特許第6861540号(P6861540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861540
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】含気泡油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20210412BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20210412BHJP
   A23G 1/00 20060101ALI20210412BHJP
   A23G 9/00 20060101ALI20210412BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   A23D9/00 518
   A23L9/20
   A23G1/00
   A23G9/00
   A23D7/00 508
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-43434(P2017-43434)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-143190(P2018-143190A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 世里子
(72)【発明者】
【氏名】豊口 柚実子
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】將野 喜之
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 一郎
【審査官】 村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/136808(WO,A1)
【文献】 特開2015−063597(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0316778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23G、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、含気泡油脂組成物用の粉末油脂組成物。
(a)グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを70質量%以上含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xは16〜18から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物の粒子はアスペクト比が1.3〜2.5である板状形状を有し、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.1〜0.4g/cm3であり、前記粉末油脂組成物の平均粒径が20μm以下であり、X線回折測定におけるピーク強度比(4.6Åのピーク強度/(4.6Åのピーク強度+4.2Åのピーク強度))が0.75以上である。
【請求項2】
前記油脂成分がβ型油脂からなる、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記粉末油脂組成物が、示差走査熱量測定法によってα型油脂が検出されない、請求項1または2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末油脂組成物を0.01〜10質量%含有する、含気泡油脂組成物。
【請求項5】
前記含気泡油脂組成物が水を含有する、請求項に記載の含気泡油脂組成物。
【請求項6】
前記含気泡油脂組成物が、ホイップドチョコレート、バタークリーム、ホイップドクリーム、およびアイスクリームから選ばれる1種である、請求項4または5に記載の含気泡油脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末油脂組成物の製造方法であって
XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を、下記式から得られる冷却温度以上に保ち、冷却固化しβ型油脂を形成させる、粉末油脂組成物の製造方法
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項に記載の粉末油脂組成物の製造方法であって
XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を、前記β型油脂に対応するα型油脂の融点以上の温度に保ち、冷却固化しβ型油脂を形成させる、粉末油脂組成物の製造方法
【請求項9】
請求項4〜6の何れか1項に記載の含気泡油脂組成物の製造方法であって、
起泡化前の油脂組成物に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を、混合ないし添加し、起泡化する含気泡油脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を有効成分とする、油脂組成物の含気泡剤または含気泡補助剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含気泡油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリーム、アイスクリーム、およびバタークリームなどの含気泡油脂組成物は、製菓製パン分野で広く使用されている。これら含気泡油脂組成物には、使用環境に応じた保形性と、食したときの美味しさが求められる。そして、美味しさには、味とともに、口どけや瑞々しさといった食感が大きく係っている。
【0003】
含気泡油脂組成物が無水あるいは油中水型乳化物の起泡化物である場合、保形性の維持には、油脂の物性が大きく係る。良好な保形性を維持するために、しばしば融点の高い油脂が使用される。しかし、融点の高い油脂を使用すると口どけが悪くなり、美味しさが損なわれる。油脂の融点を高くする代わりに、例えば、特許文献1には、炭素数20以上の脂肪酸のエステルとHLB3以下のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを併用する油脂固化剤が提案されている。油脂固化剤の使用量は少なくてもよい。しかし、融点が非常に高いので、口どけは改善されなかった。
【0004】
含気泡油脂組成物が水中油型乳化物の起泡物である場合、保形性の維持には、水相の粘度を上げる増粘剤がしばしば使用される。しかし、増粘剤を使用すると、食したときの糊感が強くなり、口どけが悪くなる。特許文献2には、微結晶セルロースを含有するホイップクリームが提案されている。しかし、保形性および瑞々しさが不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−116322号公報
【特許文献2】特開平07−236443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、良好な保形性および口どけを有する含気泡油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った。その結果、特定のトリグリセリドおよび特定の結晶構造を有する油脂を含有する粉末油脂組成物を、含気泡油脂組成物の含気泡剤または含気泡補助剤として含ませることにより、良好な保形性および口どけを有する含気泡油脂組成物が得られることを見出した。これにより、本発明は完成された。すなわち、本発明は、以下の態様を含み得る。
【0008】
[1]以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、含気泡油脂組成物用の粉末油脂組成物。
(a)グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xは10〜22から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05〜0.6g/cm3である。
[2]上記油脂成分がβ型油脂からなる、[1]の粉末油脂組成物。
[3]上記XXX型トリグリセリドが、上記油脂成分の全質量を100質量%とした場合、50質量%以上含有する、[1]または[2]の粉末油脂組成物。
[4]上記炭素数xが16〜18から選択される整数である、[1]ないし[3]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[5]上記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が、0.1〜0.4g/cm3である、[1]ないし[4]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[6]上記粉末油脂組成物の板状形状が、1.1以上のアスペクト比を有する、[1]ないし[5]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[7]上記粉末油脂組成物が、示差走査熱量測定法によってα型油脂が検出されない、[1]ないし[6]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[8]上記粉末油脂組成物が、X線回折測定において4.5〜4.7Åに回析ピークを有する、[1]ないし[7]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[9]上記粉末油脂組成物のX線回折測定におけるピーク強度比(4.6Åのピーク強度/(4.6Åのピーク強度+4.2Åのピーク強度))が0.2以上である、[1]ないし[8]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[10]上前記粉末油脂組成物が、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を、下記式から得られる冷却温度以上に保ち、冷却固化して得たβ型油脂を含有する、[1]ないし[9]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
