特許第6858987号(P6858987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858987
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ジルコニア系セラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/91 20060101AFI20210405BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20210405BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C04B41/91 E
   B23K26/352
   C04B35/486
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-118665(P2019-118665)
(22)【出願日】2019年6月26日
(62)【分割の表示】特願2016-547502(P2016-547502)の分割
【原出願日】2015年9月10日
(65)【公開番号】特開2019-206471(P2019-206471A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-185472(P2014-185472)
(32)【優先日】2014年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】欠端 雅之
(72)【発明者】
【氏名】屋代 英彦
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 功
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0035723(US,A1)
【文献】 特開2003−057422(JP,A)
【文献】 特開2003−211400(JP,A)
【文献】 特開平09−048684(JP,A)
【文献】 特開2008−170679(JP,A)
【文献】 特開平08−045114(JP,A)
【文献】 特開2008−216911(JP,A)
【文献】 Fumiya Watanabe et al.,Ablation of crystalline oxides by infrared femtosecond laser pulses,J. Appl. Phys.,2006年,vol.100,p.083519-1〜083519-6
【文献】 K. Kawamura et al.,Fabrication of surface relief gratings on transparent dielectric materials by two-beam holographic method using infrared femtosecond laser pulses,Applied Physics B,2000年 7月,Volume 71, Issue 1,p.119-121
【文献】 S. Heiroth et al.,Laser ablation characteristics of yttria-doped zirconia in the nanosecond and femtosecond regimes,J. Appl. Phys.,2010年,vol.107,p.014908-1〜014908-10
【文献】 J. Ihlemann et al.,Nanosecond and femtosecond excimer-laser ablation of oxide ceramics,Appl. Phys. A,1995年,vol.60,p.411-417
【文献】 川原公介 ほか,フェムト秒レーザによる表面微細突起構造の形成,2006年度 精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集,2006年 9月 4日,p.881-882
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B41/91
A61C 8/00
A61F 2/30
B23K26/352
JSTPlus/JST7580/JSTChina
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア系セラミックス表面のレーザー光照射スポット内に、網目状凸部及び点状凹部の凹凸の周期構造が形成されており、前記ジルコニア系セラミックス表面は2%以下の単斜晶系ジルコニアを含む正方晶系ジルコニアであることを特徴とするジルコニア系セラミックス。
【請求項2】
前記網目状凸部及び点状凹部の凹凸の周期構造が内部に形成されたレーザー光照射スポットが、いくらかの重なりを持って、あるいは隣り合う位置又はそれ以上間隔をあけて複数存在し、これにより大面積化された前記凹凸の周期構造を有する請求項1に記載されたジルコニア系セラミックス。
【請求項3】
前記ジルコニア系セラミックスが球面の3次元平面を有し、前記3次元平面上に、形状が調整された前記レーザー光照射スポットが、いくらかの重なりを持って、あるいは隣り合う位置又は隣り合う位置以上の間隔をあけて複数存在し、前記複数存在することにより大面積化された前記凹凸の周期構造を有する請求項2に記載されたジルコニア系セラミックス。
【請求項4】
前記球面の3次元平面を有するジルコニア系セラミックスであって、
レーザー光の形状が、三角形、四角形、五角形、六角形又は楕円であることで前記レーザー光照射スポットの形状が三角形、四角形、五角形、六角形又は楕円であることを特徴とする大面積化された前記凹凸の周期構造を有する請求項3に記載されたジルコニア系セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア系セラミックスの表面に周期的な微細構造を作製する表面構造形成方法及び、表面に周期構造を備えたジルコニア系セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料表面に微細な凹凸の構造を形成する技術の研究開発が行われている。表面に微細構造を設けることにより、上に形成される膜との固着力、液体の凝着力等を向上させたり、また表面の光学特性を変化させたりすることが可能である。
【0003】
本願が加工対象とするジルコニア系セラミックスは、高強度をもち添加物の濃度や種類により異なる特性を示すことが知られている。イットリア(酸化イットリウム)を所定の濃度ドープした材料は耐靱性をもち、生体材料への応用や機械材料への応用が期待されている。また、素材の持つ性質として酸素イオン伝導性を有することで酸素センサーへの応用なども行われている。
【0004】
ジルコニア系セラミックスは、靱性、硬度、耐摩耗性能などの機械的特性が高いため、機械加工が困難である。難加工材料であるが優れた機械的特性から、ジルコニア系セラミックスの応用として、歯科用のインプラントや代替骨などの生体材料への応用がある。しかし、そのままでは生体との親和性が小さいため、生体親和性を高めるためには表面に生体親和性の高いアパタイトなどの材料をコーティングする技術が望まれる。近年、正方晶ジルコニアを含有する材料は、無毒性であり優れた機械的特性を有することから、医療機器材料として使用が拡大しており、既に、人工関節、歯冠等の歯科修復物、人工歯根に臨床応用されている。しかし、正方晶ジルコニアは、埋入部位の本来の正常組織を材料表面に伝導する組織伝導性がリン酸カルシウムに比較して乏しいことから、骨に埋入する場合も軟組織に埋入する場合も、正方晶ジルコニア表面に薄い(厚さ1−10μm)線維性結合組織が生じて骨や軟組織と直接は結合しない。また、正方晶ジルコニアについては、リン酸カルシウムのような血液適合性が報告されていない。そのため、ジルコニア等のセラミックス材料の表面に組織伝導性のある材料をコーティングすることにより、手術後体内で生体骨と直接結合させる方法が、期待されている。その最適材料として、水酸アパタイト(骨の成分)などのリン酸カルシウムを金属材料やジルコニア等のセラミックス材料の表面にコーティングすることにより骨と結合させることが考えられている。
