(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6862832
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】高分子化合物の溶解確認方法及び高分子化合物の分子量測定方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/02 20060101AFI20210412BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20210412BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
C08J3/02 Z
G01N33/44
G01N1/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-313(P2017-313)
(22)【出願日】2017年1月5日
(65)【公開番号】特開2017-145389(P2017-145389A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年9月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-28591(P2016-28591)
(32)【優先日】2016年2月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】寺本 拓男
【審査官】
芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−168133(JP,A)
【文献】
特開2005−105018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
G01N 1/00−1/44
G01N 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物が溶媒に完全溶解しているかを判断するための高分子化合物の溶解確認方法であって、
前記高分子化合物と前記溶媒の重量を量る秤量工程と、
前記高分子化合物と前記溶媒とを混合した後、混合物をろ過する混合ろ過工程と、
前記ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する溶媒除去工程と、
前記揮散除去後に乾固した残留物の重量を測定し、測定結果に基づいて前記高分子化合物の溶解率を算出する溶解率算出工程とを有し、
前記溶媒はクロロホルム又はテトラヒドロフランである高分子化合物の溶解確認方法。
【請求項2】
前記高分子化合物は前記溶媒中で透明となる請求項1に記載の高分子化合物の溶解確認方法。
【請求項3】
前記溶解率が95%以上100%以下の場合に完全溶解していると判断する請求項1又は請求項2に記載の高分子化合物の溶解確認方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは、窒素ガスである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の高分子化合物の溶解確認方法。
【請求項5】
前記高分子化合物に対して加熱を行わない請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の高分子化合物の溶解確認方法。
【請求項6】
高分子化合物の分子量を正確に測定するための高分子化合物の分子量測定方法であって、
前記高分子化合物と溶媒の重量を量る秤量工程と、
前記高分子化合物と前記溶媒とを混合した後、混合物をろ過する混合ろ過工程と、
前記ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する溶媒除去工程と、
前記揮散除去後に乾固した残留物の重量を測定し、測定結果に基づいて前記高分子化合物の溶解率を算出する溶解率算出工程と、
前記溶解率算出工程で完全溶解していることが確認された高分子化合物に対して、前記高分子化合物の分子量を測定する分子量測定工程を有し、
前記分子量測定工程では、液体クロマトグラフにより前記高分子化合物の分子量を測定する高分子化合物の分子量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の溶解確認方法及び高分子化合物の分子量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物の性状調査を行うにあたっては、高分子化合物そのものを調査する手法と良溶媒に完全溶解した溶液を調査する手法がある。
【0003】
高分子化合物を溶媒に溶解させる場合、高分子化合物を完全溶解させる良溶媒としては、通常クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン、メタノール、エタノール及び水等が用いられる。
