(54)【発明の名称】ピックアップ性の評価方法、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの評価方法及び選別方法、並びに半導体装置の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)基材層と、前記基材層と対面する第1の面及びその反対側の第2の面を有する粘着剤層と、前記粘着剤層の前記第2の面の中央部を覆うように設けられた接着剤層とを備える評価対象のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備する工程と、
(B)前記接着剤層に対して厚さ50μmのシリコンウェハを貼るとともに、前記粘着剤層の前記第2の面に対してダイシングリングを貼る工程と、
(C)前記シリコンウェハ及び前記接着剤層を複数の接着剤片付きチップに個片化し、辺の長さが2mmの正方形の前記接着剤片付きチップを得る工程と、
(D)温度23℃において前記基材層側から前記接着剤片付きチップの中央部を速度60mm/分で押し込み、前記接着剤片付きチップのエッジが前記粘着剤層から剥離するときのエッジ剥離強度を測定する工程と、
を含み、
前記エッジ剥離強度が1.2N以下であるとき、前記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは良好なピックアップ性を有すると判定する、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。「A又はB」とは、AとBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。
【0020】
本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。また、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0021】
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、例示材料は特に断らない限り単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0022】
<ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム>
図1(a)は、本実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを示す平面図であり、
図1(b)は、
図1のB−B線に沿った模式断面図である。ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム10(以下、場合により、単に「フィルム10」と言う。)は、ウェハWを面積9mm
2以下の複数のチップに個片化するダイシング工程及びその後のピックアップ工程を含む半導体装置の製造プロセスに適用されるものである(
図8(c)及び
図8(d)参照)。
【0023】
フィルム10は、基材層1と、基材層1と対面する第1の面F1及びその反対側の第2の面F2を有する粘着剤層3と、粘着剤層3の第2の面F2の中央部を覆うように設けられた接着剤層5とをこの順序で備える。本実施形態においては、正方形の基材層1を例示したが、基材層1が円形であり且つ粘着剤層3と同じサイズであってもよい。また、本実施形態においては、基材層1の上に、粘着剤層3及び接着剤層5の積層体が一つ形成された態様を例示したが、基材層1が所定の長さ(例えば、100m以上)を有し、その長手方向に並ぶように、粘着剤層3及び接着剤層5の積層体が所定の間隔で配置された態様であってもよい。
【0024】
フィルム10はエッジ剥離強度が1.2N以下である。エッジ剥離強度は以下の工程を経て測定される。
<エッジ剥離強度の測定>
・接着剤層5に対して厚さ50μmのシリコンウェハWsを貼るとともに、粘着剤層3の第2の面F2に対してダイシングリングDRを貼る工程(
図2(a)参照)
・シリコンウェハWs及び接着剤層5を複数の接着剤片付きチップTa(以下、場合により単に「チップTa」と言う。)に個片化する工程(
図2(b)参照)
・温度23℃において基材層1側からチップTaの中央部を速度60mm/分で押し込み(
図2(c)参照)、チップTaのエッジが粘着剤層3から剥離するときのエッジ剥離強度を測定する工程
【0025】
フィルム10のエッジ剥離強度が1.2N以下であることで、フィルム10はウェハを面積9mm
2以下の複数の小チップに個片化するダイシング工程及びその後のピックアップ工程に適したものであると評価することができる。フィルム10のエッジ剥離強度の上限値は1.1N又は0.9Nであってもよく、下限値は、例えば、0.1Nであり、0.15N又は0.2Nであってもよい。
【0026】
図2(b)に示すように、チップTaは、チップTsと接着剤片5pとによって構成されている。シリコンウェハWs及び接着剤層5を複数のチップTaに個片化する工程は、例えば、以下の条件のブレードダイシングによって実施すればよい。
<ダイシング条件>
・ダイサー:DFD6361(株式会社ディスコ製)
・ブレード:ZH05−SD4000−N1−70−BB(株式会社ディスコ製)
・ブレード回転数:40000rpm
・ダイシング速度:30mm/秒
・ブレードハイト:90μm
・粘着剤層3の表面からの切り込み深さ:20μm
・チップTaの平面視での形状:2mm×2mmの正方形
【0027】
ブレードの種類としては、チップの加工品質を確保するため、また接着剤層5、粘着剤層3及び基材層1から発生する切削屑(バリ)を抑制するため、株式会社ディスコ製のブレードであれば#4000〜#4800の粒径の細かいブレードを用いることが好ましい。
【0028】
厚さ50μmのシリコンウェハWsを使用する理由は以下のとおりである。例えば、シリコンウェハの厚さが30μm以下である場合、ブレードダイシングによって個片化する際、チップ欠け及びチップ割れといった問題が発生しやすくなる。これに加え、エッジ剥離強度の測定時にチップが割れてしまうおそれがある。一方、例えば、シリコンウェハの厚さが80μm以上の場合、ブレードダイシングにより個片化する際、ステップカットを適用しなければならない場合があり、ブレードの選定及び条件設定が容易ではなくなる。これに加え、チップが厚いとエッジ剥離強度の測定時にチップが撓みにくいため、エッジの剥離性が良くなりフィルム間の差異が出にくくなる可能性もある。また、近年では半導体ウェハの薄化が進行していることから、市場動向に合わせる意味でも厚さ50μmのシリコンウェハを用いる。
【0029】
接着剤片付きチップTaのサイズを2mm×2mmとした理由は以下のとおりである。例えば、接着剤片付きチップTaのサイズを1mm×1mmとした場合、チップの中央部(チップに押圧力を加える箇所)とエッジとの距離が近すぎるため、エッジの剥離性が良くなりフィルム間の差異が出にくい可能性がある。これに加え、チップが小さすぎるためにチップの中央部にマーキングすることが難しく、マーキング無しの目視では位置ずれにより測定誤差が生じる可能性がある。一方、例えば、接着剤片付きチップTaのサイズを3mm×3mmとした場合、チップエッジ部の剥離強度測定時に、チップの中央部とエッジとの距離が離れすぎているため、押し込みによる押圧力が伝わりにくくなり、エッジ剥離強度を正確に測定することが難しい。これに加え、エッジを剥離させるのに大きな押し込み量が必要であり、これに伴ってチップが大きく撓んで測定中にチップ割れが発生するおそれがある。
【0030】
エッジ剥離強度を測定する工程において、
図2(c)に示すように、基材層1側からチップTaの中央部を押し込み冶具Pで押し込む。例えば、以下の装置等を使用し、以下の条件でエッジ剥離強度を測定すればよい。
<測定条件>
・測定装置:小型卓上試験機EZ−SX(株式会社島津製作所製)
・ロードセル:50N
・押し込み冶具:ZTSシリーズ付属アタッチメント(形状:円錐型、株式会社イマダ製)
・押し込み速度:60mm/分
・温度:23℃
・湿度:45±10%
【0031】
図3は、押し込みによる変位(mm)と押し込み力(N)との関係の一例を示すグラフである。チップのエッジが剥離した時、
図3に示すように、一時的に押し込み力が低下し、グラフに変化点が生じる。この変化点における押し込み力の値をエッジ剥離強度とする。
【0032】
エッジ剥離強度を測定する際、基材層1におけるチップTaの中央部に相当する位置に、油性ペン等を用いてマーキングしておくことが好ましい。予めマーキングしておくことで、精度良く測定することが可能となるとともに、位置合わせが容易になり測定効率が向上する。
【0033】