【0005】
ジルコニアに限らず表面に微細構造を形成することで膜との密着性を高める方法について先行文献調査をしたところ、次のような技術が報告されている。
特許文献1では、ナノレベルの微細加工を行うために、超短パルスレーザー(フェムト秒レーザー)を偏光制御して照射することにより、照射したレーザーの波長より小さいサイズの微細構造を形成する加工法が、報告されている。適切なフルエンスの範囲はアブレーション閾値からアブレーション閾値の10倍であると記載されている。この文献では、「フルエンス」(fluence)とは、レーザー光の1パルス当たりの出力エネルギーを照射断面積で割って求めた単位面積当たりのエネルギー(J/cm2)であると記載され、アブレーション閾値は、レーザーを材料表面に照射することで材料表面が蒸散する現象が生じるエネルギー密度の最小値であると記載されている。特許文献1では、超短パルスレーザーを直線偏光させて固体材料表面に照射することにより、偏光方向とは直交する方向に沿って細長い突起部からなる微細構造を形成でき、また、円偏光させて照射することにより、粒状の突起部からなる微細構造を形成できることが報告されている。微細構造のサイズは、照射するレーザーの波長と正の相関関係があり、波長より著しく小さいサイズ(1/10〜3/5)の微細構造であると報告されている。加工対象として、窒化物セラミックス(TiN)膜、アモルファスカーボン膜及びステンレス鋼の材料を試料として、表面に微細加工を行った例が記載されている。
【0006】
特許文献2では、材料表面に一軸のレーザー光を照射して、微細な凹凸を周期的に形成する表面処理方法が報告されている。レーザー光の照射部をオーバーラップさせながら走査して、入射光のp偏光成分と材料表面に沿ったp偏光成分の散乱光の干渉部分のアブレーションによって、自己組織的に入射光の偏光方向に直交した、入射光成分λ/2以上入射光λ以下の間隔を持つ周期構造を作製することが記載されている。同一部分におけるレーザー照射回数が10〜300ショットになるように設定することが記載されている。特許文献2によれば、入射光の偏光方向と直交する方向に周期構造が形成されることを利用して、入射光の偏光方向を変更させることによって、周期構造の方向を変更させることができる、と記載されている。適切なフルエンスの範囲はアブレーション閾値近傍と記載されている。加工対象として、Si基材、Cuテープ、Alテープ表面の試料の例が示されている。
【0007】
特許文献3では、Siやステンレスの母材表面に周期構造の凹凸を超短パルスレーザーで作製し、水酸アパタイトを蒸着することにより、母材上に骨結合性の高い水酸アパタイト膜を作製する方法が提案されている。
【0008】
特許文献1乃至3は、いずれも入射光の偏光方向に対して直交する方向に、周期的溝が形成される技術である。また、ジルコニア系セラミックスに対して実験例の報告はない。
【0009】
フェムト秒レーザー光によるジルコニア系セラミックスの加工について、先行技術調査をしたところ、アブレーション加工による歯科用インプラントジルコニアの数十マイクロメートルの直接的な加工と表面状態の評価に関して、結晶相への影響が小さいことが報告されている程度であり(非特許文献1)、サブミクロンサイズの周期構造等の報告例はない。
【0010】
入射光の偏光方向と微細構造の関係について、先行文献調査をしたところ、SiO2材料において入射光の偏光方向に平行な周期的な溝が形成されたことが報告されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−211400号
【特許文献2】特許第4054330号
【特許文献3】特許第4440270号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.A.Delgado−Ruiz et al..“Femtosecond laser microstructuring of zirconia dental implants”,Journal of Biomedical Materials Research B: Applied Biomaterials,VOL96B,ISSUE 1,pp.91−100(2011)
【非特許文献2】S.Hoehm,et al.,“Femtosecond laser−induced periodic surface structures on silica,”J.Appl.Phys.112 014901(2012)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来、母材表面の上の膜の密着性向上の手段として、母材の表面に微細な構造を作成する研究開発が進められている。ジルコニア系セラミックスに対して微細な構造を形成する手段として、機械的な加工やサンドブラストのような物質を介した加工や化学的な反応を利用したエッチング等が考えられるが、素材表面に与える熱的な悪影響や不純物のドーピングの影響などが懸念され、また形成される構造にサブミクロンの周期構造を持たせることは容易ではない。このような悪影響を与えずに、ジルコニア系セラミックスの表面に、サブミクロンサイズの周期の微細構造を実現することが望まれる。
【0014】
従来、金属表面に微細構造を形成する方法として、レーザー照射による干渉による光強度の増大を利用したエッチングの例や、表面からの散乱波と入射波の干渉による波長より小さな周期構造の形成例の報告がある(特許文献1乃至3参照)。特許文献2や3の手法は、金属表面やシリコン表面にアブレーションやダメージが生じるフルエンスでレーザー光を照射した際に、固体表面に波長から波長の半分程度の(入射角や屈折率に依存して)凹凸が形成されることに基づくものである。また、材料や照射条件によって波長より著しく小さいサイズ(1/10〜3/5)の微細構造が形成されている。特許文献1乃至の技術は、いずれも入射光の偏光方向に対して直交する方向に、周期的溝が形成される技術である。また、特許文献2では、アブレーション閾値近傍の弱い照射フルエンスから高いフルエンスまで同じ現象が発生するので、空間的なガウス強度分布を有するビームを固体表面に連続的にずらしながら照射して、大きな面積にわたり周期構造が形成されることが示されている。
【0015】
レーザー照射による微細構造の形成方法は、特許文献1乃至3のように、Si、金属、TiN等では報告がなされているが、ジルコニア系セラミックスで周期微細構造形成例はない。
【0016】
例えば、特許文献3に示された方法によって、固体表面の凹凸の構造を作製できる可能性はあるとも考えられる。しかし、母材がセラミックス、中でもジルコニアの場合は、加熱による悪影響が問題である。部分安定化ジルコニアでは、加熱により相転移を生じ体積変化が生じてしまう問題がある。体積変化のために、亀裂や破断等の微細構造から甚大な損傷を生じる危険性が高い。したがって、周期構造形成と同時に相転移を生じさせないレーザーの照射条件が重要である。また、従来の文献の技術では、周期構造の凹凸は短パルスレーザーの波長以下で形成されるため、レーザー波長にも依存するが、用いるレーザーの波長がミクロンオーダーであるために多くの構造はサブμmのスケール以下となる。このため、表面加工後の母材上に成膜する工程において、微細構造の周期と同等かこれ以上の固形の微粒子が飛来し付着した際に、凹凸に関係なく接触面積は平坦面より小さくなってしまい、密着性が高い構造とはなりえないという問題もある。
