特許第6858586号(P6858586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858586
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ウエーハ生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210405BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20210405BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20210405BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H01L21/304 611Z
   B23K26/53
   B23K26/08 D
   B28D5/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-27113(P2017-27113)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-133484(P2018-133484A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
(72)【発明者】
【氏名】山本 涼兵
【審査官】 三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−124015(JP,A)
【文献】 特表2017−500725(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/129982(WO,A1)
【文献】 特開2016−100368(JP,A)
【文献】 特開2007−150164(JP,A)
【文献】 特開2013−049161(JP,A)
【文献】 実開昭53−080113(JP,U)
【文献】 特表2013−504178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/08
B23K 26/53
B28D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
c軸とc軸に直交するc面とを有する単結晶SiCインゴットからウエーハを生成するウエーハ生成方法であって、
単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を単結晶SiCインゴットの端面から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置づけて単結晶SiCインゴットにレーザー光線を照射してSiCがSiとCとに分離した改質部と改質部からc面に等方的に形成されるクラックとからなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、
剥離層が形成される外周領域の全部または一部に更にレーザー光線を照射してクラックを成長させて剥離のきっかけを形成する剥離きっかけ形成工程と、
キャビテーションの発生が抑制される温度として0〜25℃に設定された水中に単結晶SiCインゴットを浸漬し単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波をを介して単結晶SiCインゴットに付与することによって、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットの一部を剥離しウエーハを生成するウエーハ生成工程と、
から少なくとも構成されるウエーハ生成方法。
【請求項2】
単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数は単結晶SiCインゴットの固有振動数の0.8倍である請求項1記載のウエーハ生成方法。
【請求項3】
該剥離層形成工程において、
単結晶SiCインゴットの端面の垂線とc軸とが一致している場合、連続的に形成された改質部からc面に等方的に形成されたクラックの幅を超えない範囲で単結晶SiCインゴットと集光点とを相対的にインデックス送りして改質部を連続的に形成してクラックとクラックとを連結させて剥離層を形成する請求項1記載のウエーハ生成方法。
【請求項4】
該剥離層形成工程において、
単結晶SiCインゴットの端面の垂線に対してc軸が傾いている場合、c面と端面とでオフ角が形成される方向と直交する方向に改質部を連続的に形成して改質部からc面に等方的にクラックを形成し、該オフ角が形成される方向にクラックの幅を超えない範囲で単結晶SiCインゴットと集光点とを相対的にインデックス送りして該オフ角が形成される方向と直交する方向に改質部を連続的に形成して改質部からc面に等方的にクラックを順次形成して剥離層を形成する請求項1記載のウエーハ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶SiCインゴットからウエーハを生成するウエーハ生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED等のデバイスは、Si(シリコン)やAl(サファイア)等を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。また、パワーデバイス、LED等は単結晶SiC(炭化ケイ素)を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。デバイスが形成されたウエーハは、切削装置、レーザー加工装置によって分割予定ラインに加工が施されて個々のデバイスに分割され、分割された各デバイスは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
