(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用電極について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含むバインダー組成物を含むリチウムイオン二次電池用電極であって、前記バインダー組成物の初期粘着力が1以上であり、150℃における前記バインダー組成物の貯蔵弾性率が1,000Pa以下である。
【0012】
(バインダー組成物)
本発明に用いるバインダー組成物は、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子(以下、「バインダー粒子」ということがある。)を含む。なお、バインダー組成物は、バインダー粒子以外の成分を含有していてもよいが、バインダー粒子のみからなることが好ましい。
【0013】
(バインダー粒子)
バインダー粒子は、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる。ここで、「実質部分的に位置してなる」とは、第1の成分からなる粒子が第2の成分により完全には被覆されず、バインダー粒子の表面に第1の成分および第2の成分が露出している状態を指す。このような構造としては、例えば、球状の粒子であって中心部(第1の成分からなる粒子)と外殻部(第2の成分)とが異なる重合体から形成されるコアシェル構造において中心部(第1の成分からなる粒子)の一部分が外殻部(第2の成分)に露出した構造である雪ダルマ構造;球状の粒子(第1の成分からなる粒子)の表面に別種の粒子(第2の成分)が埋め込まれて一体化した構造であるイイダコ様構造などが挙げられる。また、バインダー粒子は、上記のような各種の異相構造の2以上のものがさらに組合されて一つの複合粒子を形成したものでもよい。
なお、第1の成分からなる粒子は、少なくとも表層部が第1の成分で構成されていればよい。即ち、第1の成分からなる粒子は、第1の成分のみで構成されていてもよいし、第1の成分で構成された表層部の内側に第1の成分とは異なる別の成分を含有していてもよい。
【0014】
(第1の成分からなる粒子)
第1の成分からなる粒子を構成する第1の成分としては、リチウムイオン二次電池の異常過熱時に溶融し、溶融時の粘度が所定の範囲となるものが好ましく、中でもポリオレフィンなどの重合体を用いることが特に好ましい。
ここで、ポリオレフィンとは、分子内に炭素二重結合を1つ以上有する不飽和炭化水素に由来する繰り返し単位(単量体単位)を有する重合体である。そして、ポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン、ポリブタジエン、ブタジエン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、スチレン−ブタジエンブロック共重合体水素化物(SEB)等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ポリオレフィンは、塩素化ポリオレフィン等のポリオレフィン誘導体として用いてもよい。また、ポリオレフィンは、ポリオレフィンワックスとして用いてもよい。更に、ポリオレフィンに含まれる、分子内に炭素二重結合を1つ以上有する不飽和炭化水素に由来する繰り返し単位(単量体単位)の割合は、好ましくは70質量%以上である。
【0015】
ポリオレフィンの分子量は、融点と溶融時の粘度のバランスに優れ、溶融時にリチウムイオン二次電池の内部抵抗の十分な上昇を得られる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000以上、さらに好ましくは7,000以上であり、好ましくは15,000以下、より好ましくは12,000以下、さらに好ましくは10,000以下である。ポリオレフィンの分子量が前記範囲の上限値以下であると、溶融時の粘度が高くなって溶融したポリオレフィンが広がり難くなるために十分に内部抵抗を上昇させることができないという現象を抑えることができる。また、ポリオレフィンの分子量が前記範囲の下限値以上であると、ポリオレフィンの融点が低くなり過ぎるという現象を抑えることができる。そのため、異常過熱をしていない通常の状態であってもポリオレフィンの溶融によって内部抵抗が上昇して電池性能が著しく低下するという現象を抑えることができる。
【0016】
第1の成分の融点は、異常過熱時に溶融して電池内部の抵抗を上昇させることにより電流を減少させて温度上昇を阻害する観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。第1の成分の融点が前記範囲であると、融点が過度に高すぎるために第1の成分が溶融する前にセパレーターが熱収縮して短絡が起こり温度が急激に上昇するという現象を抑えることができる。また、融点が過度に低すぎるために異常過熱をしていない通常の状態であっても第1の成分の溶融によって内部抵抗が上昇して電池性能が著しく低下するという現象を抑えることができる。
なお、第1の成分からなる粒子には、ポリオレフィン等の重合体に添加される公知の各種添加剤(酸化防止剤)がさらに含まれていてもよい。
【0017】
(第2の成分)
第1の成分からなる粒子の外側に実質部分的に位置する第2の成分としては、バインダー粒子に結着力を付与することができるものであれば特に限定されないが、アクリル系重合体などの重合体を用いることが好ましい。
なお、第2の成分は、通常、第1の成分とは異なる組成を有している。
【0018】
