(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
治療対象とする角膜上皮疾患が点状表層角膜炎、角膜上皮欠損、角膜上皮びらん、又は角膜潰瘍のいずれかであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか1項に記載の環状デバイス。
【背景技術】
【0002】
角膜は、眼球の最表面に位置する透明な膜であり、光学レンズとしての機能を有し、強膜とともに眼球の外壁を構成する。角膜の構造は、体表面側から上皮、実質、内皮に分かれ、このうち上皮は最外層であることから、様々な要因により障害(損傷)が発生しやすい。
【0003】
角膜上皮は通常、涙液に被覆されており、外界からの刺激(例として紫外線、アレルゲン及び種々の物理的刺激など)から保護されている。しかしながら、空調による外気の乾燥、パソコン画面の凝視による瞬きの減少、コンタクトレンズの装用、或いは加齢など、様々な要因から涙液量の減少や涙液成分の変化が生じ、涙液層の安定性が低下する。その結果、外的刺激による損傷を受けやすくなり、これに起因した障害が発生しやすいと考えられている。
【0004】
角膜障害の治療方法としては、症状の重さに応じて、薬剤の点眼、軟膏の塗布、及び角膜移植などが挙げられる。程度の差はあれ、いずれの場合であっても、患者の経済的、精神的負担は大きく、これを解消するべく簡便な治療法の開発が望まれる。
【0005】
角膜上皮障害の治療方法の一つとして、角膜上にコンタクトレンズを装用し、角膜上皮の脱落を防ぐ方法がある。コンタクトレンズを被覆材として使用することで、障害部位の外的刺激曝露を防ぐことができるため、回復が早まるとされている。しかしながら、当方法においては点眼薬を併用することが一般的である一方、点眼した薬剤がコンタクトレンズに取り込まれてしまうために十分な薬効が得られないという問題があった。また、コンタクトレンズの酸素透過率によっては、角膜上皮への酸素供給量が不足するといった問題も生じる。さらには、コンタクトレンズが角膜上皮に接触することによる障害の重篤化(損傷部位の拡大や健常部位の損傷を含む)も考えられることから、新たな治療方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、新たな角膜上皮疾患の治療方法について研究を進める中で、涙液に着眼した。コンタクトレンズを装用した際、厳密には、コンタクトレンズと角膜上皮との間には涙液が存在しており、角膜上皮はコンタクトレンズと涙液との両方によって外気から保護されている。ここで、本発明者らは、角膜表面に安定した涙液層を形成することにより、コンタクトレンズを装用しない場合であっても、角膜上皮と外気との接触を防ぐことが可能になるのではないかと考えた。そして、涙液層の形成方法について鋭意検討した結果、中心に開口部を有する環状のデバイスに着眼するに至った。特許文献1や、特許文献2においては、中心に開口部を有する環状デバイスが開示されているが、当該環状デバイスを装用した際の涙液層の形成については、一切の記載もなければ、示唆もされていない。
【0008】
そこで、本発明は、角膜上皮疾患の予防または治療方法として、角膜表面上に安定した涙液層を形成するための環状デバイスを提供することを本発明の目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特許文献1及び2に記載されたような環状デバイスを装用した場合、角膜が露出することとなる。但し、このとき環状デバイスの内縁部に一定以上の厚みをもたせると、開口部の周縁が土手として機能することで角膜表面に涙液層が形成され、涙液の滞留性が向上することが見出された。斯くして涙液の滞留時間が長くなることで、角膜上皮の外気接触が抑止されるため、角膜損傷の危険性が軽減されるとともに、角膜上皮障害の治癒が効果的に促進される。さらには、形成された涙液層中に治療薬剤を点眼することで、効果的に損傷部位へ薬剤を送達することが可能となった。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は以下のとおりである。
(1)強膜表面に装用される角膜上皮疾患の予防または治療用の環状デバイスであって、角膜全体が露出可能な内径を有する環状部と、前記内径によって画定される開口部とを備え、前記環状部のうち前記内径周辺の実体である内縁部が涙液を保持することにより角膜表面上に涙液層を形成することを特徴とする、前記環状デバイス。
(2)前記内縁部の厚みが0.03〜0.17mmであることを特徴とする前記環状デバイス。
