特許第6862753号(P6862753)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6862753ファラデー回転子、ファラデー回転子の製造方法、及び、磁気光学デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862753
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ファラデー回転子、ファラデー回転子の製造方法、及び、磁気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20210412BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   G02B27/28 A
   G02F1/09 505
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-203472(P2016-203472)
(22)【出願日】2016年10月17日
(65)【公開番号】特開2018-66776(P2018-66776A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 剛
【審査官】 山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08547636(US,B1)
【文献】 特開平06−088926(JP,A)
【文献】 特開2004−302412(JP,A)
【文献】 特開2015−108726(JP,A)
【文献】 特開平07−209604(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0225831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/28
G02F 1/09,1/095
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常磁性体からなり、光路に配置可能なファラデー素子と、
前記ファラデー素子に磁界を印加する磁石体と、
前記磁石体に磁気吸着により接続され、前記磁石体により前記ファラデー素子に印加される磁界強度を減じる調整部と、を備え
前記調整部は、前記磁石体により前記ファラデー素子に印加される磁界強度を、前記調整部の厚さに応じて減じる、ファラデー回転子。
【請求項2】
前記ファラデー素子は、前記調整部により、使用する波長におけるファラデー回転角が45°±0.5°に調整される、請求項1に記載のファラデー回転子。
【請求項3】
前記ファラデー素子は、前記磁石体により、前記調整部を介さずに前記ファラデー素子に磁界を印加した場合の、使用する波長におけるファラデー回転角が45°超48°以下である、請求項1または請求項2に記載のファラデー回転子。
【請求項4】
前記調整部は軟磁性材料で形成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のファラデー回転子。
【請求項5】
前記調整部は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材を含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のファラデー回転子。
【請求項6】
前記磁石体は貫通孔を有する円筒状であり、
前記ファラデー素子は、前記貫通孔に配置される、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のファラデー回転子。
【請求項7】
前記調整部は、円環状であり、前記磁石体の端部の少なくとも一部または全部を覆う、請求項6に記載のファラデー回転子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のファラデー回転子を備える、磁気光学デバイス。
【請求項9】
常磁性体からなるファラデー素子と、
前記ファラデー素子に磁界を印加する磁石体と、
前記磁石体に磁気吸着により接続され、前記磁石体により前記ファラデー素子に印加される磁界強度を減じる調整部と、を備えるファラデー回転子を製造する方法であって、
前記磁石体により前記調整部を介さずに前記ファラデー素子に磁界を印加した場合の、使用する波長におけるファラデー回転角を45°を超えるように設定することと、
少なくとも前記ファラデー素子及び前記磁石体を組み立てることと、
前記組立てた前記ファラデー素子及び前記磁石体において、ファラデー回転角を確認することと、
前記確認したファラデー回転角に基づいて、前記調整部により、ファラデー回転角を調整することと、を含
前記調整部は、前記磁石体により前記ファラデー素子に印加される磁界強度を、前記調整部の厚さに応じて減じる、ファラデー回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデー回転子、ファラデー回転子の製造方法、及び、磁気光学デバイスに関する。特に、簡単な調整作業で所望とするファラデー回転角を高精度に設定できるファラデー回転子、とその製造方法、及び該ファラデー回転子を備える磁気光学デバイスの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファラデー回転子は、ファラデー素子と該ファラデー素子に磁界を加えてファラデー効果を生じさせる磁石体とで構成され、直線偏光をファラデー回転させる機能素子である。従来、ファラデー回転子は、例えば、光通信システムで使用される光アイソレータや光サーキュレータ、その他非相反性が要求される磁気光学デバイスに搭載されている。ファラデー回転子に使用される光は、例えば、波長1.3μm〜1.6μmのレーザー光であり、ファラデー素子には強磁性体である希土類・鉄ガーネット(Rare-earth Iron Garnet、以下、「RIG」と略称する)膜が用いられている。この場合、ファラデー回転角θfは、使用波長におけるRIG膜のファラデー回転係数をF(材料固有の値)、RIG膜の光路長(RIG膜の厚み)をdとすると、下記式(1)で与えられる。
