(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも遷移金属元素を含有する原料水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体である遷移金属含有複合水酸化物を製造する方法であって、
前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値が12.0〜14.0となるように制御して、核生成を行う核生成工程と、
前記核生成工程で得られた核を含む前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、前記核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0となるように調整し、前記核を成長させる、粒子成長工程とを備え、かつ、
前記粒子成長工程が、該粒子成長工程の開始から、前記反応水溶液中の遷移金属元素の過飽和度を高い状態に維持する第1段階と、第1段階の経過後、前記過飽和度を第1段階より低い状態に切り替えて、該過飽和度を維持する第2段階と、第2段階の経過後、前記過飽和度を前記高い状態に切り替えて、該過飽和度を維持する第3段階と、第3段階の経過後、前記過飽和度を前記低い状態に切り替えて、該過飽和度を維持する第4段階とを有する、
遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
前記粒子成長工程のうち、前記過飽和度が高い状態での前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.0〜12.0の範囲となるように調整し、前記過飽和度が低い状態での前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、10.5〜11.5の範囲、かつ、前記過飽和度が高い状態でのpH値より低くなるように調整する、請求項2に記載の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
第1段階を、前記粒子成長工程の全体に対して0.5%〜20%の範囲の時間とし、第2段階を、該粒子成長工程の全体に対して10%〜80%の範囲の時間とし、第3段階を、該粒子成長工程の全体に対して2%〜30%の範囲の時間とし、かつ、第4段階を、該粒子成長工程の全体に対して10%〜80%の範囲の時間とする、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
第4段階の経過後、前記過飽和度を第4段階よりも高い状態に切り替えて、該過飽和度を維持する第5段階と、第5段階の経過後、前記過飽和度を第5段階よりも低い状態に切り替えて、該過飽和度を維持する第6段階とをさらに有する、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
第1段階を、前記粒子成長工程の全体に対して0.5%〜20%の範囲の時間とし、第2段階を、該粒子成長工程の全体に対して10%〜75%の範囲の時間とし、第3段階を、該粒子成長工程の全体に対して2%〜30%の範囲の時間とし、第4段階を、該粒子成長工程時間の全体に対して10%〜75%の範囲の時間とし、第5段階を、該粒子成長工程時間の全体に対して2%〜30%の範囲の時間とし、かつ、第6段階を、該粒子成長工程時間の全体に対して10%〜75%の範囲の時間とする、請求項5に記載の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
前記粒子成長工程後に、前記遷移金属含有複合水酸化物の表面を、前記添加元素Mを含む化合物によって被覆する、被覆工程をさらに設ける、請求項7に記載の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法。
前記混合工程において、前記リチウム混合物に含まれるリチウムの原子数の、リチウム以外の金属元素の原子数の合計に対する比率が、0.95〜1.5の範囲となるように、前記リチウム化合物の混合量を調整する、請求項9に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
前記混合工程の前に、前記遷移金属複合水酸化物を、105℃〜750℃の範囲の温度で熱処理する熱処理工程をさらに備える、請求項9または10に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、WO2004/181891号公報や特開2011−110992号公報などの従来技術に基づいて得られた、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、外殻部とその内側にある空間部とからなる中空構造ないしは孔開き中空構造を備えた非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)について、その出力特性のさらなる改善について、鋭意検討を行った。
【0028】
その結果、正極活物質において、外殻部に、空間部まで貫通する貫通孔を設けることにより、正極活物質の内部に存在する空間部に電解液の十分な侵入を可能にするのみならず、導電助剤についても貫通孔を通じて空間部への侵入を可能とすることにより、正極活物質を構成する二次粒子の内外の表面を電解液との反応場として積極的に利用することが可能となり、正極活物質の正極抵抗を十分に低下させることができるとの知見を得た。
【0029】
このような構造の正極活物質を得るためには、遷移金属含有複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」という)を構成する二次粒子を、微細一次粒子からなる中心部と、該中心部の外側に形成され、板状一次粒子からなる高密度層、該高密度層の外側に形成され、前記微細一次粒子からなる低密度層、および、該低密度層の外側に形成され、前記板状一次粒子からなる外殻層とを有する外殻部とを備える構造とすることにより、すなわち、焼成によって正極活物質の外殻部を形成する部分を、一層の板状一次粒子からなる高密度層のみから構成するのではなく、板状一次粒子からなる高密度層と外殻層との径方向中間部に、微細一次粒子からなる所定の径方向厚さを有する低密度層を挟みこんだ三層構造とすることにより、該低密度層に起因して正極活物質の外殻部に、電解液のみならず導電助剤の侵入も可能とする貫通孔を形成することが可能であるとの知見を得た。
【0030】
さらに、このような構造の二次粒子により構成される複合水酸化物を得るためには、粒子成長工程において、原料水溶液の供給を継続しながら、反応水溶液中の遷移金属の過飽和度を制御することにより、板状一次粒子からなる高密度層と、微細一次粒子からなる低密度層とを交互に積層することが可能であるとの知見を得た。
【0031】
加えて、このような構造の複合水酸化物を前駆体とすることにより、正極活物質を、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、球形度が高く充填性に優れた二次粒子により構成することができるとの知見を得た。
【0032】
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0033】
1.遷移金属含有複合水酸化物
(1−1)遷移金属含有複合水酸化物の構造
本発明の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法により得られる複合水酸化物は、非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体であって、複数の板状一次粒子、および、該板状一次粒子よりも小さな粒径を有する微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。
【0034】
特に、本発明により得られる複合水酸化物を構成する二次粒子は、
図1に示すように、微細一次粒子からなる中心部(21)と、該中心部の外側に形成され、板状一次粒子が凝集して形成された高密度層(22)、および、該高密度層の外側に形成された微細一次粒子からなる低密度層(23)からなる少なくとも1つの積層構造、ならびに、該低密度層の外側に形成され、前記板状一次粒子からなる外殻層(24)から構成された外殻部(25)とからなる構造を備える。すなわち、前記二次粒子は、中心部と外殻部とからなる構造を備え、さらに前記外殻部は、高密度層と低密度層とからなる少なくとも1つの積層構造と、外殻層とからなる三層以上の多層構造を備える。
【0035】
本発明により得られる複合水酸化物において、前記外殻部は、その外殻層の内側に、高密度層と低密度層とが1層ずつ積層された構造のほか、その外殻層の内側に高密度層と低密度層とが2層ずつ積層した構造も採り得る。すなわち、前記外殻層の内側に、前記高密度層と前記低密度層との積層構造の外側に形成された、前記板状一次粒子からなる第2の高密度層と、第2の高密度層の外側に形成され、前記微細一次粒子からなる第2の低密度層とからなる積層構造をさらに備える五層の多層構造により構成することができる。
【0036】
まず、上記中心部は、微細一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、より大きくて厚みのある板状一次粒子からなる高密度層や外殻部と比較すると、該複合水酸化物を正極活物質とするための焼成時において、低温域から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い高密度層側に収縮して、中心部に空間が生ずる。このように、中心部は低密度で、収縮率が大きいことから、中心部は十分な大きさを有する空間となる。このため、焼成後に得られる正極活物質が、外殻部とその内側にある空間部とからなる中空構造となる。
【0037】
特に、本発明の複合水酸化物を構成する二次粒子では、従来構造のように、中心部の周囲に1層の高密度層のみからなる外殻部を備えるのではなく、高密度層と外殻層との間に、所定の径方向厚さを有する低密度層が挟まれる積層構造となっている。
【0038】
このような構成により、焼成に際して、低密度層を構成する微細一次粒子が連なった隙間の多い構造部分が、高密度層および外殻層側に収縮することにより、空間部が形成されるが、該空間部はその形状を保持するだけの径方向厚さを備えていない。このため、高密度層と外殻層は焼結するにしたがって、低密度部を吸収しながら実質的に一体化して一層の外殻部を形成するが、この際に吸収された低密度部の体積分が不足するため、焼成時に高密度層と外殻層が収縮することにより、一体化した外殻部を外内に貫通し、かつ、十分な大きさを有する貫通孔が形成されるものと考えられる。
【0039】
ここで、低密度層は板状一次粒子を含むものであってもよく、板状一次粒子が含まれることで高密度層と外殻層の一体化が進みやすくなる。一方、板状一次粒子が多くなりすぎると低密度層の収縮が少なくなる。このため、低密度層が板状一次粒子を含む場合でも、板状一次粒子の存在割合は、低密度層の断面積に対して50%以下であることが好ましい。
【0040】
また、複合水酸化物を構成する二次粒子において、低密度層は、高密度層と外殻層との間で二次粒子の周方向の全体に形成されている必要はなく、正極活物質の外殻部において、十分な大きさを有する貫通孔が少なくとも1つ形成される限りにおいて、このような低密度層が部分的に形成されている構造も、本発明の範囲に含められる。
【0041】
本発明の複合水酸化物を前駆体として得えられた正極活物質を構成する二次粒子においては、外殻部全体の電気的な導通が担保され、かつ、外殻部に形成された貫通孔が所定の長さと内径を備えることにより、電解液のみならず導電助剤も貫通孔を通じて、外殻部の内側に存在する空間部に十分に侵入することが可能となる。このため、二次粒子(外殻部)の内外の表面を電解液との反応場として積極的に利用することが可能となり、正極活物質の内部抵抗を大幅に低減させることができる。
【0042】
(1−2)遷移金属含有複合水酸化物の平均粒径
本発明により得られる複合水酸化物を構成する二次粒子の平均粒径は、1μm〜15μm、好ましくは3μm〜12μm、より好ましくは3μm〜10μmに調整される。正極活物質の平均粒径は、その前駆体である複合水酸化物の平均粒径と相関する。このため、複合水酸化物の平均粒径をこのような範囲に設定することで、正極活物質の平均粒径を所定の範囲に設定することが可能となる。
【0043】
なお、本発明において、複合水酸化物の平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0044】
(1−3)遷移金属含有複合水酸化物の粒度分布
本発明により得られる複合水酸化物を構成する二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である[(d90−d10)/平均粒径]の値は、0.65以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下に調整される。
【0045】
正極活物質の粒度分布は、その前駆体である複合水酸化物の影響を強く受ける。このため、たとえば、微細な粒子や粗大な粒子を多く含む複合水酸化物を前駆体として正極活物質を作製した場合には、正極活物質にも微細な粒子や粗大な粒子が多く含まれることとなり、これを用いた二次電池の安全性、サイクル特性および出力特性を十分に改善することができなくなる。このため、その前駆体である複合水酸化物の粒度分布を、[(d90−d10)/平均粒径]の値が0.65以下となるように調整することにより、正極活物質の粒度分布を狭くすることができ、上述した電池特性、特に微細な粒子の選択劣化に起因する安全性やサイクル特性に関する問題を回避することが可能となる。ただし、工業規模の生産を考慮した場合には、[(d90−d10)/平均粒径]の値が過度に小さい粉体状態の複合水酸化物を作製することは、収率、生産性、または生産コストの観点からから現実的ではない。したがって、[(d90−d10)/平均粒径]の値の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
【0046】
ここで、d10とは、粉体試料の、各粒径における粒子数を粒径の小さな側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味し、d90は、同様の手法で粒子数を累積したときに、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d10およびd90は、複合水酸化物の平均粒径と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0047】
(1−4)中心部、高密度層、低密度層および外殻層の厚さ
本発明により得られる複合水酸化物において、中心部の外径の二次粒子の粒径に対する比率、および、正極活物質において外殻部を構成することになる、高密度層と外殻層の厚さの合計の二次粒子の粒径に対する比率は、この二次粒子を前駆体とする正極活物質においても、ほとんど変化することはない。したがって、複合水酸化物を構成する二次粒子において、その粒径に対する中心部の外径、および、高密度層、低密度層および外殻層のそれぞれの厚さの比率を適切に制御することにより、正極活物質の粒子構造を、適切な範囲に設定することが可能となる。
【0048】
[外殻部が三層構造を有する場合]
