特許第6861627号(P6861627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861627
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】シート状細胞培養物の凍結保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20210412BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210412BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20210412BHJP
【FI】
   C12N1/04
   C12M1/00 A
   !C12N5/071
【請求項の数】9
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-512587(P2017-512587)
(86)(22)【出願日】2016年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2016062061
(87)【国際公開番号】WO2016167332
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-85447(P2015-85447)
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Organ Biology、プログラム・抄録集、第21巻、第3号(通巻77号)、第88頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第41回日本臓器保存生物医学会学術集会(平成26年11月29日)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 再生医療、Vol.14 Suppl、2015、一般社団法人日本再生医療学会編、株式会社メディカルレビュー社発行、第189頁に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第14回日本再生医療学会総会 平成27年3月19日で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】澤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】大河原 弘達
(72)【発明者】
【氏名】福嶌 五月
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 充弘
(72)【発明者】
【氏名】伊勢岡 弘子
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−111017(JP,A)
【文献】 特開2002−335950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包して密閉するステップ、および
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ
を含み、
ここで、ステップ(1)の前に、シート状細胞培養物の上面および下面の両面または下面のみを、メッシュ状支持体で支持するステップを含み、ここで、ステップ(1)の前に下面のみを支持する場合、ステップ(2)とステップ(3)との間にシート状細胞培養物の上面を被覆することをさらに含む、シート状細胞培養物を凍結する方法。
【請求項2】
(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包して密閉するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま低温で保存するステップ
を含み、
ここで、ステップ(1)の前に、シート状細胞培養物の上面および下面の両面または下面のみを、メッシュ状支持体で支持するステップを含み、ここで、ステップ(1)の前に下面のみを支持する場合、ステップ(2)とステップ(3)との間にシート状細胞培養物の上面を被覆することをさらに含む、シート状細胞培養物の凍結保存方法。
【請求項3】
(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包して密閉するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま移送するステップ
を含み、
ここで、ステップ(1)の前に、シート状細胞培養物の上面および下面の両面または下面のみを、メッシュ状支持体で支持するステップを含み、ここで、ステップ(1)の前に下面のみを支持する場合、ステップ(2)とステップ(3)との間にシート状細胞培養物の上面を被覆することをさらに含む、シート状細胞培養物の移送方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、シート状細胞培養物を凍結保存液に1分〜30分浸漬する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(2)において、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を、メッシュ状支持体を介して落下させることにより除去する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(3)において、耐寒性フィルムの周囲を溶着することにより内部を密閉する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(4)において、シート状細胞培養物を、液体窒素の液面上に配置することにより凍結する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(4)をステップ(3)の後に行う、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
凍結保存液を収容する浸漬容器、洗浄液を収容する洗浄容器、メッシュ状支持体で上面および下面を被覆されたシート状細胞培養物を被包する耐寒性フィルム、および、凍結処理容器を備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法に使用するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状細胞培養物の凍結方法、凍結保存方法、移送方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患や拡張型心筋症などにより損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞等の利用が試みられている(非特許文献1〜2)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(特許文献1、非特許文献2)。
シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷などによる皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道ガン内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用などの検討が進められている。
【0004】
シート状細胞培養物を臨床応用する場合には、その製造に衛生度の高い細胞調製室(CPC)が求められるが、衛生管理や機器の精度管理等、細胞調製室の維持には高額な維持費がかかることから、製造施設が限定されるうえ、移植前日から当日にかけても、シート状細胞培養物の調製に多数の人員と手間がかかるため、治療の準備に要する負担が大きく、シート状細胞培養物による治療の普及を妨げる一因となっている。こうした問題を解決すべく、シート状細胞培養物を凍結保存することにより、その利便性を高める試みが行われている。例えば、特許文献2には、培養基材上に形成されたシート状細胞培養物を、該培養基材に付着させた状態で凍結するステップを含む、シート状細胞培養物の保存方法が、非特許文献3には、紙状の支持体であるCellShifterで支持されたウサギ軟骨細胞シートをガラス化凍結法で凍結保存したことが、それぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【特許文献2】特開2011−115058号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【非特許文献3】Maehara et al., BMC Biotechnol. 2013 Jul 25;13:58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シート状細胞培養物の凍結保存方法などの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、シート状細胞培養物の凍結保存を研究する中で、非特許文献3に記載の方法を軟骨細胞以外の細胞で構成されるシート状細胞培養物に適用したところ、シート状細胞培養物が破損してしまい、凍結保存が困難であることを見出した。そして、かかる問題を解決すべくさらに研究を進めたところ、メッシュ状の支持体を用いることで、軟骨細胞以外の細胞で構成されるシート状細胞培養物でも破損することなく、凍結前の品質を維持したまま、凍結保存が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
<1>(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、および
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ
を含む、シート状細胞培養物を凍結する方法。
<2>(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま低温で保存するステップ
を含む、シート状細胞培養物の凍結保存方法。
【0010】
<3>(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま移送するステップ
を含む、シート状細胞培養物の移送方法。
【0011】
<4>ステップ(1)において、シート状細胞培養物を凍結保存液に1分〜30分浸漬する、上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5>ステップ(2)において、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を、メッシュ状支持体を介して落下させることにより除去する、上記<1>〜<4>のいずれか一項に記載の方法。
<6>ステップ(3)において、シート状細胞培養物を、密閉状態を保つことができるように耐寒性フィルムで被包する、上記<1>〜<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7>ステップ(4)において、シート状細胞培養物を、液体窒素の液面上に配置することにより凍結する、上記<1>〜<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8>ステップ(4)をステップ(3)の後に行う、上記<1>〜<7>のいずれか一項に記載の方法。
【0012】
特定の理論に拘束されることは望まないが、従来の方法においては、支持体が紙状であり、シート状細胞培養物の全面に接していたため、脆弱なシート状細胞培養物では、支持体にわずかな歪みが生じただけでもシート状細胞培養物に過度な機械的刺激が加わり、破損を招く原因となっていたところ、メッシュ状の支持体を用いることで、シート状細胞培養物と支持体とが接する面積が小さくなり、過度な機械的刺激を与えることがなくなるとともに、凍結保存液からシート状細胞培養物を取り出した際に、メッシュの網目から余剰の凍結保存液がこぼれ落ち、不要な凍結保存液の除去をより効果的に行うことが可能になったことで、脆弱なシート状細胞培養物であっても、破損や品質の劣化を伴わずに凍結保存できたものと考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、脆弱なシート状細胞培養物においても、形状や品質を損なうことなく、凍結保存および解凍処理を行うことが可能となる。このため、従来のように、移植の数日前から必要であった煩雑な準備作業やそのための人手が不要となるうえ、CPCを有しない病院においても、製造施設から凍結状態のまま移送し、移植直前に使用可能な状態のシート状細胞培養物を容易に調製できることから、シート状細胞培養物による治療を提供できる医療施設が格段に増大し、当該治療の飛躍的な普及が期待できる。準備作業の簡素化は、緊急性のある場合においては特に有用である。
また、本発明によりシート状細胞培養物の長期保存が可能となるため、緊急時に備えて、シート状細胞培養物を事前に製造し、凍結状態でストックしておくことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を細胞保存液に浸漬している様子を示した写真図である。
図2図2は、2枚のメッシュ状支持体で挟んだシート状細胞培養物をフィルムで被包し、密閉した様子を示した写真図である。
図3図3は、紙状支持体で支持したまま凍結保存したシート状細胞培養物の、解凍後の外観を示した写真図である。
図4図4は、紙状支持体で支持したまま凍結保存したシート状細胞培養物の、解凍後のHE染色像を示した写真図である。