デバイスが形成されるウエーハは、一般的に円柱形状のインゴットをワイヤーソーで薄く切断することにより生成される。切断されたウエーハの表面及び裏面は、研磨することにより鏡面に仕上げられる(特許文献1参照。)。しかし、インゴットをワイヤーソーで切断し、切断したウエーハの表面及び裏面を研磨すると、インゴットの大部分(70〜80%)が捨てられることになり不経済であるという問題がある。特に単結晶SiCインゴットにおいては、硬度が高くワイヤーソーでの切断が困難であり相当の時間を要するため生産性が悪いと共に、インゴットの単価が高く効率よくウエーハを生成することに課題を有している。
【0004】
そこで本出願人は、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を単結晶SiCインゴットの内部に位置づけて単結晶SiCインゴットにレーザー光線を照射し切断予定面に剥離層を形成し、剥離層からウエーハを剥離する技術を提案した(特許文献2参照。)。ところが、剥離層からウエーハを剥離することが困難であり生産効率が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−94221号公報
【特許文献2】特開2016−111143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、単結晶SiCインゴットからウエーハを効率よく剥離することができるウエーハ生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明が提供するのは、以下のウエーハ生成方法である。すなわち、c軸とc軸に直交するc面とを有する単結晶SiCインゴットからウエーハを生成するウエーハ生成方法であって、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を単結晶SiCインゴットの端面から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置づけて単結晶SiCインゴットにレーザー光線を照射してSiCがSiとCとに分離した改質部と改質部からc面に等方的に形成されるクラックとからなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、剥離層が形成される外周領域の全部または一部に更にレーザー光線を照射してクラックを成長させて剥離のきっかけを形成する剥離きっかけ形成工程と、キャビテーションの発生が抑制される温度として0〜25℃に設定された水中に単結晶SiCインゴットを浸漬し単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波をを介して単結晶SiCインゴットに付与することによって、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットの一部を剥離しウエーハを生成するウエーハ生成工程と、から少なくとも構成されるウエーハ生成方法である。
【0008】
好ましくは、上記単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数は単結晶SiCインゴットの固有振動数の0.8倍である。該剥離層形成工程において、単結晶SiCインゴットの端面の垂線とc軸とが一致している場合、連続的に形成された改質部からc面に等方的に形成されたクラックの幅を超えない範囲で単結晶SiCインゴットと集光点とを相対的にインデックス送りして改質部を連続的に形成してクラックとクラックとを連結させて剥離層を形成するのが好都合である。該剥離層形成工程において、単結晶SiCインゴットの端面の垂線に対してc軸が傾いている場合、c面と端面とでオフ角が形成される方向と直交する方向に改質部を連続的に形成して改質部からc面に等方的にクラックを形成し、該オフ角が形成される方向にクラックの幅を超えない範囲で単結晶SiCインゴットと集光点とを相対的にインデックス送りして該オフ角が形成される方向と直交する方向に改質部を連続的に形成して改質部からc面に等方的にクラックを順次形成して剥離層を形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明が提供するウエーハ生成方法は、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を単結晶SiCインゴットの端面から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置づけて単結晶SiCインゴットにレーザー光線を照射してSiCがSiとCとに分離した改質部と改質部からc面に等方的に形成されるクラックとからなる剥離層を形成する剥離層形成工程と、剥離層が形成される外周領域の全部または一部に更にレーザー光線を照射してクラックを成長させて剥離のきっかけを形成する剥離きっかけ形成工程と、キャビテーションの発生が抑制される温度として0〜25℃に設定された水中に単結晶SiCインゴットを浸漬し単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波をを介して単結晶SiCインゴットに付与することによって、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットの一部を剥離しウエーハを生成するウエーハ生成工程と、から少なくとも構成されているので、剥離のきっかけを介して単結晶SiCインゴットからウエーハを効率よく剥離することができ、したがって生産性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】端面の垂線とc軸とが一致している単結晶SiCインゴットの斜視図。
図2】剥離層形成工程が実施されている状態を示す斜視図(a)及び正面図(b)。
図3】上方から見た改質部及びクラックを示す模式図。
図4】上方から見た改質部を示す模式図。
図5】剥離層形成工程において改質部が周方向に連続的に形成されている状態を示す斜視図。
図6】剥離層が形成された外周領域の一部に剥離のきっかけが形成された単結晶SiCインゴットの斜視図。
図7】剥離層が形成された外周領域の全部に剥離のきっかけが形成された単結晶SiCインゴットの斜視図。
図8】ウエーハ生成工程が実施されている状態を示す正面図(a)及び生成されたウエーハの斜視図(b)。
図9】端面の垂線に対してc軸が傾いている単結晶SiCインゴットの正面図(a)、平面図(b)及び斜視図(c)。
図10】剥離層形成工程が実施されている状態を示す斜視図(a)及び正面図(b)。
