特許第6860410号(P6860410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860410微量のVを含有するNi−Cr基合金ろう材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860410
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】微量のVを含有するNi−Cr基合金ろう材
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20210405BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B23K35/30 310D
   C22C19/05 B
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-85789(P2017-85789)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-183790(P2018-183790A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】福本 新吾
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/198790(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/019876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 19/00 − 19/07
C22C 30/00 − 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Cr:15%を超え30%未満、
P:3%を超え12%未満、
Si:8%未満(0%を含む)、
C:0.01%を超え0.06%未満、
Ti+Zr:0.1%未満(0%を含む)、
V:0.01%を超え0.1%未満、
Al:0.01%未満(0%を含む)、
O:0.005%を超え0.025%未満、
N:0.001%を超え0.050%未満
を含み、残部Niおよび不可避的不純物からなり、式(1)を満たすことを特徴とするNi−Cr基合金ろう材。
(1)0.2≦0.24V%/C%≦1.0
【請求項2】
質量%で、
Cr:15%を超え30%未満、
P:3%を超え12%未満、
Si:8%未満(0%を含む)、
C:0.01%を超え0.06%未満、
Ti+Zr:0.1%未満(0%を含む)、
V:0.01%を超え0.1%未満、
Al:0.01%未満(0%を含む)、
O:0.005%を超え0.025%未満、
N:0.001%を超え0.050%未満、
Nb:0.1%未満(0を含まない)
を含み、残部Niおよび不可避的不純物からなり、式(2)を満たすことを特徴とするNi−Cr基合金ろう材。
(2)0.2≦(0.24V%+0.13Nb%)/C%≦1.0
【請求項3】
質量%で、
Mn:1%未満、
Fe:30%未満、
Co:10%未満、
Mo:5%未満、
Cu:7.5%未満
を含むことを特徴とする請求項1もしくは2のいずれか1項に記載のNi−Cr基合金ろう材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス製熱交換器などの製造に用いる、溶融温度が低く、耐食性、強度に優れる、Vを微量添加したNi−Cr基合金ろう材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステンレス鋼のろう付けには耐食性、耐酸化性に優れるNi基合金ろう材が用いられており、特に、JIS規格であるBNi−2(Ni−Cr−Fe−B−Si合金)、BNi−5(Ni−Cr−Si合金)、BNi−7(Ni−Cr−P合金)が多く用いられてきた。上記3種のNi基ろう材にはそれぞれに長所、短所があり、用途により使い分けられてきた。例えば、BNi−2は液相線温度が約1000℃と比較的低いが、耐食性が必ずしも十分ではなく、BNi−5は耐食性に優れるが液相線温度が約1140℃であり、高いろう付け温度を要する。
【0003】
また、BNi−7は液相線温度が約900℃と非常に低く、耐食性も比較的優れるが高価な原料を必要とする。このように、低い液相線温度と優れた耐食性を兼備し、安価な原料からなるNi基ろう材がなく、新規合金ろう材の開発が強く求められていた。これらの課題に対し、低い液相線温度と高いろう付強度を有するNi基ろう材が従来例1に提案されている。このNi基ろう材は、高い耐食性のためにCrを含有させ、低い液相線温度のためにPを含有させている。
【0004】
一方、近年、ステンレス製熱交換器は、自動車用のEGRクーラーとして多く用いられるようになってきており、急激に需要が高まっている。ここで、自動車用部品であるがゆえに、コストダウンの要求も極めて高く、ろう付け工程のコストダウンも進められるようになってきた。すなわち、従来は高真空雰囲気や高純度アルゴン雰囲気のバッチ式の炉により行われてきたろう付けを、比較的、真空度やアルゴン純度が低く微量な酸素が残存する雰囲気で実施したり、同様に純度の低い窒素雰囲気で実施したり、あるいはバッチ炉ではなく連続炉で実施したりすることで、低価格化が検討されるようになってきた。このようなろう付け雰囲気においては、従来のろう付け環境では全く問題にならなかったろう付け不良(残留ポア)が発生する課題が顕在化してきた。
【0005】
