(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理方法は、誘導結合型プラズマ処理装置、プラズマ生成用の高周波電力を上部電極側に印加する容量結合型プラズマ処理装置、マイクロ波プラズマ処理装置及びリモートプラズマ装置のいずれかにより実行される、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0010】
[プラズマ処理装置]
まず、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の構成の一例について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す。本実施形態では、プラズマ処理装置として誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)処理装置5を例に挙げて説明する。
【0011】
この誘導結合型プラズマ処理装置5は、平面コイル形のRFアンテナを用いるプラズマ処理装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型真空チャンバ(以下、「チャンバ」という。)10を有している。チャンバ10は、接地されている。
【0012】
チャンバ10内の下部中央には、被処理基板としてたとえば半導体ウェハ(以下、「ウェハW」という。)を載置する円板状のステージ12が高周波電極を兼ねる基板保持台として水平に配置されている。このステージ12は、たとえばアルミニウムからなり、チャンバ10の底から垂直上方に延びる絶縁性筒状支持部14に支持されている。
【0013】
絶縁性筒状支持部14の外周に沿ってチャンバ10の底から垂直上方に延びる導電性筒状支持部16とチャンバ10の内壁との間に環状の排気路18が形成されている。排気路18の上部または入口には環状のバッフル板20が取り付けられ、底部に排気ポート22が設けられている。チャンバ10内のガスの流れをステージ12上のウェハWに対して軸対象に均一にするためには、排気ポート22を円周方向に等間隔で複数設ける構成が好ましい。
【0014】
各排気ポート22には排気管24を介して排気装置26が接続されている。排気装置26は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有しており、チャンバ10内のプラズマ処理空間を所望の真空度まで減圧することができる。チャンバ10の側壁の外には、ウェハWの搬入出口27を開閉するゲートバルブ28が取り付けられている。
【0015】
ステージ12には、第2の高周波電源30が整合器32および給電棒34を介して電気的に接続されている。この第2の高周波電源30は、ウェハWに引き込むイオンのエネルギーを制御するために適した一定周波数(例えば400kHz)のバイアス引き込み用の高周波電力LFを可変のパワー(例えば、40W〜2000W)で出力できるようになっている。整合器32は、第2の高周波電源30側のインピーダンスと負荷(主にステージ、プラズマ、チャンバ)側のインピーダンスの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。その整合回路の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
【0016】
ステージ12の上面には、ウェハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の外周側にはウェハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられている。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだ構成を有する。電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40から供給される直流電流により、静電力でウェハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