図5図5は、解凍後のシート状細胞培養物をディッシュに移送する様子を示した写真図である。
【0015】
図6図6は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、解凍後の外観を示した写真図である。
図7図7は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、解凍後のHE染色像を示した写真図である。
図8図8は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)のHE染色像(左)および電子顕微鏡像(右)を示した写真図である。電子顕微鏡像中の矢頭はデスモゾームの位置を示している。
図9図9は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(上段)および解凍後(下段)の細胞間マトリックス成分(左:フィブロネクチン、中央:コラーゲンIV、右:N−カドヘリン)の免疫染色像を示した写真図である。
【0016】
図10図10は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(0hr)、あるいは、2日間(2d)、7日間(7d)もしくは28日間(28d)凍結保存してから解凍した後の細胞生存率を示したグラフである(n=4)。「n.s.」は有意差なしを表す。
図11図11は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(上段)および解凍後(下段)のアポトーシスを評価した写真図である。左から順に、カスパーゼ3の免疫染色像、カスパーゼ8の免疫染色像、カスパーゼ9の免疫染色像、TUNEL染色像、ss−DNAの免疫染色像をそれぞれ示す。
図12図12は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(0hr)、あるいは、2日間(2d)、7日間(7d)もしくは28日間(28d)凍結保存してから解凍した後の、ミトコンドリア関連タンパク質の遺伝子発現を示したグラフである(n=4)。
【0017】
図13図13は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(0hr)、あるいは、2日間(2d)、7日間(7d)もしくは28日間(28d)凍結保存してから解凍した後の、各種サイトカインの遺伝子発現を示したグラフである(n=4)。
図14図14は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(上段)および解凍後(下段)の各種サイトカイン(左:VEGF、中央:HIF−1α、右:HGF)の発現を免疫染色で評価した写真図である。
図15図15は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)の外観を示した写真図である。
【0018】
図16図16は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)のHE染色像を示した写真図(左から1番目)と、細胞間接着に関与する分子(左から2番目から順に、フィブロネクチン、コラーゲンIII、N−カドヘリン)の発現を免疫染色で評価した写真図である。
図17図17は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(黒)または凍結保存してから解凍した後(白)の細胞生存率を示したグラフである(n=10)。
図18図18は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)のアポトーシスを評価した写真図である。左から順に、カスパーゼ8の免疫染色像、カスパーゼ9の免疫染色像、シトクロム−Cの免疫染色像、BCL−2の免疫染色像をそれぞれ示す。
【0019】
図19図19は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)のアポトーシスを評価した写真図である。左はTUNEL染色像、右はss−DNAの免疫染色像をそれぞれ示す。
図20図20は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(黒)または凍結保存してから解凍した後(白)の、ミトコンドリア関連タンパク質の遺伝子発現を示したグラフである(n=8)。「n.s.」は有意差なしを表す。
図21図21は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)のミトコンドリアの電子顕微鏡像を示した写真図である。
【0020】
図22図22は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(黒)または凍結保存してから解凍した後(白)の、各種サイトカインの遺伝子発現を示したグラフである(n=8)。「n.s.」は有意差なしを表す。
図23図23は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)の各種サイトカイン(左:VEGF、中央:HIF−1α、右:HGF)の発現を免疫染色で評価した写真図である。
図24図24は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(黒)または凍結保存してから解凍した後(白)のKi67陽性細胞率を示したグラフである(n=5)。「n.s.」は有意差なしを表す。
【0021】
図25図25は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物における、凍結前(上段)および解凍後(下段)の増殖性細胞(Ki67陽性細胞)の発現を免疫染色で評価した写真図である。
図26図26は、メッシュ状支持体を用いて凍結保存したシート状細胞培養物の、凍結前(上段)および解凍後(下段)の電子顕微鏡像(左から順に、全体像、核、細胞間接着、サルコメア)を示した写真図である。電子顕微鏡像中の矢頭はデスモゾームの位置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0023】
本発明の一側面は、(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、および
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ
を含む、凍結シート状細胞培養物の製造方法(以下、「製造方法」と略す場合がある)に関する。
【0024】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックス(細胞間マトリックスと称することもある)などが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。
【0025】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明におけるシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができるものであってもよい。また、シート状細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0026】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を構成する細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。シート状細胞培養物を構成する細胞のさらなる非限定例としては、例えば、iPS細胞から分化させた細胞(例えば、iPS細胞から分化させた心筋細胞など)等が挙げられる。
【0027】
シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯目動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギなどが含まれる。また、シート状細胞培養物を構成する細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、シート状細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、シート状細胞培養物製造終了時において、約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約75%以上である。
【0028】
シート状細胞培養物を形成する細胞は異種由来細胞であっても同種由来細胞であってもよい。ここで「異種由来細胞」は、シート状細胞培養物が移植に用いられる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、サルやブタに由来する細胞などが異種由来細胞に該当する。また、「同種由来細胞」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する細胞を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト細胞が同種由来細胞に該当する。同種由来細胞は、自己由来細胞(自己細胞または自家細胞ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する細胞と、同種非自己由来細胞(他家細胞ともいう)を含む。自己由来細胞は、移植しても拒絶反応が生じないため、本発明においては好ましい。しかしながら、異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用することも可能である。異種由来細胞や同種非自己由来細胞を利用する場合は、拒絶反応を抑制するため、免疫抑制処置が必要となることがある。なお、本明細書中で、自己由来細胞以外の細胞、すなわち、異種由来細胞と同種非自己由来細胞を非自己由来細胞と総称することもある。本発明の一態様において、細胞は自家細胞または他家細胞である。本発明の一態様において、細胞は自家細胞である。本発明の別の態様において、細胞は他家細胞である。
【0029】
シート状細胞培養物は、既知の任意の方法(例えば、特許文献1、特開2010-081829、特開2010-226991、特開2011-110368、特開2011-172925、WO 2014/185517など参照)で製造することができる。シート状細胞培養物の製造方法は、典型的には、細胞を培養基材上に播種するステップ、播種した細胞をシート化するステップ、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離するステップを含むが、これに限定されない。細胞を培養基材上に播種するステップの前に、細胞を凍結するステップおよび細胞を解凍するステップを行ってもよい。さらに、細胞を解凍するステップの後に細胞を洗浄するステップを行ってもよい。また、シート状細胞培養物が、複数枚のシート状細胞培養物を積層した積層シート状細胞培養物である場合、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離するステップの後に、複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップを含んでもよい。これら各ステップは、シート状細胞培養物の製造に適した既知の任意の手法で行うことができる。
【0030】
シート状細胞培養物の製造方法においてiPS細胞から分化させた細胞を用いる場合、iPS細胞は、既知の任意の方法で所望の分化細胞へ誘導することができる。例えば、iPS細胞から心筋細胞を誘導する方法は、様々な方法が知られているが(例えば、Burridge et al., Cell Stem Cell. 2012 Jan 6;10(1):16-28)、非限定例としては、胚様体形成による方法、単層分化培養による方法、強制凝集による方法などが挙げられる。いずれの方法においても、中胚葉誘導因子(例えば、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGF、SCFなど)、心臓特異化(cardiac specification)因子(例えば、VEGF、DKK1、Wntシグナルインヒビター(例えば、IWR−1、IWP−2、IWP−4等)、BMPシグナルインヒビター(例えば、NOGGIN等)、TGFβ/アクチビン/NODALシグナルインヒビター(例えば、SB431542等)、レチノイン酸シグナルインヒビターなど)および心臓分化因子(例えば、VEGF、bFGF、DKK1など)を、順次作用させることにより誘導効率を高めることができる。一態様において、iPS細胞からの心筋細胞誘導処理は、浮遊培養下で形成した胚様体に、(1)BMP4、(2)BMP4とbFGFとアクチビンAとの組み合わせ、(3)IWR−1、および、(4)VEGFとbFGFとの組み合わせを順次作用させることを含む。
【0031】
iPS細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団は、iPS細胞を心筋細胞誘導処理に供して得られる心筋細胞誘導後の細胞集団をそのまま利用しても、心筋細胞誘導後の細胞集団から心筋細胞を精製して純度を高めたものを利用しても、心筋細胞誘導後の細胞集団から心筋細胞の一部を除去して純度を低下させたものを利用しても、精製した心筋細胞集団を他の細胞集団と混合したものを利用してもよい。
【0032】