【0017】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものである。本発明は、ジルコニア系セラミックスの表面に、微細な凹凸の周期構造を形成する表面構造形成方法を提供することを目的とする。本発明は、周期的な凹凸の微細構造を有するジルコニア系セラミックスを提供することを目的とする。周期はサブミクロンからミクロンのサイズ(0.1μm〜10μm程度)が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有する。
【0019】
本発明の方法は、ジルコニア系セラミックスの表面構造形成方法であり、ジルコニア系セラミックス表面に、レーザー光を照射して、レーザー光のスポット内に凹凸の周期構造を形成することを特徴とする。
本発明の方法は、ジルコニア系セラミックスの表面構造形成方法であって、直線偏光の超短パルスレーザー光を前記セラミックス表面に照射することにより、前記直線偏光の偏光方向に平行な縞状の凹凸を、レーザー光のスポット内に形成することを特徴とする。
本発明の方法は、ジルコニア系セラミックスの表面構造形成方法であって、円偏光の超短パルスレーザー光を前記セラミックス表面に照射することにより、網目状凸部及び点状凹部を周期的に形成することを特徴とする。
本発明の方法は、ジルコニア系セラミックスの表面構造形成方法において、レーザー光を、周期構造生成部分のみを照射可能な形状の空間制限マスクに集光し、前記形状の像を光学系に転送し、ジルコニア系セラミックス表面に照射して、前記形状の周期構造生成部分を複数個敷き詰めることを特徴とする。
【0020】
本発明のジルコニア系セラミックスは、ジルコニア系セラミックス表面の、レーザー光照射スポット内に凹凸の周期構造が形成されていることを特徴とする。
本発明のジルコニア系セラミックスは、ジルコニア系セラミックス表面の、レーザー光照射スポット内に平行な縞状の凹凸の周期構造が形成されていることを特徴とする。
本発明のジルコニア系セラミックスは、ジルコニア系セラミックス表面の、レーザー光照射スポット内に網目状凸部及び点状凹部の周期構造が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、周期的な、凹凸からなる縞状、又は網目状の凸の微細構造を表面に備えるジルコニア系セラミックスを初めて実現したものである。超短パルスレーザー光の照射により形成するので、凹凸の周期は、用いるレーザーの波長程度の微細構造を形成することができる。
【0022】
本発明の微細構造を表面に有するジルコニア系セラミックスは、超短パルスレーザー光により適切な条件により作製できるので、その表面が熱的な悪影響や不純物のドーピングの影響を受けることがない。
【0023】
微細な凹凸の周期構造を実現できたことにより、ジルコニア系セラミックス表面に付着させる膜の密着性が向上し、ジルコニア系セラミックス本来の機械的特性に加えてこれをコーティングした部材全体の、機械的強度や耐熱性を向上させることができる。
【0024】
レーザー光を連続照射又はスタンプ方式等で照射することにより、微細な凹凸の周期構造を大面積化することができ、周期構造領域の全体に占める面積割合が高いセラミックスを実現できる。
【0025】
本発明の方法により形成された周期微細構造を備えるジルコニア系セラミックは、微細な凹凸によりリン酸カルシウムコーティングの密着性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の概要を説明するための図で、被加工物に入射するレーザー光の偏光方向と形成される被加工物表面の周期構造とを説明する図であり、(a)図はレーザー光がs偏光の場合、(b)図はレーザー光がp偏光の場合を示す。
図2】レーザー光照射の空間分布(上段)と、レーザー光によりアブレーションされたスポット跡の表面の構造分布(中段)と穴の深さの分布(下段)の関係を説明する図である。
図3】直線偏光((a)図)と円偏光((b)図)の場合の周期構造を模式的に説明する図である。
図4】本実施の形態で使用するレーザー光による表面加工装置の概略図である。
図5】本実施の形態におけるレーザー光照射跡を示す写真及び偏光方向を示す矢印である。
図6】直線偏光のレーザー光を照射した場合の、エッチレートと表面状態との関係を示す図である。
図7】レーザー光を照射した場合の、レーザー光のピークフルエンスとエッチレートとの関係を示す図である。
図8】直線偏光のレーザー光を照射した場合の、レーザー光のピークフルエンスと、表面状態との関係を示す図である。
図9】直線偏光のレーザー光を入射した場合の、エッチレートと表面状態との関係を示す図である。
図10】s偏光のレーザー光を入射角θで照射した場合の、周期構造の状態と入射角との関係を示す図である。
図11】p偏光のレーザー光を入射角θで照射した場合の、周期構造の状態と入射角との関係を示す図である。
図12】レーザー光のパルス幅と、アブレーションされた部分の面積や周期構造形成部分の面積との関係を示す図である。
図13】レーザー光のパルス幅とエッチレートと周期構造形成状態との関係を示す図である。
図14】レーザー光のパルス幅と、アブレーション加工された部分の面積や周期構造形成部分の面積との関係を示す図である。
図15】レーザー光のショット数と周期構造形成部分の面積と穴の深さとの関係を示す図である。
図16】レーザー光のショット数とエッチレートとの関係を示す図である。
図17】レーザー光のショット数と、加工された部分の面積、周期構造形成部分の面積と、周期構造形成領域の割合との関係を示す図である。
図18】四角いフラットトップビームを示す模式図である。
図19】フラットトップビームをスキャンして周期構造の大面積化をする方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0028】
本発明の実施の形態は、表面に、周期的な凹凸からなる縞状、又は周期的な網目状凸部及び点状凹部の微細構造を備えるジルコニア系セラミックスに関する。本発明は、レーザー光をジルコニア系セラミックス部材の表面に照射したところ、レーザー照射スポット内に、凹凸の周期微細構造が形成される、という新規な知見に基づく。より具体的には、直線偏光のレーザー光を照射した場合は、偏光方向に対して平行の方向に凹凸の縞状の周期微細構造が形成され、円偏光のレーザー光を照射した場合は、網目状凸部及び点状凹部の周期微細構造が形成される、という新規な知見に基づく。
【0029】
本発明の実施の形態において、レーザー光は、ジルコニア表面の凹凸加工に際しては熱的な影響を与えにくい超短パルスレーザー(フェムト秒レーザー(フェムト秒レベルの間だけ発光することのできるレーザーのこと、なお本発明の実施の形態では、10ps以下のパルス幅を含む。)を用いる。超短パルスレーザーにより照射された部分は形状変化を生じるが、ピークパワーが高いためパルス全体としてのエネルギーは極めて抑えられ、パルスが短いため、吸収した熱が照射表面から内部や表面周囲に拡散することなく照射された部分のみアブレーションで吹き飛ぶ。
【0030】
本発明の実施の形態で用いるレーザー光として、フェムト秒レーザーとして知られるチタンサファイアレーザーやイットリビウム系のレーザー(フェムト秒(fs)レベルに加えて1ps―10psも含む。)を使うことができる。また、非線形波長変換過程に基づくパラメトリック増幅装置による波長可変フェムト秒パルス光源を使うことができる。
【0031】
偏光には、直線偏光、円偏光、またはより一般的な表現である楕円偏光がある。本実施の形態では、直線偏光の入射レーザー光を使用した場合は、偏光方向に対して平行の方向に、凹凸の縞状の周期微細構造が形成される。また、本実施の形態では、円偏光の入射レーザー光を使用した場合は、凹凸の縞状周期微細構造は形成されず、網目状凸部及び点状凹部の周期微細構造が形成される。
【0032】
直線偏光のレーザー光を基材に入射する場合、入射面(反射面に垂直でかつ入射光を含む面をいう)に垂直であるs偏光の場合も、入射面に平行であるp偏光の場合も、いずれも、偏光方向に平行に縞状の周期構造が形成される。
