特許第6861038号(P6861038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861038
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】水素供給システムおよび水素供給方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/22 20060101AFI20210412BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20210412BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20210412BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALN20210412BHJP
【FI】
   C01B3/22 ZZAB
   B01J23/42 M
   B01J35/02 H
   B01D53/62
   !H01M8/0606
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-11567(P2017-11567)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-118877(P2018-118877A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】314001531
【氏名又は名称】飯田グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(72)【発明者】
【氏名】森 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西河 洋一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 歩
(72)【発明者】
【氏名】坂部 友祐
(72)【発明者】
【氏名】天尾 豊
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/059630(WO,A1)
【文献】 特開2011−094194(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031065(WO,A1)
【文献】 特開昭59−112938(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/187485(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/013940(WO,A2)
【文献】 特開平11−151436(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/120703(WO,A1)
【文献】 特開2015−066515(JP,A)
【文献】 特表2010−506818(JP,A)
【文献】 AMAO, Y. et al.,Faraday Discussions,英国,2012年,Vol.155,pp.289-296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 3/00 − 6/34
C07C 51/00
C07C 53/02
C25B 1/00
B01D 53/62
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成装置と、
上記ギ酸生成装置により生成されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵タンクと、
上記ギ酸貯蔵タンクから供給されるギ酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置と
からなり、
上記ギ酸分解装置は、上記ギ酸生成装置から供給されるギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給し、
上記ギ酸分解装置は、上記ギ酸貯蔵タンクから供給されるギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成装置に供給することにより、二酸化炭素を循環させるとともに、ギ酸を分解して水素を外部装置に供給することを特徴とする水素供給システム。
【請求項2】
上記ギ酸生成装置は、水を分解して酸素を発生させるとともに、水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段と、
上記水素イオン発生手段により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、ギ酸生成デバイスにより、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成手段と
を備えることを特徴とする請求項1記載の水素供給システム。
【請求項3】
上記ギ酸生成デバイスは、基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子による多孔質層に色素、メチルビオローゲン、及びギ酸脱水素酵素を担持させてなることを特徴とする請求項2記載の水素供給システム。
【請求項4】
上記多孔質層の厚さは1〜10μmである請求項3に記載の水素供給システム。
【請求項5】
上記ギ酸分解装置は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項6】
上記白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下である請求項5に記載の水素供給システム。
【請求項7】
上記水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、上記白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下である請求項5又は請求項6に記載の水素供給システム。
【請求項8】
上記ギ酸分解装置は、少なくともギ酸を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、上記反応部で生成した水素と二酸化炭素を分離する分離部と、上記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、上記反応部は、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有することを特徴とする請求項5乃至7の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項9】
上記外部装置は住宅用水素発電装置であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の水素供給システム。
【請求項10】
水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子による多孔質層に色素・メチルビオローゲン・ギ酸脱水素酵素を担持させてなるギ酸生成デバイスにより、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して貯蔵するギ酸生成工程と、
