(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン樹脂に無機充填材を添加したフィルムを少なくとも一軸方向に延伸し、無機充填材とポリオレフィンとの間で界面剥離を起こさせることにより微小ボイドを発生させ延伸多孔性フィルムを製造する方法が多数提案されている。これら延伸多孔性フィルムは内部に多数の微小なボイドを有しているため、これらのボイドが互に繋がって連通孔を形成している。そのため、高い透湿度を有しながらも液体は透過させない性質を示す。この性質より、延伸多孔性ポリオレフィンフィルムは、紙おむつや生理用ナプキンなどの衛生材料、乾燥剤や使い捨てカイロなどの機能包装材料、使い捨て手袋や雨合羽などの簡易衣料、ハウスラップなどの防水建材、マルチ農法用シートなどの農業用途、堆肥被覆シートなどの廃棄物処理用途などに幅広く使用されている。
上記衛生材料用途に使用される延伸多孔性フィルムには、たとえば紙おむつの場合、着用時のムレや尿漏れを防止するため、透湿性及び通気性のみならず、それらの性質と相反する耐水性及び耐液漏れ性、さらに着用時の動きに合わせた柔軟性等が求められる。一方で、紙おむつを製造する際に必要な、機械流れ方向の強度、引張弾性率、引張伸びなどの機械特性も求められる。
ところで、斯様な紙おむつ用の延伸多孔性フィルムは、とりわけ子供用の紙おむつのバックシートの透湿性フィルムとして用いられる場合、商品のブランドや付加価値を高め、さらに消費者の購買意欲の向上を図る目的で、文字やキャラクターを配置した意匠性やデザイン性の高い印刷が施されるのが普通である。延伸多孔性フィルムに斯様な印刷を施す場合、印刷ピッチ(間隔)の変動が大きいと、製品化時におむつの歩留まりが悪化する原因となるため、印刷ピッチの安定性が求められる。また、印刷ピッチの変動が小さくても、印刷を施されたフィルムをロールとして巻取り、保存しておくと、保存中にロールの巻姿が変化してロールの巻きの中央部分が締まり、巻きの始めと終りの部分が緩むようになるため、それによって印刷ピッチの変動が後発的に起り、やはりおむつの歩留りの変化を起すことも知られていた。該印刷ピッチの変動は、印刷時に機械方向にかかるライン張力が大きいと発生しやすく、伸びの少ないフィルムを必要とするが、保存中のロールの巻姿の変化にフィルムの如何なる性質が大きく影響するのかは従来知られていなかった。
従来、紙おむつ用の延伸多孔性フィルムの原料として、柔軟性の観点から、ポリオレフィン樹脂として、ポリエチレンが用いられてきたが、こうしたフィルムは、柔軟性には優れるものの、印刷の際に伸びてしまうという欠点があった。
【0003】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂として、(1)高密度ポリエチレン及びポリプロピレンの少なくとも1種10〜70質量%、(2)線形低密度ポリエチレン88〜15質量%、及び、(3)分岐状低密度ポリエチレン2〜15質量%の3種類の樹脂と無機充填材とを含む樹脂組成物を延伸して得た多孔性フィルムが示されている。この延伸多孔性フィルムにおいて、(1)高密度ポリエチレン及びポリプロピレン成分は、機械方向の5%伸張強度で表される低ひずみ伸び強度を向上させ、印刷ピッチのずれを防止するために配合されるものであり、この効果を十分に発揮させるために実施例では、前記ポリオレフィン中での含有量に換算して30〜45質量%の多さで配合されている。この結果、得られる延伸多孔性フィルムは、前記5%伸張強度はかなりに高められているが、それでも最も高いもので31g/25mm(3.2N/25mm)であり、この強度では印刷ピッチの安定性が実用レベルで今一歩満足できなかった。
そこで、この物性をさらに高めようとして、前記(1)高密度ポリエチレン及びポリプロピレン成分をさらに多く配合すると、今度は、特許文献1の比較例1に示されているようにフィルムの剛軟性が増加しすぎてフィルムの風合いが悪くなる。また、樹脂組成物の延伸工程において、その延伸倍率を高めることで前記5%伸張強度の向上を図ることも考えられるが、延伸倍率を高めるほどにフィルムの熱収縮率の悪化が懸念されるため、特許文献1には、1.5〜3.0倍の低い範囲の延伸倍率しか示されていない。実際、実施例で具体的に採択されている延伸倍率は2.0倍の低い一点しかない(〔0039〕参照)。また、本発明者らの知見によれば、斯様にポリプロピレン成分が多量に配合された組成で、高い倍率の延伸を行うことは、得られる延伸多孔性フィルムの透湿度を低下させる問題も生じることが明らかになっている。このような従来技術と知見とから5%伸張強度を、他の諸性質を実用的レベルで満足した上で、十分な値に改善するための方策は見いだせなくなっていた。