従来の技術として、例えば、特開2015−51459号公報(特許文献1)では、ステンレス製熱交換器などの製造に用い溶融温度が低く安価で耐食性、強度に優れるCuを添加したNi−Cr−Fe基合金ろう材が開示されている。また、WO2009/128174号公報(特許文献2)には、各種ステンレス鋼、特にフェライト系ステンレス鋼基材部品をろう付する際に、実用的な温度(1120℃以下)でろう付でき、基材に対する濡れ性が良好で、基材の組織が粗大化せず、硫酸や硝酸に対する耐食性に優れ、高い強度が得られ、しかも低コストな鉄基耐熱耐蝕ろう材が開示されている。
【0006】
また、特開2013−208650号公報(特許文献3)では、高合金化鉄系ろう付けフイラー材料、ろう付け方法、該高合金化鉄系ろう付けフイラー材料でろう付けされた製品について開示されている。また、特開2012−183574号公報(特許文献4)では、高い排気系耐蝕性要求される、排気再循環装置(EGR)等における排ガス熱交換器等の耐食性からなる自動車用排気系部品をろう付けにより組み立て製造するのに好適なニッケル基合金ろう材が開示されている。さらに、WO2013/077113号公報(特許文献4)では、汎用の熱交換器やEGRクーラ、廃熱回収装置などの各種熱交換器用途に用いられて、各種ステンレス鋼などの部材を接合するろう材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−51459号公報
【特許文献2】WO2009/128174号公報
【特許文献3】特開2013−208650号公報
【特許文献4】特開2012−183574号公報
【特許文献5】WO2013/077113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題を解消するために、発明者らは鋭意検討を進めた結果、ろう材中の微量元素の量と比率を制御することで、この新たなろう付け不良発生の課題を改善できることを見出し、本発明に至った。なお、本発明において最も重要なポイントは、Vを微量添加し、C量との比率を所定の範囲にすることである。ここで、Ni基合金ろう材へのV添加については、上述した特許文献1〜3などに記載がある。
【0009】
また、それぞれ所定量までの添加において、特許文献1では、わずかながら抗折強度を上昇させる効果もあり必要に応じて添加してもよいとされ、特許文献2では、ろう材としての特性に影響を及ぼすものではないとされ、特許文献3では、具体的な効果は示されず、「範囲内の量であってもよい」とされているに過ぎない。このように、従来のV添加は特定の特性を改善するための必須元素ではなく、大きな影響のない選択元素として添加してもかまわない元素として扱われてきた。
【0010】
これに対し、本発明におけるV微量添加は、ろう付け不良の発生を抑制する明確な目的のための必須添加元素であり、所定の添加量およびC量との比率により効果が見られること、ならびに、上述した近年のろう付け雰囲気においてガス化しやすいCをろう材中に固定すると考えられる原理については、いずれの従来例にも記載はなく、その示唆すらない。なお、従来のように高真空や高純度アルゴン雰囲気でのろう付けでは顕在化していなかった課題であったため、このような検討すら実施されていなかったものであり、V微量添加によるろう付け不良抑制効果は、本発明によって初めて得られた新規知見である。
【0011】
すなわち、本発明は、ステンレス製熱交換器などの製造に用いる、溶融温度が低く、耐食性、強度に優れる、Vを微量添加したNi−Cr基合金ろう材を提供するものである。本発明における最大の特徴は、V微量添加によりろう付け不良を抑制できることであり、所定量および所定の(C量に対する)比率とすることが必要である。以下では、この知見に至った経緯を述べる。
【0012】
ステンレス製熱交換器は、多くの場合、厳しい腐食環境で使用される。したがって、これを製造するためのろう材にも高い耐食性が要求され、多くのNi基ろう材には多量のCrが添加されている。ここでCr原料は、一般にCを含んでおり、C含有量の低いCr原料は著しく高価である。したがって、自動車部品としてのコストダウンに寄与するために安価なNi基ろう材を製造するためには、微量のCが混入したろう材とせざるを得ないと考えた。しかしながら、Cが混入したろう材でろう付け実験を実施すると、ろう付け部に残留ポアが発生することがわかった。
【0013】
このような残留ポアはC量とともに増加したことから、ろう付け雰囲気における残留酸素との反応によるガスの発生が原因ではないかと考えた。そこで、エリンガム図より、Cとの親和性が高いと考えられる元素(Ti,Zr,V,Nb)を選択し、これら元素を添加して再度実験を行なった。その結果、Vを添加した場合に残留ポアが抑制されることを見出した。またVの一部をNbに置換しても効果が見られた。さらにV量やNb量を、C量と所定の比率にする必要があることもわかった。すなわち、C量に対し、VやNbの量が不足していると、ろう材中に固定しきれなかったCがガス化するものと考えられる。
【0014】
一方、VやNbよりも炭化物形成能の高いTi、Zrにおいては、ろう接部に多量の酸化物や窒化物が生成し、これらが欠陥になる結果となった。すなわち、Ti,ZrはV,NbよりCをろう材中に固定する効果がたとえ高いとしても、それ以上に雰囲気ガスとの反応性が高く、Ti,Zr自身の酸化物、窒化物となり欠陥を発生してしまうと考えられた。
【0015】
以上のことから、酸素、窒素との反応性が過度に高くなく、Cとの反応性が比較的高いVやNbが最適な元素であることが見出された。なお、V,Nbほどではないが、炭化物を生成しやすい元素であるCr,Mo,Wについては、V、NbほどCをろう材中に固定する効果は見られなかった。
【0016】
