(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る樹脂成型品の接合方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、樹脂組成物として、熱可塑性結晶性樹脂を想定している。
【0015】
熱可塑性結晶性樹脂には、例えば、ポリオキシメチレン(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマーを使用してもよい。熱可塑性結晶性樹脂は、一般的に不透明であるが、結晶化度が低い樹脂では半透明ないしは透明であってもよい。また、熱可塑性結晶性樹脂にはガラス繊維などの充填剤、酸化防止剤や安定剤、核剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色剤といった、一般的に樹脂組成物に添加される各種添加剤を添加してもよい。
【0016】
本実施の形態では、樹脂組成物によって作製された第1成型品及び第2成型品を用い、これらを互いに接合する。第1成型品及び第2成型品には、表面に互いに接合が予定される領域となる対向面が含まれ、これらの対向面は対応するような形状に形成されている。例えば、第1成型品及び第2成型品の対向面は、それぞれ略平坦に形成されていてもよい。また、対向面は、凹凸を有する面であっても第1成型品の凹部と第2成型品の凸部(または第1成型品の凸部と第2成型品の凹部)が対応して密着可能な面であればよい。
【0017】
図1は、本実施の形態の一連の工程を概略的に説明する図である。
図1(a)に示すように、第1成型品10
1を用意し、集光レンズ22を介してレーザー発生源21から放出されたレーザー光を第1成型品10
1の略平坦な照射面10
1aに向けて集光して照射する。第1成型品10
1は、照射面10
1aを第2成型品10
2と接合される対向面としている。
【0018】
レーザー光は、照射面10
1aの全体を照射するように、照射面10
1aを所定の走査速度、ピッチ等で走査する。このような照射処理によって、第1成型品10
1の照射面10
1aには、照射面10
1aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
1が形成される。
【0019】
ここで、レーザー光の照射条件は、少なくとも照射面101aにおいて、表層の樹脂を溶融させる程度のエネルギーを与えられるよう適宜設定することができる。すなわち、レーザー光の強度、照射回数、照射時間、照射面積から下記式(化1)によって求められるエネルギー密度が、第1成型品101に用いられる樹脂組成物の比熱、融点、及び処理層111の深さから求められる照射面101aを所定深さまで溶融させるのに必要なエネルギー
密度(化2)以上となるように、下記式(2)を満たすように設定する。
【0020】
【化1】
*1:レーザー強度はNOVA II DISPLAY ASSY RoHS(株式会社オフィールジャパン製)にて実測した値である。
【0021】
【化2】
エネルギー密度≧樹脂の溶融に必要なエネルギー
密度 ・・・(2)
例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂の場合、3.3×106J/m
2(比熱960J/kg・K、密度1.35kg/m
3、融点553K、処理深さ0.1mmにて計算)以上であることが好ましい。ただし、レーザー光を、照射面101a全面に対し同時に照射するのでなく、光線の幅を絞って走査して照射する場合は、レーザー光が照射されていない間の放熱の影響を見込んで、より高いエネルギーを与える必要がある。放熱の影響は、樹脂の熱伝達係数及びレーザー光の照射サイクル(ある箇所に照射されたレーザー光が、走査して再度同じ箇所に照射されるまでの間隔)から見積ることが可能である。
【0022】
本実施の形態において、レーザー発生源21には、チタン添加サファイア結晶、ネオジウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶、イッテルビウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶、イッテルビウム添加カリウム・ガドリニウム・タングステン結晶、イッテルビウム添加カリウム・イットリウム・タングステン結晶、エルビウム添加光ファイバ、または、イッテルビウム添加ファイバなどをレーザー媒体として使用することができる。
【0023】
同様に、第2成型品10
2を用意し、集光レンズ22を介してレーザー発生源21から放出されたレーザー光を第2成型品10
2の略平坦な照射面10
2aに向けて照射する。第2成型品10
2は、照射面10
2aを第1成型品10
1と接合される対向面としている。
【0024】
レーザー光は、照射面10
2aの全体を照射するように、照射面10
2aを所定の走査速度、ピッチ等で走査する。このような照射処理によって、第2成型品10
1の照射面10
2aにも、照射面10
2aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
2が形成される。ここで、レーザー光の照射条件は、少なくとも照射面10
2aにおいて、表層の樹脂を溶融させる程度のエネルギーを与えられるよう、上記照射面10
1aにおける場合と同様に適宜設定することができる。
【0025】
図1(b)に示すように、紫外光照射装置30を用いて第1成型品10
1の照射面10
1aに紫外(UV)光を照射する。第1成型品10
1の照射面10
1aには、レーザー光の照射により所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
