(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記最外層と前記最内層との間に少なくとも1層の中間層を有し、該中間層がエチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物、フッ素系樹脂、半芳香族ポリアミド、および脂肪族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料から構成される中間バリア層である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬液輸送用多層チューブ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[薬液輸送用多層チューブ]
本発明の薬液輸送用多層チューブは、最外層と、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)を含む最内層とを有する薬液輸送用多層チューブであって、該最内層の表面に存在する、高さ5μm以上かつ長手幅20μm以上の凸部が表面積1mm
2あたり2個以下であり、該最内層の断面に存在する、長手幅5μm以上の凝集塊が断面積1mm
2あたり15個以下であることを特徴とする。なお本発明において「最内層の表面」とは、薬液輸送用多層チューブの内側表面を意味し、「最内層の断面」とは、チューブの直径の中点を通る、長さ方向に垂直な最内層の断面を意味する。また本発明において「長手幅」とは、凸部または凝集塊を光学顕微鏡で観察した際に認められる、最も長さの長い部分を意味する。
図1は本発明の薬液輸送用多層チューブの実施形態の一例を示す断面模式図であり、1は薬液輸送用多層チューブ、2は最外層、3は最内層、3aは最内層の表面を示す。本発明の薬液輸送用多層チューブは、必要に応じ最外層2と最内層3との間に、1層以上の中間層4を有していてもよい。
【0011】
本発明の薬液輸送用多層チューブは、最内層の表面3aに存在する、高さ5μm以上かつ長手幅20μm以上の凸部が表面積1mm
2あたり2個以下である。最内層の表面に存在する該凸部の個数が表面積1mm
2あたり2個を超えると、該最内層の表面の表面粗さが増大し、その結果、薬液輸送多層チューブに連結させるコネクター等の部品の挿入時に割れやすくなり、また耐衝撃性に劣る結果となる。この観点から、最内層の表面に存在する該凸部は、表面積1mm
2あたり1個以下であることが好ましく、0.8個以下であることがより好ましく、0.5個以下であることがさらに好ましい。
本発明の薬液輸送用多層チューブにおける、最内層の表面に存在する前記凸部の大きさ及び個数は、光学顕微鏡により観察、測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
なお本発明における該凸部は、主として最内層に存在する凝集塊に由来するものである。また本発明における凝集塊は、カーボンナノチューブ(C)の凝集に由来するものであり、カーボンナノチューブ(C)のみからなるもの、及び、カーボンナノチューブ(C)の他に樹脂成分((A)、(B)成分など)を含んでいるものの両方をいう。
【0012】
また本発明の薬液輸送用多層チューブは、最内層3の断面に存在する、長手幅5μm以上の凝集塊が断面積1mm
2あたり15個以下である。最内層の断面に存在する該凝集塊の個数が断面積1mm
2あたり15個を超えると、チューブの耐衝撃性、および伸び特性が低下し、チューブの割れも発生しやすくなる。この観点から、最内層の断面に存在する該凝集塊の個数は、断面積1mm
2あたり12個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましい。
本発明の薬液輸送用多層チューブにおける、最内層の断面に存在する前記凝集塊の個数は、ミクロトームを用いて薬液輸送用多層チューブの断面観察用の切片を作製し、その切片の断面を光学顕微鏡で観察、測定することができる。具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0013】
本発明の薬液輸送用多層チューブにおいて、最内層の表面に存在する前記凸部の個数、および最内層の断面に存在する前記凝集塊の個数を上記範囲に調整する方法としては、(1)最内層を構成するポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)を含むポリアミド樹脂組成物の製造において、該(A)、(C)成分および溶剤を混合分散し、樹脂混合物を得る工程と、前記樹脂混合物を混練しながら、前記溶剤を除去し、次いで(B)成分を添加し混練する工程とを有する方法、(2)上記ポリアミド樹脂組成物の製造において、該(A)〜(C)成分を混練する際に用いる装置および混練条件を調整する方法、(3)上記ポリアミド樹脂組成物の製造において、該(A)〜(C)成分および分散助剤を添加し混練する方法等が挙げられる。なかでも、樹脂成分の溶融粘度の影響を受け難く生産安定性が高い点から、(1)の方法が好ましい。
【0014】
本発明の薬液輸送用多層チューブが上記構成を有することにより本発明の効果が得られる理由は、以下のように考えられる。
本発明の薬液輸送用多層チューブにおいては、最内層に導電性を付与するためにカーボンナノチューブ(C)を添加する。しかしながらカーボンナノチューブは構造中に微細な空洞を有することから、他の樹脂成分と混合しても、該空洞内の空気を他の樹脂成分に置換することが困難である。そのため、通常の方法でカーボンナノチューブと他の樹脂成分とを混合しただけでは均一に混合せず、カーボンナノチューブの凝集に由来する凝集塊が発生するなどの不具合が生じる場合がある。本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層の表面または内部に所定以上の大きさのカーボンナノチューブの凝集に由来する凝集塊が存在すると、その部分を起点としてチューブの割れが発生し易く、該チューブの耐衝撃性や伸び率が低下する。
そこで本発明においては、所定の(A)〜(C)成分を含み、かつ、好ましくは上記(1)〜(3)の方法などを用いて調製した薬液輸送用多層チューブの最内層形成用の樹脂組成物を使用することで、該最内層の表面に存在する所定の凸部、および該最内層の断面に存在する所定の凝集塊の個数を少なくし、導電性、薬液バリア性、耐衝撃性に優れ、他の部材への挿入時にも割れが発生し難く、伸び特性に優れる薬液輸送用多層チューブを提供することができる、というものである。
【0015】
〔最内層〕
以下に、本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層を構成する材料について説明する。
【0016】
<ポリアミド(A)>
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、薬液バリア性、耐薬品性を付与する観点から、ポリアミド(A)を含む。本発明に用いるポリアミド(A)としては、上記効果を付与できるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドなどが挙げられる。
なかでも、高い薬液バリア性、耐薬品性および耐熱性を付与する観点から、ポリアミド(A)は半芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0017】
(半芳香族ポリアミド)
本発明において半芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミド、又は、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドをいう。ここで「主成分とする」とは、全単位中の50〜100モル%、好ましくは60〜100モル%を構成することをいう。
本発明に用いるポリアミド(A)としては、半芳香族ポリアミドの中でも、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドが好ましく、テレフタル酸単位および/またはナフタレンジカルボン酸単位を50〜100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドがより好ましい。以下、当該半芳香族ポリアミドについてより詳細に説明する。
【0018】
半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位および/またはナフタレンジカルボン酸単位の含有率が50〜100モル%であることが好ましい。これにより、得られる薬液輸送用多層チューブの薬液バリア性、耐薬品性および耐熱性が向上する。ジカルボン酸単位におけるテレフタル酸単位および/またはナフタレンジカルボン酸単位の含有率は、75〜100モル%の範囲にあることがより好ましく、90〜100モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
ナフタレンジカルボン酸単位としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、及び1,4−ナフタレンジカルボン酸から誘導される単位が挙げられ、2,6−ナフタレンジカルボン酸単位が好ましい。
またジカルボン酸単位は、テレフタル酸単位であることがより好ましい。
【0019】
