【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年使用されているマスク基板の膜は、デザインルールの微細化に対応するため位相シフト膜が一般的に採用されるようになってきている。しかし、位相シフト膜は非常にデリケートで、過度な条件でのマスク洗浄で位相シフト膜に腐食や削れなどのダメージを受けてしまう可能性があり、そのため近年マスク洗浄に使用する薬液を再検討したり、洗浄条件を弱くしたりする傾向がある。
【0009】
さらに、先端品のマスクではこれまで主流だったポジタイプ(positive type)のマスクパターンからネガタイプ(negative type)のマスクパターンに推移してきており、これに伴いペリクルを貼り付けた部分に遮光層が無い状況が多々ある。遮光層が無いとペリクル粘着剤に露光光線がマスク基板越しに照射されてしまう可能性がある。そうすると、ペリクルを剥離した際にマスク基板上に粘着剤層の残渣がより多く残る恐れがある。
【0010】
ペリクルはマスクに貼り付けて使用される際、異物やヘイズが発生したり、ペリクル膜にダメージを受けたりした場合、該ペリクルを剥離してマスクを再生洗浄し、新しいペリクルに貼り換える必要がある(これを以後、「リペリクル」と呼ぶ)。リペリクルで最も重要になるのが、マスクを清浄度の高い状態になるように再生洗浄することであるが、近年の弱い洗浄条件でマスクの再生洗浄を実施するためには、ペリクルを剥離した際にマスク基板上に残る残渣をいかに少なくするかが重要である。
この再生洗浄は一般的に硫酸過水、アンモニア過水等の薬剤による洗浄や、ブラシ、スポンジ等の物理的な洗浄が使用されている。しかしながら、フォトマスクへのダメージや硫酸イオンのフォトマスクへの残存を抑制するために、機能水による再生洗浄が検討されている。
【0011】
機能水とは、一般的に、人為的な処理によって再現性のある有用な機能を付与された水溶液の中で、処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの、及び明らかにされようとしているもの、と定義されている。具体的には、オゾン水、水素水、マイクロバブル水、ナノバブル水等のファインバブル水、電解水、超臨界水、亜臨界水などが挙げられ、フォトマスクを洗浄するためにはオゾン水及び水素水が多く使用されている。また、少量のアンモニアを添加することにより洗浄力を向上させることができる。
【0012】
しかしながら、機能水は硫酸過水等の薬剤と比較して洗浄力が弱いため、ペリクル剥離後のフォトマスクの再生洗浄では、ペリクルとフォトマスクを固定していた粘着剤層の残渣が機能水洗浄だけでは除去しにくいという知見を本発明者らは得た。特に位相シフトフォトマスクでは位相シフト膜へのダメージが透過率や位相差の変化に繋がるため、機能水洗浄に加えて物理的な洗浄を追加することも困難である。
【0013】
また、ペリクルフレームの上端面にペリクル膜貼り付け用接着剤層を介してペリクル膜を張設し、他端面にマスク貼着用粘着剤層を設けたリソグラフィ用ペリクルで、ArFエキシマレーザー(193nm)などの露光光線を用いてリソグラフィを行うと、ペリクルフレームの下端面に形成した粘着剤層が露光光線によって変質し、露光原版から剥離する際に、露光原版上に粘着剤層の変質した部分が剥離残渣となって多く残ることも問題である。
【0014】
これまでに残渣を低減する技術として、粘着剤中に表面改質剤等を添加するといった試み(前記特許文献1、前記特許文献2)がなされている。また、残渣を低減する技術として、凝集破断強度が20g/mm
2以上である粘着剤層を有する大型ペリクル(前記特許文献3)、剥離強度と引張強度の比が、0.10以上で0.33以下であるペリクル用粘着剤を備えるペリクルが開示されている(前記特許文献4)。
【0015】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、リソグラフィ使用後、特にArFリソグラフィ使用後の露光原版からペリクルを剥離した際に、該露光原版上にこびりつく残渣を少なくすることができるペリクル用粘着剤、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光原版の再生方法及び剥離残渣低減方法を提供することを目的とする。これにより、生産効率を向上させることができる半導体装置及び液晶表示板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決された。
[1]露光原版にペリクルを貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、
SP値が10.0以上12.0以下であるアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[2]露光原版にペリクルを貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、
エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体成分とするアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[3]エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルが、アルキレンオキサイド基を有する(メタ)アクリル酸エステルである前記[2]記載のペリクル用粘着剤。
[4]エーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステルが、全単量体成分に対して30質量%以上含まれる前記[3]記載のペリクル用粘着剤。
[5]アルキレンオキサイド基が、エチレンオキサイド基である前記[3]又は[4]記載のペリクル用粘着剤。
[6]単量体成分として、さらにカルボキシル基又はヒドロキシル基を有する不飽和モノマーを含む前記[2]〜[5]のいずれかに記載のペリクル用粘着剤。
[7]単量体成分として、さらに(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む前記[2]〜[6]のいずれかに記載のペリクル用粘着剤。
[8]露光原版にペリクルを貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、
エーテル結合を含む側鎖を有するアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[9]エーテル結合を含む側鎖が、アルキレンオキサイド基を有する前記[8]
記載のペリクル用粘着剤。
[10]アルキレンオキサイド基が、エチレンオキサイド基である前記[9]記載のペリクル用粘着剤。