1が形成されている。
【0026】
ここで、紫外光とは、波長が380nm以下のものを指す。特に紫外光の内で波長が200nm以下のものは真空紫外光(VUV)という。なお、真空紫外光は、必ずしも真空中で照射しなければならないものではないが、当該波長域の紫外光は空気による吸収が大きいため、空気中で照射する場合は、真空紫外光が伝播する距離を短くする必要がある。
【0027】
図1(b)において、紫外光照射装置30は、Xeエキシマランプなどの光源31と、光源31から放出された光を照射物に向けて反射する反射板32とを有している。
図2は、紫外光照射装置の一例を示す写真である。この写真に示す紫外光照射装置は、筐体上面に形成された開口から上部に向けて紫外光を照射することができる。
【0028】
本実施の形態では、紫外光照射装置30から第1成型品10
1の照射面10
1aに向けて2分間にわたって紫外光を照射する。このような照射処理によって、レーザー光の照射により照射面10
1aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
1は、さらに性状が変化する。
【0029】
同様に、第2成型品10
2を用意し、紫外光照射装置30から第2成型品10
2の照射面10
2aに向けて2分間にわたって紫外光を照射する。第2成型品10
2の照射面10
2aには、レーザー光の照射により所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
2が形成されている。紫外光の照射処理によって、レーザー光の照射により照射面10
2aから所定深さまで樹脂組成物の性状が変化した処理層11
2は、さらに性状が変化する。
【0030】
本実施の形態では、第1成型品10
1及び第2成型品10
2への紫外光の照射は、2分に限られることはなく、0分を超え15分以下の時間であってもよい。また、30秒以上10分以下(例えば1分以上7分以下)の時間であってもよい。紫外光の照射により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aの劣化が進むことで、かえって接合強度が低下する場合があるため、第1成型品10
1及び第2成型品10
2への紫外光の照射は所定の時間内であることが好ましい。
【0031】
なお、第1成型品10
1と第2成型品10
2に対する紫外光の照射は、同一の紫外光照射装置を用いて同時に行ってもよい。また、上記の順番とは逆に、第2成型品10
2への紫外光の照射を先に行い、その後で第1成型品10
1へ紫外光を照射してもよい。
【0032】
図1(c)に示すように、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aが対向して接触するように、第1成型品10
1及び第2成型品10
2とを位置決めする。すなわち、第1成型品10
1の対向面と第2成型品10
2の対向面とが対応して密着するようにする。位置決めされた状態では、第1成型品10
1の略平坦な照射面10
1aと第2成型品10
2の略平坦な照射面10
2aとは、互いにその略全体で接触している。
【0033】
ここで、より高い接合強度を確保するためには、第1成型品10
1及び第2成型品10
2を位置決めする操作は、第1成型品10
1及び第2成型品10
2に紫外光を照射する工程(
図1(b)を参照)を終えてから、できるだけ短時間(好ましくは5分以内、例えば1分以内)で行うことが望ましい。なお、紫外光として真空紫外光を照射する場合は、照射を終えてから位置決めする操作を行う時間を比較的長くした場合(例えば3時間、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内)でも、高い接合強度を得やすいため有利である。
【0034】
図1(d)に示すように、位置決めされた第1成型品10
1及び第2成型品10
2を第1プレス部材41及び第2プレス部材42により挟持する。そして、第1プレス部材41及び第2プレス部材42によって、第1成型品10
1及び第2成型品10
2を加圧する。
【0035】
例えば、第1プレス部材41及び第2プレス部材42により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aとを互いに押圧する方向に圧力を加えても良い。押圧する圧力は10から50MPaの範囲で適宜調整すれば良く、例えば30MPaで加圧してもよい。加圧時間も2分から100分の範囲で適宜調整すれば良く、例えば60分にわたって加圧しても良い。同時に、第1プレス部材41及び第2プレス部材42は加熱装置を備えていても良く、当該加熱装置により、第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aとを加熱しても良い。第1成型品10
1の照射面10
1aと第2成型品10
2の照射面10
2aにおける温度は使用する熱可塑性結晶性樹脂に応じ50℃から200℃の範囲で適宜調整すればよく、例えば120℃で維持されるように加熱してもよい。
【0036】
このような加熱及び加圧によって、第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とは融合し、単一の接合層12を形成するようになる。すなわち、第1成型品10
1と第2成型品10
2とは、それぞれの対向面において互いに融合されて連結される。これによって、第1成型品10
1及び第2成型品10
2は、接合層12を通じて一体として接続され、単一の成型品(例えば三次元中空体)を構成するようになる。
【0037】
