特許第6860174号(P6860174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860174触媒担持体及び繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860174
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】触媒担持体及び繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/745 20060101AFI20210405BHJP
   B01J 37/025 20060101ALI20210405BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20210405BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20210405BHJP
   B01J 23/90 20060101ALI20210405BHJP
   B01J 38/12 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B01J23/745 M
   B01J37/025
   B01J35/10 301J
   C01B32/162
   B01J23/90 M
   B01J38/12 Z
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-501644(P2018-501644)
(86)(22)【出願日】2017年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2017005989
(87)【国際公開番号】WO2017145950
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-36477(P2016-36477)
(32)【優先日】2016年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】川端 孝祐
(72)【発明者】
【氏名】本郷 孝剛
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0072505(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/001709(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/030821(WO,A1)
【文献】 特開2008−056523(JP,A)
【文献】 特開2010−030887(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 32/00 − 32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の支持体と、前記支持体の外側に形成された複合層積層体と、を備え、
前記複合層積層体は、n層の複合層からなり、前記nは2以上の整数であり、
前記複合層積層体を構成する前記複合層のそれぞれは、繊維状炭素ナノ構造体の合成に寄与する触媒を含有する触媒部と、金属化合物を含有する金属化合物部と、を有するとともに、相互に隣接する前記複合層の面の組成及び性状の少なくとも一方が相異なっており
前記支持体は、ムライトであり、
前記支持体の体積平均粒子径は、50μm以上400μm以下である、触媒担持体。
【請求項2】
前記金属化合物部が、Alを10質量%以上含む、請求項1に記載の触媒担持体。
【請求項3】
前記触媒部が、少なくともFe、Co、Niのいずれかの金属を含む、請求項1または2に記載の触媒担持体。
【請求項4】
前記複合層積層体を構成する前記複合層が、層状の前記金属化合物部である金属化合物層、層状の前記触媒部である触媒層、及び/又は前記金属化合物と前記触媒とが共存する混合層を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担持体。
【請求項5】
前記複合層に含まれる触媒の触媒金属換算厚みが、複合層1層あたり0.1nm以上10nm以下である、請求項4に記載の触媒担持体。
【請求項6】
前記複合層に含まれる金属化合物の金属化合物換算厚みが、複合層1層あたり1nm以上1μm以下である、請求項4又は5に記載の触媒担持体。
【請求項7】
前記nが5以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒担持体。
【請求項8】
比表面積が1m2/g以下である、請求項1〜7の何れかに記載の触媒担持体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒担持体上に繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程と、前記繊維状炭素ナノ構造体を前記触媒担持体から剥離する剥離工程と、を含む、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項10】
前記剥離工程を経た前記触媒担持体に対して触媒担持体再生処理を施す触媒担持体再生工程を含む、請求項9に記載の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項11】
前記触媒担持体再生工程は、
前記触媒担持体の表面を酸化させて再利用触媒担持体を得る工程と、
前記再利用触媒担持体の表面上に、前記金属化合物部および前記触媒部を含む前記複合層を形成する触媒再担持工程と、
を含む、請求項10に記載の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒担持体と、
前記触媒担持体上に形成された繊維状炭素ナノ構造体と、を有する、
繊維状炭素ナノ構造体付き触媒担持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担持体及び繊維状炭素ナノ構造体の製造方法に関するものであり、特には、粒子状の触媒担持体及びかかる触媒担持体を用いて繊維状炭素ナノ構造体を製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる材料として、繊維状炭素材料、特にはカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)等の繊維状炭素ナノ構造体が注目されている。CNTは、炭素原子により構成される筒状グラフェンシートからなり、その直径はナノメートルオーダーである。
【0003】
ここで、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体は、概して、製造コストが高いため他の材料よりも高価であった。このため、上述したような優れた特性を有するにもかかわらず、その用途は限られていた。さらに、近年、比較的高効率でCNT等を製造することができる製造方法として、触媒を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法(以下、「触媒CVD法」と称することがある)が用いられてきた。しかし、触媒CVD法でも、製造コストを十分に低減することができなかった。
【0004】
そこで、基板の代わりに多孔質粒子や、セラミックビーズなどを支持体として用いて、かかる支持体の上に触媒担体層が形成され、触媒担体層により触媒が担持された構成を有する触媒担持体により流動層を形成して、CNTを合成するCNT製造方法が開発されてきた(例えば、特許文献1参照)。具体的には、特許文献1では、支持体としてアルミナビーズを用い、アルミナビーズ上にAlにより触媒担体層を形成し、かかる触媒担体層上にFe触媒を担持させることにより形成した触媒担持体により流動層を形成してCNTを合成する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/110591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述したように、CNT製造方法では、製造コストを低減することが求められている。そのための方途として、例えば、触媒CVD法では、触媒担持体を繰り返し使用することが考えられる。しかし、触媒担持体を繰り返し使用するにあたり、触媒担持体自体が劣化してCNT製造に用いた際に破損して不純物として得られるCNTに混入する虞があった。また、アルミナビーズは比較的高価であった。さらには、比較的硬度の高いアルミナにより形成されたアルミナビーズを支持体として用いて形成した触媒担持体を用いてCNT製造装置内で流動層を形成してCNTを合成すれば、かかる触媒担持体を繰り返し使用することで、CNT製造装置が少しずつ摩耗される虞があった。そして、CNT製造装置が摩耗されつづければ、最終的に装置が故障するだけではなく、得られるCNTに装置の摩耗片等の不純物が混入する虞があった。このため、従来のCNT製造方法では、CNT製造効率及び得られるCNTの品質に改善の余地があった。