押し込み速度を60mm/分とした理由は以下のとおりである。すなわち、押し込み速度は、実際のピックアップ条件と合わせる意味で60〜1200mm/分(1〜20mm/秒)が好ましいが、例えば、押し込み速度が速すぎると、エッジが剥離した後に押し込みを止めるまで間に試料に対して必要以上に押圧力が加わり、測定対象のチップの周辺のチップまで剥離したり、基材層が破れたりして、その後の測定に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、上記の範囲内でなるべく低速の押し込み速度を選択した。
【0034】
複数のチップTaについてエッジ剥離強度を測定し、複数の測定値の平均をフィルム10のエッジ剥離強度とすることが好ましい。例えば、5個以上(より好ましくは10〜20個)のチップTaについて測定を行ってその平均値を算出すればよい。第1のチップTaのエッジ剥離強度を測定した後、第2のチップTaのエッジ剥離強度を測定する場合、第1のチップTaに対する押し込みが第2のチップTaに影響しないように、第2のチップTaは第1のチップTaと十分に離間していることが好ましい。例えば、第1のチップTaと第2のチップTaの間には二個以上のチップTaがあることが好ましい。
図4は、測定対象のチップの中央部に相当する位置にマークMを付した状態を模式的に示す平面図である。この図においては、測定対象の二つのチップTaの間にチップ三個分の間隔があけられている。
【0035】
シリコンウェハWsが12インチウェハである場合、
図5に示す測定エリアA内の複数のチップTaを測定とすることが好ましい。すなわち、
図5に示すように、ダイシングリングDRのノッチNの位置を紙面の上方としたとき、シリコンウェハWsの下側の端部から50mmの距離をあけ、80mm×20mm内のエリアで測定することが好ましい。シリコンウェハWsの端部と中央部とで、基材層1の張力及び押し込み時の基材層1の伸びに違いがあるため、位置によって測定値にばらつきが出る可能性がある。上記測定エリアと同様の設定は、8インチウェハの場合にも適用してもよい。なお、測定エリアAは
図5に示された位置に限定されず、例えば、ウェハWsの端部から所定の距離があいていれば、
図5における上側、左側又は右側であってもよい。
【0036】
なお、エッジ剥離強度の測定によるピックアップ性の評価の他に、同じ試料に対し、ダイボンダ装置を使用して実際にピックアップを行うことによってピックアップ性を評価してもよい。この場合、先にエッジ剥離強度の測定を行うことが好ましい。ダイボンダ装置を使用したピックアップは、通常、基材フィルムをエキスパンドした状態で行う。エキスパンドの状態を解除した後において、エキスパンドによる基材層1の弛みが戻らない場合があり、エッジ剥離強度を精度良く測定することが難しくなるおそれがある。
【0037】
次に、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを構成する各層について説明する。
【0038】
(基材層)
基材層1としては、既知のポリマーシート又はフィルムを用いることができ、低温条件下においても、エキスパンド工程を実施可能なものであれば、特に制限はない。具体的には、基材層1を構成するポリマーとして、結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低密度直鎖ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、又は、これらに可塑剤を混合した混合物、あるいは、電子線照射により架橋を施した硬化物が挙げられる。
【0039】
基材層1は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレンランダム共重合体、ポリエチレン−ポリプロピレンブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種の樹脂を主成分とする表面を有し、この表面と粘着剤層3が接していることが好ましい。これらの樹脂は、ヤング率、応力緩和性及び融点等の特性、並びに、価格面、使用後の廃材リサイクル等の観点からも良好な基材である。基材層1は、単層でも構わないが、必要に応じて異なる材質からなる層が積層された多層構造を有していてもよい。粘着剤層3との密着性を制御するため、基材層1の表面に対して、マット処理、コロナ処理等の表面粗化処理を施してもよい。基材層1の厚さは、例えば、10〜200μmであり、20〜180μm又は30〜150μmであってもよい。
【0040】
(粘着剤層)
粘着剤層3は、接着剤層5におけるシリコンウェハWsの貼付け位置に対応する領域Rwを少なくとも含む第1の領域3aと、第1の領域3aを囲むように位置する第2の領域3bとを有する。
図1(a)及び
図1(b)における破線は第1の領域3aと第2の領域3bの境界を示す。第1の領域3a及び第2の領域3bは、活性エネルギー線の照射前において同一の組成物からなる。第1の領域3aは、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによって、第2の領域3bと比較して粘着力が低下した状態の領域である。第2の領域3bはダイシングリングDRが貼り付けられる領域である(
図2(a)参照)。第2の領域3bは活性エネルギー線が照射されていない領域であり、ダイシングリングDRに対する高い粘着力を有する。
【0041】
粘着剤層3の厚さは、エキスパンド工程の条件(温度及び張力等)に応じて適宜設定すればよく、例えば、1〜200μmであり、5〜50μm又は15〜45μmであってもよい。粘着剤層3の厚さが1μm未満であると粘着性が不十分となりやすく、200μmを超えると、エキスパンド時にカーフ幅が狭く(ピン突き上げ時に応力を緩和してしまい)ピックアップが不十分になりやすい。
【0042】
接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力は、1.2N/mm以上4.5N/25mm以下であることが好ましい。この粘着力は、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される30°ピール強度である。
図6は支持板80に測定試料(幅25mm×長さ100mm)の接着剤層5を固定した状態で、粘着剤層3の30°ピール強度を測定している様子を模式的に示す断面図である。接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力(30°ピール強度)を上記範囲とすることで、ダイシング時におけるDAF飛びの抑制及び優れたピックアップ性の両方を十分高度に両立することができる。これにより、十分に高い歩留まりで半導体装置を製造することが可能となる。この粘着力の下限値は1.5N/25mm又は2.0N/25mmであってもよく、上限値は3.5N/25mm又は2.5N/25mmであってもよい。
【0043】
本発明者らは、面積9mm
2以下の小チップのピックアップ挙動と、例えば、サイズ8mm×6mm程度の大チップのピックアップ挙動が異なることを着目して検討を行った。大チップの中心部を突上げ治具のピンで下方から突き上げることによって大チップをピックアップする場合、ピンの上昇に伴って、チップのエッジから中央部分に向けて粘着剤層と接着剤片の界面剥離が進展するものの、接着剤層に対する第1の領域3aの30°ピール強度が1.2N/25mmより大きいと、界面剥離がピンの上昇に追いつかず、チップが過度に変形して割れ又はピックアップミスが生じやすい。つまり、大チップのピックアップ性は粘着剤層3と接着剤片の界面剥離に主に支配され、接着剤層に対する粘着剤層の粘着力は例えば1.2N/25mm未満に設定すべきことを本発明者らは見出した。これに対し、小チップのピックアップ性は接着剤片付きチップのエッジ部分の剥離に主に支配され、ピンによる突き上げによってエッジ部分の剥離が一旦生じれば、その後、粘着剤層3と接着剤片5pの界面剥離はスムーズに進展することを本発明者らは見出した。このため、接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力が比較的強くても、小チップの場合は優れたピックアップ性を達成し得る。また、接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力が比較的強いことで、ダイシング工程におけるDAF飛びを十分に抑制できる。
【0044】
第1の領域3aは、接着剤層5に対して上記範囲の粘着力を有するものであり、活性エネルギー線の照射によって形成される。本発明者らは、活性エネルギー線の照射によって粘着剤層3の粘着力を低下させることが、接着剤片付きチップのエッジ剥離強度に影響を与えることを見出した。すなわち、第1の領域3aの粘着力が活性エネルギー線の照射によって過度に低下したものであると、接着剤層5に対する第1の領域3aの30°ピール強度は低くなる一方、ピックアップ対象が小チップである場合、接着剤片付きチップのエッジが剥離しにくくなる傾向にあり、チップが過度に変形して割れ又はピックアップミスが生じやすい。接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力は、活性エネルギー線を照射する前の粘着力を過度に低下させていないものであることが好ましく、これにより、面積9mm
