特許第6860125号(P6860125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860125
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20210405BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20210405BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20210405BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20210405BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20210405BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20210405BHJP
   H01M 4/80 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M4/66 A
   H01M4/38 Z
   H01M4/13
   H01M4/134
   !H01M10/052
   !H01M4/80 C
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-1386(P2017-1386)
(22)【出願日】2017年1月6日
(65)【公開番号】特開2018-113108(P2018-113108A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年8月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100158241
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 安子
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−042329(JP,A)
【文献】 特開2016−173985(JP,A)
【文献】 特開2008−243786(JP,A)
【文献】 特開2016−184484(JP,A)
【文献】 特開2015−138777(JP,A)
【文献】 特表2009−527095(JP,A)
【文献】 特表2015−506899(JP,A)
【文献】 特開2016−131123(JP,A)
【文献】 特開2015−167065(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/129528(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/39
H01M 4/00− 4/62
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電時に膨張し膨張時の体積となり、充電時に収縮し収縮時の体積となる、体積が変化する正極と、放電時に収縮し収縮時の体積となり、充電時に膨張し膨張時の体積となる、体積が変化する負極とがセパレータを介して設けられた電極構造体を備え、
前記正極および前記負極は、前記膨張時の体積を前記収縮時の体積で割った値である体積比が1.1以上であり、
前記正極または前記負極は、前記体積比が1.9以上であり、
前記放電時における前記正極と前記負極との合計体積、および前記充電時における前記正極の体積と前記負極の体積との合計体積のうち、大きい値小さい値割った値である合計体積比が1.2以下である
ことを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記正極は、カーボンナノチューブのスポンジ状構造体からなる第1の三次元集電体と、前記第1の三次元集電体の内部に包含された正極活物質とを備え、
前記負極は、カーボンナノチューブのスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体と、前記第2の三次元集電体の内部に包含された負極活物質とを備える
ことを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極および前記負極は、空隙率が5%以上80%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極および前記負極は、金属箔を含まないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の二次電池。
【請求項5】
前記二次電池はリチウム二次電池であり、前記正極または前記負極はLiを含み、前記Liの質量は、前記二次電池の5%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極はSを含み、前記Sの質量は、前記二次電池の12%以上であることを特徴とする請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記負極はSiを含み、前記Siの質量は、前記二次電池の6%以上であることを特徴とする請求項5または6記載の二次電池。