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合してなる単量体単位を含む重合体である。アクリル系重合体としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物の単独重合体、(メタ)アクリル酸エステル化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物の重合体を用いることにより、バインダー粒子の結着性を高めることができる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルのことを意味する。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート等のアクリル酸アルコキシアルキルエステル;2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート等の2−(パーフルオロアルキル)エチルアクリレート;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、へプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;2−メトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸アルコキシアルキルエステル;2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルメタクリレート等の2−(パーフルオロアルキル)エチルメタクリレート;ベンジルアクリレート;ベンジルメタクリレート;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリル系重合体の調製に用いられる(メタ)アクリル酸エステル化合物は、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレートのうちの少なくとも1種類を含むことが特に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0020】
第2の成分に含まれる、(メタ)アクリル酸エステル化合物を重合してなる単量体単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」と称することがある。)の割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、バインダー粒子と活物質や集電体との結着性をより向上することができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記上限値以下にすることにより、安定性に優れたバインダー組成物を得ることができる。
【0021】
また、(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等の炭素二重結合を1つ有するオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有単量体が挙げられる。前記共重合可能な単量体として、これらの複数種を併用してもよい。
【0022】
また、第2の成分は、反応性界面活性剤単位を含んでいてもよい。反応性界面活性剤単位は、反応性界面活性剤を重合して形成される構造を有する構造単位である。反応性界面活性剤単位は、第2の成分の一部を構成し、且つ、界面活性剤として機能しうる。
【0023】
反応性界面活性剤は、他の単量体と共重合できる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(親水性基及び疎水性基)を有する単量体である。通常、反応性界面活性剤は重合性不飽和基を有し、この基が重合後に疎水性基としても作用する。反応性界面活性剤が有する重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。この重合性不飽和基の種類は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
反応性界面活性剤は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0025】
アニオン系の親水性基の例としては、−SO
3M、−COOM、及び−PO(OH)
2が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオン;などが挙げられる。
【0026】
カチオン系の親水基の例としては、−NH
2HXなどの第1級アミン塩、−NHCH
3HXなどの第2級アミン塩、−N(CH
3)
2HXなどの第3級アミン塩、−N
+(CH
3)
3X
−などの第4級アミン塩、などが挙げられる。ここでXは、ハロゲン基を表す。
【0027】
ノニオン系の親水基の例としては、−OHが挙げられる。
好適な反応性界面活性剤の例としては、下記の式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
式(I)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。
式(I)において、R
4は親水性基を表す。R
4の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。
式(I)において、nは1以上100以下の整数を表す。
【0028】
好適な反応性界面活性剤の別の例としては、エチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位及びブチレンオキシドを重合して形成される構造を有する構造単位を有し、さらに末端に、末端二重結合を有するアルケニル基及び−SO
3NH
4を有する化合物(例えば、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(商品名「ラテムルPD−104」及び「ラテムルPD−105」、花王株式会社製))を挙げることができる。
【0029】
反応性界面活性剤及び反応性界面活性剤単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
