(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて、ビーム毎に予め設定された複数の制御照射時間に対応する複数の分割ショットをそれぞれ組み合わせて同じ照射位置に続けて当該組み合わせの複数の分割ショットを行うことにより多重露光における各回の露光処理を示すパス毎の各ビームの照射位置にそれぞれ所望の照射時間の露光を行う場合に、分割ショット毎に当該分割ショットに沿って荷電粒子ビームによる露光を行った場合にブランキング制御の誤差に起因する、予め取得されたブランキング誤差時間を用いて、制御照射時間毎に、当該制御照射時間に対応する前記分割ショットの組み合わせに沿って荷電粒子ビームにより露光された場合の実効照射時間を演算する工程と、
前記制御照射時間と前記実効照射時間との関係を示す相関関係データを作成する工程と、
前記相関関係データを用いて、試料の照射位置毎に、所望の照射時間に、より近くなる前記実効照射時間に対応する前記分割ショットの組み合わせを選択する工程と、
前記マルチビームを用いて、前記試料の照射位置毎に選択された前記分割ショットの組み合わせに沿った露光を行う工程と、
を備えたことを特徴するマルチ荷電粒子ビーム露光方法。
各ビームのブランキング制御を行う場合の整定時間よりも十分長い異なる複数の第1の評価用制御照射時間を用いて、第1の評価用制御照射時間毎に、評価用基板に当該第1の評価用制御照射時間で荷電粒子ビームによる非分割露光を行った場合に形成される第1のパターン寸法を測定する工程と、
前記整定時間よりも十分長い第2の評価用制御照射時間による非分割露光と、前記複数の分割ショットのうちの対象分割ショットを複数回繰り返す分割露光との組み合わせを評価用基板に行った場合に形成される第2のパターン寸法を測定する工程と、
前記第1の評価用制御照射時間毎に測定された前記第1のパターン寸法の結果を用いて、前記第2のパターン寸法が得られる第3の評価用制御照射時間を近似する工程と、
前記第2の評価用制御照射時間と前記第3の評価用制御照射時間と前記対象分割ショットの制御照射時間と前記対象分割ショットの繰り返し回数とを用いて、前記対象分割ショットにおける前記ブランキング誤差時間を演算する工程と、
をさらに備えたことを特徴する請求項1又は2記載のマルチ荷電粒子ビーム露光方法。
前記ブランキング誤差時間は、前記複数の分割ショットのうち、前記整定時間よりも短い制御照射時間の分割ショットについて演算されることを特徴する請求項3記載のマルチ荷電粒子ビーム露光方法。
荷電粒子ビームによるマルチビームを用いて、ビーム毎に予め設定された複数の制御照射時間に対応する複数の分割ショットをそれぞれ組み合わせて同じ照射位置に続けて当該組み合わせの複数の分割ショットを行うことにより多重露光における各回の露光処理を示すパス毎の各ビームの照射位置にそれぞれ所望の照射時間の露光を行う場合に、分割ショット毎に当該分割ショットに沿って荷電粒子ビームによる露光を行った場合にブランキング制御の誤差に起因する、予め取得されたブランキング誤差時間を用いて、制御照射時間毎に、当該制御照射時間に対応する前記分割ショットの組み合わせに沿って荷電粒子ビームにより露光された場合の実効照射時間を演算する実効照射時間演算部と、
前記制御照射時間と前記実効照射時間との関係を示す相関関係データを作成する工程と、
前記相関関係データを用いて、試料の照射位置毎に、所望の照射時間に、より近くなる前記実効照射時間に対応する前記分割ショットの組み合わせを選択する選択部と、
前記マルチビームを用いて、前記試料の照射位置毎に選択された前記分割ショットの組み合わせに沿った露光を行う露光部と、
を備えたことを特徴するマルチ荷電粒子ビーム露光装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、実施の形態では、露光装置の一例として、描画装置を用いた構成について説明する。但し、露光装置は、描画装置に限るものではなく、検査装置等の荷電粒子ビームの試料への照射を行う露光装置でも構わない。
【0017】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、偏向器208、偏向器209、及び共通ブランキング偏向器212が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0018】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ロジック回路131、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ロジック回路131、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134、ロジック回路131、及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。DACアンプユニット132の出力は、偏向器209に接続される。DACアンプユニット134の出力は、偏向器208に接続される。ロジック回路131の出力は、共通ブランキング偏向器212に接続される。ステージ位置測定器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0019】
制御計算機110内には、パターン面積密度ρ演算部60、照射量D演算部62、照射時間t演算部64、選択部65、データ加工部66、転送制御部68、描画制御部69、設定部70、Δ設定部72、フィッティング処理部74、分割ショット設定部76、t’演算部78、δtk演算部80、判定部82、Tem演算部84、及びデーブル作成部86が配置されている。パターン面積密度ρ演算部60、照射量D演算部62、照射時間t演算部64、選択部65、データ加工部66、転送制御部68、描画制御部69、設定部70、Δ設定部72、フィッティング処理部74、分割ショット設定部76、t’演算部78、δtk演算部80、判定部82、Tem演算部84、及びデーブル作成部86といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。パターン面積密度ρ演算部60、照射量D演算部62、照射時間t演算部64、選択部65、データ加工部66、転送制御部68、描画制御部69、設定部70、Δ設定部72、フィッティング処理部74、分割ショット設定部76、t’演算部78、δtk演算部80、判定部82、Tem演算部84、及びデーブル作成部86に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0020】
また、描画装置100の外部から描画データが入力され、記憶装置140に格納される。描画データには、通常、描画するための複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。
【0021】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0022】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0023】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、
図3と
図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド43の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、
