(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861610
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】めっき解析方法、めっき解析システム、及びめっき解析のためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
C25D 21/12 20060101AFI20210412BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20210412BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
C25D21/12 C
G01N27/416 300F
G01N27/26 371Z
G01N27/416 341B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-214416(P2017-214416)
(22)【出願日】2017年11月7日
(65)【公開番号】特開2019-85612(P2019-85612A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】社本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】下山 正
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−152397(JP,A)
【文献】
特開2003−301291(JP,A)
【文献】
特開2007−270320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/00− 9/12
C25D13/00−21/22
G01N27/26−27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解めっき装置において電気化学測定を行うステップと、
前記電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出するステップ
であって、前記電気化学パラメータは、分極抵抗、交換電流密度、及び平衡電位を含む、ステップと
、
前記電気化学パラメー
タに基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流密度分布を決定するステップであって、前記電流密度分布は、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式によって表現される、ステップと、
前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出するステップと、
を含
み、
前記所定の関数式は、次式
【数1】
で与えられ、前記所定の関数式において、Ip(r)は前記基板上の位置rにおける電流密度であり、無次元分極パラメータξ、電流変異点rt、及び電流変異点rtにおける過電圧ノルムφt2はそれぞれ次式
【数2】
で定義され、I0は交換電流密度、bは分極抵抗、η0は印加電流に対する過電圧、φsは前記基板の電位、φlはめっき液中の電位、Eeqは平衡電位、Rsは前記基板上のシード層の表面抵抗、κは任意の補正係数、Lは前記基板の電気接点と前記基板の中心との距離である、めっき解析方法。
【請求項2】
前記所定の関数式は、前記基板の中心部において小さい電流密度を与え前記基板の周縁部において大きい電流密度を与える関数式である、請求項1に記載のめっき解析方法。
【請求項3】
前記電流密度分布を決定する前記ステップは、前記電気化学パラメータに少なくとも基づいて前記所定の関数式の変数を決定するステップを含む、請求項1又は請求項2に記載のめっき解析方法。
【請求項4】
電解めっき装置とコンピュータを備えるめっき解析システムであって、
前記コンピュータは、
前記電解めっき装置における電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出し
、
前記電気化学パラメー
タに基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流密度分布を、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式として決定し、
前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出する、
ように構成さ
れ、
前記電気化学パラメータは、分極抵抗、交換電流密度、及び平衡電位を含み、
前記所定の関数式は、次式
【数3】
で与えられ、前記所定の関数式において、Ip(r)は前記基板上の位置rにおける電流密度であり、無次元分極パラメータξ、電流変異点rt、及び電流変異点rtにおける過電圧ノルムφt2はそれぞれ次式