【数1】
【0003】
ファラデー素子にRIG膜を用いた場合、上記式(1)で示されるように、ファラデー回転角θfは、RIG膜の光路長dのみに依存する。強磁性体であるRIG膜を磁気飽和させるために必要な磁界より大きい磁界が磁石体により得られれば、その範囲で磁界強度がばらついてもファラデー回転角の変動には全く影響を与えない。
【0004】
一方、近年、波長0.4μm〜1.1μmのレーザー光を用いた加工、通信、センサー等の実用化が進み、これに伴ってこの波長帯で使用できる磁気光学デバイスの要求も高まってきている。また、光の波長が1.1μmより短くなると、RIG膜の光吸収が急激に大きくなるため、使用されるファラデー素子は上記波長帯で透明な常磁性体となる。この場合、ファラデー回転角θfは、ファラデー素子のヴェルデ定数(材料固有の値)をV、ファラデー素子の光路長(素子の長さ)をL、ファラデー素子における光路上の位置xにおける光軸方向の磁界強度をH(x)として、下記式(2)で与えられる。
【数2】
【0005】
ファラデー素子に常磁性体を用いる一般的な従来のファラデー回転子FXを図9に示す。図9は、従来のファラデー回転子FXの一例を示す図であり、(A)はXZ平面の断面図、(B)は+X側から見た側面図である。このファラデー回転子FXにおいては、長手方向に着磁された円筒状の磁石体2の貫通孔2a内に、常磁性体から成る円柱状のファラデー素子1が固定されている。この場合、貫通孔2a内部の磁界はほぼ均一なため上記式(2)は簡単になり、ファラデー回転角θfは下記式(3)で与えられる。
【数3】
【0006】
上記式(3)から解るように、ファラデー素子に常磁性体が用いられた場合、ファラデー回転角θfは常磁性体の光路長(L)だけでなく磁界強度(H)にも依存する。磁気光学デバイスにおいて要求されるファラデー回転角θfは、一般に45°であり、ファラデー回転角θfが45°からずれていくとデバイスの特性が低下していく。例えば、半導体レーザー(以下、「LD」と略称する)へ戻る光を減衰させて光通信での発振を安定させることにより、ファイバーレーザーの種LDの破壊を防止する光アイソレータにおいて、戻り光を減衰させる性能は、下記式(4)で与えられる。ファラデー回転角θfの45°からのずれが無いときの「戻り光の減衰率」を1/10000とすると、
【数4】
となる。
【0007】
上記式(4)において、Δθはファラデー回転角θfの45°からのずれである。また、図10は、式(4)の戻り光減衰率とファラデー回転角θfの45°からのずれの関係を示すグラフである。図10のグラフに示すように、ファラデー回転角θfの45°からのずれが2°以上になると、光アイソレータの正常な機能を維持することができる1/1000より戻り光減衰率が悪化することが解る。
【0008】
このようにファラデー回転角θfの45°からのずれを抑えることは、光アイソレータにとって重要であり、ファラデー回転子を複数組み合わせる光サーキュレータにおいては更に重要となってくる。上記式(1)で示したようにファラデー素子に強磁性体として機能するRIG膜を用いたファラデー回転子において、ファラデー回転角θfはRIG膜の厚みdのみに依存する。そして、現在の加工技術においては目標とするファラデー回転角θfからのずれを±0.5°以下に抑えることは容易であるため、ファラデー回転角θfの45°からのずれによる磁気光学デバイスの不具合は殆ど発生していない。
【0009】
一方、ファラデー素子に常磁性体を用いた場合、上記式(2)、式(3)に示したようにファラデー素子の長さ(L)と磁界の大きさ(H)の両者に依存する。そして、ファラデー素子の長さ(L)については、目標とするファラデー回転角θfからのずれを、上述したように±0.5°以下に抑えられるが、磁界の大きさ(H)に関しては、現在の焼結磁石における製造技術水準では磁石母材の製造ロットが変わると優に5%は変動することがある。この5%の磁界の大きさ(H)の変動は、ファラデー回転角θfにおいて42.75°〜47.25°の変動分に相当し、この変動があると、光アイソレータや光サーキュレータ等における磁気光学デバイスの戻り光減衰率1/1000の確保が困難となる。そして、このことがファラデー素子に常磁性体を用いた磁気光学デバイスの不具合発生の大きな原因となっている。
【0010】
上記ファラデー回転角θfを45°に設定するためには、ファラデー素子に対し適切な強度の磁界を加える必要がある。例えば、特許文献1においては、磁石と磁気光学素子(ファラデー素子)との相対位置を可変にさせることで、磁界強度を最適な値に調整する手法が開示されている。