(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
薬剤が、香料成分、消臭成分、殺虫成分、抗菌成分、及び昆虫忌避成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものである、請求項1記載の液状発煙性蒸散剤。
請求項1若しくは2に記載の液状発煙性蒸散剤、またはそれを多孔質基材に含浸させてなる芯材を、通電により100℃以上に発熱する発熱体に供給し、加熱することにより、上記液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸散させる工程を有する、薬剤蒸散方法または薬剤による空間処理方法。
上記液状発煙性蒸散剤が少なくとも線香の香りを有する香料成分を薬剤として含有するものであって、電気式疑似線香装置として使用される、請求項7または8に記載する薬剤蒸散器。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来技術を背景として、従来より、薬剤を含む蒸散剤を、用時に加熱することで視認可能な煙状態(即ち、エアロゾル状態)で室内空間に蒸発でき、一方で非加熱時は蒸発を抑制することで、蒸散剤を開放系容器内にて常に外気に触れた状態で収容した場合でも、蒸散剤の早期消失が抑制され、薬剤の効果を持続的に得ることができる薬剤蒸散技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することである。具体的には、用時に加熱することで視認可能な煙状に空間に蒸散され、しかも非加熱時は蒸散が抑制されることで、開放系容器内に常に外気に触れた状態で収容された場合でも、早期消失が抑制されてなる液状発煙性蒸散剤を提供することである。また本発明の課題は、当該液状発煙性蒸散剤の使用方法(用途)を提供することである。具体的には、当該液状発煙性蒸散剤を用いた薬剤の蒸散方法または薬剤による空間処理方法、および当該方法に使用される薬剤蒸散器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(A)薬剤と溶媒を含有する液状発煙性蒸散剤において、(B)溶媒の沸点を170℃以上とし、(C)液状発煙性蒸散剤の20℃における平均蒸気圧を0.1〜10Paに、且つ(D)液状発煙性蒸散剤に含まれる可溶性成分の平均分子量を150〜250にすることで、上記課題を解決した液状発煙性蒸散剤が得られることを見出した。具体的には、当該液状発煙性蒸散剤は、100℃以上の温度で加熱することで、視認可能な煙状態(即ち、エアロゾル状態)で室内空間に蒸散する一方、非加熱条件下では、蒸散剤が開放系容器内に外気に接触した状態で収容されている場合でも、蒸散剤の蒸発が有意に抑制されており、その結果、薬剤の効果の早期消失が抑制され、所望の持続性が維持できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様を提供する。
(I)液状発煙性蒸散剤
(I−1)(A)薬剤及び溶媒を含有する液状の発煙性蒸散液剤であって、
(B)上記溶媒の沸点が170℃以上であり、
(C)蒸散液剤の20℃における平均蒸気圧が0.1〜10Paで、且つ
(D)蒸散液剤に含まれる可溶性成分の平均分子量が150〜250、
であることを特徴とする、液状発煙性蒸散剤。
(I−2)上記溶媒の沸点が170℃〜350℃である、(I−1)記載の液状発煙性蒸散剤。
(I−3)上記溶媒が、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコール系溶媒、及び炭化水素系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である、(I−1)または(I−2)に記載の液状発煙性蒸散剤。
(I−4)上記溶媒が、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコール、及びジエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤。
(I−5)薬剤が、香料成分、消臭成分、殺虫成分、抗菌成分、及び昆虫忌避成分からなる群より選択される少なくとも1種を含有するものである(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤。
(I−6)液状発煙性蒸散剤に含まれる溶媒の配合割合が10〜99.9重量%である、(I−1)〜(I−5)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤。
(I−7)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤を多孔質基材に含浸させてなる芯材。
(I−8)上記多孔質基材からなる芯材が、ガラス繊維、炭素繊維、アクリル繊維とメラミン樹脂とを練り込んだ繊維、及びPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、(I−7)記載の芯材。
(I−9)液密性および気密性を有する包装体に密封状態で封入されてなる、(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤、または(I−7)若しくは(I−8)に記載する芯材。
【0010】
(II)薬剤蒸散方法または空間処理方法
(II−1)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載の液状発煙性蒸散剤、またはそれを多孔質基材に含浸させてなる芯材を、通電により100℃以上に発熱する発熱体に供給し、加熱することにより、上記液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸散させる工程を有する、薬剤蒸散方法または薬剤による空間処理方法。
(II−2)上記発熱体が、通電により100〜350℃に発熱するものである、(II−1)記載の薬剤蒸散方法または薬剤による空間処理方法。
(II−3)液状発煙性蒸散剤に含まれる溶媒の沸点が170〜350℃であり、前記発熱体の発熱温度が100〜350℃である、(II−1)または(II−2)に記載する薬剤蒸散方法または薬剤による空間処理方法。
【0011】
(III)薬剤蒸散器
(III−1)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する液状発煙性蒸散剤を含浸した芯材と、
通電されて100℃以上に発熱する発熱体を有し、
上記発熱体は、少なくとも通電時に上記芯材に接触または近接するように配置されて、当該芯材を加熱し芯材に吸収された液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる、
薬剤蒸散器。
(III−2)(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する液状発煙性蒸散剤を収容したコンテナと、
上記コンテナ内に挿入され、上記コンテナ内から上記液状発煙性蒸散剤を吸い上げ、これを含浸してなる芯材と、
通電されて100℃以上に発熱する発熱体を有し、
上記発熱体は、少なくとも通電時に上記芯材に接触または近接するように配置されて、当該芯材を加熱し芯材に吸収された液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる、
薬剤蒸散器。
(III−3)上記発熱体が通電されて100℃〜350℃に加熱されるものである、(III−1)または(III−2)に記載する薬剤蒸散器。
(III−4)上記液状発煙性蒸散剤が少なくとも線香の香りを有する香料成分を薬剤として含有するものであって、電気式疑似線香装置として使用される、(III−1)〜(III−3)のいずれかに記載する薬剤蒸散器。
【0012】
また本発明の薬剤蒸散器には、
図3〜18に具体的に示される態様の薬剤蒸散器が含まれる。当該薬剤蒸散器は、具体的には下記の態様A及びBとして説明することができる。
【0013】
(態様A)
(III−A−1)液状発煙性蒸散剤を収容するコンテナと、
前記コンテナ内に挿入され、前記コンテナ内から前記液状発煙性蒸散剤を吸い上げる芯材と、
前記芯材を加熱し、前記芯材に吸収されている前記液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる加熱部と、
前記煙状の液状発煙性蒸散剤が通り抜けるためのトンネル通路を画定するとともに、下端に前記トンネル通路のトンネル入口を有し、上端に前記トンネル通路のトンネル出口を有するトンネル部材とを備え、
前記コンテナは、前記トンネル入口の下方に位置し、前記トンネル通路内で結露した後、前記トンネル入口を介して前記トンネル通路内から落下してくる液状の前記液状発煙性蒸散剤を受け取るための皿部を有し、
前記皿部には、前記コンテナの内部空間に連通する液戻し通路が形成されている、
薬剤蒸散器。
