【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトのアドレス http://www.motorcontrol.jp/ https://www.dropbox.com/sh/qu4qe3fgiqw3cto/AAC2xiP8V37i7UCTEcikuhnVa?dl=0&preview=MC10%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%83%BB%E6%8A%84%E9%8C%B2.pdf ウェブサイトの掲載日 平成28年8月29日 (2)発行者名 公益財団法人 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門 刊行物名 第17回システムインテグレーション部門講演会論文集 発行日 平成28年12月15日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、現在の下肢のロボット療法は、良好な訓練効果(バランス機能や運動機能の回復、歩行速度、耐久性、対称性の改善等)を示唆する報告があるものの、エンドエフェクタ型および外骨格型のいずれの形式においても、通常のマニュアル治療以上の治療効果は明らかにされておらず、効果的な介入法を探索し、科学的根拠を蓄積することが求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、前記した新しい運動解析技術を、脳卒中患者等のロボット療法(現在、黎明期である下肢のロボット療法)へ展開し、障害後の運動学習機序の解明へ向けた歩行運動の診断装置、及び患者の運動回復能力を積極的に引き出して機能獲得を促進する歩行訓練装置、及びそれに用いる体重免荷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、介入として床面とエンドエフェクタ(足部)の相互作用を操作する体重免荷とエンドエフェクタに隣接した足関節へ作用する機能的電気刺激とを組み合わせた歩行訓練装置を提案する。すなわち、本発明に係る歩行訓練装置は、対象者を股下部で支持するサドルを備え、前記対象者の体重の一部を免荷する体重免荷部と、前記サドルの下方に位置し、対象者が歩行する床面を有する床部と、対象者の足関節底屈筋への電気刺激を行う電気刺激部とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る歩行訓練方法は、床部の床面上で体重免荷部のサドルによって対象者を股下部で支持して体重の一部を免荷した状態で、前記床部の床面を前記サドルで指示された対象者の前方から後方方向に向けて移動させつつ、前記対象者の足関節底屈筋へ電気刺激を行うことを特徴とするものである。
【0010】
ヒトの歩行では股、膝、足関節の正仕事は、股関節と足関節とで80%以上を占めるとされている((D. J. Farris and G. S. Sawicki,“Themechanics and energetics of human walking and running: a joint levelperspective,” Journal of the RoyalSociety Interface, vol. 9, no. 66, pp. 110-118, 2012))。特に、股関節伸展と足関節のPush-off (蹴り出し)時に大きな仕事を行うことが知られている。本発明によれば、第1の介入となる体重免荷部と歩行する床面を有する床部との組み合わせによって、バランス制御と股関節伸展の機能が図れ、さらに第2の介入となる足関節底屈筋への電気刺激によって、足関節によるPush-offの機能の支援及び訓練が図れる。なお、床面は水平面に限らず、傾斜面に設定してもよく、これによって傾斜歩行の訓練にも対応可能となる。
【0011】
また、前記電気刺激部は、対象者の足関節底屈筋の表面に貼着される電極と、前記電極に刺激信号を印加する刺激信号生成部と、前記刺激信号の印加を指示する指示部とを備えたものである。この構成によれば、指示部からの指示に応じて、対象者の足関節底屈筋の表面に刺激信号が印加されるので、足関節によるPush-offの機能が実行される。なお、指示部からの指示は、対象者自身が行ってもよいし、訓練対象となる脚が遊脚期の開始タイミングであることを検出し、この検出結果に従って自動的に指示する態様でもよい。
【0012】
また、本発明は、対象者の下肢における各筋の筋電位及び前記対象者の下肢の各関節の動きを検出する検出部と、前記検出部による検出結果から下肢先端の運動制御に関わる特徴量を算出する演算部とを備えたものである。この構成によれば、対象者の下肢の各筋の筋電位及び前記対象者の下肢の各関節の動きを検出することで、歩行診断のための特徴量が得られ、効率的な歩行訓練に供される。
【0013】
また、前記検出部は、前記筋活動として筋電位を測定する筋電位検出部と、前記下肢運動として関節の動きを検出する運動検出部とを備え、前記演算部は、前記筋電位検出部の検出結果及び前記運動検出部の検出結果から、筋シナジー、平衡点及び剛性の少なくとも1つを前記特徴量として算出するものである。この構成によれば、歩行診断の判断に有効な特徴量として、足関節の並進運動に関わる筋シナジー、平衡点及び剛性楕円、また足関節の回転運動に関わる平衡点及び剛性の少なくとも1つが算出される。従って、かかる特徴量を参照することで、歩行時の情報から下肢の回復状況を判断することが可能となる。
【0014】
また、前記床部は、互いに平行に配置された、水平に軸支された回転体の間に周回可能に掛け渡され、上面側が前記床面を構成する無端ベルトと、前記床面への前記対象者の足裏の踏み出し位置及び床反力を検出する荷重検出部とを備えたものである。この構成によれば、対象者は体重免荷部に体重の一部を免荷した状態で、相対的な歩行が実現される。また、踏み出し位置及び床反力を歩行状況の情報として得ることができ、診断情報やその他の目的(訓練を兼ねるゲームなど)に利用することが可能となる。
【0015】