【0007】
そこで、本願発明は、高品質の繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができる触媒担持体及びかかる触媒担持体を用いた繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。ここで、上述したような、比較的高硬度の支持体を用いて形成した触媒担持体に起因して生じる製造装置の摩耗によるCNT品質低下の問題に対し、比較的低硬度の支持体を使用することで、製造装置の摩耗を抑制することも考えられる。しかし、本発明者らがさらに検討を行ったところ、支持体の硬度が低すぎれば、かかる支持体を用いて形成された触媒担持体を繰り返し使用することで、触媒担持体に摩耗や欠損が生じて、CNTに触媒担持体由来の不純物が混入し、また触媒担持体が破砕されるので再利用もできないという問題が生じることが明らかとなった。そこで、本発明者らは、特定の組成を有する支持体を含んで形成された特定構造の触媒担持体により、流動層を形成して繊維状炭素ナノ構造体を製造することで、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率及び得られる繊維状炭素ナノ構造体の品質をバランスよく向上させうることを見出し、本願発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の触媒担持体は、粒子状の支持体と、前記支持体の外側に形成された複合層積層体と、を備え、前記複合層積層体は、n層の複合層からなり、前記nは2以上の整数であり、前記複合層積層体を構成する前記複合層のそれぞれは、触媒を含有する触媒部と、金属化合物を含有する金属化合物部と、を有し、前記支持体は、AlとSiとをそれぞれ10質量%以上含み、前記支持体の体積平均粒子径は、50μm以上400μm以下であることを特徴とする。このように、体積平均粒子径が50μm以上400μm以下であるとともに、AlとSiとをそれぞれ10質量%以上含む支持体の外側に、触媒部と、金属化合物部とを持つ複合層を2層以上備える触媒担持体は、高品質の繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができる。
ここで、本発明において、「粒子状」とは、アスペクト比が5未満であることをいう。例えば、粒子の顕微鏡像上で、任意に選択した複数個の粒子について(最大長径/最大長径に直交する幅)の値を算出し、その平均値を対象とする粒子のアスペクト比とすることができる。
また、本発明において、複合層の層数は、電子顕微鏡により断面観察することや、Ar+イオンでスパッタリングしながらX線光電子分光法で組成分析をすることで確認することができる。
また、本発明において、「支持体の体積平均粒子径」は、例えば、JIS Z8825等に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を表す。
【0010】
また、本発明の触媒担持体は、前記金属化合物部が、Alを10質量%以上含むことが好ましい。複合層の金属化合物部がAlを10質量%以上含有すれば、触媒担持体としての性能を一層向上させることができる。
【0011】
また、本発明の触媒担持体は、前記触媒部が、少なくともFe、Co、Niのいずれかの金属を含む、ことが好ましい。触媒部がFe、Co、及びNiのいずれかを含むことにより触媒担持体としての性能を一層向上させることができる。
【0012】
また、本発明の触媒担持体は、前記複合層積層体を構成する前記複合層が、層状の前記金属化合物部である金属化合物層、層状の前記触媒部である触媒層、及び/又は前記金属化合物と前記触媒とが共存する混合層(単層)を含むことが好ましい。触媒担持体としての性能を一層向上させることができるからである。
【0013】
また、本発明の触媒担持体は、前記複合層に含まれる触媒の触媒金属換算厚みが、複合層1層あたり0.1nm以上10nm以下である、ことが好ましい。触媒金属換算厚みがかかる範囲内であれば、触媒担持体としての性能を一層向上させることができる。
なお、本発明において、「触媒金属換算厚み」は、1つの複合層の単位面積あたりの触媒金属の量がa(g/cm)、触媒金属の真密度がb(g/cm)の場合、両者の比a/b(cm)=10a/b(nm)が「触媒金属換算厚み」となる。かかる厚みは、例えば、触媒担持体を走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散X線分光装置で特性X線強度を測定し、得られた特性X線強度測定値を予め得た検量線と比較し、更に複合層の数nで除して得られる値である。かかる値は、触媒担持体を構成する全ての触媒の触媒金属換算厚みの1層あたりの平均値である。なお、検量線としては、触媒金属の標準板を用いて得た検量線を用いることができる。
【0014】
また、本発明の触媒担持体は、前記複合層に含まれる金属化合物の金属化合物換算厚みが、複合層1層あたり1nm以上1μm以下である、ことが好ましい。金属化合物換算厚みがかかる範囲内であれば、触媒担持体としての性能を一層向上させることができる。
なお、本発明において、「金属化合物換算厚み」は、1つの複合層の単位面積あたりの金属化合物の量がc(g/cm)、金属化合物の真密度がd(g/cm)の場合、両者の比c/d(cm)=10c/d(nm)が「金属化合物換算厚み」となる。そして、かかる厚みも、上述した「触媒金属換算厚み」と同様にして決定することができる。
【0015】
さらに、本発明の触媒担持体は、複合層を、5層以上備えることが好ましい。複合層を5層以上備える触媒担持体は触媒活性に優れる。
【0016】
さらに、本発明の触媒担持体は、比表面積が1m/g以下であることが好ましい。触媒担持体の比表面積が1m/g以下であれば、触媒担持体から繊維状炭素ナノ構造体を容易に分離できる。
なお、本発明において、触媒担持体の比表面積は、BET法を用いて測定することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、上述した触媒担持体上に繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程と、前記繊維状炭素ナノ構造体を前記触媒担持体から剥離する剥離工程と、を含む、ことを特徴とする。このように、上述した触媒担持体にて繊維状炭素ナノ構造体を合成し、かかる触媒担持体から剥離すれば、高効率で高品質の繊維状炭素ナノ構造体が得られる。
【0018】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、前記剥離工程を経た前記触媒担持体に対して触媒担持体再生処理を施す触媒担持体再生工程を含むことが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層向上することができるからである。
【0019】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法において、前記触媒担持体再生工程は、前記触媒担持体の表面を酸化させて再利用触媒担持体を得る工程と、前記再利用触媒担持体の前記表面上に、前記金属化合物部および前記触媒部を含む前記複合層を形成する触媒再担持工程と、を含むことが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の製造効率をより一層向上することができるからである。
【0020】
また、本発明の触媒担持体は、表面に繊維状炭素ナノ構造体を有することがある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高品質の繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができる触媒担持体を提供することができる。
更に、高品質の繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】表面にCNTを有する触媒担持体のSEM(走査型電子顕微鏡)画像。
図2】CNT合成前の触媒担持体表面のSEM画像。
