(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862219
(24)【登録日】2021年4月2日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】菓子類用ミックス、菓子類用バッター、菓子類及び菓子類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/36 20060101AFI20210412BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20210412BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20210412BHJP
A23G 1/00 20060101ALI20210412BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D10/00
A21D13/80
A23G1/00
A23G3/34 102
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-39489(P2017-39489)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-143127(P2018-143127A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 いづみ
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−005826(JP,A)
【文献】
特表2002−541831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00−1/56
A21D 2/00−17/00
FSTA/CAplus/WPIDS/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維の含有量が30〜40質量%であるココアパウダーを含む、菓子類用ミックス。(ただし、澱粉分解生成物除去済みココア材料由来であり、食物繊維の含有量が30〜40質量%であるココアパウダーを含むものを除く。)
【請求項2】
前記ココアパウダーは、タンパク質の含有量が25〜35質量%である、請求項1に記載の菓子類用ミックス。
【請求項3】
含気泡菓子用である、請求項1又は2に記載の菓子類用ミックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の菓子類用ミックスを含む、菓子類用バッター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の菓子類用ミックス又は請求項4に記載の菓子類用バッターを含有する、菓子類。
【請求項6】
含気泡菓子である、請求項5に記載の菓子類。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の菓子類用ミックス又は請求項4に記載の菓子類用バッターを用いる、菓子類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菓子類用ミックス、菓子類用バッター、菓子類及び菓子類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココアパウダーを配合した菓子類は、気泡がつぶれやすく、膨らみが悪いことが知られている。非特許文献1には、ココアパウダーが生地の気泡をつぶす要素になることや、ココアパウダーを入れる場合に通常よりも卵黄をしっかり泡立てて生地が沈むのを防ぐことが開示されている。非特許文献2には、ココアの割合が高いほどケーキの形が扁平になり、スポンジ組織を形成しにくいことが開示されている。非特許文献3には、ココアケーキはココアの入らない通常のスポンジケーキに比べて膨化が悪いこと、ケーキの比容積がココア添加により減少したことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「洋菓子生地の事典」株式会社旭屋出版
【非特許文献2】家政学会誌,30巻,79〜82頁,1991年
【非特許文献3】立川短大紀要,24:75〜81(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ココアパウダーを配合した菓子類は、独特の色と味・香りを有しており多くの人に好まれているが、ボリュームが損なわれやすいという問題があった。
そこで、本発明は、ココアパウダーを配合してもボリュームが損なわれにくい菓子類を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、食物繊維の含有量が30〜40質量%であるココアパウダーを含む菓子類用ミックスを提供する。
また、本発明は、上記菓子類用ミックスを含む菓子類用バッターを提供する。
また、本発明は、上記菓子類用ミックス又は上記菓子類用バッターを含有する菓子類を提供する。
また、本発明は、上記菓子類用ミックス又は上記菓子類用バッターを用いる菓子類の製造方法を提供する。
【0006】
なお、本発明において「ミックス」とは、粉体状の原料を主成分とする組成物を意味する。また、「バッター」とは、ドウよりも水分量が多く、常温で流動性を有する組成物を意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ココアパウダーを配合してもボリュームが損なわれにくい菓子類を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
<菓子類用ミックス>
本実施形態の菓子類用ミックスは、食物繊維の含有量が30〜40質量%であるココアパウダーを含む。食物繊維の含有量が30質量%未満であると、菓子類のボリュームが損なわれるおそれがある。また、食物繊維の含有量が40質量%超のココアパウダーを得ることは、技術的に困難である。食物繊維の含有量は、プロスキー法により測定することができる。
【0010】