複合水酸化物の外殻部が、外殻層の内側に高密度層と低密度層からなる積層構造を1つのみ備える場合、すなわち、三層構造を有する場合、複合水酸化物を構成する二次粒子において、その粒径に対する中心部の外径の平均比率(以下、「中心部粒径比」という)は、35%〜85%の範囲にあることが好ましく、40%〜80%の範囲にあることがより好ましく、55%〜75%の範囲にあることがさらに好ましい。このような構成により、正極活物質において、二次粒子の内側に十分な大きさの空間部を形成することができ、二次粒子の外殻部の内側における表面積を確保することができる。また、複合水酸化物において、外殻部を構成する高密度層、低密度層、および外殻層を適切な厚さとして、このような複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質において、適切な厚さで、かつ、径方向に貫通する所定の貫通孔が存在する外殻部を形成することが可能となる。
【0049】
また、複合水酸化物を構成する二次粒子において、複合水酸化物の外殻部を構成する高密度層および外殻層の厚さの合計の二次粒子の粒径に対する平均比率(以下、「高密度層合計粒径比」という)は、5%〜30%の範囲にあることが好ましく、8%〜25%の範囲にあることがより好ましく、10%〜20%の範囲にあることがさらに好ましい。高密度層合計粒径比をこの範囲に設定することにより、所定の大きさの低密度層を形成することが可能となることに加え、正極活物質を作製するための焼成時における、高密度層および外殻層の過剰な体積収縮を抑制することができ、正極活物質において適切な厚さの外殻部を形成することが可能となる。
【0050】
二次粒子の粒径に対する、高密度層のみの厚さの比率(以下、「高密度層粒径比」という)は2.5%〜15%の範囲にあることが好ましく、3%〜15%の範囲にあることがより好ましく、3%〜10%の範囲にあることがさらに好ましい。高密度層粒径比が2.5%よりも小さいと、複合水酸化物の焼成時において、外殻層と一体化する際に収縮により貫通孔を形成できなかったり、逆にその形態が崩れてしまったりする可能性がある。一方、高密度層粒径比が15%を超えると、外殻層との間に十分な低密度層を形成できない、あるいは、十分な厚さの外殻層を形成できない、さらには、複合水酸化物の焼成時に、高密度層の収縮が不足して貫通孔が形成できず、高密度層と外殻層と間に空間部が残存してしまう可能性があり、得られる正極活物質において、径方向に貫通する貫通孔が設けられた外殻部と、その内側にある空間部とを備えた、所望の構造が得られなくなることがある。
【0051】
二次粒子の粒径に対する外殻層の厚さの比率(以下、「外殻層粒径比」という)についても、2.5%〜15%の範囲にあることが好ましく、2.5%〜12%の範囲にあることがより好ましく、2.5%〜10%の範囲にあることがさらに好ましい。外殻層粒径比をこの範囲に設定することにより、正極活物質において、二次粒子の形状および平均粒径を適切に制御できるとともに、適切な厚さの外殻部を形成することが可能となる。外殻層粒径比が2.5%よりも小さいと、複合水酸化物の焼成時において、その形態が崩れてしまったりする可能性がある。一方、外殻層粒径比が15%を超えると、高密度層と外殻部との間に十分な低密度層を形成できない、あるいは、十分な厚さの高密度層を形成できない、さらには、複合水酸化物の焼成時に、貫通孔が形成できず、高密度層と外殻部と間に空間部が残存してしまう可能性があり、得られる正極活物質において所望の構造が得られなくなることがある。
【0052】
一方、二次粒子の粒径に対する低密度層の厚さの比率(以下、「低密度層粒径比」という)は、2%〜20%の範囲にあることが好ましく、2%〜10%の範囲にあることがより好ましく、2%〜8%の範囲にあることがさらに好ましい。低密度層粒径比をこの範囲に設定することにより、正極活物質において、適切な厚さで、かつ、適切な大きさの貫通孔が形成された外殻部を形成することが可能となる。低密度層粒径比が2%よりも小さいと、正極活物質の外殻部において所定の貫通孔を形成させるに十分な大きさの空隙が、複合水酸化物の焼成時に生じない。逆に、低密度層粒径比が20%を超えてしまうと、複合水酸化物の焼成時に、高密度層と外殻層との間に空間部が形成されてしまい、高密度層と外殻部が実質的に一体化せず、得られる正極活物質において所望の構造が得られなくなる。
【0053】
ここで、上記の中心部粒径比、高密度層合計粒径比、高密度層粒径比、外殻層粒径比、および、低密度層粒径比は、複合水酸化物の断面を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)などの走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることができる。具体的には、まず、二次粒子における中心部、高密度層、低密度層および外殻層が判別できる程度の視野において、二次粒子の断面を観察する。
【0054】
二次粒子の外縁上の任意2点間の最大長さ、および中心部の外縁上の任意2点間の最大長さをそれぞれ測定し、それらの値を、それぞれ二次粒子の粒径および中心部の外径とする。また、1つの二次粒子に対して3か所以上の任意の位置における高密度層、低密度層、および外殻層の厚さをそれぞれ測定し、その平均値を求める。ここで、高密度層の厚さは、二次粒子の断面における、高密度層の最内縁から任意の一点を選び、高密度層と低密度層との境界までの長さが最短となる2点間の長さとする。また、低密度層の厚さも、同様に、二次粒子の断面における、低密度層の最内縁から任意の一点を選び、低密度層と外殻層との境界までの長さが最短となる2点間の長さとする。さらに、外殻層の厚さも、同様に、二次粒子の断面における、外殻層の最内縁から任意の一点を選び、二次粒子の外縁までの長さが最短となる2点間の長さとする。
【0055】
これらの中心部の外径、高密度層の厚さ、低密度層の厚さ、および外殻層の厚さを、複合水酸化物を構成する二次粒子の粒径で除することにより、中心部粒径比、高密度層粒径比、低密度層粒径比、および外殻層粒径比をそれぞれ求める。同様の測定を10個以上の複合水酸化物に対して行い、その個数平均値を算出することで、その試料全体における、中心部粒径比、高密度層粒径比、低密度層粒径比、および外殻層粒径比を最終的に決定する。なお、高密度層合計粒径比は、最終的に求められた高密度層粒径比および外殻層粒径比から求められる。
【0056】
[外殻部が五層構造を有する場合]
複合水酸化物の外殻部が、外殻層の内側に高密度層と低密度層からなる積層構造を2つ備える場合、すなわち、第1の高密度層と第1の低密度層と第2の高密度層と第2の低密度層と外殻層とからなる五層構造を有する場合には、中心部粒径比は35%〜80%の範囲にあることが好ましく、40%〜75%の範囲にあることがより好ましく、55%〜75%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0057】
また、二次粒子の粒径に対する第1の高密度層と第2の高密度層と外殻層との厚さの合計の平均比率である、高密度層合計粒径比は8%〜30%の範囲にあることが好ましく、8%〜25%の範囲にあることがより好ましく、10%〜25%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0058】
二次粒子の粒径に対する、それぞれの高密度層1層あたりの厚さの平均比率である高密度層粒径比は、2.5%〜15%の範囲にあることが好ましく、3%〜12%の範囲にあることがより好ましく、3%〜10%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0059】
外殻層粒径比についても、同様に、2.5%〜15%の範囲にあることが好ましく、3%〜12%の範囲にあることがより好ましく、3%〜10%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0060】
一方、二次粒子の粒径に対する第1の低密度層と第2の低密度層との厚さの合計の平均比率である、低密度層合計粒径比は2%〜20%の範囲にあることが好ましく、3%〜15%の範囲にあることがより好まし、3%〜10%の範囲にあることがさらに好ましい。二次粒子の粒径に対するそれぞれの低密度層の厚さの平均比率である低密度層粒径比は、1%〜10%の範囲にあることが好ましく、2%〜7%の範囲にあることがより好ましい。
【0061】
本発明において、外殻部が、外殻層の内側に、高密度層と低密度層からなる積層構造を2つ以上備えている場合でも、基本的には、このような構造の複合水酸化物を焼成する際に、第1の高密度層、第2の高密度層、および外殻層が、焼結収縮により実質的に一体化する。この場合も、正極活物質全体の耐久性を維持しつつ、電解液および導電助剤の空間部への侵入を可能とする所定の貫通孔が設けられた外殻部の構造が得られ、もって正極抵抗のさらなる低減を図ることが可能となる。
【0062】
(1−5)一次粒子
本発明により得られる複合水酸化物において、中心部および低密度層の構成要素である微細一次粒子は、平均粒径が、0.01μm〜0.3μmの範囲にあることが好ましく、0.1μm〜0.3μmの範囲にあることがより好ましい。ここで、微細一次粒子の平均粒径が、0.01μm未満であると、低密度層の厚みを満足に得ることができない場合がある。一方、微細一次粒子の平均粒径が、0.3μmよりも大きくなると、正極活物質を作製するための焼成工程において、低温域における焼成時に、加熱による体積収縮が十分に進行せず、中心部および低密度層と、高密度層および外殻層との体積収縮量の差が小さくなるため、正極活物質の二次粒子の中央に十分な大きさの空隙を備えた中心部が形成されない、あるいは、正極活物質の二次粒子の外殻部において、中心部と二次粒子の外側とを連通する、十分な大きさの貫通孔が形成されない場合がある。
【0063】
このような微細一次粒子の形状は、針状であることが好ましい。針状一次粒子は、一次元的な方向性を有する形状からなるため、粒子が凝集したときに、隙間の多い構造、すなわち、密度の低い構造を形成する。これにより、中心部および低密度層と、高密度層および外殻層との密度差を十分に大きなものとすることができる。
【0064】
一方、複合水酸化物を構成する二次粒子の高密度層および外殻層を形成する板状一次粒子は、平均粒径が0.3μm〜3μmの範囲にあることが好ましく、0.4μm〜1.5μmの範囲にあることがより好ましく、0.4μm〜1.0μmの範囲にあることがさらに好ましい。板状一粒子の平均粒径が0.3μm未満のときは、正極活物質を作製するための焼成工程において、板状一次粒子の体積収縮も低温域においても生じてしまうため、高密度層および外殻層と、中心部および低密度層との体積収縮量の差が小さくなるため、正極活物質において十分な中空構造が得られなかったり、正極活物質の外殻部内に、貫通孔の形成に繋がる十分な低密度層の吸収量が得られなかったりする場合がある。一方、板状一次粒子の平均粒径が3μmより大きいときは、正極活物質を作製する際の焼成工程において、正極活物質の結晶性を高めるために、より高温での焼成が必要となり、複合水酸化物を構成する二次粒子間の焼結が進行し、正極活物質の平均粒径や粒度分布を所定の範囲に設定することが困難となる。
【0065】
なお、微細一次粒子が針状一次粒子から構成される場合、微細一次粒子と板状一次粒子の平均粒径の差は0.1μm以上あることが好ましく、0.2μm以上あることがさらに好ましい。また、微細一次粒子がその他の構造、たとえば板状一次粒子に近い構造である場合、微細一次粒子と板状一次粒子の平均粒径の差は0.2μm以上あることが好ましく、0.3μm以上あることがさらに好ましい。
【0066】
なお、微細一次粒子および板状一次粒子の平均粒径は、複合水酸化物を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより、その断面観察が可能な状態とした後、その断面について、電界走査形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて観察し、次のようにして求めることができる。はじめに、複合水酸化物を構成する二次粒子の断面に存在する10個以上の微細一次粒子または板状一次粒子の最大外径(長軸径)を測定し、その個数平均値を求め、この値を、この二次粒子における微細一次粒子または板状一次粒子の粒径とする。次に、10個以上の二次粒子について、同様に微細一次粒子および板状一次粒子の粒径を求める。最後に、これらの二次粒子について得られた粒径の個数平均を求めることにより、これらの二次粒子を含む複合水酸化物全体の微細一次粒子または板状一次粒子の平均粒径を決定する。
【0067】
(1−6)遷移金属含有複合水酸化物の組成
本発明により得られる複合水酸化物は、その二次粒子の粒子構造に特徴を有するものであるから、本発明が適用される複合水酸化物に関して、その組成が制限されることはない。ただし、本発明は、一般式(A):Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有する複合水酸化物に好適に適用される。このような組成を有する複合水酸化物を前駆体とすることで、より高い電池性能を実現可能な、一般式(B)の組成で表される正極活物質を容易に得ることができる。
【0068】
このような組成を有する複合水酸化物において、添加元素Mは、晶析反応によって、遷移金属(ニッケル、コバルト、およびマンガン)とともに晶析させ、複合水酸化物中に均一に分散させることもできるが、晶析反応後に、複合水酸化物を構成する二次粒子の最表面を、添加元素Mを主として含む化合物により被覆してもよい。また、正極活物質の作製の際の混合工程において、複合水酸化物に対して、リチウム化合物とともに、添加元素Mを含む化合物を混合することも可能である。また、これらの方法を併用してもよい。いずれの方法による場合であっても、最終的に正極活物質が上記一般式(B)で表される組成となるように、複合水酸化物における添加元素Mの含有量を調整することが必要となる。
【0069】
2.遷移金属含有複合水酸化物の製造方法
(2−1)供給水溶液
本発明の複合水酸化物の製造方法では、反応槽内に、少なくとも遷移金属、好ましくは、ニッケル、ニッケルとマンガン、またはニッケルとマンガンとコバルトを含有する原料水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、pH調整剤によって該反応水溶液のpH値を所定範囲に調整しつつ、晶析反応によって、複合水酸化物を得る。
【0070】
a)原料水溶液
本発明においては、原料水溶液中に含まれる金属元素の比率が、実質的に得られる複合水酸化物の組成となる。このため、原料水溶液は、目的とする複合水酸化物の組成に応じて、それぞれの金属成分の含有量を適宜調整することが必要となる。たとえば、一般式(A)で表される組成を有する複合水酸化物を得ようとする場合には、原料水溶液中の金属元素の比率を、Ni:Mn:Co:M=x:y:z;t(ただし、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1)となるように調整することが必要となる。ただし、上述したように添加元素Mを別工程で導入する場合には、原料水溶液に添加元素Mが含まれないようにする。また、核生成工程と粒子成長工程とにおいて、添加元素Mの添加の有無、あるいは、遷移金属や添加元素Mの含有比率を変更することも可能である。
【0071】
原料水溶液を調製するための、遷移金属の化合物は、特に制限されることはないが、取扱いの容易性から、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などを用いることが好ましく、原料コストやハロゲン成分の混入を防止する観点から、硫酸塩を用いることが特に好ましい。