白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解工程と
を有し、
上記ギ酸分解工程では、上記ギ酸生成工程において貯蔵されたギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成工程に供給することにより循環させるとともに、ギ酸を分解して水素を外部装置に供給することを特徴とする水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光エネルギーを利用した水素供給システムおよび水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーとして、これまで石炭や石油等の化石燃料が広く使用されてきたが、近年では資源の枯渇、二酸化炭素などによる地球温暖化等の問題があり、これらに代わる代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。
【0003】
また、クリーンエネルギーの代表として太陽光エネルギーの利用が挙げられる。
【0004】
近年、太陽光発電などで生み出した電力で水を電気分解して水素を取り出し、その水素を燃料資源とする燃料電池や水素エンジンの開発や、これらを搭載した水素燃料電池自動車や水素エンジン自動車などの技術開発が進められている。
【0005】
水素を利用し発電を行う燃料電池発電システムは、近年、自動車,家庭用発電設備,自動販売機,携帯機器など多様な用途の電源として技術開発が急速に進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
水素は燃焼すると水のみを生じるので、二酸化炭素の排出を伴わないという点でより地球環境に優しく、今後のエネルギー源としての期待は大きい。
【0007】
しかしながら、水素は、反応性の高い気体であるため、輸送・貯蔵が困難であり、その安定的供給のために、安全かつ低コストの輸送・貯蔵技術を必要とする。
【0008】
水素の貯蔵方法としては、現在、高圧ガスとしてボンベ等に貯蔵する方法が一般的である。しかし、この方法は、高圧ガス輸送時の安全性、容器の水素脆性等の問題がある。例えば、エネルギー密度の低い水素を自動車の燃料として持ち運ぶには、数百気圧もの高圧をかけなければならない。また、水素ガスを液体水素の形で貯蔵する方法があるが、超低温にする必要があるため、一般的ではない。また、水素の製造を工業的規模で考えた場合、通常、水を電気分解して製造されるため、製造コストにも課題がある。
【0009】
また、従来より、水素の貯蔵方法として、ギ酸(HCOOH)を水素の貯蔵タンクとして用い、必要時にギ酸から水素を取り出すことが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0010】
ギ酸の製造方法として、例えば、水素ガスと二酸化炭素ガスを温度20〜250℃、圧力2〜35MPaの条件に維持し触媒存在下でギ酸を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この特許文献4に記載の方法では、高温、高圧にしたり、大規模な設備が必要となる。
【0011】
そこで、光エネルギーにより、水を分解し、その際得られた電子を用いて酵素等により二酸化炭素と水からギ酸を生成する人工光合成による方法が研究されている。
【0012】
また、二酸化炭素の存在下、ギ酸脱水素酵素を触媒とした酵素反応を、ビオローゲン化合物又はビピリジニウム塩誘導体を電子伝達体として用いて行うことを特徴とする、二酸化炭素をギ酸に変換する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この特許文献5記載の方法でギ酸を生成するには、光増感剤、電子伝達体、触媒を必要とする。
【0013】
また、ギ酸を分解する方法としては、熱分解があるが、ギ酸を単に加熱して熱分解することは、ギ酸の沸点(約101℃)以上の高温を要するため、常時高温状態を保つことはコスト面等で問題がある。
【0014】
ギ酸を触媒を用いて分解する方法もあり、例えば、シクロペンタジエン置換体からなる配位子ならびに窒素含有複素環式化合物からなる配位子を有したロジウム単核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含むギ酸分解用触媒や、複核金属錯体、その互変異性体もしくは立体異性体、またはそれらの塩を含むギ酸分解用触媒が提案されている(例えば、特許文献6、7参照)。
【0015】
しかしながら、特許文献6や特許文献7に記載されているような複雑な構造式の触媒は合成が困難であるという課題があった。
【0016】
また、ギ酸を含むガスと、酸素あるいは酸素を含むガスとを、ギ酸分解用触媒の存在下で反応させ、ギ酸を水および二酸化炭素に分解するギ酸の分解方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0017】
このように、酸素存在下でギ酸を分解すると水および二酸化炭素が生成し、水素が発生しない。したがって、ギ酸を分解して水素をエネルギー源として用いる場合には、このような反応は副反応となり望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007‐224381号公報
【特許文献2】特開2013−32271号公報
【特許文献3】特開2013−193983号公報
【特許文献4】特開2001‐192676号公報
【特許文献5】国際公開2013/187485号公報
【特許文献6】特開2009−78200号公報
【特許文献7】国際公開第2008/059630号
【特許文献8】特開2015−66515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ギ酸(HCOOH)は、常温で液体であり、水素(H)/二酸化炭素(CO)と相互変換が可能でエネルギー密度も高いため、水素貯蔵材料として最近注目されている。
【0020】
ギ酸は、常温常圧での水素貯蔵量が4.4%あり、二酸化炭素との相互変換に伴うエネルギー変化が小さいことから、温和な条件で使用でき、効率のよい水素貯蔵用水素化物として期待されている。
【0021】
太陽光により、特許文献5に記載された方法で燃料源としてのギ酸を作るためには、光増感剤、電子伝達体、触媒を必要とする。
【0022】
しかしながら、太陽光と水をそれぞれエネルギー源、電子源とする事で、天然の葉は二酸化炭素から有機物と酸素へ、常温、常圧、酸素大気下で、当たり前の様に物質変換しているが、物質変換反応を常温、常圧の酸素大気下で、人工的に行おうとすると、酸素により反応が阻害されてしまうという問題がある。
【0023】
一般的に、この反応は酸素により阻害されるため、酸素を除く必要がある。しかしながら、酸素除去のコストが人工光合成を実現するための一つの大きな問題となる。
【0024】
また、上述の通り、触媒を用いてギ酸を分解する場合、汎用性を考慮するとその反応系の構築は簡易なものであることが好ましい。また、ギ酸を効率的に水素に変換するためには、ギ酸から水と二酸化炭素が発生する副反応が生じないことが望ましい。
【0025】
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の状況に鑑み、実用的な住宅のエネルギー供給システムを実現しようとするもので、太陽光エネルギーを有効に利用して、ギ酸を生成して貯蔵し、貯蔵したギ酸を水素に変換してエネルギー源として安全且つ効率よく供給する水素供給システムおよび水素供給方法を提供することにある。