図3】ケイ砂を支持体として形成した触媒担持体のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の触媒担持体は、固定層、流動層、移動層を形成して繊維状ナノ構造体を製造するために用いることができる。また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、本発明の触媒担持体により形成した固定層、流動層、移動層を用いたことを特徴とするものである。なお。本明細書において、「繊維状炭素ナノ構造体」は、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバー等を含む。
【0024】
本発明の触媒担持体は、粒子状の支持体と、支持体の外側に形成された2層以上の複合層とを備え、該複合層は触媒部と金属化合物部を備える。そして、本発明の触媒担持体は、支持体が、AlとSiとをそれぞれ10質量%以上含む材料により形成され、体積平均粒子径が50μm以上400μm以下であることを特徴とする。
【0025】
触媒担持体は、かかる触媒担持体を用いて固定層、流動層、又は移動層を形成し、炭素源を含む原料ガスを供給して所定の合成条件とした際に、担持した触媒上に繊維状炭素ナノ構造体を成長させうる物質である。
【0026】
<支持体>
支持体は、複合層をその外側に形成しうる粒子である。ここで、「外側に形成する」とは、支持体の外表面に直接形成することだけでなく、支持体の外表面上に、例えば、任意で複合層形成補助層等の下地層を形成して、かかる下地層上に複合層を生成する構成も含む。なお、複合層形成補助層とは、複合層と支持体との間の密着性を向上させたり、複合層形成反応を促進したりするための層であり、各種の金属の酸化物、窒化物、炭化物やそれらの複合材料により形成されうる。
【0027】
[支持体材料]
支持体の材料は、AlとSiとをそれぞれ10質量%以上含むことが必要である。AlとSiをそれぞれ10質量%以上含む材料が本発明にかかる触媒担持体の支持体として好適である理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。すなわち、Al成分が多いと支持体の密度と硬度が増大し装置壁の摩耗の問題が生じ、SiO成分が多いと支持体の硬度が低下し支持体が破損する。支持体が上記のような組成を有すれば、支持体の硬度や弾性が適度となり、さらには支持体のかさ密度が流動性に適した値となることで、繊維状炭素ナノ構造体の製造時に製造装置の摩耗を抑制するとともに、良好な流動性を発揮することができ、結果的に繊維状炭素ナノ構造体の品質及び生産効率を高いレベルで両立することができると推察される。さらに、支持体の材料は、Alを20質量%以上含むことがより好ましく、30質量%以上含むことがさらに好ましい。さらにまた、支持体の材料は、Siを12質量%以上含むことがより好ましく、Siを15質量%以上含むことが更に好ましい。そして、AlとSiとの比率は、質量基準で、(Al/Si)の値が0.3以上となることが好ましく、1以上となることがより好ましく、1.5以上となることが更に好ましく、5以下となることが好ましく、3以下となることがより好ましく、2.5以下となることが更に好ましい。得られる繊維状炭素ナノ構造体の品質及び生産効率を一層向上させることができるからである。
【0028】
かかる組成を有する材料としては、例えば、一般式xM2O・yAl23・zSiO2・nH2O[式中、Mは金属原子であり、x〜z、nは各成分のモル数を表す]で表されるアルミノケイ酸塩が挙げられる。かかる材料としては、例えば、ムライトや、各種ゼオライト等が挙げられる。特に、支持体材料としては、ムライトが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層高めることができるからである。
【0029】
また、前記支持体として、表面に何らかの下地層を備えるアルミノケイ酸塩からなる粒子を用いることも可能である。かかる下地層の材料としては、後述する触媒を構成する材料(Fe、Co、Ni等)と同様の材料を用いることができる。
【0030】
[体積平均粒子径D50]
支持体の体積平均粒子径D50は、50μm以上400μm以下である必要がある。体積平均粒子径D50がかかる範囲内であれば、繊維状炭素ナノ構造体の製造時において流動性及び取扱性に優れるため、製造効率を高めることができる。
【0031】
[比表面積]
また、触媒担持体の表面から外側に向けて繊維状炭素ナノ構造体が成長すると、後工程において触媒担持体から繊維状炭素ナノ構造体を容易に分離できる。触媒担持体は多孔性であると触媒担持体と繊維状炭素ナノ構造体が複雑に絡まるため、略平滑な表面を有す支持体粒子を用いて触媒担持体を形成することが好適である。よって、支持体の比表面積が1m/g以下であると好ましく、0.3m/g以下であると更に好ましく、0.1m/g以下であると一層好ましい。そして、かかる支持体を用いて形成した触媒担持体の比表面積も、同様の数値範囲を満たすことが好ましい。
【0032】
[密度]
また、支持体のかさ密度は1.0g/cm3以上が好ましく、1.5g/cm3以上がより好ましく、3.0g/cm3以下が好ましく、2.5g/cm3以下がより好ましい。また、支持体の真密度は2.0g/cm3以上が好ましく、2.5g/cm3以上がより好ましく、4.0g/cm3以下が好ましく、3.5g/cm3以下がより好ましい。なお、支持体のかさ密度はJIS Z 2504に従って測定することができる。支持体のかさ密度又は真密度が上記下限値以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の製造時に触媒担持体の流動性が良好であるため、製造効率を一層向上させることができる。
【0033】
<複合層積層体>
複合層積層体は、n層の複合層を備える積層体である。各複合層は、それぞれ、触媒を含有する触媒部と、金属化合物を含有する金属化合物部とを備える。ここで、「触媒部」及び「金属化合物部」はそれぞれが触媒担持体表面を略全体的に被覆するような層状に形成され、それぞれ「触媒層」及び「金属化合物層」として構成されていても良い。この場合、複合層は、触媒層と金属化合物層とが積層されてなる積層体である。或いは、「触媒部」及び「金属化合物部」は、それぞれ層を形成せず、金属化合物と触媒とが共存する一つの層(以下、「混合層」ともいう)中に散在する態様にて構成されていても良い。この場合、かかる混合層が複合層に相当する。或いは、複合層は、「金属化合物層」と「混合層」とを備えていても良い。さらには、複合層は、「金属化合物層」と「触媒層」とを備えていても良い。ひいては、複合層が、「触媒層」、「金属化合物層」、及び「混合層」を備える、或いは、複合層がこれら3種類の層のうちの少なくとも何れかを2層以上備えていても良い。換言すると、複合層とは、組成や性状の異なる複数の層が積層されてなる層であっても良いし、一つの層において組成や性状の異なる成分よりなる構成部が共存してなる層であっても良い。
【0034】
[金属化合物部]
金属化合物部は、触媒とともに用いて触媒を担持したりする等の助触媒的に機能する部分である。金属化合物部を構成する材料としては、例えば、金属酸化物により形成することができる。また、金属化合物部は、例えば、Si、Al、及びMgの中から選択される1種以上の元素を含む材料により形成されうる。例えば、金属化合物部は、SiO、Al23やMgO等の酸化物、Si34やAlN等の窒化物、及びSiC等の炭化物及びこれらの複合体を含む群より選択される少なくとも一種の金属化合物により形成されていることが好ましい。さらに、金属化合物部はAlを10質量%以上含むことが好ましく、25質量%以上含むことがより好ましく、45質量%以上含むことがより好ましい。金属化合物部は、例えば、Al23のようなアルミニウム酸化物により形成されることが好ましい。金属化合物部がAlを10質量%以上含有すれば、Alを10質量%以上含有する支持体との親和性が向上し、触媒担持体としての性能を一層向上させることができるからである。さらに、効率性の観点から、金属化合物部を形成するに当たり、Alを3質量%以上含有する材料を用いることが好ましい。
【0035】
金属化合物部は、例えば、(1)金属化合物部を形成する材料を含んでなる溶液を、支持体表面(下地層を備える場合には下地層表面)又は触媒部表面に対して接触させて、乾燥することによって形成する方法(いわゆる、湿式担持法)、或いは、(2)スパッタリングやガス化した金属化合物部の材料を、支持体表面又は触媒部表面に対して接触させることで形成する方法(いわゆる、乾式担持法)により形成することができる。