【0072】
また、複合水酸化物中に添加元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)を含有させる場合には、添加元素Mを供給するための化合物として、同様に水溶性の化合物が好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
【0073】
原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計物質量に基づいて決定されるが、好ましくは1mol/L〜2.6mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lとする。原料水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽容積あたりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、それぞれの金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
【0074】
上記金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、すべての金属化合物水溶液の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、それぞれの金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
【0075】
また、原料水溶液の供給量は、粒子成長工程の終了時点において、反応水溶液中の生成物の濃度が、好ましくは30g/L〜200g/L、より好ましくは80g/L〜150g/Lとなるようにする。生成物の濃度が30g/L未満では、一次粒子の凝集が不十分になる場合がある。一方、200g/Lを超えると、反応槽内において、反応水溶液の攪拌が十分に行われず、凝集条件が不均一となるため、粒子成長に偏りが生じる場合がある。
【0076】
b)アルカリ性水溶液
反応水溶液中のpH値を調整するためのアルカリ性水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、固体の状態で、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さの観点から、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、好ましくは20質量%〜50質量%、より好ましくは20質量%〜30質量%とする。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に設定することにより、反応系に供給する溶媒量、すなわち水の量を抑制しつつ、反応槽内での添加位置による、局所的なpH値の上昇を防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物を効率的に得ることが可能となる。
【0077】
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が、局所的に高くならず、かつ所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはない。たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
【0078】
(2−2)晶析反応
本発明の複合水酸化物の製造方法では、晶析反応を、主として核生成が行われる核生成工程と、主として粒子成長が行われる粒子成長工程との2つの工程に明確に分離し、それぞれの工程における晶析反応の条件を調整するとともに、粒子成長工程において、原料水溶液の供給を継続しながら、反応水溶液中に含まれる金属元素の過飽和度を変えることにより一次粒子径を制御することを特徴としている。
【0079】
[核生成工程]
核生成工程では、はじめに、複合水酸化物の原料となる遷移金属の化合物を水に溶解し、原料水溶液を調製する。また、反応槽内に、アルカリ性水溶液を供給し、液温25℃基準で測定するpH値が、12.0〜14.0となる反応前水溶液を調製する。ここで、反応前水溶液のpH値はpH計により測定することができる。
【0080】
次に、この反応前水溶液を撹拌しながら、原料水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、核生成工程における反応水溶液、すなわち核生成用水溶液が形成される。この反応水溶液のpH値は上記範囲にあるため、核生成工程では、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。なお、核生成工程では、核の生成に伴い、反応水溶液のpH値が変化するので、アルカリ性水溶液を適時供給し、液温25℃基準における反応水溶液のpH値が12.0〜14.0の範囲に維持されるように制御する。
【0081】
また、核生成工程中は、反応槽内の反応水溶液における過飽和度を高い状態に維持することで微細一次粒子を形成する。すなわち、結晶化における核生成と粒子成長(結晶成長)は、いずれも過飽和状態により駆動されるが、核生成工程では、高い過飽和状態を生じさせ、かつ維持することにより、核生成の駆動力として、核生成と粒子成長のうちの核生成を支配的にさせている。
【0082】
過飽和度は、晶析反応の反応場を冷却する、溶質の溶解度を減少させる溶媒を追加する、化学反応を生じさせる、pHを変化させるといった、晶析反応の反応場の条件を変化させるさまざまな手段により変化させることができる、本発明においては、その操作の簡易さから、pHを変化させることにより過飽和度を制御することが好ましい。
【0083】
遷移金属含有複合水酸化物、特に、一般式(A):Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成の範囲では、核生成工程における液温25℃基準で測定するpH値を、12.0〜14.0の範囲に制御することにより、過飽和度を高くし核生成が支配的になる範囲に制御することが可能である。
【0084】
よって、過飽和度をpHの変化により制御する場合には、溶質である原料の組成に応じて、たとえば、反応水溶液のpH値によって過飽和度を制御することが可能であり、かつ、過飽和度をpH値として間接的に求めることも可能である。
【0085】
核生成工程では、反応水溶液に、原料水溶液、アルカリ性水溶液を供給することにより、連続的に核の生成反応を継続させ、反応水溶液中に、所定量の核が生成した時点で、核生成工程を終了する。
【0086】
この際、核の生成量は、反応水溶液に供給した原料水溶液に含まれる金属化合物の量から判断することができる。核生成工程における核の生成量は、特に制限されないが、粒度分布の狭い複合水酸化物を得るためには、核生成工程および粒子成長工程を通じて供給される原料水溶液に含まれる金属化合物中の金属元素の量全体に対して、0.1原子%〜2原子%とすることが好ましく、0.1原子%〜1.5原子%とすることがより好ましい。なお、核生成工程における反応時間は、通常0.2分〜5分程度である。
【0087】
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、反応槽内の核生成用水溶液の液温25℃基準のおけるpH値を、10.5〜12.0に調整し、粒子成長工程における反応水溶液、すなわち粒子成長用水溶液を形成する。pH値は、アルカリ性水溶液の供給を停止することでも調整可能であるが、粒度分布の狭い複合水酸化物を得るためには、一旦、すべての水溶液の供給を停止した後に、pH値を調整することが好ましい。具体的には、すべての水溶液の供給を停止した後、反応水溶液に、原料水溶液の作製に用いた金属化合物と同じ基を有する無機酸を供給することにより、pH値を調整することが好ましい。
【0088】
これにより、遷移金属含有複合水酸化物、特に、一般式(A):Ni
xMn
yCo
zM
t(OH)
2+a(x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成の範囲では、粒子成長工程における過飽和度を、粒子成長が支配的となる範囲に制御することができる。すなわち、pH値を下げることで過飽和度を低下させ、粒子成長が支配的となる範囲に維持することができる。
【0089】
次に、この反応水溶液を撹拌しながら、原料水溶液の供給を再開する。このとき、反応水溶液のpH値は上記範囲にあるため、新たな核はほとんど生成せず、粒子成長が進行し、遷移金属含有複合水酸化物の二次粒子が所定の粒径に達するまで、晶析反応を継続する。なお、粒子成長工程においても、粒子成長に伴い、反応水溶液のpH値および錯化剤濃度が変化するので、アルカリ性水溶液および錯化剤水溶液を適時供給し、pH値を上記範囲に維持するとともに、錯化剤の濃度を一定の範囲に維持することが必要である。なお、粒子成長工程における全体の反応時間は、通常1時間〜6時間程度である。
【0090】
特に、本発明の複合水酸化物の製造方法においては、過飽和度を、粒子成長に適した範囲の中において比較的高い状態に制御し、微細一次粒子が形成される程度に高い状態を維持したまま、粒子を成長させ、粒子成長工程の初期段階において、複合水酸化物を構成する二次粒子の中心部を形成する(第1段階)。
【0091】
次に、粒子成長工程の初期段階の終了後に、原料水溶液の供給を継続しながら、反応水溶液の過飽和度を、板状一次粒子が形成される程度に低い状態に切り替えて、この過飽和度を維持する(第2段階)。これにより、複合水酸化物を構成する二次粒子の中心部の周囲に1層目の高密度層が形成される。粒子成長工程においては、過飽和度の制御を容易にするため、アンモニア水溶液などの錯化剤を添加してもよい。
【0092】
次いで、原料水溶液の供給を継続しながら、反応水溶液における過飽和度を、微細一次粒子が形成される程度に高い状態に切り替えて、前記過飽和度を維持する(第3段階)。これにより、高密度層を被覆するように、1層目低密度層が形成される。この際、条件切り替え時に板状一次粒子の過剰の混在を防止するため、切り替えに時間を要するなどの場合には、原料水溶液の供給を一時中止してもよい。
【0093】
さらに、原料水溶液の供給を継続しながら、反応水溶液中の過飽和度を、板状一次粒子が形成される程度に低い状態に再度切り替え、前記過飽和度を維持する(第4段階)。切り替えにより、1層目の低密度層を被覆するように、2層目の高密度層(外殻層)が形成される。このような過飽和度の切り替え制御により、複合水酸化物を構成する二次粒子の中心部の外側に、高密度層間に低密度層を有する構造、すなわち、高密度層、低密度層、および外殻部からなる多層構造が形成される。
【0094】
本発明では、粒子成長工程において、過飽和度の切り替えを少なくとも3回行うことを特徴としている。ただし、その後に、同様にして、過飽和度の切り替えを2回繰り返す、すなわち、過飽和度が低い第5段階および過飽和度が高い第6段階をさらに実施することもできる。このような過飽和度の切り替えの制御によって、複合水酸化物を構成する二次粒子の中心部の外側に、高密度層と低密度層からなる積層構造を2つ有する構造、すなわち、第1の高密度層、第1の低密度層、第2の高密度層、第2の低密度層、および外殻層からなる多層構造を有する外殻部が形成される。
【0095】
なお、このような複合水酸化物の製造方法では、核生成工程および粒子成長工程において、反応水溶液中の金属イオンは、固体である核または一次粒子として析出する。このため、反応水溶液中の金属イオン量に対する、液体成分の割合が増加する。反応の進行とともに、反応水溶液中の金属イオン濃度が低下するため、特に、粒子成長工程においては、複合水酸化物の成長が停滞する可能性がある。したがって、液体成分の割合の増加、すなわち見かけ上の金属イオン濃度の低下を抑制するため、核生成工程終了後から粒子成長工程の途中において、反応水溶液の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。具体的には、原料水溶液、アルカリ性水溶液、および錯化剤を含む水溶液の反応槽への供給および反応水溶液の攪拌を一旦停止し、反応水溶液中の固体成分、すなわち複合水酸化物を沈降させて、反応水溶液の上澄み液のみを反応槽外に排出することが好ましい。このような操作により、反応水溶液における金属イオン濃度を維持することができるため、粒子成長が停滞するのを防止し、得られる複合水酸化物の粒度分布を好適な範囲に制御することができるばかりでなく、粉体としての密度も向上させることができる。
【0096】
[複合水酸化物の粒径制御]
複合水酸化物を構成する二次粒子の粒径は、核生成工程や粒子成長工程を行う時間、それぞれの工程における、反応水溶液のpH値や原料水溶液の供給量などにより制御することができる。たとえば、核生成工程を高いpH値において行う、核生成工程を行う時間を長くする、あるいは、原料水溶液の金属濃度を増加させるといった場合には、核生成工程における核の生成量が増加し、粒子成長工程後に比較的粒径の小さな複合水酸化物が得られる。反対に、核生成工程における核の生成量を抑制する、あるいは、粒子成長工程を行う時間を十分に長くするといった場合には、粒径の大きな複合水酸化物を得ることができる。
【0097】
[晶析反応の別実施態様]
本発明の複合水酸化物の製造方法では、反応水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpH値に調整された成分調整用水溶液を用意し、この成分調整用水溶液に、核生成工程後の反応水溶液、好ましくは核生成工程後の反応水溶液から液体成分の一部を除去したものを添加および混合して、これを反応水溶液として、粒子成長工程を行ってもよい。
【0098】
この場合、核生成工程と粒子成長工程の分離をより確実に行うことができるため、それぞれの工程における反応水溶液を、最適な状態に制御することができる。特に、粒子成長工程の開始時から反応水溶液のpH値を最適な範囲に制御することができるため、得られる複合水酸化物の粒度分布をより狭いものとすることができる。
【0099】
(2−3)pH値
本発明の複合水酸化物の製造方法において、液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程を行うときは、12.0〜14.0の範囲に、粒子成長工程を行うときは、核生成工程より低く、かつ10.5〜12.0の範囲に制御することが必要となる。また、それぞれの工程おいてpH値を上記範囲内で変更することにより、反応水溶液の過飽和度を、核生成が支配的となる12.0〜14.0の範囲、あるいは、粒子成長が支配的となる10.5〜12.0の範囲に、調整することができる。すなわち、pH値を上げると過飽和度は高くなり、pH値を下げると過飽和度が低くなる。
【0100】
また、本発明では、粒子成長工程において、さらにpH値を変化させることにより、過飽和度を変化させている。すなわち、粒子成長工程のうち、過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階では、pH値を、11.0〜12.0の範囲に制御することにより、過飽和度を微細一次粒子が形成される程度に高い状態とし、過飽和度が低い第2段階、第4段階および第6段階では、10.5〜11.5の範囲、かつ、前記過飽和度が高い状態でのpH値より低くなるように制御することにより、過飽和度を前記微細一次粒子より大きい板状一次粒子が形成される程度に低い状態としている。