【0026】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、水素供給システムであって、水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成装置と、上記ギ酸生成装置により生成されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵タンクと、上記ギ酸貯蔵タンクから供給されるギ酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置とからなり、上記ギ酸分解装置は、上記ギ酸生成装置から供給されるギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給し、上記ギ酸分解装置は、上記ギ酸貯蔵タンクから供給されるギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成装置に供給することにより、二酸化炭素を循環させるとともに、ギ酸を分解して水素を外部装置に供給することを特徴とする。
【0028】
本発明に係る水素供給システムにおいて、上記ギ酸生成装置は、水を分解して酸素を発生させるとともに、水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段と、上記水素イオン発生手段により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、ギ酸生成デバイスにより、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成手段とを備えるものとすることができる。
【0029】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記ギ酸生成デバイスは、例えば、基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子による多孔質層に色素、メチルビオローゲン、及びギ酸脱水素酵素を担持させてなるものとすることができる。
【0030】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記ギ酸分解装置は、例えば、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するものとすることができる。
【0031】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記多孔質層の厚さは1〜10μmであるものとすることができる。
【0032】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記ギ酸分解装置は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するものとすることができる。
【0033】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下であるものとすることができる。
【0034】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、上記白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下であるものとすることができる。
【0035】
また、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記ギ酸分解装置は、例えば、少なくともギ酸を貯蔵する貯蔵部と、上記貯蔵部から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解する反応部と、上記反応部で生成した水素と二酸化炭素を分離する分離部と、上記反応部を常温・常圧の脱酸素下に制御する制御部とを備え、上記反応部は、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有するものとすることができる。
【0037】
さらに、本発明に係る水素供給システムにおいて、上記外部装置は住宅用水素発電装置であるものとすることができる。
【0038】
本発明は、水素供給方法であって、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子による多孔質層に色素・メチルビオローゲン・ギ酸脱水素酵素を担持させてなるギ酸生成デバイスにより、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して貯蔵するギ酸生成工程と、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解工程とを有し、上記ギ酸分解工程では、上記ギ酸生成工程において貯蔵されたギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成工程に供給することにより循環させるとともに、ギ酸を分解して水素を外部装置に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る水素供給システムでは、ギ酸生成装置において、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して貯蔵し、貯蔵されたギ酸を常温・常圧の脱酸素環境下で触媒反応により水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置により、上記ギ酸生成装置から供給されるギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成装置に供給して循環させるので、二酸化炭素を外部に放出することなく有効利用して、上記ギ酸分解装置によりギ酸を分解して得られる水素をエネルギー源として外部装置に安全且つ効率よく供給することができる。
【0040】
本発明に係る水素供給システムにおけるギ酸生成装置では、水の分解で生じた水素イオン及び電子と、空気中及び/又は他の機関から排出された二酸化炭素を有効利用することができ、また、酸化アルミニウム微粒子により多孔質層を形成することで、色素分子の励起エネルギーを奪うことなく、効率的にメチルビオローゲンへの電子移動を達成することができ、水素源をギ酸に変換して貯蔵することができる。
【0041】
本発明に係る水素供給システムにおけるギ酸分解装置では、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させることで、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【0042】
したがって、本発明によれば、太陽光エネルギーを有効に利用して、水素をエネルギー源として安全且つ効率よく供給する水素供給システムおよび水素供給方法を提供することができ、水素をエネルーギー源とする実用的な住宅のエネルギー供給システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明を実施する水素供給システムの構成例を示すブロック図である。
図2】上記水素供給システムにおけるギ酸生成装置の構成例を表す模式図である。