[11]上記粉末油脂組成物が、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を、上記β型油脂に対応するα型油脂の融点以上の温度に保ち、冷却固化して得たβ型油脂を含有する、[1]ないし[9]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[12]上記粉末油脂組成物の平均粒径が20μm以下である、[1]ないし[11]のいずれか1つの粉末油脂組成物。
[13][1]ないし[12]のいずれか1つの粉末油脂組成物を含有してなる、含気泡油脂組成物。
[14]上記含気泡性油脂組成物に占める上記粉末油脂組成物の含有量が、0.01〜10質量%である、[13]の含気泡油脂組成物。
[15]上記含気泡油脂組成物が水を含有する、[13]または[14]の含気泡油脂組成物。
[16]上記含気泡油脂組成物が、ホイップドチョコレート、バタークリーム、ホイップドクリーム、およびアイスクリームから選ばれる1種である、[13]〜[15]の何れか1つの含気泡油脂組成物。
[17]起泡化前の油脂組成物に、[1]ないし[12]のいずれか1つの粉末油脂組成物を、混合ないし添加し、起泡化する、[13]ないし[16]のいずれか1つの含気泡油脂組成物の製造方法。
[18][1]ないし[12]のいずれか1つの粉末油脂組成物を有効成分とする、油脂組成物の含気泡剤または含気泡補助剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な保形性および口どけを有する含気泡油脂組成物およびその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記含気泡油脂組成物の製造に適した粉末油脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造実施例7の粉末油脂組成物(β型油脂)の外観写真である。
図2】本発明の製造実施例7の粉末油脂組成物(β型油脂)の外観写真である。
図3】本発明の製造比較例3の油脂組成物(α型油脂)の外観写真である。
図4】本発明の製造実施例7の粉末油脂組成物(β型油脂)の顕微鏡写真である。
図5】本発明の製造比較例3の油脂組成物(α型油脂)の顕微鏡写真である。
図6】本発明の製造実施例7の粉末油脂組成物(β型油脂)のX線回折図である。
図7】本発明の製造比較例3の油脂組成物(α型油脂)のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の含気泡油脂組成物について順を追って記述する。
<含気泡油脂組成物>
本発明の含気泡油脂組成物は、粉末油脂組成物を含み、起泡化され含気した状態にある油脂組成物である。起泡化前の状態は、水の含有量が3質量%以下である実質的に無水物であってもよいし、乳化物であってもよい。乳化物は、油中水型乳化物、水中油型乳化物、あるいは複合乳化物であってもよい。本発明の含気泡油脂組成物の具体例としては、例えば食品では、ホイップドチョコレート、バタークリーム、ホイップドクリーム、およびアイスクリームなどが挙げられる。
【0012】
本発明の含気泡油脂組成物に含まれる油脂の含有量は、粉末油脂組成物に含まれる油脂を含め、具体的な含気泡油脂組成物の特質に応じて適宜設定されればよい。例えば、ホイップドチョコレートやバタークリームの場合、油脂の含有量は、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは25〜70質量%であり、さらに好ましくは30〜60質量%である。ホイップドクリームの場合、油脂の含有量は、好ましくは10〜70質量%であり、より好ましくは20〜60質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。アイスクリームの場合、好ましくは2〜40質量%であり、より好ましくは4〜30質量%であり、さらに好ましくは6〜20質量%である。
【0013】
本発明の含気泡油脂組成物に含まれる油脂の供給源としては、食品の場合、粉末油脂組成物に含まれる油脂成分を除き、通常の食用油脂および/または含油食品素材に含まれる油脂が使用できる。食用油脂の具体例としては、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部、およびパームステアリンなど)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、ココアバター、ヤシ油、パーム核油、豚脂、牛脂、および乳脂などや、これらの混合油、加工油脂(水素添加油、エステル交換油、および分別油など)などが挙げられる。これらの食用油脂は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の含気泡油脂組成物は、糖類を含有してもよい。糖類としては、例えば、ショ糖(砂糖および粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、およびデキストリンなどが挙げられる。本発明の含気泡油脂組成物に含まれる糖類の含有量は、具体的な含気泡油脂組成物の特質に応じて適宜設定されればよい。例えば、ホイップドチョコレートやバタークリームの場合、糖類の含有量は、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは25〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。ホイップドクリームの場合、糖類の含有量は、好ましくは3〜45質量%であり、より好ましくは5〜40質量%であり、さらに好ましくは7〜35質量%である。アイスクリームの場合、糖類の含有量は、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜45質量%であり、さらに好ましくは12〜40質量%である。
【0015】
本発明の含気泡油脂組成物が乳化物である場合、水を含有してもよい。水の供給源としては、飲食用に適するものであれば特に制限はなく、湧水、水道水、蒸溜水などの水、および含水食品素材に含まれる水が使用できる。含気泡油脂組成物に含まれる水の含有量は、具体的な含気泡油脂組成物の特質に応じて適宜設定されればよい。例えば、含水ホイップドチョコレートやバタークリームの場合、水の含有量は、好ましくは4〜40質量%であり、より好ましくは8〜32質量%であり、さらに好ましくは12〜26質量%である。ホイップドクリームの場合、水の含有量は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは35〜70質量%であり、さらに好ましくは40〜65質量%である。アイスクリームの場合、水の含有量は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは45〜80質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である。
【0016】
本発明の含気泡油脂組成物は、食品の場合、上述した諸成分の他に、必要に応じて食品に用いられるその他の成分を、本発明の効果を極端に損なわない範囲内で配合してもよい。その他の成分としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ポリグリセリン縮合リシノレイン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、および乳脂肪球皮膜などの乳化剤、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ジェランガム、アラビアガム、コーンスターチ、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、CMC、微細セルロース、ゼラチン、寒天、およびペクチンなどの増粘安定剤、β‐カロテン、カラメル、および紅麹色素などの着色料、トコフェロール、アスコルビン酸、およびルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白などの植物蛋白、卵および各種卵加工品、脱脂粉乳、全脂粉乳、および乳清蛋白などの乳製品、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、およびココアパウダーなどの呈味材ないし風味材、調味料、香料、pH調整剤、および食品保存料などの食品添加物、穀類、豆類、野菜類、肉類、および魚介類などの食品素材、などが挙げられる。
【0017】
<粉末油脂組成物>
本発明は、以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、含気泡油脂組成物用の粉末油脂組成物に関する。当該粉末油脂組成物は、起泡化して使用する油脂組成物の含気泡剤または含気泡補助剤として機能する。
(a)グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂成分を含有する粉末油脂組成物であって、前記炭素数xは10〜22から選択される整数であり、前記油脂成分がβ型油脂を含み、前記粉末油脂組成物の粒子は板状形状を有し、前記粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.05〜0.6g/cm3である。