図3に示すように、支持台33上にシリコン等からなる半導体基板31が配置される。基板31の中央部は、例えば裏面側から薄く削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域330(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域330を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域332(第2の領域)となる。メンブレン領域330の上面と外周領域332の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に高さ位置になるように形成される。基板31は、外周領域332の裏面で支持台33上に保持される。支持台33の中央部は開口しており、メンブレン領域330の位置は、支持台33の開口した領域に位置している。
【0024】
メンブレン領域330には、
図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。言い換えれば、基板31のメンブレン領域330には、電子線を用いたマルチビームのそれぞれ対応するビームが通過する複数の通過孔25がアレイ状に形成される。そして、基板31のメンブレン領域330上であって、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向する位置に2つの電極を有する複数の電極対がそれぞれ配置される。具体的には、メンブレン領域330上に、
図3及び
図4に示すように、各通過孔25の近傍位置に該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、基板31内部であってメンブレン領域330上の各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
【0025】
また、
図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば1ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、制御信号用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等が接続される。クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極24と対向電極26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、
図3の例では、制御電極24と対向電極26と制御回路41とが基板31の膜厚が薄いメンブレン領域330に配置される。但し、これに限るものではない。また、メンブレン領域330にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列によってグループ化され、グループ内の制御回路41群は、
図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド43からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。具体的には、各制御回路41内に、後述するシフトレジスタが配置され、例えば、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの制御信号がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0026】
図5は、実施の形態1の個別ブランキング機構の一例を示す図である。
図5において、制御回路41内には、アンプ46(スイッチング回路の一例)が配置される。
図5の例では、アンプ46の一例として、CMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。そして、CMOSインバータ回路は正の電位(Vdd:ブランキング電位:第1の電位)(例えば、5V)(第1の電位)とグランド電位(GND:第2の電位)に接続される。CMOSインバータ回路の出力線(OUT)は制御電極24に接続される。一方、対向電極26は、グランド電位が印加される。そして、ブランキング電位とグランド電位とが切り替え可能に印加される複数の制御電極24が、基板31上であって、複数の通過孔25のそれぞれ対応する通過孔25を挟んで複数の対向電極26のそれぞれ対応する対向電極26と対向する位置に配置される。
【0027】
CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビーム20を偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。
【0028】
各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立に対となる2つの制御電極24と対向電極26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。具体的には、制御電極24と対向電極26の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるCMOSインバータ回路によって切り替えられる電位によってマルチビームの対応ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0029】
図6は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図6に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0030】
図7は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図7において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象画素36(単位照射領域、照射位置、或いは描画位置)となる。描画対象画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。
図7の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図7の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図7の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのグリッド29を構成する。
図7の例では、各グリッド29は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0031】
図8は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
図8では、
図7で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するグリッドの一部を示している。
図8の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。
図8の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0032】
具体的には、ステージ位置測定器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部80がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、DACアンプ134に出力され、DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