(III−A−2)前記皿部は、前記内部空間の上面を画定する底面部と前記底面部の外周に沿って起立する外周壁とを有し、前記底面部には、前記液戻し通路としての開口が形成されている、(III−A−1)に記載の薬剤蒸散器。
(III−A−3)前記トンネル入口を囲みつつ、前記トンネル入口と前記コンテナとの間を延びるように配置された壁部材をさらに備え、
前記壁部材には、前記トンネル入口を介して前記トンネル通路内に空気を送り込むための空気吸入口が形成されている、(III−A−1)又は(III−A−2)に記載の揮散器。
(III−A−4)前記トンネル入口を囲みつつ、前記トンネル入口と前記コンテナとの間を延びるように配置された壁部材をさらに備え、
前記壁部材には、前記トンネル入口を介して前記トンネル通路内に空気を送り込むための空気吸入口が形成されており、
前記壁部材の外側面は、前記皿部の前記外周壁の内周面に接触する、(III−A−2)に記載の薬剤蒸散器。
(III−A−5)前記コンテナを前記壁部材を介して前記トンネル部材に対して付勢する付勢部材をさらに有する、(III−A−3)又は(III−A−4)に記載の薬剤蒸散器。
(III−A−6)前記トンネル部材は、前記トンネル通路を画定する内壁面を有するとともに、前記内壁面から内方に向かって突出する凸部を有する、(III−A−1)〜(III−A−5)のいずれかに記載の薬剤蒸散器。
(III−A−7)前記凸部は、前記トンネル出口付近から少なくとも前記トンネル入口付近まで連続的に延びている、(III−A−6)に記載の薬剤蒸散器。
【0014】
(態様B)
(III−B−1)液状発煙性蒸散剤を収容するコンテナと、
前記コンテナ内に挿入され、前記コンテナ内から前記液状発煙性蒸散剤を吸い上げる芯材と、
前記芯材を加熱し、前記芯材に吸収されている前記液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる加熱部と、
前記コンテナから所定の間隔を空けて上方に位置し、前記煙状の液状発煙性蒸散剤が通り抜けるためのトンネル通路を画定するとともに、下端に前記トンネル通路のトンネル入口を有し、上端に前記トンネル通路のトンネル出口を有するトンネル部材と、
前記トンネル入口を囲みつつ、前記トンネル入口と前記コンテナとの間を延びるように配置された壁部材とを備え、
前記壁部材には、前記トンネル入口を介して前記トンネル通路内に空気を送り込むための空気吸入口が形成されている、薬剤蒸散器。
(III−B−2)前記壁部材は、前記トンネル入口の周方向に沿って前記空気吸入口となる隙間を空けながら、前記トンネル入口と前記コンテナとの間を延びるように配置されている、(III−B−1)に記載の薬剤蒸散器。
(III−B−3)前記トンネル部材は、前記トンネル通路を画定する内壁面を有するとともに、前記内壁面から内方に向かって突出する凸部を有する、(III−B−1)又は(III−B−2)に記載の薬剤蒸散器。
(III−B−4)前記凸部は、前記トンネル出口付近から少なくとも前記トンネル入口付近まで連続的に延びている、(III−B−3)に記載の薬剤蒸散器。
(III−B−5)前記凸部は、前記トンネル通路の横断面視において中央に達していない、(III−B−3)又は(III−B−4)に記載の薬剤蒸散器。
(III−B−6)前記トンネル部材は、前記内壁面の周方向に沿って異なる位置からそれぞれ突出する複数の前記凸部を有する、(III−B−3)〜(III−B−5)のいずれかに記載の薬剤蒸散器。
(III−B−7)前記複数の凸部は、周方向に沿って概ね等間隔に配置されている、(III−B−6)に記載の薬剤蒸散器。
(III−B−8)前記壁部材は、前記トンネル部材と一体的に形成されている、(III−B−1)〜(III−B−7)のいずれかに記載の薬剤蒸散器。
(III−B−9)前記加熱部は、前記トンネル通路内において前記トンネル通路の延びる方向に沿って中央よりも下側に配置され、通電されることにより発熱する発熱体を有する、(III−B−1)〜(III−B−8)のいずれかに記載の薬剤蒸散器。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱条件下で速やかに蒸発する一方、非加熱条件では開放系容器内に外気に接触した状態で収容されている場合でも、蒸発が有意に抑制されてなる液状発煙性蒸散剤を提供することができる。具体的には、本発明の液状発煙性蒸散剤は、必要時に100℃以上の温度で加熱されることで、視認可能な煙状態(即ち、エアロゾル状態)として室内空間に蒸発して室内空間に薬剤を蒸散することができる一方、不要時は非加熱状態にすることで、その蒸発を有意に抑制することができる(自然蒸発の抑制)。このように、本発明の液状発煙性蒸散剤及びそれを用いた蒸散方法によれば、加熱と非加熱(通電と非通電)を切り替えることで、薬剤の蒸発のオン/オフのコントロールが可能となり、自然蒸発による薬剤効果の早期消失を抑制して所望の持続性を維持しながら、薬剤で空間を処理することができる。
【0016】
また、薬剤として線香の香りがする香料成分を配合した液状発煙性蒸散剤を用いた本発明の薬剤蒸散器は、電熱加熱式の疑似線香器として使用することができる。具体的には、不用時は通電をオフとして非加熱状態にすることで液状発煙性蒸散剤の蒸発を抑制する一方、必要時(用時)は、通電することで発熱させた発熱体を介して芯材に含浸させた液状発煙性蒸散剤を加熱して速やかに蒸発させて白煙状の疑似線香を放出させることができる。このように本発明によれば、通電と非通電(加熱と非加熱)を切り替えることで疑似線香の白煙放出のオン/オフを簡単にコントロールでき、しかも自然蒸発による線香効果の早期消失が抑制されて、所望の効果を持続的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(I)液状発煙性蒸散剤
本発明の液状発煙性蒸散剤(以下、単に「蒸散液剤」とも称する)は、下記の特徴を有する。
(A)薬剤及び溶媒を含有する。
(B)上記溶媒の沸点が170℃以上である。
(C)蒸散液剤の20℃における平均蒸気圧が0.1〜10Paである。
(D)蒸散液剤に含まれる可溶性成分の平均分子量が150〜250である。
【0019】
以下、これらの特徴について説明する。なお、本明細書において「煙状(またはエアロゾル状)」とは、薬剤を含む蒸散液剤が蒸発する様子が、線香の煙のように視認される状態を意味し、「液状発煙性蒸散剤(発煙性蒸散液剤)」とは液剤が蒸発する際に発煙し、当該煙が線香の煙のように視認される液状の組成物を意味する。
【0020】
本発明の蒸散液剤で使用される溶媒は、沸点が170℃以上であり、空間への蒸散に使用できるものであればよく、例えばアルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコール系溶媒、及び炭化水素系溶媒等を例示することができる。制限はされないものの、当該溶媒として、具体的には、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(沸点174℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)等のアルコール系溶媒;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点190℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点242℃)、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(沸点212℃)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点229℃)、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(沸点274℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点209℃)、プロピレングリコールフェニルエーテル(沸点243℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)(沸点230℃)等のグリコールエーテル系溶媒;プロピレングリコール(沸点178℃)、プロピレングリコール(沸点187℃)、エチレングリコール(沸点198℃)、ヘキシレングリコール(沸点198℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)等のグリコール系溶媒;イソパラフィン、ノルマルパラフィン等の炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0021】
なお、ここで「空間」には、屋内空間;室内空間;車内空間;押し入れ、クローゼットまたは下駄箱などの内部における閉鎖空間;屋外における開放空間が含まれる。
【0022】
これらの溶媒の中でも、煙状(エアロゾル状)の形成能を高めるために、好ましくはグリコール系溶媒が使用される。グリコール系溶媒の中でも好ましくはジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールである。