本発明の製造方法は、ステップ(1)の前に、シート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよく、その場合、シート状細胞培養物を製造するステップは、シート状細胞培養物の製造に係る上記のステップ(すなわち、細胞を凍結するステップ、細胞を解凍するステップ、細胞を洗浄するステップ、細胞を培養基材上に播種するステップ、播種した細胞をシート化するステップ、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離するステップ、複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップなど)の1または2以上を含んでもよい。したがって、シート状細胞培養物が積層シート状細胞培養物である本発明の製造方法の一態様は、ステップ(1)の前に複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップを含む。本発明の製造方法はまた、ステップ(1)の前に、培養基材から単離されたシート状細胞培養物(単離シート状細胞培養物と称する場合もある)を、メッシュ状支持体で支持するステップを含んでもよい。
また、本発明の製造方法は、上記シート状細胞培養物を製造するステップの前に、iPS細胞を分化細胞へ誘導するステップ、および任意に心筋細胞を精製して純度を高めるステップをさらに含んでもよい。
【0033】
細胞の播種は、例えば、細胞をシート化媒体に懸濁した細胞懸濁液を、培養基材を備えた培養容器に注入することなどにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。細胞の播種密度は、播種した細胞がシート状の培養物を形成できれば特に限定されないが、例えば、細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度であってもよい。「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を実質的に含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。この播種密度は、成長因子を含む培養液を用いる手法におけるものよりも高いものであり、細胞がコンフルエントに達する密度以上であってもよい。かかる密度の非限定例は、例えば、約1.0×10個/cm以上である。播種密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、約3.4×10個/cm未満であってもよい。
【0034】
「細胞が実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」は、ある態様では約1.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、別の態様では約3.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、さらに別の態様では約3.5×10個/cm〜約3.4×10個/cm、さらに別の態様では約1.0×10個/cm〜約3.4×10個/cm、さらに別の態様では約3.0×10個/cm〜約1.7×10個/cm、別の態様では約3.5×10個/cm〜約1.7×10個/cm、さらに別の態様では約1.0×10個/cm〜約1.7×10個/cmである。上記範囲は、上限が約3.4×10個/cm未満である限り、上限および下限の両方、または、そのいずれか一方を含んでもよい。したがって、上記密度は、例えば、約3.0×10個/cm以上約3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、約3.5×10個/cm以上約3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、約1.0×10個/cm以上約3.4×10個/cm未満(下限を含み、上限は含まない)、約1.0×10個/cm超約3.4×10個/cm未満(下限も上限も含まない)、約1.0×10個/cm超約1.7×10個/cm以下(下限は含まないが、上限は含む)であってもよい。
【0035】
細胞のシート化(シート化培養と称する場合もある)は、典型的には、培養容器にシート状細胞培養物を形成し得る細胞を播種し、所定の期間、細胞間接着を形成する条件下で培養して細胞同士を相互作用させ、細胞同士を連結させることにより行う。細胞間接着を形成する条件は、細胞間接着を形成することができる任意の条件を含み、これには、限定されずに、例えば、一般的な細胞培養条件が含まれる。かかる条件としては、例えば、37℃、5%COでの培養が挙げられる。また、当業者であれば、播種する細胞の種類に応じて最適な条件を選択することができる。シート化培養の非限定例は、例えば、特許文献1、特開2010-081829、特開2010-226991、特開2011-110368、特開2011-172925、WO 2014/185517などに記載されている。
【0036】
シート化に用いる媒体(シート化媒体と称する場合もある)としては、細胞のシート化を可能にするものであれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどを使用してもよい。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。シート化媒体は、血清(例えば、ウシ胎仔血清などのウシ血清、ウマ血清、ヒト血清等)、種々の成長因子(例えば、FGF、EGF、VEGF、HGF等)などの添加物を含んでもよい。
【0037】
培養基材は、細胞がその上でシート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材が挙げられる。具体的には、親水性の表面を有する基材、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。
【0038】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えばUpCell(R)、セルシード)、これらを本発明の製造方法に使用することができる。
【0039】
上記培養基材は、種々の形状であってもよいが、平坦であることが好ましい。また、その面積は特に限定されないが、典型的には、約1cm〜約200cm、好ましくは約2cm〜約100cm、より好ましくは約3cm〜約50cmである。
【0040】
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清で処理することにより得ることができる。血清による処理は、血清を培養基材に接触させること、および、必要に応じて所定期間インキュベートすることを含む。血清としては、異種血清および同種血清を用いることができる。異種血清は、細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清(自家血清ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
【0041】
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で約20分〜約60分程度放置して凝固させ、これを約1000×g〜約1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
【0042】
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0.5%〜約100%(v/v)、好ましくは約1%〜約60%(v/v)、より好ましくは約5%〜約40%(v/v)である。
【0043】
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約1時間〜約72時間、好ましくは約4時間〜約48時間、より好ましくは約5時間〜約24時間、さらに好ましくは約6時間〜約12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0℃〜約60℃、好ましくは約4℃〜約45℃、より好ましくは室温〜約40℃である。
【0044】
形成されたシート状細胞培養物の培養基材からの単離は、シート状細胞培養物が少なくとも部分的に、シート構造を保ったまま、足場となっている培養基材から遊離(剥離)できれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素(例えばトリプシンなど)による酵素処理および/またはピペッティングなどの機械的処理によって行うことができる。また、細胞を、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面を被覆した培養基材上で培養して細胞培養物を形成した場合には、所定の刺激を加えることで、非酵素的に遊離することもできる。
【0045】
シート状細胞培養物を製造するステップが細胞を凍結するステップを含む場合、当該ステップは、細胞の凍結に用いる既知の任意の手法により行うことができる。かかる手法としては、限定されずに、例えば、容器内の細胞を、凍結手段、例えば、フリーザー、ディープフリーザー、低温の媒体(例えば、液体窒素等)に供することなどが挙げられる。凍結手段の温度は、容器内の細胞集団の一部、好ましくは全体を凍結させ得る温度であれば特に限定されないが、典型的には約0℃以下、好ましくは約−20℃以下、より好ましくは約−40℃以下、さらに好ましくは約−80℃以下である。また、凍結操作における冷却速度は、凍結解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には4℃から冷却を始めて−80℃に達するまで約1時間〜約5時間、好ましくは約2時間〜約4時間、特に約3時間かける程度の冷却速度である(緩慢凍結)。具体的には、例えば、約0.46℃/分の速度で冷却することができる。かかる冷却速度は、所望の温度に設定した凍結手段に、細胞を含む容器を直接、または、凍結処理容器に収容して供することにより達成することができる。凍結処理容器は、容器内の温度の下降速度を所定の速度に制御する機能を有していてもよい。かかる凍結処理容器としては、既知の任意のもの、例えば、BICELL(R)(日本フリーザー)などを用いることができる。
【0046】
細胞の凍結操作は、細胞を培養液や生理緩衝液などに浸漬させたまま行ってもよいが、細胞を凍結・解凍操作から保護するための凍結保護剤を培養液に加えたり、培養液を凍結保護剤を含む凍結保存液と置換するなどの処理を施したうえで行ってもよい。したがって、本発明の製造方法は、培養液に凍結保護剤を添加するステップ、または、培養液を凍結保存液に置換するステップをさらに含んでもよい。培養液を凍結保存液に置換する場合、凍結時に細胞が浸漬している液に有効濃度の凍結保護剤が含まれていれば、培養液を実質的に全て除去してから凍結保存液を添加しても、培養液を一部残したまま凍結保存液を添加してもよい。ここで、「有効濃度」とは、凍結保護剤が、毒性を示すことなく、凍結保護効果、例えば、凍結保護剤を用いない場合と比べた、凍結解凍後の細胞の生存率、活力、機能などの低下抑制効果を示す濃度を意味する。かかる濃度は当業者に知られているか、ルーチンの実験などにより適宜決定することができる。
【0047】
細胞の凍結に用いる凍結保護剤は、細胞に対して凍結保護作用を示すものであれば特に限定されずに、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、マンニトールなどを含む。凍結保護剤は、単独で用いても、2種または3種以上を組み合わせて用いてもよい。
培養液への凍結保護剤の添加濃度、または、凍結保存液中の凍結保護剤の濃度は、上記で定義した有効濃度であれば特に限定されず、典型的には、例えば、培養液または凍結保存液全体に対して約2%〜約20%(v/v)である。しかしながら、この濃度範囲からは外れるが、それぞれの凍結保護剤について知られているか、実験的に決定した代替的な使用濃度を採用することもでき、かかる濃度も本発明の範囲内である。
【0048】
シート状細胞培養物を製造するステップが凍結した細胞を解凍するステップを含む場合、当該ステップは、既知の任意の細胞解凍手法により行うことができ、典型的には、例えば、凍結した細胞を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器などに供したり、または、凍結した細胞を、凍結温度より高い温度の媒体(例えば、培養液)で浸漬することにより達成されるが、これに限定されない。解凍手段または浸漬媒体の温度は、細胞を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には約4℃〜約50℃、好ましくは約30℃〜約40℃、より好ましくは約36℃〜約38℃である。また、解凍時間は、解凍後の細胞の生存率や機能を大きく損なうものでなければ特に限定されないが、典型的には2分以内であり、特に約20秒以内とすることで生存率の低下を大幅に抑制することができる。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の容量もしくは組成などを変化させて調節することができる。
【0049】
シート状細胞培養物を製造するステップは、凍結した細胞を解凍するステップの後、かつ、シート状細胞培養物を形成するステップの前に、細胞を洗浄するステップを含んでいてもよい。細胞の洗浄は、既知の任意の手法により行うことができ、典型的には、例えば、細胞を液体(例えば、血清や血清成分(血清アルブミンなど)を含むもしくは含まない、培養液または生理緩衝液など)に懸濁し、遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿した細胞を回収することにより達成されるが、これに限定されない。細胞を洗浄するステップにおいては、かかる懸濁、遠心分離、回収のサイクルを1回または複数回(例えば、2、3、4、5回など)行ってもよい。また、細胞を洗浄するステップは、凍結した細胞を解凍するステップの直後に行ってもよい。