2以下の接着剤片付きチップであっても、そのエッジが粘着剤層3(第1の領域3a)から剥離しやすくなる。本実施形態においては、例えば、粘着剤層3における架橋剤の量を比較的少なくしたり、活性エネルギー線の照射量を低減するなどすることにより、粘着剤層3の第1の領域3aの粘着力を調整することができる。
【0045】
第2の領域3bのステンレス基板に対する粘着力は0.2N/25mm以上であることが好ましい。この粘着力は、温度23℃において剥離角度90°及び剥離速度50mm/分の条件で測定される90°ピール強度である。この粘着力が0.2N/25mm以上であることで、ダイシング時におけるリング剥がれを十分に抑制することができる。この粘着力の下限値は0.3N/25mm又は0.4N/25mmであってもよく、上限値は、例えば、2.0N/25mmであり、1.0N/25mmであってもよい。
【0046】
活性エネルギー線照射前の粘着剤層は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂と、光重合開始剤と、架橋剤とを含む粘着剤組成物からなる。活性エネルギー線が照射されない第2の領域3bは活性エネルギー線照射前の粘着剤層と同じ組成からなる。以下、粘着剤組成物の含有成分について詳細に説明する。
【0047】
[(メタ)アクリル系樹脂]
粘着剤組成物は、連鎖重合可能な官能基を有する(メタ)アクリル系樹脂を含み、官能基がアクリロイル基及びメタクリロイル基から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。活性エネルギー線照射前の粘着剤層における上記官能基の含有量は、例えば、0.1〜1.2mmol/gであり、0.3〜1.0mmol/g又は0.5〜0.8mmol/gであってもよい。上記官能基の含有量が0.1mmol/g以上であることで、活性エネルギー線の照射によって粘着力が適度に低下した領域(第1の領域3a)を形成しやすく、他方、1.2mmol/g以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすい。
【0048】
(メタ)アクリル系樹脂は、既知の方法で合成することで得ることができる。合成方法としては、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法、析出重合法、気相重合法、プラズマ重合法、超臨界重合法が挙げられる。また、重合反応の種類としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、配位重合、イモーダル重合等の他、ATRP(原子移動ラジカル重合)及びRAFT(可逆的付加開裂連鎖移動重合)といった手法も挙げられる。この中でも、溶液重合法を用いてラジカル重合により合成することは、経済性の良さ、反応率の高さ、重合制御の容易さなどの他、重合で得られた樹脂溶液をそのまま用いて配合できる等の利点を有する。
【0049】
ここで、溶液重合法を用いてラジカル重合によって、(メタ)アクリル系樹脂を得る方法を例に、(メタ)アクリル系樹脂の合成法について詳細に説明する。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂を合成する際に用いられるモノマーとしては、一分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に制限はない。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチルヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、モノ(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)スクシネート等の脂肪族(メタ)アクリレート;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、モノ(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)テトラヒドロフタレート、モノ(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)ヘキサヒドロフタレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、o−ビフェニル(メタ)アクリレート、1−ナフチル(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、p−クミルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、1−ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(o−フェニルフェノキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(1−ナフトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(2−ナフトキシ)プロピル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−N−カルバゾール等の複素環式(メタ)アクリレート、これらのカプロラクトン変性体、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、α−プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、α−ブチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、α−エチル−6,7−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和基とエポキシ基を有する化合物;(2−エチル−2−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(2−メチル−2−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチル−2−オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−メチル−2−オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、3−(2−エチル−2−オキセタニル)プロピル(メタ)アクリレート、3−(2−メチル−2−オキセタニル)プロピル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とオキセタニル基を有する化合物;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のエチレン性不飽和基とイソシアネート基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、これらを適宜組み合わせて目的とする(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。
【0051】
(メタ)アクリル系樹脂は、後述する官能基導入化合物又は架橋剤との反応点として、水酸基、グリシジル基及びアミノ基等から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を合成するためのモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは、2種以上を併用することができる。
【0052】
グリシジル基を有する(メタ)アクリル系樹脂を合成するためのモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、α−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、α−プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、α−ブチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−エチルグリシジル(メタ)アクリレート、2−プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、α−エチル−6,7−エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和基とエポキシ基を有する化合物が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは、2種以上を併用することができる。
