(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
N型シリコン基板をアルカリ性液に浸漬することで前記N型シリコン基板にテクスチャを形成する工程と、前記N型シリコン基板の少なくとも一方の主表面上に電極前駆体を形成する工程と、前記電極前駆体を焼成して前記N型シリコン基板上に電極を形成する焼成工程とを含む太陽電池の製造方法であって、
前記アルカリ性液を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムよりなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が溶解されたものとし、該化合物の濃度を1質量%以上10質量%以下とし、
前記テクスチャを形成する工程に用いるアルカリ性液には、亜二チオン酸塩、次亜リン酸塩よりなる群より選ばれた1種又は2種以上が混合されることを特徴とする太陽電池の製造方法。
前記テクスチャを形成する工程は、N型シリコンインゴットをスライスすることにより前記N型シリコン基板を得る基板スライス工程以降、最初の600℃以上の熱処理工程までの間に行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の太陽電池の製造方法。
前記アルカリ性液を、更に、2−プロパノール、リグニン、セルロース類、ケトン類、エステル類、グリコール類よりなる群より選ばれた1種又は2種以上が溶解されたものとすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記のように、近年、太陽電池が高効率化する一方で、経時での変換効率の低下現象が明るみになってきた。すなわち、太陽電池を数日〜数週間室温で放置するだけで変換効率が低下してしまう劣化現象の問題があった。ここでまず、本発明者らが検討した劣化現象の詳細について説明する。
【0021】
[劣化現象]
図4は、電極焼成工程を経て作製された太陽電池の短絡電流(Isc)の経時変化データを示した図である。●■▲はそれぞれ別の基板であり、焼成直後を0として、経時での短絡電流の変化を示している。日数の経過とともに減少しているのがわかる。更に、この17日経過後の基板を200℃程度でアニール処理し、アニール直後を0として経時での短絡電流の変化を示したものが○□△である。短絡電流は焼成直後の値まで回復し、更には、経時での劣化が見られなくなっている。このように、本発明者らはまず、電極焼成を経た基板に、200℃程度の温度で低温アニール処理を行うことにより、室温・大気中に放置しておくだけで太陽電池の出力が低下するという劣化現象が抑制された太陽電池を製造することができることを見出した。しかしながら、この方法では、電極焼成後に低温アニール処理を行うことが必須であり、工程数が増加する。以上が、経時劣化、並びに、低温アニールによる劣化の回復及び劣化現象の阻害の具体的な例である。
【0022】
太陽電池の経時劣化、並びに、低温アニールによる劣化の回復及び劣化現象の阻害のメカニズムは、必ずしも明確になっていないが、以下のように理解することができる。
【0023】
一般的な太陽電池製造工程は、最後の高温熱処理工程が電極形成工程であることが多い。該電極形成工程は具体的には、銀粉等を含むペーストを印刷、焼成する工程であり、特に焼成工程は800℃近い高温から1分足らずで室温付近まで降温させるステップを含む。Cu(銅)の存在下では、この急降温によりCuは基板内に原子状で分散すると考えられ、この時点ではCuは太陽電池特性に対しては無害であると考えられる。
【0024】
ここで、非特許文献1では、シリコンバルク中のCuは室温でも数時間のオーダーでバルク中に析出物を形成するとしている。上記原子状Cuは時間とともに析出物を形成し、これが太陽電池の特性低下を引き起こすと考えられる。すなわち、これが経時での出力低下の原因と推定される。
【0025】
更に、特許文献1に記載されているように、シリコンバルク中のCuは、常温〜400℃の熱処理を複数回行うことで、基板表面に拡散することが公知となっている。このような低温アニール処理を施すと、前記バルク中Cuが基板表面に移動して固定され、太陽電池特性に対しては無害化されるものと考えられる。すなわち、これが低温アニールによる劣化回復並びに劣化阻害の原因と推定される。
【0026】
特許文献1ではシリコン基板中のCuの態様まで詳細に示されておらず、太陽電池においては電極の焼成(急降温)という特異な工程が存在するため、劣化現象が発現すると考えられる。
【0027】
