特許第6861550号(P6861550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861550水素混合ガス生成装置、及び水素混合ガスの生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861550
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】水素混合ガス生成装置、及び水素混合ガスの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20210412BHJP
   A61M 16/10 20060101ALI20210412BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20210412BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 7/02 20060101ALI20210412BHJP
   A61M 37/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   C25B9/00 A
   A61M16/10 Z
   C25B1/10
   C25B15/08 302
   B01J7/02 Z
   !A61M37/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-59195(P2017-59195)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-162484(P2018-162484A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西脇 良樹
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−180177(JP,A)
【文献】 特開2009−228044(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0374243(US,A1)
【文献】 特許第5091364(JP,B1)
【文献】 特開昭55−161077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−9/20
C25B 13/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解原水を電気分解することによって発生する水素ガスと、少なくとも酸素ガスを含む希釈ガスとを混合して、水素混合ガスを生成する水素混合ガス生成装置であって、
前記希釈ガスを前記水素ガスに導入する希釈ガス導入機構と、
前記水素ガスと前記希釈ガスとを混合して、前記水素混合ガスを生成する水素混合ガス生成機構と、
前記水素混合ガス中の水素ガス濃度を測定する水素濃度計と;前記水素混合ガス中の酸素ガス濃度を測定する酸素濃度計と;を有する濃度測定機構と、
前記水素混合ガスを供給対象へ投与する水素混合ガス供給機構と、
前記電解原水を電気分解することによって発生する酸素ガスの濃度を前記水素ガス濃度から算出し、下式(1)を用いて前記希釈ガス中の酸素ガスの流量を調整する制御機構と、
を備え、
前記希釈ガス導入機構は、酸素ガス供給手段と;窒素ガス供給手段と;前記酸素ガス供給手段から供給される酸素ガスの流量を調整する第1のマスフローコントローラと;前記窒素ガス供給手段から供給される窒素ガスの流量を調整する第2のマスフローコントローラと;を有し、
水素混合ガス生成機構が単槽式の電解槽を有し、前記電解槽内の液相に少なくとも一対の電極板が浸漬され、
前記水素混合ガス供給機構が、前記水素混合ガスの流量を測定するマスフローメーターまたは流量調整機能をもつ第3のマスフローコントローラを有し、
前記制御機構が、前記マスフローメーター又は前記第3のマスフローコントローラ、前記第1のマスフローコントローラ、前記第2のマスフローコントローラ、前記水素濃度計及び前記酸素濃度計と電気的に接続されている、水素混合ガス生成装置。
(希釈ガス中の酸素ガスの流量)[L/min]=((所望する酸素濃度)[%]−(測定された水素ガス濃度)[%]/2)/100×(所望する水素混合ガスの流量)[L/min]・・・式(1)
【請求項2】
前記電解槽が、前記電解槽内の気相に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口と、前記電解槽内の気相から水素混合ガスを導出する水素混合ガス導出口とを有する、請求項1に記載の水素混合ガス生成装置。