【0053】
これらのモノマーから合成される(メタ)アクリル系樹脂は、連鎖重合可能な官能基を含むことが好ましい。連鎖重合可能な官能基は、例えば、アクリロイル基及びメタクリロイル基から選ばれる少なくとも1種である。連鎖重合可能な官能基は、例えば、上述のように合成された(メタ)アクリル系樹脂に以下の化合物(官能基導入化合物)を反応させることにより、当該(メタ)アクリル系樹脂中に導入することができる。官能基導入化合物の具体例として、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートもしくは4−ヒドロキシブチルエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物などが挙げられる。これらの中でも、特に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。これらの化合物は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
(メタ)アクリル系樹脂は、重量平均分子量(Mw)は、例えば、10万〜200万以上であり、好ましくは15万〜100万であり、より好ましくは20万〜80万である。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)がこのような範囲であれば、粘着性に優れ且つ低分子量成分が少なく被着体の汚染を防止し得る粘着剤層3を形成することができる。
【0055】
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、好ましくは10〜150mgKOH/gであり、より好ましくは20〜100mgKOH/gである。(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価が上記範囲であることで、架橋剤との反応により初期粘着力を調整可能であり且つ連鎖重合可能な官能基の反応後の剥離力が下げられるという効果が奏される。
【0056】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、活性エネルギー線(紫外線、電子線及び可視光線から選ばれる少なくとも1種)を照射することで連鎖重合可能な活性種を発生するものであれば、特に制限はなく、例えば、光ラジカル重合開始剤が挙げられる。ここで連鎖重合可能な活性種とは、連鎖重合可能な官能基と反応することで重合反応が開始されるものを意味する。
【0057】
光ラジカル重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等のベンゾインケタール;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシケトン;2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、1,2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等のα−アミノケトン;1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−1,2−オクタジオン−2−(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N´−テトラメチル−4,4´−ジアミノベンゾフェノン、N,N´−テトラエチル−4,4´−ジアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4´−ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2−エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ベンズアントラキノン、2−フェニルアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン、1,4−ナフトキノン、9,10−フェナントラキノン、2−メチル−1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9、9´−アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N−フェニルグリシン、クマリンが挙げられる。
【0058】
粘着剤組成物における光重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対し、例えば、0.1〜30質量部であり、0.3〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が0.1質量部未満であると粘着剤層が活性エネルギー線照射後に硬化不足となり、ピックアップ不良が起こりやすい。光重合開始剤の含有量が30質量部を超えると接着剤層への汚染(光重合開始剤の接着剤層への転写)が生じやすい。
【0059】
[架橋剤]
架橋剤は、例えば、粘着剤層の弾性率及び/又は粘着性の制御を目的に用いられる。架橋剤は、上記(メタ)アクリル系樹脂が有する水酸基、グリシジル基及びアミノ基等から選ばれる少なくとも1種の官能基と反応し得る官能基を一分子中に2つ以上有する化合物であればよい。架橋剤と(メタ)アクリル系樹脂との反応によって形成される結合としては、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合等が挙げられる。
【0060】
本実施形態においては、架橋剤として、一分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を採用することが好ましい。このような化合物を用いると、上記(メタ)アクリル系樹脂が有する水酸基、グリシジル基及びアミノ基等と容易に反応し、強固な架橋構造を形成することができる。
【0061】
一分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4´−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4´−ジイソシアネート、リジンイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。
【0062】
架橋剤として、上述のイソシアネート化合物と、一分子中に2つ以上のOH基を有する多価アルコールの反応物(イソシアナート基含有オリゴマー)を採用してもよい。一分子中に2つ以上のOH基を有する多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオールが挙げられる。
【0063】
これらの中でも、架橋剤として、一分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートと、一分子中に3つ以上のOH基を有する多価アルコールの反応物(イソシアナート基含有オリゴマー)であることが更に望ましい。このようなイソシアネート基含有オリゴマーを架橋剤として用いることで、粘着剤層3が緻密な架橋構造を形成し、これにより、ピックアップ工程において接着剤層5に粘着剤が付着することを十分に抑制できる。
【0064】
粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、粘着剤層に対して求められる凝集力及び破断伸び率、並びに、接着剤層5との密着性等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対し、例えば、2〜30質量部であり、4〜15質量部又は7〜10質量部であってもよい。架橋剤の含有量を上記範囲とすることで、ダイシング工程において粘着剤層に求められる特性と、ダイボンディング工程において粘着剤層3に求められる特性とをバランスよく両立することが可能であるとともに、優れたピックアップ性も達成し得る。
【0065】
架橋剤の含有量が(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対して2質量部未満であると、架橋構造の形成が不十分となりやすく、これに起因して、ピックアップ工程において、接着剤層5との界面密着力が十分に低下せずにピックアップ時に不良が発生しやすい。他方、架橋剤の含有量が(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対して30質量部を超えると、粘着剤層3が過度に硬くなりやすく、これに起因して、エキスパンド工程において半導体チップが剥離しやすい。
【0066】