【0023】
本発明の蒸散液剤において、上記溶媒の配合割合については、後述する上記(C)及び(D)の要件を満たす限り、特に制限されず、蒸散液剤の総量100重量%当たり、例えば10〜99.9重量%の範囲から適宜選択することができる。蒸散液剤を視認可能な煙状(即ち、エアロゾル状)で蒸散させる機能をより一層高めるためには、蒸散液剤中の上記溶媒の配合割合を、25〜99.9重量%の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは30〜80重量%である。
【0024】
本発明の蒸散液剤には、当該蒸散液剤が空間に蒸散された際に発揮される所望の機能(作用効果)に応じて、香料成分、消臭成分、殺虫成分(殺ダニ成分を含む)、抗菌成分、及び昆虫忌避成分等の薬剤成分が配合される。このような薬剤成分については、使用される環境で大気(空気)中に蒸散可能であり、且つ後述する上記(C)及び(D)の要件を満たす限り、油性又は水性のいずれであってもよい。制限されるものではないが、本発明で使用される蒸散液剤は、それが薬剤成分として香料成分を含む場合には芳香液として、消臭剤成分を含む場合には消臭液として、香料及び消臭剤成分を含む場合には芳香消臭液として、殺虫剤成分(殺ダニ剤成分)を含む場合には殺虫液(殺ダニ液)として、抗菌剤成分を含む場合には抗菌液として、及び昆虫忌避剤成分を含む場合には昆虫忌避液として、各々使用される。
【0025】
本発明の蒸散液剤は、香料成分または/および消臭成分を蒸散させて空間(好ましくは屋内空間)に芳香効果または/及び消臭効果を付与するのに好適に使用することができる。さらに薬剤成分として抗菌成分を配合することもでき、こうすることで上記芳香効果または/及び消臭効果に加えて、空間(好ましくは屋内空間)に抗菌効果を付与することができる。このため、本発明で使用される薬剤成分として、好ましくは、香料成分、消臭成分及び抗菌成分からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。後述する実施例では、本発明の発煙性蒸散液剤の実施態様の一例として、線香が焚かれるような匂い(線香の香)の芳香液を含有する実施態様を示している。
【0026】
本発明の蒸散液剤に配合される香料成分については、天然香料、天然香料から分離された単離香料、合成香料のいずれであってもよく、従来の芳香剤に使用されている公知の香料成分を使用することができる。香料成分として、具体的には、炭素数6〜12のアルデヒド、アニスアルデヒド、アセタールR、アセトフェノン、アセチルセドレン、アドキサール、アリルアミルグリコレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、アルファダマスコン、アンブレットリッド、アンブロキサン、アミルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒドジメチルアセタール、アミルバレリアネート、アミルサリシレート、イソアミルアセテート、アセチルユゲノール、イソアミルサリシレート、インドール、αイオノン、βイオノン、αメチルイオノン、βメチルイオノン、γメチルイオノン、インデン、エチルワニリン、オウランチオール、オークモスNo.1、オリボン、オキシフェニロン、カリオフィレン、カシュメラン、カルボン、ガラキソリッド、キャロン、クマリン、パラクレジールメチルエーテル、ゲラニオール、ゲラニルアセテート、ゲラニルフォーメート、ゲラニルニトリル、テトラヒドロゲラニオール、テトラヒドロゲラニールアセテート、コアボン、サンダロア、サンデラ、サンタレックス、サンタリノール、メチルサリシレート、シンナミックアルコール、シンナミックアルデヒド、シスジャスモン、シトラール、シトラールジメチルアセタール、シトラサール、シトロネラール、シトロネロール、シトロネリルアセテート、シトロネリルフォーメート、シトロネリルニトリル、シクラセット、シクラメンアルデヒド、シクラプロップ、シンナミルアセテート、ジヒドロジャスモン、ジメトール、イソシクロシトラール、ジャスマール、ジャスモラクトン、ジャスモフィラン、スチラリールアセテート、スチラリールプロピオネート、セドロアンバー、セドリルアセテート、セドロール、セレストリッド、βダマスコン、αターピネオール、γターピネオール、ターピニルアセテート、チモール、デルタダマスコン、デルタC6〜C13ラクトン、トナリッド、トラセオライド、トリプラール、イソノニルアセテート、ネロール、ネリールアセテート、ネオベルガメート、ノピールアセテート、ノピールアルコール、バクダノール、ヒヤシンスジメチルアセタール、ヒドロトロピックアルコール、ヒドロキシシトロネラール、αピネン、ブチルブチレート、パラターシャリーブチルシクロヘキサノール、パラターシャリーブチルシクロヘキシルアセテート、オルトターシャリーブチルシクロヘキサノール、ジフェニルオキサイド、フルイテート、フェンチールアルコール、フェニルエチルフェニルアセテート、イソブチルキノリン、フェニルエチルアルコール、フェニルエチルアセテート、フェニルアセトアルデハイドジメチルアセタール、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルサリシレート、ベルガミールアセテート、ベンズアルデヒド、ベンジルフォーメート、ジメチルベンジルカービノール、ヘディオン、ヘリオナール、ヘリオトロピン、シス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニールアセテート、シス−3−ヘキセニールサリシレート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘキシルサリシレート、ペンタリッド、ベルドックス、オルトボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルネオール、エンド−ボルネオール、マンザネート、マイヨール、ミューゲアルデヒド、ミラックアルデヒド、ジヒドロミルセノール、ジミルセトール、ムゴール、ムスクTM−II、ムスク781、ムスクC14、ムスクT、ムスクケトン、ムスクチベチン、ムスクモスケン、メンサニールアセテート、メンソネート、メチルアンスラニレート、メチルユゲノール、メントール、メチルフェニルアセテート、ユゲノール、イソユゲノール、メチルイソユゲノール、γC6〜13ラクトン、ライムオキサイド、メチルラベンダーケトン、ジヒドロリナロール、リグストラール、リリアール、リモネン、リナロール、リナロールオキサイド、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロリナリールアセテート、リナリルアセテート、リラール、ルバフラン、ローズフェノン、ローズオキサイド、ワニリン、ベンゾイン、ペルーバルサム、トルーバルサム、チュベローズ油、ムスクチンキ、カストリウムチンキ、シベットチンキ、アンバーグリスチンキ、ペパーミント油、ペリラ油、プチグレン油、パイン油、ローズ油、ローズマリー油、しょう脳油、芳油、クラリーセージ油、サンダルウッド油、スペアミント油、スパイクラベンダー油、スターアニス油、ラバンジン油、ラベンダー油、レモン油、レモングラス油、ライム油、ネロリ油、オークモス油、オコチア油、パチュリ油、タイム油、トンカ豆チンキ、テレピン油、ワニラ豆チンキ、バジル油、ナツメグ油、シトロネラ油、クローブ油、ボアドローズ油、カナンガ油、カルダモン油、カシア油、シダーウッド油、オレンジ油、マンダリン油、タンジェリン油、アニス油、ベイ油、コリアンダー油、エレミ油、ユーカリ油、フェンネル油、ガルバナム油、ゼラニウム油、ヒバ油、桧油、ジャスミン油、ベチバー油、ベルガモット油、イランイラン油、グレープフルーツ油、ゆず油等を挙げることができる。これらの香料成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて調香して使用することもできる。
【0027】