図3】上記ギ酸生成装置に備えられるギ酸生成デバイスの構成例を示す模式図である。
図4】上記ギ酸生成デバイスでの反応を示す概要図である。
図5】上記ギ酸生成デバイスの作成方法の概略を示すフロー図である。
図6】上記ギ酸生成デバイスの作成方法の各工程を示す模式図であり、(A)は塗布工程、(B)は乾燥工程、(C)は加熱処理工程、(D)は担持工程を示す。
図7】上記水素供給システムにおけるギ酸分解装置の構成例を表す模式図である。
図8】上記水素供給システムにより実行される水素供給方法の実行過程を示す工程図である。
図9】本発明を適用した住宅用エネルギー供給システムの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0045】
本発明は、例えば、図1に示すような構成の水素供給システム100により実施される。
【0046】
この水素供給システム100は、人工光合成によるギ酸生成装置50と、このギ酸生成装置50により生成されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵タンク55と、このギ酸貯蔵タンク55から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置60からなる。
【0047】
上記ギ酸生成装置50は、水と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して、貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0048】
上記ギ酸分解装置60は、常温・常圧の脱酸素環境下でギ酸を触媒反応により水素と二酸化炭素に分解するものであって、上記貯蔵タンク55から流路40を介して供給されるギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給する。
【0049】
なお、エネルギー供給システム100において、ギ酸貯蔵タンク55は、流路40を介してギ酸生成装置50とギ酸分解装置60に同時接続された据え置き型の構造となっているが、ギ酸生成装置50とギ酸分解装置60に同時接続される必要はなく、ギ酸生成装置50とギ酸分解装置60に個別に着脱自在に接続されるカットリッジ型の構造を採用することもできる。
【0050】
また、このエネルギー供給システム100では、上記貯蔵タンク55から流路40を介して供給されるギ酸を上記ギ酸分解装置60により分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成装置50に流路70を介して供給して循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給するようになっている。
【0051】
この水素供給システム100におけるギ酸生成装置50は、例えば、図2に示すように、水を分解して水素イオンと電子を得る水素イオン発生手段20と、水素イオンと電子、及び二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成デバイス10を用いたギ酸生成手段30とを備える。
【0052】
このギ酸生成装置50において、水素イオン発生手段20とギ酸生成手段30とは、例えば、水素イオンを選択的に透過するような半透膜で仕切られた水槽内に設置され、水素イオン発生手段20とギ酸生成手段30が導線で接続されており、水素イオン発生手段20で生成した水素イオンと電子はギ酸生成手段30へと送られるようになっている。
【0053】
上記ギ酸生成手段30は、上記水素イオン発生手段20により水を分解して得られる水素イオンと電子を利用して、ギ酸生成デバイス10により、大気中の二酸化炭素及び/又は排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成する。
【0054】
上記ギ酸生成手段30に用いられているギ酸生成デバイス10は、例えば、図3に示すように、基板11、酸化アルミニウム微粒子12、色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15から構成される。
【0055】
まず、ギ酸生成デバイス10の各構成について説明する。
【0056】
基板11は、その表面に酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層を形成し、多孔質層に色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持させるための固体基板である。基板の材質は特に限定はされないが、アルミニウム等の金属基板やガラス基板などが用いられる。例えば、無蛍光ガラスが好ましい。
【0057】
酸化アルミニウム微粒子12は、基板11上に多孔質層を形成する。後述するように、酸化アルミニウム微粒子12をポリスチレンビーズ等の高分子ビーズとともに加熱処理することで、酸化アルミニウム微粒子12のみが残り、多孔質層を形成する。多孔質層の厚さは1〜10μmとすることが好ましい。1μm未満では、色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持するために十分な厚さではなく、また、10μmを超える厚さにすると、内部に担持した酵素等が十分に働かない。
【0058】
酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層は絶縁体であり、従来用いられていたシリカゲル等による多孔質層に比べて色素分子の励起エネルギーを奪うことがないため、効率的にメチルビオローゲン14への電子移動が達成できるメリットが創出される。
【0059】
色素13は、自らが吸収して得た光エネルギーを他の物質へ渡すことで、反応や発光プロセスを助ける役割を果たす光増感剤である。すなわち、色素13は、光照射された反応系内において、光エネルギーを吸収し、そのエネルギーで電子エネルギーへ変換し、電子輸送体(補酵素)へ電子を渡す機能(光電変換能)を有するものである。色素13としては、ポルフィリン誘導体、ルテニウムビピリジン錯体誘導体、ピレン誘導体などを挙げることができ、例えば、N197色素、テトラキス(4-メチルピリジル)ポルフィリン亜鉛(ZnTMPyP)、テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォネート亜鉛(ZnTPPS)、ルテニウムトリスビピリジン、クロロフィルなどを用いることができる。
【0060】
メチルビオローゲン(MV)14は、色素13から電子を受け取って他の物質へ電子を渡す電子輸送機能を有する人工補酵素である。すなわち、メチルビオローゲン14は、光照射により光励起された色素13から電子を受け取り、酵素へ電子を渡す還元機能を有するものである。
【0061】
酵素15は、特定の化学反応の反応速度を速める物質であり、自身は反応前後で変化しない物質である。また、酵素15は、光照射された反応系内において、電子輸送体から電子を受け取り、原料物質を還元して生成物質を生成するものである。上記ギ酸生成デバイス10では、酵素15としてギ酸脱水素酵素(ホルメートデヒドロゲナーゼ、FDH)が用いられるため、原料物質は水素イオン及び二酸化炭素であり、生成物質はギ酸となる。上記ギ酸生成デバイス10では、ギ酸の生成を目的としているため、ギ酸脱水素酵素を用いるが、メタノール生成反応では、アルデヒドデヒドロナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼを用い、リンゴ酸生成反応では、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(脱炭酸)を用いるといったように他の酵素を用いた生成デバイスに適用することも可能である。