半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸単位は、好ましくは50モル%以下の範囲で、テレフタル酸単位および/またはナフタレンジカルボン酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでもよい。かかる他のカルボン酸単位としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、2,2−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸などから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。ジカルボン酸単位におけるこれらの他のジカルボン酸単位の含有率は、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸から誘導される単位を溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
【0020】
また、半芳香族ポリアミドを構成するジアミン単位は、炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位を60〜100モル%含有することが好ましい。炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位をこの割合で含有するポリアミド(A)を使用すると、靭性、摺動性、耐熱性、成形性、低吸水性、軽量性に優れた、最内層形成用のポリアミド樹脂組成物が得られる。ジアミン単位における炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位の含有率は、75〜100モル%の範囲にあることがより好ましく、90〜100モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0021】
上記の炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;2−メチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミン;などから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。
【0022】
上記の炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位は、炭素数6〜18の脂肪族ジアミン単位であることが好ましく、耐熱性、低吸水性および薬液バリア性により一層優れる薬液輸送用多層チューブが得られることから、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であることがより好ましく、1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位であることがさらに好ましい。ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を共に含む場合には、1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位のモル比は、1,9−ノナンジアミン単位/2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=95/5〜40/60の範囲にあることが好ましく、90/10〜40/60の範囲にあることがより好ましく、80/20〜50/50の範囲にあることがさらに好ましい。
【0023】
半芳香族ポリアミドを構成するジアミン単位は、好ましくは40モル%以下の範囲で、炭素数4〜18の脂肪族ジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでもよい。かかる他のジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。ジアミン単位におけるこれらの他のジアミン単位の含有率は25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0024】
半芳香族ポリアミドは、ジアミン単位とジカルボン酸単位のみから構成されたものであることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲内で、アミノカルボン酸単位を含んでいてもよい。当該アミノカルボン酸単位としては、例えば、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから誘導される単位を挙げることができ、アミノカルボン酸単位は、2種以上含まれていてもよい。ポリアミド(A)におけるアミノカルボン酸単位の含有率は、ポリアミド(A)を構成する全モノマー単位100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
半芳香族ポリアミドは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、ラクタム単位を含んでいてもよい。当該ラクタム単位としては、例えば、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等などから誘導される単位を挙げることができ、ラクタム単位は2種以上含まれていてもよい。半芳香族ポリアミドにおけるラクタム単位の含有率は、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマー単位100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む代表的な半芳香族ポリアミドとしては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリアミド6Iとポリアミド6Tとの共重合体(ポリアミド6I/6T)、およびポリアミド6Tとポリウンデカンアミド(ポリアミド11)との共重合体(ポリアミド6T/11)などが挙げられる。
【0027】
一方、半芳香族ポリアミドのうち、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドについては、脂肪族ジカルボン酸単位として、前述した脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。また、芳香族ジアミン単位としては、前述した芳香族ジアミンから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の単位を含んでもよい。
脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む代表的な半芳香族ポリアミドとしては、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、パラキシリレンジアミンとセバシン酸との共重合体(PXD10)などが挙げられる。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物に配合されるポリアミド(A)は半芳香族ポリアミドのみで構成されることが好ましいが、全芳香族ポリアミドや脂肪族ポリアミドなどの、半芳香族ポリアミド以外のポリアミドを併用してもよい。ポリアミド(A)中の半芳香族ポリアミド以外のポリアミドの含有率は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0029】
(全芳香族ポリアミド)
全芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドをいう。芳香族ジカルボン酸単位および芳香族ジアミン単位は、前述の半芳香族ポリアミドにおいて例示したものと同様のものが挙げられる。
全芳香族ポリアミドとしては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリメタキシリレンイソフタラミド(MXDI)、テレフタル酸成分と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分およびパラフェニレンジアミン成分とが共重合されたポリ(パラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)などが挙げられる。
【0030】
(脂肪族ポリアミド)
脂肪族ポリアミドは、脂肪族ポリアミド形成単位よりなるポリアミドであり、具体的にはラクタム、アミノカルボン酸、または脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなるナイロン塩を原料として、溶融重合、溶液重合や固相重合等の公知の方法で重合、または共重合することにより得られる。
【0031】
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン等、前述のラクタム単位において例示したものと同様のものが挙げられる。アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。これは1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
ナイロン塩を構成する脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、1,19−ノナデカンジアミン、1,20−エイコサンジアミン、2/3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、2,2,4/2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等が挙げられる。これは1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
