(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高圧酸浸出法に基づく湿式製錬方法において、ニッケルを含む硫酸水溶液に硫化水素ガスを吹き込み、ニッケルを含む硫化物と貧液とを生成する硫化反応を行う硫化工程に用いられる硫化物の製造設備であって、
前記硫化反応のための反応容器と、
前記反応容器よりも垂直方向の高い位置に配置された後工程容器と、
前記反応容器の出口と前記後工程容器とを接続し、前記反応容器から前記後工程容器側に反応液、スラリーおよび残留ガスが流れる配管と、
前記配管の途中に多重で設置された複数の遮断弁と、
を備え、
前記配管は、前記反応容器と前記後工程容器の高低差に応じて当該配管の一部を立ち上げて形成された立ち上がり部を含み、
前記複数の遮断弁のうち少なくともいずれか1つは、前記立ち上がり部におけるスラリーが弁体内に沈降しない状態になる高さに設置されている
硫化物の製造設備。
前記制御部は、前記第1の圧力計が計測する前記反応容器内の圧力P1と前記第2の圧力計が計測する前記後工程容器内の圧力P2との差(P1−P2)が、0kPa以下となるように前記ガス導入部を制御する
請求項6に記載の硫化物の製造設備。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.発明者の知見
3.硫化物の製造設備
3−1.反応容器入口側の構成
3−2.反応容器出口側の構成
3−3.制御系の構成
3−4.制御系の処理動作
4.実施形態の効果
5.変形例等
【0012】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
図1はニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を説明する工程図である。ここでは、高圧酸浸出法を用いた湿式製錬方法について説明する。
【0013】
図示のように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石からニッケル等を浸出する浸出工程S1と、浸出工程S1で得られた浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S2と、浸出液を中和しニッケル回収用の母液と中和澱物スラリーとに分離する中和工程S3と、母液である硫酸水溶液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応させることにより、ニッケル硫化物と貧液とを得る硫化工程S4とを有する。以下、各工程について、より詳しく説明する。
【0014】
(浸出工程)
浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、220〜280℃の温度下で攪拌処理することにより、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成する。浸出工程S1では、たとえば高温加圧容器(オートクレーブ)が用いられる。
【0015】
浸出工程S1で用いるニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱およびサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。
【0016】
浸出工程S1においては、下記の式(1)〜(5)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じる。これにより、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出した硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しない。このため、浸出工程S1で得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれるのが通常である。
【0017】
「浸出反応」
MO+H
2SO
4→MSO
4+H
2O …(1)
(式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4→Fe
2(SO
4)
3+6H
2O …(2)
FeO+H
2SO
4→FeSO
4+H
2O …(3)
「高温熱加水分解反応」
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2→Fe
2(SO
4)
3+H
2O …(4)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O→Fe
2O
3+3H
2SO
4 …(5)
【0018】