(3)前記開口部の径が10mm〜15mmであることを特徴とする前記環状デバイス。
(4)前記環状デバイスが強膜上に装用されたとき、前記環状部のうち強膜側に位置する表面に同心円の複数個の溝を有することを特徴とする前記環状デバイス。
(5)治療対象とする角膜上皮疾患が点状表層角膜炎、角膜上皮欠損、角膜上皮びらん、又は角膜潰瘍のいずれかであることを特徴とする前記環状デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、角膜表面に安定した涙液層を形成するための環状デバイスが提供することができる。当該涙液層は、角膜と外気との直接的な接触を低減することから、角膜上皮損傷の発生を抑制することのみならず、すでに受けた損傷の拡大の抑制、また、治癒に対し効果的に作用する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の環状デバイスの詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0014】
本発明の一態様の環状デバイスは、強膜表面に装用するためのデバイスであり、角膜を露出させる貫通孔である開口部を有し、かつ、環状部分(湾曲薄膜片)が一定の厚みを有することを特徴とする。また、別の態様としては、さらに、環状部分の強膜側表面に略周回の溝を複数個、例えば、2個を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の環状デバイスの平面形状は特に限定されないが、デバイスを装着した際に強膜表面が被覆されるように、図に示すような円形であることが好ましい。ただし、環状デバイスの装着容易性や装用感を大きく損なわない範囲内であれば、楕円形や長円形であってもよい。
【0016】
以下、
図1を参照して本発明の一態様の環状デバイスについて説明する。環状デバイスの基本的な構成は、装用に支障がなく、かつ、環状デバイスが強膜表面を被覆可能な大きさであればよく、特に限定されない。外径Aは眼球上への装着容易性、装用感及び強膜表面の被覆性の観点から、上限となる瞼裂幅を考慮して16〜20mm程度、好ましくは18〜20mmである。一方、内径B(開口径)は、環状デバイスの内縁部aが角膜に接触することを防止するために、10〜15mm程度が好ましい。
【0017】
aは、環状デバイスの内周縁1A上の任意の点から後述の外周縁1B上の最近点に向かって伸展する、幅0.3〜0.5mmの環状領域である。外縁部bは、環状デバイスの外周縁1B上の任意の点から前述の内縁部a上の最近点に向かって伸展する、幅0.3〜0.5mmの環状領域である。中央部cは、環状デバイスにおける内縁部a及び外縁部bを除いた残りの部分である。なお、環状デバイスの幅Fは、内縁部a及び外縁部bを含む環状部全体の幅である。
【0018】
環状デバイスは、角膜を露出させる開口部2を有し、強膜表面に装用することにより、開口部2の周縁(内縁部a)が土手として機能し、角膜表面に涙液層を形成することができるので、角膜上皮疾患の予防または治療に用いられる。
【0019】
土手として機能する内縁部aの範囲や寄与度は装用者の姿勢などに応じて可変であることに留意されたい。具体的には、例えば装用者が直立して水平方向を向いている場合には、内縁部aのうち主に鉛直下方の半円周が土手として機能し、装用者が仰臥位にあれば、周縁全体が土手として機能することとなる。また、こうした条件に加えて周縁部分で働く表面張力によっても一定量の涙液が保持されるため、開口部2の周縁全体が涙液層の安定に寄与し得る。
【0020】
角膜上皮疾患としては、例えば、点状表層角膜炎、角膜上皮欠損、角膜上皮びらん、角膜潰瘍等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
環状デバイスにおいては、環状部分1の厚みが、涙液層の形成性に対し影響を及ぼす。環状デバイスを装用した場合、開口部2の周縁が土手として機能し、涙液層を形成することから、環状部分1のうち、特に内縁部aの厚みが重要となる。内縁部の厚みCは0.03〜0.17mmであることが好ましい。0.03mm未満の場合、土手としての機能が低下するため、涙液層の厚みが十分に確保されない。また、0.17mmを超える場合、この値を基準として設計される中間部の厚みDも大きくなるため装用感が低下する。より好ましくは、0.05〜0.15mmである。
【0022】
なお、内縁部の厚みCとは、内縁部aの外側端、すなわち内周縁1Aにおける厚みとして定義される。後述の外縁部の厚みEについても同様に、外周縁1Bにおける厚みとする。