次に、太陽電池に付着するCuの起源について説明する。
【0028】
[Cuの起源]
シリコン基板のスライスには、ワイヤーソーが広く用いられている。ワイヤーソーには、砥粒を懸濁した加工液を用いる遊離砥粒方式や、砥粒が固着されたワイヤーを用いる固定砥粒方式がある。遊離砥粒の場合は、砥粒を構成する成分の不純物としてCuが少なからず含まれている。また、固定砥粒の場合は、砥粒はワイヤーにCuめっきで電着される。このため、いずれの方式を用いてもCuは基板スライス時に基板に付着してしまう。
【0029】
固定砥粒及び遊離砥粒それぞれでスライスした基板各4試料の基板表面のCu分析結果を
図5に示す。いずれも1×10
12/cm
2程度検出されている。N型基板の場合、Cu汚染量が1×10
11/cm
2以上になるとライフタイムは低下するとされており、汚染量としては非常に高いといえる。
【0030】
これら基板に付着したCuは、アルカリ溶液中でエッチングしても基板に再付着してしまい、その後洗浄しても除去することができない。こういった問題に対し、シリコン基板のアルカリエッチング中に金属を非イオン化させ、再付着を防ぐ方法が特許文献2で公知となっている。しかしながら、特許文献2はCuについての記載は殆どなく、更には太陽電池へのCu汚染の影響に関しての記述は一切なされていない。また、特許文献2には、高濃度(45%)のアルカリ溶液中に亜二チオン酸塩等を混合することが記載されており、当該アルカリ溶液を、面取り及びラッピングされたウェーハに残留する加工歪みを除去するエッチング(ダメージ層除去)に用いることが記載されている。なお、低濃度のアルカリ溶液を用いると異方性エッチングが進行してしまう可能性があるため、特許文献2では高濃度のアルカリ溶液を用いていると考えられる。しかしながら、特許文献2には、当該アルカリ溶液をダメージ層除去以外の目的で使用することは記載されておらず、特に、当該アルカリ溶液や当該エッチング後の基板を太陽電池製造に用いることは記載されていない。
【0031】
上記のように、スライス工程時に基板表面に付着したCuはセル化工程では完全に除去されないため、特にN型基板の場合にセル化後に経時劣化の原因となる。これまでP型基板を用いた太陽電池製造において劣化現象は顕在化しないため、Cuの除去を積極的に行う必要はなかった。なお、詳細は不明であるが、P型基板中のCuは室温程度の温度で表面への移動を始めることが知られており、劣化現象そのものが発現しにくい。
【0032】
ここで、現在、太陽電池として用いられている半導体基板の導電型はP型が主流である。従って、従来、太陽電池製造において上記劣化現象は顕在化しなかった。そのため、今までは上記劣化現象の対策自体がそもそも行われていなかった。しかしながら、N型基板の場合には上記劣化現象への対策を講じる必要がある。
【0033】
そこで、本発明者らは、太陽電池へのCuの影響の考察からこのような劣化現象が発生しないような対策について鋭意検討を行った。その結果、テクスチャ形成液であるアルカリ性液に亜二チオン酸ナトリウム等を混合してから、該アルカリ液にて基板を浸漬処理等する太陽電池の製造方法により、基板へのCuの再付着が抑制され、結果的には太陽電池の経時劣化現象が発現しなくなるということ、特に、当該方法がN型基板に対して有効であるということを見出し、本発明を完成させた。
【0034】
以下のより詳細な説明では、本発明の全体の理解、及び特定の具体例でどのように実施するかを提供するために、多くの特定の細部が説明される。しかしながら、本発明は、それらの特定の細部無しに実施できることが理解されるであろう。以下では、公知の方法、手順、及び技術は、本発明を不明瞭にしないために、詳細には示されない。本発明は、特定の具体例について特定の図面を参照しながら説明されるが、本発明はこれに限定されるものでは無い。ここに含まれ記載された図面は模式的であり、本発明の範囲を限定しない。また図面において、図示目的で幾つかの要素の大きさは誇張され、それゆえに縮尺通りではない。
【0035】
[太陽電池の製造方法]
本発明の太陽電池の製造方法では、最初にN型半導体シリコンからなる基板を準備する(工程a)。次に、N型半導体シリコンからなる基板に、テクスチャを形成する(工程b)。該基板に、通常、PN接合を形成する(工程c)。次に、基板の少なくとも一方の主表面上に電極前駆体を形成する(工程d)。電極前駆体としては銀ペースト等を用いることができる。工程dに続いて、電極前駆体を形成した基板を加熱することにより、電極前駆体を焼成して基板上に電極を形成する(工程e、焼成工程)。また、本発明の太陽電池の製造方法は、その他の工程を適宜有することができる。これにより、テクスチャ形成工程bはPN接合形成工程cよりも後に行うこともできる。