【0004】
一方、特許文献2には、(A)密度0.910〜0.929g/cm
3の直鎖状ポリエチレン樹脂20〜80質量部、(B)密度0.930〜0.965g/cm
3のポリエチレン樹脂10〜40質量部、(C)密度0.910〜0.929g/cm
3の高圧重合法低密度ポリエチレン5〜20質量部、及び(D)プロピレン単独重合体5〜20質量部を含む樹脂成分と、(E)無機充填剤、及び(F)可塑剤とを含む樹脂組成物から延伸多孔性フィルムを製造することが示されている。この延伸多孔性フィルムでは、(D)プロピレン単独重合体の配合量が比較的少なめであることがわかる。
しかし、他方で、(B)密度0.930〜0.965g/cm
3のポリエチレン樹脂は、一部には低密度ポリエチレンの範疇のものも含まれてはいるもののそのほとんどは高密度ポリエチレンに該当するため、(B)成分として、高密度ポリエチレンを用いた場合には、(D)プロピレン単独重合体と同様に、延伸多孔性フィルムの5%伸張強度を高める成分として機能することになるところ、実施例には、延伸倍率が2.5倍の低い一例しか具体的に行われておらず(〔0065〕参照)、やはり前記5%伸張強度が十分な値に改善できたものは開示されていない。その理由は、高密度ポリエチレン及びポリプロピレン成分の合計量を高めて、5%伸張強度を向上させようとして、延伸倍率を高めようとしても、前記特許文献1に示されているとおりフィルムの剛軟性の増加やフィルムの風合の悪化が懸念されることになるためである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の延伸多孔性フィルムは、(1)線形低密度ポリエチレン85〜50質量%、(2)分岐状低密度ポリエチレン10〜35質量%、及び(3)ポリプロピレン(PP)5〜25質量%から成るポリオレフィン100質量部ならびに無機充填剤80〜200質量部含む樹脂組成物により形成されている。
ポリオレフィンを構成する、(1)線形低密度ポリエチレン(以下、LLDPEということがある)は、エチレンと少量のα−オレフィンとの共重合体からなり、直鎖状のポリエチレン主鎖と炭素数2〜6程度の短鎖分岐とを有する。LLDPEの密度は好ましくは0.910〜0.950g/cm
3であり、より好ましくは0.915〜0.945g/cm
3である。また、LLDPEのメルト・インデックス(MI)は
、1〜8g/10min.であり、特に好ましくは2.0〜7.5g/10min.である。密度、またはさらに好ましくは密度とメルト・インデックスが、上記範囲であることにより、延伸多孔性フィルムは柔軟性、通気性、耐液漏れ性に優れるようになる。
ここで、上記密度は、JIS K 7112法により測定した密度であり、他の樹脂の密度の測定方法もこれと同じである。また、上記メルト・インデックスは、JIS K 7210に準じて190℃でA法にて測定した値であり、他の樹脂のメルト・インデックスの測定方法もこれと同じである。
線形低密度ポリエチレンとしては、具体的には、エチレン−プロピレン、エチレン−(1−ブテン)、エチレン−(1−ヘキセン)、エチレン−(4−メチル−1−ペンテン)、及びエチレン−(1−オクテン)等の共重合体が挙げられる。
【0009】
(1)線形低密度ポリエチレンの使用量は、得られる延伸多孔性フィルムの強度、剛軟性に大きく影響を及ぼすため、ポリオレフィンの総量の85〜50質量%であることが必要であり、好ましくは、80〜55質量%である。使用量が、上記範囲を超えて多いと、延伸多孔性フィルムの強度、剛軟性などの機械的強度が低下し、少ないと延伸多孔性フィルムの剛軟性が増加する。
【0010】
(2)分岐状低密度ポリエチレンは(以下、LDPEということがある)、一般に低密度ポリエチレン(PE−LD)と呼ばれ、長鎖分岐を有するLDPEの密度は、好ましくは0.910〜0.940g/cm
3である。LDPEは、通常、エチレンを高圧下、ラジカル重合触媒の存在下に重合させることにより合成できる。このうち密度が0.915〜0.930g/cm
3のものが好ましい。また、メルト・インデックスが1〜8g/10min.特に、2.0〜7.0g/10min.であることが好ましい。密度、さらに好ましくはメルト・インデックスが、夫々上記範囲であることにより、樹脂組成物にフィルムの押出特性や成形加工性、そして延伸多孔性フィルムに必要な機械強度を持たせることができる。
