特許第6860691号(P6860691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860691ルテニウム被覆を有する電子ビーム放出器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860691
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ルテニウム被覆を有する電子ビーム放出器
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/304 20060101AFI20210412BHJP
   H01J 37/06 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01J1/304
   H01J37/06 A
   H01J37/06 Z
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-554476(P2019-554476)
(86)(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公表番号】特表2020-515019(P2020-515019A)
(43)【公表日】2020年5月21日
(86)【国際出願番号】US2017066969
(87)【国際公開番号】WO2018118757
(87)【国際公開日】20180628
【審査請求日】2020年12月16日
(31)【優先権主張番号】62/436,925
(32)【優先日】2016年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/588,006
(32)【優先日】2017年5月5日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500049141
【氏名又は名称】ケーエルエー コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デルガド ギルダルド
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア エドガルド
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ルディ
(72)【発明者】
【氏名】ヒル フランシス
【審査官】 関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−188059(JP,A)
【文献】 特開2003−288834(JP,A)
【文献】 特開平11−016483(JP,A)
【文献】 特開平08−273528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J1/30−1/316
9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nm以下の直径を有するシリコンエミッタと、
前記シリコンエミッタの外面上に配設された保護キャップ層であって、ルテニウムを含む保護キャップ層と、
を備える装置。
【請求項2】
前記シリコンエミッタは、1mm未満の放出領域を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記保護キャップ層は、1nmから100nmまでの厚さを有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記保護キャップ層は、1nmから20nmまでの厚さを有する、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記シリコンエミッタは、1nmから50nmまでの先端部半径を有する、
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記保護キャップ層は、少なくとも放出領域内にピンホールが無い、
請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記保護キャップ層は、少なくとも放出領域内に気泡及び介在物が無い、
請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記保護キャップ層は、1nm未満の直径又は長さ寸法を有する欠陥だけを有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記保護キャップ層は、10個未満の不純物を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記不純物は、炭素、酸化物、溶解ガスとしての酸素、ナトリウム又はカリウムを含む、
請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記保護キャップ層は、25%以下の気孔率を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記保護キャップ層は、0.92以上の充填密度を有する、
請求項1に記載の装置。
【請求項13】
外面を有するシリコンエミッタを提供することであって、前記シリコンエミッタは、100nm以下の直径を有し、
保護キャップ層を前記シリコンエミッタの外面に適用することであって、前記保護キャップ層は、ルテニウムを含む、
方法。
【請求項14】
前記適用することは、スパッタ堆積を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記適用することは、原子層堆積を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記適用することは、イオンスパッタリングを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項17】