特に、上記(2)の乾式担持法であって、ガス化した金属化合物部材料を表面に接触させることにより金属化合物部を形成する場合には、例えば、反応温度まで器内を昇温した反応器内に、アルミニウムイソプロポキシド(化学式:Al(O-i-Pr)3[i-Prはイソプロピル基−CH(CH])ガス、酸素、及び窒素を所定の流量で供給することにより、アルミニウム酸化物よりなる金属化合物部を形成することができる。なお、かかる方法の場合の反応温度は、通常、400℃以上1200℃以下である。
【0036】
なお、支持体上にではなく、触媒担持体上に金属化合物部を形成する場合にも同様に、気体状態の材料を反応器内に供給する。なお、以下において、支持体上にではなく、触媒担持体上に金属化合物部及び触媒部を形成することを、「触媒再担持」とも称する。
【0037】
ここで、本発明者らは、金属化合物部の好適厚みを決定すべくさらに検討を重ねた。そして、本発明者らは、層状に形成した金属化合物部(即ち、金属化合物層)の金属化合物換算厚みと、層状に形成した触媒部(即ち、触媒層)の触媒金属換算厚みの好適値の間には相関関係があることを見出した。具体的には、金属化合物の換算厚みが厚ければ触媒金属の換算厚みも厚くする必要があった。しかし、本発明者らの更なる分析により、触媒金属の換算厚みが厚くなれば、複合層に含有される金属微粒子の径が粗大化し、繊維状炭素ナノ構造体を合成した場合に、得られる繊維状炭素ナノ構造体の径が大きくなる傾向があることが明らかとなった。また、金属化合物部を均一に形成するためにはある程度の換算厚みで金属化合物部を形成することが好ましいことも明らかとなった。よって、金属化合物の換算厚みは、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、1μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。金属化合物の換算厚みをかかる範囲内とすることで、支持体の外側にて金属化合物部を良好に形成するとともに、金属化合物部による触媒部の担持を良好にして、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率及び品質を一層向上させることができるからである。金属化合物の換算厚みは、例えば、金属化合物部を形成する際に供給するガスの流量や濃度、及び金属化合物部形成工程の時間を変更することにより調節することができる。具体的には、ガスの流量を大きくする、及び/又は、ガス中の金属化合物部材料の濃度を上げる、及び/又は、金属化合物部形成工程の時間を長くすることにより金属化合物部を厚くすることができる。反対に、ガスの流量を小さくする、及び/又は、ガス中の金属化合物部材料の濃度を下げる、及び/又は、金属化合物部形成工程の時間を短くすることにより金属化合物部を薄くすることができる。
【0038】
[触媒部]
触媒部は、繊維状炭素ナノ構造体の合成に寄与する触媒を含んでなる部分であり、触媒としての触媒金属微粒子を含む。好ましくは、触媒部はFe、Co、及びNiのいずれかの触媒金属を含む。さらに、触媒部はFe、Co、及びNiのいずれかの触媒金属成分を3質量%以上含む触媒材料を用いて形成されることが好ましい。触媒部がFe、Co、及びNiのいずれかの触媒金属成分を3質量%以上含む触媒材料を用いて形成されれば、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層向上させることができるからである。かかる触媒材料としては、例えば、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)、ビス(シクロペンタジエニル)鉄(II)(以下、「フェロセン」とも称する)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、及び鉄カルボニル等のFe含有触媒材料、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)、塩化コバルト(II)、及び硝酸コバルト(II)等のCo含有触媒材料、及び、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)、及びビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)等のNi含有触媒材料などが挙げられる。特に、触媒材料として、Feを約30質量%含むフェロセンを用いることが好ましい。触媒部の形成効率が良好となるからである。
【0039】
触媒部は、(1)触媒材料を含んでなる溶液を、金属化合物部を有する支持体に対して接触させて、乾燥することによって形成する方法(いわゆる、湿式担持法)、或いは、(2)スパッタリングやガス化した触媒材料を、金属化合物部を有する支持体に対して接触させることで形成する方法(いわゆる、乾式担持法)により形成することができる。更に、支持体に金属化合物部を形成する前に触媒材料を接触させても、支持体に金属化合物部を形成するときに同時に触媒材料を接触させても良い。ここで、金属は表面が不安定なため、表面積を減らすことで安定化する。触媒金属原子は、温度が高いほど複合層内をより長距離拡散でき、より広範囲から触媒金属原子が集まって粒子を形成するため、数密度が低下し粒径が増大する。触媒担持体の複合層に含まれる触媒の触媒金属換算厚みや、雰囲気温度等が所定の条件を満たすと、触媒金属は好適なサイズと密度の微粒子を形成する。かかる微粒子は、数平均粒子径が1nm以上であることが好ましく、30nm以下であること好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。微粒子の数平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡観察により算定することができる。具体的には、本願の実施例に記載の方法にて算出することができる。なお、微粒子の数平均粒子径は、複合層に含まれる触媒の触媒金属換算厚みを変更することで調節することができる。上述のような数平均粒子径の微粒子を得る観点から、触媒金属換算厚みは、0.1nm以上10nm以下が好ましく、0.3nm以上3nm以下がより好ましい。そして、触媒金属換算厚みは、例えば、触媒材料ガスの組成、濃度、及び流量、さらには触媒部形成工程の時間を変更することにより変更することができる。例えば、触媒材料ガスの濃度や流量を上げるか、或いは触媒部形成工程の時間を長くすることにより、微粒子の数平均粒子径を大きくすることができ、反対に、触媒材料ガスの濃度や流量を下げるか、或いは触媒部形成工程の時間を短くすることにより、微粒子の数平均粒子径を小さくすることができる。
なお、上記(1)のような湿式担持法や、上記(2)にかかるスパッタリングにより触媒部を形成した場合には、形成された触媒部に含有される触媒金属原子は大気に触れると酸化されるが、還元性雰囲気にて繊維状炭素ナノ構造体の形成に用いられた際に反応温度まで昇温されると金属に還元され、更に触媒金属原子が拡散して集まり微粒子を形成する。また、上記(2)にかかる乾式担持法においてガス化した触媒材料を用いて還元性雰囲気で触媒部を形成した場合には、形成時の温度が所定の温度以上であれば、得られた触媒部にて触媒金属微粒子が形成された状態となっている。
【0040】
なお、上記段落にて、特に、層状に形成した金属化合物部及び触媒部で構成される複合層に関する換算厚みについて説明したが、以下に述べるような、金属化合物と触媒とが共存する混合層を有する複合層についても、換算厚みに関して上述したような量とすることができる。すなわち、複合層一層あたりの触媒金属の量及び金属化合物の量は、層状に形成した触媒部、層状に形成した金属化合物部、および混合層に含有される触媒金属量及び金属化合物量を合計した値から算出した触媒金属の換算厚みと金属化合物の換算厚みが上記範囲となるような量でありうる。
【0041】
[混合層]
混合層は、触媒材料由来の触媒金属に加えて、金属化合物材料由来の金属化合物が共存してなる層である。混合層では、触媒の担持が強固であり、触媒担持体が混合層を有すれば、触媒担持体の触媒活性を一層向上させることができる。混合層に含有される触媒金属及び金属化合物は、上記触媒部及び金属化合物部にて列挙した各種成分と同様でありうる。また、このような、触媒金属及び金属化合物を含有する混合層は、例えば、複合層の形成時に、触媒材料と共に金属化合物材料を供給することにより、形成することができる。この場合の供給比率は、特に限定されることなく、例えば、50体積%ずつでありうる。
【0042】
[複合層の構造]