【0033】
図1は、本発明の概要を説明するための図であり、被加工物に入射するレーザー光の偏光方向と形成される被加工物表面の周期構造とを説明する図である。被加工物に入射するレーザー光の偏光方向がs偏光の場合、ジルコニア系セラミックスの表面の凹凸の周期構造は偏光方向に平行な縞状となる((a)図参照)。被加工物に入射するレーザー光の偏光方向がp偏光の場合、ジルコニア系セラミックスの表面の凹凸の周期構造は偏光方向に平行な縞状となる((b)図参照)。なお、θは入射光の入射角度を示す。
【0034】
図2は、本発明の実施の形態における、レーザー光照射の空間分布(上段)と、レーザー光によりアブレーションされたスポット跡の表面の構造分布(中段)と、穴の深さの分布(下段)の関係を説明する図である。上段の縦軸は、フルエンス(Fluence)である。
【0035】
フルエンスは、ある場所に照射されたレーザー光の一パルスあたりの単位面積当たりのエネルギーであり、均一なビームの場合にはレーザー光の1パルス当たりの出力エネルギーを照射断面積で割って求めたエネルギー(J/cm2)で与えられる。空間的にガウシアンビームの場合にはパルスエネルギーがE、1/e2強度でのビーム半径をrとすると、ビーム中央での最大値であるピークフルエンスFpeakは次式で与えられる。
peak = 2・E/(πr2
【0036】
図2の下段の下向き縦軸は、穴の深さの分布(Depth)を示す。あるショット数だけレーザーパルスを照射した後の形状を示している。横軸は、スポットの半径方向の距離を示す。(a)(b)図の、中段の表面の構造分布において、縦縞模様は、凹凸の周期構造が形成されている領域を示し、その外側の点状環状部は、アブレーション跡はあるが周期構造が明確に形成されていない領域を示す。(b)図の中段の表面の構造分布において、円中央部分のまだら模様は、周期構造が崩れている領域を示す。
【0037】
図中、FLLは、周期構造が形成されるフルエンスの有効範囲の下限値を示す。Fthは、アブレーション跡が形成されるフルエンスのアブレーション閾値を示す。FULは、周期構造が形成されるフルエンスの上限値、DLLは、周期構造が形成される穴の深さの有効範囲の下限値を示す。DULは、周期構造が形成される穴の深さの有効範囲の上限値を示す。
【0038】
(a)図は、FpeakがFULより小の場合を示す。穴の深さは、Dbottom(穴の底面の深さ)<DULの場合である。(a)図では、穴の深さDが、0<D<DLLの領域は、周期構造が不明瞭で、DLL<D<Dbottomの領域(図の縦縞の部分)には周期構造が形成されていることを、模式的に表している。
【0039】
(a)図よりフルエンスが上がると、(b)図のようになる。(b)図は、Fpeak(フルエンスのピーク強度)がFULより大の場合を示す。穴の深さは、穴の底面の深さDbottom>DULである。(b)図のように、フルエンスが上がると、レーザースポットによる穴の中央部分は周期構造が崩れて、周期構造が形成される領域はドーナッツ状(環状)になる。穴の深さDが、0<D<DLLの領域は周期構造が不明瞭で、DLL<D<DULの領域(図中、縦縞の部分)は周期構造が形成されている領域であり、DUL<D<Dbottomの領域は、フルエンスが高すぎて周期構造が崩れた領域である。
【0040】
図2に表示した2つの場合の他に、フルエンスピーク強度が、Fth<Fpeak<FLLの場合、Fpeak<FLLの場合があるが、周期構造形成領域がない場合であり省略する。
【0041】
図3は、直線偏光と円偏光の場合の、周期構造とその周期及び深さの関係等を模式的に説明する図である。(a)図は、入射光が直線偏光の場合を示す。(b)図は、入射光が円偏光の場合を示す。円偏光の場合には黒で表した凹部分が周期的に形成され、凸部分が網目状になる。入射光が直線偏光の場合は、縞の周期は、照射するレーザー波長と同程度(約0.9倍から1.3倍の範囲)である。縞の深さは縞の周期の半分程度よりも小さい。入射光が円偏光の場合は、小さな穴が周期的に並び該穴を囲む凸部分が網目状の構造で、即ち、縞が網目状に変化した形状となっており、直径が波長程度であり、周期が同様に、照射するレーザー波長と同程度(約0.9倍から1.3倍の範囲)である。
【0042】
周期凹凸を持つ微細構造を生成するために、同一位置において超短パルスレーザーが数10回ないし数百回照射される様に設定を行う。この回数をショット数という。
【0043】
レーザー光を被加工物に照射して、微細な周期構造を形成するための条件については後述する実施の形態で詳しく述べるが、レーザー光の種類(波長)、レーザー光のフルエンス、ショット数、エッチレート(単位ショット当たりのエッチング深さ)、パルス幅等を適宜設定することにより、形成目的とする周期構造の状態(周期、形成面積、周期構造部分の割合等)を調整することが可能である。なお、各実施の形態では、入射光が直線偏光の場合について詳細に記載するが、円偏光の場合は、縞(1次元の周期構造)が網目状(二次元の周期構造)に変化した形状となっていることから、その周期構造を調整するためのレーザー光の条件は、直線偏光の場合と同様になる。
【0044】
レーザー光の種類(波長)は、上述したように、チタンサファイアレーザー(約0.8μm)やイットリビウム系のレーザー(約1μm)が好ましい。その他、非線形光学過程のパラメトリック波長変換を利用した増幅装置や、これらを基本として波長変換を覆なった光源でもよい、波長は特に限定されない。
【0045】
パルス幅は、フェムト秒レベルであれば縞状周期構造が形成されることがわかり、10fsから10ps程度まで可能である。500fs以下であればガウシアンビームでも周期構造が形成される面積の割合を50%以上に高くできる点から好ましい。また、100fs以下であれば、面積の割合を65%よりも大きくでき、より好ましい。
【0046】
ショット数は12ショット以上400ショット未満程度であれば周期構造が形成可能である。最適な範囲は20−70ショット程度である。
【0047】
エッチレートは、[エッチレート/波長]が、0.16−0.34の範囲である場合に、縞状の周期構造が確実に形成できる。
【0048】
周期構造の形成される面積の割合を増加させるためには、強度分布を均一化したビームを使用することが好ましい。また、照射フルエンスの均一化の方法として、ピンホール等に集光し周期構造形成に寄与しない部分のレーザー光を除去し、このピンホール等を像転送でジルコニア上に照射することで照射面積中の周期構造生成の面積割合を高くできる
【0049】
また、ジルコニア系セラミックス表面に形成する周期構造を大面積化するには、同一カ所に所定回数照射して照射部分全体に構造を作成したのち、いくらかの重なりを持つように、又は隣り合う位置、又はそれ以上間隔をあけて、ビームをずらして、同様の照射をして構造を作成することを繰り返すことにより、多数のスポット跡の集合により大面積化をすることができる。
【0050】
本発明の実施の形態において、ジルコニア系セラミックスとして、ジルコニア系セラミックス基板や板状体に限定されないジルコニア系セラミックス基材等が例示できる。また、ジルコニア系セラミックスには、基材の表面がジルコニア膜やジルコニア系セラミックスで被覆されているものも含まれる。
【0051】
本発明の実施の形態において、ジルコニア系セラミックスの例として、正方晶ジルコニアが挙げられる。また、正方晶ジルコニアを含有する医療機器材料が挙げられる。正方晶ジルコニアを含有する医療機器材料は、正方晶ジルコニアを含有し、生体内に直接埋植、若しくは非埋植でも生体組織や体液に直接接触して使用する医療機器材料である。ジルコニア系セラミックスには、正方晶ジルコニアの含有率が100%である正方晶ジルコニア多結晶体(TZP)、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアから成る部分安定化ジルコニア(PSZ)、正方晶ジルコニアを含む非安定化ジルコニアで母材セラミック(Al23、SiC等)を高靱性化したジルコニア高靱性化セラミックス(ZTC)、及び正方晶ジルコニアの表面被覆や分散による金属ジルコニウムやその他金属との複合体等がある。また、正方晶ジルコニアの安定化に使用される安定化剤(CaO、MgO、Y23、CeO2等)とその含有量については、正方晶が安定化できれば特に制限はない。
