伝送されていることをユーザが視認することができる。
【0050】
図10は、RF電源の出力電力を変更した場合に漏洩する電界の低減率の実測結果を示している。図10の横軸はRF電源の出力電力[W]を示し、縦軸は漏洩する電界の低減率を示している。図10の円形のグラフは蛍光管41,42を使用しない場合、または、使用しても点灯しない距離に配置する場合の低減率を示している。また、三角形のグラフは、蛍光管41,42を使用して、かつ、これらを点灯させた場合を示している。2つのグラフの比較から、蛍光管41,42を点灯させた場合には、漏洩する電界を2割程度低減している。また、低減の割合は、RF電源出力電力が大きいほど顕著となる。
【0051】
図11は、漏洩する電界の電界強度の実測結果を示している。図11において横軸はRF電源の出力電力[W]を示し、縦軸は漏洩する電界の強度[V/m]を示している。図11の四角形のグラフは蛍光管41,42を使用しない場合を示し、三角形のグラフは蛍光管41,42を使用するものの点灯しない距離に配置する場合を示し、円形のグラフは蛍光管41,42を使用するとともに点灯する場合を示している。3つのグラフの比較から、蛍光管41,42を点灯させた場合には、点灯させない場合または使用しない場合に比較して漏洩する電界強度を低減している。また、低減の割合は、RF電源出力電力が大きいほど顕著となる。
【0052】
以上に説明したように、本発明の第1実施形態では、送電用カプラ31および受電用カプラ35の空隙d2間であって、送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部の少なくとも1部に蛍光管41,42を配置するようにしたので、漏洩する電界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩電界の強度を低減することができる。
【0053】
(C)第1実施形態の変形実施態様の説明
図1および図2に示す例では、2本の蛍光管41,42を配置するようにしたが、例えば、図12(A)に示すように、4本の蛍光管41〜44を送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部の全てに配置するようにしてもよい。あるいは、図12(B)に示すように、3本の蛍光管41〜43を配置するようにしてもよい。また、複数の蛍光管を配置するのではなく、例えば、図12(C)に示すように送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部を囲繞する形状の蛍光管45を用いるようにしてもよい。もちろん、図12(B)に対応して、U字形状の蛍光管46を用いるようにしてもよい。なお、図12(A)〜(D)に示す蛍光管41〜46は、通常の蛍光灯のような電極を設けなくてもよい。また、蛍光管41〜46としては、筒状のガラスを用いるのではなく、例えば、透明な筒状の樹脂を用いるようにしてもよい。また、蛍光管の破損を防ぐために、蛍光管を透明な樹脂で被覆するようにしてもよい。
【0054】
また、電界エネルギを光エネルギに変換する方法としては、蛍光管以外の手段を用いるようにしてもよい。例えば、ネオンやアルゴン等のガスを封入した放電管を用いることもできる。また、放電管以外にも、例えば、硫化亜鉛などを基質として使用し、基質に対して銅等の単色発光する物質を添加して焼結する事で得られる無機EL(Electro Luminescence)を用いるようにしてもよい。なお、無機ELを使用する場合、放電管に比較すると、形状を任意に設定することができるので、例えば、空隙d2を覆う板状形状としたり、あるいは、空隙d2の幅に応じて伸縮する蛇腹形状としたりしてもよい。
【0055】
また、第1実施形態では、漏洩する電界エネルギを光エネルギに変換する場合を例に挙げて説明したが、これ以外にも熱エネルギや音エネルギに変換するようにしてもよい。例えば、熱エネルギに変換する例としては、例えば、電力伝送システム1において伝送される電力の周波数において誘電体損を生じる誘電体を配置し、漏洩する電界エネルギを熱エネルギに変換するようにしてもよい。より詳細には、図1または図12に示す蛍光管に代えて、同様の形状を有する誘電体を配置し、これらの誘電体によって漏洩する電界エネルギを熱エネルギに変換するようにしてもよい。なお、誘電体の形状は任意に設定できるので、例えば、空隙d2を覆う板状形状としたり、あるいは、空隙d2の幅に応じて伸縮する蛇腹形状としたりしてもよい。
【0056】
