【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例1〜6>
ベース飼料に対し、所定の添加量となるようにRNAまたはヌクレオチドを配合し、実施例1〜6の飼料およびコントロール飼料を調製した。
【0036】
ベース飼料に添加するRNAとして、酵母由来の核酸であるRNA−M(日本製紙社製)を用いた。
ベース飼料に添加するヌクレオチドとして、酵母由来の核酸であるNPC ヌクレオチド(日本製紙社製)を用いた。
ベース飼料として、市販飼料の飼料(日清丸紅飼料株式会社製)に準じた組成の飼料を用いた。
【0037】
各飼料における、ベース飼料成分に対する、ヌクレオチドおよびRNAの添加量は、表1に示すとおりである。また、ベース飼料の配合組成は、表2に示すとおりである。各飼料は、供試魚のサイズに応じて、径が約2mm及び/又は3mmのペレット状に成形されたものを使用した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
<成長試験1>
(1)供試魚および飼育方法
実施例1〜6およびコントロール飼料を餌としてニジマスの稚魚を飼育し、成長性について試験を行った。コントロール飼料として、上記表2に示すベース飼料を用いた。
【0041】
100L容FRP(Fiberglass Reinforced Plastic)水槽にニジマス40尾を収容し、1つの試験区とした。各試験区の水槽において、流水式(1日24回転)でエアレーションを行いながら、1日2回飽食給餌を行い、平均水温20℃±3℃の条件下で90日間飼育した。飽食給餌の基準として、明らかにニジマスの摂餌性が低下し、少量の残餌が水槽の底に沈殿する状態を飽食給餌とし、この状態になるまで各試験区で毎回給餌を行った。
【0042】
(2)給餌量、体重および体長の測定、並びに飼料転換効率の算出
すべての給餌前後で飼料の重量を測定し、一日の給餌量を算出して毎日記録した。平均給餌量は、摂餌性の指標とした。
【0043】
約30日毎に、2−フェノキシメタノール(和光純薬社製)による麻酔下で各試験区のすべてのニジマスの体重と体長を測定し、各試験区毎の平均値を求めた。
また、上記の給餌量と魚体重から、試験期間全体を通した各試験区毎の飼料転換効率(増加体重/給餌量)×100を求めた。
【0044】
(3)肝重量および比肝重値
上記90日間の飼育終了からさらに18日後にコントロール試験区および実施例5の試験区、20日後に実施例2、3、4および6の試験区、21日後に実施例1の試験区のすべての供試魚に関して、氷冷麻酔下で魚体重および標準体長の測定後、ヘパリン処理を行った注射器でニジマスの全血を採血した後に続けて解剖し、腎臓を除く全ての臓器の摘出を行った。摘出した全ての臓器と、そのうちの肝臓の重量を測定した。1個体当たりの体重に対する肝重量を比肝重値(%)として算出した。
【0045】
(4)試験結果
上記のようにして求められた、給餌量、魚体重、魚体長、飼料転換効率、肝重量および比肝重値の結果を、それぞれ表3〜8に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
平均給餌量、魚体重、および魚体長は、実施例1〜6のいずれの試験区でも、コントロール試験区に対して、概ね同等又は有意に上昇する傾向が認められた。
飼料転換効率についても、実施例の1〜6のいずれの試験区も、コントロール試験区よりも高い値を示した。
【0053】
肝重量に関しては、実施例1、3、4の各試験区において、コントロール試験区に対して有意に上昇する傾向が認められ、実施例2、5の試験区においても、コントロール試験区と比べて同等または高い値を示した。但し、実施例6の試験区だけは、コントロール試験区に対して有意に低下する結果となり、肝重量を上昇させるという観点からは、好ましい投与量に上限があることが示唆された。
【0054】
比肝重値に関しては、実施例1〜6のいずれの試験区でも、コントロール試験区(1.05±0.40%)に対して有意に低い値を示し、実施例2の試験区が最も低い0.8±0.1(より詳細には、0.79±0.11%)を示した。一般に魚類の肝臓はエネルギーの貯蔵器官としての役割が知られており(秋吉英雄ら、2001、「海水産魚類の行動と肝臓の組織生化学的相関に関する比較形態学的研究」島根大学生物資源研究報告第6号)、上記の成長試験の結果にも示されるとおり、核酸を含有する飼料を毎日飽食給餌した際の成長率が向上していたことからも、実施例1〜6の飼料は、エネルギーを貯蔵することなくそのまま成長に利用されたことが推察された。
