特許第6860151号(P6860151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人 国立印刷局の特許一覧

特許6860151印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア
<>
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000007
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000008
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000009
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000010
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000011
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000012
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000013
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000014
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000015
  • 特許6860151-印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860151
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェア
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/32 20060101AFI20210405BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H04N1/32 144
   G06T1/00 500B
   G06T1/00 310Z
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-109103(P2018-109103)
(22)【出願日】2018年6月7日
(65)【公開番号】特開2019-213107(P2019-213107A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年9月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】内田 享佑
【審査官】 橘 高志
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4635160(JP,B2)
【文献】 特許第3689786(JP,B2)
【文献】 特許第3376406(JP,B2)
【文献】 特許第3946410(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0156733(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0011710(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/32
H04N 1/387
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の読取検査方法において、
前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得するステップと、
前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行うステップと、
前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行うステップと、
前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行うステップと、
前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行うステップと、
を備える印刷物の読取検査方法。
【請求項2】
前記潜像が含まれる領域を撮影して取得した前記画像データに対し、90度回転させた回転画像データを生成するステップをさらに備え、
前記一方向への平滑化処理、前記エッジを抽出する処理、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行うそれぞれのステップでは、前記潜像が含まれる領域を撮影して取得した前記画像データと前記回転画像データに対してそれぞれ並行して行い、前記画像表示を行うステップでは、2種類の画像表示を行うことを特徴とする請求項1に記載の印刷物の読取検査方法。
【請求項3】
前記潜像が含まれる領域を撮影して取得した前記画像データは、カラーの画像データであり、
カラーの前記画像データを白黒の画像データに変換するステップをさらに備え、
前記一方向への平滑化処理を行うステップでは、白黒の前記画像データに対して行い、
前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、明度補正処理を行うステップをさらに備え、
前記画像表示を行うステップでは、前記明度補正処理が行われた前記画像データを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷物の読取検査方法。