【0062】
なお、上記ギ酸生成デバイス10は、電子供与体を含有していてもよい。電子供与体は、電子を他の物質へ渡す機能、還元機能を有するものであり、そのものは酸化される。すなわち、電子供与体は、光照射された反応系内において、電子を失った色素13へ電子を渡す機能、還元機能を有するものをいう。電子供与体としては、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸塩、エチレンジアミン塩酸塩、トリエチルアミン、メルカプトエタノール等を挙げることができる。
【0063】
以上説明したように、このギ酸生成装置50において、水素イオン、電子、及び二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するためのギ酸生成デバイス10は、基板11の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持させてなる。
【0064】
このように、上記ギ酸生成デバイス10では、酸化アルミニウム微粒子12で多孔質層を形成することにより、酸化アルミニウム微粒子12は色素分子の励起エネルギーを奪うことがないため、効率的にメチルビオローゲン14への電子移動を達成することができ、水素源をギ酸に変換してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵することができる。
【0065】
このような構成のギ酸生成装置50によれば、ギ酸生成デバイス10において、水の分解で生じた水素イオン及び電子と、空気中及び/又は他の機関から排出された二酸化炭素を有効利用することができ、また、酸化アルミニウム微粒子12により多孔質層を形成することで、色素分子の励起エネルギーを奪うことなく、効率的にメチルビオローゲン14への電子移動を達成することができ、水素源をギ酸に変換してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵することができる。
【0066】
すなわち、このエネルギー供給システム100におけるギ酸生成装置50は、水を分解して酸素発生、水素イオン・電子を獲得する水素イオン発生手段20と、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、水素イオン、電子と二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成するとギ酸生成手段30とを備え、上記水素イオン発生手段20により水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、上記ギ酸生成手段30において、上記ギ酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0067】
この水素供給システム100において、上記ギ酸生成装置50は、光化学反応装置として使用される。使用時には、特にギ酸生成手段30中のギ酸生成デバイス10に光が照射される構造とすることが好ましい。ギ酸生成デバイス10に光を照射する光源としては、太陽、人工光源等を用いることができる。
【0068】
次に、上記ギ酸生成装置50における光化学反応方法について説明する。
【0069】
ギ酸生成装置50では、まず水素イオン発生手段20において下記(1)式に示すように、水が分解され酸素と水素イオンと電子が生成される。
2HO→O+4H+4e ・・・(1)
【0070】
水素イオン発生手段20は上記反応が生じる手段であれば特に限定はされないが、例えば、光触媒を担持した基板のような水分解デバイスが用いられる。
【0071】
ここで、ギ酸生成デバイス10での反応を表す概要図を図4に示す。例えば、電子供与体の共存下で光を照射することによって、色素が励起され、励起された色素からメチルビオローゲン(MV2+)へと電子(e)が移動し、電子を受け取ったメチルビオローゲンは還元され、還元型メチルビオローゲン(MV)が生成する。還元型メチルビオローゲン(MV)はギ酸脱水素酵素(FDH)に電子を供給する。これによって酵素反応が進行し、水素イオン、電子、及び二酸化炭素からギ酸が生成される。
【0072】
ギ酸生成手段30では、ギ酸生成デバイス10において、図4に示す光反応(人工光合成)プロセスを経て水素イオンと電子、及び二酸化炭素からギ酸が生成される(下記式(2))。この時、水素イオン発生手段20で生成した水素イオンと電子が消費される。また、二酸化炭素は、大気中及び/又は他の機関からの排ガス中に存在するものを利用することができる。
CO+2H+2e→HCOOH ・・・(2)
【0073】
このエネルギー供給システム100において、ギ酸生成装置50により生成されギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸は、例えば、日光が得られず人工光合成を行うことができない夜間等に流路40を介してギ酸分解装置60に送られ、ギ酸分解装置60により分解して水素を発生、利用できるような機関により消費、発電等される。
【0074】
なお、上記ギ酸生成手段30に用いられているギ酸生成デバイス10は、例えば、図5図6に示すように、塗布工程S1、乾燥工程S2、加熱処理工程S3、担持工程S4を経て作成される。
【0075】
図5は、上記ギ酸生成デバイス10の作成方法の概略を示すフロー図であり、図6は、上記ギ酸生成デバイス10デバイスの作成方法の各工程を示す模式図である。
【0076】
以下、ギ酸生成デバイス10を作成するための各工程S1〜S4について説明する。
【0077】
塗布工程S1では、酸化アルミニウム微粒子12と高分子ビーズ22の混合液を基板11に塗布する(図6(A))。基板11としては、例えば、無蛍光ガラスが用いられる。混合液としては、酸化アルミニウム微粒子12を含むエタノールスラリーに溶液に高分子ビーズ22を分散混合させる。酸化アルミニウム微粒子12の粒径は、20〜50nmが好ましく、高分子ビーズ22の粒径は、50〜100nmが好ましい。また、高分子ビーズ22は後の加熱処理工程S3で焼失させることができるものであることが望ましく、例えば、ポリスチレンビーズが好ましい。
【0078】
また、混合液中の酸化アルミニウム微粒子と高分子ビーズの混合割合は、質量比で10:1とすることが好ましい。
【0079】
乾燥工程S2では、混合液を塗布した基板11を乾燥させる(図6(B))。これにより、エタノールスラリー中の溶媒であるエタノールが蒸発し、基板11上には、酸化アルミニウム微粒子12と高分子ビーズ22の混合物が残る。
【0080】
加熱処理工程S3では、基板11を加熱して高分子ビーズ22を焼失させ、該基板11の表面に酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層を形成する(図6(C))。加熱温度は、高分子ビーズ22を焼失できる温度であればよく、およそ300〜500℃程度である。高分子ビーズ22がポリスチレンビーズの場合は、例えば、450℃で加熱焼成する。これにより、高分子ビーズ22が焼失するため、基板11上には、酸化アルミニウム微粒子12のみが残り、酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層が形成される。