また、本発明は、前記床部の床面に訓練映像を投影する映像投影部と、前記床面への前記対象者の足裏の踏み出し位置及び床反力を検出する荷重検出部と、前記訓練映像の床面上の表示位置と、前記運動検出部及び前記荷重検出部の一方で検出された前記踏み出し位置とから訓練の評価を行う訓練評価部とを備えたものである。この構成によれば、歩行する床面に訓練映像を投影し、訓練映像との相関(一致度など)によって評価を行うようにしたので、ゲーム感覚が煽られて訓練効率の向上が期待される。
【0016】
また、前記体重免荷部は、基台と、基台に軸支され、垂直面内で支軸周りに揺動するアームと、錘とを備え、前記サドルは、前記アームの先端に取り付けられ、前記錘は、前記アームの基端側に垂設されることを特徴とする。この構成によれば、いわゆるシーソー型機構を採用して、カウンターウェイトすることで、簡易な構成でサドルに跨る対象者の体重の一部とバランスさせることが可能となる。
【0017】
また、本発明は、前記錘を前記アームに垂設させる錘係合部を備え、前記錘は、前記基台に複数個積層配置されてなり、前記錘係合部は、上方側から任意の複数個の錘を前記アームの基端に係合させるものである。この構成によれば、シーソー型機構においてカウンターウェイト用の錘の設定が容易に行われる。
【0018】
また、本発明に係る歩行診断装置は、対象者を股下部で支持するサドルを備え、前記対象者の体重の一部を免荷する体重免荷部と、前記サドルの下方に位置し、対象者が歩行する床面を有する床部と、対象者の下肢における各筋の筋電位及び前記対象者の下肢の各関節の動きを検出する検出部と、前記検出部による検出結果から運動診断情報を演算する演算部とを備え、前記検出部は、前記筋活動として筋電位を測定する筋電位検出部と、前記下肢運動として関節の動きを検出する運動検出部とを備え、前記演算部は、前記筋電位検出部の検出結果及び前記運動検出部の検出結果から、下肢先端の運動制御に関わる特徴量である筋シナジー、平衡点及び剛性の少なくとも1つを特徴量として算出するものである。
【0019】
また、本発明に係る歩行診断方法は、対象者を股下部で支持するサドルを備え、前記対象者の体重の一部を免荷する体重免荷部と、前記サドルの下方に位置し、対象者が歩行する床面を有する床部と、対象者の下肢における各筋の筋電位及び前記対象者の下肢の各関節の動きを検出する検出部と、前記検出部による検出結果から運動診断情報を演算する演算部とを備え、前記検出部は、前記筋活動として筋電位を測定すると共に、前記下肢運動として関節の動きを検出し、前記演算部は、前記筋電位の検出結果、及び前記下肢運動として関節の動きの検出結果から、下肢先端の運動制御に関わる特徴量である筋シナジー、平衡点及び剛性の少なくとも1つを特徴量として算出するものである。
【0020】
これらの発明に係る歩行訓練の効果は、下肢先端の運動制御に関わる特徴量である筋シナジー、平衡点、剛性(並進運動、回転運動双方を含めてもよい。)の少なくとも1つに基づき定量評価され、患者や療法士にフィードバックされる。
【0021】
本発明では、脳卒中等のリハビリテーションを、身体協調に基づく中枢神経系の機能回復と捉え、患者の身体協調の再獲得と保持を促進する歩行再建のためのロボット訓練を行う。特に、(1)発明者らのこれまでの研究(特許文献2、非特許文献2他)によって明らかにされた一連の筋シナジー技術を用いて患者の身体協調を診断し、(2)その診断結果に基づき、運動改善を促す数種のロボット訓練を行う点を特徴とする。身体を協調させる技能は、脳卒中患者に失われがちな滑らかな運動(平衡点・剛性(インピーダンス)の調整)の実現に不可欠であり、その獲得は患者の劇的な運動能力の向上に繋がる。
【0022】
また、本発明に係る体重免荷装置は、対象者を股下部で支持するサドルを備え、前記対象者の体重の一部を免荷する、歩行訓練装置の体重免荷装置において、基台と、基台に軸支され、垂直面内で揺動するアームと、錘と、前記錘を前記アームに垂設させる錘係合部とを備え、前記サドルは、前記アームの先端に取り付けられ、前記錘は、前記基台に複数個積層配置されてなり、前記錘係合部は、上方側から任意の複数個の錘を前記アームの基端に係合させるものである。本発明によれば、いわゆるシーソー型機構を採用して、カウンターウェイトすることで、簡易な構成でサドルに跨る対象者の体重の一部とバランスさせることが可能となる。また、カウンターウェイト用の錘の設定が容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新たな運動解析技術を、脳卒中患者等のロボット療法(現在、黎明期である下肢のロボット療法)へ展開し、障害後の運動学習機序の解明へ向けた歩行運動の診断、患者の運動回復能力を積極的に引き出して機能獲得を促進する歩行訓練を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係る歩行訓練装置1の一実施形態を示す全体概要図で、
図2は、その一部を示す外観概要図である。
図3は、サドルの外観図である。
図4は、歩行訓練装置1の一実施形態を示す機能構成図である。
【0026】
本発明に係る歩行訓練装置1は、例えば脳卒中患者や脊髄損傷患者(以下、対象者という)の歩行能力の回復を目的とする下肢のロボット療法用の装置である。歩行訓練装置1は、対象者の体重の一部を免荷する体重免荷部10と、対象者が歩行する床部の一例であるトレッドミル20と、動き検出部30と、筋電位検出部40と、足関節に作用する筋に電気刺激を与える電気刺激部50と、制御部60(
図4参照)と、対象者を撮像し、表示する運動観察部70と、脚の動きを誘導するようなゲーム等を訓練映像の表示を行うと共に、必用に応じてその訓練結果を評価する訓練処理部80とを備える。
【0027】