【請求項8】
質量容量密度が400Wh/kg以上であり、体積容量密度が700Wh/L以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度二次電池の開発が活発に行われているが、エネルギーシステムを本格的に支えるには、更なる高容化と低コスト化が要求される。リチウムイオン二次電池は、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム遷移金属複合酸化物を用い、負極活物質に黒鉛(C)等の炭素材料を用い、活物質の結晶構造の隙間にリチウムイオン(Li)を挿入・脱離することにより、正極・負極ともに体積変化が小さく、安定な充放電が実現されている。しかしながら、リチウム遷移金属複合酸化物および炭素材料は、保持できるリチウムイオンに対する質量や体積が大きく、さらなる高容量密度化は困難である。
【0003】
そこで、活物質に、硫黄、シリコン、スズ等の、リチウムと反応して化合物を形成する材料を用いた、高容量電池の研究が進められている。硫黄やシリコンからなる活物質を用いた場合には、活物質に対して反応するリチウムイオンの量が多いため、高容量密度が実現できる一方、充放電時の体積変化が大きい。体積変化は、電池や電極の構造の劣化の原因となる。体積変化を抑制するために、活物質をシェル材料で覆うなどの複合化技術が研究されているが、追加材料により、電極の質量や体積が増加してしまう。また、活物質が膨張できる空隙を電極内に予め設けることで、電極の体積変化を抑える技術も研究されているが、電極体積あたりの容量密度が低下してしまう。電極の体積変化を抑制しつつ、電池容量密度を増加させることは難しい。
【0004】
リチウムイオン二次電池において、正極に用いる導電材の凝集を防止し、正極活物質の導通を確実なものとするとともに、容量密度を大きくし、高出力における容量密度の低下を抑制するために、カーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)を導電材として用いた正極が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、充放電時における正極および負極それぞれの体積変化に起因した電池全体の劣化を抑制でき、しかも高容量密度の二次電池は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−48698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、充放電の際に電池全体の安定性を維持でき、容量密度の高い二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る二次電池は、放電時または充電時に膨張または収縮して体積が変化する正極と、前記正極とは逆に体積が変化する負極とがセパレータを介して設けられた電極構造体を備え、前記正極および前記負極は、膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が1.1以上であり、前記正極または前記負極は、前記体積比が1.9以上であり、前記放電時における前記正極と前記負極との合計体積、および前記充電時における前記正極の体積と前記負極の体積との合計体積のうち、大きい値小さい値割った値である合計体積比が1.2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電極構造体における正極および負極は、充放電時の体積変化が大きい一方、高容量密度の活物質を用いることで、二次電池の容量密度を高めることができる。正極および負極のいずれか一方は、充放電時の体積比が1.9以上と大きい。しかしながら、放電時における正極と負極との合計体積、および充電時における正極の体積と負極の体積との合計体積のうち、大きい値小さい値割った値である合計体積比が1.2以下である。電極構造体全体として、充放電時における体積変化が制限されているので、構造の劣化は抑制されて安定性を維持できる。
【0010】
充放電の際に正極および負極の体積が変化しつつも、全体としての体積変化が抑制された電極構造体を用いるので、充放電時における全体の安定性と高い容量密度とを兼ね備えた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る二次電池に含まれる電極構造体の構成を表わす断面図であり、図1Aは放電時、図1Bは充電時の断面図である。
図2図1に示した電極構造体に含まれる正極または負極の構成を表わす模式図であり、図2Aは放電時の正極、図2Bは充電時の正極、図2Cは放電時の負極、図2Dは充電時の負極の構成を表わす模式図である。
図3】正極および負極に金属ワイヤが設けられた電極構造体の模式図である。
図4】変形例の二次電池に含まれる電極構造体の構成を表わす断面図であり、図4Aは放電時、図4Bは充電時の断面図である。
図5】従来の二次電池に含まれる電極構造体の構成を表わす断面図であり、図5Aは放電時、図5Bは充電時の断面図である。