【0033】
そして、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの画素36に対応する描画時間(照射時間、或いは露光時間)、各画素36にマルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。但し、実施の形態1では、最大描画時間Ttrを複数の照射時間で分割した1組の分割ショット(サブショット:ショットの一例)群の中から画素36に対応する描画時間に相当する分だけ選択された分割ショット群の各分割ショットを連続或いは不連続で行う。
【0034】
図9は、実施の形態1におけるマルチビームの分割ショットの一例を示す図である。
図9では、各画素36への1回分のショットの最大照射時間Ttrを同じ画素36に照射される例えば照射時間が異なるn回の分割ショットに分割する。まず、最大照射時間Ttrを量子化単位Δ(階調値分解能)で割った階調値Ntrを定める。例えば、n=10とした場合、10回の分割ショットに分割する。階調値Ntrを桁数nの2進数の値で定義する場合、階調値Ntr=1023になるように量子化単位Δを予め設定すると好適である。これにより、最大照射時間Ttr=1023Δとなる。そして、
図9に示すように、n回の分割ショットは、桁数k’=0〜9までの2
k’Δのいずれかの照射時間を持つ。言い換えれば、512Δ(=2
9Δ),256Δ(=2
8Δ),128Δ(=2
7Δ),64Δ(=2
6Δ),32Δ(=2
5Δ),16Δ(=2
4Δ),8Δ(=2
3Δ),4Δ(=2
2Δ),2Δ(=2
1Δ),Δ(=2
0Δ)のいずれかの照射時間を持つ。すなわち、1回分のマルチビームのショットは、512Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、256Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、128Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、64Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、32Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、16Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、8Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、4Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、2Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、Δの照射時間tk’をもつ分割ショットと、に分割される。
【0035】
よって、各画素36に照射する任意の照射時間t(=NΔ)は、かかる512Δ(=2
9Δ),256Δ(=2
8Δ),128Δ(=2
7Δ),64Δ(=2
6Δ),32Δ(=2
5Δ),16Δ(=2
4Δ),8Δ(=2
3Δ),4Δ(=2
2Δ),2Δ(=2
1Δ),及びΔ(=2
0Δ)で定義される1組の分割ショット群の照射時間の中から、照射時間がゼロでなければ少なくとも1つの組み合わせによって定義できる。
【0036】
図10は、実施の形態1における個別ブランキング制御回路と共通ブランキング制御回路の内部構成を示す概念図である。
図10において、描画装置100本体内のブランキングアパーチャアレイ機構204に配置された個別ブランキング制御用の各制御回路41には、シフトレジスタ40、レジスタ42、レジスタ44、及びアンプ46が配置される。各ビーム用の個別ブランキング制御を、例えば1ビットの制御信号によって制御する。すなわち、シフトレジスタ40、レジスタ42、レジスタ44、及びアンプ46には、例えば1ビットの制御信号が入出力される。制御信号の情報量が少ないことにより、制御回路の設置面積を小さくできる。言い換えれば、設置スペースが狭いブランキングアパーチャアレイ機構204上に制御回路を配置する場合でも、より小さいビームピッチでより多くのビームを配置できる。これはブランキングプレートを透過する電流量を増加させ、すなわち描画スループットを向上することができる。
【0037】
また、共通ブランキング用のロジック回路131には、レジスタ50、カウンタ52、及びアンプ54が配置される。こちらは、同時に複数の異なる制御を行うわけではなく、ON/OFF制御を行う1回路で済むため、高速に応答させるための回路を配置する場合でも設置スペース、回路の使用電流の制限の問題が生じない。よってこのアンプ54はブランキングアパーチャアレイ機構204上に実現できるアンプ46よりも格段に高速で動作する。このアンプ54は例えば、10ビットの制御信号によって制御する。すなわち、レジスタ50、及びカウンタ52には、例えば10ビットの制御信号が入出力される。
【0038】
実施の形態1では、上述した個別ブランキング制御用の各制御回路41によるビームON/OFF制御と、マルチビーム全体を一括してブランキング制御する共通ブランキング制御用のロジック回路131によるビームON/OFF制御との両方を用いて、各ビームのブランキング制御を行う。
【0039】
図11は、実施の形態1における分割ショットについてのビームON/OFF切り替え動作を示すタイミングチャート図である。
図11では、例えば、マルチビーム20を構成する複数のビームのうち、1つのビーム(ビーム1)について示している。ここでは、例えば、ビーム1のkショット目とk+1ショット目の分割ショットのステップについて示している。照射時間配列データは、例えば、kショット目が”1”、k+1ショット目が”0”の場合を示している。
【0040】
p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタ40が直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの当該分割ショットの照射時間データ(ON/OFF制御信号)がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの照射時間データが対応するシフトレジスタ40に格納される。
【0041】
そして、偏向制御回路130からのリード信号の入力によって、個別レジスタ42は、格納されているkショット目のデータ(1ビット)に従ってON/OFF信号を読み込み記憶する。また、偏向制御回路130からkショット目の照射時間データ(10ビット)が送信され、共通ブランキング制御用のレジスタ50がkショット目の照射時間データ(10ビット)を記憶する。
【0042】
次に、偏向制御回路130からkショット目の個別ショット信号が全ビームの個別レジスタ44に出力される。これにより、各ビーム用の個別レジスタ44は、個別ショット信号がONである時間だけ個別レジスタ42に格納されたデータを維持し、維持されたON/OFF信号に沿って、個別アンプ46にビームON信号或いはビームOFF信号を出力する。個別ショット信号の代わりに、読み込み維持するロード信号と格納された情報をリセットするリセット信号を個別レジスタ44に出力してもよい。個別アンプ46は、入力されるビームON信号或いはビームOFF信号に沿って、ビームON電圧或いはビームOFF電圧を制御電極24に印加する。一方、個別ショット信号に遅れて、偏向制御回路130からkショット目の共通ショット信号が共通ブランキング制御用のカウンタ52に出力され、カウンタ52は、レジスタ50に格納されているON/OFF制御信号が示す時間だけカウントし、その間共通アンプ54にビームON信号を出力する。共通アンプ54は、カウンタ52からのビームON信号を入力している時間だけ偏向器212にビームON電圧を印加する。