図11】剥離層が形成された単結晶SiCインゴットの平面図(a)、B−B線断面図。
図12】剥離層が形成された外周領域の一部に剥離のきっかけが形成された単結晶SiCインゴットの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のウエーハ生成方法は、単結晶SiCインゴットのc軸が端面の垂線に対して傾いるか否かに関わらず使用することができるところ、まず、端面の垂線とc軸とが一致している単結晶SiCインゴットにおける本発明のウエーハ生成方法の実施形態について図1ないし図8を参照しつつ説明する。
【0012】
図1に示す円柱形状の六方晶単結晶SiCインゴット2(以下「インゴット2」という。)は、円形状の第一の面4(端面)と、第一の面4と反対側の円形状の第二の面6と、第一の面4及び第二の面6の間に位置する周面8と、第一の面4から第二の面6に至るc軸(<0001>方向)と、c軸に直交するc面({0001}面)とを有する。インゴット2においては、第一の面4の垂線10に対してc軸が傾いておらず、垂線10とc軸とが一致している。
【0013】
図示の実施形態では、まず、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さにSiCがSiとCとに分離した改質部と改質部からc面に等方的に形成されるクラックとからなる剥離層を形成する剥離層形成工程を実施する。剥離層形成工程は、たとえば図2にその一部を示すレーザー加工装置12を用いて実施することができる。レーザー加工装置12は、被加工物を保持するチャックテーブル14と、チャックテーブル14に保持された被加工物にパルスレーザー光線LBを照射する集光器16とを備える。チャックテーブル14は、回転手段によって上下方向に延びる軸線を中心として回転されると共に、X方向移動手段によってX方向に進退され、Y方向移動手段によってY方向に進退される(いずれも図示していない。)。集光器16は、レーザー加工装置12のパルスレーザー光線発振器から発振されたパルスレーザー光線LBを集光して被加工物に照射するための集光レンズ(いずれも図示していない。)を含む。なお、X方向は図2に矢印Xで示す方向であり、Y方向は図2に矢印Yで示す方向であってX方向に直交する方向である。X方向及びY方向が規定する平面は実質上水平である。
【0014】
剥離層形成工程では、まず、インゴット2の第二の面6とチャックテーブル14の上面との間に接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤)を介在させ、チャックテーブル14にインゴット2を固定する。あるいは、チャックテーブル14の上面に複数の吸引孔が形成されており、チャックテーブル14の上面に吸引力を生成してインゴット2を保持してもよい。次いで、レーザー加工装置12の撮像手段(図示していない。)によって第一の面4の上方からインゴット2を撮像する。次いで、撮像手段によって撮像されたインゴット2の画像に基づいて、レーザー加工装置12のX方向移動手段及びY方向移動手段によってチャックテーブル14を移動させることによって、インゴット2と集光器16とのXY平面における位置を調整する。次いで、レーザー加工装置12の集光点位置調整手段(図示していない。)によって集光器16を昇降させ、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに集光点FPを位置づける。次いで、インゴット2と集光点FPとを相対的に移動させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット2に照射する改質部形成加工を行う。図示の実施形態では図2に示すとおり、改質部形成加工において、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を所定の加工送り速度でX方向移動手段によってX方向に加工送りしている。改質部形成加工によって、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した直線状の改質部18をX方向に沿って連続的に形成することができると共に、図3に示すとおり、改質部18からc面に沿って等方的に延びるクラック20を形成することができる。図3に改質部18を中心としてクラック20が形成される領域を二点鎖線で示す。図4を参照して説明すると、改質部18の直径をDとし、加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔をLとすると、D>Lの関係(すなわち、加工送り方向であるX方向において隣接する改質部18と改質部18とが重複する関係)を有する領域で改質部18からc面に沿って等方的にクラック20が形成される。加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔Lは、集光点FPとチャックテーブル14との相対速度V、及びパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fにより規定される(L=V/F)。図示の実施形態では、集光点FPに対するチャックテーブル14のX方向への加工送り速度Vと、パルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fとを調整することによってD>Lの関係を満たすことができる。
【0015】
剥離層形成工程では改質部形成加工に続いて、クラック20の幅を超えない範囲で、インゴット2と集光点FPとを相対的にインデックス送りする。図示の実施形態ではインデックス送りにおいて、クラック20の幅を超えない範囲で、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をY方向移動手段によってY方向に所定インデックス量Liだけインデックス送りしている。そして、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、X方向に沿って連続的に延びる改質部18をY方向にインデックス量Liの間隔をおいて複数形成すると共に、Y方向において隣接するクラック20とクラック20とを連結させる。これによって、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した改質部18と改質部18からc面に等方的に形成されるクラック20とからなる、インゴット2からウエーハを剥離するための剥離層22を形成することができる。なお、剥離層形成工程では、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット2の同じ部分に改質部形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。
