特許第6862679号(P6862679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6862679-多孔質ポリマ粒子の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862679
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】多孔質ポリマ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/22 20060101AFI20210412BHJP
   C08F 12/36 20060101ALI20210412BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08F2/22
   C08F12/36
   C08F2/44 B
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-96891(P2016-96891)
(22)【出願日】2016年5月13日
(65)【公開番号】特開2017-203134(P2017-203134A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
(72)【発明者】
【氏名】河内 史彦
(72)【発明者】
【氏名】川口 亜季子
(72)【発明者】
【氏名】安江 健
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 笑
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】佛願 道男
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−542318(JP,A)
【文献】 特表2004−508188(JP,A)
【文献】 特表平10−504995(JP,A)
【文献】 特表2005−531651(JP,A)
【文献】 特開2005−281470(JP,A)
【文献】 特開2004−122107(JP,A)
【文献】 特開2004−352882(JP,A)
【文献】 特開2001−181309(JP,A)
【文献】 特開2005−272779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60、6/00−246/00、301/00
C08J 9/00−9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマ、25℃における水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコール、及び重合開始剤を含有するモノマ混合液に、水を溶解させて、水含有モノマ混合液を得る工程Aと、
前記水含有モノマ混合液を含む分散相と水を含む連続相とを含む乳化液を形成させる工程Bと、
前記乳化液中で前記モノマを加熱重合することにより多孔質ポリマ粒子を生成させる工程Cとを含む、多孔質ポリマ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記モノマ混合液が、水への溶解度が0.1〜30g/Lであるアルコールを更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合性モノマがジビニルベンゼンを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記モノマ混合液が、水への溶解度が0.01g/L以下である前記アルコールをモノマ100質量部に対して20質量部以上含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
水への溶解度が0.01g/L以下である前記アルコールがドデカノールを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径が0.5μm以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリマ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル用スペーサー、クロマトグラフィー用充填剤、診断試薬担体等に用いられる樹脂粒子には、粒子径の均一性(単分散性)が要求されている。また近年、光拡散材用途の樹脂粒子に関しても、粒子径の均一性が求められてきている。このような単分散樹脂粒子の製造方法としては、従来から多くの技術が報告されている。
【0003】
例えば、極細の流路を用いて水系媒体に反応性モノマを合流させることで、微小液滴を一滴ずつ発生させ、その液滴を加熱又は活性エネルギー線の使用により重合させることで、微小樹脂粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
SPG膜等の多孔質膜を通してモノマを水系媒体中に吐出させることで、モノマの液滴を含むエマルションを調製し、液滴を加熱又は活性エネルギー線の使用により重合させることで、粒子径が比較的揃った樹脂粒子を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
多数のマイクロチャネルを備えた基板を介して、反応性モノマを水系媒体中に吐出させることで、反応性モノマの液滴を含むエマルションを得た後、エマルションにポリビニルアルコール溶液を加え、攪拌しながらの加熱により液滴を重合させることで、単分散性である樹脂粒子を製造する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
ソープフリー乳化重合又は分散重合によりシード粒子を作製し、乳化させた重合性単量体を該シード粒子に吸収させて重合を行う、シード重合法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-122107号公報
【特許文献2】特開2004-352882号公報
【特許文献3】特開2001-181309号公報
