(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁場を印加した一対の成膜ロール間に、50Hz〜500kHzの電力を供給することにより生じるプラズマ放電により、原料ガスと反応ガスとを分解及び反応させる、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、プラズマ化学気相成長法を用いて、基材と、該基材の少なくとも一方の面に積層された薄膜層とを含む積層体を製造する方法である。該方法は、基材を一対の成膜ロール上に配置し、該一対の成膜ロール間に原料ガスと反応ガスとを含む成膜ガスを供給し、該ロール間に生じるプラズマ放電により原料ガスと反応ガスとを分解及び反応させて、基材の少なくとも一方の面に薄膜層を積層する工程(A)を含む。
【0009】
[基材]
基材は樹脂を含んでなる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性が高く、かつ、線膨張率が小さいので、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエステル系樹脂であるPET又はPENがより好ましい。これらの樹脂は、単独又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらの樹脂の表面に、平滑化などを目的として、他の樹脂をコートして基材として用いてもよい。また、積層体の光透過性が重要視されない場合には、例えば上記樹脂にフィラー、添加剤等を加えた複合材料を用いて基材を形成してもよい。
【0010】
基材の厚みは、積層体を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材の搬送が容易であることから、5〜500μmであることが好ましい。さらに、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)を用いて薄膜層を形成するため、基材を通して放電を行うことから、基材の厚みは50〜200μmであることがより好ましく、50〜100μmであることが特に好ましい。なお、基材は、形成する薄膜層との密着力を高めるために、表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0011】
基材の片面又は両面に、薄膜層とは別の層、例えば硬化性の有機層を積層することもできる。この場合、工程(A)において、別の層上に薄膜層を積層してよい。
【0012】
以下に、基材の片面または両面に有機層を積層する方法の一例について説明する。
【0013】
前記有機層の積層は、次の工程(i)を含む方法により行われる。
(i)アクリレート樹脂、アクリレートモノマーおよびアクリレートオリゴマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの有機物を基材上に塗布して塗布膜を得る工程
前記有機物がアクリレートモノマーまたはアクリレートオリゴマーを含む場合は、さらに工程(ii)を含むことが好ましい。
(ii)前記塗布膜を硬化させて硬化膜を得る工程
工程(i)で得られる塗布膜を有機層とすることもできるし、工程(ii)で得られる硬化膜を有機層とすることもできる。
【0014】
前記有機物を塗布する方法としては、特に限定は無いが、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ブレードコーティング法、ディップコーティング法、ローラーコーティング法、もしくはランドコーティング法等によるウェットコーティング法、または蒸着法等のドライコーティング法のいずれをも利用できる。
【0015】
前記有機物を塗布する際に、前記有機物を溶媒に溶かしてもよい。用いる溶媒としては、例えば、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの無極性溶媒、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、DMAc、DMF、γブチロラクトン、NMP、DMSOなどの非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジアセトンアルコール、水などのプロトン性極性溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒などが挙げられる。
【0016】
前記有機層は、アクリレート樹脂を含有したものである。前記アクリレート樹脂は、光硬化性樹脂であることが好ましい。光硬化性樹脂は、紫外線や電子線等により重合が開始し、硬化が進行する樹脂である。
【0017】
前記有機層は、効果を損なわない程度に、アクリレート樹脂以外の樹脂を含んでもよい。具体的には、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、スチレン樹脂、およびアルキルチタネート等が挙げられ、これらを1または2種以上併せて含んでもよい。
【0018】
アクリレート樹脂としては、(メタ)アクリロイル基を有するアクリルモノマー由来の構成単位を主成分として含む樹脂を用いることが好ましい。ここで、「主成分」とは、有機層の全成分の質量に対してその成分の含有量が50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることをいう。前記アクリレート樹脂としては、例えば、アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリオールアクリレート樹脂を挙げることができる。前記アクリレート樹脂は、紫外線硬化型アクリレート樹脂、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂であることが好ましい。ここで(メタ)アクリロイルとはアクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0019】