【0050】
シート状細胞培養物を製造するステップが、複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップを含む場合、当該ステップは、例えば、2以上のシート状細胞培養物を直接、または、介在物質を介して重ね合わせ、1枚のシート状細胞培養物とすることなどによって行うことができる。介在物質としては、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物同士の接着を促進および/または強化する物質などが挙げられ、その非限定例としては、例えば、細胞外マトリックス構成成分またはこれを含む組成物(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、ハイドロゲル、ゼラチン等)、接着タンパク質(例えば、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリー等)などが挙げられる。
【0051】
シート状細胞培養物は脆弱であってもよい。シート状細胞培養物の強度は、例えば、特開2012-159408、特開2014-149214などの方法により測定することができる。かかる測定法の非限定例としては、例えば、シート状細胞培養物を液中で伸展させた状態で、ステンレス製の腸べら(例えば、幅45mmのもの)で掬い上げ、シート状細胞培養物が腸べらの表面に付着した状態で液外に配置し、針付き縫合糸(例えば、6−0プロリン)を、シート状細胞培養物と腸べらとの間に差し込み、シート状細胞培養物の下面から上面に貫通させ、糸の両端を結び合わせて環状にし、これをゲージ(例えば、汎用形デジタルフォースゲージ、FGC-1B、日本電産シンポ社)につなぎ、シート状細胞培養物に係止した糸を、ゲージを介して水平方向に引っ張り、シート状細胞培養物破断時までの最大荷重(引張破断荷重)を測定することなどが挙げられる。特定の態様において、脆弱なシート状細胞培養物は、引張破断荷重として、限定されずに、例えば、約0.001N〜約0.05N、約0.002N〜約0.04N、約0.003N〜約0.03N、約0.004N〜約0.02N、約0.005N〜約0.01Nなどの強度を有してもよい。脆弱なシート状細胞培養物の非限定例としては、例えば、骨格筋芽細胞で構成されたシート状細胞培養物などが挙げられる。
【0052】
本発明において、メッシュ状支持体は、シート状細胞培養物をその形状を損なうことなく支持するとともに、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液などの液体を除去し得る、メッシュ構造を有する任意の支持体を含む。シート状細胞培養物を支持した際に、メッシュ状支持体の表面がシート状細胞培養物に傷害を与えない程度に滑らかであるものが好ましい。支持体の材質は、上記の条件を満たすかぎり特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエステルなどのプラスチックを含む。支持体の開口率も上記の条件を満たすかぎり特に限定されず、3次元開口率として、例えば、約50%〜約96%、約60%〜約95%、約70%〜約94%、約75%〜約93%、約80%〜約92%などであってよい。メッシュの線径も上記の条件を満たすかぎり特に限定されず、例えば、約10μm〜約1000μm、約20μm〜約500μm、約30μm〜約400μm、約40μm〜約300μm、約50μm〜約250μmなどであってよい。メッシュ状支持体は、編み構造、織り構造、不織構造など種々の構造を有してもよい。また、メッシュ状支持体は、生体親和性のコーティング(例えば、チタンコーティングなど)を施されたものであってもよい。メッシュ状支持体を構成する材料(コーティングを含む)は、凍結保存液等に溶出しないものが好ましい。メッシュ状支持体の非限定例としては、例えば、TiLENE MESH(pfm medical)、パリテックスメッシュ(Covidien)といった手術用メッシュなどが挙げられる。
【0053】
本発明において、凍結保存液は、細胞の凍結保存に用いる任意の溶液を包含する。好ましい態様において、凍結保存液はガラス化凍結法に用いることができるものである。ガラス化凍結法に用いることができる凍結保存液は当該技術分野で知られている(例えば、非特許文献3参照)。凍結保存液は、細胞を凍結による影響から保護する凍結保護剤を含む。凍結保護剤としては、限定されずに、例えば、細胞浸透性の凍結保護剤や細胞非浸透性の凍結保護剤などが挙げられる。凍結保護剤の非限定例としては、限定されずに、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、カルボキシル化ポリリジン、グリセロール、プロピレングリコール、セリシン、プロパンジオール、デキストラン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルデンプン、コンドロイチン硫酸、ポリエチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、アドニトール、ペルセイトール、ラフィノース、ラクトース、トレハロース、スクロース、マンニトールなどが挙げられる。凍結保護剤は、単独で用いても、2種または3種以上を組み合わせて用いてもよい。一部の態様において、凍結保存液は、細胞浸透性の凍結保護剤と細胞非浸透性の凍結保護剤の両方を含む。
【0054】
凍結保存液は、凍結保護剤を溶解および/または希釈し、細胞の生存を維持するための基礎溶液を含んでもよい。基礎溶液としては、上記の機能を有するものであれば特に限定されず、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどを使用してもよい。基礎培地の非限定例としては、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12、TCM−199などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。基礎溶液は、血清(例えば、ウシ胎仔血清などのウシ血清、ウマ血清、ヒト血清等)、種々の緩衝剤(例えば、Hepesなどのグッド緩衝剤等)などの添加物を含んでもよい。
【0055】
凍結保存液への凍結保護剤の添加濃度、または、凍結保存液中の凍結保護剤の濃度は、凍結・解凍操作によりシート状細胞培養物の品質を過度に劣化させない濃度であれば特に限定されず、典型的には、例えば、凍結保存液全体に対して、凍結保護剤1種類につき約1%〜約30%(v/v)、約2%〜約25%(v/v)、約5%〜約20%(v/v)などとすることができる。しかしながら、この濃度範囲からは外れるが、それぞれの凍結保護剤について知られているか、実験的に決定した代替的な使用濃度を採用することもでき、かかる濃度も本発明の範囲内である。
【0056】
ステップ(1)における凍結保存液への浸漬は、典型的には、シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物の全体を凍結保存液に浸すことにより行う。浸漬時間は凍結保護剤がシート状細胞培養物に作用できれば特に限定されず、例えば、約1分〜約30分、約2分〜約20分、約3分〜約15分などであってよく、特に約5分であってよい。凍結保存液は1種類のみ使用しても、複数種類使用してもよいが、シート状細胞培養物への悪影響を最小化する観点から、1種類のみの凍結保存液に1回のみ浸漬することが好ましい。
【0057】
ステップ(2)における凍結保存液の除去は、典型的には、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を、メッシュ状支持体を介して落下させることにより行うが、液体吸収性の材料にメッシュ状支持体を介して吸収させてもよい。
【0058】
耐寒性フィルムで被包する前に、シート状細胞培養物の上面および下面をメッシュ状支持体で被覆する。シート状細胞培養物の被覆は、2枚または3枚以上のメッシュ状支持体を、シート状細胞培養物の上面および下面に配置して行ってもよいし、1枚のメッシュ状支持体を折りたたみ、その間にシート状細胞培養物を配置して行ってもよい。シート状細胞培養物の上面および下面をメッシュ状支持体で被覆することにより、凍結時にシート状細胞培養物がフィルムに付着し、解凍後フィルムから取り出す際に破損することを防止することができる。耐寒性フィルムで被包する前であれば、シート状細胞培養物のメッシュ状支持体による被覆は、ステップ(1)の前から、ステップ(2)とステップ(3)との間までのいずれのタイミングで行ってもよい。より具体的には、前記被覆は、ステップ(1)の前、ステップ(1)の最中、ステップ(1)とステップ(2)との間、ステップ(2)の最中、または、ステップ(2)とステップ(3)との間に行うことができる。ステップ(2)とステップ(3)との間に行う場合は、例えば、メッシュ状支持体でその下面を支持されたシート状細胞培養物を耐寒性フィルム上に置き、シート状細胞培養物の上面を同じメッシュ状支持体の一部、または、別のメッシュ状支持体で被覆してもよい。
【0059】
耐寒性フィルムは、凍結・解凍操作に耐えられるものであれば特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどのプラスチックで構成されるフィルムなどが挙げられる。また、溶着などにより密閉が可能なものが好ましい。耐寒性フィルムは、1または2種類以上の材料で構成されていてもよい。耐寒性フィルムは、シート状であっても、袋状に加工されていてもよい。
ステップ(3)における耐寒性フィルムによる被包は、シート状細胞培養物の全体を、これを被覆するメッシュ状支持体ごと耐寒性フィルムで包むことにより行う。被包は、密閉状態を保つことができるように行うことが好ましい。例えば、熱可塑性材料で構成されるフィルムであれば、周囲を熱溶着することにより内部を密閉することができる。
【0060】
ステップ(4)におけるシート状細胞培養物の凍結は、細胞の凍結に利用可能な既知の任意の凍結手法で行うことができる。好ましい態様において、凍結は、急速凍結により行う。急速凍結は、受精卵のガラス化法などに用いられる手法であり、当該技術分野において周知である。急速凍結は、シート状細胞培養物を、限定されずに、例えば、約−180℃〜約−80℃、約−170℃〜約−100℃、約−165℃〜約−120℃、約−160℃〜約−135℃、約−150℃〜約−140℃などの低温の媒体、例えば窒素ガスなどに暴露することによって行ってもよい。また、急速凍結におけるシート状細胞培養物の冷却速度は、シート状細胞培養物の品質を過度に劣化させずにシート状細胞培養物のガラス化が達成できるものであれば特に限定されない。特定の態様において、急速凍結は、シート状細胞培養物を、液体窒素の液面上に配置することにより行う。シート状細胞培養物を配置する位置は、液体窒素の液面上約0.5cm〜約2cm、特に約1cmの位置であってよい。低温媒体への暴露時間は、シート状細胞培養物のガラス化が達成できるかぎり特に限定されないが、例えば、約1分〜約40分、約2分〜約30分、約3分〜約25分、約5分〜約20分であってよい。
【0061】
ステップ(4)は、ステップ(3)の前に行っても、後に行ってもよい。ステップ(4)をステップ(3)の前に行う態様において、耐寒性フィルムで被包するのは、上面および下面がメッシュ状支持体で被覆された、凍結されたシート状細胞培養物である。当該態様においては、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持した状態で凍結させた後で、シート状細胞培養物の上面および下面をメッシュ状支持体で被覆し、メッシュ状支持体ごと耐寒性フィルムで被包しても、シート状細胞培養物の上面および下面をメッシュ状支持体で被覆した状態で凍結させた後で、メッシュ状支持体ごと耐寒性フィルムで被包してもよい。一方、ステップ(4)をステップ(3)の後に行う態様において、耐寒性フィルムで被包するのは、上面および下面がメッシュ状支持体で被覆された、未凍結のシート状細胞培養物である。当該態様においては、限定されずに、例えば、上面および下面がメッシュ状支持体で被覆され、さらに当該メッシュ状支持体ごと耐寒性フィルムに被包された未凍結のシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムごと凍結してもよい。
【0062】
本発明の別の側面は、(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、および
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ
を含む、シート状細胞培養物を凍結する方法(以下、「凍結方法」と略す場合がある)に関する。
【0063】
本発明の凍結方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の製造方法について上記したとおりである。本発明の凍結方法により、脆弱なシート状細胞培養物であっても、品質を劣化させることなく長期間凍結保存することができる。
【0064】
本発明の別の側面は、(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま低温で保存するステップ
を含む、シート状細胞培養物の凍結保存方法(以下、「凍結保存方法」と略す場合がある)に関する。