あるいは、図1または図12に示す蛍光管に代えて、同様の形状を有するピエゾ素子を配置し、これらのピエゾ素子によって漏洩する電界エネルギを音エネルギに変換するようにしてもよい。なお、発生する音の周波数によっては変換効率が必ずしも高くならない場合が想定されるので、そのような場合には電力伝送システム1において伝送される電力の周波数をf1とf2(f1>f2)の2つとし、これらの差分の周波数Δf=f1−f2が所定の周波数(例えば、変換効率が高い周波数または可聴帯域の周波数)になるようにしてもよい。
【0057】
また、以上の実施形態では、漏洩する電界のエネルギを、光エネルギ、熱エネルギ、または、音エネルギのいずれかに変換するようにしたが、これらの2つ以上に変換するようにしてもよい。例えば、光エネルギに変換するとともに、光エネルギに変換されずに残った電界エネルギについては熱エネルギに変換するようにしてもよい。
【0058】
(D)第2実施形態の構成の説明
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。図13は、本発明の第2実施形態の構成例を示す斜視図である。また、図14は、図13の分解斜視図である。図13および図14に示すように、本発明の第2実施形態は、送電用カプラ31、受電用カプラ35、および、蛍光管41,42を有している。
【0059】
ここで、送電用カプラ31は、図13に示すように、送電用コイル51、および、筐体32を有している。送電用コイル51は、例えば、銅またはアルミニウム等の線材が巻回されて構成される。筐体32は、開口部を有する箱形形状の透磁性部材(例えば、鉄、ステンレス、フェライト等)によって構成される。送電用コイル51は、筐体32の開口部付近に配置される。なお、送電用コイル51は、半径がrの円形とされている。
【0060】
受電用カプラ35は、図13に示すように、受電用コイル52、および、筐体36を有している。受電用コイル52は、例えば、銅またはアルミニウム等の線材が巻回されて構成される。筐体36は、開口部を有する箱形形状の透磁性部材(例えば、鉄、ステンレス、フェライト等)によって構成される。受電用コイル52は、筐体36の開口部付近に配置される。なお、受電用コイル52は、半径がrの円形とされている。なお、筐体32,36は必須の構成要件ではなく、これらの少なくとも一方を除外した構成としてもよい。また、筐体ではなく、送電用コイル51および受電用コイル52の外側に板状部材を配置するようにしてもよい。また、蛍光管41,42は、送電用コイル51および受電用コイル52の間に配置しているが、筐体32,36または板状部材が存在しない場合には、図13における筐体32,36の位置またはその近傍に蛍光管(蛍光管41,42またはこれら以外の蛍光管)を配置するようにしてもよい。そのような構成によれば、筐体32,36または板状部材が存在しない場合でも、磁界漏れを軽減することができる。
【0061】
送電用カプラ31と受電用カプラ35は、図13に示すように、空隙d2を隔てて、送電用コイル51と受電用コイル52が対向するように配置される。
【0062】
図13に示すように、空隙d2間であって、送電用カプラ31および受電用カプラ35のX軸方向の両端の外縁部には蛍光管41,42が配置されている。蛍光管41,42は、例えば、ガラス等の透明の筒状部材の内側に蛍光塗料を塗布するとともに、筒状部材の内部を減圧してアルゴンガスと水銀とを封入して構成される。なお、図13の例では、蛍光管として、端部に交流電圧を印加するための電極を設けた通常の蛍光灯を使用しているが、本実施形態では交流電圧を両端に印加する必要がないので、電極については除外するようにしてもよい。
【0063】
(E)第2実施形態の動作の説明
図15は、図13に示す電力伝送システム1の等価回路を示す図である。この図15において、インピーダンス2は交流電力発生部17の出力インピーダンスを示し、インピーダンス27は負荷の入力インピーダンスを示す。ここでは、ともにZ0の値を有するとして説明する。抵抗511は送電用コイル51の抵抗(例えば、銅損)を示し、キャパシタ512は送電用コイル51が有するキャパシタンス成分を示し、インダクタ513は送電用コイル51が有するインダクタンス成分を示す。また、インダクタ521は受電用コイル52が有するインダクタンス成分を示し、キャパシタ522は受電用コイル52が有するキャパシタンス成分を示し、抵抗523は受電用コイル52の抵抗(例えば、銅損)を示す。
【0064】