ナイロン塩を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸等が挙げられる。これは1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
脂肪族ポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリエチレンアジパミド(ポリアミド26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンウンデカミド(ポリアミド911)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)などの単独重合体や、これらを形成する原料モノマーを数種用いた共重合体などが挙げられる。
【0035】
これらの中でも、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)から選ばれる少なくとも1種の単独重合体が好ましく、ポリカプロアミド(ポリアミド6)およびポリドデカンアミド(ポリアミド12)から選ばれる少なくとも1種の単独重合体がより好ましい。
【0036】
ポリアミド(A)は、その分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)は、20%以上であることがより好ましい。末端封止率が10%以上のポリアミド(A)を使用すると、溶融安定性、耐熱水性などの物性がより優れた、薬液輸送用多層チューブの最内層形成用のポリアミド樹脂組成物を調製できる。
【0037】
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを末端封止剤として使用することもできる。
【0038】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0039】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0040】
ポリアミド(A)の末端封止率は、ポリアミド(A)に存在しているカルボキシル基末端、アミノ基末端および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式(1)に従って求められる。各末端基の数は、
1H−NMRにより各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。
末端封止率(%)=[(T−S)/T]×100 (1)
[式中、Tはポリアミド(A)の分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、Sは封止されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。]
【0041】
ポリアミド(A)は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造できる。例えば、ジカルボン酸単位とジアミン単位とを含むポリアミドであれば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造できる。
【0042】
ポリアミド(A)を製造する際に、触媒として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルなどを添加することができる。上記の塩またはエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸の、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。中でも次亜リン酸ナトリウムと亜リン酸が安価かつトリアミン量が少なく好ましい。
【0043】
ポリアミド(A)は、濃硫酸中、30℃の条件下で測定した極限粘度[η]が、0.6〜2.0dl/gの範囲にあることが好ましく、0.7〜1.9dl/gの範囲にあることがより好ましく、0.8〜1.8dl/gの範囲にあることがさらに好ましい。極限粘度が0.6dl/g以上のポリアミド(A)を使用すれば、形成される薬液輸送用多層チューブの最内層の機械的物性が良好になる。また極限粘度が2.0dl/g以下のポリアミド(A)を使用すれば、得られるポリアミド樹脂組成物の成形性が良好である。
【0044】
ポリアミド(A)は、その末端アミノ基含量([NH
2])が5〜60μモル/gであることが好ましく、5〜50μモル/gの範囲内にあることがより好ましく、5〜30μモル/gの範囲内にあることがさらに好ましい。末端アミノ基含量([NH
2])が5μモル/g以上であれば、ポリアミド(A)と、後述する耐衝撃性改良剤(B)との相容性が良好である。また、該末端アミノ基含量が60μモル/g以下であれば、導電性の低下や長期耐熱性の低下、ウエルド強さの低下を回避できる。
【0045】
ジカルボン酸単位とジアミン単位とを含み、末端アミノ基含量([NH
2])が上記した範囲にあるポリアミド(A)は、例えば、以下のようにして製造できる。
まず、ジカルボン酸、ジアミン、および必要に応じてアミノカルボン酸、ラクタム、触媒、末端封止剤を混合し、ナイロン塩を製造する。この際、上記の反応原料に含まれる全てのカルボキシル基のモル数(X)と全てのアミノ基のモル数(Y)が下記の式(2)
−0.5≦[(Y−X)/Y]×100≦2.0 (2)
を満足するようにすると、末端アミノ基含量([NH
2])が5〜60μモル/gであるポリアミド(A)を製造し易くなり好ましい。次に、生成したナイロン塩を200〜250℃の温度に加熱し、濃硫酸中30℃における極限粘度[η]が0.10〜0.60dl/gのプレポリマーとし、さらに高重合度化することにより、本発明において使用されるポリアミド(A)を得ることができる。プレポリマーの極限粘度[η]が0.10〜0.60dl/gの範囲内にあると、高重合度化の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、さらに分子量分布の小さい、各種性能や成形性により優れたポリアミド(A)が得られる。高重合度化の段階を固相重合法により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下に行うことが好ましく、重合温度が200〜280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色およびゲル化を有効に抑制することができる。また、高重合度化の段階を溶融押出機により行う場合、重合温度は370℃以下であることが好ましく、かかる条件で重合を行うと、ポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の少ないポリアミド(A)が得られる。
【0046】
また、末端アミノ基含量([NH
2])が異なる複数種のポリアミドを併用することによっても、所望とする末端アミノ基含量([NH
2])を有するポリアミド(A)とすることができる。複数種のポリアミドを併用する場合には、複数種のポリアミドは、耐衝撃性改良剤(B)およびカーボンナノチューブ(C)と溶融混練する前に予め混合して使用しても、予め混合していない状態で使用してもよい。
【0047】
本明細書でいう末端アミノ基含量([NH
2])は、ポリアミド(A)が1g中に含有する末端アミノ基の量(単位:μモル)を指し、指示薬を用いた中和滴定法より求めることができる。
【0048】
<耐衝撃性改良剤(B)>
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、耐衝撃性および伸び特性を付与する観点から、耐衝撃性改良剤(B)を含む。本発明に用いる耐衝撃性改良剤(B)としては、ゴム状重合体が挙げられ、ASTM D−790に準拠して測定した曲げ弾性率が500MPa以下であるものが好ましい。
具体的には、α−オレフィン系共重合体、(エチレンおよび/またはプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体などが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0049】
上記のα−オレフィン系共重合体としては、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体や、プロピレンと炭素数4以上のα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。これらの中でも、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体が好ましく、エチレン−ブテン共重合体がより好ましい。
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンが挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0050】