【0017】
ステージ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室または冷媒流路44が設けられている。この冷媒流路44には、チラーユニットより配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷媒の温度によって静電チャック36上のウェハWの処理中の温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面とウェハWの裏面との間に供給される。また、ウェハWのローディング/アンローディングのためにステージ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構等も設けられている。
【0018】
次に、この誘導結合型プラズマ処理装置5においてプラズマ生成に関係する各部の構成を説明する。チャンバ10の天井には、ステージ12から比較的大きな距離間隔を隔てて、たとえば石英板からなる円形の誘電体窓52が気密に取り付けられている。この誘電体窓52の上には、チャンバ10またはステージ12と同軸に、コイル状のRFアンテナ54が水平に配置されている。このRFアンテナ54は、好ましくは、たとえばスパイラルコイルまたは各一周内で半径一定の同心円コイルの形態を有しており、絶縁体からなるアンテナ固定部材によって誘電体窓52の上に固定されている。
【0019】
RFアンテナ54の一端には、第1の高周波電源56の出力端子が整合器58および給電線60を介して電気的に接続されている。RFアンテナ54の他端は、アース線を介して電気的にグランド電位に接続されている。
【0020】
第1の高周波電源56は、高周波放電によるプラズマの生成に適した周波数(例えば27MHz以上)のプラズマ生成用の高周波HFを可変のパワー(例えば、200W〜1400W)で出力できるようになっている。整合器58は、第1の高周波電源56側のインピーダンスと負荷(主にRFアンテナ、プラズマ、補正コイル)側のインピーダンスとの間で整合をとるためのリアクタンス可変の整合回路を収容している。
【0021】
チャンバ10内の処理空間に所定のガスを供給するためのガス供給部は、誘電体窓52より幾らか低い位置でチャンバ10の側壁の中(または外)に設けられる環状のマニホールドまたはバッファ部62と、円周方向に等間隔でバッファ部62からプラズマ生成空間Sに臨む多数の側壁ガス吐出孔64と、ガス供給源66からバッファ部62まで延びるガス供給管68とを有している。ガス供給源66は、流量制御器および開閉弁を含んでいる。
【0022】
制御部74は、たとえばマイクロコンピュータを含み、この誘導結合型プラズマ処理装置5内の各部たとえば排気装置26、第2の高周波電源30,第1の高周波電源56、整合器32,整合器58、静電チャック用のスイッチ42、ガス供給源66、チラーユニット、伝熱ガス供給部等の個々の動作および装置全体の動作を制御する。
【0023】
この誘導結合型プラズマ処理装置5において、エッチングを行うには、先ずゲートバルブ28を開状態にして加工対象のウェハWをチャンバ10内に搬入して、静電チャック36の上に載置する。そして、ゲートバルブ28を閉めてから、ガス供給源66よりガス供給管68、バッファ部62および側壁ガス吐出孔64を介して所定のガスを所定の流量および流量比でチャンバ10内に導入し、排気装置26によりチャンバ10内の圧力を設定値にする。さらに、第1の高周波電源56をオンにしてプラズマ生成用の高周波HFを所定のRFパワーで出力させ、整合器58,給電線60を介してRFアンテナ54に高周波HFの電力を供給する。
【0024】
一方、イオン引き込み制御用の高周波LFのパワーを印加する場合には、第2の高周波電源30をオンにして高周波電力LFを出力させ、この高周波LFのパワーを整合器32および給電棒34を介してステージ12に印加する。イオン引き込み制御用の高周波を印加しない条件の場合には、高周波電力LFを0Wにする。
【0025】