【0011】
(2)分岐状低密度ポリエチレン(LDPE)の使用量は、ポリオレフィンの総量の10〜35質量%であることが必要である。好ましくは、ポリオレフィンの総量の13〜35質量%である。該使用量は、得られる延伸多孔性フィルムの厚みの均一性に影響を及ぼす。LDPEの使用量が上記範囲を超えて多いと、フィルムのピンホールの出現頻度が多くなる。一方少ないとフィルムの厚みの均一性が悪化する上、フィルムにドローレゾナンスが発生しやすくなる。
【0012】
ポリオレフィンを構成する、(3)ポリプロピレンは特に限定されるものではないが、密度0.890〜0.940g/cm
3、メルト・インデックスが1〜8g/10min.であることが好ましい。密度およびメルト・インデックスが上記範囲であることにより、樹脂組成物にフィルムの押出特性や成形加工性、そして延伸多孔性フィルムに必要な機械強度を得ることができる。
ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体あるいはプロピレンと少量の他のα−オレフィンとの共重合体である。具体的には、プロピレン単重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−エチレン−EPR(エチレン−プロピレンゴム)共重合体が挙げられる。これらのうち、プロピレン−エチレン共重合体のプロピレン単位含有量は60モル%以上であるのが好ましい。
(3)ポリプロピレンの使用量は、ポリオレフィンの総量の5〜25質量%である。好ましくは、ポリオレフィンの総量の7〜22質量%である。ポリプロピレンは、得られる延伸多孔性フィルムの機械方向の5%伸張強度を高めるために重要な成分であるが、これが前記上限値を超えて多量に配合されると、前述のように得られる延伸多孔性フィルムにおいて、透湿度が低下し、さらに風合いも悪化する。また、ポリプロピレンが前記下限値を超えて少なく配合されると、前記5%伸張強度を本発明が規定する値に高くすることができなくなる。
【0013】
本発明に用いられる上記3種のポリオレフィンは、ツィーグラー触媒の如きマルチサイト触媒を用いて製造された樹脂であっても、また、メタロセン触媒の如きシングルサイト触媒を用いて製造された樹脂であってもよい。
本発明において、(1)線形低密度ポリエチレン、(2)分岐状低密度ポリエチレン、及び(3)ポリプロピレンから成るポリオレフィンのメルト・インデックスは1〜8g/10min.であ
る。
【0014】
本発明において、無機充填材は、公知のものが制限なく使用でき、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機塩類、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、シリカ等の無機酸化物、マイカ、バーミキュライト、タルク等のケイ酸塩類、及び有機金属塩等が挙げられる。なかでも炭酸カルシウムが、コストパフォーマンスおよびポリエチレン樹脂との剥離性から特に好ましく使用できる。
無機充填剤の平均粒径は10μm以下のものが好ましく、0.5〜5.0μmのものがより好ましく、0.7〜3.0μmのものがさらに好ましい。平均粒子径が上記範囲にあると、分散性に優れ、延伸時に連通孔の形成が容易となる上に、成形時のフィルム破れ等が発生しにくく効率よく延伸多孔性フィルムを生産することが可能である。無機充填剤の平均粒径が上記範囲を超えて大きいとピンホールの原因となりやすく、小さいと製膜時にドローレゾナンスが生じる原因となりやすい。
上記無機充填剤としては、樹脂への分散性を向上させるために表面処理が施されているものが好ましい。表面処理剤としては、無機充填材の表面を被覆することにより、その表面を疎水化できるものが好ましく、例えば、脂肪酸、高級脂肪酸、またはそれらの金属塩の他、ワックス等を挙げることができる。表面処理剤の量は特に限定されないが、好ましくは、無機充填剤に対し0.5〜2.0質量%程度であり、1.5質量%以下であることがさらに好ましく、1.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
本発明におけるポリオレフィン樹脂組成物は、前記ポリオレフィンと無機充填材を含み、その組成は、ポリオレフィン100質量部に対して、無機充填材80〜200質量部であり、好ましくは、ポリオレフィン100質量部に対して、無機充填材85〜150質量部である。ポリオレフィンに対する無機充填材の質量比が上記範囲を超えて小さいと、ポリオレフィンと無機充填材の界面が剥離してできる、単位面積あたりのボイド発生頻度が小さくなるため、隣接したボイド同士が連通しにくくなり、通気性が悪化する。上記範囲を超えて大きいと、フィルム延伸時の伸びがなくなり、延伸が困難になる他、高い5%伸張強度が得られにくくなる。