【0043】
共通ブランキング機構では、例えば、個別ブランキング機構47のON/OFF切り替えに対して、アンプ46の電圧安定時間(セトリング時間)S1/S2を経過した後にOFFからONへの切り替えを行う。
図11の例では、個別アンプがONになった後、OFFからONに切り替え時の個別アンプ46のセトリング時間S1を経過後に、共通アンプ54がONになる。これにより、個別アンプ46の立ち上がり時の不安定な電圧でのビーム照射を排除できる。そして、共通アンプ54は対象となるkショット目の照射時間の経過時にOFFとなる。その結果、実際のビームは、個別アンプ46と共通アンプ54が共にONであった場合に、ビームONとなり、試料101に照射される。よって、共通アンプ54のON時間が実際のビームの照射時間になるように制御されると好適である。一方、個別アンプ46がOFFの時に共通アンプ54がONになる場合には、個別アンプ46がOFFになった後、ONからOFFに切り替え時の個別アンプ46のセトリング時間S2を経過後に、共通アンプ54をONにすると好適である。これにより、個別アンプ46の立ち下がり時の不安定な電圧でのビーム照射を排除できる。
【0044】
以上のようにして、1トラッキングサイクル内における同じグループ内の分割ショットを連続して行うことにより当該グループのシフトサイクルを実施する。
【0045】
ここで、上述した例では、共通アンプ54で照射時間を制御することによって、個別アンプ46の電位の立ち上がり及び立ち下がりの電圧安定時間(セトリング時間:整定時間)による誤差を含まないように制御している。しかし、かかる共通アンプ54にも、電位の立ち上がり及び立ち下がりの電圧安定時間(セトリング時間:整定時間)は必要である。
【0046】
図12は、実施の形態1における偏向器に印可する電位のブランキング波形の一例を示す図である。個別ブランキング機構47では、電極24,26の組がブランキング偏向器となる。共通ブランキング機構では、共通ブランキング偏向器212がブランキング偏向器となる。切り換え信号(on指示)により、電位が0V(グランド電位)から正電位(例えば5V)へと電位切り換えを行う場合に、理想的には、
図12(a)に示すように切り換えた瞬間に正電位(例えば5V)になる方が良い。しかしながら、実際には、
図12(b)に示すように立ち上がりの波形が瞬時には立ち上がらず、徐々に立ち上がる。このように、立ち上がりの整定時間が必要となる。また、電位が正電位(例えば5V)から0V(グランド電位)へと電位切り換えを行う場合に、理想的には、
図12(a)に示すように切り換えた瞬間に0Vになる方が良い。しかしながら、実際には、
図12(b)に示すように立ち下がりの波形が瞬時には立ち下がらず、徐々に立ち下がる。一方、ビームのON/OFFが切り替わる閾値は、0V(グランド電位)と正電位(例えば5V)との間に存在する。よって、
図12(b)に示すように、電位が正電位(例えば5V)まで立ち上がる前にビームONからビームOFFに切り替わる。同様に、電位が0Vまで立ち下がる前にビームOFFからビームONに切り替わる。そのため、電位の立ち上がりの波形変化と立ち下がりの波形変化との関係によって、ビームONになる時間(照射時間:露光時間)が長くなったり、短くなったりする。
図12(b)の例では、電位の立ち上がり整定時間が立ち下がり整定時間より長く、制御上の照射時間よりも実際の照射時間が短くなる場合を示している。
【0047】
よって、上述した例に関わらず、照射時間の制御には、個別アンプ46と共通アンプ54とのうち、電位の立ち上がり及び立ち下がりによるブランキング誤差が小さい方で制御する方がより高精度に描画できる。それでも、かかるブランキング誤差が残ることになる。そこで、実施の形態1では、マルチビーム描画において、かかるブランキング誤差を補正する。また、ブランキング誤差に起因して実際の照射時間(露光時間)は、長くなる場合と短くなる場合とがあり得る。以下、実施の形態1では、これらのうち、ブランキング誤差に起因して照射時間(露光時間)が短くなる場合にかかる不足分を補正する構成について一例として説明する。また個別アンプより共通アンプの整定時間が短く、共通アンプを用いて露光時間の制御を行う場合の例を説明するが、逆の場合にも同様に個別アンプのオフセット時間を補正できる。
【0048】
図13は、実施の形態1の比較例における分割ショットの組み合わせの一例を示す図である。例えば、所望の照射時間が63Δである場合、
図13(a)に示すように、照射時間が32Δの分割ショットと、16Δの分割ショットと、8Δの分割ショットと、4Δの分割ショットと、2Δの分割ショットと、Δの分割ショットと、を組み合わせることで、63Δの照射時間のビーム照射を行うことができる。しかし、上述したように、ブランキング誤差が含まれているので、実際の照射時間は、63Δよりも短くなってしまう。分割ショットでは、階調化された値で照射時間が定義されるので、最小単位がΔである。そこで、比較例では、かかる63Δの照射時間にブランキング誤差分としてΔを加えて64Δを制御上の照射時間にすることによってブランキング誤差に起因した照射時間(露光時間)の不足を補正する。しかし、かかる場合、
図13(b)に示すように、必要な分割ショットが64Δの分割ショット1つだけになってしまう。
図13(a)では、6回のブランキング動作が必要であったのに対し、
図13(b)では、1回のブランキング動作になってしまう。そのため、発生するブランキング誤差の量も異なるはずである。よって、分割ショットを使用するマルチビーム描画において、比較例の手法では、ブランキング誤差に起因する照射時間(露光時間)のずれを補正することは困難であることがわかる。そこで、実施の形態1では、分割ショットの組み合わせの選択の仕方を工夫することによって、分割ショットを使用するマルチビーム描画についてもブランキング誤差に起因する照射時間(露光時間)のずれを補正する。
【0049】
図14は、実施の形態1における描画方法の要部工程の一部を示すフローチャート図である。
図15は、実施の形態1における描画方法の要部工程の残部を示すフローチャート図である。
図14及び
図15において、実施の形態1における描画方法(露光方法)は、多重度(パス数)設定工程(S102)と、階調化単位Δ1設定工程(S104)と、非分割描画工程(S106)と、CD測定工程(S108)と、フィッティング処理工程(S110)と、階調化単位Δ2設定工程(S112)と、分割ショット設定工程(S114)と、組合せ描画工程(S116)と、CD測定工程(S118)と、評価用制御照射時間t’演算工程(S120)と、ブランキング誤差δtk演算工程(S122)と、判定工程(S124)と、分割ショット変更工程(S126)と、実効照射時間演算工程(S128)と、Tm−Temテーブル作成工程(S130)と、多重度(パス数)設定工程(S202)と、パターン密度マップ作成工程(S204)と、照射量演算工程(S208)と、照射時間演算工程(S210)と、パス毎の制御照射時間組選択工程(S212)と、描画工程(S214)と、いう一連の工程を実施する。
【0050】