シリコンエミッタを提供することであって、前記シリコンエミッタは、前記シリコンエミッタの外面上に配設された保護キャップ層を含み、前記シリコンエミッタは、100nm以下の直径を有し、前記保護キャップ層は、ルテニウムを含み、
電界を前記シリコンエミッタに適用し、
電子ビームを前記シリコンエミッタから生成する、
方法。
【請求項18】
前記シリコンエミッタは、10−9トル以下の減圧内で作動する、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
電子ビーム源と、
前記電子ビーム源内のシリコンエミッタであって、100nm以下の直径を有するシリコンエミッタと、
前記シリコンエミッタの外面上に配設された保護キャップ層であって、ルテニウムを含む保護キャップ層と、
検出器と、
を備えるシステム。
【請求項20】
前記保護キャップ層は、少なくとも放出領域内にピンホールが無い、
請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ルテニウムを含む被覆を有する電子エミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月20日に出願された仮特許出願及び譲渡された米国特許出願第62/436,925号に対する優先権を主張し、この出願の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
電子放出に用いられる小さい先端部直径(例えば、100nm以下)を有する放出器は、減圧状態の影響を受ける。減圧状態は、電界放出性能を劣化させる場合がある。典型的な電子エミッタは、酸化又は炭素蓄積から保護するための保護被覆を有しない。炭素層は、超高減圧(UHV)状態下での電子ビーム放出中に、カソード先端部の表面上で成長する。UHV環境内での表面の酸化も生じ得る。従来設計は、また、例えば酸化又は炭素層のクリーニングに対してロバストではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0287030号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0164214号
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0055025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコンは、確立したシリコン微細加工技術があるため、電子エミッタとして用いられるナノチップを作成するのに妥当な候補材料である。しかし、シリコンエミッタは、酸化の影響を強く受けやすく、それがエミッタ先端部を酸化ケイ素に変換させる。酸化ケイ素は、酸化ケイ素の高い仕事関数に起因して、先端部を電子放出に対して作動不能にすることになる。安定性も、また、エミッタ上での酸化ケイ素の存在によって影響を受ける。システム寿命にわたってこれが生じることを防止するための明確な方法が存在しない。
【0006】
そのため、必要なことは、改善された電子エミッタである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の実施形態では、装置が提供される。装置は、エミッタと、エミッタの外面上に配設された保護キャップ層と、を備える。エミッタは、100nm以下の直径を有する。保護キャップ層は、ルテニウムを含む。
【0008】
エミッタは、1mm未満の放出領域を有してもよい。
【0009】
保護キャップ層は、1nmから100nmまでの厚さを有してもよい。例えば、保護キャップ層は、1nmから20nmまでの厚さを有してもよい。この例では、エミッタは、1nmから50nmまでの先端部半径を有してもよい。
【0010】
保護キャップ層は、少なくとも放出領域内にピンホール、気泡又は介在物が無くてもよい。保護キャップ層は、1nm未満の直径又は長さ寸法を有する欠陥だけを有してもよい。保護キャップ層は、10個未満の不純物を有してもよい。不純物は、炭素、酸化物、溶解ガスとしての酸素、ナトリウム又はカリウムを含んでもよい。保護キャップ層は、25%以下の気孔率を有してもよい。保護キャップ層は、0.92以上の充填密度を有してもよい。
【0011】
第2実施形態では、方法が提供される。方法において、外面を有するエミッタが提供される。エミッタは、100nm以下の直径を有する。保護キャップ層が、エミッタの外面に適用される。保護キャップ層は、ルテニウムを含む。適用することは、スパッタ堆積、原子層堆積又はイオンスパッタリングを含んでもよい。
【0012】
第3の実施形態では、方法が提供される。方法において、エミッタの外面上に配設された保護キャップ層を含むエミッタが提供される。エミッタは、100nm以下の直径を有する。保護キャップ層は、ルテニウムを含む。電界が、エミッタに印加される。電子ビームがエミッタから生成される。エミッタは、10−9トル以下の減圧内で作動してもよい。
【0013】
第4の実施形態では、システムが提供される。システムは、電子ビーム源と、電子ビーム源内のエミッタと、エミッタの外面上に配設された保護キャップ層と、検出器と、を備える。エミッタは、100nm以下の直径を有する。保護キャップ層は、ルテニウムを含む。保護キャップ層は、少なくとも放出領域内にピンホールが無くてもよい。
【0014】
本開示の性質及び対象をより完全に理解するために、添付図面とともに詳細な説明が参照されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示に従う電子エミッタンスシステムの実施形態についての正面図である。