【0004】
良溶媒の選定は、高分子化合物の構成単位や官能基から推定できる場合があるが、通常複数の溶媒に溶解して良溶媒を選定する。その際、高分子化合物が選択した溶媒に完全に溶解しているか否かを確認する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、実施例において、アニオン性高分子重合体を水に添加して撹拌した後、300mesh(50μm)のふるいでろ過し、125℃で6時間以上乾燥させた後に秤量することでアニオン性高分子重合体の不溶解分を算出する不溶解分の測定法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、実施例において、(共)重合体を0.1%塩化ナトリウム溶液に加えて撹拌した後、100μmのステンレス製金網にて溶液をろ過し、120℃の恒温槽で2時間乾燥させた後に秤量することで(共)重合体の不溶解分を算出するための測定法が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、実施例において、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて6時間加熱還流してトナー中の可溶な成分を抽出し、抽出液から溶媒を除去してTHF可溶成分を100℃で24時間乾燥して秤量することによりテトラヒドロフラン不溶解分を測定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−236202号公報
【特許文献2】特開2003−251107号公報
【特許文献3】特開2007−052274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3では、不溶解分の測定の過程において加熱を行っているため、熱変性高分子化合物などには適用できない。特許文献1〜3には、熱変性高分子化合物にも適用可能な不溶解分の測定方法については記載されていない。
【0010】
また、完全溶解しているかどうかは、溶液の透明度を目視によって確認することが一般的であるが、例えば、溶媒中で透明となる高分子化合物は目視では困難な場合があり、完全溶解したか確認ができない。特許文献1〜3には、この点についても記載されていない。
【0011】
そこで、本発明は、このような従来の事情に鑑み、高分子化合物を熱変性させることなく、簡便かつ定量的に完全溶解しているかを判断することができ、精度の高い高分子化合物の溶解確認方法及び高分子化合物の分子量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、高分子化合物が溶媒に完全溶解しているかを判断するための高分子化合物の溶解確認方法であって、高分子化合物と溶媒の重量を量る秤量工程と、高分子化合物と溶媒とを混合した後、混合物をろ過する混合ろ過工程と、ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する溶媒除去工程と、揮散除去後に乾固した残留物の重量を測定し、測定結果に基づいて高分子化合物の溶解率を算出する溶解率算出工程とを有
し、溶媒はクロロホルム又はテトラヒドロフランである。
【0013】
本発明の一態様によれば、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去するため、高分子化合物を加熱する必要がなく、溶解率を算出することで簡便かつ定量的に高分子化合物が完全溶解しているかを判断することができる。
【0014】
このとき、本発明の一態様では、高分子化合物は溶媒中で透明となっても良い。
【0015】
目視では溶解したか否かが判別困難な溶媒中で透明となる高分子化合物であっても、本発明の一実施形態に係る高分子化合物の溶解確認方法を適用することにより、完全溶解したかを確実に判別することができる。
【0016】
また、本発明の一態様では、溶解率が95%以上100%以下の場合に完全溶解していると判断しても良い。
【0017】
完全溶解であるので溶解率は100%であることが望ましいが、5%未満の差であれば許容される。
【0018】
また、本発明の一態様では、不活性ガスは、窒素ガスであっても良い。
【0019】
不活性ガスの中では、窒素ガスが安価で取り扱いも容易であることから好ましい。
【0022】
また、本発明の一態様では、高分子化合物に対して加熱を行わなくても良い。
【0023】
本発明では、加熱を行う必要がないため、例えば、熱変性する高分子化合物に対しても適用することができる。
【0024】
本発明の他の態様は、高分子化合物の分子量を正確に測定するための高分子化合物の分子量測定方法であって、
高分子化合物と溶媒の重量を量る秤量工程と、高分子化合物と溶媒とを混合した後、混合物をろ過する混合ろ過工程と、ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する溶媒除去工程と、揮散除去後に乾固した残留物の重量を測定し、測定結果に基づいて高分子化合物の溶解率を算出する溶解率算出工程と、溶解率算出工程で完全溶解していることが確認された高分子化合物に対して、高分子化合物の分子量を測定する分子量測定工程を