しかし、磁石体の貫通孔内にファラデー素子が固定される構造のファラデー回転子においては、磁石とファラデー素子の相対位置を変えられないため、特許文献1で提案された手法により磁界強度を調整することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−281887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、上記ファラデー素子に常磁性体が適用されたファラデー回転子を前提とし、その課題とするところは、簡単な調整作業で所望とするファラデー回転角を高精度に設定できるファラデー回転子、その製造方法、及び該ファラデー回転子を備える磁気光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために、磁石体に磁性吸着可能な部材により、磁石体によりファラデー素子に印加される磁界強度を精度よく簡単に調整可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の第1の態様によれば、常磁性体からなり、光路に配置可能なファラデー素子と、ファラデー素子に磁界を印加する磁石体と、磁石体に磁気吸着により接続され、磁石体によりファラデー素子に印加される磁界強度を減じる調整部と、を備え、調整部は、磁石体によりファラデー素子に印加される磁界強度を、調整部の厚さに応じて減じる、ファラデー回転子が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の態様によれば、第1の態様において、ファラデー素子は、調整部により、使用する波長におけるファラデー回転角が45°±0.5°に調整される、ファラデー回転子が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の態様によれば、ファラデー素子は、磁石体により、調整部を介さずにファラデー素子に磁界を印加した場合の、使用する波長におけるファラデー回転角が45°超48°以下である、ファラデー回転子が提供される。
【0017】
また、本発明の第4の態様によれば、第1の態様から第3の態様のいずれかの態様において、調整部は軟磁性材料で形成されるファラデー回転子が提供される。
【0018】
また、本発明の第5の態様によれば、第1の態様から第4の態様のいずれかの態様において、調整部は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材を含む、ファラデー回転子が提供される。
【0019】
また、本発明の第6の態様によれば、第1の態様から第5の態様のいずれかの態様において、磁石体は貫通孔を有する円筒状であり、ファラデー素子は、貫通孔に配置される、ファラデー回転子が提供される。
【0020】
また、本発明の第7の態様によれば、第6の態様において、調整部は、円環状であり、磁石体の端部の少なくとも一部または全部を覆う、ファラデー回転子が提供される。
【0021】
また、本発明の第8の態様によれば、第1の態様から第7の態様のいずれかの態様のファラデー回転子を備える、磁気光学デバイスが提供される。
【0022】
また、本発明の第9の態様によれば、常磁性体からなるファラデー素子と、ファラデー素子に磁界を印加する磁石体と、磁石体に磁気吸着により接続され、磁石体によりファラデー素子に印加される磁界強度を減じる調整部と、を備えるファラデー回転子を製造する方法であって、磁石体により調整部を介さずにファラデー素子に磁界を印加した場合の、使用する波長におけるファラデー回転角を45°を超えるように設定することと、少なくともファラデー素子及び磁石体を組み立てることと、組立てたファラデー素子及び磁石体において、ファラデー回転角を確認することと、確認したファラデー回転角に基づいて、調整部により、ファラデー回転角を調整することと、を含調整部は、磁石体によりファラデー素子に印加される磁界強度を、調整部の厚さに応じて減じる、ファラデー回転子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るファラデー回転子は、簡単な調整作業で所望とするファラデー回転角を高精度に設定できる。また、本発明のファラデー回転子の製造方法は、上記したファラデー回転子を簡単に製造することができる。また、本発明の磁気光学デバイスは、ファラデー回転角の精度が高いので、ファラデー回転による光の調整を精度よく行うことができる。また、本発明に係るファラデー回転子は、常磁性体からなるので、波長0.4μm〜1.1μmの光を精度よく処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】(A)から(C)は、実施形態に係るファラデー回転子の概略構成を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図、(C)は側面図である。
図2】実施形態に係るファラデー回転子の製造方法のフローチャートである。
図3】(A)はファラデー回転角の調整を行う調整機構の概略構成を示す断面図であり、(B)は、(A)における光の偏光方向を示す図である。
図4】磁気光学デバイスの概略構成を示す断面図である。
図5】調整部の厚さとファラデー回転角の変動量との関係を示すグラフである。
図6】異なるファラデー素子のファラデー回転角を調整部により調整した結果を示すグラフである。
図7】同一母材から形成された磁石体におけるファラデー回転角のばらつきを示すグラフである。
図8】同一の結晶の異なる位置におけるファラデー回転角のばらつきを示すグラフである。
図9】従来のファラデー回転子の一例を示す図であり、(A)は断面図、(B)は側面図である。
図10】戻り光減衰率とファラデー回転角の45°からのずれの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。また、以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向、Y方向とする。また、X方向、Y方向、及びZ方向のそれぞれについて、適宜、矢印の先の側を+側(例、+X側)と称し、その反対側を−側(例、−X側)と称する。
【0026】