また、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,5−オクタジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン、4,8−ジメチル−1,4,8−デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,5−ノルボルナジエン等の非共役ジエンのポリエンを共重合してもよい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
上記の(エチレンおよび/またはプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレンおよび/またはプロピレンとα,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル単量体を共重合した重合体であり、α,β−不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これら不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0052】
上記のアイオノマーは、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンの中和によりイオン化されたものである。オレフィンとしては、エチレンが好ましく用いられ、α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく用いられるが、ここに例示したものに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸エステル単量体が共重合されていても構わない。また、金属イオンはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cd等が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0053】
また、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックを少なくとも1個と、共役ジエン系重合体ブロックを少なくとも1個有するブロック共重合体が用いられる。また、上記のブロック共重合体では、共役ジエン系重合体ブロックにおける不飽和結合が水素添加されていてもよい。
【0054】
芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位から主としてなる重合体ブロックである。その場合の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。また、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、場合により少量の他の不飽和単量体からなる構造単位を有していてもよい。共役ジエン系重合体ブロックは、1,3−ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン化合物の1種または2種以上から形成された重合体ブロックであり、水素添加した芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体では、その共役ジエン重合体ブロックにおける不飽和結合部分の一部または全部が水素添加により飽和結合になっている。
【0055】
芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体およびその水素添加物の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状、またはそれら任意の組み合わせのいずれであってもよい。これらの中でも、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体および/またはその水素添加物として、1個の芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと1個の共役ジエン系重合体ブロックが直鎖状に結合したジブロック共重合体、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック−共役ジエン系重合体ブロック−芳香族ビニル化合物系重合体ブロックの順に3つの重合体ブロックが直鎖状に結合しているトリブロック共重合体、およびそれらの水素添加物の1種または2種以上が好ましく用いられ、未水添または水添スチレン/ブタジエンブロック共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレンブロック共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、未水添または水添スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0056】
また、耐衝撃性改良剤として用いられるα−オレフィン系共重合体、(エチレンおよび/またはプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体は、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物で変性された重合体(以下、単に「変性重合体」ともいう)であることが好ましい。このような成分により変性することにより、ポリアミド(A)が有する末端アミノ基と、(B)成分である該重合体が有するカルボキシル基および/または酸無水物基とが反応することによって、(A)相と(B)相との界面の親和性が強くなり、耐衝撃性と伸び特性が向上するためである。
上記変性重合体の中でも、α−オレフィン系共重合体の変性重合体が好ましく、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンとの共重合体の変性重合体がより好ましく、エチレン−ブテン共重合体の変性重合体がさらに好ましい。
【0057】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物により変性された変性重合体におけるカルボキシル基を有する不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸などが挙げられる。また、酸無水物基を有する不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和結合を有するジカルボン酸無水物などが挙げられる。カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物としては、α,β−不飽和結合を有するジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0058】
上記変性重合体における、カルボキシル基および酸無水物基の含有量は、25〜200μモル/gの範囲内にあることが好ましく、50〜100μモル/gの範囲内にあることがより好ましい。上記した官能基の含有量が25μモル/g以上であれば、耐衝撃性の改良効果が充分であり、一方200μモル/g以下であれば、得られる最内層形成用ポリアミド樹脂組成物の流動性が低下して成形性が低下することを回避できる。
【0059】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物による変性方法としては、上記のα−オレフィン系共重合体、(エチレンおよび/またはプロピレン)/(α,β−不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体(以下「ベース樹脂」ともいう)を付加重合によって製造する際に、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物と共重合させる方法や、上記のベース樹脂にカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物をグラフト化反応させる方法が挙げられる。なかでも、上記のベース樹脂にカルボキシル基および/または酸無水物基を有する不飽和化合物をグラフト化反応することにより変性することが好ましい。
【0060】
本発明に用いられる耐衝撃性改良剤(B)の市販品としては、三井化学(株)製「タフマー」などが挙げられる。
【0061】
<カーボンナノチューブ(C)>
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、薬液の搬送の際、摩擦により発生する静電気を除去するために導電性を付与する観点から、カーボンナノチューブ(C)を含む。カーボンナノチューブ(C)は他の導電性フィラーと比較して低比重であり、また高導電性であるため含有量が少なくても高い導電性を付与できるので、導電性付与効果および補強効果のバランスの点で優れる。
本発明に用いるカーボンナノチューブ(C)は、単層構造および多層構造のいずれでもよい。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料も使用できる。また、カーボンナノチューブは、円筒形状に限らず、1μm以下のピッチでらせんが一周するコイル状形状を有していてもよい。
カーボンナノチューブ(C)は、市販品として入手可能であり、例えば、BAYTUBES C 150 P(バイエルマテリアルサイエンス社製)、NANOCYL NC7000(ナノシル社製)、VGCF−X(昭和電工株式会社製)、ハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル社から入手可能なBNフィブリル等が挙げられる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリル、カーボンフィブリルなどと称されることもある。