ステージ12の上面には、ウェハWを静電吸着力で保持するための静電チャック36が設けられ、静電チャック36の外周側にはウェハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング38が設けられている。静電チャック36は導電膜からなる電極36aを一対の絶縁膜36b,36cの間に挟み込んだものであり、電極36aには高圧の直流電源40がスイッチ42および被覆線43を介して電気的に接続されている。直流電源40から供給される直流電流により、静電力でウェハWを静電チャック36上に吸着保持することができる。
【0026】
ステージ12の内部には、たとえば円周方向に延びる環状の冷媒室または冷媒流路44が設けられている。この冷媒流路44には、チラーユニットより配管46,48を介して所定温度の冷媒たとえば冷却水cwが循環供給される。冷媒の温度によって静電チャック36上のウェハWの処理中の温度を制御できる。これと関連して、伝熱ガス供給部からの伝熱ガスたとえばHeガスが、ガス供給管50を介して静電チャック36の上面とウェハWの裏面との間に供給される。また、ウェハWのローディング/アンローディングのためにステージ12を垂直方向に貫通して上下移動可能なリフトピンおよびその昇降機構等も設けられている。
【0027】
側壁ガス吐出孔64より吐出された所定のガスは、誘電体窓52の下の処理空間に均一に拡散する。RFアンテナ54を流れる高周波HFの電流によって、磁力線が誘電体窓52を貫通してチャンバ内のプラズマ生成空間Sを通過するようなRF磁界がRFアンテナ54の周りに発生し、このRF磁界の時間的な変化によって処理空間の方位角方向にRF誘導電界が発生する。そして、この誘導電界によって方位角方向に加速された電子が、供給されたガスの分子や原子と電離衝突を起こし、ドーナツ状のプラズマが生成される。このドーナツ状プラズマのラジカルやイオンは広い処理空間で四方に拡散し、ラジカルは等方向に降り注ぐようにして、イオンは直流バイアスに引っぱられるようにして、ウェハWの上面(被処理面)に供給される。こうしてウェハWの被処理面にプラズマの活性種が化学反応と物理反応をもたらし、被加工膜が所望のパターンにエッチングされる。
【0028】
この誘導結合型プラズマ処理装置5は、上記のようにRFアンテナ54に近接する誘電体窓52の下で誘導結合のプラズマをドーナツ状に生成し、このドーナツ状のプラズマを広い処理空間内で分散させて、ステージ12の近傍(つまりウェハW上)にてプラズマの密度を平均化するようにしている。ここで、ドーナツ状プラズマの密度は、誘導電界の強度に依存し、ひいてはRFアンテナ54に供給される高周波HFのパワー(より正確にはRFアンテナ54を流れる電流)の大きさに依存する。すなわち、高周波HFのパワーを高くするほど、ドーナツ状プラズマの密度が高くなり、プラズマの拡散を通じてステージ12近傍でのプラズマの密度は全体的に高くなる。一方で、ドーナツ状プラズマが四方(特に径方向)に拡散する形態は主にチャンバ10内の圧力に依存し、圧力を低くするほど、チャンバ10の中心部にプラズマが多く集まって、ステージ12近傍のプラズマ密度分布が中心部で盛り上がる傾向がある。また、RFアンテナ54に供給される高周波HFのパワーやチャンバ10内に導入される処理ガスの流量等に応じてドーナツ状プラズマ内のプラズマ密度分布が変わることもある。
【0029】
ここで「ドーナツ状のプラズマ」とは、チャンバ10の径方向内側(中心部)にプラズマが立たず径方向外側にのみプラズマが立つような厳密にリング状のプラズマに限定されず、むしろチャンバ10の径方向内側より径方向外側のプラズマの体積または密度が大きいことを意味する。また、処理ガスに用いるガスの種類やチャンバ10内の圧力の値等の条件によっては、ここで云う「ドーナツ状のプラズマ」にならない場合もある。
【0030】
制御部74は、図示しないCPU,ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有し、RAMなどに記憶されたレシピに設定された手順に従い、本実施形態に係る誘導結合型プラズマ処理装置5の各部を制御し、これにより、本実施形態に係るエッチングを制御する。