アクリレート樹脂としては、剛体振り子型物性試験機により前記有機層表面の弾性率の温度変化を評価した場合、前記有機層表面の弾性率が50%以上低下する温度が150℃以上であるものが好ましい。
【0020】
前記有機物は、成膜ロールにかけられた基材の滑り性を向上させることを目的として、、無機フィラー、有機フィラー、有機無機複合フィラーの1又は2種以上を併せて含んでもよい。これらの中でも、光学特性や耐摩耗性が良好であることから、無機フィラーが好ましく、特に表面硬度の向上や屈折率を制御するという観点から、無機酸化物フィラーが好ましい。具体的には、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ等が挙げられ、これらを1又は2種以上併せて含んでもよい。
【0021】
前記有機物は、光重合を開始させやすくすることを目的として、光重合開始剤を含んでもよい。光重合開始剤の例としては、例えば、ベンゾフェノンやその誘導体、ベンジルジメチルケタール類、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類などが挙げられる。具体的には、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュアー(Irgacure)シリーズ(例えばイルガキュアー651、イルガキュアー754、イルガキュアー184、など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えばダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えばエザキュアTZM、エザキュアTZTなど)等を用いることができる。
【0022】
前記有機物中には、本発明における積層体の性能を損なわない程度に、前記アクリレート樹脂等、前記フィラー並びに前記光重合開始剤以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えばレベリング剤、粘度調整剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、色素、UVAなどが挙げられる。
【0023】
有機層の厚みについては特に限定されないが、有機層の厚みの均一性とクラック等の欠陥を少なくする観点から、有機層の厚みは500nm〜5μmが好ましく、1μm〜3μmがより好ましい。
【0024】
[成膜ガス]
成膜ガスは、原料ガスと反応ガスとを含む。
【0025】
(原料ガス)
原料ガスは、有機シラン化合物を含む。有機シラン化合物は、好ましくはアルコキシアルキル基を少なくとも1以上含むアルコキシアルキル基含有シラン化合物である。原料ガスにアルコキシアルキル基を含むことにより、形成される薄膜層の黄ばみを有効に抑制することができる。アルコキシアルキル基としては、例えばメトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシ−n−プロピル基、メトキシ−i−プロピル基、メトキシ−n−ブチル基、メトキシ−i−ブチル基、メトキシ−sec−ブチル基、メトキシ−tert−ブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシ−n−プロピル基、エトキシ−i−プロピル基、エトキシ−n−ブチル基、エトキシ−i−ブチル基、エトキシ−sec−ブチル基、エトキシ−tert−ブチル基、n−プロポキシメチル基、n−プロポキシエチル基、n−プロポキシ−n−プロピル基、n−プロポキシ−i−プロピル基、n−プロポキシ−n−ブチル基、n−プロポキシ−i−ブチル基、n−プロポキシ−sec−ブチル基、n−プロポキシ−tert−ブチル基、i−プロポキシメチル基、i−プロポキシエチル基、i−プロポキシ−n−プロピル基、i−プロポキシ−i−プロピル基、i−プロポキシ−n−ブチル基、i−プロポキシ−i−ブチル基、i−プロポキシ−sec−ブチル基、i−プロポキシ−tert−ブチル基、n−ブトキシメチル基、n−ブトキシエチル基、n−ブトキシ−n−プロピル基、n−ブトキシ−i−プロピル基、n−ブトキシ−n−ブチル基、n−ブトキシ−i−ブチル基、n−ブトキシ−sec−ブチル基、n−ブトキシ−tert−ブチル基、i−ブトキシメチル基、i−ブトキシエチル基、i−ブトキシ−n−プロピル基、i−ブトキシ−i−プロピル基、i−ブトキシ−n−ブチル基、i−ブトキシ−i−ブチル基、i−ブトキシ−sec−ブチル基、i−ブトキシ−tert−ブチル基、sec−ブトキシメチル基、sec−ブトキシエチル基、sec−ブトキシ−n−プロピル基、sec−ブトキシ−i−プロピル基、sec−ブトキシ−n−ブチル基、sec−ブトキシ−i−ブチル基、sec−ブトキシ−sec−ブチル基、sec−ブトキシ−tert−ブチル基、tert−ブトキシメチル基、tert−ブトキシエチル基、tert−ブトキシ−n−プロピル基、tert−ブトキシ−i−プロピル基、tert−ブトキシ−n−ブチル基、tert−ブトキシ−i−ブチル基、tert−ブトキシ−sec−ブチル基、tert−ブトキシ−tert−ブチル基等の直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルコキシC
1−6アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
1−4アルコキシC
1−4アルキル基である。これらの中でも、形成される薄膜層の黄ばみをより効果的に抑制できるという観点から、メトキシメチル基、エトキシメチル基、メトキシエチル基及びエトキシエチル基がより好ましい。これらのアルコキシアルキル基は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、アルコキシアルキル基含有シラン化合物は、1以上のアルコキシアルキル基を含有していれば、他の任意の置換基を含むことができる。
【0026】
アルコキシアルキル基含有シラン化合物は、下記式(1)
【化2】
(式中、R
1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アリール基を示し、R
2はアルキレン基を示し、R