粘着剤組成物の全質量に対する架橋剤の含有量は、例えば、0.1〜20質量%であり、2〜17質量%又は3〜15質量%であってもよい。架橋剤の含有量が0.1質量%以上であることで、活性エネルギー線の照射によって粘着力が適度に低下した領域(第1の領域3a)を形成しやすく、他方、15質量%以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすい。
【0067】
粘着剤層3の形成方法としては、既知の手法を採用できる。例えば、基材層1と粘着剤層3との積層体を二層押し出し法で形成してもよいし、粘着剤層3の形成用ワニスを調製し、これを基材層1の表面に塗工する、あるいは、離型処理されたフィルム上に粘着剤層3を形成し、これを基材層1に転写してもよい。
【0068】
粘着剤層3の形成用ワニスは、(メタ)アクリル系樹脂、光重合開始剤及び架橋剤を溶解し得る有機溶剤であって加熱により揮発するものを使用して調製することが好ましい。有機溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p−シメン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドが挙げられる。
【0069】
これらの中で、溶解性及び沸点の観点から、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N−ジメチルアセトアミド、アセチルアセトンであることが好ましい。これらの有機溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ワニスの固形分濃度は、通常10〜60質量%であることが好ましい。
【0070】
(接着剤層)
接着剤層5には、既知のダイボンディングフィルムを構成する接着剤組成物を適用できる。具体的には、接着剤層5を構成する接着剤組成物は、エポキシ基含有アクリル共重合体、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を含有することが好ましい。これらの成分を含む接着剤層5によれば、チップ/基板間、チップ/チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性及びワイヤ埋め込み性等も付与可能で、かつダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤でモールド後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0071】
接着剤層5の厚さは、例えば、1〜300μmであり、5〜150μmであることが好ましく、10〜100μm又は15〜35μmであってもよい。接着剤層5の厚さが1μm未満であると接着性が不十分となりやすく、他方、300μmを超えるとダイシング性及びピックアップ性が不十分となりやすい。
【0072】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂及び複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているその他のエポキシ樹脂を適用してもよい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、特性を損なわない範囲でエポキシ樹脂以外の成分が不純物として含まれていてもよい。
【0073】
エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、フェノール化合物と2価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒又は酸触媒の存在下に反応させて得ることができるフェノール樹脂のようなものが挙げられる。フェノール樹脂の製造に用いられるフェノール化合物としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、p−エチルフェノール、o−n−プロピルフェノール、m−n−プロピルフェノール、p−n−プロピルフェノール、o−イソプロピルフェノール、m−イソプロピルフェノール、p−イソプロピルフェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、2,4−キシレノール、2,6−キシレノール、3,5−キシレノール、2,4,6−トリメチルフェノール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、4−メトキシフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−アリルフェノール、p−アリルフェノール、o−ベンジルフェノール、p−ベンジルフェノール、o−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−ブロモフェノール、p−ブロモフェノール、o−ヨードフェノール、p−ヨードフェノール、o−フルオロフェノール、m−フルオロフェノール、p−フルオロフェノール等が例示される。これらのフェノール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。フェノール樹脂の製造に用いられる2価の連結基であるキシリレン化合物としては、次に示すキシリレンジハライド、キシリレンジグリコール及びその誘導体が用いることができる。すなわち、α,α´−ジクロロ−p−キシレン、α,α´−ジクロロ−m−キシレン、α,α´−ジクロロ−o−キシレン、α,α´−ジブロモ−p−キシレン、α,α´−ジブロモ−m−キシレン、α,α´−ジブロモ−o−キシレン、α,α´−ジヨード−p−キシレン、α,α´−ジヨード−m−キシレン、α,α´−ジヨード−o−キシレン、α,α´−ジヒドロキシ−p−キシレン、α,α´−ジヒドロキシ−m−キシレン、α,α´−ジヒドロキシ−o−キシレン、α,α´−ジメトキシ−p−キシレン、α,α´−ジメトキシ−m−キシレン、α,α´−ジメトキシ−o−キシレン、α,α´−ジエトキシ−p−キシレン、α,α´−ジエトキシ−m−キシレン、α,α´−ジエトキシ−o−キシレン、α,α´−ジ−n−プロポキシ−p−キシレン、α,α´−ジ−n−プロポキシ−m−キシレン、α,α´−ジ−n−プロポキシ−o−キシレン、α,α´−ジ−イソプロポキシ−p−キシレン、α,α´−ジイソプロポキシ−m−キシレン、α,α´−ジイソプロポキシ−o−キシレン、α,α´−ジ−n−ブトキシ−p−キシレン、α,α´−ジ−n−ブトキシ−m−キシレン、α,α´−ジ−n−ブトキシ−o−キシレン、α,α´−ジイソブトキシ−p−キシレン、α,α´−ジイソブトキシ−m−キシレン、α,α´−ジイソブトキシ−o−キシレン、α,α´−ジ−tert−ブトキシ−p−キシレン、α,α´−ジ−tert−ブトキシ−m−キシレン、α,α´−ジ−tert−ブトキシ−o−キシレンを挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
上記したフェノール化合物とキシリレン化合物を反応させる際には、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸等の鉱酸類;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機カルボン酸類;トリフロロメタンスルホン酸等の超強酸類;アルカンスルホン酸型イオン交換樹脂のような、強酸性イオン交換樹脂類;パーフルオロアルカンスルホン酸型イオン交換樹脂の様な、超強酸性イオン交換樹脂類(商品名:ナフィオン、Nafion、Du Pont社製、「ナフィオン」は登録商標);天然及び合成ゼオライト類;活性白土(酸性白土)類等の酸性触媒を用い、50〜250℃において実質的に原料であるキシリレン化合物が消失し、且つ反応組成が一定になるまで反応させて得られる。反応時間は原料及び反応温度にもよるが、おおむね1時間〜15時間程度であり、実際には、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)等により反応組成を追跡しながら決定すればよい。
【0075】
エポキシ基含有アクリル共重合体は、原料としてグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを、得られる共重合体に対し0.5〜6質量%となる量用いて得られた共重合体であることが好ましい。この量が0.5質量%以上であることで高い接着力を得やすく、他方、6質量%以下であることでゲル化を抑制できる。その残部はメチルアクリレート、メチルメタクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びスチレン、アクリロニトリル等の混合物を用いることができる。これらの中でもエチル(メタ)アクリレート及び/又はブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。混合比率は、共重合体のTgを考慮して調整することが好ましい。Tgが−10℃未満であるとBステージ状態での接着剤層5のタック性が大きくなる傾向があり、取り扱い性が悪化する傾向にある。なお、エポキシ基含有アクリル共重合体のガラス転移点(Tg)の上限値は、例えば、30℃である。重合方法は特に制限がなく、例えば、パール重合、溶液重合が挙げられる。市販のエポキシ基含有アクリル共重合体としては、例えば、HTR−860P−3(商品名、ナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0076】