また、本発明の蒸散液剤に配合される消臭成分としては、例えば、イネ、松、ヒノキ、笹、緑茶等の植物の抽出物;アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;セチルビリジニウム塩、ベンゾイソチアゾリン等の複素環化合物;酸化銀、銀含有の水溶性ガラス、銀を担持させたゼオライト、銀ナノ粒子、銀イオン、硝酸銀、硫化銀等の銀化合物;酸化亜鉛、酸化銅、亜鉛イオン、銅イオン、金ナノ粒子等の金属化合物;シクロデキストリンやシクロファン等の包接化合物;両性界面活性剤系消臭剤、アミノ酸系消臭剤などの両性化合物;シリカゲル、アルミナ、活性炭、ゼオライト等の吸着物質の微細粉末等が挙げられる。これらの消臭成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明の蒸散液剤に配合される抗菌成分としては、例えば、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムグルコン酸、クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、アリルイソチオシアネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられる。これらの抗菌成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の蒸散液剤に配合される殺虫成分(殺ダニ成分)としては、例えば、パラチオン、ジクロルボス、マラチオン、フェニトロチオン、ジクロロジフェニルトリクロロエタン、ピレトリン、ペルメトリン、イミプロスリン、エトフェンプロックス、イミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン、カルバリル、プロポクサー、フェノブカーブ等が挙げられる。これらの殺虫成分(殺ダニ成分)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の蒸散液剤に配合される昆虫忌避成分としては、例えば、DEET、ピサボロール、イソピンピネリン、ベルガブテン、ザントトキシン、コクサギン、ジハイドロコクサギン、ジメチルテレフタレート、ジエチルテレフタレート、N,N-ジエチル-m-トルアミド、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、p-メンタン-3,8-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジ-n-プロピルイソシンコメロネ-ト、p-ジクロロベンゼン、ジ-n-ブチルサクシネート、カラン-3,4-ジオール、1-メチルプロピル-2- (2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート、イソチオシアン酸アリル等が挙げられる。さらに、テルペン炭化水素類香料、テルペンアルコール類香料、フェノール類香料、芳香族アルコール類香料、アルデビド類香料、カラシ、ワサビなどの植物抽出物や木酢液等が挙げられる。これらの昆虫忌避成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0031】
これらの薬剤成分(香料成分、消臭成分、殺虫成分、抗菌成分、及び昆虫忌避成分)は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0032】
本発明の蒸散液剤において、上記薬剤成分の配合割合については、後述する上記(C)及び(D)の要件を満たすことを条件に、0.01〜90重量%の範囲から当該成分の種類に応じて適宜設定することができる。好ましくは1〜75重量%の範囲である。
【0033】
また本発明の蒸散液剤は、前述する溶媒及び薬剤のほか、後述する上記(C)及び(D)の要件を満たすことを条件に、本発明の効果を妨げない範囲で、水、エタノール等の薬剤成分の溶解剤;非イオン性界面活性剤(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油など)、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン等の防腐剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;顔料、染料等の色素;シリコーン等の添加剤を適当量含有してもよい。
【0034】
本発明の蒸散液剤は、最終液剤の20℃における平均蒸気圧が10Pa以下であることを特徴とする。好ましくは平均蒸気圧0.1〜10Pa、より好ましくは0.1〜5Paである。
【0035】
ここで平均蒸気圧とは、本発明の蒸散液剤に含まれる全成分の20℃における蒸気圧の平均値を意味し、具体的には各成分の蒸気圧から計算式から求めることができる(理論値)。なお、各成分の蒸気圧は、OECDテストガイドラインに従って求めることができるし、また各成分について化学物質安全データシート(MSDS)などで公表される蒸気圧情報から取得することができる。具体的には、例えば蒸散液剤が、20℃における蒸気圧が蒸気圧αであるA成分30重量%、蒸気圧βであるB成分10重量%、及び蒸気圧γであるC成分60重量%からなる場合、その平均蒸気圧は下記の式から算出することができる:
【数1】
【0036】
また本発明の蒸散液剤は、それに含まれる可溶性成分の平均分子量が150〜250であることを特徴とする。好ましくは平均分子量150〜200である。
ここで平均分子量とは、本発明の蒸散液剤に含まれる可溶性成分の各分子量の平均値を意味する。具体的には、平均分子量は、蒸散液剤に含まれる可溶性成分の分子量とその配合割合(重量比)から計算により求めることができる。例えば蒸散液剤に含まれる可溶性成分が、A成分(分子量α)、B成分(分子量β)及びC成分(分子量γ)であり、A〜C成分の総量を100重量部とした場合の各成分の重量比がそれぞれA成分:30重量部、B成分:10重量部、及びC成分:60重量部である場合、その平均分子量は下記の式から算出することができる:
【数2】
【0037】
ここで、可溶性成分とは、対象とする蒸散液剤(液状
発煙性蒸散剤)(20±5℃)
中に溶解
している成分を意味する。
蒸散液剤の溶媒に溶解可能であるか否かは、日本薬局方で規定する溶解性の判断方法及び基準に基づいて判断することができる。具体的には、対象成分が固形の場合は粉末とした後に溶媒中にいれ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶ける程度から判断することができ、この場合に、「やや溶けにくい」(溶質1g又は1mlを溶かすに要する溶媒量が30ml以上100ml未満)から「極めて溶けやすい」(溶質1g又は1mlを溶かすに要する溶媒量が1ml未満)と判断される成分を挙げることができる。つまり、上記方法で評価した場合に、溶質1g又は1mlを溶かすに要する溶媒量が100ml未満である成分は可溶性成分であると判断することができる。なお、溶媒に「溶解(溶ける、溶かす)」とは、対象成分が溶媒に澄明に溶けるか、澄明に混和することを示し、溶解液中に繊維状物などを認めないか、認めても僅かであることをいう。
【0038】
本発明の蒸散液剤は、最終液剤の20℃における平均蒸気圧が0.1〜10Pa、及び可溶性成分の平均分子量が150〜250になるように、前述する溶媒及び薬剤、その他、必要に応じて各種の成分を適宜選択配合し混合することにより調製することができる。また、本発明の蒸散液剤は、その1mL容量を、直径2mmの円形開口部を有する円柱形状の丸口瓶に収容し、開口させた状態で恒温恒湿条件下(27℃、60%)に2ヶ月間放置した場合に、2ヶ月後の減少量が当初全量の5重量%以下であるように調整することが好ましい。好ましくは、2ヶ月後の減少量が当初全量の4重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下である。
【0039】
本発明の蒸散液剤は、蒸散液剤およびそれに含まれる薬剤成分を大気(空間)中に蒸発させたいときに、発熱体に供給して使用される。ここで、蒸散液剤の発熱体への供給とは、大気雰囲気(空間内の大気中)で発熱体に蒸散液剤を接触又は近接させることをいう。発熱体の熱を効率よく蒸散液剤に伝え、蒸散液剤の蒸発量(煙状での蒸発量)を高めるためには、蒸散液剤を発熱体に接触させることが好ましい。
【0040】
この場合、蒸散液剤を発熱体にそのまま滴下(液滴下)してもよいし、または塗布してもよい。なお、液滴下に使用する方法及び手段は、発熱体上に蒸散液剤を滴下可能な方法や手段であればよく、その機構等については特に制限されない。また塗布方法や手段も同様に、発熱体上に蒸散液剤を塗布可能な方法や手段であればよく、その機構等については特に制限されない。
【0041】
また蒸散液剤は、それを多孔質基材に含浸させた芯材を介して発熱体に近接または接触させてもよい。なお、当該芯材は、その一態様として、後述するように本発明の薬剤蒸散器において蒸散液剤を収容した容器(コンテナ)に挿入して使用される。こうすることで、コンテナ内に蒸散液剤が残存する限り、芯材は毛細現象によりコンテナ内から蒸散液剤を吸い上げ、蒸散液剤が含浸された状態で使用することができる。
【0042】
蒸散液剤を含浸させる芯材の調製に使用できる多孔質基材としては、本発明の蒸散液剤を含浸することができ、且つ発熱体による加熱に耐え得る耐熱性を備えているものであれば、その素材については特に制限されない。より好ましくは蒸散液剤を吸収し、これを毛細管現象により吸い上げ可能である素材からなるものである。こうした多孔質基材の素材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アクリル繊維とメラミン樹脂とを練り込んだ繊維、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)繊維等が例示される。好ましくはガラス繊維、及び炭素繊維である。
【0043】
