特許第6860962号(P6860962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860962非水系電解質二次電池用正極活物質、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
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  • 特許6860962-非水系電解質二次電池用正極活物質、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860962
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20210412BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210412BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210412BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-199310(P2014-199310)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-72038(P2016-72038A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年5月29日
【審判番号】不服2019-9907(P2019-9907/J1)
【審判請求日】2019年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】小門 ▲礼▼
(72)【発明者】
【氏名】井之上 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】小田 周平
(72)【発明者】
【氏名】戸屋 広将
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 粟野 正明
【審判官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/165654(WO,A1)
【文献】 特開2013−125732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.40≦u<0.60、(z−x>0.4の時z−x≦u、z<0.6の時u≦z)、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される一次粒子および前記一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、
WおよびLiを含む微粒子が、前記微粒子のみで、前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に分散して点在することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記微粒子中に含有されるタングステン量が、前記リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、Co、MnよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.1〜3.0原子%であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
この要求を満たす二次電池にリチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解液等で構成され、負極および正極の活物質は、リチウムを脱離および挿入することの可能な材料が用いられている。
このようなリチウムイオン二次電池は、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
【0005】
このうちリチウムニッケル複合酸化物およびリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されており、近年では高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1〜5モル%含有されているリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、一次粒子の表面部分のLi並びにMo、W、Nb、Ta及びRe以外の金属元素の合計に対するMo、W、Nb、Ta及びReの合計の原子比が、一次粒子全体の該原子比の5倍以上であることが好ましいとされている。
【0007】
特許文献1によれば、リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができる。
しかし、このリチウム遷移金属系化合物粉体は、原料を液体媒体中で粉砕し、これらを均一に分散させたスラリーを噴霧乾燥し、得られた噴霧乾燥体を焼成することで得ている。そのため、Mo、W、Nb、Ta及びReなどの異元素の一部が層状に配置されているNiと置換してしまい、電池の容量やサイクル特性などの電池特性が低下してしまう問題があった。
【0008】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0009】
これにより、より一層厳しい使用環境下においても優れた電池特性を有する非水電解質二次電池用正極活物質が得られるとされ、特に、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、熱安定性、負荷特性および出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとしている。
【0010】
しかしながら、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素による効果は、初期特性、すなわち初期放電容量および初期効率の向上にあるとされ、出力特性に言及したものではない。また、開示されている製造方法によれば、添加元素をリチウム化合物と同時に熱処理した水酸化物と混合して焼成するため、添加元素の一部が層状に配置されているニッケルと置換してしまい電池特性の低下を招く問題があった。
【0011】
さらに、特許文献3には、正極活物質の周りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも一種を含む金属及びまたはこれら複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、及びまたは酸化物を被覆した正極活物質が提案されている。