体重免荷部10は、本実施形態では、カウンターウェイトとシーソー型機構によって対象者の股下部に作用する「サドル支持型体重免荷装置」((長川祐磨、吉川史哲、 平井宏明、 黒岩晃、 渡邉英知、 植村充典、 宮崎文夫、“サドル支持型体重免荷トレッドミル歩行の運動解析:下肢の平衡点軌道、足先剛性の可視化”、第10回モーターコントロール研究会抄録、A36,2016.)、及び(吉川史哲、長川祐磨、 平井宏明、 黒岩晃、 渡邉英知、 植村充典、 宮崎文夫、“体重免荷方式の違いが歩行に与える影響:吊り上げ型とサドル支持型の比較”、第10 回モーターコントロール研究会抄録、A37,2016.)参照)を採用している。
【0028】
より具体的には、体重免荷部10は、
図1(a)、
図2(a)に示すように、床に設置される基台11と、基台11の上部で左右方向(
図1(a)、矢印X−X方向)に平行な水平軸121に軸支されて垂直面内で揺動可能なアーム12と、アーム12の先端に取り付けられたサドル13と、アーム12の基端から垂設された錘係合部14と、アーム12の基端に対応して立設されたフレーム部15と、フレーム部15の下部に積層載置された複数個の錘16とを備える。アーム12の基端から先端に向かう方向が前方方向となる。
【0029】
フレーム部15は、互いに平行な一対の立直ステー151を有する。錘16は、本実施形態では平板状をなし、板厚方向に錘係合部14が挿入される挿通孔、また立直ステー151を遊嵌する一対の孔が穿設されている。錘16は、かかる立直ステー151に沿って昇降可能にされ、かつ錘係合部14に係合されることでアーム12の揺動に応じて昇降されることになる。
【0030】
錘係合部14と錘16との係合構造は、種々の形態が採用可能であるが、本実施形態では以下の形態を採用している。すなわち、錘係合部14は、所定長を有する変形可能な紐状物、例えば鎖部141とその下部の棒状体142とが連結して構成されている、棒状体142は、長さ方向に長孔(図示せず)が穿設されている。長孔にはピン143が嵌挿される。各錘16には横方向からピン143が差し込み可能なように、例えば下面側に横溝161などが形成されている。ピン143は横溝に沿って挿入されて長孔に嵌挿される。ピン143が差し込まれた錘16を含む上部の錘16がピン143によって持ち上げられることでカウンターウェイトとされる。カウンターウェイトされる錘16の個数を調整することで、シーソー型機構を介してサドル13を跨いだ対象者に対する免荷量が調整される。なお、錘係合部の他の例としては、底板を備え、その上部に錘を1枚ずつ積層する形態でもよいし、予め準備された各カウンターウェイトを交換使用するものでもよい。あるいは、より単純に、アーム12の後端側に錘を懸架し、アーム12の長手方向にスライドさせることで、ウェイトバランスを取る態様でもよい。
【0031】
サドル13は、
図2、
図3に示すように、座席形状を有するサドル本体13Aと、必要に応じて設けられる、サドル本体13Aを覆う弾性材からなる表皮13Bとを備える。サドル13は、アーム12の先端の取付具122に設けられた前後方向に平行な水平軸131と、水平軸131を介して取り付けられた垂直軸132とを備え、サドル本体13Aは垂直軸132を介して取り付けられている。この構成により、サドル13は、それぞれ所定の角度範囲内で、
図3(a)に矢印Rollで示すように水平軸131周りにローリングし、かつ
図3(b)に矢印Yawで示すように垂直軸132周りにヨーイングする。サドル13がローリング及びヨーイングすることで、より自然な歩行動作を対象者に提供することが可能となる。
【0032】
トレッドミル20は、本実施形態では床反力計を内蔵したスプリットベルトトレッドミル(ITR5018,Bertec Corp., USA)を採用する。より具体的には、トレッドミル20は、直方体形状をなす基台21を備える。基台21の前後方向には、
図2(b)、(c)に示すように、互いに平行で水平な回転軸を有する一対のローラ22と、一対のローラ22間に張設されたベルト23と、一方のローラ22に、例えばベルト等の駆動力伝達構造241を介して連結されるモータ等の駆動部24とを備える。駆動部24を駆動させることで、
図2(a)(b)に矢印で示す方向に、ベルト23が周回動作を行う。ベルト23の周回動作の条件は、設定部240(
図4参照)によって適宜に設定される。対象者は、
図2(b)に示すように、周回動作中の、あるいは歩行に合わせて間欠的に動作されるベルト23上を歩行する。ベルト23の上面は歩行面を構成し、本実施形態では水平にされている。
【0033】
荷重検出部25は、センサ本体部251と床反力演算部252を備える。センサ本体部251は、前後のローラ22の間、かつベルト23の周回内側の上部に近接して配置されている(
図2(b)参照)。センサ本体部251は、
図2(b)、(c)に示すように、直方体形状のフォースプレート2511と、複数の所定位置、例えばフォースプレート2511の4隅に配置される荷重センサ(機械―電気変換素子であるロードセル)2512とを備え、フォースプレート2511上にかかる荷重に対応して、歪みゲージの抵抗値の変化を、各荷重センサ2512で電流値の変化として検出することで、床反力の3方向分力(Fx,Fy,Fz)として計測する。さらに、床反力演算部252によって床反力の作用点(COP:Centerof Pressure)を演算で求める。従って、サドル13に股下部を作用させて体重の一部が免荷された対象者の足裏踏力の床反力及びその重心位置が、ベルト23を介して荷重検出部25で得られる。
【0034】
なお、荷重検出部25は、スプリットベルトトレッドミル型の場合、各ベルト23に対応して配設されてもよい。この構造では、対象者の歩行訓練を各脚の回復程度などに合った方法、例えば左右ベルトで異なる周回速度で行うことが可能となる。また、荷重検出部25は、少なくとも床反力の作用点を得ることができる態様でもよい。さらに、他の感圧部材を採用して荷重位置を計測する方法でもよい。なお、トレッドミル20は、スプリットベルトトレッドミル型でなくてもよい。
【0035】
このようにトレッドミル20と体重免荷部10とを組み合わせることで、体重による重力の影響を軽減しながら、対象者のエンドエフェクタ(足)へ介入し、バランス制御と股関節伸展とを好適に支援しつつ訓練することができる。
【0036】