当該芯材を介した蒸散液剤の発熱体への供給は、発煙性蒸散液剤を含浸した芯材の少なくとも一部を発熱体に接触させることが望ましいが、煙形成が可能であれば、当該芯材の少なくとも一部を発熱体と近接させた状態で維持させることにより行ってもよい。
【0044】
芯材は、その多孔質基材に本発明の蒸散液剤を予め所定量含浸させたものであってもよいし、また蒸散液剤を収容した容器(コンテナ)に、蒸散液剤が毛細管現象により吸い上げ可能な状態で挿入されており、発熱体と接触または近接している芯材部分に蒸散液剤が持続的に供給されるように構成されていてもよい。
【0045】
芯材の形状としては、
図1及び2に示すように、両先端及び胴体部が略同じ断面形状と大きさを有する棒状(円柱状)を例示することができる。但し、発熱体への供給方法によって、適宜設定することができる。またその大きさは、含浸させる蒸散液剤の量や芯材の素材、及び後述する蒸散器の大きさ等に応じて適宜設定することができる。制限されるものではないが、例えば上記円柱状のものの場合、直径1〜10mm、好ましくは1〜3mm;長さ10〜50mm、好ましくは20〜30mmを例示することができる。なお、芯材は
図1及び2に記載の通り、支持体に保持されていてもよく、この場合、支持体からの露出部は、制限されないものの、1〜10mm、好ましくは5〜10mmを例示するこができる。
【0046】
本発明の蒸散液剤は、好適には、上記の通り、芯材が挿入された容器(コンテナ)内に収容されて使用される。当該蒸散液剤は、それ自体消耗品であるため、「詰め替え品」として独立して商業的取引の対象となる。また本発明の蒸散液剤を含浸させた芯材も「詰め替え品」として独立して商業的取引の対象となる。なお、蒸散液剤を含浸させた芯材は、それを保持するか、また薬剤蒸散器の容器に固定する支持体とともに「詰め替え品」として商業的取引の対象品とすることができる。このため、当該蒸散液剤、並びにそれを含浸させた芯材(支持体に保持された芯材を含む)は、それぞれ気密性及び液密性の密封容器(包装体)に収容され、密封された状態で市場に流通させることができる。気密性及び液密性の密封容器(包装体)としては、蒸散液剤が揮発及び漏出しないように気密性または液密性を備えたものであればよく、その限りにおいて特に制限されるものではない。例えば液密性および気密性等を有する樹脂製ボトルや樹脂製シートから形成されたポウチ等を例示することができる。
【0047】
2.薬剤蒸散方法
本発明の薬剤蒸散方法は、薬剤及び沸点が170℃以上の溶媒を含む液剤を、100℃以上の温度に発熱する発熱体に供給することにより実施することができる。こうすることで、上記液剤及びそれに含まれる薬剤を煙状に大気中(空間)に蒸発(蒸散)させることができる。ここで液剤としては、前述する本発明の液状発煙性蒸散剤(発煙性蒸散液剤)を挙げることができ、またそれに含まれる溶媒及び薬剤も前述した通りである。
【0048】
発熱体への蒸散液剤の供給は、前述するように、蒸散液剤を発熱体に接触または近接させることで実施することができる。具体的には発熱体への蒸散液剤の液滴下または塗布を例示することができる。また、蒸散液剤を多孔質基材に含浸させて調製した芯材を発熱体に接触または近接させることで実施してもよい。
【0049】
また、蒸散液剤の加熱に使用される発熱体としては、所定温度に加熱可能なものであればよいが、好ましくは通電により発熱する電熱体が使用される。当該電熱体の発熱は通電を遮断(オフ)することで解除することができる。このような電熱体としては、例えば、電熱線、PTCヒータ、セラミックヒータ、固定抵抗ヒータ等が例示される。電池式で電力を印加する場合は、消費電力の観点から電熱線が好ましい。
【0050】
本発明では、大気雰囲気(空間の大気中)で、発熱体に供給した上記蒸散液剤を、通電により100℃以上に発熱した発熱体で加熱することにより、加熱された蒸散液剤がエアロゾルを形成し、視認可能な煙状で蒸散可能になる。蒸散液剤を含浸させた芯材を加熱する場合、当該芯材と発熱体との接触部位または当該芯材と発熱体との近接部位において、蒸散液剤がエアロゾルを形成し、視認可能な煙状で蒸散可能になる。
【0051】
本発明において、発熱体が通電により発熱する温度については、100℃以上である限り、特に制限されないが、室内での使用安全性を備えさせつつ、煙(エアロゾル)の形成能を高めるという観点からは、好ましくは100〜350℃、より好ましくは120〜310℃であり、更に使用安全性を考慮すると120〜250℃を例示することができる。
【0052】
本発明において、蒸散液剤を加熱する発熱体は少なくとも1つであればよいが、煙状の薬剤蒸散量を高めたり、また2本以上の煙を形成させる場合は、蒸散液剤またはそれを含浸させた芯材に、2以上の発熱体を接触又は近接させてもよい。
【0053】
本発明の薬剤蒸散方法によれば、通電により100℃以上に発熱した発熱体を介して蒸散液剤を加熱することで、薬剤を大気中(例えば屋内空間)に蒸発させることができ、斯くして当該薬剤で大気中(例えば屋内空間)を処理することができる。具体的には、薬剤中に香料成分が含まれていれば大気(例えば屋内空間)を芳香処理することができ;薬剤中に消臭成分が含まれていれば大気(例えば屋内空間)を消臭処理することができ;薬剤中に香料及び消臭成分が含まれていれば、大気(例えば屋空間)を消臭及び芳香処理することができる。また薬剤中に抗菌成分が含まれていれば大気(例えば屋内空間)を抗菌処理することができ;薬剤中に防虫成分(防ダニ成分)が含まれていれば大気(例えば屋内空間)を防虫処理(防ダニ処理)することができ;薬剤中に昆虫忌避成分が含まれていれば大気(例えば屋外及び屋内空間)を昆虫忌避処理することができる。
【0054】
なお、上記発熱体は、通電が遮断(オフ)されると発熱状態が解除されて常温(その環境温度)になる。そうすることで、発熱状態の発熱体によって加熱されていた蒸散液剤も常温(その環境温度)に戻り、その蒸発も停止することができる。一回の通電時間は、制限されないものの、例えば1〜5mL容量の蒸散液剤が60回の通電(加熱)によって蒸発して消失する時間を挙げることができる。好ましくは1〜3mL容量、より好ましくは1mL容量の蒸散液剤が60回の通電(加熱)によって蒸発して消失する時間である。制限されないものの、具体的には60〜600分間、好ましくは300〜400分間を例示することができる。
【0055】
3.薬剤蒸散器
本発明の薬剤蒸散器は、上記薬剤蒸散方法の実施に使用されるものである。
具体的には、当該薬剤蒸散器は、下記の2つの態様のものを例示することができる。
【0056】
(態様1)
前述する本発明の発煙性蒸散液剤を含浸した芯材と、
通電されて100℃以上に発熱する発熱体を有し、
上記発熱体は、少なくとも通電時に上記芯材に接触または近接するように配置されて、当該芯材を加熱し芯材に吸収された液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる、
薬剤蒸散器。
【0057】
(態様2)
前述する本発明の発煙性蒸散液剤を収容したコンテナと、
上記コンテナ内に挿入され、上記コンテナ内から上記液状発煙性蒸散剤を吸い上げ、これを含浸してなる芯材と、
通電されて100℃以上に発熱する発熱体を有し、
上記発熱体は、少なくとも通電時に上記芯材に接触または近接するように配置されて、当該芯材を加熱し芯材に吸収された液状発煙性蒸散剤を煙状に蒸発させる、
薬剤蒸散器。
【0058】
上記態様1の薬剤蒸散器は、
図1に示すように、薬剤を含む蒸散液剤を含浸させた芯材1が支持体3によって保持されて、該芯材1に発熱体2が接触または近接してなる構造部を有するように構成することができる。かかる構造部を有する薬剤蒸散器の場合、蒸散液剤を含浸させた芯材又は該芯材を保持した支持体が薬剤蒸散器から脱着可能になっており、使用後に、蒸散液剤を含浸させた芯材、又は当該芯材を該芯材を保持した支持体と一緒に交換することができるように構成することもできる。
【0059】
また、上記態様2の薬液蒸散器は、
図2に示すように、薬剤を含む蒸散液剤5を収容したコンテナ(容器)4を備え、芯材1が、容器に収容された蒸散液剤5を吸い上げ可能になっており、該芯材1が支持体3によって容器4に固定されて保持され、該芯材1に発熱体2が接触または近接してなる構造部を有するように構成されていてもよい。
なお、
図1及び2において、発熱体2は電熱線を例として記しているが、本発明の薬剤蒸散器において、発熱体は電熱線に限定されるものではない。
【0060】
また、本発明の薬剤蒸散器は、上記発熱体を発熱させるための手段、即ち、上記発熱体を導電するための導電線、及び上記発熱体に電力を印加するための電圧印加手段を備えていてもよい。
【0061】
以下、図面を参照しつつ、本発明の薬剤蒸散器の一実施形態について説明する。
<1.薬剤蒸散器の全体構成>