本発明における第2の特徴は、酸素、窒素と反応性の高いTi,Zr,Alの上限を厳しく規制したことである。従来の例において、例えばTiは0.001〜1%(特許文献2)、0.0〜2.5%(特許文献3)、0.01〜3%(特許文献4)、Zrは0.001〜1%(特許文献2)、Alは0.001〜1%(特許文献2)、0.0〜2.5%(特許文献3)、0.01〜0.10%(特許文献5)添加され、いずれの上限値も本発明の上限値より高く、本発明のように低い上限値に厳しく規制した例はない。これは、本発明のようにろう付け雰囲気における残存酸素や窒素と、これら元素の反応によるろう付け不良を念頭に検討されたものでないためである。
【0017】
本発明における第3の特徴は、O,Nの適正範囲を設定したことである。これら元素もろう付け部において酸化物や窒化物といった欠陥を生成するため、上限を厳しく規制する必要がある。以上の特徴を鋭意検討により見出すことで、本願発明に至った。
【発明の効果】
【0018】
ステンレス製熱交換器などの製造に用いる、溶融温度が低く安価で、耐食性、強度に優れる、Vを微量添加したNi−Cr基合金ろう材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の成分組成についての限定理由を説明する。
Cr:15%を超え30%未満
本発明合金においてCrは耐食性改善のため必須元素である。しかしながら、添加量と共に液相線温度を上昇させてしまう。15%以下の添加では耐食性改善が十分でなく、30%以上添加すると液相線温度が過度に上昇してしまう。好ましくは18%を超え28%未満、より好ましくは20%を超え26%未満である。
【0020】
P:3%を超え12%未満
本発明合金においてPは液相線温度の低下のため必須元素である。しかしながら、過度に共晶組成を超えて添加すると液相線温度は上昇するとともに抗折強度が低下してしまう。3%以下または12%以上の添加量ではいずれも液相線温度が高くなってしまう。好ましくは4%を超え10%未満、より好ましくは5%を超え8%未満である。
【0021】
Si:8%未満
本発明合金においてSiは補助的に液相線温度を低下させるためにPと併用して添加できる元素であり、必要に応じて添加できる。しかしながら、Pと同様に過度に共晶組成を超えて添加すると液相線温度は上昇してしまうとともに抗折強度が低下してしまう。8%以上の添加量では液相線温度が高くなってしまう。好ましくは2%を超え7%未満、より好ましくは3%を超え6%未満である。
【0022】
C:0.01%を超え0.06%未満
本発明においてCはろう付け部に残留ポアを生成してしまうため、上限を厳しく規制する必要のある元素である。0.01%以下の含有量とするためには、Crをはじめ高純度の原料を使用する必要があり、コスト高となる。0.06%以上添加するとろう付け雰囲気との反応によると推測されるガスの発生によると考えられる残留ポアが多く生成する。好ましくは0.02%を超え0.05%未満、より好ましくは0.03%を超え0.04%未満である。
【0023】
Ti+Zr:0.1%未満
本発明合金においてTi,Zrはいずれもろう付け雰囲気ガスと反応し、酸化物や窒化物を形成する元素であり、ろう付け欠陥を発生する元素であるため、その合計の上限を厳しく制限する必要がある元素である。好ましくは0.08%未満、より好ましくは0.06%未満である。
【0024】
V:0.01%を超え0.1%未満
本発明合金においてVはろう材中に混入するCと反応し、ろう材内にCを固定しガスの発生による残留ポアを抑制するための必須元素である。0.01%以下では残留ポアが多く生成し、0.1%以上では雰囲気と反応し、酸化物や窒化物を生成しろう付け欠陥となる。好ましくは0.03%を超え0.09%未満、より好ましくは0.05%を超え0.08%未満である。
【0025】
Al:0.01%未満
本発明合金においてAlは雰囲気と反応し、酸化物を生成しろう付け欠陥となるため、上限を厳しく制限する必要のある元素である。0.01%以上では酸化物によるろう付け欠陥が多くなる。好ましくは、0.005未満、より好ましくは、0.003%未満である。
【0026】
O:0.005%を超え0.025%未満
本発明合金においてOは酸化物としてろう付け欠陥となる元素であり、上限を厳しく規制する必要がある元素である。0.005%以下にするためには水素還元などの高価な特殊処理が必要となり、0.025%以上では酸化物によるろう付け欠陥が多くなる。好ましくは0.006%を超え0.020%未満、より好ましくは0.007%を超え0.015%未満である。
【0027】
N:0.001%を超え0.050%未満
本発明においてNは窒化物としてろう付け欠陥となる元素であり、上限を厳しく規制する必要がある元素である。0.001%以下とするためには特殊な脱窒素処理が必要であり工程費用が高くなり、0.050%以上では窒化物によるろう付け欠陥が多くなる。好ましくは0.003%を超え0.040%未満、より好ましくは0.004%を超え0.030%未満である。
【0028】
Nb:0.1%未満
本発明合金においてNbは、Vの補助的な元素として、式(2)のとおり、Vほどではないが、ろう材中に混入するCと反応し、ろう材内にCを固定しガスの発生による残留ポアを抑制するために必要に応じて添加できる元素である。0.1%以上では雰囲気と反応し、酸化物や窒化物を生成しろう付け欠陥となる。好ましくは0.08%未満、より好ましくは0.05%未満である。
【0029】
Mn:1%未満、Fe:30%未満、Co:10%未満、Mo:5%未満、Cu:7.5%未満
本発明合金においてMn,Fe,Co,Mo,Cuは所定の範囲で添加可能な元素である。ただし、Mnは1%以上で酸化物によるろう付け欠陥を多く発生し、Feは30%以上で液相線温度が過度に高くなり、Coは10%以上で原料コスト高となり、Moは5%以上で液相線温度が過度に高くなり、Cuは7.5%以上で抗折強度を低下させる。各元素の好ましい範囲は、Mnが0.1%を超え0.7%未満、Feが10%を超え27%未満、Coが5%未満、Moが4%未満、Cuが5%未満であり、各元素のより好ましい範囲は、Mnが0.15%を超え0.5%未満、Feが15%を超え25%未満、Coが2%未満、Moが3%未満、Cuが3%未満である。