【数4】
で定義され、I0は交換電流密度、bは分極抵抗、η0は印加電流に対する過電圧、φsは前記基板の電位、φlはめっき液中の電位、Eeqは平衡電位、Rsは前記基板上のシード層の表面抵抗、κは任意の補正係数、Lは前記基板の電気接点と前記基板の中心との距離である、めっき解析システム。
【請求項5】
前記電解めっき装置と前記コンピュータは互いに離れた場所に設置され、通信手段を介して相互に通信可能に接続されている、請求項4に記載のめっき解析システム。
【請求項6】
めっき解析のためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
電解めっき装置における電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出するステップ
であって、前記電気化学パラメータは、分極抵抗、交換電流密度、及び平衡電位を含む、ステップと
、
前記電気化学パラメー
タに基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流密度分布を、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式として決定するステップと、
前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出するステップと、
を実施させる
ように構成され、
前記所定の関数式は、次式
【数5】
で与えられ、前記所定の関数式において、Ip(r)は前記基板上の位置rにおける電流密度であり、無次元分極パラメータξ、電流変異点rt、及び電流変異点rtにおける過電圧ノルムφt2はそれぞれ次式
【数6】
で定義され、I0は交換電流密度、bは分極抵抗、η0は印加電流に対する過電圧、φsは前記基板の電位、φlはめっき液中の電位、Eeqは平衡電位、Rsは前記基板上のシード層の表面抵抗、κは任意の補正係数、Lは前記基板の電気接点と前記基板の中心との距離である、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき解析方法、めっき解析システム、及びめっき解析のためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解めっき処理によって成膜されるめっき膜の膜厚を、有限要素法などの数値解析手法によるシミュレーションを利用して求めることが行われている(例えば特許文献1参照)。めっき条件を様々に変えてシミュレーションを行うことによって、最適なめっき条件を事前に導出して、実際のめっき処理に適用することができる。
【0003】
半導体基板やプリント配線基板等のめっき対象基板(以下、基板という)に電解めっきを施す場合、予め基板の表面に給電層として導電性のシード層が形成され、このシード層上にめっき膜が成長する。一般的に、めっきされる基板は、その周縁部に電気接点を有する。このため、基板の中央部には、めっき液の電気抵抗値と基板の中央部から電気接点までのシード層の電気抵抗値との合成抵抗に対応する電流が流れる。一方で、基板の周縁部(電気接点近傍)には、ほぼ、めっき液の電気抵抗値に対応する電流が流れる。即ち、基板の中央部には、基板の中央部から電気接点までのシード層の電気抵抗値の分だけ、電流が流れにくい。この、基板の周縁部に電流が集中する現象はターミナルエフェクトと呼ばれる。ターミナルエフェクトによって、基板の中央部におけるめっき速度が低下し、基板の中央部におけるめっき膜の膜厚が基板の周縁部におけるめっき膜よりも薄くなり、膜厚の面内均一性が低下する(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−152397号公報
【特許文献2】特開2016−098399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ターミナルエフェクトに起因するめっき膜厚の面内不均一性は、基板のレジスト開口率(レジスト外縁に縁取られる領域の面積のうち、レジストに覆われていない部分(レジストの開口部分)の面積の割合)が小さい場合に特に顕著となる。換言すれば、めっき膜厚の面内均一性は基板のレジスト開口率に大きく依存する。したがって、実際の製品と同様のレジスト開口率を有したパターン基板に対して、めっき条件を最適化することが重要である。これを実現するために、実際の製品と同一の複数枚のレジスト付きパターン基板に対して様々な条件でめっきを行い、各条件で形成されためっき膜厚を評価することによって最適化を行うという手法を採用し得る。しかしながら、レジスト付きパターン基板をこのような条件出しのために用いることは、コストが高くつく。また、特許文献2の例では、レギュレーションプレートやアノードマスクなどの電場調整体の開口径及び位置を調整する必要があり、最適化のための作業に手間がかかるという問題もある。そこで特許文献1のような数値解析シミュレーションを利用することにより、めっき条件の最適化におけるコスト及び手間を削減することができる。