(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリコン融液を貯留する坩堝と、該坩堝を収容するチャンバと、該チャンバ内の圧力を調整する圧力調整部と、前記シリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引き上げる引き上げ部と、前記チャンバ内にArガスを供給するガス供給部と、前記チャンバから前記Arガスを排出するガス排出部と、前記シリコン融液の表面の上方に配置され、前記Arガスが前記シリコン融液の表面に沿って流れるよう案内する誘導部とを有するシリコン単結晶育成装置を用いてシリコン単結晶インゴットを製造する方法であって、
前記シリコン融液にはn型ドーパントが添加され、
前記シリコン単結晶インゴットをチョクラルスキー法によって引き上げる引き上げ工程と、
前記引き上げ工程を行いながら前記n型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定工程と、
前記引き上げ工程を行いながら、前記測定したガス濃度が目標となるドーパントガスのガス濃度の範囲内に入るように、(i)前記チャンバ内の圧力単独、又は、(ii)前記チャンバ内の圧力を少なくとも含み、さらに、前記Arガスの流量と、前記誘導部および前記シリコン融液の間隔との少なくともいずれかを含む引き上げ条件値を調整する引き上げ条件値調整工程と、
を含むことを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法。
前記測定工程では、前記Arガスの排出口側での前記Arガスと共に排出される前記ドーパントガスのガス濃度を測定する、請求項1または2に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
n型ドーパントが添加されたシリコン融液を貯留する坩堝と、前記坩堝の下端に設けられ、前記坩堝を回転および昇降させる昇降回転機構と、前記坩堝を収容するチャンバと、該チャンバ内の圧力を調整する圧力調整部と、チョクラルスキー法によって前記シリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引き上げる引き上げ部と、前記チャンバ内にArガスを供給するガス供給部と、前記チャンバから前記Arガスを排出するガス排出部と、前記シリコン融液の表面の上方に配置され、前記Arガスが前記シリコン融液の表面に沿って流れるよう案内する誘導部とを有するシリコン単結晶育成装置であって、
前記Arガスの排出口側に、前記Arガスと共に排出される前記n型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定部を更に有し、
前記昇降回転機構と、前記圧力調整部と、前記引き上げ部と、前記ガス供給部と、前記測定部とを制御する制御部をさらに有し、
前記制御部を介して、前記引き上げを行いながら、前記測定部により測定されたドーパントガスのガス濃度が目標となるドーパントガスのガス濃度の範囲内に入るように、(i)前記チャンバ内の圧力単独、又は、(ii)前記チャンバ内の圧力を少なくとも含み、前記Arガスの流量と、前記誘導部および前記シリコン融液の間隔との少なくともいずれかを含む引き上げ条件値を調整することを特徴とするシリコン単結晶育成装置。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として使用されるシリコンウェーハは、シリコン単結晶育成装置により育成したシリコン単結晶インゴットを薄くスライスし、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程および鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て最終洗浄することにより製造される。そして、300mm以上の大口径のシリコン単結晶は、チョクラルスキー(CZ;Czochralski)法により製造するのが一般的である。CZ法を用いるシリコン単結晶育成装置は、シリコン単結晶引き上げ炉およびCZ炉などとも呼ばれる。
【0003】
半導体デバイスの中でも、パワーデバイスの一種である絶縁ゲートバイポーラトランジスター(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)は、大電力制御に適したゲート電圧駆動型スイッチング素子であり、電車、電力、車載用などに用いられている。IGBTなどのパワーデバイス用途では、浮遊帯溶融(FZ:Floating Zone)法およびMCZ(Magnetic field applied Czochralski)法による直径200mmのP(リン)をドープしたn型シリコン単結晶インゴットをスライスしたn型シリコンウェーハが現状用いられている。