図2】本開示に従う電子エミッタンスシステムのプロトタイプについての図である。
図3図2の電子エミッタンスシステムについての断面図である。
図4】本開示に従う方法についての流れ図である。
図5】本開示に従う別の方法についての流れ図である。
図6】本開示に従うシステムの実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
クレームされた主題が特定の実施形態に関して説明されることになるけれども、本明細書で述べられる長所及び特徴の全てを提供するわけではない実施形態を含む別の実施形態が、また、本開示の範囲内にある。様々な構造上、論理上の、プロセスステップ及び電子的変化が、本開示の範囲から逸脱することなく成されてもよい。したがって、本開示の範囲が、添付されたクレームを参照することによってのみ規定される。
【0017】
本明細書で開示された実施形態は、高い電子電流安定性及び寿命を有するエミッタを提供する。本明細書で開示されるように、エミッタの先端部は、ルテニウムの保護キャップ層によって被覆されている。ルテニウムは、酸化及び炭素成長に抵抗力がある。保護キャップ層は、また、イオンによる侵食に耐えるように比較的低いスパッタ収率を有してもよい。本明細書で開示された実施形態は、既存のシステムに改造されることにより、再設計コストを低減してもよい。
【0018】
図1は、電子エミッタンスシステム100の正面図であり、当該システムは、エミッタ101と、エミッタ装着機構102と、を含む。電子エミッタンスシステム100は、電子エミッタンスシステム100の周りの環境又は空間中に電子を放出するように構成されている。エミッタ101は、第1部分103と、第2部分104と、丸い先端部105と、を有する。第1部分103は、円筒形であってもよい。丸い先端部105を伴わずに、第2部分104は、概して截頭円錐形であってもよい。第2部分104は、第1部分103の遠位端部に配設されてもよい。第2部分104は、第1部分103と丸い先端部105との間でテーパ付き幅又は直径を有してもよい。第1部分104及び第2部分105は、概して丸くてもよいけれども、第1部分104と第2部分105の両方は、結晶構造に起因する小面を作られていてもよい。第2部分104の遠位端部上に配設されている丸い先端部105は、概して、切頂球であってもよい。丸い先端部105は、少なくとも部分的に又は全体的に丸くてもよい。本明細書に記載されたものと異なる別の形状が可能である。
【0019】
第1部分103、又は第1部分103及び第2部分104は、エミッタ101の「シャフト」と記載されてもよい。エミッタ101のシャフトは、エミッタ装着機構102によって保持される。
【0020】
エミッタ101、第1部分103、第2部分104又は丸い先端部105の寸法が、変化してもよい。エミッタ101のシャフト又はエミッタ101自体は、長さと直径の両方に関してナノメートルスケール又はミクロンスケールであってもよい。
【0021】
エミッタ101は、エミッタコア110と、保護キャップ層111と、を含む。保護キャップ層111は、エミッタコア110の外面上に配設されている。エミッタコア110の外面の全体又は全体に満たないものが、保護キャップ層111によって覆われてもよい。このように、エミッタ101の露光面の100%又は100%未満が、保護キャップ層111によって覆われてもよい。しかし、エミッタ101の少なくとも丸い先端部105又はエミッタ101の少なくとも放出面積は、保護キャップ層111によって覆われてもよい。
【0022】
エミッタコア110は、シリコン又は別の材料であってもよい。保護キャップ層111は、ルテニウム又はルテニウムを含む合金であってもよい。(Ru Pt)は、保護キャップ層111として用いられてもよいルテニウム合金の例であり、ここにx+y=1である。別のルテニウム合金が可能である。
【0023】
エミッタ装着機構102の構成は、図1に示すものから変化してもよい。一例において、エミッタ装着機構102は、ヘアピン脚部のための電極を有するセラミック絶縁体上に設置されたタングステンヘアピンを用いて、エミッタ先端部を支持する。ヘアピンは、フラッシュクリーニングを提供するか、又は放出温度を熱電界放出(TFE)値(例えば、約1,800K)まで上昇させるために加熱されてもよい。接地基準電源が、バイアス電圧をエミッタに提供してもよく、当該バイアス電圧は、約5KVであってもよい。
【0024】
電界が、電子エミッタンスシステム100に、さもなければその中に適用される。電界は、帯電平板を用いて、又は別の技術を用いて適用されてもよい。
【0025】
丸い先端部105は、電子エミッタンスシステム100の周りの減圧される空間内に自由電子を放出するように構成されている。電子は、電界を電子エミッタンスシステム100に適用することによって生成されてもよい。
【0026】
図1の挿入図に見られるように、丸い先端部105は、半径106を有する。半径106は、エミッタコア110内の丸い先端部105の中心108から保護キャップ層111の外面107まで測定されてもよい。丸い先端部105は、1.0nmまでの全ての値及び間の範囲を含む1μm未満の半径106を有してもよい。例えば、丸い先端部105は、700nm以下、450nm以下、又は100nm以下の半径106を有してもよい。半径は、0μm超である。
【0027】
エミッタ101は、1μm未満の放出面積を有してもよい。この放出面積は、丸い先端部105の外面107の部分であってもよい。
【0028】