【0101】
なお、核生成工程や、粒子成長工程のそれぞれの段階において、晶析反応中のpH値の変動量は、設定値に対して、±0.2以内に制御することが好ましい。pH値の変動量が大きい場合には、核生成工程における核生成量と粒子成長工程における粒子成長の程度とが一定とならないため、粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることが困難となることがある。このため、特に粒子成長工程にアンモニア水溶液などの錯化剤を添加してもよい。
【0102】
a)核生成工程のpH値
核生成工程においては、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5、より好ましくは12.5より大きく13.3以下の範囲に制御することが必要となる。これにより、反応水溶液中の核の成長を抑制し、核生成のみを優先させることが可能となり、この工程で生成する核を均質な大きさとし、かつ粒度分布の狭いものとすることができる。また、pH値を12.5より高くすることで、複合水酸化物の二次粒子の中心部に微細一次粒子が連なった隙間の多い構造を確実に形成することが可能となる。pH値が12.0未満のときは、核生成とともに核の成長も進行するため、得られる複合水酸化物の粒径が不均一となり、粒度分布が広くなる。また、pH値を14.0より高くすると、生成する核が微細になりすぎるため、反応水溶液がゲル化する問題が生じる。
【0103】
b)粒子成長工程のpH値
粒子成長工程のうち、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、反応水溶液の過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階においては、11.0〜12.0の範囲、好ましくは11.5〜12.0の範囲に制御し、過飽和度が低い第2段階、第4段階、および第6段階においては、10.5〜11.5の範囲、好ましくは10.8〜11.3の範囲に制御することが必要になる。これにより、新たな核の生成が抑制され、粒子成長を優先させることが可能となり、得られる複合水酸化物を均質かつ粒度分布が狭いものとすることができる。
【0104】
pH値が12.0より高くなると、粒子成長工程中の核生成量が増加し、得られる複合水酸化物の粒径が不均一となり、粒度分布が広くなる。また、過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階において、pH値が11.0より低くなると、それぞれの段階で形成される一次粒子のうち、板状一次粒子の割合が多くなって、外殻部の構造を所望の構造にすることができなくなる可能性がある。一方、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が低下する。一方、過飽和度が低い第2段階、第4段階、および第6段階において、pH値が11.5より高くなると、それぞれの段階で形成される一次粒子のうち、微細一次粒子の割合が多くなって、外殻部の構造を所望の構造にすることができなくなる可能性がある。
【0105】
なお、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値が12.0の場合、核生成と粒子成長の境界条件、すなわち、核生成工程と、粒子成長工程のうちの過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程あるいは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。たとえば、核生成工程のpH値を12.0より高くして多量に核生成を行わせた後、粒子成長工程の第1段階におけるpH値を12.0とすると、反応水溶液中に反応体となる多量の核が存在するため、粒子成長が優先して起こり、粒径分布が狭い複合水酸化物を得ることができる。一方、核生成工程のpH値を12.0とした場合、核生成工程では、反応水溶液中に成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、その後の粒子成長工程の第1段階におけるpH値を12.0より小さくすることによって、生成した核の成長(粒子成長)を進行させることができる。
【0106】
いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長とをより明確に分離するためには、粒子成長工程におけるpH値を、核生成工程のpH値よりも、0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0107】
なお、本発明では、粒子成長工程のうちの第1段階、第3段階、および第5段階においては、核生成工程よりも過飽和度が低い、すなわちpH値が低い状態とはなるが、粒子成長工程のうちの第2段階、第4段階、および第6段階との比較では、比較的に過飽和度が高い、すなわちpH値が高い状態が維持されるため、粒子成長によって微細一次粒子が形成される。
【0108】
また、粒子成長工程のうち、過飽和度が低い第2段階、第4段階、および第6段階と、過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階とを明確に分離するためには、過飽和度が低い状態でのpH値を過飽和度が高い状態でのpH値はよりも、0.3以上低くすることが好ましく、0.5以上低くすることがより好ましい。
【0109】
c)pH値の制御タイミング
粒子成長工程におけるpH値の制御(過飽和度制御)は、目的とする粒子構造を有する複合水酸化物が形成されるように、適切なタイミングで行うことが必要となる。
【0110】
粒子成長工程中においても、pH値は、アルカリ性水溶液の供給を停止することにより調整可能であるが、粒度分布の狭い複合水酸化物を得るために、一旦、すべての水溶液の供給を停止した後に、pH値を調整することが好ましい。
【0111】
なお、pH値の切り替え時間は、粒子成長工程の全体に対して0.4%〜2%、より好ましい態様では0.4%〜1%程度である。この時間は、pH値を高い状態から低い状態または低い状態から高い状態に切り替えるときも共通である。したがって、pH値の切り替え時間を、単独で厳密に管理することも可能であるが、通常は、pH値の切り替え後の時間に含めて管理すれば十分である。
【0112】
[外殻部が三層構造を有する場合]
粒子成長工程において、中心部の形成から外殻部の形成までの間に、雰囲気制御を3回行い、中心部の外側に、2つの高密度層に挟まれた1つの低密度層が形成された三層構造を有する外郭部を得ようとする場合、粒子成長工程の初期段階(第1段階)の過飽和度(pH値)が高い状態における晶析反応時間は、粒子成長工程時間の全体に対して、0.5%〜20%の範囲、好ましくは1%〜15%の範囲、より好ましくは3%〜10%の範囲である。すなわち、粒子成長工程の開始時から、粒子成長工程時間の全体に対して、初期段階(第1段階)の晶析反応時間である0.5%〜20%の時間が経過した後、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から過飽和度が低い状態に切り替える。pH値が設定値まで下がったら、反応水溶液へのアルカリ性水溶液や無機酸などの供給量を調整して、pH値を一定に保つことにより第2段階へと移行する。初期段階(第1段階)におけるこのような範囲の反応時間により、核生成工程と合わせて適切な大きさの中心部が形成される。
【0113】
次に、第1回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第1段階)からの切り替え開始後の過飽和度(pH値)が低い状態(第2段階)での晶析反応時間(過飽和度が高い状態から低い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、10%〜80%の範囲、好ましくは30%〜75%の範囲、より好ましくは40%〜70%の範囲である。すなわち、過飽和度が低い状態とすべく、pH値を低い状態に切り替えるために、アルカリ性水溶液の供給を停止した時あるいは無機酸の供給を開始した時から、粒子成長工程時間の全体に対して、第2段階の晶析反応時間である10%〜80%の時間が経過した後、アルカリ性水溶液を連続的に供給したりするなどして、pH値を上げることにより、過飽和度が低い状態から高い状態に切り替える。pH値が設定値まで上がったら、反応水溶液へのアルカリ性水溶液や無機酸などの供給量を調整して、pH値を一定に保つことにより、第3段階へと移行する。第2段階におけるこのような範囲の反応時間により、適切な厚さの(所定の高密度層粒径比を有する)高密度層が形成される。
【0114】
さらに、第1回目の過飽和度(pH値)の低い状態(第2段階)からの切り替え開始後の第2回目の過飽和度(pH値)の高い状態(第3段階)での晶析反応時間(過飽和度の低い状態から高い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、2%〜30%の範囲、好ましくは3%〜20%の範囲、より好ましくは5%〜15%の範囲である。すなわち、過飽和度が高い状態とすべく、pH値を高い状態に切り替えるために、反応水溶液中へアルカリ性水溶液の供給を開始した時から、粒子成長工程時間の全体に対して、第3段階の晶析反応時間である2%〜30%の時間が経過した後、反応水溶液へのアルカリ性水溶液の供給を停止したり、無機酸を供給したりするなどして、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から低い状態に切り替えて、第4段階へと移行する。第3段階におけるこのような範囲の反応時間により、適切な厚さの(所定の低密度層粒径比を有する)低密度層が形成される。
【0115】
外殻層を形成するための、第2回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第3段階)からの切り替え開始後の粒子成長工程の終了(晶析反応の終了)までの第2回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第4段階)での粒子成長工程の晶析反応時間は、粒子成長工程時間の全体に対して、10%〜80%の範囲、好ましくは10%〜60%の範囲、より好ましくは15%〜50%の範囲である。第4段階の晶析反応時間である10%〜80%の時間が経過した後、原料水溶液の供給を終了して、晶析反応を終了させる。第4段階におけるこのような範囲の反応時間により、適切な厚さの(所定の外殻層粒径比を有する)外殻層が形成される。
【0116】
すなわち、上述のようなタイミングで過飽和度(pH値)を順次切り替えることで、過飽和度を切り替えて、中心部の大きさや、高密度層、低密度層、および外殻層の厚さを好適な範囲に制御することが可能となる。
【0117】
[外殻部が五層構造を有する場合]
粒子成長工程において、中心部の形成から外殻層の形成までの間に、雰囲気制御を5回行い、外殻層の内側に、高密度層と低密度層からなる積層構造を2つ備える五層構造の外殻部を有する複合水酸化物を得ようとする場合、粒子成長工程の初期段階(第1段階)のpH値が高い状態における晶析反応時間は、粒子成長工程時間の全体に対して、0.5%〜20%の範囲とし、好ましくは1%〜15%の範囲、より好ましくは3%〜10%の範囲である。初期段階(第1段階)の経過後、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から低い状態に切り替える。
【0118】
第1回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第1段階)からの切り替え開始後の過飽和度(pH値)が低い状態(第2段階)での晶析反応時間(過飽和度の高い状態から低い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、10%〜75%の範囲、好ましくは30%〜75%の範囲、より好ましくは40%〜70%の範囲である。第2段階の経過後、pH値を上げることにより、過飽和度が低い状態から高い状態に切り換える。
【0119】
第1回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第2段階)からの切り替え開始後の過飽和度(pH値)が低い状態(第3段階)での晶析反応時間(過飽和度が高い状態から低い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、2%〜30%の範囲、好ましくは3%〜20%の範囲、より好ましくは5%〜15%の範囲である。第3段階の経過後、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から低い状態に切り替える。
【0120】
第2回目の過飽和度(pH値)が低い(第3段階)からの切り替え開始後の過飽和度(pH値)が高い状態(第4段階)での晶析反応時間(過飽和度の低い状態から高い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、10%〜75%の範囲、好ましくは30%〜75%の範囲、より好ましくは40%〜70%の範囲である。第4段階の経過後、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から低い状態に切り換える。
【0121】
第2回目の過飽和度(pH値)が低い状態(第4段階)からの切り替え開始後の過飽和度(pH値)が高い状態(第5段階)での晶析反応時間(過飽和度が低い状態から高い状態への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、2%〜30%の範囲、好ましくは3%〜20%の範囲、より好ましくは5%〜15%の範囲である。第5段階の経過後、pH値を下げることにより、過飽和度が高い状態から低い状態へ切り替える。
【0122】
外殻層を形成するための、第3回目の過飽和度(pH値)が高い状態(第5段階)からの切り替え開始後の粒子成長工程の終了(晶析反応の終了)までの第3回目の過飽和度(pH値)が低い状態(第6段階)での粒子成長工程の晶析反応時間は、粒子成長工程時間の全体に対して、10%〜75%、好ましくは10%〜60%の範囲、より好ましくは15%〜50%の範囲である。第6段階の経過後、原料水溶液の供給を終了して、晶析反応を終了する。
【0123】
このようなタイミングで過飽和度(pH値)を順次切り替えることにより、中心部の大きさや、外殻部を構成する、高密度層、低密度層、第2の高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さを好適な範囲に制御することが可能となる。
【0124】
なお、本発明の粒子成長工程において、反応水溶液における過飽和度を変化させることにより外殻部に多層の層状構造を生成させているが、上述のようにpHに代替して、他の反応条件を変化させることにより過飽和度を制御することもできる。この場合には、粒子成長工程におけるpH値を上記の範囲で、かつ、晶析反応中のpH値の変動量を、設定値に対して、0.2以内に制御しつつ、反応温度を変化させるなどの措置をとることにより、反応水溶液における過飽和度を変化させる。
【0125】
(2―4)反応温度