図6】実施例および比較例の二次電池の質量容量密度に対する体積容量密度をプロットしたグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本実施形態について詳細に説明する。
【0013】
1.全体構成
本実施形態に係る二次電池は、正極と負極とがセパレータを介して設けられた電極構造体を備える。図1Aおよび図1Bを参照して、電極構造体について説明する。
【0014】
電極構造体10は、セパレータ12の一表面に正極20が設けられ、セパレータ12の他表面には負極30が設けられている。正極20は、放電時に膨張し(図1A,20A)、充電時に収縮する(図1B,20B)。一方、負極30は、放電時に収縮し(図1A,30A)、充電時に膨張する(図1B,30B)。
【0015】
放電時の電極構造体10Aは、図1Aに示すように、セパレータ12を介して設けられた膨張した正極20Aと収縮した負極30Aとを含む。充電時の電極構造体10Bは、図1Bに示すように、セパレータ12を介して設けられた収縮した正極20Bと膨張した負極30Bとを含む。
【0016】
正極20および負極30は、膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が1.1以上、例えば1.1である。正極20および負極30は、膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が、1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましい。正極20および負極30のいずれか一方は、膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が、1.9以上、例えば1.9である。正極20および負極30のいずれか一方は、膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が、2.2以上であることが好ましく、2.8以上であることがより好ましい。
【0017】
正極20および負極30は、充放電の際、セパレータ12に接する面の面積が実質的に変化せず、膜厚が変化することで膨張または収縮する。このため、体積比は、膜厚から算出することができる。正極20の体積比は、放電時(20A)の膜厚を充電時(20B)の膜厚で割ることにより得られる。負極30の体積比は、充電時(30B)の膜厚を放電時(30A)の膜厚で割ることにより得られる。
【0018】
正極20と負極30との合計体積は、放電時(図1A)または充電時(図1B)における大きい値を、小さい値で割った値である合計体積比(以下、合計体積の充放電時の比とも称する)が1.2以下、例えば1.2である。合計体積の充放電時の比は、1.1以下であることが好ましく、1.05以下であることがより好ましい。
【0019】
正極20と負極30との合計体積の充放電時の比は、正極20の膜厚と負極30の膜厚との合計膜厚を用いて求めることができる。放電時の正極20Aと負極30Aとの合計膜厚(以下、放電時正負極合計膜厚と称する)、および充電時の正極20Bと負極30Bとの合計膜厚(以下、充電時正負極合計膜厚と称する)のうち、大きい値小さい値割ることにより、合計体積の充放電時の比が得られる。
【0020】
図2A、2Bに示すように、正極20(20A,20B)は、CNTのスポンジ状構造体からなる第1の三次元集電体22と、第1の三次元集電体22の内部に包含された正極活物質24(24A,24B)とを備える。放電時の正極20A(図2A)に含まれる正極活物質24Aは、例えばLi2Sであり、充電時の正極20B(図2B)に含まれる正極活物質24Bは、例えばSである。
【0021】
なお、正極活物質は、Liなどの中間状態であってもよく、他の材料で正極を構成することもできる。正極活物質24Aおよび24Bは、三次元集電体22を覆うような構造をしていてもよい。正極活物質24Aおよび24Bは、粒子状の構造をしていてもよく、他の構造を取っていてもよい。正極活物質24Aと正極活物質24Bとが、互いに異なる構造となるようにしてもよい。
【0022】
図2C、2Dに示すように、負極30(30A,30B)は、CNTのスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体32と、第2の三次元集電体32の内部に包含された負極活物質34(34A,34B)とを備える。放電時の負極30A(図2C)に含まれる負極活物質34Aは、例えばSiであり、充電時の負極30B(図2D)に含まれる負極活物質34Bは、例えばLi15Si4である。
【0023】
なお、負極活物質は、Li22Si5ようにLiとSiとの組成が異なる状態であってもよく、Snなどの他の材料で負極を構成してもよい。負極活物質34Aおよび34Bは、三次元集電体32を覆うような構造をしていてもよい。粒子状の構造をしていてもよく、他の構造を取っていてもよい。負極活物質34Aと負極活物質34Bとが、互いに異なる構造となるようにしてもよい。
【0024】