運動解析の対象部位となる下肢の被験筋は、
図5(a)に示すように、本実施例では、足関節位置の並進に関する下肢3対6筋に、足関節の回転に関する足関節周りの1対2筋を加えた4対8筋の筋骨格系としてモデル化したものである。
【0037】
本実施形態では、動き検出部30として、撮像手段であるカメラ31を左右に配置したモーションキャプチャ等の光学トラッキングシステムを採用している。左右のカメラ31は、対象者の下肢を左右側から撮像する。カメラ31から観測可能な位置、本実施例では、
図5(b)に示すように、対象者の股関節、膝関節、足関節及び爪先の各側面の計4箇所には、マーカ301が貼着乃至は装着されている。マーカ301は、特定色、例えば遠赤外光を発する部材、あるいは発光素子を採用してもよい。カメラ31は、各マーカ301をカメラ視野内で位置情報を表す輝点として撮像するものである。対象者の股関節及び足関節に対応するマーカ301は、後述する動径R情報、偏角Φ情報(
図6参照)を計測するために使用される。なお、カメラ31の台数は2台に限らず、例えば各マーカ301に対応して配置してもよい。
【0038】
筋電位検出部40は、
図5(b)に示すように、片足につき8個の筋の筋電位を検出する。対象者の下肢の皮膚上には、複数の電極401が貼着される。各電極401は、
図5(b)に示すように、8個の筋の各表面側に貼着されて、対応する筋に発生する筋電位を検出する。筋電位は、EMG(筋活動を直接計測する筋電図:electromyography)計測で得られる。各電極401は筋電位検出回路41と有線あるいは無線で接続されている。なお、無線で接続されている態様では、電極401は筋電位検出回路41のアンテナ部と近接通信するアンテナ部を少なくとも備えている。
【0039】
電気刺激部50は、対象者の足関節に作用、具体的には遊脚開始時における足関節角度を底屈方向に変化させるための機能的電気刺激を行うものである。電気刺激部50は、刺激信号生成部51と刺激信号の出力を指示するスイッチ52とを備える。刺激信号は、足関節によるPush-offを支援することを目的に、対象の随意的なキュー(スイッチ52の押下)に基づき、足関節底屈筋群を電気刺激する。刺激信号は、例えば60Hzのパルス搬送波で、腓腹筋の外側頭へ例えば7mA、内側頭へ例えば8mAのレベルで、例えば0.35秒間の出力時間に設定されている。これにより、Push-offの増加と随意的運動の促通を導くことが期待できる。なお、スイッチ52は対象者自身で押下する態様の他、荷重検出部25からの荷重検出情報や動き検出部30からの動き検出内容、または下記の運動観察部70からの運動観察内容を利用して遊脚開始タイミングを自動認識してスイッチオンさせる態様としてもよい。
【0040】
運動観察部70は、トレッドミル20の前方に、対象者の歩行動作を正面側から撮影するKinectセンサ(Kinect for Windows v2,Microsoft Corp., USA)71を備え、さらに撮像した映像を表示するモニタ711を前方に備える。また、必要に応じて左右の撮像部72,73と、左右の映像を表示する左右のモニタ721,731とを備えてもよい。Kinectセンサ71は、公知のように、撮影画像とレーザビームを併用して撮像された対象者の画像の3次元情報を得て、その結果をモニタ711に撮影映像と併記表示することで、歩行中における対象者の左右バランスに関する運動学情報を提示する。なお、Kinectセンサ71に代えて、通常の撮像部であってもよい。
【0041】
訓練処理部80は、必要に応じて設けられるもので、対象者の歩行を支援する画像を生成し、表示する。訓練処理部80は、訓練画像生成部81と、生成された訓練画像をベルト23上に投影するプロジェクタ82とを備え、また、対象者が見やすいように、必要に応じてベルト23の前方乃至は斜め前方に配置されたモニタ83に訓練画像の表示を行う。なお、訓練画像生成部81は、ベルト23の移動速度と同期して訓練画像をベルト後方に移動するように生成され、あるいはベルト23上の固定位置で表示される態様でもよい。
【0042】
訓練処理部80は、応答性判定部84を備える。応答性判定部84は、訓練画像と、駆動部24からの周回動作情報及び床反力演算部252からの作用点の情報から、サドル13に跨った状態の対象者が訓練画像に対して作用した結果の評価も行う。応答するまでの計時情報を評価項目に含めてもよい。また、訓練画像に対する作用の検出は、動き検出部30で行ってもよい。
【0043】
図1(b)、(c)は、プロジェクタ82から投影されたベルト23上の訓練画像の一例を示している。
図1(b)は、サドル13の真下位置の少し前方側となるベルト23面に所定形状の、例えば複数の円形映像801が配列表示され、その内の一つが識別可能に、例えば他と色違いの円形映像802で表示され、次の踏み位置を指示している。この状態で、床反力演算部252で得られた作用点が訓練画像の表示域と一致する度合いに応じて評価が高低設定され、離散運動(踏み出し)の訓練に用いられる。
図1(c)は、サドル13の真下位置の少し前方側となるベルト23面に、例えばバー映像803が左右に交互に表示され、手前側のバー映像803が次の踏み位置を指示している。この状態で、床反力演算部252で得られた作用点がバー映像803の表示域と一致するほど高い評価が生成され、周期運動の訓練に用いられる。評価はスコアが積算され、その積算値が、あるいは時間単位のスコアが算出され、表示に供される。ゲーム感覚を導入することで、訓練意欲の増進が図れる。
【0044】
続いて、
図4の機能構成部について説明する。制御部60は、歩行訓練装置1の各部と接続されて、歩行訓練装置1の動作を統括して制御すると共に、筋シナジー情報を含む特徴点の算出、診断処理を行う。制御部60は、CPUを有するマイクロコンピュータで構成されており、本発明に係る訓練動作、運動分析処理のための処理プログラムを記憶するROM61、処理途中のデータを一時的に記憶するRAM62、各種の指示を行うためのテンキーやマウス等で構成される操作部63、及び記憶部64を備えている。記憶部64は、人体筋骨格モデルの情報(