丸い先端部105は、均一に丸くてもよく、又は不均一に丸くてもよい。丸い先端部105は、平坦放出ファセット109を含んでもよい。例えば、小さい<100>オリエンテーションナノフラット形式の平坦放出ファセット109であってもよい。この平坦放出ファセット109は、高度集束電子ビームを生成するために用いられてもよい。一例では、平坦放出ファセット109は、1μm未満の放出面積を提供してもよい。
【0029】
別の例では、丸い先端部105は、ほぼ半球状又は放物面形状を有する。これらの形状は、電子放出をより広く分散させてもよく、それにより、電子光学部品中に入る電子のより小さくより明るい部分を生じさせてもよい。
【0030】
望ましい丸い先端部105を提供するために、表面結晶化度が制御されてもよい。
【0031】
保護キャップ層111は、酸化及び炭素蓄積に対してエミッタ101を抵抗力があるようにする。保護キャップ層111は、また、イオンによる侵食に耐えるように比較的低いスパッタ収率を有してもよい。
【0032】
保護キャップ層111は、0.1nmまでの全ての値及び間の範囲を含む1nmから100nmまでの厚さを有してもよい。例えば、保護キャップ層111は、0.1nmまでの全ての値及び間の範囲を含む約1nmから20nmまでの厚さを有してもよい。例えば、保護キャップ層111の厚さは、約1nm〜5nmであってもよい。保護キャップ層111の厚さは、電子放出を最適化するように設計されてもよい。的確な厚さは、エミッタ101の初期の先端部半径に依存してもよい。したがって、保護キャップ層111の厚さは、20nm超であってもよい。
【0033】
保護キャップ層111の外面における直径は、電子ビームの特性(例えば、輝度、先端部における電界、電流電圧特性、電子間相互作用)を調整するように制御されてもよい。保護キャップ層111の外面における直径は、エミッタコア110の直径にエミッタ101の断面の両側にある保護キャップ層111の厚さを加えた合計から構成されている。エミッタコア110の直径を選択するとき、製造の容易さ、繰返し精度及びエミッタ間の寸法の可変性等の考慮すべき製造上の問題が存在する。保護キャップ層111の厚さを選択するとき、粒子構造、粒界、不連続性、表面被覆率 、ピンホール、膜密度又は表面粗度等の膜の品質が制御されてもよい。エミッタを被覆する保護キャップ層111が、特に先端部において、均一で、緻密で、連続的であり、そして、非常に低い表面粗度を有することが重要であることがある。電界浸透に配慮して、保護キャップ層111厚さの下限が、1つの単分子層であってもよい。1つの単分子層を越えて、膜厚が、膜品質を最適化するように選ばれてもよい。エミッタコア110に保護キャップ層111を加えた全体直径が、電子ビーム特性を最適化するように選ばれてもよい。
【0034】
一例において、エミッタ101は、保護キャップ層111の外面に1nmから50nmまでの半径106を有する。保護キャップ層111は、1nmから20nmまでの厚さを有する。
【0035】
丸い先端部105の直径を低減すること、又は別の態様で丸い先端部105の半径を変えることは、放出ビームの輝度を増加させる。エミッタの低減された輝度Bは、次式のように定義され、
【数1】
ここに、Iは電界放出電流であり、rvsは仮想源の半径であり、Ωはビームの立体角であり、Vextは作動電圧である。輝度についての上式中の2つのパラメータは、先端部直径が低減されるときに変化する。第1に、先端部が小さい程、先端部における電界がより大きく向上され、それで、所与の電流を放出するのに必要な電圧が減少してVextの値が低減され、低減されたBに対してより大きい値に至る。第2に、小さい先端部直径は、より小さい仮想源サイズrvsを有し、低減されたBについてより大きい値になる。
【0036】
輝度は、典型的には、半径が減少するにつれて、電子がより小さい表面面積から放出されるので増加する。エミッタコア110の寸法及び保護キャップ層111の厚さは、望ましい輝度を提供するように構成されてもよい。
【0037】
エミッタ101の仮想源サイズ(VSS)が、また、輝度に影響を及ぼすことがある。より小さいVSSは、より高い輝度をもたらすことがある。エミッタ101の半径106及び/又は保護キャップ層111の厚さを変えることは、VSSに、その結果として輝度に影響を及ぼすことがある。このことは、また、電流密度全体及び/又は電流放出全体に影響を及ぼすことがある。
【0038】
丸い先端部105の放出面積は、1mm未満であってもよい。丸い先端部105の放出面積は、丸い先端部105の全表面面積又は丸い先端部105の表面面積のほんの一部に一致してもよい。例えば、放出面積は、平坦な放出ファセット109に一致してもよい。
【0039】
エミッタの輝度は、材料の仕事関数に大きさが反比例する。エミッタ材料の低減される輝度は、式1で定義される。電界放出電流Iは、材料の仕事関数に大きさが反比例する。仕事関数の値の低下が、より高い電流を、従ってより高い輝度値を生じさせる。仮想源サイズrvsは、仕事関数に反比例して1/4まで高められ、それで、仮想源サイズは、仕事関数の低下とともに増加するけれども、電流の増加が優位になって、低い仕事関数に対して正味のより高い輝度をもたらす。
【0040】
保護キャップ層111の全部又は一部が、ピンホールを有しない場合がある。例えば、少なくともエミッタ101の放出領域が、ピンホールを有しないことがある。放出領域は、先端部又は別の領域近くの5〜10nmの領域であってもよい。なんらかのピンホールの影響は、電子ビームを引くのに必要な高い抽出電界によって拡大されてもよい。
【0041】
保護キャップ層111の全部又は一部は、気泡又は混在物を有しない場合がある。例えば、少なくとも、エミッタ101の放出領域は、気泡又は混在物を有しないことがある。
【0042】
保護キャップ層111内の最大欠陥直径又は長さ寸法は、1nm未満であってもよい。欠陥は、蒸着膜内に、スパッタリングパラメータを介して制御されてもよいロッド又は塊等の過剰構造を含む。