本実施形態に係るファラデー回転子の概略構成を図1(A)から(C)に示す。図1(A)は斜視図であり、(B)はXZ平面の断面図であり、(C)は+X側からみた側面図である。すなわち、本実施形態に係るファラデー回転子Fは、常磁性体からなりファラデー効果を有するファラデー素子1(磁気光学素子)と、磁石体2と、調整部3と、を備える。ファラデー回転子Fは、図1に示すように、上記図9に示した一般的なファラデー回転子FX(円筒状の磁石体2の貫通孔2a内に、常磁性体からなる円柱状のファラデー素子1が固定されたファラデー回転子FX)の貫通孔2aの開放端2b側に、調整部3が磁気吸着(磁性吸着)された構造となっている。
【0027】
ファラデー素子1を構成する常磁性体は、一般的にTbGa12(テルビウム・ガリウムガーネット:通称TGG)やTb(ScAl1−x12(テルビウム・スカンジウム・アルミニウムガ−ネット:通称TSAG)等のテルビウム系の常磁性体である。なお、ファラデー素子1を構成する常磁性体は、これらに限定されず、任意である。
【0028】
ファラデー素子1の形状は、円柱状である。ファラデー素子1は、円柱状の上記した常磁性体の結晶により構成される。ファラデー素子1は、その円柱の側面が、後に説明する磁石体2の貫通孔2aの内壁に、接着剤4で固定されて配置される。ファラデー素子1の光路OPと平行な方向(X方向)の長さL1(図1(B)参照)は、上記した式(3)における(L)に相当し、式(3)に基づいて、磁石体2の磁界強度(H)とともに設定され、所定のファラデー回転角になるように設定されている。ファラデー素子1のファラデー回転角の詳細については、後に説明する。なお、ファラデー素子1の形状は、円柱状に限定されず、任意である。例えば、ファラデー素子1の形状は、四角柱状でもよいし、板状でもよい。ファラデー素子1が結晶で構成される場合、膜状のファラデー素子1と比べて、精度よくファラデー効果を発揮させることができる。
【0029】
磁石体2は、ファラデー素子1に磁界(磁場)を印加する(加える)。磁石体2は、貫通孔2aを有する円筒状である。貫通孔2aは、X方向と平行な方向の直線状に形成されている。貫通孔2aは、光の光路OP、磁界の空間としても用いられる。すなわち、ファラデー素子1は、光路OPに配置され、磁石体2の磁界が印加される。磁石体2の+X側および−X側の端部2bには、それぞれ、磁極2cが形成される。磁石体2による磁界強度は、貫通孔2a内において、ほぼ均一な飽和状態になっている。このように、貫通孔2a内のファラデー素子1には均一な磁界が印加されるので、ファラデー素子1は、ファラデー回転の機能を効果的に発揮することができる。
【0030】
また、磁石体2は、Nd14Fe21BやSmCo17等の焼結磁石で構成されている。なお、磁石体2を構成する材料は、これらに限定されず、任意である。磁石体2がファラデー素子1に印加する磁界強度(磁束密度)は、上記した式(3)における(H)に相当し、式(3)に基づいて、ファラデー素子1の長さ(L)とともに設定される。なお、磁石体2は、円筒状に限定されず、他の構成でもよい。
【0031】
調整部3は、磁石体2によりファラデー素子1に印加される磁界強度(磁束密度)(以下、「磁石体2の磁界強度」と称すこともある。)を調整する。調整部3は、磁石体2の磁界強度を、ファラデー素子1のファラデー回転角が所定の値になるように調整する。調整部3は、磁石体2の磁極2c(磁極面)の少なくとも一部を覆う。これにより、磁石体2からの磁束の少なくとも一部が調整部3を通過(透過)するので、磁石体2の磁界強度を減じることができる。
【0032】
調整部3は、磁性体である。調整部3は、磁石体2の磁極2cに、磁気吸着により接続される。調整部3は、磁石体2に対して着脱可能であり、磁石体2の磁界強度を簡単に調整することができる。
【0033】
調整部3は、軟磁性材料で形成される。調整部3は、透磁率が高いので、磁石体2の磁界強度を精度よく調整することができ、また、磁石体2に対して着脱しやすいので、磁石体2の磁界強度を簡単に調整することができる。調整部3に用いられる軟磁性材料は、透磁率が高い点、加工性の良い点、材料の入手のし易さの点などの点で、軟磁性ステンレス鋼、ケイ素鋼等で構成することが望ましい。
【0034】
調整部3の形状は、任意である。例えば、磁極2cの形状に対応した形状に設定される。本実施形態では、調整部3は、磁石体2の磁極面(+X側および−X側の端面)の円環状(リング状)の形状に対応した、円環状である。調整部3は、貫通孔2aの開放端側(+X側および−X側)のうち少なくとも1つの開放端側(図1では+X側)に設けられる。
【0035】
調整部3の大きさ(すなわち外径及び内径)は、効率良く磁界強度を減じるために、円筒状の磁石体2の貫通孔2aの開放端面(+X側および−X側の端面)の面積(形状)と同等が望ましいが、磁気吸着の際にズレが生じた場合、調整部3の内径(内側の円)側の部分で光路OPをさえぎったり、外径(外側の円)側の部分が磁石体2の外径よりはみ出してしまいファラデー回転子の形状が歪む形状になるため、調整部3の外径L3(図1(C)参照)は、円筒状の磁石体2の端部の外径L2より小さいのが好ましく、中でも、扱いやすさ及び上記した磁界の調整効率の点で、外径L1に対して1.0mm以上2.5mm以下小さいのがより好ましい。また、調整部3の内径L5は、磁石体2の端部の内径L4に対して大きいのが好ましく、扱いやすさ及び上記した磁界の調整効率の点で、+1.0mm以上2.5mm以下大きいのがより好ましい。
【0036】