【請求項4】
前記印刷物が、前記一方向又は前記一方向に直交する方向に沿って画線又は網点が配列された位相変調型の潜像を有し、
前記エッジを抽出する処理では、前記画線又は網点の輪郭を強調することにより位相変調点を抽出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査方法。
【請求項5】
前記印刷物が、少なくとも1本の直線又は曲線状の画線模様において、潜像以外の画像を形成する領域の画線は実線で構成され、潜像を形成する領域の画線は少なくとも2本に分岐した画線で構成され、
前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査方法。
【請求項6】
前記印刷物が、一方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線と、前記一方向と異なる他方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線とを備え、印刷物を傾けて観察すると視認される画線と視認されない画線とが生じて潜像が観察され、
前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査方法。
【請求項7】
印刷物の読取検査装置において、
前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得する画像撮影部と、
前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行い、前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行い、前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行う画像処理部と、
前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行う画像表示部と、
少なくとも、前記画像撮影部が印刷物を撮影して取得した前記画像データと、前記画像処理部が前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行った前記画像データとを格納するデータ格納部と、
を備えることを特徴とする印刷物の読取検査装置。
【請求項8】
前記画像処理部は、前記画像撮影部が取得した前記画像データに対し、90度回転させた回転画像データを生成し、前記一方向への平滑化処理、前記エッジを抽出する処理、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行う際には、前記画像処理部が取得した前記画像データと前記回転画像データとに対してそれぞれ並行して行い、
前記画像表示部は、2種類の画像表示を行うことを特徴とする請求項7に記載の印刷物の読取検査装置。
【請求項9】
前記画像撮影部は、カラーの画像データを取得し、
前記画像処理部は、カラーの前記画像データを白黒の画像データに変換し、前記一方向への平滑化処理は、白黒の前記画像データに対して行い、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、明度補正処理を行い、
前記画像表示部は、前記明度補正処理が行われた前記画像データを用いることを特徴とする請求項7又は8に記載の印刷物の読取検査装置。
【請求項10】
前記印刷物が、前記一方向又は前記一方向に直交する方向に沿って画線又は網点が配列された位相変調型の潜像を有し、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線又は網点の輪郭を強調することにより位相変調点を抽出することを特徴とする請求項7から9までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査装置。
【請求項11】
前記印刷物が、少なくとも1本の直線又は曲線状の画線模様において、潜像以外の画像を形成する領域の画線は実線で構成され、潜像を形成する領域の画線は少なくとも2本に分岐した画線で構成され、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項7から9までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査装置。
【請求項12】
前記印刷物が、一方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線と、前記一方向と異なる他方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線とを備え、印刷物を傾けて観察すると視認される画線と視認されない画線とが生じて潜像が観察され、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項7から9までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査装置。
【請求項13】
印刷物の読取検査方法を、画像撮影部、画像処理部、画像表示部及びデータ格納部を備える印刷物の読取検査装置に実行させるための印刷物の読取検査用ソフトウェアにおいて、
前記画像撮影部によって、前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得するステップと、
前記画像処理部によって、前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行うステップと、
前記画像処理部によって、前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行うステップと、