【0065】
本発明の凍結保存方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の製造方法について上記したとおりである。ステップ(5)における低温での保存は、シート状細胞培養物の品質を過度に劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、約−90℃以下、約−120℃以下、約−135℃以下、約−150℃以下、約−160℃以下、約−170℃以下、約−180℃以下、約−190℃以下などの温度で行ってもよい。シート状細胞培養物をガラス化凍結する場合、低温での保存は、ガラス化状態を維持できる温度で行うことが好ましい。特定の態様において、低温での保存は液体窒素中で行う。保存期間は特に限定されず、例えば、約1週間以上、約1ヶ月以上、約2ヶ月以上、約3ヶ月以上、約6ヶ月以上、約1年以上などであってよい。
【0066】
本発明の別の側面は、(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物をフィルムで被包したまま移送するステップ
を含む、シート状細胞培養物の移送方法(以下、「移送方法」と略す場合がある)に関する。
【0067】
本発明の移送方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の製造方法について上記したとおりである。ステップ(5)における移送は、シート状細胞培養物の品質を過度に劣化させない任意の手法で行うことができる。一態様において、移送は、シート状細胞培養物を低温下に維持し、凍結状態のまま行われる。凍結状態を維持することで、シート状細胞培養物がフィルム内で移動し、メッシュ状支持体などとの接触により機械的刺激を受けることを防止するとともに、細胞の代謝を低減し、品質の劣化を防止することができる。低温での維持には、移動可能な任意の低温保存装置を用いることができる。かかる低温保存装置としては、限定されずに、例えば、液体窒素を入れた容器、携帯型のディープフリーザーなどが挙げられる。
【0068】
本発明の凍結方法、凍結保存方法および移送方法も、本発明の製造方法と同様、ステップ(1)の前に、シート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよく、その場合、シート状細胞培養物を製造するステップは、シート状細胞培養物の製造に係る上記のステップ(すなわち、細胞を凍結するステップ、細胞を解凍するステップ、細胞を洗浄するステップ、細胞を培養基材上に播種するステップ、播種した細胞をシート化するステップ、形成されたシート状細胞培養物を培養基材から単離するステップ、複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップなど)の1または2以上を含んでもよい。したがって、シート状細胞培養物が積層シート状細胞培養物である本発明の上記方法の一態様は、ステップ(1)の前に複数枚のシート状細胞培養物を積層(重層)するステップを含む。また、ステップ(1)の前に、培養基材から単離されたシート状細胞培養物(単離シート状細胞培養物と称する場合もある)を、メッシュ状支持体で支持するステップを含んでもよい。
【0069】
本発明の別の側面は、本発明の製造方法で製造された、凍結シート状細胞培養物に関する。本発明の凍結シート状細胞培養物は、解凍後も、凍結前と同程度の品質を維持しており、解凍後、煩雑な準備作業を要することなく、簡便に移植などの処置に利用することができる。本発明の凍結シート状細胞培養物は、以下の1または2以上の特性を有する:(1)解凍してもシート形状が維持される、(2)解凍しても細胞間接着が維持される、(3)解凍してもデスモゾームが維持される、(4)解凍しても細胞間マトリックスが維持される、(5)解凍しても細胞生存率が維持される、(6)解凍してもアポトーシスが検出されないか、極めて低レベルである、(7)解凍してもミトコンドリアの機能が維持される、(8)解凍してもサイトカインの発現が維持される、(9)解凍しても細胞増殖活性が維持される、(10)解凍しても細胞の微細構造が維持される。ここで、「維持される」とは、限定されずに、例えば、定性的な特性の場合は、未凍結のシート状細胞培養物との実質的な差が認められないことを意味し、定量的な特性の場合は、未凍結のシート状細胞培養物と統計学的有意差が認められないか、未凍結のシート状細胞培養物の数値との差が、例えば約25%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約15%未満、特に好ましくは約10%未満であることを意味する。
【0070】
本発明の凍結シート状細胞培養物は、上面および下面をメッシュ状支持体で被覆された状態、さらには、当該メッシュ支持体ごと耐寒性フィルムで被包された状態で提供されてもよい。上面および下面をメッシュ状支持体で被覆された状態で提供される場合、そのままの状態で解凍後、当該支持体で支持した状態で凍結保護剤の除去を行い、移植などの処置に用いることができる。また、耐寒性フィルムで被包された状態で提供される場合、そのままの状態で解凍後、シート状細胞培養物をメッシュ状支持体ごと取り出し、当該支持体で支持した状態で必要に応じて凍結保護剤の除去を行い、移植などの処置に用いることができる。
【0071】
凍結シート状細胞培養物の解凍は、凍結細胞の解凍に用いる既知の任意の手法により行うことができ、典型的には、例えば、凍結シート状細胞培養物を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器、ホットプレートなどに供したり、または、凍結シート状細胞培養物を、凍結温度より高い温度の媒体(例えば、培養液)で浸漬することにより達成されるが、これに限定されない。解凍手段または浸漬媒体の温度は、凍結シート状細胞培養物を所望の時間内に解凍できる温度であれば特に限定されないが、典型的には約4℃〜約50℃、好ましくは約30℃〜約40℃、より好ましくは約36℃〜約38℃である。また、解凍時間は、解凍後の凍結シート状細胞培養物の品質を過度に損なうものでなければ特に限定されないが、例えば、約180秒以内、約150秒以内、約120秒以内、約90秒以内、約70秒以内、約60秒以内、約50秒以内、約40秒以内、約30秒以内、約20秒以内などとすることができる。解凍時間を短くすることで品質の劣化を防止することができる。解凍時間は、例えば、解凍手段または浸漬媒体の温度、凍結時の培養液または凍結保存液の容量もしくは組成などを変化させて調節することができる。
【0072】
凍結保護剤の除去は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を洗浄液と接触させ、凍結保護剤を洗浄液に移行させることにより行うことができる。洗浄液は、凍結保護剤を含まないか、凍結保存液におけるより低い濃度で含み、シート状細胞培養物の品質を過度に損なわないものであれば特に限定されず、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなどが挙げられる。洗浄液は、血清、血清成分(血清アルブミンなど)、スクロースなどの添加物を含んでいてもよい。洗浄液は、細胞と実質的に等張であることが好ましく、等張であることがより好ましい。シート状細胞培養物と洗浄液との接触は、限定されずに、例えば、細胞培養用のディッシュやプレートなどの、シート状細胞培養物の出し入れに適した洗浄容器に入れた洗浄液に、シート状細胞培養物を浸漬することによって行うことができる。シート状細胞培養物の浸漬は、メッシュ状支持体でシート状細胞培養物を支持した状態で行ってもよい。また、凍結した状態のシート状細胞培養物を適温の洗浄液に浸漬し、解凍と凍結保護剤の除去を同時に行ってもよい。洗浄液との接触は1回のみ行っても、組成が同じであっても異なってもよい1または2以上の洗浄液にさらに接触させてもよい。凍結保護剤の除去は、凍結保護剤が、シート状細胞培養物の品質や、シート状細胞培養物による処置などに悪影響を及ぼす場合など、必要に応じて行うことができる。
【0073】
本発明の別の側面は、本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍して得た、解凍シート状細胞培養物に関する。本発明の解凍シート状細胞培養物は、本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍後、必要に応じて凍結保護剤の除去処理を行ったものであってもよい。本発明の解凍シート状細胞培養物は、以下の1または2以上の特性を有する:(1)凍結前のシート形状が維持されている、(2)凍結前の細胞間接着が維持されている、(3)凍結前のデスモゾームが維持されている、(4)凍結前の細胞間マトリックスが維持されている、(5)凍結前の細胞生存率が維持されている、(6)アポトーシスが検出されないか、極めて低レベルである、(7)凍結前のミトコンドリアの機能が維持されている、(8)凍結前のサイトカインの発現が維持されている、(9)凍結前の細胞増殖活性が維持されている、(10)凍結前の細胞の微細構造が維持されている。ここで、「維持されている」とは、限定されずに、例えば、定性的な特性の場合は、未凍結のシート状細胞培養物との実質的な差が認められないことを意味し、定量的な特性の場合は、未凍結のシート状細胞培養物と統計学的有意差が認められないか、未凍結のシート状細胞培養物の数値との差が、例えば約25%未満、好ましくは約20%未満、より好ましくは約15%未満、特に好ましくは約10%未満であることを意味する。
【0074】
本発明の別の側面は、(1)メッシュ状支持体で支持したシート状細胞培養物を、凍結保存液に浸漬するステップ、
(2)シート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、シート状細胞培養物に付着した凍結保存液を除去するステップ、
(3)メッシュ状支持体で上面および下面を被覆したシート状細胞培養物を、耐寒性フィルムで被包するステップ、
(4)シート状細胞培養物を凍結するステップ、および
(5)凍結したシート状細胞培養物を解凍するステップ
を含む、解凍シート状細胞培養物の製造方法に関する。
【0075】
本発明の解凍シート状細胞培養物の製造方法におけるステップ(1)〜(4)は、本発明の凍結シート状細胞培養物の製造方法について上記したとおりである。ステップ(5)における凍結したシート状細胞培養物の解凍は、凍結シート状細胞培養物の解凍について上記したとおりである。本発明の解凍シート状細胞培養物の製造方法は、凍結保護剤を除去するステップをさらに含んでもよい。凍結保護剤の除去は、凍結シート状細胞培養物ついて上記したとおりに行うことができる。したがって、凍結保護剤の除去は、ステップ(5)の後に行うことも、ステップ(5)と一緒に行うこともできる。
【0076】
本発明の凍結シート状細胞培養物は、解凍し、必要に応じて凍結保護剤を除去した後、組織の異常に関連する種々の疾患の処置に利用することができる。また、本発明の解凍シート状細胞培養物は、そのまま、または、必要に応じて凍結保護剤を除去した後、組織の異常に関連する種々の疾患の処置に利用することができる。したがって、一態様において、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は、従来の未凍結のシート状細胞培養物と同様の構成細胞固有の性質を有しているため、少なくとも従来の未凍結のシート状細胞培養物による処置が可能な組織や疾患に適用することができる。処置の対象となる組織としては、限定されずに、例えば、心筋、角膜、網膜、食道、皮膚、関節、軟骨、肝臓、膵臓、歯肉、腎臓、甲状腺、骨格筋、中耳などが挙げられる。また、処置の対象となる疾患としては、限定されずに、例えば、心疾患(例えば、心筋傷害(心筋梗塞、心外傷)、心筋症(拡張型心筋症)など)、角膜疾患(例えば、角膜上皮幹細胞疲弊症、角膜損傷(熱・化学腐食)、角膜潰瘍、角膜混濁、角膜穿孔、角膜瘢痕、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡など)、網膜疾患(例えば、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症など)、食道疾患(例えば、食道手術(食道ガン除去)後の食道の炎症・狭窄の予防など)、皮膚疾患(例えば、皮膚損傷(外傷、熱傷)など)、関節疾患(例えば、変形性関節炎など)、軟骨疾患(例えば、軟骨の損傷など)、肝疾患(例えば、慢性肝疾患など)、膵臓疾患(例えば、糖尿病など)、歯科疾患(例えば、歯周病など)、腎臓疾患(例えば、腎不全、腎性貧血、腎性骨異栄養症など)、甲状腺疾患(例えば、甲状腺機能低下症など)、筋疾患(例えば、筋損傷、筋炎など)、中耳疾患(例えば、中耳炎など)が挙げられる。
【0077】
シート状細胞培養物が上記疾患に有用であることは、例えば、特許文献1、非特許文献1〜2、Arauchi et al., Tissue Eng Part A. 2009 Dec;15(12):3943-9、Ito et al., Tissue Eng. 2005 Mar-Apr;11(3-4):489-96、Yaji et al., Biomaterials. 2009 Feb;30(5):797-803、Yaguchi et al., Acta Otolaryngol. 2007 Oct;127(10):1038-44、Watanabe et al., Transplantation. 2011 Apr 15;91(7):700-6、Shimizu et al., Biomaterials. 2009 Oct;30(30):5943-9、Ebihara et al., Biomaterials. 2012 May;33(15):3846-51、Takagi et al., World J Gastroenterol. 2012 Oct 7;18(37):5145-50などに記載されている。