本発明におけるポリオレフィン樹脂組成物には、可塑剤を配合することは必ずしも必要ではない。可塑剤の含有量は2質量部未満であることが好ましく、1質量部未満であることがより好ましい。本発明において可塑剤とは、フィルムの可塑性を改善し、フィルムに柔軟性を与える化合物の総称である。可塑剤の含有量が多くなると、樹脂組成物のメルト・インデックスが大きくなり、高い5%伸張強度を得ることが困難となる。上記可塑剤の種類は特に限定されないが、例えば脂肪酸、高級脂肪酸、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0016】
また、本発明における樹脂組成物には、通常の樹脂組成物に用いられている添加物を配合してもよい。かかる添加物としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ剤、着色剤等が挙げられる。この樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリオレフィンを構成する以外の樹脂成分を少量配合しても良い。具体的には、ポリオレフィン100質量部に対して5質量部以内、より好ましくは2.5質量部以内であれば、他の樹脂成分を配合することは許容される。
本発明において、樹脂組成物のメルト・インデックスは2g/10min.以上であることが好ましく、2g/10min.以上5g/10min.以下であることが好ましく、2g/10min.以上4g/10min.以下であることがより好ましい。上記範囲であることにより、安定した製膜を行うことが可能である。上記範囲を超えて大きいと、Tダイで製膜する際にネックインを起こし、必要とされる製品幅が得られず、小さいと、製膜時押出機の樹脂圧力が高くなり、製膜に悪影響を及ぼすことになる。また、該メルト・インデックスの値が小さい程5%伸張強度が大きくなる傾向がある。
【0017】
本発明において、延伸多孔性フィルムの機械方向の5%伸張強度は3.5N/25mm以上であり、3.7N/25mm以上であることが好ましく、4.0N/25mm以上であることがさらに好ましい。機械方向の5%伸張強度が大きいほど、機械方向の低ひずみ伸張強度に優れ、印刷時に機械方向にかかるライン張力に対しフィルムの伸びを小さく抑えることが可能となる。したがって、印刷ピッチ(間隔)の変動が小さく、おむつ等の製品化時の歩留まりの低下を抑制することができる。本発明の延伸多孔性フィルムにおいて、上記機械方向の5%伸張強度は、好ましくは10.0N/25mm以下、より好ましくは6.0N/25mm以下である。上記範囲を超えて大きいと剛軟性が増加し、風合いが十分でなくなる。機械方向の5%伸張強度はJIS K 7127により求めることができる。
【0018】
本発明において、延伸多孔性フィルムの透湿度は2000g/m
2・24h以上であり、2100g/m
2・24h以上であることが好ましい。透湿度が上記範囲であることにより、通気性、透湿性に優れ、たとえば、紙おむつのバックシートに用いた場合には、着用時のムレを防止する。なお、透湿度の上限は特に制限されるものではないが、機械特性、耐水性、及び耐液漏れ性の理由から、好ましくは10000g/m
2・24h、特に好ましくは、5000g/m
2・24hである。上記透湿度は、ASTM E96Bにより求めることができる。
本発明において、延伸多孔性フィルムの機械方向の50℃、24時間処理後の熱収縮率(%)は3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。機械方向の熱収縮率が小さいことは、前記5%伸張強度を大きくすることに加え、さらに印刷時に機械方向にかかるライン張力に対しフィルムの伸びを小さく抑えることを可能とする。したがって、機械方向の熱収縮率(%)が小さければ小さい程、印刷ピッチのずれを抑制できるため好ましいが、実用的には、0.5%を下限とする。本発明の延伸多孔性フィルムにおいて、機械方向の熱収縮率(%)は、温度50℃で24時間放置した前後で、機械方向のフィルム長さが収縮した割合で表される。具体的には、延伸多孔性フィルムから15cm×15cmのサンプルを切り出し、機械方向に標線間が10cmとなるよう標線を入れる。温度50℃で24時間放置した後、室温に冷却して標線間の長さを測定する。本発明の機械方向の熱収縮率(%)は、下記式(I)より算出される。