【0043】
保護キャップ層111の均一性が、制御されてもよい。多くのエミッタは、電界放出器先端部内に用いられる100のタングステン結晶等の結晶構造である。一例では、基板シリコン内に結晶構造が存在するけれども、これは、スパッタ被覆等のプロセスがアモルファス膜を生成するので、必ずしも表面結晶性に変換されるわけではない。エミッタは、ナノメートルオーダーの領域であるので、結晶性は、先端部において、5nm〜10nmオーダー領域にある。原子層堆積(ALD)等の蒸着プロセスは、蒸着膜に結晶構造を放出してもよい。均一性は、集束イオンビーム(FIB)及び透過型電子顕微鏡(TEM)による検査を用いて断面について評価されてもよい。均一性は、また、楕円偏光法技術を用いて膜特性を検査することによって評価されてもよい。エミッタ101の頂点にある保護キャップ層111は、非常に鋭いように構成されてもよい。
【0044】
保護キャップ層111は、10又は10個よりも少ない不純物を有してもよい。不純物は、炭素、酸化物、溶解ガスとしての酸素、ナトリウム、カリウム又は別の材料を含んでもよい。不純物は、保護キャップ層111の仕事関数に影響を及ぼし、このことが、電子放出の均一性に影響を及ぼすことになる。
【0045】
保護キャップ層111の気孔率は、25%以下であってもよい。保護キャップ層111の充填密度は、0.92以上であってもよい。気孔率(P)は、次式によって屈折率を用いて規定又は測定されてもよく、
【数2】
ここに、nは堆積された薄膜の屈折率であり、nはバルク材料の屈折率である。
【0046】
膜の充填密度(PD)は、次式を用いて、平均膜密度(ρ)と嵩密度(ρ)との比として規定される。
【数3】
【0047】
膜屈折率とそれの充填密度との間の相関関係は、次式によって表現されてもよい。
【数4】
【0048】
保護キャップ層111は、保護キャップ層111を有しないエミッタコア110を用いることに勝る長所を提供する。保護キャップ層111は、より高い電子電流及びより高い電流安定性を提供する。例えば、保護キャップ層111を有するエミッタ101は、より高い放出電流を生成し、保護キャップ層111を有しないn型シリコン又はp型シリコンエミッタと比較して、より良好な放出電流安定性を有することになる。保護キャップ層111が金属を含むので、より高い放出電流が達成される場合がある。より高い放出電流は、より高いビーム輝度をもたらす。
【0049】
更に、保護キャップ層111は、炭素汚染及び酸化を低減する。ルテニウム又はルテニウム合金は、分子水素、水素プラズマ又は別のプラズマによってクリーニングされてもよい。したがって、保護キャップ層111上のなんらかの炭素汚染又は酸化が、例えば、加熱及び/又は酸素と共にHを用いて除去されてもよい。
【0050】
ルテニウムを含む保護キャップ層111は、電界放出に対して又は高電界の存在内においてロバストである。そのような保護キャップ層111は、また、イオンスパッタリング及びクリーニングに対してロバストである。
【0051】
ルテニウムは、その表面上に着くガス分子をばらばらに壊すか、又はその表面へのそのようなガス分子の接着を防止する能力を有してもよい。これらの分子は、その表面における分子の可動性及び滞留時間のために、エミッタの表面での抽出電界を歪めること、及びビーム内のノイズと解釈される放出を生じさせる場合がある。したがって、保護キャップ層111は、自洗式であり得る。
【0052】
保護キャップ層は、エミッタの外面上に形成されてもよい。エミッタは、100nm以下の直径を有してもよい。保護キャップ層は、ルテニウムを含み、エミッタの外面に適用される。
【0053】
保護キャップ層111は、イオン若しくはマグネトロンスパッタリング、ALDによって、又は当業者に公知の別の方法によって堆積されてもよい。これらの技術は、望ましい密度及び均一性を有する保護キャップ層111の形成を可能にしてもよい。
【0054】
図2は、電子エミッタンスシステムのプロトタイプについての図である。図3は、図2の電子エミッタンスシステムの断面図である。エミッタの全体形状は、例えば、円錐形又は鉛筆形状であってもよい。エミッタの形状は、抽出器外形に電界強化の必要量を提供するように選ばれてもよく、そして、エミッタの形状は、また、必要な抽出電圧を設定してもよい。一般に、電界強化が大きい程、より低い作動電圧しか必要としないのでより好ましいことがある(例えば、アーク発生のより少ない可能性、電子ビームのより大きく低減された輝度、逆流イオンの低いエネルギ等)。エミッタは、加熱器フィラメントに取り付けられてもよく、平坦なエミッタチップ上にエッチングされてもよく、又は、別の構成で用いられてもよい。
【0055】
エミッタ寿命は、ルテニウムを含む保護キャップ層111を用いることによって改善されてもよい。一例では、ルテニウムを含む保護キャップ層111を有するエミッタは、10−9トル真空状態で何か月間も又は1年以上も作動してもよい。保護キャップ層111が無ければ、10−12トル真空状態が、酸化物がエミッタ101性能に悪影響を及ぼすことを防止するために必要とされることがある。
【0056】
モデル化に基づいて、ルテニウムを含む保護キャップ層111を有するエミッタ101は、既存のエミッタ設計と比較して100倍〜1000倍の輝度を提供してもよい。
【0057】
図4は、本開示に従う方法の流れ図である。200において、外面を有するエミッタを提供する。エミッタは、100nm以下の直径を有する。201において、保護キャップ層をエミッタの外面に適用する。保護キャップ層は、ルテニウムを含んでもよく、そして、ルテニウムを含む合金であってもよい。適用することは、スパッタ堆積、ALD又はイオンスパッタリングを含んでもよい。スパッタ堆積及びALDは、保護キャップ層の望ましい共形性を提供してもよい。特に、スパッタ堆積は、保護キャップ層内の気孔率、空隙の存在及びピンホールの存在を低減してもよい。