【0030】
0.24V%/C%、(0.24V%+0.13Nb%)/C%:0.2以上1.0以下
本発明合金において、Nb無添加の場合の0.24V%/C%、Nb添加の場合の(0.24V%+0.13Nb%)/C%は、残留ポアの発生を抑制するために制御すべきパラメータであり、それぞれ0.2未満ではCをろう材中に固定するためのVやNb量が不足し、ガスの発生による残留ポアが多くなり、1.0を超えると過剰なVやNbが雰囲気と反応し、酸化物や窒化物を生成しろう付け欠陥となる。これらパラメータの好ましい範囲は0.3以上0.8以下、より好ましい範囲は0.4以上0.7以下である。なお、VとNbとでは、Cをろう材中に固定する効果が異なるため、それぞれに乗ずる係数が異なっている。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
まず、本発明において最も重要である、残留ポアおよびその他の特性に及ぼすV量、Nb量および式(1)、(2)の影響を評価するため、Ni(bal.)−29%Cr−6%P−4%Si、Ni(bal.)−25%Cr−11%P−0.05%Ti−0.005%Al、Ni(bal.)−16%Cr−4%P−0.05%Ti−0.04%Zr−0.009%Alを基本組成とし、C、V、Nb量および式(1)、(2)を変化させた組成の諸特性を評価した。
【0032】
次に、請求項1および2に記載の元素の諸特性への影響を評価し、さらに、請求項3に記載の元素の諸特性への影響を評価した。
[遠心鋳造材の作製]
所定の成分に秤量した200gの溶解母材を、1.3Pa(約1×10−2Torr)まで真空引きし、アルゴンで封入した雰囲気(一部の比較例においては、0.13Pa(約1×10−3Torr)まで真空引きし、高純度アルゴンで封入。表中に記載のNo.91)にて、アルミナ製耐火物坩堝中で溶解し、直径35mm、高さ30mmの銅鋳型に遠心鋳造した。
【0033】
[遠心鋳造材の液相線温度の評価]
作製した遠心鋳造材から、15mg程度の小片を切り出し、熱分析装置(DTA)により評価した。なお、測定は室温から1200℃まで20℃/minで昇温し、1200℃で5min保持し、その後、−20℃/minで室温まで冷却した。この冷却過程における、初めの発熱ピークの開始温度を液相線温度として評価した。なお、測定はアルゴンフロー中で実施した。液相線温度は1050℃未満をA、1050℃以上をBとした。
【0034】
[SUS430とろう付けした抗折強度用試験片の作製とその抗折強度の評価]
作製した遠心鋳造材から、10×10×0.8mmの薄膜試料を切り出した。次に、20×20×10のSUS430のブロックの20×20の面の中央に、対角線がSUS430ブロックと一致するようにこの薄膜試料の10×10の面を接触させて置き、さらにその上から、もうひとつのSUS430の20×20×10のブロックを置いた。なお、上下のSUS430ブロックは、対面する4角の位置が一致するように配置した。これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。
【0035】
このろう付け材から、2×2×(20+ろう付け厚さ)mmの抗折試験片を採取した。なお、この抗折試験片の長手方向がろう付け材の上下方向となるように採取することで、抗折試験片の長手方向の中央部にろう付け部が来るように採取した。この抗折試験片により、支点間距離10mmの3点曲げ抗折試験機でろう付け部の抗折強度を評価した。すなわち、抗折試験片の長手方向中央部のろう付け部が、支点の中央となるように抗折試験片を配置し、このろう付け部に圧子により荷重を掛けて破断させた。なお、500MPa以上をA、500MPa未満をBとした。
【0036】
[SUS430とろう付けした耐食試験片の作製とその耐食性の評価]
作製した遠心鋳造材から、3×3×3mmの立方体試料を切り出した。次に、直径20mm、厚さ5mmのSUS430の円板の円の中心に、この立方体試料を置き、これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。このろう付け材に、20%の塩水を、35℃で16h噴霧し、その後の発銹状況により耐食性を評価した。発銹の見られないものをA、一部に発銹が認められたものをB、全面に発銹が認められたものをCとした。
【0037】
[SUS430とろう付けした部位の残留ポア、酸化物および窒化物の評価]
作製した遠心鋳造材から、3×3×3mmの立方体試料を切り出した。次に、直径20mm、厚さ5mmのSUS430の円板の円の中心に、この立方体試料を置き、これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。このろう付け部(円板の中心部)を研磨し、光学顕微鏡にて10×10mmの範囲を観察し、30μmを超える粗大な残留ポア、酸化物、窒化物のろう付け欠陥の個数を確認した。合計欠陥個数が0もしくは1個のものをA、2〜5個のものをB、6個以上のものをCとした。
【0038】
なお、比較例で用いたろう材について、2.7Pa(約2×10-2Torr)まで真空引きし、同様の温度と時間でろう付けした場合、いずれの試験片も合計欠陥の評価はAないしBであり、Cの評価のものはなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
表1〜4に示すように、No.1〜10、25〜28、31〜37、44〜47、51〜52、54〜75が本発明例であり、No.11〜24、29〜30、38〜43、48〜50、53、76〜99は比較例である。