反応水溶液の温度、すなわち晶析反応の反応温度は、核生成工程と粒子成長工程との全体を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃〜60℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度が20℃未満では、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる複合水酸化物の平均粒径や粒度分布の制御が困難となる。なお、反応温度の上限は、特に制限されることはないが、反応温度が60℃を超えると、反応水溶液の水分の揮発が促進され、反応水溶液中の過飽和度の一定範囲への制御が煩雑になることがある。
【0126】
なお、本発明の粒子成長工程において、上述のように反応温度を変化させることにより、過飽和度を制御することも可能である。この場合、上記温度範囲において、粒子成長工程のうち、過飽和度が低い第2段階、第4段階、および第6段階と、過飽和度が高い第1段階、第3段階、および第5段階とを明確に分離するためには、過飽和度が低い状態での反応温度を過飽和度が高い状態での反応温度よりも、20℃以上高くすることが好ましく、30℃以上高くすることがより好ましい。
【0127】
(2−5)被覆工程
本発明の複合水酸化物の製造方法では、原料水溶液中、特に粒子成長工程において用いられる原料水溶液中に、添加元素Mを含有する化合物を添加することで、粒子内部に添加元素Mが均一に分散した複合水酸化物を得ることができる。しかしながら、より少ない添加量で、添加元素Mの添加による効果を得ようとする場合には、粒子成長工程後に、遷移金属含有複合水酸化物を構成する二次粒子の表面を、添加元素Mを含む化合物で被覆する被覆工程を行うことが好ましい。
【0128】
被覆方法は、複合水酸化物を、添加元素Mを含む化合物によって均一に被覆することができる限り、特に限定されることはない。たとえば、複合水酸化物をスラリー化し、そのpH値を所定の範囲内に制御した後、添加元素Mを含む化合物を溶解した被覆用水溶液を添加し、複合水酸化物を構成する二次粒子の表面に添加元素Mを含む化合物を析出させることで、添加元素Mを含む化合物によって均一に被覆された複合水酸化物を得ることができる。この場合、被覆用水溶液に代えて、添加元素Mのアルコキシド水溶液をスラリー化した複合水酸化物に添加してもよい。また、複合水酸化物をスラリー化せずに、添加元素Mを含む化合物を溶解した水溶液またはスラリーを吹き付けて乾燥させることにより被覆してもよい。さらに、複合水酸化物と添加元素Mを含む化合物とが懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法により、または、複合水酸化物と添加元素Mを含む化合物とを固相法で混合するなどの方法により被覆することもできる。
【0129】
なお、複合水酸化物の表面を添加元素Mで被覆する場合には、被覆後の複合水酸化物の組成が、目的とする複合水酸化物の組成と一致するように、原料水溶液および被覆用水溶液の組成を適宜調整することが必要となる。また、被覆工程は、正極活物質を製造時の熱処理工程において、複合水酸化物を熱処理した後の熱処理粒子に対して行ってもよい。
【0130】
(2−6)製造装置
本発明の複合水酸化物を製造するための晶析装置、すなわち反応槽は、反応雰囲気の切り替えを行うことができるものである限り、特に限定されることはないが、散気管などの雰囲気ガスの反応槽内への直接的な供給手段を有するものが好ましい。また、本発明の実施において、晶析反応が終了するまで、析出した生成物を回収しないバッチ式晶析装置を用いることが特に好ましい。このような晶析装置の場合、オーバーフロー方式によって生成物を回収する連続晶析装置とは異なり、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されることがないため、低密度層と高密度層からなる粒子構造が制御され、粒度分布の狭い複合水酸化物を精度よく得ることができる。また、本発明の複合水酸化物の製造方法は、晶析反応中の反応雰囲気を適切に制御することが必要となるため、密閉式の晶析装置を用いることが特に好ましい。
【0131】
3.非水電解質二次電池用正極活物質
(3−1)正極活物質の粒子構造
a)二次粒子の構造
本発明の遷移金属含有複合水酸化物の製造方法により得られる遷移金属含有複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質は、
図2に示すように、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。すなわち、該二次粒子は、一次粒子の凝集体により構成される。特に、本発明の遷移金属含有複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質においては、二次粒子の全体が一次粒子の焼結凝集体により構成された中実構造ではなく、
図3に示すように、前記二次粒子が、一次粒子が凝集してなる外殻部と、該外殻部の内側に存在する内部空間により構成される中心部と、前記外殻部に形成され、前記中心部と外部とを連通する貫通孔とを備えることを特徴とする。すなわち、正極活物質を構成する二次粒子は、外殻部とその内側にあり、貫通孔を介して外部と連通する空間部とからなる中空構造を有する。
【0132】
このような粒子構造を有する正極活物質では、外殻部に形成された貫通孔を介して、二次粒子の中心部、すなわち内部空間に電解液のみならず導電助剤も容易に浸入するため、二次粒子の外殻部の外側表面ばかりでなく、二次粒子の外殻部の内側表面および外殻部のうちの貫通孔に露出した部分においても、リチウムの脱離および挿入が十分に可能となる。よって、正極抵抗のさらなる低減が図られ、その分だけその出力特性を高めることができる。
【0133】
また、このような構造を、複数の一次粒子が凝集して形成され、球形度が高い、すなわち、全体が実質的に略球状(球形や楕円形を含む)の二次粒子からなり、かつ、小粒径で粒度分布が狭い、リチウム遷移金属含有複合酸化物からなる正極活物質において実現している。
【0134】
このような構造の正極活物質を用いた二次電池では、同様の組成で、小粒径で粒度分布が狭い従来の正極活物質を用いた二次電池との比較において、正極活物質を構成する二次粒子(外殻部)の外側表面のみならず、その内側表面も含めて、より広い範囲を電解液との反応場としてさらに効率よく活用することができるため、電池容量やサイクル特性を同程度に維持しつつ、出力特性のさらなる改善を図ることができる。
【0135】
b)外殻部
本発明により得られる遷移金属含有複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を構成する二次粒子の粒径に対する外殻部の厚さの比率(以下、「正極活物質の外殻部粒径比」という)は、5%〜40%であることが好ましく、10%〜35%であることがより好ましく、15%〜30%であることがさらに好ましい。これにより、この正極活物質を用いた二次電池において、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を向上させることが可能となる。これに対して、前記正極活物質の外殻部粒径比が5%未満の場合、正極活物質の物理的耐久性を確保することが困難となり、二次電池のサイクル特性が低下するおそれがある。一方、前記正極活物質の外殻部粒径比が40%より大きくなると、中心部の比率(二次粒子の粒径に対する外殻部の内径の比率)が低下して、電解液との反応面積を十分に確保できない、貫通孔が十分に形成されないといった問題が生ずるため、二次電池の出力特性を向上させることが困難となるおそれがある。
【0136】
ここで、正極活物質の外殻部粒径比は、正極活物質の断面のSEM像を用いて、次のようにして求めることができる。はじめに、正極活物質の断面のSEM像上で、1粒子あたり3か所以上の任意の位置で外殻部の厚さを測定し、その平均値を求める。ここで、外殻部の厚さは、正極活物質の外殻部の外縁から外殻部が内部の空隙に内向する面までの距離が最短となる2点間の距離とする。同様の測定を10個以上の正極活物質に対して実施し、その平均値を算出することで、外殻部の平均厚さを求める。そして、外殻部の平均厚さを正極活物質の平均粒径で除することにより、その正極活物質の粒径に対する外殻部の厚さの比率を求めることができる。なお、本発明の正極活物質では、焼成時の体積収縮により外殻部の一部が破断し、内部の空隙が外部に露出した状態となる場合がある。このような場合には、破断している部分が繋がっているものと推定して外殻部を判断し、測定可能な部分で外殻部の厚さを測定すればよい。
【0137】
具体的には、外殻部の厚さは、二次粒子の平均粒径に応じるが、好ましくは0.1μm〜6μmの範囲、より好ましくは0.2μm〜5μmの範囲、さらに好ましくは0.2μm〜3μmの範囲である。
【0138】
c)貫通孔
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法により得られる正極活物質は、外殻部に形成され、前記中心部と外部とを連通する貫通孔とを備えることを特徴とする。
【0139】
この貫通孔は、複合水酸化物の焼成時に、複合水酸化物を構成する外殻部が、焼結収縮することにより、一体化した外殻部を形成するに際して、外殻部の層間に存在した低密度層の収縮に起因して形成されたものであり、外殻部を中空構造の中心部と外部とを連通する状態で、この外殻部に少なくとも1つは形成される。中心部まで電解液および導電助剤を侵入させるという観点からは、1つの二次粒子に所定の大きさの貫通孔が1つ存在すれば十分である。ただし、外殻部にこのような貫通孔が複数存在することも可能であり、貫通孔の数は、好ましくは、二次粒子1個当たり1個〜5個の範囲、より好ましくは1個〜3個の範囲である。
【0140】
貫通孔の数は、貫通孔が二次粒子径に対して十分に大きいため、走査型顕微鏡による二次粒子の断面観察や表面観察で計測可能である。表面観察では焦点を変えることで、貫通孔であることを確認できる。表面観察では、二次粒子の向きがランダムであると考えられ、観察可能な二次粒子の向きに貫通孔が必ず存在するとは限らない。すなわち、二次粒子を観察方向に垂直な面内にある直交する2軸で回転させた際に、貫通孔が観察できる位置は上面の付近であり、それぞれの回転軸において多くとも上面付近の25%程度の角度である。したがって、裏面や側面に貫通孔が存在しても判別困難なことから、粒子全体の観察が可能な二次粒子の個数の5%以上、好ましくは6%以上で貫通孔が観察されれば、確率的にほぼ全ての二次粒子に貫通孔が存在すると考えられる。二次粒子1個当たりの個数についても、貫通孔の観察が困難な二次粒子は排除して求めることが妥当なことから、貫通孔が観察された粒子において貫通孔の個数を粒子数により平均することにより求められる。
【0141】
それぞれの貫通孔の大きさ(内径)は、電解液が正極活物質の内部まで十分に浸入できる大きさである必要があり、外殻部の厚さに対する内径の比(以下、「貫通孔内径比」という)が0.3以上であり、好ましくは0.3〜5、より好ましくは0.4〜3である。貫通孔内径比が0.3未満になると、外殻部の厚さに対して貫通孔の内径が小さくなり過ぎ、相対的に内径が小さく長さが長い貫通孔となるため、二次粒子内部に形成された内部空間(中心部)に電解液が十分に侵入できず、また、導電助剤が中心部まで侵入できないか、あるいは侵入できる導電助剤が減少するため、電池に用いられた際の出力特性や電池容量が低下する。貫通孔内径比が5を超えると、相対的に貫通孔の内径が多く大きくなり、二次粒子の強度が低下して、正極活物質の物理的耐久性が不足することがある。
【0142】
また、内径は、好ましくは0.2μm〜1.0μmの範囲、より好ましくは0.2μm〜0.7μmの範囲、さらに好ましくは0.3μm〜0.6μmの範囲である。貫通孔の内径が0.2μmよりも小さいと、電解液の二次粒子内への浸入が十分に行われない、さらに、二次粒子内へ導電助剤が浸入できない可能性が生ずる。一方、貫通孔の内径の上限値は、正極活物質を構成する二次粒子の平均粒径にもよるが、その物理的耐久性を確保する観点から、二次粒子の平均粒径の5%〜20%程度とすることが好ましい。
【0143】
貫通孔の内径(平均内径)は、正極活物質の断面のSEM像を用いて任意に選択した貫通孔を確認できる二次粒子において、貫通孔(二次粒子の外部と中心部を繋ぐ空間部)と外郭部の境界上の最短となる2点間の距離を当該二次粒子の貫通孔の測定値とし、同様の測定を10個以上の二次粒子に対して実施し、二次粒子の個数による平均値を算出することにより求められる。二次粒子内に複数の貫通孔が存在する場合は、当該二次粒子におけるそれぞれの貫通孔の測定値から個数による平均値を算出して当該二次粒子の測定値とし、他の二次粒子の測定値とともに平均値を算出する。断面観察は、任意の断面であるため、必ずしも貫通孔の中心が断面となっておらず、中心からずれることで真の径よりも小さい値が測定されることがあるが、ここでの貫通孔の内径は、真の径よりも小さい値も含めて平均化されたものを意味する。このような貫通孔の内径であっても、上記のような範囲に特定することで十分な効果が得られる。
【0144】
(3−2)平均粒径
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を構成する二次粒子の平均粒径は、1μm〜15μm、好ましくは3μm〜12μm、より好ましくは3μm〜10μmである。正極活物質の平均粒径がこのような範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。これに対して、平均粒径が1μm未満のときは、正極活物質の充填性が低下し、単位体積あたりの電池容量を増加させることができない。一方、平均粒径が15μmより大きくなると、電解液との接触界面が減少し、正極活物質の反応面積が低下するため、出力特性を向上させることが困難となる。
【0145】
なお、正極活物質の平均粒径とは、体積基準平均粒径(MV)を意味し、レーザ光回折散乱式粒度分析計での測定により求めることができる。
【0146】
(3−3)粒度分布
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質の粒度分布の広がりを示す指標である[(d90−d10)/平均粒径]の値は、0.70以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下であり、本発明の正極活物質は、きわめて粒度分布が狭い粉体により構成される。このような正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少なく、これを用いた二次電池は、安全性、サイクル特性、および出力特性がともに優れたものとなる。
【0147】
これに対して、[(d90−d10)/平均粒径]の値が0.70を超えると、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。たとえば、微細粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池では、微細粒子の局所的な反応に起因して、二次電池が発熱しやすくなり、安全性が低下するばかりでなく、微細粒子の選択的な劣化により、サイクル特性が劣ったものとなる。また、粗大粒子の割合が多い正極活物質を用いた二次電池では、電解液と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が劣ったものとなる。
【0148】
一方、工業規模の生産を考慮した場合には、前駆体として、[(d90−d10)/平均粒径]の値が過度に小さい粉体状態の複合水酸化物を作製することは、収率、生産性、または生産コストの観点からから現実的ではない。したがって、正極活物質の[(d90−d10)/平均粒径]の下限値を、0.25程度とすることが好ましい。