【0058】
図5は、本開示に従う別の方法の流れ図である。300において、エミッタの外面上に配設された保護キャップ層を含むエミッタを提供する。エミッタは、100nm以下の直径を有する。保護キャップ層は、ルテニウムを含み、そしてルテニウムを含む合金であってもよい。301において、電界をエミッタに適用する。302において、電子ビームをエミッタから生成させる。エミッタは、10−9トルの減圧内で動作してもよい。
【0059】
0.1kVまで全ての範囲及び値を含む約0.5kVから10kVまでの抽出電圧が、電子ビーム生成中に用いられてもよい。例えば、抽出電圧は、約1kVから10kVまで、又は約1.5kVから10kVまでであってもよい。別の抽出電圧が可能である。
【0060】
保護キャップ層を有するエミッタについての電界は、0.1V/nmまで全ての範囲及び値を含む約0.1V/nmから5V/nmまでに及んでもよい。電界は、(保護キャップ層の厚さを含む)エミッタの外径に基づいて変化してもよい。5V/nmを超える電界は、高電流(例えば、10μAを超える)に用いられてもよい。
【0061】
本開示の実施形態は、レチクル及びウェハの検査及び計測システムに用いられてもよい。システムは、望ましい減圧環境仕様を提供するように構成されてもよい。これらのシステムの例は、単一又は複数の電子源を用いる電子ビームウェハ又はレチクル検査システム、単一又は複数の電子源を用いる電子ビームウェハ又はレチクル精査システム、単一又は複数の電子源を用いる電子ビームウェハ又はレチクル計測システム、あるいはウェハ若しくはレチクル計測、検査又は精査に用いるための単一又は複数の電子ビームを用いるX線生成のための少なくとも1つの電子源を必要とするシステムを含む。エミッタからの電子流は、半導体ウェハ又は別の部品等の試料に向かって導かれてもよい。電子流は、抽出及び集束電極を通って移動することにより、望ましいビームエネルギー及びビーム電流を有する電子ビームを形成してもよい。1つ又は複数のレンズが、小さい電子ビームスポットを試料上に形成するために用いられてもよい。偏向器が、電子ビームを走査するために用いられてもよい。試料はステージ上に置かれてもよく、当該ステージは、電子ビームに対して走査してもよい。二次電子及び反射電子が、電子ビームが試料に衝突したときに、試料から放出されてもよく、そして、それらは、収集されて検出器に向かって高速化されてもよい。
【0062】
本明細書に記載された実施形態は、図6のシステム400等のシステムを含むか、又はそのシステム内で実行されてもよい。システム400は、少なくともエネルギ源と、検出器と、を含む出力取得サブシステムを含む。出力取得サブシステムは、電子ビームベースの出力取得サブシステムであってもよい。例えば、一実施形態では、ウェハ404まで導かれたエネルギは、電子を含み、ウェハ404から検出されたエネルギは、電子を含む。このように、エネルギ源は、電子ビーム源402であってもよい。図6に示す1つのそのような実施形態において、出力取得サブシステムは、電子柱401を含み、当該電子柱は、コンピュータサブシステム407に結合される。
【0063】
また、図6に示すように、電子柱401は、1つ又は複数の要素403によってウェハ404に集束させられた電子を生成するように構成された電子ビーム源402を含む。電子ビーム源402は、図1の電子エミッタンスシステム100のエミッタ101等のエミッタを含んでもよく、そして、1つ又は複数の要素403は、例えば、ガンレンズ、アノード、ビーム制限開口、ゲートバルブ、ビーム電流選択開口、対物レンズ及び/又は走査サブシステムを含んでもよい。電子柱401は、当該技術分野において公知の任意の別の好適な要素を含んでもよい。1つだけの電子ビーム源402が図示されているけれども、システム400は、複数の電子ビーム源402を含んでもよい。
【0064】
ウェハ404から戻された電子(例えば、二次電子)は、1つ又は複数の要素405によって検出器406に集束させられてもよい。1つ又は複数の要素405は、例えば、走査サブシステムを含んでもよく、当該走査サブシステムは、要素403内に含まれるのと同じ走査サブシステムであってもよい。電子柱401は、当該技術分野において公知の任意の別の好適な要素を含んでもよい。
【0065】
電子柱401は、電子が傾斜した入射角でウェハ404まで導かれ、そして別の斜角でウェハから散乱されるように構成されて図6に示されているけれども、電子ビームは、ウェハまで導かれ、そしてウェハから任意の好適な角度で散乱させられてもよいことを理解すべきである。更に、電子ビームベースの出力取得サブシステムは、ウェハ404の画像を生成するための(例えば、異なる照明角、集光角等を有する)複数のモードを用いるように構成されてもよい。電子ビームベースの出力取得サブシステムの複数のモードは、出力取得サブシステムのいずれかの画像生成パラメータが異なってもよい。
【0066】
コンピュータサブシステム407は、検出器406と電子通信してもよい。検出器406は、ウェハ404の表面から戻された電子を検出し、それによってウェハ404の電子ビーム画像を形成してもよい。電子ビーム画像は、任意の好適な電子ビーム画像を含んでもよい。コンピュータサブシステム407は、検出器406及び/又は電子ビーム画像の出力を用いて、別の関数又は追加のステップを実行するように構成されてもよい。
【0067】
