特許第6859704号(P6859704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6859704赤外線遮蔽粒子分散体、赤外線遮蔽合わせ透明基材、赤外線遮蔽粒子分散粉、及びマスターバッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859704
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽粒子分散体、赤外線遮蔽合わせ透明基材、赤外線遮蔽粒子分散粉、及びマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20210405BHJP
   C01B 35/04 20060101ALI20210405BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20210405BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20210405BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20210405BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C01B35/04 A
   C08K3/38
   C08J3/22CER
   C08J5/18CEZ
   C09K3/00 105
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-254440(P2016-254440)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2017-122219(P2017-122219A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2019年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-301(P2016-301)
(32)【優先日】2016年1月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 健二
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−063486(JP,A)
【文献】 特開2009−265485(JP,A)
【文献】 特開2014−141376(JP,A)
【文献】 特開2004−059875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 3/00−3/28
C09K 3/00
C01B 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.05質量%より多く0.2質量%未満であるホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記ホウ化物粒子の平均分散粒子径が1nm以上100nm以下である赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項2】
前記一般式XBにおけるmが4.0以上6.2以下である請求項1に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項3】
前記ホウ化物粒子に含まれるBCの量が1.0質量%以下である請求項1または請求項2に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂からなる樹脂群から選択される1種類の樹脂、
前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物、
及び前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の共重合体、から選択される1種類以上である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項5】
シート形状、ボード形状、またはフィルム形状である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項6】
単位投影面積あたりの前記ホウ化物粒子の含有量が、0.01g/m以上1.0g/m以下である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項7】
可視光透過率を45%以上55%以下に設定した場合に、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の赤外線遮蔽粒子分散体。
【請求項8】
複数枚の透明基材と、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の赤外線遮蔽粒子分散体とを有し、
前記赤外線遮蔽粒子分散体が、前記複数枚の透明基材間に配置されている赤外線遮蔽合わせ透明基材。
【請求項9】
一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.05質量%より多く0.2質量%未満であるホウ化物粒子と、分散剤とを含み、
前記ホウ化物粒子の平均分散粒子径が1nm以上100nm以下である赤外線遮蔽粒子分散粉。
【請求項10】
一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.05質量%より多く0.2質量%未満であるホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記ホウ化物粒子の平均分散粒子径が1nm以上100nm以下である赤外線遮蔽粒子分散体であって、ペレット形状を有するマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線遮蔽粒子分散体、赤外線遮蔽合わせ透明基材、赤外線遮蔽粒子分散粉、及びマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、La等の希土類元素のホウ化物粒子は、固相反応法で合成された後、乾式粉砕法で粉砕されて製造され、特にジェットミル等の高速気流により粒子同士を衝突させて粉砕する方法が一般的である。希土類元素のホウ化物粒子のうち、例えば、六ホウ化ランタンは、ランタン酸化物とホウ素酸化物とを炭素の存在下で高温に加熱することにより得られ、その後乾式粉砕装置で粉砕されている。なお、ジェットミルを用いた、粉体の微粉砕方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
これらホウ化物粒子は、従来から厚膜抵抗ペースト等に使用されており、また微細粒子にすると日射遮蔽用の光学材料として用いることが可能である。即ち、ホウ化物粒子を分散させた膜は、可視光線を透過し、熱エネルギーとして作用する近赤外線を効率よく遮蔽することができるため、住宅や自動車の窓などに適用する日射遮蔽材として好適であることが知られている(例えば、特許文献2、3を参照)。
【0004】
しかし、La等の希土類元素のホウ化物は硬質であるため、ジェットミル等を用いた乾式粉砕法では微細な粒子に粉砕することが難しく、1μm〜3μm程度の比較的大きな粒子しか得られないという問題があった。また、乾式粉砕法で得たホウ化物粒子は、再凝集を抑えることが困難であった。
【0005】
その後の研究で、媒体撹拌ミルで処理することにより、ホウ化物粒子の平均分散粒子径を200nm以下にできることが見出された(例えば、特許文献4を参照)。これにより、経済的に平均分散粒子径が200nm程度のホウ化物粒子が得られるようになった。平均分散粒子径が200nm以下のホウ化物粒子を用いれば、粒子径が200nmよりも大きい時に起こる幾何学散乱又はミー散乱を低減できる。このため、400nm〜780nmの可視光領域の光を散乱して曇りガラスのようになる現象が防げるようになり、透明性を重視した光学部材が得られるようになった。
【0006】
しかし、赤外線遮蔽材料粒子として上記ホウ化物粒子が分散された赤外線遮蔽光学部材は、太陽光やスポットライト等の強い光が照射されたときに青白色に変色する現象(以下、係る現象を「ブルーヘイズ」と記載する場合がある)を生じる場合がある。このようなブルーヘイズを生じると、赤外線遮蔽光学部材の美観が損なわれる恐れがある等の問題があった。
【0007】
ホウ化物粒子の平均分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱またはミー散乱は低減し、散乱の大部分は散乱係数が下記式(1)で定義されるレイリー散乱に従うことが知られている。
【0008】
S=[16π/3λ]・[(m−1)/(m+2)]・[m] (1)
[但し、上記式(1)中、Sは散乱係数、λは波長、rは粒子径、m=n/n、nは基質の屈折率、および、nは分散物質の屈折率である]
上記レイリー散乱は、光の波長よりも小さいサイズの粒子による光の散乱である。上記式(1)から、レイリー散乱は波長(λ)の4乗に反比例するため、波長の短い青い光を多く散乱して青白色に変色させることが把握される。
【0009】
また、レイリー散乱領域では、上記式(1)から、散乱光は粒子径(r)の6乗に比例するため、粒子径を小さくすることで、レイリー散乱が低減して、ブルーヘイズの発生を抑制できる。その後の研究で、平均分散粒子径を85nm以下にすることでブルーヘイズは改善されることが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−314776号公報
【特許文献2】特開2000−096034号公報
【特許文献3】特開平11−181336号公報
【特許文献4】特開2004−237250号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】V. Domnich et al., J. Am. Ceram. Soc., (2011) vol.94, Issue 11, pp.3605-3628
【非特許文献2】X.H.Zhao et al., App. Mech. Mater., (2011) vol.55-57, pp.1436-1440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献4に開示されている、媒体撹拌ミルを用いた粉砕方法により、従来用いられていたホウ化物粒子を、平均分散粒子径が85nm以下になるまで粉砕しようとすると、スラリーの粘度が高くなり粉砕処理が困難な場合があった。