このような被覆により、酸素ガスを吸収させ安全性を確保できるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。また、開示されている製造方法は、遊星ボールミルを用いて被覆するものであり、このような被覆方法では、正極活物質に物理的なダメージを与えてしまい、電池特性が低下してしまう。
【0012】
また、特許文献4には、ニッケル酸リチウムを主体とする複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
この提案によれば、正極活物質の表面にタングステン酸化合物またはタングステン酸化合物の分解物が存在し、充電状態における複合酸化物粒子表面の酸化活性を抑制するため、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。
【0013】
さらに、開示されている製造方法は、好ましくは被着成分を溶解した溶液の沸点以上に加熱した複合酸化物粒子に、タングステン酸化合物とともに硫酸化合物、硝酸化合物、ホウ酸化合物またはリン酸化合物を被着成分として溶媒に溶解した溶液を被着させるものであり、溶媒を短時間で除去するため、複合酸化物粒子表面にタングステン化合物が十分に分散されず、均一に被着されているとは言い難いものである。
【0014】
出力特性を改善することを目的としてタングステンを添加した非水系電解質二次電池用正極活物質も検討されている。例えば、特許文献5には、一般式LiNi1−x−yCo(ただし、0.10≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が表面に、WおよびLiを含む微粒子を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。しかしながら、この文献における正極活物質は、高容量が得られるものの更なる高容量化が要求されている。
【0015】
一方、高容量が得られる正極活物質として、リチウムを過剰に添加したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が注目され、さらにタングステンを添加することにより、出力特性を改善することが検討されている。例えば、特許文献6には、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.05≦u≦0.95、x+y+z+t=1、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、リチウム金属複合酸化物の表面または粒界に、タングステンが濃縮されたリチウムを含む層厚が20nm以下の化合物層を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0016】
しかしながら、特許文献6に記載された正極活物質は、抵抗値が低減されているものの、リチウムを過剰に添加したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、元来、抵抗値が高いため、更なる低抵抗化による出力特性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009‐289726号公報
【特許文献2】特開2005‐251716号公報
【特許文献3】特開平11‐16566号公報
【特許文献4】特開2010‐40383号公報
【特許文献5】特開2012‐79464号公報
【特許文献6】国際公開WO2012/165654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はかかる問題点に鑑み、正極に用いられた場合に高容量とともに高出力が得られ、サイクル特性に優れた非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の粉体特性、および電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む微粒子を形成させることで、電池の正極抵抗をさらに低減して出力特性を向上させるとともに、高容量が得られることを見出した。
さらに、その製造方法として、タングステンを含むアルカリ溶液とリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物溶液を混合して熱処理することで、上記一次粒子表面全体にWおよびLiを含む微粒子を形成させることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
本発明の第1の発明は、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.40≦u<0.60、(z−x>0.4の時z−x≦u、z<0.6の時u≦z)、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物であって、WおよびLiを含む微粒子が、前記微粒子のみで、そのリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に分散して点在することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0021】
本発明の第2の発明は、第1の発明における微粒子中に含有されるタングステン量が、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、Co、MnよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.1〜3.0原子%であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0022】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を有することを特徴とする非水系電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電池の正極に用いられた場合に高容量とともに高出力が実現可能で、サイクル特性にも優れた非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
さらに、その製造方法は、容易で工業的規模での生産に適したものであり、その工業的価値は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電池評価に使用したコイン型電池1の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、まず本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質という。)について説明した後、その製造方法と本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。