【0031】
[マスクの閉塞/凹部の先細り]
図2の(a)に示すように、エッチング対象膜8の上に形成されたマスク9のパターンにエッチング対象膜8をエッチングする際、マスク選択比を向上させるために、エッチング工程の間にマスク9に保護膜を形成する工程(以下、「堆積工程」ともいう。)を行うことがある。特に、高いA/R比を有する凹部を形成するエッチングにおいて、マスク選択比を向上させることは重要である。
【0032】
堆積工程では、
図2の(b)や(c)に示すように、マスク9の間口の閉塞やエッチング対象膜8に形成された凹部の先細り(エッチング形状が垂直でない)がないように有機物を含む化合物(有機膜R)を、主にマスク9の上面に堆積させ、側面にはなるべく堆積させたくない。以下、マスク9を一例とする所定膜の上面が所定膜の側面よりも厚くなるように有機膜Rを堆積させることを「異方的な堆積」ともいう。
【0033】
しかしながら、実際の堆積工程では、有機膜Rはマスク9の縦方向だけでなく横方向にも付着するため、
図2(c)に示すように、有機膜Rによってマスク9の間口が閉塞され、エッチングができなくなってしまうことがある。
【0034】
そこで、かかる構成の本実施形態に係る誘導結合型プラズマ処理装置5では、所定膜の凹部のパターンの上部に膜を異方的に堆積させる。以下、所定膜に有機膜Rを異方的に堆積する、本実施形態に係る処理方法について説明する。
【0035】
[サンプル]
図3に、本実施形態に係る処理方法を実行するために使用される被処理体のサンプルの一例を示す。使用したサンプル例のうち、(a)「SiN L&S」のサンプルでは、パターン化されたSiN膜1のL&S(ライン&スペース)がウェハW上に形成されている。SiN膜1にパターン化された凹部のA/R比は概ね3〜5であり、一律ではない。
【0036】
(b)「High A/R」のサンプルでは、A/R比が18の凹部が形成されたSiN膜1のL&SがウェハW上に形成されている。(c)「Organic L&S」のサンプルでは、A/R比が2のL&Sが形成されている。「Organic L&S」のサンプルでは、下地膜はSiO
2膜2であり、その上に有機膜3及びSi−ARC(Anti Reflective Coating:反射防止膜)4が積層されている。
【0037】
エッチングでは、マスクの選択比を高める必要がある。そのため、本実施形態に係るエッチング処理では、エッチング工程とマスクの上部に有機膜を堆積させる工程とが繰り返し実行される。
【0038】
なお、本サンプルのSiN膜1のパターンにマスクは存在しない。この場合、SiN膜1の上部がマスクとして機能する。よって、SiN膜1の間口を閉塞しないようにSiN膜1の上部に異方性の高い有機膜Rの堆積を行う必要がある。上記サンプルのSiN膜1及びSi−ARC4は、有機膜Rを堆積させる所定膜の一例である。
【0039】
[実験:測定箇所]
以下では、有機膜Rの堆積工程における実験結果の一例について説明しながら、異方性の高い有機膜Rの堆積を行うための好ましい成膜条件に付いて考察する。実験結果を説明するために、まず、
図4を参照して各膜の測定箇所を定義する。
図4(a)は、SiN膜1の初期状態を示す。SiN膜1には凹部が形成されている。凹部の間のSiN膜1の横方向の幅をCD(Critical Dimension)といい、初期状態におけるCDの最大値を「初期MaxCD」と定義する。
【0040】
図4(b)は、堆積工程によりSiN膜1のパターンの上部に有機膜Rが堆積した後の状態を示す。SiN膜1の上部に形成された有機膜Rを含む膜の横方向の幅を「MaxCD」と定義する。ΔHは、以下の式で算出される変数である。
ΔH=(MaxCD−初期MaxCD)/2
また、SiN膜1の上部に形成された有機膜Rの高さをΔV(Top Depo High)と定義する。すなわち、ΔVは、SiN膜1の上面から有機膜Rの先端部までの高さを表す。
【0041】
[実験1:ガスの希釈度]
本実施形態に係る堆積工程における、ガスの希釈度について実験した実験1の結果について、
