特許第6859478号(P6859478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6859478ベーカリー製品用小麦粉、及びベーカリー製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6859478
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ベーカリー製品用小麦粉、及びベーカリー製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/00 20060101AFI20210405BHJP
   A21D 8/00 20060101ALI20210405BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20210405BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20210405BHJP
【FI】
   A21D2/00
   A21D8/00
   A21D10/00
   A21D13/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-174492(P2020-174492)
(22)【出願日】2020年10月16日
【審査請求日】2020年11月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】二瀬 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智規
(72)【発明者】
【氏名】市野 正明
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−014224(JP,A)
【文献】 特開2004−008171(JP,A)
【文献】 特開2015−213460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、
アメリカ産のハード・レッド・ウィンター(HRW)の小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、
前記小麦粉Bが、アメリカ産のウェスタンホワイト(WW)、及び オーストラリア産のオーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)、並びに日本産のきたほなみ、さとのそら、及びこれらの派生品種からなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉であり、
前記小麦粉Aの含有率が、60質量%以上であり、
前記小麦粉Bの含有率が、3〜30質量%であり、且つ
前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計の含有率が、65〜100質量%であることを特徴とするベーカリー製品用小麦粉。
【請求項2】
前記小麦粉Bの含有率が、アメリカ産のウェスタンホワイト(WW)の小麦粉の場合は、3〜30質量%であり、オーストラリア産のオーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)の小麦粉の場合は、5〜30質量%であり、日本産のきたほなみ、さとのそら、及びこれらの派生品種の小麦粉の場合は、5〜10質量%である請求項1に記載のベーカリー製品用小麦粉。
【請求項3】
ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むミックスであって、
前記小麦粉が、請求項1又は2に記載のベーカリー製品用小麦粉であるベーカリー製品用ミックス。
【請求項4】
ベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むドウ生地であって、
前記小麦粉が、請求項1又は2に記載のベーカリー製品用小麦粉であるベーカリー製品用生地。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のベーカリー製品用小麦粉、請求項に記載のベーカリー製品用ミックス、又は請求項に記載のベーカリー製品用生地を用いるベーカリー製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉に関し、具体的には、従来、主体的には用いられていなかった小麦の小麦粉を用いて、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造可能なベーカリー製品用小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、一般に、パン、イーストドーナツ、ピザ、中華まんじゅう等のドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉は、北米産硬質小麦等を組合せて製造されている。ドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉に使用される北米産硬質小麦としては、カナダ産のNo.1カナダ・ウェスタン・レッド・スプリング(以下、1CWと称する)、アメリカ産のダーク・ノーザン・スプリング(以下、DNSと称する)、アメリカ産のハード・レッド・ウィンター(以下、HRWと称する)等が挙げられる。
【0003】