複合層は、触媒を含有する触媒部と、金属化合物を含有する金属化合部とを備える限りにおいて、特に限定されることなく、「触媒層」、「金属化合物層」、及び「混合層」のうちの少なくとも1層(混合層の場合)、或いは2層以上を備えることができる。また、複合層は、触媒部と金属化合物部とを含む態様にて積層された1層以上の層構造上に、被覆層を有していても良い。かかる「被覆層」は、複合層の最表面とは異なる性状の層であり、最表面の少なくとも一部を被覆してなる。被覆層は、触媒部及び金属化合物部にて列挙した各種成分と同様の成分により構成されうる。例えば、複合層が実質的に金属化合物層及び触媒層からなる場合に、複合層の最表面において、金属化合物部が、触媒部の少なくとも一部を被覆する被覆層を有する構造を有していても良い。このような構造は、例えば、複合層の形成工程の終盤に、触媒材料の供給を停止して、代わりに金属化合物材料を供給することにより、形成することができる。複合層がかかる構造を有することで、複合層にて金属微粒子が形成される際に、金属微粒子同士が凝集することを抑制して、触媒担持体の触媒活性を向上させることができる。
【0043】
さらに、例えば、複合層の最表層が混合層である場合に、混合層の最表面の少なくとも一部が、上述したような金属化合物を含んでなる被覆層により覆われている構造であっても良い。この場合にも、触媒の担持を強固にするとともに、触媒担持体の触媒活性を一層向上させうる。このような構造は、例えば、複合層の形成工程にて、触媒材料と金属化合物材料とを併せて供給した後に、複合層の形成工程の終盤にて、触媒材料の供給を停止して金属化合物材料のみを供給することにより、形成することができる。触媒材料及び金属化合物材料を併せて供給する段階における供給比率は、上述と同様に、例えば50体積%ずつでありうる。さらに、複合層の形成工程にて金属化合物材料のみを供給する時間の割合は、濃度、流量、触媒材料の性状等により任意に定めることができ、例えば、混合層形成工程の時間と同じでありうる。
【0044】
<触媒担持体の構造>
上述したように、触媒担持体は、支持体の外側に複合層積層体が形成されてなり、かかる複合層積層体は複合層を2層以上備える。ここで、触媒担持体は、複合層を5層以上備えることが好ましい。かかる触媒担持体は触媒活性に優れるからである。
【0045】
さらに、触媒担持体が備えるすべての金属化合物の金属化合物換算厚みが5nm超であることが好ましく、25nm超であることがより好ましく、通常、50μm以下である。触媒担持体が備える金属化合物の金属化合物換算厚みの合計が5nm超であれば、触媒担持体の触媒活性を一層向上させることができ、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層向上させることができる。
【0046】
また、触媒担持体が複数の金属化合物部を備える場合には、各金属化合物部は、同一の材料により形成されていても良いし、異なる材料により形成されていても良いが、同一の材料により形成されていることが好ましい。また、触媒担持体が複数の金属化合物層を備える場合の、各層の金属化合物換算厚みは、略同一であることが好ましいが、異なっていても良い。
【0047】
(繊維状炭素ナノ構造体の製造方法)
本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、本発明の触媒担持体上に繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程と、繊維状炭素ナノ構造体を触媒担持体から剥離する剥離工程を含むことを特徴とする。かかる製造方法によれば、繊維状炭素ナノ構造体を高効率かつ高品質で製造することができる。さらに、本発明の製造方法は、剥離工程を経た触媒担持体に対して触媒担持体再生処理を施す触媒担持体再生工程を含むことが好ましい。再生工程にて触媒担持体表面に再度複合層を形成することで、触媒担持体の触媒活性を一層向上させることができ、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層向上させることができる。
【0048】
以下、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法の一例について、概略的に説明する。本発明の製造方法は、上述したように、本発明の触媒担持体上に形成された繊維状炭素ナノ構造体を触媒担持体から剥離する剥離工程を含むことを特徴とするが、かかる工程に加えて、特に限定されることなく、例えば、以下のような複数の工程を含みうる。なお、以下の各工程において使用する支持体、金属化合物材料、及び触媒材料としては、上述したものを用いることができる。また、本発明の製造方法は、特に限定されることなく、通常使用されうる触媒製造装置及び繊維状炭素ナノ構造体の固定層合成装置および流動層合成装置を用いて実施することができる。以下、一例として、流動層合成装置を用いたものとして説明する。また、上述したように、本発明の触媒担持体は、特に限定されることなく、湿式担持法或いは乾式担持法にて製造することができるが、以下、一例として乾式担持法にて製造したものとして説明する。この際、金属化合物材料及び触媒材料としては、上述したものを用いることができる。
【0049】
<複合層形成工程>
本発明の製造方法は、支持体の外側に複合層を形成する複合層形成工程を含みうる。複合層形成工程では、例えば、反応温度まで昇温した触媒製造装置に対して気体状態の金属化合物材料、酸素等の酸素元素含有ガス、及び窒素等の不活性ガスを供給して、金属化合物部を形成することができる。なお、酸素元素含有ガスとしては、空気、酸素、水蒸気、及び/又は、二酸化炭素等を挙げることができる。また、不活性ガスとしては、窒素の他に、特に限定されることなく、アルゴンガス等の希ガスを挙げることができる。これらの酸素元素含有ガス及び不活性ガスは、以下の工程においても同じものを用いることができる。
【0050】
そして複合層形成工程では、例えば、反応温度まで昇温した触媒調製装置に対して気体状態の触媒材料、酸素元素含有ガス及び/又は還元性ガス、及び不活性ガスを供給して、金属化合物部に接触させることで、触媒担持体上に触媒部を形成することができる。
【0051】
<繊維状炭素ナノ構造体合成工程>
本発明の製造方法は、触媒担持体上に繊維状炭素ナノ構造体を合成する繊維状炭素ナノ構造体合成工程を含みうる。繊維状炭素ナノ構造体合成工程では、例えば、触媒担持体により流動層を形成して繊維状炭素ナノ構造体を合成する。以下、手順の一例を説明する。繊維状炭素ナノ構造体合成工程では、まず、繊維状炭素ナノ構造体流動層合成装置内に、上述した複合層形成工程を経て得られた触媒担持体を充填し、流動層合成装置内を、水素等の還元性ガス及び不活性ガス雰囲気として、反応温度まで昇温して加熱雰囲気とし、触媒担持体に担持された触媒を還元する。そして、流動層合成装置内に、炭素原料や不活性ガスを含む炭素原料ガスを供給する。ここで、炭素原料としては、特に限定されることなく、アルキン及びアルケン(オレフィン炭化水素)、アルカン(パラフィン炭化水素)、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、芳香族、及び一酸化炭素の中から選択される1種以上を含む炭素原料を用いることができる。さらに、炭素原料は、反応器内に、気体状態で供給されると良い。なお、炭素原料は、常温の液体又は固体の原料を流動層合成装置に供給して、流動層合成装置内の加熱雰囲気の熱によって炭素原料を蒸発させてもよい。さらに、炭素原料ガスは、特に限定されることなく、炭素原料や不活性ガスに加えて、還元性ガス及び/又は酸素元素含有ガスを含んでも良い。
【0052】
なお、炭素原料ガスの供給の圧力は、特に限定されることなく、例えば、0.001MPa以上1.500MPa以下とすることができる。そして、工程に要する時間や、供給する炭素原料ガスにおける炭素原料濃度等は、所望の繊維状ナノ構造体の性状及び製造効率に応じて、適宜設定することができる。例えば、合成工程の時間を長くすることで繊維状炭素ナノ構造体の長さを長くすることができる。また、炭素原料ガス中における炭素原料濃度を上げることで、製造効率を向上させることができる。
【0053】
(繊維状炭素ナノ構造体)
合成工程で触媒担持体上に形成された繊維状炭素ナノ構造体は、触媒担持体の表面から放射状に延びるか、流動層又は固定層における他の触媒担持体との接触により触媒担持体からは剥離した状態等で、流動層中に存在する。合成工程にて得られる繊維状炭素ナノ構造体の直径は0.4nm以上20nm以下であることが好ましい。さらに、繊維状炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが50μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時に破断や切断等の損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。また、得られた繊維状炭素ナノ構造体がCNTを含む場合、CNTは層数が1層以上10層以下であることが好ましい。