【0055】
<生体防御能試験>
(1)供試魚および飼育方法
実施例2、3、5、6およびコントロール飼料を餌としてニジマスを用いて生体防御能について試験を行った。
【0056】
供試魚は次のようにして準備した。ニジマスの稚魚を、本試験の開始までの間、1.1t容FRP水槽で約2ヶ月間、1日3回朝、昼、夕の飽食給餌で飼育した。その後、試験開始までの3か月間は1.1t容FRP水槽にて1日1回の飽食給餌を行った。飽食給餌の基準は、上記成長試験と同じである。試験開始時に2−フェノキシエタノール(和光純薬工業社製)による麻酔下で、供試魚の魚体重および標準体長の測定を行い、1水槽当たり35尾を500L容FRP水槽6基にそれぞれ分槽して、試験区を設定した。
【0057】
各試験区毎に、実施例2、3、5、6の飼料の各飼料を1種ずつ割り当てた。コントロール飼料の試験区は2つ設け、それぞれコントロール試験区1および2とした。
各試験区毎に、魚体重の2%を1日1回給餌を行い、5週間飼育した。但し、サンプリングの前日は餌止めを行った。
【0058】
(2)サンプリング
サンプリングは、給餌開始から1,3および5週間後に各試験区7尾ずつ行った。サンプリングした供試魚は、2−フェノキシエタノール(和光純薬工業社製)による麻酔下で魚体重および標準体長を測定後、ヘパリン処理した注射器を用いて、尾柄部から全血を採血したのちに、無菌的に解剖を行い、頭腎を摘出した。採血した血液については、1.5mL小型遠心分離チューブに溶血しないように注意しながら分注後、4℃で831×g、15分間の遠心分離を行って、得られた血漿を−80℃で使用するまで冷凍保存した。
【0059】
(3)頭腎由来白血球の貪食活性の測定
供試魚から全血を採血後、直ちに頭腎を無菌的に摘出し、RPMI−1640培地を500μL入れた1.5mL小型遠心分離チューブ内でピンセットを用いて白血球を押し出し分散した。10分間静置後、白血球を多く含む層を100μL分取し、オプソニン化したザイモザン100μLが入った小型遠心分離チューブに加え、23℃で1時間培養した。その後、4℃で277×g、10分間の遠心分離を行い、上清を取り除いた後に、非働化したウシ胎児血清100μLに懸濁した。この懸濁液をスライドグラスに滴下し乾燥させたのち、メイグリュンワルド液(SIGMA社製)で5分間および50%希釈メイグリュンワルド液で10分間染色した。さらに、ギムザ染色液[Gimsa(MERCK社製):蒸留水=1:20]で2回洗浄したのち、同液で15分間染色した。染色後、水道水で洗浄、乾燥後に顕微鏡観察(×1,000)を行った。各試験区とも貪食能のある好中球とマクロファージのみを300細胞計数し、そのうちザイモザンを貪食している細胞数の割合を貪食率とした。貪食率の試験結果を表9に示す。
【0060】
【表9】
【0061】
(4)補体価の測定
供試魚から採取した血漿とヒツジ(ジャパンラム)の赤血球とを各25μLずつ加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、50μLずつEGTA・Mg
2+・GGVB(glucose gelatin veronal buffer)に10mMグリコールエーテルジアミン四酢酸と40mM MgCl
2を加えた緩衝液)を加え、3,000×g、3分間、4℃で遠心分離した。上清を96穴プレートに移し、波長492nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。測定した吸光度より、溶血率yは{y=[検体の吸光度−CB(機械的溶血、赤血球25μL+緩衝液75μL)の吸光度]/[100%溶血の吸光度−CBの吸光度]}として求め、補体価とした。補体価の試験結果を表10に示す。
【0062】
【表10】
【0063】
(5)リゾチーム活性の測定
Micrococcus lysodeikticus(SIGMA社製)懸濁液は、pH7.0のPBS(−)(ニッスイ社製)を用いて、波長492nmにおける吸光値が0.8になるように調整した。この懸濁液を96穴プレート(IWAKI社製)の各穴に120μLずつ添加したのちに、血漿10μLを加えて60分間反応させた。リゾチーム活性は、混合直後と反応後に波長492nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定し、吸光度の減少分として求めた。リゾチーム活性の試験結果を表11に示す。
