【文献】
ПОВАРОВА К Б、外5名,РАЗРАБОТКА ТЯЖЕЛЫХ СПЛАВОВ НА ОСНОВЕ ТУГОПЛАВКИХ МЕТАЛЛОВ (W,Mo,Re) КАК МАТЕРИАЛОВ С ВЫСОКИМ СОПРОТИВЛЕНИЕМ ВОЗДЕИСТВИЮ УДАРНЫХ ВОЛН,Metally,ロシア,2004年 1月,No.1,Page.120-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レニウムおよびモリブデンを具備する固溶強化材料とタングステンとを含む合金であって、前記固溶強化材料は、レニウムとモリブデンを合計で41質量%以上60質量%以下の範囲で含み、タングステンを40質量%以上含み、前記合金の結晶粒径の長径をL、短径をWとしたとき、Wが5μm以上20μm以下であり、かつ結晶粒のアスペクト比L/Wが1.7以上3.0以下であることを特徴とする軽量タングステン合金。
前記固溶強化材料が、レニウムを10質量%以上30質量%以下、および炭化物を0.3質量%以上2.0質量%以下を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軽量タングステン合金。
【背景技術】
【0002】
タングステンは、金属中で最も高融点を有することから、各種高温部材として用いられ
ている。一方、タングステンは、高温時に再結晶化することにより脆化する性質があるた
め、延性を改善したレニウムタングステン合金が知られている。レニウムタングステン合
金はその優れた高温特性を活かして、TVの電子銃用のヒータ材、熱電対等に用いられて
いる。さらに近年は、このような静的な用途のみならず、特開2004−358556号
公報(特許文献1)に開示されたように、高温で高速回転する摩擦攪拌接合用工具等、動
的な負荷を受ける用途に適用されることが多くなってきた。
【0003】
摩擦攪拌接合とは、従来主として溶接技術によって行われてきた接合技術分野における新
規の接合技術の一つである。従来の溶接技術では、材料の接合部分が溶融し、凝固する過
程で亀裂が発生したり、接合部分に劣化が生じるという問題があった。摩擦攪拌接合はこ
の溶融および凝固に伴って発生する亀裂などの接合部分に発生する問題点を解決する接合
方法のひとつであり、工具を接合箇所において高速回転させることによる摩擦によって固
相結合させる加工である。
【0004】
しかしながら、レニウムタングステン合金は、タングステンの密度が19.23g/c
m
3、レニウムの密度が21.02g/cm
3と高密度であり、例えばレニウムを30%
含有するレニウムタングステン合金では、その密度は、19.75g/cm
3となり、高
密度となるため、工具が非常に重いものになってしまう。そのため、高温で高速回転する
用途に適用する場合は、冷却機構に加え、モータ等へのトルクに対する高負荷に対応する
ため、モータを大型にする必要性が生じ、装置が大型化し、その結果装置が非常に高価な
ものとなるという問題が生じている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の軽量タングステン合金について詳述する。実施形態の軽量タングステ
ン合金は、タングステンに固溶することによってタングステン合金の強度を向上させるこ
とが可能な元素(固溶強化材料)がタングステンに固溶しているタングステン合金であり
、前記固溶強化材料を40質量%を超え60質量%以下の範囲で含有するものである。
【0010】
固溶強化材の含有量が40質量%以下の場合、タングステン含有量が多くなり、タングス
テン合金の軽量効果が得られない。また、固溶強化材の含有量が60質量%を超えると、
合金の母材となるタングステンの含有量が少なくなるため、合金の強度が低下し、機械特
性を要求する工具などに適用することができなくなる。前期固溶強化材料の含有量は、4
0質量%を超え55質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0011】
前記固溶強化材料は、レニウムおよびモリブデンを具備することが好ましい。さらに、レ
ニウムを3質量%以上30質量%含有することが好ましい。レニウムの含有量が3質量%
未満の場合、タングステンに対するレニウムの固溶強化効果が著しく低下する。また、レ
ニウムの含有量が30質量%を超えると、合金組織に金属間化合物が生成するため、材料
が脆くなる。レニウムの含有量は、10質量%以上30質量%以下であることがより好ま
しく、さらに好ましくは20質量%以上26質量%以下である。
【0012】
実施形態の軽量タングステン合金は、レニウムを20質量%以上30質量%以下含み、か