【0026】
(1)正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.40≦u<0.60、z−x>0.4の時z−x≦u、z<0.6の時u≦z、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表される一次粒子および、その一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物を母材とし、そのリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に分散状態で存在させた、WおよびLiを含む微粒子を有することを特徴とするものである。
【0027】
本発明においては、母材として一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.40≦u<0.60、z−x>0.4の時z−x≦u、z<0.6の時u≦z、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物を用いることにより、極めて高い充放電容量を得るものである。
さらに、その母材のリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に分散状態で形成されたW(タングステン)およびLi(リチウム)を含む微粒子により、充放電容量を維持しながら出力特性を向上させるものである。
【0028】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム金属複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
これに対して、本発明は、母材としたリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に層状物を形成せずに、WおよびLiを含む微粒子のみを分散状態で形成させるが、この微粒子は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果があるため、リチウム金属複合酸化物粉末の表面に、この微粒子を分散状態で形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させ、さらにサイクル特性の向上を可能とするものである。
【0029】
ここで、正極活物質の表面を層状物で被覆した場合には、その被覆厚みに関わらず、比表面積の低下が起こり、たとえ被覆物が高いリチウムイオン伝導度を持っていたとしても、電解液との接触面積が小さくなってしまい、それによって充放電容量の低下、反応抵抗の上昇を招きやすい。しかし、本発明のように層状物を形成せずに微粒子のみを分散状態で存在するように形成させることで、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量の低下を抑制するとともに反応抵抗を低減させることができる。
【0030】
特に本発明に用いられるリチウムを過剰に添加したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、元来、抵抗が高く、出力特性には不利であるため、反応抵抗の低減により大きな効果を得ることができる。しかも、充放電容量の低下が抑制されるため、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の有する極めて高い充放電容量を十分に生かすことが可能である。
【0031】
このような微粒子は、その粒子径が1〜100nmであることが好ましい。
その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。また、粒子径が100nmを超えると、表面上への分散状態で存在する微粒子の形成が不均一になり、反応抵抗の低減効果が十分に得られない場合があるためである。
【0032】
さらに、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面に微粒子が形成されていることが重要である。
ここで、本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子表面と二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
【0033】
この電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、二次粒子の表面近傍および内部の空隙、さらには不完全な粒界でも生じるため、一次粒子表面にも微粒子を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。
したがって、一次粒子表面全体において、微粒子を分散状態で存在するように形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0034】
ここで、微粒子は点在している状態であることが好ましい。特に分散状態で点在している状態が好ましい。
微粒子が点在している状態でも、リチウム金属複合酸化物の二次粒子の外面および内部の空隙に露出している一次粒子表面に微粒子が形成されていれば、反応抵抗の低減効果が得られる。
一方、完全に一次粒子の全表面、或いは一部分において微粒子が層状物の形態で形成されていると、電解液との接触が少なくなり、反応抵抗の低減効果が十分に得られないことがある。
【0035】
このようなリチウム金属複合酸化物粉末の表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡で観察することにより判断でき、本発明の正極活物質については、リチウム金属複合酸化物からなる一次粒子の表面にWおよびLiを含む微粒子が分散状態で形成されていることを確認している。
一方、リチウム金属複合酸化物粒子間で不均一に微粒子が形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粉末間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。したがって、リチウム金属複合酸化物粒子間においても均一に微粒子が形成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の一次粒子表面に形成される微粒子は、WおよびLiを含むものであればよいが、WおよびLiがタングステン酸リチウムの形態となっていることが好ましい。このタングステン酸リチウムが形成されることで、リチウムイオン伝導度がさらに高まり、反応抵抗の低減効果がより大きなものとなる。