図3は、本実施形態に係る薬剤蒸散器Aの全体構成を示す斜視図である。同図に示すように、薬剤蒸散器Aは、線香立てを模した薬剤蒸散器であり、円形の壺型の本体部10と、本体部10に立ててセットされる疑似線香棒15とを有する。この疑似線香棒15は、本物の線香ではなく、線香を模したプラスチック製の棒体である。より具体的には、アクリル樹脂製の光ファイバーであり、上端部15aを除き、表面に緑色の膜が貼られている。この膜は、光不透過性である。そして、本体部10内に配置されているLED光源16により、同じく本体部10内に配置されている疑似線香棒15の下端部が照らされる(
図14参照)。これにより、疑似線香棒15の上端部15aのみが輝き、まるで本物の線香が燃えているかのような外観が得られる。
【0062】
また、薬剤蒸散器Aは、蒸散液剤の煙を立ち昇らせることもでき、この意味でも、線香立てのような機能を発揮することができる。当該蒸散液剤は、香料成分、消臭成分、抗菌成分、防虫成分、及び/又は昆虫忌避成分等を有する薬剤とすることができるが、本実施形態では、線香の燃えるような匂いの香料成分を有している。
【0063】
蒸散液剤は、本体部10内にセットされるカートリッジタイプのコンテナ40内に収容されている。
図4は、本体部10の上部に設けられている、回動により開閉自在のフラップ部材20を開いた状態の本体部10を示している。コンテナ40は、このフラップ部材20を開くことにより本体部10の上部中央に表れる空間S1内にセットし、またここから取り出すことができる。
図5は、参考のため、フラップ部材20を省略した本体部10の斜視図であり、
図6は、本体部10の中央の空間S1内に蒸散液剤のコンテナ40を収容した様子を示す斜視図である。
図6においても参考のため、フラップ部材20は省略されている。
【0064】
図7は、コンテナ40の斜視図である。コンテナ40は、未使用時においては内部の蒸散液剤が漏れないよう、専用のキャップ45が取り付けられている。そして、使用時にこのキャップ45が取り外され(
図8参照)、本体部10にセットされることになる。
【0065】
<2.薬剤蒸散器のコンテナ部>
薬剤蒸散器Aのコンテナ40の構成について詳しく説明する。
図9は、コンテナ40付近の
図3のA−A線断面図である。コンテナ40は、
図7〜
図9に示すとおり、上部の開口した容器41を有しており、さらにこの容器41を安定的に支持するべく、容器41の筒状の側壁部42の下部付近を容器41の外側から支持する台座43を有している。容器41の上部開口には、当該開口を塞ぐ蓋体50が取り付けられている。蓋体50は、概ね平板状の底面部51と、底面部51の外周に沿って起立する外周壁52とを有し、この底面部51と外周壁52とは、全体として皿形状の皿部53を構成している。底面部51は、容器41の内部空間S2の上面を画定している。容器41内には、上述の蒸散液剤が充填されている。
【0066】
底面部51の中央には、円形の開口S3が形成されており、底面部51の下面には、この開口S3に連通する内部空間を有する筒体54が連続している。筒体54は、容器41の底面部44から一定の間隔を空けており、概ね上下方向に延びている。この筒体54内には、上記開口S3を介して、その下端60aが概ね底面部44に達するように芯材60が挿入されている。一方、芯材60の上端60bは、後述する発熱体65に接触又は近接するように、蓋体50の底面部51から突出している。芯材60は、開口S3及び筒体54の断面形状と略同じ断面形状を有する棒であり、容器41内の蒸散液剤を含浸することができる。
【0067】
図8に示すように、皿部53の底面部51には、芯材60を挿入する開口S3の他にも、容器41の内部空間S2に連通する開口S4が形成されている。詳細は後述するが、皿部53の底面部51の上方には、加熱され蒸発した煙状の蒸散液剤の結露が生じ得るトンネル通路S5が配置される。そのため、皿部53は、当該トンネル通路S5内で結露した後、当該トンネル通路S5内から落下してくる液状の蒸散液剤を受け取るための部材として機能することができる。そして、底面部51の複数の開口S4は、皿部53で受け取った液状の蒸散剤を、容器41の内部空間S2に戻す液戻し通路として機能する。
【0068】
容器41の側壁部42の上部外周面には、螺旋状のネジ山42aが形成されている。このネジ山42aは、コンテナ40のキャップ45に形成されている図示されないネジ溝に螺合し、これによりキャップ45がコンテナ40に対し着脱自在となっている。
【0069】
また、容器41の台座43には、取っ手46が連続している。取っ手46は、側壁部42から一定の間隔を空けつつ側壁部42と略平行に延び、かつ、蓋体50に保持された芯材60よりも上方まで延びている。取っ手46は、コンテナ40を本体部10の上部中央に設けられた空間S1内に収容する際に、コンテナ40を持ち運ぶのに使用される。
【0070】
コンテナ40及びキャップ45の材質は特に限定されないが、例えば、プラスチック製とすることができる(芯材60を除く)。コンテナ40は、上述した各部位を一体的に構成することもできるし、別々の部材を組み合わせることにより構成することもできる。
【0071】
<3.本体部>
本体部10は、線香立ての壺のような形状の外壁を形成する筐体11を有し、上部中央には、コンテナ40を収容するための空間S1が形成されている。また、本体部10は、コンテナ40の上からさらにこの空間S1内に収容されるフラップ部材20を有している。このフラップ部材20は回動により揺動し、空間S1を開閉することができる。筐体11の材質は特に限定されないが、例えば、プラスチック製とすることができる。
【0072】
図10は、フラップ部材20単体を上面側から見た斜視図であり、
図11は、フラップ部材20単体を下面側から見た斜視図である。同図に示すとおり、フラップ部材20は直方体状であり、フラップ部材20を回動させる回動軸21が、長手方向の一端において短手方向に平行に設けられている。
図5に示すとおり、空間S1は、円柱の上部に当該円柱から径方向に突出するような態様で直方体を重ねた形状を有している。また、ここでいう円柱の上面と直方体の上面とは略同じ高さであり、直方体はその長手方向のみが円柱の側面から突出しており、短手方向には突出していない。この直方体は、フラップ部材20と概ね同じ形状を有しており、空間S1は、この直方体に対応する部分において、フラップ部材20を受け取ることができる。また、筐体11は、空間S1におけるこの直方体の長手方向の一端に対応する部分おいて、フラップ部材20を上下に回動させるように回動軸21を支持している。以下では、フラップ部材20が空間S1の直方体に対応する部分に収容された状態を、フラップ部材20が閉じた状態と称する。また、フラップ部材20の上面において、回動軸21の反対側の端部には、取っ手22が突出している。使用者は、この取っ手22に指を引っ掛けることで、回動軸21周りでフラップ部材20を容易に回動させることができる。
【0073】
空間S1は、フラップ部材20を閉じた状態においても、外部空間に連通している。すなわち、フラップ部材20の両側には、空間S1に連通する開口S7,S7(
図3参照)が確保されている。また、フラップ部材20において回動軸21が設けられている側と反対側の端面には、突起24が突出している。一方、本体部10において、フラップ部材20の当該端面付近の部位を受け取る部分には、当該突起24を引っ掛けるための弾性片23が設けられている(
図5参照)。そして、フラップ部材20を閉じようとしたとき、当該突起24が弾性片23を押圧し、弾性片23が径方向外方へと折れ曲がるように弾性変形する。その後、フラップ部材20が空間S1内に収容されると、弾性片23はその弾性により元の形状に概ね復帰し、突起24を上方から押圧する。これにより、フラップ部材20は、空間S1内でしっかりと固定され、閉じた状態にロックされる。一方、フラップ部材20全体を上方へ回動させるべく取っ手22を持ってフラップ部材20に外力を加えたときにも、弾性片23は径方向外方へと折れ曲がるように弾性変形し、フラップ部材20を容易に開くことができる。
【0074】
フラップ部材20の中央には、フラップ部材20を概ね上下方向に貫通するトンネル通路S5が形成されている。より具体的には、フラップ部材20の中央には、トンネル通路S5を画定する両端の開口した円筒状のトンネル部材30が埋め込まれている。なお、トンネル部材30は、フラップ部材20の直方体状の筐体と一体的に形成されていてもよい。以下では、トンネル通路S5に連通するトンネル部材30の下端の開口を、トンネル入口30aと呼び、上端の開口をトンネル出口30bと呼ぶ。
【0075】
トンネル通路S5内には、芯材60を加熱し、芯材60に吸収されている蒸散液剤を煙状に蒸発させるための発熱体65が配置されている(
図9参照)。発熱体65は、通電されることにより発熱する電熱線であり、トンネル部材30の内壁面31上のある位置からこれに対面する内壁面31上の別の位置(両位置は、トンネル部材30の円形断面の直径線上に位置する)まで延びている。発熱体65は、トンネル通路S5内において上下方向に中央よりも下側に配置されている。発熱体65の両端は、後述する電池8まで配線されている。なお、この配線は、フラップ部材20及び筐体11内において外部から通常触れない位置に収納されている。以上の構成により、トンネル通路S5は、発熱体65の加熱により生じる煙状の蒸散液剤が通り抜けるための通路となる。