浸出工程S1におけるスラリー濃度は、特に限定されるものではないが、浸出スラリーのスラリー濃度が15〜45重量%になるように調製することが好ましい。また、浸出工程S1で用いる硫酸の添加量は、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。たとえば、鉱石1トン当りの硫酸の添加量を300〜400kgとすることができる。鉱石1トン当りの硫酸の添加量が400kgを超えると、硫酸コストが大きくなり好ましくない。
【0019】
(固液分離工程)
固液分離工程S2では、浸出工程S1で形成される浸出スラリーを多段洗浄し、ニッケルおよびコバルトを含む浸出液と、それ以外の浸出残渣とを得る。
【0020】
固液分離工程S2における多段洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、上記の浸出スラリーを、ニッケルを含まない洗浄液に向流で接触させて残渣の付着水を洗い流す連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いることが好ましい。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケルおよびコバルトの回収率を95%以上とすることができる。
【0021】
(中和工程)
中和工程S3では、固液分離工程S2で分離された浸出液の酸化を抑制しながら、その浸出液のpHが4以下となるように炭酸カルシウムを添加することにより、ニッケル回収用の母液と3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを生成する。このように浸出液の中和処理を行うことにより、高圧酸浸出法による浸出工程S1で用いた過剰の酸を中和するとともに、溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等を除去する。
【0022】
中和工程S3において調整する浸出液のpHは、上述のように4以下とし、好ましくは3.2〜3.8とする。浸出液のpHが4を超えると、ニッケルの水酸化物の発生が多くなる。
【0023】
また、中和工程S3においては、溶液中に残留する3価の鉄イオンの除去に際し、溶液中に2価として存在する鉄イオンを酸化させないことが好ましい。そのため、たとえば空気の吹き込み等による溶液の酸化を極力防止することが好ましい。これにより、2価の鉄の除去に伴う炭酸カルシウム消費量と中和澱物スラリーの生成量の増加を抑制することができる。すなわち、中和澱物スラリー量の増加による澱物へのニッケル回収ロスを抑えることができる。
【0024】
また、中和工程S3で得られる中和澱物スラリーを、必要に応じて固液分離工程S2へ送ることができる。これによって、中和澱物スラリーに含まれるニッケルを効果的に回収することができる。具体的には、中和工程S3で生成された中和澱物スラリーを、低いpH条件で操業される固液分離工程S2に戻すことにより、浸出残渣の洗浄と同時に中和澱物の付着水と中和澱物表面での局所反応により生成した水酸化ニッケルの溶解を促進させることができ、回収ロスとなるニッケル分を低減することができる。なお、ニッケルと同時に鉄の水酸化物も一部再溶解され、浸出した3価の鉄イオンの固定に再度中和剤が必要となる場合がある。そのため、この点からも2価の鉄イオンを酸化させないで中和澱物量の削減を図ることが望ましい。
【0025】
中和工程S3における反応温度としては、50〜80℃程度とすることが好ましい。反応温度が50℃未満では、形成される3価の鉄イオンを含む中和澱物が微細となり、必要に応じてその中和澱物を循環させた固液分離工程S2における処理に悪影響を及ぼす。一方、反応温度が80℃を超えると、装置材料の耐食性の低下や加熱のためのエネルギーコストの増大を招く。
【0026】
(硫化工程)
硫化工程S4では、中和工程S3において得られたニッケル回収用の母液である硫酸水溶液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル硫化物と貧液とを生成する。母液とは、硫化工程で硫化反応させる前の硫酸水溶液、すなわち反応始液のことである。
【0027】
<2.発明者の知見>
上記硫化工程S4で用いられる硫化物の製造設備は、密閉状態で硫化水素ガスを使用し、運転時には反応ガスや反応液が外部に漏れない構造になっている。しかし、本発明者は、製造設備の停止時には、運転時と比べて設備内の状況が変わるため、環境に悪影響を与えるおそれのある流体(液、ガス)が、たとえば製造設備に付属する機器類の予期せぬ不具合(たとえば、弁の侵食など)に起因して、外部に漏れる可能性があることに気づいた。以下、具体例を挙げて説明する。
【0028】