これらの北米産硬質小麦の内、HRWは、生産量が最も多いものの、DNSと比較してたん白質の量が少ないので製パン性が及ばず、また、たん白質の量がDNSと同じ試料を使って比較しても、吸水性が少なく、パン体積も小さいとされ、日本では、強力粉の製造でたん白質の量を調整する目的で少量配合することもあるが、準強力粉製造用の原料として使われることが多く、中華めん用粉や即席ラーメン用粉が主用途であるとされている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】長尾精一著、「小麦粉利用ハンドブック」、幸書房、2011年10月発行、第73頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造可能なドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々の小麦の小麦粉の組合せについて鋭意検討した結果、意外にも、上述のとおり、単独で用いると製パンが困難なHRWの小麦粉を主体的に用い、通常、製パン用小麦粉に用いない、たん白質含有量が低い小麦の小麦粉を組合せて用いることで上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、上記課題は、ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、前記小麦粉Bが、アメリカ産のウェスタンホワイト(WW)、及び オーストラリア産のオーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)、並びに日本産のきたほなみ、さとのそら、及びこれらの派生品種からなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉であり、前記小麦粉Aの含有率が、60質量%以上であり、前記小麦粉Bの含有率が、3〜30質量%であり、且つ前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計の含有率が、65〜100質量%であることを特徴とするベーカリー製品用小麦粉によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来、主体的には用いられていなかった小麦の小麦粉を用いて、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができるドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉、及びそれを用いるベーカリー製品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ベーカリー製品用小麦粉]
本発明のベーカリー製品用小麦粉は、ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、前記小麦粉Aの含有率が、60質量%以上であり、且つ前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計の含有率が、65〜100質量%であることを特徴とする。本発明において、単独で用いると製パンが困難なHRWの小麦粉を主体的に含む小麦粉であっても、通常、製パン用小麦粉に用いない、たん白質含有量が低い小麦の小麦粉を適切に組合せることで、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができることが見出された。前記小麦粉Bの原料小麦のたん白質含量は、12.0質量%以下が好ましく、11.5質量%以下がさらに好ましく、11.0質量%以下がさらに好ましく、10.5質量%以下がさらに好ましく、10.0質量%以下が特に好ましい。本発明において、良好な製パン性とは、生地の伸展性が、一般的なベーカリー製品用小麦粉である1CWの小麦粉を用いた場合と同等以上に良好であることを意味し、良好な品質とは、ソフト性、歯切れ、口溶けが1CWの小麦粉を用いた場合と同等以上に良好であることを意味する。 なお、本発明において、小麦のたん白質含量は、後述する実施例に記載した方法で測定したものである。
【0010】
本発明のベーカリー製品用小麦粉において、前記小麦粉Aの含有率は、60〜90質量%が好ましく、60〜80質量%がさらに好ましく、60〜75質量%がさらに好ましく、60〜70質量%が特に好ましい。また、前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計の含有率は、70〜100質量%であることが好ましく、75〜100質量%であることがさらに好ましい。本発明のベーカリー製品用小麦粉において、前記小麦粉Bの含有率は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0011】
本発明において、前記小麦粉Bとしては、アメリカ産のウェスタンホワイト(以下、WWと称する)、オーストラリア産のオーストラリアン・スタンダード・ホワイト(以下、ASWと称する)、オーストラリアン・ヌードル小麦(ANW)、及び日本産普通小麦からなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉であることが好ましく、日本産普通小麦としては、日本産のきたほなみ、さとのそら、あやひかり、イワイノダイチ、ウシオコムギ、関東107号、北見95号、きぬあかり、きぬいろは、きぬの波、キヌヒメ、群馬W8号、さぬきの夢2000、さぬきの夢2009、シラネコムギ、シロガネコムギ、タマイズミ、チクゴイズミ、ちくしW2号、つるぴかり、ナンブコムギ、ニシノカオリ、ニシホナミ、農林61号、びわほなみ、ふくさやか、ふくはるか、ふくほのか、ホクシン、及びゆきはるかからなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉であることがさらに好ましい。小麦粉Bとしては、WW、ASW、日本産のきたほなみ、及びさとのそらからなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉であることがさらに好ましく、WW、及び/又は日本産のさとのそらの小麦粉であることが特に好ましい。なお、本発明において、小麦粉Bとして日本産普通小麦の小麦粉を用いる場合は、上述の日本産普通小麦品種、及びそれらから派生した小麦品種(現存する日本産小麦品種の品種改良で生まれた小麦品種)の小麦粉の双方を用いることができる。すなわち、本発明においては、日本産普通小麦の小麦粉として、上述の現存する日本産普通小麦、及びその派生品種からなる群から選択される1種以上の小麦の小麦粉を必要に応じて組合せて用いることができる。
