特許第6861037号(P6861037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6861037-ギ酸分解方法及びギ酸分解装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861037
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ギ酸分解方法及びギ酸分解装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/22 20060101AFI20210412BHJP
   C01B 3/50 20060101ALI20210412BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20210412BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C01B3/22 Z
   C01B3/50
   C01B32/50
   B01J23/42 M
   B01J35/02 H
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-11566(P2017-11566)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-118876(P2018-118876A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】314001531
【氏名又は名称】飯田グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(72)【発明者】
【氏名】森 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西河 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 歩
(72)【発明者】
【氏名】坂部 友祐
(72)【発明者】
【氏名】天尾 豊
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−151436(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120703(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/156273(WO,A1)
【文献】 特開2009−078200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 3/00 − 6/34
C01B 32/50
C07C 51/00
C07C 53/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解方法であって、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とするギ酸分解方法。
【請求項2】
前記ギ酸の分解により発生した二酸化炭素を分離し、ギ酸の合成に用いることを特徴とする請求項1に記載のギ酸分解方法。
【請求項3】
前記白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下である請求項1又は請求項2に記載のギ酸分解方法。
【請求項4】
前記水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、前記白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のギ酸分解方法。
【請求項5】
ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置であって、
少なくともギ酸を貯蔵する貯蔵部と、
前記貯蔵部から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、
前記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、
前記反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とするギ酸分解装置。
【請求項6】
更に、前記反応部で生成した水素と二酸化炭素を分離する分離部を有する請求項5に記載のギ酸分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸を分解して水素を生成するためのギ酸分解方法及びギ酸分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として利用する「水素社会」のアイデアは以前から提案されているが、水素を貯蔵・運搬することの難しさやエネルギー変換効率の点から現在でも普及するに至っているとは言い難い。
【0003】
例えば、エネルギー密度の低い水素を自動車の燃料として持ち運ぶには、数百気圧もの高圧をかけなければならない。液体水素にする方法もあるが、超低温にする必要があるため、一般的ではない。
【0004】
そこで、ギ酸(HCOOH)を水素源として生成し、貯蔵する技術が研究されている。ギ酸は常温で液体であり、エネルギー密度も高いため、貯蔵物質として優れている。一方で、水素をエネルギー源として用いる際にはギ酸を分解して水素を生成する必要がある。
【0005】
ギ酸を分解する方法としては、熱分解があるが、ギ酸を単に加熱して熱分解することは、ギ酸の沸点(約101℃)以上の高温を要するため、常時高温状態を保つことはコスト面等で問題がある。
【0006】
ギ酸を触媒を用いて分解する方法もあり、例えば、特許文献1には、シクロペンタジエン置換体からなる配位子ならびに窒素含有複素環式化合物からなる配位子を有したロジウム単核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含むギ酸分解用触媒が記載されている。また、特許文献2にも複核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含むギ酸分解用触媒が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されているような複雑な構造式の触媒は合成が困難であるという課題があった。
【0008】
ところで、特許文献3には、ギ酸を含むガスと、酸素あるいは酸素を含むガスとを、ギ酸分解用触媒の存在下で反応させ、ギ酸を水および二酸化炭素に分解するギ酸の分解方法が記載されている。
【0009】
このように、酸素存在下でギ酸を分解すると水および二酸化炭素が生成し、水素が発生しない。したがって、ギ酸を分解して水素をエネルギー源として用いる場合には、このような反応は副反応となり望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−78200号公報
【特許文献2】国際公開第2008/059630号
【特許文献3】特開2015−66515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、触媒を用いてギ酸を分解する場合、汎用性を考慮するとその反応系の構築は簡易なものであることが好ましい。また、ギ酸を効率的に水素に変換するためには、ギ酸から水と二酸化炭素が発生する副反応が生じないことが望ましい。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、複雑な構造の触媒を必要とせず、ギ酸から水素を発生させることができるギ酸分解方法及びギ酸分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とするギ酸分解方法である。
【0014】
本発明の一態様によれば、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【0015】
このとき、本発明の一態様では、ギ酸の分解により発生した二酸化炭素を分離し、ギ酸の合成に用いてもよい。
【0016】
このように、発生した二酸化炭素を再度ギ酸の生成に用いることにより、二酸化炭素を外部に放出することなく有効利用することができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下としてもよい。
【0018】
このように、粒子径の小さい白金微粒子を用いることで、触媒機能を高めることができる。
【0019】
また、本発明の一態様では、水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下とすることができる。
【0020】
このような添加量とすることにより、白金微粒子を適度に分散させることができる。
【0021】
本発明の他の態様は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置であって、少なくともギ酸を貯蔵する貯蔵部と、貯蔵部から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とするギ酸分解装置である。
【0022】
本発明の他の態様によれば、反応部に白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させたものを用いることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【0023】
このとき、本発明の他の態様では、更に、反応部で生成した水素と二酸化炭素を分離する分離部を有してもよい。
【0024】
