(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記液面測定部により所定期間に複数回測定された前記液面位置の情報から最大値と最小値との差分を算出し、前記差分を前記被撹拌物の波立ちの振幅として用いる、
請求項4に記載の撹拌装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
[第1実施形態]
図1〜
図3を参照して第1実施形態を説明する。まず
図1を参照して、第1実施形態に係る撹拌装置1の概略構成について説明する。
図1に示す撹拌装置1は、液体原料などの被撹拌物(スラリー)を撹拌するための装置である。撹拌装置1は、例えば、ホモジナイザーを用いて金属粉等を微細化する工程に用いる受け払い容器として適用される。ここで、ホモジナイザーとは、原料を高圧もしくは超高圧に加圧し、オリフィスを抜ける際のせん断力を利用して粉砕、分散等を行う装置である。以下では、
図1の上方及び下方を、それぞれ装置の上方及び下方として説明する。
【0015】
図1に示すように、撹拌装置1は、容器2と、容器内にある被撹拌物Sを撹拌する撹拌部3と、容器内にある被撹拌物Sの液面の位置を測定する液面測定部4と、液面測定部4の検出値より撹拌部3の回転数を制御する制御装置5とを備える。
【0016】
容器2は、被撹拌物Sを保持する容器である。被撹拌物Sは、特に限定はないが、金属粉やセラミック粉と溶剤を混合したスラリー等である。特に、金属粉等、溶剤に対して比重の大きいものについては、常時撹拌が必要である。容器2には、被撹拌物Sを排出する排出口2Aと、被撹拌物Sを供給する供給口2Bとが設置されている。例えば、
図1に示すように、排出口2Aは容器2の下部に設けられ、供給口2Bは容器2の上部(好ましくは被撹拌物Sの液面より上方)に設けられる。容器2内では、供給口2Bより被撹拌物Sが供給されて、撹拌された後、撹拌された被撹拌物Sは排出口2Aより排出される。このため、容器2内の被撹拌物Sの量は変化する。なお、容器2の供給口2Bまたは排出口2Aは、複数であっても良い。容器2は、工程の間に被撹拌物Sを一時的に保管するための容器として用いても良いし、複数回同一の工程を繰り返し行うための保管容器として用いても良い。
【0017】
また、容器2の上部には、被撹拌物Sが飛散しないように蓋部2Cが取り付けられている。この蓋部2Cには、例えばガラス製の透過性の窓部2Dが設けられている。
【0018】
撹拌部3は、容器2内の被撹拌物Sを撹拌する機構である。撹拌部3の先端には、撹拌羽根3Aが設置されている。撹拌羽根3Aは、容器2内の被撹拌物Sと直接接触し、回転により被撹拌物Sを撹拌する。撹拌羽根3Aの形状は特に限定はないが、プロペラ形状、枠形状等を用いる。撹拌羽根3Aは、モーター等の駆動源と、駆動源から出力される動力を伝達する駆動軸とを含む駆動部3Bにより回転駆動される。また、撹拌羽根3Aは、容器2の下部付近に配置される。容器内の被撹拌物Sの量が少なくなっても撹拌できるようにするためである。
【0019】
液面測定部4は、容器2内に入っている被撹拌物Sの液面の位置を検出する。液面測定部4は、本実施形態では光学式センサである。液面測定部4が光学式センサであると、液面の上方に設置することができ、被撹拌物Sと直接接触する必要がないため、測定に被撹拌物の流動等の影響を受けることが少ない。また、光学式センサは、短時間で複数回の測定をすることが可能であり、高精度な測定が可能である。本実施形態では、液面測定部4は、容器2の外部上方、かつ、容器2の蓋部2Cの窓部2Dの直上に設置され、透過性の窓部2Dを介して容器2内の被撹拌物Sの液面を計測できるように設置されている。
【0020】
なお、液面測定部4は、液面の高さ位置を測定できれば光学式センサ以外のものを用いることもできる。例えば超音波センサなど光以外の波を利用して液面との距離を検出する他のセンサを用いてもよいし、フロートスイッチや水圧センサなど被撹拌物Sに直接接触するものでもよい。