ところで、調整部3によるファラデー回転角の調整量(磁石体2の磁界強度の調整量)は、上記したように磁石体2の磁界の大きさ(磁界強度)の個体差があるため、ファラデー回転子F(磁石体2)ごとに異なる。また、磁石体2の磁界強度の調整量は、調整部3の透磁率に依存する。本実施形態では、調整部3は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材あるいは単独の部材により構成される。この場合、ファラデー回転角の調整量で1mmの厚さの調整部3が必要なとき、0.1mmの厚さの調整部3が10枚により得られるファラデー回転角の調整量、及び、0.5mmの厚さの調整部3が2枚で得られるファラデー回転角の調整量は、それぞれ、1mmの厚さの調整部3と同等のファラデー回転角の調整量となる。このように、調整部3は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材の場合、調整部3の厚さとファラデー回転角の調整量とが一次相関を有する(図5参照)ので、ファラデー回転角の調整量を所望の量に簡単に調整することができる。なお、調整部3の部材の数は、より少ない方が、ファラデー回転角の調整量を調整しやすい(0.1mmの厚さの調整部3が10枚よりも、0.5mmの厚さの調整部3が2枚、あるいは1mmの厚さの調整部3が1枚の方が調整しやすい)ので、複数種類の厚さの部材を準備するのが好ましい。なお、調整部3は、形状がほぼ同様で且つ厚さおよび材質が異なる複数の部材により構成されてもよい。
【0037】
調整部3の厚みは、極力薄くした方がより細かなファラデー回転角の調整が可能となる。調整部3の厚みは、0.1mm未満になると取扱い等で変形し、また、厚みを制御するための加工が困難になることから、0.1mm以上が好ましい。
【0038】
上記した調整部3の原理を利用すると、例えば、使用する波長において、磁石体2の磁界強度およびファラデー素子1のファラデー回転角θf(式(2)参照)が45°よりも高め(例えば47°など)となるようにファラデー素子1を作製(準備)しておけば、適用する磁石体2を変更する度にその磁界強度(磁束密度)がばらついてファラデー素子1に加わる磁界強度が変化しても、調整部3により磁石体2の磁界強度を減じる調整ができるため、ファラデー素子のファラデー回転角θfを所望の値、例えば、45°±0.5°の範囲に、簡単に設定することが可能となる。
【0039】
すなわち、本実施形態のファラデー回転子Fは、使用する波長において磁石体2により調整部3を介さずにファラデー素子1に磁界を印加した場合のファラデー素子1のファラデー回転角が、45°を超えるよう設定(以下、「当初のファラデー回転角の設定」と称すこともある。)される。中でも、このファラデー回転角は、45°超48°以下に設定するのが好ましい。そして、本実施形態のファラデー回転子Fは、調整部3により、ファラデー回転角が、45°±0.5°の範囲に調整される。このファラデー回転角の範囲は、上記の図10等の説明ように、光アイソレータの正常な機能を維持することができる戻り光減衰率である1/1000よりも極めて良好な値である。これにより、ファラデー回転子Fは、精度よく機能することができる。
【0040】
複数のファラデー回転子Fを製造する場合、例えば、複数の磁石体2における平均の磁界強度を求め、その平均の磁界強度を磁石体2の磁界強度とする。なお、磁石体2は、上記したように磁石母材の製造ロットが変わると磁束密度が変動しやすいが、後に実施例において説明する図7に示すように、同一母材の製造ロット内であれば磁束密度のばらつきが小さいことが判っている。このような場合は、上記した当初のファラデー回転角の設定は、その製造ロットの磁束密度のばらつきに合わせ目標値を変更してもよい。この場合、例えば、当初のファラデー回転角θfの設定は、46°等に変更してもよい。
【0041】
なお、図1に示した本実施形態に係るファラデー回転子Fにおいては、貫通孔2aにおける一方の開放端2b(磁極2c)側(+X側あるいは−X側、図1では+X側)に調整部3が磁気吸着された構造になっているが、これに限定されず、貫通孔2aにおける両方の開放端2b(磁極2c)側(+X側及び−X側)に、調整部3を磁気吸着させる構造を採用してもよい。すなわち、一方の開放端(磁極、磁極面)側で調整しきれない場合(例えば調整前のファラデー素子1のファラデー回転角のずれが45°から大きくズレた場合(例、+3°以上のズレが発生した場合)は、もう一方の開放端2b(磁極2c、磁極2c面)側を用いて、更にファラデー回転角を調整することが出来る。
【0042】
次に、本実施形態のファラデー回転子Fの製造方法について説明する。図2は、本製造方法のフローチャートである。本製造方法は、まず、ステップS1においては、使用する波長において磁石体2により調整部3を介さずにファラデー素子1に磁界を印加した場合のファラデー回転角が45°を超えるように設定する。中でも、このファラデー回転角は、45°超48°以下に設定するのが好ましい。この当初のファラデー回転角は、磁石体2及びファラデー素子1の構成により適宜設定される。磁石体2及びファラデー素子1の構成は、それぞれ、上記した式(3)に基づいて設定される。例えば、複数のファラデー回転子Fを製造する場合、複数の磁石体2における平均の磁界強度を求め、その平均の磁界強度に基づいて、ファラデー素子1の長さL1(図1参照)を設定してもよい。なお、ファラデー素子1及び磁石体2は、それぞれ、原料から製造したものでもよいし、市販品等の既存のものを用いてもよい。なお、本ステップS1を行うか否かは、任意である。
【0043】
続いて、ステップS2において、少なくともファラデー素子1及び磁石体2を組み立てる。例えば、ファラデー素子1及び磁石体2は、図1に示す完成品であるファラデー回転子Fと同様に組み立てる。なお、ステップS2は、調整部3を含めて組み立ててもよい。
【0044】