【0076】
図11に示すように、トンネル部材30の下部からは、トンネル入口30aを囲むように複数の壁部材34(本実施形態では4つ)が下方に向かって延びている。これらの壁部材34の下端は、コンテナ40を本体部10の空間S1内に収容し、さらにフラップ部材20を閉じた状態において、コンテナ40の上部を構成する皿部53の底面部51に接触する。すなわち、コンテナ40は、トンネル入口30aから上下方向に一定の間隔を空けて配置され、壁部材34は、この間隔を埋めるべく、トンネル入口30aとコンテナ40との間を延びるように配置される。コンテナ40は、トンネル入口30aの直下に配置されており、コンテナ40の底面部51の中心と、トンネル入口30aの中心とは、平面視において概ね重なる。また、壁部材34の外側面の下部は、皿部53の外周壁52の内周面に接触する。
【0077】
図12は、トンネル部材30付近の底面図である。
図11及び
図12に示すように、壁部材34は、トンネル入口30aの周方向に沿って隙間S6を空けながら等間隔に配置される。この隙間S6は、等間隔に同じ長さだけ空いており、トンネル入口30aを介してトンネル通路S5内に空気を送り込むための空気吸入口となる。すなわち、トンネル入口30aの下方の空間は、隙間S6を除いて、壁部材34とコンテナ40の皿部53とで囲まれているため、原則として隙間S6のみがトンネル通路S5内に空気を取り込む空気吸入口となる。なお、外部の空気は、まずはフラップ部材20の両端に形成されている開口S7,S7を介して本体部10内の空間S1内に流入し、これが隙間S6を介してトンネル通路S5内に送り込まれる。
【0078】
図12に示すように、トンネル通路S5を画定するトンネル部材30の内壁面31には、径方向内方に向かって突出する複数の凸部32が形成されている。これらの凸部32は、内壁面31の周方向に沿ってそれぞれ異なる位置に設けられている。本実施形態では、壁部材34と同数の、すなわち、4つの凸部32が設けられており、これらの凸部32は、内壁面31の周方向に沿って概ね等間隔に配置されている。また、凸部32は、上下方向には、トンネル出口30bと同じ高さ位置からトンネル入口30aを通り過ぎて、壁部材34の下端のやや上方まで連続的に延びている。また、トンネル入口30aよりも下方では、凸部32は壁部材34に連結されており、平面視において、壁部材34の内壁面の中央から径方向内方に突出するような態様となっている。また、凸部32は、平面視において、内壁面31から内壁面31の円形断面の径方向に延びているが、円形断面の中央に達していない。従って、トンネル通路S5の中央には、凸部32に邪魔されることなく、上下方向に延びる開けた空間が形成されている。
【0079】
以上のとおり構成された凸部32は、トンネル通路S5内の発熱体65に指が触れてしまうことを防止することができる。また、凸部32は、この役割に加え、発熱体65による加熱により蒸発した煙状の蒸散液剤を、より細く高く上昇させる役割を果たすことができる。
図13は、凸部32の当該役割を説明するための、トンネル通路S5付近の模式的な縦断面図である。すなわち、トンネル通路S5内では、発熱体65により空気が温められることに伴って、緩やかな上昇気流が発生する。そして、発熱体65が芯材60の上端60bを加熱することにより発生した蒸散液剤のエアロゾルの粒子からなる煙は、この上昇気流に乗ってトンネル通路S5を通り抜けながら上昇してゆくが、このとき、内壁面31に衝突するとともに、凸部32にも衝突する。これにより、内壁面31及び凸部32の表面において蒸散液剤が結露し、液滴が付着する。液滴、すなわちエアロゾルの粒子の付着量は、蒸散液剤の蒸発が進むにつれて増加し、これに伴い、内壁面31及び凸部32の表面に付着した蒸散液剤の液滴のせいで、蒸散液剤の煙が通り抜けるためのトンネル通路S5が実質的に狭められる。その結果、上昇気流の速度が増すことになり、蒸発した蒸散液剤がより細く高く上昇してゆく。また、凸部32がトンネル通路S5内で上下方向に連続しているため、空気が上方へと真っ直ぐ流れ易くなっている。すなわち、例えば、途中で凸部32が断絶している場合には、気流が凸部32の断絶部分で折れ曲がるが、本実施形態ではこのような事態が回避されている。
【0080】
ところで、以上の上昇気流は、上述した隙間S6から流入した空気により形成される。また、上述したとおり、壁部材34の存在により、トンネル通路S5内への空気吸入口は狭められており、空気吸入口は主として隙間S6のみとなる。従って、この狭められた空気吸入口としての隙間S6を介して、より高速の気流がトンネル通路S5内に流入し、蒸発した煙状の蒸散液剤がより細く高く上昇する結果となる。また、壁部材34の存在により、蒸発した蒸散液剤の通り抜けるトンネルは、実質的に延長されている。その結果、煙突効果が促進され、蒸発した蒸散液剤がより高く上昇してゆく。
【0081】
隙間S6は、4箇所設けられているが、1つ当たりの面積は、好ましくは2mm
2〜40mm
2、より好ましくは4mm
2〜30mm
2、さらに好ましくは4mm
2〜20mm
2、さらに好ましくは5mm
2〜15mm
2である。なお、ここでいう隙間S6とは、上部をトンネル部材30により、左右を一対の壁部材34により、下部を皿部53の外周壁52により囲まれる領域である。一方、空間S7は、2箇所設けられているが、1つ当たりの面積は、好ましくは150mm
2〜300mm
2、より好ましくは200mm
2〜300mm
2である。なお、ここでいう空間S7とは、内側をフラップ部材20により、外側を筐体11aの上面13により囲まれる領域である。また、トンネル入口30a及びトンネル出口30b(すなわち、トンネル部材30の内壁面31の断面形)の面積(凸部32を含む)は、好ましくは20mm
2〜180mm
2、より好ましくは50mm
2〜120mm
2、さらに好ましくは50mm
2〜100mm
2である。外部の空気が、まずフラップ部材20の両端に形成されている開口S7,S7を介して本体部10内の空間S1内に流入し、これが隙間S6を介してトンネル通路S5内に送り込まれる。これにより、外部空間から空間S7を介して空間S1内へと、次に空間S1内から隙間S6を介してトンネル部材30内へと段階的に風速が増すことになる。また、トンネル部材30内からトンネル出口30bを介して外部空間へと、一定以上の風速で煙が出てゆくことになる。各面積が以上のような数値範囲にあるときは、さらに効果を発揮することができる。
【0082】
また、トンネル通路S5内に発生する蒸散液剤の粒子の大きさは大小様々であるが、より小さい粒子程、より高速に流れ、より高く上がってゆくことができる。また、より大きい粒子程、視認が容易となる。そして、
図13に示すように、より小さい粒子がより大きなエアロゾル粒子に衝突し、これに上向きの力を与えるため、この大きな粒子までもがより高く上昇することができる。従って、大きなエアロゾルの粒子を含む視認し易い煙が、より細くより高く立ち昇ってゆく。
【0083】
また、上述したとおり、内壁面31及び凸部32の表面に付着した蒸散液剤のエアロゾルの粒子径は、蒸散液剤の蒸発が進むにつれて増大し、徐々に成長してゆく。そして、大きくなった蒸散液剤の液滴は、重力に従って内壁面31、凸部32及び壁部材34を伝いながら落下し、皿部53に受け取られる。皿部53に溜まった液状の蒸散液剤は、底面部51の開口S4を介してコンテナ40の内部空間S2に戻される。従って、蒸散液剤の結露により生じる汚れや蒸散液剤の浪費等の諸問題が解消される。
【0084】
図5に戻ると、上述した本体部10の空間S1の下面は、上下方向に昇降可能な受け皿55により画定される。受け皿55は、コンテナ40の下部の外形に概ね等しく、これを収容することができる空間を規定している。
図14は、
図3のB−B線断面図である。同図に示されるように、受け皿55の昇降は、受け皿55の下方に連結されているバネ56により実現される。受け皿55が上方からの外力を受けると、バネ56が縮み、受け皿55が下方へ移動する。なお、受け皿55にコンテナ40を収容した状態でフラップ部材20を閉じると、受け皿55はコンテナ40に押されて、下方へ移動する。このとき、バネ56は、復元力により上方へ受け皿55を付勢し、その結果、コンテナ40が壁部材34を介してトンネル部材30に対し付勢される。これにより、皿部53の底面部51及び外周壁52と壁部材34とがしっかりと嵌合し、空間S1内でのコンテナ40の位置が安定する。また、これにより、トンネル入口30aの下方において、トンネル通路S5へと連通する空気吸込口として、隙間S6以外の隙間が生じにくくなる。
【0085】
ところで、筐体11は、
図3に示す分割線L1に沿って、上下2つの筐体11a,11bに分割可能である。
図15は、上側の筐体11aを底面側から見た図である。同図に示すように、上側の筐体11aの底面部の外側には、2つの電池8を取り付けることができる電池収容部80が設けられている。
【0086】