負極30は、正極20と同程度の空隙率を有することが好ましいが、必ずしも同じ空隙率でなくてもよい。空隙を電解液が満たしている状態であっても、その電解液を含めた体積割合を空隙率と呼ぶ。負極30の空隙率と、正極20の空隙率の差は、±30%程度の範囲内であれば、特に問題はない。
【0025】
正極20および負極30は、空隙率が小さくなるほど、体積容量密度を大きくできるが、小さすぎる場合には、電解液が電極中に浸透しにくくなったり、充放電の際の体積変化が大きくなってしまう。正極20および負極30の空隙率は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。一方、空隙率が大きすぎる場合には、体積容量密度が低下してしまう。正極20および負極30の空隙率は、80%未満であることが好ましく、70%未満であることがより好ましく、60%以下であることが最も好ましい。空隙率は、空隙の体積割合である。正極20および負極30における空隙率の大きさは、例えば、三次元集電体の空隙率を変化させたり、活物質の量を変化させることにより、調整することができる。
【0026】
正極20および負極30は、金属箔を含まないことが好ましい。正極および負極と全面で接する金属箔を含むと、電極が重くなり、金属箔が正極および負極の体積変化を阻害し、また金属箔と正極との間、および金属箔と負極との間で応力が発生し劣化の原因となるからである。この場合、正極20は、CNTのスポンジ状構造体からなる第1の三次元集電体22と、第1の三次元集電体22の内部に包含された正極活物質24(24A,24B)とから構成される。負極30は、CNTのスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体32と、第2の三次元集電体32の内部に包含された負極活物質34(34A,34B)とから構成される。
【0027】
なお、正極20および負極30は、図3に示すように正極20および負極30と部分的に接する金属ワイヤ40を含んでもよい。金属ワイヤ40は、金属グリッドなどに変更することができる。金属ワイヤ40や金属グリッドは金属箔と比べて軽量であり、正極20および負極30と部分的に接する構造では、正極20および負極30の体積変化が阻害されず、また応力の発生も抑えられるからである。図3には、正極20の金属ワイヤ40と、負極30の金属ワイヤ40とが、それぞれ櫛型形状であり、正極20の金属ワイヤ40の櫛歯部分と、負極30の金属ワイヤ40の櫛歯部分とが、平面視において互いに重なる場合を示した。これに限られず、平面視において、正極20の金属ワイヤ40の櫛歯部分が、負極30の金属ワイヤの2本の櫛歯部分の中間に配置されるような形態としても良い。また、正極20の金属ワイヤ40および負極30の金属ワイヤ40の形状は、その他の種々の形状とすることができる。正極20および負極30と金属ワイヤ40との接し方についても、図3に示したように、正極20および負極30の表面に接するようにしてもよいし、正極20および負極30の内部に接するようにしてもよい。
【0028】
金属箔を含まないことによって、正極20および負極30は、充放電の際の体積変化が制限されることがなく、柔軟なCNTのスポンジ状構造体により、可逆的に体積変化する。しかも、金属箔に起因した質量の増加は回避され、二次電池の軽量化に繋がる。
【0029】
上述したような電極構造体を電解液とともに容器に収容して、本実施形態の二次電池が構成される。本実施形態の二次電池は、放電時の正極および充電時の負極にLiが含まれるリチウム二次電池である。高い電池容量密度を得るために、Liの質量割合は、二次電池全体の5%以上であることが好ましい。Liの質量割合は、二次電池全体の7%以上であることがより好ましく、9%以上であることがより最も好ましい。Liの質量割合は、最大でも二次電池全体の18%程度とすることが望まれる。
【0030】
本実施形態の二次電池は、高い電池容量密度を得るために、Sの質量割合が、二次電池全体の12%以上であることが好ましい。Sの質量割合は、二次電池全体の16%以上であることがより好ましく、20%以上であることが最も好ましい。Sの質量割合は、最大でも二次電池全体の40%程度とすることが望まれる。
【0031】
本実施形態の二次電池は、高い電池容量密度を得るために、Siの質量割合が、二次電池全体の6%以上であることが好ましい。Siの質量割合は、二次電池全体の8%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。Siの質量割合は、最大でも二次電池全体の20%程度とすることが望まれる。
【0032】
2.製造方法
本実施形態に係る二次電池を製造するには、まず、セパレータの一表面および他表面に、正極および負極をそれぞれ積層して電極構造体を得る。セパレータは、微多孔性ポリプロピレンフィルムで構成することができる。セパレータとしては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリイミド系またはフッ素樹脂系の微孔膜や不織布を用いてもよい。
【0033】