【0013】
そのため、粉砕処理を続けて更に平均分散粒子径を小さくし、ブルーヘイズを抑えるためには、スラリー中のホウ化物粒子の濃度を極端に下げて粘度を下げる必要があり、粉砕効率が悪く非経済的であるという問題があった。
【0014】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、容易に微粉砕することができるホウ化物粒子を用いた赤外線遮蔽粒子分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.05質量%より多く0.2質量%未満であるホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記ホウ化物粒子の平均分散粒子径が1nm以上100nm以下である赤外線遮蔽粒子分散体を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、容易に微粉砕することができるホウ化物粒子を用いた赤外線遮蔽粒子分散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る赤外線遮蔽分散体等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
図2】本発明の実施形態に係る赤外線遮蔽分散体等の拡散透過プロファイルの測定原理を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[赤外線遮蔽粒子分散体]
本実施形態ではまず、赤外線遮蔽粒子分散体の一構成例について説明する。
【0019】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、ホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含むことができる。ここで、ホウ化物粒子としては、一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量を0.2質量%以下とすることができる。
【0020】
以下に各成分について説明する。
(1)ホウ化物粒子、及びその製造方法について
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体には、上述のように一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.2質量%以下のホウ化物粒子を用いることができる。
【0021】
本発明の発明者らは、容易に微粉砕、すなわち微細な粒子に粉砕することができるホウ化物粒子について、鋭意検討を行った。そして、ホウ化物粒子に含まれる炭素量(炭素濃度)を所定値以下にすることで、容易に微粉砕できるホウ化物粒子にできることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体が含有するホウ化物粒子は、上述のように一般式XBで表されるホウ化物の粒子とすることができる。
【0023】
上述の一般式XBで表されるホウ化物粒子において、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(モル比)(B/X)であるmは、特に限定されるものではないが、3.0以上20.0以下であることが好ましい。
【0024】
一般式XBで表されるホウ化物粒子を構成するホウ化物としては、例えばXB、XB、XB12等が挙げられる。しかし、波長1000nm付近における近赤外領域の光の透過率を選択的に効率よく低下させる観点から、本実施形態のホウ化物粒子は、XB、またはXBが主体となっていることが好ましく、一部にXB12を含んでいてもよい。
【0025】
このため、上記一般式XBにおける、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(B/X)であるmは、4.0以上6.2以下であることがより好ましい。
【0026】
なお、上記(B/X)が4.0以上の場合、XBや、XB等の生成を抑制することができ、理由は明らかではないが、日射遮蔽特性を向上させることができる。また、上記(B/X)が6.2以下の場合には、特に日射遮蔽特性に優れた六ホウ化物の含有割合を増加させることができ、日射遮蔽特性が向上するため好ましい。
【0027】
特に、ホウ化物の中で近赤外線の吸収能が高いことから、本実施形態のホウ化物粒子はXBが主体になっていることが好ましい。
【0028】
このため、一般式XBで表される本実施形態のホウ化物粒子において、金属元素(X)に対するホウ素(B)の元素比(B/X)であるmは、5.8以上6.2以下であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、ホウ化物粒子を製造した場合、得られるホウ化物粒子を含む粉体は、単一の組成のホウ化物の粒子のみから構成されるものではなく、複数の組成のホウ化物を含む粒子とすることができる。具体的には例えばXB、XB、XB12等のホウ化物の混合物の粒子とすることができる。
【0030】
従って、例えば、代表的なホウ化物粒子である六ホウ化物の粒子について、X線回折の測定を行った場合に、X線回折の分析上、単一相であっても、実際には微量に他相を含んでいると考えられる。
【0031】
そこで、本実施形態のホウ化物粒子の一般式XBにおけるmは、例えば得られたホウ化物粒子を含む粉体をICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)等により化学分析した場合の、X元素1原子に対するホウ素(B)の原子数比とすることができる。
【0032】
本実施形態のホウ化物粒子の金属元素(X)は上記一般式に示したように特に限定されるものではなく、例えばY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素とすることができる。
【0033】
ただし、ランタンの六ホウ化物である、六ホウ化ランタンは特に近赤外線の吸収能が高いことから、本実施形態のホウ化物粒子は、六ホウ化ランタン粒子を含むことが好ましい。
【0034】
そして、既述のように、本発明の発明者らの検討によれば、ホウ化物粒子中の炭素量(炭素濃度)を所定値以下とすることで、容易に微粉砕できるホウ化物粒子とすることができる。この理由について以下に説明する。
【0035】
本発明の発明者らの検討によれば、ホウ化物粒子中に含まれる炭素が、ホウ化物粒子の成分と炭素化合物を形成する、あるいは原料に含まれる炭素化合物が残留することがある。
【0036】
このような、炭素化合物としては、例えばLaB、LaB、BC、B4.5C、B5.6C、B6.5C、B7.7C、BCなどが挙げられる。
【0037】
非特許文献1によると、上述の炭素化合物のうち、BC、B4.5C、B5.6C、B6.5C、B7.7C、BCは、硬さの指標となるヤング率はそれぞれ472GPa、463GPa、462GPa、446GPa、352GPa、348GPaと高硬度の炭素化合物となっている。
【0038】
一方、非特許文献2には、例えば六ホウ化ランタンのヤング率は、194GPaと報告されている。また、その他のホウ化物粒子についても同程度のヤング率を有するものと推認される。
【0039】
このように、目的とするホウ化物粒子と比較して、不純物として混入する炭素化合物の方がヤング率が高い場合がある。このため、容易に微粉砕できるホウ化物粒子とするためには、これらの炭素化合物の混入を抑制することが求められる。
【0040】
そして、これらの炭素化合物の混入量(含有量)は、ホウ化物粒子中の炭素量と相関があるため、既述のように、ホウ化物粒子中の炭素量を所定値以下とすることで、容易に微粉砕できるホウ化物粒子とすることができると考えられる。
【0041】
本実施形態のホウ化物粒子中に含まれる炭素量は、燃焼−赤外線吸収法により測定することができる。そして、燃焼−赤外線吸収法により測定した、本実施形態のホウ化物粒子に含まれる炭素量は、0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、特にホウ化物粒子中には、上述の炭素化合物のうちBC(炭化ホウ素)が生成し易いことから、本実施形態のホウ化物粒子は含有するBC量についても抑制することが好ましい。例えば、本実施形態のホウ化物粒子に含まれるBCの量は1.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態のホウ化物粒子に含まれるBCの量、すなわちBCの含有割合を1.0質量%以下とすることで、他の炭素化合物の含有量も抑制でき、特に容易に微粉砕できるホウ化物粒子とすることができ、好ましい。
【0044】
本実施形態のホウ化物粒子中に含まれるBC量は、硝酸溶解と濾過分離の前処理を施すことでICP分析によって測定することができる。
【0045】
Cは硝酸にはほとんど溶解しないことが知られている。一方、ホウ化物粒子は硝酸に溶解することが知られている。
【0046】
よって、ホウ化物粒子中のBC量を評価する場合、ホウ化物粒子を硝酸に添加し、ホウ化物粒子を溶解させた後、未溶解残渣を濾過分離することで、ホウ化物粒子中のBC粒子のみを取り出すことができる。そして、分離したBC粒子を炭酸ナトリウムにより溶解し、ICP分析によってホウ素濃度を測定することで、BC濃度を算出することができる。
【0047】
このとき、濾過分離後に得られた未溶解残渣がBCであることを確認するため、並行して濾過分離までを同様に処理を施した試料を用意し、濾過分離後に得られた試料の未溶解残渣をXRD測定してBC単相であることを確認することが望ましい。
【0048】
なお、既述のホウ化物粒子を用いた場合に、スラリーのゲル化等の問題が発生することなく効率的に平均分散粒子径が100nm以下、特に85nm以下まで粉砕が可能になる理由について、本発明の発明者らは以下のように推察している。
【0049】
ホウ化物粒子は硬質なために、湿式媒体撹拌ミルを用いて粉砕する際に、メディアビーズが摩耗した微粉やメディアビーズが破砕した細かなビーズ片などの摩耗カスがスラリー中に混入してしまう。このとき、炭素濃度の増大に伴いホウ化物粒子の硬度が増大するため、含有する炭素濃度が0.2質量%よりも高いホウ化物粒子を原料とした場合、大量のメディアビーズの摩耗カスがスラリー中へ混入してしまう。係るメディアビーズの摩耗カスの混入がスラリーの粘度を上昇させる原因となっている。