【0054】
<移送工程>
本発明の製造方法は、繊維状炭素難の構造体を表面に有する触媒担持体を後述する剥離工程を実施する分離器内に移送する移送工程を有することが好ましい。移送工程は、特に限定されることなく、例えば、流動層合成装置内にて気流を生成し、かかる気流により繊維状炭素難の構造体を表面に有する触媒担持体を移送することができる。
【0055】
<剥離工程>
本発明の製造方法は、触媒担持体上に形成された繊維状炭素ナノ構造体を触媒層から剥離する剥離工程を含む。剥離工程では、特に限定されることなく、例えば、液中にて撹拌して繊維状炭素ナノ構造体を触媒担持体から分離して液中に分散した繊維状炭素ナノ構造体を回収することができる。或いは、剥離工程では、繊維状炭素ナノ構造体を表面に有する触媒担持体を振とうして繊維状炭素ナノ構造体を触媒担持体から振り落とし、ふるい分け等の既知の方法により繊維状炭素ナノ構造体を回収することができる。
【0056】
<触媒担持体再生工程>
本発明の製造方法は、触媒担持体再生工程を含むことが好ましい。さらに、触媒担持体再生工程は、触媒担持体の表面を酸化させて再利用触媒担持体を得る工程と、再利用触媒担持体の表面上に、金属化合物部および触媒部を含む複合層を形成する触媒再担持工程とを含むことが好ましい。合成工程を経た触媒担持体は、表面に残留炭素成分が付着しているため、再生工程において更なる複合層を形成するにあたり、残留炭素成分を除去することが好ましい。そこで、例えば、酸素元素含有ガスの存在下で触媒担持体を燃焼することで、触媒担持体の表面を酸化することができる。このようにして、触媒担持体表面に残った残留炭素成分を除去することができる。或いは、繊維状炭素ナノ構造体を剥離した触媒担持体を、液中で撹拌することによっても、触媒担持体表面の残留炭素成分を除去することもできる。
【0057】
そして、触媒再担持は、上述した複合層形成工程と同様にして実施することができる。このようにして、繊維状炭素ナノ構造体の合成に用いた触媒担持体を再利用することで、繊維状炭素ナノ構造体の製造コストを低減することができる。さらに、再利用のために実施する再生工程に際して、上述したような触媒担持体の表面を酸化させて再利用触媒担持体を得る工程を実施することで、複数の複合層が積層されてなる触媒担持体の多層構造を良好に形成することができるため、触媒担持体の触媒活性を一層向上させることにより、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率及び品質を一層向上させることができる。さらにかかる多層構造を有する触媒担持体によれば、触媒担持体から繊維状炭素ナノ構造体を容易に剥離可能であるため、繊維状炭素ナノ構造体の収率を一層向上させることができ、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を一層向上させることができる。
【0058】
(繊維状炭素ナノ構造体付き触媒担持体)
本発明の触媒担持体は、表面に繊維状炭素ナノ構造体を有することがある。より具体的には、本発明の触媒担持体は、本発明の触媒担持体上に繊維状炭素ナノ構造体が形成されてなる場合がある。このような触媒担持体は、本発明の製造方法を用いて繊維状炭素ナノ構造体を製造して、回収された繊維状炭素ナノ構造体中に含有されうる。すなわち、このような触媒担持体は、上述した剥離工程にて繊維状炭素ナノ構造体から剥離されず、さらに回収工程にて、繊維状炭素ナノ構造体に混ざって回収された触媒担持体でありうる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、触媒担持体の耐破壊特性及び利用適性、金属化合物の金属化合物換算厚み、触媒の触媒金属換算厚み、並びに得られたカーボンナノチューブの収量、及びCNT合成の成否はそれぞれ以下の通りに測定/評価した。
【0060】
<触媒担持体の耐破壊特性>
触媒担持体の耐破壊特性は、複合層形成工程を5回繰り返して得た触媒担持体をSEM観察し、10個の触媒担持体について触媒担持体表面の欠損の有無を目視にて判定し、以下の基準に従って評価した。触媒担持体が耐破壊特性に優れていれば、触媒担持体の再利用適性が高く、さらに、得られる繊維状炭素ナノ構造体の品質を向上させることができる。
A:欠損なし
B:欠損あり
<触媒担持体の利用適性>
触媒担持体の利用適性は、流動層合成装置の管壁を目視にて観察し、透明な石英ガラスよりなる管壁が傷つくことで生じうる白濁の有無を以下の基準に従って評価した。
A:白濁あり
B:白濁なし
【0061】
<換算厚み>
走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S−4800)付属のエネルギー分散X線分光装置(アメテック社製、EDAX Genesis)を用いて、触媒担持体についての特性X線強度を測定し、得られた特性X線強度測定値を予め得たAl標準膜/Fe標準膜を用いて得た検量線と比較して、各種換算厚みを測定した。なお、金属化合物の金属化合物換算厚みについてはAl標準膜を、触媒の触媒金属換算厚みについてはFe標準膜を用いた。
【0062】
<カーボンナノチューブの収量>
CNT合成用流動層装置よりCNT合成中に排気されるガスについて、水素炎イオン化型検出器を備えるガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC−2014)により分析した。分析値より、排気ガス中における炭素含有成分の質量を算出し、CNTの合成に際してCNT合成用流動層装置に導入した炭素原料の質量(C)から差し引いてCNTに転化したと考えられる炭素原料の質量(CCNT,gas)を算出した。そして、得られた値について(CCNT,gas/C)×100を計算して炭素原料の転化率(モル%)を得た。また、CNT合成前後の触媒担持体の質量変化を電子天秤(島津製作所製、型番AUW120D)で測定し、CNTの質量(CCNT,powder)を求め、(CCNT,powder/Cs)×100を計算して、CNTの収率を算出した。
【0063】
<CNT合成の成否>
CNTの合成の成否は、CNT合成を行った触媒担持体を走査型電子顕微鏡観察により観察し、以下の基準に従って評価した。
A:触媒担持体の全面にわたって略均一にCNTが成長していた。
B:CNTの成長が非常に少ないかあるいは認められなかった。
【0064】
(実施例1)
<触媒担持体の製造>
[準備工程]
支持体として、体積平均粒子径(D50)約150μmのムライト粉末(伊藤忠セラテック株式会社製、「ナイガイセラビーズ60」、#750)を用いた。ムライト粉末70gを、ガラス管よりなる流動層装置に充填し、酸素4体積%、窒素96体積%を含むガスを3slmで流通しながら800℃まで40℃/分で昇温し、2分間維持した。
[複合層形成工程]
金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシド(和光純薬工業社製、「012-16012」、化学式:Al(O-i-Pr)3[i-Prはイソプロピル基−CH(CH])の蒸気を130℃にて0.5slmのNガスで同伴し、酸素4体積%、窒素96体積%、10slmのガスとともに5分間供給して、支持体としてのムライト粉末上に、金属化合物部としての酸化アルミニウム層(酸化アルミニウム換算厚み5nm)を形成した。
次いで、触媒材料としてフェロセン(和光純薬工業社製、「060-05981」)の蒸気を130℃にて0.02slmのNガスで同伴し、酸素4体積%、窒素96体積%、10slmのガスとともに5分間供給して、Feにより形成される微粒子を含む触媒層(鉄換算厚み0.5nm)を形成した。
[繰り返し工程]
そして、複合層を形成した触媒担持体について、複合層形成工程をさらに4回繰り返し、複合層を5層備える触媒担持体を製造した。
得られた触媒担持体を、上述した方法に従って評価した。結果を表1に示す。なお、触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
【0065】
<CNTの合成>