【0149】
ここで、d10とは、粉体試料の各粒径における粒子数を粒径の小さな側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味し、d90は、同様の手法で粒子数を累積したときに、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味する。d10およびd90は、正極活物質の平均粒径と同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0150】
(3−4)比表面積
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質では、その比表面積が、1.3m
2/g〜4.0m
2/gであることが好ましく、1.5m
2/g〜3.0m
2/gであることがより好ましい。比表面積がこのような範囲にある正極活物質は、電解液との接触面積が大きく、これを用いた二次電池の出力特性を大幅に向上させることができる。これに対して、正極活物質の比表面積が1.3m
2/g未満のときは、二次電池を構成した場合に、電解液との反応面積を確保することができず、出力特性を十分に向上させることが困難となる。一方、正極活物質の比表面積が4.0m
2/gよりも大きなときは、電解液との反応性が高くなりすぎるため、熱安定性が低下する場合がある。
【0151】
ここで、正極活物質の比表面積は、たとえば、窒素ガス吸着によるBET法により測定することができる。
【0152】
(3−5)タップ密度
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質では、充填性の指標であるタップ密度を、1.1g/cm
3以上とすることが好ましく、1.2g/cm
3以上とすることがより好ましく、1.3g/cm
3以上とすることがさらに好ましい。タップ密度が1.1g/cm
3未満のときは、充填性が低く、二次電池全体の電池容量を十分に向上させることができない場合がある。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、通常の製造条件での上限は、3.0g/cm
3程度となる。
【0153】
なお、タップ密度とは、JIS Z2512:2012に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を表し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
【0154】
(3−6)単位体積あたりの表面積
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質は、タップ密度と同様に、正極活物質の充填性についての大きな指標となる、単位体積あたりの表面積が好ましくは2.0m
2/cm
3以上、より好ましくは2.1m
2/cm
3以上、さらに好ましくは2.3m
2/cm
3以上である。これにより、正極活物質の粉体としての充填性を確保しつつ、電解液との接触面積を増大させることができるため、出力特性と電池容量を同時に向上させることができる。なお、単位体積あたりの表面積は、正極活物質の比表面積とタップ密度との積によって求めることができる。
【0155】
(3−7)組成
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質は、その二次粒子の粒子構造に特徴を有するものであるから、上述した粒子構造を有する限り、その組成が制限されることはない。ただし、一般式(B):Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有する正極活物質に対して好適に適用することができる。
【0156】
この正極活物質において、リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、好ましくは−0.05以上0.50以下、より好ましく0以上0.50以下、さらに好ましくは0以上0.35以下とする。uの値を上記範囲内に設定することにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、uの値が−0.05未満のときは、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。一方、0.50より大きなときは、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう。
【0157】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、好ましくは0.3以上0.95以下、より好ましくは0.3以上0.9以下とする。xの値が0.3未満では、この正極活物質を用いた二次電の電池容量を向上させることができない。一方、xの値が0.95を超えると、他の金属元素の含有量が減少し、その効果を得ることができない。
【0158】
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、好ましくは0.05以上0.55以下、より好ましくは0.10以上0.45以下とする。yの値が0.05未満では、この正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を向上させることができない。一方、yの値が0.55を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化してしまう。
【0159】
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、0以上0.55以下、好ましくは0.10以上0.55以下とする。zの値が0.4を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が大幅に低下してしまう。
【0160】
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質では、二次電池の耐久性や出力特性をさらに向上させるため、上記の遷移金属元素に加えて、添加元素Mを含有してもよい。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)から選択される1種以上を用いることができる。
【0161】
添加元素Mの含有量を示すtの値は、好ましくは0以上0.1以下、より好ましくは0.001以上0.05以下とする。tの値が0.1より大きなときは、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
【0162】
このような添加元素Mは、正極活物質の粒子内部に均一に分散させてもよく、正極活物質の粒子表面を被覆させてもよい。さらには、粒子内部に均一に分散させた上で、その表面を被覆させてもよい。いずれにしても、添加元素Mの含有量が上記範囲となるように制御することが必要となる。
【0163】
なお、上記正極活物質において、これを用いた二次電池の電池容量のさらなる向上を図る場合には、その組成を、一般式(B1):Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2(−0.05≦u≦0.20、x+y+z+t=1、0.7<x≦0.95、0.05≦y≦0.2、0≦z≦0.2、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるように調整することが好ましい。特に、熱安定性との両立を図る場合には、一般式(B1)におけるxの値を、0.7<x≦0.9とすることがより好ましく、0.7<x≦0.85とすることがさらに好ましい。
【0164】
一方、熱安定性のさらなる向上を図る場合には、その組成を、一般式(B2):Li
1+uNi
xMn
yCo
zM
tO
2(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるように調整することが好ましい。
【0165】
4.非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体とすることで、所定の構造、平均粒径、および粒度分布を備える正極活物質を合成することができる。このような正極活物質を工業規模で生産する場合には、上記の複合水酸化物をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る混合工程と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃〜1000℃の範囲の温度で焼成する焼成工程とを備える製造方法によって正極活物質を合成することが好ましい。なお、必要に応じて、上述した工程に、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。このような製造方法により、上記の正極活物質、特に、上記一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができる。
【0166】
(4−1)熱処理工程
本発明の複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の製造方法において、任意的に、混合工程の前に熱処理工程を設けて、複合水酸化物を熱処理した熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去された複合水酸化物のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換された遷移金属含有複合酸化物、または、これらの混合物も含まれる。
【0167】
熱処理工程は、複合水酸化物を105℃〜750℃の範囲の温度まで加熱して熱処理することにより、複合水酸化物に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。加熱温度が105℃未満のときは、複合水酸化物中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、加熱温度が700℃より高いときは、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
【0168】
また、熱処理工程では、正極活物質中のそれぞれの金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物を複合酸化物まで転換する必要はない。しかしながら、それぞれの金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上に加熱して、すべての複合水酸化物を、複合酸化物まで転換することが好ましい。なお、熱処理条件による複合水酸化物に含有される金属成分比を化学分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
【0169】
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
【0170】
また、熱処理時間は、特に制限されないが、複合水酸化物中の余剰水分を十分に除去する観点から、少なくとも1時間とすることが好ましく、5時間〜15時間とすることがより好ましい。
【0171】
(4−2)混合工程
混合工程は、複合水酸化物または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
【0172】
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガン、および添加元素Mの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.35、さらに好ましくは1.0〜1.2となるように、複合水酸化物または熱処理粒子と、リチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meの値は変化しないので、混合工程におけるLi/Meの値が、目的とする正極活物質のLi/Meの値となるように、複合水酸化物または熱処理粒子と、リチウム化合物とを混合することが必要となる。
【0173】
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
【0174】
複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物とは、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meの値にばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
【0175】
(4−3)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、焼成温度よりも低い温度で、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃で、仮焼する仮焼工程を行ってもよい。これにより、複合水酸化物または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一な正極活物質を得ることができる。
【0176】
なお、上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることが好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
【0177】
(4−4)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定条件の下で焼成し、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムを拡散させて、正極活物質を得る工程である。
【0178】
この焼成工程において、複合水酸化物または熱処理粒子における中心部は、微細一次粒子が連なった隙間の多い構造であるため、低温域から焼結が進行して、粒子の中心から焼結の進行が遅い高密度層側に収縮して、二次粒子の中心に所定の大きさの内部空間を形成する。
【0179】
複合水酸化物および熱処理粒子の高密度層および外殻層(あるいは、第1の高密度層、第2の高密度層、および外殻層)は、焼結収縮し、実質的に一体化して、正極活物質においては1つの外殻部の中で一次粒子凝集体を形成する。
【0180】
一方、低密度層は、微細一次粒子を含んで構成されているため、中心部と同様に、高密度層や外殻層よりも低温域において焼結が開始する。このとき、低密度層は、高密度層や外殻層と比べて体積収縮量が大きいため、低密度層を構成する微細一次粒子は、焼結の進行が遅い高密度層や外殻層の方向に体積収縮するため、高密度層と外殻層の間、あるいは、第1の高密度層と第2の高密度層の間および第2の高密度層と外殻層との間に、適度な大きさの空隙が形成される。これらの空隙は、その形状を保持するだけの径方向厚さを備えていないため、高密度層や外殻層の焼結に伴って高密度層や外殻層に吸収され、吸収された体積分が不足するため、焼成時に高密度層と外殻層が一体化しながら収縮することにより、形成された正極活物質の外殻部において、二次粒子の内部空間と外部とを連通させる貫通孔を形成する。なお、高密度層と外殻部の間(あるいは、第1の高密度層と第2の高密度層との間、および、第2の高密度層と外殻部との間)は、焼結収縮による一体化により、外殻部全体として電気的に導通する。