【0036】
本発明の太陽電池の製造方法は、上記テクスチャ形成工程に用いるアルカリ性液に、亜二チオン酸塩、次亜リン酸塩、水素化ホウ素化合物、アルデヒド類、ヒドラジン化合物よりなる群より選ばれた1種又は2種以上が混合されている。これらは還元剤として機能することができる。従って、以下では、これらの物質を単に還元剤とも呼称する。これら還元剤をアルカリ性液に混合することにより、シリコン基板にテクスチャを形成する際に金属(特に、シリコンインゴットスライス時にシリコン基板に付着した固定砥粒及び遊離砥粒由来のCu)を非イオン化させることができ、基板への金属(特に、Cu)の再付着が抑制され、結果的には太陽電池の経時劣化は発現しなくなる。すなわち、本発明の太陽電池の製造方法により、室温・大気中に放置しておくだけで太陽電池の出力が低下するという劣化現象が抑制された光電変換効率の高い太陽電池を製造することができる。このような太陽電池の製造方法により、
図1、2に例示したような構造の太陽電池を製造することができるが、その他の構造の太陽電池(裏面電極型太陽電池等)にも応用することができる。なお、
図1、2に例示したような構造の太陽電池は、両面受光型太陽電池や片面受光型太陽電池として利用することができる。
【0037】
以下に、より具体的に、本発明の高光電変換効率太陽電池の製造方法を、
図3を用いて説明する。上記の通り、本発明で用いる基板はN型半導体シリコン基板である。上記の通り、N型基板の場合には上記劣化現象への対策を講じる必要があるため、本発明におけるテクスチャ形成方法が特に有効である。まず、高純度シリコンにリン、ヒ素、又はアンチモンのような5価元素をドープし、比抵抗0.1〜5Ω・cmとしたアズカット単結晶{100}N型シリコン基板110を準備する。単結晶シリコン基板は、CZ法、FZ法いずれの方法によって作製されてもよい。基板は必ずしも単結晶シリコンである必要はなく、多結晶シリコンでもかまわない。
【0038】
次に、
図3(a)に示すように、半導体基板110の両主表面(例えば両主表面の全面)にテクスチャと呼ばれる微小な凹凸の形成を行う。テクスチャは1〜50μm程度のピラミッド形の構造を有し、結晶の面方位によってエッチング速度が異なることを利用して形成される。テクスチャは、N型シリコン基板をアルカリ性液(テクスチャ液)に浸漬することで形成(作製)される。
【0039】
本発明の方法では、テクスチャ形成工程に用いるアルカリ性液には、亜二チオン酸塩、次亜リン酸塩、水素化ホウ素化合物、アルデヒド類、ヒドラジン化合物よりなる群より選ばれた1種又は2種以上が混合される。これらは還元剤として機能することができる。
【0040】
上記アルカリ性液における還元剤の濃度は特に限定されないが、0.1質量%以上1質量%以下とすることができる。
【0041】
亜二チオン酸塩の具体例としては亜二チオン酸ナトリウムが挙げられる。次亜リン酸塩の具体例としては次亜リン酸ナトリウムが挙げられる。水素化ホウ素化合物の具体例としては水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。アルデヒド類の具体例としてはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、蟻酸、グリコールアルデヒド、グリオキサールが挙げられる。ヒドラジン化合物の具体例としてはヒドラジン、ヒドラジン水和物、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジンが挙げられる。
【0042】
また、このアルカリ性液には、通常、溶媒として水が混合され、溶液をアルカリ性にするための溶質(アルカリ成分)が溶解される。アルカリ成分の具体例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムよりなる群より選ばれた1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0043】
上記アルカリ性液(アルカリ溶液)の温度は特に限定されないが、加熱されたものとすることができ、具体的には温度60〜100℃にすることができる。この温度は60℃以上80℃未満とやや低めとし、反応を緩やかにすることがより好ましい。この温度は特に好ましくは60℃以上75℃以下である。
【0044】