そして、触媒担持体を、管内径2.2cmのガラス管よりなるカーボンナノチューブ合成用流動層装置に層高3cmになるように充填した。CNT合成用流動層装置内を、水素10体積%、窒素90体積%を含むガスを2slmで流通しながら800℃に昇温し、10分間維持して触媒担持体を還元した。そして、CNT合成用流動層装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を0.7体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、窒素86.3体積%とを含むガスを2slmで10分間供給して、CNTを合成した。得られたCNTについて、上述した方法に従って各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。また、実施例1に従って得られた表面にCNTを有する触媒担持体のSEM画像を図1に示す。図1によれば、触媒担持体粒子の全面にて、CNTが成長していることがわかる。
【0066】
(実施例2−1)
CNTの合成温度を725℃に変更するとともに、CNT合成用流動層装置内に供給する炭素原料を含むガスの量を3slmに変更した以外は実施例1と同様とした。そして、得られたCNTについて、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例2−2)
CNTの合成温度を750℃に変更するとともに、CNT合成用流動層装置内に供給する炭素原料を含むガスの量を3slmに変更した以外は実施例1と同様とした。そして、得られたCNTについて、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例3−1)
実施例1と同様の触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、CNTの合成温度を730℃に、CNT合成用流動層装置内に供給するガスの量を3slmに変更した以外は実施例1と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3−2)
複合層形成工程において、触媒材料であるフェロセンを同伴するNガス流量を0.03slmとして、触媒層の鉄換算厚みを0.75nmに変更した以外は実施例1と同様にして触媒担持体を得た。そして、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、CNTの合成温度を730℃に、CNT合成用流動層装置内に供給するガスの量を3slmに変更した以外は実施例1と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3−3)
複合層形成工程において、触媒材料であるフェロセンを同伴するNガス流量を0.04slmとして、触媒層の鉄換算厚みを1nmに変更した以外は実施例1と同様にして触媒担持体を得た。そして、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、CNTの合成温度を730℃に、CNT合成用流動層装置内に供給するガスの量を3slmに変更した以外は実施例1と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例4)
触媒層の鉄換算厚みを1nmに変更した以外は実施例1と同様にして触媒担持体を得た。そして、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、CNTの合成温度を725℃に、CNT合成用流動層装置内に供給するガスを、炭素原料としてのエチレン(C2)を10体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、窒素77体積%とを含むガス1.5slmに、変更した以外は実施例1と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
【0069】
(実施例5−1)
実施例4と同様の条件で触媒担持体を合成し、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、温度を800℃に変更した以外は実施例4と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例5−2)
実施例4と同様の条件で触媒担持体を合成し、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、温度を800℃に変更し、触媒担持体を層高6cmになるように充填した以外は実施例4と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例5−3)
実施例4と同様の条件で触媒担持体を合成し、得られた触媒担持体を用いてCNTを合成するにあたり、温度を800℃に変更し、触媒担持体を層高9cmになるように充填した以外は実施例4と同様とした。実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例6−1)
触媒層の鉄換算厚みを1nmに変えた以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。さらに、得られた触媒担持体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用固定層装置に充填し、CNT合成用固定層装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、アルゴン86.7体積%とを含むガスを0.5slmで10分間供給して、CNTを合成した。得られたCNTに対し、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例6−2)
触媒層の鉄換算厚みを1nmに変え、複合層を10層形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。得られた触媒担持体を用いて、実施例6−1と同様にしてCNTを合成した。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
(実施例6−3)
触媒層の鉄換算厚みを1nmに変え、複合層を20層形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。得られた触媒担持体を用いて、実施例6−1と同様にしてCNTを合成した。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
【0071】
(実施例7−1−1〜7−1−3)
触媒層の鉄換算厚みを1nmに変えた以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。得られた触媒担持体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用固定層装置に充填し、CNT合成用固定層装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、アルゴン86.7体積%とを含むガスを0.5slmで10分間供給して、700℃(実施例7−1−1)、750℃(実施例7−1−2)、800℃(実施例7−1−3)にてCNTを合成した。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
(実施例7−2−1〜7−2−3)
触媒層の鉄換算厚みを1nm、金属化合物層の酸化アルミニウム換算厚みを10nmに変えた以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。得られた触媒担持体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用固定層装置に充填し、CNT合成用固定層装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、アルゴン86.7体積%とを含むガスを0.5slmで10分間供給して、700℃(実施例7−2−1)、750℃(実施例7−2−2)、800℃(実施例7−2−3)にてCNTを合成した。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。ここで、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