【0004】
ここで、
図1に示すように、FZ法により育成されるシリコン単結晶インゴットにはn型ドーパントの偏析がないため、インゴットの直胴部のほぼ全てを製品として用いることができる。しかしながら現状、FZ法により安定的に製造可能なシリコン単結晶インゴットの直径は150mmであり、直径200mm以上、特に直径300mmの大口径のシリコン単結晶インゴットを製造することは、FZ法では困難である。
【0005】
一方、CZ法を用いた、パワーデバイス用のn型のシリコン単結晶インゴットにおいて実用的に用いられているドーパントは、一般的にPである。こうしたPドープのシリコン単結晶インゴットから得られるn型シリコンウェーハは、例えば比抵抗が50[Ω・cm]±10%の仕様に対して、現状の歩留はせいぜい10%程度である(
図1参照)。この理由は、Pは偏析係数が1未満であるため、シリコン単結晶の引き上げを進めるにつれて融液中のP濃度(n型ドーパント濃度)が高くなり、徐々に低抵抗化が進むためである。Pの偏析係数0.35はB(ボロン)の偏析係数0.8に比べて大幅に小さく、結晶全長で狙いの抵抗範囲となる結晶を育成する場合では、p型のシリコン単結晶インゴットに比べてn型のシリコン単結晶インゴットの歩留まりは低くなってしまう。そのためn型のシリコン単結晶インゴットの歩留まりを改善するための手法が鋭意検討されてきた。
【0006】
そこで、偏析係数はPよりもさらに小さいものの、蒸発速度がPよりも格段に速いSb(アンチモン)またはAs(ヒ素)をn型ドーパントに用いることも提案されている。CZ炉のチャンバ内の圧力を減圧してn型ドーパントの蒸発を促進し、当該n型ドーパントの偏析を補償することで、シリコン単結晶インゴットの比抵抗の公差を小さくできる。
【0007】
これに対して本願出願人は、特許文献1において、揮発性ドーパントとしてSb(アンチモン)またはAs(ヒ素)を添加したシリコン融液からチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げることにより垂直シリコンデバイス用シリコンウェーハを製造する方法であって、前記シリコン単結晶の引き上げ進行に伴って、前記シリコン融液の表面に沿って流れるArガスの流量を増加させる垂直シリコンデバイス用シリコンウェーハの製造方法を提案している。
【0008】
特許文献1に記載されるように、シリコン融液の表面は蒸発した揮発性ドーパント含有ガスの濃度が高いため、シリコン融液中の揮発性ドーパントの蒸発速度はCZ炉のチャンバー内の圧力だけでなく、Arガスの流量によっても大きく左右される。そこで、特許文献1に記載の技術により、融液表面を流れるArガスの流量を制御することで揮発性ドーパントの蒸発速度を制御し、その結果ドーパントの偏析を補償することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、IGBTなどのパワーデバイス用シリコンウェーハにおいて許容される抵抗の公差は非常に狭く、従来は平均比抵抗に対して±10%の公差であったところ、近年では、±8%程度にすることが求められており、今後は公差を±7%以下にすることが求められつつある。特許文献1に記載の技術によりn型ドーパントの蒸発速度をある程度は制御できるようになったものの、今後求められる公差を結晶成長方向に歩留まり高く達成するには改良の余地がある。
【0011】
そこで本発明は、上記諸課題に鑑み、パワーデバイスに供して好適な、結晶成長方向における比抵抗の公差の小さいn型で高抵抗のシリコン単結晶インゴットの製造方法およびシリコン単結晶育成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した。特許文献1に記載の揮発性のn型ドーパントを用いるn型シリコン単結晶の育成において、結晶の成長方向における比抵抗の公差をさらに低減するためには、シリコン融液中のn型ドーパント濃度を常に一定に保持するよう制御すればよいと本発明者らは考えた。このような制御を行うためには、偏析により融液中に濃化していくn型ドーパントと当量のn型ドーパントを融液表面から蒸発させることが必要である。そこで、結晶引き上げ中のシリコン融液からのn型ドーパントの蒸発速度を一定に維持することを本発明者らはまず検討した。なお、融液からのn型ドーパントの蒸発は、ドーパント元素単体のガス、または酸化リン(P