かかる一連の工程のうち、多重度(パス数)設定工程(S102)と、階調化単位Δ1設定工程(S104)と、非分割描画工程(S106)と、CD測定工程(S108)と、フィッティング処理工程(S110)と、階調化単位Δ2設定工程(S112)と、分割ショット設定工程(S114)と、組合せ描画工程(S116)と、CD測定工程(S118)と、評価用制御照射時間t’演算工程(S120)と、ブランキング誤差δtk演算工程(S122)と、判定工程(S124)と、分割ショット変更工程(S126)と、実効照射時間演算工程(S128)と、Tm−Temテーブル作成工程(S130)とが、制御照射時間と実効照射時間との関係を示す相関関係データの作成方法の要部工程に相当する。かかる相関関係データの作成方法は描画処理の前処理として、描画処理の前に実施しておくと好適である。まずは、かかる相関関係データを作成する。
【0051】
多重度(パス数)設定工程(S102)として、設定部70は、多重描画を行う場合の多重度(パス数)を設定する。例えば、多重度(パス数)を8に設定する。実際に描画処理を行う場合のパス数を設定すると好適である。
【0052】
階調化単位Δ1設定工程(S104)として、Δ設定部72は、後述する非分割描画(露光)を行う場合に用いる量子化単位Δ1を設定する。パターン密度ρが50%において、例えば、2Aのビームを15μs照射されると所望の寸法のパターンに解像する感度のレジストが塗布された評価用基板上で線幅寸法CDを測定するための評価パターンを描画する場合を想定する。言い換えれば、照射時間が15μsに相当する照射量を閾値とする閾値モデルを想定する。かかる閾値モデルでは、最大2倍の照射量を照射する。かかる場合、照射時間は0〜30μsの範囲で設定可能にする必要がある。nビット(例えば10ビット)で定義されるn回の分割ショット(例えば10回の分割ショット)で最大1023階調の照射時間を設定する場合、階調化単位Δ1(量子化単位)は、1パス(多重描画しない)で描画する場合、Δ=約30nsとなる。
【0053】
非分割描画工程(S106)として、描画機構150は、分割ショットを用いずに、1画素36あたり1回の照射で所定の照射時間の描画処理を行う。ここでは、各ビームのブランキング制御を行う場合の整定時間よりも十分長い異なる複数の評価用制御照射時間t1,t2,・・・(第1の評価用制御照射時間)を用いて、上述した感度のレジストが塗布された評価用基板にマルチビームによる非分割露光を行う。整定時間として、露光時間を制御するアンプの整定時間、本実施の形態では共通ブランキング動作における立ち上がりの電圧安定時間と立ち下がりの電圧安定時間とのうち、長い方を用いる。
【0054】
後述するように、実際に描画した後で形成されるパターンのCDを測定する必要がある。そのため、非分割描画工程(S106)では、上述したモデルの照射量閾値から大きく離れない範囲で描画する。例えば、照射時間が15μsを中心にその前後の例えば12μs〜18μsとなる複数の評価用制御照射時間t1,t2,・・・でそれぞれ評価パターンを描画する。例えば、階調化単位Δ1=30nsとした場合、382Δ1〜640Δ1の範囲で設定すればよい。評価パターンとして、例えば、パターン密度ρが50%のラインアンドスペースパターン等が好適である。1枚の評価用基板に、領域を異にして評価用制御照射時間毎のパターンを描画すればよい。但し、これに限るものではなく、評価用制御照射時間毎に評価用基板を別々にしても良い。
【0055】
また、評価パターンを描画するにあたり、同じ画素は、それぞれマルチビームのうちのいずれか1本のビームで描画する。マルチビームのビーム間で電流のばらつきがある場合、単一ビームで評価パターンを描画すればよい。描画に使用するビームの電流量は校正されているものとする。
【0056】
描画後は、図示しない現像処理を行い、評価用制御照射時間毎のレジストパターンを形成する。或いは、さらにレジストパターンをマスクとして下層の膜(例えば、Cr膜)をエッチング処理し、その後、アッシング処理を行い、下層の膜のパターンを形成してもよい。
【0057】
CD測定工程(S108)として、各ビームのブランキング制御を行う場合の整定時間よりも十分長い異なる複数の評価用制御照射時間t(第1の評価用制御照射時間)を用いて、評価用制御照射時間毎に、評価用基板に当該評価用制御照射時間でマルチビームによる非分割露光を行った場合に形成されるパターン寸法CD(第1のパターン寸法)を測定する。具体的には、評価用制御照射時間毎に、寸法測定器を用いて、非分割描画工程(S106)およびその後の現像処理等によって得られたレジストパターン(或いは下層膜パターン)の線幅寸法CDを測定する。測定された評価用制御照射時間毎の線幅寸法CDの情報は、描画装置100の外部から入力され、記憶装置144に格納される。
【0058】
フィッティング処理工程(S110)として、フィッティング処理部74は、記憶装置144から評価用制御照射時間毎の線幅寸法CDの情報を読み出し、フィッティング処理して評価用制御照射時間に依存する線幅寸法CDの近似式を演算する。
【0059】
図16は、実施の形態1における評価用制御照射時間に依存する線幅寸法CDを近似するグラフの一例を示す図である。
図16において、縦軸にCD値、横軸に制御照射時間を示す。
図16において、例えば、評価用制御照射時間t1のとき、評価パターン寸法がCD1となり、評価用制御照射時間t2のとき、評価パターン寸法がCD2となる。しかしながら、非分割描画では、1回のブランキング動作を行っているので、かかるブランキング動作におけるブランキング誤差δtが含まれていることになる。よって、パターン寸法CD1を得た実際の照射時間(実効照射時間)は、評価用制御照射時間t1とブランキング誤差δtとの和となる。なお、後述するように、1回のブランキング動作における照射時間がブランキング制御を行う場合の整定時間よりも十分長い時間であればブランキング誤差δtは一定値を取る。よって、パターン寸法CD2を得た実際の照射時間(実効照射時間)は、評価用制御照射時間t2と上述した同じブランキング誤差δtとの和となる。
【0060】
よって、パターン寸法CDは、ブランキング制御を行う場合の整定時間よりも十分長い制御照射時間tとブランキング誤差δtとを用いて、関数fを用いた以下の式(1)で定義できる。
(1) CD=f(t+δt)
【0061】
図16において、制御照射時間t1と制御照射時間t2との間の制御照射時間t’を以下の式(2)のように定義する。
(2) t’=t3+tk×m
【0062】
制御照射時間t3は、非分割描画処理が可能なブランキング機構の整定時間よりも十分長い時間に設定する。また、サブ制御照射時間tkは、複数の分割ショットのうちの後述する設定された分割ショットの制御照射時間である。回数mは、設定された分割ショットの繰り返し回数である。設定された分割ショットと非分割描画処理の1ショットとを行う場合の合計の制御照射時間t’が制御照射時間t1と制御照射時間t2との間(t1<t’<t2)になるように、制御照射時間t3と回数mとを調整する。
【0063】
ここで、かかる制御照射時間t’を非分割描画処理の1ショットでビーム照射する場合、実際の照射時間(実効照射時間)は、ブランキング誤差δtが含まれるので、(t’+δt)となる。また、制御照射時間t3を非分割描画処理の1ショットでビーム照射する場合、実際の照射時間(実効照射時間)は、ブランキング誤差δtが含まれるので、(t3+δt)となる。また、サブ制御照射時間tkを1回の分割ショットでビーム照射する場合、実際の照射時間(実効照射時間)は、かかる分割ショット用のブランキング誤差δtkが含まれるので、(tk+δtk)となる。よって、式(2)は、実効照射時間で定義すると以下の式(3)に変形することができる。
(3)t’+δt=(t3+δt)+(tk+δtk)×m
【0064】
よって、式(3)の右辺{(t3+δt)+(tk+δtk)×m}の実効照射時間で描画した結果得られるCDと、式(3)の左辺(t’+δt)の実効照射時間で描画した結果得られるCDとは一致するはずである。よって、式(3)の右辺{(t3+δt)+(tk+δtk)×m}の実効照射時間で評価パターンを描画し、得られた結果を用いて、