【0050】
これに対して、含有する炭素量(炭素濃度)が0.2質量%以下のホウ化物粒子を原料として用いることで、平均分散粒子径が100nm以下、特に85nm以下まで粉砕する場合、メディアビーズの摩耗カスの混入量が大きく減少するので、スラリーの粘度が悪化することなく効率的に粉砕が可能であると推察している。但し、スラリーの粘度上昇化については未解明な点も多く、上記以外の作用が働いている可能性もあるため、上記作用に限定されるわけではない。
【0051】
ところで、六ホウ化物粒子等のホウ化物粒子は暗い青紫等に着色した粉末であるが、粒径が可視光波長に比べて十分小さくなるように粉砕し、膜中に分散した状態においては膜に可視光透過性が生じる。同時に、赤外線遮蔽機能が発現する。
【0052】
この理由については詳細に解明されていないが、これらのホウ化物材料は自由電子を比較的多く保有し、4f−5d間のバンド間遷移や電子−電子、電子−フォノン相互作用による吸収が近赤外領域に存在することに由来すると考えられる。
【0053】
実験によれば、これらのホウ化物粒子を十分細かくかつ均一に分散した膜では、膜の透過率が、波長400nm以上700nm以下の領域内に極大値をもち、かつ波長700nm以上1800nm以下の領域に極小値をもつことが確認される。可視光波長が380nm以上780nm以下であり、視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、このような膜では可視光を有効に透過し、それ以外の日射光を有効に吸収・反射することが理解できる。
【0054】
本実施形態のホウ化物粒子の平均分散粒子径は100nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましい。
【0055】
ホウ化物粒子の平均分散粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上であることが好ましい。これは、ホウ化物粒子の平均分散粒子径を1nm未満とするのは工業的に困難だからである。
【0056】
なお、ここでいう平均分散粒子径とは動的光散乱法に基づく粒径測定装置により測定することができる。
【0057】
以上に説明した本実施形態のホウ化物粒子は、炭素の含有量が所定値以下であるため、容易に例えば平均分散粒子径が100nm以下、特に85nm以下となるように微粉砕することができる。このため、本実施形態のホウ化物粒子が分散された赤外線遮蔽光学部材は、太陽光やスポットライト等の強い光が照射された場合でもブルーヘイズが生じることを抑制できる。
【0058】
次に、本実施形態のホウ化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
【0059】
本実施形態のホウ化物粒子の製造方法としては、得られるホウ化物粒子が一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素)で表され、該ホウ化物粒子を燃焼−赤外線吸収法で測定した時の炭素量(炭素濃度)が0.2質量%以下であれば特に限定されない。
【0060】
本実施形態のホウ化物粒子の製造方法の一構成例として、例えば、炭素又は炭化ホウ素を還元剤として用いた固相反応法が挙げられる。以下、金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子を製造する場合を例に説明する。
【0061】
例えば、金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子は、ホウ素源と、還元剤と、ランタン源との混合物を焼成することによって製造できる。
【0062】
具体的には、例えばホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素を、ランタン源として酸化ランタンを用いて、ホウ化ランタン粒子を製造する場合、まず炭化ホウ素と、酸化ランタンとの原料混合物を調製する。次いで、該原料混合物を不活性雰囲気中で1500℃以上の温度で焼成することにより、炭化ホウ素中の炭素によってランタン酸化物が還元され、一酸化炭素および二酸化炭素が発生して炭素は除去される。さらに、残ったランタンとホウ素からホウ化ランタンが得られる。
【0063】
なお、炭化ホウ素由来の炭素は、一酸化炭素及び二酸化炭素として完全に除去されるのではなく、一部がホウ化ランタン粒子中に残留して不純物炭素となる。そのため、原料中の炭化ホウ素の割合を増加させると得られるホウ化ランタン粒子中の不純物炭素濃度が増大する。
【0064】
既述のように、得られるホウ化物粒子を含む粉体は、単一の組成のホウ化物の粒子のみから構成されるものではなく、LaB、LaB、LaB12等との混合物の粒子となる。従って、得られるホウ化物粒子を含む粉体について、X線回折の測定を行った場合に、X線回折の分析上、ホウ化物について単一相であっても、実際には微量に他相を含んでいると考えられる。
【0065】
ここで、上述のように金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子を製造する場合、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比B/Laは、特に限定されるものではないが、3.0以上20.0以下であることが好ましい。
【0066】
特に、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタン元素の元素比B/Laが4.0以上の場合、LaB、LaB等の生成を抑制できる。また、理由は明らかではないが、日射遮蔽特性を向上することができる。
【0067】
一方、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比B/Laが6.2以下の場合、ホウ化物粒子以外に酸化ホウ素粒子が生成することが抑制される。酸化ホウ素粒子は吸湿性があるため、ホウ化物粒子を含む粉体中に酸化ホウ素粒子が混入するとホウ化物粒子を含む粉体の耐湿性が低下し、日射遮蔽特性の経時劣化が大きくなってしまう。
【0068】
このため、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比B/Laを6.2以下として酸化ホウ素粒子の生成を抑制することが好ましい。また、元素比B/Laが6.2以下の場合には、特に日射遮蔽特性に優れた六ホウ化物の含有割合を増加させることができ、日射遮蔽特性が向上するため好ましい。
【0069】
さらに不純物炭素濃度を低減するためには、可能な限り原料中の炭化ホウ素の割合を低下させることが有効である。そこで、例えばB/Laを6.2以下としてホウ化ランタンの粒子を生成することで、より確実に不純物炭素濃度が0.2質量%以下のホウ化ランタンの粒子を含む粉体が得られる。
【0070】
以上に説明したように、金属元素としてランタンを用いたホウ化物粒子を製造する場合、ホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタンの元素比(モル比)B/Laは4.0以上6.2以下とすることがより好ましい。原料の組成を上記範囲とすることで、得られるホウ化ランタンの粒子を含む粉体中の、不純物炭素濃度を低く抑制すると同時に高い日射遮蔽特性を示すホウ化ランタン粒子を含有する粉体を得ることができる。
【0071】
また、特に、得られるホウ化ランタンの粒子は、LaBが主体になっていることが好ましい。これは、LaBは特に近赤外線の吸収能が高いからである。
【0072】
このため、原料のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタン元素の元素比B/Laは、5.8以上6.2以下であることがさらに好ましい。
【0073】
なお、ここでは、ホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素を、ランタン源として酸化ランタンを用いて、ホウ化ランタン粒子を製造する場合を例に説明したが、係る形態に限定されるものではない。例えばホウ素源としてホウ素や、酸化ホウ素を、還元剤として炭素を、ランタン源として酸化ランタンをそれぞれ用いることもできる。この場合、生成物中に、余剰の炭素や、酸素が残留しないように、予備試験等を行い、各成分の混合比率を選択することが好ましい。
【0074】
また、例えば、製造するホウ化物粒子が含有する金属元素Xに応じて、酸化ランタンに替えて金属元素Xを含む化合物を用いることもできる。金属元素Xを含む化合物としては例えば、金属元素Xの水酸化物、金属元素Xの水和物、金属元素Xの酸化物から選択された1種類以上が挙げられる。該金属元素Xを含む化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば金属元素Xを含む化合物を含有する溶液と、アルカリ溶液とを撹拌しながら反応させて沈殿物を生成し、該沈殿物から得ることができる。
【0075】
上述のように、酸化ランタンに替えて金属元素Xを含む化合物を用いる場合においても、生成物中に、余剰の炭素や、酸素が残留しないように、予備試験等を行い、各成分の混合比率を選択することが好ましい。例えば、ホウ素源中のホウ素、及び金属元素X源中の金属元素Xの元素比を、既述のホウ素源中のホウ素、及びランタン源中のランタン元素の元素比と同様の比とすることもできる。
【0076】
得られたホウ化物粒子は、例えば湿式粉砕等を行うことで、所望の平均分散粒子径を有するホウ化物粒子とすることができる。
(2)熱可塑性樹脂
既述のように、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、熱可塑性樹脂を含有することができる。熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、用途等に応じて各種熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0077】
例えば、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体を各種の窓材に適用する場合、十分な透明性を持った熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0078】