【0016】
剥離層形成工程の改質部形成加工においては、インゴット2と集光点FPとを相対的に移動すればよく、たとえば図5に示すとおり、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を上方からみて反時計回り(時計回りでもよい。)に所定の回転速度でレーザー加工装置12の回転手段によって回転させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット2に照射してもよい。これによって、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した環状の改質部18をインゴット2の周方向に沿って連続的に形成することができると共に、改質部18からc面に沿って等方的に延びるクラック20を形成することができる。上述したとおり、改質部18の直径をDとし、加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔をLとすると、D>Lの関係を有する領域で改質部18からc面に沿って等方的にクラック20が形成され、また加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔Lは、集光点FPとチャックテーブル14との相対速度V、及びパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fにより規定される(L=V/F)ところ、図5に示す場合には、集光点FP位置における集光点FPに対するチャックテーブル14の周速度Vと、パルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fとを調整することによってD>Lの関係を満たすことができる。
【0017】
改質部形成加工をインゴット2の周方向に沿って環状に行った場合には、クラック20の幅を超えない範囲で、たとえば、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をX方向移動手段又はY方向移動手段によってインゴット2の径方向に所定インデックス量Liだけインデックス送りする。そして、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット2の周方向に沿って連続的に延びる改質部18をインゴット2の径方向にインデックス量Liの間隔をおいて複数形成すると共に、インゴット2の径方向において隣接するクラック20とクラック20とを連結させる。これによって、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した改質部18と改質部18からc面に等方的に形成されるクラック20とからなる、インゴット2からウエーハを剥離するための剥離層22を形成することができる。なお、図5に示す場合においても、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット2の同じ部分に改質部形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。
【0018】
図6を参照して説明する。剥離層形成工程を実施した後、剥離層22が形成される外周領域の全部または一部に更にレーザー光線を照射してクラック20を成長させて適宜の幅Lsの剥離のきっかけ23を形成する剥離きっかけ形成工程を実施する。剥離きっかけ形成工程は、上述のレーザー加工装置12を用いて実施することができる。剥離きっかけ形成工程では、剥離層形成工程においてレーザー加工装置12の撮像手段によって撮像されたインゴット2の画像に基づいて、レーザー加工装置12のX方向移動手段及びY方向移動手段によって、インゴット2を固定したチャックテーブル14を移動させることによって、剥離層22が形成されたインゴット2の外周の上方に集光器16を位置づける。集光点FPの上下方向位置は、剥離層形成工程における集光点FPの上下方向位置と同一であり、すなわち、第一の面4から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さである。次いで、インゴット2と集光点FPとを相対的に移動させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット2に照射してクラック20を成長させる剥離きっかけ形成加工を行う。図示の実施形態では剥離きっかけ形成加工において、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を所定の加工送り速度でX方向移動手段によってX方向に加工送りしている。
【0019】
剥離きっかけ形成工程では剥離きっかけ形成加工に続いて、インゴット2と集光点FPとを相対的にインデックス送りする。図示の実施形態ではインデックス送りにおいて、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をY方向移動手段によってY方向に所定インデックス量Liだけインデックス送りしている。剥離きっかけ形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量は、剥離層形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量と同一でよい。そして、剥離きっかけ形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、剥離層22が形成される外周領域の全部または一部(図示の実施形態では図6に示すとおり、剥離層22が形成された外周領域の一部)に剥離のきっかけ23を形成することができる。剥離のきっかけ23は、剥離層22における他の部分と比較して、パルスレーザー光線LBの照射回数が多く強度がより低下しているため剥離が生じやすく、剥離の起点となる部分である。剥離のきっかけ23の幅Ls(図示の実施形態ではY方向における幅)は10mm程度でよい。なお、剥離きっかけ形成工程では、剥離きっかけ形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット2の同じ部分に剥離きっかけ形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。また、剥離きっかけ形成工程は剥離層形成工程の前に実施してもよい。