図16の近似式から制御照射時間t’を推定する。
【0065】
そして、制御照射時間t’が得られれば、かかる分割ショット用のブランキング誤差δtkは、式(3)を変形した以下の式(4)で求めることができる。
(4) δtk=(t’−t3)/m−tk
つまりδtを求めることなくδtkを求めることができる。
【0066】
階調化単位Δ2設定工程(S112)として、Δ設定部72は、実際の描画処理を行う場合の階調化単位(量子化単位)Δ2を設定する。多重度(パス数)設定工程(S102)において、実際の描画処理では例えば8パスで行うと設定された場合、階調化単位Δ2は、階調化単位Δ1をパス数で割った値として演算できる。よって、例えばΔ1=30nsの場合、Δ2=約4nsとなる。これは、分割ショットの最小の制御照射時間がΔ2(=4ns)であることを意味する。かかる値は、ブランキング処理における整定時間よりも小さい値となる。よって、分割ショットにおいて、ブランキング処理における整定時間中のブランキング波形のずれの影響を大きく受けることになる。以下、複数の分割ショットにおける分割ショット毎に、生じるブランキング誤差δtkを求めていく。
【0067】
分割ショット設定工程(S114)として、分割ショット設定部76は、複数の分割ショット(例えば、k=0〜9までの10回の分割ショット)のうち、ブランキング誤差δtkを求める対象とする分割ショットkを1つ設定する。
【0068】
組合せ描画工程(S116)として、描画機構150は、整定時間よりも十分長い制御照射時間t3(第2の評価用制御照射時間)による非分割露光と、複数の分割ショットのうちの対象分割ショットを複数回繰り返す分割露光との組み合わせによる評価パターンの描画を行う。言い換えれば、描画機構150は、分割ショットを用いずに1画素36あたり制御照射時間t3の1回のショットと、サブ制御照射時間tkのm回の連続ショットとの組み合わせ描画を行う。上述した感度のレジストが塗布された評価用基板にマルチビームによる組み合わせ露光を行う。
【0069】
例えば、サブ制御照射時間tk=Δ2(=4ns)の分割ショットを選択する場合、t3=440Δ1(=13200ns)、m=200回に設定すると、合計制御照射時間は、440Δ1+Δ2×200=13μsにできる。例えば、サブ制御照射時間tk=2Δ2(=8ns)の分割ショットを選択する場合、t3=440Δ1(=13200ns)、m=100回に設定すると、合計制御照射時間は、440Δ1+2Δ2×100=14μsにできる。例えば、サブ制御照射時間tk=4Δ2(=16ns)の分割ショットを選択する場合、t3=440Δ1(=13200ns)、m=100回に設定すると、合計制御照射時間は、440Δ1+4Δ2×100=14.8μsにできる。例えば、サブ制御照射時間tk=8Δ2(=32ns)の分割ショットを選択する場合、t3=440Δ1(=13200ns)、m=100回に設定すると、合計制御照射時間は、440Δ1+8Δ2×100=16.4μsにできる。繰り返し回数mが小さくなると平均化効果が小さくなるので、繰り返し回数mはあまり小さくしない方が望ましい。例えば、m≧5が好適である。より好適にはm≧50が良い。さらに望ましくはm≧100が良い。また、m≧100により、合計制御照射時間が
図16のt2(=例えば18μs)を超える場合には、t3を小さくすればよい。例えば、サブ制御照射時間tk=16Δ2(=64ns)の分割ショットを選択する場合、t3=300Δ1(=13200ns)、m=100回に設定すると、合計制御照射時間は、300Δ1+16Δ2×100=15.4μsにできる。以下、同様に、サブ制御照射時間tk=512Δ2(=2048ns)までt3、mを設定すればよい。
【0070】
CD測定工程(S118)として、整定時間よりも十分長い制御照射時間t3(第2の評価用制御照射時間)による非分割露光と、複数の分割ショットのうちの対象分割ショットを複数回繰り返す分割露光との組み合わせを評価用基板に行った場合に形成されるパターン寸法CD(第2のパターン寸法)を測定する。具体的には、寸法測定器を用いて、組合せ描画工程(S116)およびその後の現像処理等によって得られたレジストパターン(或いは下層膜パターン)の線幅寸法CDを測定する。測定された組み合わせ描画の線幅寸法CDの情報は、描画装置100の外部から入力され、記憶装置144に格納される。
【0071】
また、評価パターンを描画するにあたり、同じ画素は、それぞれマルチビームのうちのいずれか1本のビームで描画する。マルチビームのビーム間で電流のばらつきがある場合、単一ビームで評価パターンを描画すればよい。
【0072】
描画後は、図示しない現像処理を行い、評価用制御照射時間毎のレジストパターンを形成する。或いは、さらにレジストパターンをマスクとして下層の膜(例えば、Cr膜)をエッチング処理し、その後、アッシング処理を行い、下層の膜のパターンを形成してもよい。
【0073】
評価用制御照射時間t’演算工程(S120)として、t’演算部78は、評価用制御照射時間t1,t2(第1の評価用制御照射時間)毎に測定されたパターン寸法CD(第1のパターン寸法CD)の結果を用いて、組合せ描画で得られたパターン寸法CD(第2のパターン寸法)が得られる評価用制御照射時間t’(第3の評価用制御照射時間)を近似する。言い換えれば、フィッティング処理工程(S110)で得られた近似式を用いて、CD測定工程(S118)において測定された対象分割ショットを組み合わせた組み合わせ描画による線幅寸法CDが対応する評価用制御照射時間t’を演算する。
【0074】
ブランキング誤差δtk演算工程(S122)として、δtk演算部80は、制御照射時間t3(第2の評価用制御照射時間)と評価用制御照射時間t’(第3の評価用制御照射時間)と対象分割ショットのサブ制御照射時間tkと対象分割ショットの繰り返し回数mとを用いて、対象分割ショットにおけるブランキング誤差時間δtkを演算する。具体的には、δtk演算部80は、式(4)に各パラメータの値を入れて、対象分割ショットにおけるブランキング誤差時間δtkを演算する。
【0075】
判定工程(S124)として、判定部82は、すべての分割ショットについてブランキング誤差時間δtkを演算したかどうかを判定する。まだすべての分割ショットについてブランキング誤差時間δtkを演算していない場合には、分割ショット変更工程(S126)に進む。すべての分割ショットについてブランキング誤差時間δtkを演算した場合には実効照射時間演算工程(S128)に進む。
【0076】
分割ショット変更工程(S126)として、分割ショット設定部76は、現在設定されている分割ショットとは異なる、まだブランキング誤差時間δtkを演算していない分割ショットに設定し直す。設定し直した後は、組合せ描画工程(S116)に戻り、すべての分割ショットについてブランキング誤差時間δtkを演算するまで、分割ショット変更工程(S126)から判定工程(S124)までの各工程を繰り返し実施する。
【0077】
図17は、実施の形態1における各分割ショットにおけるブランキング誤差時間δtkを示す表である。
図17において、ビット(bit)0〜9は、サブ照射時間が2
0・Δ2(=Δ2)の分割ショットから2
9・Δ2(=512Δ2)の分割ショットを示す。
図17において、ブランキング誤差時間δtkが負の値を示しているが、負の値を示す場合には、実際の照射時間(実効照射時間)が設定される制御照射時間よりも短くなることを示す。
【0078】
図18は、実施の形態1における各分割ショットにおけるブランキング誤差時間δtkの変化を示すグラフである。
図18に示すように、ブランキング誤差時間δtkは、制御照射時間が長くなるに伴い、一定値δtk