xO
y)酸化アンチモン(Sb
xO
y)もしくは酸化ヒ素(As
xO
y)などの化合物ガスの形態での蒸発だと考えられる。こうした酸化物は、原料であるシリコンと、石英坩堝から溶出した酸素とが結合してシリコン融液内で生成され、ガスの形態でシリコン融液の表面から排出されると考えられる。
【0013】
融液表面上のn型ドーパントの蒸発速度は、直接的には融液直上のArガス流速に依存する。これは、気液界面近傍での気層側の濃度境界層(ここでは、拡散のみで物質移動が可能)におけるn型ドーパントの化合物の濃度勾配が、濃度境界層直上でのArガス流速に依存するためである。すなわち、Arガス流速が速くなるとn型ドーパントの化合物の濃度勾配が大きくなり、融液から蒸発するn型ドーパントの化合物の蒸発量も多くなる。このように、n型ドーパントの蒸発速度を制御するためには、シリコン融液直上でのArガス流速を制御する必要がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、CZ炉においてガスの形態で排出されるn型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定し、そのガス濃度が一定となるようにArガス流速を制御することを着想した。シリコン育成中に測定するドーパントガス濃度は、シリコン融液表面から蒸発するn型ドーパントの濃度を直接的に反映する。インサイチュ(in-situ)でドーパントガスのガス濃度を測定し、ガス濃度が適正範囲を維持するように、Arガス流速をプロセス条件によって制御することにより、ガス濃度を適正範囲に入れることができ、結果、歩留まりの高いシリコン単結晶インゴットの作製が可能となる。
【0015】
こうした制御を行うことにより、シリコン単結晶インゴットのドーパント濃度も結晶成長方向に一定とすることができ、シリコン単結晶インゴットの結晶成長方向における比抵抗の公差を従来に比べて大幅に小さくすることができることを本発明者らは見出した。また、シリコン育成中にガス濃度を所望に変化させれば、結晶成長方向に任意の比抵抗を有するシリコン単結晶インゴットを育成することもできる。上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0016】
(1)シリコン融液を貯留する坩堝と、該坩堝を収容するチャンバと、該チャンバ内の圧力を調整する圧力調整部と、前記シリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引き上げる引き上げ部と、前記チャンバ内にArガスを供給するガス供給部と、前記チャンバから前記Arガスを排出するガス排出部と、前記シリコン融液の表面の上方に配置され、前記Arガスが前記シリコン融液の表面に沿って流れるよう案内する誘導部とを有するシリコン単結晶育成装置を用いてシリコン単結晶インゴットを製造する方法であって、
前記シリコン融液にはn型ドーパントが添加され、
前記シリコン単結晶インゴットをチョクラルスキー法によって引き上げる引き上げ工程と、
前記引き上げ工程を行いながら前記n型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定工程と、
前記引き上げ工程を行いながら、前記測定したガス濃度が目標ガス濃度の範囲内に入るように前記チャンバ内の圧力、前記Arガスの流量、ならびに前記誘導部および前記シリコン融液の間隔の少なくともいずれか1つを含む引き上げ条件値を調整する引き上げ条件値調整工程と、
を含むことを特徴とするシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【0017】
(2)前記目標濃度が結晶成長方向において一定である、上記(1)に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【0018】
(3)前記測定工程では、前記Arガスの排出口側での前記Arガスと共に排出される前記ドーパントガスのガス濃度を測定する、上記(1)または(2)に記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【0019】
(4)前記ドーパントガスのガス濃度を質量分析計を用いて測定する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【0020】