上記ココアパウダーは、タンパク質の含有量が25〜35質量%であることが好ましい。このような範囲とすることで、ボリュームがより良好な菓子類を得ることができる。また、タンパク質の含有量が35質量%超のココアパウダーを得ることは、技術的に困難である。タンパク質の含有量は、ケルダール法により測定することができる。
【0011】
菓子類用ミックスは、ココアパウダー以外の原料を含むことが好ましい。当該原料としては、穀粉が好ましい。当該穀粉としては、例えば、小麦粉、デュラム小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、とうもろこし粉、大豆粉などから選択される1種又は2種以上を用いることができる。食感や風味、加工適性の観点からは小麦粉が好ましく、小麦粉の中でも薄力粉が好ましい。
【0012】
ココアパウダー及び穀粉以外の原料としては、例えば、澱粉類、糖類、乳成分、卵成分、膨張剤、食塩、増粘多糖類、油脂類、乳化剤、ビタミン類、着色料、香料などが挙げられる。
【0013】
上記菓子類用ミックスにおいてココアパウダーの含有量は特に限定されず、菓子類用ミックスに一般的に配合される量とすればよい。例えば、穀粉100質量部に対して1〜30質量部とすることができる。このような範囲とすることで、ココアパウダーの色や味・香りを活かしつつボリュームが損なわれにくい菓子類を得ることができる。
【0014】
上記菓子類用ミックスは、様々な菓子類に好適である。当該菓子類としては、例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、マフィン、クッキー、ビスケット、クラッカー、ケーキドーナツなどが挙げられる。上記菓子類用ミックスは、菓子類の中でも含気泡菓子用として好適である。含気泡菓子とは、内部に気泡を有する菓子であり、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、マフィンなどが挙げられる。上記菓子類用ミックスを含気泡菓子に用いると、ボリューム低減を抑制する効果がより顕著に発揮される。
【0015】
<菓子類用バッター>
本実施形態の菓子類用バッターは、上記菓子類用ミックスを含む。菓子類用バッターは、菓子類用ミックスと液体状の原料を混合することにより得られる。菓子類用バッターにおける液体状の原料の含有量は、目的とする菓子の種類に応じて、一般的に用いられるバッターと同程度の粘度となるように適宜調整すればよい。菓子類用バッターは、上記菓子類用ミックスと同様、含気泡菓子に好適である。
【0016】
上記菓子類用バッターに含まれる液体状の原料は、流動性を有しており菓子類に一般的に配合されるものであれば特に限定されず、固形分を含んでいてもよい。液体状の原料としては、例えば、水、牛乳、果汁、豆乳、液状油脂、液卵などが挙げられる。
【0017】
上記菓子類用バッターは常温で流動性を有しているが、冷蔵又は冷凍により流動性が低下したもの又は流動性を有しないものも本実施形態の菓子類用バッターに包含される。
【0018】
<菓子類>
本実施形態の菓子類は、上記菓子類用ミックス又は菓子類用バッターを含有する。これにより、ココアパウダーを含有しつつもボリュームが損なわれにくくなる。菓子類としては、上記菓子類用ミックスで述べたように、含気泡菓子が好適である。
【0019】
<菓子類の製造方法>
本実施形態の菓子類の製造方法は、上記菓子類用ミックス又は菓子類用バッターを用いること以外は特に限定されず、公知の製造方法により菓子類を製造すればよい。上記菓子類用バッターを用いる場合、菓子類の製造時に適時バッターを調製してもよく、冷蔵又は冷凍により流通されている菓子類用バッターを使用してもよい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
下記表1に示す原料を容器に入れ、ホイッパーを使用して、最終比重が0.53±0.01、捏上温度が20±1℃となるようにミキシングしてバッター(生地)を作製した。バッター(生地)350gを6号デコレーション型に充填し、185℃のオーブンで32分間焼成することで、実施例1〜3、比較例1及び2のスポンジケーキを製造した。下記表1の薄力粉は昭和産業株式会社製(商品名「クレオパトラ」)、油脂はミヨシ油脂株式会社製(商品名「ケークドール」)であった。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例及び比較例で用いたココアパウダーの食物繊維及びタンパク質の含有量(g/100g)を下記表2に示す。下記表2中、実施例1〜3及び比較例1のココアパウダーは、業務用又は家庭用の市販のココアパウダーを混合することで調製した。比較例2のココアパウダーは森永製菓株式会社製(商品名「純ココア」)であった。実施例1〜3及び比較例1の食物繊維含有量はプロスキー法により測定した。実施例1〜3及び比較例1のタンパク質含有量はケルダール法(窒素換算係数:6.25)により測定し、比較例2の食物繊維及びタンパク質の含有量は製品パッケージ上の栄養成分表示に記載されていた値を用いた。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例1〜3、比較例1及び2のスポンジケーキついて、体積(cm
3)、重量(g)、最大高(mm)を測定した。体積を重量で割ることにより比容積(cm
3/g)を算出した。体積は、「3D Laser Volume Measurement Selnac-WinM2100」(ASTEX社製)を用いて測定した。これらの結果を下記表3に示す。なお、下記表3に示す数値は、スポンジケーキ2個の平均値とした。
【0026】
【表3】
【0027】
食物繊維の含有量が30〜40質量%のココアパウダーを用いた実施例1〜3は、比容積が4cm
3/g以上であり、十分なボリュームが得られた。これらの結果から、食物繊維の含有量が30〜40質量%のココアパウダーを用いた菓子類はボリュームが損なわれにくいことが確認された。
【0028】
ココアパウダーのタンパク質の含有量が25〜35質量%である実施例1及び2と、25質量%未満である実施例3とを比較すると、実施例1及び2の方が比容積、最大高ともに良好な結果であった。これらの結果から、タンパク質の含有量が25〜35質量%のココアパウダーを用いると、ボリュームがより良好になることが確認された。