上記アルカリ性液におけるアルカリ成分の濃度(アルカリ濃度)は特に限定されないが、1質量%以上10質量%以下とすることができる。この濃度はより好ましくは2質量%以上10質量%以下である。このように、アルカリ濃度を比較的低濃度とすることによってテクスチャが形成されやすくなる。なお、ここでいうアルカリ濃度とは、例えば、アルカリ成分の質量を、アルカリ性液全体の質量(例えば、水、上記還元剤、上記アルカリ成分の質量の合計)で割って、100をかけたものである。上記還元剤の濃度、下記2−プロパノール等その他の添加剤(添加物)の濃度も同様の方法で算出できる。
【0045】
テクスチャ形成工程におけるアルカリ性液に浸漬する時間は特に限定されないが、5分以上30分以下程度とすることができる。この時間はより好ましくは10分以上20分以下である。
【0046】
上記アルカリ性液には、更に、その他の添加剤として、更に、2−プロパノールを溶解させることができ、2−プロパノール以外にも、特開2005−019605号公報で公知となっているリグニン、セルロース類、ケトン類、エステル類、グリコール類等を溶解させることができる。これら2−プロパノール等その他の添加剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。所定量の2−プロパノール等を溶解させることにより反応を促進させることができる。なお、2−プロパノールは、面内のエッチングムラをなくす効果があると考えられる。原理は完全に解明はされていないが、恐らく、エッチング時発生する水素泡の剥離を促進しているのではないかと考えられる。従って、2−プロパノール(IPA)はテクスチャ形成工程に用いるアルカリ性液の添加剤として好適に用いることができる。
【0047】
一方で、IPAはアズカット基板のスライスダメージをエッチングで除去する工程(すなわち、ダメージ層除去工程)に用いるアルカリ性液には通常含まれない。なお、本発明においては、テクスチャ形成工程の前工程としてダメージ層除去工程を行うこともできるが、テクスチャ形成工程におけるテクスチャ形成条件によっては、このダメージ層除去工程(機械的ダメージ除去工程)は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。すなわち、テクスチャ形成工程がダメージ層除去も兼ねることができる。
【0048】
上記のように、本発明では、テクスチャ形成工程で用いるアルカリ溶液に還元剤を混合しているため、工程数をより少なくすることができる。例えば、ダメージ層除去工程で用いるアルカリ溶液に還元剤を混合した場合(特許文献2参照)にはダメージ層除去工程とテクスチャ形成工程を行う必要があるが、本発明のようにすればダメージ層除去工程を省略することができる。また、電極焼成を経た基板に、200℃程度の温度で低温アニール処理を行う方法(
図4参照)と比べても、本発明は低温アニール処理を行わなくてもよいため工程数を少なくできる。
【0049】
上記アルカリ性液における2−プロパノールの濃度は特に限定されないが、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0050】
その他の添加剤のうち、セルロース類の具体例としては酢酸セルロースが挙げられる。ケトン類の具体例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。エステル類の具体例としては蟻酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等が挙げられる。グリコール類の具体例としてはメチルグリコール、エチレングリコール等が挙げられる。2−プロパノール以外のその他の添加剤の濃度は特に限定されないが、1質量%以下とすることができる。なお、上記ダメージ層除去工程で用いるアルカリ溶液には上記その他の添加剤は通常は含まれない。
【0051】
なお、アズカット基板のスライスダメージをエッチング等で除去した後、第二主表面のみを窒化シリコン膜や酸化シリコン膜で被覆する等してから上記テクスチャ液(アルカリ性液)に浸漬することにより、第一主表面にのみテクスチャを形成することができる。こうすることで第二主表面での再結合が抑制され、光電変換効率を高めることができる。
【0052】
また、テクスチャを形成する工程は、N型シリコンインゴットをスライスすることによりN型シリコン基板を得る基板スライス工程以降、最初の600℃以上の熱処理工程までの間に行われてもよい。600℃以上の熱処理前に行うと、劣化抑制の効果をより大きく発現させることができる。なお、最初の600℃以上の熱処理工程の具体例としては、ベース層形成工程、エミッタ層形成工程等の拡散層形成工程や、熱酸化工程等が挙げられる。