しかしながら、ターミナルエフェクトを考慮しためっき膜厚分布の数値解析方法は知られておらず、実際のレジスト付きパターン基板に形成されるめっき膜厚分布と一致性の良い結果が得られるシミュレーションは実現されていない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、電解めっき膜の膜厚分布を求めることが可能な数値解析手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[形態1]形態1によれば、電解めっき装置において電気化学測定を行うステップと、前記電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出するステップと、めっき処理を行う際のめっき条件を特定するステップと、前記電気化学パラメータ及び前記めっき条件に基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流密度分布を決定するステップであって、前記電流密度分布は、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式によって表現される、ステップと、前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出するステップと、を含むめっき解析方法が提供される。形態1のめっき解析方法によれば、基板表面の電流密度が、電気化学パラメータを用いて基板上の位置の関数として導出される。これにより、電解めっき膜の膜厚分布を数値解析的に求めることができる。
【0008】
[形態2]形態2によれば、形態1のめっき解析方法において、前記所定の関数式は、前記基板の中心部において小さい電流密度を与え前記基板の周縁部において大きい電流密度を与える関数式である。形態2における所定の関数式は、ターミナルエフェクトによる電流密度の位置依存性を反映している。したがって、形態2のめっき解析方法によれば、ターミナルエフェクトに起因するめっき膜厚の面内不均一性を、数値解析によって再現することができる。
【0009】
[形態3]形態3によれば、形態1又は形態2のめっき解析方法において、前記電流密度分布を決定する前記ステップは、前記電気化学パラメータに少なくとも基づいて前記所定の関数式の変数を決定するステップを含む。形態3のめっき解析方法によれば、所定の関数式の係数を電気化学パラメータに基づいて決定することで、基板表面の電流密度分布を決定することができる。
【0010】
[形態4]形態4によれば、形態1から形態3のいずれか1つの形態のめっき解析方法において、前記電気化学パラメータは、分極抵抗、交換電流密度、及び平衡電位を含む。形態4のめっき解析方法によれば、所定の関数式を、電気化学測定から得られた分極抵抗、交換電流密度、及び平衡電位を用いて決定することができる。
【0011】
[形態5]形態5によれば、電解めっき装置とコンピュータを備えるめっき解析システムであって、前記コンピュータは、前記電解めっき装置における電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出し、めっき処理を行う際のめっき条件を特定し、前記電気化学パラメータ及び前記めっき条件に基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流密度分布を、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式として決定し、前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出する、ように構成される、めっき解析システムが提供される。形態5のめっき解析システムによれば、基板表面の電流密度が、電気化学パラメータを用いて基板上の位置の関数として導出される。これにより、電解めっき膜の膜厚分布を数値解析的に求めることができる。
[形態6]形態6によれば、形態5のめっき解析システムにおいて、前記電解めっき装置と前記コンピュータは互いに離れた場所に設置され、通信手段を介して相互に通信可能に接続されている。形態6のめっき解析システムによれば、電解めっき装置と離れた場所でコンピュータを用いてめっき膜厚の解析を行うことができる。
【0012】
[形態7]形態7によれば、めっき解析のためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、電解めっき装置における電気化学測定の結果から電気化学パラメータを導出するステップと、めっき処理を行う際のめっき条件を特定するステップと、前記電気化学パラメータ及び前記めっき条件に基づいて、めっき処理の対象である基板の表面の電流