3はアルキル基を示し、xは1〜4の整数を示す)
で表される化合物が好ましい。
【0027】
前記式(1)において、R
1は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アリール基を示す。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルキル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基である。シクロアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC
5−8シクロアルキル基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基等のC
7−14アラルキル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の直鎖状又は分岐鎖状C
1−6アルコキシ基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基、ジメチルフェニル基等)、ビフェニル基、ナフチル基等のC
6−12アリール基が挙げられ、好ましくはフェニル基である。これらの中でも、薄膜層の黄ばみ抑制の観点から、メチル基、エチル基等のアルキル基が好ましい。
【0028】
前記式(1)において、R
2のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、n−ブチレン基、i−ブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基などが挙げられ、薄膜層の黄ばみ抑制の観点から、メチレン基、エチレン基が好ましい。R
3のアルキル基としては、例えばR
1として上記に例示したアルキル基が挙げられ、薄膜層の黄ばみ抑制の観点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0029】
前記式(1)において、xは1〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。xが1又は2である場合、Siに結合する(R
1)は同一又は異なる置換基であってよい。また、xが2〜4である場合、(R
2−O−R
3)は同一又は異なる置換基であってよい。
【0030】
前記式(1)で表される好ましい化合物の具体例としては、例えばテトラ(メトキシメチル)シラン、(メトキシメチル)トリメチルシラン、ジ(メトキシメチル)ジメチルシラン、メチルトリ(メトキシメチル)シラン、テトラ(エトキシメチル)シラン、(エトキシメチル)トリメチルシラン、ジ(エトキシメチル)ジメチルシラン、メチルトリ(エトキシメチル)シラン、テトラ(メトキシエチル)シラン、(メトキシエチル)トリメチルシラン、ジ(メトキシエチル)ジメチルシラン、メチルトリ(メトキシエチル)シラン、テトラ(エトキシエチル)シラン、(エトキシエチル)トリメチルシラン、ジ(エトキシエチル)ジメチルシラン、メチルトリ(エトキシエチル)シラン、(メトキシメチル)トリエチルシラン、ジ(メトキシメチル)ジエチルシラン、エチルトリ(メトキシメチル)シラン、(エトキシメチル)トリエチルシラン、ジ(エトキシメチル)ジエチルシラン、エチルトリ(エトキシメチル)シラン、(メトキシエチル)トリエチルシラン、ジ(メトキシエチル)ジエチルシラン、エチルトリ(メトキシエチル)シラン、(エトキシエチル)トリエチルシラン、ジ(エトキシエチル)ジエチルシラン、エチルトリ(エトキシエチル)シラン等が挙げられる。これらの化合物は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、形成される薄膜層の黄ばみを効果的に抑制するという観点から、(メトキシメチル)トリメチルシラン、(エトキシメチル)トリメチルシラン、(メトキシエチル)トリメチルシランが好ましく、(メトキシメチル)トリメチルシランがより好ましい。
【0031】
また、有機シラン化合物としてアルコキシアルキル基を含有しないシラン化合物を用いることもできる。そのような化合物は、例えば、下記式(2)〜(4)
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、R
4〜R
15はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アリール基、ビニル基を示し、pは0又は1を示し、qは2〜4を示す)
で表される化合物が挙げられる。
【0032】
前記式(2)〜(4)において、R
4〜R
15のアルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリール基としては、R
1として上記に例示したものが挙げられる。これらの中でも、アルキル基、アルコキシ基が好ましい。qは2〜4であり、好ましくは3である。また、前記式(4)において、異なるSiに結合したR
14及びR
15はそれぞれ同一又は異なっていてよい。
【0033】
前記式(2)〜(4)で表される好ましい化合物の具体例としては、例えばヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。これらの化合物は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
(反応ガス)
反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。反応ガスは好ましくは酸素を含む。窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、単独又は二種以上組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0035】
成膜ガスは、原料ガス及び反応ガスを一対の成膜ロール間に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを含んでいてもよい。また、成膜ガスは、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを含んでいてもよい。キャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス、水素を用いることができる。