【請求項3】
前記希釈ガス導入口が、前記水素混合ガス導出口よりも、電解槽内の気相と液相との界面寄りに設けられている、請求項2に記載の水素混合ガス生成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水素混合ガス生成装置を用いた水素混合ガスの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素混合ガス生成装置、及び水素混合ガスの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品等の産業分野で、生体内のヒドロキシラジカルを無力化する等の水素ガスが有する機能について着目されている。そこで、水素ガスのかかる機能を利用するため、水素ガスと酸素とを混合した水素混合ガスを生成・供給する装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、隔膜によって、電解槽の内部と外部とが隔離され、かつ、電解槽中の気相が、一対の電極板によって陽極側の気相と陰極側の気相とに気密的に分離された電解槽を有する生体用水素ガス供給装置が開示されている。この生体用水素ガス供給装置は、電解槽の気相における所定の空間領域の水素ガス濃度を常に4体積%未満に維持することで、医療現場等で装置を使用する際の安全性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5091364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の生体用水素ガス供給装置は、電解槽の構造が、隔膜によって、陽極側の気相と陰極側の気相とが気密的に分離されており、陰極側で発生した水素ガスを希釈した後に、酸素ガスを別途供給して混合しているので、効率的に水素混合ガスを供給できる装置ではない。すなわち、特許文献1の生体用水素ガス供給装置は、陰極側で発生する水素ガスに、陽極側で発生する酸素ガスを電解槽の気相内にて直接混合することができず、効率的に水素混合ガスを供給できる装置ではない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、医療の現場等で、安全かつ効率的に水素混合ガスを生成することができる水素混合ガス生成装置、及び水素ガスの生成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 電解原水を電気分解することによって発生する水素ガスと、希釈ガスとを混合して、水素混合ガスを生成する水素混合ガス生成装置であって、単槽式の電解槽を備え、前記電解槽内の液相に少なくとも一対の電極板が浸漬されている、水素混合ガス生成装置。
[2] 前記電解槽が、前記電解槽内の気相に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口と、前記電解槽内の気相から水素混合ガスを導出する水素混合ガス導出口とを有する、[1]に記載の水素混合ガス生成装置。
[3] 前記希釈ガス導入口が、前記水素混合ガス導出口よりも、電解槽内の気相と液相との界面寄りに設けられている、[2]に記載の水素混合ガス生成装置。
[4] [1]乃至[3]のいずれか1項に記載の水素混合ガス生成装置を用いた水素混合ガスの生成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水素混合ガス生成装置、及び水素混合ガスの生成方法によれば、水素混合ガスを、安全かつ効率的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明を適用した実施形態に係る水素混合ガス生成装置の構成の一例を示す模式図である。
図2A図1中、水素混合ガス生成機構20の部分を拡大して示した図である。
図2B】水素混合ガス生成機構20の変形例の一例を示した図である。
図2C】水素混合ガス生成機構20の変形例の一例を示した図である。
図3】本発明を適用した実施形態に係る水素混合ガスの生成方法のフローチャートの一例の前段を示す図である。
図4】本発明を適用した実施形態に係る水素混合ガスの生成方法のフローチャートの一例の後段を示す図である。
図5】本発明を適用した実施形態に係る水素混合ガス生成装置の変形例の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した一実施形態の水素混合ガス生成装置、及び水素混合ガスの生成方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0011】