【0078】
本発明の凍結シート状細胞培養物は、解凍および任意に凍結保護剤除去後、本発明の解凍シート状細胞培養物は、任意に凍結保護剤除去後、それぞれ処置の対象となる組織に適用し、これを修復、再生するために使用することもできるが、ホルモンなどの生理活性物質の給源として、処置の対象となる組織以外の部位(例えば、皮下組織など)に移植することもできる(例えば、Arauchi et al., Tissue Eng Part A. 2009 Dec;15(12):3943-9、Shimizu et al., Biomaterials. 2009 Oct;30(30):5943-9など)。また、シート状細胞培養物を注射可能な大きさに断片化し、これを処置が必要な部位に注射することで、単細胞懸濁液による注射よりも高い効果を得ることもできる(Wang et al., Cardiovasc Res. 2008 Feb 1;77(3):515-24)。したがって、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物についても、このような利用法が可能である。
【0079】
一態様において、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は実質的に無菌である。一態様において、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は無菌である。一態様において、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は、遺伝子操作されていない。別の態様において、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は、遺伝子操作されたものである。遺伝子操作は、限定されずに、例えば、シート状細胞培養物の生存性、生着能、機能などを高める遺伝子、および/または、疾患の治療に有用な遺伝子の導入を含む。導入される遺伝子としては、限定されずに、例えば、HGF遺伝子、VEGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子が挙げられる。また、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物は、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。
【0080】
本発明の別の側面は、本発明の凍結シート状細胞培養物または解凍シート状細胞培養物を含む、医薬組成物に関する。
本発明の医薬組成物は、本発明の凍結シート状細胞培養物または解凍シート状細胞培養物に加えて、種々の追加成分、例えば、薬学的に許容し得る担体や、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを含んでいてもよい。かかる追加成分としては、既知の任意のものを使用することができ、当業者はこれらの追加成分について精通している。かかる追加成分は、本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍した後の解凍シート状細胞培養物に添加することができる。また、本発明の医薬組成物は、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などと併用することができる。一態様において、本発明の医薬組成物は、組織の異常に関連する疾患の処置に用いるためのものである。処置の対象となる組織や疾患は、本発明の凍結シート状細胞培養物および解凍シート状細胞培養物について上記したとおりである。
【0081】
本発明の別の側面は、シート状細胞培養物と、該シート状細胞培養物の上面および下面を被覆するメッシュ状支持体と、前記メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を被包する耐寒性フィルムとを含む、シート状細胞培養物の包装物(以下、「包装物」と略す場合がある)に関する。
【0082】
本発明の包装物におけるシート状細胞培養物、メッシュ状支持体および耐寒性フィルムは、本発明の製造方法について上記したとおりである。本発明の包装物において、シート状細胞培養物は、未凍結の状態であっても、凍結状態であっても、凍結後に解凍された状態であってもよい。本発明の包装物は、そのまま凍結した後、保存、移送、解凍などの操作を容易に行うことができ、シート状細胞培養物を臨床応用する際に極めて有用である。本発明の包装物は、シート状細胞培養物に関する情報(限定されずに、例えば、シート状細胞培養物を構成する細胞が由来する対象に関する情報(対象の氏名、番号など)、ロット番号、シート状細胞培養物の製造日、凍結保存日、製造施設の名称、使用施設の名称など)を含んでいてもよい。情報は、読み取り可能な任意の態様で含まれていてもよく、限定されずに、例えば、ラベルなどに表示されていても、バーコードなどの表示を介してデータベースとリンクされていても、ICチップなどの電子記録媒体に記録されていてもよい。
【0083】
本発明の別の側面は、本発明の包装物と、洗浄容器と、洗浄液とを含むキット(セット、パックまたは組み合わせ)に関する(以下、「包装物キット」と略す場合がある)。本明細書において、用語「セット」、「パック」および「組合せ」は「キット」と互換可能に用いられ、本明細書における「キット」に関する記載は「セット」および「パック」にも適用されるものとする。
【0084】
本発明の包装物キットにおける包装物および洗浄液は、本発明の包装物および本発明の凍結シート状細胞培養物についてそれぞれ上記したとおりである。本発明の包装物キットにおける洗浄容器は、内部に洗浄液を収容し、当該洗浄液へのシート状細胞培養物の浸漬が可能なものであれば特に限定されず、例えば、細胞培養用のディッシュやプレート、または、これと類似の形状や機能を有する容器などを利用することができる。洗浄液は、液体の状態(ready-to-use形態)で提供されても、用時調製可能な形態で提供されてもよい。用時調製可能な形態としては、限定されずに、例えば、固体成分と液体成分とが別々の容器で提供され、使用時にこれらを混合して洗浄液を調製する形態などが挙げられる。
【0085】
本発明の包装物キットは、上記のほか、器具類(例えば、鋏、メス、ピペット、スポイト、ピンセット等)、廃液回収容器、キットの使用方法に関する指示(例えば、使用説明書、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0086】
本発明の包装物キットは、シート状細胞培養物による対象の処置に用いることができる。より具体的には、例えば、本発明の包装物キットを、包装物に含まれるシート状細胞培養物を凍結状態に保ったまま処置を行う施設に移送し、そこで本発明の包装物に含まれる凍結シート状細胞培養物を包装物のまま解凍し、耐寒性フィルムを、例えば、キットに付属する鋏やメスなどで開封し、包装物からメッシュ状支持体に支持された解凍シート状細胞培養物を、例えば、キットに付属するピンセットなどを利用して取り出し、洗浄容器に入れた洗浄液に浸漬して凍結保護剤を除去し、得られたシート状細胞培養物をメッシュ状支持体で支持したまま、処置を要する対象の患部に適用することができる。包装物を解凍する前に、耐寒性フィルムを開封し、メッシュ状支持体に支持された凍結した状態のシート状細胞培養物を取り出し、これを洗浄容器に入れた洗浄液に浸漬して、シート状細胞培養物の解凍と、凍結保護剤の除去を同時に行うことも可能である。本発明の包装物キットにより、凍結シート状細胞培養物を解凍し、凍結保護剤を除去し、対象に適用するという一連の操作を簡便に行うことが可能となる。
【0087】
本発明の別の側面は、本発明の解凍シート状細胞培養物の有効量を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、対象において組織の異常に関連する疾患を処置する方法(以下、「処置方法」と略す場合がある)に関する。
本発明の処置方法における対象となる組織や疾患は、本発明の解凍シート状細胞培養物について上記したとおりである。また、本発明の処置方法においては、シート状細胞培養物の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、解凍シート状細胞培養物と併用することができる。本発明の処置方法に用いる解凍シート状細胞培養物は、本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍後、凍結保護剤の除去処理を行ったものであってもよい。凍結保護剤の除去処理は、本発明の凍結シート状細胞培養物について上記したとおりである。また、本発明の処置方法に用いる解凍シート状細胞培養物は、本発明の医薬組成物に含まれていてもよい。したがって、本発明の処置方法において投与されるのは、本発明の解凍シート状細胞培養物を含む本発明の医薬組成物であってもよい。
【0088】
本発明において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、組織の異常に関連する疾患の処置が企図される場合には、典型的には当該疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0089】
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0090】
本発明において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズや重量)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0091】
投与方法としては、典型的には組織への直接的な適用が挙げられるが、シート状細胞培養物の断片を用いる場合には、注射による投与が可能な種々の経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、局所、動脈内、門脈内、心室内、腹腔内等の経路から投与してもよい。
投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。
【0092】
本発明の処置方法は、投与するステップの前に、本発明の包装物から、メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を取り出すステップを含んでもよい。この取り出すステップは、限定されずに、例えば、解凍されたシート状細胞培養物を含む本発明の包装物の耐寒性フィルムを開封し、そこから、メッシュ状支持体で被覆された解凍シート状細胞培養物を取り出すことにより行っても、凍結したシート状細胞培養物を含む本発明の包装物の耐寒性フィルムを開封し、そこから、メッシュ状支持体で被覆された凍結シート状細胞培養物を取り出すことにより行ってもよい。前者の場合、取り出すステップの前に、包装物中の凍結シート状細胞培養物を解凍するステップを含んでもよい。当該解凍するステップは、限定されずに、例えば、凍結したシート状細胞培養物を含む本発明の包装物を、解凍手段、例えば、凍結温度より高い温度の固形、液状もしくはガス状の媒体(例えば、水)、ウォーターバス、インキュベーター、恒温器、ホットプレートなどに供したり、または、凍結温度より高い温度の解凍媒体(例えば、培養液)に浸漬することなどにより達成することができる。解凍手段や解凍媒体の温度および解凍時間については、本発明の凍結シート状細胞培養物について上記したとおりである。後者の場合、取り出すステップの後に、凍結シート状細胞培養物を解凍するステップを含んでもよい。凍結シート状細胞培養物の解凍手法は、凍結シート状細胞培養物について上記したとおりである。また、取り出すステップの非限定例は、上記に本発明の包装物キットとの関連で示してある。
【0093】
一態様において、本発明の処置方法は、投与するステップの前に、本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍するステップを含んでもよい。本発明の凍結シート状細胞培養物の解凍手法については、本発明の凍結シート状細胞培養物について上記したとおりである。
【0094】
本発明の処置方法が凍結シート状細胞培養物を解凍するステップを含む場合、解凍するステップの後、必要に応じて凍結保護剤を除去するステップを含んでもよい。凍結保護剤の除去は、本発明の凍結シート状細胞培養物について上記したとおりである。
【0095】
一態様において、本発明の処置方法は、
(A1)本発明の包装物から、メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を取り出すステップ、および
(A2)解凍シート状細胞培養物の有効量を、それを必要とする対象に投与するステップを含む(以下、「処置方法A」と称することがある)。