【0021】
制御装置5は、撹拌部3の動作を制御する。特に本実施形態では、制御装置5は、液面測定部4により測定される被撹拌物Sの液面位置の情報に基づき、被撹拌物Sの液面の波立ち強度を算出し、波立ち強度に基づき被撹拌物Sの波立ちを抑制するよう撹拌部3の回転数を制御する。
【0022】
制御装置5は、波立ち強度を算出する演算部5Aと、撹拌部3を制御する制御部5Bとを有する。制御装置5は、より詳細には、演算部5Aにより算出される被撹拌物Sの波立ち強度が大きいほど、撹拌部3の回転数を低減させ、これにより被撹拌物Sの波立ちを抑制できるよう構成されている。制御部5Bは、例えば撹拌部3の回転数を複数の設定速度に切り替えることができる。第1実施形態では、「波立ち強度」を示す具体的な情報として、被撹拌物Sの波立ちの振幅Aを用いる。
【0023】
制御装置5は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有するコンピュータである。制御装置5の演算部5A及び制御部5Bの各機能の全部または一部は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0024】
次に
図2及び
図3を参照して、第1実施形態に係る撹拌装置1の動作について説明する。
図2は、第1実施形態に係る撹拌装置1により実施される撹拌部3の回転数制御のフローチャートである。
図3は、被撹拌物Sの波立ちの振幅Aの算出手法の一例を示す図である。
図2に示すフローチャートは、例えば所定時間ごとに定期的に実施される。以下、
図2のフローチャートの手順に従って説明する。
【0025】
ステップS11では、液面測定部4により容器2内の被撹拌物Sの液面の位置が測定される。上述のように本実施形態では、液面測定部4は容器2の上方に設置される光学式センサである。液面測定部4は、例えば1秒間に10回など、所定期間内で液面位置を複数回測定する。ステップS11の処理が完了するとステップS12に進む。
【0026】
ステップS12では、制御装置5の演算部5Aにより、ステップS11にて測定された複数の液面位置データを用いて、容器2内の被撹拌物Sの液面の波立ち振幅Aが算出される。演算部5Aは、例えば
図3に示すように、液面測定部4により測定された所定期間の複数回の液面位置データのうち、最大値Xmaxと最小値Xminとの差分を波立ち振幅Aとして算出することができる。または、演算部5Aは、複数回の液面位置データのバラツキ度合(例えば分散値)を波立ち振幅Aとして算出することもできる。ステップS12の処理が完了するとステップS13に進む。
【0027】
ステップS13では、制御装置5の制御部5Bにより、ステップS12にて算出された被撹拌物Sの波立ち振幅Aが所定の閾値を超えているか否かが判定される。
【0028】
ステップS13にて振幅Aが閾値より大きいと判定された場合には、波立ち強度が許容範囲を超えているため、ステップS14にて撹拌部3の回転数が1段階低速に下げられ、波立ちが抑制される。なお、現在の回転数より低速側の設定が無く、現在の回転数が最も低速である場合には、撹拌部3の動作を停止してもよい。ステップS14の処理が完了すると本制御フローを終了する。
【0029】
一方、ステップS13にて振幅Aが閾値以下と判定された場合には、撹拌部3の現在の回転数を維持して本制御フローを終了する。
【0030】
なお、撹拌部3の回転数制御が、上記のように多段階の切り替え式ではなく、インバーター等を使用して無段階で行う構成の場合には、上記のステップS13,S14の代わりに、波立ちの振幅Aの大きさに応じて回転数を連続的に調整する構成とすることもできる。この場合、例えば振幅Aが大きくなるに従い、回転数を下げる方向に制御する。
【0031】
ここで、容器2内の被撹拌物Sの液面位置が、撹拌部3の撹拌羽根3Aが液面から露出する程度まで減少した場合、撹拌部3の回転数を落としても被撹拌物Sが飛び跳ねる場合がある。このような状況を回避すべく、制御装置5は、