第2の成分中に含まれる反応性界面活性剤単位の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0031】
また、第2の成分のガラス転移温度は、十分な結着性を有するバインダー組成物が得られる観点から、好ましくは−60℃以上、より好ましくは−55℃以上、さらに好ましくは−50℃以上であり、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下、最も好ましくは−30℃以下である。第2の成分のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、バインダー組成物の結着性が不十分となるという現象を抑えることができる。
なお、第2の成分は、第1の成分が溶融した状態においてもバインダーとしての結着性を維持していることが好ましい
【0032】
(バインダー粒子の製造)
バインダー粒子は、例えば、第1の成分からなる粒子の存在下で第2の成分を導く単量体を(共)重合することにより得ることができる。第1の成分からなる粒子の存在下で第2の成分を導く単量体を共重合する方法としては、特に限定されないが、第1の成分からなる粒子の水性分散液中にて、第2の成分を導く単量体を乳化重合する方法が好ましい。これにより、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子(バインダー粒子)を得ることができる。なお、「(共)重合」とは、重合または共重合を意味する。また、第1の成分からなる粒子は、特に限定されることなく、例えば、第1の成分、分散媒および界面活性剤を、第1の成分の融点以上の温度下で混合した後、分散機で分散させた状態で冷却することにより、調製することができる。
【0033】
重合方式としては、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式を用いてもよい。また、重合圧力、重合温度および重合時間は、格別限定されず、公知の条件を採用することができる。
【0034】
乳化重合は、通常は常法により行う。例えば、「実験化学講座」第28巻、(発行元:丸善(株)、日本化学会編)に記載された方法で行う。すなわち、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に、水と、分散剤、乳化剤、架橋剤などの添加剤と、重合開始剤と、モノマー溶液とを所定の組成になるように加え、容器中の組成物を攪拌して単量体等を水に乳化させ、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。あるいは、上記組成物を乳化させた後に密閉容器に入れ、同様に反応を開始させる方法である。乳化重合に際しては、乳化重合反応に一般に使用される、界面活性剤、重合開始剤、連鎖移動剤、キレート剤、電解質、脱酸素剤などの各種添加剤を、重合用副資材として使用することができる。
【0035】
乳化重合に用いる界面活性剤は、所望のバインダー粒子が得られる限り任意のものを用いることができる。界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
界面活性剤の量は、所望のバインダー粒子が得られる限り任意であり、第2の成分を導く単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0037】
また、重合反応に際しては、通常、重合開始剤を用いる。この重合開始剤としては、所望の複合ポリマー粒子が得られる限り任意のものを用いることができる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム(NaPS)、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)等が挙げられる。中でも過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムが好ましく、過硫酸アンモニウムがより好ましい。重合開始剤として過硫酸アンモニウム又は過硫酸ナトリウムを用いることで、得られるリチウムイオン二次電池のサイクル特性の低下を抑制することができる。
【0038】
また、重合させる際に、その重合系には、分子量調整剤又は連鎖移動剤が含まれていてもよい。分子量調整剤又は連鎖移動剤としては、例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレン;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロロメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー;などが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(バインダー組成物の特性)
第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含むバインダー組成物の初期粘着力は1以上である。バインダー組成物の初期粘着力が上記範囲であることにより、バインダー粒子以外のバインダーを使用しなくても、電極活物質層を集電体上に保持することができる。一方、バインダー組成物の初期粘着力が小さすぎると、バインダー組成物の結着力が不十分となる。なお、バインダー組成物の初期粘着力は、25℃においてJIS Z0237に規定される初期粘着力試験(傾斜角度20°)により測定したものである。
【0040】
また、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含むバインダー組成物の150℃における貯蔵弾性率は、1000Pa以下、好ましくは100Pa以下である。バインダー組成物の150℃における貯蔵弾性率が上記範囲にあると、異常過熱時に十分に内部抵抗を上昇させることができる。バインダー組成物の150℃における貯蔵弾性率が大きすぎると、異常過熱時のバインダー組成物の溶融が不十分となる。