【0020】
剥離きっかけ形成工程の剥離きっかけ形成加工においては、インゴット2と集光点FPとを相対的に移動すればよく、たとえば上述の図5に示す場合には、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を上方からみて反時計回り(時計回りでもよい。)に所定の回転速度でレーザー加工装置12の回転手段によって回転させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット2に照射してクラック20を成長させることもできる。
【0021】
剥離きっかけ形成加工をインゴット2の周方向に沿って環状に行った場合には、たとえば、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をX方向移動手段又はY方向移動手段によってインゴット2の径方向に所定インデックス量Liだけインデックス送りする。剥離きっかけ形成加工をインゴット2の周方向に沿って環状に行った場合にも、剥離きっかけ形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量は、剥離層形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量と同一でよい。剥離きっかけ形成加工をインゴット2の周方向に沿って環状に行って剥離層22が形成された外周領域の全部に剥離のきっかけ23を形成した場合を図7に示す。図7に示す場合においても、剥離のきっかけ23の幅Ls(インゴット2の径方向における幅)は10mm程度でよく、また、剥離きっかけ形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット2の同じ部分に剥離きっかけ形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。
【0022】
剥離きっかけ形成工程を実施した後、剥離層22を界面としてインゴット2の一部を剥離してウエーハを生成するウエーハ生成工程を実施する。ウエーハ生成工程は、たとえば図8に示す剥離装置24を用いて実施することができる。剥離装置24は、液体26を収容する液槽28と、液槽28内に配置された超音波振動板30と、超音波振動板30に超音波振動を付与する超音波振動付与手段32とを備える。
【0023】
図8を参照して説明を続けると、ウエーハ生成工程では、まず、剥離層22及び剥離のきっかけ23から近い方の端面である第一の面4を上に向けて、インゴット2を液槽28内に入れ液体26中に浸漬すると共に超音波振動板30の上面に載せる。次いで、インゴット2の固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波振動を超音波振動付与手段32から超音波振動板30に付与する。そうすると、インゴット2の固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波が超音波振動板30から液体26を介してインゴット2に付与される。これによって、剥離のきっかけ23を起点に剥離層22を界面としてインゴット2の一部を効率よく剥離してウエーハ34を生成することができ、したがって生産性の向上が図られる。
【0024】
なお、インゴット2の固有振動数と近似する周波数とは、インゴット2を液体26中に浸漬し液体26を介してインゴット2に超音波を付与することによって剥離層22を界面としてインゴット2の一部を剥離する際に、インゴット2の固有振動数よりも所定量低い周波数から徐々に超音波の周波数を上昇させたときに、剥離のきっかけ23を起点に剥離層22を界面とするインゴット2の一部剥離が開始する周波数であり、インゴット2の固有振動数よりも小さい周波数である。具体的には、インゴット2の固有振動数と近似する周波数はインゴット2の固有振動数の0.8倍程度である。また、ウエーハ生成工程を実施する際の液層28内の液体26は水であり、水の温度は、超音波振動付与手段32から超音波振動板30に超音波振動が付与された際にキャビテーションの発生が抑制される温度に設定されているのが好ましい。具体的には、水の温度が0〜25℃に設定されているのが好適であり、これによって超音波のエネルギーがキャビテーションに変換されることなく、効果的にインゴット2に超音波のエネルギーを付与することができる。
【0025】
次に、端面の垂線に対してc軸が傾いている単結晶SiCインゴットにおける本発明のウエーハ生成方法の実施形態について図9ないし図12を参照しつつ説明する。
【0026】
図9に示す全体として円柱形状の六方晶単結晶SiCインゴット40(以下「インゴット40」という。)は、円形状の第一の面42(端面)と、第一の面42と反対側の円形状の第二の面44と、第一の面42及び第二の面44の間に位置する周面46と、第一の面42から第二の面44に至るc軸(<0001>方向)と、c軸に直交するc面({0001}面)とを有する。インゴット40においては、第一の面42の垂線48に対してc軸が傾いており、c面と第一の面42とでオフ角α(たとえばα=1、3、6度)が形成されている。オフ角αが形成される方向を図9に矢印Aで示す。また、インゴット40の周面46には、結晶方位を示す矩形状の第一のオリエンテーションフラット50及び第二のオリエンテーションフラット52が形成されている。第一のオリエンテーションフラット50は、オフ角αが形成される方向Aに平行であり、第二のオリエンテーションフラット52は、オフ角αが形成される方向Aに直交している。図9(b)に示すとおり、垂線48の方向にみて、第二のオリエンテーションフラット52の長さL2は、第一のオリエンテーションフラット50の長さL1よりも短い(L2<L1)。