図5を参照して説明する。実験1の堆積条件1は以下である。
【0042】
<堆積条件1>
圧力:100mT(13.33Pa)
ガス種:C
4F
6/Ar
希釈度:0.4%、0.6%、1%
(希釈度は、Arガスの流量に対するC
4F
6ガスの流量の比率を示す)
ステージ温度:−50℃
成膜時間:600sec、300sec
高周波HFのパワー:300W
高周波LFのパワー:0W
実験1の結果によれば、「SiN L&S」、「High A/R」、「Organic L&S」のいずれのサンプルの場合においても、希釈度が0.4%、0.6%、1%のいずれの場合についても、SiN膜1の上部及びSi−ARC4の上部にΔVにて示す厚さの有機膜Rが積層されている。また、SiN膜1及びSi−ARC4に形成された凹部の間口は閉塞されていない。MaxCD/ΔVで示される値が、全てのサンプルの0.4%、0.6%、1%の希釈度のすべてにおいて1未満である。つまり、堆積条件1では、SiN膜1及びSi−ARC4の上面が各膜の側面よりも厚くなる、異方的な堆積が行われていることがわかる。
【0043】
図6は、実験1の結果をグラフで示した図である。
図6の(a)のグラフでは、横軸のΔVと縦軸のMaxCDとの間に線形性があることがわかる。つまり、有機膜Rの縦方向の堆積が増えると、有機膜Rの横方向の堆積も増え、幅が太くなることがわかる。
図6の(b)のグラフでは、膜の異方性の程度と希釈度との関係を示す。このグラフは、縦軸のMaxCD/ΔVで示される値が、横軸で示す、全てのサンプルの全ての希釈度において1未満である。よって、全てのサンプルの全ての希釈度において縦方向の膜の堆積が横方向の膜の堆積よりも多い異方的な堆積が行われていることがわかる。また、希釈度が低いほどMaxCD/ΔVの幅が小さくなる傾向があり、有機膜Rの堆積の際の異方性が強くなる。ただし、MaxCD/ΔVの最小値は0.705であり、有機膜Rが堆積したときの側面形状は垂直にはなっていないことがわかる。
【0044】
[実験2:ガスの希釈度]
次に、本実施形態に係る堆積工程における、更にガスの希釈度を大きくして実験した実験1の結果について、
図7を参照して説明する。本実験では、サンプルに「SiN L&S」を用いた。実験2の堆積条件2は以下である。
【0045】
<堆積条件2>
圧力:100mT(13.33Pa)
ガス種:C
4F
6/Ar
希釈度:1%、10%、50%
ステージ温度:−50℃
成膜時間:300sec、30sec、20sec
高周波HFのパワー:300W
高周波LFのパワー:0W
実験2の結果によれば、希釈度が1%の場合、SiN膜1の上面にΔVにて示す高さの有機膜Rが積層されている。また、SiN膜1の間口は閉塞されておらず、MaxCD/ΔVで示される値は1未満である。つまり、堆積条件2では、希釈度が1%の場合、異方的な堆積が行われていることがわかる。
【0046】
一方、希釈度が10%、50%の場合、SiN膜1の間口が閉塞されている。つまり、堆積条件2では、希釈度が10%、50%の場合、縦方向の膜の堆積と横方向の膜の堆積とがほぼ同じ程度、又は横方向の膜の堆積が縦方向の膜の堆積よりも多い「等方的な堆積」が行われていることがわかる。
【0047】
以上から、堆積工程で供給されるガスがArガス及びC
4F
6ガスである場合、Arガスに対するC
4F
6ガスの比率(希釈度)は1%以下であることが必要なことがわかる。
【0048】
[実験3:温度依存]
次に、本実施形態に係る堆積工程における温度依存について、
図8を参照して説明する。実験3の堆積条件3は、上記に示した実験2の堆積条件2とステージ温度以外は同一条件である。ステージ温度は、堆積条件3では20℃に設定される点で−50℃に設定される堆積条件2と異なる。本実験では、サンプルに「SiN L&S」を用いた。また、本実験では希釈度が50%の場合の結果は得られなかった。
【0049】
実験3の結果によれば、希釈度が1%の場合、SiN膜1の間口は閉塞されておらず、MaxCD/ΔVで示される値は1未満である。つまり、堆積条件3では、希釈度が1%の場合、異方的な堆積が行われていることがわかる。
【0050】