図2のフローチャートで説明した処理に加えて、さらに、被撹拌物Sが撹拌部3の撹拌羽根3Aが露出しない位置で撹拌の回転を止める制御を追加することもできる。例えば、液面測定部4の測定値の一定の期間の液面位置の平均値を用いることで、被測定物Sに波立ちがあったとしても液面位置を算出することができる。この平均値を使用することで、撹拌部の撹拌のON−OFFを管理する。例えば、平均値が所定値を下回ったときに、撹拌羽根3Aが露出するまで被撹拌物Sが減少したと判定して、撹拌をOFF状態(撹拌部3停止)とする。なお、撹拌OFFとする被撹拌物Sの位置は、撹拌羽根3Aの形状等により適宜設定することができる。
【0032】
また、容器2内の被撹拌物Sの液面位置の高低、すなわち被撹拌物Sの量の大小に応じて、制御装置5が下げることができる撹拌部3の最低回転数を変更してもよい。例えば、被撹拌物Sの量が多い場合には、最低回転数を相対的に大きく設定することで、撹拌性能を確保できる。
【0033】
なお、
図2のフローチャートでは、被撹拌物Sの波立ち振幅Aが閾値を超えたときに撹拌部3の回転数を1段階下げる構成のみを例示したが、これに加えて、振幅Aが微小な状態、すなわち波立ちが小さい状態が継続しているときには、撹拌部3の回転数を1段階上げて高速に切り替える構成としてもよい。
【0034】
次に、第1実施形態に係る撹拌装置1の効果について説明する。
【0035】
まず
図1に示す撹拌装置1の従来の制御手法とその問題点について説明する。
図1の撹拌装置1では、容器2内の被撹拌物Sが排出口2Aより排出され、また、供給口2Bから被撹拌物Sが容器2に注入されるため、容器2内の被撹拌物Sの液面位置は変動する。一般に、容器2内の被撹拌物Sの量が少なくなり、被撹拌物Sの液面が下がって撹拌部3の撹拌羽根3Aに近くなるに従い、液面の波立ちが大きくなる。この波立ちを抑制すべく、従来、被撹拌物Sの液面が降下するに従い、制御装置5は、撹拌部3の撹拌羽根3Aの回転数を下げる方向に制御していた。
【0036】
ここで、撹拌装置1を、ホモジナイザーを用いて金属粉等を微細化する工程の受け払い容器に適用する場合、上述のとおり、ホモジナイザーによる粉砕は5回から30回程度繰り返し行われ、容器2内のスラリー(被撹拌物S)の粒径は工程の最初と最後で変化してスラリーの特性も変化する。スラリーの特性が変化するとスラリーの粘度も変わるため、撹拌羽根3Aと被撹拌物Sの液面との位置関係が同一であっても波立ちの挙動が異なるものとなる。例えば、工程が進んでスラリーの粘度が小さくなると波立ちが大きくなり、その反対に粘度が大きくなると波立ちが小さくなる傾向がある。
【0037】
また、工程中における同一スラリーの特性変化の他にも、容器2に供給する被撹拌物Sの種類を変えた場合にも同様の傾向がある。例えば、容器2の供給口2Bが複数あり、粘度の違う別種の被撹拌物Sが容器2に供給されたり、排出口2Aから排出された被撹拌物Sが加工されて再び供給口2Bより容器2に供給され、被撹拌物Sの特性に変化があったりした場合は、同じ液面高さであっても、波立ちの大きさが変わることがある。
【0038】
このように、容器2内の被撹拌物Sの特性や種類などの変化によって、被撹拌物Sの波立ちの傾向が異なり、液面高さと撹拌による被撹拌物Sの飛散度合との関係が変わってしまうので、従来の液面高さに基づく撹拌部3の回転数制御では、撹拌中の被撹拌物Sの飛散を十分に抑制できない場合があった。
【0039】
これに対して第1実施形態の撹拌装置1は、容器2と、容器2内の被撹拌物Sを撹拌する撹拌部3と、被撹拌物Sの液面位置を測定する液面測定部4と、液面測定部4により測定される液面位置の情報に基づき被撹拌物Sの液面の波立ち強度を算出し、波立ち強度に基づき被撹拌物Sの波立ちを抑制するよう撹拌部3の回転数を制御する制御装置5と、を備える。
【0040】