正極は、スポンジ状構造体の原料となるCNTと正極活物質としてのLi2Sとを、共分散、ろ過することにより形成することができる。具体的には、CNTとナノ粒子状のLi2Sとがエタノールやイソプロパノール等の分散媒に分散された分散液を用いて、ろ過により自立膜を形成する。CNTとLi2Sとの割合は、質量で1:1〜1:100程度とすることが好ましい。正極の空隙率は、CNTとLiSの比率やCNTとLiSの分散状態を変更して調節することができる。また、膜作製後にプレスなどの処理を施すことによって、正極の空隙率を調節してもよい。
【0034】
用いるCNTは、長尺(直径1〜15nm程度、平均長さ10〜1000μm程度)であることが好ましい。そのようなCNTは、CVD法により合成することができる。例えば、特許第5447367号公報、特許第5862559号公報、D.Y. Kim, H. Sugime, K. Hasegawa, T. Osawa, and S. Noda, Carbon 49(6), 1972-1979 (2011).、Z. Chen, D.Y. Kim, K. Hasegawa, T. Osawa, and S. Noda, Carbon 80, 339-350 (2014).などに記載されている流動層CVD法が挙げられる。CNTは、浮遊触媒CVD法、基板担持触媒CVD法により合成してもよい。ナノ粒子状のLi2Sは、ボールミル法によりLi2S粉末を粉砕するなどの一般的な手法により得ることができる。
【0035】
CNTは、ナノ粒子状のLi2Sを取り込みながら、ファンデルワールス力によりネットワークを構成する。こうして、正極活物質としてのLi2Sが、CNTのスポンジ状構造体からなる第1の三次元集電体中の隙間に取り込まれて正極が形成される。
【0036】
負極は、スポンジ状構造体の原料となるCNTと負極活物質としてのSiとを、共分散、ろ過することによって、形成することができる。具体的には、CNTとナノ粒子状のSiとがエタノールやイソプロパノール等の分散媒に分散された分散液を用いて、ろ過により自立膜を形成する。CNTとSiとの割合は、質量で1:1〜1:100程度とすることが好ましい。CNTは、上述したように長尺であることが好ましい。
【0037】
ナノ粒子状のSiは、種々の方法により得ることができる。例えば、ガス中蒸発法により不活性ガス中でSiを沸騰させる方法、CVD法によりシラン系ガスを熱分解させる方法、ボールミル法によってシリコンの塊を粉砕する方法などが挙げられる。負極の空隙率も、CNTとSiの比率やCNTとSiの分散状態を変更する、膜作製後にプレスなどの処理を施すことにより調節することができる。
【0038】
CNTは、ナノ粒子状のSiを取り込みながら、ファンデルワールス力によりネットワークを構成する。こうして、負極活物質としてのSiが、CNTのスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体中の隙間に取り込まれて負極が形成される。
【0039】
以上の工程により得られた正極および負極を、セパレータの一表面および他表面に積層して電極構造体が作製される。作製された電極構造体においては、正極と負極との合計体積の充放電時の比が1.2以下である。合計体積の充放電時の比は、正極および負極の厚さおよび/または空隙率の大きさを調整して制御することができる。上述したように、空隙率は、三次元集電体の空隙率や活物質の量を変化させることで調整することができる。電極構造体は、その表面に送電用の金属ワイヤを配置して、電解液とともに容器に収容する。
【0040】
電解液は特に限定されず、非水電解液、イオン液体、およびゲル電解液等の一般的に用いられている電解液を用いることができる。例えば非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合液に、1.0モル/リットルのLiPF6を溶解して調製することができる。ECとDMCとの体積比は、一般的には1:2程度である。
【0041】
容器は特に限定されず、電池缶として一般的に用いられている鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属缶を用いることができる。重量当たりのエネルギー密度の観点から、金属箔と樹脂フィルムとを積層した金属樹脂複合材が好ましい。
【0042】
金属ワイヤは、例えば直径10〜100μmの金属細線を、0.1〜10mm間隔で正極および負極の表面に設置することができる。正極用の金属ワイヤは、アルミニウムまたはステンレスなどの金属で構成することが好ましい。負極用の金属ワイヤは、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属で構成することが好ましい。金属ワイヤを用いることによって、金属量が大幅に削減され、従来の1/10〜1/100の質量の金属で導電性を十分に確保することが可能となる。
【0043】
必要に応じて所定の工程を経ることで、所定の電極構造体を備えた本実施形態に係る二次電池が作製される。
【0044】
3.作用および効果
本実施形態に係る二次電池は、充放電の際に正極および負極の体積が所定の割合以上変化しつつも、全体としての体積変化が抑制された電極構造体を備えている。
【0045】