一方、希釈度が10%の場合、SiN膜1の間口が閉塞されている。また、MaxCD/ΔVで示される値は∞である。つまり、堆積条件3では、希釈度が10%の場合、等方的な堆積が行われていることがわかる。
【0051】
以上の実験2,3から、堆積工程において供給されるガスがArガス及びC
4F
6ガスである場合、Arガスに対するC
4F
6ガスの比率(希釈度)は1%以下であれば、ステージの温度の条件は必須の条件にはならないことがわかる。
【0052】
[実験4:圧力依存]
次に、本実施形態に係る堆積工程における圧力依存について、
図9を参照して説明する。本実験では、サンプルに「Organic L&S」を用いた。実験4の堆積条件4は以下である。
【0053】
<堆積条件4>
チャンバ内圧力:10mT(1.33Pa)、100mT、500mT(66.5Pa)
ガス種:C
4F
6/Ar
希釈度:1%、0.4%
ステージ温度:−50℃
成膜時間:180sec、300sec、600sec
高周波HFのパワー:300W
高周波LFのパワー:0W
実験4の結果によれば、希釈度が1%の場合、圧力が10mTのとき、MaxCD/ΔVの値は1よりも大きく、100mTの場合、MaxCD/ΔVの値は1未満である。また、希釈度が0.4%の場合、圧力が100mT及び500mTのいずれにおいても、MaxCD/ΔVの値は1未満である。以上から、希釈度が1%以下の場合、チャンバ内を100mT以上の圧力にすると、異方的な堆積が行われることがわかる。また、圧力が高くなるほど異方的な堆積が行われ易いことがわかる。
【0054】
[実験5:希釈ガス依存]
次に、本実施形態に係る堆積工程における希釈ガス依存について、
図10を参照して説明する。本実験では、サンプルに「Organic L&S」を用いた。実験5の堆積条件5は以下である。
【0055】
<堆積条件5>
チャンバ内圧力:100mT
ガス種:C
4F
6/Ar、C
4F
6/Kr
希釈度:1%
ステージ温度:−50℃
成膜時間:300sec
高周波HFのパワー:300W
高周波LFのパワー:0W
実験5の結果によれば、希釈ガスにArガスを用いた場合、MaxCD/ΔVの値は1未満であるのに対して、希釈ガスにKrガスを用いた場合、MaxCD/ΔVの値は1よりも大きくなっている。以上から、C
4F
6ガスを希釈するガスとしては、Arガスを使用することが好ましいことがわかる。
【0056】
[実験6:LF依存]
次に、本実施形態に係る堆積工程におけるLF依存について、
図11を参照して説明する。本実験では、サンプルに「Organic L&S」を用いた。実験6の堆積条件6は以下である。
【0057】
<堆積条件6>
チャンバ内圧力:100mT
ガス種:C
4F
6/Ar
希釈度:0.4%
ステージ温度:−50℃
成膜時間:600sec
高周波HFのパワー:300W
高周波LFのパワー:0W、40W
実験6の結果によれば、高周波LFのパワーを印加しない場合、MaxCD/ΔVの値は1未満であるのに対して、40Wの高周波LFのパワーを印加した場合、MaxCD/ΔVの値は1よりも大きくなっている。以上から、高周波LFのパワーは印加しない方が好ましい。これは、C
4F
6ガス及びArガスから生成したプラズマ中のイオンの働きが高周波LFのパワーを印加することにより増すと、有機膜Rが等方的に堆積され易くなるためである。
【0058】
[まとめ]
本実施形態に係る堆積工程を実行した場合の実験結果のまとめについて、
図12〜
図14を参照して説明する。
図12は、本実施形態に係る堆積工程における希釈度の実験結果をまとめた図である。
【0059】
図12の上段は、堆積工程を実行する際にステージ温度を−50℃に設定した場合、下段は、ステージ温度を20℃に設定した場合の希釈度と堆積する有機膜の測定結果の一例が示されている。これによれば、ステージ温度が−50℃又は20℃にかかわらず、希釈度が1%以下であれば、MaxCD/ΔVの値は1未満になり、有機膜Rの異方的な堆積が行われることがわかる。
【0060】
図13は、本実施形態に係る堆積工程を実行する際の各種のパラメータ依存をまとめた図である。