微粒子に含まれるタングステン量は、リチウム金属複合酸化物に含まれるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%とすることが好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
【0037】
タングステン量が0.1原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合があり、タングステン量が3.0原子%を超えると、形成される上記微粒子が多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物と電解液のリチウム伝導が阻害され、充放電容量が低下することがある。
【0038】
微粒子に含まれるリチウム量は、特に限定されるものではなく、微粒子にリチウムが含まれればリチウムイオン伝導度の向上効果が得られる。通常、リチウム金属複合酸化物の表面には余剰リチウムが存在し、アルカリ溶液との混合時に、その余剰リチウムにより微粒子に供給されるリチウム量でよいが、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量とすることが好ましい。
【0039】
また、正極活物質全体のリチウム量が、正極活物質中のNi、Co、MnおよびMの原子数の和(Me)とLiの原子数との比「Li/Me」が、1.4以上、1.6未満であることが好ましい。そのLi/Meが1.4未満であると、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池において、LiMnOの化合物量が少なくなり、放電容量が低下してしまう。また、Li/Meが1.6以上になると、正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0040】
本発明の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にWおよびLiを含む微粒子を形成させて出力特性を改善したものであり、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0041】
(2)正極活物質の製造方法
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0042】
[第1工程]
第1工程は、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物に、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液(以下、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液をアルカリ溶液(W)と称す。)を添加して混合する工程である。
これにより、電解液と接触可能なリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にWを分散させることができる。
【0043】
この第1工程では、まず、タングステン化合物をアルカリ溶液に溶解する。
溶解方法は、通常の粉末の溶解方法でよく、例えば、撹拌装置付の反応槽を用いて溶液を撹拌しながらタングステン化合物を添加して、均一な分散状態を得るためにアルカリ溶液に完全に溶解する。
【0044】
タングステン化合物は、アルカリ溶液に溶解可能なものであればよく、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムなど、アルカリに対して易溶性のタングステン化合物を用いることが好ましい。
アルカリ溶液に溶解させるタングステン量は、混合するリチウム金属複合酸化物に含まれるNi、Co、MnおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%とすることが好ましい。
【0045】
アルカリ溶液との混合後に固液分離を行わない場合は、アルカリ溶液(W)中のタングステンの全量が、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に分散、付着するため、一次粒子表面に微粒子を形成させるために必要な量とすればよい。
【0046】
固液分離する場合は、固液分離後にリチウム金属複合酸化物の粉末中に保持されるアルカリ溶液量を予備試験で確認し、保持されるアルカリ溶液中のタングステン量により調整すればよい。
【0047】
ただし、熱処理後にリチウム金属複合酸化物の粉末を解砕する場合は、一次粒子の表面上に形成されたWおよびLiを含む微粒子が剥離して、得られる正極活物質のタングステン含有量が減少することがある。このような場合は、減少分、すなわち、添加するタングステン量に対して5〜20原子%を見越してアルカリ溶液に溶解させるタングステン量を決めればよい。
【0048】
また、アルカリ溶液(W)のタングステン濃度は、0.05mol/L以上であることが好ましい。0.05mol/L未満では、タングステン濃度が低く混合するアルカリ溶液が大量に必要となるため、リチウム金属複合酸化物と混合する際にスラリー化してしまう。スラリー化することによりリチウム金属複合酸化物の層状格子に含まれるLiが溶出してしまい、そのため、電池特性の低下を招いてしまうため好ましくない。一方、固液分離する場合、タングステン濃度が2mol/Lを超えると、アルカリ溶液が少なく、上記一次粒子表面にWを均一に分散できないことがある。
【0049】
アルカリ溶液に用いるアルカリとしては、高い充放電容量を得るため、正極活物質にとって有害な不純物を含まない一般的なアルカリ溶液を用いる。
不純物混入のおそれがないアンモニア、水酸化リチウムを用いることができるが、Liのインターカレーションを阻害しない観点から水酸化リチウムを用いることが好ましい。
水酸化リチウムを用いる場合には、混合後の正極活物質に含有されるリチウム量が、一般式のLi/Mの範囲内とする必要があるが、水酸化リチウム量をWに対して、原子比で4.5〜15.0とすることが好ましい。Liはリチウム金属複合酸化物から溶出して供給されるが、この範囲の水酸化リチウムを用いることで、タングステン酸リチウムを形成させるのに十分な量のLiを供給することができる。
【0050】
また、アルカリ溶液は水溶液であることが好ましい。
Wを二次粒子を構成する一次粒子の表面に分散させるためには、二次粒子内部の空隙および不完全な粒界にも浸透させる必要があり、揮発性が高いアルコールなどの溶媒を用いると、アルカリ溶液が二次粒子内部の空隙に浸透する前に、溶媒が蒸発して十分に浸透しないことがある。
【0051】
アルカリ溶液のpHは、タングステン化合物が溶解するpHであればよいが、9〜12であることが好ましい。
pHが9未満の場合には、リチウム金属複合酸化物からのリチウム溶出量が多くなり過ぎて電池特性が劣化するおそれがある。また、pHが12を超えると、リチウム金属複合酸化物に残留する過剰なアルカリが多くなり過ぎて電池特性が劣化するおそれがある。