図15は、薬剤蒸散器1の電気的構成を示すブロック図である。同図に示すとおり、電池8は、発熱体65及びLED光源16に電気的に接続されており、これらに電力供給を行う。LED光源16は、
図14に示すとおり、筐体11a内において、疑似線香棒15を受け取る開口S8の直下に配置されている。また、上側の筐体11a内には、スイッチ17に接続されている制御基板18も収納されている。
図3に示すとおり、筐体11aの上面13には、スイッチ17が配置されており、このスイッチ17が押圧されると、その旨を示す信号が制御基板18に送られる。また、制御基板18には、バネ56が押圧された旨を検出する検出回路19が接続されている。制御基板18は、電源オフ状態において、バネ56が押圧状態(コンテナ40が空間S1内にセットされており、かつフラップ部材20が閉じた状態)となり、さらにスイッチ17が押圧されたことを検知すると、電池8から発熱体65及びLED光源16への電力供給を行わせる。一方、電源オン状態において、スイッチ17が押圧されたか、或いは、バネ56の押圧状態が解除された場合には、電池8から発熱体65及びLED光源16への電力供給を停止させる。
【0087】
図3に示すとおり、筐体11の上面13は、空間S1を画定するように円環状に形成されている。そして、この上面13の正面側には、疑似線香棒15を挿入するための開口S8が3箇所形成されている。一方、スイッチ17は、筐体11の上面13において、開口S8と概ね180°反対側に配置されている。円環状の上面13には、その外周縁に沿って外壁部14が起立している。外壁部14は、壺型の筐体11の上部開口の縁を規定する部位である。筐体11の上面13は、閉じた状態のフラップ部材20の上面と概ね同じ平面内に位置し、言い換えると、トンネル出口30bと同じ高さ位置に配置される。従って、外壁部14は、トンネル出口30bから立ち昇る煙に対する風除けとして作用し、煙が細く真っ直ぐ立ち昇るのを助ける。また、外壁部14は、筐体11の上面13に沿って概ね一周連続的に形成されているが、スイッチ17の操作の妨げになることがないよう、スイッチ17に対面する位置においては切り欠かれている。さらに、薬剤蒸散器1が転倒して逆さになった場合でも、外壁部14により、スイッチ17の誤作動が防止される。
【0088】
図17は、薬剤蒸散器Aの底面図である。同図に示すように、筐体11には、筐体11の中心軸の周りに3つの脚29が等角度間隔で設けられている。これらの3つの脚29のうちの1つは、筐体11の中心軸の周りでスイッチ17と同じ角度の位置に配置される。
図17中、参考のため、スイッチ17の位置が点線で示されている。ところで、スイッチ17が押圧されたとき、筐体11にスイッチ17を中心として不均一な外力が加わることになる。しかしながら、上記構成によれば、スイッチ17に対応する脚29が筐体11をしっかりと支えるため、薬剤蒸散器Aが転倒してしまうことがない。
【0089】
なお、上記では、壁部材34は、トンネル部材30と一体的に形成されていたが、トンネル部材30ではなく、コンテナ40側、例えば、皿部53の外周壁52と一体的に形成されていてもよい。或いは、壁部材34は、トンネル部材30及びコンテナ40の両方から独立した部品であってもよい。
【0090】
また凸部32の形状も上述したものに限られない。例えば、凸部32は、トンネル出口30b付近からトンネル入口付近で終了している形状としてもよい。また、凸部32の本数は、4つに限られず、例えば、1つであってもよい。また、凸部32は、
図18(a)に示すように、平面視においてトンネル通路S5の中心に達していてもよいし、この場合、複数の凸部32が中心で交差していてもよい。また、
図18(b)に示すように、平面視において格子状としてもよい。ただし、
図18(a)(b)の形態では、トンネル通路S5が複数の通路に分断されているため、結露により通路が部分的に埋まる可能性もある。従って、一本の細く長い煙を立ち上がらせる観点からは、
図12に示す形態が好ましい。
【0091】
<3.使用方法>
以下、薬剤蒸散器Aの使用方法について説明する。まず、薬剤蒸散器Aを構成する本体部10、コンテナ40及び疑似線香棒15を用意する。そして、本体部10のフラップ部材20を回動させて空間S1を開き、取っ手46を把持してコンテナ40を挿入した後、フラップ部材20を閉じる。このとき、フラップ部材20のトンネル通路S5内においては、コンテナ40の芯材60が発熱体65に接触又は近接するように配置された状態となる。また、疑似線香棒15を本体部10の上面13の開口S8に挿入する。
【0092】
その後、スイッチ17を押すと、発熱体65及びLED光源16が通電され、発熱体65が加熱され、LED光源16が点灯する。LED光源16からの光は、疑似線香棒15内を伝わり、上端部15aに達して有色の光を発生させる。また、スイッチ17の押圧後しばらくすると、芯材60に含浸している蒸散液剤が加熱され、芯材60の上端60bから視認可能な煙状の蒸散液剤が発生し始める。この煙は、コンテナ40と壁部材34との間に形成されている隙間S6を介してトンネル通路S5内に流入した空気の流れに乗って、上方へ細く長く立ち昇り始める。さらにしばらくすると、トンネル通路S5内で蒸散液剤の結露が生じ始める。この液滴は、トンネル部材30の内壁面31、凸部32及び壁部材34の表面で成長し、トンネル通路S5を実質的に狭くし、これによりトンネル通路S5内に発生している上昇気流の速度を増加させる。これを受けて、トンネル出口30bから出てくる煙は、益々細く長く上方へ立ち昇ってゆくことになる。
【0093】
また、トンネル通路S5内で大きく成長した液滴は、その一部が重力に従って落下する。落下した蒸散液剤の液滴は、コンテナ40の上部の皿部53により受け取られ、開口S4を通ってコンテナ40内へと移動し、再度芯材60に吸い上げられる。
【0094】
以上により、薬剤蒸散器Aは、疑似的な線香立てとして使用することができる。特に、火を用いずとも、線香の光、煙及び香りを実現することができる点で、安全性に優れている。
【実施例】
【0095】
以下、試験例及び実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例及び実施例に限定されるものではない。
【0096】
試験例1
表1に示す溶媒及び香料を被験試料(液状蒸散剤)として、加熱時の蒸発量と非加熱時の揮散量(自然蒸発量)、及び加熱時の煙発生の有無を測定した。
具体的には、各被験試料(参考例1〜6)0.5g程度を、ガラス繊維からなる円柱形の芯材(外径5mm、高さ10mm)に含浸させた。次いで、被験試料を含浸させた芯材を、
図1と同じ要部を備える薬剤蒸散器(発熱体は6.5Ω電熱線、電圧印加手段は定電圧電源、発熱体の温度は印加電圧の調整により制御可能;なお、表1の被験試料の蒸散に使用した薬剤蒸散器は1つの芯材に1つの電熱線を接触させる構造を備える。)に設置し、当該芯材の頂点と蒸散器の発熱体を接触させた。これを30cm
3容の密閉可能なボックス内に置いて、ボックスを密閉し、3Vに設定した定電圧装置に接続し、電源を入れて発熱体を200℃に加熱させた。電源を入れた状態を30秒間保持し、被験試料の蒸散状態を観察し、煙(エアロゾル)の発生の有無を調べた。また電源を切断して30秒間放置して発熱体(電熱線)及び各被験試料の冷却した。その後、再び電源を入れて30秒間保持し、発熱体を200℃に加熱し、被験試料を蒸散させた。これを合計60回繰り返し、被験試料の消失量から、1回加熱あたりの被験試料の蒸散量(g)を求めた。
【0097】
一方、各被験試料0.5gを上記と同様にガラス繊維からなる円柱形の芯材に含浸させて、恒温恒湿条件(27℃、60%)に配置して2ヶ月間放置し、2ヶ月間の蒸散量(消失量)(被験試料を含浸させた芯材の放置前後の重量差から算出)から、当初被験試料全量に対する消失量の割合(%)(自然蒸発率%)を求めた。
【0098】
加熱により蒸発して煙(エアロゾル)が発生し、1回加熱の蒸散量が0.025g以上の範囲にあり、且つ自然蒸発率が5%以下である場合を良好○とし、またそうでないもの(いずれか一つでも満たさない場合)を不良×と判断した。結果を表1に併せて示す。
【表1】
【0099】
上記結果から、溶媒の沸点が170℃以上、20℃における平均蒸気圧が0.1〜10Pa、可溶性成分の平均分子量が150〜250の範囲にある被験試料は、100℃以上に加熱すると蒸発して煙が発生し、且つ1回加熱の蒸散量が0.025g以上の範囲にあり、且つ自然蒸発率が5%以下であった。
【0100】
試験例2
上記試験例1の結果に基づいて、表2に示す溶媒と香料との混合液を被験試料(液状蒸散剤)(実施例1〜4,比較例1〜2)として、試験例1と同様の方法により、加熱時の蒸発量と非加熱時の揮散量(自然蒸発量)、及び加熱時の煙発生の有無を測定した。
【0101】
結果を表2に併せて示す。
【表2】
【0102】
上記結果から、溶媒の沸点が170℃以上、20℃における平均蒸気圧が0.1〜10Pa、平均分子量が150〜250の範囲にある被験試料は、100℃以上に加熱すると蒸発して煙が発生し、且つ1回加熱の蒸散量が0.025g以上の範囲にあり、且つ自然蒸発率が5%以下であった。