[数1]
機械方向の熱収縮率(%)=
{(10cm−測定長さcm)/10cm}×100・・(I)
本発明において、延伸多孔性フィルムの目付けは10〜35g/m
2である。11〜32g/m
2であることが好ましく、12〜30g/m
2であることがさらに好ましい。目付けが上記範囲とすることにより、通気性、透湿性、機械強度に優れる延伸多孔性フィルムが得られる。この範囲を超えて大きいとフィルムの透湿性を満たすことが難しくなり、小さいとフィルムの機械強度が低くなる。
【0019】
つぎに、本発明の延伸多孔性フィルムの製造方法について説明する。
本発明の延伸多孔性フィルムは、その製造方法により制限されるものではないが、通常は、前記(1)線形低密度ポリエチレン85〜50質量%、前記(2)分岐状低密度ポリエチレン10〜35質量%、及び前記(3)ポリプロピレン5〜25質量%を含むポリオレフィン100質
量部と、無機充填剤80〜200質量部を含んでなる樹脂組成物をフィルム状に成形し、得られたフィルムを機械方向に好ましくは2.6〜5.0倍延伸し、次いで、機械方向の収縮率を好ましくは3〜20%に維持しながら、好ましくは70〜95℃の範囲の温度で、好ましくは少なくとも0.2秒間熱固定することによって製造できる。
まず、上記ポリオレフィンと無機充填剤、さらには、必要に応じて配合する前記添加剤とが混合される。混合方法としては、公知の方法が採用でき、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラーミキサー等の混合機を用いて好ましくは5分〜1時間程度混合することが挙げられる。
得られた混合物は、溶融混練してペレット化することが好ましい。混練方法としては、公知の方法が採用でき、例えば、高混練タイプの2軸押出機、タンデム型混練機等の混練機を用いて、ストランドカット、ホットカット、アンダーウォーターカットなどの方法で混練し、ペレット化することが挙げられる。上記の如く予め混合し、混練し、ペレット化することにより、樹脂組成物の均一な分散を促すことができ好ましい。樹脂組成物の配合によっては、混合なしに直接混練機に投入しペレタイズすることもできる。
【0020】
つづいて得られたペレットを、押出機の先端に装着したサーキュラダイ又はTダイでフィルム状に成形する。このとき、T−ダイ法を用いる場合の冷却方法としては、例えばニップロール法やエアナイフ法及びエアチャンバー法等公知の方法が採用できる。また、樹脂組成物の配合によっては、混合・混練なしに直接押出機に樹脂組成物を投入しフィルムを成形することもできる。
上記の製膜し得られたフィルムを、ロール延伸法またはテンター延伸法等の公知の方法により延伸し、延伸多孔性フィルムを得る。ここで、得られる延伸多孔性フィルムにおいて、機械方向の5%伸張強度を本発明が規定する高い値にするためには、延伸倍率を、少なくとも機械方向に2.6〜5倍とすることが重要である。即ち、構成する樹脂組成物は、前記ポリプロピレン成分の配合量が少なめであり、上記5%伸張強度が高くなり難い性状にあるが、本発明では、係る樹脂組成物からなるフィルムの延伸を斯様な特定の高倍率で実施することにより、当該物性値として3.5N/25mm以上の高い値が達成できる。
【0021】
機械方向の延伸倍率は、好ましくは2.8倍以上、より好ましくは3.1倍以上である。上記延伸倍率が大きすぎると、引裂強度が低くなり、実用性に欠ける。上限は、好ましくは4.5倍、より好ましくは4.0倍である。また延伸倍率を大きくすることにより、ポリプロピレンを含むにもかかわらず厚みムラが問題にならず、必ずしも分散剤の添加の必要がない。
本発明において、上記延伸は一段延伸でも多段延伸でもよいが、低ひずみ伸張強度の向上のために、一段延伸であることが好ましい。したがって、具体的には、機械方向に一段延伸することが特に好ましい。
延伸温度は、常温以上、樹脂組成物の軟化点未満の温度範囲であれば特に限定されない。延伸温度が上記範囲より低すぎると、延伸ムラが生じやすくなるため厚みが不均一になりやすく、温度が高すぎると、樹脂が溶融し通気性や透湿性が低下する。上記延伸温度は、所望の物性に応じて、延伸倍率との組合せにより適宜調整することができる。
【0022】