【0041】
バインダー組成物の150℃における貯蔵弾性率は、下記の測定方法により求めることができる。まず、バインダー組成物を厚さ0.5mmのフィルムに成膜する。そして、得られたフィルムを直径8mmの円形に打ち抜き、試料とする。動的粘弾性を測定する装置(例えば、製品名「MCR302」、アントンパール社製など)を用いて、当該試料に周波数1Hzの歪みを加え、所定の昇温速度(例えば、20℃/分など)で25℃〜160℃の温度範囲で温度を上げながら動的粘弾性を測定し、この測定結果に基づいて貯蔵弾性率を求めることができる。
【0042】
(リチウムイオン二次電池用電極)
第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含むバインダー組成物は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極に用いられる。リチウムイオン二次電池用電極は、集電体上に電極活物質層を形成することにより得られる。電極活物質層は、電極活物質、上記バインダー組成物、必要に応じて用いられる増粘剤及び導電材等を含む。また、電極活物質層におけるバインダー組成物の含有量は、電極活物質100質量部に対して、通常0.1質量部以上20質量部以下であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0043】
電極活物質層は、電極活物質、バインダー組成物、必要に応じて用いられる増粘剤及び導電材等を含むスラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥することにより形成される。
【0044】
集電体上にスラリー組成物を塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、コンマダイレクトコート法、スライドダイコート法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は、通常1〜60分である。また、乾燥温度は、通常40〜180℃であり、第1の成分の融点より低い温度である。スラリー組成物の塗布、乾燥を複数回繰り返すことにより電極活物質層を形成してもよい。また、電極活物質層の形成後、必要に応じてさらに加熱を行ってもよい。
【0045】
ここで、スラリー組成物は、電極活物質、バインダー組成物、必要に応じ用いられる増粘剤及び導電材、さらに水などの溶媒等を混合することにより得ることができる。
【0046】
スラリー組成物を調製する際の混合方法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法も挙げられる。
【0047】
(集電体)
集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などであり、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
集電体の厚みは、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは8μm以上70μm以下、さらに好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0048】
(電極活物質)
リチウムイオン二次電池用電極が正極である場合の電極活物質(正極活物質)としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な金属酸化物が挙げられる。かかる金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、燐酸鉄リチウム等を挙げることができる。なお、上記にて例示した正極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0049】
また、リチウムイオン二次電池の正極の対極としての負極の活物質(負極活物質)としては、例えば、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物等が挙げられる。なお、上記にて例示した負極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0050】
リチウムイオン二次電池用電極の電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.1μm以上100μm以下、好ましくは0.5μm以上50μm以下、より好ましくは0.8μm以上30μm以下である。
【0051】
(導電材)
本発明の電極活物質層は、必要に応じて導電材を含有していてもよい。導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されないが、導電性を有する粒子状の材料が好ましい。導電材としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。導電材が粒子状の材料である場合の体積平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の体積平均粒子径よりも小さいものが好ましい。より少ない使用量で十分な導電性を発現させる観点から、導電材の体積平均粒子径は、好ましくは0.001μm以上10μm以下、より好ましくは0.05μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1μm以下である。
【0052】
(増粘剤)
本発明の電極活物質層は、必要に応じて増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。これらのなかでも、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩を用いることが好ましい。なお、本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味する。