通常、硫化物の製造設備を停止する場合は、弁の閉動作により、液やガスの供給を停止(遮断)する。しかし、タンクや反応容器の内部にガスが残留し、配管の内部にもガスが残留する。この残留ガスは、製造設備に付属する弁が完全にシールされ、かつ弁の閉動作によって配管等の内部を密閉状態に保持することができれば、外部に漏れることはない。このため、残留ガスを除害装置で無害化してから外部に放出すれば特に問題はない。
【0029】
しかし、製造設備の健全性が保たれていない場合には、製造設備の運転を停止すべく弁を閉じても、配管等の内部を密閉状態に保持できなくなる。たとえば、硫化反応のための反応容器と、その後の工程で用いられる容器(以下、「後工程容器」という。)とを配管で接続し、その配管の途中(反応容器の出口部分)に弁を取り付けている場合、弁のシール性が不完全であると、弁を閉じた後も、反応容器側から後工程容器側に向かって液が流れてしまう。そして、反応容器に液がなくなると、そこに残留していたガスも後工程容器側に流れてしまう。
【0030】
その理由は、製造設備の運転中は、反応容器内が正圧で、後工程容器が負圧になっており、それらの差圧を利用して反応液を反応容器から後工程容器に送り出す仕組みになっているからである。すなわち、製造設備の運転を停止しても、上記の差圧が残っているため、反応容器内の液やガスが後工程容器側に自然に流れてしまう。特に、スラリーの流量を制御する弁は、侵食(エロージョン)によってシール性が低下していることがあり、そこで液の流れが止まらない場合がある。
【0031】
このように、製造設備の停止時には、通常の運転時とは異なる環境となるため、残留ガスが配管を通して流出するおそれがある。これに対して、除害装置を用いた排ガス処理は、弁の閉動作によって密閉状態に保持された反応容器や配管内の残留ガスを対象に行われる。このため、配管を通して後工程容器側に流出した残留ガスが、有害ガスとなって外部に放出されるおそれがある。そこで本発明者は、想定される様々な状況にあわせて個々に対策を施すのではなく、硫化物の製造設備に対し、システム的に多重の保護機能を持たせることが、流体漏れの抑制に非常に有効であるとの知見を得て、本発明を想到するに至った。
【0032】
<3.硫化物の製造設備>
続いて、本発明の実施形態に係る硫化物の製造設備について説明する。硫化物の製造設備は、上記硫化工程S4で用いられるもので、硫化反応のための反応容器を備える。以下に、硫化物の製造設備の構成を、反応容器入口側と反応容器出口側に分けて説明する。
【0033】
(3−1.反応容器入口側の構成)
図2は硫化物の製造設備が備える反応容器入口側の構成例を示す概略図である。
【0034】
図2においては、硫化反応のための複数(図例では4つ)の反応容器1〜4が直列に接続されている。各々の反応容器1〜4には、図示しない硫化水素ガスの供給ラインが接続されている。
【0035】
4つの反応容器1〜4は、複数の配管5〜9を用いて接続されている。具体的には、4つの反応容器1〜4のうち、最上流に位置する反応容器1の入口に配管5が接続されている。反応容器1の入口は、硫化工程に反応始液を取り込むための取込口となる。反応容器1の排出口と反応容器2の導入口は配管6によって接続され、反応容器2の排出口と反応容器3の導入口は配管7によって接続されている。また、反応容器3の排出口と反応容器4の導入口は配管8によって接続され、最下流に位置する反応容器4の出口に配管9が接続されている。反応容器4の出口は、硫化工程で生成した反応終液を排出するための排出口となる。
【0036】
反応容器1につながる配管5の端部には継手10が接続されている。継手10には、蒸気供給用の配管11と、母液供給用の配管12が接続されている。配管11の途中には、コントロール弁14と遮断弁15が設置されてている。コントロール弁14は、加熱用の蒸気の流量を制御するための弁であり、遮断弁15は、蒸気の供給ラインを遮断するための弁である。また、配管12の途中には、コントロール弁16が設置されている。コントロール弁16は、母液の供給ラインを遮断するための弁である。一例として、コントロール弁14はグローブ弁によって構成され、遮断弁15はゲート弁によって構成され、コントロール弁16はバタフライ弁によって構成される。また、コントロール弁16の前後には、バタフライ式の手動遮断弁とゲート式の手動遮断弁が設置されている。
【0037】
本明細書において「遮断弁」とは、緊急時などに配管内の流体の流通を遮断するための弁をいう。遮断弁には、高い密閉性能と信頼性が要求される。通常の運転時は遮断弁が開いた状態に保持される。
【0038】
一方、反応容器4につながる配管9の途中には遮断弁21が設置されている。遮断弁21は、後述するコントロール弁22および遮断弁23と共に、配管9の途中に設置されている。