つ炭化物を0.3質量%以上2.0質量%以下含み、レニウム、炭化物、およびモリブデ
ンの含有量の合計が、40質量%を超え55質量%以下であることが好ましい。炭化物を
0.3質量%以上2.0質量%以下含有すると、タングステン合金の材料強度が向上する
。炭化物の含有量が0.3質量%より少ない場合、炭化物による強化作用が不十分であり
効果が得られない。また炭化物の含有量が2.0質量%より多いと、タングステン合金が
脆くなる。また、焼結性が悪くなるためタングステン合金材料の密度が低くなり、材料の
強度が低下する。なお、添加する炭化物は特に限定されないが、HfC、TiC、ZrC
等が適している。
【0013】
実施形態の軽量タングステン合金は、密度が18.0g/cm
3以下であり、相対密度は
90%以上であることが好ましい。密度が18.0g/cm
3を超えると、タングステン
合金の軽量効果が得られない。また、相対密度が90%を下回る場合は、強度が低下し、
タングステン合金の特性を発揮することができない。相対密度は95%以上であることが
より好ましい。
【0014】
実施形態の軽量タングステン合金が、レニウム−モリブデン−タングステンの三元合金の
場合は、相対密度は下記によって求めることができる。
タングステンの密度を19.25g/cm
3、モリブデンの密度を10.28g/cm
3
、レニウムの密度21.02g/cm
3とし、レニウム含有量をA(質量%)、モリブデ
ン含有量をB(質量%)とすると、真密度ρ(g/cm3)は下記の式となる。
真密度ρ(g/cm
3)=100/((A/21.02)+(B/10.28)+(10
0−A−B)/19.25))
【0015】
得られたρ(g/cm
3)をその組成のタングステン合金の真密度とし、アルキメデス
法等で測定した実際の密度を真密度で割り、百分率で表したものを相対密度とする。原料
粉末の粒径、および焼結温度、鍛造、HIP等の各工程の製造条件を調整することによっ
て、相対密度を所定の値とすることができる。
【0016】
実施形態の軽量タングステン合金が、レニウム−モリブデン−炭化物−タングステンの四
元合金の場合は、相対密度は下記によって求めることができる。
上記したタングステンの密度、モリブデンの密度、レニウムの密度、炭化物の密度とそれ
ぞれの含有量の割合(質量%)を用いて、真密度ρ(g/cm
3)を下記の式によって求
める。ここで、炭化物の密度をx(g/cm3)、含有量をC(質量%)とする。
真密度ρ(g/cm
3)=100/((A/21.02)+(B/10.28)+(C/
x)+(100−A−B−C)/19.25)
【0017】
得られたρ(g/cm
3)をその組成のタングステン合金の真密度とし、アルキメデス
法等で測定した実際の密度を真密度で割り、百分率で表したものを相対密度とする。
【0018】
実施形態の軽量タングステン合金は、ビッカース硬さが400HV以上であることが好ま
しい。ビッカース硬さが400HVを下回る場合、高温強度および延性の両方の特性が低
下する。ビッカース硬度のより好ましい範囲は、420HV以上である。
【0019】
実施形態による軽量タングステン合金は、不純物としてのFe、Mo、Si、Mg、A
l、Caの合計量が200ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは100p
pm以下であり、70ppm以下であることがより好ましい。不可避不純物であるこれら
の元素は、原料または製造工程の影響により含有されるが、その含有量が前記の範囲内に
あることにより、実施形態による軽量タングステン合金の強度や加工性が良好になる。
【0020】
また、実施形態の軽量タングステン合金は、結晶粒の長径をL、短径をWとしたとき、短
径Wが20μm以下であることが好ましい。20μmより大きい場合は、材料の硬度が不
足する。さらには、短径Wは5μm以上であることが好ましい。短径Wが5μmより小さ
い場合は焼結が十分進んでいない状態であるため、材料の強度が不足する。
【0021】
また、結晶粒の形状において、アスペクト比L/Wが1.7以上であることが好ましい。
アスペクト比L/Wが1.7より小さい場合、高温時に材料にかかる応力によって結晶粒
界が剥離しやすくなるため、材料の強度が低下する。さらには、アスペクト比L/Wは、
3.0以下であることが好ましい。3.0より大きい場合は、最終形状への加工の際にク
ラックが発生しやすくなる。
【0022】
実施形態による軽量タングステン合金の結晶粒の長径、短径は、金属顕微鏡で拡大写真(
倍率:500倍)を撮影し、200μm×200μmの領域において、等間隔に3本の線
を引き、線が横切った結晶について粒径を測定し、長径、短径、それぞれの測定値の平均
値を対象とするタングステン合金のLとWとする。
【0023】