【0043】
比較例No.11は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。比較例No.12は、同じくC含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。また、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.13、15は、V含有量が低く、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.14は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.16は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。
【0044】
比較例No.17、19、21は、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.18、20、22は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.23、24は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.29は、V含有量が低く、Nb含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.30は、式(2)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.38は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0045】
比較例No.39は、V含有量が低く、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.40は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.41は、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.42、49は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.43、50は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.48は、C含有量が低く、式(1)の値が高く、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0046】
比較例No.53は、V、Nbの含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.76、94、96は、Cr、FeおよびMo含有量がそれぞれ高いために、液相線温度が過度に上昇する。比較例No.77は、Cr含有量が低いために、耐食性が悪い。比較例No.78は、P含有量が高いために、液相線温度が上昇し、抗折強度が劣る。比較例No.79は、P含有量が低いために、液相線温度が上昇する。比較例No.80は、S含有量が高いために、液相線温度が上昇し、抗折強度が劣る。比較例No.81は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.82は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0047】
比較例No.83、84は、Ti+Zr含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.85は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.86は、V含有量が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.87は、Al含有量が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.88、90は、OおよびN含有量がそれぞれ高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.89は、O含有量を低くするために、低O化の還元処理を実施したものでコスト高となる。比較例No.91は、N含有量を低くするために、高純度Ar下で溶解したもののためコスト高となる。
【0048】
比較例No.92,93は、NbおよびMn含有量がそれぞれ高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.95は、Co含有量が高いために、高Co組成につきコスト高となる。比較例No.97は、Cu含有量が高いために、抗折強度が劣る。比較例No.98は、式(2)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.99は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。
【0049】
これに対し、本発明例である、No.1〜10、25〜28、31〜37、44〜47、51〜52、54〜75は、いずれも本発明の条件を満たしていることから、抵折強度、耐食性およびろう付欠陥のない優れた効果を有することが分かる。
【0050】
以上述べたように、ろう材中に微量のVを、Cと所定の比率で添加することで、Cをらう材中に固定し、ガス化を抑制することで、ろう付け欠陥を低減することを可能とした極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