[水素混合ガス生成装置]
まず、本発明を適用した一実施形態である水素混合ガス生成装置1の構成について説明する。
図1は、水素混合ガス生成装置1の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、水素混合ガス生成装置1は、希釈ガス導入機構10と、水素混合ガス生成機構20と、濃度測定機構30と、制御機構40と、水素混合ガス供給機構50とを備え概略構成されている。
以下に水素混合ガス生成装置1の各構成要素に関して詳しく説明を行う。
【0012】
希釈ガス導入機構10が有する酸素ガスボンベ(酸素ガス供給手段)11は酸素ガス供給手段の一例であって、その他の酸素ガス供給手段を採用したものであってもよい。例えば、随時、酸素ガスを発生する装置であってもよい。その場合は、液体ガスの気化装置、PSA式酸素ガス発生装置、膜式酸素ガス発生装置等を採用することができる。酸素ガス発生装置を使用する場合は、酸素ガス以外の副生成ガスが少ないものを選択することが好ましい。空気中の酸素ガス濃度は、約21%であるため、酸素ガス供給手段として、コンプレッサ一等で加圧した空気を使用してもよい。
【0013】
同様に、窒素ガスボンベ(窒素ガス供給手段)12は、窒素ガス供給手段の一例であって、その他の窒素ガス供給手段を採用したものであってもよい。例えば、随時、窒素ガスを発生する装置であってもよく、その場合は液体ガスの気化装置、PSA式窒素ガス発生装置、膜式窒素ガス発生装置等を採用することができる。これらの装置を使用する場合は、窒素ガス以外の副生成ガスが少ないものを選択することが好ましい。
なお、窒素ガスの代わりに、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びキセノンガス等を利用することができる。また、上述のように酸素ガス供給手段として、コンプレッサ一等で加圧した空気を用いた場合は、窒素ガス供給手段を略すことができる。
【0014】
医療の現場で使用する観点から、水素混合ガス生成装置1は、軽量でかつ移動可能であることが望ましい。この場合、酸素ガス供給手段、及び窒素ガス供給手段の形態は、ボンベであることが好ましく、これらのボンベは、それぞれ10L以下の容器からなることがより好ましい。なお、装置の小型化の観点から、あらかじめ濃度が調節された窒素ガスと酸素ガスとの二種類のガスを含む混合ガスボンベを希釈ガスの供給源として使用してもよい。
各ガスの供給経路である配管13a、13bには、マスフローコントローラ14a、14bがそれぞれ設けられている。
【0015】
本実施形態において、マスフローコントローラ14a、14bは制御機構40と電気的に接続されている。そのため、マスフローコントローラ14a、14bは、酸素ガスボンベ11、窒素ガスボンベ12から供給される各ガスの流量を適宜調整することができる。
【0016】
希釈ガス導入機構10は、希釈ガス混合器15を有している。希釈ガス混合器15は、酸素ガスを供給する経路である配管13aと、窒素ガスを供給する経路である配管13bとの合流する位置に設けられている。希釈ガス混合器15は、酸素ガスボンベ11、及び窒素ガスボンベ12から供給される各ガスを混合し、希釈ガスを生成する。
希釈ガス混合器15の具体例としては、プレート型の混合器、アスピレーター型の混合器、スタティックミキサ、混合タンク等が挙げられるがこれらに限定されない。なお、希釈ガス混合器15として、T型継手等を用いてもよい。
【0017】
希釈ガス混合器15から希釈ガスの導入対象への導入経路である配管13cは、水素混合ガス生成機構20に接続されている。
配管13a、13b、13cは、ガスの気密性が高く、軽量かつ高強度であることが好ましい。配管13a、13b、13cに用いることができる基材としては、オーステナイト系ステンレス、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリアミド等が挙げられるが、これに限定されない。
なお、希釈ガス混合器15は、後述する水素混合ガス生成機構20の構成要素の一つとして構成されてもよい。すなわち、希釈ガス混合器15は水素混合ガス生成機構20に設けられてもよい。この場合、配管13cは省略され、配管13a、13bの各配管を介して、酸素ガス、及び窒素ガスが水素混合ガス生成機構20に導入される。
【0018】