【0053】
電極活物質層中の増粘剤の含有量は、電池特性に影響のない範囲が好ましく、電極活物質100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以上4質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以上3質量部以下である。
【0054】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウムイオン二次電池用電極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造することができる。たとえばリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用電極を正極および負極の少なくとも一方に用い、さらにセパレーターおよび電解液を備える。
なお、正極および負極の一方のみに本発明のリチウムイオン二次電池用電極を用いた場合には、他方の電極としては既知の電極を用いることができる。
【0055】
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や、芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布、無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート、などを用いることができる。
【0056】
そして、セパレーターの耐熱温度は、電極に用いられているバインダー粒子の第1の成分の融点よりも高いことが好ましい。
【0057】
セパレーターの厚さは、リチウムイオン二次電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、またリチウムイオン二次電池を製造する時の作業性に優れる観点から、好ましくは0.5μm以上40μm以下、より好ましくは1μm以上30μm以下、さらに好ましくは1μm以上25μm以下である。
【0058】
(電解液)
電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が上記範囲であると、イオン導電度が低下して電池の充電特性、放電特性が低下するという現象を抑えることができる。
【0059】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に、高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。また、添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0060】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解液や、硫化リチウム、LiI、Li
3N、Li
2S−P
2S
5ガラスセラミックなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0061】
リチウムイオン二次電池は、負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口して得られる。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、本実施例における「部」および「%」は、特に断りのない限り、それぞれ、「質量部」および「質量%」である。各物性および特性の測定および評価は、以下の方法により行った。
【0063】
<融点の測定>
実施例及び比較例において用いる第1の成分からなる粒子について、以下のようにして融点を測定した。
示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー製、DSC6220SII)を用いて、JIS K7121(1987)に基づき、試料(第1の成分からなる粒子)を融点より30℃以上高い温度に加熱した後、冷却速度−10℃/分で室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/分で測定した。
【0064】
<分子量の測定>
実施例及び比較例において用いるポリオレフィンについて、以下のようにして数平均分子量を測定した。
まず、試料(ポリオレフィン)10mgに溶媒5mLを加え、140〜150℃で30分間撹拌して溶解した。次に、0.5μmフィルターを用いてこの溶液を濾過し、測定試料とした。この測定試料を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件にて分析し、分析結果から、数平均分子量を求めた。
測定装置:PL−220(Polymer Laboratories製)
カラム:Shodex HT−G、HT−806M(1本)、HT−803(1本)(直径8.0mm×30cm、昭和電工製)
溶媒:トリクロロベンゼン+0.1%BHT
流速:1.0mL/分
検出器:示差屈折率検出器 RI
カラム温度:145℃
標準物質:単分散ポリスチレン(東ソー製)
【0065】
<ガラス転移温度の測定>
第2の成分のガラス転移温度は、第2の成分と同様の組成を有する重合体(測定試料)を調製して測定した。具体的には、第2の成分の調製に使用した第2の成分を導く単量体を使用し、第2の成分の重合条件と同様の重合条件で測定試料となる重合体を調製し、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー製、DSC6220SII)を用いて、JISK7121(1987)に基づいて測定試料のガラス転移温度を測定し、第2の成分のガラス転移温度とした。
【0066】
<初期粘着力の測定>