【特許文献4】特開2005-272779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法では、大きな細孔径を有する粒子を合成することは困難である。
【0009】
本発明は、大きな細孔径を有する多孔質ポリマ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記[1]〜[7]に記載の多孔質ポリマ粒子の製造方法を提供する。
[1]重合性モノマ、水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコール、及び重合開始剤を含有するモノマ混合液に、水を溶解させる工程Aと、上記モノマ混合液を含む分散相と水を含む連続相とを含む乳化液を形成させる工程Bと、上記乳化液中で上記モノマを加熱重合することにより多孔質ポリマ粒子を生成させる工程Cとを含む、多孔質ポリマ粒子の製造方法。
[2]上記モノマ混合液が、水への溶解度が0.1〜30g/Lであるアルコールを更に含む、[1]に記載の製造方法。
[3]上記重合性モノマがジビニルベンゼンを含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]上記モノマ混合液が、水への溶解度が0.01g/L以下である上記アルコールをモノマ100質量部に対して20質量部以上含有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]水への溶解度が0.01g/L以下である上記アルコールがドデカノールを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]工程Bにおいて、得られる多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数が10%以下となるように乳化液を形成させる、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]上記多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径が0.5μm以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、大きな細孔径を有する多孔質ポリマ粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例5の多孔質ポリマ粒子の細孔径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。
【0014】
本実施形態に係る多孔質ポリマの製造方法は、重合性モノマ、水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコール、及び重合開始剤を含有するモノマ混合液に、水を溶解させる工程Aと、上記モノマ混合液を含む分散相と水を含む連続相とを含む乳化液を形成させる工程Bと、上記乳化液中で上記モノマを加熱重合することにより多孔質ポリマ粒子を生成させる工程Cとを含む。
【0015】
(工程A)
工程Aは、重合性モノマ、水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコール、及び重合開始剤を含有するモノマ混合液に、水を溶解させる工程である。
【0016】
本実施形態に係る製造方法では、モノマ混合液が重合性モノマを含有する。重合性モノマは、例えば、重合性不飽和基を有するモノマであってよく、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基などが挙げられる。重合性モノマは、多官能性モノマ及び単官能性モノマのいずれであってもよい。重合性モノマとしては、例えば、スチレン系モノマ、(メタ)アクリル系モノマ等が挙げられる。スチレン系モノマとは、スチレン骨格を有するモノマをいう。スチレン系モノマをモノマ単位として含むスチレン系ポリマは、従来の(メタ)アクリル酸エステル誘導体のモノマを重合して得られるポリマよりも、酸及びアルカリ耐性が強い。そのため、重合性モノマがスチレン系モノマを含むことが好ましい。モノマ混合液がスチレン系モノマを含むことによって、重合して得られる多孔質ポリマ粒子の酸及びアルカリ耐性を向上させることができる。そのため、得られた多孔質ポリマ粒子をカラム充填材に使用した場合、優れた耐酸性及び耐アルカリ性を得ることができる。
【0017】
スチレン系多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン等のジビニル化合物が挙げられる。上記の中でも、耐久性、膨潤性の観点から、ジビニルベンゼンを用いることが好ましい。ジビニルベンゼンの含有量は、モノマ全質量を基準として、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。モノマは全量がジビニルベンゼンであってもよい。
【0018】
スチレン系単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等の、スチレン及びその誘導体が挙げられる。単官能性モノマの中でも、耐酸性及び耐アルカリ性の観点から、スチレンを使用することが好ましい。スチレン系モノマは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0019】
(メタ)アクリル系多官能性モノマとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレートが挙げられる。その他の重合性多官能性モノマとしては、例えば、ジアリルフタレート及びその異性体;トリアリルイソシアヌレート及びその誘導体等が挙げられる。多官能性モノマは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。これらモノマの中でも、新中村化学工業株式会社製のNKエステル(A−TMPT−6P0、A−TMPT−3E0、A−TMM−3LMN、A−GLYシリーズ、A−9300、AD−TMP、AD−TMP−4CL、ATM−4E、A−DPH)等が、商業的に入手可能である。
【0020】