上記粉末油脂組成物中の上記(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物の含有量は、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。粉末油脂組成物の100質量%が、上記(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物であってよい。当該粉末状の油脂組成物は1種類または2種類以上用いることができ、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。
【0018】
[油脂成分]
本発明の粉末油脂組成物は、油脂成分を含有する。当該油脂成分は、少なくともXXX型トリグリセリドを含み、任意にその他のトリグリセリドを含む。
上記油脂成分はβ型油脂を含む。ここで、β型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ型の結晶のみからなる油脂である。その他の結晶多形の油脂としては、β’型油脂およびα型油脂があり、β’型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるβ’型の結晶のみからなる油脂である。α型油脂とは、油脂の結晶多形の一つであるα型の結晶のみからなる油脂である。油脂の結晶には、同一組成でありながら、異なる副格子構造(結晶構造)を持つものがあり、結晶多形と呼ばれている。代表的には、六方晶型、斜方晶垂直型および三斜晶平行型があり、それぞれα型、β’型およびβ型と呼ばれている。また、各多形の融点はα、β’、βの順に融点が高くなり、各多形の融点は、炭素数xの脂肪酸残基Xの種類により異なるので、以下、表1にそれぞれ、トリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリアラキジン、トリベヘニンである場合の各多形の融点(℃)を示す。なお、表1は、Nissim Garti et al.、”Crystallization and Polymorphism of Fats and Fatty Acids”、Marcel Dekker Inc.、1988、pp.32-33に基づいて作成した。そして、表1の作成にあたり、融点の温度(℃)は小数点第1位を四捨五入した。また、油脂の組成とその各多形の融点がわかれば、少なくとも当該油脂中にβ型油脂が存在するか否かを検出することができる。
【0019】
【表1】
【0020】
これらの多形を同定する一般的な手法は、X線回折法があり、回折条件は下記のブラッグの式によって与えられる。
2dsinθ=nλ(n=1,2,3・・・)
この式を満たす位置に回折ピークが現れる。ここでdは格子定数、θは回折(入射)角、λはX線の波長、nは自然数である。短面間隔に対応する回折ピークの2θ=16〜27°からは、結晶中の側面のパッキング(副格子)に関する情報が得られ、多形の同定を行なうことができる。特にトリアシルグリセロールの場合、2θ=19、23、24°(4.6Å付近、3.9Å付近、3.8Å付近)にβ型の特徴的ピークが、21°(4.2Å)付近にα型の特徴的なピークが出現する。なお、X線回折測定は、例えば、20℃に維持したX線回折装置((株)リガク、試料水平型X線回折装置UItimaIV)を用いて測定される。X線の光源としてはCuKα線(1.54Å)が最もよく利用される。
【0021】
さらに、上記油脂の結晶多形は、示差走査熱量測定法(DSC法)によっても予測することができる。例えば、β型油脂の予測は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、品番BSC6220)によって10℃/分の昇温速度で100℃まで昇温することにより得られるDSC曲線に基づいて油脂の結晶構造を予測することにより行われる。
【0022】
ここで、油脂成分はβ型油脂を含むもの、または、β型油脂を主成分(50質量%超)として含むものあればよく、好ましい態様としては、上記油脂成分がβ型油脂から実質的になるものであり、より好ましい態様は上記油脂成分がβ型油脂からなるものであり、特に好ましい態様は、上記油脂成分がβ型油脂のみからなるものである。上記油脂成分のすべてがβ型油脂である場合とは、示差走査熱量測定法によってα型油脂および/またはβ’型油脂が検出されない場合である。別の好ましい態様としては、上記油脂成分(または油脂成分を含む粉末油脂組成物)が、X線回折測定において、4.5〜4.7Å付近、好ましくは4.6Å付近に回析ピークを有し、表1のα型油脂および/またはβ’型油脂の短面間隔のX線回折ピークがない、特に、4.2Å付近に回折ピークを有さない場合であり、かかる場合も上記油脂成分のすべてがβ型油脂であると判断できる。本発明の更なる態様として、上記油脂成分が全てβ型油脂であることが好ましいが、その他のα型油脂やβ’型油脂が含まれていてもよい。ここで、本発明における油脂成分が「β型油脂を含む」ことおよびα型油脂+β型油脂に対するβ型油脂の相対的な量の指標は、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比率:[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](以下、ピーク強度比ともいう。)から想定できる。具体的には、上述のX線回折測定に関する知見をもとに、β型の特徴的ピークである2θ=19°(4.6Å)のピーク強度とα型の特徴的ピークである2θ=21°(4.2Å)のピーク強度の比率:19°/(19°+21°)[4.6Å/(4.6Å+4.2Å)]を算出することで上記油脂成分のβ型油脂の存在量を表す指標とし、「β型油脂を含む」ことが理解できる。本発明は、上記油脂成分が全てβ型油脂である(即ち、ピーク強度比=1)ことが好ましいが、例えば、該ピーク強度比の下限値が、例えば0.4以上、好ましくは、0.5以上、より好ましくは、0.6以上、さらに好ましくは、0.7以上、特に好ましくは、0.75以上、殊更好ましくは0.8以上であることが適当である。ピーク強度が0.4以上であれば、β型油脂を主成分が50質量%超であるとみなすことができる。該ピーク強度比の上限値は1であることが好ましいが、0.99以下、0.98以下、0.95以下、0.93以下、0.90以下、0.85以下、0.80以下等であってもかまわない。ピーク強度比は、上記下限値および上限値のいずれか若しくは任意の組み合わせであり得る。
【0023】
[XXX型トリグリセリド]
本発明の粉末油脂組成物に含まれる油脂成分は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは10〜22から選択される整数であり、好ましくは12〜22から選択される整数、より好ましくは14〜20から選択される整数、さらに好ましくは16〜18から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびアラキジン酸であり、殊更好ましくは、パルミチン酸およびステアリン酸である。
当該XXX型トリグリセリドの含有量は、油脂成分の全質量を100質量%とした場合、例えば、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは、80質量%以上を下限とし、例えば、100質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、95質量%以下を上限とする範囲である。XXX型トリグリセリドは1種類または2種類以上用いることができ、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類が用いられる。XXX型トリグリセリドが2種類以上の場合は、その合計値がXXX型トリグリセリドの含有量となる。
【0024】
[その他のトリグリセリド]
本発明の粉末油脂組成物に含まれる油脂成分は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂成分中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5〜50質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0〜30質量%、好ましくは0〜18質量%、より好ましくは0〜15質量%、さらに好ましくは0〜8質量%である。
【0025】
[その他の成分]
本発明の粉末油脂組成物は、上記トリグリセリド等の油脂成分の他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。その他の成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201およびISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい粉末油脂組成物は、実質的に上記油脂成分のみからなることが好ましく、かつ、油脂成分は、実質的にトリグリセリドのみからなることが好ましい。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂成分以外の成分または油脂成分中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、粉末油脂組成物または油脂成分を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0026】
<粉末油脂組成物の製造>