カーボンナノチューブの直径としては、0.5〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましい。カーボンナノチューブ(C)の直径が0.5nm以上であれば分散性が良好であるため、導電性や耐衝撃性、伸び特性が低下するおそれがない。一方、直径が100nm以下であれば、得られる最内層の表面状態が良好になり、導電性や耐衝撃性が低下するおそれもない。カーボンナノチューブ(C)のアスペクト比としては、良好な導電性を付与する観点から、5以上が好ましく、50以上がより好ましい。
【0062】
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、必要に応じて、ポリアミド(A)および耐衝撃性改良剤(B)以外の他の樹脂、カーボンナノチューブ(C)以外の他の充填剤、結晶核剤、熱、光または酸素に対する安定化剤、銅系安定剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤などの他の成分を含んでもよい。
【0063】
他の樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド等のポリエーテル樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルホン等のポリチオエーテル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン等のポリケトン系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリニトリル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のポリメタクリレート系樹脂;ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン−メチルアクリレート共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体等のフッ素系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン樹脂;などが挙げられる。
【0064】
他の充填剤としては、例えば、ガラス繊維などの繊維状充填剤、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化マグネシウム、二硫化モリブデン等の粉末状充填剤;ハイドロタルサイト、ガラスフレーク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のフレーク状充填剤などが挙げられる。
【0065】
結晶核剤としては、ポリアミドの結晶核剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、これらの任意の混合物などが挙げられる。これらのうちでも、ポリアミドの結晶化速度を増大させる効果が大きいことから、タルクが好ましい。結晶核剤は、ポリアミドとの相容性を向上させる目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0066】
熱、光または酸素に対する安定化剤としては、ポリアミドの安定化剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、フェニレンジアミン系化合物、フェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン化合物、サリチル酸フェニル化合物、エポキシ化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、リン系化合物、チオ系化合物、チオエーテル系化合物、スズ化合物、ハロゲン化金属などが挙げられる。好ましくは、周期律表第I族の金属(例、ナトリウム、カリウム、リチウム)のハロゲン化物(例、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、銅(I)ハロゲン化物(例、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I))、周期律表第I族の金属のハロゲン化物と銅(I)ハロゲン化物との組み合わせであり、銅(I)ハロゲン化物がより好ましい。
【0067】
可塑剤としては、ポリアミドの可塑剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、ベンゼンスルホン酸アルキルアミド系化合物、トルエンスルホン酸アルキルアミド系化合物、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル系化合物等が挙げられる。
【0068】
滑剤としては、ポリアミドの滑剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、高級脂肪酸系化合物、オキシ脂肪酸系化合物、脂肪酸アミド系化合物、アルキレンビス脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸低級アルコールエステル系化合物、金属石鹸系化合物、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。脂肪酸アミド系化合物、例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリルアミドなどは、外部滑性効果に優れるため好ましい。
【0069】
薬液輸送用多層チューブの最内層におけるこれらの他の成分の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0070】
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、カーボンナノチューブ(C)、並びに必要に応じて、上記の他の成分を含む。(A)、(B)および(C)成分の使用割合は、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)およびカーボンナノチューブ(C)の合計100質量部に対して、ポリアミド(A)が40〜96.5質量部、耐衝撃性改良剤(B)が3〜30質量部、カーボンナノチューブ(C)が0.5〜30質量部であることが好ましく、ポリアミド(A)が60〜94.5質量部、耐衝撃性改良剤(B)が5〜20質量部、カーボンナノチューブ(C)が0.5〜20質量部であることがより好ましく、ポリアミド(A)が65〜94質量部、耐衝撃性改良剤(B)が5〜20質量部、カーボンナノチューブ(C)が1〜15質量部であることがさらに好ましい。
当該最内層における、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)の合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0071】
[ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法]
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、カーボンナノチューブ(C)、並びに必要に応じて上記の他の成分を含むポリアミド樹脂組成物により構成される。該ポリアミド樹脂組成物に含まれる各成分、含有量、およびその好ましい態様は、前記と同じである。
当該ポリアミド樹脂組成物は、前述した表面および断面状態を有する最内層を形成し得るものであり、その製造方法としては、下記(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1種の方法を用いることが好ましい。下記方法は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
(1)ポリアミド(A)、カーボンナノチューブ(C)、および溶剤を混合分散し、樹脂混合物を得る工程と、前記樹脂混合物を混練しながら、前記溶剤を除去し、次いで耐衝撃性改良剤(B)を添加し混練する工程とを有する方法
(2)ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)を混練する際に用いる装置および混練条件を調整する方法
(3)ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、カーボンナノチューブ(C)、および分散助剤を添加し混練する方法
【0072】
上記(1)の方法である、下記(1A)および(1B)の工程を有する製造方法について説明する。
(1A)ポリアミド(A)、カーボンナノチューブ(C)、および溶剤を混合分散し、樹脂混合物を得る工程
(1B)前記樹脂混合物を混練しながら、前記溶剤を除去し、次いで耐衝撃性改良剤(B)を添加し混練する工程
【0073】
<工程(1A)>
工程(1A)は、ポリアミド(A)、カーボンナノチューブ(C)、および溶剤を混合分散し、樹脂混合物を得る工程である。工程(1A)における樹脂混合物の混合分散方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(a)ポリアミド(A)およびカーボンナノチューブ(C)を混合分散した後、溶剤を加えてさらに混合する。