【0027】
図示の実施形態では、まず、第一の面42から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さにSiCがSiとCとに分離した改質部と改質部からc面に等方的に形成されるクラックとからなる剥離層を形成する剥離層形成工程を実施する。剥離層形成工程は、上述のレーザー加工装置12を用いて実施することができる。剥離層形成工程では、まず、インゴット40の第二の面44とチャックテーブル14の上面との間に接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤)を介在させ、チャックテーブル14にインゴット40を固定する。あるいは、チャックテーブル14の上面に複数の吸引孔が形成されており、チャックテーブル14の上面に吸引力を生成してインゴット40を保持してもよい。次いで、レーザー加工装置12の撮像手段によって第一の面42の上方からインゴット40を撮像する。次いで、撮像手段によって撮像されたインゴット40の画像に基づいて、レーザー加工装置12のX方向移動手段、Y方向移動手段及び回転手段によってチャックテーブル14を移動及び回転させることによって、インゴット40の向きを所定の向きに調整すると共に、インゴット40と集光器16とのXY平面における位置を調整する。インゴット40の向きを所定の向きに調整する際は、図10(a)に示すとおり、第一のオリエンテーションフラット50をY方向に整合させると共に、第二のオリエンテーションフラット52をX方向に整合させることによって、オフ角αが形成される方向AをY方向に整合させると共に、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向をX方向に整合させる。次いで、レーザー加工装置12の集光点位置調整手段によって集光器16を昇降させ、第一の面42から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに集光点FPを位置づける。次いで、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向と整合しているX方向にインゴット40と集光点FPとを相対的に移動させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット40に照射する改質部形成加工を行う。図示の実施形態では図10に示すとおり、改質部形成加工において、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を所定の加工送り速度でX方向移動手段によってX方向に加工送りしている。改質部形成加工によって、第一の面42から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した直線状の改質部18をオフ角αが形成される方向Aと直交する方向(X方向)に沿って連続的に形成することができると共に、図11に示すとおり、改質部54からc面に沿って等方的に延びるクラック56を形成することができる。上述したとおり、改質部54の直径をDとし、加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔をLとすると、D>Lの関係を有する領域で改質部54からc面に沿って等方的にクラック56が形成され、また加工送り方向において隣接する集光点FPの間隔Lは、集光点FPとチャックテーブル14との相対速度V、及びパルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fにより規定される(L=V/F)ところ、本実施形態では、集光点FPに対するチャックテーブル14のX方向への加工送り速度Vと、パルスレーザー光線LBの繰り返し周波数Fとを調整することによってD>Lの関係を満たすことができる。
【0028】
剥離層形成工程では改質部形成加工に続いて、クラック56の幅を超えない範囲で、オフ角αが形成される方向Aに整合しているY方向にインゴット40と集光点FPとを相対的にインデックス送りする。図示の実施形態ではインデックス送りにおいて、クラック56の幅を超えない範囲で、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をY方向移動手段によってY方向に所定インデックス量Li’だけインデックス送りしている。そして、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向に沿って連続的に延びる改質部54を、オフ角αが形成される方向Aにインデックス量Li’の間隔をおいて複数形成すると共に、オフ角αが形成される方向Aにおいて隣接するクラック56とクラック56とを連結させる。これによって、第一の面42から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに、SiCがSiとCとに分離した改質部54と改質部54からc面に等方的に形成されるクラック56とからなる、インゴット40からウエーハを剥離するための剥離層58を形成することができる。なお、剥離層形成工程では、改質部形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット40の同じ部分に改質部形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。
【0029】