(メタ)アクリル系単官能性モノマとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、α−クロロ(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。その他の重合性単官能性モノマとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸テトラフルオロプロピル等の含フッ素化モノマ;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンが挙げられる。単官能性モノマは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本実施形態に係る製造方法では、多孔質化剤として、水への溶解度が0.01g/L以下のアルコールを使用する。水への溶解度は25℃における値として表される。従来の多孔質ポリマ粒子の製造方法では、乳化液の分散安定性の維持が難しく、乳化液回収の際又は重合途中に合一が発生し、得られる粒子が多分散になりやすいという問題があった。本実施形態に係る製造方法によれば、大きな細孔径を有し、粒径の変動係数がより小さい多孔質ポリマ粒子を得ることができる。
【0022】
水への溶解度が0.01g/L以下のアルコールとしては、例えば、炭素数12以上のアルコールを用いることができる。上記アルコールは、炭素数12〜22であることが好ましい。上記アルコールは、例えば、飽和又は不飽和の脂肪族アルコールであってよい。上記アルコールが有する炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。上記アルコールの水への溶解度は、0.005g/L以下であってもよい。上記アルコールの水への溶解度は、例えば0g/以上であってよく、0.1mg/L以上であってもよい。水への溶解度が0.01g/L以下のアルコールは、実質的に乳化能を示さないことが好ましい。乳化能を示さないとは、アルコールを含む分散相と連続相とを、8/2の割合で混合攪拌して静置した際に、連続相が乳化(白濁)していないことを意味する。このようなアルコールとしては、一般的にコサーファクタントを使用することができる。
【0023】
水への溶解度が0.01g/L以下のアルコールの具体例としては、ドデカノール(ラウリルアルコール)、セチルアルコール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。この中でもドデカノールを使用することにより、モノマ混合液の粘度の向上を抑制することができるため好ましい。上記アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。上記アルコールのモノマ混合液中の含有量としては、乳化滴の安定性の観点から、モノマ100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましい。上記アルコールのモノマ混合液中の含有量は、モノマ全質量に対して、例えば300質量部以下であってよく、200質量部以下であることが好ましい。
【0024】
重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する溶媒を多孔質化剤として併用することもできる。具体的には、脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的には、トルエン、ジエチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、イソアミルアルコール、2−オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。この中でも水への溶解度が0.1〜30g/Lであるアルコールを使用することが好ましい。水への溶解度が0.1〜30g/Lであるアルコールを、水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコールと併用することにより、モノマ混合液中に溶解可能な水の量が増大し、細孔径をより大きくできる傾向がある。併用するアルコールの水への溶解度は、0.1〜25g/Lであることがより好ましく、0.1〜15g/Lであることが更に好ましく、0.1〜10g/Lであることがより更に好ましい。水への溶解度が0.01g/L以下であるアルコール以外の多孔質化剤の、モノマ混合液中の含有量は、モノマ100質量部に対して、例えば10〜300質量部であってよく、10〜200質量部であることが好ましく、10〜150質量部であることがより好ましい。
【0025】
多孔質化剤の配合量によって粒子の空孔率(細孔容積)をコントロールできる。さらに多孔質化剤の種類によって、孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0026】
重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用するとよい。
【0027】
工程Aでは、モノマ混合液に水を添加する前に、予めモノマ及び多孔質化剤を含むモノマ混合液に重合開始剤を均一に溶解しておくことが好ましい。モノマ混合液に水を溶解する際は、モノマ混合液に水を添加し、水を均一に溶解させることが好ましい。モノマ混合液に水を添加して攪拌することにより、モノマ混合液に水を均一に溶解させることができる。溶解できる水の量は使用する多孔質化剤の種類によって変わるため、水を過剰に添加しておくことが望ましい。モノマ混合液の疎水性が高い場合、水を溶解させるのに時間を要するため、モノマ混合液に水を添加した後、1時間以上攪拌することが好ましい。
【0028】
(工程B)
工程Bでは、分散相と連続相とを含む乳化液を形成させる。分散相は、工程Aで得られたモノマ混合液を含み、連続相は水を含む。乳化液の形成には、乳化装置等を使用することができる。
【0029】
本実施形態に係る製造方法では、連続相として水系媒体を用いる。水系媒体としては、例えば、水、又は、水と水性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水系媒体には、分散安定剤及び界面活性剤の少なくとも一方が含まれていることが好ましい。