密度分布を、前記基板上の位置を変数とする所定の関数式として決定するステップと、前記電流密度分布に基づいて、前記基板上にめっきされる膜厚を算出するステップと、を実施させる、コンピュータプログラムが提供される。形態7のめっき解析のためのコンピュータプログラムによれば、基板表面の電流密度が、電気化学パラメータを用いて基板上の位置の関数として導出される。これにより、電解めっき膜の膜厚分布を数値解析的に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るめっき解析システムの構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るめっき解析方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。添付図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき解析システム100の構成図である。めっき解析システム100は、電解めっき装置10及びコンピュータ120を備える。電解めっき装置10とコンピュータ120は、互いに離れた場所に設置され、例えば、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)、又はインターネット等のネットワーク(通信手段)130を介して相互に通信可能に接続されている。ただし、電解めっき装置10及びコンピュータ120は同じ場所に設置され、相互に接続されていてもよい。あるいは、電解めっき装置10に後述のめっき解析プログラム126がインストールされていてもよい。
【0016】
図2は、電解めっき装置10の概略側断面図である。図示のように、電解めっき装置10は、アノード21を保持するように構成されたアノードホルダ20と、基板Wを保持するように構成された基板ホルダ40と、アノードホルダ20と基板ホルダ40とを内部に収容するめっき槽50と、を有する。また、電解めっき装置10は、電解めっき装置10におけるめっき処理及び電気化学測定を制御するための制御ユニット60を備える。電解めっき装置10は更に、各種データの入出力が可能なGUI(グラフィカルユーザインターフェイス)65を提供するための表示部及びユーザ入力部を備える。
【0017】
アノード21は、アノードホルダ20に設けられた電気端子23を介してポテンショスタット70に電気的に接続される。基板Wは、基板Wの周縁部に接する電気接点42及び基板ホルダ40に設けられた電気端子43を介してポテンショスタット70に電気的に接続される。ポテンショスタット70は、直流電源71と、電流測定回路72と、電位測定回路73とを備える。直流電源71は、アノード21と基板Wの間に電流を供給する。電流測定回路72は、アノード21と基板Wの間を流れる電流を測定する。基板Wの被めっき面W1の近傍には、電位測定回路73に電気的に接続された参照電極80が配置される。電位測定回路73は、参照電極80の電位を基準とした基板Wの被めっき面W1の電位(参照電極80と基板Wの被めっき面W1との間の電位差)を測定する。
【0018】
アノード21を保持したアノードホルダ20と基板Wを保持した基板ホルダ40は、めっき処理槽52内のめっき液Qに浸漬され、アノード21と基板Wの被めっき面W1が略平行になるように対向して設けられる。アノード21と基板Wは、めっき処理槽52のめっき液Qに浸漬された状態で、直流電源71により電圧が印加される。これにより、金属イオンが基板Wの被めっき面W1において還元され、被めっき面W1に膜が形成される。
【0019】
アノードホルダ20は、アノード21と基板Wとの間の電界を調節するためのアノードマスク25を有する。アノードマスク25は、例えば誘電体材料からなる略板状の部材であり、アノードホルダ20の前面に設けられる。ここで、アノードホルダ20の前面とは、基板ホルダ40に対向する側の面をいう。すなわち、アノードマスク25は、アノード21と基板ホルダ40の間に配置される。アノードマスク25は、アノード21と基板Wとの間に流れる電流が通過する第1の開口25aを略中央部に有する。第1の開口25aの径は、アノード21の径よりも小さいことが好ましい。アノードマスク25は、第1の開口25aの径を調節可能に構成されてもよい。
【0020】
電解めっき装置10は、さらに、アノード21と基板Wとの間の電界を調節するためのレギュレーションプレート30を有する。レギュレーションプレート30は、例えば誘電体材料からなる略板状の部材であり、アノードマスク25と基板ホルダ40(基板W)との間に配置される。レギュレーションプレート30は、アノード21と基板Wとの間に流れる電流が通過する第2の開口30aを有する。第2の開口30aの径は、基板Wの径より小さいことが好ましい。レギュレーションプレート30は、第2の開口30aの径を調節可能に構成されてもよい。
【0021】
図2に示すように、めっき槽50は、添加剤を含むめっき液Qを収容するめっき処理槽52と、めっき処理槽52からオーバーフローしためっき液Qを受けて排出するめっき液排出槽54と、めっき処理槽52とめっき液排出槽54とを仕切る仕切り壁55と、を有する。