本発明の粉末油脂組成物は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を溶融状態とし、特定の冷却温度に保ち、冷却固化することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、(a)上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備し、任意に工程(b)として、工程(a)で得られた油脂組成物原料を加熱し、前記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物原料を得、さらに(d)前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を得る。なお、冷却後に得られる固形物に対して、ハンマーミル、カッターミル等、公知の粉砕加工手段を適用して、該粉末油脂組成物を生産することもできる。
【0027】
上記工程(d)の冷却は、例えば、溶融状態の油脂組成物原料を、当該油脂組成物原料に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度であって、かつ、次式:
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
から求められる冷却温度以上の温度で行われる。このような温度範囲で冷却すれば、β型油脂を効率よく生成でき、細かい結晶ができるので、粉末油脂組成物を容易に得ることができる。なお、前記「細かい」とは、一次粒子(一番小さい大きさの結晶)が、例えば20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μmの場合をいう。また、このような温度範囲で冷却しないと、β型油脂が生成せず、油脂組成物原料よりも体積が増加した空隙を有する固形物ができない場合がある。さらに、本発明では、このような温度範囲で冷却することによって、静置した状態でβ型油脂を生成させ、粉末油脂組成物の粒子を板状形状とさせたものであり、冷却方法は、本発明の粉末油脂組成物を特定するために有益なものである。本発明の乳化用粉末油脂組成物の好ましい平均粒径として、例えば、20μm以下の平均粒径を挙げることができる。平均粒径の測定方法は上述したとおりである。さらに、20μm以下の細かい粒子は人間の感覚では感じとることが困難であるため、20μm以下の粒子を用いることで、ざらついた食感や触感を与えることなく、融点の高い粉末油脂組成物を添加することができる。
【0028】
<粉末油脂組成物の特性>
本発明の粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂成分のみからなる場合、0.05〜0.6g/cm3、好ましくは0.1〜0.5g/cm3であり、より好ましくは0.1〜0.4g/cm3または0.15〜0.4g/cm3であり、さらに好ましくは0.2〜0.3g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(またはISO 1060-1および2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0029】
また、本発明の粉末油脂組成物は、通常、その粒子が板状形状の形態を有し、例えば、5〜200μm、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜120μm、殊更好ましくは25〜100μmの平均粒径(有効径)を有する。ここで、当該平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて求めることができる。有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。ここで、板状形状は、アスペクト比が1.1以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上のアスペクト比であり、さらに好ましくは1.2〜3.0、特に好ましくは1.3〜2.5、殊更好ましくは1.4〜2.0のアスペクト比である。なお、ここでいうアスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。また、粒子が球状形状の場合は、アスペクト比は1.1より小さくなる。従来技術である、極度硬化油等の常温で固体脂含量の高い油脂を溶解し直接噴霧する方法では、粉末油脂組成物の粒子が表面張力によって、球状形状となり、アスペクト比は1.1未満となる。そして、前記アスペクト比は、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる直接観察により、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測することによって、計測した個数の平均値として求めることができる。
【0030】
本発明の粉末油脂組成物が含気泡油脂組成物に良好な保形性を付与する理由は定かではないが、平均粒径の細かい粒子は気相と固相の界面に集まる傾向があり、それにより、気泡が安定化されている可能性がある。また、本発明の粉末油脂組成物は板状形状であるため、気相と固相の界面への付着性が高いと思われ、そのために、安定な含気泡構造が形成させていると思われる。なお、これは本発明の原理をわかりやすくすることを目的に説明したものであり、本発明はこの原理によって拘束されない。
【0031】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、以下の工程、
(a)XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備する工程、
(b)工程(a)で得られた油脂組成物原料を任意に加熱等し、前記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを溶解して溶融状態の前記油脂組成物原料を得る任意の工程、(d)前記油脂組成物原料を冷却固化して、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、および/または(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。以下、上記工程(a)〜(e)について説明する。
【0032】
(a)原料準備工程
工程(a)で準備されるXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料は、グリセリンの1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種以上のXXX型トリグリセリドを含む通常のXXX型トリグリセリド等の油脂の製造方法に基づいて製造され、もしくは容易に市場から入手され得る。ここで、上記炭素数xおよび脂肪酸残基Xで特定されるXXX型トリグリセリドは、最終的に得られる目的の油脂成分のものと結晶多形以外の点で同じである。当該原料にはβ型油脂が含まれていてもよく、例えば、β型油脂の含有量が0.1質量%以下、0.05質量%以下、または0.01質量%以下含んでいてもよい。但し、β型油脂は、当該原料を加熱等により溶融状態にすることにより消失するので、当該原料は溶融状態の原料であってもよい。当該原料が、例えば溶融状態である場合に、β型油脂を実質的に含まないことは、XXX型トリグリセリドに限らず、実質的に全ての油脂成分がβ型油脂ではない場合も意味し、β型油脂の存在は、上述したX線回折測定によりβ型油脂に起因する回折ピーク、示差走査熱量測定法によるβ型油脂の確認等によって確認することができる。「β型油脂を実質的に含まない」場合のβ型油脂の存在量は、X線回折ピークのうち、β型の特徴的ピークとα型の特徴的ピークとの強度比率[β型の特徴的ピークの強度/(α型の特徴的ピークの強度+β型の特徴的ピークの強度)](ピーク強度比)から想定できる。上記油脂組成物原料の当該ピーク強度比は、例えば0.2以下であり、好ましくは、0.15以下であり、より好ましくは、0.10以下である。油脂組成物原料には、上述したとおりのXXX型トリグリセリドを1種類または2種以上含んでいてもよく、好ましくは1種類または2種類であり、より好ましくは1種類である。
具体的には、例えば、上記XXX型トリグリセリドは、脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリンを用いた直接合成によって製造することができる。XXX型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数Xの脂肪酸とグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチルおよび脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリドおよび脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)が挙げられる。
XXX型トリグリセリドは前述の(i)〜(iii)のいずれの方法によっても製造できるが、製造の容易さの観点から、(i)直接エステル合成または(ii)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成が好ましく、(i)直接エステル合成がより好ましい。
【0033】