【0181】
このように、本発明の製造方法により得られる複合水酸化物を前駆体とする正極活物質では、外殻部全体が電気的に導通しており、かつ、その導通経路の断面積は十分に確保されているといえる。この結果、一体の外殻部として、正極活物質の内外表面を電解液との反応場として利用することが可能となり、正極活物質の内部抵抗が大幅に減少し、二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を向上させることが可能となる。
【0182】
このような正極活物質の粒子構造は、基本的に、前駆体である複合水酸化物の粒子構造に応じて定まるものであるが、その組成や焼成条件などの影響を受けることがあるため、予備試験を行った上で、所望の構造となるように、それぞれの条件を適宜調整することが好ましい。
【0183】
なお、焼成工程に用いられる炉は、特に限定されることはなく、大気または酸素気流中でリチウム混合物を焼成できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても同様である。
【0184】
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、650℃〜1000℃とすることが必要となる。焼成温度が650℃未満のときは、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られた正極活物質の結晶性が不十分になったりする場合がある。一方、焼成温度が1000℃より高いときは、正極活物質の粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
【0185】
なお、上記一般式(B1)で表される正極活物質を得ようとする場合には、焼成温度を650℃〜900℃とすることが好ましい。一方、一般式(B2)で表される正極活物質を得ようとする場合には、焼成温度を800℃〜980℃とすることが好ましい。
【0186】
また、焼成工程における昇温速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。さらに、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、より好ましくは2時間〜5時間保持することが好ましい。これにより、複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
【0187】
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも2時間とすることが好ましく、4時間〜24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりするおそれがある。
【0188】
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、33℃/分〜77℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することを防止することができる。
【0189】
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
【0190】
(4−5)解砕工程
焼成工程によって得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、正極活物質の凝集体または焼結体を物理的に解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギを加えて、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
【0191】
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
【0192】
5.非水電解質二次電池
上述の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水電解液などの、一般の非水電解質二次電池と同様の構成部材を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、非水電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0193】
(5−1)構成部材
a)正極
本発明の複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水電解質二次電池の正極を作製する。
【0194】
まず、正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、一般の非水電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部、導電材の含有量を1質量部〜20質量部および結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
【0195】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
【0196】
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0197】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂またはポリアクリル酸を用いることができる。
【0198】
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0199】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
【0200】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0201】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
【0202】
d)非水電解液
非水電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0203】
有機溶媒としては、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、
ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、
テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、およびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、
エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、
リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物など
から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0204】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0205】
なお、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0206】
(5−2)構造
以上の正極、負極、セパレータ、および非水電解液で構成される非水電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0207】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水電解質二次電池を完成させる。
【0208】
(5−3)特性
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、電池容量およびサイクル特性に優れるとともに、出力特性が従来構造よりも飛躍的に改善されている。しかも、従来のリチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質を用いた二次電池との比較においても、熱安定性や安全性において遜色はない。
【0209】
たとえば、本発明の複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を用いて、
図6に示すような2032型コイン電池を構成した場合に、150mAh/g以上、好ましくは158mAh/g以上の初期放電容量と、1.10Ω以下、好ましくは1.00Ω以下の正極抵抗と、75%以上、好ましくは80%以上の500サイクル容量維持率を同時に達成することができる。
【0210】
(5−4)用途
本発明により得られる複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、上述のように、電池容量、出力特性、およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話など)の電源に好適に利用することができる。また、前記非水電解質二次電池は、これらの特性のうち、出力特性が大幅に改善されており、かつ、安全性にも優れていることから、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける輸送用機器用の電源としても好適に利用することができる。
【実施例】
【0211】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。また、これらは本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、遷移金属含有複合水酸化物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の試料をそれぞれ使用した。また、核生成工程および粒子成長工程の実施中、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(株式会社日伸理化製、NPH−690D)により測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、それぞれの工程における反応水溶液のpH値を、工程の設定値に対して変動量を±0.2以内の範囲で制御した。
【0212】
(実施例1)
a)遷移金属含有複合水酸化物の製造
[核生成工程]
はじめに、6L反応槽内に、水を1.4L入れて撹拌しながら、槽内温度を70℃に設定した。この際、反応槽内に窒素ガスを30分間流通させ、反応槽内空間の酸素濃度を1容量%以下とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で13.1となるように調整することで反応前水溶液を形成した。
【0213】
同時に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硫酸ジルコニウムを、各金属元素のモル比がNi:Mn:Co:Zr=33.1:33.1:33.1:0.2となるように水に溶解し、2mol/Lの原料水溶液を調製した。
【0214】
次に、この原料水応液を、反応前水溶液に10ml/分の流量で供給して、反応水溶液を形成し、晶析反応によって、3分間の核生成を行った。この処理の間、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を適時供給し、反応水溶液のpH値を液温25℃基準で13.1±0.2の範囲に維持した。
【0215】
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、反応槽内へのすべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、反応槽内に37質量%硫酸を加えて、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.8となるように調整した。pH値が所定の値になったことを確認した後、原料水溶液とタングステン酸ナトリウム水溶液を供給し、核生成工程で生成した核を成長させた。
【0216】
粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後、原料水溶液の供給を継続したまま、反応槽内に37質量%硫酸を加えて反応水溶液のpH値を液温25℃基準で11.0となるように調整した(切替操作1)。
【0217】
切替操作1の開始から150分(粒子成長工程時間の全体に対して62.5%)経過後、原料水溶液の供給を継続したまま、反応槽内に25質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.8となるように調整した(切替操作2)。
【0218】
切替操作2の開始から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、再び、切替操作1を再度実施した。
【0219】
切替操作1の開始から63分(粒子成長工程時間の全体に対して26.3%)経過後、反応槽への、すべての水溶液の供給を停止して、粒子成長工程を終了した。なお、粒子成長工程において、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を適時供給し、反応水溶液のpH値を前記範囲に維持した。
【0220】
粒子成長工程の終了時において、反応水溶液中の生成物の濃度は、86g/Lであった。その後、得られた生成物を、水洗、ろ別、および乾燥させることにより、粉末状の複合水酸化物を得た。
【0221】
b)複合水酸化物の評価
[組成]
この複合水酸化物を試料として、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所島津製作所製、ICPE−9000)を用いて元素分率を計測したところ、この複合水酸化物は、一般式:Ni
0.331Mn
0.331Co
0.331Zr
0.002W
0.005(OH)
2で表されるものであることを確認した。
【0222】
[粒子構造]
複合水酸化物を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:日本電子株式会社製、JSM−6360LA)により観察したところ、この複合水酸化物は、略球状で、粒径がほぼ均一に揃った二次粒子により構成されていることが確認された。また、複合水酸化物の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって二次粒子の断面を観察可能な状態として、FE−SEMにより観察した。この結果、この複合水酸化物を構成する二次粒子は、微細一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、その中心部の外側に、板状一次粒子が凝集して形成された高密度層と、微細一次粒子が凝集して形成された低密度層とが積層した積層構造を1つ備え、その外側にさらに板状一次粒子が凝集した外殻層を有していることを確認した。
【0223】
このとき、一次粒子の平均粒径の計測および算出を行ったところ、微細一次粒子の平均粒径は0.2μmであり、板状一次粒子の平均粒径は0.5μmであった。さらに、中心部粒径比、高密度層合計粒径比、高密度層粒径比、低密度層粒径比、および外殻層粒径比についても計測および算出を行ったところ、それぞれ、67%、12.5%、8.5%、4%、および4%であった。
【0224】