図5(a)参照)、運動診断のための各演算式その他のデータを記憶する。なお、人体筋骨格モデルの各部位の長さ等はモーションキャプチャによって算出可能である。また、人体筋骨格モデルの情報、各演算式は、ROM61又はRAM62内に格納される態様でもよい。
【0045】
筋電位検出部40は、片足につき8個の電極401に生じる電気信号を検出する筋電位検出回路41と、検出された電気信号に対して所定の前処理を施す前処理回路42とを備える。体表で得られる筋電位信号は、レベルが数十μV〜数百μV、周波数が5Hz〜500Hz程度の交流信号である。そこで、前処理回路42は、筋電位を処理可能なレベル(数千倍)まで増幅するアンプ、筋電位の主要周波数帯の信号のみを通過させるバンドパスフィルタ、及び全波整流回路を備えている。また、前処理回路42は、筋電位信号をデジタルで処理するべく、出力側にAD変換部を備えている。
【0046】
動き検出部30は、各マーカ301を検出する各カメラ31と、カメラ31からの撮像信号から輝点を検出する前処理回路32とを備え、検出された輝点の位置座標情報を計測する等の所定の前処理を施す。なお、動き検出部30は、光学的な位置測定の他、磁気発生器と磁気センサとから構成される3次元上の位置と向きが検出可能な公知の測定器を採用してもよい。
【0047】
モニタ711〜731には、表示処理部605で作成された画像が表示される。表示処理部605は、操作部63からの入力情報の確認や処理結果、Kinectセンサ71による撮影映像等及び制御部60で処理された運動診断情報をモニタ711に出力し、また、撮像部72,73で撮像した映像をモニタ721,731に出力する。なお、必要に応じて各情報を個別のモニタに表示する態様としてもよい。
【0048】
制御部60は、対象者の運動診断を行うもので、ROM61からRAM62に読み出した処理プログラムを実行することによって、電極401から測定結果を周期的に取り込む筋電位測定処理部601と、マーカ301からの測定結果を周期的に取り込む位置測定処理部602と、筋シナジー算出部603と、平衡点・剛性算出部604と、前記した表示処理部605として機能する。
【0049】
本発明にかかる運動診断は、ヒトの身体運動は複数の筋の協調作用(筋シナジー)により生成されるものであり、また、ヒトの身体運動は関節の平衡点、剛性に関する命令により制御されると考えることに基づいている。
【0050】
筋電位測定処理部601は、前処理回路42で得られた各拮抗筋対のEMG(筋電位)を最大随意収縮時のEMGで正規化したEMGである%MVCとして求める。筋電位は、概念として、筋協調の最小単位と考える拮抗する筋同士の活動の比(筋拮抗比r)と、拮抗する筋同士の活動の和(筋拮抗和s)とを導入している。
【0051】
筋拮抗比rは、主導筋の%MVC/(主導筋の%MVC+拮抗筋の%MVC)で表され、筋拮抗和sは、主導筋の%MVC+拮抗筋の%MVCで表される。
図5(a)に示すように、筋拮抗は、腰から足関節に向けて、股(h)、膝(k)、足関節(a)周りの拮抗筋対(4対8筋)があり、筋拮抗比(r
h,r
hk,r
k,r
a)および筋拮抗和(s
h,s
hk,s
k,s
a)は、各筋電位から算出される。式(1)は、足関節の並進運動のための説明変数である筋拮抗比、筋拮抗和を示す。
【0053】
また、足関節の回転運動のための説明変数である筋拮抗比、筋拮抗和を式(2)に示す。
【0055】
これらの説明変数を用いた筋シナジーベクトルの算出方法は、足先平衡点を動径方向に調節するシナジーu
R、足先平衡点を偏角方向に調整するシナジーu
Φ、及び足先剛性を調整するシナジーu
R×Φを用いる。各シナジーu
R、u
Φ、u
R×Φの算出式を、式(3)に示す。
【0057】
なお、式(3)中のq
h(s
trans)、およびq
k(s
trans)は、式(4)で表される。
【0058】
さらに、式(5)で、筋シナジー活動係数Δw
R(r
trans, s
trans)、およびΔw
Φ(r
trans,s
trans)が得られる。得られた筋シナジー活動係数Δw
R(r
trans, s
trans)、およびΔw
Φ(r
trans,s
trans)に、ゲインk
R,trans、k
Φ,transを乗算することで、式(6)に示すように、足関節の並進運動に関する平衡点位置の変化量ΔR
EP(r
trans, s
trans)、およびΔΦ
EP(r
trans, s
trans)を求めた。
【0060】
また、足関節の並進運動に対する剛性行列K
x(s
trans)を、式(7)に示すように、s
transとヤコビ行列J(θ)およびゲインk
s,transとを用いて算出する。
【0062】
さらに、足関節の回転運動に関する推定(解析)が実行される。すなわち、足関節周りの拮抗筋対の筋拮抗比r
rot(=r
a)より、足関節の平衡角度の変位が、式(8)のように算出される。また、足関節周りの拮抗筋対の筋拮抗和s
rot(=s
a)より、足関節の回転剛性が、式(9)のように算出される。
【0064】
算出された特徴量である筋シナジー、平衡点及び剛性(剛性楕円、回転剛性)の各情報は、モニタ711あるいは他のモニタに表示される。
図8は、その表示例を示し、(a)は筋シナジーを、(b)は剛性楕円91と平衡点92を、(c)は足関節の回転剛性93を示している。歩行訓練の解析内容をリアルタイムで視認、確認することができ、回復訓練が効果的に行われる。
【0065】
図7は、運動診断処理の手順を示すフローチャートである。対象者がサドル13に跨った状態でベルト23が周回動作を開始して、本フローが開始される。まず、動き検出部30及び筋電位検出部40からマーカ301の位置信号、電極401の筋電位信号が取り込まれ(ステップS11)、これらの信号から運動位置等の測定処理、筋電位の測定処理が実行される(ステップS13)。
【0066】