【0052】
本発明の製造方法においては、得られる正極活物質の組成は、母材とするリチウム金属複合酸化物からアルカリ溶液として添加して増加する微量のリチウム分のみであるため、母材のリチウム金属複合酸化物は、高容量の観点より、リチウムを過剰に添加したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、例えば国際公開WO2012/165654号公報に開示されたリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用い、一般式:Li1+uNiCoMn2+α(0.40≦u<0.60、(z−x>0.4の時z−x≦u、z<0.6の時u≦z)、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.5≦z<0.8、0<x+y、x+y+z+t=1、z−x<0.6、0.4≦α<0.6、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物が用いられる。
【0053】
ここで、Niに対するMnの過剰量、すなわち、「z−x」が0.4より大きい場合、uを(z−x)以上とする必要がある。uが(z−x)未満になると、LiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。また、Mn量を示すzが0.6未満の場合、Li量がMn量を超えると、MnとLiMnOを形成しない過剰のLiが増加するため、電池容量が低下する。
【0054】
NiおよびCoは、少なくとも1種が好ましく、Ni量を示すxは0≦x≦0.5であり、Co量を示すyは0≦y≦0.5である。xおよびyのいずれかが0.5を超えるとLiMnOの形成量が少なくなり、電池容量が低下する。一方、xおよびyの両方が0になると、LiMOが形成されずに電池容量が低下する。
【0055】
Mn量を示すzは、0.5≦z<0.8であり、zが0.5未満になると、LiMnOが十分に生成されなくなるとともに未反応のLiが存在するようになるため電池特性が低下する。一方、zが0.8以上となると、LiMnOとLiMOを形成するために必要なLiが不足してしまうため、LiNi0.5Mn1.5といったスピネル相が発生してしまい、電池特性が低下してしまう。スピネル相の発生を抑制するためには、この(z−x)を0.6以下とすることが好ましい。
【0056】
さらに一般式におけるαは、O(酸素)の過剰量を示す数値であり、LiMnOとLiMOを形成させるためにはuと同様の数値範囲とする必要がある。
また、電解液との接触面積を多くすることが、出力特性の向上に有利であることから、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、二次粒子に電解液の浸透可能な空隙および粒界を有するリチウム金属複合酸化物粉末を用いる。
【0057】
次にリチウム金属複合酸化物粉末を、撹拌しながら調製したアルカリ溶液(W)に添加して混合する。
その混合は、アルカリ溶液(W)が液体であり、かつ50℃以下の温度で行うことが好ましい。アルカリ溶液(W)は、二次粒子の空隙および粒界にも浸透させる必要があり、液体であることが必要である。また、50℃を超える温度とすると、アルカリ溶液の乾燥が速いため、二次粒子の空隙および粒界に十分に浸透しないおそれがある。また、乾燥が速いとリチウム金属複合酸化物粉末からのLiの溶出が期待できず、特にアルカリ溶液(W)にLiが含有されない場合、表面に形成される微粒子にLiが含有されないことがある。
【0058】
リチウム金属複合酸化物粉末と、アルカリ溶液(W)は、Wの分散を均一にするためを十分混合するが、その混合には、一般的な混合機を使用することができる。
例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粉末の形骸が破壊されない程度でアルカリ溶液(W)と十分に混合してやればよい。これにより、アルカリ溶液(W)中のWを、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に均一に分布させることができる。
【0059】
[第2工程]
第2工程は、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物粉末の混合物を熱処理する工程である。
この熱処理により、アルカリ溶液(W)より供給されたWと、アルカリ溶液(W)リチウム金属複合酸化物粉末からのリチウムの溶出のいずれか、又は両者により供給されたリチウム(Li)から、タングステン(W)およびリチウム(Li)を含む微粒子を形成し、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に、WおよびLiを含む微粒子を分散状態で点在させて有する非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
【0060】
その熱処理方法は特に限定されないが、100〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。
熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、微粒子が十分に形成されない場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに一部のWがリチウム金属複合酸化物の層状構造に固溶してしまうために、電池の充放電容量が低下することがある。
【0061】
熱処理時の雰囲気は、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避けるため、酸素雰囲気などのような酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とすることが好ましい。
熱処理時間は、特に限定されないが、アルカリ溶液の水分を十分に蒸発させて微粒子を形成するために5〜15時間とすることが好ましい。
【0062】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0063】
(a)正極
先に述べた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