【0053】
上記のようにテクスチャを形成した半導体基板110を、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸等、若しくはこれらの混合液の酸性水溶液中で洗浄する。過酸化水素を混合し清浄度を向上させてもよい。
【0054】
次に、この半導体基板110の第一主表面に、
図3(b)に示すように、N型半導体基板110と逆の導電型であるP型のエミッタ層112を形成する。これにより基板にPN接合が形成される。エミッタ層112の厚みは0.05〜2μm程度である。エミッタ層112はBBr
3等を用いた気相拡散によって形成できる。半導体基板110を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBr
3と酸素の混合ガスを導入して950〜1050℃で熱処理する。キャリアガスとしては窒素やアルゴンが好適である。また、ホウ素源を含有させた塗布剤を第一主表面に塗布し、950〜1050℃で熱処理する方法でも形成が可能である。塗布剤としては例えば、ホウ素源としてホウ酸1〜4%、増粘剤としてポリビニルアルコール0.1〜4%、を含有させた水溶液が使用できる。上記いずれかの方法でエミッタ層を形成すると、エミッタ層表面にはホウ素を含むガラス層も同時に形成される。
【0055】
エミッタ層112を形成したら、
図3(c)に示すように、次工程であるベース層形成のための拡散マスク(別名バリア膜、以下、単に「マスク」とも称する)303を両主表面上に形成する。拡散マスク303としては酸化シリコン膜が好適である。酸化シリコン膜は半導体基板110を熱酸化することで形成できる。半導体基板110を酸素雰囲気中950〜1100℃、30分〜4時間熱処理することで100〜250nm程度のシリコン熱酸化膜が形成される。この熱処理は上記エミッタ層112の形成のための熱処理に引き続いて同一バッチ内で実施してもかまわない。また、エミッタ層形成後には上記のように基板表面にガラスが形成されるが、これはマスク形成前に除去しない方が好ましい。すなわち、
図3(b)の工程において、エミッタ層112を形成する際に同時に第一主表面上にガラス層を形成し、
図3(c)の工程において、ガラス層を残留させたままエミッタ層112上に拡散マスク303を形成することが好ましい。この場合、ガラス層を除去する工程を行わないので、工数が増加しない。また、P型導電型層を形成する際に同時に形成されるガラス層を残留させたまま拡散マスクを形成すると、基板の少数キャリアライフタイムを高い状態で保つことができる。ガラス層がゲッタリング効果を付与していると考えられる。
【0056】
また、エミッタのドーパントとしてホウ素を用いた場合、熱酸化によりマスク形成すると、Si中とSiO
2中の拡散係数と偏析係数の違いからホウ素の表面濃度が低下して、表面での再結合速度が低下し好ましい。
【0057】
次いで、
図3(d)に示すように、第二主表面のベース領域となる部分のマスクを開口する(マスク開口部304)。開口は第二主表面全面としてもよいし、部分的とすることもできる。部分的に開口する場合は、具体的には、開口幅が50〜200μm、0.6〜2.0mm程度の間隔で平行線状に開口する。開口にはフォトリソ法やエッチングペーストのような化学的な方法でもよいし、レーザーやダイサーのような物理的な方法いずれを用いてもかまわない。
【0058】
次に、
図3(e)に示すように、第二主表面のマスク開口部にベース層113を形成する。ベース層113形成にはオキシ塩化リンを用いた気相拡散法が使用できる。830〜950℃、オキシ塩化リンと窒素及び酸素混合ガス雰囲気下で半導体基板110を熱処理することで、リン拡散層であるベース層113が形成される。気相拡散法の他、リンを含有する材料をスピン塗布したり、印刷したりしてから熱処理する方法でも形成可能である。
【0059】
拡散層形成の後、拡散マスク303及び表面に形成されるガラスをふっ酸等で除去する(
図3(f)参照)。
【0060】
次に、
図3(g)に示すように、半導体基板110の第一主表面上に反射防止膜141を形成する。反射防止膜141としては、窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等が利用できる。窒化シリコン膜の場合はプラズマCVD装置を用い約100nm製膜する。反応ガスとして、モノシラン(SiH
4)及びアンモニア(NH
3)を混合して用いることが多いが、NH