図2Aは、図1中、水素混合ガス生成機構20の部分を拡大して示した図である。図2Aに示すように、水素混合ガス生成機構20は、単槽式の電解槽21と、電流制御装置22とを備え、前記電解槽内の液相に少なくとも一対の電極板23,24が浸漬されている。また、電解槽21には、前記電解槽内の気相に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口25と、前記電解槽内の気相から水素混合ガスを導出する水素混合ガス導出口26とが設けられている。
【0019】
水素混合ガス生成機構20は、電解原水27を電気分解することによって電解槽21内の液相から発生する水素ガスと、希釈ガス導入機構10から導入される希釈ガスとを混合して、水素混合ガスを生成する。電解原水27は、電気分解によって陽極の近傍から酸素ガスを、陰極の近傍から水素ガスを、それぞれ発生させることができる液体である。電解原水27としては、水道水、浄水、精製水、蒸留水などが挙げられる。これらの中でも、発生する水素ガスに不純物が混入することを防止する観点から、精製水、及び蒸留水が好ましい。
【0020】
電解槽21には水の電気分解を行うために、電解原水27が導入されている。電解槽21内の上部には気相が形成され、電解槽21の下部には電解原水27からなる液相が形成されている。なお、電解槽21内の気相は外気と遮断されており、気密性が保たれている。
【0021】
電解槽21は、電解槽21内の気相に希釈ガスを導入する希釈ガス導入口25と、電解槽21内の気相から水素混合ガスを導出する水素混合ガス導出口26とを有する。希釈ガスは、希釈ガス混合器15から配管13c、及び希釈ガス導入口25を介して、電解槽21内の気相に導入される。導入された希釈ガスは、電解槽21内の気相にて、電気分解によって発生する水素ガス、及び酸素ガスと混合される。
安全性を確保する観点から、希釈ガス導入口25は、水素混合ガス導出口26よりも、電解槽21内の気相と液相との界面寄りに設けられていることが好ましい。
【0022】
電解槽21には、電解槽21内の気相から水素混合ガスを導出する水素混合ガス導出口26が設けられている。水素混合ガスは、水素混合ガス導出口26と接続する導出配管28を介して、電解槽21内の気相から導出される。
【0023】
電解槽21内の電解原水27には一対の電極板23,24が浸漬されている。
電極板23,24としては、チタン板等の基材表面が、白金、イリジウム、及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの貴金属で被覆されているものを用いることができるが、これに限定されない。
電解槽21内の電解原水27には一対の電極板23,24と電極板23,24に挟まれた固体電解質膜29が浸漬されている。固体電解質膜29が電極板23,24に挟まれていれば、固体電解質29の内部をHイオンが移動することができ、電気分解の効率が優れやすく、電解原水が純水であっても電気分解を行うことができる。
固体電解質膜29としては、プロトン導電性のフッ素樹脂系イオン交換膜等が挙げられるが、これに限定されず、水素ガスの発生を目的とする電気分解で用いられる公知の材料を使用できる。
【0024】
水素混合ガス生成機構20に備えられる電解槽21は、単槽式の電解槽である。単槽式の電解槽とは、陽極側の気相と陰極側の気相とが気密的に分離されておらず、陽極で発生する酸素ガスと陰極で発生する水素ガスとを混合することできる電解槽である。
多槽式の電解槽を有する従来の水素混合ガス生成装置にあっては、陽極側の気相と陰極側の気相とが気密的に分離されており、陽極で発生する酸素ガスは大気等へ放出され、陰極で発生する水素ガスのみが利用される。
本実施形態のように、電解槽21として単槽式の電解槽を採用すれば、陽極で発生する酸素ガスを有効に利用することができる。さらには電解槽の製造、及び維持にかかるコスト等が低減される。
【0025】
単槽式の電解槽21の形状としては、円筒状、楕円筒状等の有底筒状、四角柱、六角柱等の多角柱状、円錐、楕円錐、及び多角錐等から錐体部分を除いてなる錐台状、筒状または多角柱形状であってその上部の内径が下部の内径より小さい形状、ならびに筒状又は多角柱形状であってその底面、または天井面の少なくとも一方が屈曲した形状等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも希釈ガスによって、液相から発生する水素ガス濃度を希釈する際の希釈効率の観点から、電解槽21の形状は錐台状、または筒状または多角柱形状であってその上部の内径が下部の内径より小さい形状であることが好ましい。電解槽21がこれらの形状であれば、電解槽21内に形成される液面の表面積を小さくしやすく、当該液面から発生する水素ガスの濃度が効率的に希釈される。そのため電解槽21内の水素ガス濃度が4体積%未満に維持されやすくなる。なお、上記の電解槽21の形状として挙げた例示はあくまでも一例である。電解槽21の形状は、円筒状の容器であって、その上部と下部から中心部にかけて、円筒の太さが細くなるように設計された瓢箪型の形状であってもよい。