【0036】
[製造方法]
本発明は、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)により、前記基材の少なくとも一方の面に薄膜層を形成する工程(A)を含む。
【0037】
工程(A)では、前記基材を配置した一対の成膜ロール間の空間に前記成膜ガスを供給し、供給された成膜ガスをプラズマ放電させ、前記原料ガスと前記反応ガスとを分解及び反応させることにより、前記基材の少なくとも一方の面に薄膜層を形成する。
【0038】
成膜ロールは、一対の成膜ロール間に成膜ガスの放電プラズマを発生させる機能を有するものである。このような一対の成膜ロールは、成膜ロール間に電力を供給し、プラズマ放電のための一対の対抗電力として機能するように、プラズマ発生用電源に接続されていてよい。プラズマ発生用電源により、成膜ロール間、より詳細には成膜ロール間の空間に放電プラズマを発生させることが可能となる。プラズマ発生用電源としては、適宜公知のものを用いることができ、より効率的にプラズマCVDを実施可能となることから、一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが可能な交流電源等を利用することが好ましい。一対の成膜ロール間に、中周波数、例えば50Hz〜500kHz、好ましくは1kHz〜300kHz、より好ましくは1kHz〜200kHzの電力を供給することができる。中周波数が上記範囲であると、過剰の熱量の発生による成膜ロールの損傷を抑制することができる。印加電力は100W〜10kW、好ましくは100W〜5kWとすることができる。印加電力が、上記下限値以上であると、パーティクルの発生を抑制でき、また上記上限値以下であると、過剰の熱量の発生による成膜ロールの損傷を抑制することができる。
【0039】
一対の成膜ロールの内部に、成膜ロールが回転しても回転しないように固定された磁場形成装置をそれぞれ設けることが好ましい。磁場形成装置により、一対の成膜ロールに磁場を印加することができ、それぞれの成膜ロールに配置された基材の表面に、同時に薄膜層を形成できるため、成膜レートを倍にできる。磁場形成装置は適宜公知のものを用いてよい。
【0040】
一対の成膜ロール間において、放電プラズマを発生させる圧力は、原料ガスの種類等に応じて適宜選択でき、好ましくは0.1〜50Pa、より好ましくは0.1〜30Paである。低圧CVD法とする場合には、該空間の圧力は、好ましくは0.1〜10Pa、より好ましくは0.1Pa〜8.0Paである。
【0041】
成膜ロールは適宜公知のロールを用いることができるが、より効率良く薄膜層を形成するという観点から、一対の成膜ロールの直径が同一のものが好ましく、成膜ロールの直径は、放電条件等の観点から、好ましくは5〜10cmである。一対の成膜ロールはその中心軸が同一平面上において略平行、特に平行となるように配置されるのが好ましい。このように配置することで、それぞれの成膜ロールに配置された基材の表面に、同時に薄膜層を形成できるため、成膜レートを倍にでき、かつ同じ構造の薄膜層を形成可能である。さらに、一方の成膜ロールにおいて、基材の表面に薄膜層を堆積させ、他方の成膜ロールにおいて、さらに薄膜層を堆積させることが可能であることから、薄膜層を効率良く形成することもできる。
【0042】
成膜ロール等により搬送される基材の搬送速度は、原料ガスの種類や一対の成膜ロール間の空間圧力に応じて適宜選択でき、好ましくは0.1〜100m/分、より好ましくは0.3〜20m/分である。搬送速度が上記下限値以上であると、基材における熱に起因する皺の発生を抑制でき、また上記上限値以下であると、薄膜層の厚みが薄くなりすぎるのを抑制することができる。
【0043】
好ましくはアルコキシアルキル基含有シラン化合物を含む原料ガスと反応ガスとの分解反応により、SiO
2やSiO
xC
y(0<x<2、0<y<2)が生成し、薄膜層を形成する。本発明では、原料ガスに好ましくはアルコキシアルキル基含有シラン化合物を含むため、黄ばみが抑制されたSiO
xC
y(0<x<2、0<y<2)を形成できる。ここで、工程(A)において、一対の成膜ロール間の空間に供給される原料ガスと反応ガスとの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させる(原料ガスを完全酸化させる)ために理論上必要となる反応ガス比率よりも過剰にしないことが好ましい。これは、原料ガスに含まれるアルコキシアルキル基含有シラン化合物が完全酸化されると、SiO
2層を生成し、SiO
xC
y層が形成されない、すなわち、該シラン化合物中の酸化されなかった炭素原子が薄膜層中に取り込まれなくなり、ガスバリア性の観点から不利になるからである。一方、反応ガスの比率が小さすぎると、酸化されなかった炭素原子が薄膜層中に過剰に取り込まれ、薄膜層の透明性が低下する場合がある。このため、一対の成膜ロール間に供給される反応ガスの体積流量V
2と原料ガスの体積流量V
1との流量比(V
2/V
1)は、原料ガスに含まれるアルコキシアルキル基含有シラン化合物を完全酸化させるために必要な、反応ガスの体積流量V
02と原料ガスの体積流量V
01との最小流量比(V
02/V
01)をP
0としたとき、好ましくは0.95P
0〜0.30P
0、より好ましくは0.80P
0〜0.40P
0、さらに好ましくは0.70P
0〜0.50P
0である。流量比V
2/V
1が上記上限値以下であると、薄膜層において、アルコキシアルキル基含有シラン化合物由来の過剰な炭素原子による透明性の低下を有効に抑制でき、また流量比V
2/V
1が上記下限値以上であると、薄膜層において、アルコキシアルキル基含有シラン化合物由来の過少な炭素原子によるガスバリア性の低下を有効に抑制できる。
【0044】
最小流量比P
0(V
02/V
01)は、以下のように求められる。例えば原料ガスとして(メトキシメチル)トリメチルシラン[(CH