3の代わりに窒素を用いることも可能であり、また、プロセス圧力の調整、反応ガスの希釈、更には、基板に多結晶シリコンを用いた場合には基板のバルクパッシベーション効果を促進するため、反応ガスに水素を混合することもある。酸化シリコン膜の場合は、CVD法でも形成できるが、熱酸化法により得られる膜の方が高い特性が得られる。
【0061】
引き続き第二主表面上にも保護膜151を形成する。第一主表面同様、保護膜としては窒化シリコン膜や酸化シリコン膜等が利用できる。膜厚は適宜決定されるが、50〜250nmが好適である。
【0062】
なお、第一主表面には、酸化アルミニウム膜をあらかじめ基板表面に形成してから、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜等を形成してもよい。P型であるエミッタ層表面を、P型のパッシベーションとして有効な酸化アルミニウム膜で覆うことで、簡便でありながら高光電変換効率を示すことができる。
【0063】
次いで、
図3(h)に示すように、ベース層113上にベース用電極131を、例えばスクリーン印刷法で形成する。例えば、開口幅30〜100μm、0.6〜2.0mm間隔の平行線パターンを有する製版を用意しておき、電極前駆体としてAg粉末とガラスフリットを有機物バインダと混合したAgペーストをベース層113上に印刷する。同様にして、エミッタ層112上にエミッタ用電極121を形成するための電極前駆体としてAgペーストを印刷する。ベース電極用Agペーストとエミッタ電極用Agペーストは同じでもよいし違うものを使用してもよい。また、印刷順序は逆順としても何ら問題ない。以上の電極印刷の後、熱処理により窒化シリコン膜にAg粉末を貫通させ(ファイアースルー)、電極とシリコンを導通させる(すなわち、電極を形成する焼成工程を行う)。焼成は、通常700〜850℃の温度で1〜5分間処理することで行われる。なお、ベース層用電極及びエミッタ層用電極の焼成は別々に行うことも可能である。なお、
図3等に示す太陽電池製造時には、焼成によりCuはバルク中に拡散してしまうため、得られた太陽電池セル表面のCu濃度を分析すると検出下限(2×10
9/cm
2)以下となってしまう。
【0064】
上述のように、テクスチャ形成はセル化工程の最初に行ってもよいが、エミッタ層形成等の高温熱処理工程後に行っても本発明の効果は発現する。例えば、未テクスチャ処理基板に対し、エミッタ層形成後熱酸化し、引き続き反エミッタ面(エミッタ層を形成した面と反対の面)を全面開口して開口面にのみテクスチャを形成してもよい。なお、この場合、後述する実施例3のように、反エミッタ面である受光面だけでなく、エミッタ層を形成した面である裏面のベース層形成部も開口してこれら開口部にテクスチャを形成してもよい。高温熱処理すると、Cuの大きな拡散係数のためCuは基板内部に拡散してしまうが、高温熱処理を終了し室温に戻す際に必ず400℃の低温域を通過するため、このときCuは前述のように基板表面に移動する。これを本発明の方法でテクスチャ処理することで、Cuを再付着させることなく基板外に排除させることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1):亜二チオン酸ナトリウムを使用した例
本発明の方法を用いて、太陽電池の作製を行った。まず、厚さ200μm、比抵抗1Ω・cmの、リンドープ{100}N型アズカットシリコン基板8枚を準備した。このシリコン基板に対し、水酸化カリウム、2−プロパノール及び亜二チオン酸ナトリウムの混合水溶液中に浸漬し、両面にテクスチャ形成を行った。この混合水溶液の温度は72℃とした。この混合水溶液における水酸化カリウムの濃度は2質量%とした。引き続き75℃に加熱した塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った(
図3(a)参照)。
【0067】
次いで、基板を2枚一組として重ね合わせた状態で熱処理炉に戴置し、BBr
3と酸素とアルゴンの混合ガスを導入して1000℃で10分熱処理を行った。これにより、エミッタ層を形成した(
図3(b)参照)。四探針法で測定した結果、エミッタ層のシート抵抗は約50Ωとなった。
【0068】
これを1000℃3時間酸素雰囲気中で熱酸化してマスク形成した(
図3(c)参照)。
【0069】
裏面(エミッタ層形成してない面)のマスクをリン酸系のエッチングペーストを用い全面開口した(
図3(d)参照)。
【0070】
次に、オキシ塩化リン雰囲気下、870℃で受光面同士を重ね合わせた状態で40分間熱処理し、裏面にリン拡散層(ベース層)を形成した(
図3(e)参照)。この後、濃度25%のふっ酸に浸漬することで両表面上に形成したガラス及びマスクを除去した(