つづいて、本発明の延伸多孔性フィルムは、上記延伸方向の熱収縮を抑える方法として、上記延伸後の延伸多孔性フィルムを熱固定する。該熱固定とは、延伸後フィルムに延伸による緊張状態を維持した状態で、寸法変化をさせない環境下で行う加熱処理のことである。該熱固定により、保管時の、弾性回復、及び熱による収縮や、巻き絞まり等を抑制することができる。
熱固定の方法としては、ロール延伸法を採用した場合には、延伸後のフィルムを、加熱したロール(アニールロール)により加熱する方法が挙げられる。また、テンター延伸法を採用した場合には、テンター出口付近でフィルムを加熱する方法が挙げられる。
熱固定の温度は、70〜95℃であり、80〜95℃であることが好ましい。熱固定温度が上記範囲より低すぎると、フィルムの熱収縮が大きくなり、温度が高すぎると、ブロッキングが起こる。
熱固定の時間は、0.2秒以上であり、0.5秒以上であることが好ましく、1秒以上であることがより好ましい。上記時間は、フィルムが上記温度で保持される時間であり、例えば、アニールロールにより加熱する場合であれば、フィルムがアニールロールと接している時間をいう。アニールロールの本数は特に制限されないが、2本以上の場合の熱固定時間は、各ロールにフィルムが接する時間の和である。同様に、テンター延伸法による場合であれば、テンター出口で加熱され、上記温度で維持される時間であり、複数回に分割して加熱する際は、各々加熱された時間の和である。該熱固定時間は、0.2秒以上でないと熱固定が不十分となり、熱収縮が大きくなる。また、固定時間は20秒以下であることが好ましく、15秒以下であることがより好ましい。該熱固定時間が長すぎると、前記熱固定温度との組合せにもよるため一概にはいえないが、熱によるダメージが大きくなり、通気性、透湿性が低下するおそれがある。
【0023】
また、本発明において、上記熱固定時の機械方向の収縮率は、3〜20%であり、好ましくは5〜15%である。収縮率は、ロール延伸法を採用した場合であれば、アニールロールと、後続ロールとの速度差により決められ、テンター延伸法を採用した場合であれば、加熱後の両端のクリップ幅を狭くすることにより決められる。収縮率が小さすぎると、得られる延伸多孔性フィルムの熱収縮が大きくなり、収縮率が大きすぎると、製造時にフィルムがたるんで、安定生産ができなくなる。
上記の如くして製造された延伸多孔性フィルムは、従来紙おむつ等の衛生材料用途において求められていた物性に加え、機械方向の5%伸張強度が大きく、特に、印刷等を施す場合に印刷のピッチがずれることがなく、鮮明な図柄などが得られるため、特に印刷が施される紙おむつのバックシートとして好適に用いられる。また、本発明の上記延伸多孔性フィルムは、通常、ロールとして巻取られ、印刷のためにそのままロールとして提供される。また、印刷を施された延伸多孔性フィルムは、再び、ロールとして巻取られ、最終用途のために供給される。
【0024】
印刷を施されたロールは、例えば1ヶ月以上にも亘る長期保存中においても、巻姿が変化することがなく、保存中に、後発的に印刷ピッチの変動が起こることもなく、上記用途に歩留り良く使用することができる。また、本発明の延伸多孔性フィルムは通気性補強材と積層することにより、建材用途、農業用途、廃棄物処理用途等の耐候性や耐光性を必要とする透湿防水シート等に好適に使用できる。
通気性補強材としては、特に制限されることなく、例えば、不織布、織布、割布、メッシュ、ネット、フィルト、紙、布等を使用することができる。また、通気性補強材の材質は、特に制限されることなくポリオレフィン系、ポリエステル系、ナイロン系のものを使用することができるが、本発明の延伸多孔性フィルムと積層する際に熱融着法により容易に積層できることを勘案すると、表面層として130℃以下の融点ピークを持つポリエチレン系樹脂を含有しているものが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
尚、実施例及び比較例に記載した物性値は以下に示す方法によって測定したものである。
1) メルト・インデックス
JIS K 7210に準じて190℃でA法にて測定した。
2) 目付
10cm×10cmで切り取り、天秤で質量を測定して求めた。
3) 透湿度
延伸多孔性フィルムから試料(10cm×10cm)を10枚採取し、ASTM E96Bに準じて、温度40℃、相対湿度60%、純水法の条件で測定し、その平均値を算出して求めた。測定時間は24時間とした。
4) 5%伸張強度
延伸多孔性フィルムから、巾25mm、長さ(機械方向)150mmのサンプルを切り取った。JIS K 7127に準じて、チャック間距離50mm、引張り速度200mm/min.で機械方向に引張り、サンプル(チャック間距離)が5%(2.5mm)伸びたときの機械方向の強度(応力)を測定した。