図12を参照して説明する。剥離層形成工程を実施した後、剥離層58が形成される外周領域の全部または一部に更にレーザー光線を照射してクラック56を成長させて適宜の幅Ls’の剥離のきっかけ59を形成する剥離きっかけ形成工程を実施する。剥離きっかけ形成工程は、上述のレーザー加工装置12を用いて実施することができる。剥離きっかけ形成工程では、剥離層形成工程においてレーザー加工装置12の撮像手段によって撮像されたインゴット40の画像に基づいて、レーザー加工装置12のX方向移動手段、Y方向移動手段及び回転手段によって、インゴット40を固定したチャックテーブル14を移動及び回転させることによって、剥離層58が形成されたインゴット40の向きを調整すると共に、インゴット40の外周の上方に集光器16を位置づける。インゴット40の向きについては、剥離層形成工程と同様に、第一のオリエンテーションフラット50をY方向に整合させると共に、第二のオリエンテーションフラット52をX方向に整合させることによって、オフ角αが形成される方向AをY方向に整合させると共に、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向をX方向に整合させる。また、集光点FPの上下方向位置は、剥離層形成工程における集光点FPの上下方向位置と同一であり、すなわち、第一の面42から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さである。次いで、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向と整合しているX方向にインゴット40と集光点FPとを相対的に移動させながら、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器16からインゴット40に照射してクラック56を成長させる剥離きっかけ形成加工を行う。図示の実施形態では剥離きっかけ形成加工において、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14を所定の加工送り速度でX方向移動手段によってX方向に加工送りしている。
【0030】
剥離きっかけ形成工程では剥離きっかけ形成加工に続いて、オフ角αが形成される方向Aに整合しているY方向にインゴット40と集光点FPとを相対的にインデックス送りする。図示の実施形態ではインデックス送りにおいて、集光点FPを移動させずに集光点FPに対してチャックテーブル14をY方向移動手段によってY方向に所定インデックス量Li’だけインデックス送りしている。剥離きっかけ形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量は、剥離層形成工程のインデックス送りにおけるインデックス量と同一でよい。そして、剥離きっかけ形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、剥離層58が形成される外周領域の全部または一部(図示の実施形態では図12に示すとおり、剥離層58が形成された外周領域の一部)に剥離のきっかけ59を形成することができる。剥離のきっかけ59は、剥離層58における他の部分と比較して、パルスレーザー光線LBの照射回数が多く強度がより低下しているため剥離が生じやすく、剥離の起点となる部分である。剥離のきっかけ59の幅Ls(図示の実施形態ではY方向における幅)は10mm程度でよい。なお、剥離きっかけ形成工程では、剥離きっかけ形成加工とインデックス送りとを交互に繰り返すことにより、インゴット40の同じ部分に剥離きっかけ形成加工を複数回(たとえば4回)行ってもよい。また、剥離きっかけ形成工程は剥離層形成工程の前に実施してもよい。
【0031】
剥離きっかけ形成工程を実施した後、剥離層58を界面としてインゴット40の一部を剥離してウエーハを生成するウエーハ生成工程を実施する。ウエーハ生成工程は、上述の剥離装置24を用いて実施することができる。ウエーハ生成工程では、まず、剥離層58及び剥離のきっかけ59から近い方の端面である第一の面42を上に向けて、インゴット40を液槽28内に入れ液体26中に浸漬すると共に超音波振動板30の上面に載せる。次いで、インゴット40の固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波振動を超音波振動付与手段32から超音波振動板30に付与する。そうすると、インゴット40の固有振動数と近似する周波数以上の周波数を有する超音波が超音波振動板30から液体26を介してインゴット40に付与される。これによって、剥離のきっかけ59を起点に剥離層58を界面としてインゴット40の一部を効率よく剥離してウエーハを生成することができ、したがって生産性の向上が図られる。
【0032】
本実施形態においても、インゴット40の固有振動数と近似する周波数とは、インゴット40を液体26中に浸漬し液体26を介してインゴット40に超音波を付与することによって剥離層58を界面としてインゴット40の一部を剥離する際に、インゴット40の固有振動数よりも所定量低い周波数から徐々に超音波の周波数を上昇させたときに、剥離のきっかけ59を起点に剥離層58を界面とするインゴット40の一部剥離が開始する周波数であり、インゴット40の固有振動数よりも小さい周波数である。具体的には、インゴット40の固有振動数と近似する周波数はインゴット40の固有振動数の0.8倍程度である。また、ウエーハ生成工程を実施する際の液層28内の液体26は水であり、水の温度は、超音波振動付与手段32から超音波振動板30に超音波振動が付与された際にキャビテーションの発生が抑制される温度に設定されているのが好ましい。具体的には、水の温度が0〜25℃に設定されているのが好適であり、これによって超音波のエネルギーがキャビテーションに変換されることなく、効果的にインゴット40に超音波のエネルギーを付与することができる。
【0033】
ここで、単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する周波数と、剥離装置の液槽に収容する液体の温度とについて、下記のレーザー加工条件下で本発明者が行った実験の結果に基づいて説明する。
【0034】
[レーザー加工条件]
パルスレーザー光線の波長 :1064nm
繰り返し周波数F :60kHz
平均出力 :1.5W
パルス幅 :4ns
スポット径 :3μm
集光レンズの開口数(NA) :0.65
加工送り速度V :200mm/s
【0035】
[実験1]適正な剥離層の形成