図3(f)参照)。
【0071】
以上の処理の後、プラズマCVD装置を用いて反射防止膜として、オモテ面(エミッタ層形成した面)には酸化アルミニウム膜及び窒化シリコン膜を形成した(
図3(g)参照)。酸化アルミニウム膜及び窒化シリコン膜の膜厚はそれぞれ10nm、90nmとした。引き続き、裏面にも裏面保護膜として窒化シリコン膜を形成した。膜厚は100nmとした。
【0072】
次に、裏面及びオモテ面に、Agペーストをスクリーン印刷機を用いて櫛歯状に印刷した(
図3(h)参照)。これを780℃の空気雰囲気下で焼成した。これにより、フィンガー電極として、ベース層上にベース電極を形成し、エミッタ層上にエミッタ電極を形成した。
【0073】
(実施例2):次亜リン酸ナトリウムを使用した例
実施例1において、テクスチャ形成液を、水酸化カリウム、2−プロパノール及び次亜リン酸ナトリウムの混合水溶液であって、当該溶液の温度が72℃、当該溶液における水酸化カリウムの濃度が2質量%であるものに変更し、当該溶液中に基板を浸漬し、両面にテクスチャ形成を行った。エミッタ層形成工程以降実施例1と同様の処理を行い太陽電池作製を行った。
【0074】
(実施例3):亜二チオン酸ナトリウムを使用し、特開2015−118979号公報に記載の裏面電極型太陽電池を作製した例
以下の方法により、裏面電極型太陽電池を作製した。
【0075】
N型基板8枚に対し、熱濃水酸化カリウム水溶液によりダメージ層を除去した。
【0076】
次に、実施例1と同様の方法でエミッタ層形成・熱酸化膜形成を行った。
【0077】
引続き、レジストを裏面(エミッタ層形成した面)にスピン塗布し、パターン状に露光、現像し、濃度10%ふっ酸に浸漬して、ベース層形成部及び受光面(エミッタ層形成してない面)の酸化膜を除去した。パターンは1.4mm周期、開口は200μmの平行線とした。
【0078】
開口後、水酸化カリウム、2−プロパノール及び亜二チオン酸ナトリウムの混合水溶液中に浸漬してテクスチャ形成を行った。この混合水溶液の温度は72℃とした。この混合水溶液における水酸化カリウムの濃度は2質量%とした。引き続き75℃に加熱した塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。これにより、開口部(ベース層形成部及び受光面)のみテクスチャが形成されたことが、反射率の低下として目視にて確認された。
【0079】
引続きオキシ塩化リンを用いて、温度850℃、40分の気相拡散を行い、裏面開口部にベース層を形成した。
【0080】
次いで、プラズマCVDを用い、受光面及び裏面にシリコン窒化膜を100nm製膜した。
【0081】
最後に、ベース層、エミッタ層それぞれの上に、Agペーストを櫛歯状にスクリーン印刷して乾燥し、780℃の空気雰囲気下で焼成して太陽電池を完成させた。
【0082】
(比較例)
比較用に従来の方法で太陽電池の作製を行った。
【0083】
実施例1において、テクスチャ形成液を、72℃の2%水酸化カリウム/2−プロパノール混合水溶液とし、亜二チオン酸ナトリウム等の還元剤は混合せず、当該溶液中に基板を浸漬し、両面にテクスチャ形成を行った。エミッタ層形成工程以降実施例1と同様の処理を行い太陽電池作製を行った。
【0084】
以上のようにして得られた実施例1〜3及び比較例の太陽電池のサンプルについて、山下電装社製ソーラーシミュレータを用いてAM1.5スペクトル、照射強度100mW/cm
2、25℃の条件下で、電流電圧特性を測定し光電変換効率を求めた。更に、室温・大気雰囲気中放置して1週間後に同一条件で再測定した。特性の維持率を、1週間後の変換効率を初期の変換効率で除したものとして定義した。すなわち、以下の計算式に従う。
維持率=(1週間後の変換効率)/(初期の変換効率)
【0085】
得られた結果の平均値を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
比較例は1週間後に変換効率が大きく低下(すなわち劣化)したのに対し、実施例1は劣化が見られない。すなわち、テクスチャ液に亜二チオン酸ナトリウムを混合するだけで、劣化現象の発生をなくすことができる。
【0088】
実施例2も劣化がみられない。次亜リン酸ナトリウムでも、劣化現象の発生をなくすことができる。
【0089】
実施例3も劣化が殆ど見られない。テクスチャ形成を高温熱処理工程(エミッタ形成工程)後に行っても同様に本発明の効果が得られる。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。