【0081】
担持工程S4では、基板11の表面の多孔質層に色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持させる(図6(D))。基板11の表面の多孔質層に色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持させる方法としては、例えば、色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を含む溶液に、表面に多孔質層を有する基板11を浸漬させることにより、多孔質層中に色素13、メチルビオローゲン14、及びギ酸脱水素酵素15を担持させる。
【0082】
このように、酸化アルミニウム微粒子12と高分子ビーズの混合液を加熱処理することで、酸化アルミニウム微粒子12の多孔質層を形成することができるため、効率的にメチルビオローゲン14への電子移動を達成することができ、水素源をギ酸に変換して貯蔵することができるギ酸生成デバイス10を作成することができる。
【0083】
なお、ギ酸生成デバイス10は、使用する際には乾燥させないことが好ましい。担持している酵素15が乾燥により失活しないようにするためである。したがって、反応媒体中で保存、使用することが好ましく、反応媒体としては、水性媒体が好適であり、水または水と混合可能な有機溶媒との混合媒体が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、エチレングリコール等の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。水性媒体としてはリン酸カリウムなどによって緩衝能力を付与してもよい。
【0084】
上記ギ酸生成デバイス10の具体的な作成例としては、無蛍光ガラスから成る基板上に、酸化アルミニウム微粒子とポリスチレンビーズとを質量比10:1の割合で混合したエタノールスラリーを塗布し(塗布工程S1)、乾燥させて溶媒であるエタノールを蒸発させ(乾燥工程S2)、次に乾燥させた基板を約450℃で加熱焼成し、ポリスチレンビーズを焼失させて基板上に酸化アルミニウム微粒子による多孔質層を形成し(加熱処理工程S3)、表面に多孔質層を形成した基板を0.3mMメチルビオローゲンのメタノール溶液と、0.3mMN197色素のメタノール溶液に浸漬し、最後にギ酸脱水素酵素を担持させて(担持工程S4)、デバイスサイズが2.5×3cmであり、反応体積は2mlのギ酸生成デバイスとした。
【0085】
このギ酸生成デバイスに、二酸化炭素(CO)を含む溶液中でソーラーシミュレーターを用いて光照射を行ったところ、2時間後に60mmolのギ酸が生成されている。
【0086】
次に、この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60について説明する。
【0087】
この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60では、ギ酸貯蔵タンク55から供給されるギ酸を、常温・常圧の脱酸素環境下で、触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する。
【0088】
具体的には、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解する。
【0089】
白金は、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するための触媒として作用する。白金は、反応面積を広くするために微粒子状の物を用い、白金微粒子の粒子径は1nm以上50nm以下のものを用いるのが好ましい。
【0090】
このように、粒子径の小さい白金微粒子を用いることで、触媒機能を高めることができる。
【0091】
また、水溶性高分子ポリビニルピロリドンの添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下とすることにより、白金微粒子を適度に分散させることができる。
【0092】
すなわち、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)は、白金微粒子を分散させるためのものである。白金微粒子は単独では凝集して沈殿しやすいため、水溶性高分子ポリビニルピロリドン用いることで、白金微粒子を分散させた状態で触媒としての機能を保持することができる。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量は、白金微粒子に対して1質量%以上20質量%以下となるようにすることが好ましい。水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が1質量%未満の場合は、白金微粒子の分散性を向上させるのに十分な効果が得られない。また、水溶性高分子ポリビニルピロリドン(PVP)の添加量が20質量%を超える場合は、白金微粒子の触媒機能が十分に得られない。
【0093】
この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60において、白金微粒子の触媒機能は、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンの組み合わせで用いることにより有効に発揮される。例えば、分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)などもあるが、これらの分散剤を用いた場合には、ギ酸から水と二酸化炭素が生成する副反応が生じてしまう。本発明者らは、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンという特定の組み合わせを適用することでギ酸から水素と二酸化反応が発生する反応を選択的かつ効率的に生じることを見出したものである。
【0094】
すなわち、ギ酸の分解反応には、下記反応式(3)で表されるギ酸から水素と二酸化炭素が生成する反応と、下記反応式(4)で表されるギ酸から水と二酸化炭素が生成する反応がある。この水素供給システム100では、白金微粒子と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせて使用することで、反応式(4)の副反応がほとんど起こることなく、反応式(3)の反応により水素を効率的に発生させることができる。
【0095】
HCOOH → H+CO ・・・(3)
【0096】
2HCOOH+O → 2HO+2CO ・・・(4)
【0097】
ギ酸の分解反応においては、白金触媒と水溶性高分子ポリビニルピロリドンを組み合わせることでポリビニルピロリドンのカルボニル基が白金微粒子の電子状態を変えることにより、水素生成の反応が効率的に起こると考えられる。
【0098】
また、この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60では、ギ酸の分解反応を常温・常圧の脱酸素下で行う。白金微粒子を用いた触媒反応であるため、特に加熱や加圧は不要である。また、酸素が存在すると上記反応式(4)のように、水と二酸化炭素が生成する副反応が起きてしまうため、反応系を脱酸素状態にしておく必要がある。
【0099】