コロナ処理したPETフィルム上に、実施例及び比較例において調製したバインダー組成物水分散液を塗布乾燥して厚さ2μmのバインダー組成物層を形成し、測定試料とした。JIS Z0237に基づき、温度23℃環境下、上記測定試料をバインダー組成物層が表面となるように傾斜角度20°で配置し、斜面の上方10cmの位置より直径1/32インチから32/32インチまでの30種類の大きさの鋼球を初速度0で転がした。バインダー組成物層上で停止する最大径の球の大きさを、ボールナンバーにて表示し、初期粘着力とした。
【0067】
<貯蔵弾性率の測定>
実施例及び比較例において調製したバインダー組成物水分散液を、温度23℃で168時間乾燥させ、厚さ0.5mmのフィルムとし、直径8mmの円形に打ち抜いて、測定試料とした。そして、下記の装置を用い、下記の条件で動的粘弾性を測定し、この測定結果に基づいて貯蔵弾性率を求めた。
装置:レオメータMCR302(アントンパール製)
設定温度範囲:25℃〜160℃
設定昇温速度:20℃/分
測定周波数:1Hz
【0068】
<結着性>
実施例および比較例において作製した正極を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、電極活物質層側の面を下にして電極活物質層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている。)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、以下の基準により判定した。この値が大きいほど、電極活物質層の結着性に優れることを示す。
A:ピール強度が12N/m以上
B:ピール強度が8N/m以上12N/m未満
C:ピール強度が4N/m以上8N/m未満
D:ピール強度が4N/m未満、または、測定が困難なほど結着性が低い
【0069】
<異常過熱時抵抗上昇性>
実施例及び比較例において作製したリチウムイオン二次電池を、温度25℃環境下、1C(Cは定格容量(mA)/1h(時間)で表される数値)で充電深度(SOC)の50%まで充電した後、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで10秒間充電と10秒間放電とをそれぞれ行った。そして、放電側における10秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(放電時IV抵抗)として求めた。また、{(160℃加熱正極(A3)を用いたリチウムイオン二次電池のIV抵抗)/(160℃加熱無し正極(A2)を用いたリチウムイオン二次電池のIV抵抗)}×100(%)の値をIV抵抗上昇率とし、以下の基準で評価した。この値が高いほど、異常過熱時抵抗上昇性に優れることを示す。
A:IV抵抗上昇率が400%以上
B:IV抵抗上昇率が300%以上400%未満
C:IV抵抗上昇率が200%以上300%未満
D:IV抵抗上昇率が200%未満
【0070】
(実施例1)
<バインダー組成物(A1)水分散液の調製>
重合缶Aにイオン交換水100部、第1の成分としてポリオレフィン(ポリエチレン系ワックス(融点95℃、数平均分子量7,300))の30%水性エマルションを固形分相当で100部を加え、更に重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、およびイオン交換水10部を加え、70℃に加温した。また、別の重合缶Bにイオン交換水30部、第2の成分を導く単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(以下、「2−EHA」ということがある。)35部及びスチレン(以下、「St」ということがある。)15部を加え、さらに、エチレングリコールジメタクリレート0.5部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムの20%水溶液を固形分相当で2部を加えて十分に攪拌し、重合缶Aに120分かけて連続的に添加した。更に、70℃に維持しながら重合転化率が98%に達するまで重合反応を継続した。冷却して反応を停止し、バインダー組成物(A1)の水分散液を得た。
なお、得られたバインダー組成物(A1)の第2の成分のガラス転移温度は−37℃であった。また、バインダー組成物(A1)の初期粘着力は1であり、150℃における貯蔵弾性率は70Paであった。また、得られたバインダー組成物中のバインダー粒子においては、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置していた。
【0071】
<リチウムイオン二次電池用正極(正極(A2)および160℃加熱正極(A3))の作製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO
2;個数平均粒子径:20μm)と、導電材としてのアセチレンブラックと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液と、バインダーとしてのバインダー組成物とを、正極活物質と、導電材と、増粘剤と、バインダーとの質量比が固形分にて、100:2:1:3となるように混合して、正極用のスラリー組成物を作製した。正極用のスラリー組成物を集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した後、60℃、ついで80℃で乾燥した。その後圧延ローラーを用いて圧延し、集電体タブを取り付けることにより正極(A2)を作製した。この正極について、結着性を評価した。結果を表1に示す。更に、この正極の一部を、真空環境下、160℃で5分間加熱し、160℃加熱正極(A3)を作製した。
【0072】
<リチウムイオン二次電池用負極の作製>