【0030】
分散安定剤は、例えば高分子化合物である。分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン、無機系水溶性高分子化合物(トリポリリン酸ナトリウム等)などが挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。分散安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。分散安定剤の添加量は、連続相の全質量に対して0.01〜5質量%であることが好ましい。分散安定剤の添加量が0.01質量%以上であると、乳化後、モノマ滴が流路内にて合一することをより抑制できる。分散安定剤の添加量が5質量%以下であると、粒子の回収がより容易となる傾向がある。
【0031】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。界面活性剤は、第三リン酸カルシウム(TCP)が吸着できるものであることが好ましい。
【0032】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。この中でも、TCPの吸着性が高いことから、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0033】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0035】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0036】
界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマの重合時の分散安定性に優れる観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0037】
界面活性剤の濃度は、連続相の全質量に対して0.01〜0.5質量%にすることが好ましい。界面活性剤の濃度が0.01質量%以上であると、分散安定性をより高め、粒子凝集の発生を抑制することができる。界面活性剤の濃度が0.5質量%以下であると、溶媒中での乳化重合の併発を抑制することができる。
【0038】
水中でモノマが単独に乳化重合した粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0039】
モノマ混合液に熱による変質が発生する場合があるため、高温下でのエマルション製造は好ましくない。工程Bにおけるエマルションの製造温度は、10〜40℃であることが好ましく、20〜40℃であることがより好ましい。
【0040】
乳化液の形成は、得られる乳化粒子が単分散となるように行われることが好ましい。乳化粒子の粒径の変動係数は、例えば10%以下であってよい。単分散である乳化粒子を得るための乳化に用いられる装置としては、一般的な単分散乳化装置を使用することができる。単分散乳化装置としては、例えば、マイクロプロセスサーバー(株式会社日立製作所製)、マイクロ流路(株式会社ワイエムシィ製)、マイクロチャネル乳化装置(株式会社イーピーテック製)等を使用することができる。乳化液の形成は、後の重合により得られる多孔質ポリマ粒子が単分散となるように、具体的には例えば、得られる多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数が10%以下となるように、行われることが好ましい。
【0041】
乳化装置にモノマ混合液(分散相)と水系媒体(連続相)とを供給する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポンプで供給する方法、重力を利用して水圧をもって供給する方法等が挙げられる。ポンプとしては、例えばシリンジポンプ、モーノポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ロータリーポンプ、チューブポンプ、ギヤーポンプ等が挙げられる。重力を利用して水圧をもって供給する方法としては、例えばマイクロスフィア製造装置と、モノマ混合液及び水系媒体それぞれを供給するタンクとの高低差を調節して、モノマ混合液と水系媒体の水圧差から、それぞれの流量バランスを調節する方法が挙げられる。
【0042】
分散相と連続相とのそれぞれの流れに脈流が発生すると、得られる粒子の単分散性が影響を受けるため、できるだけ脈流を抑えた方法を取ることが好ましい。
【0043】
乳化液には、第三リン酸カルシウム(TCP)が添加されていてもよい。TCPは、例えば水溶液として添加することができる。TCPの使用により、得られる多孔質ポリマ粒子の分散安定性が良くなるため粒径の変動係数を更に低下させることができる。
【0044】
(工程C)
工程Cでは、得られた乳化液中でモノマを加熱重合させることにより多孔質ポリマ粒子を生成させる。重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。
【0045】
多孔質ポリマ粒子の全体積(細孔容積を含む)に対する細孔容積の割合は、30%以上70%以下であることが好ましい。更に好ましくは、細孔容積の割合は50%以上70%以下である。多孔質ポリマ粒子は、大部分の細孔直径が0.5μm以上である細孔、すなわちマクロポアーを有するものが好ましい。多孔質ポリマ粒子は、細孔径分布におけるモード径が0.5μm以上であることが好ましく、0.5μm以上3μm未満であることがより好ましい。細孔径分布におけるモード径が0.5μm以上であると、細孔に入ることができる物質が増えるため好ましく、3μm未満であると、多孔質ポリマ粒子の比表面積をより大きくすることができるため好ましい。細孔容積の割合及び細孔径分布におけるモード径は、上述の多孔質化剤により調整可能である。
【0046】
本実施形態に係る製造方法によって得られる多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは50μm以上である。平均粒径が大きくなると、生産性が向上する。上記平均粒径は、体積平均粒径である。
【0047】