3)
3Si−CH
2OCH
3]を用い、反応ガスとして酸素を用いた場合に、原料ガスと反応ガスとの反応により下記の反応式(i):
(CH
3)
3Si−CH
2OCH
3 + 9O
2 →5CO
2+7H
2O+SiO
2 (i)
に従った反応が生じ、SiO
2が製造される。このような反応においては、(メトキシメチル)トリメチルシラン1モルを完全酸化するための酸素量は9モルである。よって、最小流量比P
0はV
02/V
01=9となる。
【0045】
原料ガスの流量は、0℃1気圧基準において、好ましくは10〜1000sccm、より好ましくは20〜500sccm、さらに好ましくは30〜100sccmである。反応ガスの流量は、0℃1気圧基準において、好ましくは10〜10000sccm、より好ましくは100〜1000sccm、より好ましくは200〜500sccmである。
【0046】
工程(A)において、基材の帯電量は5kV以下、好ましくは4kv以下、より好ましくは3kv以下であることが好ましい。上記上限値以下であると、基材上へのゴミの付着を防止でき、成膜におけるピンホール欠陥の発生によるガスバリア性の低下を抑制することができる。さらに、スパーク放電の発生も防止でき、基材へのダメージによるガスバリア性の低下を抑制することができる。なお、少なくとも後述の送り出しロール上の基材の帯電量が上記範囲であることが好ましい。
【0047】
また、基材の片面又は両面に予め薄膜層を積層したものを工程(A)に供してもよい。工程(A)では、生産性の観点から、ロールツーロール方式で薄膜層を形成することが好ましい。
【0048】
本発明は、有機シラン化合物、好ましくはアルコキシアルキル基含有シラン化合物を原料として含む、所定の成膜ロールを用いたプラズマ化学気相成長法による製造方法であるため、薄膜層の黄ばみを抑制しつつ、良好なガスバリア性を有する積層体を効率良く製造することができる。このため、本発明により得られる積層体は、特に透明性が求められる有機EL素子や有機薄膜太陽電池等の電子デバイス用途に利用することができる。
【0049】
工程(A)において、基材を搬送するために、成膜ロールの他、送り出しロール、複数の搬送ロール、及び巻き取りロールを用いることができる。送り出しロールから搬送された基材は、搬送ロール及び成膜ロールにより搬送されながら、成膜ロールを通過する際に表面に薄膜層が形成される。これにより得られた積層体(又は積層フィルム)は巻き取りロールにより巻き取られる。送り出しロール、搬送ロール、及び巻き取りロールは公知のものを用いることができる。また、成膜ガスを一対のロール間の空間に供給するために、公知のガス供給管等を用いてもよい。なお、成膜ガスを上記圧力下でプラズマ放電させるために、少なくとも成膜ロール及びガス供給管を真空チャンバ−内等に配置するのが好ましい。
【0050】
以下、
図1を参照しながら、本発明の一実施態様に係る製造方法を説明するが、本発明は
図1による実施態様に限定されるものではない。
【0051】
図1は、本発明に用いられる製造装置の一例を示す模式図であり、プラズマ化学気相成長法により薄膜層を形成する装置の模式図である。なお、
図1においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜調整している。このため、寸法や比率等は適宜変更できる。
【0052】
図1に示す製造装置10は、送り出しロール11、巻き取りロール12、搬送ロール13〜16、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18、ガス供給管19、プラズマ発生用電源20、電極21、電極22、第1成膜ロール17の内部に設置された磁場形成装置23、及び第2成膜ロール18の内部に設置された磁場形成装置24を有している。
【0053】
製造装置10の構成要素のうち、少なくとも第1成膜ロール17、第2成膜ロール18、ガス供給管19、磁場形成装置23、磁場形成装置24は、積層体(積層フィルム)を製造するときに、図示略の真空チャンバー内に配置される。この真空チャンバーは、図示略の真空ポンプに接続される。真空チャンバーの内部の圧力は、真空ポンプの動作により調整される。
【0054】
この装置を用いると、プラズマ発生用電源20を制御することにより、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間の空間に、ガス供給管19から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いて連続的な成膜プロセスでプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0055】
送り出しロール11には、成膜前の基材Fが巻き取られた状態で配置され、基材Fを長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、基材Fの端部側には巻取りロール12が設けられ、成膜が行われた後の基材Fを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18は、平行に延在して対向配置されている。
【0056】
両ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材Fを搬送する。第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18は、直径が同じものを用いることが好ましく、直径は5cm〜100cmである。また、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源20に接続されている。プラズマ発生用電源20から交流電圧を印加すると、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間の空間SPに電場が形成される。プラズマ発生用電源20は、印加電力が好ましくは100W〜10kWであり、交流の周波数は好ましくは50Hz〜500kHzである。
【0057】
磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、空間SPに磁場を形成する部材であり、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の内部に格納されている。磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18と共には回転しないように(すなわち、真空チャンバーに対する相対的な姿勢が変化しないように)固定されている。
【0058】
磁場形成装置23及び磁場形成装置24は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同方向に延在する中心磁石23a,24aと、中心磁石23a,24aの周囲を囲みながら、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石23b,24bとを有している。磁場形成装置23では、中心磁石23aと外部磁石23bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置24においても同様に、中心磁石24aと外部磁石24bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0059】
この磁力線と、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間SPは、プラズマCVD成膜を行う成膜空間として用いられ、基材Fにおいて第1成膜ロール17、第2成膜ロール18に接しない面(成膜面)には、成膜ガスがプラズマ状態を経由して堆積した薄膜層が形成される。
【0060】
空間SPの近傍には、空間SPにプラズマCVDの原料ガスや反応ガスを含む成膜ガスGを供給するガス供給管19が設けられている。ガス供給管19は、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間SPに成膜ガスGを供給する。
図1では、ガス供給管19から空間SPに向けて成膜ガスGを供給する様子を矢印で示している。
【0061】
原料ガス及び反応ガスは、上記例示の原料ガス及び反応ガスが用いられ、その流量及び比率も、上記例示の範囲から選択できる。なお、成膜ガスには、上記キャリアガス及び放電用ガスを含んでいてもよい。真空チャンバー内の圧力(真空度)、すなわち、空間SPの圧力は好ましくは0.1〜50Paである。プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、好ましくは100W〜10kWである。基材Fの搬送速度(ライン速度)は、好ましくは0.1〜100m/分である。
【0062】
製造装置10においては、以下のとおり、基材Fに対し成膜が行われる。すなわち、基材Fの表面に薄膜層が形成される。まず、成膜前に、基材Fから発生するアウトガスが十分に少なくなるように事前の処理を行うとよい。基材Fからのアウトガスの発生量は、基材Fを製造装置に装着し、装置内(チャンバー内)を減圧したときの圧力を用いて判断することができる。例えば、製造装置のチャンバー内の圧力が、1×10
−3Pa以下であれば、基材Fからのアウトガスの発生量が十分に少なくなっているものと判断することができる。
【0063】
基材Fからのアウトガスの発生量を少なくする方法としては、真空乾燥、加熱乾燥、及びこれらの組み合わせによる乾燥、並びに自然乾燥による乾燥方法が挙げられる。いずれの乾燥方法であっても、ロール状に巻き取った基材Fの内部の乾燥を促進するために、乾燥中にロールの巻き替え(巻出し及び巻き取り)を繰り返し行い、基材F全体を乾燥環境下に曝すことが好ましい。
【0064】
真空乾燥は、耐圧性の真空容器に基材Fを入れ、真空ポンプのような減圧機を用いて真空容器内を排気して真空にすることにより行う。真空乾燥時の真空容器内の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましく、10Pa以下がさらに好ましい。真空容器内の排気は、減圧機を連続的に運転することで連続的に行うこととしてもよく、内圧が一定以上にならないように管理しながら、減圧機を断続的に運転することで断続的に行うこととしてもよい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0065】
加熱乾燥は、基材Fを室温以上の環境下に曝すことにより行う。加熱温度は、室温以上200℃以下が好ましく、室温以上150℃以下がさらに好ましい。200℃を超える温度では、基材Fが変形するおそれがある。また、基材Fからオリゴマー成分が溶出し表面に析出することにより、欠陥が生じるおそれがある。乾燥時間は、加熱温度や用いる加熱手段により適宜選択することができる。
【0066】
加熱手段としては、常圧下で基材Fを室温以上200℃以下に加熱できるものであればよい。通常知られる装置の中では、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置や、加熱ドラムが好ましく用いられる。赤外線加熱装置とは、赤外線発生手段から赤外線を放射することにより対象物を加熱する装置である。マイクロ波加熱装置とは、マイクロ波発生手段からマイクロ波を照射することにより対象物を加熱する装置である。加熱ドラムとは、ドラム表面を加熱し、対象物をドラム表面に接触させることにより、接触部分から熱伝導により加熱する装置である。
【0067】
自然乾燥は、基材Fを低湿度の雰囲気中に配置し、乾燥ガス(乾燥空気、乾燥窒素)を通風させることで低湿度の雰囲気を維持することにより行う。自然乾燥を行う際には、基材Fを配置する低湿度環境にシリカゲルなどの乾燥剤を一緒に配置することが好ましい。乾燥時間は、8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。これらの乾燥は、基材Fを製造装置に装着する前に別途行ってもよく、基材Fを製造装置に装着した後に、製造装置内で行ってもよい。基材Fを製造装置に装着した後に乾燥させる方法としては、送り出しロールから基材Fを送り出し搬送しながら、チャンバー内を減圧することが挙げられる。また、通過させるロールがヒーターを備えるものとし、ロールを加熱することで該ロールを上述の加熱ドラムとして用いて加熱することとしてもよい。