XXX型トリグリセリドを(i)直接エステル合成によって製造するには、製造効率の観点から、グリセリン1モルに対して脂肪酸Xまたは脂肪酸Yを3〜5モルを用いることが好ましく、3〜4モルを用いることがより好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成における反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、例えば、120℃〜300℃が好ましく、150℃〜270℃がより好ましく、180℃〜250℃がさらに好ましい。反応を180〜250℃で行うことで、特に効率的にXXX型トリグリセリドを製造することができる。
【0034】
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、エステル化反応を促進する触媒を用いても良い。触媒としては酸触媒、およびアルカリ土類金属のアルコキシド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応原料の総質量に対して0.001〜1質量%程度であることが好ましい。
XXX型トリグリセリドの(i)直接エステル合成においては、反応後、水洗、アルカリ脱酸および/または減圧脱酸、および吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、触媒や原料未反応物を除去することができる。さらに、脱色・脱臭処理を施すことで、得られた反応物をさらに精製することができる。
【0035】
上記油脂組成物原料中に含まれるXXX型トリグリセリドの量は、例えば、当該原料中に含まれる全トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、100〜50質量%、好ましくは95〜55質量%、より好ましくは90〜60質量%である。さらに殊更好ましくは85〜65質量%である。
【0036】
[その他のトリグリセリド]
XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料となるその他のトリグリセリドとしては、上記XXX型トリグリセリドの他、本発明の効果を損なわない限り、各種トリグリセリドを含めてもよい。その他のトリグリセリドとしては、例えば、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つが脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリド、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの2つが脂肪酸残基Yに置換したXY2型トリグリセリド等を挙げることができる。
上記その他のトリグリセリドの量は、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0〜100質量%、好ましくは0〜70質量%、より好ましくは1〜40質量%である。
【0037】
また、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料としては、上記XXX型トリグリセリドを直接合成する代わりに、天然由来のトリグリセリド組成物に対し水素添加、エステル交換または分別を行ったものを使用してもよい。天然由来のトリグリセリド組成物としては、例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、サフラワー油、パームステアリンおよびこれらの混合物等を挙げることができる。特に、これらの天然由来のトリグリセリド組成物の硬化油、部分硬化油、極度硬化油が好ましいものとして挙げられる。さらに好ましくは、ハードパームステアリン、ハイオレイックヒマワリ油極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油が挙げられる。
【0038】
さらに、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料としては、市販されている、トリグリセリド組成物または合成油脂を挙げることができる。例えば、トリグリセリド組成物としては、ハードパームステアリン(日清オイリオグループ株式会社製)、菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)を挙げることができる。また、合成油脂としては、トリパルミチン(東京化成工業株式会社製)、トリステアリン(シグマアルドリッチ製)、トリステアリン(東京化成工業株式会社製)、トリアラキジン(東京化成工業株式会社製)トリベヘニン(東京化成工業株式会社製)を挙げることができる。
その他、パーム極度硬化油は、XXX型トリグリセリドの含量が少ないので、トリグリセリドの希釈成分として使用できる。
【0039】
[その他の成分]
上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料としては、上記トリグリセリドの他、任意に部分グリセリド、脂肪酸、抗酸化剤、乳化剤、水などの溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、XXX型トリグリセリドの全質量を100質量%とした場合、0〜5質量%、好ましくは0〜2質量%、より好ましくは0〜1質量%である。
【0040】
上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料は、成分が複数含まれる場合、任意に混合してもよい。混合は、均質な反応基質が得られる限り公知のいかなる混合方法を用いてもよいが、例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー等で行うことができる。
当該混合は、必要に応じて加熱下で混合してもよい。加熱は、後述の工程(b)における加熱温度と同程度であることが好ましく、例えば、50〜120℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは70〜90℃、さらに好ましくは80℃で行われる。
【0041】
(b)溶融状態の前記油脂組成物を得る工程
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で準備されたXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料は、準備された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、準備された時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物原料を得る。
ここで、油脂組成物原料の加熱は、上記油脂組成物原料中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70〜200℃、好ましくは、75〜150℃、より好ましくは80〜100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.1〜3時間、好ましくは0.3〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間継続することが適当である。
【0042】
(d)溶融状態の油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(a)または(b)で準備された溶融状態のXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料は、さらに冷却固化されて、β型油脂を含有し、その粒子形状が板状である粉末油脂組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物原料を冷却固化」するためには、冷却温度の上限値として、溶融状態の油脂組成物原料を、当該油脂組成物原料に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度に保つことが必要である。「油脂組成物原料に含まれる油脂成分のβ型油脂の融点より低い温度」とは、例えば、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、β型油脂の融点は74℃であるので(表1)、当該融点より1〜30℃低い温度(即ち44〜73℃)、好ましくは当該融点より1〜20℃低い温度(即ち54〜73℃)、より好ましくは当該融点より1〜15℃低い温度(即ち59〜73℃)、特に好ましくは、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃または10℃低い温度である。
より好ましくは、β型油脂を得るためには、冷却温度の下限値として、以下の式から求められる冷却温度以上に保つことが適当である。
冷却温度(℃) = 炭素数x × 6.6 ― 68
(式中、炭素数xは、油脂組成物原料中に含まれるXXX型トリグリセリドの炭素数x)
このような冷却温度以上とするのは、XXX型トリグリセリドを含有するβ型油脂を得るために、当該油脂の結晶化の際、冷却温度をβ型油脂以外のα型油脂やβ’型油脂が結晶化しない温度に設定する必要があるためである。冷却温度は、主にXXX型トリグリセリドの分子の大きさに依存するので、炭素数xと最適な冷却温度の下限値との間には一定の相関関係があることが理解できる。
例えば、油脂組成物原料に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドである場合、冷却温度の下限値は50.8℃以上となる。従って、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドの場合、「溶融状態の油脂組成物原料を冷却固化」する温度は、50.8℃以上72℃以下がより好ましいこととなる。