接合層12は、レーザー光及び紫外光の照射により活性化された第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とが、所定時間にわたる加熱及び加圧の工程によって融合したものである。したがって、接合層12による第1成型品10
1及び第2成型品10
2の接続は、機械的に堅牢であり、化学的にも安定である。
【0038】
本実施の形態では、レーザー光及び紫外光の照射により形成した第1成型品10
1の処理層11
1と第2成型品10
2の処理層11
2とを互いに融合させる接合層12とすることにより接続するものである。したがって、接合層12における変形は小さく、バリが発生することもない。また、接合層12に溝など微細な構造の中空部が存在する場合も、そのような中空部が変形によりつぶれることはない。
【0039】
本実施の形態は、堅牢で安定した性質を有するポリオキシメチレン(POM)やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、液晶ポリマーのような熱可塑性結晶性樹脂を利用することができる。このような熱可塑性結晶性樹脂は、ウォーターポンプ部品等の長期間にわたり大きな機械的応力が加わる三次元中空体の作製にも利用することができる。
【0040】
なお、
図1(a)〜
図1(d)に示した一連の工程においては第1成型品10
1の略平坦な照射面10
1a及び第2成型品10
2の略平坦な照射面10
2aの両方にレーザー光及び紫外光を照射する例を示した。しかしながら、このような一連の工程に限らず、レーザー光及び紫外光の照射は、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方であってもよい。
【0041】
例えば、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の両方にレーザー光を照射し、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方に紫外光を照射してもよい。また、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方にレーザー光を照射し、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の両方に紫外光を照射してもよい。
【0042】
さらに、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方にレーザー光を照射し、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方に紫外光を照射してもよい。ここで、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方にレーザー光を照射し、当該一方に紫外光を照射してもよい。また、第1成型品10
1及び第2成型品10
2の一方にレーザー光を照射し、他方に紫外光を照射してもよい。
【実施例】
【0043】
上述の本実施の形態を適用した実施例について説明する。
図3は、接合試験片を示す写真である。本実施例では、第1成型品及び第2成型品として、
図3の写真に示すような接合試験片を用いる。接合試験片は、エラストマーや反応性化合物を含まない非強化PPS樹脂であるジュファライド(登録商標)0220A9によってISO3167に準拠した引張試験片Type1Aを作成した後、それを長手方向の中央で2等分に切断し、それぞれ切断端部から10mmを接合領域として重ねている。写真では、2つの接合試験片が接合領域で互いに接合されて載置されている。
【0044】
図4は、レーザー光及び紫外光の照射条件と接合強度との関係を示すグラフである。このグラフは、
図1で説明した工程に従い接合した接合試験片を用い、ISO527−1,2に準拠して引っ張り試験機によって接合強度を測定した結果を示している。
【0045】
レーザー照射装置はキーエンス社製MD−V9900(レーザー発生源Nd:YVO
4(ネオジウム添加イットリウム・バナデート結晶)、波長:1064nm)を用いた。レーザー光の照射条件は、エネルギー密度が6.5×10
6J/m
2(1%出力)〜586.2×10
6J/m
2(90%出力)になるように、周波数50kHz、走査速度1000mm/s、照射回数10回で出力を可変させた。紫外光としては波長172nmの真空紫外光を用い、
図1(c)に示した接合試験片の位置決めの工程は、真空紫外光の照射終了から5分以内に行った。また、
図1(d)に示した加熱及び加圧の工程は、温度160℃及び圧力30MPaであり、10分にわたり維持した。なお、比較のため、レーザー光を照射せずに、上記の条件で真空紫外光の照射のみを行ってから加熱及び加圧した場合と、真空紫外光を照射せずに、90%出力でのレーザー光照射のみを行ってから加熱及び加圧した場合の接合試験片についても同様に評価した。
【0046】
図4中の測定値に見られるように、レーザー光の照射条件を可変し、真空紫外光を照射した場合には、レーザー光のエネルギー密度が所定値よりも大きくなると、レーザー光の強度に応じて接合強度も大きくなっている。
図4の結果から、レーザー光のエネルギー密度が325.7×10
6J/m
2(50%出力)以上であれば、接合強度は1MPaを超え、実用に十分な接合強度が得られた。ここで、十分な接合強度を得るために必要なエネルギーが、先に述べたPPSの溶融に必要なエネルギー(3.3×10
6J/m
2)よりも大きくなった理由は、レーザー光を走査して照射していることで、放熱の影響を受けているためである。なお、レーザー光照射なしの場合や、エネルギー密度586.2×10
6J/m
2J/m
2(90%出力)でも真空紫外光照射なしの場合には、十分な接合強度は得られなかった。