[平均粒径および粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて、複合水酸化物を構成する二次粒子の平均粒径を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である[(d90−d10)/平均粒径]の値を算出した。この結果、複合水酸化物の平均粒径は、5.1μmであり、[(d90−d10)/平均粒径]の値は0.42であった。
【0225】
c)正極活物質の作製
得られた複合水酸化物に対して、熱処理工程を行い、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、120℃において、12時間熱処理して、熱処理粒子を得た。その後、混合工程として、熱処理粒子と炭酸リチウムとを、Li/Meの値が1.14となるように、混合し、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウム混合物を得た。
【0226】
次いで、このリチウム混合物に対して、焼成工程を行い、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、昇温速度を2.5℃/分で室温から950℃まで昇温し、この温度で4時間保持して焼成し、冷却速度を約4℃/分で室温まで冷却した。このようにして得た正極活物質には、凝集または軽度の焼結が生じていたため、解砕工程を実施し、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した。
【0227】
d)正極活物質の評価
[組成]
この正極活物質を試料として、ICP発光分光分析装置を用いて元素分率を計測したところ、この正極活物質は、一般式:Li
1.14Ni
0.331Mn
0.331Co
0.331Zr
0.002W
0.005O
2で表されるものであることを確認した。
【0228】
[平均粒径および粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計を用いて、この正極活物質の平均粒径を測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である[(d90−d10)/平均粒径]を算出した。この結果、この正極活物質の平均粒径は、5.3μmであり、[(d90−d10)/平均粒径]は0.43であった。
【0229】
[粒子構造]
正極活物質をFE−SEMにより観察したところ(
図2参照)、この正極活物質は、略球状で、粒径がほぼ均一に揃った二次粒子により構成されていることが確認された。また、この正極活物質の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ加工によって、粒子の断面を観察可能な状態とし、FE−SEMにより観察した(
図3参照)。この結果、この正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した略球状の二次粒子により構成されており、二次粒子の中央に内部空間(中空構造の中心部)を有し、その外側には外殻部が略球殻状に配置されている中空粒子であることを確認した。外殻部の外殻部粒径比は18%であった。また、外殻部に二次粒子の中央部に存在する内部空間と外部とを連通している、粒子の表面観察から、粒子全体の観察が可能な二次粒子において、その個数の6.5%に貫通孔が観察された。また、粒子の断面観察から貫通孔の内径(平均内径)は0.5μmであり、貫通孔内径比は、0.52であった。
【0230】
[比表面積、タップ密度、および単位体積あたりの比表面積]
この正極活物質を試料として、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ)により比表面積を、タッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS−406)によりタップ密度を、それぞれ測定した。この結果、この正極活物質の比表面積は1.51m
2/gであり、タップ密度は1.53g/cm
3であった。また、これらの測定値から得られた単位体積あたりの比表面積は、2.31m
2/cm
3であった。
【0231】
e)二次電池の作製
上記で得た正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTEE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極(1)を作製した。
【0232】
次に、この正極(1)を用いて、
図6に示す構造の2032型コイン電池(B)を、露点が−80℃に管理されたアルゴン(Ar)雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池の負極(2)には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ(3)には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、2032型コイン電池(B)は、ガスケット(4)を有し、正極缶(5)と負極缶(6)とでコイン状の電池に組み立てられたものである。
【0233】
f)電池評価
[初期放電容量]
2032型コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行ない、初期放電容量を求めた。この結果、初期放電容量は、159.4mAh/gであった。なお、初期放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0234】
[正極抵抗]
充電電位4.1Vで充電した2032型コイン電池を用いて、交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製)を使用し、
図7に示すナイキストプロットを得た。プロットは、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表れているため、等価回路を用いてフィッティング計算し、正極抵抗の値を算出した。この結果、正極抵抗は、1.035Ωであった。
【0235】
[サイクル特性]
上記充放電試験を繰り返し、初期放電容量に対する、500回目の放電容量を測定することで、500サイクル容量維持率を算出した。この結果、500サイクル容量維持率は、82.1%であることが確認された。
【0236】
上記の遷移金属含有複合水酸化物および正極活物質の作製条件、また、それらの諸特性およびそれらを用いた電池の諸性能の結果を、表1〜表4に示す。以下の実施例2〜実施例18、比較例1〜比較例9の結果も同様に、表1〜表4に示す。
【0237】
(実施例2)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から96分(粒子成長工程時間の全体に対して39.5%)経過後に行い、その後、切替操作1を、切替操作2から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.2%)経過後に行い、その後120分間(粒子成長工程時間の全体に対して49.4%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、複合水酸化物、正極活物質、および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0238】
(実施例3)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から24分(粒子成長工程時間の全体に対して10%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から150分(粒子成長工程時間の全体に対して62.5%)経過後に行い、その後、切替操作2から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、切替操作1を実施した。その後、46分間(粒子成長工程時間の全体に対して19.2%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、複合水酸化物、正極活物質、および二次電池を作製して、それらの評価を行った。
【0239】
(実施例4)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から24分(粒子成長工程時間の全体に対して10%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から96分(粒子成長工程時間の全体に対して40%)経過後に行い、その後、切替操作2から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、切替操作1を実施した。その後、100分間(粒子成長工程時間の全体に対して41.7%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、複合水酸化物、正極活物質、および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0240】
(実施例5)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から168分(粒子成長工程時間の全体に対して70%)経過後に行い、その後、切替操作2から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、切替操作1を実施した。その後、45分間(粒子成長工程時間の全体に対して18.8%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、複合水酸化物、正極活物質、および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0241】
(実施例6)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から24分(粒子成長工程時間の全体に対して10%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から60分(粒子成長工程時間の全体に対して25%)経過後に行い、その後、切替操作2から36分(粒子成長工程時間の全体に対して15%)経過後、切替操作1を実施した。その後、120分間(粒子成長工程時間の全体に対して50%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0242】
(実施例7)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から12分(粒子成長工程時間の全体に対して5%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から144分(粒子成長工程時間の全体に対して60%)経過後に行い、その後、切替操作2から12分(粒子成長工程時間の全体に対して5%)経過後、切替操作1を実施した。その後、72分間(粒子成長工程時間の全体に対して30%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0243】
(実施例8)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から120分(粒子成長工程時間の全体に対して50%)経過後に行い、その後、切替操作2から36分(粒子成長工程時間の全体に対して15%)経過後、切替操作1を実施した。その後、77分間(粒子成長工程時間の全体に対して32.1%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0244】
(実施例9)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して3%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から120分(粒子成長工程時間の全体に対して52.4%)経過後に行い、その後、切替操作2から18分(粒子成長工程時間の全体に対して7.9%)経過後、切替操作1を実施した。その後、33分間(粒子成長工程時間の全体に対して14.4%)晶析反応を継続し、さらに、その後、切替操作1から18分(粒子成長工程時間の全体に対して7.9%)経過後に、切替操作2を行い、その後、切替操作2から33分(粒子成長工程時間の全体に対して14.4%)経過するまで、晶析反応を継続した。この操作以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。
【0245】
(比較例1)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、その後233分間(粒子成長工程時間の全体に対して97.1%)晶析反応を終了するまで継続したこと以外は、実施例1と同様とし、複合水酸化物を作製し、その評価を行った。
図4および
図5に、比較例1で得られた複合水酸化物の表面および断面と、正極活物質の表面および断面のFE−SEM像をそれぞれ示す。
【0246】
(比較例2)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から72分(粒子成長工程時間の全体に対して30%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から120分(粒子成長工程時間の全体に対して50%)経過後に行い、その後、切替操作2から3分(粒子成長工程時間の全体に対して1.25%)経過後、切替操作1を実施した。その後、45分間(粒子成長工程時間の全体に対して18.75%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。なお、得られた正極活物質において、その二次粒子の粒子構造は、貫通孔のない中空構造であった。
【0247】
(比較例3)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から96分(粒子成長工程時間の全体に対して40%)経過後に行い、その後、切替操作2から96分(粒子成長工程時間の全体に対して40%)経過後、切替操作1を実施した。その後、41分間(粒子成長工程時間の全体に対して17.1%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。なお、得られた正極活物質において、その二次粒子の粒子構造は、貫通孔のない中空構造であった。
(比較例4)
粒子成長工程において、切替操作1を、粒子成長工程の開始時から7分(粒子成長工程時間の全体に対して2.9%)経過後に行い、切替操作2を、切替操作1から15分(粒子成長工程時間の全体に対して6.3%)経過後に行い、その後、切替操作2から20分(粒子成長工程時間の全体に対して8.3%)経過後、切替操作1を実施した。その後、198分間(粒子成長工程時間の全体に対して82.5%)晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様とし、遷移金属含有複合水酸化物、正極活物質および二次電池を作製し、それらの評価を行った。なお、得られた正極活物質において、その二次粒子の粒子構造は、貫通孔のない中空構造であった。
【0248】
【表1】
【0249】
【表2】
【0250】
【表3】
【0251】
【表4】