図6は、電子ビームベースの出力取得サブシステムの構成を概して図示するために本明細書において提供されていることが留意される。本明細書に記載された電子ビームベースの出力取得サブシステム構成は、市販の出力取得システムを設計するときに通常実行されるように、出力取得サブシステムの性能を最適化するために変更されてもよい。更に、本明細書に記載されたシステムは、既存のシステムを用いて(例えば、既存のシステムに本明細書に記載された機能を付加することによって)実装されてもよい。いくつかのそのようなシステムについて、本明細書に記載された方法は、システムの随意の機能として(例えば、システムの別の機能に付加して)提供されてもよい。
【0068】
一実施形態では、システム400は、検査システムである。例えば、本明細書に記載された電子ビーム出力取得サブシステムは、検査システムとして構成されてもよい。別の実施形態では、システム400は、欠陥精査システムである。例えば、本明細書に記載された電子ビーム出力取得サブシステムは、欠陥精査システムとして構成されてもよい。更なる実施形態では、システム400は、計測システムである。例えば、本明細書に記載された電子ビーム出力取得サブシステムは計測システムとして構成されてもよい。特に、本明細書に記載されて図6に示されたシステム400の実施形態は、それらが用いられることになる用途に基づいて、1つ又は複数のパラメータが修正されることにより、異なる撮像能力を提供してもよい。そのような一例では、図6に示すシステム400は、検査よりむしろ欠陥精査又は計測に用いられる場合には、より高い分解能を有するように構成されてもよい。言い換えると、図6に示すシステム400の実施形態は、システム400についてのいくつかの一般的な及び様々な構成を説明し、当該システムは、いくつかの態様で調整されることにより、異なる用途に多かれ少なかれ適している異なる撮像能力を有する出力取得サブシステムをもたらしてもよい。
【0069】
システム400又は電子エミッタンスシステム100の実施形態は、ウェハ及びレチクル等の試料の検査、欠陥精査及び/又は計測をするように構成されてもよい。例えば、本明細書に記載された実施形態は、マスク検査、レチクル検査、レチクル計測、ウェハ検査及びウェハ計測の目的のために両方の走査電子顕微鏡法(SEM)を用いるように構成されてもよい。システム400又は電子エミッタンスシステム100は、また、ウェハ又はレチクルの計測、精査又は検査のためのX線を生成するための電子源として構成されてもよい。
【0070】
特に、本明細書に記載された実施形態は、電子ビーム検査器若しくは欠陥精査ツール、マスク検査器、仮想検査器又は別の装置等の出力取得サブシステムの構成要素であるか又はそれらに結合されるコンピュータノード又はコンピュータクラスター上にインストールされてもよい。このように、本明細書に記載された実施形態は、様々な用途に用いられ得る出力を生成してもよく、当該用途は、ウェハ検査、マスク検査、電子ビーム検査及び精査、計測、又は別の用途を含むが、これらに限定されない。図6に示すシステム400の特徴は、それが出力を生成する対象の試料に基づいて上記のように修正されてもよい。
【0071】
本明細書で開示されたエミッタは、極低温電界放出モード、室温電界放出モード、温暖電界放出モード、熱電界モード又は光カソードモードを含む異なるモードで作動するように構成されてもよい。これらのモードの組合せが、また、本明細書で開示されたエミッタを用いて実行されてもよい。エミッタは、特定のモードに対して最適化されてもよく、又はそれぞれの特定のモードで用いられるパラメータが、エミッタに合わせて調整されもよい。例えば、丸い先端部の寸法は、それぞれのモードに対して変化してもよい。
【0072】
電界放出モードにおいて、電界は、高い正電圧を有する電極を用いる等して、電子エミッタンスシステムに又はそれの内で適用される。高い正電圧は、電子を誘引し、それにより、いくつかの電子をエミッタの表面から離れさせる。電子は、印加された電場が、丸い先端部減圧界面上のポテンシャル障壁を低減するのに十分高い場合に、表面障壁を通ってトンネリングして、バイアスされたアノードに向かって移動する(すなわち、量子力学トンネリング)。
【0073】
極低温電界放出モードのための作動温度は、約0Kから300K未満までであってもよい。システムの温度は、作動中、エミッタの温度以下である。極低温電界放出は、放出された電子のエネルギ分布を低減することが期待される。エネルギ拡散(ΔE)が、エミッタにおけるフェルミディラック分布を狭めることによって減少され得る。極低温電界放出モードは、放出を安定状態に保つために温度の周期的フラッシイングを含んでもよい。
【0074】
室温電界放出は、65°F〜100°F(18℃〜38℃)において概して作動する。室温電界放出作動モードは、極低温電界放出と異なり、冷却のためのハードウェアを必要としなくてもよく、したがって、実装コストがより低くてもよい場合がある。
【0075】
暖温電界放出モードは、周囲温度を超えた1000K未満の温度で、又は周囲温度を超えた、熱電子放出がシステム内で検出可能である温度未満の温度で動作する。エミッタ温度は、システムの温度と、熱電子放出がシステム内で検出可能である温度との間にある。暖温電界放出モードは、バルク内での電子正孔相互作用を低減する、伝導帯内のより多い数の電子に起因して低減された電流変動、及び/又はエミッタ先端部における衝突分子のより短い滞留時間を提供してもよい。暖温電界放出は、望ましくない衝突分子(例えば、HO、H、CO、CO、O、N又は炭化水素)の結合エネルギを低減すること、従ってエミッタ表面上でのそれらの滞留時間を低減することから利益を得る。
【0076】
熱電界放出モードは、例えば、室温電界放出モードと同じ輝度を達成するためにより低い抽出電圧を用いてもよい。熱電界放出モードにおけるエミッタ温度は、約1,800Kであってもよい。熱電界放出は、より多いエネルギ性電子を放出に対して利用可能にするけれども、付加された熱エネルギスペクトルのためエネルギ拡散の増加を犠牲にする。熱電界放出モードの1つの長所は、吸着物質の滞留時間が、かなり低減され、したがってビーム電流の高周波ノイズが低減されることである。電子光学部品は、エネルギ拡散を低減するように構成されてもよい。