【0068】
基材Fからのアウトガスを少なくする別の方法として、予め基材Fの表面に無機膜を成膜しておくことが挙げられる。無機膜の成膜方法としては、真空蒸着(加熱蒸着)、電子ビーム(Electron Beam、EB)蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの物理的成膜方法が挙げられる。熱CVD、プラズマCVD、大気圧CVDなどの化学的堆積法により無機膜を成膜することとしてもよい。表面に無機膜を成膜した基材Fを、上述の乾燥方法による乾燥処理を施すことにより、さらにアウトガスの影響を少なくしてもよい。
【0069】
次いで、不図示の真空チャンバー内を減圧環境とし、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18に印加して空間SPに電界を生じさせる。この際、磁場形成装置23及び磁場形成装置24では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間SPに放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
【0070】
一方、磁場形成装置23及び磁場形成装置24が形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間SPに形成される磁場と電場により電子が空間SPに閉じ込められることにより、空間SPに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマが形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマが形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
【0071】
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、上述のように、原料ガスであるアルコキシアルキル基含有シラン化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、アルコキシアルキル基含有シラン化合物の酸化反応が生じる。
【0072】
ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主としてアルコキシアルキル基含有シラン化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主としてアルコキシアルキル基含有シラン化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
【0073】
なお、本明細書において「アルコキシアルキル基含有シラン化合物の完全酸化反応」とは、アルコキシアルキル基含有シラン化合物と酸素との反応が進行し、アルコキシアルキル基含有シラン化合物が、上述の反応式(i)に示すような、SiO
2と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを意味する。
【0074】
また、本明細書において「アルコキシアルキル基含有シラン化合物の不完全酸化反応」とは、アルコキシアルキル基含有シラン化合物が完全酸化反応をせず、SiO
2ではなく構造中に炭素を含むSiOxCy(0<x<2、0<y<2)が生じる反応となることを意味する。
【0075】
上述のとおり、製造装置10では、放電プラズマが第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面にドーナツ状に形成されるため、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面を搬送される基材Fは、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間とを交互に通過することとなる。そのため、第1成膜ロール17、第2成膜ロール18の表面を通過する基材Fの表面には、完全酸化反応によって生じるSiO
2を多く含む層(H
a1層又はH
a2層とする)に、不完全酸化反応によって生じるSiOxCyを多く含む層(H
b1層又はH
b2層とする)が挟持されて形成される。例えば、積層されている順に、基材F/HA層(H
a1層/H
b1層/H
a1層)/HB層(H
a2層/H
b2層/H
a2層)で構成された積層体などが形成される。
【0076】
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材Fに流れ込むのが防止され、よって、基材Fの温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。膜の堆積は、主に基材Fの成膜面のみに起こり、成膜ロールは基材Fに覆われて汚れにくいために、長時間の安定成膜ができる。
【0077】
一実施態様において、本発明により製造された積層体は、少なくとも、HA層とHB層とを有する。まず、基材側にHA層を形成した後に、HB層を形成することが好ましい。HB層を形成する際は、HA層を形成時の膜表面の温度より、高い温度で成膜することが好ましい。膜表面の温度を制御する方法としては、1.真空チャンバー内の成膜時の圧力を低くする、2.プラズマ発生用電源からの印加電力を高くする、3.原料ガスの流量(及び反応ガスの流量)を小さくする、4.基材Fの搬送速度を小さくする、5.成膜ロール自体の温度を上げる、6.成膜時のプラズマ発生用電源の周波数を下げるなどが挙げられる。これらの条件1〜6のうちの1つを選び、他の条件を固定して、選んだ条件を最適化して、成膜時に適度な温度となるようにして、成膜してもよいし、これらの条件のうちの2つ又は3つ以上を変化させて、最適化して、成膜時に適度な温度となるようにして、成膜してもよい。なお、条件1〜4及び6に関しては、上述の範囲で最適化することが好ましい。上記5の条件に関しては、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18の表面の温度として、−10〜80℃であることが好ましい。このようにして成膜条件を規定し、放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、基材の表面に薄膜層の形成を行って、積層体を形成することができる。