なお、電解槽21は気相部分に水素混合ガスの混合効率を上げる邪魔板等を備えていてもよい。
【0026】
本実施形態では、図2Bに示すように、電解槽21b内の気相の体積が、液相の体積より小さくてもよい。また、本実施形態では、図2Cに示すように、気相内の水素ガスの濃度を効果的に希釈する観点から、配管13cが、電解槽21c内の気相の中央部の液面付近まで挿入、及び伸長されていてもよい。この場合、装置を使用する際の安全性が確保されるほか、生成される水素混合ガスが均一に混合され、希釈ムラを防ぐことができ、水素混合ガスの品質が向上するため好ましい。
【0027】
電流制御装置22は、電極板23,24に流れる電流を制御する。本実施形態では、電流制御装置22は、制御機構40と電気的に接続されている。そのため、電極板23,24に流れる電流値を適宜制御することができる。
電流制御装置22は、電極板23,24に流れる電流値を任意の値に制御できる機能を有するものであれば特に限定されず、具体的には、安定化電源、変流器、及び定電流発生器等が挙げられる。
なお、図1には図示しないが、水素混合ガス生成機構20は、電解槽21の水面を測定する水面計、電解原水27の温度を測定する水温計、必要に応じて電解原水27を電解槽21に補給する電解原水用タンク等を有していてもよい。
【0028】
濃度測定機構30は、水素濃度計31と、酸素濃度計32と、気液分離器33とを備えている。上述の水素濃度計31、及び酸素濃度計32は、水素ガス及び酸素ガスを含む水素混合ガス中の水素ガス濃度、及び酸素ガス濃度を各々測定する。水素混合ガスは、配管34aを介して、導出配管28から各濃度測定器に導入される。
本実施形態では、水素濃度計31と、酸素濃度計32とは、制御機構40と電気的に接続されている。そのため、各濃度計で測定された各ガスの濃度値は制御機構40に送信される。なお、各濃度計で測定が行われた後の水素混合ガスは、配管34bを介して、導出配管28に再導出される。
【0029】
水素濃度計31は、水素ガスの濃度を測定できるものであればよく、超音波式水素濃度計、接触燃焼式水素濃度計、FID式水素濃度計、半導体センサー式水素濃度計、及び光波干渉式水素濃度計等を使用することができる。また、酸素濃度計32は、酸素ガスの濃度を測定できるものであればよく、超音波式水素濃度計、ガルバニ電池式酸素濃度計、ジルコニア式酸素濃度計、光波干渉式酸素濃度計、及び隔膜ガルバニ電池式の酸素ガス濃度計等を使用することができる。
なお、水素濃度計31と酸素濃度計32が一体となったものとして、ガス分析器を用いてもよい。ガス分析器として、モレキュラーシーブス等の吸着剤を使用した熱電導度検出器型のガスク口マトグラフ(GC‐TCD)を用いることができる。
【0030】
気液分離器33は、水素混合ガス中に含まれる水分を除去する。水素混合ガス生成装置1で生成される水素混合ガスには、電解原水由来の水分が混入することがある。水分が混入した水素混合ガスを、各濃度計に導入して測定を行うと、各濃度計内のセンサーの劣化等が進行しやすい。例えば、水素濃度計31として接触燃焼式水素濃度計、FID式水素濃度計、半導体センサー式水素濃度計、又は光波干渉式水素濃度計を、酸素濃度計32としてガルバニ電池式酸素濃度計、ジルコニア式酸素濃度計、光波干渉式酸素濃度計、又は隔膜ガルバニ電池式酸素濃度計を用いたときに前述の劣化の問題が生じる。そこで各濃度計の一次側に気液分離器33を設置すれば、水分を除去でき、各濃度計の劣化を防ぐことができる。
気液分離器33としては水素混合ガス中の水分を除去できるものであれば特に限定されず、ドレントラップ、ミストセパレータ、ウォータセパレータ、加熱式ドライアー、及び活性炭式のエアードライアー等が挙げられる。なお、気液分離器33は、生産コストの観点から、除去した水分を、再利用するために電解槽21に送給し得るようにされていてもよい。
【0031】
制御機構40は、濃度測定機構30で測定した水素ガス濃度、及び酸素ガス濃度の各測定値を基に、マスフローコントローラ14a、14b、及び電流制御装置22に制御信号を出力し、生成される水素混合ガス中の水素ガス濃度、及び酸素ガス濃度を制御する。制御機構40は、後述するマスフローメーター51で測定した水素混合ガスの流量を基に、マスフローコントローラ14a、14bに制御信号を出力し、各希釈ガスの流量を制御することで水素混合ガスの流量を制御する。