(5)前記n型ドーパントはSbまたはAsである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコン単結晶インゴットの製造方法。
【0021】
(6)n型ドーパントが添加されたシリコン融液を貯留する坩堝と、前記坩堝の下端に設けられ、前記坩堝を回転および昇降させる昇降回転機構と、前記坩堝を収容するチャンバと、該チャンバ内の圧力を調整する圧力調整部と、チョクラルスキー法によって前記シリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引き上げる引き上げ部と、前記チャンバ内にArガスを供給するガス供給部と、前記チャンバから前記Arガスを排出するガス排出部と、前記シリコン融液の表面の上方に配置され、前記Arガスが前記シリコン融液の表面に沿って流れるよう案内する誘導部とを有するシリコン単結晶育成装置であって、
前記Arガスの排出口側に、前記Arガスと共に排出される前記n型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定部を更に有するシリコン単結晶育成装置。
【0022】
(7)前記測定部は質量分析計である、上記(6)に記載のシリコン単結晶育成装置。
【0023】
(8)前記昇降回転機構と、前記圧力調整部と、前記引き上げ部と、前記ガス供給部と、前記測定部とを制御する制御部をさらに有し、
前記制御部を介して、前記引き上げを行いながら、前記測定部により測定されたガス濃度が目標ガス濃度の範囲内に入るように、前記チャンバ内の圧力、前記Arガスの流量、ならびに前記誘導部および前記シリコン融液の間隔の少なくともいずれか1つを含む引き上げ条件値を調整する、上記(6)
または(7)に記載のシリコン単結晶育成装置。
【0024】
(9)前記n型ドーパントはSbまたはAsである、上記(6)〜(8)のいずれかに記載のシリコン単結晶育成装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、パワーデバイスに供して好適な、結晶成長方向における比抵抗の公差の小さいn型で高抵抗のシリコン単結晶インゴットの製造方法およびシリコン単結晶育成装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(シリコン単結晶インゴットの製造方法)
本発明の一実施形態に従うシリコン単結晶インゴットの製造方法は、
図2に模式的に図示するシリコン単結晶育成装置100を用いて行うことができる。このシリコン単結晶育成装置100は、シリコン融液10を貯留する坩堝20と、坩堝20を収容するチャンバ30と、チャンバ30内の圧力(以下、「炉内圧」)を調整する圧力調整部40と、シリコン融液10からシリコン単結晶インゴット1を引き上げる引き上げ部50と、チャンバ30内にArガスを供給するガス供給部60と、チャンバ30からArガスを排出するガス排出部と、シリコン融液10の表面の上方に配置され、Arガスがシリコン融液10の表面に沿って流れるよう案内する誘導部70とを少なくとも有し、さらに必要に応じてその他の構成を有する。ここで、シリコン単結晶
育成装置100において、シリコン融液10にはn型ドーパントが添加される。なお、n型ドーパントとして、P(リン)、As(ヒ素)、Sb(アンチモン)のいずれか1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
そして、本実施形態による製造方法は、シリコン単結晶インゴット1をチョクラルスキー法によって引き上げる引き上げ工程と、前記引き上げ工程を行いながらn型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定工程と、前記引き上げ工程を行いながら、前記測定したガス濃度が目標ガス濃度の範囲内に入るようにチャンバ30内の圧力、Arガスの流量、ならびに誘導部70およびシリコン融液10の間隔(以下、ギャップG)の少なくともいずれか1つを含む引き上げ条件値を調整する引き上げ条件値調整工程と、を含む。以下、各工程の詳細を順次説明する。
【0029】
引き上げ工程は、CZ法を用いて行う従来公知の手法により行うことができる。本実施形態では、この引き上げ工程を行いながら、上述の測定工程を行い、併せて測定工程により測定したガス濃度を用いて上述の引き上げ条件値調整工程を行う。なお、引き上げ条件値調整工程において「ガス濃度が目標ガス濃度の範囲内に入るように制御する」とは、測定中のガス濃度を所望のガス濃度範囲内に維持するために、引き上げ条件値のいずれか1つまたは2つ以上を制御することを意味する。目標ガス濃度を所望のガス濃度C