具体的には、熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂からなる樹脂群から選択される1種類の樹脂、または上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物、または上記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の共重合体から、選択された1種類以上であることが好ましい。
【0079】
また、例えば本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体をそのままボード形状の窓材として使用する場合は、熱可塑性樹脂としては、透明性が高く、かつ窓材として要求される一般的な特性、すなわち剛性、軽量性、長期耐久性、低コスト等の要件を満たすことが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂は例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アイオノマー樹脂、アクリル樹脂から選択された1種類以上であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがさらに好ましい。
【0080】
一方、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体を後述する赤外線遮蔽合わせ透明基材の中間層として用いる場合は、透明基材との密着性、耐候性、耐貫通性などの観点から、熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂やエチレン・酢酸ビニル共重合体を好ましく用いることができる。特に、この場合熱可塑性樹脂はポリビニルブチラール樹脂であることがさらに好ましい。
【0081】
また、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体を中間層として用いる場合であって、当該赤外線遮蔽粒子分散体を構成する熱可塑性樹脂が単独では柔軟性や透明基材との密着性を十分に有しない場合、例えば熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
【0082】
可塑剤としては、特に限定されず、用いる熱可塑性樹脂に対して可塑剤として機能する物質を用いることができる。例えばポリビニルアセタール樹脂に用いられる可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤等が挙げられる。いずれの可塑剤も、室温で液状であることが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0083】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、既述のように、ホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含有することができ、例えば熱可塑性樹脂内に既述のホウ化物粒子が分散した形態を有することができる。
【0084】
なお、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、ホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂以外にも必要に応じて任意の成分を含有することができる。例えば既述のように可塑剤や、赤外線遮蔽粒子分散体を製造する過程で添加する任意の添加成分や、該添加成分に由来する成分を含有することもできる。
【0085】
また、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体へさらに紫外線遮蔽能を付与させるため、赤外線遮蔽粒子分散体無機系の酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの粒子、有機系のベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなどの少なくとも1種類以上を添加してもよい。
【0086】
また、本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散体の可視光透過率を向上させるために、ATO、ITO、アルミニウム添加酸化亜鉛、インジウム錫複合酸化物から選択された1種類以上の粒子を、さらに混合してもよい。これらの透明粒子が赤外線遮蔽粒子分散体へ添加されることで、波長750nm付近の透過率が増加する一方、1200nmより長波長の赤外光を遮蔽するため、近赤外光の透過率が高く、且つ熱線遮蔽特性の高い赤外線遮蔽粒子分散体が得られる。
【0087】
赤外線遮蔽粒子分散体に含まれる赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子の含有量は、特に限定されないが、単位投影面積あたりのホウ化物粒子の含有量は、0.01g/m以上1.0g/m以下であることが好ましい。これは、含有量が0.01g/m以上であれば赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子を含有しない場合と比較して有意に熱線遮蔽特性を発揮でき、含有量が1.0g/m以下であれば赤外線遮蔽粒子分散体が可視光の透過性を十分に保つことができるからである。
【0088】
本実施形態赤外線遮蔽粒子分散体の光学特性は特に限定されないが、可視光波長領域での最大透過率が70%のときに、波長850nmの近赤外光における透過率が23%以上45%以下であり、且つ、波長1200nm以上1800nm以下の熱線の透過率の最小値が15%以下であることが好ましい。
【0089】
ここで、可視光波長領域での最大透過率を70%に調整する方法としては、赤外線遮蔽粒子分散体の、赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子の含有量や、赤外線遮蔽粒子分散体の厚さ等を調整する方法が挙げられる。
【0090】
具体的には、後述する赤外線遮蔽粒子分散粉、赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液またはマスターバッチに含有される赤外線遮蔽粒子の濃度、樹脂組成物を調製する際の上記赤外線遮蔽粒子分散粉、赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液またはマスターバッチの添加量、さらにはフィルムやシートの膜厚等を調整することで容易に行える。
【0091】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体の形状は特に限定されるものではないが、例えば板状形状を有することができ、具体的にはシート形状、ボード形状、またはフィルム形状とすることができる。なお、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、その形状に応じて、例えば赤外線遮蔽フィルム、赤外線遮蔽シートのように呼ぶこともできる。
【0092】
また、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、可視光(波長400nm以上780nm以下)透過率を45%以上55%以下となるように設定した場合に、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下となっていることが好ましい。
【0093】
ここで、ブルーヘイズの評価方法について説明する。
【0094】
ブルーヘイズを、直接測定する方法は知られていない。しかし、本発明の出願人は、試料である赤外線遮蔽粒子分散体に光を当てたときの透過光の成分として直線入射光と散乱光とに着目し、波長毎の拡散透過率を求めることにより「ブルーヘイズ」を評価する方法を既に提案している(特開2009−150979号公報を参照)。以下、波長毎の拡散透過率、すなわち、拡散透過プロファイルを測定する原理を図1および図2を用いて説明する。
【0095】
まず、拡散透過プロファイルを測定する測定装置について、図1および図2を用いて説明する。
【0096】
図1図2に示すように該測定装置10は、積分球14を備えている。そして、積分球14は、球状本体内面が拡散反射性を有し、かつ測定試料12(図2参照)が取り付けられる第一開口部141、標準反射板15またはライトトラップ部品16が取り付けられる第二開口部142、及び受光器13が取り付けられる第三開口部143を有している。
【0097】
また、第一開口部141を介して球状空間内に入射される直線光を出射する光源11と、上記受光器13に取り付けられかつ受光された反射光または散乱光を分光する図示しない分光器と、上記分光器に接続されかつ分光された反射光または散乱光の分光データを保存する図示しないデータ保存手段と、保存されたブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データから拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を得る図示しない演算手段を具備している。
【0098】
ここで、積分球14は、球状本体内面に硫酸バリウム若しくはスペクトラロン(SPECTRALON:登録商標)等が塗布されて拡散反射性を有するもので、標準反射板15への入射角は、標準側、対照側とも例えば10°とすることができる。また、上記受光器13としては、例えば、光電子倍増管(紫外・可視領域)や、冷却硫化鉛(近赤外領域)を使用したものを用いることができる。また、受光器13に取り付けられる図示しない分光器については、紫外・可視領域の波長測定範囲、測光正確さ(±0.002Abs)が必要である。
【0099】
次に、球状空間内に入射される直線光を出射する光源11としては、例えば、紫外領域は重水素ランプ、可視・近赤外領域は50Wハロゲンランプを適用できる。
【0100】
また、標準反射板15には、例えば材質がスペクトラロン(SPECTRALON)の白板を用いることができ、上記ライトトラップ部品16には、入射された直線光を反射させずにトラップする機能が必要で、例えば、入射された直線光をほぼ完全に吸収するダークボックスが用いられる。