続いて、ステップS3において、ステップS2において組立てたファラデー素子1及び磁石体2において、ファラデー回転角を確認する。図3(A)はファラデー回転子のファラデー回転角の調整を行う調整機構(以下、「ファラデー回転角調整機構」と称す。)の概略構成を示す図である。図3(A)には、この調整機構の概略構成の−Y側から見た断面図を示す。図3(B)は、(A)における偏光方向を示す図である。図3(B)には、光の偏光方向を矢印で示し、実線矢印は偏光子及び検光子の偏光方向であり、点線矢印は透過光の偏光方向を示す。ステップS3およびステップS4は、例えば、図3(A)に示すファラデー回転角調整機構FDを用いて行う。
【0045】
図3(A)のファラデー回転角調整機構FDは、光源6、偏光子7、ファラデー回転子F、検光子8、及び光パワーメータ9を備える。光源6、偏光子7、ファラデー回転子F、検光子8、及び光パワーメータ9は、それぞれ、この順番で−X側から並んで、光路OPa上に固定されて配置される。偏光子7及び検光子8の入射角度(透過軸)は、図3(B)に示すように、それぞれ、0°(鉛直方向と平行)、45°(偏光子7に対し、検光子8は入射面側(入射側)から見て右回りに45°)に設定される。また、ファラデー回転子Fは、磁石体2により、調整部3を介さずにファラデー素子1に磁界を印加した場合の使用する波長におけるファラデー素子1のファラデー回転角が、45°を超えるように予め設定される。
【0046】
光源6は、ファラデー回転子Fを使用する波長の光を出射する。光源6から出射された光は、偏光子7に入射する。偏光子7を通った光は、ファラデー回転子FのN極側(図3では−X側)から入射(すなわち逆方向から入射)する。ファラデー回転子Fを通った光は、ファラデー効果により入射面側(入射側)から見て左周りに回転する。ファラデー回転子Fの透過光は、検光子8の入射角度に対して直交する場合、検光子8に吸収される。すなわち、光パワーメータ9により検出される光の量は、ファラデー回転子Fのファラデー回転角が45°からズレる量と正の相関になる。これにより、ファラデー回転子Fのファラデー回転角を確認することができる。
【0047】
続いて、ステップS4において、ステップS3で確認したファラデー回転角に基づいて、調整部3により、ファラデー回転角を調整する。ステップS4では、ステップS3で確認したファラデー回転角の45°からのズレ量に基づいて、調整部3により、磁石体2に磁気吸着させる。調整部3の調整において、調整部3が軟磁性材料で形成される場合、透磁率が高いので、磁石体2の磁界強度を精度よく調整することができ、また、磁石体2に対して着脱しやすいので、磁石体2の磁界強度を簡単に調整することができる。また、調整部3は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材の場合、調整部3の厚さとファラデー回転角の調整量とが一次相関を有するので、ファラデー回転角の調整量を所望の量に簡単に調整することができる。
【0048】
続いて、ステップS5において、調整部3により調整したファラデー回転子Fのファラデー回転角が所望の値であるか否かを確認する。例えば、ステップS5では、光パワーメータ―7で検出される光量が、所定の閾値以下である場合、ファラデー回転子Fのファラデー回転角が所望の値(本例では、45°±0.5°の範囲の値)であると判断する。例えば、光パワーメータ―7で検出される光量が、最も小さい(消光した)場合、(すなわち偏光方向が検光子13の透過軸に対して直交する偏光角度)したときに、本例では、ファラデー回転子Fのファラデー回転角が45°に最も近づく。調整部3により調整したファラデー回転子Fのファラデー回転角が所望の値であると確認した場合(ステップS5のYES)、ファラデー回転角が所望の値のファラデー回転子Fが製造される。一方、このファラデー回転角が所望の値でないと確認した場合(ステップS5のNO)、ステップS4に戻り、確認したファラデー回転角に基づいて、調整部3により、ファラデー回転角を調整する。なお、ステップS3およびステップS5のファラデー回転子Fのファラデー回転角の確認は、上記したファラデー回転角調整機構FDを用いなくてもよく、任意の方法あるいは任意の装置により実施してもよい。
【0049】
次に、実施形態に係る磁気光学デバイスを説明する。図4は、磁気光学デバイスの概略構成を示す図である。図4には、−Y側から見た断面図を示す。図4は、磁気光学デバイスの一例である光アイソレータを示す。ここでは、磁気光学デバイスが、光アイソレータであるとして、説明する。
【0050】
この磁気光学デバイスDは、スリーブ10(筐体)、上記したファラデー回転子F、偏光子12、及び検光子13を備える。スリーブ10は、非磁性体(例えばアルミ、銅等)で形成される。スリーブ10は、貫通孔10aを有する円筒状に形成される。なお、スリーブ10の形状は、円筒状に限定されず、任意である。スリーブ10は、貫通孔10aに各部を収容し、パッケージングする。貫通孔10aは、光路OPとして用いられる。ファラデー回転子Fは、例えば、ファラデー回転角が45°±0.5°に設定されている。ファラデー回転子Fは、貫通孔10a内に配置される。ファラデー回転子Fは、貫通孔10aに接着剤11で固定される。ファラデー回転子Fへの光の入射側(−X側)には、偏光子12が配置される。偏光子12は、の入射角度(透過軸)は、0°(鉛直方向と平行)に設定される。偏光子12は、貫通孔10aの−X側の端部に接着剤11で固定される。ファラデー回転子Fからの光の出射側(+X側)には、検光子13が配置される。検光子13の入射角度(透過軸)は、検光子13は入射側から見て左回りに45°に設定される。検光子13は、貫通孔10aの+X側の端部に接着剤11で固定される。偏光子12および検光子13は、それぞれ、磁気光学デバイスの用途に応じた材質の偏光子及び検光子(例えば複屈折結晶やPBS(偏光ビームスプリッター)等)が用いられる。