【0064】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0065】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0066】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0067】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0068】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0069】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0070】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0071】
(e)電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0072】
(f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。
特により好ましい形態で得られた本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、250mAh/g以上の高い初期放電容量が得られ、さらに低抵抗で高出力で、かつサイクル特性にも優れたものである。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【実施例】
【0073】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、正極抵抗)を測定した。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
(電池の製造および評価)
正極活物質の評価には、図1に示す2032型コイン電池(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
コイン型電池は、ケースと、このケース内に収容された電極とから構成されている。
ケースは、中空かつ一端が開口された正極缶6と、この正極缶6の開口部に配置される負極缶7とを有しており、負極缶7を正極缶6の開口部に配置すると、負極缶7と正極缶6との間に電極を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0075】
電極は、正極1、セパレータ3および負極2とからなり、この順で並ぶように積層されており、正極1が正極缶6の内面に接触し、負極2が負極缶7の内面にウェーブワッシャー5を介して接触するようにケースに収容されている。
なお、ケースはガスケット4を備えており、このガスケット4によって、正極缶6と負極缶7との間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット4は、正極缶6と負極缶7との隙間を密封してケース内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0076】
上記の図1に示すコイン型電池は、以下のようにして製作した。
先ず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、直径10mmで10mg程度の重量になるまで薄膜化して、正極1を作製した。作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
この正極1と、負極2、セパレータ3および電解液とを用いて、上述したコイン型電池を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0077】
なお、負極2には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0078】
製造したコイン型電池の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.8Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0079】
正極抵抗の測定は、定電流−低電圧充電を行い、電位を4.5Vに合わせた後、1.3mAの電流を10秒間流し、4.5Vから10秒後の電位を引いてΔVを求め、ΔVを流した電流値である1.3mAで割ることで抵抗(Ω)を算出した。なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0080】
サイクル容量維持率(サイクル特性)は、正極に対する電流密度を2mA/cmとして、4.7Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを200回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率とした。
【実施例1】
【0081】
(母材の作製)
まず、反応槽内に純水を半分の量まで入れて撹拌しながら、窒素ガスを流通させ反応槽内の酸素濃度を低下させ、槽内温度を40℃に設定し、純水に25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、液のpHを液温25℃基準で(pHは全て液温25℃基準で調整)12.8に、液中アンモニア濃度を10g/Lに調節して反応液を調製した。ここに、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン(金属元素モル比でNi:Co:Mn=2:1:7)を純水に溶かして得た1.8mol/Lの水溶液(混合水溶液A)と、アンモニア水および水酸化ナトリウム水溶液を一定速度で加えていき、pH値を12.8(核生成pH)に制御しながら2分30秒間晶析を行った。
【0082】
その後、pHが11.6(核成長pH)になるまで、その水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止し、pHの値として11.6に到達した後、再度水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開した。次いで、pHを11.6に制御したまま、2時間晶析を継続し、反応槽内が満水になったところで晶析を停止し撹拌を止めて静置することで、生成物の沈殿を促した。上澄み液を半量抜き出したのちに、晶析を再開した。さらに2時間晶析を行った後(計4時間)、晶析を終了させて、生成物を水洗、濾過、乾燥させた。
【0083】
以上、述べた方法により、Ni0.20Co0.10Mn0.70OH)2+β(0≦β≦0.5)で表される複合水酸化物を得た。
得られた複合水酸化物を大気雰囲気中150℃で12時間熱処理した後、Li/Me=1.5となるように炭酸リチウムを秤量し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて、その熱処理した複合水酸化物と炭酸リチウムを十分に混合した混合物を得た。
この混合物を空気(酸素:21容量%)気流中にて900℃で10時間焼成し、さらに解砕して母材となるリチウム金属複合酸化物を得た。
【0084】