0に収束する。
図18の例では、サブ制御照射時間tkが4Δ(=4・Δ2)と8Δ(=8・Δ2)との間で収束していることがわかる。かかる時間は、描画装置100のブランキング処理における整定時間(例えば
図12(b)のT”)よりも短い場合にブランキング誤差時間δtkが変動し、整定時間よりも長くなると一定値δtk
0に収束する。整定時間は、上述したように立ち上がりの電位安定時間と立ち下がりの電位安定時間とのうち長い方が適用される。
【0079】
よって、上述した例では、複数の分割ショットのすべてについて、ブランキング誤差時間δtkを求めている例を示したが、ブランキング誤差時間δtkは、複数の分割ショットのうち、整定時間よりも短いサブ制御照射時間tkの分割ショットについて演算されるだけでも好適である。これにより、前処理に費やす時間を短縮できる。
【0080】
実効照射時間演算工程(S128)として、Tem演算部84は、電子ビームによるマルチビーム20を用いて、ビーム毎に予め設定された複数のサブ制御照射時間tkに対応する複数の分割ショットbkをそれぞれ組み合わせて同じ照射位置に続けて当該組み合わせの複数の分割ショットbkを行うことにより各ビームの照射位置にそれぞれ所望の照射時間Tmの露光を行う場合に、分割ショット毎に当該分割ショットbkに沿って電子ビーム(マルチビームの1つ)による露光を行った場合にブランキング制御の誤差に起因する、マルチビームのビーム位置に依存しない予め取得されたブランキング誤差時間δtkを用いて、サブ制御照射時間tk毎に、当該サブ制御照射時間tkに対応する分割ショットbkの組み合わせに沿って電子ビーム(マルチビームの1つ)により露光された場合の実効照射時間Temを演算する。
【0081】
図19は、実施の形態1における制御照射時間と実効照射時間と分割ショットの組み合わせとの関係を示す図である。例えば、制御照射時間TmがΔ(=Δ2)の場合、サブ制御照射時間tkがΔ(=Δ2)の分割ショット(b0)のみがONとなり、他の分割ショットはOFF(実施しない)となる。よって、分割ショット(b0)のブランキング誤差時間δtk=−0.7Δ(=−0.7Δ2)が発生する。よって、実効照射時間Temは、制御照射時間Δにブランキング誤差時間δtkを加算した0.3Δ(=Δ−0.7Δ)となる。例えば、制御照射時間が2Δ(=2Δ2)の場合、サブ制御照射時間tkが2Δ(=2Δ2)の分割ショット(b1)のみがONとなり、他の分割ショットはOFF(実施しない)となる。よって、分割ショット(b1)のブランキング誤差時間δtk=−0.4Δ(=−0.4Δ2)が発生する。よって、実効照射時間Teは、制御照射時間Δにブランキング誤差時間δtkを加算した1.6Δ(=2Δ−0.4Δ)となる。以下、同様に、制御照射時間が1023Δまでの実効照射時間Teが演算される。例えば、制御照射時間Tmが1023Δ(=1023Δ2)の場合、サブ制御照射時間tkがΔ(=Δ2)のすべての分割ショット(b0〜b9)がONとなる。よって、各分割ショット(b0〜b9)のブランキング誤差時間δtkの合計は、−0.7Δ−0.4Δ−0.3Δ−0.2Δ−0.2Δ−0.2Δ−0.2Δ−0.2Δ−0.2Δ−0.2Δ(=−2.8Δ2)が発生する。よって、実効照射時間Temは、制御照射時間1023Δにブランキング誤差時間δtkを加算した1020.2Δ(=1023Δ−2.8Δ)となる。なお、各制御照射時間において選択される分割ショットは、できるだけサブ照射時間の長い分割ショットbkから順に選択される。
【0082】
Tm−Temテーブル作成工程(S130)として、デーブル作成部86は、制御照射時間Tmと実効照射時間Temとの関係を示す相関関係データを作成する。具体的には、デーブル作成部86は、
図19に示した制御照射時間と実効照射時間と分割ショットの組み合わせとの関係を示すTm−Temテーブルを作成する。なお、Tm−Temテーブルにおいて、
図19の分割ショットの組み合わせ部分については省略しても良い。作成されたTm−Temテーブルは、記憶装置144に格納される。かかるTm−Temテーブルを使って、実際の描画処理が実施される。
【0083】
図20は、実施の形態1における階調化露光時間と実効露光時間との関係を示すグラフである。
図20において、縦軸に実効露光時間(実効照射時間/Δ)を示し、横軸に階調化露光時間(制御露光時間/Δ)を示す。
図20に示すように、ブランキング誤差時間δtkが負の値を取る場合、
図20に示すように、実効露光時間(実効照射時間/Δ)が階調化露光時間(制御露光時間/Δ)に対して不足していることがわかる。そこで、実施の形態1では、かかるブランキング誤差時間δtkに起因する露光時間の誤差を補正する。
【0084】
多重度(パス数)設定工程(S202)として、設定部70は、描画処理を行う場合の多重度(パス数)を設定する。例えば、パス数=8を設定する。
【0085】
パターン密度マップ作成工程(S204)として、パターン面積密度ρ演算部60は、記憶装置140から描画データを読み出し、画素36毎に、当該画素36内のパターン面積密度ρを演算する。
【0086】
照射量演算工程(S208)として、照射量D演算部62は、画素(描画対象画素)36毎に、当該画素36に照射するための照射量Dを演算する。照射量Dは、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρとを乗じた値として演算すればよい。このように、照射量Dは、画素36毎に算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。近接効果補正照射係数Dpについては、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。そして、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρ’を演算する。
【0087】
次に、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dpを演算する。ここで、近接効果補正照射係数Dpを演算するメッシュ領域のサイズは、パターン面積密度ρ’を演算するメッシュ領域のサイズと同じである必要は無い。また、近接効果補正照射係数Dpの補正モデル及びその計算手法は従来のシングルビーム描画方式で使用されている手法と同様で構わない。
【0088】
照射時間演算工程(S210)として、照射時間t演算部64は、画素36毎に、当該画素36に演算された照射量Dを入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、照射量Dを電流密度Jで割ることで演算できる。そして、画素36毎に得られた照射時間tを定義する照射時間tマップを作成する。作成されたtマップは記憶装置142に格納される。
【0089】
パス毎の制御照射時間組選択工程(S212)として、選択部65は、Tm−Temテーブル(相関関係データ)を用いて、試料101の照射位置毎に、所望の照射時間に、より近くなる実効照射時間Temに対応する分割ショットの組み合わせを選択する。例えば、パス数=1の場合(多重描画をしない場合)、
図19に示すように、例えば、所望の照射時間が15Δである場合、Tm−Temテーブルによれば、制御照射時間Tmが15Δの場合の実効照射時間である13.4Δよりも制御照射時間Tmが16Δの場合の実効照射時間である15.8Δの方が所望の照射時間が15Δに近くなる。よって、かかる場合、選択部65は、所望の照射時間に、より近くなる実効照射時間(15.8Δ)に対応する分割ショットの組み合わせ(b1、b4)を選択する。
【0090】