(b)カーボンナノチューブ(C)と溶剤とを混合した後、ポリアミド(A)を加えてさらに混合分散する。
(c)ポリアミド(A)、カーボンナノチューブ(C)、および溶剤を一括して混合分散する。
上記(a)〜(c)のなかでも、混合容易性、高分散性の点で、(a)の方法が好ましい。
【0074】
工程(1A)で用いる溶剤は、樹脂混合物を混練する際に蒸発により系から除去され、かつ得られる樹脂組成物中に残らない沸点を有するものであれば特に制限されない。具体的には、作業環境への影響、コスト、ハンドリング性などを考慮して水、アルコール類が好ましく用いられ、特に、水が好ましい。アルコール類を使用する場合は、エタノールが好ましい。また、水とアルコール類とを併用してもよい。
工程(1A)における溶剤の使用量は、カーボンナノチューブ(C)の分散に必要な量以上で、混練装置による溶剤の除去が可能となる量以下であればよい。具体的には、樹脂混合物中のカーボンナノチューブ(C)と溶剤との質量比が、好ましくは100:100〜100:1000、より好ましくは100:100〜100:900、さらに好ましくは100:150〜100:800である。
【0075】
工程(1A)では、例えば、ポリアミド(A)およびカーボンナノチューブ(C)を混合分散し、その後、得られた混合分散体に溶剤を加えて、樹脂混合物を調製することが好ましい。上記は、前記(a)の場合であるが、前記(b)、(c)の場合でも、同様に混合分散することができる。
混合分散方法としては、均一に混合分散できれば特に制限されないが、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、超音波ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー等を使用して分散処理を行うことができる。これらの分散機は、2種以上併用してもよい。特に、カーボンナノチューブ(C)の高分散性および損傷抑制の観点から、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。さらに、この処理後、カーボンナノチューブに損傷を与えることがない範囲で、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等を使用し、分散をさらに徹底化してもよい。
なお、混合分散にかかる処理温度、処理時間等は適宜調整し行う。
【0076】
<工程(1B)>
工程(1B)は、前記工程(1A)で得られた樹脂混合物を混練しながら、溶剤の除去を行い、次いで耐衝撃性改良剤(B)を添加し混練する工程である。混練方法としては特に制限はないが、例えば、押出機、ニーダーミキサー、バンバリーミキサー等を使用して行うことができる。なかでも、押出機を用いて混練することが好ましい。
溶剤除去時の処理温度および圧力は、使用するポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、溶剤等により適宜調整することができるが、高温で処理することが好ましい。処理温度については、好ましくは100〜370℃である。
この工程では、耐衝撃性改良剤(B)は押出機の途中から供給し混練することが好ましい。前記処理を経た後、最終的に、ペレット状やフレーク状に造粒されたポリアミド樹脂組成物が得られる。
また、カーボンナノチューブ(C)の含有量が多い高濃度品(マスターバッチ)に(A)および(B)成分を所定割合で混合した後、前記押出機やロールなどの混練機により造粒することもできる。
【0077】
次に、前述の(2);ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)を混練する際に用いる装置および混練条件を調整する方法について説明する。
上記(2)の方法としては、例えば、ポリアミド(A)、耐衝撃性改良剤(B)、およびカーボンナノチューブ(C)、並びに必要に応じて上記の他の成分を配合した混合物を混練する際に押出機を用い、該押出機におけるスクリューの形状、並びに混練時の温度、時間などの各種混練条件を適宜選択して混練を行うことにより、ポリアミド樹脂組成物を調製する方法が挙げられる。
【0078】
前述の(3)の方法は、カーボンナノチューブ(C)の分散性を向上させる目的で分散助剤を添加する方法である。分散助剤としては、例えば、アリール基を側鎖に有するポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
分散助剤の添加方法としては、前述の(1)の方法で記載した工程(1A)と同様の方法で混合分散させる方法などが挙げられる。
【0079】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、長手幅5μm以上の凝集塊が1mm
2あたり10個以下であり、8個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましい。上記凝集塊が1mm
2あたり10個以下のポリアミド樹脂組成物を用いることにより、本発明の薬液輸送用多層チューブは、最内層の表面に存在する、高さ5μm以上かつ長手幅20μm以上の凸部を表面積1mm
2あたり2個以下、該最内層の断面に存在する、長手幅5μm以上の凝集塊を断面積1mm
2あたり15個以下のものとすることができる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、好ましくは前述した製造方法により得ることができる。
なお本発明における該樹脂組成物中の凝集塊は、カーボンナノチューブ(C)の凝集に由来するものであり、カーボンナノチューブ(C)のみからなるもの、及び、カーボンナノチューブ(C)の他に樹脂成分((A)、(B)成分など)を含んでいるものの両方をいう。
当該ポリアミド樹脂組成物を用いると、本発明の薬液輸送用多層チューブの製造時に、押出機のフィルター詰まりが生じ難いため樹脂圧が上昇せず、また滞留劣化もなく安定した製造を行うことができるという効果も奏する。
本発明のポリアミド樹脂組成物中に存在する前記凝集塊の大きさ及び個数は、該樹脂組成物のペレットの断面を光学顕微鏡により観察、測定することにより求められ、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0080】
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層は、層厚みが0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.02〜0.7mmの範囲がより好ましく、0.03〜0.5mmの範囲がさらに好ましい。層厚みが0.01mm以上であれば、導電性、薬液バリア性、および耐衝撃性が良好である。また最内層の層厚みが1mm以下であれば、経済性、柔軟性が良好である。
薬液輸送用多層チューブの最内層の層厚みは、チューブ断面を顕微鏡で観察し、その実画像から測定することができる。
【0081】
本発明の薬液輸送用多層チューブの最内層の表面抵抗率は、10
3〜10
6Ω/□の範囲が好ましく、10
3〜10
5Ω/□の範囲がより好ましく、10
3〜10
4Ω/□の範囲がさらに好ましい。該表面抵抗率が10
6Ω/□以下、特に10
4Ω/□以下であれば、薬液輸送時の静電気発生を長期的に抑制できる。
薬液輸送用多層チューブの最内層の表面抵抗率は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0082】
〔最外層〕
次に、本発明の薬液輸送用多層チューブの最外層について説明する。
当該最外層を構成する材料としては、チューブの成形性の観点からは熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ビニリデンフルオライド重合体(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体等のフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)などのポリオレフィン系樹脂;ポリアセタール、ポリフェニレンスルファイド等のポリエーテル樹脂;半芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド等のポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0083】
最外層を構成する材料は、上記の中でも、該最外層の内側に接する層との密着性などを考慮して適宜選択することができる。例えば最外層の内側に接する層が前述の最内層であれば、最外層を構成する材料は前記最内層との密着性および薬液バリア性に優れる材料が好ましい。機械的特性、耐熱性、および薬液バリア性の観点からは、ポリオレフィン系樹脂およびポリアミド樹脂から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましく、ポリオレフィン系樹脂および脂肪族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料がより好ましく、脂肪族ポリアミドがさらに好ましい。
【0084】
ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−ブテン共重合体(EBR)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン系樹脂、および、これらのポリオレフィン系樹脂がアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等のカルボキシル基およびその金属塩(Na、Zn、K、Ca、Mg)、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物等の酸無水物基、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル等のエポキシ基等を有する化合物等で変性されたポリオレフィン系樹脂、などが挙げられる。
これらの中でも、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、およびポリプロピレン(PP)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0085】
ポリアミド樹脂としては、前述のポリアミド(A)で例示したポリアミドと同様のものを用いることができる。なかでも、脂肪族ポリアミドが好ましく、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)から選ばれる少なくとも1種の単独重合体、またはこれらを形成する原料モノマーを数種用いた共重合体が好ましく、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)およびポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)から選ばれる少なくとも1種の単独重合体がより好ましい。
【0086】
本発明の薬液輸送用多層チューブの最外層は、層厚みが0.1〜5mmの範囲が好ましく、0.1〜3mmの範囲がより好ましく、0.2〜1mmの範囲がさらに好ましい。層厚みが0.1mm以上であれば、耐衝撃性、伸び特性が良好である。また最外層の層厚みが5mm以下であれば、経済性が良好である。当該層厚みは、前記と同様に測定できる。
【0087】
〔中間層〕
本発明の薬液輸送用多層チューブの層構成は、前記最外層と最内層とを少なくとも有していれば特に制限はない。
図1に示すように、本発明の薬液輸送用多層チューブは最外層と最内層との間に少なくとも1層の中間層を有する構成でもよい。
当該中間層を構成する材料としては、前述の最外層を構成する材料として例示したものと同様の材料を用いることができる。なかでも、中間層としては薬液バリア性を有する層(以下「中間バリア層」ともいう)を少なくとも1層有することが好ましい。この観点からは、中間バリア層を構成する材料は、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)、フッ素系樹脂、半芳香族ポリアミド、および脂肪族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料が好ましく、EVOHおよび半芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料がより好ましい。
【0088】
フッ素系樹脂としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ビニリデンフルオライド重合体(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体などが挙げられる。なかでも、ETFEおよびPVDFから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0089】
半芳香族ポリアミドとしては、前述のポリアミド(A)で例示した半芳香族ポリアミドと同様のものを用いることができる。
半芳香族ポリアミドの中でも、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリアミド6T/11、ポリアミド6T/12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、パラキシリレンジアミンとセバシン酸との共重合体(PXD10)、ポリアミド10T/11、およびポリアミド10T/12から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0090】
脂肪族ポリアミドとしては、前述のポリアミド(A)で例示した脂肪族ポリアミドと同様のものを用いることができる。
なかでも、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、およびポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0091】
中間バリア層は、薬液バリア性を付与する点から、全体の層厚みが0.1〜1.0mmの範囲が好ましく、0.15〜0.5mmの範囲がより好ましい。また中間バリア層は2層以上有してもよく、この場合の「全体の層厚み」とは、中間バリア層の合計の層厚みをいう。
【0092】
また、最外層と最内層との間に、層間密着性を向上させるために接着層を含んでもよい。該接着層を構成する材料は、接着層と接する各層との密着性などを考慮して適宜選択することができる。例えば、最外層を構成する材料がポリエチレンの場合、好ましい接着層としては、無水マレイン酸変性ポリエチレンからなる接着層などが挙げられる。また、中間バリア層が接着層としての機能を兼ね備えていてもよい。接着層は、1層あたりの層厚みが0.01〜0.3mmの範囲が好ましく、0.03〜0.2mmの範囲がより好ましい。接着層は2層以上有してもよい。
【0093】
本発明の薬液輸送用多層チューブを構成する層の数は、導電性、薬液バリア性、耐衝撃性に優れ、他の部材への挿入時にも割れが発生し難く、伸び特性に優れるという本発明の効果の点、および生産性の観点から、2〜7層であることが好ましく、3〜6層であることがより好ましい。
薬液輸送用多層チューブの好ましい層構成としては、例えば以下の構成が挙げられる。なお以下の記載において、例えばA/B/Cという表記は、薬液輸送用多層チューブの最内層から順にA、B、Cの順に積層されていることを示す。
(1)最内層/最外層の2層構造
(2)最内層/中間バリア層/最外層、または最内層/接着層/最外層の3層構造
(3)最内層/接着層/中間バリア層/最外層、最内層/中間バリア層1/中間バリア層2/最外層、または最内層/中間バリア層/接着層/最外層の4層構造
(4)最内層/接着層1/中間バリア層/接着層2/最外層、最内層/中間バリア層1/中間バリア層2/接着層/最外層、最内層/接着層/中間バリア層1/中間バリア層2/最外層、最内層/中間バリア層1/接着層/中間バリア層2/最外層、または最内層/中間バリア層1/中間バリア層2/中間バリア層3/最外層の5層構造
(5)最内層/接着層1/中間バリア層1/中間バリア層2/接着層2/最外層、最内層/接着層1/中間バリア層1/接着層2/中間バリア層2/最外層、最内層/中間バリア層1/接着層1/中間バリア層2/接着層2/最外層、最内層/接着層/中間バリア層1/中間バリア層2/中間バリア層3/最外層、最内層/中間バリア層1/中間バリア層2/中間バリア層3/接着層/最外層、または最内層/中間バリア層1/中間バリア層2/中間バリア層3/中間バリア層4/最外層の6層構造
【0094】
なかでも、上記(2)〜(5)のいずれかの層構成が好ましい。さらに、上記(2)〜(5)の層構成において、中間バリア層がエチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)、フッ素系樹脂、半芳香族ポリアミド、および脂肪族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料から構成され、かつ最外層がポリオレフィン系樹脂およびポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種の材料から構成されることがより好ましく、中間バリア層がエチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)および半芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料から構成され、かつ最外層がポリオレフィン系樹脂および脂肪族ポリアミドから選ばれる少なくとも1種の材料から構成されることがさらに好ましい。
【0095】
本発明の薬液輸送用多層チューブの特に好ましい層構成は下記である。なお下記構成において、(a)〜(e)は連続し、かつ界面で互いに接着している。
<構成1>
(a)最内層
(b)少なくとも1層の接着層(任意)
(c)少なくとも1層のEVOHからなる中間バリア層(任意)
(d)少なくとも1層の接着層
(e)少なくとも1種の脂肪族ポリアミドからなる最外層
<構成2>
(a)最内層
(b)少なくとも1層の半芳香族ポリアミドからなる中間バリア層(任意)
(c)少なくとも1層の接着層(任意)
(d)少なくとも1種の脂肪族ポリアミドからなる最外層
<構成3>
(a)最内層
(b)少なくとも1層の半芳香族ポリアミドからなる中間バリア層(任意)
(c)少なくとも1層の接着層
(d)少なくとも1種のポリオレフィン系樹脂からなる最外層
【0096】
薬液輸送用多層チューブの外径は、薬液の流量を考慮し、肉厚は薬液の透過性が増大せず、また、通常のチューブの破壊圧力を維持できる厚さで、かつ、チューブの組み付け作業容易性および使用時の耐振動性が良好な程度の柔軟性を維持することができる厚さに設計されるが、限定されるものではない。好ましくは、外径は2.5〜200mm、内径は2〜190mm、肉厚は0.5〜20mmである。
【0097】