正極および負極は、合計体積の充放電時の比が1.2以下であるので、電極構造体全体としての体積変化が抑制されている。これにより、構造の劣化が抑制されて、充放電の際に安定性を維持することができ、サイクル寿命も向上する。
【0046】
電極構造体に含まれている正極および負極は、充放電の際に体積が変化し、膨張時の体積が収縮時の体積の1.1倍以上である。しかも、正極および負極のいずれか一方は、膨張時の体積が収縮時の体積の1.9倍以上である。膨張時の体積を収縮時の体積で割った値である体積比が大きいほど容量密度を大きくできるので、この体積比は大きいほど好ましい。充放電時の体積変化が大きい一方、高容量密度の活物質を用いた正極および負極を備えることから、本実施形態に係る二次電池は、高い容量密度を達成することができる。
【0047】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、Sを含む正極20を用いたが、Sの代りに各種遷移金属の酸化物、各種遷移金属のフッ化リン酸塩、各種遷移金属のケイ酸塩、酸化還元活性を有す高分子化合物や有機化合物等を含む正極を用いることもできる。また、上記実施形態では、Siを含む負極30を用いたが、Siの代りにSn、金属水素化物、金属硫化物、ハードカーボンや酸化グラフェンなどの各種炭素材料、酸化還元活性を有す高分子化合物や有機化合物等を含む負極を用いることもできる。場合によっては、2種以上の原料を組み合わせて、正極20または負極30に用いることも可能である。
【0048】
正極20における第1の三次元集電体、および負極30における第2の三次元集電体は、CNTのスポンジ状構造体としたが、グラフェン等の他のナノ炭素材料のスポンジ状構造体であってもよい。
【0049】
また、上記実施形態においては、一対の正極および負極を含む電極構造体を備えた二次電池について説明したが、これに限定されない。図4A,4Bに示すように、セパレータ12を介して設けられた複数の正極20および負極30を含む電極構造体100を備えた二次電池としてもよい。放電時の電極構造体100Aは、図4Aに示すように、膨張した正極20Aと収縮した負極30Aとを含む。充電時の電極構造体100Bは、図4Bに示すように、収縮した正極20Bと膨張した負極30Bとを含む。
【0050】
このような電極構造体100の場合、正極20は、膨張時(20A)の体積の合計を収縮時(20B)の体積の合計で割った値である体積比が1.1以上である。負極30も同様に、膨張時(30B)の体積の合計を収縮時(30A)の体積の合計で割った値である体積比が1.1以上である。正極20および負極30のいずれか一方は、膨張時の体積の合計を収縮時の体積の合計で割った値である体積比が、1.9以上である。
【0051】
さらに、正極20および負極30は、放電時(図4A)の合計体積と充電時(図4B)の合計体積のうち、大きい値を小さい値で割った値である合計体積比が1.2以下である。放電時の正極20と負極30との合計体積と充電時の正極20と負極30との合計体積との比は、放電時の電極構造体100Aにおける正極20Aと負極30Aとの合計膜厚(放電時正負極合計膜厚)、および充電時の電極構造体100Bにおける正極20Bと負極30Bとの合計膜厚(充電時正負極合計膜厚)のうち、大きい値を小さい値で割って求めることができる。
【0052】
5.実施例
下記表1に、実施例および比較例の二次電池における正極および負極の構成をまとめる。表中の数値は、後述するように条件を設定して所定の計算式により求めた。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1〜6および比較例4,5は、正極活物質に硫黄(放電状態ではLi2S、充電状態ではS)を用い、負極活物質にシリコン(放電状態ではSi、充電状態ではLi15Si4)を用いた二次電池である。
【0055】
比較例1は、正極活物質にコバルト酸リチウム(放電状態ではLiCoO2、充電状態ではLi0.5CoO2)を用い、負極活物質に黒鉛(放電状態ではC、充電状態ではLiC6)を用いた二次電池である。
【0056】
比較例2は、正極活物質にコバルト酸リチウム(放電状態ではLiCoO2、充電状態ではLi0.5CoO2)を用い、負極活物質にシリコン(放電状態ではSi、充電状態ではLi15Si4)を用いた二次電池である。比較例3は、正極活物質に硫黄(放電状態ではLi2S、充電状態ではS)を用い、負極活物質に黒鉛(放電状態ではC、充電状態ではLiC6)を用いた二次電池である。
【0057】
実施例1〜6、比較例4で、正極、負極の空隙率を、10%〜80%まで変化させている。比較例1〜3,5では、正極、負極の空隙率を20%とした。
【0058】
実施例1〜6、比較例4では、正極および負極が、CNTのスポンジ状構造体からなる三次元集電体と活物質のみとから構成されている。比較例1,5では、正極がAl箔集電体を含み、負極がCu箔集電体を含む。比較例2では、正極がAl箔集電体を含み、負極は、CNTのスポンジ状構造体からなる三次元集電体と活物質のみとから構成されている。比較例3では、負極がCu集電体を含み、正極はCNTのスポンジ状構造体からなる三次元集電体と活物質のみとから構成されている。
【0059】