5) 機械方向の熱収縮率(%)
延伸多孔性フィルムから15cm×15cmのサンプルを切り出し、機械方向に標線間が10cmとなるよう標線を入れる。温度50℃で24時間放置した後、室温に冷却して標線間の長さを測定する。本発明の機械方向の熱収縮率(%)は、下記数式(I)より算出される。
[数2]
機械方向の熱収縮率(%)=
{(10cm−測定長さcm)/10cm}×100 (I)
【0026】
実施例1
表1に示す、線状低密度ポリエチレンA[ダウケミカル(株)製、商品名:ダウレックス2035G、密度:0.919g/cm
3、メルト・インデックス:6.0g/10min.]34質量%、B[(ダウケミカル(株)製、商品名:ダウレックス2036P、密度:0.935g/cm
3、メルト・インデックス:2.5g/10min.]42質量%、分岐状低密度ポリエチレンC[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名:ミラソン16P、密度:0.917g/cm
3、メルト・インデックス:3.7g/10min.]18質量%、およびポリプロピレンE[(株)プライムポリマー製、商品名:F−704NP、密度:0.900g/cm
3、MI:2.8g/10min.]6質量%からなるポリオレフィン100質量部に加え、平均粒径が2.0μmである炭酸カルシウムG((株)イメリスミネラルズ製、商品名:FL−520)102質量部、さらに添加剤H[酸化チタン(ハンツマン(株)製、商品名:TR28)50質量%、ヒンダードフェノール系熱安定剤(チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGANOX3114)20質量%、リン系熱安定剤(チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGAFOS168)30質量%の混合物]を2質量部配合の樹脂組成物を造粒し、フィルム成形を行った。
造粒はベント付φ30mm二軸押出機を用いて、シリンダー温度180℃でストランド状に押出し、水槽で冷却後に5mm程度にカット・乾燥してペレットとした。次に、上記ペレットをφ400mmTダイ成膜機にてフィルム成形した。この時の、リップクリアランス=1.5mm、ダイ温度=230℃、エアギャップ=105mm、引取速度=10m/min.、キャストロール温度=20℃であった。さらに60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率3.2倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした(熱固定時間4秒)。その熱固定時の機械方向の収縮率は、8%であった。
得られた延伸多孔性フィルムの目付、透湿度、5%伸張強度、熱収縮率の評価を行った。結果を表2に示した。得られた延伸多孔性フィルムは、2000g/m
2・24h以上の良好な透湿度および良好な風合いを有していた。また、5%伸張強度は高い値を保持していた。
【0027】
実施例2〜6、10〜13
組成物の配合(表1)を変えた以外は、実施例1と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。得られた延伸多孔性フィルムは、いずれも2000g/m
2・24h以上の良好な透湿度および良好な風合いを有していた。また、5%伸張強度は高い値を保持し、機械方向の熱収縮率は低い値を保持していた。
【0028】
実施例7
延伸条件として、延伸倍率を2.8倍とした以外は、実施例2と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。得られた延伸多孔性フィルムは、2000g/m
2・24h以上の良好な透湿度および良好な風合いを有していた。また、5%伸張強度は高い値を保持し、機械方向の熱収縮率は低い値を保持していた。
【0029】
実施例8
延伸条件として、延伸倍率を2.6倍とした以外は、実施例2と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。得られた延伸多孔性フィルムは、2000g/m
2・24h以上の良好な透湿度および良好な風合いを有していた。また、5%伸張強度は高い値を保持し、機械方向の熱収縮率は低い値を保持していた。
【0030】
実施例9