生成した水素と二酸化炭素を分離することで、より純度の高い水素を利用することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、複雑な構造の触媒を必要とせず、高効率でギ酸から水素を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るギ酸分解装置の構成の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.ギ酸分解方法
2.ギ酸分解装置
【0028】
<1.ギ酸分解方法>
まず、本発明の一実施形態に係るギ酸分解方法について説明する。本発明の一実施形態に係るギ酸分解方法は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解する。
【0029】
白金は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するための触媒として作用する。白金は、反応面積を広くするために微粒子状の物を用い、白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下のものを用いるのが好ましい。
【0030】
水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)は、白金微粒子を分散させるためのものである。白金微粒子は単独では凝集して沈殿しやすいため、水溶性高分子ポリビニルピロリドン用いることで、白金微粒子を分散させた状態で触媒としての機能を保持することができる。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下となるようにすることが好ましい。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が1質量%未満の場合は、白金微粒子の分散性を向上させるのに十分な効果が得られない。また、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が20質量%を超える場合は、白金微粒子の触媒機能が十分に得られない。
【0031】
本発明においては、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンの組み合わせで用いることに特徴がある。例えば、分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などもあるが、これらの分散剤を用いた場合には、ギ酸から水と二酸化炭素が生成する副反応が生じてしまう。本発明者らは、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンという特定の組み合わせを適用することでギ酸から水素と二酸化反応が発生する反応を選択的かつ効率的に生じることを見出したものである。
【0032】
すなわち、ギ酸の分解反応には、下記反応式(1)で表されるギ酸から水素と二酸化炭素が生成する反応と、下記反応式(2)で表されるギ酸から水と二酸化炭素が生成する反応がある。本発明においては、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせて使用することで、反応式(2)の副反応がほとんど起こることなく、反応式(1)の反応により水素を効率的に発生させることができる。
HCOOH → H+CO ・・・(1)
2HCOOH+O → 2HO+2CO ・・・(2)
【0033】
ギ酸の分解反応においては、白金触媒と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせることで、ポリビニルピロリドンのカルボニル基が白金微粒子の電子状態を変えることにより、水素生成の反応が効率的に起こると考えられる。
【0034】
また、本発明の一実施形態に係るギ酸分解方法では、ギ酸の分解反応を常温・常圧の脱酸素下で行う。白金微粒子を用いた触媒反応であるため、特に加熱や加圧は不要である。また、酸素が存在すると上記反応式(2)のように、水と二酸化炭素が生成する副反応が起きてしまうため、反応系を脱酸素状態にしておく必要がある。
【0035】
本発明の一実施形態に係るギ酸分解方法では、ギ酸の分解により発生した二酸化炭素を分離し、ギ酸の合成に用いてもよい。例えば、上記反応式(1)で発生した二酸化炭素を化学吸収法、膜分離法、吸着法などにより分離する。これにより、水素の純度を上げることができるため、より効率的に水素を利用することができる。また、分離した二酸化炭素は、例えば、下記反応式(3)のように再度ギ酸に変換する反応に用いることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用することができる。
2HO+2CO → 2HCOOH+O ・・・(3)
【0036】
以上説明したように、本発明の一実施形態は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解方法であって、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とするギ酸分解方法である。本発明によれば、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【0037】
<2.ギ酸分解装置>
次に、本発明の一実施形態に係るギ酸分解装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るギ酸分解装置の構成の一例を示す構成図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係るギ酸分解装置10は、少なくとも貯蔵部11、反応部12、制御部13を備え、必要に応じて分離部14等を有する。以下、ギ酸分解装置10の各構成について説明する。
【0038】
貯蔵部11は、水素を生成するためのギ酸を貯蔵しておくためのものである。貯蔵するギ酸は、製品として販売されているものでも、他の反応機構により生成されたものでも何れでもよい。貯蔵部11の材質は特に限定はされないが、ギ酸により腐食されないものが好ましい。
【0039】
反応部12は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解する。反応部12は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有する。触媒は、例えば、基板等に担持させてもよいし、反応部12内で分散溶液として保持される構成でもよい。そして、反応部12では、貯蔵部11内に貯蔵されたギ酸が適宜供給され、反応部12において白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により水素と二酸化炭素に分解される。反応部12はギ酸の分解反応中に適宜溶液を撹拌する装置を備えていてもよい。
【0040】
制御部13は、主に反応部12が常温・常圧の脱酸素下となるように制御する。特に、上記反応式(2)のような水と二酸化酸素が生成する副反応が生じないように、反応部12内を脱酸素状態となるように制御することが重要である。脱酸素状態とする手段としては、例えば反応部12内を窒素ガス等で置換することが挙げられる。その他にも、制御部13は、例えば、反応部12やその他の機関で高温・加圧状態や異常を検知した場合に、ギ酸分解装置10を停止したり、異常状態を解消するような機構を備えていることが好ましい。
【0041】
分離部14は、生成した水素と二酸化炭素の混合気体から二酸化炭素を除き、水素の純度を上げる。例えば、分離部14は、分離膜を有することで二酸化炭素を選択的に取り除く。取り除かれた二酸化炭素は、例えば、上記反応式(3)のようにギ酸の生成に用いることが可能であり、このように二酸化炭素を循環させることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用することが可能になる。
【0042】
以上説明したように、本発明の一実施形態は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置であって、少なくともギ酸を貯蔵する貯蔵部と、貯蔵部から供給されるギ酸を水素と酸素に分解する反応部と、反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、反応部は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とするギ酸分解装置である。
【0043】
このように、反応部に白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させたものを用いることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
白金微粒子0.1mlを水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させたものに、ギ酸0.9mlを加えて3.0mlのバッファー溶液とした。この溶液を30℃で反応させると2時間後に12μmolの水素(H)と10μmolの二酸化炭素(CO)が生成することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るギ酸分解方法及びギ酸分解装置は、高効率でギ酸から水素を発生させることができるため、水素発電等の手段で水素を利用するためのエネルギー源生成手段として幅広い分野で利用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 ギ酸分解装置、11 貯蔵部、12 反応部、13 制御部、14 分離部
図1