この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60では、ギ酸の分解により発生した二酸化炭素を分離し、ギ酸の合成に用いてもよい。例えば、上記反応式(3)で発生した二酸化炭素を化学吸収法、膜分離法、吸着法などにより分離する。これにより、水素の純度を上げることができるため、より効率的に水素を利用することができる。また、分離した二酸化炭素は、例えば、下記反応式(5)のように再度ギ酸に変換する反応に用いることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用することができる。
【0100】
2HO+2CO → 2HCOOH+O ・・・(5)
【0101】
以上説明したように、この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60では、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成して、ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵することができる。
【0102】
この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60は、例えば、図7に示すように、少なくとも貯蔵部61、反応部62、分離部63、制御部64を備える。以下、ギ酸分解装置60の各構成について説明する。
【0103】
貯蔵部61は、水素を生成するためのギ酸を貯蔵しておくためのものである。貯蔵するギ酸は、製品として販売されているものでも、他の反応機構により生成されたものでも何れでもよい。貯蔵部61の材質は特に限定はされないが、ギ酸により腐食されないものが好ましい。
【0104】
この水素供給システム100では、上記ギ酸生成装置50により生成され上記ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸が流路40を介してギ酸分解装置60の貯蔵部61に供給され貯蔵される。なお、上記ギ酸分解装置60に着脱自在に装着可能なカットリッジ型の構造の上記ギ酸貯蔵タンク55を上記貯蔵部61とすることもできる。
【0105】
反応部62は、ギ酸を触媒反応により水素と二酸化炭素に分解する。反応部62は、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒を有する。触媒は、例えば、基板等に担持させてもよいし、反応部62内で分散溶液として保持される構成でもよい。そして、反応部62では、貯蔵部61内に貯蔵されたギ酸が適宜供給され、反応部62において白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により水素と二酸化炭素に分解される。反応部62はギ酸の分解反応中に適宜溶液を撹拌する装置を備えていてもよい。
【0106】
分離部63は、生成した水素と二酸化炭素の混合気体から二酸化炭素を除き、水素の純度を上げる。例えば、分離部63は、分離膜を有することで二酸化炭素を選択的に取り除く。取り除かれた二酸化炭素は、例えば、上記反応式(5)のようにギ酸の生成に用いることが可能であり、二酸化炭素を流路70を介して上記ギ酸生成手段50に戻し循環させることで、二酸化炭素を外部に排出することなく再利用する。
【0107】
制御部64は、主に反応部62が常温・常圧の脱酸素下となるように制御する。特に、上記反応式(4)のような水と二酸化酸素が生成する副反応が生じないように、反応部62内を脱酸素状態となるように制御することが重要である。脱酸素状態とする手段としては、例えば反応部62内を窒素ガス等で置換することが挙げられる。その他にも、制御部64は、例えば、反応部62やその他の機関で高温・加圧状態や異常を検知した場合に、ギ酸分解装置60を停止したり、異常状態を解消するような機構を備えていることが好ましい。
【0108】
この水素供給システム100におけるギ酸分解装置60では、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素下において、水と二酸化炭素が発生する副反応が生じることなく、効率的にギ酸から水素を生成することができる。
【0109】
そして、この水素供給システム100において、ギ酸分解装置60は、ギ酸生成装置50により生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸を水素と二酸化炭素に分解することにより発生する二酸化炭素を上記流路70を介して上記ギ酸生成装置50に戻すことにより循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素を外部の例えば水素発電設備に供給する。
【0110】
すなわち、この水素供給システム100では、図8の工程図に示すように、ギ酸生成工程S11とギ酸分解工程S12を有する水素供給方法を実施している。
【0111】
この水素供給システム100において、ギ酸生成工程S11は、上記ギ酸生成装置50において、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して、ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵する工程である。このギ酸生成工程S11では、上記水素イオン発生手段20により水を酸素に光分解して水素イオン・電子を得て、上記ギ酸生成手段30において、上記ギ酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0112】
このギ酸生成工程S11では、上述した固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵する。
【0113】
ギ酸分解工程S12は、ギ酸分解装置60において、ギ酸貯蔵タンク55から供給されたギ酸を分解して水素を発生する工程である。このギ酸分解工程S12では、上記白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解する。
【0114】
そして、この水素供給システム100では、上記ギ酸分解工程S12において、上記ギ酸生成工程S11においてギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成工程S11に戻すことにより、二酸化炭素を循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給する。
【0115】
すなわち、この水素供給システム100において実施される水素供給方法は、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して貯蔵するギ酸生成工程S11と、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解工程S12とを有し、上記ギ酸分解工程S12では、上記ギ酸生成工程S11においてギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成工程S11に戻すことにより、二酸化炭素を循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給する。
【0116】