【0012】
本発明のベーカリー製品用小麦粉に含まれ得る前記小麦粉A及び前記小麦粉B以外の小麦粉は、ドウ生地を用いるベーカリー製品に使用できるものであれば、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り特に制限はない。例えば、1CW、DNS、オーストラリア産のオーストラリアン・プライム・ハード(APH)、オーストラリアン・ハード(AH)、オーストラリアン・プレミアム・ホワイト(APW)、日本産のキタノカオリ、銀河のちから、せときらら、つるきち、ハナマンテン、ハルイブキ、ハルユタカ、はるきらり、春よ恋、ミナミノカオリ、ゆきちから、ゆめきらり、ゆめちから等の原料小麦から得られる小麦粉が挙げられる。
【0013】
本発明において、原料小麦から小麦粉を製造する方法としては、常法に従って実施すればよく、例えば、精選した小麦粒を、加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行ってもよい。また、ピーリング工程や一般的な粉砕機(石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等)を用いた粉砕工程、分級工程を必要に応じて組合せてもよい。
【0014】
本発明のベーカリー製品用小麦粉を用いて製造されるベーカリー製品としては、小麦粉を主成分として調製されたドウ生地を加熱することで製造される製品であれば、特に制限はない。例えば、食パン、ロールパン、食卓パン、フランスパン、菓子パン、調理パン、デニッシュ、イーストドーナツ、ピザ、中華まんじゅう、パネトーネ、シュトーレン、パイ等が挙げられる。
【0015】
[ベーカリー製品用ミックス]
本発明のベーカリー製品用ミックスは、ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むミックスであって、前記小麦粉が、本発明のベーカリー製品用小麦粉であることを特徴とする。本発明のベーカリー製品用ミックスを用いることで、上述の通り、単独で用いると製パンが困難なHRWの小麦粉を主体的に含む小麦粉を用いても、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができる。本発明のベーカリー製品用ミックスは、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、ベーカリー製品に一般的に用いられる小麦粉以外の穀粉や澱粉、その他の材料を適宜含むことができる。穀粉としては、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、大豆粉(きな粉)、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、米粉等が挙げられる。澱粉としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工の澱粉、これらの澱粉に加工処理、例えば、焙焼;α化;酵素処理;酸処理;酸化処理;アルカリ処理;架橋処理;アセチル化等のエステル化処理;ヒドロキシプロピル化等のエーテル化処理等の物理的又は化学的加工処理を単独又は複数組合せて施した加工澱粉等の澱粉が挙げられる。その他の材料としては、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;イースト、ベーキングパウダー、増粘多糖類、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、酵素製剤、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等が挙げられる。本発明のベーカリー製品用ミックスは、本発明のベーカリー製品用小麦粉を含んでいればよく、例えば、ベーカリー製品を製造する際に、そのまま使用する形態でもよく、上述の小麦粉A及び小麦粉B以外の小麦粉を含むその他の材料と混合して使用する形態のベーカリー製品用ミックスでもよい。
【0016】
[ベーカリー製品用生地]
本発明のベーカリー製品用生地は、ベーカリー製品を製造するための小麦粉を含むドウ生地であって、前記小麦粉が、本発明のベーカリー製品用小麦粉であることを特徴とする。本発明のベーカリー製品用生地は、小麦粉として本発明のベーカリー製品用小麦粉及びその他の材料を別々に配合して調製してもよく、本発明のベーカリー用ミックスを用いて調製してもよい。また、ベーカリー製品用生地を調製する際に、小麦粉として、本発明のベーカリー製品用小麦粉となるように、上述の小麦粉A及び小麦粉Bを別々に配合してもよい。本発明のベーカリー製品用生地を用いることで、上述の通り、単独で用いると製パンが困難なHRWの小麦粉を主体的に含む小麦粉を用いても、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができる。本発明のベーカリー製品用生地の材料は、本発明のベーカリー製品用小麦粉、又は本発明のベーカリー製品用ミックス、及び必要に応じて上述の小麦粉以外の穀粉や澱粉、その他の材料、及び水、液卵、牛乳、油脂等の液体材料を用いることができる。本発明において、ベーカリー製品の製造方法としては、例えば、中種法、ストレート法、ノータイム法、発酵種法、湯種法、冷凍生地法等の公知の方法を用いることができ、本発明のベーカリー製品用生地は、その過程で得られる生地である。