【0023】
環状部分1の内縁部a以外の厚みについては特に限定されないが、中間部の厚みDを内縁部の厚みCよりも大きくすることで、装用時の強膜上での安定性が向上する。具体的には、中間部の厚みDは、内縁部の厚みCに対し、好ましくは110〜300%、より好ましくは120〜280%、さらに好ましくは150〜250%である。中間部cが最大厚みを有する構成を採ることによって、瞬目による眼瞼圧の影響を顕著に低減することが可能となり、環状デバイスの位置ずれや脱落を効果的に防止できる。外縁部の厚みEは、内縁部の厚みCと同一の厚みに形成されてもよいが、これに限定されない。
【0024】
なお、環状デバイスの装用感や、上に述べた位置ずれ・脱落防止の観点から、
図1に示すように、外縁部bは、湾曲薄膜片1の外周縁1Bから中間部c側へと連続的に厚みが増大するように形成されることが望ましい。同様に、内縁部aは、湾曲薄膜片1の内周縁1Aから中間部c側へと連続的に厚みが増大するように形成されることが望ましい。
【0025】
本発明の環状デバイスにおける開口部2は角膜を露出させる部位であることから、環状デバイスを眼に装用した際に、環状デバイスの実体である湾曲薄膜片1が角膜部分に触れない貫孔であることが好ましい。開口部2の位置に関しては、
図1に示すように、内周縁1Aが外周縁1Bと同心円であることが好ましいが、これに限定されるものではない。具体的には、環状デバイスが強膜上に装用されたときに開口部2をもって角膜が露出するよう、環状デバイス全体の形状が調整されていればよい。開口部2の形状は特に限定されないが、外周部と同様に、略円形を呈していればよく、実質的に円形であることが好ましい。
【0026】
環状デバイスのベースカーブ(BC)は、強膜の曲率から適宜選択されるものであるが、通常、8.8〜13mm、好ましくは10〜12mmである。環状デバイスは、眼への装着容易性、デバイスの取扱いなどを向上させる観点から、環状の湾曲薄膜片1を分断する切れ目や切り欠き部を設ける態様とすることもできる。
【0027】
環状デバイスは、
図2及び3に示すように、中央部cの後面(装用時に強膜側となる面)に略周回の溝が少なくとも1つ設けられた構造であってもいい。略周回の溝を中央部cの後面側に配することで、環状デバイスを装着した際の、強膜上での安定性が向上する。溝の位置は特に限定されず、内縁部側或いは、外縁部側に片寄って配されてもよく、また、中央付近に配されてもよい。略周回の溝が2つ以上ある場合、溝と溝との距離は特に限定されないが、例えば、最も小さい略周回の溝の幅の0.5倍以上あればよい。略周回の溝の数が多くなるほど、環状デバイスの装用時に瞬目により発生する陰圧が大きくなることから、環状デバイスは所望の位置に保持され易くなり、眼球上での安定性は向上する。
【0028】
略周回の溝の深さは特に限定されないが、例えば、中間部の厚みDに対して1〜90%、好ましくは5〜50%の範囲内に設定することができる。略周回の溝の深さが中間部の厚みDに対して1%未満である場合、陰圧が十分に発生しないことから、環状デバイスは眼球上で安定的に保持されない。また、略周回の溝の深さが中間部の厚みDに対して90%より大きい場合、環状デバイスの形状保持性が低下することから、好ましくない。
【0029】
[環状デバイスの材料]
環状デバイスは、ハイドロゲルからなることが好ましい。ハイドロゲルとしては、親水性モノマーを用いて製造されたハイドロゲル、親水性モノマーに疎水性モノマー若しくは架橋性モノマー又はその両方を添加して製造されたハイドロゲルなどが挙げられる。
【0030】
親水性モノマーはハイドロゲルの含水率の向上に寄与する。疎水性モノマーは、ハイドロゲルの含水率、膨潤率の調整作用などに加えて、デバイスが薬物を含有する場合には、含有薬物量の徐放性能に影響し得る。架橋性モノマーは、その含有量によって、ハイドロゲルの高分子鎖の密度を制御することが可能となり、架橋密度の制御によって薬物の拡散を阻害し、含有薬物の放出を遅らせ、薬物の放出速度を制御することが可能となる。また、架橋性モノマーは、薬物の放出速度の制御だけではなく、ハイドロゲルに機械的強度、形状安定性、耐溶剤性を付与することができる。
【0031】
ハイドロゲルの含水率(含水率(重量%)=〔(W−D)/W〕×100(W:含水重量、D:乾燥重量))は、実用化されているハイドロゲル製コンタクトレンズの含水率と同程度であれば特に限定されないが、例えば、30〜70重量%とすることができる。また、環状デバイスが薬物を含有する場合、対象とする薬物の取込量と放出挙動の観点から、対象とする薬物に応じて、適宜含水率を選択することができる。