同様に、第1実施形態に係る制御装置5は、容器2と、容器2内の被撹拌物Sを撹拌する撹拌部3と、被撹拌物Sの液面位置を測定する液面測定部4と、を備える撹拌装置1の動作を制御するものである。制御装置5は、液面測定部4により測定される液面位置の情報に基づき被撹拌物Sの液面の波立ち強度を算出する演算部5Aと、波立ち強度に基づき被撹拌物Sの波立ちを抑制するよう撹拌部3の回転数を制御する制御部5Bと、を有する。
【0041】
これらの構成により、容器2内の被撹拌物Sの撹拌による波立ち強度を判断基準として、波立ちを抑制するよう撹拌部3の回転数を制御するので、容器2内の被撹拌物Sの特性や種類などの変化によって、被撹拌物Sの波立ちの傾向が変動したとしても、撹拌部3の回転数を適切に設定することができ、撹拌中の被撹拌物Sの波立ちを確実に抑制できる。したがって、第1実施形態の撹拌装置1及び、この撹拌装置1の動作を制御する制御装置5は、被撹拌物Sの種類の変更や工程内での被撹拌物Sの特性の変化に対しても、撹拌中の被撹拌物Sの飛散を安定して抑制できる。さらに、被撹拌物Sの波立ちを抑制できると、被撹拌物Sの液面状態が安定するため、液面測定が容易且つ正確になる。
【0042】
また、第1実施形態の撹拌装置1において、制御装置5は、波立ち強度が大きいほど撹拌部3の回転数を低減させる。この構成により、撹拌部3の回転数低減によって被撹拌物Sの波立ちが弱まるので、被撹拌物Sの波立ちをより一層確実に抑制できる。
【0043】
また、第1実施形態の撹拌装置1において、回転数制御の判断基準として用いる被撹拌物Sの「波立ち強度」とは、被撹拌物Sの波立ちの振幅Aである。振幅Aは波立ち強度と密接に関連するので、振幅Aを用いることで波立ち強度を的確に把握することができ、撹拌部3の回転数制御を高精度に行うことができる。
【0044】
また、第1実施形態の撹拌装置1において、制御装置5は、液面測定部4により所定期間に複数回測定された液面位置の情報から最大値Xmaxと最小値Xminとの差分を算出し、差分を被撹拌物Sの波立ちの振幅Aとして用いる。この構成により、例えば液面位置の現在値と前回値との差分など波立ち振幅を瞬時値で算出する場合と比較して、算出する振幅Aの時間推移を平滑化できるので、この振幅Aに基づく撹拌部3の回転数制御の制度を向上できる。
【0045】
また、第1実施形態の撹拌装置1において、液面測定部4は、被撹拌物Sの液面の上方から液面位置を測定する光学式センサである。この構成により、液面測定部4を被撹拌物Sと直接接触させる必要がなくなり、測定に被撹拌物Sの流動等の影響を受けることを回避できる。また、光学式センサは短時間で複数回の測定を行うことができるので、単位時間当たりの測定データ数を増やすことができ、高精度な測定が可能となる。
【0046】
また、第1実施形態の撹拌装置1において、撹拌部3は、回転により被撹拌物Sを撹拌する撹拌羽根3Aと、この撹拌羽根3Aを回転駆動させる駆動部3Bと、を有する。この構成により、被撹拌物Sを効率良く容器2内で撹拌することができる。
【0047】
[第2実施形態]
図4及び
図5を参照して第2実施形態を説明する。第2実施形態は、制御装置5により実施される撹拌部3の回転数制御が第1実施形態と異なる。
【0048】
第2実施形態では、制御装置5は、被撹拌物Sの液面位置が閾値より低くなったときに撹拌部3の回転数を低減させる第1制御を実施し、さらに、演算部5Aにより算出された波立ち強度が大きいほど、この第1制御用の閾値を増大させる第2制御を行う。
【0049】
第1制御は、例えば制御部5Bが第1実施形態と同様に撹拌部3の回転数を複数の設定速度に切り替えることができる構成の場合、液面位置が閾値より低くなったときに、撹拌部3の回転数を1段階低速側に切り替える。第2制御では、被撹拌物Sの波立ちが大きいほど、この閾値を増大させて、撹拌部3の回転数を低速に切り替えるタイミングを早め、これにより波立ちを迅速に低減できるよう構成されている。
【0050】
図4は、第2実施形態に係る撹拌装置1により実施される撹拌部3の回転数制御のフローチャートである。