<薬液輸送用多層チューブの製造方法>
本発明の薬液輸送用多層チューブの製造は、射出成形、押出成形などの成形方法を用いて行うことができる。また上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用することもできる。
例えば、押出成形の場合は、層の数もしくは材料の数に対応する押出機を用いて、溶融押出し、ダイ内あるいは外において同時に積層する方法(共押出法)、あるいは、単層チューブを予め製造しておき、外側に順次、必要に応じて接着剤を使用して、樹脂を一体化せしめ積層する方法(コーティング法)が挙げられる。本発明の薬液輸送用多層チューブにおいては、共押出法により製造されることが好ましい。
【0098】
<薬液>
本発明の薬液輸送用多層チューブは、薬液バリア性、耐熱性に優れる。当該薬液としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール、フェノール系溶剤、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、二塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、尿素溶液、ガソリン、灯油、ディーゼルガソリン、含アルコールガソリン、含酸素ガソリン、含アミンガソリン、サワーガソリン、ひまし油ベースブレーキ液、グリコールエーテル系ブレーキ液、ホウ酸エステル系ブレーキ液、極寒地用ブレーキ液、シリコーン油系ブレーキ液、鉱油系ブレーキ液、パワーステアリングオイル、含硫化水素オイル、エンジン冷却液、ウインドウォッシャ液、医薬剤、インク、塗料などが挙げられる。また、本発明においては、上記例示の薬液を成分とする水溶液も本発明の薬液に内包されるものとする。
【0099】
本発明の薬液輸送用多層チューブは、特に燃料配管として好適であり、自動車用燃料配管として特に好適に用いることができる。自動車用燃料配管としては、フューエルフィラー・チューブ、フューエルデリバリー・パイプ、フューエルフィラーネック、クイックコネクターなどが挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における各評価は、以下に示す方法に従って行った。
【0101】
(樹脂組成物中の凝集塊の個数の測定)
樹脂組成物中の凝集塊の個数の計測は、該樹脂組成物ペレットの断面において、約9mm
2の範囲を観察した。このうち、観察範囲に存在する長手幅5μm以上の凝集塊の個数を測定し、断面積1mm
2あたりの個数を求めた。
【0102】
(最内層表面の凸部の個数および最内層断面の凝集塊の個数の測定)
最内層表面の凸部および断面の凝集塊の計測には実施例および比較例で作製した内径6mm/外径8mmのチューブを用いた。
最内層表面の凸部は、チューブを長さ方向に1/4割断して得られた長さ約15mmのチューブ断片の最内層表面を光学顕微鏡で観察し、該断片の中心付近から長さ方向に左右2mmずつ、かつ幅1mm(計4mm×1mm)の範囲に存在する凸部の大きさを計測した。凸部の高さは、三鷹光器(株)製の非接触3次元形状測定装置を用いて最内層表面を観察し、測定を行った。このうち、観察範囲に存在する高さ5μm以上かつ長手幅20μm以上の凸部の個数を測定し、断面積1mm
2あたりの個数を求めた。
最内層断面の凝集塊は、チューブを径方向に割断し、最内層の断面の全周を光学顕微鏡にて観察して、該断面に存在する凝集塊の大きさを計測した。このうち、観察範囲に存在する長手幅5μm以上の凝集塊の個数を測定し、断面積1mm
2あたりの個数を求めた。
【0103】
(導電性)
実施例および比較例で作製したチューブの最内層の表面抵抗率をSAE J2260の「7.9 Conductive Tubing」に記載の方法で測定し、導電性を評価した。
【0104】
(耐衝撃性)
東芝機械(株)製の射出成形機(型締力:80トン、スクリュー径:φ32mm)を使用して、シリンダ温度320℃および金型温度150℃の条件下で、Tランナー金型または二重Tランナー金型を用いて最内層形成用の樹脂組成物を成形し、試験片を作製した。ISO 179に準じて、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)を使用して、23℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃値を測定し、耐衝撃性を評価した。
【0105】
(伸び特性)
実施例および比較例で作製したチューブの引張伸び率をSAE J2260の「7.15 TensileStrength,Elongation」に記載の方法で測定し、伸び特性を評価した。
【0106】
(薬液バリア性)
最内層形成用の樹脂組成物を用いて幅100mm、厚み150μmのフィルムを作製し、液体透過率測定装置(GTRテック株式会社製)を使用して40℃、65RH%雰囲気下における薬液の透過係数を測定した。薬液として、イソオクタン/エタノール/トルエン=45/10/45(体積比)の模擬燃料を用いた。透過係数が5g・mmg/mm
2・atm・day未満を「A」、5〜10g・mmg/mm
2・atm・dayを「B」、10g・mmg/mm
2・atm・dayを超える場合を「C」とした。
【0107】
実施例1(薬液輸送用多層チューブの製造)
<最内層形成用樹脂組成物の調製>
ポリアミド(A)として、ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(モル比50/50)であるポリアミドを用い、耐衝撃性改良剤(B)としてエチレン−ブテン共重合体を無水マレイン酸で変性した変性重合体「タフマー」(三井化学(株)製)を用いた。
〔工程(1A)〕
ポリアミド(A)、カーボンナノチューブ(C)、滑剤であるエチレンビスステアリルアミド、並びにフェノール系酸化防止剤を表1に示す割合で混合した。さらに、溶剤としてエタノールを10質量部混合し、ミキサーを用いて25℃で10分間混合分散し、樹脂混合物を得た。
〔工程(1B)〕
前記樹脂混合物を、二軸押出機を用いて混練しながら、処理温度320℃条件でベントから溶剤を除去した。溶剤の除去を行いながら、耐衝撃性改良剤(B)を押出機途中から添加してさらに混練し、ペレット化して、最内層形成用の樹脂組成物を調製した。
【0108】
上記のようにして得られた樹脂組成物、および表1に示す各層を構成する材料を用いて、マイルファー社製チューブ成形機にて、シリンダ温度330℃の条件下で成形し、内径6mm/外径8mmの3層構造のチューブを作製した。チューブの層構成および各層の厚みは表1に示すとおりである。
作製したチューブ、および最内層形成用樹脂組成物を用いて作製した各種物性評価用の試験片を用いて、前述の方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
実施例2
最内層形成用の樹脂組成物において、カーボンナノチューブ(C)の配合量を表1に示すとおり変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で薬液輸送用多層チューブを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
比較例1
実施例1の工程(1A)および工程(1B)を行わず、表1に示す最内層形成用樹脂組成物に含まれる各成分を一括して混合し、二軸押出機を用いて温度320℃で混練し、次いでペレット化して、最内層形成用樹脂組成物を調製した。該樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の方法で薬液輸送用多層チューブを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
なお、表1に示す各成分は下記のとおりである。
・ポリアミド(A)
「ジェネスタ GC98010」、(株)クラレ製、ポリアミド9T(ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(モル比50/50)であるポリアミド)
・耐衝撃性改良剤(B)
「タフマー」、三井化学(株)製、エチレン−ブテン共重合体を無水マレイン酸で変性した変性重合体
・カーボンナノチューブ(C)
直径1nm、アスペクト比100のカーボンナノチューブ
・滑剤
エチレンビスステアリルアミド
・酸化防止剤
フェノール系酸化防止剤
・中間層材料
N1001D−U83/02:「ジェネスタ N1001D−U83/02」、(株)クラレ製、ポリアミド9T(ジカルボン酸単位がテレフタル酸単位であり、ジアミン単位が1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位(モル比50/50)であるポリアミド)
・最外層材料
PA12:ポリアミド12(ポリドデカンアミド)
【0113】
表1に示すとおり、本発明の薬液輸送用多層チューブは導電性、耐衝撃性、薬液バリア性、および伸び特性に優れることがわかる。
また、
図2〜4はそれぞれ、実施例1、実施例2、および比較例1の薬液輸送用多層チューブの最内層表面および断面の光学顕微鏡写真である。
図2〜4において、(a)は最内層表面、(b)は多層チューブ断面の光学顕微鏡写真であり、(b)においては、上から最内層、中間層、最外層の順に積層されている。
図2および3の多層チューブにおいては、最内層表面の凸部、および断面の凝集塊もほとんど観察されないことがわかる。これに対し
図4の多層チューブにおいては、最内層表面および断面に凸部および凝集塊が多数観察される。