前記画像処理部によって、前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行うステップと、
前記画像表示部によって、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行うステップと、
前記データ格納部によって、少なくとも、前記画像撮影部が印刷物を撮影して取得した前記画像データと、前記画像処理部が前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行った前記画像データとを格納するステップと、
を備えることを特徴とする印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【請求項14】
前記画像処理部は、前記画像撮影部が取得した前記画像データに対し、90度回転させた回転画像データを生成し、前記一方向への平滑化処理、前記エッジを抽出する処理、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行う際には、前記画像処理部が取得した前記画像データと前記回転画像データとに対してそれぞれ並行して行い、
前記画像表示部は、2種類の画像表示を行うことを特徴とする請求項13に記載の印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【請求項15】
前記画像撮影部は、カラーの画像データを取得し、
前記画像処理部は、カラーの前記画像データを白黒の画像データに変換し、前記一方向への平滑化処理は、白黒の前記画像データに対して行い、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、明度補正処理を行い、
前記画像表示部は、前記明度補正処理が行われた前記画像データを用いることを特徴とする請求項13又は14に記載の印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【請求項16】
前記印刷物が、前記一方向又は前記一方向に直交する方向に沿って画線又は網点が配列された位相変調型の潜像を有し、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線又は網点の輪郭を強調することにより位相変調点を抽出することを特徴とする請求項13から15までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【請求項17】
前記印刷物が、少なくとも1本の直線又は曲線状の画線模様において、潜像以外の画像を形成する領域の画線は実線で構成され、潜像を形成する領域の画線は少なくとも2本に分岐した画線で構成され、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項13から15までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【請求項18】
前記印刷物が、一方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線と、前記一方向と異なる他方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線とを備え、印刷物を傾けて観察すると視認される画線と視認されない画線とが生じて潜像が観察され、
前記画像処理部が前記エッジを抽出する処理では、前記画線の輪郭を強調することで前記エッジを抽出することを特徴とする請求項13から15までのいずれか一項に記載の印刷物の読取検査用ソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の読取検査方法及びその装置、並びに印刷物の読取検査用ソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国では、特殊詐欺やそれらを助長する不正な預金口座の開設といった、なりすましによる犯罪被害額が過去最高水準を示し、国民の安心・安全な生活が脅かされている。この課題を解決するため、犯罪収益移転防止法の改正による特定の民間取引での本人確認の厳格化が進められており、また、公的個人認証サービス(JPKI)に代表されるオンライン上での個人認証基盤を活用したサービスの普及促進がなされることで、対面・非対面を問わない確実な本人確認が可能となり、なりすまし被害が低減することが期待されている。
【0003】
しかしながら、なりすまし行為を働く者は、あまたに存在する本人確認プロセスの中からぜい弱性を見いだして攻撃を仕掛け続けるため、予断が許されない状況であることには変わりはない。特に、電子署名を用いない非対面取引では、本人確認書類の原本ではなく写しや撮影画像が用いられるため、偽変造品であるか否かの判別精度が低下し、高い危険性を有することが指摘されている。
【0004】
本人確認書類とは、公的機関から発行された免許証等を指し、それらの有する公証力や帰属性をよりどころとして、申請者の実在性(架空の人物でないこと)と同一性(他人のなりすましでないこと)を確認する資料である。帰属性は、一概に、本人確認書類上に顔写真を有するものが高いとされており、偽変造への抵抗力については、よりどころとなっていない。その上、偽変造に対し十分な対策がなされた本人確認書類であっても、それらの写しや撮影画像においては偽変造対策機能が消失してしまうために、本人確認書類自体の真正性は保証が困難な状況となっている。
【0005】