【0101】
そして、上記拡散透過プロファイルの測定装置を用いて、測定試料である赤外線遮蔽粒子分散体等の拡散透過プロファイルの極大値を、ブランク透過光強度測定工程と、拡散透過光強度測定工程と、拡散透過率演算工程との各工程により評価できる。
【0102】
まず、ブランク透過光強度測定工程においては、図1に示すように積分球14の第二開口部142に標準反射板15を取り付け、第一開口部141に測定試料を取り付けない状態で光源11からの直線光を第一開口部141を介し球状空間内に入射させる。そして、標準反射板15で反射された反射光を受光器13で受光し、かつ、受光器13に取り付けられた図示しない分光器により分光して反射光の分光データを得る。この際の分光データが、ブランク透過光強度となる。
【0103】
次に、上記拡散透過光強度測定工程においては、図2に示すように積分球14の第二開口部142にライトトラップ部品16を取り付ける。そして、第一開口部141に測定試料12を取り付けた状態で光源11からの直線光を測定試料12と第一開口部141を介し、球状空間内に入射させると共に、ライトトラップ部品16でトラップされた光以外の散乱光を受光器13で受光する。この際、受光器13に取り付けられた図示しない分光器により分光して散乱光の分光データを得る。この際の分光データが、拡散透過光強度となる。
【0104】
そして、上記拡散透過率演算工程において、図示しないデータ保存手段(図示せず)により保存されたブランク透過光強度と拡散透過光強度の各分光データに基づき、図示しない演算手段により拡散透過光強度とブランク透過光強度の波長毎の比をそれぞれ演算して波長毎の拡散透過率を求めると共に、得られた波長毎の拡散透過率から、測定試料12の拡散透過プロファイルにおける波長360nm以上500nm以下の領域の極大値を求めることができる。
【0105】
ここで、拡散透過プロファイルを測定する測定装置においては、上記光源11と測定試料12との間に光線調整用の光学系を設けてもよい。そして、この光学系では、例えば複数枚のレンズを組み合わせて平行光を調整し、絞りにより光量の調整を行う。場合によっては、フィルターによって特定波長のカットを行ってもよい。
【0106】
そして、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体は、既述のように赤外線遮蔽粒子分散体の可視光(波長400nm以上780nm以下)透過率を45%以上55%以下のいずれかに設定した場合に、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下となっていることが好ましい。これは、上記条件を満たす赤外線遮蔽粒子分散体ではブルーヘイズがほとんど観測されないことが確認されているからである。
【0107】
なお、赤外線遮蔽粒子分散体の可視光透過率が45%以上55%以下に設定されているのは、拡散透過率(拡散透過プロファイル)の測定条件を特定するためであり、拡散透過率が可視光透過率に比例するため範囲が設定されている。また、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過率(拡散透過プロファイル)を測定するのは、その領域での散乱がまさしくブルーヘイズの原因であるからである。上記範囲での拡散透過率の極大値が1.5%以下であれば実験的に目視でブルーヘイズは観測されない。
【0108】
以上に説明した、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体によれば、容易に微粉砕することができるホウ化物粒子を用いた赤外線遮蔽粒子分散体とすることができる。このため、含まれる赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子の平均分散粒子径を十分に小さくすることができ、ブルーヘイズの発生を抑制できる。
[赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、及び赤外線遮蔽粒子分散体の製造方法]
(1)赤外線遮蔽粒子分散液、及びその製造方法
そして、本実施形態赤外線遮蔽粒子分散体は、ここまで説明したホウ化物粒子を赤外線遮蔽粒子として含有する赤外線遮蔽粒子分散液を用いて製造できる。このため、ここでは赤外線遮蔽粒子分散液、及びその製造方法の一構成例について説明する。
【0109】
赤外線遮蔽粒子分散液は、既述のホウ化物粒子を溶媒中に分散させたものである。赤外線遮蔽粒子分散液は、赤外線遮蔽粒子である既述のホウ化物粒子と、所望により適量の分散剤と、カップリング剤と、界面活性剤等とを、溶媒へ添加し分散処理を行い、当該ホウ化物粒子を溶媒へ分散することで得られる。
【0110】
赤外線遮蔽粒子分散液の溶媒には、赤外線遮蔽粒子の分散性を保つための機能と、分散液を塗布する際に塗布欠陥を生じさせないための機能が要求される。
【0111】
具体的には、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、3−メチル−メトキシ−プロピオネート(MMP)等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、フォルムアミド(FA)、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレンクロライド、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができ、これらの中から選択した1種類、または2種類以上を組みあわせて用いることができる。
【0112】
上記した中でも、溶媒としては、特にMIBK、MEK等のケトン類や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、PGMEA、PE−AC等のグリコールエーテルアセテート類等、疎水性の高いものがより好ましい。このため、これらの中から選択した1種類または2種類以上を組みあわせて用いることがより好ましい。
【0113】
分散剤、カップリング剤、界面活性剤は、用途に合わせて選択可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を、官能基として有しているものであることが好ましい。これらの官能基は赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子の表面に吸着し、当該赤外線遮蔽粒子の凝集を防ぐことで、赤外線遮蔽粒子分散体を形成した場合に、該赤外線遮蔽粒子分散体中において、赤外線遮蔽粒子を均一に分散させる効果を発揮する。
【0114】
分散剤、カップリング剤、界面活性剤としては、リン酸エステル化合物、高分子系分散剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、等を好適に用いることができる。
【0115】
なお、高分子系分散剤としては、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、アクリル・ブロックコポリマー系高分子分散剤、ポリエーテル類分散剤、ポリエステル系高分子分散剤などが挙げられる。
【0116】
ただし、分散剤、カップリング剤、界面活性剤としては、これらに限定されるものではなく、各種分散剤、カップリング剤、界面活性剤を用いることができる。
【0117】
赤外線遮蔽粒子分散液への分散剤、カップリング剤、界面活性剤から選択された1種類以上の材料の添加量は、赤外線遮蔽粒子である、ホウ化物粒子100重量部に対し10重量部以上1000重量部以下の範囲であることが好ましく、20重量部以上200重量部以下の範囲であることがより好ましい。
【0118】
分散剤等の添加量が上記範囲にあれば、赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子が分散液中で凝集を起こすことがなく、分散安定性が保たれる。
【0119】
溶媒中に、赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子を分散する方法は特に限定されるものではない。例えば赤外線遮蔽粒子分散液の原料混合物を、ビーズミル、ボールミル、サンドミルなどの湿式媒体ミルを用いて分散処理する方法が挙げられる。特に、本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散液は、平均分散粒子径が100nm以下の赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子を液状媒体中に分散させた状態を有することが好ましく、該ホウ化物粒子の平均分散粒子径は85nm以下であることがより好ましい。このためビーズミル等の媒体撹拌ミルを用いた湿式粉砕法により、ホウ化物粒子を分散して分散液を調製することが好ましい。
【0120】
均一な赤外線遮蔽粒子分散液を得るために、各種添加剤や分散剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
【0121】
上述した赤外線遮蔽粒子分散液中における赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子の含有量は、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましい。赤外線遮蔽粒子の含有量が0.01質量%以上であれば、十分な赤外線遮蔽能を有する赤外線遮蔽粒子分散体を形成することができるからである。また、赤外線遮蔽粒子の含有量が30質量%以下であれば、赤外線遮蔽粒子分散体を容易に成型でき、赤外線遮蔽粒子分散体の生産性を高めることができるからである。
【0122】
また、赤外線遮蔽粒子分散液中の赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子は、平均分散粒子径が100nm以下で分散していることが好ましく、85nm以下で分散していることがより好ましい。赤外線遮蔽粒子の平均分散粒子径が100nm以下であれば、本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散液を用いて製造された赤外線遮蔽粒子分散体におけるブルーヘイズの発生を抑制し、光学特性を向上させることができるからである。また、該平均分散粒子径が85nm以下の場合、赤外線遮蔽粒子分散体におけるブルーヘイズの発生を特に抑制できるからである。