図5は、被撹拌物Sの波立ち強度Rの算出手法の一例を示す図である。
図4に示すフローチャートは、例えば所定時間ごとに定期的に実施される。
図4のフローチャートの前提として、上述の第1制御は実行中であり、
図4のフローチャートは第2制御の具体的な処理である。以下、
図4のフローチャートの手順に従って説明する。
【0051】
ステップS21では、液面測定部4により容器2内の被撹拌物Sの液面の位置が、所定期間に複数回測定される。ステップS21の処理が完了するとステップS22に進む。
【0052】
ステップS22では、制御装置5の演算部5Aにより、ステップS21にて測定された複数の液面位置データが平均化されて、この平均値が容器2内の被撹拌物Sの液面位置Xとして算出される。演算部5Aは、例えば液面測定部4により1秒間に10回測定されたデータを平均化して、今回の液面位置Xとして算出する。ステップS22の処理が完了するとステップS23に進む。
【0053】
ステップS23では、演算部5Aにより、ステップS22にて算出された液面位置Xと、前回の制御フローで算出された液面位置の前回値との偏差ΔXを用いて、最大値Rmaxまたは最小値Rminが更新される。演算部5Aは、偏差ΔXが正値の場合、すなわち液面位置Xが前回値に対して増加しているときには、記憶されている最大値Rmaxと偏差ΔXとを比較して、偏差ΔXのほうが大きい場合に最大値Rmaxを更新する。また、演算部5Aは、偏差ΔXが負値の場合、すなわち液面位置Xが前回値に対して減少しているときには、記憶されている最小値Rminと偏差ΔXとを比較して、偏差ΔXのほうが小さい場合に最小値Rminを更新する。ステップS23の処理が完了するとステップS24に進む。
【0054】
ステップS24では、演算部5Aにより、ステップS23にて更新された最大値Rmax、最小値Rminを用いて、容器2内の被撹拌物Sの液面の波立ち強度Rが算出される。演算部5Aは、例えば下記の(1)式を用いて波立ち強度Rを算出する。
R=|Rmax|+|Rmin| ・・・(1)
【0055】
第2実施形態で用いる波立ち強度Rとは、例えば
図5に示すように、第1制御の実施中の過去の時間ステップの全体において、それぞれ発生タイミングの異なる、液面増加方向の最大揺れ幅(
図5では時刻t1の最大値Rmax)と、液面減少方向の最大揺れ幅(
図5では時刻t2の最小値Rmin)との合計値である。第2実施形態で用いる波立ち強度Rは、被撹拌物Sの液面位置のばらつき度合とも表現できる。ステップS24の処理が完了するとステップS25に進む。
【0056】
ステップS25では、制御装置5の制御部5Bにより、ステップS22にて算出された被撹拌物Sの液面位置Xが、下記の(2)式の条件を満たすか否かが判定される。
液面位置X<閾値+R/2 ・・・(2)
ここで(2)式右辺の第1項は、第1制御の閾値であり、第2項は、ステップS24にて算出された被撹拌物Sの波立ち強度Rに基づく閾値の嵩上量である。波立ち強度Rが大きいほど、第1制御の閾値の嵩上量も増大し、撹拌部3の回転数を低速に切り替えるタイミングが早くなる。
【0057】
ステップS25にて液面位置Xが閾値+R/2より小さいと判定された場合には、ステップS26にて撹拌部3の回転数が1段階低速に下げられ、波立ちが抑制される。なお、現在の回転数より低速側の設定が無く、現在の回転数が最も低速である場合には、撹拌部3の動作を停止してもよい。ステップS26の処理が完了すると本制御フローを終了する。
【0058】
一方、ステップS25にて液面位置Xが閾値+R/2以上と判定された場合には、撹拌部3の現在の回転数を維持して本制御フローを終了する。
【0059】