【0064】
【表11】
【0065】
表9〜11に示される結果から、自然免疫の指標となる貪食率、補体価、およびリゾチーム活性について、RNAとヌクレオチドでは作用効果が異なること、配合濃度により効果が変動しうることが示された。
【0066】
<食味試験および栄養分析>
(1)供試魚および飼育方法
供試魚には、種苗生産業者より購入したニジマス当歳魚を用いた。供試魚は、淡水飼育棟にある1.1t容FRP水槽で約2か月間の予備飼育を実施したのち、100L容水槽7基にそれぞれ各40尾のニジマスを収容し、かけ流し式でエアレーションを行って飼育した。その後、試験開始2週間前から異常魚や死亡魚のないことを確認して、本試験を開始した。各水槽における給水量は、1日あたり計算上24回転するように調整した。なお、試験期間中の水温は17.8〜19.8℃であった。給餌は1日2回9時と15時に下記の試験飼料を飽食給餌し、16時以降に残餌及び糞の除去処理を行った。
【0067】
(2)食味試験
非喫煙者の高知大学学生10人(男性:女性=4:6)をパネルとして、ニジマスを調理したものを食してもらい、その食味の評価を行った。食味の項目として、外観、香り、味、および食感について評価した。
【0068】
供試魚として、実施例1、2、4、5の飼料を用いた試験区、およびコントロール試験区のものを用いた。料理の提供において、パネルに先入観を与えないため、3桁の乱数を記入した紙皿で提供した。提供順については、前の料理の濃い味付けが次の料理に影響しないよう配慮し、ムニエル、南蛮漬け、甘露煮の順とした。
【0069】
パネルの評価によると、実施例の試験区から得られたニジマスの料理の食味について、試験区のものと比較して劣るとする評価はなく、本発明の飼料を用いて飼育した魚の食味に特に問題のないことが確認できた。
【0070】
(3)栄養分析
ニジマス魚肉中の栄養成分の含有量については、実施例2、4およびコントロール試験区の比較をするために、日本食品機能分析研究所及び日本食品分析センターに依託して分析した。なお、検体として各試験区につき800gの魚肉を供試した。分析結果を表12に示す。
【0071】
【表12】
【0072】
表12に示されるように、実施例の試験区とコントロール試験区では、栄養成分のいずれもほぼ同等の値になったが、実施例の試験区はコントロール試験区と比較して、脂質含有量が低く、ドコサヘキサエン酸(DHA)含有量が高い傾向にあった。
【0073】
<実施例7および8>
RNAの添加量を0.1重量%とした以外は実施例1の飼料と同様にして、実施例7の飼料を調製した。また、ヌクレオチドの添加量を0.1重量%とした以外は実施例4の飼料と同様にして、実施例8の飼料を調製した。
【0074】
<成長試験2>
淡水魚であるニジマスの代わりに、海水魚であるブリを用いて試験を行った。
【0075】
(1)供試魚および飼育方法
実施例1、実施例2、実施例4、実施例5の飼料およびコントロール飼料、並びに実施例7および実施例8の飼料を餌とした各試験区毎にブリの稚魚を飼育した。
【0076】
100L容FRP水槽にブリ60尾を収容し、各飼料ごとの1つの試験区とした。各試験区の水槽において、流水式(1日24回転)でエアレーションを行いながら、1日2回飽食給餌を行い、23℃±3℃の条件下で9週間飼育した。飽食給餌の基準として、明らかにブリの摂餌性が低下し、少量の残餌が水槽の底に沈殿する状態を飽食給餌とし、この状態になるまで各試験区で毎回給餌を行った。
【0077】
(2)肝重量
6週間および9週間の飼育後、各試験区30尾の供試魚をサンプリングし、氷冷麻酔下で魚体重および標準体長の測定後、ヘパリン処理を行った注射器でブリの全血を採血した後に続けて解剖し、腎臓を除く全ての臓器の摘出を行った。摘出した全ての臓器と、そのうちの肝臓の重量を測定した。測定結果を表13に示す。
【0078】
【表13】
【0079】
肝重量に関し、実施例1、2、4および7の各試験区において、コントロール試験区に対して有意に上昇する傾向が認められ、実施例5および8の試験区においても、コントロール試験区と比べてほぼ同等の値を示した。