厚み3mmの単結晶SiCインゴットの端面から100μm内側にパルスレーザー光線の集光点を位置づけて単結晶SiCインゴットにパルスレーザー光線を照射し、SiCがSiとCとに分離した直径φ17μmの改質部を形成し、加工送り方向において隣接する改質部同士の重なり率R=80%で連続的に改質部を形成し、改質部からc面に等方的に直径φ150μmのクラックを形成した。その後、集光器を150μmインデックス送りして同様に改質部を連続的に形成すると共にクラックを形成してウエーハの厚みに相当する100μmの深さに剥離層を形成した。なお、改質部同士の重なり率Rは、改質部の直径D=φ17μmと、加工送り方向において隣接する集光点同士の間隔Lとから、次のとおりに算出される。また、加工送り方向において隣接する集光点同士の間隔Lは、上述のとおり、加工送り速度V(本実験では200mm/s)と、パルスレーザー光線の繰り返し周波数F(本実験では60kHz)とで規定される(L=V/F)。
R=(D−L)/D
={D−(V/F)}/D
=[17(μm)−{200(mm/s)/60(kHz)}]/17(μm)
=[17×10−6(m)−{200×10−3(m/s)/60×10(Hz)
}]/17×10−6(m)
=0.8
【0036】
[実験2]固有振動数に対する超音波の周波数依存性
厚み3mmの上記単結晶SiCインゴットの固有振動数を求めたところ25kHzであった。そこで実験2では、実験1で剥離層を形成した上記単結晶SiCインゴットを25℃の水に浸漬して付与する超音波の出力を100Wとし、超音波の周波数を10kHz、15kHz、20kHz、23kHz、25kHz、27kHz、30kHz、40kHz、50kHz、100kHz、120kHz、150kHzと上昇させ、実験1で形成した剥離層を界面として上記単結晶SiCインゴットからウエーハが剥離する時間を計測して周波数依存性を検証した。
[実験2の結果]
周波数 剥離時間
10kHz 10分経過しても剥離しなかった:NG
15kHz 10分経過しても剥離しなかった:NG
20kHz 90秒で剥離した
23kHz 30秒で剥離した
25kHz 25秒で剥離した
27kHz 30秒で剥離した
30kHz 70秒で剥離した
40kHz 170秒で剥離した
50kHz 200秒で剥離した
100kHz 220秒で剥離した
120kHz 240秒で剥離した
150kHz 300秒で剥離した
【0037】
[実験3]超音波の出力依存性
実験2では超音波の出力を100Wに固定し、超音波の周波数を変化させて、実験1で剥離層を形成した上記単結晶SiCインゴットからのウエーハの剥離時間を計測したが、実験3では、超音波の周波数毎に超音波の出力を200W、300W、400W、500Wと上昇させ、実験1で形成した剥離層を界面として上記単結晶SiCインゴットからウエーハが剥離する時間を計測して出力依存性を検証した。なお、下記「NG」は、実験2の結果と同様に、単結晶SiCインゴットに超音波の付与を開始してから10分経過しても単結晶SiCインゴットからウエーハが剥離しなかったことを意味する。
[実験3の結果]
出力毎の剥離時間
周波数 200W 300W 400W 500W
10kHz NG NG NG NG
15kHz NG NG NG NG
20kHz 50秒 33秒 15秒 6秒
23kHz 16秒 10秒 4秒 3秒
25kHz 3秒 1秒 1秒以下 1秒以下
27kHz 15秒 11秒 5秒 2秒
30kHz 48秒 40秒 18秒 3秒
40kHz 90秒 47秒 23秒 4秒
50kHz 100秒 58秒 24秒 6秒
100kHz 126秒 63秒 26秒 7秒
120kHz 150秒 70秒 27秒 8秒
150kHz 170秒 82秒 42秒 20秒
【0038】
[実験4]温度依存性
実験4では、実験1で剥離層を形成した上記単結晶SiCインゴットを浸漬する水の温度を0℃から上昇させ、実験1で形成した剥離層を界面として上記単結晶SiCインゴットからウエーハが剥離する時間を計測して温度依存性を検証した。なお、実験4では、超音波の周波数を25kHzに設定し、超音波の出力を500Wに設定した。
[実験4の結果]
温度 剥離時間
0℃ 0.07秒
5℃ 0.09秒
10℃ 0.12秒
15℃ 0.6秒
20℃ 0.8秒
25℃ 0.9秒
30℃ 3.7秒
35℃ 4.2秒
40℃ 6.1秒
45℃ 7.1秒
50℃ 8.2秒
【0039】
実験2の結果から、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットからウエーハを剥離するための超音波の周波数は単結晶SiCインゴットの固有振動数(本実験で用いた単結晶SiCインゴットにおいては25kHz)に依存し、単結晶SiCインゴットの固有振動数と近似する20kHz(単結晶SiCインゴットの固有振動数の0.8倍の周波数)であることを確認することができた。また、単結晶SiCインゴットの固有振動数の近傍の20〜30kHz(単結晶SiCインゴットの固有振動数の0.8〜1.5倍の周波数)で、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットからウエーハが効果的に(比較的短い時間で)剥離することを確認することができた。また、実験3の結果から、単結晶SiCインゴットの固有振動数の近傍の20〜30kHzを超える周波数であっても、超音波の出力を高めることにより、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットからウエーハが効果的に剥離することを確認することができた。さらに、実験4の結果から、剥離装置の液槽に収容する液体が水である場合に、水の温度が25℃を超えると超音波のエネルギーがキャビテーションに変換されてしまうため、剥離層を界面として単結晶SiCインゴットからウエーハを効果的に剥離することができないことを確認することができた。
【符号の説明】
【0040】
2:端面の垂線とc軸とが一致している単結晶SiCインゴット
4:第一の面(端面)
10:垂線
18:改質部
20:クラック
22:剥離層
23:剥離のきっかけ
26:液体
34:ウエーハ
40:端面の垂線に対してc軸が傾いている単結晶SiCインゴット
42:第一の面(端面)
48:垂線
54:改質部
56:クラック
58:剥離層
59:剥離のきっかけ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12