【0039】
上記の構成においては、配管11を通して供給される蒸気と配管12を通して供給される反応始液が、共通の配管5を通して反応容器4に供給される。また、反応容器4には、図示しない供給ラインを通して硫化水素ガスが供給される。反応容器1の内部では、反応始液として供給された硫酸水溶液に硫化水素ガスを吹き込むことにより、硫化反応を生じさせる。
【0040】
その後、硫酸水溶液は、反応容器1から配管6を通して反応容器2に送られた後、反応容器2から配管7を通して反応容器3に送られる。さらに、硫酸水溶液は、反応容器3から配管8を通して反応容器4に送られ。その際、硫酸水溶液に対する硫化水素ガスの吹き込みは、他の反応容器2〜4でも同様に行われる。このため、硫酸水溶液のニッケル品位は、最上流の反応容器1から最下流の反応容器4へと移動する過程で徐々に高くなる。硫化工程で4つの反応容器1〜4を用いて硫化反応させた後の反応終液は、反応容器4から配管9を通して後工程容器31(後述)に送られる。
【0041】
(3−2.反応容器出口側の構成)
図3は硫化物の製造設備が備える反応容器出口側の構成例を示す概略図である。
【0042】
図3においては、反応容器4と後工程容器31とが配管9を介して接続され、この配管9の途中に遮断弁21、コントロール弁22および遮断弁23が設置されている。このようにコントロール弁22を間に挟むように2つの遮断弁21,23を設置すれば、たとえば、メンテナンス等を行う際に、遮断弁21,23を閉じて管路を遮断することにより、コントロール弁22を取り外すことが可能となる。なお、一例として、遮断弁21はゲート弁によって構成され、コントロール弁22はボール弁によって構成される。また、遮断弁23は、好ましくは、ボール弁によって構成される。
【0043】
(ボール弁の構造)
ボール弁は、図示しないボール状の弁体と、円環状のシート弁座とを有する。遮断弁23をボール弁によって構成する場合は、弁体およびシート弁座の各々が炭化タングステンで被覆されていることが好ましい。また、ボール弁を駆動するアクチュエータを有する場合、このアクチュエータは油圧式アクチュエータであることが好ましい。
【0044】
ここで、後工程容器31は、垂直方向(鉛直方向)において反応容器4よりも高い位置に配置され、これらの容器の高低差に応じて配管9に立ち上がり部9aが形成されている。立ち上がり部9aは、配管9の一部を立ち上げて形成されている。水平面を基準にした立ち上がり部9aの立ち上がり角度は、好ましくは70度以上110度以下であり、より好ましくは80度以上100度以下である。
【0045】
反応容器4から後工程容器31に至る配管9の長さ方向において、遮断弁21とコントロール弁22は、反応容器4の出口部分から立ち上がり部9aの下端部までの区間に設置されている。遮断弁21は、コントロール弁22よりも反応容器4に近い側、すなわち上流側に設置されている。
【0046】
これに対し、遮断弁23は、コントロール弁22よりも下流側に設置されている。具体的には、遮断弁23は、配管9の立ち上がり部9aに設置されている。遮断弁23は、好ましくは、停止時にスラリーが弁体内に沈降しない状態になる垂直部(高さ)に設置するとよい。
【0047】
後工程容器31には、配管17とともに、ガス導入部32が接続されている。配管17は、後工程容器31の下部(底部)に接続されている。配管17は、反応容器4から配管9を通して送られた反応終液を次の工程に送るためのものである。ガス導入部32は、後工程容器31に対して不活性ガスを導入可能な構成になっている。
図3においては、不活性ガスとして窒素ガス(N
2)を例示している。
【0048】
ガス導入部32は、図示しないガス供給源から圧送される不活性ガスを通す配管33と、この配管33が接続された中継用の配管34と、この配管34が接続された循環用の配管35と、配管33の途中に設置されたオンオフ弁36と、配管35の途中に設置された水冷器37と、を備える。配管35の一端は後工程容器31の上部(頂部)に接続され、他端は配管17の途中に接続されている。オンオフ弁36は、たとえばグローブ弁によって構成される。水冷器37は、水冷用の媒体(水など)の循環により配管35を冷却する。
【0049】
オンオフ弁36は、製造設備の運転時には閉止された状態に保持され、停止時あるいは停止後には所定の条件を満たす場合に開放される。実際にオンオフ弁36を開いた場合は、配管33を通して送られる不活性ガスが、配管34,35を通して後工程容器31内に供給される。
【0050】
一方、反応容器4には液位計38aと圧力計38bが付属し、後工程容器31には圧力計39が付属している。液位計38aは、反応容器4内の硫酸水溶液の液面高さを計測するものである。圧力計38bは、反応容器4内の圧力を計測するもので、「第1の圧力計」に相当する。圧力計39は、後工程容器31内の圧力を計測するもので、「第2の圧力計」に相当する。
