【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
まず、本発明において最も重要である、残留ポアおよびその他の特性に及ぼすV量、Nb量および式(1)、(2)の影響を評価するため、Ni(bal.)−29%Cr−6%P−4%Si、Ni(bal.)−25%Cr−11%P−0.05%Ti−0.005%Al、Ni(bal.)−16%Cr−4%P−0.05%Ti−0.04%Zr−0.009%Alを基本組成とし、C、V、Nb量および式(1)、(2)を変化させた組成の諸特性を評価した。
【0032】
次に、請求項1および2に記載の元素の諸特性への影響を評価し、さらに、請求項3に記載の元素の諸特性への影響を評価した。
[遠心鋳造材の作製]
所定の成分に秤量した200gの溶解母材を、1.3Pa(約1×10
−2Torr)まで真空引きし、アルゴンで封入した雰囲気(一部の比較例においては、0.13Pa(約1×10
−3Torr)まで真空引きし、高純度アルゴンで封入。表中に記載の
No.91)にて、アルミナ製耐火物坩堝中で溶解し、直径35mm、高さ30mmの銅鋳型に遠心鋳造した。
【0033】
[遠心鋳造材の液相線温度の評価]
作製した遠心鋳造材から、15mg程度の小片を切り出し、熱分析装置(DTA)により評価した。なお、測定は室温から1200℃まで20℃/minで昇温し、1200℃で5min保持し、その後、−20℃/minで室温まで冷却した。この冷却過程における、初めの発熱ピークの開始温度を液相線温度として評価した。なお、測定はアルゴンフロー中で実施した。液相線温度は1050℃未満をA、1050℃以上をBとした。
【0034】
[SUS430とろう付けした抗折強度用試験片の作製とその抗折強度の評価]
作製した遠心鋳造材から、10×10×0.8mmの薄膜試料を切り出した。次に、20×20×10のSUS430のブロックの20×20の面の中央に、対角線がSUS430ブロックと一致するようにこの薄膜試料の10×10の面を接触させて置き、さらにその上から、もうひとつのSUS430の20×20×10のブロックを置いた。なお、上下のSUS430ブロックは、対面する4角の位置が一致するように配置した。これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10
-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。
【0035】
このろう付け材から、2×2×(20+ろう付け厚さ)mmの抗折試験片を採取した。なお、この抗折試験片の長手方向がろう付け材の上下方向となるように採取することで、抗折試験片の長手方向の中央部にろう付け部が来るように採取した。この抗折試験片により、支点間距離10mmの3点曲げ抗折試験機でろう付け部の抗折強度を評価した。すなわち、抗折試験片の長手方向中央部のろう付け部が、支点の中央となるように抗折試験片を配置し、このろう付け部に圧子により荷重を掛けて破断させた。なお、500MPa以上をA、500MPa未満をBとした。
【0036】
[SUS430とろう付けした耐食試験片の作製とその耐食性の評価]
作製した遠心鋳造材から、3×3×3mmの立方体試料を切り出した。次に、直径20mm、厚さ5mmのSUS430の円板の円の中心に、この立方体試料を置き、これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10
-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。このろう付け材に、20%の塩水を、35℃で16h噴霧し、その後の発銹状況により耐食性を評価した。発銹の見られないものをA、一部に発銹が認められたものをB、全面に発銹が認められたものをCとした。
【0037】
[SUS430とろう付けした部位の残留ポア、酸化物および窒化物の評価]
作製した遠心鋳造材から、3×3×3mmの立方体試料を切り出した。次に、直径20mm、厚さ5mmのSUS430の円板の円の中心に、この立方体試料を置き、これを、加熱炉の中に入れ、ロータリーポンプで27Pa(約2×10
-1Torr)まで真空引きし、1100℃まで加熱し、30min保持してろう付けを行なった。このろう付け部(円板の中心部)を研磨し、光学顕微鏡にて10×10mmの範囲を観察し、30μmを超える粗大な残留ポア、酸化物、窒化物のろう付け欠陥の個数を確認した。合計欠陥個数が0もしくは1個のものをA、2〜5個のものをB、6個以上のものをCとした。
【0038】
なお、比較例で用いたろう材について、2.7Pa(約2×10
-2Torr)まで真空引きし、同様の温度と時間でろう付けした場合、いずれの試験片も合計欠陥の評価はAないしBであり、Cの評価のものはなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
表1〜4に示すように、No.1〜10、25〜28、31〜37、44〜47、51〜52、54〜75が本発明例であり、No.11〜24、29〜30、38〜43、48〜50、53、76〜99は比較例である。
【0043】
比較例No.11は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。比較例No.12は、同じくC含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。また、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.13、15は、V含有量が低く、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.14は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.16は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。
【0044】
比較例No.17、19、21は、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.18、20、22は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.23、24は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.29は、V含有量が低く、Nb含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.30は、式(2)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.38は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0045】
比較例No.39は、V含有量が低く、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.40は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.41は、式(1)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.42、49は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.43、50は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.48は、C含有量が低く、式(1)の値が高く、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0046】
比較例No.53は、V、Nbの含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抵折強度も劣る。比較例No.76、94、96は、Cr、FeおよびMo含有量がそれぞれ高いために、液相線温度が過度に上昇する。比較例No.77は、Cr含有量が低いために、耐食性が悪い。比較例No.78は、P含有量が高いために、液相線温度が上昇し、抗折強度が劣る。比較例No.79は、P含有量が低いために、液相線温度が上昇する。比較例No.80は、S含有量が高いために、液相線温度が上昇し、抗折強度が劣る。比較例No.81は、C含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.82は、C含有量が低いために、Crをはじめ高純度の原料を使用するためにコスト高となる。
【0047】
比較例No.83、84は、Ti+Zr含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.85は、V含有量が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.86は、V含有量が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.87は、Al含有量が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.88、90は、OおよびN含有量がそれぞれ高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.89は、O含有量を低くするために、低O化の還元処理を実施したものでコスト高となる。比較例No.91は、N含有量を低くするために、高純度Ar下で溶解したもののためコスト高となる。
【0048】
比較例No.92,93は、NbおよびMn含有量がそれぞれ高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.95は、Co含有量が高いために、高Co組成につきコスト高となる。比較例No.97は、Cu含有量が高いために、抗折強度が劣る。比較例No.98は、式(2)の値が低いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。比較例No.99は、式(1)の値が高いために、ろう付け欠陥の発生を生じ、抗折強度も劣る。
【0049】
これに対し、本発明例である、No.1〜10、25〜28、31〜37、44〜47、51〜52、54〜75は、いずれも本発明の条件を満たしていることから、抵折強度、耐食性およびろう付欠陥のない優れた効果を有することが分かる。
【0050】
以上述べたように、ろう材中に微量のVを、Cと所定の比率で添加することで、Cをらう材中に固定し、ガス化を抑制することで、ろう付け欠陥を低減することを可能とした極めて優れた効果を奏するものである。
特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