【0077】
光カソードモードにおいて、特定の周波数の光がエミッタ上に落ちる。光電子放出は、電子の流れを生成するように生じる。したがって、光子が吸収され、電子がエミッタの表面まで動き、電子は減圧に流出する。このことは、別の電界放出モードと共に、又はそれと別個に実行されてもよい。
【0078】
いくつかのレチクル及びウェハ検査アプリケーションは、検査時間全体の間、最も高い可能な低減輝度Br(ビームエネルギーによって正規化された輝度)、及び1%未満の安定性を有する最も低い可能なエネルギ拡散(ΔE)を有する電子源を必要とする。電界放出器の高周波電流変動が、減圧内の残留ガス分子の定常的な吸着/脱離から生じてもよい。平方二乗平均ノイズは、放出表面積の1.5乗に逆比例する。先端部半径が小さくなるにつれて、同じ真空状態の下でより大きいノイズが生じ得る。より低い減圧が、ノイズを低減してもよい。放出中に丸い先端部をある温度(例えば、約380K〜1,000K)まで加熱することにより、揮発性化学種を除去して揮発性化学種が表面上に残ることを防止する(分子滞留時間を低減する)こと、及びきれいな放出表面を維持することが、また、安定した放出を提供してもよい。エミッタを加熱することは、また、トンネリング距離を低減し、電子エネルギを増加させて、電界放出をより容易にする。しかし、エミッタを加熱することは、エネルギを拡大させるか、又はより大きいエネルギ拡散を生じさせてもよい。
【0079】
組み合わされた光カソード及び電界放出モードが、以下のプロセスが生じることを可能にしてもよい。光子が吸収され、電子が伝導帯に存在し、電子は表面まで動く。熱がエミッタに適用され、電子が、印加された電界によって減圧まで流出する。光子エネルギは、典型的には、電子を伝導帯まで励起するのに十分高くなければならないけれども、イオン化エネルギよりも低い。レーザ送達を最適化するとき、レーザ浸透深さが考慮されことが必要とされてもよい。
【0080】
極低温電界放出、室温電界放出、暖温電界放出又は光カソードモードのためのエミッタの作動に対する最適な全圧は、10−9トル以下であってもよい。この作動圧力は、分子(例えば、HO、H、CO、CO、O、N又は炭化水素)に関連した減圧の分圧の全ての合計である。Hについては、分圧限界は、10−12トルであってもよく、一方、いずれか別の分子については、分圧は10−10トル未満であってもよい。
【0081】
作動圧力は、作動モードによって変化してもよい。例えば、作動圧力は、放出機構及び表面活性化エネルギによって変化してもよい。熱電界放出モードは、10−9トル以下で作動してもよい。極低温電界放出モードは、10−10トル以下で作動してもよい。極低温電界放出モードは、また、10−11トル以下で作動してもよい。
【0082】
熱電界放出において、付加された熱エネルギは、より容易に汚染を離脱させてもよく、それで圧力に対する感度が減少することがあってもよい。吸着物質に対する結合エネルギが高い場合、低い圧力が、吸着物質の衝突速度を低減するために用いられる。
【0083】
光カソードにおいて、照明源から付加されたエネルギは、なんらかの表面汚染物を離脱させる能力を提供してもよいけれども、これは、用いられる材料の表面活性化エネルギに依存してもよい。
【0084】
作動圧力又は別の減圧パラメータは、エミッタの汚染又は侵食に影響を及ぼす。エミッタの周りの環境についての高い粒子数測定、例えば、湿気又は別の粒子によって生じさせられたもの等は、質量損失の促進をもたらしてもよい。高い仕事関数表面だけが抽出電界に露出されるので、仕事関数放出領域が消失してもよく、そして、放出がゼロ付近まで減少してもよい。放出する材料のいずれかの点食が、結晶学的に崩壊させられてもよく、それにより仕事関数に影響を及ぼす。
【0085】
例えば、特により低い作動温度における、放出表面の炭素汚染は、炭素の薄層が電子流放出表面に形成するときに生じることがある。有機物(例えば、油又は潤滑剤)、研磨剤又はクリーナからの残留物、綿スワブ又は清掃布からの残存性ファイバ、あるいは別の供給源に関連した炭素汚染が、揮発性真空システムによって生じさせられる場合がある。炭素膜は、高い仕事関数層を有する放出表面に有害であり、そして、放出電流の低減をもたらす。
【0086】
別の例では、エミッタからの材料の酸化、昇華又は蒸発は、湿気に起因して生じることがある。その結果、抵抗性又は誘電性材料が、内側表面、開口及びアノード表面を含む別の表面上に形成することがある。
【0087】
炭素汚染、湿気損傷、又は酸化を防ぐために、電子エミッタンスシステムの周りの真空環境が制御される。環境の作動圧力は、作動モードに依存することがある。
【0088】
方法のステップのそれぞれが、本明細書に記載されたように実行されてもよい。方法は、また、別のステップを含んでもよく、当該ステップは、本明細書に記載された制御装置及び/又はコンピュータサブシステム若しくはシステムによって実行されてもよい。ステップは、1つ又は複数のコンピュータシステムによって実行されてもよく、当該コンピュータシステムは、本明細書に記載された実施形態のうちの任意のものに従って構成されてもよい。それに加えて、上記の方法は、本明細書に記載されたシステム実施形態のうちの任意のものによって実行されてもよい。
【0089】
本開示は、1つ又は複数の特定の実施形態に関して説明されてきたけれども、本開示の別の実施形態が、本開示の範囲から逸脱することなく成されてもよいことが理解されるであろう。そのため、本開示は、添付クレーム及びその合理的な解釈だけによって限定されると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6