制御機構40としては演算機能を有する制御装置であれば特に規定せず、たとえばシーケンサー、CPU等があげられる。なお、制御機構40は電気的に接続される各器機の測定値を受信する信号の受信部と、各器機に制御信号を出力する出力部とに分割して構成されてもよい。
【0032】
水素混合ガス供給機構50は、水素混合ガスを供給対象へ投与する。
水素混合ガス供給機構50は、マスフローメーター51、供給配管52を備える。マスフローメーター51は、その一次側が導出配管28と接続されており、その二次側が供給配管52に接続されている。
マスフローメーター51は、導出配管28内を流れる水素混合ガスの流量を測定する。マスフローメーター51は、制御機構40と電気的に接続されている。マスフローメーター51は、混合ガスの流量を測定する機能を有していれば、特に制限されない。たとえば、水素混合ガスの流量を測定する機能を有するフロート式流量計、容積式流量計等を用いることができる。マスフローメーター51に代えて、水素混合ガスの流量調整機能をもつマスフローコントローラを用いてもよい。
なお図1に図示しないが、水素混合ガス供給機構50には、余剰ガスを排出する排出ライン、回路内の圧力を測定する圧力計、患者へ投与するガス温度を測定する温度計等が設けられてもよい。また、図1には図示しないが、水素混合ガスの圧力を測定する圧力計等が、配管28又は配管52に設けられてもよい。
【0033】
[水素混合ガスの生成方法]
次に、上述した水素混合ガス生成装置1を用いた、本実施形態の水素混合ガスの生成方法の一例について、説明する。
本実施形態の水素混合ガスの生成方法は、上述した構成を有する水素混合ガス生成装置1を用いた水素混合ガスの生成方法である。以下、図3、及び図4を参照して、本実施形態の水素混合ガスの生成方法について、具体的に説明する。なお、図3中、ステップS9の次に示す丸印で囲んだAは、図4中、ステップS10の前に示す丸印で囲んだAと同一の記号であり、ステップS9からステップS10にかけて、一連の操作は連続していることを示す。
【0034】
(ステップS1、ステップS2、及びステップS3)
水素混合ガス生成装置1の電源を入れ(ステップS1)、制御機構40で、所望する水素混合ガスの水素ガス濃度、酸素ガス濃度、及び供給時における流量を設定する(ステップS2)。設定後、水素混合ガス生成装置1の運転を開始し、酸素ガス、及び窒素ガスの供給を開始する(ステップS3)。水素ガス濃度の設定値は4体積%未満に設定する。
【0035】
(ステップS4)
濃度測定機構30は、希釈ガス混合器15で混合され、電解槽21を通過して導出配管28に導出された希釈ガス中に含まれている酸素ガス濃度を酸素濃度計32によって測定する。
【0036】
(ステップS5)
制御機構40は、ステップS4で測定された酸素ガス濃度が設定値となっているかを判別する。ここで、制御機構40は、酸素ガス濃度が設定値となっていると判別した場合(ステップS5;YES)には、ステップS6に処理を進める。一方、制御機構40は、酸素ガス濃度が設定値となっていないと判断した場合(ステップS5;NO)は、ステップS51の処理を経由して、ステップS4に処理を戻す。
【0037】
(ステップS51)
制御機構40は、ステップS4で測定された酸素ガス濃度と、ステップS5の判別結果とを基にマスフローコントローラ14aに信号を与え、配管13a内を流れる酸素ガスの流量を制御する。制御機構40は、酸素ガスの流量を制御した後、ステップS4に処理を戻す。
【0038】
(ステップS6)
水素混合ガス供給機構50は、ステップS5の処理が済んだ希釈ガスの流量をマスフローメーター51によって測定する。
【0039】
(ステップS7)
制御機構40は、ステップS6で測定された希釈ガスの流量が設定値となっているかを判別する。ここで、制御機構40は、希釈ガスの流量が設定値となっていると判別した場合(ステップS7;YES)には、ステップS8に処理を進める。一方、制御機構40は、水素混合ガスの流量が設定値となっていないと判断した場合(ステップS7;NO)は、ステップS71の処理を経由して、ステップS4に処理を戻す。
【0040】
(ステップS71)
制御機構40は、ステップS6で測定された希釈ガスの流量と、ステップS7の判別結果とを基にマスフローコントローラ14bに信号を与え、配管13b内を流れる窒素ガスの流量を制御する。制御機構40は、窒素ガスの流量を制御した後、ステップS4に処理を戻す。
【0041】
(ステップS8)