Gとした場合、C
G±10%の範囲内でのガス濃度の変動を維持することは、「ガス濃度が目標ガス濃度の範囲内に入るように制御する」ことに含まれ、C
G±8%の範囲内でのガス濃度の変動を維持することが好ましく、C
G±7%の範囲内でのガス濃度の変動を維持することがより好ましい。
【0030】
なお、目標濃度は結晶成長方向において一定であることが好ましい。結晶成長方向の全域において、比抵抗をほぼ一定にすることができるためである。しかしながら、引き上げ中の結晶長に応じて目標濃度を漸増または漸減、あるいは結晶長ごとに区分して目標濃度を増減させてもよい。こうすることで、結晶成長方向において任意の比抵抗を有する
シリコン単結晶インゴットを得ることができる。
【0031】
さて、前述のとおり、測定工程では引き上げ工程を行いながらn型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する。この測定工程では、Arガスの排出口側でのArガスと共に排出されるn型ドーパントを含むガスの濃度を測定することが好ましい。シリコン融液10から蒸発するn型ドーパントは、リン単体、砒素単体もしくはアンチモン単体、またはリン化合物(P
xO
yなど)、アンチモン化合物(Sb
xO
yなど)もしくは砒素化合物(As
xO
yなど)のガスとなる。n型ドーパントがSbの場合、Arガスと共に、主にはSb単体ガス、SbOガスおよびSb
2O
3ガスが同時に排出され、この場合、Sb、SbOガスおよびSb
2O
3ガスのいずれか1種のガス濃度を測定してもよいし、2種以上を分析してもよい。
【0032】
シリコン単結晶育成装置100のArガスの排出口側に赤外分光法や質量分析法による測定を行う測定部81を設け、この測定部81によりArガスとともに排出されるn型ドーパントを含むドーパントガスのガス分析を行うことで、こうした測定工程を行うことができる。測定部81としては、質量分析計を用いることが好ましく、例えば四重極形質量分析計(QMS)を用いることができ、他にも赤外分光計測定機を用いることもできる。特に四重極形質量分析計を用いれば、より確実に、かつ精度良く、対象とするn型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスの定量分析を行うことができる。例えばSbOガスのガス濃度を測定する場合、インゴット1の育成初期からのSbOガスのガス濃度
が一定となるように引き上げ条件値調整工程を行う。
【0033】
なお、測定工程は引き上げ工程中、ポリシリコン原料の溶解から結晶冷却まで常時行うことが好ましいが、数十秒から数分おきに測定工程を行ってもよい。引き上げ工程中、測定工程を常時行って、引き上げ条件値調整工程に反映した方が、ドーパントガスのガス濃度の変動、すなわち、シリコン単結晶インゴット1の結晶成長方向におけるドーパント濃度の変動を抑制できるため好ましい。
【0034】
ここで、シリコン融液10上のAr流速は炉内圧に対して逆比例の関係があり、Ar流量に対しては正比例の関係があり、ギャップGに対しては逆比例の関係がある。そこで、引き上げ条件値調整工程では、前述の測定工程により測定したドーパントガスのガス濃度が目標濃度の範囲内に入るように、炉内圧、Arガスの流量、およびギャップGの少なくともいずれか1つを含む引き上げ条件値を調整する。
【0035】
具体的には、測定したガス濃度の経時変化から、目標ガス濃度の範囲の下限に近づきつつあるるときにはn型ドーパントの蒸発を促進するために、炉内圧を減圧する、Ar流量を増やす、およびギャップGを小さくするのいずれか1つまたは2つ以上を行えばよい。また、これら3つの制御因子の全てを蒸発を促進する方向に必ずしも調整する必要はなく、例えばAr流速を増やしつつ、微調整のために炉内圧を加圧し、さらにギャップGを増減して調整を行うなどしてもよい。
【0036】
逆に、測定したガス濃度が目標とする一定濃度を上回っているときには、n型ドーパントの蒸発を抑制するために、炉内圧を加圧する、Ar流量を減らす、およびギャップGを大きくするのいずれか1つまたは2つ以上を行えばよい。また、これら3つの制御因子の全てを蒸発を抑制する方向に必ずしも調整する必要はなく、例えばAr流速を減らしつつ、微調整のために炉内圧を減圧し、さらにギャップGを増減して調整を行うなどしてもよい。
【0037】
また、測定したガス濃度が目標とする一定濃度を維持しているのであれば、そのタイミ
ングでは上記引き上げ条件値を維持すればよい。なお、ガス濃度の制御性の観点から、炉