ここで、比較例1の二次電池における電極構造体の放電時および充電時の状態を、図5Aおよび図5Bに模式的に示す。電極構造体200は、セパレータ212を介して設けられた正極220と負極230とを備えている。正極220は、Al箔集電体222と正極活物質224とを含み、負極230は、Cu箔集電体232と負極活物質234とを含む。金属箔集電体(Al箔集電体222,Cu箔集電体232)は、充放電による電極の体積変化を制限し、二次電池の質量を増加させる。
【0060】
放電時の電極構造体200A(図5A)では、正極220Aは、正極活物質224AとしてLiCoO2を含み、負極230Aは、負極活物質232AとしてCを含む。充電時の電極構造体200B(図5B)では、正極220Bは、正極活物質224BとしてLi0.5CoO2を含み、負極230Bは、負極活物質234BとしてLiC6を含む。
【0061】
実施例1〜6、比較例1〜5の二次電池は、単位面積当たりの正負極一対基準容量を、40Ah/m2とすることを前提に、以下の計算を行った。なお、正負極を繰り返し積層した電池を想定して計算する場合は、一つの正極の半面はセパレータを介して一つの負極と、同じ正極の他の半面は他のセパレータを介して他の負極とLiイオンを交換すると考えることとする。この場合は、正極または負極の半面の基準容量を、40Ah/m2とすることが前提になる。
【0062】
放電時正極活物質質量(a)は、放電時の単位面積当たりの正極の質量である。放電時正極活物質質量(a)は、上記の正負極一対基準容量から求めた電荷量と、Li2Sの分子量(45.95g/mol)とを用いて算出した。放電時正極質量(b)は、放電時正極活物質質量(a)に、三次元集電体、バインダー、金属箔集電体の単位面積当たりの質量を加えたものである。
【0063】
実施例1〜6、比較例4は、バインダーおよび金属箔集電体が含まれていない。上記のように算出された放電時正極活物質質量(a)は、34.3g/m2である。正極質量に対する三次元集電体の質量割合を10%と設定し、三次元集電体の単位面積当たりの質量を算出すると3.8g/m2となる。放電時正極質量(b)の値は、これらを合計した値であり、38.1g/m2である。
【0064】
比較例1〜3,5についても、同様の考え方で計算する。ただし、正極質量に対する、バインダーの質量割合を5%、導電材の質量割合を5%とし、正極の金属箔集電体(Al箔)の厚さは7.5μmとして計算する。7.5μmという厚さは、厚さ15μmのAl箔を両面の正極で共有すると考え、Al箔の半分の厚さを一つの正極分の正極集電体の厚さとして用いたものである。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの高分子化合物(密度1.0g/cm3)を用いるものとする。
【0065】
放電時正極膜厚(c)は、以下のように計算した。上記で計算された、正極活物質、三次元集電体、バインダーの単位面積当たりの質量と、それぞれの材料の密度より、それぞれが緻密であると仮定した膜厚(以下「緻密膜厚」)を計算する。上記の膜厚と、金属箔集電体の膜厚との合計膜厚を求める。空隙率が設定した所定の値となるような、空隙膜厚(空隙が集まったと仮定した値)を計算する。正極活物質、三次元集電体、およびバインダーの緻密膜厚と、金属箔集電体の膜厚と、空隙膜厚とを合計して、放電時正極膜厚(c)を算出する。
【0066】
例えば、実施例1については、放電時正極活物質質量(a)34.3g/m2とLi2Sの密度(1.66g/cm3)とを用いて、正極活物質の緻密膜厚は、20.7μmと計算される。三次元集電体の緻密膜厚は、三次元集電体の単位面積当たりの質量3.8g/m2とCNTの密度2g/cm3より、1.9μmと計算される。空隙率が10%となるための、空隙膜厚を計算すると、2.5μmと計算される。正極活物質の緻密膜厚、三次元集電体の緻密膜厚、および空隙膜厚を合計すると、放電時正極膜厚(c)は25.1μmとなる。
【0067】
放電時負極活物質質量(d)、放電時負極質量(e)、および放電時負極膜厚(f)についても、正極と同様の考え方で計算した。ただし、負極の金属箔集電体(Cu箔)の厚さは、Cu箔の厚さ15μmの半分の厚さの7.5μmという値を用いた。
【0068】
表1中の、放電時正負極合計膜厚(c+f)は、放電時正極膜厚(c)と放電時負極膜厚(f)の合計膜厚である。
【0069】
「充電時」についても、「放電時」と同様の考え方で計算した。ただし、三次元集電体、バインダー、導電材、金属箔集電体の単位面積当たりの質量、緻密膜厚は、放電時と変化しないものであるので、放電時と同じ値を用いた。また、空隙膜厚について、CNTのスポンジ状構造体からなる三次元集電体を用いた場合には、電極が、膨張・収縮しても、柔軟に体積変化するので、空隙膜厚は充電時と放電時で保たれる。
【0070】
上記表1中の正極および負極についての体積比は、膨張時の膜厚を収縮時の膜厚で割って得られた値である。硫黄正極については、放電時の膜厚を充電時の膜厚で割って得た値である。コバルト酸リチウム正極については、充電時の膜厚を放電時の膜厚で割って得た値である。シリコン負極および黒鉛負極については、充電時の膜厚を放電時の膜厚で割って得た値である。正負極合計についての体積比は、放電時正負極合計膜厚および充電時正負極合計膜厚のうち、大きい値を小さい値で割って得られた値である。