送電用コイル51は、キャパシタ512とインダクタ513による共振周波数f1を有し、受電用コイル52は、インダクタ521とキャパシタ522による共振周波数f2を有する。これらの周波数は略同じ(f1=f2)に設定されるとともに、交流電力発生部17が発生する交流の周波数はf1,f2と略同じになるように設定されている。
【0065】
このため、交流電力発生部17から発生される交流電力は、送電用コイル51によって交番磁界として送電され、受電用コイル52によって受電され、電気信号に変換される。受電用コイル52によって受電された交流電力は、負荷27に供給される。
【0066】
ところで、第1実施形態と同様に、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間に空隙d2が生じると、この空隙d2から磁界が漏洩する。高い磁界強度を持つエリアに人体等が立ち入る事については、前述した電界と同様に、国際非電離放射線防護委員会のガイドラインによりその指標が示されているが、漏洩する磁界については少なくなるように配慮する必要がある。本発明の第2実施形態では、空隙d2間であって、送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部の一部に蛍光管41,42を配置し、これらの蛍光管41,42によって磁界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩する磁界の強度を低下させる。
【0067】
すなわち、第2実施形態では、図1に示すように、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間に生じる空隙d2間であって、送電用カプラ31と受電用カプラ35のX方向の両端の外縁部に蛍光管41,42を配置している。これにより、送電用コイル51から受電用コイル52に向けて伝送される交番磁界であって、空隙d2から外部に漏洩する磁界エネルギは、蛍光管41,42の内部に存在する水銀の原子を、電磁誘導によって励起状態にする。励起状態にされた水銀原子が基底状態に復元する際に、紫外線が放出される。このようにして放出された紫外線は、蛍光管41,42の内部に塗布された蛍光塗料によって可視光に変換されて出力される。すなわち、蛍光管41,42は、漏洩する磁界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩する磁界の強度を低減することができる。また、蛍光管41,42が発光するので、送電用カプラ31と受電用カプラ35の間で電力が伝送されていることを視認することができる。
【0068】
以上に説明したように、本発明の第2実施形態では、送電用カプラ31および受電用カプラ35の空隙d2間であって、送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部に蛍光管41,42を配置するようにしたので、漏洩する磁界エネルギを光エネルギに変換することで、漏洩磁界の強度を低減することができる。
【0069】
(F)第2実施形態の変形実施態様の説明
図13および図14に示す例では、2本の蛍光管41,42を配置するようにしたが、例えば、図12(A)に示すように、4本の蛍光管41〜44を送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部の全てに配置するようにしてもよい。あるいは、図12(B)に示すように、3本の蛍光管41〜43を配置するようにしてもよい。また、複数の蛍光管を配置するのではなく、例えば、図12(C)に示すように送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部を囲繞する形状の蛍光管45を用いるようにしてもよい。もちろん、図12(B)に対応して、U字形状の蛍光管46を用いるようにしてもよい。なお、図12(A)〜(D)に示す蛍光管41〜46は、通常の蛍光灯のような電極を設けなくてもよい。また、蛍光管41〜46としては、筒状のガラスを用いるのではなく、例えば、透明な筒状の樹脂を用いるようにしてもよい。また、蛍光管の破損を防ぐために、蛍光管を透明な樹脂で被覆するようにしてもよい。
【0070】
また、磁界エネルギを光エネルギに変換する方法としては、蛍光管以外の手段を用いるようにしてもよい。例えば、ネオンやアルゴン等のガスを封入した放電管を用いることもできる。また、交番磁界を光に変換する無電極放電ランプを用いるようにしてもよい。
【0071】