[11]露光原版にペリクルを貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、露光光線の照射による分解性が主鎖よりも高い側鎖を有するアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[12]露光原版にペリクルを貼り付けるためのペリクル用粘着剤であって、露光光線の照射により選択的に劣化する側鎖を有するアクリル系重合体を母材とするペリクル用粘着剤。
[13]ペリクルフレームと、該ペリクルフレームの一方の端面に設けられた前記[1]〜[12]のいずれかに記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有する粘着剤層付ペリクルフレーム。
[14]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記[1]〜[12]のいずれかに記載のペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクル。
[15]粘着剤層が露光光線に照射される前記[14]記載のペリクル。
[16]位相シフトフォトマスクに貼り付けられる前記[14]記載のペリクル。
[17]ネガタイプの露光原版に貼り付けられる前記[14]記載のペリクル。
[18]露光原版における粘着剤層の貼り付け部分に遮光されていない領域又は半透明遮光領域を有する露光原版に貼り付けられる前記[14]記載のペリクル。
[19]露光原版における粘着剤層の貼り付け部分に透明領域を有する露光原版に貼り付けられる前記[14]記載のペリクル。
[20]酸化ケイ素を主成分とする面に貼り付けられる前記[14]記載のペリクル。
[21]酸化ケイ素を主成分とする面が石英面である前記[20]記載のペリクル。
[22]機能水による再生洗浄に対応した前記[14]記載のペリクル。
[23]露光原版に前記[14]又は[15]記載のペリクルが装着されているペリクル付露光原版。
[24]露光原版が位相シフトフォトマスクである前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[25]露光原版がネガタイプである前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[26]露光原版の粘着剤層の貼り付け部分が遮光されていない領域又は半透明遮光領域を有する前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[27]露光原版の粘着剤層の貼り付け部分が透明領域を有する前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[28]露光原版が酸化ケイ素を主成分とする前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[29]露光原版が石英基板である前記[23]記載のペリクル付露光原版。
[30]前記[23]〜[29]のいずれかに記載のペリクル付露光原版によって露光する工程を備える半導体装置の製造方法。
[31]前記[23]〜[29]のいずれかに記載のペリクル付露光原版によって露光する工程を備える液晶表示板の製造方法。
[32]前記[23]〜[29]のいずれかに記載のペリクル付露光原版からペリクルを剥離し、機能水により露光原版に残った粘着剤の残渣を洗浄することにより露光原版を再生する露光原版の再生方法。
[33]ペリクルを貼り付けた露光原版からペリクルを剥離した際の、露光原版上に残る前記ペリクルの粘着剤層の剥離残渣低減方法であって、前記ペリクルとして前記[14]〜[22]のいずれかに記載のペリクルを用いる、剥離残渣低減方法。
[34]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、粘着剤層が露光光線に照射されるペリクルの応用。
[35]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、位相シフトフォトマスクに貼り付けられるペリクルの応用。
[36]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、ネガタイプの露光原版に貼り付けられるペリクルの応用。
[37]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、露光原版における粘着剤層の貼り付け部分に遮光されていない領域又は半透明遮光領域を有する露光原版に貼り付けられるペリクルの応用。
[38]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、露光原版における粘着剤層の貼り付け部分に透明領域を有する露光原版に貼り付けられるペリクルの応用。
[39]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、酸化ケイ素を主成分とする面(特に石英面)に貼り付けられるペリクルの応用。
[40]ペリクル膜と、該ペリクル膜が一方の端面に設けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられた前記ペリクル用粘着剤から得られる粘着剤層と、を有するペリクルの応用であって、機能水による再生洗浄に対応したペリクルの応用。
[41]ペリクル膜と、該ペリクル膜がその一方の端面に貼り付けられたペリクルフレームと、該ペリクルフレームの他方の端面に設けられたペリクルを露光原版に貼り付けるための粘着剤層とを含んで構成される剥離残渣低減ペリクルであって、前記粘着剤層が、SP値10.0以上12.0以下であるアクリル樹脂を母材とすることを特徴とする剥離残渣低減ペリクル。
[42]前記粘着剤層は、さらにポリビニルエーテル化合物を含有する、前記[41]記載の剥離残渣低減ペリクル。
[43]前記剥離残渣低減ペリクルが、ArFリソグラフィ用の剥離残渣低減ペリクルである、前記[41]又は[42]記載の剥離残渣低減ペリクル。
[44]ペリクルを露光原版に貼り付けるための粘着剤を選定し、ペリクルフレームの一方の端面に当該粘着剤を塗布して粘着剤層を作り、これに保護部材を剥離可能に貼着し、ペリクルフレームの他方の端面に接着剤を塗布し、これにペリクル膜を貼り付ける、剥離残渣低減ペリクルの製造方法であって、
前記粘着剤の選定において、SP値10.0以上12.0以下であるアクリル樹脂を母材とするものを選択することを特徴とする、剥離残渣低減ペリクルの製造方法。
[45]前記粘着剤層は、さらにポリビニルエーテル化合物を含有する、前記[44]記載の剥離残渣低減ペリクルの製造方法。
[46]ペリクルを貼り付けた露光原版からペリクルを剥離した際に、露光原版上に残る前記ペリクルの粘着剤層の剥離残渣を低減する方法であって、
前記ペリクルとして、前記[41]〜[43]のいずれかに記載のペリクルを用いることを特徴とする方法。