一態様において、ステップA1におけるシート状細胞培養物は解凍されたものである(以下、「処置方法A’」と称することがある)。本発明の処置方法A’は、本発明の包装物から、メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を取り出す前に、本発明の包装物に含まれる凍結したシート状細胞培養物を解凍するステップ(ステップA1−1)を含んでもよい。一態様において、ステップA1におけるシート状細胞培養物は凍結した状態である(以下、「処置方法A’’」と称することがある)。本発明の処置方法A’’は、ステップ(A1)の後に、凍結したシート状細胞培養物を解凍するステップ(ステップA1−2)を含んでもよい。また、本発明の処置方法Aは、解凍したシート状細胞培養物から凍結保護剤を除去するステップ(ステップA1−3)を含んでもよい。したがって、一態様において、本発明の処置方法A’はステップA1−1、A1およびA2を含む。特定の態様において、本発明の処置方法A’はステップA1−1、A1、A1−3およびA2を含む。別の態様において、本発明の処置方法A’’はステップA1、A1−2およびA2を含む。特定の態様において、本発明の処置方法A’’はステップA1、A1−2、A1−3およびA2を含む。
【0096】
一態様において、本発明の処置方法は、
(B1)本発明の凍結シート状細胞培養物を解凍するステップ、および
(B2)解凍シート状細胞培養物の有効量を、それを必要とする対象に投与するステップを含む(以下、「処置方法B」と称することがある)。
一態様において、本発明の処置方法Bは、ステップ(B1)の後に、解凍したシート状細胞培養物から凍結保護剤を除去するステップ(ステップB1−1)を含んでもよい。
【0097】
本発明の処置方法は、本発明の製造方法に従って、凍結シート状細胞培養物を製造するステップをさらに含んでもよい。本発明の処置方法は、シート状細胞培養物を製造するステップの前に、対象からシート状細胞培養物を製造するための細胞または細胞の給源となる組織を採取するステップをさらに含んでもよい。一態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物の投与を受ける対象と同一の個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞または細胞の給源となる組織を採取する対象は、シート状細胞培養物の投与を受ける対象とは異種の個体である。
【0098】
本発明の別の側面は、シート状細胞培養物の上面および下面を被覆し得るメッシュ状支持体と、前記メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を被包し得る耐寒性フィルムとを備えた、シート状細胞培養物の凍結保存容器(以下、「凍結保存容器」と略す場合がある)に関する。
本発明の凍結保存容器におけるメッシュ状支持体および耐寒性フィルムは、本発明の製造方法について上記したとおりである。本発明の凍結保存容器は、シート状細胞培養物、特に、脆弱なシート状細胞培養物を、品質を劣化させずに長期間凍結保存するのに適している。本発明の凍結保存容器は、シート状細胞培養物を被包した耐寒性フィルムを収容し、これを外部からの衝撃などから保護するケースをさらに備えていてもよい。当該ケースは、シート状細胞培養物を被包した耐寒性フィルムを1個または2個以上収容することができる構成となっていてもよい。
【0099】
本発明の別の側面は、シート状細胞培養物の上面および下面を被覆し得るメッシュ状支持体と、前記メッシュ状支持体で被覆されたシート状細胞培養物を被包し得る耐寒性フィルムと、凍結保存液とを含むキット(以下、「凍結キット」と略す場合がある)に関する。
本発明の凍結キットにおけるメッシュ状支持体、耐寒性フィルムおよび凍結保存液は、本発明の製造方法について上記したとおりである。凍結保存液は、全ての成分を含む液体の状態(ready-to-use形態)で提供されても、用時調製可能な形態で提供されてもよい。用時調製可能な形態としては、限定されずに、例えば、固体成分と液体成分とが別々の容器で提供され、使用時にこれらを混合して洗浄液を調製する形態などが挙げられる。
【0100】
本発明の凍結キットは、上記のほか、浸漬容器、廃液回収容器、器具類(例えば、ピペット、スポイト、ピンセット等)、キットの使用方法に関する指示(例えば、使用説明書、使用方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0101】
本発明の凍結キットは、シート状細胞培養物の凍結や、凍結シート状細胞培養物の製造などに用いることができる。より具体的には、例えば、メッシュ状支持体で培養基材から単離されたシート状細胞培養物を培養容器から掬い上げ、メッシュ状支持体で支持されたシート状細胞培養物を、浸漬容器に収容した凍結保存液に所定時間浸漬後、浸漬容器から取り出し、シート状細胞培養物に付着した不要な凍結保存液をメッシュ状支持体を介して除去し、メッシュ状支持体でシート状細胞培養物の上面および下面を被覆し、その全体を耐寒性フィルムで被包し、フィルムに被包した状態で急速凍結することができる。本発明の凍結キットにより、シート状細胞培養物を凍結保存液に浸漬し、余分な凍結保存液を除去し、凍結するという一連の操作を簡便に行うことが可能となる。
【実施例】
【0102】
以下に、本発明を実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0103】
実施例1 筋芽細胞シートの製造および保存方法
試験例1 シート状細胞培養物の製造[1]
ヒト骨格筋から定法により調製した骨格筋芽細胞を20%ヒト血清含有DMEM−F12培地(Life Technologies)に懸濁し、温度応答性培養皿(UpCell(R)10cmディッシュ、セルシード)に4×10個/cmの密度で播種し、37℃、5%COの環境で16時間シート化培養を行った。
【0104】
試験例2 紙状支持体を用いた凍結保存
非特許文献3に記載の手法に従って凍結保存を行った。試験例1のシート化培養後、培養皿から培地を除去し、培養皿に付着しているシート状細胞培養物に紙状支持体(CellShifter、10cmディッシュ用、セルシード)を重ね、室温で5分間静置後、シート状細胞培養物を紙状支持体ごと培養皿から剥離した。紙状支持体に支持されたシート状細胞培養物を、ディッシュ中の平衡溶液(基礎溶液(20mMのHepesおよび20%の仔ウシ血清を含有するTissue Culture Medium-199(Nissui Pharmaceutical))に、10%(v/v)のDMSOおよび10%(v/v)のエチレングリコールを添加したもの)に5分間浸漬した後、同じ組成の平衡溶液を入れた別のディッシュに移し、20分間浸漬して平衡化した。次いで、凍結保存液(基礎溶液に、20%(v/v)のDMSO、20%(v/v)のエチレングリコール、0.5Mのスクロースおよび10%(w/v)のカルボキシル化ポリ−L−リジン(COOH−PLL)を添加したもの)を入れた別のディッシュに移して5分間浸漬し、次いで同じ組成の凍結保存液を入れた別のディッシュに移して15分間浸漬した。この一連の浸漬操作の間にシート状細胞培養物が破損してしまうことが多くみられた。破損したシート状細胞培養物は、その後の処理に供さずに廃棄した。ガラス化溶液からシート状細胞培養物を取り出し、紙状支持体ごとフィルム(NEWクレラップ(R)、クレハ)で被包し、周囲を溶着して密閉した。フィルムで被包したシート状細胞培養物を、上面が液体窒素上約1cmに位置するように配置した足場上に約20分間水平に保持して急速凍結した後、液体窒素中で保存した。
【0105】
試験例3 メッシュ状支持体を用いた凍結保存[1]
試験例1のシート化培養後、室温への温度処理によりシート状細胞培養物を培養皿から剥離し、手術用メッシュ(TiLENE(R) MESH extralight、pfm medical)で掬い上げ、カルボキシル化ポリ−L−リジンを含む凍結保存液(ステムセルキープ、バイオベルデ)に5分間浸漬した(図1)。上記メッシュは、ポリプロピレン製モノフィラメントで構成され、表面にチタンがコーティングしてある(重さ:16g/m、厚さ:0.20mm、目開き:≧1mm、線径:65μm、2次元開口率:73%、3次元開口率:91%、16N/cmでの弾性:34%)。次いで、シート状細胞培養物を凍結保存液から取り出し、凍結保存液を落としてから、メッシュで支持したままフィルム上においた。別のメッシュでシート状細胞培養物の上面を覆い、こうして2枚のメッシュで挟まれたシート状細胞培養物をメッシュごとフィルム(ハイブリバッグ、コスモバイオ)で被包し、周囲を溶着して密閉した(図2)。フィルムで被包したシート状細胞培養物を、上面が液体窒素上約1cmに位置するように設置した足場上に約5分間水平に保持して急速凍結した後、液体窒素中で保存した。なお、試験例2の場合と異なり、シート状細胞培養物が凍結保存操作の途中で破損することはなかった。
【0106】
試験例4 解凍後のシート状細胞培養物の評価[1]
(1)紙状支持体を用いた場合
試験例2で得た凍結シート状細胞培養物を、フィルムで被包したままホットプレート(約37〜38℃)上に約90秒間配置し、解凍した。シート状細胞培養物を、紙状支持体ごとフィルムから取り出し、非特許文献3に記載の手法に従って、凍結保存液を希釈、除去した。すなわち、紙状支持体に支持されたシート状細胞培養物を、まず復温溶液(基礎溶液に1Mのスクロースを添加したもの)に1分間浸漬し、次に希釈溶液(基礎溶液に0.5Mのスクロースを添加したもの)に移して3分間浸漬し、次に洗浄溶液(基礎溶液)に浸漬し、最後に再度同じ組成の別の洗浄溶液に浸漬した。凍結保護剤の拡散を促進するため、各溶液に浸漬中、シート状細胞培養物を軽く揺すった。
【0107】
シート状細胞培養物を、紙状支持体ごとフィルムから取り出す際に、シート状細胞培養物が破損することが多くみられた(図3)。これは、シート状細胞培養物の一部がフィルムに貼り付くことなどが原因と考えられた。また、解凍後のシート状細胞培養物を定法に従い固定、薄切してHE染色し、光学顕微鏡で観察したところ、シート表面の傷害、細胞間接着の解離などが認められた(図4)。
【0108】
(2)メッシュ状支持体を用いた場合
試験例2で得た凍結シート状細胞培養物を、フィルムで被包したままホットプレート(約37〜38℃)上に約90秒間配置し、解凍した。シート状細胞培養物を、メッシュで挟んだままフィルムから取り出し(図5)、HBSS(+)に一回浸漬して凍結保護剤を除去した。図6に示すとおり、一連の凍結・解凍操作に供した後でも、シート状細胞培養物に肉眼的な破損は見られなかった。また、解凍後のシート状細胞培養物を定法に従い固定、薄切してHE染色し、光学顕微鏡で観察したところ、シート表面の傷害や細胞間接着の解離は見られなかった(図7)。
【0109】
試験例5 凍結保存によるシート状細胞培養物への影響の評価[1]
本発明の凍結保存方法がシート状細胞培養物に与える影響を評価するため、試験例3の凍結前に得たシート状細胞培養物および試験例3で得た凍結シート状細胞培養物を用いて、以下の実験を行った。
(1)細胞間接着
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物における細胞間接着を評価するために、凍結前のシート状細胞培養物および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を定法に従い固定、薄切してHE染色し、光学顕微鏡で観察したところ、組織構造が維持されていることが確認された(図8、左側の写真)。また、同じシート状細胞培養物を定法に従い電子顕微鏡で観察したところ、細胞間接着が維持されていることを示すデスモゾームが解凍後の試料においても確認された(図8、右側の写真)。さらに、同じシート状細胞培養物を、細胞間マトリックス成分であるフィブロネクチン、コラーゲンIVまたはN−カドヘリンについて定法に従い免疫染色したところ、凍結前と解凍後との差は見られなかった(図9)。なお、使用した抗体は下表のとおりである。
【0110】
【表1】
【0111】
(2)細胞生存率
凍結前、あるいは、2日間、7日間もしくは28日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物をTrypLETM Select(Life Technologies)でシングルセルとし、トリパンブルーで染色後、自動セルカウンター(CountessTM Automated Cell Counter、Life Technologies)で生細胞を計数し、細胞生存率を評価した(n=4)。統計学的評価にはt検定を用いた。図10に結果を示す。凍結前の生存率は92.9%であったが、解凍後の細胞生存率は80%程度に維持され、保存期間による生存率の低下は見られなかった。
【0112】
(3)アポトーシス
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるアポトーシスを評価するため、凍結前のシート状細胞培養物、および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を、定法に従い、アポトーシス関連タンパク質(カスパーゼ3、8、9)およびss−DNAの免疫染色ならびにTUNEL染色に供した。免疫染色には、下表に示す1次抗体および2次抗体をそれぞれ使用した。また、TUNEL染色には、Click-iT(R) TUNEL Alexa Fluor(R) 647 Imaging Assay, for microscopy & HCS(カタログ番号:C10247、Life Technologies)を使用した。
【0113】
【表2】
図11の結果が示すとおり、アポトーシスの発生は認められなかった。
【0114】
(4)ミトコンドリア活性