【0051】
磁気光学デバイスDは、レーザー光源あるいは光ファイバなどの光源の出射側に配置される。光源から出射された光は、偏光子7を通って直線偏光となり、ファラデー回転子Fに入射する。ファラデー回転子Fを通った光は、ファラデー効果により入射面側(入射側)から見て左周りにほぼ45°回転する。ファラデー回転子Fを通った光は、検光子13の入射角度と同様のであるので、検光子13を通過する。一方、逆向きの光(+X側から−X側への光)は、検光子13により左回りに45°回転した直線偏光となり、ファラデー回転子Fに入射する。ファラデー回転子Fを通った光は、ファラデー効果により出射面側から見て左周りにほぼ45°回転する。すなわち、逆向きの光は、検光子13およびファラデー回転子Fを通って、入射側(+X側)から見て、左回りに90°回転し、検光子8の透過軸と直交するので吸収される。磁気光学デバイスDは、一方向に光を通し、戻り光を遮断する。磁気光学デバイスDは、ファラデー回転子Fのファラデー回転角がほぼ45°であるため、精度よく戻り光を遮断することができる。このように、本実施形態の磁気光学デバイスDは、上記したファラデー回転子Fを備えるので、精度よく機能する。
【0052】
なお、磁気光学デバイスDは、上記した光アイソレータは一例であり、限定されない。例えば、磁気光学デバイスDは、ファラデー回転子Fを備えていれば、その構成は任意である。例えば、磁気光学デバイスDは、光サーキュレータ等でもよい。
【0053】
以上のように、本発明に係るファラデー回転子Fは、簡単な調整作業で所望とするファラデー回転角を高精度に設定できる。また、本発明のファラデー回転子の製造方法は、上記したファラデー回転子を簡単に製造することができる。また、本発明の磁気光学デバイスDは、ファラデー回転角の精度が高いので、ファラデー回転による光の調整を精度よく行うことができる。また、本発明に係るファラデー回転子Fは、磁石体2あるいはファラデー素子1に起因するファラデー回転角の広範囲のばらつきを、所望の値に精度よく調整することができる。また、本発明に係るファラデー回転子は、常磁性体からなるので、波長0.4μm〜1.1μmの光を精度よく処理することができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
[ファラデー回転子の製造]
図1(A)から(C)に示すファラデー回転子Fを製造した。ファラデー素子1は、φ3.0mm、長さL1((図1(B参照))光路長)3.4mm及び3.5mmのTSAG(TbScAl12テルビウム・スカンジウム・アルミニウムガーネット)結晶を適用した。磁石体2は、φ12.0mm(外径L2)、φ3.1mm(内径L4)、長さ(図1のX方向と平行な方向の長さ)7.0mm、材質SmCo17(サマリウム・コバルト)を適用した。また、調整部3には、φ10.9mm(外径L3)×φ4.5mm(内径L5)のSUS(軟磁性ステンレス鋼)が適用され、厚さはそれぞれ0.1mmt、0.2mmt、0.5mmtの3種類を用意した。ファラデー回転子Fは、上記したファラデー回転子の製造方法におけるステップS1からステップS5を行うことにより、製造した。製造したファラデー回転子Fのファラデー回転角は、45°±0.5°の範囲であった。
【0056】
[磁気光学デバイスの製造]
製造したファラデー回転子Fを用いて、図4に示す磁気光学デバイスDを製造した。磁気光学デバイスDの構成は、上記の通りである。
【0057】
[調整部の厚さとファラデー回転角変動量推移検討]
次に、製造した磁気光学デバイスDを測定対象に用いて、調整部3の厚さが変化した場合のファラデー回転角への影響(回転角変動量推移)について検討を行った。なお、ファラデー素子1は、φ3.0mm、長さL1(光路長)3.5mmのTSAG結晶を使用した。
【0058】
まず、調整部3が磁石体2の貫通孔2a開放端2b(例、+X側)に磁気吸着により配置されると、磁石体2における貫通孔2a内の磁界強度は減衰され、ファラデー素子1のファラデー回転角θfは一時的に減少する。そこで、厚さの異なる3種類の調整部3及び、それらを重ねて使用した場合(例えば0.1mmt + 0.2mmt =0.3mmt 等)のファラデー回転角の変動量を調べた。
【0059】
図5は「調整部の厚さ(mm)」と「ファラデー回転角変動量(°)」の関係を示すグラフである。調整部3を磁気吸着しない場合(すなわち、調整部3が無い場合)のファラデー回転角変動量を0°とした場合、磁気吸着させる調整部3の厚みに応じて、ファラデー回転角変動量は−0.4°/0.1mmtで変動し、−3.0°/1mmt付近で飽和状態となる。この結果から、調整部3は、形状および材質がほぼ同様で且つ厚さが同等または異なる複数の部材の場合、調整部3の厚さとファラデー回転角の調整量とが一次相関を有するので、ファラデー回転角の調整量を所望の量に精度よく調整できることが確認される。また、調整部3は、ファラデー回転角が少なくとも3°までの広範囲において、ファラデー回転角の調整量ができることが確認される。
【0060】
[TSAG(φ3.0mm×3.4mmL及びφ3.0mm×3.5mmL)の各L1寸法におけるファラデー回転角の45°±0.5°の調整]
次に、上記磁気光学デバイスDを測定対象に用いて、磁石個体差で発生する回転角のばらつき(すなわち磁界強度のばらつきによる)に合わせて、調整部3による、ファラデー回転角を45°±0.5°の範囲の制御を行った。φ3.0mm×3.4mm(L1)のファラデー素子1(「46°設定素子」と称す。)は、当初のファラデー回転角θfの設定が目標値46°とし、φ3.0mm×3.5mm(L1)のファラデー素子1(「47°設定素子」と称す。)は、当初のファラデー回転角θfの設定が目標値47°とした。