このようにして各測定点からの検出信号が取り込まれると、式(3)により筋シナジーベクトルが算出され(ステップS15)、さらに、式(6)、式(7)により足関節の並進運動に関する平衡点、剛性楕円、及び式(8)、式(9)により足関節の回転運動に関する平衡点、剛性が算出される(ステップS17)。これら算出された特徴量は、表示処理部605に出力されて(ステップS19)、モニタ711に表示される。そして、訓練が終了したか否かが判断され(ステップS21)、終了するまでは、ステップS11に戻って、処理が繰り返される。
【0067】
次に、効果確認のための実験1、実験2、およびそれらの結果について説明する。
【0068】
<実験1>
(1−1) 設備(体重免荷トレッドミル)
体重免荷装置として、(A)天井に据え付けた空気圧シリンダーとハーネスにより対象の上体を持ち上げる、比較例としての「吊り上げ型体重免荷装置」(ニューアシスト,インターリハ株式会社,日本)と、(B)
図1〜
図3に示す、カウンターウェイトとシーソー型機構によって対象の股下部に作用する「サドル支持型体重免荷装置」の2種類を使用した。また、トレッドミルは、床反力計を内蔵したスプリットベルトトレッドミル(ITR5018,Bertec Corp., USA)を用いた。これらの体重免荷装置とスプリットベルトトレッドミルを組み合わせることで、体重による重力の影響を軽減しながら、対象者のエンドエフェクタ(足部)へ介入し、「バランス制御」と「股関節伸展」を安全に支援訓練するようにした。さらに、対象の前方に、Kinectセンサ71(Kinect for Windows v2,Microsoft Corp., USA)と、モニタ711としての大型ディスプレイ(REGZA 65J7,東芝, 日本)を配備し、歩行中の左右バランスに関する運動学情報の提示を行った(
図1(a)参照)。
【0069】
(1−2)設備(機能的電気刺激)
もう一つの介入として、エンドエフェクタ(足)に隣接する足関節へ作用する機能的電気刺激を採用した。電気刺激部50として、STG4008(Multi Channel Systems, Inc., Germany)を使用した。ここでは、「足関節によるPush-off」を支援/訓練することを目的に、対象の随意的なキュー(スイッチ52の押下)に基づき、足関節底屈筋群を電気刺激した。刺激は、周波数60[Hz]のパルス搬送波を0.35秒間、かつそれぞれ一対の電極で腓腹筋の外側頭へ7[mA]、内側頭へ8[mA]とした。
【0070】
(1−3)実験手順
被験者(対象者)は、健常成人女性1名(157[cm]、45.9[kg])とした。実験は、大阪大学基礎工学研究科倫理委員会に承認された手続きに則り行われた。(A)吊り上げ型および(B)サドル支持型の体重免荷装置により、対象者の体重を中程度免荷し、対象者が自然と感じる速度(2.5[km/h])でそれぞれ130秒間、体重免荷歩行を行った。各試行において、前半は体重免荷のみ、後半は体重免荷に加えて機能的電気刺激を行った。
【0071】
これらの条件の異なる4種類の免荷歩行として、(a)吊り上げ型体重免荷、(b)吊り上げ型体重免荷+機能的電気刺激、(c)サドル支持型体重免荷、(d)サドル支持型体重免荷+機能的電気刺激を行い、それぞれ下肢の運動学をモーションキャプチャシステム(Optitrack,Natural Point, Inc., USA)により、また、床反力をトレッドミルシステム(ITR5018,Bertec Corp., USA)により計測した。なお、実験前に予め練習期間を設け、対象が各環境に十分に慣れてから運動計測を行った。
【0072】
(1−4)結果・考察
図9,
図10は、(A)吊り上げ型と、(B)サドル支持型の2種類の体重免荷方式の違いがトレッドミル歩行に与える影響と、 それぞれの体重免荷下における機能的電気刺激による足関節Push-offの支援効果を示している。
図9(c)のサドル支持型体重免荷歩行では、
図9(a)の吊り上げ型体重免荷歩行に比べて大きな歩幅が実現されている。機能的電気刺激を加えた場合も、サドル支持型体重免荷歩行ではその利点を消失することなく効果的な運動支援が確認された(
図9(b),(d))。
【0073】
また、2つの免荷方式の違いは、床反力に顕著に観察された(
図10(a),(b))。すなわち、
図10(b)に示すようにサドル支持型体重免荷歩行の垂直踏力が自然歩行と同様な二峰性の波形を示すのに対し、
図10(a)の吊り上げ型体重免荷歩行では立脚終期においても高い垂直踏力を示し、不自然な歩行となっている。機能的電気刺激によってこの違いはさらに著しくなっており、吊り上げ型支援では正しく運動を支援できていないことが分かる。サドル支持型支援では、体重免荷のみでも自然な踏力パターンを実現できるが、機能的電気刺激によってその踏力パターンを維持しながら、Push-offの踏力を増大し、自然に近い形で運動支援できることが分かった。
【0074】
<実験2>
続いて、歩行リハビリテーションへの有効な介入を探索することを目的に、サドル支持型体重免荷装置と機能的電気刺激(functional electrical stimulation: FES)とを組み合わせた、エンドエフェクタ型歩行訓練装置の特徴を検証する。これは神経筋疾患患者の随意運動制御の再建を目的とした、タスク指向のアプローチである。吊り上げ型体重免荷歩行とサドル支持型体重免荷歩行の違いを、快適歩行速度、運動学や床反力、FESの効果で評価する。
【0075】
(2−1)被験者
被験者(対象者)は、3名の健常者(男性1名、女性2名、24歳)とした。実験は大阪大学基礎工学研究科倫理委員会に承認された手続きに則り行われた。また、被験者A,B,Cには、あらかじめ実験の趣旨、内容について十分な説明を行い、本人から実験参加の同意を得た。
【0076】
(2−2)装置
(2−2−1)体重免荷トレッドミル
被験者の体重を免荷する装置として、<実験1>と同様、据え付けた空気圧シリンダーとハーネスにより対象の上体を持ち上げる「吊り上げ型体重免荷装置」(ニューアシスト,インターリハ株式会社, 日本)と、シーソー型機構によって対象の股下部に作用する「サドル支持型体重免荷装置」(
図1〜