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるミトコンドリア活性を評価するため、凍結前、あるいは、2日間、7日間もしくは28日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物におけるミトコンドリア関連タンパク質(SDHA、mtATP6およびmtND1)の遺伝子発現をTaqMan(R) Gene Expression Assay(カタログ番号:4331182、Life Technologies)によるリアルタイムPCRで評価した(SDHA、mtATP6およびmtND1のAssay IDは、それぞれ、Hs00188166_m1、Hs02596862_g1およびHs02596873_s1)。なお、内部標準としてGAPDH(Assay ID:Hs03929097_g1)を使用し、統計学的評価にはt検定を用いた。図12の結果が示すとおり、凍結前と解凍後とで、ミトコンドリア活性に差は見られなかった。
【0115】
(5)サイトカイン発現
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるサイトカインの発現を評価するため、凍結前、あるいは、2日間、7日間もしくは28日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物におけるサイトカイン(HIF−1α、SDF−1、HGFおよびVEGF)の遺伝子発現をTaqMan(R) Gene Expression Assay(カタログ番号:4331182、Life Technologies)によるリアルタイムPCRで評価した(HIF−1α、SDF−1、HGFおよびVEGFのAssay IDは、それぞれ、Hs00153153_m1、Hs03676656_mH、Hs00300159_m1およびHs00900055_m1)。なお、内部標準としてGAPDH(Assay ID:Hs03929097_g1)を使用し、統計学的評価にはt検定を用いた。図13の結果が示すとおり、凍結前と解凍後とで、サイトカイン発現に差は見られなかった。また、凍結前のシート状細胞培養物、および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を、定法に従い、VEGF、HIF−1αおよびHGFについて定法に従い免疫染色したところ、凍結前と解凍後との差は見られなかった(図14)。なお、使用した抗体は下表のとおりである。
【0116】
【表3】
以上の結果は、本発明の方法により、骨格筋芽細胞などで構成される脆弱なシート状細胞培養物も、品質を劣化させることなく長期間凍結保存できることを示すものである。
【0117】
実施例2 iPS由来心筋細胞シートの製造および保存方法
試験例6 シート状細胞培養物の製造[2]
(1)ヒトiPS細胞からの心筋細胞の誘導
ヒトiPS細胞(253G1株)を理化学研究所バイオリソースセンターから購入し、直径10cmの培養皿内で、5ng/mLのbFGF(basic fibroblast growth factor、リプロセル社製、以下同様)を添加したPrimate ES Cell Medium(リプロセル社製)中、マイトマイシンC処理を施したマウス胎児線維芽細胞(MEF、リプロセル社製)上で維持した。細胞の継代は、3〜4日ごとに、コロニーを維持したまま(単細胞懸濁液にせずに)、細胞剥離液(CTK溶液、リプロセル社製、以下同様)を用いて行った。
【0118】
心筋細胞の誘導は、浮遊培養下の胚様体(EB)に所定の添加物を所定の時期に作用させることにより行った。10枚の培養皿から細胞剥離液で剥離したヒトiPS細胞の凝集塊(約2×10細胞)を、10μMのROCK阻害剤(Y-27632、和光純薬社製)を添加した100mLのmTeSRTM1(STEMCELL Technologies社製)に再懸濁し、撹拌機能付培養装置(Bio Jr. 8、エイブル社製)に導入した。培養中、撹拌速度を40rpm、溶解酸素濃度を40%、pHを7.2、温度を37℃にそれぞれ維持した。溶解酸素濃度の調節は空気、酸素または窒素により、pHの調節はCOの添加によりそれぞれ行った。
【0119】
培養装置内での培養開始(0日目)の1日後(1日目)に、培地を、0.5ng/mLのBMP4(R&D Systems社製、以下同様)を添加した心筋細胞誘導用基本培地(50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich社製)、2mMのL−グルタミンおよび400μMの1−チオグリセロール(Sigma-Aldrich社製)を含むStemPro(R)-34 SFM(Life Technologies社製))に置換した。その後、以下の時期に、培地を、以下の添加物を含む心筋細胞誘導用基本培地に置換した。2日目:10ng/mLのBMP4、5ng/mLのbFGFおよび3ng/mLのアクチビンA(R&D Systems社製)、5日目:4μMのWntシグナル阻害剤(IWR-1-endo、和光純薬社製)、7日目:5ng/mLのVEGF(R&D Systems社製)および10ng/mLのbFGF。その後、9、11、13および15日目に、7日目と同じ培地(すなわち、5ng/mLのVEGFおよび10ng/mLのbFGFを添加した心筋細胞誘導用基本培地)で培地交換を行った。こうしてヒトiPS細胞由来の心筋細胞を含む細胞集団(細胞塊)を得た。当該細胞集団は、0.05%トリプシン/EDTAで解離後、残存する細胞凝集物をストレイナー(BD Bioscience社製)で除去した。
【0120】
(2)心筋細胞のシート化培養
前工程(1)で得た解離した細胞集団を用い、培養期間を5日とした以外は、試験例1の方法に従いシート状細胞培養物を製造した。
【0121】
試験例7 メッシュ状支持体を用いた凍結保存[2]
試験例6(2)で得たシート化細胞培養物を、拍動を確認した後に培養皿から剥離し、試験例3の方法に従い凍結保存した。
【0122】
試験例8 解凍後のシート状細胞培養物の評価[2]
試験例7で得た凍結シート状細胞培養物を、試験例4(2)の方法で解凍し、凍結保護剤を除去した。図15に示すとおり、凍結前(上段)および一連の凍結・解凍操作に供した後(下段)でも、シート状細胞培養物に肉眼的な破損は見られなかった。
【0123】
試験例9 凍結保存によるシート状細胞培養物への影響の評価[2]
本発明の凍結保存方法がシート状細胞培養物に与える影響を評価するため、試験例7の凍結前に得たシート状細胞培養物および試験例7で得た凍結シート状細胞培養物を用いて、以下の実験を行った。
(1)細胞間接着
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物における細胞間接着を評価するために、凍結前のシート状細胞培養物および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を定法に従い固定、薄切してHE染色し、光学顕微鏡で観察したところ、組織構造が維持されていることが確認された(図16、左から1番目の写真)。さらに、同じシート状細胞培養物を、細胞間マトリックス成分であるフィブロネクチン、コラーゲンIIIまたはN−カドヘリンについて定法に従い免疫染色したところ、凍結前と解凍後との差は見られなかった(図16、左から2〜4番目の写真)。なお、使用した抗体は下表のとおりである。
【0124】
【表4】
【0125】
(2)細胞生存率
凍結前または2日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物をTrypLETM Select(Life Technologies)でシングルセルとし、トリパンブルーで染色後、自動セルカウンター(CountessTM Automated Cell Counter、Life Technologies)で生細胞を計数し、細胞生存率を評価した(n=10)。統計学的評価にはt検定を用いた。図17に結果を示す。凍結前の生存率は92.6±1.5%であったが、解凍後の細胞生存率は86.2±2.8%程度に維持され、保存期間による生存率の低下は見られなかった。
【0126】
(3)アポトーシス
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるアポトーシスを評価するため、凍結前のシート状細胞培養物、および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を、定法に従い、アポトーシス関連タンパク質(カスパーゼ8、カスパーゼ9、シトクロム−CおよびBCL−2)およびss−DNAの免疫染色ならびにTUNEL染色に供した。免疫染色には、下表に示す1次抗体および2次抗体をそれぞれ使用した。また、TUNEL染色には、Click-iT(R) TUNEL Alexa Fluor(R) 647 Imaging Assay, for microscopy & HCS(カタログ番号:C10247、Life Technologies)を使用した。
【0127】
【表5】
図18および19の結果が示すとおり、凍結保存前後でこれらのタンパク質の発現に大きな変化は認められなかった。
【0128】
(4)ミトコンドリア活性
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるミトコンドリア活性を評価するため、凍結前または2日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物におけるミトコンドリア関連タンパク質(SDHA、mtATP6およびmtND1)の遺伝子発現をTaqMan(R) Gene Expression Assay(カタログ番号:4331182、Life Technologies)によるリアルタイムPCRで評価した(SDHA、mtATP6およびmtND1のAssay IDは、それぞれ、Hs00188166_m1、Hs02596862_g1およびHs02596873_s1)。なお、内部標準としてGAPDH(Assay ID:Hs03929097_g1)を使用し、統計学的評価にはt検定を用いた。図20の結果が示すとおり、凍結前と解凍後とで、ミトコンドリア活性に差は見られなかった。また、凍結前のシート状細胞培養物および凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を定法に従い電子顕微鏡で観察したところ、ミトコンドリアに大きな変化は見られなかった(図21)。
【0129】
(5)サイトカイン発現
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物におけるサイトカインの発現を評価するため、凍結前または2日間凍結保存してから解凍した後のシート状細胞培養物におけるサイトカイン(HIF−1α、SDF−1、HGFおよびVEGF)の遺伝子発現をTaqMan(R) Gene Expression Assay(カタログ番号:4331182、Life Technologies)によるリアルタイムPCRで評価した(HIF−1α、SDF−1、HGFおよびVEGFのAssay IDは、それぞれ、Hs00153153_m1、Hs03676656_mH、Hs00300159_m1およびHs00900055_m1)。なお、内部標準としてGAPDH(Assay ID:Hs03929097_g1)を使用し、統計学的評価にはt検定を用いた。図22の結果が示すとおり、凍結前と解凍後とで、サイトカイン発現に差は見られなかった。また、凍結前のシート状細胞培養物および凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を、定法に従い、VEGF、HIF−1αおよびHGFについて定法に従い免疫染色したところ、凍結前と解凍後との差は見られなかった(図23)。なお、使用した抗体は下表のとおりである。
【0130】
【表6】
【0131】
(6)増殖性細胞
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物に含まれる増殖性細胞(Ki67陽性細胞)の比率を評価するため、凍結前のシート状細胞培養物および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を、定法に従い、細胞増殖関連タンパク質(Ki67)の免疫染色に供した。免疫染色には、下表に示す1次抗体および2次抗体をそれぞれ使用した。免疫染色凍結前および解凍後のシート状細胞培養物を、TrypLETM Select(Life Technologies)でシングルセルとし、自動セルカウンター(CountessTM Automated Cell Counter、Life Technologies)でKi67陽性率を計数した(n=5)。統計学的評価にはt検定を用いた。図24および25の結果が示すとおり、凍結前のKi67陽性率は5.9±1.5%であったが、解凍後のKi67陽性率は5.8±1.3%であり、凍結前と解凍後とで、Ki67陽性率に差は見られなかった。
【0132】
【表7】
【0133】
(7)微細構造
凍結前および解凍後のシート状細胞培養物における微細構造を評価するために、凍結前のシート状細胞培養物および2日間凍結保存後に解凍したシート状細胞培養物を定法に従い電子顕微鏡で観察したところ、細胞像、核、細胞間接着およびサルコメアについて、凍結前と解凍後との差は見られず(図26)、細胞間接着が維持されていることを示すデスモゾームが解凍後の試料においても確認された(図26左から3番目の写真)。
【0134】
以上の結果は、本発明の方法により、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞などで構成される脆弱なシート状細胞培養物も、品質を劣化させることなく長期間凍結保存できることを示すものである。
【0135】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。
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