(2)赤外線遮蔽粒子分散粉、赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液、マスターバッチ、およびその製造方法
既述の様に赤外線遮蔽粒子であるホウ化物粒子を、所望により、分散剤と、カップリング剤および/または界面活性剤とともに、溶媒中へ分散して赤外線遮蔽粒子分散液を得ることができる。
【0123】
そして、当該赤外線遮蔽粒子分散液から溶媒を除去することで、赤外線遮蔽粒子が例えば分散剤中に分散した本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散粉を得ることができる。
【0124】
この場合、赤外線遮蔽粒子分散粉は、一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.2質量%以下であるホウ化物粒子と、分散剤とを含むことができる。
【0125】
赤外線遮蔽粒子分散液から溶媒を除去する方法としては、赤外線遮蔽粒子分散液を減圧乾燥することが好ましい。具体的には、赤外線遮蔽粒子分散液を撹拌しながら減圧乾燥し、赤外線遮蔽粒子含有組成物と溶媒成分とを分離する。当該減圧乾燥に用いる装置としては、真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は適宜選択される。
【0126】
当該減圧乾燥法を用いることで、赤外線遮蔽粒子分散液からの溶媒の除去効率が向上するとともに、本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散粉が長時間高温に曝されることがないので、該分散粉や可塑剤分散液中に分散している赤外線遮蔽粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに赤外線遮蔽粒子分散粉等の生産性も上がり、蒸発した溶媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0127】
当該乾燥工程後に得られた本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散粉において、残留する有機溶媒は5質量%以下であることが好ましい。残留する有機溶媒が5質量%以下であれば、当該赤外線遮蔽粒子分散粉を、赤外線遮蔽合わせ透明基材等に加工した際に気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
【0128】
また、赤外線遮蔽粒子を、分散剤と、カップリング剤および/または界面活性剤と伴に、可塑剤中へ分散して赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液を得ることもできる。
【0129】
なお、赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液は上述の方法に限定されず、赤外線遮蔽粒子分散液に可塑剤を添加し、溶媒を除去することによっても得ることができる。溶媒の除去については、赤外線遮蔽粒子分散粉を作製する過程と同様に減圧乾燥により行うことが好ましい。
【0130】
赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液としては、一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは組成式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.2質量%以下であるホウ化物粒子と、可塑剤とを含むことができる。
【0131】
また、ホウ化物粒子や分散粉を樹脂中に分散させ、当該樹脂をペレット化することで、本実施形態に係るマスターバッチを得ることができる。
【0132】
その他に、ホウ化物粒子や赤外線遮蔽粒子分散粉と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを均一に混合したのち、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、一溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット形状に加工することでも、マスターバッチを得られる。
【0133】
マスターバッチの形状は特に限定されないが、例えば円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0134】
なお、本実施形態のマスターバッチは、一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選ばれる1種類以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、燃焼−赤外線吸収法で測定したときの炭素量が0.2質量%以下であるホウ化物粒子と、熱可塑性樹脂とを含む赤外線遮蔽粒子分散体であって、ペレット形状を有することができる。
(3)赤外線遮蔽粒子分散体の製造方法
ここまで説明した本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散粉、赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液、またはマスターバッチを透明樹脂である熱可塑性樹脂中へ均一に混合することにより、本実施形態に係る赤外線遮蔽粒子分散体を製造できる。
【0135】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体によれば、例えば従来技術に係る複合タングステン酸化物の持つ赤外線遮蔽特性を担保しつつも、波長700nm以上1200nm以下の領域の近赤外光の透過率は向上させることができる。
【0136】
本実施形態の赤外線遮蔽粒子分散体に好適に用いることができる熱可塑性樹脂については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0137】
そして、分散粉または可塑剤分散液またはマスターバッチと、熱可塑性樹脂と、所望に応じて可塑剤その他添加剤とを混練した後、当該混練物を、押出成形法、射出成形法等の公知の方法により、例えば、平面状や曲面状のシート材に成形することにより、赤外線遮蔽粒子分散体を製造できる。
【0138】
赤外線遮蔽粒子分散体の形成方法には、公知の方法を用いることが出来る。例えば、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等を用いることができる。
[赤外線遮蔽合わせ透明基材]
本実施形態の赤外線遮蔽合わせ透明基材は、複数枚の透明基材と、既述の赤外線遮蔽粒子分散体とを有することができる。そして、赤外線遮蔽粒子分散体が、複数枚の透明基材間に配置された構成を有することができる。
【0139】
赤外線遮蔽合わせ透明基材は、中間層である赤外線遮蔽粒子分散体を、その両側から透明基材を用いて挟み合わせたものである。
【0140】
透明基材としては、可視光領域において透明な板ガラス、板状のプラスチック、またはフィルム状のプラスチック等が用いられる。すなわち、透明ガラス基材や、透明プラスチック基材を用いることができる。
【0141】
プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であるが、例えば、自動車等の輸送機器に用いる場合は、当該輸送機器の運転者や搭乗者の透視性を確保する観点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂といった透明樹脂が好ましい。他にも、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、等が使用可能である。
【0142】
なお、本実施形態の赤外線遮蔽合わせ透明基材は、含む赤外線遮蔽粒子分散体の可視光(波長400nm以上780nm以下)透過率を45%以上55%以下となるように設定した場合に、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過プロファイルの極大値が1.5%以下となっていることが好ましい。これは、拡散透過プロファイルの極大値が上記範囲の場合、ブルーヘイズをより確実に抑制できるからである。
【0143】
本実施形態に係る赤外線遮蔽合わせ透明基材は、既述の赤外線遮蔽粒子分散体を挟み込んで存在させた対向する複数枚の無機ガラスを、公知の方法で貼り合わせ一体化することによっても得られる。得られた赤外線遮蔽合わせ無機ガラスは、主に自動車のフロント用の無機ガラスや、建物の窓として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0145】
ここでまず以下の実施例、比較例における試料の評価方法について説明する。
(ホウ化物粒子中の炭素濃度)
以下の実施例、比較例で作製したホウ化物粒子中の炭素量(炭素濃度)は、燃焼−赤外線吸収法で測定した。
(ホウ化物粒子中のBC濃度)
得られたホウ化物粒子のうち、BC濃度測定用の試料を2つに分け、それぞれ白金坩堝中に計り取り、7N硝酸を添加して50℃まで加温してホウ化物粒子を溶解した。放冷後、純水を加えてから、孔径0.2μmのセルロースアセテート製メンブランフィルターにより未溶解残渣(BC)を濾過分離した。
【0146】
得られた一方の未溶解残渣を、元の白金坩堝に入れ、ホウ素の揮散を防止するために水酸化カルシウム飽和水溶液で湿らせた後に約80℃の乾燥機中で乾燥した。乾燥後は炭酸ナトリウムを加えて十分に混和してから加熱融解した。放冷後,坩堝内の溶融塩を温水で溶解しテフロン(登録商標)ビーカーに移した。硝酸を添加後、加熱沸騰させて炭酸ガスを除去してからICP用の試料溶液とした。得られた試料溶液中のホウ素濃度をICPにより分析した。
【0147】
また、得られたもう一方の未溶解残渣についてXRD測定を行い、未溶解残渣がBC単相であるかを確認した。BC単相であった場合、ICPにより分析したホウ素濃度からBC濃度を算出した。
(ホウ化物粒子の組成)
以下の実施例、比較例で得られたホウ化物粒子について、ICP(島津製作所製 型式:ICPE9000)を用いて分析を行い、一般式XBで表した場合の金属元素Xに対するホウ素(B)の元素比(モル比)すなわちホウ化物粒子中のホウ素(B)と金属元素Xとの元素比(B/X)であるmの値を算出した。
(平均分散粒子径)