【0022】
めっき処理槽52は、槽内部にめっき液Qを供給するためのめっき液供給口56を有する。めっき液排出槽54は、めっき処理槽52からオーバーフローしためっき液Qを排出するためのめっき液排出口57を有する。めっき液供給口56はめっき処理槽52の底部に配置され、めっき液排出口57はめっき液排出槽54の底部に配置される。
【0023】
めっき液Qがめっき液供給口56からめっき処理槽52に供給されると、めっき液Qはめっき処理槽52から溢れ、仕切り壁55を越えてめっき液排出槽54に流入する。めっき液排出槽54に流入しためっき液Qはめっき液排出口57から排出され、めっき液循環装置58が有するフィルタ等で不純物が除去される。不純物が除去されためっき液Qは、めっき液循環装置58によりめっき液供給口56を介してめっき処理槽52に供給される。
【0024】
再び
図1を参照すると、めっき解析システム100のコンピュータ120は、プロセッサ122及びメモリ124を備える。メモリ124には、本発明の一実施形態に係るめっき解析方法を実現するためのめっき解析プログラム126が格納される。プロセッサ122は、メモリ124からめっき解析プログラム126を読み出して実行する。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態に係るめっき解析方法300を示すフローチャートである。
【0026】
初めにステップ302において、電解めっき装置10の基板ホルダ40に基板Wをセットする。基板Wは、例えば、その表面全体のうち、めっき処理によって微細な配線等のパターンを形成すべき部分を除いてレジスト膜が成膜されている、レジスト付きパターン基板とすることができる。換言すれば、この例において、基板Wは、その表面にレジスト膜を備え、当該レジスト膜は、めっき処理によって形成すべき微細な配線等のパターンに対応した形状にレジスト開口を有する。前述したように、このような基板Wにおいては、ターミナルエフェクトが顕著に起こり得る。
【0027】
次にステップ304において、電解めっき装置10を用いて基板Wに対して電気化学測定を行う。基板Wに対する電気化学測定は、電解めっき装置10の制御ユニット60がポテンショスタット70を制御することによって行われる。具体的に、制御ユニット60は、ポテンショスタット70の電位測定回路73によって測定される基板Wの被めっき面W1の電位が所定の一定値となるように、直流電源71からの出力電圧(アノード21と基板Wの間の電圧)を制御する。これにより、金属イオンが基板Wの被めっき面W1において還元され、それに伴ってアノード21と基板W間に電子の移動、即ち電流が発生する。そして制御ユニット60は、この時ポテンショスタット70の電流測定回路72によって測定される電流の値と、一定値に制御された基板Wの被めっき面W1の電位(電位測定回路73による測定電位)との組を記録する。制御ユニット60は、このような電位と電流の組の測定を、基板Wの被めっき面W1の電位を様々に変えて繰り返す。これにより、基板Wの被めっき面W1の電位と、アノード21と基板Wの間を流れる電流との関係を示す分極曲線(電流−電位曲線)が得られる。
【0028】
次にステップ306において、電解めっき装置10のGUI65を介して、後述の数値解析で用いる所定のめっき条件がユーザから入力される。所定のめっき条件は、アノード21−基板W間に流す電流を基板Wのレジスト開口部分の面積で割った電流密度、めっき液Qの温度、めっき処理を行う時間の長さ(又は目標とするめっき膜厚)、アノードマスク25の第1の開口25aの径、レギュレーションプレート30の第2の開口30aの径、電極間距離(即ちアノード21と基板Wとの距離)、基板Wの被めっき面W1上に設けられたシード層の膜厚、レギュレーションプレート30のトンネル長さ(第2の開口30aの深さ)、基板Wとレギュレーションプレート30との距離、等を含む。所定のめっき条件のうち、めっき液Qの温度、電極間距離、シード層の膜厚は、分極曲線に影響を与えるパラメータであるため、ステップ304において基板Wに対して電気化学測定を行った際の条件を用いることが望ましい。
【0029】
次にステップ308において、基板Wに対して行われた電気化学測定の結果(分極曲線のデータ)及びユーザから入力されためっき条件が、電解めっき装置10からコンピュータ120へ送信される。
【0030】
次にステップ310において、コンピュータ120上でめっき解析プログラム126が実行されることにより、基板Wに対する電気化学測定の結果から電気化学パラメータが導出される。電気化学パラメータは、分極抵抗(Tafel勾配)、交換電流密度、及び平衡電位を含む。これらの各パラメータは、電気化学測定で得られた分極曲線のTafelプロットから求めることができる。なお、電気化学パラメータの導出を電解めっき装置10の制御ユニット60によって行い、導出された電気化学パラメータを電解めっき装置10からコンピュータ120へ送信することとしてもよい。
【0031】