負極活物質としての人造黒鉛(体積平均粒子径:25μm)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の水溶液と、バインダーとしてのスチレン−ブタジエン共重合体の水分散液とを、負極活物質と、増粘剤と、バインダーとの質量比が固形分にて、100:2:2となるように混合して、負極スラリーを作製した。負極スラリーを集電体としての銅箔上に塗布した後、60℃、ついで120℃で乾燥した。その後圧延ローラーを用いて圧延し、集電タブを取り付けて負極を作製した。
【0073】
<電解液の作製>
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを質量比が1:2となるように混合した溶媒に、溶質としてLiPF
6を1.0Mとなるように溶解し、電解液を作製した。
【0074】
<リチウムイオン二次電池の作製>
作製したリチウムイオン二次電池用正極とリチウムイオン二次電池用負極とを、ポリエチレン製のセパレーターを介在させて対向するように巻き取って捲回体を作製し、一方向から圧縮した。圧縮後の捲回体は、平面視楕円形であった。この圧縮した捲回体を所定のアルミラミネート製ケース内に電解液とともに封入することにより、定格容量720mAhのリチウムイオン二次電池を作製した。なお、リチウムイオン二次電池用正極として、正極(A2)および160℃加熱正極(A3)それぞれを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、異常過熱時抵抗上昇性を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例2)
バインダー組成物(A1)水分散液の調製において用いる第1の成分の種類をポリエチレン系ワックス(融点130℃、分子量9,900)に変更した以外は、実施例1と同様にバインダー組成物(A1)水分散液を調製した。得られたバインダー組成物(A1)の初期粘着力は1であり、150℃における貯蔵弾性率は80Paであった。上記にて得られたバインダー組成物を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池用正極(正極(A2)および160℃加熱正極(A3))の作製、リチウムイオン二次電池用負極の作製、電解液の作製及びリチウムイオン二次電池の作製を行った。そして、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
バインダー組成物(A1)水分散液の調製において用いる第2の成分を導く単量体としてn−ブチルアクリレート(以下、「BA」ということがある。)35部及びアクリロニトリル(以下、「AN」ということがある。)15部を用いた以外は、実施例1と同様にバインダー組成物(A1)水分散液を調製した。得られたバインダー組成物(A1)の第2の成分のガラス転移温度は−20℃であった。また、バインダー組成物(A1)の初期粘着力は1であり、150℃における貯蔵弾性率は70Paであった。上記にて得られたバインダー組成物を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池用正極(正極(A2)および160℃加熱正極(A3))の作製、リチウムイオン二次電池用負極の作製、電解液の作製及びリチウムイオン二次電池の作製を行った。そして、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
第2の成分を加えずに、イオン交換水100部、第1の成分としてポリエチレン系ワックス(融点95℃、数平均分子量7,300)の30%水性エマルションを固形分相当で100部を加えたものをバインダー組成物(A1)水分散液とした。得られたバインダー組成物(A1)の初期粘着力は0であり、150℃における貯蔵弾性率は70Paであった。また、得られたバインダー組成物中のバインダー粒子においては、第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が完全被覆もせず、また、実質部分的に位置もしていなかった。
【0078】
上記にて得られたバインダー組成物を用いて、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池用正極(正極(A2)および160℃加熱正極(A3))の作製を行ったが、バインダー組成物(A1)の結着性が十分でなく、結着性の評価およびリチウムイオン二次電池の作製を行うのに十分な強度の正極を得ることができなかった。
【0079】
(比較例2)
バインダー組成物(A1)水分散液の調製において用いる第2の成分を導く単量体として2−EHA70部及びSt30部を用いた以外は、実施例1と同様にバインダー組成物(A1)水分散液を調製した。得られたバインダー組成物(A1)の第2の成分のガラス転移温度は−37℃であった。また、バインダー組成物(A1)の初期粘着力は1であり、150℃における貯蔵弾性率は70,000Paであった。また、得られたバインダー組成物中のバインダー粒子においては、第1の成分からなる粒子の外側を第2の成分が完全被覆していた。
【0080】
上記にて得られたバインダー組成物を用いた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池用正極(正極(A2)および160℃加熱正極(A3))の作製、リチウムイオン二次電池用負極の作製、電解液の作製及びリチウムイオン二次電池の作製を行った。そして、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示すように第1の成分からなる粒子の外側に第2の成分が実質部分的に位置してなる粒子を含むバインダー組成物を含むリチウムイオン二次電池用電極であって、前記バインダー組成物の初期粘着力が1以上であり、150℃における前記バインダー組成物の貯蔵弾性率が1,000Pa以下であるリチウムイオン二次電池用電極の結着性は良好であり、この電極を用いたリチウムイオン二次電池の異常過熱時抵抗上昇性も良好であった。