以下の実施例、比較例で作製した赤外線遮蔽粒子分散液中のホウ化物粒子の平均分散粒子径は動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子(株)製 型式:ELS−8000)により測定した。粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形を用いた。バックグラウンドはトルエンで測定し、溶媒屈折率は1.50とした。
(可視光透過率)
以下の実施例、比較例中の可視光透過率とは、試料に垂直入射する昼光の光束について透過光束の入射光束に対する比である。ここで、上記昼光とは、国際照明委員会が定めたCIE昼光を意味する。このCIE昼光では、観測データに基づき黒体放射の色温度と同じ色温度の昼光の分光照度分布を波長560nmの値に対する相対値で示している。また、上記光束とは、放射の波長ごとの放射束と視感度(人の目の光に対する感度)の値の積の数値を波長について積分したものである。つまり、可視光透過率とは、波長380nm以上780nm以下の領域の光透過量を人の目の視感度で規格化した透過光量の積算値で人の目の感じる明るさを意味する値である。
【0148】
可視光透過率は、分光光度計(日立製作所製 型式:U−4100)を使用して、以下の実施例、比較例で作製した赤外線遮蔽粒子分散体、または赤外線遮蔽合わせ透明基材について、波長300nm以上2600nm以下の範囲において1nmの間隔で測定している。
(ヘイズ)
以下の実施例、比較例で作製した赤外線遮蔽粒子分散体、または赤外線遮蔽合わせ透明基材のヘイズ値はヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 型式:HM−150)を用い、JIS K 7105−1981に基づき測定を行なった。
(拡散透過プロファイルの極大値)
以下の実施例、比較例で作製した赤外線遮蔽粒子分散体、または赤外線遮蔽合わせ透明基材について、分光器として、分光光度計(日立製作所製 型式:U−4100)を使用し、図1図2を用いて説明した方法により波長300nm以上800nm以下の範囲で1nmの間隔で拡散透過率を測定した。そして、得られた拡散透過プロファイルから極大値を求めた。
【0149】
なお、拡散透過プロファイルの極大値を評価する場合には、各実施例、比較例において、可視光透過率が50%となるように、赤外線遮蔽粒子分散体の厚さを調整した点以外は、各実施例、比較例と同様の条件で、拡散透過プロファイル測定用の赤外線遮蔽粒子分散体、赤外線遮蔽合わせ透明基材をそれぞれ作製し、評価を行った。
(ブルーヘイズ)
ブルーヘイズは、以下の実施例、比較例で作製した赤外線遮蔽粒子分散体、または赤外線遮蔽合わせ透明基材に人口太陽光ランプ[セリック(株)社製 XC-100]を照射し目視で確認した。
【0150】
以下に各実施例、比較例での試料の作製条件、及び評価結果について説明する。
[実施例1]
ホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素、ランタン源として酸化ランタンを用い、これらをランタンとホウ素の元素比であるB/Laが5.90となるように秤量、混合した。その後、アルゴン雰囲気中、1600±50℃の温度条件で6時間焼成し、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0151】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.05質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、5.8であることが確認できた。
【0152】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.2質量%であった。
【0153】
次に、作製した六ホウ化ランタン粒子含有粉末(赤外線遮蔽材料)を10重量部、トルエン80重量部、分散剤(アミノ基を有するアクリル系高分子分散剤)10重量部の割合となるように秤量、混合し、3kgのスラリーを調製した。このスラリーをビーズと共に媒体撹拌ミルに投入し、スラリーを循環させて、20時間粉砕分散処理を行った。
【0154】
使用した媒体撹拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)であり、ベッセル内壁とローター(回転撹拌部)の材質はZrOとした。また、上記ビーズには、直径0.3mmのYSZ(Yttria−Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は13m/秒とし、スラリー流量1kg/分にて粉砕した。得られた分散液中のホウ化物粒子の平均分散粒子径を測定したところ70nmであった。
【0155】
さらに、得られた分散液に同量の分散剤(アミノ基を有するアクリル系高分子分散剤)を添加し、得られた混合液を乾燥機中に保持して溶媒成分を除去した後に粉砕することで、赤外線遮蔽粒子分散粉を得た。
【0156】
得られた赤外線遮蔽粒子分散粉をポリカーボネート樹脂と混合し、押し出し加工機を用いてペレット形状のマスターバッチを作製した。
【0157】
さらに、上記マスターバッチとポリカーボネート樹脂とを混合し、押し出し加工機により赤外線遮蔽粒子分散体を形成した。このとき、ポリカーボネート樹脂とマスターバッチとの混合比率は、得られる赤外線遮蔽粒子分散体の可視光透過率が70%程度となるように調整した。得られた赤外線遮蔽粒子分散体の光学特性測定結果を以下の表1に示す。
【0158】
可視光透過率は約70%で可視光領域の光を十分透過していることが確認された。更に、ヘイズは0.3%であり、透明性が極めて高いことが確認された。また、波長360nm〜500nm領域における拡散透過プロファイルの極大値は0.8%であり、また、人口太陽光を照射したときのブルーヘイズ(着色)は観測されなかった。
【0159】
なお、赤外線遮蔽粒子分散体もしくは赤外線遮蔽合わせ透明基材の拡散透過プロファイルの極大値を評価する場合には、既述の拡散透過プロファイル測定用の赤外線遮蔽粒子分散体もしくは赤外線遮蔽合わせ透明基材を作製し、評価を行っている。以下の他の実施例、比較例においても同様である。
[実施例2]
ランタンとホウ素の元素比B/Laが5.95となるように炭化ホウ素、及び酸化ランタンを秤量、混合した点以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0160】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.1質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、5.9であることが確認できた。
【0161】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.5質量%であった。
【0162】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0163】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.00となるように炭化ホウ素、及び酸化ランタンを秤量、混合した点以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0164】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.2質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、5.9であることが確認できた。
【0165】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.9質量%であった。
【0166】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0167】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1で作製した赤外線遮蔽粒子分散液に分散剤(脂肪酸アミン系分散剤)及び可塑剤を重量比で4:1:10の割合で添加し、減圧乾燥機中で溶媒成分を除去することにより赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液を得た。
【0168】
得られた赤外線遮蔽粒子可塑剤分散液とポリビニルブチラール樹脂とを混合し、押し出し加工機によりシート形状の赤外線遮蔽粒子分散体を得た。
【0169】
このとき、混合比率は最終的に得られる赤外線遮蔽合わせ透明基材の可視光透過率が70%程度となるように調整した。
【0170】
得られたシート形状の赤外線遮蔽粒子分散体を2枚のガラス基材(厚さ:3mm)で挟み込み、加熱プレス機を用いて合わせガラス形態の赤外線遮蔽合わせ透明基材を作製した。
【0171】
得られた赤外線遮蔽合わせ透明基材について実施例1の赤外線遮蔽粒子分散体の場合と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.10となるように炭化ホウ素、及び酸化ランタンを秤量、混合した点以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0172】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.2質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0173】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.9質量%であった。
【0174】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0175】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例6]
ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.20となるように炭化ホウ素、及び酸化ランタンを秤量、混合し、1650±50℃の温度条件で焼成した点以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0176】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.2質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0177】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.9質量%であった。