内圧およびArガスの流量の両方を調整することが好ましい。また、まずAr流量のみでガス濃度を調整し
つつも、目標濃度に到達しない傾向が見られない場合には、炉内圧を
さらに調整することも好まし
い。一方、まずAr流量のみでガス濃度を調整し、目標濃度を超えそうな傾向が見られない場合
であっても、炉内圧を
別途調整
してもよい。
【0038】
また、上記目標とする一定濃度については、シリコン単結晶インゴット1の狙いの比抵抗とドーパントガスのガス濃度の関係を予め求めておき、その対応関係から所望の比抵抗となるガス濃度を選択すればよい。また、シリコン単結晶インゴット1の育成中の任意のタイミングでのドーパントガスのガス濃度を維持するようにしてもよい。育成初期のタイミングでのドーパントガスのガス濃度を維持して、育成中のガス濃度を一定濃度とすることも好ましい。
【0039】
なお、本実施形態はP、As、Sbのいずれをn型ドーパントとする場合にも適用可能であるが、AsまたはSbを用いる場合に供してより効果的であり、Sbを用いる場合に供して特に効果的である。その理由は、Sb、As、Pの順にシリコン融液からの蒸発速度が速いためである。
【0040】
また、引き上げ工程において、インゴット1の成長速度をv[mm/分]とし、インゴット1の単結晶成長時の融点から1350℃の温度勾配をG[℃/mm]としたときの比v/Gを例えば0.22〜0.27程度に制御することが好ましい。v/Gがこの範囲を超えるとCOPおよびVoid(ボイド)が発生しやすくなり、この範囲を下回ると転位クラスターが発生しやすくなるためである。
【0041】
本実施形態に従うと、n型ドーパントの蒸発速度を制御することによって、n型シリコン単結晶インゴット1の結晶軸方向での抵抗歩留の向上、結晶コストの低減ができる。また、ドーパントガスのガス濃度を維持することは、特段の制御を行わない場合に比べてn型ドーパントの化合物の蒸発を促進することになるため、シリコン融液10表面上のAr流速を増大させることになり、結果的に炭素汚染(ヒーターなどの炭素部材と、融液から揮発したSiOとの反応によって生成したCOガスの融液への逆流による汚染と蓄積)の抑制効果も期待できる。
【0042】
なお、本製造方法の実施形態により、比抵抗が10Ω・cm以上1000Ω・cmの範囲内であり、結晶径が200mm以上であり、結晶成長方向において40%以上が仕様比抵抗の±7%の範囲内にあるn型のシリコン単結晶インゴット1を製造することができる。ただし、比抵抗はインゴットの内、製品範囲外となるネック部、クラウン部およびテール部等を除外して直胴部のみの比抵抗を対象とする。特に、比抵抗が50Ω・cm以上のシリコン単結晶インゴット1の製造に供して好適であり、また、結晶径が300mm以上のシリコン単結晶インゴット1の製造に供して好適であり、さらに、結晶成長方向における40%以上が仕様比抵抗の±7%の範囲内のシリコン単結晶インゴット1の製造に供して好適である。
【0043】
(シリコン単結晶育成装置)
次に、上記製造方法の実施形態に供して効果的な、シリコン単結晶育成装置100について述べる。前述の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用い、重複する内容については説明を省略する。
【0044】
本発明の一実施形態に従うシリコン単結晶育成装置100は、n型ドーパントが添加されたシリコン融液10を貯留する坩堝20と、坩堝20の下端に設けられ、坩堝20を回転および昇降させる昇降回転機構21と、坩堝20を収容するチャンバ30と、チャンバ30内の圧力を調整する圧力調整部40と、チョクラルスキー法によってシリコン融液10からシリコン単結晶インゴット1を引き上げる引き上げ部50と、チャンバ30内にArガスを供給するガス供給部60と、チャンバ30からArガスを排出するガス排出部と、シリコン融液10の表面の上方に配置され、Arガスがシリコン融液10の表面に沿って流れるよう案内する誘導部70とを有する。
【0045】
そして、このシリコン単結晶育成装置100は、Arガスの排出口側に、Arガスと共に排出されるn型ドーパントを構成元素に含むドーパントガスのガス濃度を測定する測定部81を更に有する。以下、各構成の詳細を順次説明する。
【0046】
<n型ドーパント>
n型ドーパントはP、As、Sbのいずれを用いることができ、AsまたはSbのいずれかであることが好ましく、Sbであることが特に好ましい。
【0047】
<シリコン融液>