図3参照)との2種類を使用して、介入を行った。いずれの体重免荷システムも、床反力計を内蔵したスプリットベルトトレッドミル(ITR5018,Bertec Corp., USA)を含む。以下、吊り上げ型体重免荷装置をハーネス支持型体重免荷装置と呼ぶ。
【0077】
(2−2−2)電気刺激装置(FES)
もう一つの介入として、エンドエフェクタに隣接する足関節へ作用する機能的電気刺激を採用した。刺激システムは、<実験1>の場合と同様の電気刺激装置を使用した。腓腹筋外側頭、内側頭いずれも被験者A,Bは、16[mA]、被験者Cは、12[mA]の強度、周波数200[Hz]のパルス搬送波で、0.15秒間の刺激を行った。
【0078】
(2−2−3)実験手順
被験者は、
図11に示す実験条件下で、110秒間の歩行を行った。この中でFESは、50秒経過してから適用した。各試行で最初の50秒間(免荷の有無による歩行)と、最後の50秒間(FES介入下における免荷の有無による歩行)を解析対象とした。下肢の運動学(左右の股、膝、脚、爪先)は全て、11台のカメラを含むモーションキャプチャシステム(OptiTrack, NaturalPoint,Inc., USA)を用いて、100[Hz]で計測した。床反力は、スプリットベルトトレッドミルに搭載されている床反力計で、1000[Hz]で計測し、100[Hz]までダウンサンプリングした。運動学および床反力は、それぞれ訓練システムの評価の指標として採用した。運動学は、介入を受けた被験者が自然な姿勢で歩けるか否か、床反力は、3つの歩行機能(バランス制御、股関節伸展、足関節Push-off)に必要な床面との相互作用を、体重免荷装置やトレッドミル、FESがどのように支援しているかを示す。被験者の随意歩行実験の間、運動学、床反力およびFESの刺激タイミングは同期して記録され、記録データは平滑化されてから、歩行の一周期で正規化された。FES制御側の足の最初の接地を0%、その次の接地を100%(1歩行)としている。実験の前には予め歩行の練習期間を設け、被験者が各環境に十分に慣れてから運動計測を行った。
【0079】
(2−3)実験結果
(2−3−1)快適歩行速度
図12に、ハーネス支持型体重免荷装置とサドル支持型体重免荷装置の免荷量に応じた、快適と感じる歩行速度の変化を示す。これらの主観的な好みのデータは、被験者に対するアンケート調査への回答から得られた。
【0080】
(2−3−2)免荷方式による体重免荷歩行の変化
図13は、被験者Aがハーネス支持型およびサドル支持型体重免荷システムを中程度の体重免荷(33% BWS)で歩行した際の股、膝、足関節の関節角度を示し、
図14は、同条件での、床反力の垂直成分、前後剪断成分および左右剪断成分を示す。これらの運動データは、非体重免荷(non-BWS)歩行においても同速度で測定した。
【0081】
(2−3−3)歩行速度による非体重免荷歩行の変化
図15は、被験者Aが免荷装置を用いない非体重免荷歩行を、様々な速度(1.5、2.5、3.0、3.5、4.0、および4.5[km/h])で行った際の床反力の3成分を示す。ここで、非体重免荷歩行は、その快適歩行速度(4.0[km/h])において、立脚中期(歩行相10〜30%)と立脚終期(歩行相30〜50%)とで2つの顕著なピークが見られる。最初のピークは主に股関節の伸展に、2つ目のピークは股関節伸展と足関節のPush-offによるものである。
【0082】
図16、
図17は、被験者Aが中程度の体重免荷(33% BWS)において、様々な速度(1.5、2.5、3.0、3.5、および4.5[km/h])でサドル支持型体重免荷歩行を行った際の、各関節の角度変化と床反力の3成分を示す。なお、33% BWSの下で快適な歩行速度3.5[km/h]における非体重免荷歩行のデータを含む。
【0083】
(2−3−4)免荷量による体重免荷歩行の変化
図18、
図19は,被験者Aがサドル支持型体重免荷歩行を行った際の各関節の角度変化と床反力の3成分を示す。パラメータは、歩行速度3.5[km/h](33% BWSの下で快適な歩行速度)における免荷量とした。
【0084】
(2−3−5)FESの有無による体重免荷歩行の変化
図20は、被験者A(3.5[km/h], 33% BWS)、被験者B(2.5[km/h],40% BWS)、被験者C(4.5[km/h], 40% BWS)がそれぞれ各条件での快適歩行速度において、ハーネス支持型体重免荷歩行およびサドル支持型体重免荷歩行を行った際の床反力の3成分、およびそのFESの有無による違いを示す。
【0085】
(2−4)考察
(2−4−1)部分体重免荷とトレッドミルの介入
被験者3名のアンケートの回答より、
図12に示すように、体重免荷量が増加するにつれ快適歩行速度が減少するという一貫した傾向が存在することが分かった。この傾向はハーネス支持型、およびサドル支持型の両者の体重免荷方式で確認された。このデータを踏まえ、歩行速度や免荷量による運動学と床反力の変化について考察する。
【0086】
(2−4―2)運動学の特徴
図13は、異なる免荷方式による歩行(ハーネス支持型体重免荷歩行、サドル支持型体重免荷歩行、および非体重免荷歩行)の各関節角度を示す。免荷量は33%BWS(中程度の体重免荷)、歩行速度は3.5[km/h](この免荷量での快適歩行速度)にそれぞれ固定した。ハーネス支持型およびサドル支持型の2種類の体重免荷方式間で各関節角度に顕著な違いは見られなかった(r>0.93, p<0.05)。ただし、これらの体重免荷歩行では非体重免荷歩行に比べ股関節角度の可動域が減少する傾向にあった。
【0087】
図16は、異なる歩行速度でのサドル支持型体重免荷歩行における各関節角度を示す。免荷量は33% BWS(中程度の体重免荷)に固定した。快適歩行速度(3.5[km/h])や、それより少し遅い速度(2.5、3.0[km/h])での体重免荷歩行における関節角度は、同歩行速度3.5[km/h]の非体重免荷歩行における関節角度に概ね一致している(r>0.93, p<0.05)。しかしながら、最も遅い速度や速い速度での体重免荷歩行における関節角度は、非体重免荷歩行のものと異なる傾向にある(r>0.52, p<0.05)。