エポキシ基含有アクリル共重合体の重量平均分子量は10万以上であり、この範囲であると接着性及び耐熱性が高く、30万〜300万であることが好ましく、50万〜200万であることがより好ましい。重量平均分子量が300万以下であると、半導体チップと、これを支持する基板との間の充填性が低下することを抑制できる。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0077】
接着剤層5は、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を更に含有してもよい。硬化促進剤の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテートが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
接着剤層5は、必要に応じて、無機フィラーを更に含有してもよい。無機フィラーの具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
なお、接着剤層5は熱硬化性樹脂を含まない態様であってもよい。例えば、接着剤層5が反応性基含有(メタ)アクリル共重合体を含む場合、接着剤層5は、反応性基含有(メタ)アクリル共重合体と、硬化促進剤と、フィラーとを含むものであればよい。
【0080】
<ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法>
フィルム10の製造方法は、基材層1の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する粘着剤組成物からなる粘着剤層と、粘着剤層の表面上に形成された接着剤層5とを含む積層体を作製する工程と、積層体に含まれる粘着剤層の第1の領域3aとなる領域に活性エネルギー線を照射する工程とをこの順序で含む。第1の領域3aとなる領域に対する活性エネルギー線の照射量は、例えば、10〜1000mJ/cm
2であり、100〜700mJ/cm
2又は200〜500mJ/cm
2であってもよい。
【0081】
上記製造方法は、粘着剤層と接着剤層5の積層体を先に作製し、その後、粘着剤層の特定の領域に活性エネルギー線を照射するものである。以下のとおり、接着剤層5と貼り合わせる前の粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射して第1の領域3aを形成してもよい。すなわち、フィルム10の製造方法は、基材層1の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、粘着剤層の第1の領域3aとなる領域に活性エネルギー線を照射する工程と、活性エネルギー線を照射した後の粘着剤層3の表面上に接着剤層5を積層する工程とをこの順序で含むものであってよい。
【0082】
<半導体装置及びその製造方法>
図7は本実施形態に係る半導体装置を模式的に示す断面図である。この図に示す半導体装置100は、基板70と、基板70の表面上に積層された四つのチップT1,T2,T3,T4と、基板70の表面上の電極(不図示)と四つのチップT1,T2,T3,T4とを電気的に接続するワイヤW1,W2,W3,W4と、これらを覆っている封止層50とを備える。
【0083】
基板70は、例えば、有機基板であり、リードフレーム等の金属基板であってもよい。基板70は、半導体装置100の反りを抑制する観点から、基板70の厚さは、例えば、70〜140μmであり、80〜100μmであってもよい。
【0084】
四つのチップT1,T2,T3,T4は、接着剤片5pの硬化物5cを介して積層されている。平面視におけるチップT1,T2,T3,T4の形状は、例えば正方形又は長方形である。チップT1,T2,T3,T4の面積は9mm
2以下であり、0.1〜4mm
2又は0.1〜2mm
2であってもよい。チップT1,T2,T3,T4の一辺の長さは、例えば、3mm以下であり、0.1〜2.0mm又0.1〜1.0mmであってもよい。チップT1,T2,T3,T4の厚さは、例えば、10〜170μmであり、25〜100μmであってもよい。なお、四つのチップT1,T2,T3,T4の一辺の長さは同じであっても、互いに異なっていてもよく、厚さについても同様である。
【0085】
半導体装置100の製造方法は、上述のフィルム10を準備する工程と、フィルム10の接着剤層5に対してウェハWを貼るとともに、粘着剤層3の第2の面F2に対してダイシングリングDRを貼る工程と、ウェハWを面積9mm
2以下の複数のチップT1,T2,T3,T4に個片化する工程(ダイシング工程)と、接着剤片付きチップTb(チップと接着剤片5pの積層体、
図8(d)参照)を粘着剤層3の第1の領域3aからピックアップする工程と、接着剤片5pを介してチップT1を、基板70上にマウントする工程とを含む。
【0086】
図8(a)〜
図8(d)を参照しながら、接着剤片付きチップTbの作製方法の一例について説明する。まず、上述のフィルム10を準備する。
図8(a)及び
図8(b)に示すように、ウェハWの一方の面に接着剤層5が接するようにフィルム10を貼り付ける。また、粘着剤層3の第2の面F2に対してダイシングリングDRを貼り付ける。
【0087】
ウェハW、接着剤層5及び粘着剤層3をダイシングする。これにより、
図8(c)に示すように、ウェハWが個片化されてチップT1,T2,T3,T4となる。接着剤層5も個片化されて接着剤片5pとなる。ダイシング方法としては、ダイシングブレード又はレーザを用いる方法が挙げられる。なお、ウェハWのダイシングに先立ってウェハWを研削することによって薄膜化してもよい。
【0088】
ダイシング後、粘着剤層3に対して活性エネルギー線を照射することなく、
図8(d)に示されるように、常温又は冷却条件下において基材層1をエキスパンドすることによってチップを互いに離間させつつ、ピン42で突き上げることによって粘着剤層3から接着剤片5pを剥離させるとともに、接着剤片付きチップTbを吸引コレット44で吸引してピックアップする。
【0089】
図9〜
図11を参照しながら、半導体装置100の製造方法について具体的に説明する。まず、
図9に示すように、接着剤片5pを介して一段目のチップT1を基板70の所定の位置に圧着する。次に、加熱によって接着剤片5pを硬化させる。これにより、接着剤片5pが硬化して硬化物5cとなる。接着剤片5pの硬化処理は、ボイドの低減の観点から、加圧雰囲気下で実施してもよい。
【0090】
基板70に対するチップT1のマウントと同様にして、チップT1の表面上に二段目のチップT2をマウントする。更に、三段目及び四段目のチップT3,T4をマウントすることによって
図10に示す構造体60が作製される。チップT1,T2,T3,T4と基板70とをワイヤW1,W2,W3,W4で電気的に接続した後(
図11参照)、封止層50によって半導体素子及びワイヤを覆うことによって
図7に示す半導体装置100が完成する。
【0091】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、フィルム10は、接着剤層5を覆うカバーフィルム(不図示)を更に備えてもよい。上記実施形態においては、活性エネルギー線の照射によって、粘着剤層3の第1の領域3aの粘着力が第2の領域3bと比較して低下している態様を例示したが、粘着剤層3は紫外線硬化型又は感圧型であってもよい。
【0092】
上記実施形態においては、基材層1と、粘着剤層3と、接着剤層5とをこの順序で備えるフィルム10を例示したが、接着剤層5を備えない態様であってもよい。この場合、例えば、チップをマウントする基板又は他のチップの表面に接着剤層を形成すればよい。
【0093】
本開示の評価方法は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを評価対象とするものに限られず、半導体装置の製造プロセスで使用されるチップ(切断片)のピックアップ性を評価対象としてもよい。この評価方法は以下の工程を含む。
(i)基材層1と、粘着剤層3と、ウェハWとをこの順序で少なくとも備える積層体を準備する工程
(ii)ウェハWを面積9mm
2以下の複数のチップに個片化する工程