【0051】
製造設備の運転時は、反応容器4における硫酸水溶液の液面高さを液位計38aによって計測し、この計測結果に基づいて硫酸水溶液の供給量を制御する。また、製造設備の運転を停止する場合は、コントロール弁16の閉止によって硫酸水溶液の供給を停止するが、反応容器4の内部は空にならずに所定量の硫酸水溶液が残る。
【0052】
(3−3.制御系の構成)
図4は本発明の実施形態に係る硫化物の製造設備に適用される制御系の構成例を示す機能ブロック図である。ここでは一例として、弁の開閉操作を自動で行うものとする。
【0053】
図4において、制御部40は、硫化物の製造設備に設けられた各々の弁の動作を制御するものである。制御部40は、複数の入力端子と複数の出力端子を備える。制御部40の入力端子側には、液位計38a、圧力計38b、圧力計39が接続されている。制御部40の出力端子側には、コントロール弁14、遮断弁15、コントロール弁16、遮断弁21、コントロール弁22、遮断弁23、オンオフ弁36が接続されている。
【0054】
(3−4.制御系の処理動作)
制御部40の出力端子側に接続された各々の弁の動作状態(開閉状態、開度など)は、制御部40の処理動作によって以下のように制御される。
【0055】
まず、通常の運転時は、オンオフ弁36を除く、他の弁がすべて開状態になる。これに対し、製造設備の運転を停止する場合は、反応容器入口側と反応容器出口側で、それぞれ以下のように弁を閉じる。
【0056】
まず、反応容器入口側においては、コントロール弁14と遮断弁15を同時に閉止するとともに、コントロール弁16を閉止する。これにより、蒸気と反応始液の供給が停止する。このとき、配管11は、コントロール弁14と遮断弁15による二重の弁で閉止される。このため、蒸気ラインにおいて温度が下がった場合でも、流体の逆流が二重の弁によって抑制される。なお、反応始液の供給ラインについては、配管12と反応始液用のタンク(不図示)が液で満たされているため、流体が逆流するおそれはない。
【0057】
一方、反応容器出口側においては、最初にコントロール弁22を閉止した後、下流側の遮断弁23を閉止し、続いて上流側の遮断弁21を閉止する。これにより、配管9は、二重の遮断弁21,23で閉止され、コントロール弁22を含めると三重の弁で閉止される。また、コントロール弁22の上流側は遮断弁21で遮断され、コントロール弁22の下流側は遮断弁23で遮断される。つまり、反応容器4と後工程容器31との間で配管9内の流体の流通が、二重の遮断弁21,23によって遮断される。
【0058】
また、制御部40は、製造設備の運転を停止した後、後工程容器31に不活性ガスを導入すべくガス導入部32を制御する。不活性ガスの導入は、ガス導入部32が有するオンオフ弁36を開けることにより行われる。オンオフ弁36は、運転を停止した状況下で、予め設定された条件(以下、「所定の条件」という。)を満たす場合に、制御部40によって開けられる。
【0059】
上記所定の条件は、主に2つある。第1の条件は、圧力計38bが計測する反応容器4内の圧力P1と圧力計39が計測する後工程容器31内の圧力P2とが、P1>P2の関係を満たす場合である。製造設備の運転時(運転中)は、反応容器4内の圧力が大気圧に保持され、後工程容器31の圧力が大気圧よりも低い圧力(真空圧)に保持される。このため、製造設備の運転を停止した直後は、P1>P2の関係を満たす。
【0060】
第2の条件は、液位計38aが計測する反応容器4内の液面高さが経時的に低下する場合である。反応容器4内の液面高さが経時的に変化する場合とは、配管9に設置された3つの弁(21,22,23)をすべて閉止したにもかかわらず、弁の故障や侵食などが原因で配管9の内部を流体が流れ続け、反応容器4に残っている硫酸水溶液の液量が時間の経過と共に徐々に減っていく場合である。この現象を放置すると、反応容器4内の液面高さが予め設定された所定高さ(本来の液圧送停止位置)以下の条件で、さらに下がり続けることになる。
【0061】
制御部40は、上述した2つの条件のうち少なくとも一方の条件を満たす場合に、後工程容器31に不活性ガスを導入すべくオンオフ弁36を開ける。
【0062】
これにより、配管33を通して供給される不活性ガスが、配管34,35を通して後工程容器31に導入される。このため、たとえば、製造設備の運転時に、反応容器4内の圧力が大気圧に保持され、後工程容器31の圧力が大気圧よりも低い圧力(真空圧)に保持されていた場合は、不活性ガスの導入によって後工程容器31内の圧力が次第に上昇する。その結果、反応容器4と後工程容器31の圧力差(各容器の内圧の差)が小さくなる。