上述の如き水素供給システム100では、上記ギ酸生成工程S11において、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵し、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸を水素と二酸化炭素に分解する上記ギ酸分解工程S12において、上記ギ酸生成工程S11において貯蔵されたギ酸を分解して得られる二酸化炭素を上記ギ酸生成工程S11に戻すことにより循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素を外部装置に供給することにより、太陽光エネルギーを有効に利用して、水素をエネルギー源として安全且つ効率よく供給することができる。
【0117】
次に、上記水素供給システム100の具体的な実装例について説明する。
【0118】
上述のごとき構成の水素供給システム100は、例えば、図9に示すような構成のエネルギー供給システム1000に適用される。
【0119】
このエネルギー供給システム1000は、一般住宅110において水素をエネルギー源とするエネルギー供給システムであって、水素を燃料として発電を行う燃料電池や水素を燃料とする水素エンジンにより駆動される水素発電機などの住宅用水素発電設備120を備え、住宅用水素発電設備120から電源供給を行うとともに、上記住宅用水素発電設備120の余熱を利用して貯湯タンク130から給湯を行うようになっている。
【0120】
このエネルギー供給システム1000は、太陽光を利用した昼間用エネルギー供給システムとして、住宅110の屋上に設けられた太陽電池パネル140により太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換して、水を電気分解することにより水素を発生する昼間用水素供給システム150を備える。そして、日中は、上記昼間用水素供給システム150から住宅用水素発電設備120に水素が供給されるようになっている。
【0121】
また、このエネルギー供給システム1000は、一般住宅110において水素を夜間にエネルギー源として供給する夜間用エネルギー供給システムとして、住宅110の屋上に設けられた人工光合成によりギ酸を生成するギ酸生成装置50と、このギ酸生成装置50により生成されたギ酸を貯蔵するギ酸貯蔵タンク55と、このギ酸貯蔵タンク55から供給されるギ酸を水素と二酸化炭素に分解するギ酸分解装置60とを有する本発明に係る水素供給システム100を備える。
【0122】
そして、このエネルギー供給システム1000において、上記水素供給システム100は、ギ酸生成装置50により、太陽光を利用できる日中に、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、上述した固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、上記水素イオン、電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して、ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、上記ギ酸生成装置50により貯蔵されたギ酸をギ酸分解装置60により白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で分解して得られる水素を、上記住宅用水素発電設備120に供給する。
【0123】
このような構成のエネルギー供給システム1000では、太陽光を利用できる日中に、上記昼間用水素供給システム150から住宅用水素発電設備120に水素を供給することができ、さらに、本発明に係る水素供給システム100の上記ギ酸生成装置50において、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、上記固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成して、ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵しておくことができる。
【0124】
そして、太陽光を利用できない夜間には、上記ギ酸分解装置60において、上記ギ酸生成装置50により太陽光を利用できる日中に生成されてギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸を白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で分解して得られる水素を、上記住宅用水素発電設備120に供給することができる。
【0125】
すなわち、上記エネルギー供給システム1000における水素供給システム100は、上述の如き構成のギ酸生成装置50とギ酸分解装置60を備えているので、上記ギ酸生成装置50により、太陽光を利用できる日中に、水を酸素に光分解して得られる水素イオン・電子を利用して、ギ酸生成デバイス10により、大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、上記ギ酸分解装置60において、上記ギ酸生成装置50によりギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されたギ酸を常温・常圧の脱酸素環境下で水素と二酸化炭素に分解することにより、上記ギ酸生成デバイス10によりギ酸を生成するための原料としての二酸化炭素を得て上記ギ酸生成装置50に戻し循環させるとともに、ギ酸を分解して得られる水素をエネルギー源として安全且つ効率よく上記住宅用水素発電設備120に供給することができる。
【0126】
しかも、上記水素供給システム100では、固体基板の表面に形成した酸化アルミニウム微粒子12による多孔質層に色素13・メチルビオローゲン14・ギ酸脱水素酵素15を担持させてなるギ酸生成デバイス10により、太陽光エネルギーを有効に利用して、上記水素イオン.電子と大気中あるいは排気二酸化炭素から人工光合成によりギ酸を効率よく生成してギ酸貯蔵タンク55に貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、上記ギ酸分解装置60において、白金微粒子を水溶性高分子ポリビニルピロリドンにより分散させてなる触媒により、常温・常圧の脱酸素環境下で、ギ酸貯蔵タンク55に貯蔵されているギ酸を水素と二酸化炭素に効率よく分解することができる。
【0127】
したがって、上記エネルギー供給システム1000では、上記水素供給システム100
により、太陽光エネルギーを有効に利用して、ギ酸を生成・貯蔵し、太陽光を利用できない夜間に、ギ酸を分解して得られる水素をエネルギー源として安全且つ効率よく上記住宅用水素発電設備120に供給することができる。
【符号の説明】
【0128】
10 ギ酸生成デバイス、11 基板、12 酸化アルミニウム微粒子、13 色素、14 メチルビオローゲン、15 ギ酸脱水素酵素、20 水素イオン発生手段、22 高分子ビーズ、30 ギ酸生成手段、40 流路、50 ギ酸生成装置、55 ギ酸貯蔵タンク、60,70 ギ酸分解装置、61 貯蔵部、62 反応部、63 分離部、64 制御部、100 水素供給システム、110 一般住宅、120 住宅用水素発電設備、130 貯湯タンク、140 太陽電池パネル、151 トップライト、152 バイオリアクタ、1000 エネルギー供給システム
図1
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図5
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図7
図8
図9