(iii)基材層1側からチップの中央部を押し込み、チップのエッジが粘着剤層3から剥離するときのエッジ剥離強度を測定する工程
【0094】
ウェハWの厚さは、例えば、10〜100μmであり、30〜80μmであってもよい。なお、(i)工程において、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを使用して上記積層体を準備してもよい。また、(i)工程において、ウェハWの代わりに、金属層又は樹脂層を含む積層体を準備し、その切断片のピックアップ性を評価してもよい。
【0095】
ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの選別にエッジ剥離強度を利用してもよい。すなわち、二種以上のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのエッジ剥離強度を比較し、二種以上のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのピックアップ性の優劣を判定することで、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを選別してもよい。これにより、半導体装置を高い歩留まりで製造し得るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを効率的に選別できる。
【実施例】
【0096】
以下、本開示について、実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に記述がない限り、薬品は全て試薬を使用した。
【0097】
[アクリル樹脂の合成(製造例1)]
スリーワンモータ、撹拌翼、窒素導入管が備え付けられた容量2000mlのフラスコに以下の成分を入れた。
・酢酸エチル(溶剤):635g
・2−エチルヘキシルアクリレート:395g
・2−ヒドロキシエチルアクリレート:100g
・メタクリル酸:5g
・アゾビスイソブチロニトリル:0.08g
【0098】
十分に均一になるまで内容物を撹拌した後、流量500ml/分にて60分間バブリングを実施し、系中の溶存酸素を脱気した。1時間かけて78℃まで昇温し、昇温後6時間重合させた。次に、スリーワンモータ、撹拌翼、窒素導入管が備え付けられた容量2000mlの加圧釜に反応溶液を移し、120℃、0.28MPaにて4.5時間加温後、室温(25℃、以下同様)に冷却した。
【0099】
次に酢酸エチルを490g加えて撹拌し希釈した。これにウレタン化触媒として、ジオクチルスズジラウレートを0.10g添加した後、2−メタクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、カレンズMOI(商品名))を48.6g加え、70℃で6時間反応させた後、室温に冷却した。次いで、酢酸エチルを加え、アクリル樹脂溶液中の不揮発分含有量が35質量%となるよう調整し、連鎖重合可能な官能基を有する(A)アクリル樹脂(製造例1)を含む溶液を得た。
【0100】
上記のようにして得た(A)アクリル樹脂を含む溶液を60℃で一晩真空乾燥した。これによって得られた固形分を全自動元素分析装置(エレメンタール社製、商品名:varioEL)にて元素分析し、導入された2−メタクリロキシエチルイソシアネートの含有量を窒素含有量から算出したところ、0.50mmol/gであった。
【0101】
また、以下の装置を使用して(A)アクリル樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量を求めた。すなわち、東ソー株式会社製SD−8022/DP−8020/RI−8020を使用し、カラムには日立化成株式会社製Gelpack GL−A150−S/GL−A160−Sを用い、溶離液にテトラヒドロフランを用いてGPC測定を行った。その結果、ポリスチレン換算重量平均分子量は80万であった。JIS K0070に記載の方法に準拠して測定した水酸基価及び酸価は56.1mgKOH/g及び6.5mgKOH/gであった。これらの結果を表1にまとめて示す。
[アクリル樹脂の合成(製造例2)]
表1の製造例1に示す原料モノマー組成の代わりに、製造例2に示す原料モノマー組成とし、製造例1と同じ手法で製造した製造例2に係る(A)アクリル樹脂の溶液を得た。製造例2に係る(A)アクリル樹脂についての測定結果を表1に示す。
【0102】
<実施例1>
[ダイシングフィルム(粘着剤層)の作製]
以下の成分を混合することで、粘着剤層形成用のワニスを調製した(表2参照)。酢酸エチル(溶剤)の量は、ワニスの総固形分含有量が25質量%となるように調整した。
・(A)アクリル樹脂溶液(製造例1):100g(固形分)
・(B)光重合開始剤(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、イルガキュア127、「イルガキュア」は登録商標):1.0g
・(C)架橋剤(多官能イソシアネート、日本ポリウレタン工業株式会社製、コロネートL、固形分:75%):8.0g(固形分)
・酢酸エチル(溶剤)
【0103】
一方の面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(幅450mm、長さ500mm、厚さ38μm)を準備した。離型処理が施された面に、アプリケータを用いて粘着剤層形成用のワニスを塗布した後、80℃で5分間乾燥した。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、その上に形成された厚さ30μmの粘着剤層とからなる積層体(ダイシングフィルム)を得た。
【0104】
一方の面にコロナ処理が施されたポリオレフィンフィルム(幅450mm、長さ500mm、厚さ80μm)を準備した。コロナ処理が施された面と、上記積層体の粘着剤層とを室温にて貼り合わせた。次いで、ゴムロールで押圧することで粘着剤層をポリオレフィンフィルム(カバーフィルム)に転写した。その後、室温で3日間放置することでカバーフィルム付きのダイシングフィルムを得た。
【0105】
[ダイボンディングフィルム(接着剤層A)の作製]
まず、以下の組成物にシクロヘキサノン(溶剤)を加えて攪拌混合した後、更にビーズミルを用いて90分混練した。
・エポキシ樹脂(YDCN−700−10(商品名)、新日鉄住金化学株式会社製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、分子量1200、軟化点80℃):14質量部
・フェノール樹脂(ミレックスXLC−LL(商品名)、三井化学株式会社製、フェノール樹脂、水酸基当量175、吸水率1.8%、350℃における加熱重量減少率4%):23質量部
・シランカップリング剤(NUC A−189(商品名)株式会社NUC製、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン):0.2質量部
・シランカップリング剤(NUCA−1160(商品名)、日本ユニカー株式会社製、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン):0.1質量部
・フィラー(「SC2050−HLG(商品名)、アドマテックス株式会社製、シリカ、平均粒径0.500μm):32質量部
【0106】
上記のようにして得た組成物に以下の成分を加えた後、攪拌混合及び真空脱気の工程を経て接着剤層形成用のワニスを得た。
・エポキシ基含有アクリル共重合体(HTR−860P−3(商品名)、ナガセケムテックス株式会社製、重量平均分子量80万):16質量部
・硬化促進剤(キュアゾール2PZ−CN(商品名)、四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、「キュアゾール」は登録商標)0.0.1質量部
【0107】
一方の面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ35μm)を準備した。離型処理が施された面に、アプリケータを用いて接着剤層形成用のワニスを塗布した後、140℃で5分間加熱乾燥した。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルム(キャリアフィルム)と、その上に形成された厚さ25μmの接着剤層(Bステージ状態)とからなる積層体(ダイボンディングフィルム)を得た。
【0108】
[ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製]
接着剤層とキャリアフィルムとからなるダイボンディングフィルムを、キャリアフィルムごと直径335mmの円形にカットした。これにポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離したダイシングフィルムを室温で貼り付け後、室温で1日放置した。その後、直径370mmの円形にダイシングフィルムをカットした。このようにして得たダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの接着剤層におけるウェハの貼付け位置に対応する領域(粘着剤層の第1の領域)に以下のようにして紫外線を照射した。すなわち、パルスドキセノンランプを用いて70W、300mJ/cm