シリコン融液10は、シリコン単結晶インゴット1の原料である。一般的にはポリシリコンが原料であり、坩堝20の外周に設けられるヒーター90などにより原料を加熱して溶解して、融液の状態を維持する。シリコン融液にはn型ドーパントの他、窒素が添加されていてもよい。
【0048】
<坩堝>
坩堝20はシリコン融液10を貯留し、一般的には内側を石英坩堝、外側をカーボン坩堝とする二重構造とすることができる。
【0049】
<昇降回転機構>
坩堝20の下端部には昇降回転機構21が設けられる。昇降回転機構21は制御部80を介して昇降および回転することができ、ギャップGを制御することもできる。一般的に昇降回転機構21の回転方向は、引き上げ部50の回転方向の逆方向に回転する。
【0050】
<チャンバ>
チャンバ30は、坩堝20を収容し、チャンバ30の上方部にはArガスの供給部60が、チャンバ30の底部にはArガス排出部が設けられることが通常である。また、チャンバ30内には、誘導部70および熱遮蔽部材71、ならびにヒータ90および図示しないCZ炉に使用される一般的な構成を収容することもできる。
図2はこの態様を図示するものであるが、配置関係はこの例になんら制限されない。
【0051】
<Arガス供給部およびArガス排出部>
Arガスはバルブ41からチャンバ30内に供給することができ、バルブ42を介してチャンバ30から排出することができる。バルブ41,42および真空ポンプ43は本実施形態における圧力調整部40となり、Arガス流量を制御することができる。バルブ41の上流には、Arガスの供給源を設置することができ、当該供給源がガス供給部60となる。また、ポンプ43を用いてArガスが排出され、ポンプ
51はArガス排出部を兼ねることができる。Arガスの排出と同時に、ドーパントガスも排出口に進むこととなる。
【0052】
<引き上げ部>
引き上げ部50はワイヤー巻き取り機構51、ワイヤー巻き取り機構51により巻き取られる引き上げワイヤー52および種結晶を保持するシードチャック53を有することができ、これにより前述の引き上げ工程を行うことができる。
【0053】
<誘導部>
誘導部70は、熱遮蔽部材71のシリコン融液10側の先端部とすることができる。
図2と異なり、誘導部は鋭角状の形状であってもよい。誘導部70と、シリコン融液10との高さ方向の間隔が前述のギャップGである。また、熱遮蔽部材71の先端部に、誘導部70として融液の表面上に沿う誘導板を別途設けることも好ましい。誘導板による案内によりシリコン融液10の表面に沿ってArガスが外側へ誘導されやすくなり、Arガスの流速を制御しやすい。この場合、ギャップGはシリコン融液10の表面と誘導板との間隔とする。熱遮蔽部材71は、シリコンインゴット1の加熱を防止すると共にシリコン融液10の温度変動を抑制することができる。
【0054】
<測定部>
測定部81は、前述のとおり赤外分光法や質量分析法により、n型ドーパントを構成元素とするドーパントガスのガス濃度の測定を行う。測定部81としては、質量分析計を用いることが好ましく、例えば四重極形質量分析計(QMS)を用いることができる。大流量のガスを高速分離でき、装置を小型化できるためである。他にも赤外分光計測定機を用いることもできる。測定部をバルブ42の上流の配管に連結するよう設けることが好ましい。なお図示しないが、測定部81でガス分析が行われたガスは、バルブ42とポンプ43との間に回収することができる。
【0055】
<磁場供給装置>
チャンバー30の外部には磁場供給装置35を設けることも好ましい。磁場供給装置35から供給される磁場は、水平磁場およびカスプ磁場のいずれとしてもよい。
【0056】
<制御部>
シリコン単結晶育成装置100は、上述した昇降回転機構21と、圧力調整部40と、引き上げ部50と、ガス供給部60と
前記測定部81とを制御する制御部80をさらに有することが好ましい。そして、シリコン単結晶育成装置100は、制御部80を介して、シリコン単結晶インゴット1の引き上げを行いながら、測定部81により測定されたドーパントガスのガス濃度が一定濃度になるように、チャンバ30内の圧力(炉内圧)、Arガスの流量、ならびに誘導部70およびシリコン融液10の間隔(ギャップG)の少なくともいずれか1つを含む引き上げ条件値
を制御することが好ましい。
【0057】
なお、制御部80は、CPU(中央演算処理装置)やMPUなどの好適なプロセッサにより実現され、メモリ、ハードディスク等の記録部を有することができる。また、制御部80は、シリコン単結晶育成装置100の各構成間の情報および指令の伝達ならびに各部位の動作を、あらかじめ制御部80に記憶された前述の製造方法の実施形態を動作させるためのプログラムを実行することにより制御する。