【0088】
図18は、4段階の免荷量におけるサドル支持型体重免荷歩行を示す。歩行速度は、中程度の体重免荷(33% BWS)における快適歩行速度(3.5[km/h])に固定した。非体重免荷歩行における足関節角度(破線)は、初期角度から徐々に約10[deg]まで底屈し、その後、約20[deg]まで背屈している。しかしながら、50%BWSの体重免荷歩行における関節角度については、足関節角度の変化が小さく(歩行周期の23〜53%で、±1.7[deg])、非体重免荷歩行との相関は小さい(r=0.83, p<0.05)。すなわち、体重免荷量が大きすぎると、足関節のpush-offがほとんど機能しない歩行となり、リハビリテーションにとっては不都合となる。これらより、被験者Aにおいては、サドル支持型体重免荷によって、およそ快適歩行速度より、1.0[km/h]遅い速度から快適歩行速度までの範囲の速度で、また約33% BWSまでの体重免荷量で、自然な姿勢を保ったまま歩行の支援が行えることが分かった。
【0089】
(2−4―3)床反力の特徴
臨床の歩行訓練においては、多くの患者は自分の脚で身体を支えることが困難なため、体重免荷装置は必要である。このため効果的な体重免荷歩行を考えなければならない。前述の通り、体重免荷量が増えると、快適歩行速度は減少する。このため、低速の歩行への免荷の有無に着目した。
図15(a)より、低速(2.5[km/h])での非体重免荷歩行時における床反力の垂直成分には、二峰性が見られない。一方、
図17(a)より、低速(2.5[km/h])、中程度の体重免荷(33% BWS)におけるサドル支持型体重免荷歩行における床反力の垂直成分には顕著な二峰性が観察される。つまりサドル支持型体重免荷歩行では、快適歩行速度だけでなく、より低速であっても床反力の垂直成分に2つのピークを示すことが認められた。ただし、この特徴(低速、中程度の体重免荷(2.5[km/h]、33%BWS)におけるサドル支持型体重免荷歩行時の床反力の垂直成分に二峰性が観察される)が支援に効果的なのか否かは、現在のところ必ずしも明らかではないものの、脳卒中患者はゆっくりと歩くことを想定すると、これは歩行訓練に適していると考えられる。
【0090】
図14(c)より、ハーネス支持型体重免荷歩行と比べ、サドル支持型体重免荷歩行における床反力の左右剪断成分も、非体重免荷歩行におけるそれに似た2つのピークを示している。
図14(b)より、床反力の前後剪断成分はハーネス支持型体重免荷歩行、サドル支持型体重免荷歩行、非体重免荷歩行、それぞれの違いが顕著に示された。床反力の前後剪断成分によって、一周期(1歩行)の間に、(体重及び歩行周期で正規化された)力積は、ハーネス支持型体重免荷歩行で +46.7[-]、サドル支持型体重免荷歩行で−207.3[-]であるのに対し、非体重免荷歩行では −26.2[-]であった。この違いの要因は、被験者と接触する部分であるハーネスやサドルが、それぞれ正・負の方向に運動量を与えることによると考えられる。よって、ハーネス支持型体重免荷歩行とサドル支持型体重免荷歩行とは、明らかに異なる作用であると考えられる。かかる結果は、被験者B、被験者Cにも似た傾向が見られた。
【0091】
(2−4―4)FESによる介入
図20より、非体重免荷歩行においては被験者A,B,CいずれもFESの有無による顕著な床反力の変化は見られない(r>0.97, p<0.05)。これは足関節周りの筋が電気刺激されて発揮する踏力が、被験者の(免荷のない)全体重を支えるには不十分であるからである。被験者Cは、サドル支持型体重免荷歩行時(
図20(a)、Subject Cの特性線(6))、FESによって床反力の垂直成分が3.0[%BW]増加し、ハーネス支持型体重免荷歩行時(同図の特性線(5))にはFESによって前遊脚期に、床反力の垂直成分が2.8[%BW]増加した。この踏力の増加量が患者の歩行を援助するのに十分か否かは、症状の重度によるものの、刺激電流の振幅、周波数、刺激時間を適切に調整すれば、生成される踏力はより大きくなりうると考えられる(C. L. Lynch, and M. R. Popovic,“Functional electrical stimulation: closed-loop control of induced musclecontractions,” IEEE Control System Magazine, vol. 28, no. 2, pp. 40-50, 2008.)。
【0092】
被験者AがFESを用いてサドル支持型体重免荷歩行を行うと、床反力の垂直成分(
図20(a)、Subject Aの特性線(6))は前遊脚期に、FESによって5.0[%BW]増加したことが認められる。被験者BがFESを用いてサドル支持型体重免荷歩行を行うと、床反力の前後剪断成分(
図20(b)、Subject Bの特性線(6))は遊脚初期に、FESによって5.0[%BW]増加したことが認められる。
【0093】
なお、本実施形態では、ベルト23の周回によって歩行面が移動する構成としたが、体重免荷部10が床面に対して相対的に移動する態様でもよく、また往復移動し、その前方移動の間、歩行訓練する構成としてもよい。
【0094】
また、本実施形態に係る技術の特徴は、随意運動中の下肢の筋電位信号から筋協調性を抽出し、運動実現に向けて中枢神経系が選択する運動戦略(符号化された高次変数の操作)をリアルタイムに可視化できる点にある。中枢神経系の運動指令を反映する筋電位信号から身体下肢の筋シナジー、インピーダンス(剛性)及び平衡点に関する特徴量情報を抽出し、身体下肢の筋協調を可視化する技術に、さらに、脳卒中患者などの下肢運動回復における中枢神経系の可塑性を解析しながら、理想となる身体協調の再獲得へ向けてロボット訓練を実施する。こうした研究は国内外に類がなく、中枢神経系の機能回復機序の本質に迫る高い学術性と臨床エビデンスに基づく実用性の両側面を兼ね備えている。本技術は、下肢のロボット療法の現状を大きく変える可能性がある。