図13の(a)は、サンプルが「SiN L&S」の場合の希釈度と、堆積する有機膜のMaxCD/ΔVの結果の関係を示すグラフである。
図13の(b)は、サンプルが「Organic L&S」の場合の希釈度と、堆積する有機膜のMaxCD/ΔVの結果の関係を示すグラフである。また、右側のグラフは、左側のグラフのうち、希釈度が10%以下の部分を拡大して示したグラフである。
【0061】
これによれば、サンプルが「SiN L&S」の場合及び「Organic L&S」の場合のいずれも、希釈度が1%以下の場合にMaxCD/ΔVが1未満になり、有機膜Rを異方的に堆積させることができる。これにより、凹部の上部にてマスクが閉塞することを防ぎながら、有機膜Rによりマスクの選択比を向上させ、2以上のA/R比のエッチング対象膜をエッチングすることができる。
【0062】
図13の下段の右のグラフでは、希釈度が1%以下の場合であっても、MaxCD/ΔVが1以上になる条件があることを示す。具体的には、希釈ガスにKrガスを用いた場合、高周波LFを印加した場合、及びチャンバ内の圧力を10mT以下にした場合には、有機膜Rが等方的に堆積されることがわかる。よって、希釈ガスにはArガスを用いることが好ましい。また、高周波LFは印加しない方が好ましい。更に、チャンバ内の圧力は100mT以上にすることが好ましい。これにより、有機膜Rを異方的に堆積することができる。
【0063】
図14は、各サンプルに対する本実施形態に係る堆積工程の20℃の実験結果をまとめたグラフである。
図14の上段は、時間に対するΔVの累積値を示す。中段は、時間に対するMaxCDを示す。下段は、時間に対する有機膜Rの堆積量の場所依存を示す。
【0064】
これによれば、
図14の上段及び中段のグラフに示すように、y関数で示すxの傾きが堆積速度であり、いずれのサンプルにおいてもArガスに対するC
4F
6ガスの割合を上げると(つまり希釈度が高くなると)、有機膜Rの縦方向の堆積速度(ΔV amount)及び有機膜の幅方向の堆積速度(MaxCD)が高くなっている。
【0065】
また、
図14の下段のグラフに示すように、有機膜Rの縦方向の堆積速度(ΔV)、有機膜Rの底部における堆積速度(Btm depo amount)及び有機膜の幅方向の堆積速度(MaxCD)によって堆積速度が変わることがわかる。つまり、有機膜Rが堆積する場所によって堆積速度が変わることがわかる。
【0066】
[エッチング処理]
以上に説明した堆積工程を含む本実施形態に係るエッチング処理について、
図15を参照して説明する。
図15は、本実施形態に係るエッチング処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るエッチング処理では、有機膜をマスク上に異方的に堆積させながら、エッチング対象膜をエッチングする。エッチング対象膜の一例としては、SiN膜やSiO
2膜が挙げられる。
【0067】
以下では、SiN膜やSiO
2膜の上部がマスクとして機能する。つまり、マスクとして機能するSiN膜1及びSi−ARC4は、有機膜を堆積させる所定膜の一例である。本処理は、
図1に示す制御部74により制御される。
【0068】
図15の処理が開始されると、制御部74は、C4F6ガス及びArガスを含む第1のガスをチャンバ10の内部に供給する(ステップS10:第1の工程)。このとき、制御部74は、Arガスに対するC4F6ガスの比率、すなわち、希釈度を1%以下に制御する(ステップS10)。制御部74は、プラズマ生成用の高周波HFの電力を上部電極に印加し、バイアス引き込み用の高周波LFの電力を印加しないように制御する(ステップS10)。
【0069】
次に、制御部74は、第1のガスからプラズマを生成し、有機膜を異方的に堆積させる(S12:第2の工程)。第2の工程では、所定膜の上面がその側面よりも厚くなるように有機膜を堆積させることができる。例えば、有機膜の堆積によるSiN膜やSiO
2膜の横方向のCD寸法からの増加分よりも有機膜の堆積によるSiN膜やSiO
2膜の高さ方向の厚みの増加分のほうが大きくなるように有機膜を堆積させることができる。