また、第2実施形態では、漏洩する磁界エネルギを光エネルギに変換する場合を例に挙げて説明したが、これ以外にも熱エネルギや音エネルギに変換するようにしてもよい。例えば、熱エネルギに変換する例としては、電力伝送システム1において伝送される電力の周波数において渦電流によるジュール熱を発生する導電体を配置し、漏洩する磁界エネルギを熱エネルギに変換するようにしてもよい。より詳細には、図13または図12に示す蛍光管に代えて、同様の形状を有する導電体を配置し、これらの導電体によって漏洩する磁界エネルギを熱エネルギに変換するようにしてもよい。なお、導電体の形状は任意に設定できるので、例えば、空隙d2を覆う板状形状としたり、あるいは、空隙d2の幅に応じて伸縮する蛇腹形状としたりしてもよい。
【0072】
あるいは、図13または図12に示す蛍光管に代えて、同様の形状を有する磁歪素子(磁界によって変形する素子)を配置し、これらの磁歪素子によって漏洩する磁界エネルギを音エネルギに変換するようにしてもよい。なお、発生する音の周波数によっては変換効率が必ずしも高くならない場合が想定されるので、そのような場合には電力伝送システム1において伝送される電力の周波数をf1とf2(f1>f2)の2つとし、これらの差分の周波数Δf=f1−f2が所定の周波数(例えば、変換効率が高い周波数または可聴帯域の周波数)になるようにしてもよい。
【0073】
また、以上の第2実施形態では、漏洩する磁界エネルギを、光エネルギ、熱エネルギ、または、音エネルギのいずれかに変換するようにしたが、これらの2つ以上に変換するようにしてもよい。例えば、光エネルギに変換するとともに、光エネルギに変換されずに残った磁界エネルギについては熱エネルギに変換するようにしてもよい。
【0074】
(C)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、第1実施形態では、送電用カプラ、受電用カプラ、および、中継用カプラの各電極が同じサイズを有するようにしたが、これらが異なるサイズを有するようにしてもよい。
【0075】
また、第1実施形態では、インダクタは電極と接続線の間に1つずつ合計2つ挿入するようにしたが、電極と接続線の少なくとも一方に挿入するようにすればよい。
【0076】
また、第1実施形態では、インダクタとしては、導体線を円柱状に巻回して構成するようにしたが、例えば、マイクロストリップラインで使用されるような、平面上を蛇行する形状を有するものや、平面上で螺旋形状を有するものによって構成するようにしてもよい。
【0077】
また、第2実施形態では、送電用コイル51および受電用コイル52は、円形形状を有するようにしたが、これ以外の形状(例えば、楕円、多角形等)を有するようにしてもよい。
【0078】
また、第1および第2実施形態では、X軸方向の両端部に蛍光管41,42を配置するようにしたが、送電用カプラ31および受電用カプラ35間の空隙間であって、これらのカプラの外縁部の少なくとも1部に、交番電界または交番磁界を、光エネルギ、熱エネルギ、または、音エネルギに変換する変換部材を設けるようにすることができる。
【0079】
また、以上の実施形態では、送電用カプラ31および受電用カプラ35の外縁部に蛍光管41,42を配する構成を示したが、送電用カプラ31および受電用カプラ35のいずれか一方のみに配するようにしてもよい。例えば、受電用カプラ35が複数の移動体に具備されていて、これら複数の移動体のいずれかを対象として送電する場合には、送電用カプラ31に蛍光管41,42を具備すれば、全ての移動体に具備する必要がなくなるので好適である。もちろん、用途によっては受電用カプラ35に蛍光管を配置するようにしてもよい。なお、蛍光管41,42は送電用カプラ31と受電用カプラ35の間で電力が伝送されている際に発光すればよいため、蛍光管41,42を送電用カプラ31の外縁部からX軸またはZ軸方向について所定の距離(例えば、数cm〜数十cm)だけ離間した位置等を含め、送電用カプラ31の近傍に配するようにしてもよい。特に、車両等の移動体に受電カプラを設置する場合には、送電用カプラ31からX軸またはZ軸方向に所定の距離だけ離間して蛍光管を配することで、移動体の接触等による蛍光管の破損を回避できる点で好ましい。
【符号の説明】
【0080】
1 電力伝送システム
10 送電装置
11,12 電極
13,14 インダクタ
15,16 接続線
17 交流電力発生部
20 受電装置
21,22 電極
23,24 インダクタ
25,26 接続線
27 負荷
41,42 蛍光管
51 送電用コイル
52 受電用コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15