本実施形態に係る製造方法によって、単分散である多孔質ポリマ粒子を得ることができる。本明細書において単分散とは、粒径分布の分散の幅が狭いことを意味し、例えば粒径の変動係数が10%以下であることをいう。多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数は、例えば1〜10%であってよく、3〜9%であってもよい。
【0048】
多孔質ポリマ粒子は、比表面積が10m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は15m/g以上であることがより好ましく、20m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が20m/g以上であると、分離する物質の吸着量がより多くなる傾向にある。
【0049】
多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径及び比表面積は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所)にて測定した値であり、以下のようにして測定する。試料は、そのまま0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に採り、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cm、に設定する。また、細孔径0.05〜5μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
【0050】
多孔質ポリマ粒子の平均粒径及び粒径の変動係数(C.V.)は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子1万個の画像により、平均粒径及び粒径の変動係数を測定する。
【0051】
本実施形態に係る製造方法により得られる多孔質ポリマ粒子は、クロマトグラフィー用充填剤、ワクチン精製、細胞培養用粒子等に有用である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
(工程A)
モノマとして純度96%のジビニルベンゼン(DVB)12g、多孔質化剤として1−ドデカノール19.2g、及び重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.64gを混合し、モノマ混合液を調製した。その後、モノマ混合液に5gの水を添加し、スターラーにて攪拌し(1時間)、モノマ混合液に水を飽和溶解させた。溶解した水を含むモノマ混合液と、溶解しきらなかった水とを含む、乳化用混合液を得た。
【0054】
(工程B)
分散安定剤であるポリビニルアルコールを0.05質量%、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)を0.03質量%含有する水溶液を調製した。マイクロプロセスサーバーを用いて、当該水溶液と上記乳化用混合液とを単分散乳化し、上記水溶液を含む連続相と、上記モノマ混合液を含む分散相とを含む乳化液を得た。
【0055】
(工程C)
1%TCP水溶液(太平化学産業株式会社製)100g中で100g乳化液を採取し、乳化液中のモノマ滴にTCPを吸着させた。吸着後の乳化液を500mLのセパラブルフラスコに移しかえた後、80℃に昇温し、7時間重合を行った。塩酸を用いて、得られた粒子分散液をpH2に調整した。分散剤であるTCPを溶解させた後、ろ過を行った。さらに、アセトン300mLに粒子を浸漬して30分攪拌した後にろ過する工程を3回繰り返し、洗浄を行うことによって多孔質ポリマ粒子を得た。得られた粒子の粒径をフロー型粒径測定装置(FPIA−3000、シスメックス株式会社製)で測定し、平均粒径(体積基準)及び粒径のC.V.値を算出した(表1)。
【0056】
実施例1で得られた多孔質ポリマ粒子の平均粒径は107μmであり、粒径C.V.は7.8%であった。
【0057】


【表1】

【0058】
(実施例2)
多孔質化剤として1−ドデカノール12g、イソアミルアルコール12gを使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0059】
(実施例3)
多孔質化剤として1−ドデカノールを12g、1−ヘキサノールを12g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0060】
(実施例4)
多孔質化剤として1−ドデカノールを12g、1−オクタノールを12g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0061】
(実施例5)
多孔質化剤として1−ドデカノールを7.2g、1−オクタノールを16.8g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。実施例5で得られた多孔質ポリマ粒子の細孔径分布を図1に示す。
【0062】
(実施例6)
多孔質化剤として1−ドデカノールを3.6g、1−オクタノールを20.4g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0063】
(比較例1)
多孔質化剤として1−ドデカノールを使用せずイソアミルアルコールを24g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0064】
(比較例2)
多孔質化剤として1−ドデカノールを使用せず1−ヘキサノールを24g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0065】
(比較例3)
多孔質化剤として1−ドデカノールを使用せず1−オクタノールを24g使用した以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0066】
(比較例4)
モノマ混合液に水を溶解する工程を行わなかった以外は実施例4と同様にして多孔質ポリマ粒子を合成し、評価を行った。
【0067】
表に示すとおり、実施例では単分散かつ細孔径の大きい多孔質ポリマ粒子を合成することができた。
図1