有し、分子量測定工程では、液体クロマトグラフにより高分子化合物の分子量を測定する。
【0025】
本発明の一実施形態に係る高分子化合物の溶解確認方法で完全溶解していることを確認した高分子化合物の分子量を測定することで、精度の高い分子量の測定が可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一実施形態によれば、高分子化合物を熱変性させることなく、簡便かつ定量的に完全溶解しているかを判断することができ、精度の高い高分子化合物の溶解確認方法及び高分子化合物の分子量測定方法を提供することができる。また、本発明の一実施形態は、高分子化合物が溶媒中で透明となるものであっても正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法のプロセスの概略を示す工程図である。
【
図2】溶媒除去工程において、不活性ガスにより溶媒を揮発除去させる際の概略図である。
【
図3】比較例1における高分子化合物Bと、溶媒除去工程後の容器壁面残渣物との赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【
図4】比較例2における高分子化合物Cと、溶媒除去工程後の容器壁面残渣物との赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.高分子化合物の溶解確認方法
1−1.秤量工程
1−2.混合ろ過工程
1−3.溶媒除去工程
1−4.溶解率算出工程
2.高分子化合物の分子量測定方法
2−1.分子量測定工程
【0031】
<1.高分子化合物の溶解確認方法>
図1に、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法のプロセスの概略を示す。本発明の一実施形態は、高分子化合物が溶媒に完全溶解しているかを判断するための高分子化合物の溶解確認方法であって、高分子化合物と溶媒の重量を量る秤量工程S1と、高分子化合物と溶媒とを混合した後、混合物をろ過する混合ろ過工程S2と、ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する溶媒除去工程S3と、揮散除去後に乾固した残留物の重量を測定し、測定結果に基づいて高分子化合物の溶解率を算出する溶解率算出工程S4とを有する。
【0032】
このように、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去することで、高分子化合物を加熱する必要がなく、溶解率を算出することで簡便かつ定量的に高分子化合物が完全溶解しているかを判断することができる。以下、各工程を順にそれぞれ説明する。
【0033】
(1−1.秤量工程)
秤量工程S1では、高分子化合物を容器に分取し、分取した重量を量り取る。容器の重量を差し引いておくことで高分子化合物の重量値を得る。次に、秤量工程S1では、高分子化合物を量り取った容器に溶媒を添加する。添加する溶媒の重量は予め量っておいてもよいし、高分子化合物に溶媒を加えた際の溶液の重量を量り取ってもよい。
【0034】
高分子化合物の種類は特に限定はされない。本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法では、熱変性する高分子化合物であっても適用することができる。また、溶媒を含んで透明なゲル状となるような、溶媒中で透明となる高分子化合物であって、目視では溶解したか否かの判別が困難であるような高分子化合物であっても、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法を適用することができる。
【0035】
本発明で用いる溶媒としては、高分子化合物を溶解する事ができ、後述する不活性ガスを用いたパージによって揮散除去できるものであれば種々のものを使用することができる。例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン、メタノールおよびエタノール等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、溶媒にはこれらを2種類以上混合して用いてもかまわない。無極性溶媒であるクロロホルムや極性溶媒であるテトラヒドロフラン等が好ましく用いられる。
【0036】
秤量工程S1では、高分子化合物と溶媒の重量を量り取っておくことにより、次の(式1)により、高分子化合物濃度を算出しておく。
高分子化合物濃度(重量%)
=(高分子化合物重量(g)/(高分子化合物重量(g)+溶媒重量(g)))×100
・・・(式1)
【0037】
(1−2.混合ろ過工程)