【0052】
本発明の実施の形態のように表面周期構造を備えるジルコニア系セラミックス、例えば正方晶ジルコニアを含有する医療機器材料の特定部位の表面に、形成された凹凸の周期に比べて小さいリン酸カルシウム微粒子の付着層を形成すると、リン酸カルシウムコーティングの密着性を高めることができる。
【0053】
(第1の実施の形態)
本実施の形態を図4及び5を参照して以下説明する。図4は、本実施の形態において使用するレーザー光による表面加工装置の概略図である。図4の装置は、レーザー発生装置1、パワー制御装置2、偏光状態制御装置3、ビーム整形装置4、集光レンズ5、及び照射用ステージ6を備える。パワー制御装置2は、レーザー光のパワー(単位W)、あるいはレーザー光の一パルスあたりのエネルギー(単位J))を制御する。偏光状態制御装置3は、レーザー光の、偏光方向や直線偏光か楕円偏光か円偏光という偏光状態を制御する。ビーム整形装置4は、ビーム形状とビーム内での強度分布と、ビームの進行方向を制御する。照射用ステージ6は、加工対象物を載置して、レーザー光との相対的位置(x、y、z、θ、φ)を自在に移動可能とする台である。レーザー発生装置1から出射されるレーザー光を、パワー制御装置2、偏光状態制御装置3、ビーム整形装置4、集光レンズ5等を順に介して、照射用ステージ6上の被加工物に照射する。
【0054】
ジルコニア系セラミックスの表面に、直線偏光のレーザー光(チタンサファイア(「TiS」と略す。)(波長約0.8ミクロン)、パルス幅80fs)を照射すると、表面に、平行な縞状の凹凸からなる微細な周期構造が形成された。レーザー光の直線偏光の偏光方向と縞とは平行であった。周期構造は、周期が平均およそ948nm/cycleであった。照射したレーザー光の波長と同程度で波長より長めの周期構造が観測された。レーザー顕微鏡により観測したところ、形成された構造の深さ(凹凸の谷の底から山の頂上まで)が350−400nmであることがわかった。深さは周期の1/3−1/2程度であった。
【0055】
図5は、直線偏光のレーザー光を照射した照射跡を示すレーザー顕微鏡写真及び直線偏光の偏光方向を示す矢印である。レーザー照射跡は、直線偏光の偏光方向と平行な縦縞の縞状の凹凸の構造と、周期構造を囲んで縞が不明瞭な環状のアブレーション跡からなることがわかる。図5図2の中段のアブレーションされた表面の分布模式図の(a)図に対応している。
【0056】
ジルコニア系セラミックスの表面に、円偏光のレーザー光(TiS(波長約0.8ミクロン)、パルス幅80fs)を照射すると、レーザー照射跡に、縞ではなく、凸部が網状になった、即ち、縞が網目状に変化した形状となった周期構造が現れ、周期構造を囲んで網目状が不明瞭な環状のアブレーション跡からなることを確認した。
【0057】
微細構造を表面に有するジルコニア系セラミックスの表面における、結晶相の加工前後の変化について観測した。ラマン顕微鏡およびX線回折により観測した結果は、結晶相の変化(正方晶から単斜晶への変化)は2%以下であった。このことから、表面が熱的あるいは機械的な悪影響をほとんど受けていないことを確認した。
【0058】
直線偏光のレーザー光(TiS(波長約0.8ミクロン)、パルス幅80fs)を連続的に走査、即ちずらしながら照射して、走査を停止(終了)した場合、最終の照射スポット跡には、偏光方向に対して平行な縞状の周期構造が得られた。縞状の方向は走査方向には依存せずに、偏光方向に依存していることを確認した。照射スポット跡の中央部の周期構造を囲む周辺部には、周期構造を示さない環状のアブレーション跡が形成され、走査跡では周期構造が崩れていた。
【0059】
強度分布がガウシアンビームであるレーザー光を連続的にずらしながら照射すると、ジルコニア系セラミックスでは、ある閾値以上のフルエンスで周期構造が形成されるが、当該閾値以下のフルエンスでかつアブレーション閾値以上のフルエンス領域がビーム内に存在するため、低いフルエンス部分が通過することにより、形成された周期構造が破壊されてしまうことを確認した。
【0060】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、第1の実施の形態とは異なるレーザー光を使用した。
ジルコニア系セラミックスの表面に、直線偏光のレーザー光(Yb系KGW(KGd(WO42)(波長1.03ミクロン)、パルス幅200fs)を照射すると、表面に、平行な縞状の凹凸からなる微細な周期構造が形成された。レーザー光は50ショット照射した。レーザー光の直線偏光の偏光方向と縞とは平行であった。周期構造は、周期が平均およそ1.05μm/cycleであった。照射したレーザー光の波長と同程度で波長より長めの周期が観測された。使用するレーザー光が異なっても、第1の実施の形態と同様の表面構造が得られた。
【0061】
(第3の実施の形態)
本実施の形態を、図6、7、8を参照して説明する。本実施の形態では、周期構造を形成することができる最適条件などについて説明する。
【0062】
エッチレートとは、レーザー光1ショットあたりのエッチングされた穴の深さDをいい、本実施例においては例えば40ショットで形成された穴の深さをショット数40で割った値として平均値として求めており、単位はnm/shot、である。ここで分母の「shot」は単位ショットあたりの平均的値であることを意味する。
【0063】
図6は、直線偏光のレーザー光(TiS(波長810nm)、80fs)の照射を40ショット行った場合の、エッチレートと、表面の縞状の周期構造の有無などの表面状態との関係を示す図である。図の横軸はエッチレート(単位nm/shot)、縦軸は、レーザースポット跡の状態を「跡なし」「(跡があるが)周期構造なし」「周期構造形成」「周期構造崩れ」の4段階で示す。Zは集光レンズとジルコニアの間隔と関係した値であり、Z=4mmのほうがZ=0mmの場合よりもジルコニアがレーザーの焦点に近くフルエンスが高い。Z=0mmの場合(集光直径124ミクロン)を黒四角印で、Z=4mm(集光直径95ミクロン)の場合を黒丸印で、Z=4mm内部観測の場合を白丸印で示す。なお、内部観測とは、構造形成の境界を推定するために、ビーム内部の構造の形成領域を観測し、構造形成された穴の深さの上限と下限から、構造形成されるエッチレートを分類したものである。
【0064】
「周期構造崩れ」とは、周期構造がフルエンスの高い領域(ガウシアンであればビーム中央)から崩れる場合を示し、周期構造は環状領域に存在している。図から、エッチレートが132−280(nm/shot)の範囲である場合に、縞状の周期構造が確実に形成されることがわかる。図中の各点は、ピークフルエンスの異なる条件(state)で実験したもので、照射するレーザーのパルスエネルギーを変化させることにより、エッチレートを変えた。
【0065】
図7は、レーザー光(TiS(波長810nm)、80fs、40ショット)を入射した場合の、レーザー光のピークフルエンスとエッチレートとの関係を示す図である。Z=0mm(集光直径124ミクロン)の場合を丸印で、Z=4mm(集光直径95ミクロン)の場合を三角印で示す。図のように、エッチレートとピークフルエンスFpeak(対数)とはある関係がある。図7のような、レーザー光のピークフルエンスとエッチレートとの関係を計測すればある照射条件(レーザーの波長、パルス幅、繰り返し速度)において、エッチレートから対応するピークフルエンスを求めることができ、また逆にピークフルエンスから対応するエッチレートを決定できる。