【0063】
また、制御部40は、オンオフ弁36の開度を調整することにより、反応容器4内の圧力P1と後工程容器31内の圧力P2との差(P1−P2)が0kPa以下となるように、後工程容器31内の圧力を大気圧程度まで回復させる。ここで記述する「差(P1−P2)が0kPa以下」には、「P1=P2の場合」と「P1<P2の場合(P1−P2の値がマイナスになる場合)」の両方が含まれる。
【0064】
<4.実施形態の効果>
本発明の実施形態においては、反応容器4の出口に接続された配管9の途中に遮断弁21と遮断弁23を設置している。このため、製造設備の運転を停止した場合に、各々の遮断弁21,23を閉止することにより、配管9内の流体の流通を二重の弁によって遮断することができる。したがって、硫化物の製造設備において外部への流体漏れをより高い確度で抑制することが可能となる。
【0065】
本発明の実施形態においては、配管9に設置された2つの遮断弁21,23のうち、少なくとも最下流に設置された遮断弁23を、相対的に遮断性が高いボール弁で構成している。このため、遮断弁23の下流側への流体の流出をより確実に遮断することができる。また、ボール弁を駆動するアクチュエータを油圧アクチュエータとすれば、より強いトルクでボール弁を開閉(回転)動作させることができる。このため、高い遮断性と密閉性をもって配管9を閉止することができる。さらに、遮断弁23をボール弁で構成する場合、その弁体とシート弁座を炭化タングステンで被覆した構成とすれば、侵食による遮蔽性能の劣化を抑制することができる。
【0066】
本発明の実施形態においては、配管9の立ち上がり部9aに遮断弁23を設置している。配管9の内部を流れるスラリーは、配管9の水平部分では重力の影響で片寄った状態になるが、配管9の立ち上がり部9aでは片寄りなく流れる。このため、配管9の立ち上がり部9aに遮断弁23を設置すれば、スラリーの片寄りがない、またはその度合が少ない状態で配管9を閉止することができる。これにより、スラリーは、配管9の立ち上がり部9aに設置した遮断弁23には沈降せず、それよりも下側に沈降するため、遮断弁23によるスラリーの噛み込みが抑制される。したがって、遮断弁23が損傷するリスクが低減し、設備の健全性を保つことができる。
【0067】
本発明の実施形態においては、硫化物の製造設備の運転を停止した場合に、制御部40が、後工程容器31に不活性ガスを導入するようにガス導入部32を制御する構成を採用している。これにより、3つの弁(21,22,23)をすべて閉じたときに、何らかの理由(たとえば、弁の故障や腐食など)で配管9内の流体の流通が完全に遮断されない場合でも、後工程容器31側への流体の流出を抑制することができる。
【0068】
本発明の実施形態においては、圧力計38bが計測する反応容器4内の圧力P1と圧力計39が計測する後工程容器31内の圧力P2とが、P1>P2の関係を満たす場合に、後工程容器31に不活性ガスを導入する構成を採用している。これにより、反応容器4と後工程容器31の圧力差による流体の流出を抑制することができる。
【0069】
本発明の実施形態においては、液位計38aが計測する反応容器4内の液面高さが経時的に変化する場合に、後工程容器31に不活性ガスを導入する構成を採用している。これにより、弁の故障、腐食などが原因で、弁を閉止した後にも反応容器4側から後工程容器31側への流体の流れがある場合に、その流れを抑制することができる。
【0070】
<5.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0071】
たとえば、上記実施形態においては、配管9の途中に2つの遮断弁21,23を設置したが、これに限らず、3つ以上の遮断弁を設置してもよい。なお、「多重」とは二重以上を意味し、たとえば、遮断弁を二重で設置する場合は遮断弁の数が2つ、三重で設置する場合は3つになる。
【0072】
上記実施形態においては、配管9の途中に設置された2つの遮断弁21,23のうち、最下流の遮断弁23だけをボール弁で構成したが、これに限らず、両方の遮断弁21,23を共にボール弁で構成してもよい。また、配管11上の遮断弁15をボール弁で構成してもよい。
【0073】
上記実施形態においては、製造設備の運転を停止した場合に、圧力計38b,39の計測結果に基づいてガス導入部32(オンオフ弁36)を制御する機能と、液位計38aの計測結果に基づいてガス導入部32を制御する機能の両方を制御部40が備える構成としたが、いずれか一方の制御機能のみを備える構成であってもよい。
【0074】
上記実施形態においては、弁の開閉操作を自動で行う場合について説明したが、これに限らず、一部の弁またはすべての弁の開閉操作を手動で行う構成を採用することも可能である。