得られたリチウム金属複合酸化物を、X線回折(XRD)装置により結晶構造を確認したところ、XRDパターンからLiMnOとLiM′O(M′は、Ni、CoおよびMnを示す)の存在が確認された。なお、LiMnOとLiM′Oの割合は、組成から算出すると0.5:0.5となる。
得られたリチウム金属複合酸化物の平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積はBET法を用いて評価した。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は5.2μmであり、比表面積は1.1m/gであった。
【0085】
(第1工程)
3mlの純水に、0.2gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液のアルカリ溶液中に、0.183gの酸化タングステン(WO)を添加して撹拌することにより、タングステンを含有したアルカリ溶液(W)を得た。
次に、作製した母材のリチウム金属複合酸化物粉末15gに、アルカリ溶液(W)を添加し、さらに、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合して、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物の混合物を得た。
【0086】
(第2工程)
得られた混合物を、マグネシア製焼成容器に入れ、100%酸素気流中において、昇温速度2.8℃/分で500℃まで昇温して10時間熱処理し、その後室温まで炉冷した。
熱処理後のリチウム金属複合酸化物の粉末のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMnの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認された。これより、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物の混合物の配合と、その熱処理後の組成が同等であることが確認された。
【0087】
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、正極活物質を得た。
得られた正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面にWおよびLiを含む微粒子が分散状態で存在するように形成されていることを確認した。
【0088】
(電池評価)
得られた正極活物質を使用して作製した正極を有する図1に示すコイン型電池1を用いて、初期放電容量と正極抵抗およびサイクル容量維持率を評価した。なお、抵抗は比較例2からの低減率により評価した。その結果を表1に示した。
【0089】
(比較例1)
第1工程および第2工程に替えて焼成時にタングステン含有量がNi、CoおよびMnの原子数の合計に対して0.5原子%になるように酸化タングステンを添加して焼成した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。その初期放電容量と正極抵抗およびサイクル容量維持率の結果を表1に示した。
なお、得られた正極活物質のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認された。また、この正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面をSEM観察した所、W及Liを含む層状物が観察された。
【0090】
(比較例2)
実施例1で得られたリチウム金属複合酸化物に対して、第1工程および第2工程を省略し、微粒子を一次粒子表面に設けず母材のみとした正極活物質を得るとともに評価を行った。初期放電容量と正極抵抗およびサイクル容量維持率の結果を表1に示した。
【0091】
(比較例3)
Li1.060Ni0.76Co0.14Al0.10で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を母材に用いた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価を行った。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は5.0μmであり、比表面積は0.9m/gであった。また、熱処理後のリチウム金属複合酸化物の粉末のタングステン含有量をICP法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびAlの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認された。これより、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物の混合物の配合と、その熱処理後の組成が同等であることが確認された。
その初期放電容量と正極抵抗およびサイクル容量維持率の結果を表1に示した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1より、本発明の正極活物質は、W及びLiを含む微粒子を一次粒子表面に持たない母材のみの場合である比較例2と比較して、初期放電容量はほぼ同等であるが、正極抵抗が大幅に低減され、サイクル特性も優れていることが確認された。また、酸化物によりWを添加した比較例1と比較しても正極抵抗が低減され、サイクル特性が良いことが確認された。
【0094】
さらに、異なる組成のリチウム金属複合酸化物を母材とした比較例3と比較した場合に、初期放電容量を高めつつ、正極抵抗を大幅に低減し、且つサイクル特性を良好であることがわかる。
【0095】
以上より、本発明の正極活物質は、放電容量が250mAh/gを超える高容量であり、かつ正極抵抗も大幅に低減でき、電池特性が非常に優れたものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の非水系二次電池は、高容量の優れた電気特性を有することから、最近の携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器などの高エネルギー密度が要求される小型電源装置として好適である。
また、本発明の非水系二次電池は、優れた安全性を有することから、純粋に電気エネルギーで駆動される電気自動車、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するハイブリッド自動車もしくはプラグインハイブリッド自動車などの大型電源装置としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1 正極(評価用電極)
2 カーボン負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶
図1