また、XXX型トリグリセリドが2種以上の混合物である場合は、炭素数xが小さい方の冷却温度に合わせてその下限値を決定することができる。例えば、油脂組成物原料に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が16のパルミチン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドと炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドとの混合物である場合、冷却温度の下限値は小さい方の炭素数16に合わせて37.6℃以上となる。
【0043】
別の態様として、上記冷却温度の下限値は、XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料の、当該β型油脂に対応するα型油脂の融点以上の温度であることが適当である。例えば、油脂組成物原料に含まれるXXX型トリグリセリドが、炭素数が18のステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドである場合、当該ステアリン酸残基を3つ有するXXX型トリグリセリドのα型油脂の融点は55℃であるから(表1)、かかる場合の「溶融状態の油脂組成物原料を冷却固化」する温度は、55℃以上72℃以下が好ましいこととなる。
【0044】
さらに別の態様として、溶融状態にあるXXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料の冷却は、例えばxが10〜12のときは最終温度が、好ましくは−2〜46℃、より好ましくは12〜44℃、さらに好ましくは14〜42℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが13または14のときは、好ましくは24〜56℃、より好ましくは32〜54℃、さらに好ましくは40〜52℃であり、xが15または16のときは、好ましくは36〜66℃、より好ましくは44〜64℃、さらに好ましくは52〜62℃であり、xが17または18のときは、好ましくは50〜72℃、より好ましくは54〜70℃、さらに好ましくは58〜68℃であり、xが19または20のときは、好ましくは62〜80℃、より好ましくは66〜78℃、さらに好ましくは70〜77℃であり、xが21または22のときは、好ましくは66〜84℃、より好ましくは70〜82℃、さらに好ましくは74〜80℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは6時間以上であって、好ましくは2日間以下、より好ましくは24時間以下、さらに好ましくは12時間以下、静置することが適当である。
【0045】
(c)粉末生成促進工程
さらに、工程(d)の前、上記工程(a)または(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物原料に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)および/または(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。これらの任意工程(c1)〜(c3)は、いずれか単独で行ってもよいし、複数の工程を組み合わせて行ってもよい。ここで、工程(a)または(b)と工程(d)との間とは、工程(a)または(b)中、工程(a)または(b)の後であって工程(d)の前、工程(d)中を含む意味である。
シーディング法(c1)およびテンパリング法(c2)は、本発明の粉末油脂組成物の製造において、溶融状態にある油脂組成物原料をより確実に粉末状とするために、最終温度まで冷却する前に、溶融状態にある油脂組成物原料を処置する粉末生成促進方法である。ここで、シーディング法(c1)とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物原料の冷却時に少量添加して、粉末化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物原料に、当該油脂組成物原料中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物原料の冷却時、当該油脂組成物原料の温度が、例えば、最終冷却温度±0〜+10℃、好ましくは+5〜+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物原料100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部添加することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
また、テンパリング法(c2)とは、溶融状態にある油脂組成物原料の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5〜20℃低い温度、好ましくは7〜15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間程度冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
さらに、予備冷却法(c3)とは、前記工程(a)または(b)で得られた溶融状態の油脂組成物原料を、工程(d)にて冷却する前に、前記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を準備した時の温度と前記油脂組成物原料の冷却時の冷却温度との間の温度で一旦冷却する方法、言い換えれば、工程(a)または(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。(c3)予備冷却法に続いて、工程(d)の油脂組成物原料の冷却時の冷却温度で冷却することが行われる。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2〜40℃高い温度、好ましくは3〜30℃高い温度、より好ましくは4〜30℃高い温度、さらに好ましくは5〜10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の粉末化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
【0046】
(e)固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記XXX型トリグリセリドを含む油脂組成物原料を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物原料よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
なお、該固形物を公知の粉砕加工手段により粉砕してもよい。このような粉砕加工手段の一例としては、ハンマーミル、カッターミル等が挙げられる。
【0047】
<含気泡油脂組成物の製造方法>
本発明の含気泡油脂組成物は、本発明の粉末油脂組成物を、好ましくは0.01〜10質量%含有する。本発明の含気泡油脂組成物に含まれる、粉末油脂組成物の含有量は、より好ましくは0.03〜8質量%であり、さらに好ましくは0.08〜6質量%である。本発明の含気泡油脂組成物に含まれる粉末油脂組成物の含有量が上記範囲内にあると、含気泡油脂組成物の保形性が良好であり、口どけがよい。
【0048】
本発明の含気泡油脂組成物の製造方法は、本発明の粉末油脂組成物を含み、起泡化された状態にできる方法であれば、特に限定されない。しかし、好ましい態様の1つとしては、起泡化前のベースとなる油脂組成物(以下、ベース油脂組成物ともいう)に、粉末油脂組成物を混合ないし添加し、起泡化する方法が挙げられる。ベース油脂組成物と粉末油脂組成物とを混合する割合は、上述のとおり、好ましくは質量比で90:10〜99.99:0.01である。
【0049】
上記ベース油脂組成物は、食品の場合、例えば、チョコレート、マーガリン、ショートニング、ホイップクリーム、およびアイスクリームミックスなどが挙げられる。ベース油脂組成物に、粉末油脂組成物を添加して起泡化する際に、しばしば、糖類、香料、呈味材などその他の成分が一緒に添加されるが、粉末油脂組成物以外の添加物は、ベース油脂組成物の一部と見なせばよい。また、粉末油脂組成物のベース油脂組成物への分散性を良くするために、粉末油脂組成物をその他の成分に予め分散させてもよい。
【0050】
ベース油脂組成物と粉末油脂組成物の混合物の起泡化は、従来公知の方法を適用すればよい。例えば、ハンドミキサー、縦型ミキサー、連続ラインミキサー、ホイッパー、およびビーターなどの機器を用いて、混合物を起泡化すればよい。起泡化の条件および混合物の起泡化度(オーバーランなど)は、具体的な含気泡油脂組成物の特質に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
<含気泡油脂組成物の用途・特性>
本発明の含気泡油脂組成物は、食品の場合、ホイップドチョコレート、バタークリーム、ホイップドクリーム、およびアイスクリームなどが挙げられる。当該食品は、そのまま食されてもよい。また、パン、菓子、および冷菓などに、サンド、トッピング、およびコーティングなどされた複合食品として、食されてもよい。本発明の含気泡油脂組成物は、良好な保形性および口どけを有し、また、副次的な効果として、特に水中油型乳化物が起泡化された含気泡油脂組成物の場合、向上した瑞々しさを有する。
【実施例】
【0052】
次に、例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。しかし、本発明はこれらに何ら制限されない。また。以下において「%」は、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0053】