また、多重描画を行う場合には、分割ショットの組み合わせは、多重露光における各回の露光処理を示すパス毎に選択される。その場合、パス毎に選択される分割ショットの組み合わせによる実効照射時間Temの合計が多重露光における全パス分の所望の照射時間に、より近くなるように、各パスの分割ショットの組み合わせを選択する。例えば、所望の照射時間が64Δである場合、8パスであれば、通常、制御照射時間Teを8Δ(1パス目)、8Δ(2パス目)、8Δ(3パス目)、8Δ(4パス目)、8Δ(5パス目)、8Δ(6パス目)、8Δ(7パス目)、及び8Δ(8パス目)を選択する。しかしながら、かかる場合、実効照射時間Temの合計が62.4Δになる。一方、制御照射時間Teを9Δ(1パス目)、9Δ(2パス目)、9Δ(3パス目)、8Δ(4パス目)、9Δ(5パス目)、9Δ(6パス目)、9Δ(7パス目)、及び8Δ(8パス目)と、制御照射時間Teとして9Δを6回、8Δを2回選択すると、実効照射時間Temの合計が64.2Δ(=8.1Δ×6+7.8Δ×2)にできる。よって、選択部65は、例えば、所望の照射時間が64Δである場合、8パスであれば、制御照射時間Teとして9Δを6回、そして8Δを2回選択する。これにより、実効照射時間を所望の照射時間に、より近づけることができる。
【0091】
描画工程(S214)として、描画機構150(露光部)は、マルチビーム20を用いて、試料101の照射位置毎に選択された分割ショットの組み合わせに沿った露光(描画)を行う。そのために、まず、データ加工部66は、パス毎に、かつ画素36毎に、選択された制御照射時間Teに対応する1組の分割ショット群が識別できるように、例えば、2進数でON/OFF信号(照射時間データ)を生成する。
図9の例において、例えば、照射時間が1023Δの画素36については、当該画素の照射時間データは、すべての分割ショットを選択することになるので、“1111111111”となる。その際の分割ショットの並び順は、適宜設定すればよいが、例えば、照射時間が長い分割ショットから順に並ぶように定義すると好適である。例えば、960Δの照射時間が必要な画素36であれば、960=2
9+2
8+2
7+2
6なので、2
9Δの照射時間をもつ分割ショットと、2
8Δの照射時間をもつ分割ショットと、2
7Δの照射時間をもつ分割ショットと、2
6Δの照射時間をもつ分割ショットと、の組み合わせを選択することになる。よって、かかる画素36の照射時間データは、“1111000000”となる。
【0092】
次に、転送制御部68は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。偏向制御回路130は、分割ショット毎に、ブランキングアパーチャアレイ機構204(ブランキング装置)に、マルチビーム20の各ビームのON/OFF制御信号を出力する。具体的には、偏向制御回路130は、ショット毎に、ブランキングアパーチャアレイ機構204の各ビーム用の制御回路41にON/OFF制御信号を出力する。
【0093】
p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタ40が直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの当該分割ショットの照射時間データ(ON/OFF制御信号)がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの照射時間データが対応するシフトレジスタ40に格納される。
【0094】
そして、偏向制御回路130からのリード信号の入力によって、個別レジスタ42は、格納されているkショット目のデータ(1ビット)に従ってON/OFF信号を読み込み記憶する。また、偏向制御回路130からkショット目の照射時間データ(10ビット)が送信され、共通ブランキング制御用のレジスタ50がkショット目の照射時間データ(10ビット)を記憶する。
【0095】
次に、偏向制御回路130からkショット目の個別ショット信号が全ビームの個別レジスタ44に出力される。これにより、各ビーム用の個別レジスタ44は、個別ショット信号がONである時間だけ個別レジスタ42に格納されたデータを維持し、維持されたON/OFF信号に沿って、個別アンプ46にビームON信号或いはビームOFF信号を出力する。個別ショット信号の代わりに、読み込み維持するロード信号と格納された情報をリセットするリセット信号を個別レジスタ44に出力してもよい。個別アンプ46は、入力されるビームON信号或いはビームOFF信号に沿って、ビームON電圧或いはビームOFF電圧を制御電極24に印加する。一方、共通ブランキング機構で照射時間を制御する場合、個別ショット信号に遅れて、偏向制御回路130からkショット目の共通ショット信号が共通ブランキング制御用のカウンタ52に出力され、カウンタ52は、レジスタ50に格納されているON/OFF制御信号が示す時間だけカウントし、その間共通アンプ54にビームON信号を出力する。共通アンプ54は、カウンタ52からのビームON信号を入力している時間だけ偏向器212にビームON電圧を印加する。
【0096】
以上のようにして、選択された分割ショットを連続して行うことにより対象画像36の露光が実施される。マルチパス描画(多重露光)の場合は、一般にストライプ領域32をずらしながら各パス毎に、各画素の分割ショットを行い描画領域30の露光を行う。この場合は各画素はパス毎に異なるビームで露光される。
【0097】
なお、X線照射や電子線照射によりブランキング波形とブランキング誤差δtkが変化する。そのため、定期的にTm−Temテーブルの値を更新すると好適である。更新によりブランキング誤差δtk(ブランキングオフセット)の変化を補正できる。
【0098】
また、上述したように、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタ40が直列に接続される。よって、ブランキングアパーチャアレイ機構204の例えば左右(x方向、及び−x方向)から制御信号や電源が各制御回路41に供給される。そのため、ブランキング誤差δtk(ブランキングオフセット)が直列につながった方向に向かって配置されるアンプ46毎に異なる可能性がある。そのため、Tm−Temテーブルは、マルチビームの個別ブランキング機構47毎に作成してもよい。或いは、制御信号や電源が流れる方向と直交する方向の個別ブランキング機構47群を同じグループとして、グループ毎にTm−Temテーブルを作成してもよい。
【0099】
以上のように実施の形態1によれば、マルチビーム露光におけるブランキング誤差δtkを補正できる。よって、高精度な寸法のパターンを描画できる。
【0100】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述した例では、露光時間が互いに異なる複数の分割ショットを1組の分割ショット群とした場合を説明したが、これに限るものではなく、1組の分割ショット群の中に同じ露光時間の分割ショットが混在していても良い。
【0101】
また、上述した例では、ブランキング誤差δtkが負の値として測定されたため、制御照射時間では所望する照射時間に不足するため不足分をできるだけ補うように補正することになるが、ブランキング誤差δtkが正の値になる場合もあり得る。かかる場合には、制御照射時間では過露光になるので、過剰分をできるだけ減らすように補正すればよい。
【0102】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0103】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム露光方法及びマルチ荷電粒子ビーム露光装置は、本発明の範囲に包含される。