次にステップ312において、めっき解析プログラム126の実行により、上記の電気化学パラメータに基づいて基板Wの表面の電流密度分布が決定される。決定された電流密度分布は、ステップ306において電解めっき装置10に入力された所定のめっき条件を反映したものである。基板Wの表面の電流密度分布は、ターミナルエフェクトを模擬した位置依存性を有する所定の関数式として表される。この関数式の各係数を上記の電気化学パラメータに基づいて算出することによって、基板Wの表面の電流密度分布が決定される。
【0032】
一例として、基板W上の位置rにおける電流密度I
p(r)及び過電圧η
p(r)はそれぞれ次式のように表すことができる。但し、基板W上の位置rは、基板Wの中心から当該位置までの距離をx、基板Wの電気接点42と基板Wの中心との距離をLとしてr=x
/Lと表されるものとする。
【0035】
ここで、無次元分極パラメータξ、電流変異点r
t、及び電流変異点r
tにおける過電圧ノルムφ
t2はそれぞれ次式のように定義される。
【0039】
但し、上式における各変数の定義に関し、I
0は交換電流密度、bは分極抵抗、η
0はアノード21−基板W間の印加電流に対する過電圧、φ
sは基板Wの電位、φ
lはめっき液Q中の電位、E
eqは平衡電位、R
sは基板W上のシード層の表面抵抗である。また、κは任意の補正係数である。これらの変数は、基板Wに対する電気化学測定の結果から、又は別途の測定若しくは解析により求められる。
【0040】
式(1)に示されるように、電流密度I
p(r)は、基板Wの中心部に近いほど小さくなり、基板Wの周縁部に近いほど大きくなる。したがって、式(1)の電流密度I
p(r)によって表される基板Wの表面の電流密度分布は、ターミナルエフェクトの位置依存性を反映したものとなっている。
【0041】
次にステップ314において、めっき解析プログラム126の実行により、上記のように決定された基板Wの表面の電流密度分布に基づいて、基板W上にめっきされるめっき膜の膜厚が算出される。一例として、めっき膜の膜厚Th(r)は、電流密度I
p(r)を用いて次式に従って算出することができる。但し、Mwはめっき金属の原子量、tはめっき処理を行う時間の長さ、ρはめっき金属の密度、nは反応電子数、Fはファラデー定数である。
【0043】
このように、ターミナルエフェクトを反映しためっき膜の膜厚分布を、数値解析によって求めることができる。
【0044】
次にステップ316において、上記算出されためっき膜の膜厚Th(r)のデータが、コンピュータ120から電解めっき装置10へ送信される。
【0045】
次にステップ318において、電解めっき装置10のGUI65上に、数値解析結果である膜厚Th(r)のデータが表示される。ユーザは膜厚Th(r)のデータを確認し、必要に応じて、新たな別のめっき条件を用いためっき膜の膜厚の再計算を行うために、ステップ306以降の工程を再度実施することができる。膜厚の再計算は、所望の膜厚分布が得られるまで任意の回数繰り返すことができる。これによりユーザは、当該所望の膜厚分布を実現するのに必要な最終的なめっき条件を得ることができる。
【0046】
実施形態に係るめっき解析システム100を用いることにより、電解めっき装置10と離れた場所でコンピュータ120を用いてめっき膜厚の解析を行うことができる。電解めっき装置10にめっき解析プログラム126をインストールする必要がなく、また1つのコンピュータ120で複数の電解めっき装置10に対応しためっき膜厚の解析を行うことができる。所望の膜厚分布を得るために別のめっき条件を設定する作業は、電解めっき装置10を操作するオペレータが行ってもよいし、コンピュータ120を操作するオペレータが行ってもよい。
【0047】
実施形態に係るめっき解析方法によれば、めっき膜厚分布を最適化しようとする対象の基板を用いてまず電気化学測定を行う。よって、レジスト開口率などの基板の特徴を反映した、基板に固有の分極曲線(電流−電位曲線)が得られる。よって正確なめっき膜厚分布を解析により求めることができる。
【0048】
以上、いくつかの例に基づいて本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 電解めっき装置
20 アノードホルダ
21 アノード
23 電気端子
25 アノードマスク
25a 第1の開口
30 レギュレーションプレート
30a 第2の開口
40 基板ホルダ
42 電気接点
43 電気端子
50 めっき槽
52 めっき処理槽
54 めっき液排出槽
55 仕切り壁
56 めっき液供給口
57 めっき液排出口
58 めっき液循環装置
60 制御ユニット
65 GUI
70 ポテンショスタット
71 直流電源
72 電流測定回路
73 電位測定回路
80 参照電極
100 めっき解析システム
120 コンピュータ
122 プロセッサ
124 メモリ
126 めっき解析プログラム
130 ネットワーク
Q めっき液
W 基板
W1 被めっき面