偽変造対策技術として、本願の出願人は、例えば、第1の方向に沿って、中心を境に対向するように配置された第1の画線及び第2の画線と、第1の方向と直交する第2の方向に沿って、中心を境に対向するように配置された第3の画線及び第4の画線とを有する画線要素が、一定のピッチで複数マトリクス状に配置されており、各々の画線要素における第1の画線と第2の画線、第3の画線と第4の画線は、ネガポジの関係にあり、第1の画線又は第2の画線により第1の不可視画像が形成され、第3の画線又は第4の画線により第2の不可視画像が形成されることを特徴とする偽造防止用印刷物を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
さらに、本出願人は、他に、直線又は曲線状の1本又は複数の直線又は曲線からなる画線模様を、潜像を施さない部分の画線は実線で、潜像を施した部分の画線は基本線方向を基準として等距離により複数に分岐し、複数に分岐した画線がそれぞれ一定の間隔で配列された形状の画線から成る定周期断絶線で構成した印刷物において、潜像を施した部分の画線は基本線方向に複数に分岐した画線部と非画線部から成る一周期に相当する部分の画線面積の総和が、潜像を施さない部分の実線のうち、潜像部における画線部と非画線部から成る一周期と同一の長さに相当する部分の画線面積と等しくすることにより、複写すると非視認性となり、複写前に視認される画像を構成する画線は、潜像部における画線部と非画線部から成る一周期と同一の長さに相当する部分の画線面積より大きくするといった印刷物を出願している(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、偽変造対策技術の読取検査を行う方法として、本出願人は、複写防止模様を光学式画像入力装置で画像として入力し、入力して得た画像信号を2値化し、2値化した画像の収縮により、入力画像上の潜像を施した部分の画線が対応する画素群の除去を図る画像処理部と、画像処理部で得られた潜像を施さない部分の画線に対応した位置に残存する2値画像形状を認識、又は比較、照合することにより真偽を判定する画像判定部と、画像判定部で判定された結果を表示する表示部よりなる読取検査方法及び装置を出願している(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
ただ、これらの読取検査に際しては様々な課題が存在し、読取精度の向上や高画質な画像抽出が求められている。それらの課題を解決するための画像処理技術は多数出願されており、例えば、入力した画像の特徴を識別し、この識別結果に応じて画像の特徴量を算出し、算出した特徴量によって入力した画像信号に適応的に空間フィルタ処理を行うようにし、更には入力した原稿に白地上文字画像や網点画像や銀塩写真等の連続階調画像が混在していても、各画像に最適となるように特徴量であるエッジ量を算出してエッジ強調の強さを変更することにより、入力した画像と違和感のない高画質な画像を形成することができる技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4635160号公報
【特許文献2】特許第3689786号公報
【特許文献3】特許第3376406号公報
【特許文献4】特許第3946410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、引用文献1及び2に挙げたような偽変造対策技術に対しては、判別具を適切に用いて人間の目で確認したり、観察角度を適切な角度に変えて人間の目で確認したり、複写したり、それぞれの観察条件が求められており、更に視認性の良否に個人差が生じる可能性があり、視認条件に課題が残されていた。
【0011】
さらに、偽変造対策技術を本人確認書類に利用した場合、潜像に対して対面又は非対面を問わず、簡易でより確実に潜像が読み取れることが求められていた。
【0012】
本発明は上述した事情に鑑み、簡易でより確実な潜像の読取りが可能な印刷物の読取検査方法及びその装置並びに印刷物の読取検査用ソフトウェアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の印刷物の読取検査方法は、前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得するステップと、前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行うステップと、前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行うステップと、前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行うステップと、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行うステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の印刷物の読取検査装置は、前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得する画像撮影部と、前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行い、前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行い、前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行う画像処理部と、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行う画像表示部と、少なくとも、前記画像撮影部が印刷物を撮影して取得した前記画像データと、前記画像処理部が前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行った前記画像データとを格納するデータ格納部とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の印刷物の読取検査方法を、画像撮影部、画像処理部、画像表示部及びデータ格納部を備える印刷物の読取検査装置に実行させるための印刷物の読取検査用ソフトウェアは、前記画像撮影部によって、前記印刷物が有する潜像が含まれる領域を撮影して画像データを取得するステップと、前記画像処理部によって、前記画像データに対し、一方向への平滑化処理を行うステップと、前記画像処理部によって、前記一方向への平滑化処理が行われた前記画像データに対し、エッジを抽出する処理を行うステップと、前記画像処理部によって、前記エッジを抽出する処理が行われた前記画像データに対し、前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行うステップと、前記画像表示部によって、前記一方向に直交する方向への平滑化処理が行われた前記画像データを用いて画像表示を行うステップと、前記データ格納部によって、少なくとも、前記画像撮影部が印刷物を撮影して取得した前記画像データと、前記画像処理部が前記一方向に直交する方向への平滑化処理を行った前記画像データとを格納するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の印刷物の読取検査方法及びその装置並びに印刷物の読取検査用ソフトウェアによれば、対面・非対面を問わず、簡易でより確実な潜像の読取りが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態による印刷物の読取検査装置の構成を示すブロック図。
図2】同実施の形態による印刷物の読取検査方法の構成を示すフローチャート。
図3】同印刷物の読取検査装置及び方法において、読取対象とする潜像の一例としての位相変調型の潜像を備える印刷物の一例を示す説明図。
図4】位相変調型の潜像を備える印刷物上にレンチキュラーレンズを載置して読み取った潜像画像を示す説明図。
図5図3に示された印刷物に含まれる位相変調型の潜像に対し、エッジの抽出処理を行うことにより取得される情報を示した説明図。
図6図3に示された印刷物に対してx次元平滑化処理を行い、x方向に沿って同位相を形成する画線同士を連結させた画像を示した説明図。
図7図6に示されたx次元平滑化処理が施された画像に対し、エッジ抽出処理を行った画像を示した説明図。
図8図7に示されたエッジ抽出処理が施された画像に対し、y次元平滑化処理を行った画像を示した説明図。
図9図8に示されたy次元平滑化処理が施された画像に対し、明度補正を行った画像を示した説明図。
図10図3に示されたような印刷物を肉眼で観察した場合に視認される状態を示した説明図、及び図9に示されたような一連の処理が施された画像を肉眼で観察した場合に視認される状態を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0019】
本実施の形態による印刷物の読取検査装置は、図1に示されたように、画像撮影部10、画像処理部20、データ格納部30、画像表示部40を備えている。
【0020】
画像撮影部10はカメラを含み、印刷物上に形成された潜像が含まれる領域を撮影して画像データを生成し出力する。
【0021】
画像処理部20は、画像撮影部10から出力された画像データを与えられ、後述する処理を行う。
【0022】
データ格納部30は、画像撮影部10から出力された画像データ、画像処理部20により処理された画像データを与えられて格納し、必要に応じて格納したデータを画像処理部20に出力する。
【0023】
画像表示部40はモニタ用の画面を有し、画像処理部20から出力されたデータを与えられて、潜像等の画像や、真偽判別結果等の処理結果を表示する。
【0024】
本実施の形態による印刷物の読取検査方法は、上述した印刷物の読取検査装置を用いて潜像の読取検査を行うもので、図2に示されたように以下のステップを備えている。
【0025】
ステップS10において、画像撮影部10に含まれるカメラを起動する。
【0026】
ステップS12において、画像撮影部10のカメラにより、印刷物上に形成された潜像が含まれる領域を撮影し、画像データを取得する。画像撮影部10から、画像データが出力される。
【0027】
画像撮影部10から出力された画像データを与えられた画像処理部20は、以下のステップS14、S16、S18、S20、S22及びS24において、所定の画像処理を行う。
【0028】
まず、ステップS14において、画像撮影部10により撮影され与えられた画像データを90度回転する。
【0029】
ステップS16において、90度回転していない元の画像(以下「非回転画像」という。)と、90度回転された画像(以下「回転画像」という。)に対し、それぞれ例えば24ビットのカラーの画像データを、例えば8ビットの白黒の画像データへカラー/白黒変換を行う。この処理は、以降の処理の負荷を低減するために行う。
【0030】
ステップS18において、8ビットの白黒の非回転画像及び回転画像を含む画像データに対して、一方向として例えばx方向に沿うx次元平滑化処理を行う。
【0031】
ステップS20において、x次元平滑化処理が施された画像データにおいて、位相変調点を抽出する。
【0032】
ステップS22において、一方向と異なる他方向として、例えばx方向と直交するy方向に沿うy次元平滑化処理を行う。
【0033】
ステップS24において、y次元平滑化処理が施された画像データに対して明度補正処理を行う。
【0034】
ステップS26において、明度補正処理が施された画像データが画像処理部20から出力される。この画像データには、非回転画像と回転画像にそれぞれ処理を施した2種類の画像が含まれており、この画像データを与えられた画像表示部40は、画像表示部40に含まれるモニタ用の画面に2種類の画像を表示する。