延伸条件として、延伸倍率を3.8倍とした以外は、実施例2と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。得られた延伸多孔性フィルムは、2000g/m
2・24h以上の良好な透湿度および良好な風合いを有していた。また、5%伸張強度は高い値を保持し、機械方向の熱収縮率は低い値を保持していた。
【0031】
比較例1〜4
組成物の配合を表1に示す配合に変えた以外は、実施例1と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0032】
比較例5
延伸条件として、延伸倍率を1.7倍とした以外は、実施例1と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。
【0033】
比較例6
延伸条件として、延伸倍率を2.0倍とした以外は、実施例2と同様にフィルムを成形し、評価を行った。結果を表2に示した。
比較例1〜6の結果から、透湿度が2000g/m
2・24h以下であったり、5%伸張強度が低い値であったり、また、ピンホールが多く、物性評価できないものもあった。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の記号の説明
(ポリオレフィン系樹脂、原料)
A:線形低密度ポリエチレン[ダウケミカル(株)製、商品名:ダウレックス2035G、密度:0.919g/cm
3、メルト・インデックス:6.0g/10min.]
B:線形低密度ポリエチレン[ダウケミカル(株)製、商品名:ダウレックス2036P、密度:0.935g/cm
3、メルト・インデックス:2.5g/10min.]
C:分岐状低密度ポリエチレン[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名:ミラソン16P、密度:0.917g/cm
3、メルト・インデックス:3.7g/10min.]
D:分岐状低密度ポリエチレン[旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:L1850K、密度:0.918g/cm
3、メルト・インデックス:6.7g/10min.]
E:ポリプロピレン[(株)プライムポリマー製、商品名:F−704NP、密度:0.900g/cm
3、MI:2.8g/10min.]
F:ポリプロピレン[日本ポリプロ(株)製、商品名:ウィンテックWFX4M、密度:0.900g/cm
3、MI:2.8g/10min.]
G:炭酸カルシウム[(株)イメリスミネラルズ製、商品名:FL−520]
H:添加剤[酸化チタン(ハンツマン(株)製、商品名:TR28)50質量%、ヒンダードフェノール系熱安定剤(チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGANOX3114)20質量%、リン系熱安定剤(チバ・ジャパン(株)製、商品名:IRGAFOS168)30質量%の混合物]
(延伸条件)
※1:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率3.2倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
※2:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率2.8倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
※3:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率2.6倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
※4:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率3.8倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
※5:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率1.7倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
※6:60℃に設定したロール延伸機で機械方向のみ一軸延伸(延伸倍率2.0倍)し、次いで90℃に設定した熱セットロールでインラインアニーリングした。
【0036】
【表2】