【0017】
[ベーカリー製品の製造方法]
本発明のベーカリー製品の製造方法は、本発明のベーカリー製品用小麦粉、本発明のベーカリー製品用ミックス、又は本発明のベーカリー製品用生地を用いていれば特に制限はなく、通常のベーカリー製品の製造方法を適用して行なうことができる。本発明のベーカリー製品の製造方法は、通常、本発明のベーカリー製品用生地を加熱する工程を含む。例えば、上述のように本発明のベーカリー製品用小麦粉、又は本発明のベーカリー製品用ミックス、及び必要に応じて上述の小麦粉以外の穀粉や澱粉、その他の材料、及び水、液卵、牛乳、油脂等の液体材料を用いて、必要に応じてベーカリー製品用ミックスを調製した後、本発明のベーカリー製品用生地を調製し、前記生地を必要に応じて発酵させ、成形し、常法に従って加熱(焼成、油ちょう、蒸し)することでベーカリー製品を製造することができる。加熱条件等は、製造するベーカリー製品に応じて適宜設定することができる。なお、本発明は、本発明のベーカリー製品用小麦粉、本発明のベーカリー製品用ミックス、又は本発明のベーカリー製品用生地を用いて製造されたベーカリー製品にも関連する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.ベーカリー製品用小麦粉の調製
表1に示した原料小麦(HRW、WW、ASW、日本産のきたほなみ、さとのそら、1CW、DNS)を製粉して得た各小麦粉を、表1に示した配合で混合し、各ベーカリー製品用小麦粉を調製した。なお、原料小麦のたん白質含量は、粉砕した小麦について、ケルダール法によって窒素含量を定量し、窒素−たん白質換算係数(5.70)を乗じて算出した。
2.食パン(中種法)の試験
2−1.食パンの調製
ベーカリー製品として食パンを選定し、表1に示した各ベーカリー製品用小麦粉、パン酵母(生)(「カネカイーストレッド」カネカ社製)、イーストフード(「Cイーストフード」オリエンタル酵母工業社製)、水、上白糖、食塩、脱脂粉乳(「明治脱脂粉乳」明治社製)、ショートニング(「エンブレム」ミヨシ油脂社製)を用いて、以下の通り、中種法で食パンを調製した(粉2kg仕込み)。
(1)中種の材料として、小麦粉70質量部、パン酵母2質量部、イーストフード0.1質量部、水40質量部をボウルに入れ、ミキサー(関東混合器工業社製「HPI−20M」)の低速で3分間、中速で2分間ミキシングして中種を調製した。中種の捏上温度は24.0〜24.5℃であった。
(2)中種を28℃、相対湿度75%に設定したドウコンディショナー(フジサワ・マルゼン社製「FX−982DC」)で4時間発酵させた後、本捏の材料として、小麦粉30質量部、上白糖5質量部、食塩2質量部、脱脂粉乳2質量部入れ、水を適宜添加し、ミキサーの低速で3〜4分間、中速で5〜7分間ミキシングした。
(3)(2)にショートニング5質量部を添加し、さらにミキサーの低速で2〜3分間、中速4〜6分間ミキシングして生地を調製した。生地の捏上温度は27.0〜27.5℃に調整した。
(4)(3)で調製した生地を28℃、相対湿度75%の条件下で20分間のフロアタイムをとった後、一玉220gに分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった。
(5)(4)の生地をミニモルダー(オシキリ社製「MQ」)にて間隙2.0の設定で圧延後、U字形に成形し、6個をパン型に詰め、38℃、相対湿度85%の条件下でホイロを50〜53分間とった後、オーブン(戸倉商事社製TOOKOVEN)を用いて200〜210℃で37分間焼成し、食パンを得た。
2−2.食パンの生地評価、及び得られた食パンの評価
2−1.で調製した際の食パンの生地の製パン性、及び得られた食パンの食感について、一般的なベーカリー製品用小麦粉である1CWの小麦粉を用いた参考例1と比較して、下記の評価基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表1に示す。
(1)製パン性(生地伸展性)
5:生地伸展性が良好
4:生地伸展性がやや良好
3:生地伸展性が同等
2:生地伸展性がやや劣る
1:生地伸展性が劣る
(2)食感
(i)ソフト性
5:ソフト性が良好
4:ソフト性がやや良好
3:ソフト性が同等
2:ソフト性がやや劣る
1:ソフト性が劣る
(ii)歯切れ
5:歯切れが良好
4:歯切れがやや良好
3:歯切れが同等
2:歯切れがやや劣る
1:歯切れが劣る
(iii)口溶け
5:口溶けが良好
4:口溶けがやや良好
3:口溶けが同等
2:口溶けがやや劣る
1:口溶けが劣る
【0019】
3.ロールパン(冷凍生地使用)の試験
3−1.ロールパンの調製
ベーカリー製品として冷凍生地を使用したロールパンを選定し、表2に示した各ベーカリー製品用小麦粉、グラニュー糖、ショートニング(「エンブレム」ミヨシ油脂社製)、パン酵母(生)(「カネカイーストGK」カネカ社製)、脱脂粉乳(「明治脱脂粉乳」明治社製)、食塩、冷凍生地改良剤(「ジョーカーキモ」ピュラトス社製)、水を用いて、以下の通り、ロールパンを調製した。