【0066】
図8は、直線偏光のレーザー光(TiS(波長810nm)、80fs)の照射を40ショット行った場合の、レーザー光のピークフルエンスと、表面の縞状の周期構造の有無などの表面状態との関係を示す図である。図の横軸はピークフルエンス(単位J/cm2)、縦軸は、レーザースポット跡の状態を「跡なし」「(跡があるが)周期構造なし」「周期構造形成」「周期構造崩れ(周期構造が中央から崩れる)」の4段階で示す。Z=0mmの場合を黒四角印で、Z=4mmの場合を白丸印で示す。図から、ピークフルエンスが2.7−7.7(J/cm2)の範囲である場合に、縞状の周期構造が確実に形成されることがわかる。「跡なし」と「(跡はあるが)周期構造なし」との境界となるピークフルエンスは、アブレーション閾値に相当する。図によれば、アブレーション閾値は、およそ2(J/cm2)である。
【0067】
(第4の実施の形態)
本実施の形態を、図9を参照して説明する。本実施の形態では、第3の実施の形態とは波長が異なるレーザー光を使用した場合に関して、第3の実施の形態と同様に、縞状の周期構造を形成することができる最適条件について説明する。
【0068】
図9は、直線偏光のレーザー光(Yb系KGW(波長1.03ミクロン)、200fs)の入射した場合の、レーザー光のエッチレートと、表面の縞状の周期構造の有無などの表面状態との関係を示す図である。図の横軸はエッチレート(単位nm/shot)、縦軸は、レーザースポット跡の状態を「跡なし」「(跡があるが)周期構造なし」「周期構造形成」「周期構造崩れ」の4段階で示す。「周期構造崩れ」とは周期構造が中央から崩れる場合を示し、周期構造は環状領域に存在する。図中、右下枠内に示したように、レーザーのパルスエネルギーと照射面積を変えることでフルエンスを変化させて作製した。パルスエネルギーが、28μJの場合を四角印で、60μJの場合を丸印で、110μJの場合を上向き三角印で、144μJの場合を下向き三角印で、186μJの場合を菱形印で、222μJの場合を左向き三角印で、272μJの場合を右向き三角印で示す。図に示されるように、エッチレートが約158−355(nm/shot)の範囲である場合に、縞状の周期構造が確実に形成されることがわかった。ピークフルエンスが1.5−5.0(J/cm2)である場合に、周期構造が確実に形成されることがわかった。また、アブレーション閾値は、およそ1.2(J/cm2)であった。
【0069】
数ショット以上の照射で周期構造が形成されていることから、周期構造が形成される条件として、エッチレートが縞の深さを超えないことが上限となる。エッチレートの下限は、実施の形態から判断して、縞の深さの1/5以上である。縞の周期から考えるとエッチレートは縞の周期の1/10から1/2の範囲にある。周期構造を明瞭に形成するには、エッチレートが縞の深さの1/5から1/2.5の範囲にあることが望ましい。
【0070】
また、第3及び第4の実施の形態から、[エッチレート/波長]は、第3実施例では132−280(nm/shot)/810nmは、0.16−0.34となり、第4の実施の形態では158−355(nm/shot)/1030nmは、0.15−0.34となる。このことから、フェムトレーザー光の波長が異なっていても、[エッチレート/波長]が、0.16−0.34の範囲である場合に、縞状の周期構造が確実に形成できる、といえる。
【0071】
(第5の実施の形態)
本実施の形態を、図10及び11を参照して説明する。本実施の形態では、レーザー光の入射角度と縞状の周期構造との関係について調べた。
【0072】
図10は、s偏光のレーザー光(中心波長810nm、パルス幅約80fs)をジルコニア系セラミックス基板に対して入射角θで入射した場合の、周期構造の状態と入射角との関係を示す図である。横軸は入射角θ(deg)、縦軸は形成された縞状の周期構造の周期(単位nm)である。縞状の周期の値は840−900nm程度であり、入射角θに対する周期の変化は、データのばらつきの範囲内であるので、周期は入射角に依存しないことがわかる。
【0073】
図11は、p偏光のレーザー光(中心波長810nm、パルス幅約80fs)をジルコニア系セラミックス基板に対して入射角θで入射した場合の、周期構造の状態と入射角との関係を示す図である。横軸は入射角θ(deg)、縦軸は形成された縞状の周期構造の周期(単位nm)である。縞状の周期の値は900−1040nm程度であり、入射角θに対する周期の変化は、p偏光の場合は、入射角が大きくなるにつれて周期が大きくなる傾向があることがわかる。ただし、p偏光の場合でも、角度に対する依存性は大きくないことがわかる。
【0074】
本発明の場合は、従来報告されている偏光に直交する周期構造の角度依存性(例:特許文献2)とは、p偏光、s偏光ともに、異なる傾向を示している。
【0075】
(第6の実施の形態)
本実施の形態を、図12及び13を参照して説明する。本実施の形態では、レーザー光のパルス幅と縞状の周期構造との関係について調べた。本実施の形態では、レーザー光としてTiS(中心波長810nm、)を使用し、40ショット数で調べた。
【0076】
図12は、レーザー光のパルス幅と、アブレーション加工された部分の面積や周期構造形成部分の面積との関係を示す図である。横軸はパルス幅(単位fs)、縦軸は、左は形成面積(単位μm2)を示し、右はレーザー照射跡の穴全体の面積に対する周期構造形成領域の面積の比(単位%)を示す。レーザー光のパルス幅を80から600fs程度までの条件で形成して測定した。測定したパルス幅の範囲600fsまでは、縞状の周期構造が形成されていることを確認した。パルス幅80fsで最適なフルエンス6.4J/cm2でレーザー光を入射した場合、縞状の周期構造が形成される面積は、パルス幅が長くなると、形成される穴の面積及び周期構造部分の面積が小さくなる傾向を示した。図中、実線の白丸印はレーザー光による穴の面積を示し、太線の黒丸印は縞状の周期構造が形成されている領域の面積を示す。図中、一点鎖線は、レーザー照射跡の穴全体の面積に対する周期構造形成領域の面積の比(単位%)を示す。比は、パルス幅が長くなるにつれて、小さくなる傾向を示した。図から、パルス幅が短い方が好ましいことがわかる。なお、図では、フルエンスを一定にして調べたが、パルス幅に対応して最適なフルエンスを適宜選択することにより、パルス幅の上限は、1ピコ秒に限定されない。
【0077】
図13は、レーザー光TiS(中心波長810nm、40ショット数)のパルス幅とエッチレートと周期構造形成状態との関係を示す図である。横軸はパルス幅(単位fs)、左の縦軸は、エッチレート(単位nm/shot)を示し、右は縞状の周期構造の周期(単位nm)を示す。レーザー光のパルス幅を80から600fs程度までの条件で測定した。測定した範囲600fsまでは周期構造が形成されているのを確認した。パルス幅80fsで最適なフルエンス6.4J/cm2のもとで形成した場合、パルス幅が長くなると、エッチレートが大きくなる傾向を示し、また、周期構造の周期が長くなる傾向を示した。実線の白丸印は、「レーザー光のビーム中央でのエッチレート」を示し、実線黒四角印は、「レーザー光のビーム内の縞状の周期構造が形成された領域のエッチレートの下限」を示す。ピークフルエンスでのエッチレートは、エッチレート(ピークフルエンス)=Dbottom/ショットと表すことができる。また、「ビーム内の縞状の周期構造が形成された領域のエッチレートの下限」は、エッチレート(下限)=DLL/ショットと表すことができる。実線黒三角印は縞状の周期を示す。パルス幅が80−550fsの場合、周期は900−1200nm程度であった。パルス幅を大きくすると、エッチレート(ピークフルエンス)とエッチレート(下限)が近づいている。これは、周期構造形成領域が狭くなっていることを意味する。
【0078】