2の照射量で部分的に紫外線を照射した。なお、暗幕を用いてフィルムの中心から内径318mmの部分に紫外線を照射した。このようにして、後述の種々の評価試験に供するための複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0109】
<実施例2>
ダイシングフィルムを作製する際、「イルガキュア127」の代わりに、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、イルガキュア184、「イルガキュア」は登録商標)を使用したこと、及び、紫外線の照射量を300mJ/cm
2とする代わりに、200mJ/cm
2としたことの他は、実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
<実施例3>
紫外線の照射量を200mJ/cm
2とする代わりに、250mJ/cm
2としたことの他は実施例2と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0110】
<実施例4>
紫外線の照射量を200mJ/cm
2とする代わりに、300mJ/cm
2としたことの他は実施例2と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0111】
<実施例5>
ダイボンディングフィルムとして、接着剤層Aを有するものの代わりに、以下のようにして形成した接着剤層Bを有するものを使用したことの他は実施例4と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
[ダイボンディングフィルム(接着剤層B)の作製]
まず、以下の成分にシクロヘキサノン(溶剤)を加えて攪拌混合した後、更にビーズミルを用いて90分混練した。
・フィラー(「SC2050−HLG(商品名)、アドマテックス株式会社製、シリカ、平均粒径0.500μm):50質量部
上記のようにして得た組成物に以下の成分を加えた後、攪拌混合及び真空脱気の工程を経て接着剤層形成用のワニスを得た。
・エポキシ基含有アクリル共重合体(HTR−860P−3(商品名)、ナガセケムテックス株式会社製、重量平均分子量80万):100質量部
・硬化促進剤(キュアゾール2PZ−CN(商品名)、四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、「キュアゾール」は登録商標)0.1質量部
【0112】
<比較例1>
ダイシングフィルムを作製する際、製造例2に係る(A)アクリル樹脂の溶液を使用するとともに、架橋剤の量を8.0質量部とする代わりに6.0質量部としたことの他は実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0113】
<比較例2>
ダイシングフィルムを作製する際、架橋剤の量を8.0質量部とする代わりに6.0質量部としたことの他は実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0114】
<比較例3>
紫外線の照射量を300mJ/cm
2とする代わりに500mJ/cm
2としたことの他は実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0115】
[評価試験]
(1)接着剤層に対する粘着剤層の粘着力(30°ピール強度)の測定
接着剤層に対する粘着剤層(紫外線照射領域)の粘着力を30°ピール強度を測定することによって評価した。すなわち、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムから幅25mm及び長さ100mmの測定試料を切り出した。測定試料は、粘着剤層(紫外線照射領域)と、接着剤層の積層体とした。引張試験機を用いて接着剤層に対する粘着剤層(紫外線照射領域)のピール強度を測定した。測定条件は、剥離角度30°、引張速度60mm/分とした。なお、試料の保存及びピール強度の測定は、温度23℃、相対湿度40%の環境下で行った。
【0116】
(2)チップのエッジ剥離強度測定
シリコンウェハ(直径:12インチ、厚さ:50μm)及びダイシングリングにダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを以下条件で貼り付けた。シリコンウェハ及びダイシングリングを貼り付けた後のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのMD方向の伸びは、1.0〜1.3%程度であった。
<貼付条件>
・貼付装置:DFM2800(株式会社ディスコ製)
・貼付温度:70℃
・貼付速度:10mm/s
・貼付テンションレベル:レベル6
【0117】
次いで、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム付きシリコンウェハをブレードダイシングによって複数の接着剤片付きチップ(サイズ2mm×2mm)に個片化した。
<ダイシング条件>
・ダイサー:DFD6361(株式会社ディスコ製)
・ブレード:ZH05−SD4000−N1−70−BB(株式会社ディスコ製)
・ブレード回転数:40000rpm
・ダイシング速度:30mm/秒
・ブレードハイト:90μm
・粘着剤層の表面からの切り込み深さ:20μm
・ダイシング時の水量
ブレードクーラー:1.5L/分
シャワー:1.0L/分、
スプレー:1.0L/分
【0118】
ダイシングしてから1日後、以下の測定条件で、基材層側から接着剤片付きチップを押し込み、接着剤片付きチップのエッジ剥離強度を測定した(
図2(c)参照)。なお、測定前に、チップの中央部に相当する基材層の表面に、油性ペンでマーキングを行った。チップの中央部は定規で計測して特定した。測定はN=10で行った。一つのチップについて測定した後、間隔をチップ3個分空けて次の測定を行った(
図4参照)。
<測定条件>
・測定装置:小型卓上試験機EZ−SX(株式会社島津製作所製)
・ロードセル:50N
・押し込み冶具:ZTSシリーズ付属アタッチメント(形状:円錐型、株式会社イマダ製)
・押し込み速度:60mm/分
・温度:23℃
・湿度:45±10%
【0119】
(3)ピックアップ性の評価
上記のエッジ剥離強度の測定後、以下の条件で100個の接着剤片付きチップをピックアップした。
<ピックアップ条件>
・ダイボンダ装置:DB800−HSD(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
・突上げピン:EJECTOR NEEDLE SEN2−83−05(直径:0.7mm、先端形状:半径350μmの半球、マイクロメカニクス社製)
・突き上げ高さ:200μm
・突き上げ速度:1mm/秒、
なお、突上げピンは、チップの中央部に1本配置した。ピックアップの成功率が100%であったものを「A」、70%以上100%未満であったものを「B」、70%未満であったものを「C」とした。結果を表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すように、実施例1〜5は、比較例1〜3よりもピックアップ性が良好であった。具体的には、比較例1は実施例1〜4よりも30°ピール強度が大幅に低い値であるにもかかわらず、チップのエッジ剥離強度が1.6Nと高いためにピックアップ性が顕著に悪化した。また比較例2では、実施例2と同等の30°ピール強度であるにも関わらず、チップのエッジ剥離強度が1.3Nと比較的高いためにピックアップ性が悪化したと考えられる。また比較例3では、実施例1から紫外線照射量を増加させたことで30°ピール強度が低い値となったが、一方でチップのエッジ剥離強度が1.3Nと比較的高くなったことからピックアップ性が悪化したと考えられる。このことから、粘着剤層の組成のみならず、紫外線照射量もチップのエッジ剥離強度及びピックアップ性に重要な要因であることが分かった。
【0123】
以上の結果から、小チップのピックアップ性はチップのエッジ剥離強度と相関があることが明らかとなり、エッジ剥離強度が1.2N以下で良好なピックアップ性が得られることが分かった。
本開示に係るピックアップ性の評価方法は、基材層と、粘着剤層と、厚さ10〜100μmのウェハとをこの順序で少なくとも備える積層体を準備する工程と、ウェハを面積9mm
以下の複数のチップに個片化する工程と、基材層側からチップの中央部を押し込む工程と、チップのエッジが粘着剤層から剥離するときのエッジ剥離強度を測定する工程とを含む。