【0058】
上述した本発明の一実施形態に従うシリコン単結晶育成装置100を用いてシリコン単結晶インゴットを製造することにより、パワーデバイスに供して好適な、結晶成長方向における比抵抗の公差の小さいn型で高抵抗のシリコン単結晶インゴットを得ることができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の効果をさらに明確にするため、以下の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0060】
(発明例1)
図2に示したシリコン単結晶育成装置100を用い、CZ法によって直径300mm、直胴長1800mmであるシリコン単結晶インゴットを育成した。まず32インチの石英坩堝20にポリシリコン原料350kgを投入し、アルゴン雰囲気中でポリシリコン原料を溶解した。次に、n型のドーパントとしてSb(アンチモン)を添加した。この時、シリコン単結晶インゴットの直胴開始位置での比抵抗が50Ω・cmとなるようにドーパント量を調整した。なお結晶の狙いの比抵抗は、軸方向に50Ω・cm±7%とした。さらに、シリコン融液10に種結晶を浸漬させて、種結晶および石英坩堝20を回転させながら種結晶を徐々に引き上げて、種結晶下に無転位のシリコン単結晶を成長させた。この時、単結晶の成長速度をV、シリコン結晶と融液との境界線である固液界面での融点から1350℃までの温度勾配
をG(℃/
mm)としたときの比,V/Gを0.27程度に設定した。
【0061】
結晶育成中、シリコン融液10の表面から発生するドーパントのガス濃度を常時測定した。ガス分析に用いた装置は四重極形ガス分析装置である。分析対象としたガス種はSbOとした。シリコン単結晶育成装置100のガスを採取した位置は、
図2に示す電磁バルブ42の手前の配管部分である。直径10mmの分析ガスポートを介し、シリコン単結晶育成装置100内の気体を質量ガス分析装置に取り込んだ。結晶育成中は常時、引き上げ装置内の気体を装置に取り込み、Arガスと共に排出される排ガス中に含まれるSbOガス濃度の変化をモニターした。
【0062】
直胴部を育成し始める初期のArガス流量120L/min、炉内圧30Torrとした。60分間隔で、目標SbO濃度(本発明例1では300ppm)となるように、Arガス流量を下記式に従い調整した。
【数1】
【0063】
(比較例1)
結晶成長中は、Arガス流量120L/min、炉内圧30Torrを維持した以外は、実施例1と同様にしてシリコン単結晶インゴットを育成した。
【0064】
(比較例2)
育成開始時の炉内圧を30Torrとし、結晶長が1800mmになるまで30Torrから10Torrへと徐々に減圧した。また、育成開始時のAr流量を120L/minとし、結晶長が1800mmになるまで120L/minから180L/minへと徐々に流量を増加させた。その他の条件については、実施例1と同様にしてシリコン単結晶インゴットを育成した。
【0065】
<SbO濃度の変化>
発明例1、比較例1,2のSbO濃度の変化を
図3のグラフに示す。なお、得られた測定結果は結晶長により整理した。発明例1では濃度の変化はSbOの初期濃度300ppmの±4%以内であり、SbO濃度を一定に維持したことが確認できる。比較例1,2では、SbOの濃度は一定ではない。
【0066】
<結晶の比抵抗の測定結果>
育成したシリコン単結晶インゴットを、直胴0mmの位置から200mm毎に切り出し、次にウェーハ中のドナーを完全に消滅させるために650℃の熱処理を施した。次いで、四探針法により、各ウェーハ中心部の比抵抗を測定した。得られた比抵抗の測定結果を結晶長で整理したグラフを
図4に示す。
【0067】
<歩留まりの計算方法>
ここでは抵抗範囲内のブロック長[mm]から結晶最トップ側100mmの部分を減算し、その値を全ブロック長である1800[mm]で割った値の百分率を、結晶歩留まり[%]と定義する。結晶歩留まりは下記のとおりであった。
発明例1:(1700[mm]/1800[mm])×100=94.4[%]
比較例1:(520[mm]/1800[mm])×100=28.9[%]
比較例2:(610[mm]/1800[mm])×100=33.9[%]
【0068】
以上の結果から、n型ドーパントのドーパントガスであるSbOを一定濃度に維持した発明例1により、平均抵抗値に対する公差の小さいn型で高抵抗のシリコン単結晶インゴットを製造できたことが確認できた。