混合ろ過工程S2では、混合することにより溶媒に高分子化合物を溶解させる。混合方法としては、振り混ぜて溶解させればよいが、スターラー等を用いて撹拌することで混合してもよい。
【0038】
次に、混合ろ過工程S2では、混合物をろ過する。高分子化合物溶液に不溶解分があった場合、このろ過の工程でフィルターに不溶解分の高分子化合物が残留することになる。ろ過の方法は特に限定されず、不溶解分である高分子化合物があった場合に完全に除去できるものであればよい。例えば、口径0.2μmのカートリッジ型フィルターのような細かい目のフィルターを用いてろ過することが好ましい。
【0039】
(1−3.溶媒除去工程)
溶媒除去工程S3では、ろ過した溶液の一部を分取し、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去する。なお、分取した溶液についてはその重量を秤量しておく。
図2に不活性ガスにより溶媒を揮発除去させる際の概略図を示すが、このように、溶液が入った容器内に不活性ガスを導入することにより、有機溶媒の揮発を促し、溶媒を揮散除去することができる。
【0040】
パージに用いる不活性ガスは、溶液中の高分子と反応しないものであれば特に限定されない。例えば、ヘリウムやアルゴン等の希ガスや、窒素ガス等が挙げられるが、安価で取り扱いも容易であることから窒素ガスを用いることが好ましい。溶媒除去工程S3では、このような不活性ガスによるパージにより高分子溶液から溶媒を完全に揮散除去する。
【0041】
不活性ガスによるパージの一例としては、10mlまたは20mlのスクリュー管ビン(ネジ口ガラス瓶)を用い、不活性ガスとして窒素ガスを流量約300ml/分で4時間パージを行う。
【0042】
このように、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法では、不活性ガスを用いたパージにより溶媒を揮散除去するため、高分子化合物を加熱する必要がなく、高分子化合物の熱変性が起こることがない。
【0043】
(1−4.溶解率算出工程)
溶解率算出工程S4では、溶媒除去工程S3で乾固させた残留物の重量を測定する。次に、溶解率算出工程S4では、残留物重量(g)と、上記(式1)で求めた高分子化合物濃度(重量%)から次の(式2)に従って溶解率(%)を算出する。
溶解率(%)=
(残留物重量(g)/(高分子化合物濃度(重量%)/100)×ろ液分取量(g))
×100 ・・・(式2)
【0044】
高分子化合物が溶媒に完全溶解している場合には、高分子化合物濃度から求めたろ液分取量中の高分子化合物の重量と残留物重量の値は一致するため、完全溶解している溶液なら溶解率(%)は100%となる。したがって、溶解率算出工程S4では溶解率が100%の場合に、高分子化合物が溶媒に完全溶解していると判断する。
【0045】
なお、実際には、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法の各工程において多少の測定誤差が生じることも予想されるため、溶解率が95%以上100%以下の場合に完全溶解していると判断しても良い。完全溶解であるので溶解率は100%であることが望ましいが、5%未満の差であれば許容される。
【0046】
また、溶解率算出工程S4において、算出された溶解率が100%を大きく下回っている場合(例えば、95%未満の場合)には、完全溶解ではなく、高分子化合物の不溶解分があると判断する。この場合には、溶媒の再選択を含め、条件について再検討を行うことが考えられる。
【0047】
このように、本発明の一実施形態に係る高分子化合物の溶解確認方法によれば、加熱の操作は必要ないため、高分子化合物を熱変性させることなく、簡便かつ定量的に完全溶解しているかを判断することができる。また、目視では溶解しているか否かの判別が困難な高分子化合物が溶媒中で透明となるものであっても正確に判断することができる。
【0048】
<2.高分子化合物の分子量測定方法>
本発明の他の態様は、高分子化合物の分子量を正確に測定するための高分子化合物の分子量測定方法であって、上述した高分子化合物の溶解確認方法で完全溶解していることが確認された高分子化合物に対して、高分子化合物の分子量を測定する分子量測定工程を更に有する高分子化合物の分子量測定方法である。
【0049】
高分子化合物の分子量を測定するにあたって、高分子化合物を溶媒に溶解させるが、この際に不溶解分があると正確な分子量測定を行うことができなくなる。特に、高分子化合物が溶媒中で透明となるものの場合、溶媒に溶解しているかを目視で確認することは困難である。したがって、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法で完全溶解していることを確認した高分子化合物の分子量を測定することで、精度の高い分子量の測定が可能になる。
【0050】
(2−1.分子量測定工程)
分子量測定工程では、上述した高分子化合物の溶解確認方法で完全溶解していることが確認された高分子化合物に対して、高分子化合物の分子量を測定する。分子量を測定する方法としては、特に限定はされないが、例えば、液体クロマトグラフ法が用いられる。