【0035】
ステップS28において、画像処理部20は読取検査対象の潜像を全て読み取ったか否かを判断する。まだ読み取っていない潜像が存在する場合は、上記ステップS12に戻り、ステップS12〜S26の処理を同様に行う。全ての潜像を読み取った場合は、ステップS30へ移行する。
【0036】
ステップS30において、カメラの動作を停止して読取検査処理を終了する。
【0037】
ここで、本実施の形態で読み取ることが可能な潜像は、画線又は網点で構成され、画線又は網点の輪郭を強調することにより、変化点(エッジ)を抽出して情報を読み取ることが可能な画像が幅広く含まれる。
【0038】
そのような潜像の一例として位相変調型の潜像について、図3を用いて説明する。
【0039】
位相変調型の潜像は、図3に示されたように、一定周期で異なる位相で形成された直線状の画線により構成されている。このような潜像に対し、シート上に一定周期で凸状に微細半円筒型が配列されたレンチキュラーレンズ等の判別具を、潜像の周期と一致するように重ね合わせることで、図4に示されたように潜像画像としての潜像を発現させることができる。
【0040】
しかしながら、カメラにより撮影されモニタ画面に表示された潜像に対してレンチキュラーレンズ等の判別具を載置することは現実的ではなく、また撮影された潜像の周期は一定ではないためレンチキュラーレンズの周期と一致せず読み取ることができない場合が多い。
【0041】
本実施の形態による印刷物の読取検査方法及び装置によれば、撮影された印刷物に対し、それぞれ上記ステップS14〜S24におけるカラー(24ビット)/白黒(8ビット)変換処理、x次元平滑化処理、位相変調点抽出処理、y次元平滑化処理、明度補正処理を行うことで、潜像を読み取ることが可能である。
【0042】
位相変調型の潜像において、位相の変調点、すなわち位相が変わる位置は、画線が配列されている一方向において画線の連続性が途切れる位置、すなわち、画像中の明度の変化率が局所的に最大値となる位置(以下「エッジ」という。)である。図3に示された潜像では、図中横方向において画線の連続性が途切れて位相が変調する箇所がエッジに対応する。
【0043】
このような潜像に対し、以下の(1)式で示されるように明度関数l(x)を一次微分することにより、エッジの位置の特定及び抽出を行って図5に示されるような画像を取得することができる。
【0044】
【数1】
【0045】
ここで、Nは近傍であり、xは位相変調点の位置を示す。
【0046】
しかしながら、小型デジタルカメラやスマートフォン等により撮影された画像には、多くのノイズが含まれている場合が多い。そこで、上述した一次微分によるエッジの抽出処理のみを行ったのでは、潜像の読取りが困難である場合が考えられる。
【0047】
そこで、一次微分によるエッジ抽出処理の前後に、ノイズ低減を目的とした空間フィルタ処理を行う。
【0048】
空間フィルタ処理には、様々な手法が存在する。本実施の形態による印刷物の読取検査方法及びその装置では、最終的な潜像の読取りやすさを考慮し、以下のような処理要件を設定した。
【0049】
1)エッジ抽出処理の前に行う空間フィルタ処理は、この後のエッジ抽出処理により位相変調点以外の情報が抽出されることを抑制することにより、位相変調点のみを確実に抽出できるようにするものであること。
【0050】
2)エッジ抽出処理の後に行う空間フィルタ処理は、この前に行ったエッジ抽出処理による抽出された情報において、エッジに関する情報に極力影響を及ぼすことなく、エッジ以外の不要な情報をできるだけ除去するものであること。
【0051】
上記1)の処理要件を満たすためには、位相変調点以外に発生するエッジの除去が不可欠である。
【0052】
ところで、図3に示されたような画線構成では、その構成上、同位相を形成する画線であっても連続する一直線ではなく、分断線の形態をとる。すなわち、同位相を形成する一方向に沿う一次元上においても、画線が分断する随所においてエッジが発生する構成となっている。
【0053】
このため、同位相を形成する画線に対して、一方向に沿ってフィルタリングを行って画線の両端にぼけ足を伸張し、画線同士を連結させることによって不要なエッジを除去し、抽出したい位相変調点のみでエッジが発生するように処理することで、ノイズを抑制することができる。なお、このフィルタリングを行ってもx方向と直交するy方向の情報には変化は生じない。
【0054】
ただし、画像撮影部10により撮影されて取得された画像データには、画線が配列されている方向がx方向のみならずy方向である場合がある。このような場合に、一括してx方向に沿うx次元平滑処理を行うと、潜像を構成する画線に影響を与えて読取りが困難となる。そこで本実施の形態では、90度回転した回転画像と非回転画像の2種類の画像に対し、並行して上記画像処理を行いモニタ用の画面に2種類の画像を表示することとしている。以下の説明では、x方向に沿って画線が配列されている画像に処理を行うものとする。
【0055】
図6に、x次元平滑化処理を行い、x方向に沿って同位相を形成する画線同士を連結させた画像を示す。
【0056】
しかしながら、x次元平滑化処理を行う際に、x方向に沿って画線の両端に生じたぼけ足が伸長しすぎると、潜像構成領域への干渉が想定される。そこで、フィルタの重み付けを調整する必要がある。
【0057】
重みの算出には、以下の数式(2)のように例えばガウシアン(Gaussian)関数を用い、カーネル(Kernel)幅(一次元x )及び重みの標準偏差σを調整要素とする。
【0058】
【数2】
【0059】
x次元平滑化処理後に、エッジ抽出処理を行う。上記数式(1)を用いてエッジの位置の特定及び抽出を行う。
【0060】