【0032】
親水性モノマーとしては、1以上の親水基を分子内に有するものが好ましく、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルオキシエチルコハク酸、イタコン酸、メタクリルアミドプロピルトリアンモニウムクロライド、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの中から親水性モノマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。上記親水性モノマーの中でも2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0033】
親水性モノマーの配合率は特に限定されないが、得られる環状デバイスの含水性に影響を及ぼすことから、全重合成分中の50重量%以上であることが好ましい。親水性モノマーの配合率が50重量%未満の場合、十分な含水性を付与できないことから、環状デバイスの柔軟性が低下するため好ましくない。
【0034】
疎水性モノマーとしては、例えば、シロキサニル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、メタクリルアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの中から疎水性モノマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
疎水性モノマーは、配合量に応じて得られる環状デバイスの含水性を変化させることができる。ところが、疎水性モノマーの配合率が高いと含水性が極端に低下し、得られる環状デバイスの柔軟性が低下することから、例えば、モノマー総量に対して30重量%未満であることが好ましい。
【0036】
架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられ、これらの中から2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
架橋性モノマーの配合量は、得られる環状デバイスの形状調節効果の観点から、モノマー総量に対して0.1〜10重量%が好ましい。0.1重量%未満の場合は、環状デバイスの網目構造が不足し、10重量%を超えると逆に網目構造が過剰となり、環状デバイスが脆くなり、かつ、柔軟性が低下する。
【0038】
上記モノマーの混合物を重合させる際に使用する重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物やアゾビスバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。重合開始剤の添加量は、モノマー総量に対して10〜3500ppm程度が好ましい。
【0039】
環状デバイスは、紫外線吸収剤が配合されていてもよい。具体的には、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−5−t−ブチルベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メタクリロイルオキシメチル安息香酸フェニルなどが挙げられ、所望の紫外線吸収能に合わせ、任意の量を配合すればいい。
【0040】
[環状デバイスの製造方法]
本環状デバイスは、これまでに知られている方法、例えば、キャストモールド製法やレースカット製法により製造することができるが、本発明の環状デバイスを製造する方法はこれらに限定されない。キャストモールド製法は、重合後に所望の形状(環状)となるように予め設計された成形型を用いて、成形型中で重合反応を行い、環状デバイスを得る製法である。レースカット製法は、まずブロック状の重合体を得て、次いでこのブロック体から環状デバイスの形状に切削、研磨などを行う製法である。
【0041】
キャストモールド製法
まず、親水性モノマー、又は親水性モノマーに疎水性モノマー若しくは架橋性モノマー若しくはその両方を添加したモノマーの混合物に、重合開始剤を添加し、攪拌、溶解させ、モノマー混合液を得る。
【0042】
得られたモノマー混合液を金属、ガラス、プラスチックなどからなる成形型に入れ、密閉し、恒温槽などにより段階的もしくは連続的に25℃〜130℃の範囲で昇温し、5〜120時間で重合を完結させる。重合に際しては、紫外線や電子線、ガンマ線などを利用することも可能である。また、上記モノマー混合液に水や有機溶媒を添加し、溶液重合を適用することもできる。