【0061】
図6は「調整部3の厚さ(mm)」と「ファラデー回転角(°)」との関係を示すグラフである。図6には、異なるファラデー素子のファラデー回転角を調整部により調整した結果を示した。図6中、調整部3なし(0mm)におけるファラデー回転角のばらつきは、主に磁石体2の起因で発生している「特性個体差によるばらつき」である。なお、本例では、同一母材の磁石体2を用いて行った結果である。この結果から、磁石体2の起因により発生したファラデー回転角ばらつきを、調整部3(本事例では46°設定素子は0.1mmt、0.2mmt、0.3mmtを選択し、47°設定素子は0.4mmt、0.5mmt、0.6mmtを選択)により、回転角度45°±0.5°以内に確実に調整可能なことが確認される。
【0062】
[SmCo17磁石(φ12×φ3.1×H7)30個の回転角評価(同一母材から形成された磁石)]
次に、同一母材から形成された磁石体2、すなわち、φ12.0mm、(外径L2)、φ3.1mm(内径L4)、長さ7.0mm、材質SmCo17(サマリウム・コバルト)における磁界強度のばらつきを図7に示す。同一母材から形成された磁石(30個)を、一つの同一ファラデー素子1(回転角53度相当品)を用いて、ファラデー回転角を評価した。その結果、ファラデー回転角のばらつきは、図7のグラフに示されるように(53.9°−52.7°=1.2°)約1.2°(±0.6度)となる。この結果から、磁石体2は同一母材であっても、磁界強度のばらつき(ファラデー回転角のばらつき)があることが確認される。また、図には示さないが、磁石体2が異なる母材の場合、通常、図7に示す結果よりも磁界強度のばらつき(ファラデー回転角のばらつき)が大きいことを確認している。
【0063】
[TbScAl12同一結晶内におけるファラデー回転角/mm(°)]
次に、実施例で使用したファラデー素子1のTbScAl12は不一致溶融性結晶であることから、TbScAl12結晶の育成が進むにつれて組成が変動し、ファラデー回転子の特性指標であるヴェルデ定数は育成結晶の部位によって僅かながら変動する。参考までに実施例で使用したファラデー素子(同一バルク)のファラデー回転角のばらつきを図8に示す。なお、図8には、育成結晶を上部(TOP)、中部(MIDDLE)、下部(BOTTOM)の3群に分けて、同一の結晶の異なる位置におけるファラデー回転角のばらつきの評価を行った結果を示した。図8に示すように、同一結晶内においても、ファラデー回転角に、ばらつきが存在することが確認される。図8におけるファラデー回転角のばらつきは、長さL1(光路長)1mm当たり最大約0.3°となる。このように、ファラデー回転子Fにおけるファラデー回転角のばらつきは、上記した磁石体2に加えてファラデー素子1の材料によるばらつきも含んでいることが確認される。ファラデー素子1の結晶部位の違いによるばらつきは、上記した磁石体2の個体差によるばらつきに比べて少ないものではあるが、ファラデー回転子Fにおけるファラデー回転角のばらつきの要因となっている。本実施形態のファラデー回転子Fは、上記した磁石体2の個体差によるばらつき、及び図8に示したファラデー素子1の結晶部位の違い、すなわち、ファラデー素子1の材料によるばらつきを調整することができる。
【0064】
[同一母材から形成された磁石体のファラデー素子の当初におけるファラデー回転角θfの設定]
上述した本実施例における一連のファラデー回転角θf調整と同一母材から形成された磁石体2およびファラデー素子1起因によるファラデー回転角のばらつきの結果を鑑みた場合、ファラデー素子1の当初におけるファラデー回転角θfの設定は、ファラデー素子の長さ(L1)を調整することにより、調整部3を用いずにファラデー回転角を測定したときに、ファラデー回転角θf=46°を目標に設定するとよいことが理解される。
【0065】
すなわち、磁石体2の磁束密度がバラつくことを考慮すると、46°狙いにおける回転角ばらつきは45.4°から46.6°となり、調整部3の厚さが0.1mmtから0.4mmtで個々のファラデー回転角を45°±0.5°に調整が可能となる。なお、主に磁石体2で起因で発生する特定個体差を憂慮するとファラデー素子1の当初におけるファラデー回転角θfは、この限りではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上の説明により明らかなように、本発明のファラデー回転子Fは、調整部3を入れ替えて磁気吸着させる簡単な調整作業で所望とするファラデー回転角を高精度に設定できるため、光アイソレータや光サーキュレータ等に用いられるファラデー回転子として利用される産業上の利用可能性を有している。
【0067】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0068】
例えば、ファラデー回転子Fの構成は、図1等に示した構成に限定されず、他の構成でもよい。ファラデー回転子Fや磁石体2の形状は、図1に示す円筒状に限定されず、他の形状でもよい。これに伴い調整部3の形状が、図1に示す円環状に限定されず、他の形状でもよい。
【符号の説明】
【0069】
F・・・ファラデー回転子
1・・・ファラデー素子(磁気光学素子)
2・・・磁石体
2a・・・貫通孔(磁石体)
2b・・・端部(磁石体)
2c・・・磁極(磁石体)
3・・・調整部
4・・・接着剤
6・・・光源
7、12・・・偏光子
8、13・・・検光子
9・・・光パワーメータ
10・・・スリーブ
10a・・・貫通孔(スリーブ)
11・・・接着剤
D・・・磁気光学デバイス
FD・・・ファラデー回転角調整機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10