<分析方法>
・トリグリセリド組成
ガスクロマトグラフィー分析条件
DB1-ht(0.32mm×0.1μm×5m)Agilent Technologies社(123-1131)
注入量 :1.0μL
注入口 :370℃
検出器 :370℃
スプリット比 :50/1 35.1kPa コンスタントプレッシャー
カラムCT :200℃(0min hold)〜(15℃/min)〜370℃(4min hold)
・X線回折測定
X線回折装置UltimaIV(株式会社リガク社製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、Cu用フィルタ使用、出力1.6kW、操作角0.96〜30.0°、測定速度2°/分の条件で測定した。この測定により、4.6Å付近のピークのみを有し、4.1〜4.2Å付近のピークを有しない場合は、油脂成分のすべてがβ型油脂であると判断した。
なお、上記X線回析測定の結果から、ピーク強度比=[β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å))/(α型の特徴的ピークの強度(2θ=21°(4.2Å))+β型の特徴的ピークの強度(2θ=19°(4.6Å)))]をβ型油脂の存在量を表す指標として測定した。
【0054】
・ゆるめ嵩密度
実施例などで得られた粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度(g/cm3)は、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めた。
・アスペクト比
走査型電子顕微鏡S-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により直接観察し、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製 Mac−View)を用いて、任意に選択した粒子について、その長軸方向の長さおよび短軸方向の長さを計測し、計測した個数の平均値として測定した。
・平均粒径
粒度分布測定装置(日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201,ISO9276-1)に基づいて測定した。
【0055】
<粉末油脂組成物の調製>
(1)粉末油脂組成物A
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をハンマーミルで粉砕することで粉末状の油脂(融点:67.3℃、ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径14.4μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。これを粉末油脂組成物Aとした。
【0056】
<含気泡油脂組成物の調製および評価>
[ホイップドクリーム]
以下の製造手順1〜6により、表2に示す配合に従って、ベース油脂組成物としてホイップクリームを製造した。5℃で1日エージングした後、100質量部のホイップクリームに対して7質量部の砂糖と、上記粉末油脂組成物Aを、0、0.04、0.2、および0.4質量部加えて、ホバートミキサーを用いて起泡化し、オーバーランが約170である、例1〜例4のホイップドクリームを得た。
製造手順
1.水相原料および油相原料をそれぞれ別々の容器を用いて、70℃で加熱混合溶解した。
2.1で調製した水相原料を撹拌しながら、そこに1で調製した油相原料を徐々に加え混合した。
3.80度まで加熱して殺菌した。
4.ホモミキサーにて予備乳化を行った(4000rpm、10分)
5.ホモジナイザーを用いてホモジナイズした(1段目50kg/cm、2段目10kg/cm)。
6.氷水浴を用いて5℃まで冷却して、ホイップクリームを得た。
【0057】
【表2】
*1;日清オイリオグループ株式会社製
【0058】
上記で調製された例1〜4のホイップドクリームについて、保形性と口どけの評価を、以下の基準に従って行った。結果を表3に示す。

・保形性
ホイップドクリームを絞袋に入れ、絞りたてと、絞った後20℃で24時間保存後のクリームの外観を、以下の基準で評価した。
◎:エッジがシャープに立っており、非常に良好
○:エッジが立っており、良好
△:ふつう
▲:ややダレがみられ、不良
×:ダレがみられ、不良

・口どけ
パネラー5名により、以下の基準に従って、総合的に評価した。
◎:口どけがよく、さらに瑞々しさが感じられ、非常に良好
○:口どけがよく、良好
△:ふつう
▲:やや口どけが悪く、不良
×:口どけが悪く、不良
【0059】
【表3】
*1;別途添加の砂糖は、ベース油脂組成物(ホイップクリーム)に含める
【0060】
[バタークリーム]
ベース油脂組成物として、市販のマーガリン(商品名:ロイヤルシャープ、日清オイリオグループ株式会社製)を使用した。そして、表4の構成に従って、例5〜例7のバタークリームを調製した。すなわち、マーガリンと粉末油脂組成物Aを混合し、縦型ミキサーを使用して起泡化した後、液糖を加えてさらに攪拌し、比重が約0.8のバタークリームを得た。
【0061】
上記で調製された例5〜7のバタークリームについて、保形性と口どけの評価を、以下の基準に従って行った。結果を表4に示す。

・保形性
バタークリームを絞袋に入れ、絞りたてと、絞った後30℃で24時間保存後のクリームの外観を、以下の基準で評価した。
◎:エッジが立ち、クリームに安定感があり、非常に良好
○:エッジが立っており、良好
△:ふつう
▲:水の分離がみられ、不良
×:水の分離がみられ、形状が崩れ、非常に不良

・口どけ
パネラー5名により、以下の基準に従って、総合的に評価した。
◎:口どけがよく、さらに瑞々しさが感じられ、非常に良好
○:口どけがよく、良好
△:ふつう
▲:やや口どけが悪く、不良
×:口どけが悪く、不良
【0062】
【表4】
*1;マーガリンに液糖を含め、ベース油脂組成物とする
【0063】
さらに、本発明の粉末油脂組成物の製造実施例を以下に示す。これらの製造実施例により得られた粉末状の組成物も、前記実施例同様に、含気泡油脂組成物用の粉末油脂組成物として使用することができる。
(製造実施例1):x=16
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比:2.0、平均粒径:119μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
【0064】
(製造実施例2):x=16
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径99μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
【0065】
(製造実施例3):x=16、(c2)テンパリング法
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)15gを、80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、30℃恒温槽にて0.01時間冷却した後、60℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径87μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0066】
(製造実施例4):x=16、(c1)シーディング法
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)15gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて品温が60℃になるまで冷却した後、トリパルミチン油脂粉末を原料油脂に対して、0.1質量%添加し、60℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径92μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0067】
(製造実施例5):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:99.6質量%、トリステアリン、シグマアルドリッチ製)3gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、60℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径30μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.93)を得た。
【0068】
(製造実施例6):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径31μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
【0069】
(製造実施例7):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径54μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0070】
(製造実施例8):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径60μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.91)を得た。
【0071】