【0071】
下記表2には、実施例、比較例の二次電池全体の構成を、質量容量密度および体積容量密度とともに示す。二次電池は、上記表1に示したような電極構造体が、電解液とともに容器内に収容された構成である。
【0072】
【表2】
【0073】
単位面積当たりのLi質量(g)は、正負極一対基準容量より計算された電荷量と、Liの原子量(6.941g/mol)より算出される。正極活物質がLi2Sの場合は、Li利用率が100%として計算し、正極活物質がLiCoO2の場合はLi利用率が50%として計算した。単位面積当たりのS質量(a’’)は、正極活物質にSを用いた実施例1〜5および比較例3〜5について、上記表1に記載した充電時正極活物質質量(a’)を用いた。比較例1および比較例2では、正極活物質にSを用いていないため、単位面積当たりのS質量(a’’)は0である。単位面積当たりのSi質量(d’’)は、負極活物質にSiを用いた実施例1〜5および比較例2,4,5について、上記表1に記載した放電時負極活物質質量(d)を用いた。比較例1および比較例3では、負極活物質にSiを用いていないため、単位面積当たりのSi質量(d’’)は0である。
【0074】
単位面積当たりのLi質量、単位面積当たりのS質量、単位面積当たりのSi質量の、正負極一対基準質量(h)に対する割合より、二次電池における、Li、S、Siの質量割合を求めた。正負極一対基準質量(h)は、放電時正極質量(b)、放電時負極質量(e)に、セパレータ、電解液、電池容器の単位面積当たり質量を加えて算出した。
【0075】
セパレータの単位面積当たり質量は、実施例、比較例共通で、7.5g/m2とし、電解液の単位面積当たり質量は、実施例、比較例共通で、22.5g/m2とした。電池容器の単位面積当たり質量は、二次電池全体の質量における容器の質量割合が20%になる値とした。
【0076】
実施例1〜6の二次電池は、Li質量割合が5.0質量%以上であり、S質量割合が12質量%以上であり、Si質量割合が6質量%以上であることが、上記表2に示されている。
【0077】
質量容量密度(n)は、正負極一対基準容量(k)に、正負極活物質材料により決まる値である起電力(l)を乗じて得た値を、上述の正負極一対基準質量(h)で除して求めた。
【0078】
体積容量密度(o)は、正負極一対基準容量(k)に、正負極活物質材料により決まる値である起電力(l)を乗じて得た値を、正負極一対放電時膜厚(i)または正負極一対充電時膜厚(j)の厚い方の値で除して求めた。正負極一対放電時膜厚(i)、正負極一対充電時膜厚(j)は、放電時・充電時の正負極合計膜厚に、セパレータ膜厚、電池容器膜厚を加えて算出した。セパレータ膜厚は、実施例、比較例共通で、15μmとした。電池容器膜厚は、二次電池全体の厚さにおける容器の厚さ割合が5%になる値とした。
【0079】
図6に、質量容量密度(n)を横軸に、体積容量密度(o)を縦軸にしてプロットした結果を示す。
【0080】
図6を参照すると、実施例1〜6の二次電池は、400Wh/kg以上の質量容量密度と、700Wh/L以上の体積容量密度とを備えることがわかる。正負極空隙率が小さいほど、より高い体積容量密度を得ることができる。
【0081】
上記表1に示したとおり、実施例1〜6においては、正極および負極の充放電時の体積比が1.1以上であり、負極の体積比が1.9以上である。さらに、正極と負極との合計体積は、充放電時の比が1.2以下である。実施例1〜6では、正極および負極の体積比が1.1以上、正極または負極の体積比が1.9以上、正極と負極との合計体積の充放電時の比が1.2以下という条件を全て満たしている。
【0082】
実施例の二次電池は、上述したような体積比の条件を満たしていることに加えて、Li質量割合、S質量割合およびSi質量割合が比較例よりも高い。実施例の二次電池の高い容量密度は、こうした要件に起因するものである。
【0083】
比較例1〜5では、正極と負極との合計体積の充放電時の比が1.2以下であるものの、正極および負極のそれぞれの体積比が前述の条件を満たしていない。比較例1では、正極および負極は、充放電時の体積比が1.1未満である。比較例2、4では、正極の充放電時の体積比が1.1未満であり、比較例3では、負極の充放電時の体積比が1.1未満である。比較例5では、正極および負極の充放電時の体積比が1.9未満である。
【0084】
このため、比較例の二次電池では、400Wh/kg以上の質量容量密度と、700Wh/L以上の体積容量密度とを備えることができない。さらに、正負極空隙率が80%であること(比較例4)、正極および負極の少なくとも一方が金属箔を含むこと(比較例1〜3,5)、Li質量割合が5質量%未満であること(比較例1〜3)、S質量割合が12質量%未満であること(比較例1〜3,5)、Si質量割合が6質量%未満であること(比較例1〜3,5)も、容量密度を高めることができない理由の一つとなっている。
【符号の説明】
【0085】
10,10A,10B 電極構造体
12 セパレータ
20,20A,20B 正極
30,30A,30B 負極
図1
図2
図3
図4
図5
図6