パルス幅は、フェムト秒レベルであれば縞状周期構造が形成されることがわかり、10fsから10ps程度まで可能である。500fs以下であればガウシアンビームでも周期構造が形成される面積の割合を50%以上に高くできる点から好ましい。また、100fs以下であれば、面積の割合を65%よりも大きくでき、より好ましい。
【0079】
(第7の実施の形態)
本実施の形態を、図14を参照して説明する。本実施の形態では、レーザー光のパルス幅と縞状の周期構造との関係について、レーザー光としてYb系(中心波長1.03μm)を使用して調べた。
Ybの1.03μmのレーザーを、ピークフルエンス4J/cm2、一か所に20ショット、繰り返し15kHzでジルコニア系セラミックスに照射した。パルス幅200fs、500fs、1ps、2ps、5psで実施し、底面に周期構造が形成されることを確認した。
【0080】
図14は、レーザー光のパルス幅と、アブレーション加工された部分の面積や周期構造形成部分の面積との関係を示す図である。横軸はパルス幅(単位fs)、縦軸は、左は形成面積(単位μm)を示し、右はレーザー照射跡の穴全体の面積に対する周期構造形成領域の面積の比「構造面積割合」を示す。レーザー光のパルス幅を200fsから5ps程度までの条件で形成して測定した。測定したパルス幅の範囲5psまでは、縞状の周期構造が形成されていることを確認した。縞状の周期構造が形成される面積は、パルス幅が長くなると、形成される穴の面積及び周期構造部分の面積が小さくなる傾向を示した。図中、実線の黒四角印はレーザー光による穴の面積「エッチ面積」を示し、実線の白丸印は縞状の周期構造が形成されている領域の面積を示す。図中、一点鎖線の三角印は、レーザー照射跡の穴全体の面積に対する周期構造形成領域の面積の比を示す。比は、パルス幅が長くなるにつれて、小さくなる傾向を示した。図から、パルス幅が短い方が周期構造の効率的な形成にとって有利であることがわかる。
【0081】
同様にパルス幅とエッチレートと周期構造形成状態との関係を調べた。レーザー光のパルス幅を200fsから5ps程度までの条件で測定した。パルス幅が長くなると、エッチレートが大きくなる傾向を示し、また、周期構造の周期が長くなる傾向を示した。パルス幅が200fsから5ps程度の場合、周期は1000−1400nm程度であった。パルス幅を大きくすると、エッチレート(ピークフルエンス)とエッチレート(下限)が近づいている。これは、周期構造形成領域が狭くなっていることを意味する。
【0082】
(第8の実施の形態)
本実施の形態を、図15及び16を参照して説明する。本実施の形態では、レーザー光のショット数と縞状の周期構造との関係について調べた。本実施の形態では、レーザー光としてTiS(中心波長810nm、パルス幅80fs)を使用して調べた。フルエンスは6.6J/cm2とした。
【0083】
図15は、レーザー光のショット数と周期構造形成部分の面積と穴の深さの関係を示す図である。横軸はショット数、左の縦軸は、周期構造の形成面積(単位μm2)を示し、右の縦軸は穴の深さ(単位ミクロン)を示す。ショット数を6から340程度まで変化させて測定した。6から11ショットまでは、周期構造が不明瞭であったので「pre−structured」と呼び、図中×印で示す。図中22ショットのデータでは周期構造は明瞭であった。図中、実線白丸印はエッチングされた面積を示し、実線黒丸印は縞状周期構造形成部分の面積を示し、実線黒三角印は穴の深さを示す。ショット数の増加とともに、加工された面積が大きくなり、穴も深くなるが、縞状の周期構造の部分の面積は小さくなる傾向を示した。ショット数が340ショットまで周期構造が形成されていることを確認した。図では、外掃すると、400ショット以上にすると穴が深くなり底面には周期構造ができないか、底面に平らな面がなくなると考えられる。図から、12ショット以上400ショット未満であれば、いずれのショット数でも、縞状の周期構造が得られる。図から、最適なショット数は、周期構造が明瞭に形成されるショット数であれば、少ない方が望ましいことがわかる。最適な範囲は、20ショットから70ショット程度が好ましい。
【0084】
図16は、レーザー光のショット数とエッチレート(単位nm/shot)の関係を示す図である。横軸はショット数、縦軸は、エッチレートを示す。ショット数を6から340程度まで変化させて測定した。実線の黒丸印は、「レーザー光のビーム中央でのエッチレート」を示し、実線白四角印は、「レーザー光のビーム内の縞状の周期構造が形成された領域のエッチレートの下限」を示す。図中、エッチレートが、実線白四角印の線より大で、実線黒丸印の線より小である領域は、周期構造が形成されるエッチレートの有効な数値範囲を表している。ショット数が増加するにつれて、周期構造が形成されるエッチレート数値範囲が狭くなっていることがわかる。
【0085】
(第9の実施の形態)
本実施の形態を、図17を参照して説明する。本実施の形態では、第8の実施の形態とは異なる波長のレーザー光を使用して、ショット数と縞状の周期構造との関係について調べた。本実施の形態では、レーザー光としてYb系KGW(中心波長約1ミクロン、パルス幅200fs)を使用して調べた。
【0086】
図17は、レーザー光のショット数と、周期構造形成部分の面積と、加工領域全体に対する周期構造形成領域の割合(Ratio of area)の関係を示す図である。横軸はショット数、左の縦軸は、周期構造の形成面積(単位μm2)を示し、右は加工領域全体に対する周期構造形成領域の割合(単位%)を示す。ショット数を10から90程度まで変化させて測定した。実線黒丸印は縞状の周期構造形成領域の面積であり、実線白丸印はアブレーションされた領域の全面積であり、点線三角印は、加工領域全体に対する周期構造形成領域の割合である。10ショットでは、縞状周期構造を確認できた。縞状の周期構造が形成された面積は50ショットで最大値となった。さらにショット数を増加させていくと、周期構造が形成されずにアブレーションのみ生じる周辺の領域が増大する。加工領域全体に対する周期構造形成領域の割合は、ショット数の増加につれて低下する。図から、周期構造が明瞭に形成され、かつ構造部分の面積も大きいという条件からは50ショットが最適である。また、面積が大きいのは、50、70、90ショットの順で、周期が明瞭な領域の割合が大きいのは、30、50、70ショットの順であることがわかる。図から、10から90ショットまで、いずれでも縞状の周期構造が得られるが、30ショットから70ショット程度の範囲が最適なショット数の範囲である。
【0087】
(第10の実施の形態)
これまでの実施の形態では、ジルコニア系セラミックスとして、具体的には3mol%Y23ジルコニアを使用して形成加工の計測を行ったものを示したが、他の組成でも、同様の結果を示すことを確認した。4mol%、8mol%、10mol%のY23を含むジルコニア(それぞれ、4Y、8Y、10Yと呼ぶ)、3mol%のY23と20%のAl23を含むジルコニア(3Y20Aと呼ぶ)に対し、直線偏光のレーザー光(中心波長810nm、パルス幅100fs、繰り返し560Hz)を、ピークフルエンス6.9J/cm2で40ショット照射した。いずれの場合にも直線偏光の偏光方向に平行な縞状の周期構造が観測された。観測された構造の周期は、4Y、8Y、10Yに対して、900nm−910nm程度であった。また、3Y20Aに対して、約940nmであった。3Y、4Y、8Y、10Y、3Y20Aの順にエッチレートが大きくなる傾向が見られた。
【0088】
なお、表面加工の加工対象の材料として、金属の場合について調べた。ジルコニア表面に一部金属(Al)を被覆して、本実施の形態と同様の直線偏光のレーザー光を照射したところ、金属面では、偏光方向に垂直に縞が形成され、ジルコニア表面では、偏光に平行に縞が形成された。このことから、本実施の形態は、ジルコニア系セラミックスにおいて有効な加工方法であることがわかる。
【0089】
(第11の実施の形態)