【0051】
液体クロマトグラフ法では、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が用いられる。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は分子の大きさに基づく分離方法であり、試料である高分子化合物を有機溶媒(テトラヒドロフラン等)に溶解して注入するだけで、簡便に合成した高分子化合物の分子量測定ができる。この時、高分子化合物溶液において不溶解分があると正確な分子量の測定が行えなくなるため、本発明の一実施の形態に係る高分子化合物の溶解確認方法において、完全溶解していることを確認することが重要となる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
[高分子化合物の溶解確認方法]
(実施例1)
実施例1では、合成された高分子化合物Aを量り取り容器に入れた(秤量工程S1)。秤量には天秤(メトラートレド製 AB204−S)を使用した。この容器内に高分子化合物が10重量パーセント濃度になるようにテトラヒドロフラン(和光純薬製)を添加して、振り混ぜて溶解させた。また、溶液の高分子化合物の重量パーセント濃度を算出した。混合物は、カートリッジ型フィルター(関東化学製PTFE0.2μm)でろ過した(混合ろ過工程S2)。
【0054】
この溶液の一部を分取してあらかじめ秤量した容器に入れ、重量を量り取った。この溶液を窒素パージによって溶媒を揮散除去し(溶媒除去工程S3)、残留物の重量を秤量した。残留物の重量と分取した溶液の重量および高分子化合物の重量パーセント濃度から、高分子化合物の溶解率を算出した(溶解率算出工程S4)。表1に溶解率と溶解の判定結果を示した。溶解率はほぼ100%で、完全溶解していることが分かった。
【0055】
(実施例2)
実施例2では、溶媒としてクロロホルム(和光純薬製)を使用した以外は高分子化合物Aを実施例1と同様の方法で分析を行った。表1に溶解率と溶解の判定結果を示した。溶解率は実施例1と同じ100%で完全溶解していることが分かった。実施例1、2の結果より、高分子化合物Aは、テトラヒドロフランとクロロホルムのいずれにも完全溶解するものであることが分かった。
【0056】
(比較例1)
比較例1では、実施例とは別の合成された高分子化合物Bについて、実施例1と同様の方法で分析を行った。表1に溶解率と溶解の判定結果を示した。溶解率は85%であり、100%を下回っており、溶解の判定結果は不溶解分があることが分かった。すなわち、高分子化合物Bはテトラヒドロフランには完全溶解していないことが分かった。
【0057】
また、
図3に高分子化合物Bと、溶媒除去工程後の容器壁面残渣物との赤外線吸収スペクトルを示した。ここで、縦軸は透過率(%)であり、横軸は無次元化された波数で、測定時の波数を所定の波数で除した値である。
図3に示すように、容器壁面に残存した成分の赤外吸収スペクトルは高分子化合物Bの赤外吸収スペクトルと一致したことから、容器壁面の残存成分は高分子化合物Bが溶け残ったものと判明した。
【0058】
(比較例2)
比較例2では、高分子化合物Cを実施例2と同様の方法で分析を行った。表1に溶解率と溶解の判定結果を示した。溶解率は87%であり、100%を下回っており、溶解の判定結果は不溶解分があることが分かった。すなわち、高分子化合物Cはクロロホルムには完全溶解していないことが分かった。
【0059】
また、
図4に高分子化合物Cと、溶媒除去工程後の容器壁面残渣物との赤外線吸収スペクトルを示した。ここで、縦軸は透過率(%)であり、横軸は無次元化された波数で、測定時の波数を所定の波数で除した値である。
図4に示すように、容器壁面に残存した成分の赤外吸収スペクトルは高分子化合物Cの赤外吸収スペクトルと一致したことから、容器壁面の残存成分は高分子化合物Cが溶け残ったものと判明した。
【0060】
【表1】
【0061】
[高分子化合物の分子量測定方法]
溶媒に完全溶解していることが確認できた高分子A〜Cについて分子量を測定した。なお、高分子B(比較例1)及び高分子C(比較例2)については、本発明に係る高分子化合物の溶解確認方法により、比較例1及び比較例2の条件では不溶解分が生じることが判明したため、溶解させる条件を変更し、再度完全溶解していることを確認した後に測定を行った。
【0062】
本発明に係る高分子化合物の溶解確認方法により、完全溶解していることを確認した高分子溶液A〜Cを口径0.2μmのカートリッジ型フィルターでそれぞれろ過した。得られたろ液について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
このように、本発明の一実施形態に係る高分子化合物の溶解確認方法を適用した後に分子量を測定することにより、不溶解分による測定誤差の発生を防止し、正確な高分子量の測定を行うことができる。