(製造実施例9):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:84.1質量%、日清ひまわり油(S)(ハイオレイックヒマワリ油)、日清オイリオグループ株式会社製)を定法により完全水素添加処理を行い水素添加物(XXX型:83.9質量%)を得た。得られたハイオレイックヒマワリ油極度硬化油25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径48μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0072】
(製造実施例10):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)18.75gと、別の1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)6.25gを混合し、原料油脂とした(XXX型:53.6質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径63μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.78)を得た。なお、パーム極度硬化油は、XXX型トリグリセリドの含量が極めて少ないので、希釈成分として使用した(以下、同様)。
【0073】
(製造実施例11):x=18、(c1)シーディング法
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、70℃恒温槽にて品温が70℃になるまで冷却した後、トリステアリン油脂粉末を原料油脂に対して、0.1質量%添加し、70℃恒温槽にて12時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径36μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
【0074】
(製造実施例12):x=18、(c2)テンパリング法
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)15gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、50℃恒温槽にて0.1時間冷却した後、65℃恒温槽にて6時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径50μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
【0075】
(製造実施例13):x=18、(c2)テンパリング法
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)15gを、80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて0.01時間冷却した後、65℃恒温槽にて2時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径52μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0076】
(製造実施例14):x=18、(c3)予備冷却法
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、原料油脂を70℃になるまで70℃の恒温槽で保持し、65℃恒温槽にて8時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径60μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.89)を得た。
【0077】
(製造実施例15):x=20
1位〜3位にアラキジン酸残基(炭素数20)を有するトリグリセリド(XXX型:99.5質量%、トリアラキジン、東京化成工業株式会社製)10gを90℃にて0.5時間維持して完全に融解し、72℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径42μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.92)を得た。
【0078】
(製造実施例16):x=22
1位〜3位にベヘン酸残基(炭素数22)を有するトリグリセリド(XXX型:97.4質量%、トリベヘニン、東京化成工業株式会社製)10gを90℃にて0.5時間維持して完全に融解し、79℃恒温槽にて12時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させ、結晶化を完了させた後、室温(25℃)状態まで冷却した。得られた固形物をほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比2.0、平均粒径52μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.93)を得た。
【0079】
(製造実施例17):x=16、18
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)12.5gと、1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:96.0質量%、トリステアリン、東京化成工業株式会社)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:93.8%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.2g/cm3、アスペクト比1.6、平均粒径74μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.90)を得た。
【0080】
(製造実施例18):x=16、18
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)12.5gと、1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:75.3%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて16時間冷却し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、アスペクト比1.4、平均粒径77μm、X線回折測定回析ピーク:4.6Å、ピーク強度比:0.88)を得た。
【0081】
(製造比較例1):x=16
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:89.7質量%、トリパルミチン、東京化成工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、25℃恒温槽にて4時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.1Å、ピーク強度比:0.10)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
【0082】
(製造比較例2):x=16、18
1位〜3位にパルミチン酸残基(炭素数16)を有するトリグリセリド(XXX型:69.9質量%、ハードパームステアリン、日清オイリオグループ株式会社製)12.5gと、1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:39.6質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて12時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.2Å、ピーク強度比:0.12)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
【0083】
(製造比較例3):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:79.1質量%、菜種極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)25gを80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、40℃恒温槽にて3時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.1Å、ピーク強度比:0.11)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
【0084】
(製造比較例4):x=18
1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:66.7質量%、大豆極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gと、別の1位〜3位にステアリン酸残基(炭素数18)を有するトリグリセリド(XXX型:11.1質量%、パーム極度硬化油、横関油脂工業株式会社製)12.5gを混合し、原料油脂とした(XXX型:39.7質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、55℃恒温槽にて12時間冷却したところ、完全に固化し(X線回折測定回析ピーク:4.2Å、ピーク強度比:0.12)、粉末状の結晶組成物には至らなかった。
【0085】
上記製造実施例および製造比較例の結果を表5にまとめる。
【0086】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7