【0070】
次に、制御部74は、フロロカーボンガスを含む第2のガスをチャンバ10の内部に供給する(ステップS14:第3の工程)。このとき、制御部74は、プラズマ生成用の高周波HFの電力の印加とともに、バイアス引き込み用の高周波LFの電力を印加してもよい。
【0071】
次に、制御部74は、供給した第2のガスからプラズマを生成し、エッチング対象膜をエッチングする(ステップS16:第4の工程)。次に、制御部74は、所定回数繰り返したかを判定し(ステップS18)、所定回数繰り返されるまでステップS10〜S18の処理を繰り返し、所定回数繰り返したとき、本処理を終了する。
【0072】
これによれば、マスクの凹部のパターンの上部に有機膜を異方的に堆積させることで、マスク選択比を向上させつつ、凹部の開口を閉塞することを防ぎ、エッチングを実行することができる。なお、本実施形態では、有機膜の堆積工程とエッチング工程とを所定回数繰り返すこととしたが、これに限らず、堆積工程とエッチング工程とを1回だけ行うようにしてもよい。
【0073】
第1のガスは、炭素含有ガスと不活性ガスとを含むガスであればよい。炭素含有ガスは、フロロカーボンガス、ハイドロカーボンガス、ハイドロフロロカーボンガス、アルコールのいずれかであってもよい。より具体的には、炭素含有ガスは、C
4F
6,C
5F
8、C
4F
8、IPA(C
3H
8O)のいずれかであってもよい。IPAは第2級アルコールの1種である。第2のガスは、C
4F
6ガスとArガスとO
2ガスとを含んでもよい。
【0074】
[他のプラズマ処理装置]
本実施形態に係るエッチング処理は、
図1のICP装置に限らない。例えば、本実施形態に係るエッチング処理は、
図16に示す上下部2周波CCP(Capacitively Coupled Plasma)装置にて実行されてもよい。
図16に示す上下部2周波CCP装置は、プラズマ生成用の高周波HFの電力を上部電極側に印加する容量結合型プラズマ処理装置の一例である。
【0075】
図16に示すように、上下部2周波CCP装置では、チャンバ110の内部にステージ120が設けられている。ステージ120の上面には、ウェハWを静電吸着力で保持するための静電チャック121が設けられ、静電チャック121の半径方向外側にウェハWの周囲を環状に囲むフォーカスリング122が設けられている。
【0076】
チャンバ10の内壁とステージ120の側壁の間には、環状の排気路が形成され、この排気路の上部または入口に環状のバッフル板130が取り付けられている。ステージ120には、第2の高周波電源150が接続されている。第2の高周波電源150は、例えば400kHzのバイアス引き込み用の高周波LFのパワーを印加することができる。ただし、本実施形態に係るエッチング処理では、バイアス引き込み用の高周波LFのパワーは印加しない。
【0077】
ステージ120と対向するチャンバ110の天井部は上部電極160として機能する。第1の高周波電源140は、上部電極160に接続されている。第1の高周波電源140は、例えば60MHzのプラズマ生成用の高周波HFのパワーを印加する。
【0078】
以上に説明したプラズマ処理装置を用いて、ウェハWに形成された凹部のパターンの上部に有機膜を異方的に堆積させることができる。なお、本実施形態に係るエッチング処理を実行するプラズマ処理装置は、マイクロ波プラズマ処理装置及びリモートプラズマ装置のいずれかであってもよい。
【0079】
以上、処理方法及びプラズマ処理装置を上記実施形態により説明したが、本発明にかかる処理方法及びプラズマ処理装置は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0080】
本明細書では、被処理体の一例としてウェハWを挙げて説明したが、被処理体はこれに限らず、LCD(Liquid Crystal Display)、FPD(Flat Panel Display)に用いられる各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板であっても良い。