実施形態の軽量タングステン合金が炭化物を含有する場合、炭化物粒子は、平均粒径5
μm以下、かつ最大径15μm以下であることが好ましい。炭化物粒子の平均粒径が5μ
mを超える場合、または最大径が15μmを超える場合は、炭化物粒子が大きいため、タ
ングステン合金の分散状態が不均一になり、また焼結性を低下させるため、材料の強度が
低下する。
【0024】
実施形態の軽量タングステン合金は、摩擦攪拌接合用工具に好適に用いられる。摩擦攪拌
接合では、工具が高速で回転するため、工具が重いと、モーターへのトルクの負荷が大き
くなり、モータを大型化したり、工具の冷却機構が必要となるなど、装置が大型化し、コ
ストが増大化する問題がある。実施形態のタングステン合金は、従来のタングステン合金
による工具と同等の加工性能を発揮すると同時に工具の軽量化を実現したことにより、装
置に対する負荷を低減し、また、装置の設計や構造に起因するコストの低減に貢献する。
【0025】
実施形態の軽量タングステン合金による摩擦攪拌接合用工具は、摩擦面の表面粗さRaが
5μm以下であることが好ましい。摩擦面は摩擦攪拌接合において、接合部材の押圧面と
の密着性が必要である。この密着性が低いと、摩擦熱を相手材に十分伝播することができ
なくなる。表面粗さRaが5μmを超えると、押圧面との密着性が低下する。摩擦面の表
面粗さRaは3.5μm以下であることがより好ましい。
【0026】
次に、実施形態の軽量タングステン合金の製造方法について説明する。実施形態のタング
ステン合金は前述の構成を有すればその製造方法は特に限定されるものではないが、効率
の良い製造方法として以下の方法が挙げられる。
【0027】
まず、原料となるタングステン粉末を用意する。タングステン粉末は平均粒径1〜10μ
mが好ましい。平均粒径が1μm未満では、タングステン粉末が凝集し易く、レニウム成
分やモリブデン成分等の固溶強化材成分を均一分散させ難い。また、10μmを超えると
焼結体の平均結晶粒径が100μmを超えてしまい、合金の強度が低下する。またタング
ステン粉末の純度は、99.0重量%以上、さらには99.9重量%以上の高純度タング
ステン粉末であることが好ましい。
【0028】
次に、レニウム成分として、レニウム粉末を用意する。レニウム粉末は、平均粒径が1〜
4μmであることが好ましい。平均粒径が1μm未満では、レニウム粉末の凝集が大きく
均一分散させ難い。また、4μmを超えるとタングステンに均一に固溶させることが難し
い。均一分散という観点から、レニウム粉末の平均粒径≦タングステン粉の平均粒径とい
う関係であることが好ましい。またレニウム粉末の純度は、98.0重量%以上、さらに
は99.9重量%以上の高純度レニウム粉末であることが好ましい。
【0029】
次に、モリブデン成分として、モリブデン粉末を用意する。モリブデン粉末は、平均粒径
が2〜6μmであることが好ましい。平均粒径が2μm未満では、モリブデン粉末が凝集
するため、均一分散させ難い。また6μmを超えると、タングステン合金に均一に固溶さ
せることが難しい。モリブデン粉末の平均粒径は、3〜5μmであることがより好ましい
。またモリブデン粉末の純度は、99.0重量%以上、さらには99.9重量%以上の高
純度モリブデン粉末であることが好ましい。
【0030】
さらに、炭化物成分を含有する場合は、炭化物成分の粉末を用意する。炭化物は、HfC
、TiC、ZrC等が好ましい。炭化物粉末の平均粒径は、0.5〜5μmであることが
好ましい。平均粒径が0.5μm未満では、炭化物粉末の凝集が大きく均一分散させ難い
。また、平均粒径が5μmを超えるとタングステン合金の結晶粒径に均一分散させ難くな
る。均一分散という観点から、炭化物粉末の平均粒径≦タングステン粉末の平均粒径とい
う関係であることが好ましい。
【0031】
また、必要に応じ、K、Si、Alから選ばれる少なくとも1種以上のドープ材を添加し
てもよい。これらのドープ材を添加することにより再結晶特性を向上させることができる
。再結晶特性を向上させることにより、再結晶熱処理を行なった際に均一な再結晶組織を
得やすくなる。ドープ材の含有量は、0.1質量%以下が好ましい。また、ドープ材の含
有量の下限は特に限定されるものではないが、0.001質量%以上であることが好まし
い。0.001質量%未満では添加の効果が小さい。また、0.1質量%を超えると焼結
性および加工性が悪くなり量産性が悪くなる。ドープ材の含有量は0.001質量%以上
0.01質量%以下がより好ましい。
【0032】
次に、各原料粉末を均一混合する。混合工程は、ボールミルなどの混合機を用いて行うこ
とが好ましい。混合工程は8時間以上、さらには20時間以上行なうことが好ましい。ま
た、必要に応じ、有機バインダーや有機溶媒と混合してスラリーとしてもよい。また、必