なお、実施例(7−2−1)〜(7−2−3)で作製した触媒担持体の、CNT合成前の表面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−4800)にて、反射電子モード、加速電圧2kVで観察した。結果を図2に示す。図2にて、比較的高輝度で表示されている部分がFe微粒子である。図2から、ムライト粒子表面に均一にFe微粒子が形成していることがわかる。300nm×500nmの範囲1にFe微粒子が79個存在し、Fe微粒子の数密度は527粒子/μm2であった。Fe微粒子の平均厚み(鉄換算厚み)は1nmであり、300nm×500nmの範囲にあるFe微粒子の総体積は1.5×104 nm3である。Fe微粒子1個あたりの平均体積は、1.5×105nm3/79=1.9×103nm3であり、球相当径(同じ体積を持つ球の径)は15nmであることが分かった。
【0072】
(実施例8−1)
金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて1.1slmのNガスに同伴して5分間供給し、金属化合物部としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み20nmで形成した後に、触媒材料としてのフェロセンの蒸気を140℃にて0.06slmのNガスに同伴して2分間供給し、触媒層としてのFeを鉄換算厚み1nmで形成した以外は、実施例1と同様にして触媒担持体を作製した。この触媒担持体を用い、実施例6−1と同様にCNTの合成を行った。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
(実施例8−2)
金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて1.1slmのNガスに同伴して5分間供給し、金属化合物部としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み20nmで形成した後に、触媒材料としてのフェロセンの蒸気を140℃にて0.06slmのNガスに同伴しつつ、金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて0.07slmのNガスに同伴して、同時に2分間供給し、Feを鉄換算厚み1nm、Alを酸化アルミニウム換算厚み0.5nmを有す混合層を形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体を作製した。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
この触媒担持体を用い、実施例6−1と同様にCNTの合成を行った。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
(実施例8−3)
金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて1.1slmのNガスに同伴して5分間供給し、金属化合物部としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み20nmで形成した後に、触媒材料としてのフェロセンの蒸気を140℃にて0.06slmのNガスに同伴して2分間供給し、触媒層としてのFeを鉄換算厚み1nmで形成し、更にその後に金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて0.07slmのNガスに同伴して2分間供給し、金属化合物層としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み0.5nmで形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体を作製した。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
この触媒担持体を用い、実施例6−1と同様にCNTの合成を行った。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
(実施例8−4)
金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて1.1slmのNガスに同伴して5分間供給し、金属化合物層としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み20nmで形成した後に、触媒材料としてのフェロセンの蒸気を140℃にて0.06slmのNガスに同伴しつつ、金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて0.07slmのNガスに同伴して、同時に2分間供給し、Feを鉄換算厚み1nm、Alを酸化アルミニウム換算厚み0.5nmを有す混合層を形成し、更にその後に金属化合物材料としてのアルミニウムイソプロポキシドの蒸気を140℃にて0.07slmのNガスに同伴して2分間供給し、金属化合物部としてのAlを酸化アルミニウム換算厚み0.5nmで形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体を作製した。なお、得られた触媒担持体の比表面積をBET法に従って測定し、比表面積が1m/g未満であることを確認した。
この触媒担持体を用い、実施例6−1と同様にCNTの合成を行った。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1)
触媒担持体の製造に際して、ムライトに代えて体積平均粒子径約100μmのケイ砂(三河珪石株式会社製、三河珪砂R8号)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒担持体を製造した。次いで、CNT合成用流動層装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を1体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、窒素86体積%とを含むガスを2slmで20分間供給して、CNTを合成した。得られた触媒担持体について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。CNTを充分に合成することができなかった。その原因を調べるべく、ケイ砂にNガスのみを流通して流動化させた後の粒子構造を観察した。SEM画像を図3に示す。図3右側に示す拡大図から明らかなように、ケイ砂は、触媒担持体の製造に用いた流動層装置では破砕されてしまった。
【0074】
(比較例2)
触媒担持体の製造に際して、ムライトに代えて体積平均粒子径約100μmのアルミナビーズ(不二製作所製、ホワイトアランダム#120)を用いた以外は実施例1と同様にして触媒担持体の製造を試みた。しかし、繰り返し工程の回数を重ねるたびに、石英ガラス管よりなる流動層装置の管壁が白濁したため、実験を中止した。よって、多層構造の触媒担持体を形成することができず、CNTを合成することができなかった。
【0075】
(比較例3)
触媒層たるFeの鉄換算厚みを1nmに変え、複合層を1層形成した以外は、実施例1と同様に触媒担持体の製造を行った。得られた触媒担持体について、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。
さらに、得られた触媒担持体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用装置に充填し、CNT合成用装置内に、炭素原料としてのアセチレン(C22)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素3体積%と、アルゴン86.7体積%とを含むガスを0.5slmで10分間供給して、CNTを合成した。実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
なお、表中、「FCVD」は流動層CVDを、「SCVD」は固定層CVDを、「CNT」はカーボンナノチューブをそれぞれ指す。
【0077】
【表1】
【表2】
【0078】
表1〜2より、AlとSiとをそれぞれ10質量%以上含み、体積平均粒子径が50μm以上400μm以下である支持体上に複合層を2層以上備える触媒担持体は、耐破壊特性及び利用適性に富み、CNTを合成できたことから、触媒活性も良好であることが分かる。一方、支持体がAlとSiとをそれぞれ10質量%以上含まない比較例1及び2の触媒担持体は、耐破壊特性及び利用適性が不十分であり、また、比較例3より、ムライトを支持体とするものの、複合層を1層しか備えない触媒担持体は触媒活性が不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、高品質の繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができる。
図1
図2
図3