濃度測定機構30は、希釈ガス混合器15で混合され、電解槽21を通過して導出配管28に導出された希釈ガス中に含まれている水素ガス濃度を水素濃度計31によって測定する。
【0042】
(ステップS9)
制御機構40は、ステップS8で測定された水素ガス濃度が0となっているか否かを、または当該水素ガス濃度が規定値以下となっているか否かを判別する。ここでの規定値は、後述するステップS10にて、電解槽21内で電気分解を行う際の安全性が確保される値である。
制御機構40は、水素ガス濃度が0または規定値以下となっていると判別した場合(ステップS9;YES)には、ステップS10に処理を進める。一方、制御機構40は、水素ガス濃度が0となっていないと判断した場合(ステップS9;NO)、ステップS4に処理を戻す。
【0043】
(ステップS10)
制御機構40は、電流制御装置22に信号を与え、電極板23,24に通電を開始し、電解原水27の電気分解を開始する。電気分解によって発生した水素ガスは、酸素ガス濃度が設定値に制御された希釈ガスと電解槽21内で混合される。電解槽21内で生成された水素混合ガスは、導出配管28を介して、濃度測定機構30に供給される。なお、電極板23,24のどちらを陽極(陰極)とするかは、任意に選択される。
【0044】
(ステップS11)
濃度測定機構30は、ステップS10で生成される水素混合ガス中に含まれている水素ガス濃度を水素濃度計31によって測定する。
【0045】
(ステップS12)
制御機構40は、ステップS11で測定された水素ガス濃度が設定値となっているかを判別する。ここで、制御機構40は、水素ガス濃度が設定値となっていると判別した場合(ステップS12;YES)には、ステップS13に処理を進める。一方、制御機構40は、水素ガス濃度が設定値となっていないと判断した場合(ステップS12;NO)は、ステップS121の処理を経由して、ステップS11に処理を戻す。
【0046】
(ステップS121)
制御機構40は、ステップS11で測定された水素ガス濃度と、ステップS12の判別結果とを基に電流制御装置22に信号を与え、電極板23,24に流れる電流値を制御する。制御機構40は、電流値を制御した後、ステップS11に処理を戻す。
【0047】
より具体的には、制御機構40は、測定された水素ガス濃度が、設定値より低い場合には、電流制御装置22に、電極板23,24を流れる電流値を増加させるよう信号を与える。一方、測定された水素ガス濃度が、設定値より高い場合には、制御機構40は、電流制御装置22に、電極板23,24を流れる電流値を減少させるよう信号を与える。
【0048】
(ステップS13)
濃度測定機構30は、ステップS12の処理が済んだ水素混合ガス中に含まれている酸素ガス濃度を酸素濃度計32によって測定する。
【0049】
(ステップS14)
制御機構40は、ステップS13で測定された酸素ガス濃度が設定値となっているかを判別する。ここで、制御機構40は、酸素ガス濃度が設定値となっていると判別した場合(ステップS14;YES)には、ステップS15に処理を進める。一方、制御機構40は、酸素ガス濃度が設定値となっていないと判断した場合(ステップS14;NO)は、ステップS141の処理を経由して、ステップS11に処理を戻す。
【0050】
(ステップS141)
制御機構40は、ステップS13で測定された酸素ガス濃度と、ステップS14の判別結果とを基にマスフローコントローラ14aに信号を与え、配管13a内を流れる酸素ガスの流量を制御する。制御機構40は、酸素ガスの流量を制御した後、ステップS11に処理を戻す。
【0051】
制御機構40は、電解槽21内の陽極側で発生する酸素ガスの量を算出しながら、マスフローコントローラ14aを通じて酸素ガスの流量を調整する。このように電解槽21内で発生する酸素ガスの量を算出し、その分を所望とする酸素ガス濃度から逆算して除いた酸素ガスを酸素ガスボンベ11から供給すれば、水素混合ガス中の酸素ガス濃度を正確かつ微細に制御することが可能となる。
電解槽21内で発生する酸素ガスの量は、発生する水素ガス濃度より推算される。酸素ガスの流量は、測定された水素ガス濃度、所望とする酸素ガス濃度、及び所望とする混合ガス流量より理論的に下記の式より導き出される。
(酸素ガス流量)[L/min]=(所望とする酸素濃度)[%]−(測定された水素ガス濃度)[%]/2)×100×(所望とする水素混合ガスの流量)[L/min] ・・・(式1)
【0052】
より具体的には、制御機構40は、測定された酸素ガス濃度が、設定した酸素ガス濃度より低い場合には、マスフローコントローラ14aに、配管13a内を流れる酸素ガスの流量を増加させるよう信号を与える。一方、測定された酸素ガス濃度が、設定した酸素ガス濃度より高い場合には、制御機構40は、マスフローコントローラ14aに、配管13a内を流れる酸素ガスの流量を減少させるよう信号を与える。