【0178】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0179】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例7]
ホウ素源として酸化ホウ素、ランタン源として酸化ランタン、還元剤として炭素(黒鉛)を用い、ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.10となるように秤量・混合したこと以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。ただし、酸化ホウ素100重量部に対して、炭素60重量部を秤量・混合した。
【0180】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.1質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0181】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.4質量%であった。
【0182】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0183】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[実施例8]
セリウムとホウ素の元素比B/Ceが6.10となるように、さらに酸化ランタンの代わりに酸化セリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、六ホウ化セリウム粒子含有粉末を得た。
【0184】
得られた六ホウ化セリウム粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.2質量%であった。また、得られた六ホウ化セリウム粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式CeBにおける、セリウム元素(Ce)に対するホウ素(B)の元素比(B/Ce)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0185】
さらに、得られた六ホウ化セリウム粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化セリウム粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、0.9質量%であった。
【0186】
そして、係る六ホウ化セリウム粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0187】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例1]
ホウ素源及び還元剤として炭化ホウ素、ランタン源として酸化ランタンを用い、これらをランタンとホウ素の元素比B/Laが6.10となるように秤量、混合した。その後、アルゴン雰囲気中、1480±50℃の温度条件で6時間焼成し、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0188】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.6質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0189】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、2.6質量%であった。
【0190】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液を調製した。得られた赤外線遮蔽粒子分散液中のホウ化物粒子の平均分散粒子径は105nmであった。
【0191】
さらに、得られた分散液に同量の分散剤(アミノ基を有するアクリル系高分子分散剤)を添加し、得られた混合液を乾燥機中に保持して溶媒成分を除去した後に粉砕することで、赤外線遮蔽粒子分散粉を得た。
【0192】
得られた赤外線遮蔽粒子分散粉をポリカーボネート樹脂と混合し、押し出し加工機を用いてペレット形状のマスターバッチを作製した。
【0193】
さらに、上記マスターバッチとポリカーボネート樹脂とを混合し、押し出し加工機により赤外線遮蔽粒子分散体を形成した。このとき、ポリカーボネート樹脂とマスターバッチとの混合比率は、得られる赤外線遮蔽粒子分散体の可視光透過率が70%程度となるように調整した。得られた赤外線遮蔽粒子分散体の光学特性測定結果を以下の表1に示す。
【0194】
可視光透過率は約70%で可視光領域の光を十分透過していることが確認された。しかし、ヘイズは1.6%であり、透明性が非常に低いことが確認された。また、波長360nm以上500nm以下の領域における拡散透過プロファイルの極大値は2.0%であり、また、人口太陽光を照射したときに目視ではっきりとブルーヘイズが確認された。
[比較例2]
ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.20となるように炭化ホウ素及び酸化ランタンを秤量、混合した点以外は、比較例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。
【0195】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.8質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.1であることが確認できた。
【0196】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、3.7質量%であった。
【0197】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0198】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例3]
ホウ素源として酸化ホウ素、ランタン源として酸化ランタンを、還元剤として炭素(黒鉛)を用い、ランタンとホウ素の元素比B/Laが6.10となるように秤量・混合したこと以外は、比較例1と同様にして、六ホウ化ランタン粒子含有粉末を得た。ただし、酸化ホウ素100重量部に対して、炭素60重量部を秤量・混合した。
【0199】
得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.7質量%であった。また、得られた六ホウ化ランタン粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式LaBにおける、ランタン元素(La)に対するホウ素(B)の元素比(B/La)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0200】
さらに、得られた六ホウ化ランタン粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化ランタン粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、3.4質量%であった。
【0201】
そして、係る六ホウ化ランタン粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0202】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
セリウムとホウ素の元素比B/Ceが6.10となるように、酸化ランタンの代わりに酸化セリウムを用いたこと以外は、比較例1と同様にして、六ホウ化セリウム粒子含有粉末を得た。
【0203】
得られた六ホウ化セリウム粒子含有粉末の含有炭素濃度を燃焼−赤外線吸収法で測定したところ、炭素量は0.9質量%であった。また、得られた六ホウ化セリウム粒子の組成についてICPにより評価を行ったところ、一般式CeBにおける、セリウム元素(Ce)に対するホウ素(B)の元素比(B/Ce)であるmは、6.0であることが確認できた。
【0204】
さらに、得られた六ホウ化セリウム粒子含有粉末について、既述のホウ化物粒子中のBC濃度の評価方法により、六ホウ化セリウム粒子含有粉末のBC濃度を測定したところ、4.4質量%であった。
【0205】
そして、係る六ホウ化セリウム粒子含有粉末を用いた点以外は、実施例1と同様にして、赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散粉、マスターバッチ、さらには赤外線遮蔽粒子分散体を調製した。
【0206】
得られた赤外線遮蔽粒子分散液、赤外線遮蔽粒子分散体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0207】
【表1】
実施例1〜実施例8では、固相反応等により得られたホウ化物粒子を、比較的簡単かつ経済的に、平均分散粒子径を100nm以下、特に85nm以下にまで粉砕して微細化することができることが確認できた。また、実施例1〜実施例8では、得られるホウ化物粒子は平均分散粒子径が100nm以下、特に85nm以下となるため、該ホウ化物粒子を用いて作製した赤外線遮蔽粒子分散体に人口太陽光を照射しても青白色に着色しない、すなわち、ブルーヘイズが抑制できることが確認される。
【0208】
従って、実施例1〜実施例8の赤外線遮蔽粒子分散体、または赤外線遮蔽合わせ透明基材を有する赤外線遮蔽光学部材は、建材用の窓ガラスや車の窓ガラス等に適用できることが分かる。
【0209】
一方、含有する炭素濃度が0.2質量%より高いホウ化物粒子を原料として用いた比較例1〜比較例4は、粉砕処理20時間では平均分散粒子径が100nmより大きく、拡散透過プロファイルの極大値も1.5%以上と高くなっている。そのため、ブルーヘイズが見られるなど、建材用の窓ガラスや車の窓ガラス等に適用するには問題があった。
図1
図2