第2実施形態に係る撹拌装置1では、制御装置5は、被撹拌物Sの波立ち強度Rが大きくなるほど、(2)式に示す第1制御の閾値の嵩上量を増大させて、撹拌部3の回転数を低速に切り替えるタイミングを早めることができ、これにより被撹拌物Sの波立ちが大きい場合には迅速に波立ちを低減させることができる。すなわち、第2実施形態も、被撹拌物Sの波立ち強度に基づき被撹拌物Sの波立ちを抑制するよう撹拌部3の回転数を制御する、という第1実施形態と共通の特徴を備えるので、第1実施形態と同様に、撹拌中の被撹拌物Sの飛散を安定して抑制するという効果を奏することができる。
【0060】
なお、ステップS25の第1制御の閾値の嵩上量として、ステップS24にて算出された被撹拌物Sの波立ち強度Rの代わりに、第1実施形態で用いた被撹拌物Sの液面の波立ち振幅Aを用いることもできる。また、撹拌部3の回転数を切り替える閾値は、被撹拌物Sの液面位置の高低に応じて複数としてもよい。
【0061】
また、第1制御は、上述の説明とは逆に、液面位置が閾値より高くなったときに、撹拌部3の回転数を1段階高速側に切り替えることもできる。この場合、第2制御では、被撹拌物Sの波立ちが大きいほど、この閾値を増大させて、撹拌部3の回転数を高速に切り替えるタイミングを遅らせて、これにより回転数を上げる前に波立ちを低減できるよう構成される。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を用いた実施例について説明する。本実施例の撹拌用の容器2は、金属製で大きさが内径550mm、高さが600mmの円柱状のものとした。この容器2には、上方側面に供給口2B、底面に排出口2Aを設けた。また、上方には被撹拌物Sが飛散しないように蓋部2Cを設けた。本実施例で使用した被撹拌物Sは、Ni粉及び溶剤の混合物とした。被撹拌物Sの粘度は、18.5Pa・sであった。
【0063】
撹拌部3の撹拌羽根3Aは、プロペラ型の回転径が300mmの2枚羽とした。駆動部3Bの駆動源にはモーターを使用した。撹拌羽根3Aは、容器2内部の下部、容器2の底面から100mm程度の位置に設置した。
【0064】
液面測定部4は光学式センサを用いた。光学式センサは、容器2の蓋部2Cに設けたガラス製の窓部2Dの上方に設置した。液面測定部4による測定は、1秒間に10回測定するように設定した。また、撹拌部3のモーターの回転数制御は、200rpm(高速)、150rpm(中速)、100rpm(低速)の3段階の切り替え式とした。
【0065】
次に上記装置を使用し、被撹拌物Sの波立ちの状況と撹拌部3の回転数を確認するため以下の試験を行った。液面測定部4からの容器2内部の被撹拌物Sの液面までの距離を1秒間に10回測定した。その10個の測定値のうち最大値と最小値とを抽出し、これらの差分を算出して(最大値−最小値)、この値を当該測定値の組の最大高低差(mm)とした。すなわち、この最大高低差とは、第1実施形態の波立ち振幅Aと同等のものである。この測定及び演算を、撹拌部3の回転数が200、150、100rpmとした条件でそれぞれ複数回行った。
【0066】
図6は、実施例の試験結果を示す図である。
図6の横軸は時間を示し、縦軸は被撹拌物Sの波立ちの最大高低差を示す。
図6には、上記試験にて液面測定部4の10個の測定値ごとに算出された各組の最大高低差がプロットされている。
図6に示すように、撹拌部3の回転数が高速(200rpm)、及び、中速(150rpm)のときには、最大高低差は概ね100mm程度で大きく、かつ20mm〜120mmの範囲に分散してばらつきも大きい。つまり、回転数が高速及び中速のときには容器2内の被撹拌物Sの波立ちが強くなっている。
【0067】
一方、撹拌部3の回転数が低速(100rpm)のときには、最大高低差は0〜20mmの範囲に収まっており、ばらつきも小さく安定して低い値を示している。したがって、この実施例により、容器2内の被撹拌物Sにおいて撹拌による波立ちが大きくなった場合でも、撹拌の回転数を下げることで被撹拌物Sの波立ちを確実に抑制できることが示された。また、撹拌の性能についても問題はなかった。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。