【0078】
[積層体]
本発明により得られる積層体は、基材と、該基材の少なくとも一方の面に積層された薄膜層とを含む。該積層体は、製造過程における薄膜層の黄ばみが抑制されているため、透明性が良好であり、かつ良好なガスバリア性を有する。このため、有機EL素子や有機薄膜太陽電池等の電子デバイス用途に好適に利用可能である。
【0079】
本発明により得られる積層体は、黄ばみ(黄色味)が少ない又はほとんどないため、黄ばみ(黄色味)を示す指標であるL*a*b*色空間におけるb*値は、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1.5以下である。なお、b*値は、JIS Z 8722に準拠した物体色の測定に使用される分光測定計を用いて測定した値を示す。
【0080】
積層体の基材の厚みは好ましくは5〜500μm、より好ましくは50〜200μm、さらに好ましくは50〜100μmである。
【0081】
薄膜層は、好ましくはSiO
2及びSiOxCy(0<x<2、0<y<2)を含んでなる。薄膜層の厚みは、好ましくは5nm〜3000nm、より好ましくは10nm〜2000nm、さらに好ましくは100nm〜1000nmである。薄膜層の厚みが上記下限値以上であると、ガスバリア性が向上する。また、薄膜層の厚みが上記上限値以下であると、反りの低減、着色の低減、屈曲させた場合のガスバリア性の低下の抑制等に効果的である。
【0082】
積層体は、薄膜層を2層以上積層させた層を有する場合、薄膜層の厚みの合計値は、100nm〜3000nmであることが好ましい。薄膜層の厚みの合計値が100nm以上であると、ガスバリア性が向上する。薄膜層の厚みの合計値が3000nm以下であると、屈曲させた場合のガスバリア性の低下を抑制する高い効果が得られる。なお、薄膜層の1層あたりの厚みは50nmより大きいことが好ましい。
【0083】
積層体は、基材及び薄膜層を有するものであるが、必要に応じて、別の層、例えば薄膜層上に硬化性の有機層を有していてもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、積層体における黄ばみ(黄色味)の測定は、以下の方法に従って実施した。
【0085】
[黄ばみの測定]
積層体1及び2を5cm×5cmにカットし、JIS Z 8722に準拠した物体色の測定に使用される分光測色計(コニカミノルタ社製「CM3700A」、光源D65を使用)を用い、色度b*値を測定した。
【0086】
[実施例]
図1に示すような製造装置を用いて、積層体1(積層フィルム1)を製造した。すなわち、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を基材(基材F)として用い、これを送り出しロール11に装着した。そして、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間の空間に無終端のトンネル状の磁場が形成されているところに、成膜ガス{原料ガス[(メトキシメチル)トリメチルシラン]及び反応ガス(酸素ガス)の混合ガス}を供給し、第1成膜ロール17と第2成膜ロール18にそれぞれ電力を供給して第1成膜ロール17と第2成膜ロール18との間にプラズマ放電させ、基材を、送り出しロール11から、第1成膜ロール17及び第2成膜ロール18を介して搬送し、巻き取りロール12で巻き取った。送り出しロール11にかけられた基材の帯電量は2kvであった。これを2回繰り返して積層体1を得た。得られた積層体1のb*値は1.0であり、積層体1の薄膜層の厚みは600nmであった。なお、下記の成膜条件にてプラズマCVD法による薄膜形成を行った。
【0087】
(成膜条件)
原料ガスの供給量:50sccm(0℃、1気圧基準)
酸素ガスの供給量:250sccm(0℃、1気圧基準)
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min
【0088】
当該実施例において、トリメチルシラン1モルを完全酸化するための酸素量は9モルであるため、最小流量比P
0はV
02/V
01=9となる。よって、このときの反応ガスの体積流量V
2と原料ガスの体積流量V
1との流量比(V
2/V
1)は0.56P
0であった。
【0089】
[比較例]
原料ガスとして(メトキシメチル)トリメチルシランに代えて、ヘキサメチルジシロキサンを用いた以外は、実施例と同様の方法により積層体2(積層フィルム2)を得た。送り出しロール11にかけられた基材の帯電量は2kvであった。得られた積層体2のb*値は7.0であり、積層体2の薄膜層の厚みは600nmであった。
【0090】
当該比較例のように、原料ガスとしてヘキサメチルジシロキサン[(CH
3)
3Si−O−Si(CH
3)
3]を用い、反応ガスとして酸素を用いた場合に、原料ガスと反応ガスとの反応により下記の反応式(ii):
(CH
3)
3Si−O−Si(CH
3)
3 + 12O
2 →6CO
2+9H
2O+2SiO
2 (ii)
に従った反応が生じ、SiO
2が製造される。この反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するための酸素量は12モルであるため、最小流量比P
0はV
02/V
01=12となる。よって、このときの反応ガスの体積流量V
2と原料ガスの体積流量V
1との流量比(V
2/V
1)は0.42P
0であった。
【0091】
実施例で得られた積層体1は、比較例で得られた積層体2よりもb*値が顕著に低い、すなわち、黄ばみが顕著に少ないことが確認された。従って、実施例は、比較例と比べ、積層体における薄膜層の黄ばみが顕著に抑制されることが確認された。