本実施の形態では、レーザー光による表面加工装置において、ビームの強度分布を均一化する光学素子を設けてレーザー光を照射した場合について説明する。
レーザー光照射の空間分布は、図2に示したように、ガウス分布であるが、ビームの強度分布を均一化する光学素子を設けて、ビームの強度分布が均一化されたレーザー光を照射した場合、穴の深さが照射部分でほぼ均一となり、アブレーションされた底面の90%以上の領域に周期構造が形成された。
【0090】
(第12の実施の形態)
本実施の形態では、縞状の周期構造を大面積化する方法について説明する。
【0091】
レーザー光を連続的にスキャンした場合について観測すると、周期構造がビームの裾で破壊された。従来技術のようにレーザー光を連続走査(スキャン)すると、ビームを連続的に移動した部分では周期構造が観測されない。一方、ビームを停止した場所では、スポットの中央部分に周期構造が観測された。レーザー光の走査方向を、レーザー光の直線偏光方向と同じ方向とした場合も、直線偏光方向に直交する方向とした場合も、いずれも、同じ結果であった。これは一か所あたりの照射数を40ショット程度の場合には照射位置のずれの量が、ビームの裾で構造が壊される長さに比較して小さいためにおこる。
【0092】
レーザー光を、フラットトップな強度プロファイルを有するレーザービームに、光学系により整形して用いる場合は、スキャン方式でも周期構造を作製することができる。フラットトップの場合で、必要なショット数が少ない場合あるいはビームサイズが大きい場合に適している。
【0093】
理想的なフラットトップビームであればスキャン方式での大面積化が可能であるが、実際のビームでは有限の幅を持った弱い強度部分を有するため、複数ショットの照射が必要な周期構造形成においては、スキャン方式による周期構造の形成は周期構造が形成された部分の面積比率の低下をもたらす。図18に、簡略化のために四角いレーザービームの形状のフラットトップビームを示し、図19に、フラットトップビームを使用してスキャンして周期構造の大面積化をする方法を示す。図19に示すように、ビームを左から右に1ショットずつずらしながら照射する場合(スキャン照射)を考える。図中縦縞が周期構造が形成される領域であり、周囲の部分が周期構造が形成されずにアブレーションされる領域である。例えば一か所にNショットの照射が必要であり、走査方向のアブレーションされる長さをL1、端の部分で構造が形成されない片側の端の長さをLとし、二つの比をC1=L2/L1とおく。照射位置を連続的にスキャンしながら、一か所に等価的にNショット照射するときには1ショットあたりのビームのずれはL1/Nであり、周期構造が形成される横方向の長さは、L3=(L1/N)−L2 で与えられる。L3が正の場合には、構造が残り、L3が負の場合には、構造はスキャンされたビームの肩で崩される。
【0094】
構造が形成される部分の横方向の割合は、図19の点線で囲った部分(ショット1の上にショット2、3、4が重なっている部分)で考えると、Rarea=1−N*C1 で与えられる。例えば、C1=0.1の場合、一か所に4ショット照射するようにスキャンすると(N=4)、Rarea=0.6となり、60%の横方向の割合に構造が残る。縦方向の肩の効果を考慮すると全体の面積に対する形成される割合は48%となる。
【0095】
3>0の条件を満たすには、L1が大きいこと、L2が小さいこと、Nが小さいことが望ましい。レーザーのパワーでL1の大きさは決まり、ビームの均一性や形状でL2が決まり、Nはレーザーのフルエンスやパルス幅に依存する。
【0096】
本実施の形態では、周期構造をジルコニア基材表面に広く形成するために、連続的ではなく、又は連続的に、レーザースポットごとにレーザー光を走査する。レーザースポットごとにレーザー光を移動させて走査するとは、例えば、ガウシアンビームや均一な硬度分布を持つビームあるいは強度分布を均一化したビームを、同一カ所に1回以上所定の回数照射することで照射部分全体に構造を作成したのち、いくらかの重なりを持つようにビームをずらして、あるいは隣り合う位置又はそれ以上間隔をあけてビームをずらして、同様の照射により構造を作成すること、を繰り返すことをいう。隣り合う位置又はそれ以上間隔をあけてビームをずらす方式は、スタンプ方式とはステップ方式などと呼ぶことができる。また、いくらかの重なりを持つようにビームをずらす方式は、ほぼ連続的な走査方式である。
【0097】
直線偏光のレーザービームを、均一な分布が広くなるように調整し、一カ所に40ショットごと照射し、次にスポット径以上の距離を移動させて、既に形成したスポットと重ならない位置で、次のレーザー光照射をした。レンズ系で構成されるビーム均一化素子と縦横の開口サイズが可変なスリットにより均一な空間強度分布を抜き出し、照射部分に結像光学系を用いて像転送した。50ミクロンステップでXY方向にタイル状に照射し、10mm×10mmの面積を加工した。周期構造が形成されている部分の面積の割合が全体の面積の50%のものが得られた。
【0098】
レーザー光の結像による空間強度分布の整形について説明する。レーザー光を、レンズ系や回折光学素子で構成される空間強度分布整形光学素子を介して、スリットやピンホールで構成される空間制限マスクに集光し、空間制限マスクにより形状(三角、四角、五角形、六角形、楕円形等)が調整されたレーザー光を、結像用光学系により、照射サンプルであるジルコニア形セラミックスに倍率を調整して照射する。空間分布の制御には、回折効果と干渉を利用するビーム整形光学素子や液晶空間変調器等を利用するビーム整形器を用いてもよい。スリット等で空間的な形状を制御しその形状を像転送する方式において、空間的な形状は長方形以外にも三角形、五角形、六角形、などの多角形を用いることで平面のみならず球面などの3次元平面への隙間のない加工が実現できる。このように、レーザー光照射スポットの周期構造生成部分のみを照射可能な様に三角、四角、六角等の形状のピンホールやスリットに集光し、ピンホールの像を転送できる光学系でジルコニア系セラミックスに連続照射し、各々生成した周期構造のスポットを効率良く敷き詰めることができる。ビームの照射位置を変化するには、照射ビームと被照射サンプルの相対的な位置を変化させればよく、ビームの進行方向を変化させるガルバノミラーなどのビーム偏向装置を用いる方法、あるいは被照射サンプルの空間位置を移動するステージを用いる方法、またはこれらを組み合わせる方法がある。被照射サンプルをステージで移動する方法は高精度な制御が可能であり、ガルバノミラーなどのビーム偏向装置を用いる方法はステージを用いる方法に比較しより高速な位置決めが可能である。大面積を加工する場合にはガルバノミラーなどのビーム偏向装置を用いることが望ましい。
【0099】
Yb系の1.03μm、200fsのレーザーを用いて、ガウシアンビームでほぼ円形にビームを照射したときに形成される穴の直径が30ミクロンの時に20μmステップで縦横にビームをずらしながら、各位置に10ショット照射して1mm角の面積にわたり周期構造を形成した。加工部面積に対し周期構造が形成されている部分の面積割合が50%を超えるものが得られた。また、ビーム形状を整形することによりさらに高い面積割合を実現できる。
【0100】
上記実施形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、ジルコニア系セラミックスの表面に微細な周期構造を実現するものであり、生体親和性を持って骨等と結合させる必要がある生体材料への適用、ジェットエンジン内壁等の耐熱構造材料への適用、酸素センサー等への適用が可能であるので、産業上有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 レーザー発生装置
2 パワー制御装置
3 偏光状態制御装置
4 ビーム整形装置
5 集光レンズ
6 照射用ステージ
図1
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