要に応じ、造粒工程を行ってもよい。
【0033】
次に、得られた混合粉末をCIP成形用のゴム型に積層充填し、1〜4ton/cm
2の
圧力で成形し、成形体を得る。次に、得られた成形体を焼結する。焼結工程は、2000
〜2200℃で、水素雰囲気、アルゴンなどの不活性雰囲気、または真空雰囲気中で8〜
32時間焼結を行う。焼結体の平均結晶粒径及び相対密度が規定の範囲内になるように、
CIP成形圧力、焼結温度、焼結時間を制御する。
【0034】
前記焼結工程後、必要に応じて、熱処理、鍛造、圧延、またはHIP処理を行ってもよい
。熱処理を行なう場合は、1300〜1600℃で行うことが好ましい。また、HIP処
理は、処理温度1600〜1900℃、圧力1500〜2000気圧、処理時間4時間以
上の条件で行うことが好ましい。
【0035】
得られたタングステン合金材料を、工具等の用途に用いる場合は、機械加工によって、所
定の形状に加工する。摩擦攪拌接合用工具に用いる場合は、摩擦面をRa5μm以下にす
る。好ましくは3.5μm以下にする。
【0036】
上述したように、レニウムおよびモリブデンを固溶強化材として含有するタングステン
合金において、その結晶粒径を適切に制御することによって、従来のレニウム−タングス
テン合金と同等かそれ以上の特性を有し、かつ軽量化したタングステン合金を提供するこ
とができる。また、この実施形態のタングステン合金を工具に適用した場合は、工具の軽
量化により、設備への負担を低減し、設備の小型化や、設備寿命の長期化などを実現する
ことによって、コスト低減に貢献する。
【実施例】
【0037】
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
【0038】
(実施例1〜19、比較例1〜5)
原料粉末として平均粒径が2μmのタングステン粉末(純度99.99質量%)、1μm
のレニウム粉末(純度99.9質量%)、4μmのモリブデン粉末(純度99.9質量%
)、および1μmのHfC粉末(純度99.0質量%)を準備した。
【0039】
各原料粉末の所定量を計量し、ボールミルで12時間混合し、原料混合粉末を調整した。
次に、各原料混合粉末をφ70のゴム型に入れ、2ton/cm
2で成形し、成形体を作
製した。得られた成形体を水素フロー中で、2200℃で20時間の焼結を行った。
【0040】
得られた焼結体を、鍛造加工率60%にて鍛造を行い、その後水素雰囲気中にて1500
℃でアニール熱処理を行なった。得られた材料よりサンプルを切り出し、材料特性の評価
を行った。その結果を表1に示す。HfCの密度は12.2g/cm
3とした。また、表2
に、1000℃の高温引っ張り強さおよび伸びを測定した結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1、表2の結果により、本願発明にかかる実施例1〜実施例19の材料は、材料の密
度が低く、工具にした場合でも重量を低く抑えることを可能すると同時に、従来同等以上
の硬度を有していることを確認した。
【0044】
(実施例20〜23、比較例6〜9)
実施例1と異なる製造条件で、異なる結晶粒径の材料を製造し、実施例1および実施例8
で得られた材料と材料特性を比較した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3の結果により、本願実施形態のタングステン合金は、原料粉末の粒径や、純度などの
条件や、製造条件を最適化し、焼結体の結晶粒径を最適化することによって、材料の硬度
を向上させることができることが確認された。
【0047】
(実施例24、比較例10)
実施例1により得られた材料を機械加工により、摩擦攪拌接合用の工具を製作した。実施
例1の材料の表面粗さRaは3.8μmであった。また比較例10の材料はRaが5μmより
大きくなるように加工した。加工後表面粗さRaを測定したところ、Raは5.8μであった
。実施例1で得られた工具を用いて、摩擦攪拌接合を行ったところ、実施例1による工具
を用いた場合の接合状態は良好であった。また、表面粗さRaが5.8μmの比較例10に
よる工具を用いて摩擦攪拌接合を行ったところ、十分な接合強度を得ることができなかっ
た。
【0048】
以上の結果より、レニウム−モリブデン系タングステン合金の組成比率を本願による組
成比率とし、結晶粒径を適切な範囲とする製造工程を採用することにより、従来材と同等
かそれ以上の機械特性を有し、かつ材料の軽量化を達成できることを確認した。さらに、
この実施形態による軽量タングステン合金を摩擦攪拌用接合用工具など、特に回転を伴う
ような工具に適用した場合、設備への負担を従来の材料に比べて、大幅に軽減させること
が可能となる。