(1)小麦粉100質量部、グラニュー糖12質量部、パン酵母4.5質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.5質量部、冷凍生地改良剤0.4質量部をボウルに入れ、水を適宜添加し、ミキサーの低速で5分間ミキシングした後、中速で5分間、高速で5〜8分間ミキシングした。
(2)(1)にショートニング10質量部を添加し、さらにミキサーの低速で3分間、中速5分間、高速で2分間ミキシングして生地を調製した。生地の捏上温度は19〜20℃とした。
(3)(2)で調製した生地を室温(22℃)、相対湿度50%の条件下で5分間のフロアタイムをとった後、60gに分割して丸め、ベンチタイムを分割開始から15分間とった。
(4)(3)の生地をミニモルダー(オシキリ製)にて間隙2.0、ガイド18cmの設定で圧延後、ロール成形し、−38℃で1時間急速冷凍し、−20℃で1週間保存した。
(5)(4)の冷生地を20℃、相対湿度70%に設定したドウコンディショナー(フジサワ・マルゼン社製「FX−982DC」)で150〜180分間解凍し、36℃、相対湿度80%の条件下でホイロを50〜60分間とった後、オーブン(戸倉商事社製TOOKOVEN)を用いて200℃で11分間焼成し、ロールパンを得た。
3−2.ロールパンの生地評価、及び得られたロールパンの評価
3−1.で調製した際のロールパンの生地の製パン性、及び得られたロールパンの食感について、一般的なベーカリー製品用小麦粉である1CWの小麦粉を用いた参考例2と比較して、2−2.に示した評価基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。結果を表2に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
表1に示した通り、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、小麦粉Aの含有率が60〜97質量%、小麦粉Aと小麦粉Bの合計の含有率が65〜100質量%である試験例3〜20のベーカリー製品用小麦粉を用いて食パンを調製した場合、生地伸展性が、参考例1と同等以上であり、得られた食パンのソフト性、歯切れ、口溶けも、参考例1と同等以上であった。一方、HRWの小麦粉Aのみからなる試験例1のベーカリー製品用小麦粉用いた場合は、生地伸展性の評価が低く、得られた食パンのソフト性、口溶けの評価も低かった。また、小麦粉BであるWWの小麦粉のみからなる試験例2のベーカリー製品用小麦粉用いた場合は、生地伸展性の評価が低く、得られた食パンの膨らみが悪く外観が不良であり、食感の評価もいずれも低かった。さらに、小麦粉Aの含有率が50質量%、小麦粉Aと小麦粉Bの合計の含有率が55質量%である試験例21のベーカリー製品用小麦粉を用いた場合は、生地伸展性の評価がやや低く、得られた食パンのソフト性、口溶けの評価もやや低かった。
【0023】
また、表2に示した通り、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、小麦粉Aの含有率が60〜97質量%、小麦粉Aと小麦粉Bの合計の含有率が65〜100質量%である試験例23〜38のベーカリー製品用小麦粉を用いてロールパンを調製した場合、生地伸展性が、参考例2と同等以上であり、得られたロールパンのソフト性、歯切れ、口溶けも、参考例2と同等以上であった。一方、HRWの小麦粉Aのみからなる試験例22のベーカリー製品用小麦粉用いた場合は、生地伸展性の評価が低く、得られたロールパンのソフト性、口溶けの評価も低かった。また、小麦粉Aの含有率が50質量%、小麦粉Aと小麦粉Bの合計の含有率が55質量%である試験例39のベーカリー製品用小麦粉を用いた場合は、生地伸展性の評価がやや低く、得られたロールパンのソフト性、口溶けの評価もやや低かった。
【0024】
以上により、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、小麦粉Aの含有率が60質量%以上であり、小麦粉Aと小麦粉Bの合計の含有率が65〜100質量%であるベーカリー製品用小麦粉を用いることで、HRWの小麦粉を主体的に含んでいても、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができることが示唆された。
【0025】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、従来、主体的には用いられていなかった小麦の小麦粉を用いて、良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造することができるドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉、及びそれを用いるベーカリー製品の製造方法を提供することができる。

【要約】
【課題】良好な製パン性で、良好な品質のベーカリー製品を製造可能なドウ生地を用いるベーカリー製品用小麦粉に関する。
【解決手段】ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための小麦粉であって、HRWの小麦粉A、及びたん白質含量が12.5質量%以下の小麦の小麦粉Bを含み、前記小麦粉Aの含有率が、60質量%以上であり、且つ前記小麦粉Aと前記小麦粉Bの合計の含有率が、65〜100質量%であることを特徴とするベーカリー製品用小麦粉、ドウ生地を用いるベーカリー製品を製造するための本発明のベーカリー製品用小麦粉を含むミックス、ベーカリー製品を製造するための本発明のベーカリー製品用小麦粉を含むドウ生地、並びに本発明のベーカリー製品用小麦粉、本発明のベーカリー製品用ミックス、又は本発明のベーカリー製品用生地を用いるベーカリー製品の製造方法。
【選択図】なし