【0053】
(ステップS15)
水素混合ガス供給機構50は、ステップS14の処理が済んだ水素混合ガスの流量をマスフローメーター51によって測定する。
【0054】
(ステップS16)
制御機構40は、ステップS15で測定された水素混合ガスの流量が設定値となっているかを判別する。ここで、制御機構40は、水素混合ガスの流量が設定値となっていると判別した場合(ステップS16;YES)には、水素混合ガスの供給を行うよう水素混合ガス供給機構50に信号を与える。一方、制御機構40は、水素混合ガスの流量が設定値となっていないと判断した場合(ステップS16;NO)は、ステップS161の処理を経由して、ステップS11に処理を戻す。
【0055】
(ステップS161)
制御機構40は、ステップS15で測定された水素混合ガスの流量と、ステップS16の判別結果とを基にマスフローコントローラ14bに信号を与え、配管13b内を流れる窒素ガスの流量を制御する。
【0056】
より具体的には、制御機構40は、ステップS15で測定された水素混合ガスの流量が、設定値より低い場合には、マスフローコントローラ14bに、配管13b内を流れる窒素ガスの流量を増加させるよう信号を与える。窒素ガスの流量を増加させることによって、設定された水素混合ガスの流量に対して不足する分を補う。制御機構40は、窒素ガスの流量を増加させた後、ステップS11に処理を戻す。
【0057】
一方、制御機構40は、ステップS15で測定された水素混合ガスの流量が、設定値より高い場合には、制御機構40は、マスフローコントローラ14bに、配管13b内を流れる窒素ガスの流量を減少させるよう信号を与える。窒素ガスの流量を減少させることによって、設定された水素混合ガスの流量に対して超過する分を削減する。制御機構40は、窒素ガスの流量を減少させた後、ステップS11に処理を戻す。
【0058】
以上本実施形態のように、水素混合ガスの流量、並びに水素混合ガス中の水素ガス濃度、及び酸素ガス濃度を測定することによって、電極板23,24を流れる電流、酸素ガス流量、窒素ガス流量等の各パラメータを制御すれば、煩雑な計算を制御機構40に任せることができ、各ガス濃度の設定、及び変更が可能となる。
【0059】
なお、本実施形態で、希釈ガスの生成に用いた窒素ガスの代わりに、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス及びキセノンガス等を利用することができる。また、上述のように、本実施形態で用いた酸素ガスボンベの代わりに、コンプレッサ一等で加圧した空気を酸素ガスの供給源として用いた場合は、窒素ガス供給手段を略すことができる。
【0060】
(作用効果)
以上の構成を有する水素混合ガス生成装置1によれば、電解槽の構造が、隔膜によって、電極板の陽極側の気相と陰極側の気相とが分離されていないので、陽極側で発生する酸素ガスを電解槽の気相内にて直接混合することができ、効率的に水素混合ガスを供給できる。
【0061】
また、水素混合ガス生成装置1によれば、水素ガスの高濃度領域が電解槽内に形成されにくく、より安全性を高めることができる。よって水素混合ガス生成装置1によれば、電気分解による水素ガスの発生効率を実用化に耐えうる水準に維持しながら、水素ガスの高濃度領域を小さくし、より安全性を高めることができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。例えば図5に示す実施形態の変形例に係る水素混合ガス生成装置1aのように、希釈ガスである酸素ガスと窒素ガスとがそれぞれ独立した配管13a、13bを介して電解槽21に導入される構成、すなわち酸素ガスの導入口と窒素ガスの導入口とがそれぞれ電解槽21内の気相部に開口している構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水素混合ガス生成装置及び水素混合ガスの生成方法は、各成分比率、流量を最適な値とすることが必要とされる医療用機器等に適用する際、特に利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0064】
1…水素混合ガス生成装置、10…希釈ガス導入機構、20…水素混合ガス生成機構、30…濃度測定機構、40…制御機構、50…水素混合ガス供給機構
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5