【0043】
重合終了後、室温まで冷却し、得られた重合物を成形型から取り出し、必要に応じて切削、研磨加工する。得られたデバイス(環状デバイス)を水和膨潤させて含水ゲル(ハイドロゲル)とする。水和膨潤に使用される液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液などが挙げられるが、水溶性有機溶剤との混合液も使用できる。前記膨潤液を40〜100℃に加温し、一定時間浸漬させて速やかに水和膨潤状態にする。また、前記膨潤処理により、重合物中に含まれる未反応モノマーを除去することも可能となる。
【0044】
レースカット製法
まず、重合後の形状がブロック状となる成形型を用いて、キャストモールド製法と同様の方法により、ブロック状の重合体を得て、次いで得られたブロック体から切削にて強角膜レンズを作製する。得られた強角膜レンズに所望の大きさの開口部を開け、周縁部を研磨加工して環状デバイスを得る。このとき開口部をまず空けておいてからレンズ状のデバイスに切削することも可能である。
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0046】
[環状デバイスの作製方法]
親水性モノマーとして2−ヒドロキシエチルメタクリレート99g、架橋性モノマーとしてエチレングリコールジメタクリレート1g、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15gを混合した後、重合後に表1に示す外径、内径、厚み及び/又は溝を有する実施例1〜6、比較例1〜2及び、参考例1の構造になるように予め設計された成形型中で加熱重合を行った(窒素雰囲気下、室温〜100℃に昇温、40時間)。得られた膨潤前のデバイスを生理食塩水中で60℃、30分間加熱することで膨潤させ、高圧蒸気滅菌を施して環状デバイスとした。
【0047】
環状デバイスの厚みは、DIAL THICKNESS GAUGE(G−1A(株)/尾崎製作所製)を用いて測定した。内縁部の厚みはデバイス開口部側の端部から0.3mm離れた位置の厚み、中間部の厚みはデバイス開口部の端部とデバイス外縁部の端部間の中央部付近の厚みを測定した。
【0048】
[涙液層厚みの評価]
被験者に、実施例1〜4、比較例1〜2及び、参考例1〜4の環状デバイス(又はコンタクトレンズ)を装用した後、細隙灯顕微鏡による観察により、形成される涙液層の厚みを評価した結果を表1に示す。なお、参考例1は、本発明の環状デバイスを装着する以前から病理所見がない健常な眼球において、環状デバイスの装着により、傷が生じないことを示す例である。表中にある記号の意味は以下のとおりである。
◎:通常と比較して顕著に厚い涙液層が形成されている
○:通常と比較して厚い涙液層が形成されている
×:通常と変化がない
【0049】
[装用感及び眼疾患治癒性評価]
被験者に、実施例1〜4、比較例1〜2及び、参考例1〜4の環状デバイス(又はコンタクトレンズ)を装用した後、細隙灯顕微鏡による観察により、眼疾患の治癒性を以下に示す条件に従い評価した。なお、参考例1は、本発明の環状デバイスを装着する以前から所見がない場合において、環状デバイスの装着により、傷が生じないことを示す例である。表中にある記号の意味は以下のとおりである。
○:完治した
×:未治癒
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示す結果から、実施例1〜4の環状デバイスでは、通常と比較して顕著に厚い涙液層が形成され、このことによって短期間の装用で眼疾患が治癒することが確認された。
【0052】
一方、比較例1の環状デバイスは内縁部の厚みが小さすぎるために涙液の土手として機能せず、眼疾患の治癒に寄与しなかったことが確認された。なお、比較例2の環状デバイスは涙液層の形成及び治癒性ともに良好ではあったものの、内縁部(及び外縁部)の厚みが大きく、装用に堪えないほどの異物感が報告されたため、実用には適さないと考えられる。
【0053】
参考例1の環状デバイスは実施例2と同じものであるが、角膜損傷は確認されず、本発明の環状デバイスが安全に使用可能であることを示す結果となった。参考例2は通常のコンタクトレンズが眼疾患の治癒に寄与しないことを示している。また、参考例3及び4は本発明に含まれる環状デバイスであるが、内縁部の厚みがやや小さいことから、眼疾患の治癒に要する期間が長くなることを示している。