あるいは、以下の数式(3)で示されたソーベルフィルタ等のエッジ強調フィルタを用いてエッジ抽出処理を行うこともできる。
【0061】
【数3】
【0062】
エッジ抽出処理を行った後の画像は、図7に示すとおりである。
【0063】
エッジ抽出処理を行った段階においては、本来必要な位相変調点以外に随所で細かなエッジが抽出される。また、潜像以外の画像に含まれていた画線が残存し、潜像の視認性の妨げになることが考えられる。特に、エッジ抽出処理を行う前にx次元平滑化処理を行ったことで、y方向に沿ってエッジが形成されている。
【0064】
そこで、上記2)の処理要件を満たすフィルタ空間処理として、以下の数式(4)で表されるy次元平滑化処理を行うことで、不要なノイズを除去する必要がある。
【0065】
【数4】

(4)

【0066】
ここで、重みの算出は、上記数式(1)で表されるx次元平滑化処理と同様にガウシアン関数を用い、カーネル幅(y方向の一次元)と重みの標準偏差σとを調整要素とする。
【0067】
y次元平滑化処理を行った後の画像は、図8に示すとおりである。
【0068】
y次元平滑化処理を行った後の画像信号を、画像表示部40に出力してモニタ画面上に表示しようとしても、所望の画面の明るさやコントラストが得られないことが多い。
【0069】
そこで、モニタの特性を考慮して、明度補正として例えば以下の数式(5)で示されるようなガンマ補正を行うことが望ましい。
【0070】
【数5】
【0071】
ここで、γの値は任意とする。
【0072】
明度補正(ガンマ補正)を行った後の画像は、図9に示すとおりである。
【0073】
また、画像を肉眼で観察すると、処理を行う前では図10(a)に示されるように視認され、一連の処理により潜像を抽出した画像は、図10(b)に示されるように、潜像を明確に読み取ることができる。
【0074】
本実施の形態による印刷物の読取検査用ソフトウェアは、本実施の形態による印刷物の読取検査方法を、本実施の形態による印刷物の読取検査装置に実行させるものであり、例えば印刷物の読取検査装置として動作するコンピュータに本実施の形態による印刷物の読取検査方法を実行させるものであってもよい。
【0075】
本実施の形態によれば、撮影された潜像を簡易な操作により容易に読み取ることができるので、対面又は非対面を問わず、簡易で信頼性の高い本人確認が可能である。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態は例として提示したものであり、発明の技術的範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の技術的範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0077】
上述した実施の形態では、位相変調型の潜像を読み取る場合を例にとって説明しており、位相変調点を抽出することで読取りを行っている。しかし、上述した実施の形態で読み取ることが可能な潜像は、位相変調型には限られず、潜像を構成する画線又は網点の変化点(エッジ)を抽出することにより読み取ることができるものに対して、幅広く適用が可能である。
【0078】
例えば、上述した特許文献2に記載された、直線又は曲線状の1本又は複数の直線又は曲線から成る画線模様を、潜像以外の画像として例えば顕像を施した部分の画線は実線で、潜像を施した部分の画線は基本線方向を基準として等距離により複数に分岐し、複数に分岐した画線がそれぞれ一定の間隔で配列された形状の画線から成る定周期断絶線で構成した印刷物において、潜像を施した部分の画線は基本線方向に複数に分岐した画線部と非画線部から成る一周期に相当する部分の画線面積の総和が、顕像を施した部分の実線のうち、潜像部における画線部と非画線部から成る一周期と同一の長さに相当する部分の画線面積と等しくすることにより、複写すると非視認性となり、複写前に視認される画像を構成する画線は、潜像部における画線部と非画線部から成る一周期と同一の長さに相当する部分の画線面積より大きくするという潜像に対しても、画線の輪郭を強調することで変化点(エッジ)を抽出し読み取ることが可能である。
【0079】
同様に、上述した特許文献3に記載された、曲画線の集合模様を、一本線の画線で潜像以外の画像として例えば顕像を描く部分と、少なくとも二本線の画線で潜像を描く部分とで表現し、潜像を描く画線は画線幅の合計値が顕像を描く一本線の画線幅と同一であり、かつ、この一本線から潜像を描く画線が分岐する構成を備え、複写した場合に潜像を描く画線が消滅することで不正な複写を防止するという印刷物に対しても、画線の輪郭を強調することで変化点(エッジ)を抽出し読み取ることが可能である。
【0080】
また、一方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線と、一方向と異なる他方向に沿って配列され盛り上がりを有する複数の画線により構成され、印刷物を傾けて観察することで視認される画線と、他の画線に隠れて視認されない画線とが生じることにより潜像が観察される印刷物に対しても、同様に画線の輪郭を強調することで変化点(エッジ)を抽出し読み取ることが可能である。
【0081】
また、上述した実施の形態では、潜像を構成する画線の配列方向がx方向、y方向のいずれであるか不明である場合を想定し、90度回転した回転画像と非回転画像とに対して並行して画像処理を行っている。しかしながら、必ずしも2種類の画像に対して処理を行う必要はなく、特に画線の配列方向があらかじめ定められている場合は1種類の画像に対してのみ処理を行ってよい。
【符号の説明】
【0082】
10 画像撮影部
20 画像処理部
30 データ格納部
40 画像表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10